これからの会社に必要な 『登記管理』の基礎実務 【第1回】 「商業登記記録は「会社の履歴書」」 司法書士法人F&Partners 司法書士 本橋 寛樹 はじめに いきなりだが、まず自社又は顧問先の企業が以下のチェックリストに当てはまるか、確認していただきたい。 ◆ ◆ ◆ チェックリスト ◆ ◆ ◆ □ 役員の任期到来の時期を把握している。 □ 登記記録と定款の記載に不一致がない。 □ 会社代表者の住所変更に伴う登記を変更のたびに行っている。 □ 全株主の氏名、住所、持株数、株式取得年月日を株主名簿に反映している。 □ 株主、役員の全員と連絡をとれる状態であり、株主、役員の意思表示は問題なく行われる。 □ 株主総会や取締役会に参加資格のある者に漏れなく決議の機会を与えている。 □ 株主の構成に変動がある場合に、会社所定の書式によって経過を証明できる。 □ 議事録や定款等の備置書類を時系列に沿って保管し、必要に応じて取り出せる。 □ 株主総会で定款変更の決議のたびに、定款を更新している。 チェックの結果はいかがであっただろうか。 上記項目のうち一つでも漏れがあるという会社は、これから始まる本連載の解説を読み進め、活用していただきたい。 本連載『これからの会社に必要な『登記管理』の基礎実務』では、主に会社の実務担当者や、法人案件に携わる税理士等を対象に、登記に至るまでの過程を軸とする社内整備の方策について、司法書士の立場から、分かりやすく、かつ、実践的に解説していく。 商業登記記録は「会社の履歴書」 本連載を読み進めていくうえで、まず、 商業登記記録 = 会社の履歴書 とイメージしていただきたい。 会社情報を精査するには、商業登記記録が記載される、法務局発行の「履歴事項全部証明書」を活用する。 この「履歴事項全部証明書」だが、省略して表記すると「履歴書」になる。つまり、商業登記記録は文字通り、「会社の履歴書」のようなものといえる。 個人の履歴書には、氏名、住所、生年月日をはじめとして、学歴や資格、職歴等の項目がある。一方、商業登記記録には、個人の履歴書に対応する、会社の商号、本店、会社の成立年月日をはじめとして、資本金、役員構成、機関設計等の項目がある。 共通点は? 例えば個人の履歴書の場合、入社を希望する会社の書面審査において、一定の審査水準を超えると、その書面審査を通過できる。逆に一定の水準を満たさないと、面接等の次のステップに進めない。誤字・脱字や、矛盾点がみられたり、転職回数が重なったりすると、審査の水準が満たされない可能性が高くなる。 上記のことは、会社の場合にも当てはまる。取引を検討するにあたり、対象会社の商業登記記録を確認することになるが、審査の水準を満たせば、取引開始のステップに近づく。逆に最低限の水準を満たしていないと、取引が見送りになるおそれがある。登記記録と会社資料の記載に不一致があったり、本店移転や商号変更が頻繁に行われたりするといった点は、会社の信用力低下に結びつく。 相違点は? 個人の履歴書と会社の商業登記記録には、上記のような共通点がある一方、次のとおり相違点がある。 会社の履歴書の特徴をまとめると、以下のとおりである。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 以上、商業登記記録の特徴をまとめると次のとおりである。 一定の時期に、複数の者の意思決定によって更新され、誰でも閲覧することができる記録 本連載の今後の進め方 本連載では、下図のとおり、商業登記記録の特徴を踏まえて、登記に至るまでの過程として、『任期管理』・『株主管理』・『議事録管理』の3点に着目する。 そして、この3点の総称を『登記管理』と定義する。 会社の登記管理が万全であれば、その会社の意思決定が迅速かつ忠実に登記記録に反映され、会社の信用力向上を期待できる。 他方で、登記管理が不十分であると、会社の意思決定が滞ったり、覆ったりする等のリスクを伴い、会社の信用力低下が懸念される。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 * * * 次回は、登記管理を怠った場合、どのようなリスクが生じるのかという点について紹介したい。 (了)
税理士が知っておきたい [認知症]と相続問題 〔Q&A編〕 【第6回】 「管理者による『預金の使い込み』(その1)」 クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎 [設問06] 90歳になる私の父は、2年前に中程度の認知症と診断されたのと同時に内臓疾患が見つかったため、手術を行い、その後も長期間の入院を余儀なくされていました。 父は先月亡くなりましたが、遺言書を残していなかったため、相続人となる私と私の姉との2人で遺産の分割を協議することになりました。 しかし、ほぼ唯一の遺産であったはずの父の銀行預金が、死亡時にはわずか数十万円程度しか残っていなかったのです。 ◆ ◆ ◆ 父の入院中、身のまわりのことは、私の姉がすべて面倒を見ていました。 姉はもともと実家で父と2人暮らしをしていたので、父が入院したとき、自然の流れで父から通帳と印鑑を預かり、必要な入出金を代行することになりました。姉は、病院での付き添い、日用品の買い出し、入院費用等の各種支払い等、まさに父の生活全般をサポートしていました。 認知症となっていた父はひとりでは生活ができず、その中で姉が献身的な働きをしてくれたことには感謝しているのですが、父は入院する以前のまだ元気な頃から、常々、「自分が遺産として残せるのは、約1,500万円の銀行預金しかない。他にめぼしい財産は持っていないので、孫たちのためにもできるだけ無駄遣いはせず、お前たち娘に残してやるつもりだ。」と話していたのです。 約1,500万円あったはずの銀行預金も、わずかこの2年間で無くなってしまったということになります。 ◆ ◆ ◆ 私は不審に思い、姉に尋ねてみましたが、姉は との一点張りで、埒が明きません。 姉による財産管理が適切であったかが極めて疑わしい状況のなか、私は一体どうすればよいのでしょうか。 1 急増する「預金の使い込み」問題 筆者が弁護士として日々さまざまな相談を受けるなかで、近年急増しているトピックスが、いわゆる「預金の使い込み」である。 そして、この典型的な相談事例を元にしたのが今回の【設問06】である。 高齢に伴う判断能力の低下や身体障害等から、自分ひとりでは財産の管理や各種の支払いが困難な状況となったものの、成年後見人を付けるといった大袈裟な話になることは好まない、というようなケースはいくらでもある。 このようなケースで、子供や親族と同居していたり、または近所に住んでいる場合には、その者を信用して預金通帳や印鑑を預け、財産管理を任せることも非常に多い。 そのような中で使途不明金が発生し、財産管理に携わっていなかった親族から“不正な使い込み”を疑われてトラブルになるというのが「預金の使い込み」の事案である。 今回は、【設問06】の相談者=請求側の立場に立って、この種のトラブルへの対応方法を解説したい。 2 被害状況の把握(1)-「入出金明細」の取り寄せ まず何よりも、本件での被害状況、すなわち、 本人の存命中に、預金が、いつ、いくら払い戻されたのか? を正確に確認することが最優先となる。 本件では、相談者の父が既に亡くなっているため、法定相続人である相談者は、父名義の預金口座の「入出金明細」につき、自分ひとりで(=姉の協力・承諾を得ることなく)金融機関に請求し、開示してもらうことができる。これは判例も認めるところであるし、金融機関における実際の運用もそうなっている。 本件では、姉が財産管理を開始したのが2年前とあるので、その時期(入院開始前後)以降、現在までの入出金明細を入手できれば足りるだろう。 なお、【設問06】とは異なり、父がまだ存命中に「預金の使い込み」が疑われる事態が発生した場合は、どのようにすればよいだろうか。 この場合には、父本人に事情を話し、事実関係の正確な把握の必要性を理解してもらった上で協力を要請し、本人から委任状を入手して、代理人としての立場で金融機関に入出金明細の開示を求めればよい。 他方、本人がなかなか協力してくれない(自分が依頼した親族に財産管理を任せているというのであるから、心情的に協力を拒絶する場合も少なくない)といった場合には、入出金明細の確認もできず、通帳の確認も困難ということになり、その段階では事実関係の確認が困難といえる。 したがって、財産を管理している親族に対して直接に、通帳の写しや入出金明細の入手・開示を求めていくべきであろう。 3 被害状況の把握(2)-「出金一覧表」への整理 入手金明細を取り寄せた後は、特に出金(払戻し・引き落とし)の内容を精査していき、①出金日時と②出金額、そして、必要に応じて③出金場所(どこの支店・ATMか)を、時系列で一覧表に整理していく。 こうして一覧表に整理していくことで、出金の総額はいくらであったのか(数年間で千万単位の出金がなされていることも珍しくない)、出金が頻繁になされた時期はいつか等の情報が立体的に浮かび上がってくる。 一覧表作成の際のポイントとしては、①入手金明細や通帳等の記載から送金先・引き落とし先がわかるもの(例えば、水道光熱費、携帯料金、病院への支払い等)は除外する。 これは、高齢者本人の生活のために必要な支出であることが表記上明らかであり、請求内容から外すことで議論が整理されるからである。 同様に、②使途が不明な出金であっても、一度の出金で例えば5万円以下といった少額の出金も除外する。 これは、あまりに少額の出金を計上するとなると、後の損害額の計算が煩瑣になるためであるのと、金額に照らして、高齢者本人の日常生活にまつわる支出であると推測されるからである。 ただし、この場合でも、1日のうちで何度も出金がなされている場合や、短期間で多数回の出金がなされている場合には、例外的に一覧表に計上する。 4 管理者への返金請求 以上のようにして出金一覧表を作成すると、【設問06】においても、ここ2年間での姉による出金のうち、使途が不明であるものが特定できる。 そのうえで、まずは示談交渉として、以下のような段取りで交渉を進めていくのが良いであろう。 以上のように示談交渉を進め、姉との間で一定金額の返金をしてもらうことで合意できた場合には、合意書を作成し、この件については紛争を清算する。 他方で、示談交渉が物別れに終わった場合には、①中立的な第三者の仲介による話合いでの解決を目指し民事調停を申し立てるか、あるいは、②裁判所による判断を下してもらうべく、姉を被告とした民事訴訟を提起することを検討することになる。 調停申立てや訴訟提起の際には、前記のようにして分析して作成した出金一覧表を調停申立書ないし訴状別紙として添付すると、裁判所の方でも整理がしやすく、便宜である。 * * * それでは、請求を受けた姉の側としては、どのような対応をしていくべきか。 次回は、裁判となって以降の攻防に関連して、今回とは逆の姉の立場(財産管理者側)での争い方につき説明したい。 (了)
《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(平成28年7月~9月)」 ~注目事例の紹介~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 国税不服審判所は、平成29年3月23日、「平成28年7月から9月分までの裁決事例の追加等」を公表した。今回追加されたのは表のとおり、全12件であった。 今回の公表裁決では、国税不服審判所によって課税処分等が全部又は一部が取り消された事例が6件、棄却又は却下された事例が6件となっている。税法・税目としては、所得税法5件、国税通則法及び相続税法が各2件、法人税法、登録免許税及び消費税法が各1件であった。 【表:公表裁決事例平成28年7月~9月分の一覧】 ※本稿で取り上げた裁決 本稿では、公表された12件の裁決事例のうち、重加算税の賦課決定処分と更正期間に関する不服審判所の考え方が示された上記②の裁決事例をはじめ、いずれも棄却事例であるが、所得税と消費税に関する事例をそれぞれ1件、紹介したい。いつものお断りであるが、論点を簡素化するため、複数の争点がある裁決については、その一部を割愛させていただいていることを、あらかじめお断りしておきたい。 1 重加算税(隠蔽、仮装の認定)・・・② 本件は、国税不服審判所が、重加算税の要件である「仮装、隠蔽」は認めなかったものの、更正期間を7年とする「偽りその他不正の行為」を認定した事例である。 (1) 争点 (2) 審判所の判断 ① 重加算税の賦課決定処分(国税通則法68条) 審判所はまず、重加算税を課するための要件として、次のように述べた。 そのうえで、審判所は、以下の理由から、請求人が本件事業に係る帳簿を作成していなかったことをもって、過少申告等の意図を外部からもうかがい得る特段の行動とまでは評価することができないと結論づけた。 ② 更正期間を7年とすることの是非(国税通則法70条) 一方、国税通則法70条に規定する「偽りその他不正の行為」について、審判所は以下のように定義する。 そのうえで、請求人については、以下のとおり、「偽りその他不正の行為」に該当すると判断した。 2 雑所得(収入すべき時期)・・・⑤ 本件は、外貨建借入金の為替差益の計上時期をめぐって、国税不服審判所が、審査請求人の主張を認めなかった事例である。 (1) 争点 借換えの時点において、既存の外貨建借入金の借入時の円換算額と新規の外貨建借入金により取得した外貨による返済額の円換算額との差額である為替差益を所得として認識すべきか否か。 (2) 審判所の判断 審判所はまず収入金額の計上時期について、最高裁昭和49年3月8日判決を引用して、次のように述べた。 そのうえで、外貨建取引を行った場合の円換算について規定する所得税法第57条の3第1項の規定についても、「所得の実現があったことを前提として、当該所得の金額の計算方法について規定したものであり、未実現の利得について同項の規定による換算を行うことにはならないと解される」として、あくまでも実現した為替差損益を課税の対象とすることを示し、具体的に、為替差損益の認識基準を次のように述べた。 そして、請求人の借換えについては、「同一支店から、同一の通貨、同一の金額で行われたものであり、借入れ及び返済の前後における借入金の内容に実質的な変化が生じたとは認められない」ことから、「計算される為替差損益は、単に評価上のものにすぎず、課税の対象となる収入として認識しないこととなる」と結論づけて、請求人の主張を退けた。 3 非課税取引(住宅の貸付け)・・・⑫ 本件は、再転貸借契約に係る建物の貸付けが消費税法に規定する非課税取引に該当するかどうか、国税不服審判所が判断を示した事例である。 (1) 争点 請求人の行った賃貸借取引(転貸借取引)は、非課税取引である「住宅の貸付け」に該当するか否か。 (2) 消費税法基本通達6-13-7 住宅用建物を転貸する場合の取扱いを定めた消費税法基本通達6-13-7(以下「本件通達」と略称する)の規定は、次のとおりである(下線は引用者による)。 (3) 審査請求人の主張 審査請求人の主張の概要は以下のとおりである。 (4) 審判所の判断 審判所は、住宅の貸付けが消費税法上非課税取引とされている趣旨を「住宅の貸付けを行う事業者が賃借人に対し、消費税相当額を転嫁しないことにより、住宅賃借人を政策的に保護することにある」と述べたうえで、本件通達の取扱いを相当であると認めた。 そして、請求人と賃借人との契約条件を検討したうえで、本件賃貸借契約は、賃借人が本物件を住宅(人の居住の用に供する家屋等)として転貸することが契約書その他において明らかであるから、本件賃貸借取引は、消費税法別表第一第13号に規定する「住宅の貸付け」に該当し、その全額が非課税取引となると結論づけた。 また、審判所は、請求人の主張について、以下のように斥ける見解を示している。 (了)
《速報解説》 東証、「資本政策に関する株主・投資家との対話のために ~リキャップCBを題材として~」を公表 ~「自社株買いの合理性」等、6つの検討ポイントで 「想定される質問の例」と投資家の考え方を説明~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成29年3月17日、株式会社東京証券取引所は、「資本政策に関する株主・投資家との対話のために ~リキャップCBを題材として~」(以下「本報告書」という)を公表した。 これは、上場会社と株主・投資家の相互理解を深め、持続的な成長と中長期的な企業価値向上のための建設的な対話を促進することを目的とするものであり、リキャップCBと呼ばれるエクイティ・ファイナンスを例にして、中長期的な視点で投資する投資家の目から見た疑問点等を明らかにすることで、投資家の資本政策に関する考え方を解説するものとのことである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 リキャップCB リキャップCBとは、転換社債型新株予約権付社債(CB)の発行で資金を調達すると同時に自社株買いを行うことで、負債を増やしつつ資本を減らし、資本再構成(リキャピタライゼーション)を行う資本政策である(2頁)。 リキャップCBを発行すると、資本が減少してROE(自己資本利益率)の分母が小さくなるので、計算上、ROEの値が大きくなる効果がある。 2 対話のポイント 国内外の機関投資家等からは、上場会社が資本生産性の改善に取り組むことは評価できるものの、リキャップCBは必ずしも企業価値の向上に寄与せず、既存株主の立場からは歓迎できないという批判的な意見もあるとのことである。 このように、上場会社と投資家との間の資本政策を巡る意見の相違に関して、建設的な対話を促進するために、リキャップCBを題材として、本報告書では、重要な6つのポイントとして、以下の事項を挙げて説明している。 (了)
2017年3月23日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.211を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第33回】 「パーティー費用と祝金・会費」 税理士 山本 守之 1 パーティー費用とお祝金 裁決例、判決例では祝金控除は否定されていますが、一部の識者の間では祝金を控除すべきであるという主張もあります。 例えば、日税研論集第11号(武田昌輔氏稿)では、「創立何十周年等の祝賀パーティーの費用が交際費等に該当することはいうまでもないが、これに伴い収受した祝金を控除するかどうかである。私見としてはこれを支出交際費等から控除することが妥当であると考えるのである。」として次のような理由を挙げています。 ただ、現実の税務執行では、祝金の支出とパーティーの開催は並列的に行われた2つの交際行為であり、祝金は記念行事の費用の一部に当てられることが予定されていたものではないので、祝金を控除すべきではないと考えられており、裁決例、判決例でもこの考え方は支持されています。 2 技報堂事件 技報堂事件における判決は次のようなものです。 この判決で祝金控除を否定している論拠は次のようなものです。 ① (パーティーという)行事は主催者と祝金を持参した招待客と共同で行われたものではない。 ② パーティーを機会として祝金の支出とパーティーの開催という2つの交際行為があったのだから両者の間に二重課税は存在しない。 ③ 祝金の収受が主催者にとって収益であることを否定する根拠はない。 筆者としては、判決は現行法の解釈としては当然のことを述べていると考えます。 3 嶋根鋼商事件 2と同様に、パーティー費用から祝金を控除できるか否かについて争われた別の事件があります。この事件で裁判所では次のように判示しています。 この事件で裁判所が祝金控除を否定する論拠としたのは次のようなものです。 ① 祝金はパーティー費用の一部に充てられることが予定されていたものではない。 ② 招待客から収受する祝金の有無及びその多寡にかかわらず、パーティー主催者はパーティー費用の全額支出を免れなかったはずである。 ③ 二重課税が生ずるとしても、それは立法政策の問題であり、法解釈上は格別の意義を持つものではない。 二重課税論に対して、国税不服審判所と東京地裁では、パーティーの開催と祝金の支出という2つの交際があったとする考え方であり、浦和地裁は立法方策の問題であるとしているところに興味があります。 この事件は、控訴審(平成3年4月24日東京高裁)でも上告審(平成3年10月11日(※)最高裁第二小法廷)でも祝金控除が否定されています。控訴審では課税の目的、税金と会費の差異等が争われていますが、控訴人と判示とを対比してみると次のようになります。 《課税の目的》 【控訴人主張】 記念行事に要した支出交際費の額から招待者からの祝金を控除した金額をもって交際費等の額としたとしても、招待者側の祝金の支出に課税すれば、措置法62条(現行61条の4)の目的(資本蓄積)を達成できる。 【判 示】 交際費等の損金不算入制度の趣旨・目的は単に資本蓄積の促進に止まらず交際費等の支出自体の抑制にある。 《祝金と会費の差異》 【控訴人主張】 本件記念行事における招待者からの祝金は、慣行上持参することが、義務づけられており、その実質は会費、協賛金と異ならず、両者が費用を分担する関係にあるから、支出交際費の額から控除すべきである。 【判 示】 同祝金は費用分担の同意に基づく会費、協賛金とはその性質を異にし、主催者はその金額の多寡にかかわらず、記念行事の全額の支払いを免れないから、その祝金相当部分のみについて交際費性に欠けるということはできない。 控訴人の主張を検討してみると、交際費課税の目的を制度創設時(昭和29年)の資本蓄積策という古い考え方を基礎にしており、交際費の支出を抑制するという現代的感覚が不足しているように思われます。 また、祝金と会費との差異についても、祝金の持参は慣行となっているものの、会費のようにパーティー費用に充てられることが予定されているものとは異なるという視点が欠落しているようです。 4 会費制の場合 会費制でパーティーを行った場合は、祝金とは事情を異にし、幹事会社が支出した交際費等から受け入れた会費は控除できます。これは、パーティー費用を参加者が負担したということです。その負担額が交際費等となるのです。 これらについては、次のような裁決例があります。 つまり、会費制の場合は、その支出自体が義務的なものであり、費用負担の性格を持っているのですから、幹事となる法人は、参加者から集めた会費と幹事法人が負担した会費を明確に区分でき、パーティー費用を会費等として負担し合ったという実態がありますので、それぞれの実負担額を交際費等とする意味で、幹事法人はホテル等に支払ったパーティー費用から参加者から受け入れた会費を控除して交際費等の計算をしてよいのです。 (了)
国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第3回】 「海外赴任と国外転出時課税」 税理士 菅野 真美 - 質 問 - 私(日本国籍)甲は、同族会社乙社の専務取締役をして日本で長年仕事をしています。平成29年5月10日よりA国の100%子会社に社長として3年間(平成32年5月10日帰国予定)赴任します。役員報酬は乙社から支払われることから、所得税等が源泉分離課税されるということは承知しています(【第2回】参照)。 父(社長)は財産をたくさん持っているようですが、私個人の財産は、ローンで買った自宅(赴任後も家族が居住)と自社株と金融機関から頼まれて保有している投資信託です。 税務上、気をつけておくべくことがありますか。 ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ ▷国外転出時課税とは 平成27年度の税制改正で国外転出課税制度が導入された。これは、居住者が海外に移住して非居住者になった後に有価証券を売却した時に、所得税が国内法で課されないことや租税条約により課されなくなること、さらに現地の法令でも所得税が課されないことを利用して、非課税で有価証券を売却することによる租税回避が散見され問題となったことによる。他の先進国では既に、租税回避防止のための出国税のような制度があり、遅ればせながら日本でも導入に至った。 国外転出時課税制度とは、原則として、国外転出する日前10年以内において国内に5年を超えて住所又は居所を有している人が国外転出時に保有する有価証券や匿名組合出資、信用取引やデリバティブ取引の残高が合計額で1億円以上の場合は、国外転出時にこれらの財産の譲渡があったものとみなして所得税課税がなされるものである(所法60の2①~⑤)。この制度を設けることにより、国外転出による所得税課税逃れが困難となった。 甲の場合、国外転出時の財産の価額(もし、納税管理人を定めずに出国する場合は、国外転出時から3ヶ月前)が1億円以上である場合(所法60の2①⑤)は、国外転出時課税の対象となる。甲の場合、対象財産となるのは、同族会社の株式、投資信託となる。 なお、非上場株式の時価は財産評価基本通達に基づいて原則的には評価するが、会社が保有する土地や上場有価証券は時価評価となり、かつ、評価益に対する法人税額控除は認められない(所基通60の2-7、59-6)。 ▷納税資金がなく困っている場合は 国外転出時課税制度は、有価証券等が換金されない時点で課税されるため、納税資金が不足することも考えられる。また、有価証券を保有して国外転出した人が帰国してその後売却した場合は、日本での課税が可能であることから、あえて国外転出時に課税する必要は生じない。そこで次のような納税猶予制度が設けられている。 ▷納税猶予のための手続 納税猶予のための手続としては、まず、納税管理人の届出書を国外転出前に提出することが必要となる。納税猶予期間は、原則は5年で、10年に延長することができる(なお、納税猶予額の納期限は満了日から4ヶ月以内)(所法137の2①②)。 確定申告期限までに、国外転出時に保有している財産について納税猶予を受ける旨の記載のある書類を添付して申告するとともに、担保の提供を行わなければならない(所法137の2①)。この担保については、非上場株式等の相続税・贈与税の納税猶予制度とは異なり、国税通則法に基づく手続となる(所基通137の2-7)。 もし甲が5年の納税猶予を選択した場合は、平成29年5月10日までに納税管理人の届出書を提出し、平成30年3月15日までに申告と担保提供を行わなければならない。納税猶予の満了日は平成34年5月10日であり、納期限は平成34年9月10日となる。 ▷申告期限後の手続 国外転出時の年分の所得税の申告書を提出後、納税猶予期間内の年の12月31日に国外転出時課税対象財産を保有している場合は、翌年の3月15日までに継続届出書を提出しなければならない(所法137の2⑥)。もし、提出を怠った場合は、納税猶予期間の繰り上げが行われることになるから注意が必要である(所法137の2⑧)。 甲の場合は平成30年12月31日分の継続届出書を平成31年3月15日まで、平成31年12月31日分の継続届出書を平成32年3月15日までに提出しなければならない。 ▷帰国した場合の手続 国外転出時課税は、海外で有価証券等を売却して日本での租税を回避することを防止するための規定であるため、日本に帰国した場合は、この制度を適用させる必要がない。 そこで、納税猶予期間(5年又は10年間)の満了日までに帰国した場合、又は、納税猶予の適用を受けず、5年以内に帰国した場合で、国外転出時課税対象となる財産を引き続き有しているときは、原則的には、国外転出時課税を取り消すことができる(所法60の2⑥⑦)。そのためには、帰国した日から4ヶ月を経過する日までに、更正の請求を行わなければならない(所法153の2①)。 甲がA国から平成32年5月10日に帰国した場合は、平成32年9月10日までに更正の請求を行うと、国外転出時課税は取り消すことができる。もし、更正の請求を失念して、期限までに取り消さない場合には、国外転出時課税分の納税が確定することになる。 国外転出時課税は何をいつまでにしなければならないかを把握していないと、納税負担だけ生ずる怖い制度であるので、潜在的な国外転出時課税の対象者が顧問先等にいる場合は、細心の注意を払って処理する必要がある。 (了)
特定居住用財産の買換え特例[一問一答] 【第7回】 「既に有する土地を買換資産として造成をした場合」 -買換資産の範囲- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、居住用の土地家屋(所有期間が10年超で居住期間は10年以上)を売却し、既に有する土地について、居住用家屋の敷地として利用するため、地盛り、地ならし、防壁工事を行いました。 この土地の造成等に要した費用の額についても、買換資産の取得に要した金額として、「特定の居住用財産の買換えの特例(措法36の2)」の適用を受けることができるでしょうか。 A 既に有する土地について、造成等を行った場合のその造成等のために要した費用の額は、買換資産の取得価額になりません。 ただし、その費用の額が相当の金額に上り、実質的に新たに土地を取得したと同様であるものと認められるときは、その造成等の完了の時に新たな土地の取得があったものとし、その費用の額をその取得価額として「買換えの特例」の適用を受けることができます。 ●○●○解説○●○● 以前から所有する土地に造成等を行った場合のその費用の額は、その土地の取得費に算入されることとなり、造成等を行うことは新たな資産の取得費となりません。したがって、特例の適用上、原則として、造成を行ったことをもって新たな土地の取得があったとみることはできません。 しかし、以前から所有する土地を居住の用に供するために、造成等を行った場合において、その費用の額が相当の金額に上り、実質的に新たに土地を取得したことと同様の事情があるものと認められるときは、当該造成についてはその完成の時に新たな土地の取得があったものとし、当該費用の額をその取得価額として、「買換えの特例」の適用を受けることができます(措通36の2-11(宅地の造成))。 なお、この取扱いの適用を受けた場合であっても、造成等が行われた土地を将来譲渡する場合の所有期間の判定上のその取得の日は、造成等の時期にかかわらず、以前から所有するその土地の実際の取得の日となります(措通31・32共-6(改良、改造等があった土地建物等の所有期間の判定))。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例48(消費税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆課税売上割合に準ずる割合(消法30③) 課税事業者が課税売上げに係る消費税の額から控除する仕入控除税額を個別対応方式によって計算する場合には、課税売上げと非課税売上げに共通して要する課税仕入れ等に係る消費税については、原則として、課税売上割合により計算する。しかし、課税売上割合により計算した仕入控除税額がその事業者の事業の実態を反映していないなど、課税売上割合により仕入控除税額を計算するよりも、課税売上割合に準ずる割合によって計算する方が合理的である場合には、課税売上割合に代えて課税売上割合に準ずる割合によって仕入控除税額を計算することができる。 ◆課税売上割合に準ずる割合の適用承認申請書(消法30③) 課税売上割合に準ずる割合を適用するためには、納税地を所轄する税務署に「課税売上割合に準ずる割合の適用承認申請書」を提出して、適用しようとする課税期間の末日までに税務署長の承認を受ける必要がある。 ◆たまたま土地の譲渡があった場合の課税売上割合に準ずる割合の承認 たまたま土地の譲渡があった場合、すなわち土地の譲渡が単発のものであり、かつ、その土地の譲渡がなかった場合には、事業の実態に変動がないと認められるときに限り、次の①又は②の割合のいずれか低い割合により課税売上割合に準ずる割合の承認申請ができる。 ① その土地の譲渡があった課税期間の前3年に含まれる課税期間の通算課税売上割合(消費税法施行令第53条第3項《通算課税売上割合の計算方法》に規定する計算方法により計算した割合をいう) ② その土地の譲渡があった課税期間の前課税期間の課税売上割合 なお、「土地の譲渡がなかったとした場合に、事業の実態に変動がないと認められる場合」とは、事業者の営業の実態に変動がなく、かつ、過去3年間で最も高い課税売上割合と最も低い課税売上割合の差が5%以内である場合をいう。また、この課税売上割合に準ずる割合の承認は、たまたま土地の譲渡があった場合に行うものであることから、その課税期間において適用したときは、翌課税期間において「課税売上割合に準ずる割合の不適用届出書」を提出しなければならない。 ◆通算課税売上割合の計算方法(消令53③) 通算課税売上割合とは、仕入れ等の課税期間から第3年度の課税期間までの各課税期間(以下「通算課税期間」という)中に国内において行った資産の譲渡等の対価の額の合計額のうちに、その通算課税売上割合中に国内において行った課税資産の譲渡等の対価の額の合計額の占める割合を、一定の方法で通算した割合をいう。 (了)
金融・投資商品の税務Q&A 【Q37】 「金取引を行った場合の課税関係」 PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子 ●○ 検 討 ○● 1 所得税の取扱い 給与所得者などの個人が保有している金地金を売却した場合の所得は、営利を目的として継続的に金地金の売買をしているものではない限り、原則、一般の譲渡所得として課税され、給料など他の所得と合わせて総合課税の対象になります。原則として確定申告が必要となります。 譲渡益の額は、以下のように計算されます。 その年の譲渡益(他の総合課税の譲渡益も含む)から、譲渡所得の特別控除(限度額50万円)を控除した金額が一般の譲渡所得として総合課税の対象となり、累進税率にて課税されます。 なお、所有期間が5年超の場合、長期の譲渡所得として、特別控除後の譲渡所得の金額の1/2が課税標準として総合課税の対象となります。 また、長期の譲渡益と短期の譲渡益の両方の譲渡益がある場合には、特別控除額は両方合わせて50万円が限度となり、短期の譲渡益から先に控除します。 2 消費税の取扱い 金地金の売買を国内において行う場合には、消費税8%が課されます。 個人が消費税法上の課税事業者(当該個人の2年前の課税売上高が1,000万円以上や課税事業者選択届を届け出ている場合等一定の場合)に該当しない限り、個人に消費税の納税義務は発生しません。 この場合、上記の所得税法上の譲渡益の計算は、消費税込の売却金額で計算することになります。 (了)