家族信託による 新しい相続・資産承継対策 【第27回】 「家族信託の活用事例〈株式編②〉 (非上場会社において、親から子への事業承継をするにあたって、贈与税の発生を抑制できるタイミングで子に受益権を渡す事例)」 弁護士 荒木 俊和 前回に続き非上場株式の承継を行う場合の信託の活用事例を解説していく。 今回は非上場会社において、親から子への事業承継をするにあたって、贈与税の発生を抑制できるタイミングで子に受益権を渡す事例を解説する。 - 相談事例 - 私は今年65歳になりますが、従業員を80名ほど抱える建設会社の社長をしています。会社の業績は、ここ数年は好調で、利益もかなり出ています。ただし、目立った税金対策をしてこなかったため、毎年かなりの法人税を支払っています。 私には40歳の息子が1人いて、その息子に事業承継をしなければならないと考えており、これまでに十分準備も進めてきたので、会社を全部任せられる状況になっています。息子は実質的に私の会社を取り仕切っているため、私が社長の名前を名乗っていると却って息子がやりにくいのではないかと思い、株も社長の座も早く譲ってしまいたいと考えています。 しかし、顧問税理士に相談したところ、現時点で株を全て贈与するとなると株価総額が莫大な金額になるため、やめておいた方がいいと言われました。一方でこれから株価対策を行う余地はあるということだったのですが、どうやら数年単位の時間がかかるようです。 株を含めて会社を息子に任せてしまえば、引退して趣味の釣りに専念できると思っていたのですが、もう少し先になってしまうのでしょうか。 1 家族信託活用のポイント (1) 信託による自益権と共益権の分離(財産的な価値の分離) 前回解説を行ったように、株式を信託することによって自益権と共益権を分離することができる。 このうち財産的な評価の対象になるのは自益権の部分であり、それを化体した受益権である。すなわち、実質的に共益権だけを行使する受託者には信託をしたとしても財産権の移転はなく、課税の対象になるものではない。 このため、本件において本人(相談者)を委託者兼受益者、子を受託者とする信託を設定しても財産権の移転は認められない一方、受託者は議決権をはじめとする共益権を行使することができることとなる。 これにより受託者は株主として会社の意思決定を行えることになる。 (2) 財産権の移転のタイミングと株価対策の実施 株式に関する家族信託のポイントは、財産権の移転のタイミングを遅らせることができることにある。 すなわち、権利(所有権)の移転の場合には財産権とその財産に関する管理処分権限が不可分となることが通常であるが、信託を利用することにより管理処分権限だけを先に移転することができる。 本件においては、共益権のみを先に受託者に渡した上で、後で財産権たる受益権を譲渡することができる。 このため、共益権を子に先に移した状態で、子において会社の利益を減少させる等の株価対策を時間をかけて行い、株価が安くなった段階で贈与することが可能となる。 2 本件におけるスキーム (1) スキームの概要 以上のことから、本件では大要、以下のような家族信託のスキームが考えられる。 (2) 株主権の行使 本件のスキームでは、前回解説を行ったスキームとは異なり、受益者に指図権を設定していない。 このため、本人が認知症になったとしても、子が議決権等を行使できるため、役員の選解任ができないなどといった問題は生じないことになる。 一方で、子が受託者として議決権等を行使することになるため、本人は議決権等の行使に直接的に関与することはできなくなる。 ただし、本人は子に対して、子が受託者としての権限違反行為や利益相反行為を行った場合にはその行為を取り消すことができ(信託法第27条第1項、第31条第6項、第7項)、損失が生じた場合には損失のてん補等を求めることができる(第40条第1項)。 (3) 受益権の贈与 本件のスキームは株価が下がるのを待ってから贈与を行うことに眼目があるため、株価の下がるタイミングと贈与のタイミングを計画的に合わせる必要がある。 このため家族信託とは関係なく、子において会社経営に不測の事態が生じないように留意する必要がある。 また、本人の認知症のリスクについて、議決権をはじめとする共益権の行使については信託によって回避できるものの、受益権の贈与に関しては残存している。 すなわち、受益権の贈与を予定していたタイミングで本人が認知症に罹患して意思表示が行えない状態になってしまうと、贈与ができなくなってしまう。 認知症が危ぶまれる場合には、緊急避難的に贈与を進めてしまうか、相続を待つかを早期に決定して迅速に対応する必要が生じる。 (了)
これからの会社に必要な 『登記管理』の基礎実務 【第10回】 「株主管理の仕組みづくり」 -株主名簿整備の必要性- 司法書士法人F&Partners 司法書士 本橋 寛樹 はじめに 本稿では、【第2回】でその必要性を説明した「会社主導で中長期的に管理し続けられる体制づくり」の一環として、「株主管理」をテーマに解説する。 本稿の目的は、会社の実務担当者が、自社の株主情報の管理方法をいま一度振り返り、今後の事業活動をより盤石に支えるためのきっかけづくりである。 自社の株主情報を確認する方法 通常業務で自社の株主を意識する場面はあるだろうか。読者のなかには、役員改選等の登記手続において、平成28年に登記の添付書面となった「株主リスト」の作成に携わった方もおられるだろう。その際、自社の株主情報を確認しているはずである。 株主リストを作成する際の資料として、法人税の申告書の一部となる「別表二 同族会社等の判定に関する明細書」 (以下、「別表二」という)を参照する読者も多いと思われる。別表二は顧問税理士等が作成することが一般的である。 しかし、別表二には全ての株主が記載されているとは限らない。例えば、株主が創業家ではない役員や従業員、会社関係者の知人、友人である場合は、別表二に記載される対象とはならない。 株主名簿の活用 株主情報を確認する資料として、株主名簿を活用されたことはあるだろうか。株主名簿には全ての株主が記載されており、株主を漏れがなく把握することができる。 法令上、株主名簿の作成、備置きの事務を信託銀行等に委託している株式会社(会社法第123条)は別として、株式会社は、株主名簿を作成し、それを会社の本店に備え置かなければならない(会社法第121条・第125条第1項)。 このように、会社の本店には株主名簿を備え置かなければならないことから、株主リストを作成する際、別表二ではなく、株主名簿を用いることができるはずである。 しかし、自社の株主情報を確認する資料が株主名簿ではないという読者の場合、その理由は、株主名簿を整備していないため、別表二を活用せざるを得ないという実情があるのではないだろうか。 株主名簿を整備していないことによるリスク ここで株主名簿が整備されていないと、次に述べるように、会社が将来的に不利益を被ることになる。 現状の事業活動へ即座に影響が及ばない「潜在的なリスク」と、事業活動に打撃を与える「潜在的なリスクの顕在化」について解説していく。まず全体のイメージとして、【第2回】のイラストを再掲する ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ① 事業活動が否定される 《潜在的なリスク》 《リスクの顕在化》 ② 重要な取引や手続等に対応できない 《潜在的なリスク》 《リスクの顕在化》 ③ 会社の意思決定を行うことができない 《潜在的なリスク》 《リスクの顕在化》 上記①~③で紹介した潜在的なリスクを顕在化させないための予防策は、潜在的なリスクが顕在化する前に株主名簿を整備することである。 そこで次回は株主名簿を活用した、株主管理の仕組みづくりについて詳しく解説していく。 * * * なお、以下の拙稿は、株主名簿から株主リストを作成する場合のプロセスについて解説している。今後株主リストを作成する際の資料として参考とされたい。 (了)
〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第3話】 「措置法26条と概算経費」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「統括官、ちょっと聞いていただきたいのですが・・・」 中尾統括官の後ろから浅田調査官が声をかける。 中尾統括官が振り返ると、浅田調査官はすかさず手に持っていた用紙を差し出す。 「これって、おかしくありませんか?」 平成28年分の確定申告書である。 「・・・」 中尾統括官は渡された確定申告書を見る。 「この申告書は・・・措置法26条(社会保険診療報酬の所得計算の特例)を適用しているみたいだけど・・・何か・・・計算間違いでもあるのかい?」 中尾統括官が尋ねる。 「いえ、課税所得の計算は間違っていないのですが、措置法26条を選択適用することによって17,986,620円の措置法差額が出るのです。・・・つまり、本来の課税されるべき所得金額から17,986,620円が少ないということです・・・」 浅田調査官は少し怒ったような表情で話をする。 「・・・しかし、法律でそのように規定されているのだから・・・われわれ税務職員がとやかく言っても仕方がないことだろう。」 中尾統括官は飄々と答える。 「・・・僕は・・・この法律は廃止すべきだと思うんです。」 浅田調査官は中尾統括官の顔を見る。 中尾統括官は、浅田調査官の発言に少し戸惑いながら、措置法26条を確認するために税務六法を開く。 そして、同項に収入金額と必要経費率を示した次の表が挿入されている。 「この規定はもともと・・・零細な医院を救済しようとして設けられたもので・・・」 中尾統括官が説明しようとすると、浅田調査官はその言葉を遮る。 「それは分かっています・・・しかし、この確定申告では、実際の経費と措置法26条で認められる経費が17,986,620円も違うなんて・・・信じられません・・・すなわち、17,986,620円の所得金額について課税しないのですよ。私なんか・・・500万円ぐらいの給与しか国から貰っていないけれども、税金は徴収されているのに・・・」 浅田調査官の頬は少し赤くなっている。 「確かに・・・私の年収だってもちろん17,986,620円もないけれど・・・まあ、税金はかなり支払っている・・・」 中尾統括官は頷く。 「・・・もっとも、この条文(下線②)にも示されているが・・・平成26年分から、その年の医業及び歯科医業に係る収入金額の合計額が7,000万円を超える者は除外されることになっただろう。社会保険料収入以外の医業収入を加えると、7,000万円を超える医者・歯医者は多いから、この特例経費を使える者はかなり減っているといわれている・・・」 中尾統括官は、浅田調査官から手渡された「所得税青色申告書決算書」の下欄に示されている「措置法差額17,986,620円」を見ながら言う。 その決算書の収入金額は「42,599,564円」で、実際の経費を控除した後の青色申告特別控除前の所得金額は「31,829,521円」となっている。しかし、概算経費率57%を適用することによって、青色申告特別控除額650,000円を控除した所得金額は「13,192,901円」となる。 「ところで・・・この申告の医者の業種名・・・『心療内科』と記載されているね。」 中尾統括官は、青色決算書の「事業所所在地」欄の真下にある「業種名」欄を指さす。 「心療内科・・・ですか。」 浅田調査官も決算書を覗き込む。 「たしか・・・医者の中で『心療内科』という種目は、医療を行う際に発生する経費が最も少ないといわれているらしいよ・・・」 浅田調査官は、損益計算書を見る。 「たしかに・・・給料賃金も3,717,580円で、その内訳をみると、2人の従業員のうち1人はパートで、年間950,000円となっています・・・心療内科って、あまりスタッフが必要ないのですね。」 浅田調査官は、中尾統括官の顔を見る。 「心療内科は内科や整形外科などと違って、注射などの具体的な治療行為はあまり行わない・・・つまり・・・心の病気に罹っている患者と先生との対話が治療の中心になるから、経費はほとんど発生しないということかな・・・」 中尾統括官は苦笑いする。 「だからこの申告のように、措置法差額が17,986,620円にもなるんですね。」 浅田調査官はまだ不満そうな様子で言う。 「しかし・・・よく考えてみれば、患者のカウンセラーだけで、1人の医者が1年間で42,599,564円も稼ぐなんて・・・大したものだと思わないかい?」 中尾統括官はそう言うと、笑顔で浅田調査官を見た。 (つづく)
《速報解説》 監査役協会、「選任等・報酬等に対する監査等委員会の関与の在り方」を公表 ~意見陳述権に係る監査等委員会の活動についてベストプラクティスを提示~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成29年12月1日、日本監査役協会の監査等委員会実務研究会は、「選任等・報酬等に対する監査等委員会の関与の在り方-実態調査を踏まえたベストプラクティスについて-」を公表した。 平成28年11月に公表した「選任等・報酬等に対する監査等委員会の意見陳述権行使の実務と論点-中間報告としての実態整理-」で整理した論点をさらに深掘りするとともに、意見陳述権(会社法342条の2第4項、361条6項)に係る監査等委員会の活動についてベストプラクティスを提示している。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 主な論点として次の事項を述べており、表紙や参考資料を含めて76ページに及ぶものである。 別紙として次のものが添付されているほか、アンケート結果が記載されている。 1 意見陳述権を考察する際の重要ポイント 意見陳述権を考察するに際して最も重要と思われるポイントについて、次のように述べている。 意見陳述権は株主総会において必ず行使することを義務付けられているものではないが、少なくとも関連する制度や議案等を審議して監査等委員会として意見陳述権行使の要否を確認することは監査等委員会の義務と捉えるべきであるとしつつ、個社の判断による部分があることについて述べている。 2 検討(評価)のプロセス 監査計画の策定に当たっては、監査活動の年間計画を勘案しつつ意見陳述権に関する年間の活動を検討することから、優先順位を勘案した効率的な計画を策定する必要があるとしている。 また、選任等・報酬等に関する検討に際しての情報は、他社の事例や世間一般の動向といった外部情報も有用であるが、執行側や非業務執行取締役等からの社内情報が主となるとしている。 3 基礎となる指名方針・サクセッションプラン等 平成29年3月31日付の経済産業省CGS研究会「CGSガイドライン」にも明記されているとおり、取締役候補者について、個別の候補者の議論の前に、どのような資質を有する者が自社の取締役としてふさわしいのかという指名方針やサクセッションプラン等が策定されているべきであるとしている。 4 意見の表明 監査等委員会の監督機能への期待という意見陳述権の趣旨に鑑みて、意見陳述権は責任を伴うものと解釈すべきとしている。 監査等委員会は、期中においても、検討した事項について執行側や取締役会に対し適宜意見を表明することも可能であり、そのような機会を積極的に活用していくことが望ましいと述べている。 5 株主総会での意見陳述 意見陳述権を行使する場合は、監査等委員会において決議し、株主総会参考書類に記載し(選任等について会社法施行規則74条1項3号、報酬等について同82条1項5号)、株主総会の場で口頭陳述する(会社法342条の2第4項、361条6項)こととなる。 監査等委員会としての見解を外部に対して明確にするため、意見陳述権の行使として「陳述すべき事項はない」という趣旨の意見を、また、株主総会付議事項につき「議案が妥当」との意見を陳述することもある。 ただし、意見陳述権は、執行側や取締役会の対応に疑義を呈する場合にのみ行使されるべきものではなく、執行側や取締役会の対応が適切として支持する意見を形成することも可能であり、選任等・報酬等の決定プロセスに監査等委員会として正当性を与える効果があると述べている。 また、「意見はない」と「指摘すべき事項はない」の違いに触れ、意見陳述権の行使として「陳述すべき事項がない」との結論(決議等)に至ったのであれば、意見不存在との混同を避けるため、その結論を明確に表現することが望ましいとしている。 (了)
《速報解説》 会計士協会、「『経営者保証に関するガイドライン』における公認会計士等が実施する合意された手続に関する手続等及び関連する書面の文例」を公表 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成29年12月1日、日本公認会計士協会は、「『経営者保証に関するガイドラン』における公認会計士等が実施する合意された手続に関する手続等及び関連する書面の文例」(中小企業施策調査会研究報告第1号。以下「研究報告」という)を公表した。 これは、経営者保証に関するガイドライン研究会から、平成25年12月に公表され、平成26年2月1日から適用されている「経営者保証に関するガイドライン」(以下「ガイドライン」という)及び「『経営者保証に関するガイドライン』Q&A」(以下「Q&A」という)に関して、公認会計士等が、専門業務実務指針4400「合意された手続業務に関する実務指針」に基づき、ガイドラインに関連して主たる債務者が開示することとされている「法人と経営者との関係の明確な区分・分離」に関する情報の信頼性を向上することに資するために公認会計士等が合意された手続の業務を行う際の手続を例示するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 主な内容は次のとおりであり、目次を含めて44ページである。 以下では主なポイントについて解説する。 1 概要 経営者保証のない融資の実現に当たって求められる中小企業の経営状況として挙げられている項目は、次のものがあり、①と③は、ガバナンスや情報開示に係る事項であって、経営方針や経営体制の改善によって計画的に実現を図ることが可能であり、公認会計士等による適切な検証が期待されているものである。 研究報告は、ガイドラインに関連して主たる債務者が開示又は保証人が表明保証することとされている「法人と経営者との関係の明確な区分・分離」に関する情報の信頼性を向上することに資するために、合意された手続業務を行う際の手続を例示するものである。 2 公認会計士等が実施する手続等 ガイドラインの項目及びQ&Aの関連項目(Q4-1からQ4-4)に基づいて、「法人と経営者との関係の明確な区分・分離」について、公認会計士等により合意された手続の業務を行う際の手続の例として、(a)要点、(b)実施する「合意された手続」の例、(c)「合意された手続の実施結果」の記載例が一覧形式で示されている。 上記のほか、「法人と経営者との関係の明確な区分・分離のための体制の整備・運用の状況に関する情報(事前確認情報)の例示」、「様式例」(合意された手続業務契約書の作成例、報告書利用に係る合意書の作成例、合意された手続実施結果報告書の作成例、確認書の例示)が示されているので、実際に業務を行う際に参考となると考えられる。 (了)
《速報解説》 会計検査院、小規模宅地特例や事業承継税制等の 適用状況に関する報告書を公表 ~小宅特例では貸付事業用宅地等を相続税申告期限後に譲渡するケースなど、 政策目的との乖離を指摘~ Profession Journal編集部 会計検査院は11月29日、「租税特別措置(相続税関係)の適用状況等について」を公表、相続税関係特別措置のうち減収見込額が多額に上っているものの適用状況等を検査、政策目的に沿ったものとなっているか検証を行った。 今回公表された報告書は、会計検査院法第30条の2に基づく国会及び内閣への随時報告として、相続税関係特別措置が、これまで租特透明化法に基づく適用実績の調査が実施されていない等、関係省庁における検証が十分に行われていないとして、各措置の適用状況や関係省庁による検証状況等を検査するために実施されたもの。 (※) 検査の対象及び方法については、報告書p10-11を参照されたい。 報告書において詳細に検査が行われたのは、28年度において減収見込額が多額に上っており、近年において大きな政策の転換が行われるなどした次の相続税軽減措置だ。 上記のうち小規模宅地等の特例では、特例を適用している検査対象者の中で、特定宅地等のうち「貸付事業用宅地等」の割合が65%と最も多く、また、相続税の申告期限の翌日から1年以内に譲渡していたもの、及び、1ヶ月以内に譲渡していたものの割合でも貸付事業用宅地等の譲渡が最も多いとし、 と指摘した(p23-30)。 また非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予制度(いわゆる事業承継税制)関する検査では、適用対象となる「中小企業者」が、資本金の額が業種別に定められた一定の金額以下(製造業等は3億円以下、卸売業1億円以下、小売業・サービス業5,000万円以下)であることなどが要件とされているが、特例を適用した検査対象企業のうち資本金の額に対して資本剰余金が多額(最大で約885倍)となっているケースや、資産保有型会社・資産運用型会社で常時使用従業員数が5名以上である等の要件を満たし適用可能となった企業のうち従業員数が10人以下のものが多いことなどから、 と指摘した(p44-p60)。 なお、農地の納税猶予制度では、特定貸付けの特例を適用した検査対象のうち、農業所得以外の所得を経営の基盤として農業経営を継続している農業相続人が相当数を占めることなどが指摘されている。 * * * 会計検査院は過去にも相続税関係特別措置についての検査結果を行っており、平成17年には「租税特別措置(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)の適用状況等について」が決算検査報告に織り込まれ、これを受け平成22年度税制改正において、特定居住用宅地等の適用要件の見直し等が行われている(財務省「平成22年度 税制改正の解説」p438)。 このタイミングで公表されたということは、今月中旬にも取りまとめられる平成30年度税制改正大綱において対応が示される可能性もあるため、報告書で指摘された点については確認しておきたい。 (了)
《速報解説》 名古屋国税局、株主が個人である法人が適格合併を行った場合の未処理欠損金額の引継ぎについて(支配関係の継続により引継制限の判定をする場合)の文書回答事例を公表 税理士 長谷川 太郎 名古屋国税局は、平成29年11月7日付(ホームページ公表は11月14日)で、「株主が個人である法人が適格合併を行った場合の未処理欠損金額の引継ぎについて(支配関係の継続により引継制限の判定をする場合)」の事前照会に対し、文書回答を公表した。 本稿では以下のとおり、その内容について解説する。 事前照会の概要 親戚が保有していた会社(B社)の全株式を自分がオーナーとなっている会社(A社)が買い取り、その後買い取った会社(B社)と連れ子会社(C社)の逆さ合併(第一次合併)を行い、同日にA社がC社(第一次合併における合併法人)を吸収合併(第二次合併)することが予定されている。 〔図1〕 (※) 国税庁ホームページより この場合において、買い取った会社(B社)と連れ子会社(C社)の有する未処理欠損金額を第二次合併時において、A社に引き継ぐことができるか(共同で事業を行うための合併には該当しない)という照会内容となっている。 主な論点としては、第二次合併時において、支配関係の起算日が株式売却前であることから、株式売却前後で継続した支配関係があると言えるのかどうかという点にあり、結論として継続した支配関係があり、未処理欠損金額は「引き継ぎ可能」となっている。 事前照会の前提 (※前提の詳細は、実際の文書回答事例を参照) 〔図2〕 (※) 国税庁ホームページより ◆B社(平成27年1月15日に設立された6月決算法人)の株主である甲、乙(甲の妻)及び丙(甲の子)は、平成29年5月26日に、それぞれが保有するB社株式の全部をA社(平成29年5月1日に設立された4月決算法人で、株主は丁(甲の兄の孫))に譲渡している。 ◆C社(平成24年1月13日に設立された6月決算法人で、その発行済株式は、平成27年1月15日から継続してB社が100%保有)は、平成29年12月1日に、B社を被合併法人とする吸収合併(以下「第一次合併」という)を行い、同日に、A社は、C社を被合併法人とする吸収合併(以下「第二次合併」という)を行うことを予定している。 ◆第一次合併及び第二次合併は、いずれも適格合併に該当するが、法人税法第57条第3項に規定する共同で事業を行うための合併には該当しない。 事前照会の結論及び見解 B社及びC社の未処理欠損金額をA社に引き継ぐことができるとする照会者の見解で差し支えないとの回答となっており、照会者の見解は主に以下の通りである。なお、第一次合併時における取扱いに対する見解については割愛する。 ① 支配関係の起算日について 合併法人(A社)が被合併法人(C社)の未処理欠損金額を引き継ぐためには、被合併法人と合併法人との間に、①合併法人の第二次合併の日の属する事業年度開始の日の5年前の日(平成24年5月1日)、②被合併法人の設立の日(平成24年1月13日)又は③合併法人の設立の日(平成29年5月1日)のうち最も遅い日である平成29年5月1日から継続して支配関係がある必要がある(法法57③、法令112④)。 ② 起算日における支配関係について 平成29年5月1日において、甲及びその親族である乙と丙と被合併法人(C社)との間には、当事者間の支配の関係(B社を通じたみなし直接支配関係)があり、丁と合併法人との間には、当事者間の支配の関係(直接支配関係)がある。 この場合において、被合併法人(C社)と合併法人(A社)との間には、支配関係がないのではないかとの疑問が生じるが、「一の者」(株主)が個人である場合には、一の者にはその個人及びその親族を含む(法令4①一)とされており、その親族は株主に限定されていないので、甲は合併法人(A社)の株主ではないが丁の親族(4親等血族)に該当するので、「一の者」に含まれる(民法725条の「親族の範囲」において、6親等内の血族等は親族とされている)こととなり、甲と合併法人(A社)との間に当事者間の支配の関係(直接支配関係)があると考えることができる。 したがって、平成29年5月1日において、被合併法人(C社)と合併法人(A社)との間には、一の者(甲)との間に当事者間の支配の関係がある法人相互の関係すなわち支配関係があることとなる。 〔図3〕 (※) 国税庁ホームページより ③ B社株式譲渡後の支配関係について 平成29年5月26日のB社株式譲渡後においては、合併法人(A社)と被合併法人(C社)との間には、当事者間の支配関係(B社を通じたみなし直接支配関係)があることとなる。また、B社株式譲渡の前後でグループ内の株式の保有関係は変わっているが、B社株式譲渡の前後を通じて被合併法人(C社)と合併法人(A社)との間の支配関係は継続しているため、被合併法人と合併法人との間には、平成29年5月1日から継続して支配関係があることとなる。 ④ 結論 したがって、合併法人(A社)は、被合併法人(C社)の未処理欠損金額を引き継ぐことができる。なお、被合併法人(C社)から引き継ぐ未処理欠損金額には、第一次合併によりB社から引き継ぐ未処理欠損金額が含まれる(法法57②③)。 【参考】 (了)
2017年11月30日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.246を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第15回】 公認会計士 佐藤 信祐 (《第2章》 平成13年度税制改正) (5) 組織再編税制における移転資産等の譲渡損益の取扱い ① 移転資産等の譲渡損益の計上に係る取扱いの原則 『平成13年版改正税法のすべて』145頁(大蔵財務協会、平成13年)では、譲渡損益の計算について、以下のことが記載されている。 平成13年当時は、企業結合会計及び事業分離等会計が導入される前であったため、会計上、現物出資については時価取引、合併については時価以下主義となっていたことを考えると、このような制度が設けられたことは理解できる。しかしながら、平成18年に企業結合会計が導入された結果、現物出資であっても、投資が継続しているとみることができる場合には、現物出資法人において譲渡損益を認識しないことになった(事業分離等に関する会計基準19(1)、31)。 そのため、現在の会計基準を前提とすれば、現物出資についても、現物出資法人が移転資産等を時価により譲渡したものとして譲渡損益の計上を行うことを原則とする規定は必要であると思われるが、現行法人税法にもその旨の規定は存在しない。組織再編税制の制度趣旨を考えると、そのような規定がなかったとしても、現物出資法人が移転資産等を時価により譲渡したものとして譲渡損益の計上を行い、適格現物出資に該当する場合に限り、法人税法62条の4により、移転資産等を簿価により譲渡したものと解すべきであろうが、本来であれば、立法的な解決が図られるべきである。 これに対し、合併又は会社分割を行った場合には、会計上の処理にかかわらず、法人税法62条1項にて、譲渡損益を認識することになる。平成13年度税制改正直後の条文は以下の通りである。 このように、【第6回】で解説したように、非適格合併を行った場合には、資産及び負債を被合併法人から合併法人に譲渡し、その対価としての合併法人株式が合併法人から被合併法人に移転し、その後、被合併法人からその株主に対して被合併法人株式が分配されたとみなして合併譲渡損益の計算を行うものとされており、非適格分割型分割を行った場合も同様の規定がなされている。 【非適格合併又は分割型分割における取引図】 このような処理になっている理由は、 と解説されている(※1)。 (※1) 『平成13年版改正税法のすべて』145-146頁。 これに対し、会社法の施行により、会社法上も、分割型分割については、分社型分割+現物分配として整理されたため(会社法758八、763十二)、平成18年度税制改正により、上記の規定の見直しがなされている。 そして、被合併法人又は分割法人における譲渡損益は、本来であれば、合併の日又は分割型分割の日に譲渡損益を計上すべきである。しかし、課税所得の計算の便宜上、合併の日又は分割型分割の日の前日でみなし事業年度を区切り(法法14二・三)、合併の日の前日又は分割型分割の日の前日の属する事業年度の益金の額又は損金の額に算入することとされた(法法62②)(※2)。 (※2) 前掲(※1)146頁。 ここで留意が必要なのは、合併の日の前日又は分割型分割の日の前日に、合併又は分割型分割を行ったとみなす旨の規定ではないという点である。そのため、被合併法人の株主又は分割法人の株主におけるみなし配当及び株式譲渡損益の計算は、合併の日又は分割型分割の日に行う必要がある(法規27の3九・十、法基通2-1-22(3)イ・ロ、2-1-27(5)イ・ロ)。 なお、平成22年度税制改正により、分割型分割を行った場合におけるみなし事業年度に係る規定が廃止されたため、現行法人税法62条2項の規定は、合併を行った場合に限定されている。 * * * 次回では、適格組織再編成の場合の特例について解説を行う予定である。 (了)
企業の「相談役・顧問」に関する 税務上の留意点 公認会計士・税理士 新名 貴則 1 我が国における相談役・顧問という存在 相談役や顧問という役職は、我が国の法人においては特段珍しくはない。その存在理由は法人によって様々だが、主に次のようなものであると考えられる。 相談役や顧問といった存在にも一定の合理性があるのは事実であるが、中には単なる名誉職と化しているケースがあったり、逆に新経営陣に対して干渉しすぎるケースもあったりする。 そのため、昨今では株主等から「本当に必要な存在なのか」という厳しい目が向けられ始めており、実際に役職を廃止する法人も出てきている。 2 相談役・顧問の法的位置づけ 一口に相談役や顧問といっても、その位置づけは法人によって様々であるため、場合分けをして整理する必要がある。 ① 取締役のままである場合 代表取締役ではなくなっても、「取締役相談役(又は顧問)」といった役職につくケースである。この場合は取締役として登記されており、相談役や顧問とはいえ会社法上は法人の役員のままである。また、法人税法上も当然に役員に該当する。 ② 取締役を退任する場合 取締役を退任して、単なる「相談役(又は顧問)」となるケースである。この場合は、取締役としては登記されていないので、会社法上の役員には該当しない。また、会社法においては「相談役」や「顧問」といった会社の機関は規定されていない。個々のケースによって多少の違いはあるが、通常は会社と委任契約又は準委任契約の関係にあると考えられる。 法人税法上の取扱いは、個々のケースにより取扱いが異なる。会社法上の役員ではなくても、法人税法上の「みなし役員」に該当する場合は、役員として扱わなければならないことに注意が必要である。 【代表取締役退任後の相談役又は顧問の法的位置づけ】 3 取締役のまま相談役又は顧問になる場合の留意点 ① 給与や経済的利益 代表取締役を退任した後も取締役であり続ける場合、法人税法上も当然に役員に該当する。したがって、当該「取締役相談役(又は顧問)」に対する給与や経済的利益は、役員報酬として取り扱う必要があり、次のいずれかに該当する場合のみ損金に算入される。 ただし、上記のいずれかに該当する場合であっても、その役員報酬に「不相当に高額な部分」がある場合には、その部分については損金不算入となる。 ② 退職金 代表取締役を退任して相談役や顧問になる時点で退職金を打切り支給し、さらに最終的に相談役や顧問を退任する時点で、再度退職金を支給するケースも多くみられるが、この場合は次の点に注意が必要である。 ▷役員退職金の打切り支給の取扱い 社長が相談役に退いたなど、役員の分掌変更や改選があった際に一時金を支給しても、退職した事実がなければ、原則として税法上は退職金でなく賞与として扱うことになる。 しかし、例えば次のケースのように、「役員としての地位や職務内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められる」場合は、法人税法上は退職給与として損金算入となり、所得税法上は退職所得となる。 また、退職金を打切り支給した後に支給される退職金の計算上、打切り支給した退職金の計算基礎となった勤続期間を一切加味しない、という条件で支給されるものであることが必要となる。 ▷代表取締役が取締役相談役(又は顧問)になるケースの注意点 取締役相談役(又は顧問)に退いたといっても形式だけであって、依然として経営の第一線から退いていないような場合には、代表取締役退任時点で退職金を打切り支給しても、税務上は退職金とは認められず役員賞与として扱われる。 したがって、このような場合には代表取締役退任時には退職金を支給せず、取締役相談役(又は顧問)を退任する時点で退職金を支給する方が、税務上は有利となる。ただし、その役員退職金に「不相当に高額な部分」がある場合には、その部分については損金不算入となる点に注意が必要である。 また、代表取締役退任時に、税務上も退職金として認められる形で打切り支給を行った場合でも、税務上注意すべき点がある。それは、最終的に相談役や顧問を退任する時点で再度退職金を支給する際には、打切り支給した退職金の計算基礎となった勤続期間を一切加味できないということである。 したがって、代表取締役退任時に多額の退職金を支給し、さらに相談役や顧問の退任時にも同様に多額の退職金を支給するということは、税務上は認められないということになる。 ③ 退職金の決議 代表取締役退任時であっても、取締役相談役(又は顧問)の退任時であっても、いずれも役員退職金に該当するため、定款又は株主総会決議によることになる。 4 取締役は退任して相談役又は顧問になる場合の留意点 代表取締役を退任する際に、取締役も退任した上で相談役又は顧問に就任した場合、会社法上の役員ではなくなるが、法人税法上の「みなし役員」に該当するか否かがポイントとなる。 会社法上の取締役ではない相談役や顧問であっても、次に該当する場合は法人税法上の「みなし役員」に該当する。 ➡その法人内での地位・職務等からみて、他の役員と同様に実質的に法人の経営に従事していると認められる者 (1) みなし役員に該当する場合 ① 給与や経済的利益 代表取締役を退任した後でも、法人税法上のみなし役員に該当する場合、その相談役又は顧問に対する給与や経済的利益は、役員報酬として取り扱う必要がある。 したがって、次のいずれかに該当する場合のみ損金に算入される。 ただし、上記のいずれかに該当する場合であっても、その役員報酬に「不相当に高額な部分」がある場合には、その部分については損金不算入となる。 ② 退職金 代表取締役を退任後も、実質的に法人の経営に従事していると認められることからみなし役員に該当する以上、税務上は役員を退任したとは認められない。したがって、代表取締役退任時に退職金を打切り支給しても、税務上は退職金としては認められず役員賞与として扱うことになる。 したがって、このような場合は代表取締役退任時には退職金を支給せず、相談役又は顧問を退任する時点で退職金を支給する方が、税務上は有利となる。ただし、税務上は役員退職金として扱うため、その役員退職金に「不相当に高額な部分」がある場合には、その部分については損金不算入となる点に注意が必要である。 ③ 退職金の決議 代表取締役退任時の退職金は役員退職金に該当するため、定款又は株主総会決議によることになる。ただし、税務上は退職金とは認められない点に注意が必要である。 相談役又は顧問退任時の退職金は、法人税法上のみなし役員ではあっても会社法上の役員ではないため、定款又は株主総会決議によることはできない。したがって、個々の状況にもよるが、通常は取締役会決議によることになると考えられる。 (2) みなし役員に該当しない場合 ① 給与や経済的利益 代表取締役退任時に取締役も退任し、法人税法上のみなし役員にも該当しない場合は、その相談役又は顧問に対する給与や経済的利益は役員報酬には該当しない。したがって、役員報酬の損金算入要件は適用されない。 ② 退職金 代表取締役退任時に取締役も退任し、法人税法上のみなし役員にも該当しない以上、税務上も役員を退任したと認められる。したがって、代表取締役退任時に退職金を支給した場合、税務上も退職金として認められる。ただし、その役員退職金に「不相当に高額な部分」がある場合には、その部分については損金不算入となる点に注意が必要である。 また、相談役又は顧問退任時の退職金は役員退職金ではないため、過大役員退職金の規定は適用されない。 ③ 退職金の決議 代表取締役退任時の退職金は役員退職金に該当するため、定款又は株主総会決議によることになる。 相談役又は顧問退任時の退職金は、役員ではないため定款又は株主総会決議によることはできない。したがって、個々の状況にもよるが、通常は取締役会決議によることになると考えられる。 (了)