《速報解説》 会計士協会、「事業報告等と有価証券報告書の一体的開示についての検討」報告書を公表 ~会社法・金商法における一体的開示のメリット、監査上の論点・留意点を整理~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成29年8月25日、日本公認会計士協会は「開示・監査制度一元化検討プロジェクトチームによる報告「事業報告等と有価証券報告書の一体的開示についての検討」」を公表した。 日本公認会計士協会は、「開示・監査制度一元化検討プロジェクトチームによる報告「開示・監査制度の在り方に関する提言-会社法と金融商品取引法における開示・監査制度の一元化に向けての考察-」」(平成27年11月4日)を公表しているが、その後の「日本再興戦略2016-第4次産業革命に向けて-」(平成28年6月2日)、「未来投資戦略2017-Society5.0の実現に向けた改革-」(平成29年6月9日)などを受けて検討したものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 本報告は、開示書類全体を検討対象としており、「一元化」とは、会社法と金融商品取引法の両方の制度目的を満たす一組の開示書類とすることを指向するものとしている(4ページ)。 一方、「金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告-建設的な対話の促進に向けて-」などでいう「一体的開示」は、企業が任意にオプションとして選択できる方法という前提に立ち、まずは、会社法の事業報告等と金融商品取引法の有価証券報告書の記載内容の整理・共通化・合理化を図り、効果的、効率的な開示を目指すことである(4ページ)。 本報告では、「事業報告・計算書類(以下「事業報告等」という)と有価証券報告書の一体的開示」(以下「一体的開示」という)について、会社法と金融商品取引法の開示及び監査の一元化の実現に向けて着実に進んでいくための1つの施策となることを期待している(1ページ、4ページ)。 本報告の内容は次のとおりである。 Ⅲ 主な検討結果 事業報告等と有価証券報告書の一体的開示の取組により、会社法の事業報告等と金融商品取引法の有価証券報告書の記載内容が整理・共通化・合理化されれば、作成者及び監査人にとっては開示書類の作成及び監査の負担を軽減でき、株主・投資家にとっては詳細な開示書類を株主総会前に入手できる可能性が高まるなどの利点がある。 一体的開示の方法としては、次の2つの方法が考えられる。 ②の方法で、一組の開示書類として開示することになれば、作成者及び監査人にとっては、開示書類の作成及び監査の負担がより軽減され、株主・投資家にとっては、一度に必要な情報がまとめて入手でき、より利便性が高まるなどの利点がある。 (了)
2017年8月24日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.232を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第38回】 「法解釈の基礎を考える」 税理士 山本 守之 Ⅰ 国税通則法制定時の考え方 1 国税通則法の考え方 現行の国税通則法は昭和37年4月2日に制定されたものです。この基礎となったものが、税制調査会から昭和36年7月5日に出された同法の制定に関する答申です。 この答申によると、その制度の趣旨を「・・・現行のこれらの法律の規定を総合的にみると、そこには、租税に関する基本的な法律構成に関する規定が欠けているし、また、各税に共通する事柄でありながら、規定の不備不統一ないしは重複等がかなりみられるのであって、そのため、税法についての統一的な理解を困難にしたり、あるいは解釈上の疑義を生じる結果となっているものが相当みられることは否定できないと思われる。」として、そのような例を6つ挙げています。 さらに「・・・従来から内容について問題のあった諸点について、これまで毎年のように行なわれてきた税制改正が各税の課税実体に関する部分に重点がおかれたため、共通的な事項でしかも負担に関係するものでありながらその検討や改正が見送られてきたと思われる事情を考慮して・・・」として、これらについて所要の改正をする必要を強調しています。 筆者にとって興味があるのは、税法と私法の関係やそのあり方にふれているところです。 答申の中では「税法と私法との関係その他税法の解釈・適用に関する基本的なあり方について規定が不充分なため、解釈上疑義を生じているものがある」として「税法においては、私法上許された形式を濫用することにより、租税負担を不当に回避し、又は軽減することは許されるべきではない」としているので、「租税回避行為は課税上これを否認することができる旨の規定を国税通則法に設けるものとする」として要求しています。 そもそも税法解釈に際して、私法との関係は常に多くの問題を抱えているため、当時係争中のものも少なくなかったのです。この問題には対立する2つの意見が存在します。 1つ目は、国税庁、旧大蔵省及び一部の学者の間にみられる意見(A意見)で、「税法には税法の独自性がある。したがって、税法解釈はあくまで課税目的に従って判断すべきであり、課税目的に反する民事法上の考え方は否認してよい」とする考え方です。 2つ目は、法務省の一部及び地裁の判事に多くみられる意見(B意見)で、「公法は私法上の権利義務の立場に立って存在するものであり、税法は民事法上の秩序の上に立って存在するのであるから、税法解釈をその課税目的によって解釈することは許されるべきではない」とする考え方です。 2 A意見として A意見としては、「法人税法の総益金、総損金の意義については、民法の法理に偏することなく、経済上、会計上の見解から合目的に判断解釈すべきものである」とする長野地裁判決昭和27年10月21日(TAINSコード:Z011-0139)があります。 3 B意見として B意見としては、当時大きな話題となった三菱殖産事件、東京高裁判決昭和32年9月30日(TAINSコード:Z025-0526)があります。 これは、株主に対して配付した記念品を旧所得税法9条1項2号の配当所得であるとして課税したことに対して、配当は商法に規定するもの以外にはあり得ない、税法の解釈によって勝手に配当と決めることは許されないとしたものです。 国税通則法小委員会の審議のまとめによると、「税法において私法の形式を借用又は濫用することにより租税負担を不当に回避し又は軽減することは許さるべきではない・・・」としています。この規定の考え方をはっきり表しているものと言えるでしょう。 4 ドイツ租税調整法との関係について 1934年、ヒトラーが租税法を自己の世界観に合わせるために制定したドイツ租税調整法は、その6条において「納税義務は、民法の形式又は形成可能性を濫用することによって回避し、又は軽減することはできない。」、「濫用が存在する場合においては、租税は、経済上の行為・事実及び諸関係に適合する法的形態に即して徴収されるべき額において徴収しなければならない。」と規定しています。 国税通則法とドイツ租税調整法が、全く同じ趣旨の規定をし、又は規定をしようとしていたことに、私たちは注目しなければなりません。 不当な租税回避が民事法の形式を濫用して行われ、これを防止することが目的であるとすれば、具体的な禁止規定を設けるべきであって、税法解釈の基本的なあり方として規定することはどうでしょうか。 当時筆者は、「通達行政が租税法律主義に反するとして問題になっていたが、この通則法が制定されるとすれば、ますます租税解釈に問題が起きることはないだろうか。」と批判していました。租税解釈を通達において強制することはドイツ租税調整法においてすら固く禁じています。通達の法源性についてもわが国ではよく争われますが、ライヒ租税法においてはこれを否定しています。 Ⅱ 行為計算否認規定上の関係 1 通則法制定時の考え方と民間の反応 同族会社等の行為計算否認規定についても、従来(国税通則法制定前)までは、結果的にドイツ租税調整法第6条と同じものでしたが、制定答申における次の部分は、その範囲を拡げる内容になっていました。 なお、この税制調査会の答申によって国税通則法そのものは立法されましたが、上記の実質課税の原則等に関する規定については、「税務職員に自由裁量の余地を与えるものであって、徴税強化につながるものであるとの批判や、ナチスドイツ時代に公布されたドイツ租税調整法をわが国に移入して、国家主義的な徴税理念を樹立することになるとの批判もあった。」こと等によって立法されなかったのです。 筆者は当時(昭和37年)、国税通則法の制定について反対運動に参加していました。 2 2つの大きな判決 行為計算否認に関する最近の2つの大きな判決として、まず、最高裁が平成28年2月29日に課税当局の行った「組織再編成に係る行為計算否認」(法132の2)の更正処分を容認したヤフー事件(国側勝訴)があります。 一方、東京高裁が平成27年3月25日に課税庁の行った「同族会社等の行為計算否認」を取り消し、法人税法132条の更正処分を否認したIBM事件(納税者側勝訴) があります(平成28年2月18日最高裁不受理決定)。 この2つの事件は、包括的否認規定を適用した典型的な事件です。 3 ヤフー事件 ヤフー事件の最高裁判決は、納税者(ヤフー)側の上告の棄却です。 控訴審判決を維持していることからみれば上告不受理という方法も考えられましたが、第一審、控訴審に対して学者や法曹界から批判的な意見が多く、法人税法132条の2の不当な要件の意義及び必要性について最高裁の明示的な判断が求められていたので、上告を受理して判決を下したのです。 (1) 不当性の要件 納税者(ヤフー)は経済的合理性を示していましたが、一審と控訴審では次のように「趣旨的基準」を示していました。 最高裁判決は次のように、立法趣旨からみる「制度濫用基準」によっていました。 このような考え方は、最高裁調査官の解説によるものですが、考え方としては裁判官に示してほしかったです。 (2) 制度濫用基準 最高裁判決は次のように判示しています。 制度濫用を判断するにあたっての判断の観点として、①税負担を減少させることを意図したものであって、②組織再編税制に係る規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は逃れるものであることをその要素としています。 最高裁判決の意義は、本規定における「不当性の要件」を明らかにしたといえます。 4 IBM事件の判示 IBM事件の控訴審(東京高裁平成27年3月25日)における判示は、次のようなものでした。 5 判示の考え方 国は、納税者(控訴人)の取引は通常の行為とは異なるとしながら、通常の取引のあり方について立証していません。 「独立当事者間の通常の取引と異なる」ことを主張立証しさえすれば、具体的な意味で「経済的合理性を欠く」ことを主張立証する必要がなくなるというのであれば、税務署長は、「純経済人の行為又は計算として不合理、不自然なもの」という不当性を基礎付ける事実の立証負担なしに不当性を認定し得ることになるのです。 しかし、租税回避行為の是正という法人税法132条1項の趣旨等に照らしても、そのような税務署長の立証負担を軽減するような解釈は許されません。また、何が非同族会社であるがゆえになし得ない行為に当たるかを一義的に判断することは困難ですから、「独立当事者間の通常の取引と異なる」という基準は、最高裁昭和53年4月21日判決(TAINSコード:Z101-4179)がいう「客観的」な基準とはいい難いのです。 仮に、わずかでも独立当事者間の通常の取引と異なるところがあれば、取引における取引価格その他の経済条件が具体的に経済的合理性を欠くか否かの検討を要せず、また、その差異がどれほど重要なものであるかを吟味せずとも、同項の適用が可能になるとすれば、同項の適用範囲を過度に拡大することになります。 そのような解釈は、課税庁の立証負担を不当に緩和し、否認されるべきでない行為を適用対象とするもので、租税法律主義に違反するのです。 (了)
組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第1回】 公認会計士 佐藤 信祐 《序 章》 1 はじめに 平成13年度に組織再編税制が導入され、その後も数々の改正が行われた。特に大きな改正は、平成18年度の会社法対応のための改正、平成22年度のグループ法人税制、平成29年度のスピンオフ税制であったと考えられる。平成29年度のスピンオフ税制は、それ自体は大きな改正ではなかったが、組織再編税制の大幅な見直しもなされていることから、今まで指摘されてきた問題点(※1)の多くが改正されており、組織再編税制も一通り完成したということも言える。 (※1) この点については、本連載を通じて解説していきたい。 税務専門家が法律の専門家であると言われるようになったのは、かなり最近のことであり、かつては、著名な国税OBの意見を参考にしながら実務を行うという慣習があった。これに対し、平成10年度以降の法人税法の改正は、なるべく条文に明確に記載しようとする財務省主税局の意図が感じられ、条文にかなり細かく書かれるようになった。そのため、条文の形式的な解釈が一時的に強調された事実があったように思われ、組織再編税制はその顕著な例として挙げられる。そして、租税法律主義が強く意識されるようになった時期とも重なるため、どのような著名な先生の意見であったとしても、国税局や裁判所が同様の意見を採用するとは言えないようになった時期とも重なっている。 その一方で、ヤフー・IDCF事件(平成28年2月29日最高裁判決TAINSコードZ888-1983、1984)では、制度の濫用論が唱えられ、組織再編税制の制度趣旨を理解しておく必要性が言われるようになった。しかしながら、前述のように、どのような著名な先生の意見であったとしても、国税局や裁判所が同様の意見を採用するとは言えない時代になっているため、どのように制度趣旨を理解するのかが問題となる。その顕著な例として、ヤフー・IDCF事件に対する最高裁判所調査官解説が挙げられる(※2)。なぜなら、その内容が、組織再編税制の立案担当者であり、国税局側で鑑定意見書を書かれた朝長英樹税理士の解説(※3)と異なっていることから、今後、立案担当者の意見ですら、制度趣旨として認められないことがあり得るからである。 (※2) 徳地淳・林史高「判解」ジュリスト1497号80-98頁(平成28年)。 (※3) 朝長英樹「検証・ヤフー・IDCF事件は「租税回避」の捉え方をどう変えたか」T&Amaster634号4-13頁(平成28年)など。 これは、学問の世界では、決して衝撃的なことではない。制度趣旨を語るうえで、必ず一次文献を確認するというのは基本中の基本である。なぜなら、立案担当者であったとしても、国税庁での情報に精通していた者であったとしても、記憶違いが生じることがあり得るからである。ましてや、個別の案件ともなれば、個人的な意見になってしまう余地もあるため、退官後に語られた意見は、組織の意見と異なる可能性があることは言うまでもない。さらに、財務省主税局が立案時には想定していなかったことが、その後の運用で、国税庁が明確な解釈を打ち出すということも珍しいことではない。これは、租税法の世界に限らず、あらゆる法律の分野においてあり得ることである。 そして、制度趣旨を語るうえで留意すべきこととして、①著名な先生であっても、その意見を鵜吞みにしない、②税務専門家同士のディスカッションに頼らない、という点が挙げられる。このうち、①については前述の通りであり、必ず一次文献を確認する必要がある。次に、②税務専門家同士のディスカッションは、租税法の理解を深めるうえで貴重ではあるが、「それなりの答え」が出てしまう危険性があるという問題点が挙げられる。「それなりの答え」が出てしまうことから、仮に間違っていたとしても、それが正しいものと勘違いしてしまうからである。 例えば、100人の税理士のうち100人がその通りと思えるようなものであればともかくとして、「制度趣旨を考えると」と書かれていながら、明らかに間違った見解が示されているものも少なくない。このようなことを避けるためにも、税務専門家同士のディスカッションで「それなりの答え」が出たとしても、必ず一次文献を確認し、本当に正しかったのかどうかを検証する必要がある。 本連載では、このような理由から、なるべく該当する条文ができた頃の財務省主税局又は国税庁から公表された資料に基づいて解説をしていくことを心掛けたい。また、賢明な読者は、本連載を鵜吞みにせず、常に一次文献を確認する必要性にも気づかれたと思う。注釈に入れた文献を確認することで、組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨に対する理解を深めることができると思われる。 2 組織再編税制の読み方 組織再編税制を理解するためには、まずは会社法を理解する必要がある。 例えば、2社以上の法人を被合併法人とする吸収合併における税制適格要件の判定に対して、文書回答事例「三社合併における適格判定について(照会)」が公表されているが、会社法上、2社以上の法人を被合併法人とする吸収合併は、複数の合併が同時に行われたと考えることがその根拠となっている。さらに、会計と税務が分かれつつあるとは言え、企業結合会計、事業分離等会計が組織再編税制に全く影響を与えていないとは言い切れない。 そのため、組織再編税制を深く理解するためには、企業会計と会社法も同時に深く理解する必要がある。 そして、組織再編税制は、条文が極めて精緻に作られているという特徴がある。したがって、まずは条文の形式的な解釈を理解する必要がある。その一方で、「おおむね」「見込まれる」といった不確定概念が多いのも組織再編税制の特徴のひとつである。 このような不確定概念については、組織再編税制が制定された当時の資料を確認することで、その解釈や制度趣旨を理解するだけでなく、その後の実務の状況について、公表されている国税局や税務専門家の見解を確認する必要がある。 このように、制度趣旨を理解することが重要であることは言うまでもないが、制度趣旨への理解を強調し過ぎるあまり、条文の形式的な解釈を軽視することも問題である。なぜなら、「こういうつもりで作った」と財務省主税局が強く主張したとしても、実際の条文がそうなっていないのであれば、それを実務で受け入れることはできないからである。 すなわち、条文の形式的な解釈を理解することと、制度趣旨を理解することは、いずれも重要であり、片方だけが極端に強調されるべきではない。本連載では、そのような立場から、一次文献を確認することで制度趣旨を研究しながらも、必ず条文を確認するという姿勢で臨みたい。 * * * 次回以降では、組織再編税制が制定される前に財務省から公表された資料に基づいて、組織再編税制制定の背景を探っていく予定である。 (了)
平成29年度税制改正を踏まえた設備投資減税の選定ポイント 【第7回】 「[設備種別]適用税制の選択ポイント③(器具備品)」 アースタックス税理士法人 代表社員 税理士 島添 浩 シニアマネジャー 税理士 小嶋 敏夫 壽命 正晃 發知 諭志 【第5回】から【第10回】にわたっては、青色申告法人(連結法人を除く)における設備種別の適用税制(中小企業投資促進税制、商業・サービス業・農林水産業活性化税制、中小企業経営強化税制)の選択ポイント及び具体的な申告実務上の留意事項を確認する。 なお、各税制の概要や適用手続き等については、【第1回】から【第3回】までを参照願いたい。 それでは今回【第7回】は、器具備品について紹介する。 1 選択ポイント 中小企業投資促進税制、商業・サービス業・農林水産業活性化税制、中小企業経営強化税制の主なポイントは下記のとおりである。 【器具備品における適用税制一覧表】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (※) 上記税制以外に、【第4回】で確認した「地域中核企業向け設備投資促進税制(地域未来投資促進税制)」が平成29年7月31日から適用開始されている。 承認地域経済牽引事業に係る承認地域経済牽引事業計画に従って、特定地域経済牽引事業施設等の新設又は増設をするような場合には、当該税制の検討も要する。 器具備品においては、中小企業投資促進税制は対象外となるため、商業・サービス業・農林水産業活性化税制と中小企業経営強化税制の選択となる。 商業・サービス業・農林水産業活性化税制及び中小企業経営強化税制は、原則として器具備品を取得する前に一定の手続きを要するため、事前準備を行う必要があるが、商業・サービス業・農林水産業活性化税制より手続きが複雑な中小企業経営強化税制が特別償却、税額控除ともに有利な制度になっている。 なお、商業・サービス業・農林水産業活性化税制では経営の改善に資するものである必要があり、中小企業経営強化税制では経営力向上に特に資するものである必要がある。それぞれの要件には留意されたい。 また、器具備品の固定資産税の特例措置(課税標準の特例)については、【第3回】で確認したとおり、地域と業種によって適用を受けることができるか否かが決定されることから注意が必要である。 2 具体例(特別償却準備金、税額控除) 今回は、前回【第6回】同様に、特別償却に代えて特別償却準備金を選択した場合と税額控除を選択した場合について確認する。 - 前 提 - 小売業を営む青色申告法人である内国法人甲社(資本金3,000万円、発行済株式の総数1,000株、従業員の数20人、大規模法人に株式を所有されていない)は、当期(平成29年4月1日から平成30年3月31日)において、冷凍ショーケース(陳列だな及び陳列ケース・冷凍機能付又は冷蔵機能付のもの)を取得し、事業の用に供した。なお、償却方法については、定率法を選定し届け出ている。 【冷凍ショーケース(陳列だな及び陳列ケース・冷凍機能付又は冷蔵機能付のもの)の詳細】 取得価額:2,000,000円 法定耐用年数:6年 (定率法償却率:0.333、改定償却率:0.334、保証率:0.09911) 取得日:平成29年11月5日 事業供用日:平成29年11月5日 普通償却費:277,500円 普通償却限度額:277,500円 (1) 特別償却準備金を選択適用した場合 ① 中小企業投資促進税制 器具備品については、適用できない。 ② 商業・サービス業・農林水産業活性化税制 当期末において剰余金の処分により特別償却準備金として600,000円を積み立てているものとする。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 ③ 中小企業経営強化税制 当期末において剰余金の処分により特別償却準備金として1,722,500円を積み立てているものとする。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (2) 税額控除を選択適用した場合 ① 中小企業投資促進税制 器具備品については、適用できない。 ② 商業・サービス業・農林水産業活性化税制 調整前法人税額は150,000円であるものとする。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 ③ 中小企業経営強化税制 調整前法人税額は150,000円であるものとする。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 ④ 税額控除選択適用時の留意事項 上記具体例において税額控除を選択適用した際は、税額控除限度額が税額基準額(調整前法人税額×20%)を超えるため、当期において税額控除限度額の全部を控除しきれないが、この控除しきれなかった金額(繰越税額控除限度超過額)については、1年間の繰越しが認められている。 よって、商業・サービス業・農林水産業活性化税制の場合の繰越税額控除限度超過額110,000円(140,000円-30,000円)、中小企業経営強化税制の場合の繰越税額控除限度超過額170,000円(200,000円-30,000円)は、翌期において税額控除をすることができる。 ただし、繰越し可能な期間は1年間であるため、繰越税額控除限度超過額が翌期の税額基準額(調整前法人税額×20%)を超える場合には、その超える部分の金額は控除することができなくなる。 このような事態に陥ることがないよう事前の事業計画において、税額控除により控除しきれるかどうかも検討しておく必要がある。 * * * 次回【第8回】では、建物附属設備についての選択ポイント及びその具体例を確認していく。 (了)
相続空き家の特例 [一問一答] 【第8回】 「被相続人居住用家屋及びその敷地等の範囲② (離れや倉庫などの建築物が未登記であった場合)」 -相続空き家の特例の対象となる譲渡の範囲- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、昨年2月に死亡した父親の居住用家屋(昭和56年5月31日以前に建築)とその敷地を相続により取得しました。 相続の開始の直前において、父親は1人暮らしをし、父親名義のその土地(200㎡)は、用途上不可分の関係にある2以上の建築物(父親登記名義の母屋:140㎡、未登記の離れ:40㎡、未登記の倉庫:20㎡)のある一団の土地でした。 Xは、耐震リフォームに伴って母屋を増築し、その床面積を160㎡とした上で、その土地と建築物の全てを売却しました。 この場合、「相続空き家の特例(措法35③)」の適用にあたって、被相続人居住用家屋の敷地に該当する部分の面積はいくらでしょうか。 A 被相続人居住用家屋の敷地に該当する部分の面積は、140㎡となります。 ●○●○解説○●○● 譲渡した土地等が、「被相続人居住用家屋の敷地の用に供されていた土地」に該当するかどうかは、社会通念に従い、その土地等が相続の開始の直前において被相続人居住用家屋と一体として利用されていた土地であったかどうかより判定することとされています。 この場合において、その相続の開始の直前において、その土地が用途上不可分の関係にある2以上の建築物のある一団の土地であった場合には、その土地のうち、次の算式で計算した面積に係る土地の部分に限られます。 なお、これらの建築物について、相続の時後に増築や取壊し等があった場合であっても、この算式による床面積按分の計算は、相続の開始の直前における現況の床面積によることとなります(措通35-13(被相続人居住用家屋の敷地等の判定等)。 (算式) (注1) 被相続人以外の者が相続の開始の直前において所有していた土地等も含まれます。 (注2) 被相続人以外の者が所有していた建築物も含まれます。 (注3) 被相続人から相続又は遺贈により取得した被相続人の居住の用に供されていた家屋の敷地の用に供されていた土地等の面積のうち、譲渡した土地等の面積となります。 なお、上記算式中の床面積は、「その母屋及び別棟の離れ、倉庫、蔵、車庫の登記の有無や所有権に関係なく、合計されます」(財務省HP「平成28年度税制改正の解説」153頁)。 したがって、それらの建築物の登記の有無に関係なく計算し、また、相続の時後に増築が行われた場合であっても、相続の開始の直前における現況の床面積に基づくことから、本事例における、被相続人居住用家屋の敷地に該当する部分の面積を計算すると、次のようになります。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例53(相続税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆貸宅地と借地権(財産評価基本通達25、27) Aが自己所有の宅地に借地権を設定してBに貸し付け、Bが宅地を利用している場合 ◆相当の地代(相当の地代通達1) 相続税法上、借地権の設定に際しその設定の対価として通常の権利金を支払っていない場合においても、通常の権利金に対応する地代を支払っているときには、地主は十分な経済的利益を受けているため、贈与税の課税関係は生じないこととされている。この地代を「相当の地代」といい、次の算式により計算する。 相当の地代の年額 = 自用地価額の過去3年間の平均額 × 6% ◆土地の無償返還に関する届出(法基通13-1-7) 法人が借地権の設定等により他人に土地を使用させた場合で、その借地権の設定等に係る契約書において将来借地人等がその土地を無償で返還することが定められている場合に、その後遅滞なくこれを届け出るもので、この届出を行っている場合には、権利金の認定課税は行われないこととなる。なお、この届出者は、土地所有者が個人である場合であっても提出することができる。 ◆土地の無償返還に関する届出書が提出されている場合(相当の地代通達5、8) 権利金等を支払わずに土地の賃貸借があった場合において、相当の地代を支払っていないときは、借地権の贈与があったものとみなされる。しかし、「土地の無償返還に関する届出書」を提出することにより、借地権の贈与がなかったものとして取り扱うことができる。 この場合の、それぞれの評価額は次のようになる。 なお、借地人(法人)の借地権の評価額は零であるが、当該法人の株式評価上、次の金額を純資産価額に算入する(使用貸借の場合には、この取扱いはない)。 (了)
国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第8回】 「非居住者期間における各種保険料の取扱い」 税理士 菅野 真美 - 質 問 - 私(現在、日本の非居住者)甲は、乙社(内国法人)の従業員ですが、今年から4年間の予定で海外駐在となります。給料は引き続き乙社から支払われます。 転勤後は、給料から所得税は差し引かれないはずですが、厚生年金保険料や健康保険料などは差し引かれるのでしょうか。 また、海外に駐在した場合の年金保険料について、日本でも保険料を支払い、現地国でも払う場合は、二重払いになりませんか。また、現地国のみで保険料を支払い、将来、帰国して、年金を受け取るときになって、現地国での支払期間を通算してもらえますか。 ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ ▷海外に転勤した場合の健康保険・雇用保険・介護保険の取扱い 従業員が海外に転勤した後も、内国法人から給与を支払われる場合、国外源泉所得となることから所得税は非課税となり、住民税についても、翌年以後の特別徴収分は1月1日現在日本にいないことから非課税となる。 しかし、給料から源泉徴収されるのは税金だけでなく、健康保険、厚生年金保険、介護保険、雇用保険等がある。 健康保険は常時5人以上の従業員が働いている会社・工場・商店・事務所などの事業所と、5人未満であってもすべての法人事業所は「適用事業所」となり、海外勤務となってもその適用事業所との雇用関係がある場合は被保険者となる。したがって、支給される給料から個人負担分が控除される。 海外で医療費が生じた場合は、いったん全額自費で支払い、後日、加入している健康保険組合に請求すると、健康保険組合等の負担部分が還付されることとなる。 雇用保険も健康保険と同様に、適用事業所との雇用関係が継続されているならば被保険者資格が継続され、給料から個人負担分が控除される。 ただし、介護保険は、日本国内に住所を有しなくなったときは適用が除外されるので注意が必要である。 ▷厚生年金保険料の支払いと社会保障協定 海外転勤者の厚生年金保険についても健康保険、雇用保険と同様に、適用事業所との雇用関係が継続されている場合は、適用対象となる。しかし、現地国においても厚生年金と同様の制度が設けられ加入しなければならない場合もあり、この場合、日本と現地国で保険料の二重払いの状況となる。 また、日本での年金の支払いをやめ、現地国だけで支払い、その後、帰国して、将来年金を受給するときに、保険料を支払った期間のうち、日本で支払わず、海外で支払った期間がある場合、その期間も通算して年金の額が算定できるかという問題がある。 このような問題を解決するため、日本は諸外国と「社会保障協定」を締結している(日本年金機構HPによると、平成29年8月現在、署名済み20ヶ国、発効済み17ヶ国(下図参照))。 (注) イギリス、韓国及びイタリアについては「保険料の二重負担防止」のみで「年金加入期間の通算」は行われない。 ▷「加入期間の通算」については注意が必要 社会保障協定発行済みの国に転勤になった場合で、海外勤務期間が5年以内の場合は、日本での厚生年金に継続して加入することになり、現地国での加入手続は不要となる。海外勤務期間が5年超の場合は、原則として、派遣される国の社会保障制度にのみ加入することとなる。これにより、日本と現地国での保険料の二重払いを避けることができる。 なお、年金については、二重払いの問題だけでなく、資格期間の通算の問題がある。年金を受け取るためには、一定期間保険料を支払わなければならない。この期間が従来は25年以上であったが、平成29年8月からは10年となる。 この10年の期間に、社会保障協定国(発行済み)で、年金加入期間通算が認められる国において年金制度に加入(日本の年金制度には未加入)していた期間がある場合は、日本の年金制度の加入期間とみなされることになる。 たとえば、上記のとおり、アメリカは日本と社会保障協定を締結し、加入期間の通算も認められていることから、アメリカでの加入期間を加えて、日本での年金の支給額が決定される。一方で、イギリスは日本と社会保障協定を締結しているが、保険料の二重負担防止のみで、加入期間の通算は認められていないことから、イギリスでの加入期間を加えて日本での年金支給額が決定されることはない。 なお、社会保障協定が結ばれていない国への転勤の場合は、日本での年金保険料の支払いと、現地国の制度における保険料の二重払いの可能性がある。たとえば、中国とは社会保障協定が結ばれていない。 ▷社会保険料控除の適用は? このように海外転勤により非居住者となった場合においても社会保険料の支払いは発生するが、非居住者の期間に支払った社会保険料は所得控除を受けることができない。 このため、たとえば、その従業員が、海外勤務期間中に自宅を貸し、不動産所得が生じたことから確定申告をしたとしても、社会保険料を控除して税額を計算することはできない。 (了)
平成29年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第9回】 (最終回) 「地方税率の改正時期の変更他」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 [11] 地方税率の改正時期の変更 平成28年11月28日公布の「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律等の一部を改正する法律」により消費税率の10%への引上げ時期が平成31年10月1日に延期されたことに伴って、地方税率の改正についても実施時期が変更されている(社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための地方税法及び地方交付税法の一部を改正する法律等の一部を改正する法律)。 改正後の法人税、地方税の税率と税効果会計で適用される法定実効税率を示すこととする。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 以上のように、平成30年4月1日以後開始事業年度と平成31年10月1日以後開始事業年度について、合計の法定実効税率は30.62%で変わらないため、単体納税の税効果会計(繰延税金資産の計算)には影響は生じない。 一方、法人税及び地方法人税の法定実効税率と住民税の法定実効税率の内訳が変わるため、連結納税の税効果会計において、法人税及び地方法人税と住民税で将来減算一時差異等の回収可能額が異なる場合、計算される繰延税金資産についても異なることとなる。 [12] 組織再編税制に係る改正 連結納税における組織再編税制の取扱いについては、次に掲げる条文以外、単体納税と同じ条文が適用され、単体納税と同じ取扱いになる(法法81の3)。 したがって、組織再編税制の適用範囲、適格要件、適格・非適格の譲渡資産・保有資産の取扱い、株主課税(株式譲渡損益とみなし配当)などは、連結納税を採用している場合も、単体納税と同じ取扱いとなる。 一方、連結納税特有の取扱いのうち、次に掲げるものについて、組織再編税制の取扱いが影響を与える。 そして、平成29年度税制改正のうち、組織再編税制に係るものについては、以下の改正項目があるが、【第2回】「スクイーズアウトにおける特定連結子法人の範囲の拡大」で解説した改正内容を除いて、連結納税における取扱いは単体納税と同じ取扱いになる。 そのため、具体的な改正内容は、組織再編税制に係る他の改正記事を参照してほしい。 [13] タックス・ヘイブン税制の総合的見直し 連結法人に係る外国子会社合算税制は、租税特別措置法第68条の90で定められているが、その内容は、租税特別措置法第66条の6で定める内国法人(単体申告法人)に係る外国子会社合算税制と同じである。 そして、平成29年度税制改正では、BEPS報告を踏まえて、外国関係会社の平成30年4月1日以後に開始する事業年度について、内国法人の外国子会社合算税制(措法66の6)について、抜本的な改正が行われているが、連結法人に係る外国子会社合算税制(措法68の90)についても同じ内容の改正が行われている(平成29年所法等改正法附則1五、85①②)。 したがって、具体的な改正内容は、外国子会社合算税制に係る他の改正記事を参照してほしい。 なお、単体申告法人と異なり、連結親法人がまとめて、各連結法人に係る次に掲げる外国関係会社の財務諸表等を連結確定申告書に添付しなければならない(措法68の90⑪、66の6⑪)。 (連載了)
収益認識会計基準(案)を学ぶ 【第1回】 「範囲と定義」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 本シリーズでは、平成29年7月20日から意見募集が開始された「収益認識に関する会計基準(案)」(以下「収益認識会計基準(案)」という)及び「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)」(以下「収益認識適用指針(案)」という)についての解説を行う。 収益認識会計基準(案)は、わが国における収益認識に関する包括的な会計基準の開発として公表されたものである。意見募集は平成29年10月20日までである。 今回は、収益認識会計基準(案)における「範囲と定義」について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 範囲 1 収益認識会計基準(案)の対象 収益認識会計基準(案)は、顧客との契約から生じる収益に関する会計処理及び開示に適用される(3項)。 次の事項に注意する(95項)。 次の取引は収益認識会計基準(案)の適用範囲から除かれている(3項、96項~100項)。 収益認識会計基準(案)の適用範囲については、次の事項にも注意する(101項~102項)。 なお、参考までに記載すると、固定資産の売却に関しては、平成16年2月13日に、企業会計基準委員会から「不動産の売却に係る会計処理に関する論点の整理」が公表されており、不動産の売却の会計処理の考え方などが述べられている。 2 留意点 収益認識会計基準(案)は「企業会計原則」に優先することから(1項)、今後は、実現主義の原則(「企業会計原則」 第二 損益計算書原則 三 B)とは異なる考え方で会計処理及び開示を行うことになると考えられるので、収益認識会計基準(案)の全体像を理解することが必要になると考えられる。 収益認識会計基準(案)の開発に当たっての方針は次のとおりであり(91項~94項)、その適用に当たっては、下記(2)の重要性等に関する代替的な取扱い(収益認識適用指針(案)91項から102項)を用いるかどうかなどを含めて、実務上の適用方法を早めに検討することが考えられる。 〈方針(1)〉 ▷具体的な規定 ・収益認識会計基準(案)の13項から76項 ・収益認識適用指針(案)の4項から88項及び103項 〈方針(2)〉 ▷具体的な規定 ・収益認識適用指針(案)の91項から102項(次の事項) 〈方針(3)〉 3 廃止される会計基準等 収益認識会計基準(案)等が会計基準等として確定した場合、次の会計基準等は廃止される予定である(86項、90項)。 このため、従来、これらの会計基準等を適用している会社は、収益認識会計基準(案)に従って会計処理等をする場合の影響について検討することが必要と考えられる。 Ⅲ 定義 収益認識会計基準(案)は、次の定義を設けている(4項~12項)。 契約、顧客、債権、契約資産及び契約負債など重要な定義が規定されている。 『契約』 【定義】 法的な強制力のある権利及び義務を生じさせる複数の当事者間における取決めをいう。 『顧客』 【定義】 対価と交換に企業の通常の営業活動により生じたアウトプットである財又はサービスを得るために当該企業と契約した当事者をいう。 『履行義務』 【定義】 顧客との契約において、次の①又は②のいずれかを顧客に移転する約束をいう。 ① 別個の財又はサービス(あるいは別個の財又はサービスの束) ② 一連の別個の財又はサービス(特性が実質的に同じであり、顧客への移転のパターンが同じである複数の財又はサービス) 『取引価格』 【定義】 財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額(ただし、第三者のために回収する額を除く)をいう。 (※1) 収益認識適用指針(案)の「Ⅲ.我が国に特有な取引等についての設例」の「[設例28]消費税等」では、その前提条件において、「売上に係る消費税等は、第三者である国や都道府県に納付するため、第三者に支払うために顧客から回収する金額に該当することから、取引価格には含まれない(会計基準第44項)」と記載されている。 (※2) 第348回企業会計基準委員会(2016年11月4日)の「審議事項(3)-7」の11項では、第三者に代わって回収する金額に該当するか否かの判断に迷う可能性がある事項として、次のものが検討されている。 ① 消費税等(消費税及び地方消費税) ② 電気事業における再生可能エネルギー発電促進賦課金 ③ クレジットカード会社に支払う手数料 ④ 小型家電等のリサイクル費用 ⑤ パートナー企業と収益の配分割合を取り決めている契約 ⑥ 旅行業界における燃油サーチャージや空港利用税等 ⑦ 航空業界における共同運航に関する収益 ①消費税等については、国内において広く見られる重要な取引であるため、我が国の実務における会計処理の多様性を軽減する観点から、今後検討すべき課題の候補とすることが考えられるがどうかとする一方、②から⑦の「判断の困難さがあるケース」については、いずれも「審議事項(3)-7」の14項に記載の趣旨に当たるほどの重要性はないと考えられるがどうかと述べられている。 『独立販売価格』 【定義】 財又はサービスを独立して企業が顧客に販売する場合の価格をいう。 『契約資産』 【定義】 企業が顧客に移転した財又はサービスと交換に受け取る対価に対する企業の権利(ただし、債権を除く)をいう。 (※) 契約資産及び契約負債に関する会計処理については、収益認識適用指針(案)の設例を参照していただきたい。 『契約負債』 【定義】 財又はサービスを顧客に移転する企業の義務に対して、企業が顧客から対価を受け取ったもの又は対価を受け取る期限が到来しているものをいう。 『債権』 【定義】 企業が顧客に移転した財又はサービスと交換に受け取る対価に対する企業の権利のうち無条件のもの(すなわち、対価に対する法的な請求権)をいう。 対価に対する企業の権利が無条件である(収益認識会計基準(案)11項)とは、当該対価を受け取る期限が到来する前に必要となるのが時の経過のみであるものをいう(129項)。 『工事契約』 【定義】 仕事の完成に対して対価が支払われる請負契約のうち、土木、建築、造船や一定の機械装置の製造等、基本的な仕様や作業内容を顧客の指図に基づいて行うものをいう。 「受注制作のソフトウェア」とは、契約の形式にかかわらず、特定のユーザー向けに制作され、提供されるソフトウェアをいう。 (※) 「工事契約に関する会計基準」(企業会計基準第15号)を踏襲している(104項)。 (了)