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《相続専門税理士 木下勇人が教える》一歩先行く資産税周辺知識と税理士業務の活用法 【第6回】「相続税申告における複眼的視点をもったリスク管理」~取引相場のない株式評価に関する税務・会社法からのアプローチ~

《相続専門税理士 木下勇人が教える》 一歩先行く資産税周辺知識と税理士業務の活用法 【第6回】 「相続税申告における複眼的視点をもったリスク管理」 ~取引相場のない株式評価に関する税務・会社法からのアプローチ~   公認会計士・税理士 木下 勇人   優良企業の取引相場のない株式については、かねてより事業承継対策の中心であり、未だ課題も多い。また、「特例事業承継税制(法人版)」が平成30年度税制改正により導入されたことで、相続税・贈与税の納税猶予制度適用における相続税評価額が多大な影響を及ぼすことになった。 そこで本稿では、相続税申告実務において自己株式の取得等に関する誤りやすい箇所を税務・法務の視点から複眼的に検証することとする。   1 自己株式 (1) 議決権停止による直接的な影響 自己株式は取得した段階で議決権が停止する(会社法308②)。そのため、取引相場のない株式(出資)の評価明細書において、以下の直接的影響を受ける。 (2) 自己株式取得による間接的な影響 ◆会計仕訳 ◆税務仕訳 自己株式取得の際、上記の税務調整を行うことにより、以下の間接的な影響を受ける。 ここで、上記仕訳の結果、仮に資本金等がマイナスになった場合であっても、マイナスの値を計算基礎とすることが必要である(なぜなら結果的に、マイナスにマイナス(1株あたり株価)を乗じることにより、正の値になるため)。 また、第4表(類似株価)の算定上、課税時期が直後期末に極端に近い場合であっても直前期末の数値を基に計算するため、直前期末から課税時期までに自己株式の取得があっても、第4表に反映されることはない。 さらに、自己株式の取得により議決権割合が増加することから、場合によっては原則的評価・特例的評価の判断に影響を及ぼすとともに、会社経営の根幹たる会社支配権そのものに影響を及ぼす可能性もあるため、注意を要する。 (※) A家とB家は非同族の別親族   2 相互保有株式 (1) 議決権停止による直接的な影響 相互保有株式は議決権が停止する(会社法308①)。つまり、総株主の議決権の4分の1以上の株式を保有すると相手が保有する株式については議決権が停止することになる。ただし、自己株式と異なり、議決権停止の判断を自ら行う必要があるため注意を要する。 例えば、評価対象会社(X社:普通株式)がY社の株式を30%保有しており、Y社(普通株式)がX社株式を15%保有している場合、Y社が保有するX社株式15%の議決権は停止する。 以上より、取引相場のない株式(出資)の評価明細書において、以下が直接的に影響を受ける。 (2) 相互保有株式による間接的な影響 相互保有株式により、その他の株主の議決権割合が増加することから、自己株式と同様、場合によっては原則的評価・特例的評価の判断に影響を及ぼすとともに、会社経営の根幹たる会社支配権そのものに影響を及ぼす可能性もあるため、注意を要する。 (了)

#No. 338(掲載号)
#木下 勇人
2019/10/03

相続空き家の特例 [一問一答] 【第32回】「「相続空き家の特例」を受けることができる家屋⑤(老人ホーム等に入居中であった場合)」-相続空き家の特例の対象となる譲渡の範囲-(平成31年(2019年)4月1日以後の譲渡に係る取扱い)

相続空き家の特例 [一問一答] 【第32回】 「「相続空き家の特例」を受けることができる家屋⑤ (老人ホーム等に入居中であった場合)」 -相続空き家の特例の対象となる譲渡の範囲- (平成31年(2019年)4月1日以後の譲渡に係る取扱い)   税理士 大久保 昭佳   Q Xは、昨年2月に死亡した母親の家屋(昭和56年5月31日以前に建築)とその敷地を相続により取得した後、耐震リフォームをした上で、本年12月に5,400万円で売却しました。 母親は、その家屋で一人暮らしをしていましたが、相続の開始数年前から老人ホームに入居し、相続の開始直前その家屋は既に空き家となっていました。 なお、老人ホーム入居後から相続の開始前まで、その家は母親の物品の保管場所として使用され、また、相続の開始から譲渡の時までも空き家の状態でした。 この場合、「相続空き家の特例(措法35③)」の適用を受けることができるでしょうか。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 A 平成31年(2019年)4月1日以後に行う譲渡であれば、「相続空き家の特例」を受けることができます。 ●○●○解説○●○● 「平成31年度税制改正」前においては、「相続空き家の特例」の適用対象となる家屋は、相続の開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋でなければならないこととされ(旧措法35④)、老人ホーム等入居中の死亡については、「その被相続人がその相続の開始の直前において老人ホーム等に入居していて、既にその家屋を居住の用に供していなかった場合には、本特例の対象となる被相続人居住用家屋には該当しないこととなります(財務省「平成28年度税制改正の解説」152頁抜粋)」と示され、その対象から除外されていました。 しかし、被相続人となる親が相続開始の数年前から老人ホーム等に入居している場合も多く、年々増加している空き家対策の推進を図る観点等から、「平成31年度税制改正」において、そのハードルが下げられ、老人ホーム等に入居していた場合も対象に加えられました(措法35④)。 老人ホーム等に入居していた場合でも、次に掲げる要件その他一定要件を満たす場合に限り(措令23⑥⑦)、相続の開始の直前において、その被相続人の居住の用に供されていたものとされます。 なお、本特例の適用を受けるためには、被相続人居住用家屋所在地の市区町村から「被相続人居住用家屋等確認書」の交付を受ける必要があります。 同確認書の申請を市区町村へ行う際の、老人ホーム等に入居していた場合の上記の要件に係る提出書類は、次のようなものとされています(国土交通省HPを参照)。 (了)

#No. 338(掲載号)
#大久保 昭佳
2019/10/03

収益認識会計基準と法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第13回】

収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第13回】   千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也   〈更なる検討〉 ~「無償による資産の譲受けその他の取引」を含めていないことの意義(法人税法22条の2第1項との関係)~ 法人税法22条の2第1項は、「資産の販売若しくは譲渡又は役務の提供」に係る収益の額の計上時期に係る定めである。法人税法22条2項と異なり、「無償による資産の譲受けその他の取引」については規定していない。このことの意義をどのように解すべきか。《①法人税法22条2項が規律し、22条の2第1項が規律していないもの》(前回参照)の1つとして捉えることのできる論点である。 少なくとも、立法者が、意識せずに、法人税法22条の2第1項に「無償による資産の譲受けその他の取引」を含めなかったと解するのは妥当ではない。同項における「資産の販売若しくは譲渡又は役務の提供」という部分は、直接的には引用していないものの、法人税法22条2項と同じ文言を使用しているからである。よって、意識的に「無償による資産の譲受けその他の取引」を含めなかったと解することが自然である。 では、なぜ、法人税法22条の2第1項に「無償による資産の譲受けその他の取引」を含めなかったのか。かかる取引が収益認識会計基準の対象外であることと関係している可能性がある。法人税法22条の2第1項に関して立案担当者から次のような説明がなされていることも考慮すると、同項が「無償による資産の譲受けその他の取引」を含めていないことの直接的な理由として、かかる取引が収益認識会計基準の対象外であるという点を、含めなかった理由の候補として挙げることができる(立案担当者の見解の要旨については、後記(6)(本連載第17回)も併せて参照)。 (財務省『平成30年度 税制改正の解説』273~274頁) 「無償による資産の譲受けその他の取引」は収益認識会計基準の対象外であることを法人税法22条の2第1項がかかる取引を含めていないことの直接的な理由として挙げることは、次のような考え方によって理論的に補強される。すなわち、法人税法22条の2第1項は、収益認識会計基準の導入に伴う税制改正により創設されたものであるから、同項の規律範囲と収益認識会計基準の取扱い範囲が完全に重なるという考え方である。収益認識会計基準が法人税法22条の2第1項の創設に直接的な影響を与えていることを前提として、同項の規律範囲と収益認識会計基準の取扱い範囲が完全に重なるという結論を導き出す考え方であるといってよい。 かような考え方をとると、法人税法22条の2第1項が「無償による資産の譲受けその他の取引」を含めていないことの直接的な理由は、かかる取引が収益認識会計基準の対象外とされているからである、という説明は理解しやすい。 他方、以下に掲げる立案担当者の解説に触れると、法人税法22条の2第1項が「無償による資産の譲受けその他の取引」を含めていないことの直接的な理由は、かかる取引が収益認識会計基準の対象外であることに帰すると論断することは躊躇される(後記「(6)立案担当者の見解の要旨」のキも参照)。 すなわち、立案担当者は、法人税法22条の2第4項等において手当てした収益の額として益金の額に算入する金額に係る改正に関して、次のように説明している。 (財務省『平成30年度 税制改正の解説』270頁) また、立案担当者は、法人税法22条の2第1項等において手当てした収益の額を益金の額に算入する時期に係る改正に関して、次のように説明している。 (財務省『平成30年度 税制改正の解説』271頁) これらによれば、立案担当者は、収益認識に関する会計基準の導入を契機として収益の計上額に係る規定(法人税法22条の2第4項)を定めることの必要性を実感し、かかる規定の整備に伴い、収益の計上時期(認識時期)に係る規定(法人税法22条の2第1項)の制定にまで切り込んだようである。言い換えれば、収益認識会計基準に従った収益の額の計算のうち、法人税の所得の金額の計算として認めるべきでない部分があれば、その部分を明示する必要が生ずるという認識の下で法人税法22条の2第4項の創設を立案し、同項を設けることに合わせて、収益の計上時期についても通則的な規定を設けたようである。 すると、収益認識会計基準が収益の計上時期に関する改正に与えた影響は、間接的なものにとどまるという評価も成り立つであろうか。仮に成り立つとすれば、法人税法22条の2第1項の規律範囲と収益認識会計基準の取扱い範囲は完全に重なるという道筋はブレはじめ、法人税法22条の2第1項が「無償による資産の譲受けその他の取引」を含めていないことの直接的な理由はかかる取引が収益認識会計基準の対象外とされているからである、とは言い切れないのではないかという見方にもつながる。 法人税法22条の2第4項等において手当てした収益の額として益金の額に算入する金額に係る改正に関する上記解説においては、収益認識会計基準に従った収益の額の計算のうち、法人税の所得の金額の計算として認めるべきでない部分があれば、その部分を明示する必要が生ずるという立案担当者の認識が開陳されていた。 立案担当者は、次に示す法人税法22条の2第1項等において手当てした収益の額を益金の額に算入する時期に係る解説においては、収益認識会計基準以外の企業会計原則に従った処理が行われた場合に想起される不都合に対応するためにも、収益の認識時期について通則的な定めを設ける必要が生じたと説明している。 (財務省『平成30年度 税制改正の解説』271~272頁) 上記解説は、全体として、収益認識会計基準が収益の計上時期に関する改正に与えた影響は間接的なものにとどまるという評価を支える一材料になりそうである(もっとも、上記解説の下線部分からすれば、収益の額を益金の額に算入する時期に係る改正についての補足的な説明にすぎないのかもしれない)。 上記解説を図示すると、次のようになる。 上図の①について、改正前の法人税法63条1項は、内国法人が、長期割賦販売等に該当する資産の販売等をした場合において、その資産の販売等に係る収益の額及び費用の額につき、その資産の販売等に係る目的物又は役務の引渡し又は提供の日の属する事業年度以後の各事業年度の確定した決算において延払基準の方法により経理したときは、その経理した収益の額及び費用の額は、その各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額及び損金の額に算入することとされていた。 平成30年度改正において、この法人税法63条が改正され、長期割賦販売等に係る収益及び費用の帰属事業年度に関する別段の定めについて、リース取引を除き廃止することとされた。 改正の理由については、次のとおり、収益認識会計基準の導入により、同会計基準を適用した法人は割賦基準(延払基準)により収益費用を経理することができなくなるところ、仮に改正前の法人税法63条を存置すると、収益認識会計基準を適用しなければならない法人とそうでない法人との間で不公平が生ずることとなるため、収益認識会計基準の導入を契機として、改正することとしたと説明されている。 (財務省『平成30年度 税制改正の解説』272~273頁) 上図の①や③に着目すると、収益認識会計基準が収益の計上時期に関する改正に与えた影響は、間接的なものにとどまるという評価に向かいそうである。他の部分を見ても、要するに、法人税法63条が改正され、割賦販売に係る収益の認識時期について別段の定めが存在しないことになったところ、法人税法22条4項との関係で、逆に全ての割賦販売について割賦基準や延払基準により所得の金額の計算をすることが可能であるように解釈されるおそれが生じるため、このような解釈とならないようにするためにも、収益の認識時期について通則的な定めを設ける必要が生じた旨の説明がなされているのであるから、やはり上記と同様の評価に行き着きそうである。 視点を変えて、結果論的に議論を眺めることも可能である。収益認識会計基準は固定資産の譲渡を適用対象外としているのに対して、法人税法22条の2第1項は、その文面上、「資産の譲渡」(棚卸資産以外の資産の譲渡)も規律対象に含めており、固定資産の譲渡にも適用されるものとなっている。固定資産の譲渡が収益認識会計基準の対象外であることを理由に、法人税法22条の2第1項も固定資産の譲渡を対象外としているわけではないのである。結果的に見れば、法人税法22条の2第1項の規律範囲と収益認識会計基準の取扱い範囲が完全に重なっているわけではないことになる。 立案担当者は、このことについて、次のように解説している。 (財務省『平成30年度 税制改正の解説』274頁) 固定資産の譲渡が収益認識会計基準の対象外であることを理由に、法人税法22条の2第1項も固定資産の譲渡を対象外としているわけではないことを踏まえると、同項が「無償による資産の譲受けその他の取引」を含めていないことの直接的な理由はかかる取引が収益認識会計基準の対象外であることに帰すると直ちに論断することはやはり躊躇される。 このように見てくると、法人税法22条の2の創設と収益認識会計基準との関係はやや判然としないという指摘もできそうである。 なぜ、法人税法22条の2第1項に「無償による資産の譲受けその他の取引」を含めなかったのかという問いに対しては、次のような理由も候補としてあげておく。 法人税法22条の2第1項は、資産の販売等に係る収益の計上時期のルールを定めるに当たり、当該法人から見てインプットである対価ないし経済的利益に着眼したものというよりも、むしろ、アウトプットである引渡しや役務提供に着眼したものである(上記(2)イ(本連載第10回)参照)。 このような観点から見た場合に、少なくとも「無償による資産の譲受け」の場合は、譲り受けた側の法人においてアウトプットである引渡しや役務提供を観念することはできない。そこで、そのインプットである対価ないし経済的利益に着眼せざるをえない。この点で、資産の販売若しくは譲渡又は役務の提供の場合とは相違するため、改正の支流から外れた。 いずれにしても、法人税法22条の2第1項は、22条2項と異なり、「その他の取引」という包括的な語も使用していないため、文字どおり、「資産の販売若しくは譲渡又は役務の提供」に限定して適用される。立法時において意識的に「無償による資産の譲受けその他の取引」を含めなかったのであるとすれば、法人税法22条の2第1項は「無償による資産の譲受けその他の取引」には適用されないという理解はより強固のものとなる。   (了)

#No. 338(掲載号)
#泉 絢也
2019/10/03

〈Q&A〉印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第73回】「印紙税一括納付承認申請書及び納税申告書の書き方」

〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第73回】 「印紙税一括納付承認申請書及び納税申告書の書き方」   税理士・行政書士・AFP 山端 美德   当社は金融機関です。預貯金通帳等については、その預貯金通帳等を作成しようとする場所の所轄税務署長の承認を受けることにより、預貯金通帳等に係る印紙税について収入印紙を貼り付けることに代えて、金銭で一括して納付することができるとされていますが、その際の承認申請書の記載方法及び納税申告書の記入方法について教えてください。   預貯金通帳等に係る印紙税の申告及び納付の特例を受ける場合には、あらかじめその預貯金通帳等を作成しようとする場所の所轄税務署長の承認を「印紙税一括納付承認申請書」により、承認を受けようとする最初の課税期間の開始の日の属する年の3月15日までに提出しなければならない。 申告については、毎年4月1日現在における預貯金通帳等に係る口座の数を基礎として計算した課税標準数量及び、納付すべき税額などを記載した納税申告書を、4月末日までに提出し、その申告書の提出期限までに印紙税を納付しなければならない。 [記載例] ◎印紙税一括納付承認申請書 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 《申請に当たっての注意点》 ◎印紙税納税申告書(一括納付用) ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 [補足] 印紙税の一括納付の適用を受ける必要がなくなった場合には、「印紙税一括納付承認不適用届出書」を提出する。 なお、申告等については、電子による申告申請及び電子納税による方法も可能である。   一括納付承認申請に係る参考条文(法12①、法令12①、基通91の2) (了)

#No. 338(掲載号)
#山端 美德
2019/10/03

〈桃太郎で理解する〉収益認識に関する会計基準 【第14回】「もし桃太郎がイヌに成功報酬を出すと言ったら~変動対価で収益計上」

〈桃太郎で理解する〉 収益認識に関する会計基準 【第14回】 「もし桃太郎がイヌに成功報酬を出すと言ったら ~変動対価で収益計上」 公認会計士 石王丸 周夫   1 成功報酬はどのように会計処理するのか 今回は「桃太郎がイヌに成功報酬を出す」というお話に変えてみましょう。 鬼退治に出発した桃太郎が1人で歩いていると、イヌがワンワンとやってきました。 「桃太郎さん、お腰につけたきびだんごを1つ私にくださいな。」 「鬼退治について来るなら、あげましょう。」 「え~っ!鬼退治ですかァ!」 イヌは鬼退治と聞いてびっくりしました。きびだんご1つのために、命がけの仕事をするのはちょっとどうかと思ったようです。 その様子を見た桃太郎は、迷っているイヌに言いました。 「鬼退治が終わってから3ヶ月たっても、鬼ヶ島が平和であることが確かめられたら、ごほうびにもう1つきびだんごをあげるよ」 「えっ!? 本当ですか? それなら喜んでお供します!」 桃太郎は、鬼退治が完全に成功した場合に、きびだんごを追加することを提案しました。いわゆる「成功報酬」です。 この成功報酬は、イヌにとっては収益です。収益認識会計基準では、これをどのように会計処理するのでしょうか。   2 変動対価という考え方 収益認識会計基準では、「変動対価」という考え方が導入されました。これまで日本の会計にはなかった概念です。 サービスの売り手であるイヌが、サービスの買い手である桃太郎と約束した対価のうち、変動する可能性のある部分を「変動対価」といいます。イヌが鬼退治同行サービスの提供と引き換えに桃太郎からもらうきびだんごは、「必ずもらえる最初の1つ」と、「もしかしたらもらえる3ヶ月後のもう1つ」です。 1つめにもらうきびだんごは基本報酬のようなもので、固定対価と呼ばれます。これに対して、3ヶ月後にもらえるかもしれない「もう1つ」は、「変動対価」と呼ばれます。 イヌが桃太郎に鬼退治同行サービスを提供した時点では、もらえるかどうか確定していないので、変動する可能性を含んでいるという意味です。 取引の対価に変動対価が含まれている場合、収益を計上するにあたって、変動部分の金額を見積もります。今回のお話のように、生じ得る結果が2つ(完全に退治するか、不完全に終わるか)しかない場合、最頻値をもって見積額とします。 「最頻値」とは、発生し得ると考えられる対価の額における最も可能性の高い単一の金額のことで、桃太郎がイヌに約束したごほうび(成功報酬)については、以下のように見積もります。 これらのうち可能性が高いのはどちらなのか、ということを判断するわけです。   3 計上した金額がリバースされない見通しならよい 変動対価部分について見積金額で収益計上するに際しては、次のような条件があります。 分かりにくい文章なので、今回の桃太郎のお話に置き換えてみましょう。 イヌの運動能力の高さを根拠に、上図のシナリオ1の可能性が高いと見込んだ場合、イヌはごほうびのきびだんご1つ(成功報酬分)を収益計上するわけですが、あとになってそれを取り消すようなことにはならない可能性が高くなければいけない、という意味です。 ここでいう「可能性が高い」の意味するところですが、例えば、著しい減額が発生しない可能性が51%、著しい減額が発生する可能性が49%といった程度では、「可能性が高い」とはいえません。「可能性が高い」とは、著しい減額が発生しない可能性が 非常に高い状況を示すとされています。 この判定を行うにあたっては、例えば以下のような要因を考慮して決定します。   4 成功報酬の計上時期判断は難しい イヌが成功報酬部分を履行義務充足時に収益計上できるかどうかを考えてみます。 先ほど示した諸要因のうち、今回のお話で実際に当てはまりそうなのは(3)でしょうか。「イヌの鬼退治の経験が浅く、結果を予測することが困難であること」という要因です。鬼退治同行サービスでは、この要因がクリアできるかどうかは重要です。 イヌ・サル・キジたちに鬼退治の経験があるなどという話は、聞いたことがありません。経験のないメンバーで戦ったので、一部の鬼を取り逃がした可能性は排除できません。こうした点を踏まえると、成功報酬を収益計上することはできないということになります。 一方で、次のような考え方もあります。 イヌがお供することになった時点では、この先どうなるかはまだ予測不可能でした。しかし、サルとキジが加わったことで、鬼退治における役割分担が確定し、鬼に勝利する見通しが立ちました。過去に鬼退治の経験はありませんが、勝利への明確な道筋が描けたことで(3)の要因への懸念は消えたと判断するのです。 そう判断できるのであれば、桃太郎一行が鬼退治から無事に帰ってきた時点で、3ヶ月後の確認を待たずして、イヌは成功報酬を収益計上することになります。 ▷今回のまとめ 収益認識会計基準では、「変動対価」という新しい概念が導入され、見積もりにより収益計上する会計処理方法が示されています。 (了)

#No. 338(掲載号)
#石王丸 周夫
2019/10/03

〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領《個別注記表》編 【第2回】「個別注記表の記載例」

〔事例で使える〕 中小企業会計指針・会計要領 《個別注記表》編 【第2回】 「個別注記表の記載例」   公認会計士・税理士 前原 啓二   はじめに 前回は、中小企業に多い株式譲渡制限規定を定款に設けている株式会社において、個別注記表にどのような項目が必要であるかをご紹介しました。 今回は、そのような会社における個別注記表の1つの記載例を、サンプルとして例示します。 【設例2】 当社は、当年度から個別注記表を作成するつもりですが、記載のサンプル例を示してください。 当社は、定款に「当社の発行する株式の譲渡による取得については取締役会の承認を受けなければならない。」と定められています(株式譲渡制限規定を定款に設けている株式会社)。また、大会社ではなく、会計監査人を設置していません。 当年度において、会計方針の変更や表示方法の変更は行っておらず、また、「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準)に基づく会計処理を行っていません。 有形固定資産は直接控除法により貸借対照表に表示しています。 退職給付引当金に係る未償却の適用時差異が残っています。 所有権移転外ファイナンス・リース取引については、通常の賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理を行い、未経過リース料があります。 配当は、利益剰余金を原資とします。 個別注記表の記載例はたくさん考えられますが、記載サンプルの1つとして、次のような例が挙げられます。 なお、会計方針やその他の事項について、それぞれの会社が実際に選択適用している方法や実際の具体的内容により記載する必要があります。 (了)

#No. 338(掲載号)
#前原 啓二
2019/10/03

「働き方改革」でどうなる? 中小企業の労務ポイント 【第9回】「『女性』と『シニア層』が生き生きと働ける職場づくり」

「働き方改革」でどうなる? 中小企業の労務ポイント 【第9回】 「『女性』と『シニア層』が生き生きと働ける職場づくり」   Be Ambitious社会保険労務士法人 代表社員 特定社会保険労務士 飯野 正明   ▷人口の減少は始まっている ご存知の通り、わが国の人口はすでに減少し始めています。総務省統計局によれば、2010年10月1日現在の日本の人口は1億2,805万人でしたが、2019年9月1日現在(概算値)では1億2,615万人となっており、190万人も減少しています。 一方、総人口は減少している中で、増えているのが「高齢者(65歳以上)人口」と「労働力人口」です。 「高齢者人口」は、2019年9月15日現在、3,588万人と前年(3,556万人)に比べ32万人増加し、総人口に占める割合は28.4%と、前年(28.1%)に比べ0.3ポイント上昇し、人口、割合ともに過去最高となりました。それに伴って、高齢者の就業者も増加しています。2004年以降、15年連続で増加し、2018年の高齢者の就業者は、862万人と過去最多となっています(総務省統計局「統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで-」)。 また、下記の表からわかるように「労働力人口」は平成25年から継続して増加しており、それを支えているのは女性の労働力といえます。 ◆労働力人口及び労働力人口総数に占める女性割合の推移 (出所) 厚生労働省「平成30年版 働く女性の実情」 今後の人手不足解決のために重要となるのは、「女性」と「高齢者」であり、会社は、そのような方々にとって就労しやすい環境を整える必要があります。   ▷女性の活躍推進に向けて 1 仕事と育児の両立 職場における女性の活躍推進をお話するうえで、重要なこととして「仕事と育児の両立」が挙げられます。 近年、「イクメン」といった言葉もあるように、男性の育児への関与も増えてきていますが、まだまだ女性が中心となって育児を行っているケースが多いのではないでしょうか。そのため、女性に生き生きと働いてもらうためには、会社として、女性が仕事と育児を両立しやすい環境を整える必要があります。 現在、育児休業に関する法律である「育児介護休業法」は、大企業と中小企業の区別なく適用されています。 主な法律の内容は、以下のとおりです。 2 少人数でもできた育児休業の実例 実は、筆者の事務所は安産祈願で有名な「水天宮」からも近いこともあって、子宝に恵まれた事務所となっています。この5年間に3人の職員が子宝に恵まれ、計5回の育児休業が発生しました。 そこで実例として、人数が少ない中でのやりくりについて、以下でお話いたします。 以上のように実例として筆者の事務所を取り上げましたが、いかがだったでしょうか。 「仕事と育児の両立を支えること」は、確かに中小企業にとって負担も大きいことでしょう。しかし、そこを乗り切ることでチームワークが堅固となった実例もあるのです。   ▷シニア層の活躍 シニア層の働くことに対する意欲や体力は個人差も大きく、職場で活躍してもらうには、フルタイム勤務だけでなく、短時間勤務や週3、4日の勤務など、会社としては柔軟な雇用形態を提供できるようにすることが不可欠です。 また、雇用機会を多く確保するためには、「同じ業務を日によって異なる人が担当する」といった「ワークシェアリング」を図ることになります。ワークシェアリングをする場合には、「どこまで業務が終わっているのか」、「どこから始めたらいいのか」、「何が足りなくて仕事が滞っているのか」といった情報を担当者間で伝達・共有する仕組みが必要となります。 なお、シニア層が活躍している事例としては、ある飲食店では早朝勤務にシニア層を就労させることで、正社員の勤務時間の短縮を図ることに成功した事例や、同様の考え方で小売店では早朝の時間帯に「店長」として就労させている事例もあります。また、製造業では技術や経験を若手に伝える存在としてシニア層に就労してもらい活躍している事例があります。 以上のように、それぞれの企業にあったやり方で働き続けたいシニア層に活躍してもらうことで、人手不足の解決も可能であると考えます。 どういった方法で働いてもらうにせよ、シニア層の活躍のためには健康面に配慮しつつ働くことができ、働き方も柔軟に選べるようにする体制を整えることが、会社として必要となります。   ▷まとめ ここまで、女性とシニア層の活躍について、事例を取り上げながらお話をしてきました。多様で柔軟な働き方を提供できる仕組みづくりは、これまで以上に会社にとって重要なことであるといえるでしょう。 人手不足の中、これまで働いていなかった方が「働きたくなる仕組み」、今働いている方が「辞めずにいられる仕組み」を会社ごとに考える必要があるのではないでしょうか。 下記の表は、中小企業における「同僚の離職理由」です。ここに挙げられていることのいくつかは企業努力で改善できることではないでしょうか。 手をつけられそうなところから始めてみませんか。 ◆同僚の離職理由 (出所) 厚生労働省「働きやすい・働きがいのある職場づくりに関する調査報告書(平成26年5月)」 (了)

#No. 338(掲載号)
#飯野 正明
2019/10/03

空き家をめぐる法律問題 【事例17】「台風・強風によって空き家の屋根瓦等が飛散した場合の法的責任」

空き家をめぐる法律問題 【事例17】 「台風・強風によって空き家の屋根瓦等が飛散した場合の法的責任」   弁護士 羽柴 研吾   - 事 例 - 私は、A市で生活をしていますが、隣のB市に空き家となった実家を所有しています。自宅は、昭和40年代に建築された木造瓦葺の建物です。父は実家の修繕工事をしていたようですが、相当に経年劣化しています。 先日、台風17号(仮称)がB市を縦断し、実家の屋根瓦が一部落下したほか、屋根に残っている瓦も剥がれそうな状態になりました。私は、応急処置としてブルーシートを貼って瓦の落下や雨漏りを防いでいますが、修繕工事の目途は立っていません。天気予報によれば、間もなく大型の台風18号(仮称)がB市を縦断するようです。 もし、この台風によって瓦が飛散して、第三者に損害を与えた場合、私にはどのような法的責任がありますか。   1 はじめに 先日、台風15号が関東地方を縦断し、千葉県を中心に甚大な被害を発生させた。平成30年にも台風21号や大阪府北部地震が発生し、空き家に絡む被害が生じることとなった。本連載【事例3】においても「地震が発生した場合の空き家の管理責任」を取り上げたところである。 さて、台風15号においては、民家の屋根瓦が強風で飛散する等の被害も少なからず見受けられたことから、今回は、台風・強風によって空き家の屋根瓦が飛散した場合の法的責任について検討することとしたい。   2 自然災害と工作物責任(民法第717条) (1) 民法第717条の工作物責任の範囲 民法第717条第1項は、工作物の設置又は保存の瑕疵によって生じた損害について、その占有者に第一次的責任を負わせ、占有者が責任を負わない場合に、所有者に無過失責任を負わせている。 同項に規定する工作物の「設置又は保存の瑕疵」とは、建物に代表される工作物が、その種類に応じて、通常備えているべき安全性を欠いていることをいう(最判昭和45年8月20日民集24巻9号1268頁参照)。「通常備えているべき安全性」との定義からもわかるように、異常な自然力(不可抗力)によって生じた危険に対する安全性まで備えている必要はないと解されており、当該工作物の客観的性状から見て判断をしていくことになる(客観説)。 (2) 屋根瓦の工法と安全性判断 一般的に、屋根瓦については、引掛け桟瓦葺き工法(屋根の下地の上に、ルーフィングと呼ばれる下葺材・防水材を敷き、その上に桟木を打ち付け、これと瓦を釘等で打ち付ける工法)が主として用いられているものと推察される。このような工法が採用されていないか、採用されていても釘等が錆びて脆くなっていたような場合には、台風・強風による瓦の飛散について、「設置又は保存の瑕疵」が認められるものと思料される(台風による瓦の飛散事故について、民法第717条第1項の責任を認めた事例として、福岡高判昭和55年7月31日判タ429号130頁参照)。 昨今、風水害の威力が以前に比して強くなっている旨指摘されており、このような傾向に対処することが今後求められていくものと思われる。この点に関して、工作物の占有者や所有者が、いつの時点を基準にして工作物の安全性を保つべきか問題となりうる。この問題に関しては、事故が生じた時点を基準に判断していくものと解されており、事故後に明らかになった新たな技術や工法等まで考慮して安全性を判断するのではない。 もっとも、新たな工法については普及の程度等にも留意が必要である。例えば、一般社団法人全日本瓦工事業連盟は、「瓦屋根標準設計・施工ガイドライン」を公表し、台風・強風に強いガイドライン工法を推奨しているところ、このような工法が、事故発生当時に、相当程度標準化されて全国的・当該地域に普及しているような事情がある場合には、「設置又は保存の瑕疵」を判断する基準に含まれる余地があるものと思われる(点字ブロックの普及具合等を考慮することを指摘した事例として、最判昭和61年3月25日民集40巻2号472頁)。 (3) 設置又は保存の瑕疵と時間軸との関係 一見、工作物の安全性に欠如があると認められる場合でも、「設置又は保存の瑕疵」が否定される場合がある。例えば、道路管理者が夜間の道路掘削工事のために設置した工事標識板、バリケード及び赤色灯標柱が、第三者によって道路上に倒されたまま放置されていた場合に、「道路の安全性に欠如があったといわざるをえないが、それは夜間、しかも事故発生の直前に先行した他車によって惹起されたものであり、時間的に被上告人において遅滞なくこれを原状に復し道路を安全良好な状態に保つことは不可能であった」として道路管理の瑕疵を否定した事例がある(最判昭和50年6月26日民集29巻6号851頁参照)。一方で、国道上に駐車中の故障した大型貨物自動車を約87時間放置していたことが道路管理の瑕疵にあたるとされた事例もある(最判昭和50年7月25日民集29巻6号1136頁)。 上記各判例は、道路管理が問題になった国家賠償法第2条の営造物責任に関する事例であり、民法第717条の土地工作物責任にまで直ちに射程が及ぶというものではない。もっとも、上記各判例からすると、「設置又は保存の瑕疵」の判断は、当該工作物の客観的性状のみから判断するのではなく、時間軸等も考慮して、より規範的に判断するべきことを示唆しているように考えられる。 すなわち、本来、国家賠償法第2条の営造物責任や民法第717条の土地工作物所有者の責任は、一般に無過失責任と解されており、あくまでも事故発生時の当該営造物や土地工作物の客観的な性状のみが瑕疵(通常有すべき安全性の欠如)の判定の基準となるが、個別具体的な事案の妥当な解決のために、設置者又は所有者側の予見可能性や結果回避可能性といった規範的な判定基準を設けることによって、実質的に過失責任的な要素が盛り込まれているということである。   3 本件の場合 本件において、B市の実家は、台風第17号によって、瓦が剥がれたような状態となっている。これが瓦の剥離を防げたにもかかわらず、工法や管理が不適切であったため剥離が生じたものなのであれば、台風第18号によって瓦が飛散して第三者に損害が生じた場合には、「設置又は保存の瑕疵」が認められる可能性が高いと考えられる。 これに対して、台風第17号が稀に見る大型台風であり、通常有すべき安全性を備えていても瓦の剥離を防げなかった場合には別の考慮が必要になるように思われる。被害が広範囲に及んでおり、瓦職人の人手が不足し、ブルーシートで応急処置に留めざるを得ず、この間に台風第18号がB市を縦断し、瓦が飛散して第三者に損害が生じたというような場合には、上記2の(3)で見た各判例の理解によっては、「設置又は保存の瑕疵」を否定する場合もありうるように思われる。 なお、上記にいう「稀に見る大型台風」か否か、すなわち異常な自然力(不可抗力)によるものか否かは、わが国が「台風立国」であり、例年一定規模の台風の襲来が避けられない以上、数十年に一度の規模であれば、不可抗力の判断に傾くと考えられるが、その一方で、数年に一度程度の規模であれば、不可抗力の認定には慎重な考慮が必要であろう。 (了)

#No. 338(掲載号)
#羽柴 研吾
2019/10/03

M&Aに必要なデューデリジェンスの基本と実務 「むすびに代えて」~「財務・税務と法務との対話と協働」再び~(中編:弁護士が『違反を知りながら表明保証』させたらどうなるか)

M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務   弁護士法人ほくと総合法律事務所 パートナー 弁護士 石毛 和夫   ◆むすびに代えて◆ ~「財務・税務と法務との対話と協働」再び~ 【中編】 「弁護士が『違反を知りながら表明保証』させたらどうなるか」   (つづく)

#No. 338(掲載号)
#石毛 和夫
2019/10/03

〈小説〉『所得課税第三部門にて。』 【第25話】「保険契約の名義変更」

〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第25話】 「保険契約の名義変更」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   「それにしても統括官・・・大変でしたね。」 浅田調査官が出勤してきた中尾統括官に声をかける。 中尾統括官は、鞄を机に置きながら、苦笑する。 「いやぁ・・・本当に痛かった・・・」 顔をしかめながら、浅田調査官に答える。 中尾統括官は、お盆で、富山に帰省中、救急車に運ばれた。 原因は、「尿管結石」である。 「まだ、石は出てこないのですか?」 浅田調査官はニヤニヤしながら尋ねる。 「うん・・・あれから一週間経つけど、まだ石は出てこない・・・医者からは1ヶ月ほど様子を見てみようということで、それで駄目であれば、体外衝撃波砕石術(ESWL)又は・・・内視鏡治療を行うと言われているんだ・・・」 中尾統括官は、机の上に書類を重ねながら言う。 「・・・ところで、昨日、納税者から問い合わせがあったのですが・・・」 浅田調査官は急にメモ書き用紙をポケットから取り出して尋ねる。 「・・・同族会社の役員甲が退職することになって、これまで契約者を会社、被保険者を役員甲、死亡保険金受取人を会社とする終身保険に加入していたのですが、これを役員甲の退職金の一部として、現物支給(名義変更)するということなのです・・・」 浅田調査官は、一枚目のメモ書きを中尾統括官に見せる。 「・・・それで、役員退職金が4,000万円(源泉所得税400万円)、会社が資産計上している保険積立金(契約変更時)が1,000万円、解約返戻金900万円の場合・・・会社は、次のような処理をすることになります。」 浅田調査官は2枚目のメモ書きを見せる。 「・・・この現金支出の2,700万円は、役員退職金の4,000万円から解約返戻金900万円と源泉所得税400万円を控除した金額です・・・契約者の名義変更することによって、会社は経理上、100万円の雑損失が発生します。」 浅田調査官がメモ書きの記載内容を確認する。 「それで質問というのが、その後、役員甲がこの保険契約を解約した場合の一時所得の計算における収入を得るために支出した金額は、いくらになるかということなのです・・・」 浅田調査官は、中尾統括官の顔を見る。 「これについては・・・たしか有名な最高裁の判決があったと思う・・・」 そう言うと、中尾統括官はパソコンで、最高裁のホームページを開く。 「この最高裁平成24.1.13判決だな。」 中尾統括官は、判決要旨を読む。 「すなわち、所得税法34条2項の「その収入を得るために支出した金額」は・・・当該収入を得た個人において自ら負担して支出したといえるもの・・・ということで、会社が損金経理した2分の1については、控除できないと判断している。」 中尾統括官は、画面を見ながら罫紙に図を描く。 「・・・それに、所得税基本通達34-4(2)では、控除できるものとして・・・当該支払を受ける者以外の者が支出した保険料又は掛金であって、当該支払を受ける者が自ら負担して支出したものと認められるもの・・・と規定している・・・」 中尾統括官は、手元にある通達集を広げる。 「そして、少額な保険料等については、本質的には給与課税を行うべきであるため、たとえ給与課税がなされなくても、控除する保険料等に含まれることを・・・この通達の注書きで記載している。」 そのとき、中尾統括官は急に少し顔をしかめて、「ちょっと・・・」と言って席を立つ。 「大丈夫ですか?」と浅田調査官は、後ろ姿の中尾統括官に声をかける。 しばらくすると、中尾統括官は安堵の表情で戻ってきた。 「出たよ!!」 中尾統括官は、小さなビニール袋に入っている、8ミリぐらいの黒っぽい小石を浅田調査官に見せる。 (つづく)

#No. 338(掲載号)
#八ッ尾 順一
2019/10/03
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