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家族信託による新しい相続・資産承継対策 【第21回】「家族信託の活用事例〈不動産編②〉(2人以上の受益者を設定する受益者連続型として、自らの死後に収益物件の賃料を妻に渡し、妻の死後は収益物件自体を子に渡す事例)」

家族信託による 新しい相続・資産承継対策 【第21回】 「家族信託の活用事例〈不動産編②〉 (2人以上の受益者を設定する受益者連続型として、自らの死後に収益物件の賃料を妻に渡し、妻の死後は収益物件自体を子に渡す事例)」   弁護士 荒木 俊和   前回に続き『不動産を信託財産とする家族信託の活用事例』として、「2人以上の受益者を設定する受益者連続型として、自らの死後に収益物件の賃料を妻に渡し、妻の死亡後には収益物件自体を子供に渡す」という事例を解説する。 - 相談事例 - 私(50歳)には今年80歳になる両親と、東京で働く弟がいます。 父は、所有する土地の一部を賃貸マンションにして、家賃収入と年金で暮らしています。私は、父が高齢で賃貸マンションの管理に手が回らなくなっていることを感じるとともに、将来の相続について不安を感じていました。 一方で、父は相続全般について方針を決めたがらないという問題がありました。 このため、対象を賃貸マンションに限定して、以下2点の方針を確認しました。 ・家賃収入は、父他界後は母に渡るようにする。 ・私に母の世話を任せるため、母の他界後は私がマンションを相続する。   1 家族信託活用のポイント (1) 遺言の限界 父親の希望を実現するためには、①父親から母親への賃貸マンションに関する賃料収受権の移転、②母親死亡後の長男への賃貸マンションの所有権移転が必要である。 従来の制度で考えるとすれば、これを遺言によって実現できるか、という点が問題となる。 いわゆる「後継ぎ遺贈」の問題である。 すなわち、大要 といった父親の遺言が有効なものといえるかどうかである。 この点については、最判昭和58年3月18日(判時1075号15頁)の判例が出されて以来、有効説、無効説の議論が展開されているが、明確な結論が出ていない。 しかし、無効説が述べるように、①第一次受遺者(母親)が所有している期間における第一次受遺者の法的地位が不明確であること、②第一次受遺者が死亡した際、いかなる理由で第二次受遺者(長男)に財産権の移転が起こるのか法的根拠が不明確であるなど、有効説の問題点が解消されていない。 このことから、父親が「確実に長男に引き継がせたい」という意向を持っているのであれば、法的効果の不安定な遺言によるべきではないものといえる。 (2) マンション管理の問題 また、父親の意向としては、マンションからの賃料を維持して、自身の死後に母親の生活費を賄いたいとしていることから、マンションの管理を継続する必要があるといえる。 この点、遺言による対応であれば、父親の死亡時に賃貸マンションの所有権も賃貸管理も同時に移転することになる。 しかし、賃貸マンションの管理に関する知識やノウハウといったものは直ちに次の所有者に移転させられるものではない。まして、父親の死亡により、高齢の母親が突然管理を行わなければならなくなるということは、現実的に相当厳しい状況となる。 この観点からも、死亡時において効果の発生する遺言は本件の解決には向いていないといえる。   2 本件におけるスキーム (1) スキームの概要 以上のことから、本件では大要、以下のようなスキームが考えられる。 (2) 第1フェーズ 第1フェーズでは、父親から長男へ賃貸マンションを信託する。 この段階の受益者は父親であるため、所有者(受託者)となった長男は入居者から賃料を収受し、信託の利益を父親に配当する。これにより、賃貸マンションの管理は長男に引き継ぐことができ、かつ父親が助言や指導することもできる。 一方で、賃料の収益については父親に入る状況が継続するため、父親に経済的な問題は生じない。 (3) 第2フェーズ 父親が死亡した場合、受益権が母親に移転するものとされていることから、この段階で第2フェーズに入る。 なお、この受益権の移転は法律上、相続によるものではなく、信託契約に基づいて発生するものであり、理論的には「父親の長男に対する受益権が消滅する」と同時に、「母親の長男に対する受益権が発生する」ものと整理されている。 このフェーズでは、長男が収受した賃料の収益を母親に渡すことになる。 これにより母親は生活費を継続的に得ることができることになる。 (4) 第3フェーズ 母親も死亡した場合、本件での信託は目的を失うことから、信託を終了させることになる。 信託契約上の終了原因としては、「父親と母親の死亡」を条件とすることになる。 この点、誤って「母親の死亡」だけを終了原因にしてしまうと、父親が健在であっても信託が終了してしまうことになり、不都合が生じるおそれがあるため注意が必要である。 そして信託を終了させる場合には帰属権利者(又は残余財産受益者)を設定しておくことになるが、この場合は長男を指定しておくことになる。 これにより、信託を終了して長男は名実ともに賃貸マンションの所有者となり、その後の賃料を収受することができることとなる。   3 注意点 (1) 税務上の注意点 本件のスキームとしては、①父親から母親への受益権の移転、②信託終了に伴う長男への実質的な財産権の移転がある。 この2点においては、それぞれ受益者の死亡を原因としていることから、税務上は相続の発生とみなされて課税関係が発生することになる。 これについて不測の課税が発生することのないように、当初のスキーム策定段階から考慮しておく必要がある。 (2) 次男の権利 本件のスキームでは、次男は基本的に賃貸マンションに関して何の権利も有しないことになる。 しかし、【第9回】で解説したとおり、父親から母親への受益権の移転に関しては、父親の財産状況によっては遺留分減殺請求の対象となる可能性がある。 遺留分減殺請求の可能性が残る場合には、他の財産を相続させることで対処できないかを検討するとともに、次男にスキームを明確に説明して理解を得ておくことが重要である。 (了)

#No. 235(掲載号)
#荒木 俊和
2017/09/14

役員インセンティブ報酬の分析 【第7回】「権利確定時発行型の業績連動型株式報酬①」-平成29年度税制改正後-

役員インセンティブ報酬の分析 【第7回】 「権利確定時発行型の業績連動型株式報酬①」 -平成29年度税制改正後-   弁護士・公認会計士 中野 竹司   1 業績連動型株式報酬と平成29年度税制改正 役員のインセンティブ報酬のツールとして、株式報酬の活用が日本再興戦略により提唱された。これを受けて「コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会」が法的な考え方を整理するとともに、平成28年度税制改正により、特定譲渡制限付株式として法人税法上役員報酬のうち損金算入が可能な事前確定給与に該当するものの要件が明確化された。この中で、パフォーマンス・シェアも特定譲渡制限付株式報酬の一形態として上記損金算入可能な株式報酬として設計可能となった。 さらに、業績に連動した報酬等の柔軟な活用を可能とする制度を導入するため、平成29年度税制改正において、「業績連動給与」の定義規定が置かれ、また内容も見直された。これにより、より欧米で発行されているパフォーマンス・シェアに類似した業績連動型株式報酬の発行が可能となった。   2 平成29年度税制改正の概観と譲渡制限付株式の取扱い (1) 平成29年度税制改正の概要(株式報酬部分) 平成29年度税制改正では、定期同額給与、事前確定届出給与又は業績連動給与という損金算入可能な役員報酬の3類型は維持しつつ、退職給与や新株予約権も役員報酬の中に含めて損金算入の可否を考えることとなった。 そして、株価や業績に連動する条件が付されたインセンティブ報酬については、今後は業績連動給与の要件を満たさない場合で損金算入が可能なケースはほとんどなくなると考えられ、インセンティブ報酬の制度設計において大きな影響を与えるものと考えられる。 (2) 業績連動型株式報酬の取扱い ① 特定譲渡制限付株式報酬を用いた業績連動報酬の取扱い 平成28年度税制改正は、株式報酬等のインセンティブ報酬の活用を目指したものであったが、平成28年度税制改正時の役員給与に関する法人税の規定では、金銭以外の給与として損金算入が認められていたのは、特定譲渡制限付株式による給与のみであった。 そのため、パフォーマンス・シェアとしてのインセンティブ報酬機能を持たせるため、特定譲渡制限付株式に業績連動指標を基礎として譲渡制限が解除される株式数が算定される設計の業績連動型株式報酬が多く見られた。 平成29年度税制改正では、業績連動給与に該当するものは、事前確定届出給与から除外されるため、改正前には認められていた特定譲渡制限付株式を利用した業績連動型株式報酬は認められなくなる。 なお、譲渡制限付株式による給与の適用に関する規定があり、平成29年10月1日以後に支給又は交付に係る決議をする給与について改正税法が適用される。 ② 権利確定時発行型の業績連動型株式報酬(パフォーマンス・シェア) 平成29年度税制改正により、業績連動給与の規定が変更になった(法人税法34条5項)。 業績連動給与が役員報酬として法人税法上損金算入できるためには、以下の要件をクリアする必要がある。 このうち指標の計算期間は、改正前は適用される事業年度に限定されていたが、改正により職務執行開始日以降に終了する事業年度等として複数年にわたる計算期間を設定することが可能となった(法人税法34条1項3号、法人税法施行令69条10項から12項)。 また、会計処理として、引当金勘定で見積計上し、支給時に引当金を取り崩す処理方法も損金算入要件を満たすとされた(法人税法施行令69条17項2号)。   3 ガバナンス面から見たメリット・デメリット 業績連動型株式報酬は、株式報酬の一形態であり、特定の業績目標達成へのインセンティブを与えることに向いている株式報酬の形態といえる。 平成29年度改正により、パフォーマンス・シェア型特定譲渡制限付株式の発行は実務上困難になるものの、業績連動給与の定義が改正され、業績連動報酬が使いやすくなったことから、むしろ株価上昇・業績達成に応じて付与されるパフォーマンス・シェア、パフォーマンス・シェア・ユニットといった業績目標達成後に付与されるパフォーマンス・シェア型の株式報酬がより導入しやすくなる税制改正がなされたといえよう。このため、インセンティブ付けという面から、ガバナンス面でのメリットは増加したと考えられる。 また、特定譲渡制限付株式は、継続勤務条件未達といった理由で会社が無償取得する場合でも、無償取得されるまでは、役員等は議決権行使できるが、権利確定時発行型の業績連動型株式報酬では権利確定時までは株式が付与されず、議決権行使できないので、議決権行使の面のガバナンスの歪みも少ない。 なお、役員に対する報酬として株式を交付する場合、会社法上に基づき、株主総会で金銭報酬債権の上限額を絶対額で決議することが一般的である。ただし、この場合には、株価上昇の影響で、付与額として計算した報酬額が上限額を超えてしまう可能性がある。そこで、会社法361条1項2号で「報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法」を決議することも可能とされていることから、このいわゆる2号決議の活用も検討する価値があると思われる。   4 企業の導入事例 (1) 導入状況 権利確定時発行型の業績連動型株式報酬は、平成29年度税制改正により法人税計算上、役員報酬としての損金算入要件が明らかになった類型であり、平成29年6月株主総会時点で導入した会社はそれほど多くない。 しかし、特定譲渡制限付株式報酬が平成29年6月の定時株主総会までに多数導入されたことを考えると、平成30年6月株主総会までに権利確定時発行型の業績連動型株式報酬を導入する会社はかなりの数に上るものと考えられる。 以下、本稿執筆時点で導入済みの企業の事例を検討する。 (2) 導入の目的 制度導入の目的としては、中長期的な企業価値向上のインセンティブを挙げている企業が多い。 具体的には、「当社は、業務執行取締役に中長期的な企業価値向上のインセンティブを与えるとともに、株主のみなさまの視点での経営を一層促すため、本制度を導入します。」(富士通株式会社)といった開示例がある。 (3) 業績連動報酬算定方式 業績連動型株式報酬は、一定の業績指標を定め、業績指標の目標への達成度合いにより付与株式数を決定するという方法がとられている。 具体的な算定方法の開示例としては、以下のような開示がなされている(株式会社ココカラファイン)。 また、業績目標を「会社目標」(連結営業利益、連結売上高等)と「個人目標」(担当部門業績等)それぞれに分けて設定し、両社をウエイト付けして計算し付与数を決定するとしている会社もある(株式会社ニトリホールディングス)。 (4) 業績算定期間 業績連動型株式報酬の業績算定期間は3事業年度(エイベックス・グループ・ホールディングス株式会社、富士通株式会社、オリンパス株式会社)が多いが、3年以上5年以内としている例(株式会社ココカラファイン)や2事業年度毎の対象期間(株式会社ニトリホールディングス)としている例もあった。 (5) 報酬の変動幅・上限 業績連動型株式報酬の付与数は、一定の計算フォーミュラを定めたうえで、変動幅の制限及び上限を設けている。 変動幅は各社によって異なるが、0~150%(エイベックス・グループ・ホールディングス株式会社 、オリンパス株式会社他)0~200%(株式会社ココカラファイン、日本航空株式会社、株式会社ニトリホールディングス他)としている会社が比較的多かった。 また、交付する株式・金銭の上限額、上限株式数について開示していた。 (6) 支払方法 計算により算出された業績連動報酬額を株式だけで付与するのではなく、役員報酬に対する納税資金相当額の金銭を合わせて付与する事例もあった(エイベックス・グループ・ホールディングス株式会社、株式会社りそなホールディングス)。 (了)

#No. 235(掲載号)
#中野 竹司
2017/09/14

《速報解説》 事業承継税制、普及阻む各要件の抜本的拡充なるか?納税猶予以外の対策も~平成30年度税制改正要望出揃う

 《速報解説》 事業承継税制、普及阻む各要件の抜本的拡充なるか? 納税猶予以外の対策も ~平成30年度税制改正要望出揃う   Profession Journal 編集部   各省庁からの平成30年度税制改正要望が8月31日をもって締め切られ、年末の税制改正大綱取りまとめに向け審議が始まる。 昨年の与党大綱において「今後数年をかけて、基礎控除をはじめとする人的控除等の見直し等の諸課題に取り組む」とされた所得税改革の動向も注目されるが、経営者の高齢化により今や待ったなしとされる事業承継対策としての税制措置など、実現すれば影響の大きい要望事項も含まれている。   〇所得拡大促進税制、賃上げに加え企業が実施する「教育訓練費」を対象に 今年度改正でも拡充措置が採られ平成30年3月31日をもって適用期限を迎える所得拡大促進税制。経済産業省は適用期限の平成32年度末までの延長に加え、①企業の「人材投資」への積極的取組み、及び、②生産性の低い業種の中小企業の賃上げを推進するため、次の通り制度の拡充を要望した。 ①について、教育訓練費への税制上の対応としては過去の改正において「教育訓練費の額が増加した場合の法人税額の特別控除(旧措法42の12)※H20.3.31廃止」や「中小企業者等の教育訓練費の総額に係る税額控除(中小企業等基盤強化税制)(旧措法42の7)※H24.3.31廃止」などの措置が採られていたが、人材の確保が求められる中、所得拡大促進税制の対象に加えることで、企業が積極的に人材投資を行えるようにするもの。 実現された場合、企業に所属しつつ専門資格を取得する場合の資格取得費用や、各種法改正等をテーマとした企業研修にかかる費用など、「教育訓練費の範囲」がどこまで認められるかがポイントとなろう。 また②については、中小企業が大企業等の外部から一定のキャリアを積んだミドル人材を雇用する場合、賃金等の処遇条件がネックとなっている問題に応えたものであり、③の「生産性が低い業種」とは宿泊業・飲食サービス業等が想定されている。 その他経済産業省は、企業活動を支援する方策として、 ◆事業ポートフォリオ転換の円滑化措置の創設 ・・・「ノンコア事業の売却」及び「コア事業強化のための事業買収等」の双方を行う場合の課税繰延措置 ◆自社株式等を対価とした株式取得による事業再編の円滑化措置の創設 ・・・自社株式等を対価とした事業買収に応じた株主に対する株式譲渡益・譲渡所得への課税繰延措置 など今年度改正に続きM&Aの円滑化を図る措置を要望しているほか、国土交通省、環境省等との共同要望事項として、グリーン投資減税の廃止に合わせ、「先進的省エネ・再エネ投資促進税制」の創設を要望しており、エネルギーの需要側の省エネ投資及び供給側の再エネ投資を図るとしている。 その他、平成29年度末で適用期限を加える「中小法人の交際費課税の特例」、「中小企業者等の少額減価償却資産(30万円未満)の取得価額の損金算入特例」について、それぞれ2年間の延長が要望されている。   〇事業承継対策、スキームごとに複数の支援策を創設要望、納税猶予は各要件の抜本的拡充を 今後5年間で30万人以上の中小企業経営者が平均引退年齢の70歳になるにもかかわらず、その半数以上が事業承継の準備を終えていないとしており、中小企業の廃業の増加が地域経済に与える影響が、大きな問題となりつつある。 既報のとおり中小企業庁は7月、平成33年までの今後5年程度を事業承継支援の集中期間とし、中小企業の支援体制、支援施策を抜本的に強化するとした『事業承継5ヶ年計画』を策定、「平成30年からは事業承継の更なる活用を図る」としていたが、この方針に則り経済産業省は「中小企業者の次世代経営者への引継ぎを支援する税制措置の創設・拡充」を要望している。 上記要望のポイントは2点。まず1点目は、親族・従業員等への経営承継を前提とした、既存の事業承継対策税制である「非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予制度」だけでなく、売却やM&A、ファンドからの出資など、経営を引き継ぐ際の形態に応じた税負担の軽減措置を講じるというもの。 【参考図】 (※) 経済産業省ホームページより 具体的には、現経営者が他企業や親族外経営者、ファンド等へ株式・事業を譲渡した場合に、譲渡益に係る税負担の軽減や、事業譲渡により生じる資産の移転等に係る登録免許税・不動産取得税の軽減措置が示されている。またファンドから出資を受けた際に適用が受けられない中小企業関連の優遇税制について、一定要件を満たすファンドからの出資は適用可能とする要件緩和も要望されている。すでに中小企業の事業承継対策としてM&A市場が活況を呈しているといわれるが、これらの施策実現はこの動きを後押しするものといえる。 またポイントの2点目として、「非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予制度」、いわゆる事業承継税制については、各種要件の抜本的拡充が要望されている。 今年度も災害等発生時の要件緩和や贈与税の納税猶予適用時にも相続時精算課税制度の適用を可能とするなどの措置が行われた事業承継税制だが、これまでの改正のように、適用の障壁と言われた各要件をスポット的に緩和するのではなく、「各種要件を抜本的に拡充する」とのみ記載している点が、要望に対する強さの表れとも見える。今後の審議の結果、どこまでの要件緩和が認められるか、日常から中小企業の経営に寄り添う税理士にとっては、非常に注目すべき点といえよう。 なお、事業承継とは関連しないが、相続税の納税猶予制度としては、文部科学省より「美術品・文化財に係る相続税の納税猶予の特例の創設」が要望されており、美術品・文化財の次世代への確実な継承と、公開・活用の促進が図られている。   〇各省の要望概要を確認 厚生労働省は29年度大綱で「総合的に検討し、結論を得る」とされていた医療係る消費税の課税のあり方に関し、30年度税制改正に際し結論を得ることを求めるとともに、抜本的な解決までの措置として「医療機器等の設備投資等に関する特例措置の創設」を要望している。2年後の消費税率引上げに向け着実に制度が整備されつつある今、30年度改正で何らかの方針が示される可能性もある。その他厚労省は、事業所内保育施設の整備に対する割増償却等の措置や、いわゆるベビーシッター費用に係る税額控除などの子育て支援に係る改正を要望している。 金融庁はNISAの利便性向上に向けた施策として、NISA口座開設申込時における即日買付けの実現(現状では二重口座でないことの確認に2週間程度要する)や、一般NISAの非課税期間終了時のロールオーバーを希望しない場合の特定口座への移管(現状は顧客による確定申告が必要な一般口座へ移管)のほか、生命保険料控除の控除限度額の拡充や金融所得課税の一体化の拡充(デリバティブ取引等への損益通算範囲の拡大)など昨年度と同様の要望事項が見られる。 国土交通省の要望事項としては、平成30年3月31日で適用期限を迎える新築住宅に係る固定資産税額の減額措置等の延長や、人口減少下におけるコンパクトシティの形成に向けた施策として「都市のスポンジ化(低未利用土地)対策のための特例措置の創設」が提示されている。 *  *  * なお、上記の要望事項を含む、平成30年度税制改正に関し今後各省庁等から公表される情報については、本誌上の「平成30年度税制改正に関する《資料リンク集》」において随時リンク先の更新を行っているため、ブックマークする等して適時利用されたい。 (了)

#No. 234(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2017/09/08

プロフェッションジャーナル No.234が公開されました!~今週のお薦め記事~

2017年9月7日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.234を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!-   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2017/09/07

monthly TAX views -No.56-「教育・保育の財源問題-「こども保険」議論の行方-」

monthly TAX views -No.56- 「教育・保育の財源問題-「こども保険」議論の行方-」   中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹   少子化の流れを食い止めることは、「社会保障の崩壊を防ぐ」だけでなく、「わが国の潜在成長力を引き上げる」という効果もある。また、教育の機会均等を確保することは、格差是正につながり、ひいてはわが国の経済成長の底上げにもつながる。 そこで、教育国債による大学無償化や、幼児教育・保育の充実のための「こども保険」の創設という議論が自民を中心に行われてきた。 *  *  * 「こども保険」については本年3月に、小泉進次郎氏ら自民党若手議員が作る「2020年以降の経済財政構想小委員会」による具体的提言(「こども保険」の導入~世代間公平のための新たなフレームワークの構築~)がなされた。 それらを受けて、骨太方針2017には、幼児教育・保育の早期無償化などの財源として、「財政の効率化、税、新たな社会保険方式(筆者注:こども保険)の活用を含め、安定的な財源確保の進め方を検討し、年内に結論を得」ることが明記された(p9)。一方、教育国債については記載がなかった。 こども保険の内容は、「保険料率0.2%(事業主0.1%、勤労者0.1%)の保険料を、事業者と勤労者から、厚生年金保険料に付加して徴収する。自営業者等の国民年金加入者には月160円の負担を求める。財源規模は約3,400億円となり、小学校就学前の児童全員(約600万人)に、現行の児童手当に加え、こども保険給付金として、月5,000円(年間で6万円)を上乗せ支給し、子どもが必要な保育・教育等を受けられないリスクに対処する」というものである。 「将来的には、保険料率を1%(事業主0.5%、勤労者0.5%)まで引き上げ、自営業者等の国民年金加入者には月830円の負担を求めれば、財源規模は約1.7兆円となる」としている。 *  *  * こども保険はそのメリットとして、 が挙げられている。 これに対し、筆者は次のような問題があると考える。 しかし、消費増税で財源を求めることについては、安倍政権は二度も引上げを先延ばししており、現実的ではない。また引き上げたとしても、その使途は決まっており、こども保険の財源にまわる余地はない。 そこで、筆者は、保険方式に、富裕高齢者をターゲットにした所得増税を組み合わせれば、最も適切な負担が可能になるのではないかと考えている。 富裕高齢層に対する所得増税の方法は、公的年金等控除の縮減である。給与所得のある年金受給者は、給与所得控除と公的年金等控除の二重控除が適用され負担が低くなっているのでこれを一本化する。また、国民年金や厚生年金といった公的年金だけでなく、3階建ての企業年金にも公的年金「等」控除が適用されるが、これは適用範囲が広すぎるので、公的年金に限定してはどうか。 *  *  * 今後年末の予算編成に向けて、負担の議論が久しぶりに始まる。 どのような展開になるのか、目が離せない。 (了)

#No. 234(掲載号)
#森信 茂樹
2017/09/07

法人税における当初申告要件等と平成29年度税制改正 【第2回】

法人税における当初申告要件等と 平成29年度税制改正 【第2回】   税理士 谷口 勝司   (3) 具体的な取扱い 前回説明した平成23年12月改正後における当初申告要件等の取扱いについて、試験研究費の特別税額控除制度を例に、その規定振りとともに、具体例で説明してみよう。 試験研究費の特別税額控除制度は、措置法で と規定されていた(平29改正前の措置法42の4⑧)。 確定申告書(当該申告書に係る修正申告書及び更正請求書を含む)の記載事項及びこれに添付すべき書類の記載事項のうち法人税申告書別表に定めがあるものは、その申告書別表の書式によることとされているので(規34②)、前述の規定前段部分の明細書の記載・添付をより具体的に説明すれば、この税額控除の適用を受けるためには、法人税申告書別表6(6)~別表6(8)に、各金額及び計算明細を記載し(控除金額は別表1(1)等にも記載し)、これを確定申告書等、修正申告書又は更正請求書に添付する必要がある。そしてこれらの申告書別表の記載・添付がない場合は、この税額控除の適用は受けられない、ということである。 また、前述の規定後段部分が、適用額に関する規定である。 試験研究費の特別税額控除制度の中のいわゆる総額型を例にとると、この制度は、試験研究費の総額に、その増減割合に応じた控除率6%~14%を乗じた金額を法人税額から控除するというものであり、その控除限度額は法人税額の25%相当額とされている(ただし、中小法人の場合等は上乗せ措置がある。平29改正後の措置法42の4①②)。 確定申告の際に、対象となる試験研究費の額の全部又は一部について控除対象とすることを失念していた場合、その後、試験研究費の増額(これによる税額控除額の増額)ができるかどうかという問題があるが、この点については、控除額は、確定申告書等に記載された試験研究費の額を基礎として計算した金額に限る、と規定されており(適用額の制限)、この確定申告書等とは確定申告書及び仮決算をした場合の中間申告書をいうから(措置法2②二十七)、結局、確定申告書に記載した試験研究費の額を増額することはできないことになる。 ▷設例1 確定申告における特別税額控除の適用 試験研究費の額  800 控除率      10% 法人税額     400 税額控除額     80(800×10% < 400×25%) 設例1で、本来は試験研究費の額を900とすべきであった(100の控除対象漏れがあった)場合、その後においても、試験研究費の額は800として計算し、税額控除額80は変更できないことになる。 前述の規定前段部分では、規定上、確定申告書等のほか、修正申告書又は更正請求書が並列で規定されていることから特に誤解されやすいが、税額控除額の計算では、その基礎となる試験研究費の額は、当初申告である確定申告書等に記載された試験研究費の額に限られており、修正申告書や更正請求書に試験研究費を増額して記載したとしても、認められないのである。 また、確定申告書等で特別税額控除の適用を忘れた場合、すなわち確定申告書等に記載された試験研究費の額が存在しない場合には、その後修正申告書や更正請求書を提出したとしても、試験研究費の額は0として計算するから、結局、税額控除そのものの適用が受けられないことになる。措置法の規定は読みにくいところがあるが、この点は後述の裁判例でも判示されている。 このように、当初申告(確定申告書等)で適用を受けておかなければその後新たに制度の適用が受けられない、という意味で、措置法においては当初申告要件が存続されていることになる。 他方、この制度は、法人税額の25%という上限があり、法人税額の増減によって税額控除額が増減する計算構造となっているが、前述の規定後段部分の適用額に関する規定は、税額控除額は確定申告書等に記載した試験研究費の額を基礎として計算する、とされていることから、法人税額の増額による税額控除額の増額については認められる、ということになる。 ▷設例2 確定申告における特別税額控除の適用 試験研究費の額  800 控除率      10% 法人税額     300 税額控除額     75(800×10% > 300×25%) 設例2で、税務調査等で売上計上漏れ等が判明して法人税額が400に増額した場合には、税額控除額は80(800×10% < 400×25%)となり、確定申告との差額5は、修正申告において税額控除額を増額できることになる(なお、平成23年12月改正前は、差額5の増額は認められなかった)。 実務上留意しておきたい。   2 裁判例 当初申告要件等に関する裁判例(平28.7.8東京地裁判決)を紹介しよう。 この裁判は、平成23年12月改正後の当初申告要件等について争われた数少ない事案であって、最近話題になったものである。 この裁判は、法人が、平成26年3月期の法人税確定申告で、所得拡大促進税制(措置法42の12の4(現42の12の5)の雇用者給与等支給額が増加した場合の特別税額控除)の適用を失念していたとして、明細書の記載・添付をして更正請求を行ったところ、税務署長が請求を認めなかった(請求に理由がない旨の通知処分)ので、その取消しを求めた事案である。 東京地裁は、概要次の理由により、原告の請求を棄却した。 上記裁判における判示事項は、同制度の規定振りのほか、平成23年12月の改正趣旨等からすると妥当なもの考えられる。 なお、この事案は控訴されているので、控訴審の判断も注目しておきたい。 (了)

#No. 234(掲載号)
#谷口 勝司
2017/09/07

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第3回】

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第3回】   公認会計士 佐藤 信祐   (《第1章》 平成13年度税制改正前の議論) 2 会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方 (1) 基本的な考え方 平成12年10月に公表された「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」は、「第一 基本的な考え方」「第二 資産等を移転した法人の課税」「第三 株主の課税」「第四 各種引当金の引継ぎ等」「第五 租税回避の防止」「第六 その他」という構成になっている。そして、これらの内容について、平成12年10月11日の租税研究会の会員懇談会にて、当時の大蔵省主税局税制第一課(法人税制企画局)の朝長英樹氏と山田博志氏が講演をされており、その内容は、『企業組織再編成に係る税制についての講演録集』19-48頁(日本租税研究協会、平成13年)に掲載されている(初出は、租税研究614号52-85頁(平成12年))。 【第3回】に当たる本稿では、「第一 基本的な考え方」について解説し、次回以降でそれ以降の解説をしていきたい。具体的に「第一 基本的な考え方」として、4つの内容が記載されている。以下では、その内容につき、解説を行う。 この内容については、組織再編に関連する法制度が整備された時代背景を述べたものと言える。現在においても注目すべきは、「企業組織再編成により資産の移転を行った場合にその取引の実態に合った課税を行う」としている点である。前回でも述べたが、組織再編税制を恩典のように考えるのではなく、あるべき制度として位置づけようとしたということが言える。 この点につき、『企業組織再編成に係る税制についての講演録集』22頁では、「今回、会社分割だけを取り上げてパッチワークのような仕事を行い、現在生じている様々な問題をさらに複雑にしたり、さらに拡大したり、後代に付けを回すようなことをやるわけにはいかないという結論に至ったわけです。」と述べられている。 このうち、前者については、出来上がった組織再編税制を見てみると、合併、会社分割、現物出資及び事後設立について、非常に整合性のある制度に仕上がっており、納得しやすいところであると思われる(このうち、事後設立については、平成22年度税制改正で廃止)。 これに対し、後者については、非適格合併により企業買収を行う場合を想定して書かれた文章であると思われる。しかし、出来上がった組織再編税制を見てみると、被合併法人株式のすべてを購入してから合併する場合に、適格合併に該当することとなっており、上記の基本的な考え方とやや離れた制度になってしまっている。 これは、会社法が施行される前の当時の商法において、合併等対価の柔軟化が導入されていなかったことも原因のひとつであると思われる。もし、平成13年において、当時の商法で合併等対価の柔軟化がすでに導入されていたとすれば、被合併法人株式のすべてを購入してから合併する行為について、非適格合併や事業譲渡と同様に、被合併法人において譲渡損益を認識するということも、立法論としてはあり得る選択肢であったと思われる。この点については、当然のことながら、当時の資料からは読み取ることができない。 このように、移転資産に対する支配の継続、投資の継続といった概念が用いられているという特徴がある。このような考え方は、企業結合会計や事業分離等会計であっても、被合併法人の資産及び負債の移転、被合併法人の株主における譲渡損益の認識を分けて考えていることから、その範囲では整合的であると思われる。 まず、被合併法人等の処理について、『企業組織再編成に係る税制についての講演録集』23頁であるように、ヨーロッパにおける独立事業要件を参考にしていることが分かる。独立事業要件とは、個別資産の移転ではなく、事業を丸ごと移す場合に、課税特例を適用するという考え方である。 この点に対しては、同書23頁において、「資産を個別に売買する場合には課税が繰り延べられないが、資産をまとめて売買すれば課税を繰り延べるということになってしまうおそれがあります。」「パン屋さんと肉屋さんの両方の事業をやっている会社があって、一個のオーブンをパンを焼くのにも、肉を焼くのにも使っているとすれば、オーブンをそれぞれの事業に分けることができないことから、そもそも、課税特例の適用を受ける会社分割ができないということになるわけです。・・・独立事業要件を厳格に考えるということになると、柔軟な組織再編成に対応できない非常に窮屈な制度になる恐れがあるように思われます。」(※1)と批判したうえで、「独立事業要件を中心にして制度を考える考え方には、非常に参考になる部分があるものの、他方で、反面教師になる部分もあるように思います。」とされている。 (※1) 立案段階でこのような指摘があったということは、会社分割において、分割事業とそれ以外の事業の両方のために使用していた資産を移転しない場合であっても、主要資産等引継要件(法法2十二の十一ロ(1))を満たせるようにしようとしていたことが分かる。このことは、阿部泰久「改正の経緯と残された課題」江頭憲治郎ほか編『企業組織と租税法(別冊商事法務252号)』86頁(商事法務、平成14年)でも、ドイツにあったものを借りてきた制度であるものの、ドイツほど厳格なものではないと指定されている。  これに対し、現行法人税基本通達1-4-8では、「分割事業又は現物出資事業に係る資産及び負債が主要なものであるかどうかは、分割法人又は現物出資法人が当該事業を営む上での当該資産及び負債の重要性のほか、当該資産及び負債の種類、規模、事業再編計画の内容等を総合的に勘案して判定するものとする」と規定されている。  すなわち、事業再編計画の一環として、分割承継法人に移転させることができない合理的な理由があれば、主要な資産から除外することができるという解釈に繋がっていくことになる(稲見誠一・佐藤信祐『組織再編・資本等取引の税務Q&A』273-274頁(中央経済社、平成24年))。 そのうえで、同書25頁では、「形式上は他の法人に資産を移転する取引が、実質上も資産を手放す取引なのか、あるいは、実質上はまだその資産を保有していると言える取引なのか、といった点を考え、前者であれば原則どおり移転資産の譲渡損益の計上を求め、後者であれば特例として移転資産の譲渡損益の計上を繰り延べることとされているわけです。」としている。そして、後者に該当するものとして、グループ内の組織再編と共同事業を営むための組織再編とに整備されていったと考えられる。 「移転資産に対する支配の継続」と言うと、かなり曖昧なイメージがあるが、この点については、租税法よりも、財務会計における学問の積み重ねが強かったように思われる。ただし、当然のことながら、財務会計と租税法は目的が異なることから、事業単位の移転といった考え方は、財務会計では採られていない。そうであっても、持分の結合や共同支配企業の形成が行われた場合に、帳簿価額で資産及び負債を移転するという考え方は、租税法と比較しながら分析する余地はあると考えられる(なお、「持分の結合」については、国際会計基準とのコンバージェンスの関係で、現在では廃止されている)。さらに、組織再編税制を制定する際に、外国の租税法が参考になっていることから、ある程度はこれらを参考にすることができるのかもしれない(※2)。 (※2) しかし、組織再編税制は、外国の租税法を参考にしているとはいえ、独自に体系化されていることから、具体的な条文の解釈において、外国法を参考にすることは難しい場面も多いように思われる。 したがって、「移転資産に対する支配の継続」という概念を明らかにしていくためには、財務会計や外国法に対する研究が必要となり、本稿の目的を超えるものである。この点については、本稿での検討を行わないため、予めご了承されたい。本稿では、移転資産に対する支配が継続しているものに対して、適格組織再編として整備し、その具体的な内容として、グループ内の組織再編と共同事業を営むための組織再編の要件が定められたという程度に留めたい。 次に、被合併法人等の株主の処理について、ここでは、株式譲渡損益の認識について述べられており、みなし配当については後述する(4)で述べられている。 法人税法61条の2第2項、4項では、金銭等を交付しない合併及び分割型分割では、適格組織再編であっても、非適格組織再編であっても、株式譲渡損益を認識しないこととされている。この点については、『企業組織再編成に係る税制についての講演録集』23-24頁において、株主が投資を継続していることを中心として、被合併法人等における税制適格要件を定めることができないことが分析されており、同書24頁では、「株主の投資が継続していることをもって、会社の移転資産の譲渡損益を計上すべきか否かを決めることはできない」と結論づけられている。逆に言えば、移転資産に対する支配が継続していない場合であっても、株主の投資が継続していると認められることがあるということが言える。 すなわち、同書24頁で、「株主について見ると、合併の場合でも会社分割の場合でも同様ですが、会社が移転資産の譲渡に対して課税されるか否かということとは関係なく、自分が持つ旧株の価値に相当する新株をもらえればそれで良いわけですし、また、それを当然に要求するわけです。会社において、移転資産の譲渡益に課税されようが、課税されまいが、株主は、常に自分が持つ株式の価値に相当する新株の交付を求めるわけです。」と述べられているように、金銭等を交付しない合併及び分割型分割が行われた場合には、たとえ非適格組織再編に該当したとしても、株主の投資は清算されておらず、継続しているということが言える。 そのため、組織再編が行われた段階では、株式譲渡損益を認識しないという考え方は納得できるものである。 これは、非適格合併、非適格分割型分割を行った場合におけるみなし配当の考え方である。すなわち、前述の株式譲渡損益の計算と異なり、対価として合併法人株式又は分割承継法人株式の交付を受けていたとしても、みなし配当を認識する必要があるということが言える。これに対し、適格合併、適格分割型分割を行った場合には、みなし配当を認識しないが、被合併法人又は分割法人の利益積立金額を合併法人又は分割承継法人に引き継ぐ必要がある。 これらの考え方については、「第三 株主の課税」に記載されているため、いずれ本連載にて解説する予定である。 *   *   * 次回では、「第二 資産等を移転した法人の課税」について解説を行う予定である。 (了)

#No. 234(掲載号)
#佐藤 信祐
2017/09/07

平成29年度税制改正を踏まえた設備投資減税の選定ポイント 【第9回】「[設備種別]適用税制の選択ポイント⑤(車両)」

平成29年度税制改正を踏まえた設備投資減税の選定ポイント 【第9回】 「[設備種別]適用税制の選択ポイント⑤(車両)」   アースタックス税理士法人 代表社員  税理士 島添 浩  シニアマネジャー 税理士 小嶋 敏夫 壽命 正晃 發知 諭志   【第5回】から【第10回】にわたっては、青色申告法人(連結法人を除く)における設備種別の適用税制(中小企業投資促進税制、商業・サービス業・農林水産業活性化税制、中小企業経営強化税制)の選択ポイント及び具体的な申告実務上の留意事項を確認する。 なお、各税制の概要や適用手続き等については、【第1回】から【第3回】までを参照願いたい。 それでは今回【第9回】は、車両について紹介する。   1 選択ポイント 中小企業投資促進税制、商業・サービス業・農林水産業活性化税制、中小企業経営強化税制の主なポイントは下記のとおりである。 【車両における適用税制一覧表】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 車両においては、商業・サービス業・農林水産業活性化税制及び中小企業経営強化税制は対象外となるため、中小企業投資促進税制のみ適用を考える。 なお、上記税制以外に、【第4回】で確認した「地域中核企業向け設備投資促進税制(地域未来投資促進税制)」が平成29年7月31日から適用開始されているが、車両については対象資産(特定事業用機械等)に含まれていないため、当該税制の適用もないことに留意する。 中小企業投資促進税制の適用にあたっては、車両の要件の1つに「貨物の運送の用に供されるもの」とあることから、適用を受けることができる業種(例: 道路貨物運送業等)が限定されるので注意が必要である。 また、中小企業投資促進税制における車両の要件は、以下のすべてを満たすものとなる。 【中小企業投資促進税制における車両要件】   2 具体例(特別償却準備金、税額控除) 今回は、以下の2点について確認する。 - 前 提 - 道路貨物運送業を営む青色申告法人である内国法人甲社(資本金3,000万円、発行済株式の総数1,000株、従業員の数30人、大規模法人に株式を所有されていない)は、当期(平成29年4月1日から平成30年3月31日)において、貨物運送用車両(運送業用の車両・運搬具/自動車/その他/大型乗用車(総排気量が3リットル以上))を取得し、事業の用に供した。なお、償却方法については、定率法を選定し届け出ている。 また、翌期の事業年度は、平成30年4月1日から平成31年3月31日までである。 【貨物運送用車両の詳細】 取得価額:20,000,000円 法定耐用年数:5年 (定率法償却率:0.400、改定償却率:0.500、保証率:0.10800) 取得日:平成29年10月1日 事業供用日:平成29年10月1日 普通償却費:4,000,000円 普通償却限度額:4,000,000円 (1) 当期に特別償却準備金を選択し、翌期に特別償却準備金を取り崩す場合(税効果会計を適用するケース) (※) 法定実効税率は、当期及び翌期ともに34%とする。 ① 中小企業投資促進税制 (イ) 当期末において剰余金の処分により特別償却準備金として3,960,000円を積み立てるとともに、繰延税金負債に2,040,000円を計上している。 〈別表4 所得の金額の計算に関する明細書〉 〈別表5(1) 利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (ロ) 翌期末において特別償却準備金792,000円を取り崩すとともに、繰延税金負債408,000円を取り崩している。 〈別表4 所得の金額の計算に関する明細書〉 〈別表5(1) 利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 ② 商業・サービス業・農林水産業活性化税制 車両については、適用できない。 ③ 中小企業経営強化税制 車両については、適用できない。 (2) 当期に税額控除を選択し、翌期に繰越税額控除限度超過額の税額控除を受ける場合 ① 中小企業投資促進税制 (イ) 当期の調整前法人税額は6,450,000円であるものとする。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (ロ) 翌期の調整前法人税額は6,405,100円であるものとする。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 ② 商業・サービス業・農林水産業活性化税制 車両については、適用できない。 ③ 中小企業経営強化税制 車両については、適用できない。 *  *  * 次回【第10回】では、建物・構築物についての選択ポイント及びその具体例を確認していく。 (了)

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#アースタックス税理士法人
2017/09/07

相続空き家の特例 [一問一答] 【第10回】「母屋と離れ等の複数の建築物がある場合の計算例②(部分相続の場合)」-相続空き家の特例の対象となる譲渡の範囲-

相続空き家の特例 [一問一答] 【第10回】 「母屋と離れ等の複数の建築物がある場合の計算例② (部分相続の場合)」 -相続空き家の特例の対象となる譲渡の範囲-   税理士 大久保 昭佳   Q XとYは、昨年2月に死亡した父親の居住用家屋(昭和56年5月31日以前に建築)とその敷地を相続により取得しました。 相続の開始の直前において、父親は一人暮らしをし、父親が所有していたA土地(160㎡)とB土地(40㎡)は、用途上不可分の関係にある2以上の建築物(父親が所有していた母屋:140㎡、離れ:40㎡、倉庫:20㎡)のある一団の土地でした。 A土地はXが、B土地はYが、これらの建築物はXのみが相続し、耐震リフォームした上で、XとYが共にその全てを売却しました。 この場合、「相続空き家の特例(措法35③)」の適用にあたって、XとYのそれぞれにおける被相続人居住用家屋の敷地に該当する部分の面積はいくらでしょうか。 (1) XがA土地、母屋、離れ、倉庫を相続 (2) YがB土地を相続 A 被相続人居住用家屋の敷地に該当する部分の面積は、Xが112㎡となりますが、Yについては被相続人居住用家屋を相続において取得していないため、「相続空き家の特例」の適用を受けることができません。 ●○●○解説○●○● 措通35-13(被相続人居住用家屋の敷地等の判定等)の〔設例2〕に基づき計算すると、次のようになります((算式)は【第8回】の解説を参照)。 (1) Xが譲渡したA土地(160㎡)のうち、被相続人居住用家屋の敷地に該当する部分の面積 (2) Yは、父親からの相続によりB土地(40㎡)は取得しましたが、父親の居住用家屋を取得していないため、「相続空き家の特例」の適用を受けることができません(【第2回】の解説を参照)。 (了)

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#大久保 昭佳
2017/09/07

~税務争訟における判断の分水嶺~課税庁(審理室・訟務官室)の判決情報等掲載事例から 【第16回】「決定を予知したものとして無申告加算税が軽減されなかった事例」

~税務争訟における判断の分水嶺~ 課税庁(審理室・訟務官室)の判決情報等掲載事例から 【第16回】 「決定を予知したものとして無申告加算税が軽減されなかった事例」   税理士 佐藤 善恵     (※) ( )内の青色文字は、略称設定であり、以下その略称を使用する。 〔概要等〕 本件は、弁護士である原告(納税者)Xが期限後申告書を提出し、無申告加算税の賦課決定処分(税率15%)を受けたことについて、「(本件の期限後申告書の提出は、)その申告に係る国税の調査があったことにより当該国税について決定があるべきことを予知してされたものでない」ことを理由に無申告加算税は5%であると主張し、賦課決定処分の一部の取消しを求めた事案である。 主な事実認定等は次のとおり。   〔当事者の主張(要旨)〕 ▷原告X 平成22年9月17日(④)に、調査担当者がXと電話で話したことは、国税通則法66条の「調査」ではなかったというべきである。Xは、その後、過去の申告書等を確認して消費税の申告義務があることを認識し、課税庁から何の行為もないうちに自発的に本件期限後申告書を提出したものである。 したがって、国税通則法66条5項の要件に該当するから無申告加算税の税率は5%である。 ▷被告税務署長 本件では、処分庁は、平成22年5月上旬頃、Xについて平成21課税期間の消費税の確定申告書が法定申告期限を過ぎても提出されておらず、調査が必要であると認めて、その頃からXの申告状況等の確認を始めており、申告義務の要否等を認定するに至る一連の判断過程の一切であるところの「調査」(国税通則法66条5項)に着手したということができる。 そして、処分行政庁は、内部資料の調査等により把握した事実により、原告が平成21課税期間の消費税等の確定申告書を処分行政庁に提出する義務を負っており、原告に平成21課税期間の消費税等について納付すべき税額があることを客観的に相当程度の確実性をもって認定することができたということができる。 Xは、平成22年9月17日に調査担当者から平成21課税期間の納税義務について指摘を受けていることなどから、やがて課税庁が決定に至るべきことを予知して平成21課税期間の消費税等の確定申告書を提出した。よって、本件期限後申告書の提出は、国税通則法66条5項(注)の要件には該当しない(無申告加算税の税率は15%である)。 (注) 現行法では、66条6項。なお【参考】「〈平成29年1月1日施行〉加算税見直しの再確認と留意点【前編】」。   〔裁判所の判断〕 裁判所の法解釈は次のとおり。 そして、本件の事実関係については、おおよそ原処分庁主張どおりの事実を認めて、職員の内部資料調査やXに対する確認の促し(平成22年9月17日の電話)は、課税庁が行う課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一部分にほかならないから「調査」に当たるとし、調査担当者は、遅くとも平成22年9月17日までには、本件期限後申告書による申告に係る平成21課税期間の消費税等についての調査に着手して無申告が不適正であることを発見するに足るかあるいはその端緒となる資料を発見していたと認めた。 その上で、Xは、その後の調査が進行すればやがて決定がされるであろうということを認識した上で期限後申告することを決意して、平成22年11月4日に至り本件期限後申告書を提出したものであると認められた。 結論は、本件期限後申告書の提出は国税通則法66条5項の要件には該当しないというものであった。   〔判断の分水嶺〕 裁判所は、調査担当者がXの回答書を受けて、本課税期間についても「Xには納付すべき税額があることを見込まれると判断した」という事実を認定している。「判断した」という認定はすなわち「調査」があったという認定である。この点が本件の判断の分水嶺である。   〔本判決が示唆するもの〕 法解釈(判断基準)によれば、①既に「調査」が始まっており、②税務署職員が無申告を発見するに足る資料を発見し、③納税者が、このままだと決定されるだろうと認識して申告を決意して申告をしたといった事実の有無が結論を左右する。 本件では、①については、遅くとも平成22年9月17日(電話での会話時)に、調査担当者が既に「調査」に着手していたという事実が認定されている。そして、③Xは電話による指摘を契機として、申告義務を認識するに至ったと認められている。 ①②については、税務署職員の認識(税務署内部)の問題であり、③についてはXの認識の問題であるから、どのような具体的事実をもって①②③に当たると判断されたのかは定かではない。税務署からの「お尋ね」は通常は行政指導であるとの一般的な理解によれば、電話があった日よりも前に調査が始まっていたというのは難しいのではないだろうか。 平成22年9月17日の電話が「調査」なのか「行政指導」であったのかについて、職員がXに告げたかどうかは明らかにされていないが、おそらくその説明はなかったと思われる(あれば、重要な点であるから事実として記載されているはずである)。 実務的には、税務署職員からの電話等による接触があった場合には、まず「調査」か「行政指導」なのかを確認することが重要である。本判決を踏まえて、この点を忘れないようにすべきである。 なお、課税庁の判決情報(地裁判決の段階のもの)のコメントを一部紹介する。 (了)

#No. 234(掲載号)
#佐藤 善恵
2017/09/07
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