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「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例51(法人税)】 「「中小法人等」の範囲を誤認したため、欠損金の繰戻しによる還付請求を行わなかった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例51(法人税)】   税理士 齋藤 和助       《基礎知識》 ◆欠損金の繰戻しによる法人税の還付(法法80①) 青色申告書である確定申告書を提出する法人が、各事業年度において欠損が生じた場合において、その欠損金をその欠損が生じた事業年度(欠損事業年度)開始の日前1年以内に開始した事業年度(還付所得事業年度)の所得に繰り戻し、その事業年度の所得に対する法人税額の全部又は一部を還付請求できる制度である。 ◆欠損金の繰戻し還付請求制度の不適用措置(措法66の13) 欠損金の繰戻し還付請求制度は、清算中に終了する事業年度及び解散等の事実が生じた場合の事業年度を除き、平成4年4月1日から平成30年3月31日までの間は、その制度の適用が停止されている。ただし、一定の中小法人等については不適用措置の対象から除かれている。 ◆中小企業者(措令27の4⑩) 資本金の額若しくは出資金の額が1億円以下の法人のうち次に掲げる法人以外の法人又は資本若しくは出資を有しない法人のうち常時使用する従業員の数が1,000人以下の法人。 (1) 発行済株式又は出資の総数又は総額の2分の1以上が同一の大規模法人(資本金の額若しくは出資金の額が1億円を超える法人又は資本若しくは出資を有しない法人のうち常時使用する従業員の数が1,000人を超える法人をいい、中小企業投資育成株式会社を除く。)の所有に属している法人 (2) 発行済株式又は出資の総数又は総額の3分の2以上が大規模法人の所有に属している法人       (了)

#No. 223(掲載号)
#齋藤 和助
2017/06/22

特定居住用財産の買換え特例[一問一答] 【第19回】「譲渡者が買換資産を取得しないで年の中途で死亡した場合」-譲渡者の死亡-

特定居住用財産の買換え特例[一問一答] 【第19回】 「譲渡者が買換資産を取得しないで年の中途で死亡した場合」 -譲渡者の死亡-   税理士 大久保 昭佳   Q Xは、本年2月に自己の居住用の土地家屋(所有期間が10年超で居住期間は10年以上)を6,000万円で売却して、その売却代金をもって4,000万円の土地を購入し、家屋についても請負契約を締結したのですが、完成前の9月に死亡してしまいました。 この場合、「特定の居住用財産の買換えの特例(措法36の2)」の適用を受けることができるでしょうか。 なお、その家屋はXの相続人が取得し、本年の12月から同人が居住しています。 A 「買換えの特例」の適用を受けることができます。 ●○●○解説○●○● 譲渡資産の譲渡をした者が買換資産を取得しない場合であっても、その死亡前に買換資産の取得に関する売買契約又は請負契約を締結しているなど買換資産が具体的に確定しており、当該買換資産をその相続人が買換資産の取得期間内に取得し、かつ、その居住の用に供すべき期間内に当該買換資産を当該相続人の居住の用に供したときには、譲渡資産の譲渡をした者の当該譲渡に係る譲渡所得について「買換えの特例」の適用を受けることができることとされています(措法36の2①、措令24の2⑬、措通36の2-21(相続人が買換資産を取得した場合))。 したがって本事例の場合は、Xの死亡前に家屋の請負契約が締結されているなどその適用要件を満たしていることから、同特例の適用を受けることができることとなります。 この場合の手続きとしては、Xが年の中途において死亡したことにより、Xの相続人は、その相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヶ月を経過した日の前日までに、所轄税務署長に対して、被相続人の生前におけるその年中の所得について準確定申告書を提出しなければならないものとされています(所法125①)ので、当該譲渡所得についても、その準確定申告書に「買換えの特例」の適用を受ける旨の記載をするとともに、所定の書類を添付する必要があります。 なお、相続人は、準確定申告の際に「買換えの特例」の適用を受けることに代えて「3,000万円特別控除(措法35)」の適用を受けることを選択することもできます。 (了)

#No. 223(掲載号)
#大久保 昭佳
2017/06/22

増額更正時における税額控除額の連動措置と手続の簡素化

増額更正時における税額控除額の連動措置と手続の簡素化   税理士 佐藤 善恵   ▷はじめに 平成29年度税制改正前、外国税額控除等については、増額更正によって税額控除額が増加しても、実際に控除できる金額は自動的に増加しない規定ぶりであったため、条文に厳密に即せば、納税者としては別途、税額控除額を増加させる旨の更正の請求を行う必要があった。 既報の通り、今年度の改正では、納税環境整備の一貫として、自動的に税額控除額が増加する措置が講じられ、手続が簡素化された。 また、修正申告や更正の請求における税額控除額の連動についても、それらの修正申告書や更正請求書において控除を受ける金額を増加させられることが明確化された。 上記の改正に関し、本稿では、改正法令における規定ぶりを確認したい。   ▷大綱と条項の確認 まず、平成29年度税制改正大綱における「7 円滑・適正な納税のための環境整備」の項目には、次のように記載されていた。 次に、改正された租税特別措置法(以下「措置法」)の内容を確認するために、一例として措置法42条の6《中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除》の申告要件に関する条項を取り上げる。   確定申告書等とは、法人税の確定申告書及び仮決算をした場合の中間申告書を指すところ(措置法2二十七)、控除される金額は、確定申告書等(以下「当初申告」)の添付書類に係る特定機械装置等が対象である旨に変更はない(つまり、資産の記載漏れがあっても後から加えることはできない)。 今年度の改正では、法人税額に変動があった場合には、その変動に係る修正申告又は更正請求において同時に税額控除額を連動させることが明確化された。改正後の条文では、計算の基礎となる取得価額に着目して、当初申告に記載した特定機械装置の取得価額が限度といった表現になった上で、修正申告書や更正請求書において、当初申告の取得価額を限度として控除金額を計算することが明記されたからである。 この点、改正前は、控除される金額が、当初申告で宣言した取得価額を基礎に計算した金額に限るという表現であったため、控除金額は動かないと解されたものである。 つまり、この条項が改正されたことにより、大綱記載の後段「要件を満たす場合には税額控除額を変更できることを明らかにすることで、税務署長が増額更正をする場合において連動的に税額控除額を増加できるものとする。」が達成されたものである。 一方で、大綱の前段「外国税額控除制度及び研究開発税制等について、その適用に係る申告要件につき、納税者の立証すべき事項及び当初申告の要否を明確化し、」の記載については、対応的に条文に反映されていない(※上記の条文新旧に緑色文字で示した)とも読み取れる。しかし、条文に「取得価額」が「限度」と明記されたことで、控除税額が連動することが明確化されたことは評価したい。   ▷条文改正の対象となった措置 この措置に関連して改正された租税特別措置法(以下「措置法」)のうち、法人に関する該当条項を以下に掲げる。   ▷適用期日 この改正は、平成29年4月1日以後提出する修正申告書若しくは更正請求書又は同日以後の更正について適用される。 (了)

#No. 223(掲載号)
#佐藤 善恵
2017/06/22

理由付記の不備をめぐる事例研究 【第25回】「受贈益」~新株引受権に係る受贈益を計上しなければならないと判断した理由は?~

理由付記の不備をめぐる事例研究 【第25回】 「受贈益」 ~新株引受権に係る受贈益を計上しなければならないと判断した理由は?~   千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也   今回は、青色申告法人X社に対して行われた「新株引受権に係る受贈益計上漏れ」に係る法人税更正処分の理由付記の十分性が争われた仙台地裁昭和53年3月27日判決(訟月24巻7号1481頁。以下「本判決」という)を素材とする。   1 更正通知書に記載された更正の理由(本件理由付記) (注) 素材とした本判決の判決文から読み取ることができる理由付記の一部を筆者が加工している。   2 本件理由付記から読み取ることができる関係図   3 本判決の判断 本判決は、大要次のとおり、本件理由付記は法の要求する理由付記として不備があると判断した。 (1) 求められる理由付記の程度 (2) 理由付記の十分性   4 検討 (1) 求められる理由付記の程度 素材とした本判決に係る訴訟における原告X社の主張を見ると、X社は、(株)Sの新株発行はすべて公募の方法によったものであり、新株引受権の付与は受けていないことを前提に、新株引受権に係る受贈益を益金の額に算入するような処理はしていなかったようである。 これに対して、課税庁の主張を見ると、(株)Sの新株発行は、形式的には公募の方法によったものの、実質的には株主以外の者に対し新株引受権を与える方法でなされたものであって、X社は新株引受権に基づき、新株20万株を取得したものであると認定した上で、払込価額と時価との差額(新株引受権の価額)を受贈益として課税すべきである(法人税法22条2項等)と判断したものであることがわかる。 課税庁における法解釈の主張について紹介することは省略するが、上記主張からすれば、増資に係るX社の帳簿書類の記載状況等は必ずしも明らかではないものの、本件更正処分は、X社の帳簿書類の記載自体を否認して更正する場合に該当するといえそうである。 したがって、理由付記の程度としては、 ことになる(最高裁昭和60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号850頁等参照)。 (2) 理由付記の十分性 次のとおり、本件理由付記は、法の求める理由付記として十分なものではないと考える。 まず、本件理由付記は、本件更正処分の事実上の根拠を明らかにしていない。すなわち、課税庁は、(株)Sの新株発行について、形式的には公募の方法によったものの、実質的には株主以外の者に対し新株引受権を与える方法でなされたものであって、X社は新株引受権に基づき、新株20万株を取得したものであると認定しているにもかかわらず、その論拠及び証拠資料が記載されていないのである。したがって、更正処分の根拠として帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示していない点で、本件理由付記には不備がある。 また、本件理由付記は、新株引受権1,940万円という金額がいかなる根拠、方法に基づいて算出されたものであるかという点について記載していない。(株)Sは非上場株式であることを前提とすると、(株)S株式の時価評価には手間と困難が伴うこともあり、また、そもそも、同一の資産であっても評価者、評価方法等により時価評価額が異なる場合もあり、通常、課税庁による評価が唯一ないし最も合理的なものであると説明することには困難を伴う。 そうであれば、上述のような手間と困難を嫌う課税庁が安易かつ恣意的に時価評価を行うことがないよう、また、評価金額、評価方法等を争う納税者の不服申立ての便宜に資するよう、新株引受権の時価評価に係る具体的な積算過程を一定程度、理由付記すべきであろう(本件とは事案が異なるものの、本連載【第11回】で掲げた参考裁判例を参照)。 したがって、本件理由付記は、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるという理由付記の趣旨目的に適うものではないと考える。 *  *  * 次回は、「有価証券譲渡益の計上漏れ」に係る法人税更正処分の理由付記の事例を取り上げる。 (了)

#No. 223(掲載号)
#泉 絢也
2017/06/22

〔判決からみた〕会計不正事件における当事者の損害賠償責任 【第1回】「エフオーアイ損害賠償請求事件第1審判決の特徴」

〔判決からみた〕 会計不正事件における当事者の損害賠償責任 【第1回】 「エフオーアイ損害賠償請求事件第1審判決の特徴」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   エフオーアイ損害賠償請求事件の概要 1 訴訟当事者 2 粉飾決算の内容 FOI社においては、平成16年3月期において、決算が大幅な赤字となって銀行融資を受けることができなくなることを防ぐため、被告Y1(奥村元代表取締役社長)、被告Y2(上畠代表取締役専務)及び被告Y3(河野取締役)ら役員が相談の上、見込生産をして製造を終了した6台のエッチング装置につき、実際には受注がなかったにもかかわらず、受注があったように装って架空の売上げを計上することにより、実際の売上高が7億1,941万328円であるのに、決算書類には売上高が23億2,799万9,328円である旨記載する粉飾決算を行った。 FOI社は、平成17年3月期以降も、平成21年3月期までの間、売上高を実際よりも水増しして計上する方法による粉飾決算を継続した。平成21年3月期の粉飾額は115億3,639万5,000円に及び、決算書類に記載された売上高の97.3%が架空の売上げであった。 これらの粉飾は、被告Y1(奥村元代表取締役社長)、被告Y2(上畠代表取締役専務)及び被告Y3(河野取締役)ら取締役のほか、主立った幹部職員らが共謀して行ったものであった(本件粉飾)。   上場申請から上場→上場廃止に至る経緯 1 1回目の上場申請と取下げ 2 2回目の上場申請と取下げ 3 3回目の上場申請から上場廃止   損害賠償責任に対する裁判所の判断 1 被告Y2(上畠代表取締役専務)、被告Y4(ゲオルギー取締役)及び被告Y1(奥村元代表取締役社長)(第5事件に限る)に対する請求について 被告Y2(上畠代表取締役専務)及び被告Y4(ゲオルギー取締役)は全事件について、被告Y1(奥村元代表取締役社長)は第5事件について、いずれも適式の呼出しを受けたにもかかわらず、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しない。 したがって、上記被告らは、当該事件についての請求原因事実を自白したものとみなされるから、原告らの被告Y2(上畠代表取締役専務)及び被告Y4(ゲオルギー取締役)に対する請求並びに被告Y1(奥村元代表取締役社長)に対する第5事件に係る請求は、いずれも理由がある。 2 有価証券届出書等の虚偽記載の有無について (1) 被告Y1(奥村元代表取締役社長)について(第1事件ないし第4事件) 被告Y1(奥村元代表取締役社長)は、FOI社の代表取締役社長として、本件粉飾を当初から認識し、これを主導又は容認してきた人物であるから、本件有価証券届出書の虚偽記載を知っていたことは明らかである。 したがって、被告Y1(奥村元代表取締役社長)は、すべての原告らに対し、金商法21条1項1号、22条1項の責任を免れない。 (2) 被告Y3(河野取締役)について 被告Y3(河野取締役)は、FOI社の取締役として、本件粉飾に当初から関わり、これを実行してきた人物であるから、本件有価証券届出書の虚偽記載を知っていたことは明らかである。 したがって、被告Y3(河野取締役)は、すべての原告らに対し、金商法21条1項1号、22条1項の責任を免れない。たとえ被告Y3(河野取締役)が被告Y1(奥村元代表取締役社長)や被告Y2(上畠代表取締役専務)の指示又は命令によって本件粉飾に関与していたものであるとしても、上記判断は左右されない。 (3) 被告監査役らについて 被告監査役らは、いずれも、FOI社による本件粉飾を認識していなかったものと認められるから、本件有価証券届出書の虚偽記載を知らなかったものと認められる。また、被告監査役らは、FOI社の会計監査の信頼性については、一応の監査を行っていたものと認めることができる。 FOI社においては、単に財務諸表において架空の売上げを計上していたにとどまらず、取締役ら及び多数の幹部社員らが共謀し、売上取引に関する多数の書類を偽造したり、ペーパーカンパニーを設立して売掛金の回収を偽装したり、販売見込みのない製品を製造し続けるなどの大がかりな偽装工作を5年以上にわたり継続し、平成21年3月期の決算においては、実に総売上げの97%以上に上る115億円余りもの架空売上げを計上していたというのであり、取締役らのかかる違法行為は、本来監査役の業務監査によって是正されるべきものである。 被告Y6(高倉常勤監査役)は、平成16年3月期の売上げのうちに架空のものがあることを認識していたというのであり、その後、FOI社の売上げが急増したにもかかわらず売掛金の回収が進まない状況において、架空の売上げが計上されている可能性について疑問を抱き、売上げの実在性について独自の調査を行うなどの対応を執ることは十分に可能であったというべきであるが、被告Y6(高倉常勤監査役)が、会計監査人の報告を受ける以外にかかる観点から何らかの調査を行ったことをうかがわせる証拠はない。 また、被告Y6(高倉常勤監査役)は、常勤監査役であったにもかかわらず週に2日程度しか出勤しておらず、FOI社においてほぼ毎週開催されていた戦略会議にも出席していなかったのみならず、対外的には戦略会議に毎回出席していたかのように装い、議事録にかかる虚偽の記載がされていることを認識しながら放置していたというのであるから(なお、被告Y6(高倉常勤監査役)は、被告みずほ証券の引受審査における質問に対し、毎日出勤し、戦略会議にも出席している旨虚偽の回答をしている)、取締役の業務執行に対する日常の業務監査が十分であったとはいい難い。 非常勤の社外監査役である被告Y5(染谷監査役)及び被告Y7(水上監査役)は、上記のような被告Y6(高倉常勤監査役)の職務執行状況を認識していたか、容易に認識し得たと考えられるのに、これを是正するための何らかの対応を執った形跡がないところ、非常勤監査役においても、常勤監査役の職務執行の適正さに疑念を生ずべき事情があるときは、これを是正するための措置を執る義務があるというべきであるから、被告Y5(染谷監査役)及び被告Y7(水上監査役)の監査役としての職務の遂行が十分なものであったとはいい難い。 被告監査役らにおいて第1投書の存在を認識していたことを認めるに足りる証拠はないものの、監査役会において、上場申請取下げの理由について他の役員ら又は被告みずほ証券に問い合わせをするなどして調査すれば、第1投書の存在を認識することは十分に可能であったというべきであり、その上で監査役の権限を行使して調査を行えば、FOI社において粉飾決算が行われていた事実が判明していた可能性がないとはいえない。 被告監査役らについては、いまだ相当な注意を用いて監査を行っていたとは認められず、他に相当な注意を用いたにもかかわらず本件粉飾の事実を知ることができなかったことを認めるに足りる証拠はない。そうすると、被告監査役らは、いずれも、金商法21条1項1号、22条1項の責任を免れることはできないというべきである。 (4) 被告みずほ証券について 第1投書を受領したことを踏まえて行った被告みずほ証券の審査が十分なものであったとはいえず、仮に第1投書を踏まえた十分な審査を行っていれば、平成20年4月頃の時点でFOI社が粉飾決算を行っていることを発見できた可能性が少なからずあったというべきである。 よって、被告みずほ証券は、本件上場に係る引受審査について、本件有価証券届出書等の虚偽記載について、相当な注意を用いたにもかかわらずこれを知ることができなかったものと認めることはできないから、原告らに対し、金商法21条1項4号及び17条の責任を負う。 (5) 被告東証について 金商法の趣旨及び被告東証と被告自主規制法人との間の業務委託契約の内容に照らせば、被告自主規制法人は、被告東証の委託を受け、被告東証とは独立した立場において上場審査の全部を行っていたものと認められ、被告東証が行う上場審査の補助者として上場審査に関与していたものではない。したがって、仮に被告自主規制法人が行った上場審査の過程において過失があったとしても、そのことにより被告東証が不法行為責任を負うということはできない。 以上の見地からすると、原告らが被告東証らの責任原因として主張する不法行為は、被告自主規制法人が行った上場審査の過程における過失をその根拠とするものであるから、これにより被告東証が不法行為責任を負担する法律上の根拠を欠くというべきである。 (6) 被告自主規制法人について 被告自主規制法人は、上場審査において、財務諸表の内容の正確性に疑いを生じさせるような事情が存在したにもかかわらず、そのような事情を看過し、追加の審査を行うことなく漫然と上場を承認したものと認めることはできないから、同被告について、投資者に対して負っていた注意義務に違反する行為があったということはできない。 したがって、原告らの被告自主規制法人に対する請求は理由がないというべきである。   本判決の特徴 上述してきたように、エフオーアイ事件第1審判決(東京地方裁判所平成28年12月20日判決)は、粉飾決算の首謀者や実行者以外の株主に対する損害賠償責任を広く認めたものとなっている。その最大の特徴は、主幹事証券と非常勤の社外取締役の損害賠償責任を認めた点にある。 それらについて、これまでの裁判所の判断との相違について、検討したい。なお、詳細な分析については、次回以降の連載を通して検討していく予定である。 1 主幹事証券の損害賠償責任を認めた判決であること 本判決は、有価証券届出書の虚偽記載に係る引受証券会社の金融商品取引法第21条1項4号、17条に基づく民事責任について判断を示したものであり、会計監査人の監査を受けた財務諸表に虚偽記載があったことを知らなかった引受証券会社に注意義務違反があったとして損害賠償責任を認めた初めての裁判例である。 責任を認めた理由については、上述のとおり、引受審査において、有価証券届出書の虚偽記載について、相当な注意を用いたにもかかわらずこれを知ることができなかったものと認めることはできないことによるのであるが、匿名の投書を理由とした2度にわたる上場申請の取下げという本事件の特殊性も踏まえ、本連載【第5回】において、裁判所の判断のポイントとなった引受審査の状況について掘り下げて検討したい。 2 非常勤社外監査役の損害賠償責任を認めた判決であること 裁判所が非常勤社外監査役の損害賠償責任を認めた論理構成は、以下のようになる。 よって、金融商品取引法第21条1項1号、第22条1項の責任を免れることはできないというものであった。 過去の裁判では、社外監査役については損害賠償責任を負わないと判断したものが多く、また、監査役就任時の責任限定契約に基づいて、監査役が過去の報酬を返還することによって法廷外で和解をすることも少なくないものと考えられてきた。 本判決は、常勤監査役が十分に職務を果たしていない(そのため、粉飾決算が見逃されてきた)という状況の中、非常勤である社外監査役の職務について、かなり踏み込んだ判断を行ったものであり、今後の社外監査役が職務上果たすべき「相当な注意」について、警告を与えるものであると評価できよう。 *   *  * 次回以降では、監査役の損害賠償責任について、先行した2つの事件判決における裁判所の判断を見たうえで、本判決との比較検討を行いたい。 (了)

#No. 223(掲載号)
#米澤 勝
2017/06/22

電子マネー・仮想通貨等の非現金をめぐる会計処理と税務Q&A 【第9回】「仮想通貨をめぐる会計処理(総論)」

電子マネー・仮想通貨等の非現金をめぐる 会計処理と税務Q&A 【第9回】 「仮想通貨をめぐる会計処理(総論)」   公認会計士・税理士 八代醍 和也   A 我が国に比べると一部海外では仮想通貨の流通がある程度進んでいること、また、国内でも徐々に流通環境が整備され始めたことから、筆者の周りでも少しずつではあるが、類似した質問を受けることが増えつつあるように感じる。 そこで今回から4回に分けて、仮想通貨をめぐる会計処理・税務に関し、代表的な取引種類ごとに事例形式で検討していきたい。今回はその導入として、この問題に関する議論の方向性や会計処理の基本的考え方などを総論的に紹介する。 ただし、本連載【第1回】でも述べたとおり、本稿執筆現在、仮想通貨の会計処理に関しては、その拠り所となる会計基準は存在しておらず、その開発に向けた動きがようやく開始されたところである。また、税務においても、本連載【第6回】で述べたように、平成29年度税制改正において、仮想通貨の譲渡取引について消費税が非課税とされることになったものの、法人課税・所得課税の取扱いを定めた法令等は存在していない。 このため、本連載ではあくまでも現行の会計基準及び税法における類似の規定・取扱いの下で求められると考えられるものという位置づけのもと、解説を行う。したがって、今後の会計基準の開発状況や、税制改正の内容如何によっては、結論が変わる可能性もある点に留意願いたい。   1 仮想通貨の会計的特性 まず、処理を検討するに当たって、仮想通貨の会計的な性格がどういったものであるかを勘案する必要があろう。 「仮想通貨に係る会計上の取扱いに関する指針」の策定に向けて議論が始まった企業会計基準審議会の議事によると、仮想通貨を金融商品、棚卸資産、外貨建ての現金として処理する方法が検討されているようであるが、まだ結論を出すには至っていない状況と思われる。 基準諮問会議や専門委員会の議事については以下を参照されたい。 そこで、上記のうち、現状いずれが妥当な処理といえるかを検討してみたい。   2 改正資金決済法における仮想通貨の定義 詳細な検討に先立ち、改正資金決済法における定義から整理しておきたい。その内容は以下のとおりである(下線筆者)。 まず、仮想通貨が、これまで本連載で取り扱ってきた「電子マネー」とはその性格を異にするものである点を確認しておきたい。 確かに上記から、両者は「電子的なデータのやり取りによって行う決済サービスを行うことができるもの」という点で共通する部分もあるものの、それ以外の点では大きく異なる。 すなわち、仮想通貨は不特定多数の者に対して使用したり、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができるが、電子マネーは資金決済法上の前払式支払手段であり、基本的にはあくまでも発行者と利用者との間の金銭債権債務関係を生じさせるにとどまる。 また、改正資金決済法には定義されていないが、仮想通貨は、インターネット上に存在する「取引所」において法定通貨との交換が可能であることから、より通貨そのものに近い性格を有する経済的価値と評価することができよう。   3 外貨建ての現金としての性格の検討 それでは、これを法定の通貨と同様、現金として会計処理することが妥当かというと、現時点では決してそこまでは言えないと筆者は考える。 すなわち、電子マネーは法定通貨とは異なり、特定の国家に信用を付与されてはおらず、また、通貨発行機関としての中央銀行のような存在を持たない。これに加え、下記で述べるとおり金融商品や棚卸資産といった他の資産との類似性をも有するものについて、法定通貨と同様に扱うことについては、現時点で会計慣行として形成されておらず、クリアしなければならない課題も多いものと考える。 参考までに、財務諸表等規則ガイドラインにおける現金及び預金の定義を示すと以下のとおりである。会計上の現金や預金の概念は法定通貨より広いものの、現行基準上、仮想通貨が現金の範囲に含まれるとは考えにくいことが理解できよう。   4 金融商品としての性格の検討 金融商品としての性格については、平成28年11月14日開催の第28回基準諮問会議でも述べられているとおり、それ自体が権利を表章するものではないため、有価証券にも該当しない。このため、現行の金融商品会計基準等における金融商品の範囲に含まれるものとして会計処理を検討することは、適当ではないといえるだろう。   5 コモディティとしての性格の検討 一方で、仮想通貨は「取引所」において、法定通貨との交換ができることから、そこに金をはじめとするコモディティと非常によく似た性格を認めることができる。仮想通貨には実際のコモディティと異なり、本源的価値はないものの、その概念的な類似に鑑みると、棚卸資産の評価に関する会計基準における棚卸資産の範囲に含まれるというのは相対的に解釈上の無理が少ないと前述の基準諮問会議議事でも述べられているところである。 短期販売目的や投資目的ではなく、単純な資金決済目的で保有する場合に「必ずしも棚卸資産のように投資の成果を獲得することを意図しているわけではない」点に相違が認められるものの、そもそも我が国では企業会計原則と関係諸法令との調整に関する連続意見書第四にあるとおり、棚卸資産に「販売活動および一般管理活動において短期間に消費されるべき財貨」を含めるなどその範囲を広く解してきた歴史・会計慣行もあり、その点からも、棚卸資産に準じた会計処理を行うことが合理的であると考え得る。   6 税務面における基本的考え方 税務面における仮想通貨の考え方については、『税大ジャーナル第23号(2014.5)』に掲載された『ビットコインと税務』という論文に示されている。 上記の論文では、ビットコインに係る会計処理について「ビットコインの税法上の取扱いを検討する際には、ビットコインの企業会計上の取扱いを論ずる必要がある」としたうえで、「ビットコインを販売目的として取得した場合には、ビットコインは貴金属のようなコモディティと同様の性質を有することから、企業会計原則と関係諸法令との調整に関する連続意見書四に従い、棚卸資産として取り扱うべき」とし、「他の財との物々交換目的でビットコインを保有する場合にも、棚卸資産として取り扱うことが適当である」としており、棚卸資産として会計処理することを支持している。 *  *  * 次回以降の各論においては、今回の仮想通貨を棚卸資産として会計処理することを前提としたうえで、事例形式により具体的な会計処理方法について検討していく。 (了)

#No. 223(掲載号)
#八代醍 和也
2017/06/22

〈実務家が知っておきたい〉空家をめぐる法律上の諸問題【前編】

〈実務家が知っておきたい〉 空家をめぐる法律上の諸問題 【前編】   弁護士法人東町法律事務所 弁護士 羽柴 研吾   1 はじめに 総務省の統計によれば、平成25年10月1日現在における総住宅数は6,063万戸とされ、そのうち空家数は820万戸であり、空家率は13.5%といずれも過去最高を記録したと報告されている(総務省統計局平成27年2月26日付統計トピックスNo.86「統計からみた我が国の住宅 (「平成25年住宅・土地統計調査(確報集計)」の結果から)」の1を参照)。 空家戸数や空家率は今後も上昇していくものと見込まれるところ、空家は相続や住居の変更等、様々な理由から生じる身近な問題である。また、近時、空家等対策の推進に関する法律が制定されるなど、空家問題は古くて新しい問題でもある。 本稿は、空家問題に関する様々な法的問題の一端を整理することを目的としたものである。 なお、本稿内の意見等にわたる部分については筆者個人によるものであり、所属する団体等の見解を代表するものではないことを申し添える。   2 空家の発生理由と不適正管理から生じる問題 (1) 空家の発生理由 空家が生じる理由には様々な要因が存在するところ、国土交通省近畿地方整備局の「住環境整備方策調査業務報告書」(2012年3月)によれば、以下のような事情があるとされている。 (2) 空家の不適正管理から生じる問題 空家の適正な管理が行われなければ、①建物の倒壊による事故、火災による事故、外壁の落下や飛散事故、敷地内の雑草や樹木の隣地への越境等の物理的原因による問題や、②空家への不審者の侵入、不法滞在、不法投棄等の人的原因による問題が生じることになる。 そこで、上記の問題に係る法的な問題について、①民事上の問題と②行政上の問題に分けて検討することとしたい。   3 空家に係る民事上の問題 空家に係る民事上の問題としては、空家の所有権者としての責任と、損害賠償責任が問題になりうる。 (1) 相隣関係上の責任 空家の管理が行われない結果、隣地との境界上の柵が倒壊し、空家敷地内の立木の枝が隣地の敷地内に及んでいる場合、隣地所有者との権利関係については、民法の相隣関係の規定によって調整されることになる。 空家の所有権者が竹木の所有権者でもある場合、隣地の所有権者から枝の切除を請求される可能性があり、その費用も負担しなければならない。 また、空家の残置物やごみ等が隣地に及んでいる場合やそのおそれがある場合には、隣地の所有権者から所有権に基づく物権的妨害排除請求権や物権的妨害予防請求権を行使され、物件の除去や予防措置を講じる必要が生じうる。 (2) 不法行為法上の責任 (ア) 空家の発生により見込まれる損害額について 空家の倒壊、外壁の落下、火災等が生じた場合、近隣住民等の第三者に物的損害や人身損害が生じうる。 具体的な損害額は個別案件によるが、公益財団法人日本住宅総合センターの調査結果によれば、第三者の損害について以下のような試算がされており、空家の所有権者は高額な損害賠償責任を負担するおそれがある。 (※) 詳細は「空き家発生による外部不経済の実態と損害額の試算に係る調査」(公益財団法人日本住宅総合センター)を参照されたい。 (イ) 土地工作物責任 空家の倒壊・外壁落下の事故によって、近隣住民等に損害が生じた場合、空家の所有権者の土地工作物責任(民法第717条)が問題となる。 建物の設置や保存に瑕疵がある場合に、占有者及び所有権者は、民法第717条によって損害賠償責任を負担することになるが、所有者の責任は、占有者と異なり無過失責任である。 同条第1項に規定する瑕疵とは、その種の工作物として通常備えるべき安全性が欠けていることをいうところ、空家の老朽化等によって倒壊や外壁が落下するなどした場合、建物が通常備えるべき安全性を欠いていると判断される可能性が高く、空家の所有権者は非常に重い損害賠償責任を負担することになる。 (ウ) 失火責任法 それでは、空家内の漏電等により火災が発生し、近隣住民等に損害が生じた場合、空家の所有権者はどのような責任を負担するのだろうか。この問題については、不法行為の特別法である失火責任法について理解しておく必要がある。 失火責任法は、我が国に木造家屋が多く、火災が発生した場合にその損害が甚大なものになることが多いことから、失火に対する不法行為責任を特別に軽減し、重過失がある場合に限り不法行為責任を成立させることを目的とした法律である。 ここにいう重過失とは、最高裁によれば「通常人に要求される程度の相当な注意をしないでも、わずかの注意さえすれば、たやすく違法有害な結果を予見することができた場合であるのに、漫然これを見過ごしたような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態」(最判昭和32年7月9日民集11-7-1203)とされており、不法行為責任を負う場面は相当程度限定されている。 それでは、土地工作物の所有権者に無過失責任を負わせる民法第717条と失火者の責任を重過失のある場合に限定する失火責任法は、どちらが優先的に適用されるのだろうか。 この問題を判断した最高裁判例はないものの、大審院時代の判決の中には、たとえば、電力会社が高圧電線の仮設施設の不十分なために火災を起こしたような場合に、失火責任法が優先的に適用され、故意又は重過失のない限り責任を負わないと判示したものがある。一方で、無過失責任たる土地工作物責任が優先するとの下級審裁判例や有力な学説もあり、理論的に固まっていない現状に鑑みれば、空家の所有権者としては、法的な責任を負うことがないよう適正に空家を管理しておくべきである。 (3) 空家が火遊び等により火災の被害に遭った場合 空家に侵入した近所の子どもの火遊びによって火災が発生し、空家が焼失した場合、空家の所有権者は誰に対して損害賠償請求をすることができるだろうか。 まず未成年者に対する損害賠償請求を行うことが考えられるが、民法第712条は、未成年者は他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能(責任能力)を備えていなかった場合に、不法行為責任を負わない旨規定している。 この責任能力に関して、11歳11ヶ月の少年の場合に肯定した裁判例もあれば、12歳7ヶ月の少年の場合に否定した裁判例もあるが、少なくとも小学校低学年のような場合は、責任能力は否定されるものと考えられる。 次に、空家の所有権者は、未成年者の監督責任者である親に対して民法第714条に基づいて損害賠償請求をすることが考えられる。ここでは、被害者救済のために責任無能力者の代わりに監督責任者に責任(代位責任)を負わせた民法第714条と失火者の責任を重過失のある場合に限定する失火責任法の関係をどのように解釈すべきか問題となる。 この問題について、最高裁は、民法714条第1項に基づき未成年者の監督義務者が右火災による損害を賠償すべき義務を負うが、監督義務者に未成年者の監督について重大な過失がなかったときは、これを免れると判示している(最判平成7年1月24日民集49-1-25)。 したがって、空家の所有権者は、被害回復のために、監督義務者の重過失という難しい立証を迫られることになる。 (4) 相続放棄後の留意点 相続人が相続放棄し、他に相続人となる者がいないときに、被相続人の債権者の申立てによって相続財産管理人が選任される場合がある。 この場合、相続放棄をした者は、たとえ遠方に居住していたとしても、相続財産管理人が選任されるまで、当該空家を自己の財産におけるのと同一の注意義務をもって、その財産の管理を継続しなければならない(民法第940条)。 相続人は、相続放棄後も、相続財産管理人に引き継ぐまでの間、損害賠償責任等を追及されることのないよう空家の適正管理を行っておくべきである。 *  *  * 【後編】(6/29公開)では、空家に係る行政上の問題点について整理する。 (了)

#No. 223(掲載号)
#羽柴 研吾
2017/06/22

家族信託による新しい相続・資産承継対策 【第15回】「信託契約作成上の留意点②」-信託目的の設定-

家族信託による 新しい相続・資産承継対策 【第15回】 「信託契約作成上の留意点②」 -信託目的の設定-   弁護士 荒木 俊和   前回に続き、信託契約作成上の留意点について述べる。 今回は「信託契約の目的」を設定することの重要性とその意義を取り上げる。   1 信託目的の設定の意義 信託法上、信託は①契約、②遺言、③信託宣言(自己信託)により成立するものとされるが、共通しているのは、「特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨」を定めることにある(第3条)。 ここでは、「特定の者」(受託者)、「財産」(信託財産)を定めるとともに、「一定の目的」を定めることが必須であるとされている。 一方で、「信託の目的を達成したとき、又は信託の目的を達成することができなくなったとき」は信託の終了事由とされており(第163条第1項)、信託の目的が存在することが、信託の成立の根幹をなしていることがわかる。 すなわち、信託は委託者の意思に基づいて自由に設計することができるが、何らかの目的に従って運用されることが必要であり、目的を失えば信託自体が成立しなくなることを意味している。 このため、信託契約の作成において、信託目的の設定は極めて重要であるといえる。   2 基本的な信託目的の例 信託目的は、委託者の意思に従って定められるものであり原則的に自由ではあるが、信託関係者(特に受託者)にとって明確かつ一定のものでなければならない。 また、信託法上、専ら受託者の利益を図る目的は認められないものとされており(第2条第1項)、一方で民法の一般原則である公序良俗に違反するもの(例えば、違法行為を行う目的等)は認められないものと考えられる(民法第90条)。 信託は受益者のために設定されるものであり、家族信託の場合の基本的な形態は自益信託であって、同一人物が委託者と受益者を兼ねるが、あくまでも(委託者ではなく)受益者としての利益が図られることを信託目的とすべきであろう。 主な信託目的の例としては、以下のようなものが挙げられる。 ・財産の管理の負担をなくす(低減させる)こと ・認知症等により財産の管理が不可能となった場合に、受託者において財産の管理・処分を可能とすること ・収益不動産の管理運用を委ね、安定的な収益を図ること ・詐欺等の被害を防止し、安全かつ安定的な生活を確保すること ・死亡後の財産管理を受託者に委ねること ・信託終了時に信託財産を帰属権利者に移転すること なお、これら信託の目的は必ずしも1つである必要はなく、複数の目的が混在するものであっても構わない。ただし、相互に矛盾することがないよう調整を図る必要がある。   3 受託者の行動基準としての信託目的 上記のとおり、信託目的の設定は必ず行われるものであるが、その主たる目的は『受託者の受託業務の行動基準を画すること』にある。 信託契約によっては具体的な受託業務の内容を規定するケースもあるが、基本的には、受託者は信託財産に関して、以下のような行為を行う広範な権限を持つ。 家族信託においては、親が子に対して包括的に財産の管理・処分を委ねる場合が多く、特に受託者の権限に制限を設けないことも多い。また、家族信託は長期間の信託の継続が予定されることが通常であるため、目先の部分で受託者に制約を課すことができたとしても、10年後、20年後においては、その制約の設け方が妥当とはいえなくなってくる可能性もある。 このため必要となるのが、受託業務の行動基準を定める信託目的なのである。 受託者はこの信託目的があることで、どのような方向性をもって信託財産の管理・運用等を行えばよいか判断でき、その方向性に従った行動を取るべきであるという基準を持つことができる。 受託者がそのような方向性に従った受託業務を行うことで、結果として委託者が望む信託の実現を図ることができる。   4 受益者や信託監督人による「監督の基準としての信託目的」 一方で、上記のように受託者の権限範囲が広いことから、受託者のもつモラルや遵法意識によっては、受託者自身が暴走してしまうという懸念もある。 このため、委託者としては、受託者が身勝手な行為を行い信託財産に損害を与えるようなことを防ぐために、受託者の権限に一定の制約を設けることが必要な場合がある。この意味においても、信託目的の設定が影響することになる。 すなわち、信託目的自体は直接的に受託者のなすべき個別具体の行為を確定させるものではないが、受託者が信託目的に反する行為を行った場合には善管注意義務違反(第29条第2項)として、受益者が受託者に対し差止請求や損害賠償請求を行うことが想定される。 さらに、将来的に受益者の認知能力が危ぶまれるような場合には、信託監督人を設置することにより、受益者に代わって信託監督人に差止請求や損害賠償請求を行わせることも可能である(【第8回】参照)。 いずれにしても善管注意義務違反というのは幅の広い概念であることから、信託目的を明示しておくことで善管注意義務の内容を明確にできるという効果があり、それに基づいて受益者や信託監督人等による監督が可能となる。 (了)

#No. 223(掲載号)
#荒木 俊和
2017/06/22

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例16】株式会社東芝「2016年度通期業績見通しに関するお知らせ」(2017.5.15)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例16】 株式会社東芝 「2016年度通期業績見通しに関するお知らせ」 (2017.5.15)   事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる適時開示は、株式会社東芝(以下「東芝」という)が平成29年5月15日に開示した「2016年度通期業績見通しに関するお知らせ」である。 この連載で同社の開示を取り上げるのは、【事例1】の平成27年11月17日「当社子会社であるウェスチングハウス社に係るのれんの減損について」、【事例11】の平成28年12月27日「CB&Iの米国子会社買収に伴うのれん及び損失計上の可能性について」に続いて、実に3回目である。 この開示の最初には、次のような記載がある。要するに、決算短信を開示する予定であったが、開示できないので、代わりに「業績見通し」なるものを開示するというのである。 なお、決算短信は会計監査の対象外であるため、会計監査終了前であっても、会社が決算の内容が定まったと判断すれば、開示できる。この開示には、「業績見通し」について、「当社の責任において当社としての見通し及び見解を記述したもの」であるという記載がある。ならば、同社の見解として、決算短信を開示してもいいのではないかと思われる。 しかし、決算短信を開示した後、監査法人の指摘により財務諸表の修正が必要になれば、決算短信を訂正しなければならない。投資家の投資判断に大きな影響を与える決算短信の訂正は避けなければならないはずであるし、訂正開示が投資家に与える心証も良いものではない。 そのため、多くの会社は、監査法人との間の見解の相違がなくなり、決算短信を訂正することはないという確信を得られるまでは、決算短信を開示しない。   2 以前にも同様の開示が 東芝はこれと似た開示を以前にも行っている。平成29年2月14日に開示した「『2016年度第3四半期および2016年度業績の見通し並びに原子力事業における損失発生の概要と対応策について』のお知らせ」である。 この開示の最初には、次のような記載がある。 この開示も、第3四半期決算短信を開示できないので、代わりに行われたものである。 同社は、監査法人から四半期レビューの結論を得られ次第、第3四半期決算短信を開示しようと考えていた。しかし、結局、監査法人は結論を表明しなかったため、平成29年4月11日、四半期財務諸表について結論不表明という状態で「平成29年3月期第3四半期決算短信」を開示するという前代未聞の事態に至ったのである。   3 上場廃止は回避できるのか? 東芝の平成29年3月期決算短信は、「平成29年3月期第3四半期決算短信」と同じパターンをたどるのだろうか。すなわち、財務諸表について意見不表明という状態で開示されることになるのだろうか。もしもそうなれば、同社が上場廃止となる可能性は極めて高くなる。 同社の平成29年3月期第3四半期財務諸表に対する監査法人による四半期レビュー報告書の「結論の不表明の根拠」には、次のような記載がある。 それに対して、東芝は、「四半期レビュー報告書の結論不表明に関するお知らせ」において、次のように記載している。 監査法人が「あるのでは?」と尋ねたものについて、東芝は「ない」と答え、監査法人は結論を表明しなかった。 「ある」ことではなく「ない」ことを証明し、相手に理解させるのは難しい。 現状のままでは、平成29年3月期の財務諸表に対して監査法人が意見を表明する可能性は低いだろう(この状態で無限定適正意見が表明されたら驚きであり、仮に表明されたとしても限定付適正意見ではないか)。   4 監査法人交代報道に対して 東芝が「平成29年3月期第3四半期決算短信」を開示した後、同社が監査法人を代える判断をしたというマスコミ報道が流れた。筆者は、この報道に対して、同社がどのような開示を行うのかについて関心を持っていた。そして、その開示をこの連載で取り上げたいと思っていた。 東京証券取引所(以下「東証」という)は、適時開示が行われる前にその情報がマスコミによって報道され、投資家に憶測が生じたような場合、上場会社がその憶測を解消する開示(「本日の一部報道について」といったタイトルで通常開示される)を行うまで、投資家に対して注意喚起を行うこととしている(東証・業務規程30条)。 今回の監査法人交代報道は、「別の監査法人が東芝の監査を行うことになり、監査意見を出すかもしれない。そして、上場が維持されるかもしれない」といった憶測を投資家に生じさせたはずである。しかし、東証は投資家に対して注意喚起を行わず、東芝もその憶測を解消する開示を行わないまま現在に至っている。 東証は、「投資家は東芝を十分注意して見ているだろうから、今さら注意喚起しなくてもいいのでは」と判断したのだろうか。 (了)

#No. 223(掲載号)
#鈴木 広樹
2017/06/22

コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)の解説 【第5回】「まとめ~その他の論点(経営陣の指名の在り方・報酬の在り方、相談役・顧問の役割)~」

コーポレート・ガバナンス・システムに関する 実務指針(CGSガイドライン)の解説 【第5回】 (最終回) 「まとめ~その他の論点(経営陣の指名の在り方・報酬の在り方、 相談役・顧問の役割)~」   PwCあらた有限責任監査法人 ディレクター 井坂 久仁子   本シリーズでは、2017年3月31日に経済産業省から公表された「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」を取り上げている。CGSガイドラインは、2015年6月から適用が開始された「コーポレートガバナンス・コード」(以下、CGコード)の内容を補完し、企業価値向上のための具体的な行動を示す目的で取りまとめられたものである。 今回は本シリーズの最終回として、CGSガイドラインから、経営陣の指名・報酬の在り方及び相談役・顧問に関する項を取り上げ、それらの概要を解説する。 なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることを予めお断りする。   〔経営陣の指名の在り方〕 近年、法定による指名委員会もしくは任意の指名委員会を設置する企業が急増している。CGS研究会報告書の参考資料「コーポレートガバナンスに関する企業アンケート調査結果」(以下、企業アンケート)(p43)によると、回答を寄せた全874社のうち約36%の企業が指名委員会(法定もしくは任意)を設置しているものの、約27%の企業ではその審議対象が、社長もしくはCEOの指名ではないという結果であった(p47)。 一方、望ましいコーポレートガバナンスにおいては、企業価値向上の中心的役割を果たすCEO・社長など経営陣の適切な選任とインセンティブ(報酬)の付与、そして、その成果をチェックする仕組みは、全ての企業において必須であると考えられることから、CGSガイドラインにおいて、次の2つの提言がなされている(CGSガイドラインp25,p26)。 提言(1)では、執行側から「複数」の候補者を示すことの検討が促されている。これは、企業アンケート(p40)において、全874社のうち、単一の次期社長・CEO候補者を選定している企業が約37%、複数の候補者を選定している企業が約12%という結果であったことから、主に社外取締役などによる候補者に関する審議・評価の深度を高めるための提言である。つまり、候補者が1人しかいなければ、他の候補者との比較の観点から、指名委員会メンバーである社外取締役などが十分な検討ができないかもしれないということである。 なお、ここでの「複数」という表記に関しては、具体的に何名か、という詳細には触れていない。各社が自社にとって最適な候補者数を決定するということであろう。 提言(2)では、取締役の指名に際して、個々の経営陣・取締役の資質の検討のみならず、個々の取締役を選任した結果の「取締役会全体としての構成(多様性=ダイバーシティ)」の検討を促している。 例えば、各取締役がいかに優秀な人材であろうと、全員が同一の専門性にのみ秀でた人材では、取締役会において多角的な視点からの審議が十分に実施できないかもしれない。 取締役会に求める役割(例えば、監督機能重視なのか意思決定機能重視なのか)は、会社のコーポレートガバナンス体制によって異なるが、取締役会全体として、各社が求める取締役会の役割と機能を十分に発揮するために必要な資質を兼ね備えたメンバー構成(多様性を含む)となるように、各取締役を指名する仕組みの充実を求めている。   〔経営陣の報酬の在り方〕 企業アンケート(p59)では、報酬委員会(任意を含む)を設置する企業数は、全体の約40%となっている。また、企業アンケート(p74)によると、短期の業績連動報酬を導入している企業が多く(重複を除き、約61%)、中期の業績連動報酬を導入している企業は少ない(重複を除き、約14%)。また、業績連動報酬を導入していない企業も約22%存在する。 一方、コーポレートガバナンスの観点からは、社長・CEOなど経営陣に対する「適切なリスクテイクを促す適切なインセンティブ」によって中長期的な企業価値の向上が図られることから、CGSガイドラインでは、次の2つの提言がなされている(CGSガイドラインp28,p31)。 提言(1)は、そもそも業績連動報酬を導入していない企業に対して、その導入を促すものである。これは、固定報酬のみの報酬体系では、経営陣が積極的に企業価値向上に向けた行動をとるための動機づけが弱いという認識に基づいている。さらに、自社株報酬の導入によって、株主の立場を経営陣がより理解しやすくなるというメリットが想定されている。 ただし、業績連動報酬や自社株報酬の導入に際しては、まず、「経営戦略を定める」こと、それを踏まえた「経営指標の設定」、そして、それを実現するための「報酬体系の設計」が必要であるとされている。 提言(2)は、企業が役員報酬体系について、積極的に情報発信をすることを提案している。 諸外国では、例えばUKのように役員報酬報告書を上場会社が作成し、詳細な報酬スキームと個別報酬金額を開示することが要求されている事例もあり、このような役員報酬の積極的開示が株主・投資家と企業の対話を促進するものと考えられている。 なお、業績連動報酬については、平成29年度税制改正によって、損金算入可能な中長期業績連動報酬及び株式報酬について大幅な改正がなされている。税制面の明確化によって、今後より一層、中長期業績連動報酬の導入機運が高まることであろう。 上記の他、CGSガイドラインでは、指名委員会・報酬委員会の活用に関しても複数の提言がなされているので、詳しくはCGSガイドラインp31以下を参照されたい。   〔相談役・顧問の役割(経営陣のリーダーシップ強化の在り方について)〕 本連載の【第3回】では、経営陣のリーダーシップ強化の在り方を取り上げた。この論点に関連しては、昨今、自社の社長・CEOを退任した相談役・顧問の位置づけが注目されている。 企業アンケート(p116)によると、全874社のうち、約78%の企業において、相談役・顧問の制度が存在する。現在、相談役・顧問が在任中である企業は、全体の約62%となっており、さらにそのうち、社長・CEO経験者が相談役・顧問に就任している企業は約58%である(p117)。 これらの「相談役、顧問の役割」としては、役員経験者の立場からの現経営陣への指示・指導と回答した企業が約36%と最も多く、次に、業界団体や財界での活動など事業に関連する活動の実施と回答した企業は約35%存在している(p118)。 各社の相談役・顧問が果たす役割はそれぞれ異なるものの、現在の社長・CEOが、大先輩である相談役・顧問に遠慮することなくリーダーシップを発揮するには、相談役・顧問による潜在的に不適切な影響を排除する必要があるだろう。 そこで、CGSガイドラインは、次の提言を行っている(CGSガイドラインp38,p39,p40)。 CGSガイドラインでは、相談役・顧問を一律に否定するものではなく、役割の明確化と報酬などの処遇の情報開示強化による透明性確保を要求している。 さらに、元社長・CEO経験者は、自社に相談役・顧問として留まるというよりは経営の専門家として、他の上場会社の社外取締役候補となり活躍することが期待されることが明示されている。   〔まとめ〕 本連載の【第1回】に記載のとおり、本CGSガイドラインの対象は、①コーポレートガバナンスにこれまで積極的に取り組んできた先進的な企業群、②コーポレートガバナンスに取り組み始めた企業群、③コーポレートガバナンスにこれまであまり関心を持っていない企業群やコーポレートガバナンス改革に着手できていない企業群、という3分類のうち、主に②を対象としたものであるとされている。そのような企業にとって、本CGSガイドラインは、実務上有用な参考情報を提供するだろう。 一方、上記①の企業群にとっても、本CGSガイドラインがこれまでの取組の検証のための参照情報として活用され、また、上記③の企業群にとっては、コーポレートガバナンス強化に向けた取組の第一歩を踏み出すための参考情報としての活用が期待される。 コーポレートガバナンス・コード適用開始から3年が経過し、形式的な体制の整備から実質的なコーポレートガバナンス強化を実践する段階に移行した。本CGSガイドラインは、全ての上場会社及び非上場会社が、それぞれのガバナンス強化を進めるうえで有用なものといえる。 (連載了)

#No. 223(掲載号)
#井坂 久仁子
2017/06/22
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