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組織再編時に必要な労務基礎知識Q&A 【Q5】「A社とB社が合併した場合、両社にある就業規則はどちらが適用されるのか」

組織再編時に必要な労務基礎知識 Q&A 【Q5】 A社とB社が合併した場合、両社にある就業規則はどちらが適用されるのか   特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ   【A】 合併の場合はすべての権利義務が包括的に承継されるため、労働条件を定めた就業規則も承継される。よって、新会社にA社、B社の2つの就業規則が併存し、基本的には合併前と同様にA社、B社の就業規則がそれぞれに適用されることになる。 なお、合併後、同一の会社に複数の就業規則が併存することにより労務管理に混乱をきたすことが想定されるため、合併日以前にできる限り就業規則の統一を図っておく必要がある。    合併の場合の就業規則 合併の場合は、存続会社又は新設会社に消滅会社のすべての権利義務が包括的に承継されるため、労働条件を定めた消滅会社の就業規則も承継される。 したがって、A社とB社が合併した場合、合併後は、A社の就業規則とB社の就業規則が併存することとなり、基本的には、合併前にA社に在籍していた従業員にはA社の就業規則が、合併前にB社に在籍していた従業員にはB社の就業規則がそれぞれ適用されることとなる。    労働条件の統合 合併後、複数の就業規則が併存し、旧在籍会社によって適用される就業規則が異なるとすれば、労務管理に混乱をきたすことが想定される。例えば、「土日祝日休み」の会社と「土日休み」の会社が合併した場合は、机を並べて勤務していても、祝日が休みとなる従業員と祝日が出勤日となる従業員が混在することになる。 合併前と同じ労働条件だとはいえ、祝日に出勤する従業員に「合併したのになぜ休みが違うのだろうか?」と不満を抱くきっかけを与えることになりかねず、また、労働条件の違いから合併による一体感も醸成されにくくなるだろう。 このような混乱を避けるためにも、合併日、又は、それより前に、各社の就業規則を踏まえて、できる限り労働条件の統一を図っておく必要があるといえる。    労働条件の差異分析 各社の就業規則を踏まえて労働条件の統一を図るために必要なプロセスが、「労働条件の差異分析」となる。まずは、各社の就業規則を踏まえて項目ごとに労働条件の洗い出しを行い、その差異を分析して新しい労働条件を検討する。 差異分析の対象となる労働条件の項目は多岐にわたるが、主なものを例示すると以下の通りとなる。 特に休日・休暇は従業員の注目度が高い項目となるため、丁寧な洗い出しが必要となる。また、出張が多い会社においては、出張旅費(日当)の金額も従業員の関心事となるため確認が必要だ。 労働条件の洗い出しは就業規則に記載されている事項を基に行うが、就業規則に記載されている事項だけを洗い出せばよいかというとそうではない。就業規則に記載されている事項と実態が異なっていたり、就業規則には記載せずに適用している労働条件もあるからだ。 労働条件の差異分析においては、それらも含めたすべての洗い出しが必要となる。 このように、労働条件の差異分析を踏まえて合併後の労働条件を決定した後に、就業規則の改定が必要となる。また、新しい就業規則で定めた労働条件がこれまでの労働条件を不利益に変更することになる場合には、労働契約法第10条を踏まえた対応が求められる。 なお、合併日までにすべての労働条件を統一することができればよいが、合併等の組織再編はスケジュールがタイトな中で進行し、十分な検討時間を確保できない場合も多い。よって、給与制度や退職金制度等の合併後の労働条件を検討するために多くの時間を要するものについては、合併後、一定期間経過後に統一する対応も実務的にはよくみられる。 この場合は、就業規則の一部のみを統一して改定することとなる。 (了)

#No. 236(掲載号)
#岩楯 めぐみ
2017/09/21

税理士が知っておきたい[認知症]と相続問題〔Q&A編〕 【第18回】「会社代表者が契約締結時に認知症であったとして契約の無効を訴えられた場合」

税理士が知っておきたい [認知症]と相続問題 〔Q&A編〕 【第18回】 「会社代表者が契約締結時に認知症であったとして 契約の無効を訴えられた場合」   クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎   [設問15] 私は、【設問05】でも相談させていただいた者(高齢社長の息子)です。 そのとき相談した同業他社の買収の件ですが、その後、契約交渉は順調に進み、最終的に当社が相手先企業の全株式を1億円で購入することで合意し、株式譲渡契約を締結しました。 しかし、当社からの代金支払期限の直前になって、相手先の社長が と言い出したのです。 ◆  ◆  ◆ 相手先は、表向きは判断能力のことを理由にしていますが、本当の背景は、ここ数年は建設業界の景気が良く、相手先企業の業績も予想以上に高水準となる見込みであることから、1億円で会社を譲渡することが惜しくなったのではないかと推測されます。 私たちとしては、一度契約を締結した以上、約束通り契約を履行して欲しいと思いますが、今後どのように対応すればよいでしょうか。 また、立場を変えて、契約の相手先企業の代表者が高齢であるケースでは、どのような点に注意すればよろしいでしょうか。   1 「意思能力がないことによる無効」を主張できるのは誰か? 一般的な傾向として、会社経営者の高齢化が進んでいること、これに伴い事業承継等の根本的な対応が必要であることは、Q&A編【第5回】で説明した。 今回は、関連する問題を取り上げてみたい。 【設問15】では、既に相手先企業との間で締結された株式譲渡契約について、相手先が無効を主張しているということである。 結論を言えば、このような一方的な無効主張は認められないものと考えられる。 なぜならば、解説編【第3回】でも説明したように、法が契約締結に際して意思能力・判断能力を要求した趣旨は、これを欠く者を保護するためであった。 そうしてみると、意思能力の有無が問題となっている当の本人が契約の無効を主張しないにもかかわらず、契約の相手方に無効主張をさせる必要はないからである。 また、本来は一方的な契約破棄が許されないにもかかわらず、契約の相手方代表者の意思能力にかこつけて、これを許すことは不当だからである。   2 相手方が契約無効を争う場合の対処法 そこで、【設問15】における相談者側の対応としては、まず、①以上の内容・結論を相手先に十分説明し、契約の履行(本件では、譲渡代金の受取りと株主名簿の書換等)を促していくということになる。 ただし、客観的に見て合理的かつ正当な内容をいくら説明しても、特に中小企業においては、会社経営者の性格(ワンマン経営者等)や社風等により、正当な内容でも頑なに拒絶して受け入れない場合も少なからず存在する。 一般に“法的紛争”と言われるものの中には、このように、「客観的に見れば争う余地のない事案」も相当含まれているのが実情である。法律上の当否は明白でも、話し合いだけでは決着せず、調停や訴訟に持ち込まれることも少なからずあるのである。 そこで、②相手先との話し合い解決が難しいようであれば、やむなく株主名簿の書換請求訴訟(加えて、株券発行会社の場合は、株券の引渡請求)を裁判所に対して提起し、裁判手続での解決を図っていくという対応も検討することとなる。 一般に、裁判手続という“強行的手段”を取ることはなるべく回避したいという声も多く聞く。しかし、進展しない話し合いを延々と続けることは、かえって時間と費用を無駄にすることにつながる。 当方の主張に法律上の正当性があるということであれば、話し合いの進捗を見ながら、早めに裁判手続に切り替える方が早期解決につながることが多いというのが、他の民事紛争も含めた筆者の感想である。   3 「高齢者を代表取締役とする会社」と取引する際の注意点 本稿の最後に、【設問05】あるいは【設問15】のように「高齢者が代表取締役に就任している会社」と取引する際の一般的注意点について、ポイントを紹介したい。 なお、高齢者を代表者とする会社自身の対応策については、既にQ&A編【第5回】で説明したので、そちらをご参照いただきたい。 (1) 契約書中に表明・保証条項を入れる 「表明・保証条項」とは、一定の時点(たとえば契約締結時)において、契約に関連する特定の事実・事項が存在すること/存在しないことを当事者が契約書上で表明し、事実が真実であると保証する条項をいう。 このような表明・保証条項は、もともと英米法での契約実務において発展してきたものであるが、近時ではとりわけ企業の買収・譲渡に関する契約書(いわゆるM&A契約)において条文化されることが多くなった。 【契約締結能力と社内手続に関する表明・保証条項の例】 このような表明・保証条項が契約書に盛り込まれていれば、後日に代表者の契約締結能力や社内手続を理由に契約の効力が争われる確率は格段に減り、契約の安定性は増すであろう。 (2) 契約交渉前/交渉時に、できるだけ情報収集に努める 後日に契約の有効性を争われるリスクは、できるだけ早期に見つけ出し、対策を立てておくに越したことはない。 ただそうは言っても、「相手方企業の代表者が法律上の判断能力を有しているか」を社外の者が確認することは困難であり、通常はこのようなことを話題に出すこと自体も憚られるところであろう。 そこで、情報の入手方法としては、①相手先企業のウェブサイトにおける会社沿革や代表者プロフィール等を参照する、②業界紙等における代表者のインタビュー記事等を参照する、③東京商工リサーチ等の信用情報機関を通じて会社情報を入手し参照する、④契約の仲介者や同業者を通じた情報収集等が現実的なところと言えよう。 情報収集の結果、万一、相手先企業の代表者が高齢であることや判断能力に懸念がある等の事情が発見された場合には、前記の表明・保証条項を契約書に盛り込む等の対策を講じておけば安心だろう。 (了)

#No. 236(掲載号)
#栗田 祐太郎
2017/09/21

〈ドローン・ビジネス関係者は必ず知っておきたい〉ドローンをめぐる法律と規制の基礎知識

  〈ドローン・ビジネス関係者は必ず知っておきたい〉 ドローンをめぐる法律と規制の基礎知識   森・濱田松本法律事務所 ロボット法研究会 弁護士 戸嶋 浩二 弁護士 林 浩美  弁護士 岡田 淳  弁護士 増田 雅史   1 はじめに 「ドローン・ビジネス」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。高精細カメラによるニュース映像や災害情報の無人空撮、離島や山間部など自動車交通が難しい地域での食品や日用品の宅配ビジネス、群体飛行する小型ドローンが織りなす夜空のライトショー・・・いずれも、情報通信技術やGPSの発達により技術上は既に十分な実現可能性のあるビジネスである。地上に暮らす我々にとって、一部の限られた移動手段を除きほとんど利用されることのなかった広大な上方空間は、地球上で最後のフロンティアといえるかもしれない。 他方、個人所有のドローンが急速に普及したことで、後述する「首相官邸ドローン侵入事件」のように、ドローンによる事件や事故も頻発することとなった。 このような背景から、ドローン・ビジネスの産業としての発展、安全・安心の確保、という異なる命題をバランスよく実現するため、航空法の改正後も望ましい法制度の在り方が継続的に検討されている。本稿では、改正航空法のポイントを簡潔に紹介したい。   2 首相官邸ドローン侵入事件と航空法の改正 安倍政権がドローンを含むロボットの活用を成長戦略に掲げた矢先の2015年4月、首相官邸の屋上に落下している小型のマルチコプター型ドローンが発見された。同事件は後に意図的なものであったことが判明し、これを契機としてドローン規制の機運が高まった。そして2015年9月、ドローンを新たな規制対象とする改正航空法が異例のスピードで成立した。 それまでの航空法は、人を乗せることが可能な航空機のみを念頭に置いたものであって、ドローンの飛行について具体的なルールを定めた法令はなかった。 そこで同改正法は新たに「無人航空機」を定義し、重量200gを超えるドローンを正面から規制対象とした。なお、この「重量」とは本体とバッテリーの合計重量を指し、着脱可能な付属品の重量は含まれない。 では、どのような規制があるのか見ていこう。   3 規制その1:飛行空域の制限 まずは飛行空域の制限である。下記の2つの制限がある。 このうち、特にドローン・ビジネスとの関係で問題になりやすいのが②の人口集中地区(Densely Inhabited District:DID)だ。どの地域が対象となるかは、国土地理院ホームページ「人口集中地区(DID)平成27年」や、政府統計の総合窓口が提供している「地図による小地域分析」(jSTAT MAP)で確認できる。東京都では、例えば23区は全域が人口集中地区である。 制限空域内でドローンを飛ばすためには、国土交通省の許可が必要となる。ただし、屋内(上方・四方をネットで囲われドローンが飛び出すことのない場所を含む)であれば許可は不要である。 なお、国会議事堂、首相官邸など、一部枢要施設の周辺に関しては、2016年3月に成立した別の特別法により、ドローンの飛行は一律に禁止されている。このほか、地方自治体によっては条例等による規制もあるため注意を要する。   4 規制その2:飛行方法 飛行方法についても、下記のルールを守って飛行する必要がある。これに従わない方法で飛行するには、国土交通省の承認が必要となる。 特にドローン・ビジネスの障害となりそうなのは、②目視要件である。GPSやカメラのみの情報に頼った飛行は原則不可ということになる。また、③30m要件も、30mの範囲内に人又は物件が一切ない地域というのは日本国内では珍しく、ドローン・ビジネスに際して承認が必要となる原因の1つである。   5 許可・承認の申請 飛行空域の許可、飛行方法の承認を得るためには、地方航空局等に対して少なくとも10開庁日前までに申請する必要がある。申請の混雑などにより、許可・承認が10開庁日以内に出されないこともあるため注意が必要だ。申請方法は国土交通省ホームページ「3. 許可・承認手続きについて」にまとめられている。 空域や飛行方法の制限範囲は上記のとおり広いので、新たなドローン・ビジネスを考える場合、許可・承認申請はほぼ必須となる。改正航空法の施行から1年間だけを見ても、12,300件の申請が行われ、10,120件の許可・承認があった。 申請の審査は、「無人航空機の飛行に関する許可・承認の審査要領」に従って行われる。具体的には、下記の3つの「基本的な基準」と「飛行形態に応じた追加基準」に従って判断される。 「追加基準」の中には、目視外飛行を行う場合の記載もあるが、そこには飛行経路全体を見渡せる位置に補助者を配置することなどが定められている。補助者を置かずにGPSやカメラを利用して自律的な飛行を行う場合、承認を得るには困難が伴うだろう。   6 おわりに 上記のとおり、航空法上の規制は、大枠として安全なもの以外を禁止した上で、個々の事案を吟味して許可・承認を与えるという構造となっている。ドローン・ビジネスの発展・誕生にとっては、許可・承認に関する事例の蓄積を踏まえつつも、機体に関するテクノロジー(自律飛行、バッテリー)の向上等の将来的な動きを見すえて、安全確保とビジネス成長のバランスが取れた法規制に関する議論が今後求められるだろう。 航空法以外でも、例えば、他人の土地の上を飛行できるのか、ドローンを操作する電波については電波法の規制、撮影される映像についてはプライバシー権の保護、ドローンが事故を発生させた場合の責任の所在はどこにあるかなど、ドローンに関する法律問題は極めて多岐にわたっており、その議論は緒に就いたばかりである。 筆者らが所属する森・濱田松本法律事務所 ロボット法研究会は、上記のような法規制等をより詳細に解説した国内初のドローン法律本である『ドローン・ビジネスと法規制』(清文社)を本年5月に上梓したが、今後も研究成果を積極的に公表し、制度整備にも関わっていきたい。 (了) ◆ドローンをめぐる法規制等の最新動向と 飛行ルール、許可・申請を詳細に解説! 『ドローン・ビジネスと法規制』 ▷▷[こちら]で割引販売中!! ▷▷Amazonでの販売は[こちら]!! 著 者: 森・濱田松本法律事務所 ロボット法研究会編 弁護士 戸嶋浩二、弁護士 林浩美、弁護士 岡田淳 編集代表 発 行:2017年5月22日 判 型:A5判264頁 ISBN:978-4-433-67257-7 定価:3,024円(税込) 会員価格:2,722円(税込)

#No. 236(掲載号)
#森・濱田松本法律事務所 ロボット法研究会
2017/09/21

民法(相続関係)等改正「追加試案」のポイント 【第4回】「追加試案で新たに示された改正内容(その3)」

民法(相続関係)等改正「追加試案」のポイント 【第4回】 (最終回) 「追加試案で新たに示された改正内容(その3)」   弁護士 阪本 敬幸   ここまで2回にわたり追加試案で新たに示された改正内容について解説を行ってきたが、連載最終回となる今回は最後の論点である「遺留分制度に関する見直し」に係る事項について検証を行う。   5 ⑤遺留分制度に関する見直しについて 解 説 1 「(1)遺留分侵害額の請求」について 中間試案でも示されていたところだが、遺留分権利者による権利行使により、当然に物権的効果が発生する(目的物が特定物の場合、遺留分侵害する範囲についての権利が、当然に遺留分権利者に移転する(最判昭51.8.30))とする現行の遺留分減殺請求の制度を改め、遺留分権利者は、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを求めることができるとするものである。 その趣旨は、現行制度のように原則として物権的効果が発生する場合、受遺者・受贈者の意に反して目的物の共有関係が発生し、共有関係解消のために新たな紛争が生じる・円滑な事業承継ができないといった不都合が生じる恐れがあるところ、このような不都合を防止する点にある。 現行制度でも、受遺者・受贈者は価額弁償によって、減殺された目的物の返還を免れることができるとされているが(民法1041条)、本提案は原則と例外を逆転するものといえる。 現行の遺留分減殺請求は、目的物の権利の一部をまさに「減殺」するものであるが、本提案によれば、遺留分権利者は「遺留分権に基づく金銭支払請求」をなし得るということになる。本提案に基づいた立法が行われた場合、「遺留分減殺請求」という呼称も変更されるものと思われる。   2 「(2)受遺者又は受贈者の負担額」について 上記の通り、本提案によれば、遺留分権利者は目的物を「減殺」するわけではなくなるので、「減殺」と明記している現行法の規定を変更すべく、本提案が出されている。現行法で定められる減殺の順序(民法1033条から1035条)は変更されず、(2)のア~ウは、それぞれ、民法1033条~1035条に対応している。 括弧書きの「受遺者又は受贈者が相続人である場合にあっては、当該相続人の遺留分額を超過した額」は、民法1034条の「目的の価額」に関する判例(最判平10.2.26)の解釈を明らかにするものである。   3 「(3)受遺者又は受贈者の現物給付」について ▷ア(受遺者・受贈者の現物給付) 本提案は、原則として遺留分権利者は金銭請求ができるとすることの例外として、受遺者・受贈者の側から、その指定する財産現物による給付を請求できるとするものである。 その趣旨は、金銭請求を受けた受遺者・受贈者が金銭での支払いしかできないとすると、受遺者・受贈者が直ちに支払いができないために廉価で目的財産を処分せざるを得なくなるといった恐れが生じ、受遺者・受贈者に酷な事態となることを防ぐ点にある。 中間試案では、現物給付について、裁判所が給付内容を定めるとする甲案と、現物給付の主張がなされた場合に現行法と同様に直ちに物権的効果が発生する(遺留分権利者との共有関係が生じる)とする乙案が提案されていた。本提案は、甲案・乙案のいずれとも異なり、受遺者・受贈者に、現物給付する目的財産の指定権を与えるものである。 現行法の解釈では、受遺者・受贈者は、一部の財産のみ現物給付し、一部については価額弁償をするといった方法を採ることが認められているところ、本提案でも、受遺者・受贈者にどのように遺留分を填補するかを決定する権利を与えたものといえる。 ▷イ(現物給付請求の時期) 本提案は、受遺者・受贈者による現物給付請求の時的限界を定めたものであり、その趣旨は、紛争の長期化の防止・法的安定性を図る点にある。 本提案では、現物給付請求を行う時期について、①訴訟の第一審又は控訴審の口頭弁論終結時までとする案と、②金銭請求を受けた後一定期間(例えば1年間)とする案の2つが示されている。 ②案は明確であるが、①案は、審理の差し戻しの場合などもあり基準として不明確であるという指摘がある。 ▷ウ(現物給付請求の効果) 本提案は、現物給付請求の効果を定めるものである。 受遺者・受贈者が現物給付請求をした場合、①請求をした時に、②その指定した財産(指定財産)の価額の限度で金銭債務が消滅し、③指定財産に関する権利が遺留分権利者に移転する、という効果が発生するとされる。 ▷エ(遺留分権利者による指定財産に関する権利の放棄) 本提案は、現物給付請求を受けた遺留分権利者は、請求を受けた時から一定期間内に限り、権利移転した指定財産の権利を放棄できるとするものである。指定財産の権利の放棄ができるとするのみであるから、上記ウ②記載の金銭債務の消滅という効果は覆らない。 その趣旨は、現物給付請求の効果として、指定財産に関する権利が遺留分権利者に(遺留分権利者の意思にかかわらず)移転する以上、受遺者・受贈者が現物給付請求権を行使することにより、例えば汚染された不動産等、無価値・不要な財産を指定財産として遺留分権利者に押し付けるようなことも可能となるところ、このような事態から遺留分権利者を保護するところにある。 権利放棄できる期間は、現物給付請求を受けてから2週間・1ヶ月というものが提案されている。 ▷オ(遺留分権利者による権利放棄の効果) 本提案は、遺留分権利者による権利放棄により、当初から指定財産の移転はなかった、すなわち受遺者・受贈者の財産のままとすることを規定する。 権利放棄時からではなく「当初から」として、遡及効を規定するものであるが、上記のとおり権利放棄できる期間は2週間・1ヶ月という短期間を検討しているため、第三者保護規定を設けることは考えていないようである。   -終わりに- 以上、相続関係の改正に関する追加試案について解説してきたが、当然、改正時には追加試案から変更される点もあるため、今後の動きにも注目しておくことが望ましい。   (連載了)

#No. 236(掲載号)
#阪本 敬幸
2017/09/21

海外勤務の適任者を選ぶ“ヒント” 【第6回】「海外でのリスク管理とトラブル対応には訓練が必要?」

海外勤務の適任者を選ぶ“ヒント” 【第6回】 「海外でのリスク管理とトラブル対応には訓練が必要?」   中小企業診断士 西田 純   連載第6回目は、海外業務における「リスク管理」の考え方と、それでも発生する「トラブルへの対応」が重要である、という視点についてお話します。 よく「リスク」とは「不確実性」のことであり、それを「危険」と同一視するのは間違いだ、という話を耳にされると思いますが、海外勤務など実務の最前線にいる人間にとっては、往々にして不確実性がトラブルの元になるものです。 今回は「不確実性」が「危険因子」になることを十分に意識して議論を進めたいと思います。   1 「海外業務」のリスクとは (1) 国内業務のリスクとは質・量ともに大きく異なる 一般的に言って、国内における業務に比べると、海外勤務では直面するリスクが大きくなるというケースが多いです。 それは などの理由によるものですが、その結果として海外で直面するリスクは、「単に大きい」という以上に、「量・質ともに国内業務で直面するリスクとは種類の異なるもの」であることを想定しなくてはなりません。 (2) 日本人はトラブルの発生を諦める? 昔から、天災や干ばつによる農業被害と付き合いながら生きてきた伝統によるものなのかもしれませんが、日本語には「仕方ない」「しょうがない」といった表現があり、日本人は、たとえそれが準備不足の結果として発生したトラブルであっても、事後対応を優先する中で、原因追及などをあっさりと諦めてしまう傾向にあります。 実は、そのような態度や考え方は、世界的にはむしろ珍しく、危険因子を事前に排除するのも、運悪く万一のトラブルに巻き込まれた場合に諦めず原因を検証するのも、人間の一般的な対応として「当たり前」のことなのだと認識してください。 (3) 日本社会の気配りが「リスク感度」を鈍らせることも 上で述べたように、業務に危険因子が存在するのはむしろ当たり前なのですが、日本社会ではあらゆるところでリスク軽減の“気配り”がなされているため、どうしても感性が鈍りがちです。 例えば日本では、レストランで出される皿は清潔なものと決まっており、それをわざわざ紙ナプキンで拭きなおす人はほとんどいないと思います。客が皿を拭くのは、諸外国(特に途上国)ではある程度の高級レストランでも時折見かける光景で、店の側も不審な目で見るようなことはありません。 それが「自分のリスクは自分で管理する」という態度の表れなのです。 余談ですが、訪日経験のある中央アジアの女子学生から、「日本人はレストランで皿を拭かないので、何となく非衛生的に見えた。」という感想を聞いたことがあります。 (4) 海外勤務はリスク管理の感性を鍛える場に そういう目で見ると、海外勤務は危険因子の排除すなわちリスク管理に関する感性を鍛えるための恰好のトレーニング機会です。自らの責任において、自らの仕事に何が必要で、それはどのようにして確保されなければならないかをしっかりと考える癖をつける、という段階から始めましょう。 その上で、「予見可能な危険因子を見つけ出し、積極的に排除する」という段階へ進みます。①過去の事例を学ぶ、②先輩や同僚にヒアリングする、③自分ならどうするかシミュレーションしてみる、といったプロセスを経て、初めての業務についても自ら考え、積極的に危険因子を排除していきます。 どうしても排除できない要素については、万一の場合に備える意味で「常に変化に注目しておく」という対応を取ることになります。   2 トラブル発生時の対応 (1) 早期の「情報収集・情報共有」に尽きる 万一のトラブル発生時に求められることは、「いち早く情報を収集分析する」と同時に、「関係者間で広くその情報を共有する」ことに尽きます。 インターネット社会が求める情報開示の度合いは、企業に対して、過去のどの時代よりも迅速に、誠実かつ詳細な情報開示を求めるようになっています。上司や本社の許可や指示を待っているうちに時間は過ぎ、情報開示遅れの責任を問われるリスクは、時の経過とともに急速に高まります。 (2) 日本人には「トラブル対応の訓練」が必要 「起きてしまったトラブルは、なかったことにはできない」というのが世の中の鉄則なのですが、政治家などの問題発言のように「トラブルは取り消せるのが当たり前」というのが日本社会(魚は頭から腐るとはよく言ったものだと思います)だとすると、普段から「発生した事実を受け入れ、最善は何かを判断する」といった、トラブル対応の方法を訓練しておく必要がある、と言えるかもしれません。 (3) トラブルの終息とフォローアップの負荷を見通す コンサルタントの世界では、トラブルの終息は3段階に分けて考えるのが良いと言われます。 それは、 ① 火災そのものや機械的なトラブルなど、現場で起きている物理的な現象 ② それによって引き起こされた傷病などの健康被害 ③ トラブルを起こしたことで生じた顧客や取引先、従業員などとの関係についての社会的影響 を言います。 そして、これらはそれぞれ『終息のタイミング』が異なります。 具体的には、①物理的現象の終息は比較的早くやって来るのに比べ(例:火災の鎮火)、②健康被害は快復に時間を要し(例:火傷による入院加療)、それらが複雑に絡まり合って発生する③社会的影響はトラブル発生後かなり長期にわたって企業を悩ませる原因になったりします(例:保障の責任)。 このため、企業はそれぞれの項目について、トラブルの終息時期を考慮しつつ、フォローアップの準備をしなくてはなりません。 何を、いつまで実施し、いつまで続けなくてはいけないのか、そのための負荷を見通すことが重要です。   3 候補選定上のポイント ここまでの説明を踏まえると、どのような人材が候補者として適しているでしょうか。 (1) 「悲観的」に準備し「楽観的」に対応できる これもよく言われることですが、準備段階で念には念を入れる「悲観的な視点」と、実際にトラブルが起きたときには開き直れる「楽観的な視点」の両方を持ち合わせていることがポイントとなります。 要は「目配りができること」「肝が据わっていること」ということです。 (2) トラブル発生時の「冷静さ」と「判断力」 いわゆるパニック気質の人は向いていない、ということにもなりますが、この点については「気質」よりもむしろ「経験値」です。人間誰しも予想外の事態に直面すれば緊張を強いられるものですが、そのような場数を踏んでいれば、経験値により冷静さを保つことを期待できるようになります。 (3) 終息後のフォローアップに求められる「誠実さ」と「脇の固さ」 前述のフォローアップについて、物理的現象から社会的影響までを通じ、担当者に求められるのは、一にも二にも“誠実さ”です。 ただ、特に社会的影響については終息までの時間が長く、関係者との人的つながりも長期にわたることから、人付き合い上の脇の甘さが失言や誤解などフォローアップ上の瑕疵につながったりします。 この点について、担当者には、あくまで仕事上の付き合いであることを勘案した脇の固さが求められるのです。   4 人材育成上のポイント (1) リスク管理とはシステム作りである 忙しい海外勤務の現場において、規則やマニュアルの整備といった業務はどうしても後回しになりがちです。そのために現地スタッフと協議しなくてはならないことも、業務負荷を増大させることにつながります。 短期的な課題としてついつい後回しにしがちなリスク管理のためのシステム作りについては、その重要性をしっかり認識させるようにします。 (2) トラブル発生から終息まで、「疲労度」は累積する トラブル対応がもたらす目に見えない影響の1つが、「蓄積する疲労」です。 担当者にとってトラブルへの対応は、日常業務による疲労とは異なり、レクリエーションや息抜きによる疲労回復を予定しづらい性格のものであることも影響すると思います。 会社としてもこの点を理解し、担当者の健康管理に注意を払っていることを候補者に認識させるようにします。具体的に検討できるものとしては、トラブル担当者に対する優先的な休暇取得の勧奨、短期応援依頼の制度化、医師による健康相談などが挙げられます。 (3) 健康管理の教育も重視する 「リスク管理システムの整備」と「健康管理」は、一見すると脈絡のないものに見えるかもしれませんが、トラブルはいつ起きても当たり前、それを予防しつつ発生した時にどう対応すればよいかをシステムとして整備することと、蓄積する疲労に対して会社がしっかりバックアップしていることを伝え不安要素を軽減するよう仕向けることは、共に重要なポイントになります。   5 まとめ 海外業務におけるリスク管理とトラブル対応については、「派遣者のみに任せる」という対応にはおのずと限界があります。 特にトラブルについては、本社の関与が求められる場面も想定して、派遣候補者の選定と人材育成を進めるようにされると良いでしょう。 (了)

#No. 236(掲載号)
#西田 純
2017/09/21

《速報解説》会計士協会、最新の法制度に対応した「事業承継支援マニュアル」を公表~事業価値源泉に着目、フローチャートやチェックリスト等のツールも~

《速報解説》 会計士協会、最新の法制度に対応した 「事業承継支援マニュアル」を公表 ~事業価値源泉に着目、フローチャートやチェックリスト等のツールも~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成29年9月15日、日本公認会計士協会(経営研究調査会)は「事業承継支援マニュアル」(経営研究調査会研究報告第60号)を公表した。 これは、平成23年10月11日公表の「事業承継支援マニュアル」(経営研究調査会研究報告第45号)を見直して、経営者保証ガイドラインの制定、民法や会社法の改正、相続税・贈与税の納税猶予制度の改正等に対応するために、新たな経営研究調査会研究報告として取りまとめたものである。 事業承継支援マニュアルでは「事業価値源泉」に着目し、その分析と承継を軸とする事業承継の進め方を示しており、公認会計士が、事業承継のアドバイスやコンサルティングを行う場合の検討項目、計画の立案、実施について述べている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 事業承継支援マニュアルは、非上場会社を対象として、中小企業の経営を強化し事業を継続・発展させることに注目し、より一層の事業承継支援マニュアルの活用を期待していることから、実際に中小企業支援を行う際には、事業承継支援マニュアル本文をお読みいただきたい。 事業承継支援マニュアルは、目次を含めて256ページに及ぶ大部なものであるので、ここでは主な内容について解説する。 1 構成 事業承継支援マニュアルの主な構成は次のとおりである。 事業承継支援マニュアルでは、ケーススタディ、Q&A、フローチャート、チェックリストを用いて具体的な説明を行っており、事業承継に関するほとんどすべての事項を取り扱っているので、有用なツールであると考えられる。 2 事業承継の進め方 事業承継の方法としては次のものがある。もし、事業承継が困難な場合には、廃業することになる(8ページ)。 ① 親族内承継 ② 親族外の役員・従業員への承継 ③ 所有と経営の分離 ④ 第三者への売却 3 事業価値源泉 事業承継の本来の目的は事業の継続・発展であり、これによる継続的な付加価値の提供である(1ページ)。 各企業が有する優れた商品開発能力、技術力、容易に真似のできないビジネスモデルやのれん等、事業が生み出す付加価値を創出する源泉を「事業価値の源泉」として述べている(1、16ページ)。 事業価値源泉には、例えば、高い技術力、経営者の経営力(経営手腕やリーダーシップ)、営業力などが考えられる(17ページ)。 事業の継続のためには、事業価値を生み出す事業価値源泉の持続可能性を確保しなければならない(9ページ)。 (了)

#No. 235(掲載号)
#阿部 光成
2017/09/20

《速報解説》 国税不服審判所、国税審判官(特定任期付職員)の募集に関する「Q&A」を公表~税理士等の民間人採用を積極的に推進、「業務説明会」の開催も~

《速報解説》 国税不服審判所、国税審判官(特定任期付職員)の募集に関する 「Q&A」を公表 ~税理士等の民間人採用を積極的に推進、「業務説明会」の開催も~   税理士 佐藤 善恵   1 はじめに 国税不服審判所は、高度な専門的知識等を有する民間専門家を国税審判官(特定任期付職員)として採用するといった趣旨により、平成19年から国税審判官を公募している。制度導入から既に10年以上経過し、民間人採用の制度は定着してきたといえよう。 今般、審判所は、「国税審判官(特定任期付職員)の募集についてのQ&A」をホームページ上で公表した。Q&Aでは本制度に関し多くの具体的情報が明らかにされており、民間人採用に対する意気込みが感じられるところである。   2 実務家にとっての意義 上記のように「高度な専門的知識」と聞くと、求められるハードルを非常に高く感じる専門家が多いと思われるが、民間人採用のもう1つの理由は、事件審理の中立性・公正性を向上させるという観点である。つまり、求められている人物像としては、民間人としての常識を持った平均的レベルの専門家であるといえよう。このことは、今般公表されたQ&Aからもうかがえる。 一方、採用される側の立場からいうと、審判官の経験は、その後の専門家としての幅が大きく広がる。知識や技能面だけでなく、考え方や人脈など、他では決して得られないものばかりである。筆者が一緒に働いた専門家のその後の活躍を見るに、このことは間違いない。平成22年から26年まで国税審判官として任官した筆者の率直な感想である。 Q&Aでは、審判官応募を考える際に、知りたいと思うであろう職場環境等に関する具体的な情報が明らかにされている。 今までは、審判官応募に興味がある人でも身近に経験者がいないと、このような情報を入手することは困難であった。筆者が応募した当時は、審判所のHPには年収すら公表されていなかった。その後、徐々に任期付職員の採用条件等が詳しく公表されるようになったが、今回のQ&Aは、さらに踏み込んだ内容となっている。 国税審判官の仕事に少しでも興味のある方には、ぜひ読んでいただきたい。 以下、簡単にご紹介する。   3 Q&Aの内容 公表されたQ&Aは次の通りとなっている。   4 「業務説明会」で現職の話を聞く機会も 最後のQ&Aにある「業務説明会」については、最近導入されたもののようであり、平成26年に審判所を退官した筆者は、このような制度があることを知らなかった(最寄りの審判所支部において12月実施予定)。 「業務説明会」では、審判所における審判官の職務内容の説明のほか、現職の特定任期付職員との懇談や質疑応答などを行う予定とされている。採用する側とされる側、双方にとって良い制度である。 なお、応募者は、最初に書類選考され、次に、書類選考合格者について面接が行われ採用決定に至る。書類選考合格者のうち採用される者が何パーセントといった情報は明らかになっていないはずだが、書類選考に重点が置かれているように思う(全くの私見であるが)。 平成30年7月採用(第12期生)の応募期限は、平成29年11月17日(金)書類必着である。応募を迷っている方がおられたら、ぜひ、チャレンジすることをお勧めしたい。   5 特定任期付職員の採用状況 参考までに、昨年までの特定任期付職員の採用状況を示すと、次の通りである。 (※) 国税不服審判所ホームページより (了)

#No. 235(掲載号)
#佐藤 善恵
2017/09/19

《速報解説》 日本国政府とロシア連邦政府が新租税条約に署名~現行の租税条約を全面的に改正、さらなる両国間の投資・経済交流の促進に期待~

《速報解説》 日本国政府とロシア連邦政府が新租税条約に署名 ~現行の租税条約を全面的に改正、さらなる両国間の投資・経済交流の促進に期待~   税理士・行政書士 島田 弘大   1 はじめに 2017年9月7日、日本国政府とロシア連邦政府との間で「所得に対する租税に関する二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の防止のための日本国政府とロシア連邦政府との間の条約(以下、「新租税条約」)」の署名がウラジオストクで行われた。 現行の租税条約は、1986年に発効された「所得に対する租税に関する二重課税の回避のための日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の条約」だが、新租税条約は現行の租税条約を全面的に改正するものである。 新租税条約では投資所得に対する課税の更なる軽減、条約の濫用防止措置、情報交換及び徴収共助の導入などが盛り込まれており、これらにより国際的な脱税及び租税回避行為を防止しつつも、投資所得に対する課税の更なる軽減によって両国間の投資・経済交流を一層促進することが期待される。 新租税条約の主な改正ポイントは下記の通りである。   2 投資所得に対する課税の更なる軽減 (1) 配当に対する課税の限度税率 (※1) 「不動産化体株式」とは、株式又は同等の持分(組合、信託財産又は投資基金の持分を含む)の価値の50%以上が、配当の支払に先立つ365日の期間のいずれかの時点において、他方の締約国内に存在する不動産によって直接又は間接に構成されているものをいう。 (2) 利子に対する課税の限度税率 (※2) 「利益連動型の利子」とは、次の(A)又は(B)の利子をいう。 (A) 利子の額が次のものを基礎として算定される利子 (a) 債務者又はその関係者の収入、売上げ、所得、利得その他の資金の流出入 (b) 債務者又はその関係者の有する資産の価値の変動 (c) 債務者又はその関係者が支払う配当、組合の分配金その他これらに類する支払金 (B) (A)の利子に類する利子 (3) 使用料に対する課税の限度税率   3 条約の特典の濫用防止 上記2の通り、配当、利子、使用料について現行の租税条約よりも課税が減免される。その一方で、条約の特典の濫用を防止するため、第21条(条約の特典の濫用)の規定により、一定の要件を満たす適格者等である居住者に限って特典を受けることができる。 また、全ての関連する事実等を考慮して、条約の特典を受けることが取引の主たる目的の1つであったと判断することが妥当である場合等も特典が与えられない。   4 その他のポイント 現行の租税条約は1986年に発効したものであり内容・構成が古く、今回の新租税条約では全面的に各種整備が行われている。 自由職業について、現行の租税条約では第12条(人的役務所得)の中で規定されているが、2000年モデル租税条約改正を受けて、新租税条約では自由職業の規定を削除し、第7条(事業利得)でまとめて取り扱われている。 また、国際的な脱税等に対処するため、第25条(情報の交換)も整備され、両国間における租税に関する情報交換の対象となる租税及び事案が拡大される。また、第26条(租税の徴収における支援)の規定により、両国間における租税債権の徴収に関する相互支援が導入される。   5 今後の流れ 今後は両国における承認手続き(我が国においては国会の承認を得ることが必要)を経た上で、その承認を通知する外交上の公文の交換の日の後30日目の日に発効される。 もし2018年中に発効した場合、2019年1月1日以後適用されることとなる。なお、情報交換及び徴収共助に関する規定については、発効日からすぐに適用される。 (了)

#No. 235(掲載号)
#島田 弘大
2017/09/15

プロフェッションジャーナル No.235が公開されました!~今週のお薦め記事~

2017年9月14日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.235を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!-   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2017/09/14

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第56回】「税制調査会答申から租税法条文を読み解く(その2)」

酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第56回】 「税制調査会答申から租税法条文を読み解く(その2)」   中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦     2 判決の要旨 (1) 第一審東京地裁平成20年2月14日判決(訟月56巻2号197頁) 本件事案において、東京地裁平成20年2月14日判決は次のように述べ、本件改正附則27条1項の違憲性を否定した。 このように、東京地裁は、「周知の程度は完全ではないにしても」との前置きをしつつも、遅くとも平成15年12月18日時点では「納税者において予測することができる状態になった」ということができるとし、以下のように続けるのである。 結局において、東京地裁は、「納税者が一定の不利益を受けうることは否定できない」ものの、遡及適用をすることの合理的必要性と、上記の平成15年12月時点における一応の予測可能性を総合的に勘案した結果、本件改正附則27条1項の違憲性を否定している。 (2) 控訴審東京高裁平成21年3月11日判決(訟月56巻2号176頁) 上記東京地裁判決を不服とし、Xらは控訴した。 Xらは、本件の改正内容については、自由民主党の税制改正大綱が全国紙の一部にわずかに報道されただけで、事前の予告が不十分で、周知されていなかったにもかかわらず、国民に不利益な損益通算の廃止措置を遡及適用させたものであるから租税法律主義に反する、すなわち、予測可能性の観点から本件立法の違憲性を主張した。 これに対して、東京高裁は次のように説示し、Xらのかかる主張を排斥している。 予測可能性が担保されていなかった旨のXらの上記主張に対し、東京高裁は、本件において予測可能性が担保されていなかったか否かについては判断することなく、予測可能性に反することのみをもって直ちに不利益遡及立法に該当するとはいえないと判示した。 (3) 上告審最高裁平成23年9月30日第二小法廷判決(集民237号519頁) 本件は上告されたが、最高裁においても、前記Ⅲ1(3)の具体的事実が認められるとした上で、次のとおり本件改正附則27条1項の違憲性が否定された。 なお、千葉勝美裁判官は、「本件改正附則が憲法84条の趣旨に反するものでないとする法廷意見に賛成するものであるが、税制改正との関係で、次の点を補足しておきたい。」として、次のように補足意見を述べられる。 千葉裁判官は、まず、本件損益通算廃止のような政策決定については事前の周知が必要であるにもかかわらず、平成15年12月時点の報道等の内容をもってしては、その周知は「甚だ不完全なもの」であったとされる。 そして、平成15年12月時点では「甚だ不完全なもの」であった事前の周知について、納税者に対象となる資産の譲渡を行うか否かの検討の機会が与えられることとなったのは、「早くても2月3日の法案提出」時点であると述べられ、平成16年1月1日から2月2日までの間の長期譲渡について本件損益通算廃止を適用することには疑義が生じ得ることを否定できないとされるのである。 千葉裁判官は、結論こそ法廷意見に同意されているものの、税制改正とその周知の観点においては問題があった可能性に言及している。かかる見解は参考となろう。 3 小括 本件を参考にすれば、税制調査会の答申に盛り込まれていないような改正で、それが遡及適用と解する余地のあるものであったとしても、かような取扱いについての違憲性は肯定されておらず、税制調査会の答申については、予測可能性や法的安定性の観点から改正後の規定適用の合理性・必要性に疑問が投げられる程度の問題としてしか扱われていないのかもしれない。 それでは、税制調査会の答申は条文解釈に当たって何らの指針ともなり得ないのであろうか。 そのようなことでは決してないことを裏付ける事例として、商品先物取引に係る和解金の非課税所得該当性が争点となった事例を参照してみよう。   Ⅳ 事例検討2-先物取引に係る損害賠償金は非課税か?- 商品先物取引に関し商品取引員から不法行為に基づく損害賠償金として受け取った和解金が、所得税法9条1項16号(平成22年法律第6号による改正前のもの)、所得税法施行令30条2号(平成22年政令第50号による改正前のもの)の非課税所得に当たるとされた事例として、名古屋地裁平成21年9月30日判決(判時2100号28頁)がある。 1 事案の概要 X(原告・被控訴人)は、商品取引員であるA商事に委託して行った商品先物取引に関し、A商事から受け取った和解金(以下「本件和解金」という。)を所得に計上せずに平成15年分の所得税の確定申告を行った。これに対して、処分行政庁は、本件和解金を雑所得として計上することなどを内容とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及びこれに伴う過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)を行った。 本件は、Xが国Y(被告・控訴人)を相手取って、本件更正処分のうち納付すべき税額を超える部分及び本件賦課決定処分の取消しを求めた事案である。 訴訟では、本件和解金が所得税法9条1項16号(現行17号)の適用を受けて非課税とされるか否かが争点とされた。 上記にいう「その他の政令で定めるもの」を受けて、所得税法施行令30条は次のように規定する。 本件において、Yは、所得税法9条1項16号を受けて定められた同法施行令30条各号の規定は、損害賠償金を損害を加えられた対象が心身であるか資産であるかによって大きく2つに分け、被害対象が心身の場合には、計上される必要経費の賠償金を除き、ほとんど全面的に非課税所得としているのに対し、被害対象が資産の場合には、「不法行為その他突発的な事故によるもの」だけに限定した上、計上される必要経費の賠償金はもちろん、所得税法施行令94条に該当するものも除くとして、非課税所得の範囲を大きく限定していることからすると、被害対象が資産の場合、不法行為に基づく損害賠償金が非課税所得に該当するか否かは、当該損害賠償金が「突発事故、つまり相手の合意をえない予想されない災害」による損害と同視できる事情に基因して得られたものか否かを基準として判断するのが相当であると主張した。 そして、その理由として、このことは、補償金、損害賠償金等に関する税制改正がされた昭和37年12月7日付け税制調査会答申において、「課税所得を構成するか、あるいは非課税所得とすべきかという点の判断の基準は、その損害の発生が不可抗力ないし不可避的なものであったかどうかということよりも、むしろそれが突発事故、つまり相手の合意をえない予想されない災害であったかどうかというところに基準を置くほうが、常識的に妥当と思われる。」という方針が示されていたことに照らしても明らかである旨主張したのである。 そうであるとすれば、所得税法施行令30条2号が「不法行為その他突発的な事故により資産に加えられた損害」と規定する「不法行為」とは、「突発的な事故」と同様の不法行為、すなわち、相手方との合意に基づかない突発的で予想することができない不法行為を意味するものと解するのが相当であるとするのがYの主張の骨子である。 これに対して、Xは、「〔Yは〕税制調査会答申の内容を・・・主張の理由としているが、税制調査会答申の内容は、損害賠償金を非課税とする不法行為の範囲を限定する趣旨のものではない。」と反論した。 2 判決の要旨-名古屋地裁平成21年9月30日判決- これら両者の主張に対し、名古屋地裁はYの主張を次のとおり排斥している。 このように、まず名古屋地裁は、Yが引用する税制調査会答申の該当箇所について確認した上で、次のように同答申の内容を検討している。 つまり、名古屋地裁は、税制調査会答申のY引用箇所は、一定の類型に属する事故を前提とした場合の判断基準を述べたにすぎないとした上で、同答申では「不法行為を、突発的な事故ないしそれと同様の態様によるものかそれ以外の態様によるものかで区分する考え方は何ら示されていない」のであるから、Yの主張するような限定的な解釈を裏付ける根拠とはなり得ないとした。 その上で、同地裁は、「施行令30条2号にいう『不法行為』は、突発的な事故ないしそれと同様の態様によるものに限られると解することはできない。これと異なるYの主張は、採用することができない。」とし、「本件和解金がA商事のXに対する不法行為に基づく損害賠償金に当たるものであることは、前述のとおりであるから、本件和解金は、施行令30条2号にいう『不法行為その他突発的な事故により資産に加えられた損害につき支払を受ける損害賠償金』に当たるというべきである。」と結論付けたのである。 この事件は控訴されたものの、控訴審名古屋高裁平成22年6月24日判決(税資260号順号11460)において、上記結論は維持されている。 このように、所得税法9条1項17号及び同法施行令30条の解釈を税制調査会答申から導出しようとする議論は上記事案にとどまるところではない。 3 類似事例 類似事件の大分地裁平成21年7月6日判決(税資259号順号11239)においても、上記名古屋事件に近接した判断が展開されているので、参考までにみてみよう。 この事件でも国(被告)は、上記の名古屋事件と同様、税制調査会答申の記載等を根拠に非課税規定には突発的な事故のみが該当する旨主張したが、大分地裁は「所得税法9条1項16号及び法施行令30条2号は、以下の結論を記載した昭和36年12月7日付け税制調査会答申の考え方に基づき制定されたことが認められる。」と認定した上で、次のように判示し、国側の主張を排斥している。 下線部分のとおり、大分地裁は、立法趣旨を考慮する際に税制調査会答申の考え方を参考にしている。そして、本件和解金については次のように述べる。 このように、大分地裁は、税制調査会答申が前提としているところを確認した上で、所得税法9条1項16号の解釈の一つの指針としているのである。 なお、控訴審福岡高裁平成22年10月12日判決(税資260号順号11530)は控訴棄却と判断している。 (続く)

#No. 235(掲載号)
#酒井 克彦
2017/09/14
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