2018年9月13日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.285を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第68回】 「統計数値が租税法解釈に与える影響(その2)」 中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 Ⅲ 租税法における統計数値が及ぼす影響 統計資料が立法や行政執行に用いられていることは既述のとおりであるが、以下では、統計数値が租税法解釈に影響を及ぼした具体的事例を確認しておきたい。 1 大島訴訟 租税法上の最も重要な判例の1つにいわゆる大島訴訟(サラリーマン税金訴訟)、最高裁昭和60年3月27日大法廷判決(民集39巻2号247頁)がある。これは、本件事件当時の昭和40年代における「サラリーマンの重税感」を背景に非常に注目を集めた事例であるが、裁判所の租税立法に対する違憲審査の基準や、租税法律主義、租税公平主義を論じた判例として、つとに有名である。 ここで大島訴訟のすべての論点を確認することはできないが、以下では裁判所の認定した統計数値と、それらが租税法解釈に影響を及ぼしたと推察される箇所を取り上げることとしたい(以下は、本件事件の第一審京都地裁昭和49年5月30日判決(民集39巻2号272頁)の判示である。)。 このように、京都地裁は、所得者数と納税者数から算出される納税者割合を確認し、給与所得者、事業所得者及び農業所得者の間に大きな開差が見られることを指摘する。 すなわち、京都地裁は、給与所得者、事業所得者及び農業所得者の間に大きな差があるとしており、その「右三所得間の昭和42年における所得税の課税範囲の比率は、給与所得の前記数字を10とすれば、事業所得は4.2、農業所得は0.96と非常に大きな相違がある」としている。 続けて、同地裁は、「給与所得と事業所得、農業所得との間の捕捉率の格差の有無を検討するには、さらに所得種類別の所得階級別分布状況、所得者の世帯構成等の事情を考察しなければならない」として、各種の統計数値を認定している。以下では、判示の数値を表にまとめたものを掲載しておきたい(比較の場合は給与所得者を100としたもの。以下同じ。)。 【図表1:所得金額等】 図表1によると、所得者一人当たりの所得水準については、農業所得者は給与所得者より幾分低く、事業所得者は、逆に給与所得者より幾分高いとの事実が分かる。 【図表2:世帯員数等】 続いて、京都地裁は、各世帯の扶養人数等についても統計数値を基に検討を加えている。図表2における*1及び*2については、「扶養人員のあるものの割合等の数字を直接に認めるに足りる証拠を欠く」としており具体的な数字は明らかにされていないが、結論において「事業所得者および農業所得者は一世帯当たりの世帯員数が給与所得者より0.9人(事業所得者)ないし1.8人(農業所得者)ほど多いという事実」に照らすと、「事業所得者および農業所得者のいずれとも、所得者のうち扶養人員のある者の一人当たり平均扶養人員は給与所得者におけるよりも、・・・多少の程度は多いものと認めるのが相当である。」と結論付けている。 【図表3:その他の統計数値】 そして、京都地裁は、このように各種数値を検討した結果、「一方において、給与所得と事業所得および農業所得との間には、納税者割合および所得税の課税範囲について著しく大きな差があるところ、他方において、所得者一人当たりの所得金額ないし国民所得、所得水準およびこれらの伸び率には特に大きな差はな〔い。〕」とする。 このように、京都地裁は、各種統計数値を基に三所得者間の所得の補足の程度の相違について言及しているのである。それによれば、給与所得の捕捉の程度は、事業所得及び農業所得の捕捉よりもある程度高いことが推察されるという。 もっとも、同地裁は、結論的には次のように述べており、結局において原告の主張は排斥されているが、各種数値を基に課税実務の現状を把握した裁判例として注目しておきたい。 2 総評サラリーマン税金訴訟 次に、いわゆる総評サラリーマン税金訴訟も確認しておきたい。この事例は、給与所得者に対する所得税の源泉徴収制度及び給与所得控除制度は給与所得者を事業所得者等に比して不当に不利益に取り扱っているものとはいえないから、憲法14条1項に違反しないとした事例である。 東京地裁昭和55年3月26日判決(行集31巻3号673頁)は、まず、給与所得者の年間収入と支出について次のようなデータを参考にしている。 また、給与所得者における職務関連費用は通常使用者が負担することや、通勤手当の一定範囲内の金額(所法9五)等については非課税とされていること、そして上記のような実態を踏まえ次のように述べる。 この事件は控訴されたが、東京高裁昭和57年12月6日判決(行集33巻12号2399頁)においても維持されている。 なお、憲法25条違反についても争われたが、最高裁平成元年2月7日第三小法廷判決(集民156号87頁)は、「本件の場合、上告人らは、もっぱら、そのいうところの昭和46年の課税最低限がいわゆる総評理論生計費を下まわることを主張するにすぎないが、右総評理論生計費は日本労働組合総評議会(総評)にとっての望ましい生活水準ないしは将来の達成目標にほかならず、これをもって『健康で文化的な最低限度の生活』を維持するための生計費の基準とすることができないことは原判決の判示するところ」とし、所得税法(昭和47年法律第31号改正前)中の給与所得に係る課税関係規定が、給与所得者の「健康で文化的な最低限度の生活」を侵害するとはいえず、憲法25条に違反しないとしている。 最高裁は、納税者(上告人)が主張する「総評理論生計費」について「健康で文化的な最低限度の生活」を維持するための生計費の基準とすることはできないとしている。統計数値を用いる際に、そのデータの意味するところや信憑性等についてまず判断しなければならないことはいうまでもない。 (了)
外資系企業の税務Q&A 【第1回】 「米国親会社が日本子会社の株式を譲渡した場合における課税関係(不動産保有なし)」 公認会計士・税理士・米国公認会計士 中島 崇賢 Q 当社は米国法人です。世界各国に子会社があり、日本にも100%子会社を有しています。今般、グローバルグループ内における資本関係の整理・再構築の一環として、日本子会社の株式をすべて同一グループ内の英国法人に売却することになりました。 今回の売却に関して、当社(米国法人)の日本における税務上の留意点について教えてください。 なお、当社と日本子会社の状況は下記のとおりです。 A 貴社(米国法人)による日本子会社株式の譲渡は、日本の法人税法上、事業譲渡類似株式の譲渡に該当し、譲渡益が発生する場合は、法人税が課されます。しかし、貴社が日米租税条約上の特典条項を満たし、租税条約届出書等を適時適切に提出する場合は、日本における課税は免除されます。 解 説 1 はじめに グローバル企業グループにおいて、事業の取得や売却等により、グローバルで資本関係を整理・再構築を行い、日本子会社株式についてもグループ内で譲渡されることがある。 グループ内で資本関係を整理する場合、第三者への売却ではないことから、外国親会社と日本子会社の双方において、日本における課税関係の検討等が十分に行われないまま実行されているケースが見受けられるので留意が必要である。 2 法人税法上の取扱い 日本の法人税法上、日本にPEを有していない外国法人は、一定の国内源泉所得のみが課税対象となる。 株式の譲渡は、原則として居住地国課税とされているが、例外として、源泉地国においても課税される場合がある。 課税される場合のひとつに、「事業譲渡類似株式の譲渡」がある。 事業譲渡類似株式の譲渡とは、次の(1)(2)の要件に該当する株式の譲渡をいう(法法138①三、法令178①四ロ・⑥)。 (注1) 特殊関係株主等とは、内国法人の株主等およびその株主等の同族関係者その他これに準ずる関係のある者をいう(法令178④)。 (注2) 「5%以上譲渡したかどうか」の判定においては、譲渡事業年度の中途においてその内国法人が増資等を行い発行済株式数の変動があった場合でも、その譲渡事業年度において最初にその株式を譲渡した直前のその発行済株式の総数に基づいて計算することになる(法基通20-2-9)ので、留意が必要である。 すなわち、内国法人の特殊関係株主等のグループが、過去3年以内のいずれかの時において持株割合が25%以上となっていた内国法人の株式を1事業年度中に5%以上譲渡した場合に、その特殊関係株主等のグループに含まれている外国法人の譲渡した株式等について、国内源泉所得として課税対象とされることになる。 今回のケースでは、上記2つの要件に該当するため、事業譲渡類似株式の譲渡に該当し、譲渡益が発生する場合は、日本において法人税が課されることとなる。 PEを有しない外国法人が、事業譲渡類似株式の譲渡等に係る国内源泉所得(法法141二)を有する場合には、事業年度終了の日の翌日から2ヶ月以内に法人税申告書を提出する必要がある(法法144の6②)。ただし、当該国内源泉所得が、租税条約の規定により法人税を課さないこととされる場合は、法人税申告書の提出は必要ない(法法144の6②ただし書)。 納税地については、PEを有しない外国法人で、日本国内にある不動産等の貸付けによる対価を受けないものは、下記のとおりとなる(法法17、法令16)。 また、国内に事務所等を有しない外国法人が、納税申告書を提出する必要があるときは、納税手続きを代行させるため、納税管理人を選任し、所轄する税務署長に届け出る必要がある(通則法117)。 3 日米租税条約上の取扱い 租税条約が国内法と異なる定めをしている場合は、租税条約の定めが優先して適用される。 日米租税条約においては、株式の譲渡益のうち次の(1)(2)に該当するものを除き、譲渡者(本件では貴社)が居住者とされる締約国(本件では米国)のみで租税を課すことができるとされている(日米租税条約13②③⑦)。 今回のケースでは、日本子会社株式の譲渡は上記のいずれにも該当しない。したがって、貴社が日米租税条約の特典条項の要件を満たすのであれば、当該株式譲渡に係る譲渡益は、日本では課税されない。 貴社は、日米租税条約の規定に基づく免除を受けるためには、下記の租税条約届出書等を、免除を受けようとする事業年度終了の日の翌日から2月以内に法人税の納税地の所轄税務署長に提出する必要がある(実施特例法省令9の2⑨)。 今回のケースにおいて、貴社が、日本において日本子会社の株式譲渡にかかる国内源泉所得のみを有する場合は、当該国内源泉所得について日米租税条約の規定により法人税を課さないこととされるため、法人税申告書の提出は必要ない。 4 まとめ 今回のケースでは、米国親会社による日本子会社株式の譲渡について、法人税法上は事業譲渡類似株式の譲渡に該当し課税対象となるものの、日米租税条約の規定により日本において課税が免除される。 ただし、前提が変われば、課税関係も変わるため、外国親会社が日本子会社の株式を譲渡する際には、日本における課税関係について事前に十分に検討することが望まれる。 (了)
企業の[電子申告]実務Q&A 【第2回】 「義務化の対象となる法人の範囲」 SKJ総合税理士事務所 税理士 坂本 真一郎 ●○●○解説○●○● 電子申告の義務化の対象となる法人は、次のとおりです。 上記を表にまとめると、下表のとおりとなります。 【電子申告の義務化の対象法人】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (注) 1 資本金の額等の判定は事業年度開始の日で行う。 2 資本金、出資金、持分等の定めがない法人は、原則として義務化の対象外。 ▷[ポイント1] 資本金の額等が1億円超であるかどうかについては、「事業年度開始の時」に判定します。したがって、事業年度開始後に減資を行い資本金の額等が1億円以下となった場合でも、義務化の対象となります。なお、消費税の申告において、期間特例を受けている法人の各課税期間の消費税申告についても、課税期間開始の時ではなく「事業年度開始の時」に判定します。 ▷[ポイント2] 設立根拠法に、①その資本金又は出資金自体について規定されているもの、②その資本金又は出資金の出資について規定されているもの、③前記のほか、定款に出資持分に関する定めがあることを前提とした制度が規定されているものについては、資本金の額等が1億円を超える場合に義務化対象法人に該当します。 ▷[ポイント3] 「相互会社」、「投資法人」、「特定目的会社」、「国」及び「地方公共団体」は、一律義務化対象法人となります(国及び地方公共団体は、消費税及び地方消費税の申告について対象となります)。 ▷[ポイント4] 内国法人には、公共法人(消費税及び地方消費税のみ)・公益法人等・協同組合等を含みます。 なお、人格のない社団等及び外国法人は、資本金の額等の有無にかかわらず、電子申告の義務化対象法人には含まれません。 (了)
特別事業再編(自社株対価M&A)に係る 課税繰延措置等特例制度の解説 【第3回】 「課税関係の整理」 太陽グラントソントン税理士法人 マネジャー 税理士 川瀬 裕太 1 法人株主の譲渡損益の繰延べ ① 制度概要 法人が、認定特別事業再編事業者(※1)の行った産業競争力強化法の認定に係る特別事業再編計画(※2)に係る特別事業再編によりその有する他の法人(以下「特別事業再編対象法人」という)の株式等を譲渡し、認定特別事業再編事業者の株式の交付を受けた場合には、特別事業再編対象法人の株式等の譲渡について算入すべき益金の額又は損金の額は、ないこととされている(措法66の2の2①)。 (※1) 認定特別事業再編事業者とは、産業競争力強化法第25条第1項に規定する特別事業再編計画について認定を受けた法人をいう。 (※2) 特別事業再編計画とは、特別事業再編に関する計画をいい(産業競争力強化法25①)、特別事業再編とは、産業競争力強化法第2条第11項に規定する事業再編のうち、2以上の事業者が、それぞれの経営資源を有効に組み合わせて一体的に活用して、それぞれの事業の全部又は一部の生産性を著しく向上させることを目指したものであって、一定の要件に該当するものとされている(産業競争力強化法2⑫)。なお、特別事業再編計画の認定要件については前回参照。 ② 交付を受けた株式の取得価額 特別事業再編により交付を受けたその認定特別事業再編事業者の株式(以下「交付株式」という)の取得価額は、譲渡した株式等(以下「譲渡株式等」という)の譲渡直前の帳簿価額(交付を受けるために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)に相当する金額とされている(措令39の10の3①一)。 ③ 売買目的有価証券に該当していた場合 交付株式で、その交付の基因となった特別事業再編に係る譲渡株式等が売買目的有価証券とされていたものは、売買目的有価証券として処理する(措令39の10の3①二)。 ④ 100%グループ法人間の取引の損益 内国法人が完全支配関係のある他の法人に対して譲渡損益調整資産に該当する特別事業再編による譲渡株式等を譲渡した場合には、法人税法第61条の2第1項第1号に掲げる金額とされる譲渡原価の額を、譲渡に係る収益の額として譲渡損益調整資産の譲渡利益額又は譲渡損失額を計算することとされている(措令39の10の3①三)。 2 個人株主の譲渡損益の繰延べ ① 制度概要 個人が、認定特別事業再編事業者の行った産業競争力強化法の認定に係る特別事業再編計画に係る同法の特別事業再編によりその有する他の法人の株式等を譲渡し、交付株式の交付を受けた場合には、その株式等の譲渡はなかったものとみなし、その譲渡に係る事業所得、譲渡所得及び雑所得の課税を繰り延べる(措法37の13の3①)。 ② 交付株式の取得価額 個人が交付株式をその後に譲渡した場合の事業所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算において、収入金額から控除する取得費の計算の基礎となる交付株式の取得価額は、その特別事業再編に係る譲渡した株式等の取得価額(その交付株式の交付を受けるために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)となる(措令25の12の3)。 3 認定特別事業再編事業者が取得した特別事業再編対象法人の株式等の取得価額及び認定特別事業再編事業者における増加資本金等の額等 ① 特別事業再編対象法人の株式等の取得価額 特別事業再編計画に係る特別事業再編により取得した譲渡株式等の取得価額は、次の場合の区分に応じそれぞれ次の金額とされている(措令39の10の3②一)。 (※3) 前期期末時とは、特別事業再編対象法人の取得の日を含む事業年度の前事業年度終了の時をいう(措令39の10の3②一)。ただし、同日以前6月以内に中間申告書を提出し、かつ、提出の日から取得の日までの間に確定申告書を提出していなかった場合には、取得の日を含む事業年度開始の日以後6月の期間終了の時とされている(措令39の10の3②一)。 (※4) 簿価純資産価額とは、資産の帳簿価額から負債の帳簿価額を減算した金額をいい、前期期末時から取得の日までの間に資本金等の額又は利益積立金額が増加し、又は減少した場合には、増加した金額を加算し、又は減少した金額を減算した金額とされている(措令39の10の3②一)。 (※5) 発行済株式の総数は、出資の場合には総額とされている。ただし、特別事業再編対象法人が有する自己の株式又は出資を除く(措令39の10の3②一)。 ② 認定特別事業再編事業者における増加資本金等の額等 認定特別事業再編事業者におけるその交付株式の交付により増加する資本金等の額は、その特別事業再編により移転を受けた特別事業再編対象法人の譲渡株式等の取得価額とされている。ただし、取得をするために要した費用の額が含まれている場合には、その費用の額を控除した金額とされている(措令39の10の3②二)。 認定特別事業再編事業者に該当する法人が交付株式の交付の直後に2以上の種類の株式を発行している場合には、交付株式の交付に係る増加した資本金等の額を交付株式の交付の直後の価額の合計額で除し、これにその交付株式のうちその種類の株式の交付の直後の価額の合計額を乗じて計算した金額を、その種類の株式に係る種類資本金額に加算する(措令39の10の3②三)。 【課税関係のまとめ】 * * * 連載最終回となる次回は、上記課税関係を踏まえた具体例の紹介と特別事業再編計画の認定手続について解説する。 (了)
〈平成30年度改正対応〉 賃上げ・投資促進税制(旧・所得拡大促進税制)の 適用上の留意点Q&A 【Q10】 「比較雇用者給与等支給額に関する調整計算」 -(1)「基準日」の意義- 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 [Q10] 平成30年度の税制改正によって、組織再編を行った場合の比較雇用者給与等支給額に関する調整計算はどのように変更されたのでしょうか。 [A10] ◆新たに「基準日」という概念が設けられ、基準日から適用年度開始の日の前日までの期間が「調整対象年度」と定義されました。 ◆具体的な調整計算については大きな変更はありませんが、計算期間が「前年度」から「各調整対象年度」に変更されています。 【解説】 (1) 「基準日」の意義 比較雇用者給与等支給額に関する調整計算の基礎となる計算期間に関連する概念として「基準日」という用語が新たに導入されている。そのうえで、「基準日」から「適用年度開始の日の前日」までを「調整対象年度」として、これに含まれる各事業年度の給与等支給額を基礎として比較雇用者給与等支給額を計算することとされた。 基準日は原則として前事業年度等(適用年度開始の日の前日を含む事業年度等)の開始の日とされるが(措令27の12の5⑫二)、前事業年度等の月数と適用年度の月数が異なる場合には、その大小関係に応じて基準日の取扱いが以下のように異なる。 ① 前事業年度等の月数が適用年度の月数に満たない場合で、かつ、月数が6月に満たない場合 ➡基準日は以下(ⅰ)(ⅱ)のいずれか早い日とされる(措令27の12の5⑫一)。 (※1) 当該適用年度が1年に満たない場合には、当該適用年度の期間。 (※2) 当該現物分配が残余財産の全部の分配である場合には当該設立の日から当該前事業年度等の終了の日の前日までの期間内においてその残余財産が確定したものとし、その分割、現物出資又は現物分配に係る移転給与等支給額が零である場合における当該分割、現物出資又は現物分配を除く。 (※3) 当該設立の日から当該合併、分割、現物出資又は現物分配の日の前日(当該現物分配が残余財産の全部の分配である場合には、その残余財産の確定の日)までの期間に係る給与等支給額が零である場合に限る。 (※4) 当該被合併法人又は分割法人等の設立の日以後に終了した事業年度に限る。 ② ①以外の場合 ➡前事業年度等の開始の日(措令27の12の5⑫二) ・・・下図の【C】 特に①については難解なため、以下に図示しておく。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 前事業年度の月数が6月に満たない場合について複雑な取扱いとなっているのは、前事業年度が短すぎるため賞与等を含めた1年間の給与等支給額の月平均額が適用年度における状況と整合せず、それだけでは適切な比較を行うことができないおそれがあるためである。 そこでこのような場合には、前事業年度の開始日とは別の「基準日」を定めたうえで「基準日から適用事業年度開始日の前日」までの期間(調整対象年度)を設定することによって、少なくとも1年以上の集計期間を確保して適切な金額比較を可能せしめるという趣旨による。 次に、上図の【A】【B】【C】について、それぞれ詳しく確認していく。 【A】のケース ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 【A】のケースは、設立後間もなく合併等が行われた場合であって、設立事業年度が6月に満たない場合を想定している。 このときの基準日は、適用年度開始の日前1年以内の日を含む被合併法人等の各事業年度のうち、最も古い事業年度の開始の日となる。 ただし、条文上はカッコ書きが複数含められており(上記(※1)~(※4)参照)、実際の適用に当たってはこれらカッコ書きに記載されている制限等に十分留意する必要がある。 【B】のケース ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 【B】のケースは、みなし事業年度が設定されて前事業年度が6月に満たない場合を想定している。 このときの基準日は、適用年度開始の日前1年以内に終了した各事業年度のうち、最も古い事業年度の開始の日となる。 【C】のケース ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 【C】のケースは、【A】【B】以外の一般的な場合を想定しており、このときの基準日は前事業年度の開始の日となる。 (了)
〔Q&A・取扱通達からみた〕 適格請求書等保存方式(インボイス方式)の実務 【第4回】 (最終回) 「適格請求書等保存方式の下での税額計算」 アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 適格請求書等保存方式における売上税額については、原則として、課税期間中の課税資産の譲渡等の税込金額の合計額に110分の100(軽減税率の対象となる場合は108分の100)を掛けて計算した課税標準額に7.8%(軽減税率の対象となる場合は6.24%)を掛けて算出する(総額割戻し方式)。 また、これ以外の方法として、交付した適格請求書及び適格簡易請求書の写し(電磁的記録により提供したものも含む)を保存している場合に、そこに記載された税率ごとの消費税額等の合計額に100分の78を乗じて計算した金額とすることもできる(適格請求書等積上げ方式)。 ただし、適格簡易請求書の記載事項は、「適用税率又は税率ごとに区分した消費税額等」であるため、「適用税率」のみを記載して交付する場合、税率ごとの消費税額等の記載がないため、積上げ計算を行うことはできないこととなる。 なお、売上税額の計算は、取引先ごとに割戻し計算と積上げ計算を分けて適用するなど、併用することも認められるが、併用した場合であっても売上税額の計算につき積上げ計算(適格請求書等積上げ方式)を適用した場合に該当するため、仕入税額の計算方法に割戻し計算(下記②(ロ)参照)を適用することはできない。 適格請求書等保存方式における仕入税額の計算方法は、以下のとおりである。 (イ) 積上げ計算(原則) 原則として、交付された適格請求書などの請求書等に記載された消費税額等のうち課税仕入れに係る部分の金額の合計額に100分の78を掛けて算出する(請求書等積上げ計算)。 また、これ以外の方法として、課税仕入れの都度(注)、課税仕入れに係る支払対価の額に110分の10(軽減税率の対象となる場合は108分の8)を乗じて算出した金額(1円未満の端数が生じたときは、端数を切捨て又は四捨五入する)を仮払消費税額等などとし、帳簿に記載(計上)している場合は、その金額の合計額に100分の78を掛けて算出する方法も認められる(帳簿積上げ計算)。 なお、仕入税額の計算に当たり、請求書等積上げ計算と帳簿積上げ計算を併用することも認められるが、これらの方法と割戻し計算(下記(ロ)参照)を併用することは認められない。 (注) 例えば、課税仕入れに係る適格請求書の交付を受けた際に、当該適格請求書を単位として帳簿に仮払消費税額等として計上している場合のほか、課税期間の範囲内で一定の期間内に行った課税仕入れにつきまとめて交付を受けた適格請求書を単位として帳簿に仮払消費税額等として計上している場合が含まれる。 (ロ) 割戻し計算(特例) 課税期間中の課税仕入れに係る支払対価の額を税率ごとに合計した金額に110分の7.8(軽減税率の対象となる部分については108分の6.24)を掛けて算出することができる。 ただし、仕入税額を割戻し計算することができるのは、売上税額を割戻し計算する場合に限る。 【参考】 売上税額と仕入税額の計算方法 適格請求書又は適格簡易請求書に記載された消費税額等を基礎として、仕入税額を積み上げて計算する場合には、次の区分に応じた金額を基として仕入税額を計算することとなる。 (連載了)
金融・投資商品の税務Q&A 【Q38】 「発行会社による自己株式(非上場株式)取得の課税関係」 PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子 ●○ 検 討 ○● 1 自己株式の取得に係る税務上の取扱い 株主たる個人がその有する非上場株式を他者に譲渡する場合、当該譲渡に伴う損益は一般に「一般株式等に係る譲渡所得等」として区分され課税されます。しかしながら、譲渡の相手先が株式の発行会社である場合、税務上、自己株式の取得として取り扱われ、一定の事由(※1)に該当する場合を除き、譲渡損益のうち一部がみなし配当、一部が一般株式等に係る譲渡所得等として取り扱われます。 (※1) 一定の事由に該当する場合、みなし配当とされる部分はなく、損益の全額が株式等に係る譲渡所得等として取り扱われます。「一定の事由」には、例えば以下が含まれます。 ① 金融商品取引市場による購入 ② 店頭売買登録銘柄の店頭売買による購入 ③ 金融商品取引業者が株式の売買の媒介、取次又は代理をする場合 ④ 事業の全部の譲受け ⑤ 合併又は分割若しくは現物出資による被合併法人又は分割法人若しくは現物出資法人からの移転(適格と非適格) ⑥ 合併に反対する当該合併に係る被合併法人の株主等の買取請求に基づく買取り ⑦ 単元未満株式の買取りの請求又は端株の買取請求による買取り ⑧ 全部取得条項付き種類株式の取得にあたっての端数株式の買取り 2 みなし配当の計算 自己株式の取得により株主が交付を受ける金銭及び金銭以外の資産の価額の合計額のうち、発行法人の当該譲渡直前の対応資本金等の額を超える部分の金額はみなし配当とされます。 すなわち、みなし配当の金額は、簡易な式にすると以下のようになります(発行法人が1種類の株式のみを発行している場合)。 (※3) 当該直前の資本金等の金額が0以下である場合には、0とする。 3 譲渡損益の計算 自己株式の取得により交付を受ける金額(譲渡対価)のうち、みなし配当とされる金額以外は、株主たる個人において株式の譲渡に係る譲渡収入として取り扱われます。 すなわち、株式等に係る譲渡所得等として取り扱われる金額は以下の通り計算されます。 4 みなし配当及び譲渡損益の課税関係 ① みなし配当 みなし配当については配当所得として取り扱われ、発行法人により20.42%(所得税及び復興特別所得税)の税率にて源泉徴収がなされます。 個人株主は、受け取った配当について、原則として配当所得として申告を行う必要があります。配当所得は他の所得と合算され総合課税の対象となります。配当について申告を行う場合は、配当控除の適用があります。 ただし、みなし配当の金額が10万円以下である場合(少額配当)は、所得税については申告をせず、源泉税のみで課税関係を完結することができます(住民税については総合課税)。 上場株式等の配当と異なり、申告分離課税の適用はなく、また、金額にかかわらず申告不要とすることはできません。 ② 譲渡損益 非上場株式等の売却による売却益は、「一般株式等の譲渡に係る事業所得、雑所得、譲渡所得」として区分され、申告分離課税が適用されます(原則として確定申告が必要となります)。税率は20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、住民税5%)が適用されます。 非上場株式等の売却による売却損は、他の非上場株式等(非上場の株式、私募の投資信託や一般公社債)の売却から生じた売却益と損益通算することができます。しかしながら、上場株式等の売却益や、配当所得(上場・非上場)との損益通算を行うことはできません。また、譲渡損の繰越しもできません。 5 本件へのあてはめ 本件の場合、発行会社に相対で譲渡したということですので、1に記載の「一定の事由」に該当しない限り、譲渡から生じた利益はみなし配当(配当所得)と譲渡損益(一般株式等に係る譲渡所得等)に分類されます。 自己株式の取得の場合、発行法人の税務上の資本金等の金額によっては、(プラスの)みなし配当、マイナスの譲渡損益(譲渡損失)が発生することがあり得ます。その場合、本件は非上場株式ということですので、みなし配当(配当所得)と譲渡損失(一般株式等に係る譲渡損失)を損益通算することはできません。したがって、実額の利益より大きいみなし配当に対し課税が生じる可能性があります(下記【事例】参照)。 【事例】 〈前提〉 ・A株式の取得価額:100 ・A株式の自己株式の譲渡対価:200 ・A発行法人の譲渡直前の資本金等の額:80 〈計算例〉 ・みなし配当・・・200-80=120 ・株式の譲渡所得等・・・200-120-100=△20 (了)
組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第54回】 公認会計士 佐藤 信祐 (《第8章》 平成18年から平成21年までの議論) (4) のれん 平成18年度税制改正により、非適格合併等における受入処理が明確化された。具体的には、以下のものが規定されている。 これらの基本的な考え方は、「企業結合に関する会計基準」に規定されているパーチェス法における以下の考え方に類似している。 これらに対応し、佐藤信祐『組織再編におけるのれんの税務』(中央経済社、平成20年)において、資産調整勘定、負債調整勘定の解説を行った。当時は、企業結合に関する会計基準が導入されたばかりの頃であるため、実務上も混乱が見受けられたが、現在では、国税庁からの公式見解が公表されたこともあり、解釈が明確化されたと思われる。 資産調整勘定、負債調整勘定の条文は精緻に作られていることから、解釈上の相違があるものは少ないため、本稿では、条文からは断言できないものの、組織再編税制の実務家の中で暗黙知として共有されている解釈についてのみ解説を行う。 ① 賞与引当金 前掲の拙著59-62頁では、非適格組織再編成により賞与引当金を引き継いだ場合において、当該賞与引当金の金額が資産の取得価額の20%を超える場合には、短期重要負債調整勘定として認識すべきこととした。 しかし、その後、国税庁から質疑応答事例「事業の譲受けに伴い賞与支払債務の履行に係る負担を引き受けた場合の課税関係について」が公表され、短期重要債務見込額が「移転を受けた事業について生ずるおそれのある『損失の額』として見込まれる金額」とされているのに対し、賞与は販売費及び一般管理費に属する「費用」であり「損失」には当たらないことから、賞与引当金の額は、「移転を受けた事業について生ずるおそれのある『損失の額』として見込まれる金額」に該当しないことを理由として、短期重要負債調整勘定に該当しないことが明らかにされた。 そのため、現行法上は、賞与引当金に相当する金額は、差額負債調整勘定として処理することになる。 このように、短期重要負債調整勘定を認識すべきかどうかの判定では、「損失」に該当するのか、「費用」に該当するのかという点が重要になる。 ② 早期退職慰労金 前掲の拙著24頁では、 と解説した。 賞与引当金と異なり、割増退職金の支払いは、販売費及び一般管理費に属する「費用」ではなく、特別損失に属する「損失」であることから、上記質疑応答事例が公表された後であっても、「短期重要負債調整勘定」として処理することはできると考えられる。 ③ 役員退職慰労金 前掲の拙著25頁では、役員退職慰労引当金は、「退職給付に係る会計基準」で対象にされていないことから、退職給与負債調整勘定として認識することができないものとした。その後に公表された「退職給付に関する会計基準」3項でも、「取締役、会計参与、監査役及び執行役(以下合わせて「役員」という。)の退職慰労金については、本会計基準の適用範囲には含めない」と規定されていることから、現行法上も、同様に解するべきであると考えられる。 これに対し、賞与引当金と同様に、役員退職慰労引当金の額が資産の取得価額の20%を超える場合には、短期重要負債調整勘定として処理すべきなのかが問題となる。この点については、役員退職慰労引当金繰入額は、販売費及び一般管理費として計上されることが多いのに対し、引当金を計上していないときには、特別損失として計上されることが多いことから、「費用」なのか、「損失」なのかが不明確であるように思えるからである。 この点については、一般的に「費用」とは「収益」に貢献するものであり、「損失」とは「収益」に貢献しないものと整理することができるのに対し、役員退職慰労金の支払いは、過去の収益に対する貢献に対して支払われるものであり、引当金を計上していない場合に特別損失として計上されたことを理由として、費用としての性格が否定されるものではないと考えられる。 そう考えると、役員退職慰労金を短期重要負債調整勘定として処理することは適切ではなく、差額負債調整勘定として処理すべきであると考えられる。 ④ 資産調整勘定及び負債調整勘定を認識することができない会社分割 会社分割を行った場合には、(ⅰ)分割事業が分割承継法人に移転しており、かつ(ⅱ)当該事業に係る主要な資産又は負債の概ね全部が分割承継法人に移転をする場合に、資産調整勘定及び負債調整勘定を認識することができる。 実務上、上記(ⅱ)に該当しない場合にどのように取り扱うべきかが問題となるが、『平成18年度版改正税法のすべて』367頁では、 と解説されていた。 そのほか、前掲の拙著135頁では、 と解説した。現行法上も、同様に解するべきであると考えられる。 * * * 次回では、債務超過会社の組織再編成について解説を行う予定である。 (了)
さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第40回】 「虚偽の遺産分割協議の無効確認判決の確定を 後発的理由とする更正の請求事件」 ~最判平成15年4月25日(集民209号689頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)