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[無料公開中]〔会計不正調査報告書を読む〕 【第82回】株式会社TATERU「特別調査委員会調査結果報告書(平成30年12月27日付)」

筆者:米澤 勝

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〔会計不正調査報告書を読む〕

【第82回】

株式会社TATERU

「特別調査委員会調査結果報告書(平成30年12月27日付)」

 

税理士・公認不正検査士(CFE)
米澤 勝

 

【特別調査委員会の概要】

〔適時開示〕

〔特別調査委員会〕

【委員長】

濱 邦久(弁護士)

【委 員】

宮下 正彦(弁護士)

柴野 相雄(弁護士)

富田 裕(弁護士)

秦 武司(社外監査役・監査等委員)

他に、弁護士30名が調査を実施している。

〔調査期間〕

2018(平成30)年9月4日から12月26日まで

〔調査の目的〕

 報道された預金残高データの改ざんを含むこれと同様の書類の改ざん、並びにこれに類する融資申請手続における不正行為の有無・態様の確認等及び本調査の結果判明した事実を踏まえた再発防止に関する助言

〔適時開示(調査結果)〕

 

【株式会社TATERUの概要】

株式会社TATERU(以下「TATERU社」と略称する)は、2006(平成18)年1月設立(設立時の社名は有限会社フルキ建設)。その後、商号を株式会社インベスターズクラウドに変更。2015(平成27)年12月東証マザーズ上場。2018(平成30)年4月1日より現社名。アパートプラットフォーム事業、クラウドファンディング事業、民泊事業などを手掛ける。資本金626百万円、連結売上高67,016百万円、経常利益5,863百万円、従業員数417名(数字はいずれも平成29年12月期)。東京証券取引所1部上場。

 

【調査結果報告書(要約版)の概要】

1 不正行為の認定

特別調査委員会(以下「委員会」と略称する)は、協力を得られた複数の金融機関から提供を受けた情報及び顧客から提供を受けた情報、デジタル・フォレンジック調査の結果、営業職員に対するヒアリングにより得られた供述等の検討・分析により、以下の不正行為を認定した。

(1) 顧客の自己資金額に関するエビデンスの改ざん

本調査において認められた本不正行為の大半は、金融機関に提出する顧客の預金残高に関するエビデンス(預金通帳、口座残高証明書、インターネットバンキングやインターネットによる証券口座の画面表示等、顧客が保有する資産の金額を示す証憑をいう。以下同じ)の改ざんであった。

エビデンスの改ざんを行っていたのは、主として営業部長及び部長代理であり、その手法は、顧客から受領したエビデンスのデータを会社支給のパソコンに取り込み、JPEGやTIFFに変換した上で、当該パソコンに標準搭載されている画像編集ソフトを使用して数字の切り貼りを行い、預金残高を書き換えていたものである。

委員会が、エビデンス改ざんを行ったと認定する従業員は、営業部長及び部長代理を中心とする合計31名であり、その案件数は、調査対象期間(2015年12月以降)における成約棟数2,269件のうち350件であった。

(2) 口座間移動

営業職員が、複数の金融機関の口座を保有している顧客に対し、一方の銀行口座の残高についてエビデンスを作成させた後、その預金を自己が保有する他の金融機関の口座へ送金させて、その着金後の口座残高のエビデンスを作成するよう求め、双方の銀行口座の残高の写しをエビデンスとして融資申請をする金融機関に提出するという手法が存在していたが、委員会の調査では、顧客に拒否される、顧客からのクレームに発展するなど高いリスクがあると感じる営業職員も多く、一方でエビデンス改ざんを選択する方が容易であったこともあり、実行されたケースは限定的であった。

(3) 他人の預金通帳写しの差替え

営業職員が、顧客ではない他人の預金通帳の残高が記載されたページの写しを、顧客のエビデンスとして流用することにより、当該顧客が自己資金を保有するかのように水増しする手法が存在していたが、委員会の調査では、全く同じ残高のエビデンスを繰り返し使用することには限界があることから、かかる差替えの方法がとられたケースは限定的であった。

2 背景事情、エビデンス改ざんに至る経緯等

委員会が認定した背景事情とエビデンス改ざんに至る経緯等は大きく6項目に分かれている。

(1) 組織的要因

(ア) 貴社における営業部の販売目標の位置付け・捉え方の齟齬

(イ) 厳しい上下関係の存在

(ウ) 急成長による強い成功体験と率直に物を言いにくい組織風土

(2) 株式上場前にエビデンス改ざんがあったこと

(3) 株式上場前に不正行為を禁止したこと

(4) 不正行為禁止の通告後の状況

(5) 株式上場後の状況

(ア) 株式上場後のエビデンス改ざん等の不正行為

(イ) 報道されたエビデンス改ざん発覚までの経緯

(6) エビデンス改ざん等の不正行為に関する役員の認識

(ア) 営業本部長らについて

(イ) その他の役員について

委員会は、TATERU社では、遅くとも2010年頃からエビデンスの改ざんが行われていたと認定して、その背景として、以下の3点を挙げている。

 営業職員の間ではノルマとして理解されていた販売目標を達成するには、各営業部として、 自己資金が少ない顧客とも契約を締結しなければならないような状況に陥っていたこと

 率直に物を言えない風土において、経営陣は、営業部長以下の状況を把握していなかったため、現場の状況を踏まえた販売目標の見直し等ができないままとなっていたこと

 営業職員においても、成約1件ごとに歩合給が支払われる給与体系になっていたことから、エビデンス改ざんにより販売目標を達成し、パワーハラスメントを受けることもなく、自らも歩合給を容易に得られる関係にあったこと

また、株式上場の数年前には、顧客の通帳のエビデンスが顧客の本物の通帳と違うことが金融機関に発覚し、同行との取引が停止されるという事案が発生したにもかかわらず、TATERU社はこれを一担当者の不正行為として認識・処理し、そのような不正行為をしないように通告するのみに止まってしまっていたことも、その後長く不正行為が続けられる原因となっていたようである。

エビデンス改ざん等の不正行為に関する役員の認識について、委員会は、まず、営業本部長らについては、TATERU社の株式上場後もエビデンス改ざん等の不正行為を認識していたはずである旨の関係者の供述があるが、営業本部長らはいずれもこれを否定しており、また、そのような認識を有していたことを認めるに足りる証拠は認められなかったとしたうえで、代表取締役、専務執行役及びその他の執行役員についても、エビデンス改ざん等の不正行為を認識していたはずであると供述する者はおらず、営業関連の業務はほぼ営業本部長に決裁権限が付与されており、他の役員が関与し得る状況にはなく、かつ、これらの役員もエビデンス改ざん等の不正行為については全く知らなかった旨供述しているなどしており、他に、その他の役員が本不正行為について認識していたことを認めるに足りる証拠は認められなかったと結論づけた。

3 原因に関する考察

委員会が、原因として挙げた項目は大きく分けて7項目であった。

1 経営陣と現場の営業職員との販売目標に関する認識の乖離

2 パワーハラスメント、販売目標達成必至・率直に物を言えない企業風土

3 歩合給の存在

4 融資申請必要書類の授受業務の営業職員への集中

5 契約適合性の意識が弱かったこと

6 コンプライアンス意識の欠落

7 コンプライアンス機能の不全

(1) 営業本部長らにおける自浄作用の不全

(2) 本不正行為におけるコンプライアンス体制の不機能

(ア) 各会議体への報告等の不実施

(イ) 内部通報制度の問題

TATERU社営業部門におけるパワーハラスメントについての、委員会の認定は次のとおりである。

営業本部長らは、営業部長らに対して、不正行為禁止の通告をしながらも、増加する販売目標を達成させるため、営業成績の良くない営業部長を強い口調で叱責するなどのパワーハラスメントが認められ、目標未達成が続いた場合には、営業部長が部長代理や課長に降格されることもあったものであり、営業部における厳しい上下関係が看取されるとともに、部下から上司、特に営業本部長に対してネガティブな意見や情報を伝えにくい風土が看取された。

同時に、営業職員にとっては、歩合給の存在が、エビデンス改ざん等の不正行為の動機となり、自己弁護の理由としていたことが、不正行為の原因の1つであったとしている。

また、TATERU社において、融資申請必要書類に関する業務がすべて営業部門で行われており、このことが、「販売目標が必達とされる企業風土等の中で、現場の営業職員がエビデンス改ざん等の不正行為を行ってでも販売目標を達成しようと考えた際に、容易にかかる行為に及ぶことができる環境にあった」として、「不正行為を抑制するための体制が不十分であった」と結論づけている。

さらに、委員会は、コンプライアンス体制の不徹底として、「2018年2月に受領した顧客からの書簡によって過去のエビデンス改ざんが一部役員に把握されていたが、この件が代表取締役及び担当役員からコンプライアンス委員会や経営会議に諮られることはなく、その結果監査等委員会に報告されることもなかった」ことを挙げ、こうした問題が把握された段階で、全社的な調査や対策が講じられなかったことも、不正行為が野放しとなってしまった原因としている。

4 再発防止策

TATERU社は、調査期間中の9月14日、「当社従業員による不適切行為に対する再発防止策に関するお知らせ」と題するプレスリリースにおいて、以下の再発防止策を公表している。

1 業務フローの変更

2 契約適合性手続の厳格化

3 業務モニタリング

4 コンプライアンス遵守体制の見直し

5 内部通報制度の充実

委員会は、これらの再発防止策について、「効果的」又は「重要」であるとの意見を表明したうえで、さらに、委員会からの提言として、次の5項目を挙げている。

(1) 企業風土改革

(2) コンプライアンス委員会の拡充

(3) コンプライアンス部の創設

(4) 業務執行に関わる社外取締役(監査等委員以外)の選任・任命

(5) ハラスメント防止委員会・窓口の活性化

委員会による提言から、「コンプライアンス部の創設」に注目すると、その機能として、コンプライアンス委員会の下部組織として、全社的なコンプライアンス推進策の策定、全社からのコンプライアンス上必要な情報の収集・調査、コンプライアンス教育・研修の立案、年間スケジュールの策定・検証等について、コンプライアンス部に権限を付与すること、内部通報の社内窓口をコンプライアンス部に変更し、コンプライアンス部が、通報状況を監査等委員会、コンプライアンス委員会及び経営会議に上程するよう規程を整備すること、ハラスメントの通報窓口、ハラスメント委員会についても、コンプライアンス部の所管事項とし、コンプライアンス委員会に報告し、承認等を受けることなど、広範な所管事項と権限を有する組織を想定していることがうかがえる。

 

【調査結果報告書(要約版)の特徴】

本連載の【第78回】から【第80回】にかけて取り上げたスルガ銀行による不正融資問題の調査が進行する中で、8月31日に日本経済新聞電子版が報じた「アパート融資資料改ざん、TATERUでも」という記事のインパクトは大きく、TATERU社の株価は3日連続でストップ安売り気配と値を下げた。

TATERU社は、調査着手から2ヶ月近く経過した11月30日に、「特別調査委員会からの調査報告書受領時期に関するお知らせ」というリリースで、当初3ヶ月程度を見込んでいた調査期間が、資料の収集等に時間を要したことを理由に延伸して、調査報告書の受領時期が12月27日となることを公表した。最近の調査委員会による調査期間としては異例の長さともいえることから、結果が注目されていた。

1 要約版のみを公表した理由は何か

調査結果報告書受領時のリリースで、TATERU社は、

特別調査委員会より受領した本報告書は、当社の営業秘密にかかる事項、情報開示元との関係において、個人のプライバシー、私生活の保護、営業秘密、機密情報等に関して守秘義務を負う事項、当社の営業秘密に該当すると思われる事項等に鑑みて、開示用として作成されておりますが、調査の結果として報告すべき重要な点は記載されているとの報告を受けております

と説明しているが、公表された報告書が「要約版」であったことの理由の説明にはなっていない。

そもそもこの文章では、委員会が「公表版」を作成したという理解は成り立つものの、TATERU社が、公表版ではない全文を受領したのかどうかは定かではない(常識的に考えて「全文」を受領していることは間違いなとは思うが)。

2 調査結果報告書から読み解く「不正のトライアングル」

調査結果報告書には、明確な記述はないものの、「原因に関する考察」からは、「不正のトライアングル」の存在を読み取ることが可能である。

まず「動機・プレッシャー」として、通常の営業方法ではその達成は極めて困難な営業目標(ノルマ)の存在と営業本部長らによるパワーハラスメントが挙げられ、「機会」としては、融資申請必要書類に関する業務がすべて営業部門で行われており、不正行為を抑制するための体制が不十分であったこと、最後に「正当化」として、アパート販売の成約1棟ごとに歩合給が支給される給与体系を指摘している。

こうした「不正のトライアングル」は、スルガ銀行不正融資事件でも見られた傾向であり、不正抑止・再発防止策に、「不正のトライアングル」を生じさせないような施策をもっと積極的に取り入れるべきではなかったか。例えば、営業部門における歩合給の存在や、業績によって簡単に降格されるような人事制度について、再発防止策で言及されていない点について、疑問を持った次第である。なお、調査結果報告書全文で触れられている可能性はあるので、あくまで、「公表版」に対する疑問であることを付言しておきたい。

3 常務取締役の辞任と役員報酬の減額

TATERU社は、調査結果報告書(要約版)の受領と同日、「役員報酬の減額及び取締役の辞任に関するお知らせ」というリリースにより、代表取締役以下取締役全員の報酬減額と、常務取締役でTATERU東日本本部長の古賀聡氏の辞任を公表した。

古賀氏の辞任の理由として、以下の説明がなされている。

常務取締役である古賀聡は、TATERU Apartment事業における 営業職員の不正行為を認識していたと認めるに足りる証拠は認められませんでしたが、当該事業の営業本部長としての職責から、本件が当社グループに与えた影響や経営責任を重く受け止め、本日付で常務取締役を辞任いたしたい旨の申し出があったため、当社はこれを受理いたしました。

なお、報告書(要約版)での記述は、「営業本部長ら」となっており、この該当者としては、辞任した古賀氏のほかにも、平成29年12月期有価証券報告書によれば、執行役員でTATERU西日本本部長の原健一氏も含まれるものと推察するが、同紙に関する処分等の公表はないものの、報告書公表日後にTATERU社のサイトを確認したところ、取締役・執行役員を紹介するサイト に、同氏の名前は見当たらなかった。

4 株式会社西京銀行によるリリース

TATERU社が調査結果報告書を公表した同日、西京銀行は、「TATERUが施工するアパート向け当行ローンについて」と題するリリースを出し、次の2点を公表している。

(1) 当行の社内調査の結果では、当行行員が融資審査関連書類の改ざんその他の不適切な取扱いに対し関与したり、不審に思いつつ見逃し融資手続きを進めたりした事実は確認できませんでした。

(2) 当行が融資を実行したTATERUのアパートについては、高い入居率があることを確認しており、TATERUが施工するアパート向け当行ローンについては現在、延滞はなく、これまでに貸し倒れ実績も発生しておりません。

(了)

「会計不正調査報告書を読む」は、不定期の掲載となります。

連載目次

会計不正調査報告書を読む

第1回~第80回 ※クリックするとご覧いただけます。

第81回~

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筆者紹介

  • 米澤 勝

    (よねざわ・まさる)

    税理士・公認不正検査士(CFE)

    1997年12月 税理士試験合格
    1998年2月 富士通サポートアンドサービス株式会社(現社名:株式会社富士通エフサス)入社。経理部配属(税務、債権管理担当)
    1998年6月 税理士登録(東京税理士会)
    2007年4月 経理部からビジネスマネジメント本部へ異動。内部統制担当
    2010年1月 株式会社富士通エフサス退職。税理士として開業(現在に至る)

    【著書】

    ・『新版 架空循環取引─法務・会計・税務の実務対応』共著(清文社・2019)

    ・『企業はなぜ、会計不正に手を染めたのか-「会計不正調査報告書」を読む-』(清文社・2014)

    ・「企業内不正発覚後の税務」『税務弘報』(中央経済社)2011年9月号から2012年4月号まで連載(全6回)

    【寄稿】

    ・(インタビュー)「会計監査クライシスfile.4 不正は指摘できない」『企業会計』(2016年4月号、中央経済社)

    ・「不正をめぐる会計処理の考え方と実務ポイント」『旬刊経理情報』(2015年4月10日号、中央経済社)

    【セミナー・講演等】

    一般社団法人日本公認不正検査士協会主催
    「会計不正の早期発見
    ――不正事例における発覚の経緯から考察する効果的な対策」2016年10月

    公益財団法人日本監査役協会主催
    情報連絡会「不正会計の早期発見手法――監査役の視点から」2016年6月

    株式会社プロフェッションネットワーク主催
    「企業の会計不正を斬る!――最新事例から学ぶ,その手口と防止策」2015年11月

     

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