組織再編時に必要な労務基礎知識 Q&A 【Q24】 会社分割した場合、分割前に締結した36協定は分割後も有効か 特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ 【A】 事業場の同一性が認められる場合には、分割前に締結した36協定は分割後も有効だと考えられる。 (※) 本稿では、会社分割により事業を分割する会社を「分割会社」、それを承継する会社(新設分割の場合の新設会社も含む)を「承継会社」という。 36協定とは 労働基準法では、原則として時間外労働及び休日労働を禁止しているが、事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合にはその労働組合と、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合には労働者の過半数を代表する者と書面による協定をし、これを所轄の労働基準監督署へ届け出た場合に限り、例外として当該協定で定めた範囲内で時間外労働及び休日労働が可能となる。この協定は労働基準法第36条を根拠にしていることから「36(サブロク)協定」と呼ばれている。 免罰的効力 36協定は、所轄の労働基準監督署に届け出ることにより、原則として禁止されている時間外労働及び休日労働をさせたとしても、36協定の範囲内である限り、法違反とはならないとする免罰的効力を生じさせるものであって、会社と従業員との権利義務を定めたものではない。よって、36協定は会社分割によって包括的に承継される権利義務にはあたらない。 事業場の同一性が認められる場合 会社分割時の労使協定の取扱いについては、「分割会社及び承継会社等が講ずべき当該分割会社が締結している労働契約及び労働協約の承継に関する措置の適切な実施を図るための指針(平成12年労働省告示第127号)」(第2の3の(3)ロ)で、次の通り記載されている。 よって、事業場の同一性が認められる場合には、分割前に締結した36協定は分割後も有効だと考えられる。 なお、「事業場の同一性」については、労働者の構成、事業場の場所、事業の実態等が実質的に同一であるか否かにより判断されると解されている。 (了)
中小企業経営者の [老後資金]を構築するポイント 【第20回】 「不動産を会社に賃貸している場合」 税理士法人トゥモローズ 前回までは事業承継時にできる老後資金準備策について、施策ごとに検討を行ってきたが、今回からは承継後における資金確保策を検討することとしたい。 中小企業の経営者は、創業当初は個人で事業を行い、事業の拡大に伴い会社を設立するケースが多いことから、個人で所有している土地建物を会社が賃貸する形式を取ることがある。 その場合、会社から賃貸料収入が入るため安定した収入源が確保される一方、まとまった資金調達や税対策という面から個人所有の不動産を会社に売却するという選択について検討する必要がある。 今回は、事業承継後、月々の給与収入がなくなるという心理的不安も考慮し、ある程度の賃貸料収入を得つつ、税対策を行うという両方の側面から、建物のみを売却した場合にフォーカスを当てて解説する。 1 土地評価の主要パターン まずは相続税における土地の評価について、想定できる主要なパターンを示す。 (1) 建物を個人で所有していた場合 (2) 建物を会社に売却し、土地を会社に貸し付けた場合 2 小規模宅地等の特例の適用可否 続いて、相続税における小規模宅地等の特例の適用可否について、パターンを示す。 (1) 建物を個人で所有していた場合 (2) 建物を会社に売却し、土地を会社に貸し付けた場合 (※) 措置法40条の2第1項に掲げる相当の対価を指す。 3 パターンと検討 上記1・2をまとめると、以下の通りとなる。 上記の通り、会社との契約や毎月の支払金額により相続税評価額が異なるため、毎月の収入金額と相続税対策を考え、どの方法がより最適であるかを検討する必要がある。 安定した収入が必要ない場合、相当の対価未満で会社に貸し出すことにより会社の資金が増え、事業承継を受けた親族などの資金繰りが楽になるが、その状態で相続を迎えた場合には、相続税負担が重くなることが懸念される。 4 その他 その他、安定した収入や相続税以外にも、建物を会社に売却することについて、検討する必要がある。それは、事業承継後の会社の自由度である。 会社に建物を賃貸している状態で建物の改装等を行う場合には、家主である個人とのやり取りが発生し、会社としての自由度が下がる可能性がある。 それに比べ、会社が建物を所有していた場合には、建物の改装等を行う際の自由度が高くなるため、会社の意思決定や行動が迅速に行えることは、事業承継後の会社としてメリットではないだろうか。 事業承継後は、なるべく先代の関与度を下げ、後継者の自由度を上げることにより、新たな発展や技術革新が見込まれることがある。 代表権や株式だけでなく、不動産による関与度も下げることにより、よりスムーズな事業承継が行えるのではないだろうか。 (了)
令和時代の幕開けに思い馳せる 会計事務所経営 【第9回】 「社員の定着に不可欠な評価制度とその運用方法」 ~目標設定の明確化と透明性の担保~ (組織論⑤:人事評価制度編) 株式会社アーヌエヌエ 代表取締役 杉山 豊 組織論についてだいぶ長くお伝えさせていただきましたが、今回の評価制度編をもって、いったん「人」に関する事務所経営のお話については終わりとさせていただきます。 経営において、「人」がいかに重要な要素を占めているか、これまでの連載からご理解いただけたのではないでしょうか。 さて、人が定着しない問題に「社員間のコミュニケーション」や「働きがい」、「働きやすさ」など「組織風土」から生じるものがあるとともに、給与等に影響のある「評価制度」にも問題があるケースが多いのではないかと思います。 「組織風土」の問題については、前回のチームビルディングにおいてほぼエッセンスはお伝えできたように思いますので、今回は「評価制度」の問題に焦点を当ててお話していきます。 ➤離職の原因となる「人事評価制度」 さて、先生方の事務所では、評価制度がきちんと存在していますか? また、その評価制度はしっかりと運用されていますでしょうか? せっかくコストをかけて採用した社員が、育っては辞めるということが繰り返されてはいないでしょうか? もしかするとその原因は、「人事評価制度」にあるもしれません。 2015年の日本経済新聞社とNTTコムリサーチの行った「人事評価に関する調査」において、調査対象社員の約4割が評価制度の仕組みに不満を持っていると報じられました。 「不満」と回答した方の意見の中で、次のような4点が挙げられています。 1 なぜ「評価基準が不明確」と感じるのか なぜ被評価者は、評価基準が不明確と感じるのでしょうか? 評価制度には、「定量評価」と「定性評価」(※)なる評価軸がありますが、後者は評価基準が曖昧になる要素が多くあります。 (※) 「定量評価」と「定性評価」・・・「定量評価」は数値に基づいて達成度を評価することであり、「定性評価」は数値では表すことのできないものに対して評価をすることです。 会計事務所で社員に営業予算が存在していなければ、定量評価することは困難です。 しかし、業務それぞれに時間に対して費用を当てはめる取組みをしてみると、定量化が測れたりしませんか? なお、定量評価においても評価者と被評価者が話し合った上での予算設定と合意形成による透明性と納得感が、十分必要です。 2 なぜ「好き嫌いで評価されている」と感じるのか なぜ被評価者は、評価者の好き嫌いで評価されていると感じるのでしょうか? 評価制度の運用において中小零細事業者では評価者が1名のみであることが往々にしてあり、特に会計事務所においては所長先生1人であることが多いと思われます。 例えば、お酒が好きな先生が社員を食事に誘う場合を考えてみましょう。 先生からの誘いを断らないお酒が飲める社員がいる一方で、当然お酒が飲めない社員もいると思います。 お酒が飲めない社員が宴席にいることで場が盛り上がらないと先生が感じるのか、はたまた気を遣って誘うこともないのか。 このような環境では、被評価者は好き嫌いで評価されていると感じてもおかしくはないのではないでしょうか? 3 なぜ「自分の仕事ぶりが理解されていない」と感じるのか なぜ被評価者は、自分の仕事ぶりが理解されていないと感じるのでしょうか? 同じ達成度合いの社員への評価でも年度末に顕著な数字を挙げた社員をより評価してしまうような、評価者のバイアスによって冷静な評価ができていないケースも想定されます。 こんな偏った評価が行われれば、その社員は不満を持ったとしても仕方ないと思いませんか? 4 なぜ「上司から助言や指導がない」と感じるのか 最後に、なぜ被評価者は、上司から助言や指導がないと感じるのでしょうか? それは評価制度の運用に際し、しっかりとコミュニケーションが取れていないことに起因します。 評価者が被評価者に何を求めているのか、何がよくできていて、何に不足があるのか。 その不足を埋めるために何を改善すればよいのか。 逆に社員は会社から何を求められていて、どこに貢献できているのか、そしてどの部分を改善できればもっと成長するのか。 そういったコミュニケーションをしっかりと取る必要があります。 評価の世界では「1on1」というミーティングスタイルがあります。 互いが「評価」という1つの共通項目を通じてコミュニケーションをすることです。 毎日、毎週が叶わずとも毎月1回たった5分でも構いません。 年度末には社員が最高の評価結果を得るために、それはすなわち事務所として最高の結果を迎えるために、しっかりと膝を付け合わせる時間を設けることです。 そして、もちろん半期や通期にはしっかりと時間を確保して面談を実施することです。 ➤「究極のコミュニケーションツール」としての評価制度 どんなに素晴らしい評価制度も、運用如何では全く体をなさないこともあります。 例え高額な投資をして素晴らしい評価制度を導入したとしても、その運用を疎かにすればその投資自体が無駄になりかねません。 「評価制度」を単なる事務所運営のためのシステムとして考えてはいないでしょうか? 実は、人事評価制度の本当の役割とは「経営者と社員が理解し合える究極のコミュニケーションツール」であることです。 評価者と被評価者の互いがレベルアップを重ね、会社自体が成長していくための資源なのです。 現在ではAIやソフトウエアを活用した評価の仕組みがたくさんあります。 しかしながら、人・人材に関しては、デジタルなコミュニケーションでは解決できないことも実際は数多くあります。 アナログなコミュニケーションを大切にした制度、運用作りを考えてみませんか? ➤人事評価制度における大切な土台 この連載の1つのキーワードですが、続けて読んでいただいている方には想像できるかもしれません。 ブランディングもマーケティングも採用も、そしてこの評価においても一番大切な土台は事務所の「理念」なのです。 経営者である先生の思想や価値観である経営理念が人事評価制度に反映されていますか? 総務人事部任せ、業者任せになってはいないでしょうか? ミッション、ビジョン、バリューを反映させた仕組みになっていますか? 評価制度が会社の成長を助けるツールであるとするならば、まさにその目的はミッションやビジョンを叶えることにあるのではないでしょうか。 ➤「社員の声」こそ経営課題 さらに人事制度を作るにあたって、働く社員の声を聞いて反映してみるのはいかがですか? 「社員が報酬やその体系を決めるなんてとんでもない」と思うかもしれませんが、それは早合点です。 「社員の声」そのものが会社の経営課題であると捉えることは、できませんか? 経営者の視点と社員の視点では、同じ問題でも、着眼点が全く違うことがあります。 社員が持つ不満や課題が、実は経営課題そのものであり、その経営課題を克服するために社員が協力する、そしてその協力そのものを目標として設定することはできないでしょうか? 社員も経営者と同じように「働く会社を良くしたい」、そう思っているはずです。 社員自身が関わることで会社が成長するならば、それは所属欲求を満たすことになります。 事務所の経営課題、すなわち社員自身の目標をクリアすることで満足感を得て、その満足感が報酬として社員に反映される、社員はまた頑張ろうと仕事に取り組むというサイクルができると理想的です。 ➤オンリーワンの人事評価制度 社員は一人一人個性があり、一人一人魅力が異なります。 個を尊重する組織作りとは、その一人一人の能力を最大限に発揮させてこそ成り立つものです。会社での役割は十人十色、その十人十種の評価テーブルをちゃんと機能させてこそ、オンリーワンの人事評価制度ができるのではないでしょうか。 それができれば、社員は感激するはずです。 「ウチの事務所は個人個人を大切にする素晴らしい会社なんだ」と家族に友人に知人に自慢するでしょう。 そんな社員がその事務所を辞めるなどあろうはずがありません。 むしろ、その言葉に共感した新しい仲間をきっと連れてきてくれることでしょう。 (了)
《速報解説》 不動産譲渡契約書等の税額軽減特例の延長、 印紙税に係る改正事項 ~令和2年度税制改正大綱~ 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 令和元年12月12日、「令和2年度税制改正大綱(与党大綱)」が公表された。 印紙税については、不動産譲渡契約書及び工事請負契約書に係る印紙税の税率の特例措置が延長される。 【概要】 高額な負担となっている建設工事請負や不動産譲渡に係る印紙税について、消費者の負担を軽減し、建設工事や不動産流通コストを抑制することによって、更なる建設投資の促進、不動産取引の活性化を図ることを目的とし、租税特別措置法第91条による「不動産の譲渡に関する契約書等に係る印紙税の税率の特例」の適用期間が、令和4年3月31日までの2年間延長されることとなった。 【軽減税率】 ① 第1号の1文書に該当する「不動産の譲渡に関する契約書」のうち、令和2年4月1日から令和4年3月31日までの間に作成されるものについては、契約書の作成年月日及び記載された契約金額に応じて、下記の印紙税額の軽減が延長される。 ② 第2号文書(請負に関する契約書)のうち、建設業法第2条第1項に規定する建設工事の請負に係る契約に基づき作成されるもので、令和2年4月1日から令和4年3月31日までの間に作成されるものについては、契約書の作成年月日及び記載された契約金額に応じて、下記の印紙税額の軽減が延長される。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 住宅用家屋の所有権保存登記に係る特例等、 登録免許税に係る主な改正事項 ~令和2年度税制改正大綱~ 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 令和元年12月12日、「令和2年度税制改正大綱(与党大綱)」が公表された。 登録免許税についての主な改正は以下のとおり、住宅用家屋の保存登記等に係る軽減措置の延長等が行われる。 1 住宅用家屋の所有権の保存登記等に係る特例措置の延長 住宅取得の際の負担を軽減するとともに、流通の促進を図ることを目的としての登録免許税に係る軽減措置の適用期限が令和4年3月31日まで2年間延長される。 2 認定長期優良住宅の所有権の保存登記等に係る軽減措置の延長 認定長期優良住宅の所有権の保存登記等に係る登録免許税の軽減措置の適用期限が令和4年3月31日まで2年間延長される。 3 認定低炭素住宅の所有権の保存登記等に係る軽減措置の延長 高度な省エネ性能を有する低炭素住宅の普及を促進することで、地球温暖化対策計画に掲げるCO2排出量の削減目標を達成することを目的として、認定低炭素住宅の所有権の保存登記等に係る軽減措置の適用期限が令和4年3月31日まで延長される。 4 中小企業・小規模事業者の認定経営力向上計画に基づく再編・統合等に係る税負担の軽減措置 中小企業・小規模事業者の事業継続を支援し、地域経済の活性化や雇用の維持を図ることを目的とし、軽減措置の適用期限が令和4年3月31日まで2年間延長される。 5 産業競争力強化法に基づく事業再編等に係る登録免許税の軽減措置 組織再編・事業再編を強力に推進することにより、国内産業の競争力強化を図ることを目的とし、軽減措置の適用期限が令和4年3月31日まで2年間延長される。 (了)
《速報解説》 居住用賃貸建物の取得等に係る消費税の仕入税額控除制度等の適正化 ~令和2年度税制改正大綱~ 税理士 石川 幸恵 令和元年12月12日に令和2年度税制改正大綱(与党大綱)が公表された。以下では、居住用賃貸建物の取得等に係る消費税の仕入税額控除制度等の適正化(大綱84頁~85頁)について概説する。 1 改正の背景 住宅の貸付けは非課税売上である。居住用賃貸建物の取得など非課税売上にのみ要する課税仕入れは、仕入税額控除できない。 ところが、金などの投資商品の売買を繰り返すことで課税売上割合を嵩上げ。居住用賃貸建物の取得に係る消費税の還付を受け、さらに課税売上割合の著しい変動の要件に該当しないよう調整する手法が散見された。 2 改正の内容と適用時期 (1) 居住用建物の取得等に係る仕入税額控除 ① 居住用賃貸建物の仕入れ時 高額特定資産に該当する居住用賃貸建物については、仕入税額控除制度の適用を認めないこととする。 大綱では、ただし書きにて、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな部分については、引き続き仕入税額控除制度の対象としている。したがって、無償で社員寮として貸すために取得した居住用建物や、販売用に取得した居住用賃貸建物については、引き続き、仕入れ時に仕入税額控除を適用できる可能性が考えられる。 ② 第3年度の課税期間における調整 【施行時期】 令和2年10月1日以後の居住用賃貸建物の仕入れから適用する。ただし、同日以後の仕入れであっても、令和2年3月31日までに締結した契約に基づく仕入れについては、適用しない。 (2) 住宅の貸付けにつき、契約による判断から建物の状況等による判断へ変更 住宅の貸付けは消費税法別表第一において、貸付けに係る契約において人の居住の用に供することが明らかにされているものに限り非課税とされている。 改正により、契約において貸付けに係る用途が明らかにされていない場合であっても、その貸付けの用に供する建物の状況等から人の居住の用に供することが明らかな貸付けについて、非課税とする。 【施行時期】 令和2年4月1日以後に行われる貸付けから適用する。 (3) 平成28年度改正の補完 免税事業者であった期間に取得した高額特定資産に該当する棚卸資産について、納税義務の免除を受けないこととなった場合等の棚卸資産に係る消費税額の調整(消法36)を受けたときは、調整をした課税期間から3年間、事業者免税点制度及び簡易課税制度の適用を受けることができなくなる(下図参照)。 【施行時期】 令和2年4月1日以後に棚卸資産の調整の適用を受けた場合について適用する。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例の創設 ~令和2年度税制改正大綱~ 太陽グラントソントン税理士法人 マネジャー 公認会計士・税理士 岩丸 涼一 1 改正の背景 令和元年12月12日に公表された令和2年度税制改正大綱(与党大綱)にて、「国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例」として、富裕層などで行われている海外高額不動産投資を用いた節税に対しての対策が行われた。会計検査院の「平成27年度決算検査報告」において問題視されて以来、毎年改正されるのではないかと噂されていたが、本年度改正でついに節税策が封じられた。 この節税策は、まず、個人が償却費計上による不動産所得の損失金額を給与所得等の総合課税に属する他の各種所得金額から控除するなどして、最高税率50.945%(住民税含む)の課税総所得金額を減額する。そして、取得後5年経過してから当該不動産を譲渡することにより、譲渡所得の金額は、計上した償却費分増加するものの総合課税に比べて低い税率20.315%(住民税含む)が適用されるため、全体としての税負担が減少するというものであった。 日本では耐用年数の過ぎた中古建物にほとんど価値はないが、海外(特にアメリカ)の一部地域では耐用年数が過ぎた中古建物でも土地よりも高い金額で取引されることがあり、日本と海外との不動産市場の違いを利用した節税策として、広く富裕層に利用されてきた。 2 改正内容(令和2年度税制改正大綱より) (1) 改正による制度概要 「国外中古建物」((2)参照)から生ずる不動産所得を有する場合において、その年分の不動産所得の金額の計算上「国外不動産所得の損失の金額」((3)参照)があるときは、その国外不動産所得の損失の金額のうち国外中古建物の償却費に相当する部分の金額は、所得税に関する法令の適用については、生じなかったものとみなす。 (2) 国外中古建物とは 「国外中古建物」とは、個人において使用され、又は法人において事業の用に供された国外にある建物であって、個人が取得してこれをその個人の不動産所得を生ずべき業務の用に供したもののうち、不動産所得の金額の計算上その建物の償却費として必要経費に算入する金額を計算する際の耐用年数を次の方法により算定しているものをいう。 (3) 国外不動産所得の損失の金額とは 「国外不動産所得の損失の金額」とは、不動産所得の金額の計算上生じた国外中古建物の貸付けによる損失の金額(※)をいう。 (※) その国外中古建物以外の国外にある不動産等から生ずる不動産所得の金額がある場合には、当該損失の金額を当該国外にある不動産等から生ずる不動産所得の金額の計算上控除してもなお控除しきれない金額 (4) 国外中古建物の譲渡 国外中古建物を譲渡した場合における譲渡所得の金額の計算上、その取得費から控除することとされる償却費の額の累計額から上記(1)によりなかったものとみなされた償却費に相当する部分の金額を除くこととすることその他の所要の措置を講ずることとされている。 つまり、不動産所得の計算上損失とみなされなかった金額は、当該不動産の譲渡時の取得費に加算してもよいということである。 (5) 適用時期 令和3年以後の各年所得税について適用される。 (了)
《速報解説》 金融庁、時価算定基準の公表受け財務諸表等規則等の改正(案)を公表 ~令和2年度税制改正大綱にも新基準導入に伴う規定見直しについて記載~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 令和元年12月12日、金融庁は、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等を公表し、下記①から⑬の改正(案)について、意見募集を行っている。 これは、2019年7月4日に「時価の算定に関する会計基準」(企業会計基準第30号)等が公表されたことを受けたものである。 意見募集期間は令和2年1月14日までである。 また、「令和2年度税制改正大綱」(令和元年12月12日、自由民主党・公明党)では、後述するように、「時価の算定に関する会計基準」の導入に伴う整備について記載されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 以下では、財務諸表等規則に関する改正について解説する。 1 市場参加者の定義(財規(案)8条関係) 「市場参加者」の定義を示し、時価の算定の対象となる資産もしくは負債に関する取引の数量及び頻度が最も大きい市場、当該資産の売却による受取額を最も大きくすることができる市場又は当該負債の移転による支払額を最も小さくすることができる市場において売買を行う者であって、一定の要件をすべて満たす者とする(財規(案)8条64項)。 そのほか、時価の算定に係るインプット、観察可能な時価の算定に係るインプット、レベル1、2及び3について定義する(財規(案)8条65項~68項)。 2 金融商品に関する注記(財規(案)8条の6の2関係) 金融商品の時価を当該時価の算定に重要な影響を与える時価の算定に係るインプットが属するレベルに応じて分類し、その内訳に関する次に掲げる事項を注記する。 財務諸表等規則ガイドラインでは、留意点が詳細に規定されている。 財規(案)8条の6の2第1項本文の規定にかかわらず、市場価格のない株式、出資金その他これらに準ずる金融商品については、同項第2号に掲げる事項の記載を要しない。この場合には、その旨並びに当該金融商品の概要及び貸借対照表計上額を注記しなければならない。 3 棚卸資産に関する注記(財規(案)8条の33関係) 従来の「たな卸資産」を「棚卸資産」と表記し、市場価格の変動により利益を得る目的をもって所有する棚卸資産については、財規(案)8条の6の2第1項3号の規定に準じて注記しなければならないとする(重要性の乏しいものについては、注記を省略することができる)。 当該事項は、財務諸表提出会社が連結財務諸表を作成している場合には、記載することを要しない。 なお、「期首たな卸高」を「期首棚卸高」と表記する改正なども行われている。 Ⅲ 施行日等 公布の日から施行予定である(経過措置に注意されたい)。 次の附則(案)も規定されている。 Ⅳ 令和2年度税制改正大綱における関係規定の整備 「時価の算定に関する会計基準」の導入に伴い、次の整備を行う(税制改正大綱79、80ページ)。 上記の改正は、令和2年4月1日以後に終了する事業年度分の法人税について適用する(経過措置に注意されたい)。 (了)
《速報解説》 企業会計審議会、「監査基準の改訂に関する意見書」を受け 「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」等を改訂 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 令和元年12月6日付(ホームページ掲載日は12月13日)で、企業会計審議会は、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」を公表した。これにより、令和元年9月6日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。 これは、「監査基準の改訂に関する意見書」(平成30(2018)年7月5日)において財務諸表監査における監査報告書の記載区分等が改訂されたことから、内部統制監査報告書についても改訂するものである。 公開草案に対するコメントの概要及びコメントに対する考え方も公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 主な改訂は次のとおりである。 Ⅲ 適用時期等 改訂基準及び改訂実施基準は、令和2(2020)年3月31 日以後終了する事業年度における財務報告に係る内部統制の評価及び監査から適用する。 (了)
《速報解説》 金融庁、継続的な差異開示を廃止する開示府令の改正案を公表 ~IFRS任意適用拡大促進の観点から企業の開示負担軽減等を図る~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 令和元年12月12日、金融庁は、「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正案を公表し、意見募集を行っている。 これは、IFRS任意適用の拡大促進の観点から、指定国際会計基準を適用する企業の開示負担の軽減等を図るためのものである。 意見募集期間は令和2年1月14日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 第二号様式(有価証券届出書)の「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」(記載上の注意)(32)のeとfを改正し、継続的な差異開示を廃止するものである。 別紙1(下図)の「日本基準からIFRSに移行した企業の提出書類の見直し(案)(X2年3月期の年度末より指定国際会計基準を適用した場合)がわかりやすい。 (※) 金融庁ホームページより Ⅲ 施行日等 公布の日から施行予定である(経過措置に注意されたい)。 (了)