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外国人労働者に関する労務管理の疑問点 【第6回】「外国人社員の入社前後に行う手続き」~雇用保険・国民年金・マイナンバー等はどうなる?~

外国人労働者に関する 労務管理の疑問点 【第6回】 「外国人社員の入社前後に行う手続き」 ~雇用保険・国民年金・マイナンバー等はどうなる?~   社会保険労務士・行政書士 永井 弘行     1 従業員が入社する時の手続き概要 従業員が会社に入社する時は、従業員の国籍を問わず、法律で定められた各種手続きを行います。この法定業務は、どんな会社でも必須の手続きです。 さらに、会社の規則や制度(勤務実績の報告方法、事業所特有のルールなど)を説明することや、給与の振込みに必要な銀行口座の情報を得ることなど、人事部としての手続きも必要です(今回は説明を省略します)。 法律で定められた手続きは、厚生年金保険、健康保険(介護保険を含む)、雇用保険などの労働・社会保険の加入手続きです。さらに所得税、住民税に関する手続きも必要です。なお、会社が労災保険に加入していれば、従業員は当然、労災保険の対象者になります。 これらの手続きは、フルタイム勤務の社員を雇用する場合は、日本人、外国人を問わず、同様に手続きすることが必要です。   2 一般的な社員入社時の手続き(法定業務) (1) 新卒者(学生など)を採用する場合 新卒者(学生など)を採用する場合、従業員から提出・提示してもらう書類等としては、 ・年金手帳 ・マイナンバーカード などがあります。 〈必要な届出等〉 これらの手続きが終了した後には、次の書類を従業員に交付・返却します。 ・健康保険被保険者証 ・雇用保険被保険者証 ・年金手帳 ・マイナンバーカード など なお、雇用保険被保険者証などは従業員に代わり、会社の人事部で保管する場合があります。 (2) 転職者・経験者などを採用する場合 転職者・経験者などを採用する場合は、(1)に加えて、従業員から次の書類を提出してもらいます。 ・雇用保険被保険者証 ・源泉徴収票(ある場合) ・住民税異動届(特別徴収に係る給与所得者異動届出書)(ある場合) 前職の源泉徴収票は、年末調整時に使用します。前の勤務先の給与や社会保険料控除額などを合算して、年末調整の計算をします。特別徴収に係る給与所得者異動届出書がある場合は、新しい勤務先の給与から住民税を源泉徴収することが必要です。   3 雇用保険被保険者資格取得届 従業員採用後に、ハローワークに届け出る「雇用保険被保険者資格取得届」には、次の記入欄があります。 この記入欄(下図(雇用保険被保険者資格取得届)の赤い囲み部分)は、外国人従業員を雇用するときにだけ記入します。これらの情報の届出は、雇用対策法第28条第1項により、厚生労働大臣への届出が義務付けられています。 〈雇用保険被保険者資格取得届(サンプル)〉 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 なお、雇用保険被保険者資格取得届は、下記のハローワークのホームページから、個人情報の取り扱いに同意して「様式のみ印刷」をクリックすれば、用紙がダウンロードできます。   4 在留カードの確認 会社の人事担当者は、あらかじめ採用内定の時に、外国人の在留カードを見て、就労が可能か、有効期間を経過していないかを確認しましょう。具体的には、在留カードの在留資格、在留期間(満了日)の欄を見て確認します(詳しくは【第2回】を参照)。 留学生など、採用内定時に「留学」の在留資格の場合は、入社するまでに「技術・人文知識・国際業務」など就労可能な在留カードへの変更が必要です。入社日までに、就労可能な在留カードを持っていることを確認してください(詳しくは【第3回】を参照)。 仮に「留学」の在留資格のままであれば、就労可能な在留資格を得るまで、入社日を後ろにずらすといった対応が必要です。   5 入管法上の届出の要否 ときどき人事担当者から、「外国人を採用後に、入国管理局への届出は必要ないのですか?」と尋ねられることがありますが、先に述べた雇用保険の被保険者資格取得届に、在留資格や在留期間などの情報を記して届出すれば、入国管理局への届出は不要です。 入管法第19条の17により、中長期在留の外国人を受け入れている所属機関には、入国管理局への届出の努力義務がありますが、ハローワークへの届出が義務づけられている事業主には、入国管理局への届出が免除されているからです。   6 外国人の住民票と個人番号(マイナンバー) 在留カードを持っている外国人には、住民票が作成されます(住民基本台帳の対象者となります)。そして住民票のある人には、国籍を問わず、個人番号(マイナンバー)が付与されます。つまり、在留カードを持っている外国人には、個人番号が付与されます。一人ひとりの個人番号は「通知カード」により、各人に通知されます。 少し詳しく述べますと、日本に入国し、空港で入国管理局から「住居地(未定)」と書かれた在留カードを付与された外国人が、日本での住居地を定めて、市区役所に転入届を行った時に、住民票が作成されます。同時に市区役所で、在留カードの裏面の住居地(ADDRESS)欄に「住民票の住所」が記されます。 一方、「短期滞在」で来日中の外国人や、在留期間が3月以下の在留資格の外国人には、在留カードが付与されません。このため、これらの外国人には住民票が作成されません。 「留学」の在留資格を持つ留学生にも住民票が作成されます。そして個人番号が付与され、通知カードが発行されます。 留学生などは、顔写真付きの「個人番号カード」を作成せずに、「通知カード」のままで所持している人が多いと思います。「通知カード」は、「個人番号カード」とは異なり、有効期限がないからです(いつまでも「通知カード」のままで所持していてもよい、という取扱いです)。 日本人を対象に発行される「個人番号カード」の有効年数は、原則10年です。10年間は再交付の必要がありません。「永住者」「高度専門職第2号」の在留資格の外国人も日本人と同様に取り扱われます。 しかし、「永住者」「高度専門職第2号」以外の外国人は、その外国人が持っている「在留カード」の在留期間(1年、3年、5年など)が「個人番号カード」の有効期限になります。 「通知カード」から「個人番号カード」への切り替えは、自由にできます。しかし、一度切り替えると「在留カードで決定された在留期間(1年、3年、5年など)」が「個人番号カードの有効期限」になり、その年数が過ぎれば再交付が必要になるため、手続きが煩雑です。 そのため、期限を気にせずに所持できる「通知カード」のまま持っている外国人が少なくないと感じます。 会社の人事部が、入社時や年末調整の手続きで、従業員の個人番号を確認するときは、「通知カード」または「個人番号カード」を見て確認するのが一般的です。もし「通知カード」を紛失して個人番号がすぐにわからないときは、本人が「個人番号が記載された住民票」を入手すれば確認できます。   7 留学生と年金手帳、国民年金への加入 新入社員として採用した外国人に、人事部が「厚生年金保険の手続きに必要なので、年金手帳を提示してください」と言っても、持っていない場合があります。これは、留学生の時に、国民年金の加入手続きを行っていない場合があるからです。 日本に住民票がある20歳以上60歳未満の人は、国籍を問わず、国民年金の加入義務があります。留学生も20歳以上でしたら、当然、対象になります。 留学生が来日し日本語学校に入学した時は、学校事務局がガイダンスで、市区役所の国民健康保険へ加入するよう説明することが多いのですが、その時に国民年金の加入については説明を省略する場合があるようです。そして国民年金に未加入の状態で数年間過ごしている留学生も少なくありません。 一方、国立大学の事務局などは、国民年金への加入手続きと、必要に応じた「保険料納付の免除申請」をアドバイスしているところもあります。 留学生のときにアドバイスを受けているかどうかにより、国民年金の加入の有無、年金手帳の所持の有無に違いがあると感じます。 *  *  * 次回は、「後々、トラブルにならないよう入社時に説明すべきこと」について紹介する予定です。 (了)

#No. 234(掲載号)
#永井 弘行
2017/09/07

民法(相続関係)等改正「追加試案」のポイント 【第2回】「追加試案で新たに示された改正内容(その1)」

民法(相続関係)等改正「追加試案」のポイント 【第2回】 「追加試案で新たに示された改正内容(その1)」   弁護士 阪本 敬幸   前回は、昨年のパブコメ後、中間試案の一部が見直され追加試案が作成された経緯等について説明した。今回からは、追加試案で示された改正内容及びその要点について説明する。   [1] 追加試案の概要 見直された中間試案及び見直し後の追加試案は、概要下記の通りである。なお、下記①③⑤は中間試案の内容を変更するものであり、②④は中間試案に追加されたものである。 ① 【中間試案】配偶者の相続分の見直し(配偶者の相続分の引き上げ) ➡【追加試案】配偶者保護のための方策(持戻し免除の意思表示の推定) ② 【中間試案】無し(可分債権を遺産分割対象とする点に関連) ➡【追加試案】仮払い制度の創設・要件明確化 ③ 【中間試案】遺産の一部分割の要件の明確化(残余財産分割の規律を含む) ➡【追加試案】一部分割の要件の変更、残余財産分割の規律は無し ④ 【中間試案】無し ➡【追加試案】相続開始後の共同相続人による財産処分に関する方策創設 ⑤ 【中間試案】遺留分制度に関する見直し ➡【追加試案】受遺者・受贈者側から現物給付することができるよう修正   [2] 追加試案の内容 1 ①配偶者保護のための方策(持戻し免除の意思表示の推定) 解 説 (ア) 中間試案(配偶者保護のために配偶者の相続分を引き上げる)はパブリックコメントで反対意見が多数を占めたが、配偶者保護の必要性は存在する。  そこで、婚姻期間20年以上の夫婦、配偶者から他方配偶者に対する居住用の建物・敷地の贈与、という要件を満たす場合、当該贈与について持戻し免除の意思表示があったものと推定し、残された配偶者の保護を図るものである。 (イ) 現行法上、配偶者に対する配慮がなされている制度として、配偶者に対する居住用財産の贈与についての贈与税の特例が挙げられる。居住用不動産の贈与は、残される配偶者の老後の生活保障を考慮して行われることが多く、民法上も同様の配慮を行う必要性がある。  婚姻期間20年以上の夫婦に限定したのは、このような夫婦間の贈与は、贈与を受ける配偶者の生活保障を意図しており、相続時に、(生前)贈与を受けた配偶者の相続分を減少させる意図がないことが通常と考えられるからである。  また、居住用財産に限定したのは、その他の財産も含めると他の相続人に与える影響が大きいためである。 (ウ) 本提案によれば、他方配偶者に対する居住用財産の贈与・遺贈は、持ち戻し免除の意思表示があったと推定されるため、意思表示がなかったと主張する相続人が、意思表示がなかったことについて立証責任を負うことになる。   2 ②仮払い制度の創設・要件明確化 (1) 家事事件手続法の保全処分の要件緩和 解 説 (ア) 預貯金債権は相続により当然分割されずに遺産分割の対象に含まれるとする平成28年12月19日最高裁大法廷決定(以下、「本決定」という)により、遺産分割前に預貯金を引き出すことが困難となった。しかし、遺産分割前に預貯金を引き出す必要性もあり、本決定補足意見では家事事件手続法200条2項の仮分割仮処分の利用が指摘されている。もっとも、同条項の要件は厳格であり(共同相続人の「急迫の危険の防止」が要件)、追加試案は預貯金債権の行使に限って、要件の緩和を認めるものである。 (イ) 他の家事事件の保全処分と平仄を合わせ、本案係属(審判・調停の申立)要件を要求している。  家事事件手続法200条2項「急迫の危険の防止」という厳しい要件を、債務弁済・生活費支弁等、預貯金債権行使の正当な理由がある場合に緩和している。  要件を緩和することにより、他の共同相続人の利益が害される恐れも増すため、「他の共同相続人の利益を害しない限り」と限定されている。  仮払い仮処分もあくまでも仮の処分であるから、民事事件の保全と本案訴訟同様、本分割においては仮払いされた預貯金を含めて分割の調停・審判が行われるべきと考えられる。 (ウ) 本提案によれば、「他の共同相続人の利益を害さない限り」とされているところ、この要件を考えるにあたっては、「仮払い額が、仮払いを受ける相続人の法定相続分の範囲内であるか否か」がポイントとなると思われる。 (2) 家庭裁判所の判断を経ないで、預貯金の払戻しを認める方策 解 説 (ア) 上記(1)のように、遺産分割前の預貯金払戻しについて、仮払い仮処分が検討されているところではあるが、必ず裁判所の決定をもらうことが必要というのであれば、相続人に大きな負担となることが考えられる。  本提案は、裁判所の決定がなくても、遺産である預貯金債権の2割の範囲内では、いわば仮払いを認めるようなものである。 (イ) 裁判所が関与しないままで、遺産分割前の預貯金債権の単独行使を認めるものであるから、その範囲は限定的でなければならない。そこで、遺産である預貯金債権の2割、1つの金融機関あたり100万円を上限とするという制限が設けられている。  仮払い仮処分同様、仮に払戻しを認めるものであるから、最終的な遺産分割の時には、権利行使された部分を含めて遺産分割がなされる必要があり、遺産分割時の精算義務が規定されている。 (ウ) 本提案に従う場合、単独で預貯金債権の行使ができることになるから、権利行使者が無資力となることにより、他の相続人が害される恐れがある。このため、単独で行使できる預貯金債権の割合、金融機関ごとの上限をいかに定めるかという点が、十分検討される必要がある。 *  *  * 次回も引き続き、追加試案で示された改正内容について説明する。 (了)

#No. 234(掲載号)
#阪本 敬幸
2017/09/07

税理士が知っておきたい[認知症]と相続問題〔Q&A編〕 【第17回】「実務の現場における判断能力の判定方法(その3)」

税理士が知っておきたい [認知症]と相続問題 〔Q&A編〕 【第17回】 「実務の現場における判断能力の判定方法(その3)」   クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎   今回は、いよいよ3ステップ方式の最後となる第3ステップについて解説を行う。3ステップ方式の概要は次の通りである。   ▷第3ステップ:意思確認の対象となる事項の確認を行う 1 個別の意思確認の必要性 この第3ステップまで進んできているということは、①第1ステップ(予備面談を行う)において、意思確認対象者との間で「一応の会話のやり取りが成立する」というケースか、②第2ステップ(医師の手を借りた確認を行う)において、医師により「一般的見地から最低限の判断能力は兼ね備わっている」と判定されるケースであるということである。 ただし、ここで重要なのは、解説編【第3回】でも触れたように、判断能力≒意思能力は、あくまでも問題となる行為や契約毎に、個別に判定されるべきものという点である。 したがって、仮に第2ステップまでで一応の(一般的な)判断能力があると判断できるような場合であっても、そこで確認作業を終えてしまっては、意思確認の本来の目的を達成していないことになるので十分注意が必要である。 2 意思確認の対象 さて、第3ステップでは、いよいよ「意思確認を行う必要がある対象事項」について本人に説明し、本人の意思を確認する作業となる。 例えば、高齢である物件所有者に対し、「この物件を売買契約により売却することを承諾するか」という点に関して意思確認する際には、①売却対象となる物件の詳細、②代金額、③買主の氏名又は属性、④売買条件等の内容につき具体的に説明したうえで、当該契約を本当に進めてよいか、本人の意思を具体的に確認することになる。 このようにして3ステップを順に辿っていくことで、適切な意思確認を行うことができる。 ここでのポイントは、次のとおりである。 あわせて、以下で指摘されているような一般的注意点や工夫も念頭に置いておくとよいだろう。 【認知症の方への対処の原則】 (出典) 「認知症予防・支援マニュアル(改訂版)」(「認知症予防・支援マニュアル」分担研究班、2009年)p32 【本人の理解力を高めるための工夫】 (出典) 加藤佑佳、成本 迅「治療同意にかかわる意思決定の支援」老年精神医学雑誌26巻9号1007頁 3 3ステップ方式の実施に際しての留意点 ここまで3ステップ方式について解説してきたが、最後に、実務家にとって最も留意すべき点を指摘しておく。 それは、以上の3ステップを実施した各プロセスを必ず記録化・証拠化して残しておくということである。 訴訟では、主張する事実を立証できるかどうか、すなわち、証拠(特に紙ベースの書証)があるかどうかが全てを決める。 トラブルは、契約・決済から期間が経過し、忘れた頃に突然やってくる。 意思確認作業を行った実務家は、その時になって慌てないよう「本人に対する意思確認の際、調査を尽くして適切に確認手続を実施したこと」、すなわち「業務の遂行上、過失はなかったこと」の証拠を残す意識を常に持つ必要がある。 この点、仮に第1ステップで「(イ)こちらからの問いかけを理解し、これに答えることができ、会話のやり取りが成立するという場合」という結果となり、第3ステップに進んで何の問題もなく「判断能力があること」が確認できた場合であっても、絶対に油断してはならない。 このような比較的シンプルな場合においても、後日の紛争防止のため、また、実務家自身の身を守るため(意思確認の際の手続に過失があると言われないため)にも、最低限、予備面談での質問や受け答えの内容、当日の本人の様子・状況等については、面談メモ等を記載して保存しておくことが重要である。 あわせて、第2ステップにおいて診断書や医療記録を入手したときは、その写しを保存し、医師から聞いた内容についてはメモして残しておかなければならない。 高齢者本人の判断能力の有無が非常に微妙なケースで、後日のトラブルも強く予想されるというケースでは、証拠化に万全を期するために、本人に対する意思確認時のやり取りを録音・録画したり、意思確認の際に主治医や医療スタッフにも立ち会ってもらう等の方法も検討すべきであろう。 (了)

#No. 234(掲載号)
#栗田 祐太郎
2017/09/07

これからの会社に必要な『登記管理』の基礎実務 【第7回】「みなし解散により被る不利益」-解散とみなされないために-

これからの会社に必要な 『登記管理』の基礎実務 【第7回】 「みなし解散により被る不利益」 -解散とみなされないために-   司法書士法人F&Partners 司法書士 本橋 寛樹   はじめに 本稿では、事業活動を行っている株式会社(以下、特例有限会社を除いた「会社」という)が、役員の任期到来にかかる登記手続を怠ることで事業活動の妨げとなる「みなし解散」を中心に解説する。   みなし解散の趣旨 事業活動の実態がないにもかかわらず登記記録が存在している会社(以下、「休眠会社」という)を対象として、登記所側が解散したものとみなす登記を入れることによって、事業活動の実態のある会社とそうではない会社が登記記録上整理されるという目的がある。 もっとも事業活動を行っているか否かを個別具体的に判断するのは困難である。そこで、最後の登記手続から12年間を経過しているかをもって事業活動の実態の有無が形式的に判断される。 最後の登記手続からの期間が12年とされているのは、会社は役員の任期を最長10年に伸長することができるため、少なくとも10年に1回は登記手続を行う義務があることと関係している。たとえ事業活動を行っている会社であっても、最後の登記手続から12年が経過していれば休眠会社として判断されてしまう。そして休眠会社は所定の手続を経た後に解散したものとみなされる(会社法第472条第1項)。 それでは、事業活動を行っている会社がみなし解散によって被る不利益についてみていこう。   みなし解散の登記によって被る不利益 事業活動を行っている会社にみなし解散の登記が入ると、その会社の事業活動に以下の不利益が及ぶことになる。 ① 登記記録にみなし解散の履歴が残る 下記の登記記録例のとおり、みなし解散の登記がされると、登記記録を参照する第三者からみて登記管理が行われていないことが明らかとなるため、コンプライアンスの観点から取引の懸念材料になるおそれがある。 【みなし解散の登記記録例】 ② 代表取締役に関する印鑑証明書等が発行されなくなる みなし解散の登記がされると、あわせて代表取締役等に関する登記記録が抹消される(商業登記規則第72条)。これにより不動産取引、金融機関の融資等といった場面で、代表取締役に関する印鑑証明書等の提出に応じることができなくなる。 ③ 会社の目的が清算に関するものに限定される 会社の活動が会社閉鎖を前提とするものに制限される。例えば、剰余金の配当(会社法第509条第1項第2号)、存続会社となる吸収合併、承継会社となる会社分割といった、事業活動を前提とした行為ができなくなる(会社法第474条)。 *  *  * ここまでの解説で、一部の読者は焦りを覚えるかもしれないが、最後の登記手続から12年が経過すると、直ちにみなし解散の登記が入るわけではない。 みなし解散の登記の前提として、法務大臣による公告及び登記所からの通知の手続がとられるため、その段階で会社が登記手続を行えば、みなし解散の登記が入ることを避けることができる。 なお、みなし解散に至るまでの流れについては、下記の法務省ホームページにまとめられているので参照いただきたい。   会社主導による登記手続の必要性 みなし解散の登記を避けられたとしても、法務大臣による公告及び登記所からの通知によって登記手続の必要性に気づく時点で、すでに登記手続を怠ったことによる過料の制裁を受ける段階に入っている。 言い換えると、過料の制裁やみなし解散の登記による不利益を未然に防ぐためには、会社主導で役員の任期到来にかかる登記手続を行うことが求められていることを意味する。   まとめ 本連載【第3回】から【第6回】までにわたって、役員改選の登記手続が定期メンテナンスの役割を果たすものとして、会社主導で登記管理に取り組む方法について解説してきた。 もし現時点で役員改選の登記手続の時期が不明であれば、それらの解説を参照し、役員の任期到来の時期を特定のうえ、役員の登記手続がいつ必要であるかを検討してみるとよいだろう。 一方で、現時点で登記管理がうまくいっている会社であっても、担当者の交代等によって登記手続に漏れが生じるおそれがないとはいえない。役員に任期がある以上、登記管理は継続して行う必要がある。 いずれの会社であっても、決算期や会社成立日等といった1年に1回特定の日に、自社や顧問先に関する役員の任期到来の時期について、型にはめて確認作業(本連載【第3回】から【第6回】参照)をすると、登記手続の漏れが格段に減るだろう。 過料の制裁やみなし解散の不利益を被ることなく会社主導で登記管理に取り組むきっかけとなれば幸いである。 *  *  * なお、以下の拙稿は、役員の任期管理を怠ると想定されるリスクについて、本稿で解説したみなし解散だけではなく、みなし解散の前提となる過料の制裁やみなし解散後の会社継続の制度について記述した内容となっているので参考とされたい。 (了)

#No. 234(掲載号)
#本橋 寛樹
2017/09/07

〈小説〉『資産課税第三部門にて。』 【第24話】「相続放棄と第二次納税義務」

〈小説〉 『資産課税第三部門にて。』 【第24話】 「相続放棄と第二次納税義務」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   「統括官・・・この判決、少し納税者に酷な気がするんですけど・・・どう思われますか?」 谷垣調査官は立ち話のなか、ふと思い出して最高裁平成21.12.10判決の判決文を見せた。 「何が酷だって?」 田中統括官は、谷垣調査官の差し出した判決文を手に取る。 「第二次納税義務か・・・」 田中統括官は判決文を見つめる。 「この判決文の中で、原告は、将来、近所に住んでいるお父さんの世話をするために相続財産を法定持分よりも多く相続したと書かれています。このような遺産分割協議は、当然、必要かつ合理的な理由といえませんか?」 そう言って、谷垣調査官は判決文に書かれている箇所を指さす。 「お父さんは、81歳の高齢で、近所に住む原告に将来の面倒をみてもらうために、多くの財産を原告に相続させた。・・・もちろん、お父さんの滞納に係る国税の徴収を免れることも考慮されていると思いますが・・・しかし・・・お父さんの生活状況を考慮して遺産の分割が決められたというのであれば、この分割は民法に基づいてされたもので・・・この適法な遺産分割が、国税徴収法39条によって、実質的に否認することができるものなのか、とても疑問です・・・」 谷垣調査官は不満そうに言う。 「遺産の分割の基準については、民法906条に規定しているだろう?」 田中統括官は小六法をめくって条文を谷垣調査官に見せる。 谷垣調査官は、条文を覗きながら頷く。 「・・・そして、お父さんの生活の状況を考慮して、将来世話をする原告に財産の多くを相続させた・・・ということなのだけど・・・それに対して、第二次納税義務を原告に負わせている・・・」 谷垣調査官は、少し口をとがらせている。 「・・・僕の父も高齢で・・・しかも、少し認知症の症状が出ているのです。その世話を姉夫婦がしてくれているので・・・僕は、父の財産について、すべて姉が相続してもいいと思っているのです・・・」 独身の谷垣調査官は、自分の家族のことを話す。 「なるほど・・・そうか・・・」 田中統括官は、腕を組みながら考え込む。 「遺産分割協議は、当然、民法で規定しているように、その家族の生活の状況などを考慮して行われるのだから・・・そこに国税徴収法39条の第二次納税義務がしゃしゃり出ると、その家族の生活設計が壊れてしまいますよね。」 谷垣調査官の声のトーンが高くなる。 「谷垣君の意見はよく分かるよ。・・・じゃあこのケースで、遺産分割協議ではなく、相続放棄をした場合には・・・どうなると思う?」 田中統括官はニヤッと笑って質問する。 「相続放棄・・・ですか?・・・それは・・・相続放棄は身分行為だから・・・国税徴収法39条の適用はない・・・ということになると思いますが・・・」 谷垣調査官は自信のない返事をする。 「最高裁昭和49.9.20判決は、国税徴収法39条ではないけれど、民法424条の詐害行為取消権行使の対象に相続放棄はならないと、はっきり言っている。」 谷垣調査官は黙って判決文を読んでいる。 「そして逆に、遺産分割協議は詐害行為取消権行使の対象になる・・・という最高裁平成11.6.11判決がある・・・」 田中統括官は、言葉を続ける。 「・・・私が思うに、相続放棄と遺産分割協議は、実質的にそれほど相違はないのだから、詐害行為取消権行使の対象になるか否かの判断がこの2つの判決で異なることに、とても違和感を覚えるんだよ・・・」 田中統括官は困った表情になる。 「ということは・・・田中統括官もこの最高裁平成21.12.10判決に反対、ということですか?」 谷垣調査官の問に、田中統括官は苦笑いしながら頸を振った。 (つづく)

#No. 234(掲載号)
#八ッ尾 順一
2017/09/07

《速報解説》 日税連、法定相続情報証明制度の手続きを税理士が代理する際の「委任状のヒナ型」を公表~税理士資格の証明書類が必要な点に注意~

 《速報解説》 日税連、法定相続情報証明制度の手続きを税理士が代理する際の 「委任状のヒナ型」を公表 ~税理士資格の証明書類が必要な点に注意~   Profession Journal 編集部   平成29年5月29日に各種相続手続きに利用することができる「法定相続情報証明制度」がスタートした。本制度の手続きは相続人等からの委任により、親族、又は定められた資格者が代理して行うことができる。これに伴い、日本税理士会連合会は、この手続きを税理士が代理する場合の委任状のヒナ型を、同年8月31日付けで同会のHP(会員専用)に公表した。   相続人の負担を軽減する法定相続情報証明制度 本制度施行以前は、相続手続が必要となる都度、相続人の範囲を証明するために、戸籍書類一式を各窓口に提出する必要があり、手続きを行う上で相続人の大きな負担となっていた。 しかし、本制度により、相続人が といった手続きを行うことで、戸籍謄本等の代わりとなる「法定相続情報一覧図の写し」を無料で必要な通数だけ交付が受けられるようなった。そのため、各種相続手続きで戸籍書類一式を出し直す必要がなくなり、相続人の負担の軽減が可能となっている。 なお、本制度についてはすでに本誌で解説記事を掲載しているので、下記を参照されたい。   本制度の手続きの資格者代理人 本制度の手続きは相続人本人以外に代理人として、親族、又は次の資格者が行うことができる。 上記のうち実際に代理人となるのは弁護士、司法書士が中心になると思われるが、税理士への相談も増加していることから、今回、日税連では「法定相続情報証明制度における委任状について(会員専用)」をHP上に公表し、その中で「法定相続情報証明制度における手続きを税理士が代理する場合の委任状のヒナ型」を掲載したと考えられる。   税理士(又は税理士法人)であることを証明する書面が必要 また、上記のヒナ型とともに委任状の記載要領、記載例も掲載されており、記載要領には受任者が「税理士の場合」と「税理士法人の場合」に分けて解説されている。 なお、資格者代理人が代理する場合には資格者代理人団体所定の身分証明書の写し等を委任状とともに提出する必要があり、記載要領にも注意事項としてあげられているが、税理士(又は税理士法人)は委任状とともに下記の書面を用意しなければならない点に留意されたい。 (了)

#No. 233(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2017/09/05

《速報解説》 国税庁、29年度改正による法人税申告期限の「延長の特例の申請書」記載例を公表~定時株主総会の招集時期による2事例を紹介、申請に当たっての留意点も~

《速報解説》 国税庁、29年度改正による法人税申告期限の 「延長の特例の申請書」記載例を公表 ~定時株主総会の招集時期による2事例を紹介、申請に当たっての留意点も~   公認会計士・税理士 石川 理一   企業と株主・投資家との充実した対話の促進という観点から株主総会招集日を柔軟に設定することが可能となるよう、平成29年度税制改正では、法人税法においても確定申告書の提出期限の延長の特例に関する改正がなされた。 本改正の趣旨、概要については下記拙稿を参照されたい。 当該改正に対応して、このたび国税庁から「確定申告書の提出期限の延長の特例(法人税法第75条の2第1項第1号)の適用を受ける場合の申請書の記載例」(以下、資料という)が公表された。 確定申告書提出期限延長特例を適用するための条件について、改正前は「会計監査人の監査を受けなければならないこと等の理由により決算が確定しない」場合であったところ、定款等の定めと実際の定時株主総会の招集時期にフォーカスして改正されているのは下記拙稿のとおりである。 資料では以下の2つの事例を挙げて、各事例の申請書の記載例が紹介されている。 また、「申請に当たっての留意点」が記載されており、当該留意点の1つに、「定時株主総会を招集する期間が複数の月に及ぶなど定款の定めからは延長する月数が特定できないとき」に、申請書に添付すべき定時株主総会の招集時期が確認できる書類を以下のように例示している。 ・株主総会における定款変更議案の「提案の理由」として事業年度終了の日の翌日から3月を経過する日後の特定の月に定時株主総会を招集することが記載された「株主総会参考書類」 ・事業年度終了の日の翌日から3月を経過する日後の特定の月に定時株主総会を招集することが「集中日を回避した株主総会の設定」欄に記載された「コーポレートガバナンス報告書」 ・その他、招集時期の変更を決議した取締役会の議事録など変更後の定時株主総会の招集月が明らかとなる書類 なお、申請書は、本制度の適用を受けようとする事業年度の終了の日までに提出する必要がある。そのため、定款等の変更はそれ以前に行う必要があることに留意されたい。 (了)

#No. 233(掲載号)
#石川 理一
2017/09/05

プロフェッションジャーナル No.233が公開されました!~今週のお薦め記事~

2017年8月31日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.233を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!-   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2017/08/31

これからの国際税務 【第3回】「ガイダンス文書からみた帰属主義適用の精緻化」

これからの国際税務 【第3回】 「ガイダンス文書からみた帰属主義適用の精緻化」   早稲田大學大学院会計研究科 教授 青山 慶二   1 帰属主義適用ガイダンスの必要性 前回紹介したように、恒久的施設(PE)の実態が関連者間取引の複雑化や取引のデジタル化の下で変質すると、事業所得の算定方法であるPEへの帰属主義の適用も不安定にならざるを得ない。 「PEが存在する場合は、外国法人の所得のうちPEに帰属する所得を源泉地国は課税できる」とするOECDモデル条約の帰属主義の適用ガイダンスについて、更新が求められる所以である。 支店、営業所、工場など業務内容が営業、販売、製造等に明確に区分できるいわゆる「物理的PE」については、OECDは帰属主義の適用事例を長期間にわたり集積してきた。これらのPEでは、通常、業務内容をカバーする収支のネットベース会計データに依存することができた。すなわち、当該データに基づき帰属主義適用のための機能・リスク分析が行えたのである。 一方、コミッショネア(本人のための契約役務提供者)形態の拡大により注目されることとなった「代理人PE(機能的PE)」においては、会計データはコミッショネアの契約上の権利義務の範囲内のもの、すなわち役務収益とそのためのコストのみであり、帰属主義が頼りとする「PEが現実に果たす機能・引き受けるリスク」の分析をサポートするデータは不十分な場合が多い。 BEPS最終報告で新たにPE認定対象となった関連者間のコミッショネア取極については、帰属主義がどのように適用されるべきかを事例ベースで検討するガイダンス文書が、目下パブリックコメントに付されている。 以下では、その概要を紹介し、新しい帰属主義の適用ガイダンスの課題をコメントする。   2 BEPSプロジェクトにおける検討事例の概要 ガイダンス文書では、販売関連会社がコミッショネアの場合で、在庫リスクや顧客の与信リスクの支配管理状況が異なる3つの場合を設定している。 すなわち、消費者向け商品の製造・販売業者(本人法人)が、消費地国に現地コミッショネアを有していて、このコミッショネアが販売に関する役務提供を行う関連法人という設定(下図参照)である。   3 帰属主義の適用順序 (1) 移転価格と帰属主義 コミッショネア取極では、代理人機能にかかる帰属所得の算定(モデル条約7条)の前に、取極上約定され支払われる役務提供対価の独立企業原則に基づく検証(モデル条約9条)が行われるべきことが、まず確認されている。 第1段階で対価の独立企業間価格を確認し、次の段階で当該修正対価を前提としたPE帰属利得の算定を行うという2段階方式である。 移転価格課税と代理人PE課税の関係については、前者の検証が適正に行われれば、後者の検証は不要と主張する「シングルエンティティ・アプローチ」を取らないことをOECDは再確認した(ダブルエンティティ・アプローチに基づく代理人PEの帰属所得認定は、従来コメンタリーベースでOECDモデル条約が言及)。 (2) 計算過程 契約どおり本人法人が在庫・クレジットの両リスクを支配・管理している事例1では、あらゆるリスク管理機能に伴う損益は本人に帰属すると判断されるので、現地コミッショネアに契約通りの役務提供対価が独立企業間フィーで支払われる限り、本人のため重要な人的機能を果たしているとは言えないコミッショネアの活動を通じたPE帰属所得は存在しないと結論付けている(契約書どおりの所得認定)。 これに対して事例2及び事例3のコミッショネアでは、いずれも本人法人のため重要な人的機能を分担しているので、独立企業対価の算定後に、さらにPE帰属利得の検証が求められることになる。 例えば事例2では、在庫・クレジットリスクの管理に伴い本人法人に発生する超過利得うちのコミッショネアの果たす機能・引き受けるリスクに相当する部分が、9条での適正対価の算定で反映されていない範囲内で、PE帰属所得として計算されることになる(契約書ベースを離れた所得認定)。 なお、ガイダンス文書の計算数値を見ると、従来一般的に指摘されてきたとおり、仮に代理人PEが認定されたとしても、その機能に応じ帰属主義の適用によりPEに帰属する売買収益は、取引の全体利得の中でさほど大きなものとは認定されていない。   4 今後の課題 BEPS最終報告に基づくPE概念の拡大は、途上国がその拡大を活用しつつPE帰属所得の計算にあたってはOECD基準の帰属主義を超えて源泉地国帰属所得を算出するのではないかとの懸念を引き起こした。今回のガイダンス文書は、これに対して一定の安心材料を提供したものと評価できよう。 ただし、計算結果については、事例1のようにPE帰属所得が算定されない場合は、そもそもPE認定をすること自体が不適切ではないかとの指摘や、9条と7条はいずれも独立企業原則に沿った機能・リスク分析を行う点で手法に共通性があり、統一的適用によりシングルエンティティ・アプローチでの解決を工夫することも可能ではないかとの批判も提出されている。 (了)

#No. 233(掲載号)
#青山 慶二
2017/08/31

法人税における当初申告要件等と平成29年度税制改正【第1回】

法人税における当初申告要件等と 平成29年度税制改正 【第1回】   税理士 谷口 勝司     1 当初申告要件等の概要-平成23年12月改正- 当初申告要件等については、平成23年12月に抜本的な改正が行われ、その基本的な枠組みや考え方等はこの平成23年12月改正に基づいている。 そこでまず、平成23年12月改正の内容等を紹介するとともに、平成29年度税制改正前の取扱いを説明したい。 (1) 法人税法 平成23年12月改正前の法人税法では、確定申告書等(確定申告書及び仮決算をした場合の中間申告書をいう。以下同じ)にその適用を受けるべき金額など一定の事項を記載した場合又は一定の書類を添付した場合に限り適用し、確定申告書等において制度の適用を受けていない場合には、修正申告や更正の請求によって新たに制度の適用を受けることができないという「当初申告要件」が設けられている制度があった。 これらの制度のうち次の①②のいずれにも該当しないものについては、平成23年12月改正において当初申告要件が廃止され、更正の請求範囲が拡大(請求期間も5年に延長)された。 当初申告要件が廃止された代表的な制度としては、受取配当等の益金不算入、所得税額控除、外国税額控除等が挙げられる(注1)(注2)。 (注1) 平成23年12月改正では、次の(イ)~(ヲ)の12の制度について廃止され、また、その後の税制改正により、(ワ)~(ヨ)といった制度についても当初申告要件は設けられていない。 (イ) 受取配当等の益金不算入(法23⑦) (ロ) 外国子会社から受ける配当等の益金不算入(法23の2③) (ハ) 国等に対する寄附金、指定寄附金及び特定公益増進法人に対する寄附金の損金算入(法37⑨) (ニ) 会社更生等による債務免除等があった場合の欠損金の損金算入(法59④) (ホ) 協同組合等の事業分量配当等の損金算入(法60の2) (ヘ) 所得税額控除(法68③) (ト) 外国税額控除(法69⑩⑪) (チ) 公益社団法人又は公益財団法人の寄附金の損金算入限度額の特例(令73の2②) (リ) 引継対象外未処理欠損金額の計算に係る特例(令113②⑥) (ヌ) 特定株主等によって支配された欠損等法人の欠損金の制限の5倍要件の判定の特例(令113の2⑭) (ル) 特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入の対象外となる資産の特例(令123の8③五) (ヲ) 特定資産に係る譲渡等損失額の計算の特例(令123の9②⑧) (ワ) 青色申告書を提出した事業年度の欠損金繰越しにおける更生手続や再生手続開始の決定等があった場合の特例(法57⑫) (カ) 青色申告書を提出しなかった事業年度の災害損失金の繰越し(法58②⑤⑦) (ヨ) 適格合併等による欠損金の引継ぎにおける譲渡等損失額の損金不算入の対象外となる資産の特例(令112⑥三ロ) (注2) 前記①②のいずれかに該当する制度については、当初申告要件は存続されていることに留意する必要がある。代表的なものとして、国庫補助金等、保険差益、交換等の圧縮記帳、貸倒引当金・返品調整引当金などがある。 上記により当初申告要件が廃止された制度であっても、課税当局側での制度の適用要件確認のため、確定申告書等、修正申告書(注3)又は更正請求書に、所要の事項の記載をした書類又は所要の書類の添付が必要とされた。 (注3) 修正申告時に新たに制度の適用を受けることにより課税標準又は税額が減少する一方、他項目の所得加算等により最終的には課税標準又は税額が増加する場合があることから、ここに修正申告書が掲げられている。 しかし、当初申告である確定申告書で制度の適用を受けていない場合であっても、その後、修正申告書や更正請求書に記載・添付等をすることによって新たに制度の適用を受けることができるという点で、改正前までの記載・添付等とはその意味合いは異なるものであり、平成23年12月改正はそれまでの取扱いを大きく変更するものであった。 また、当初申告要件が設けられている制度の中には、その制度の適用を受ける金額(控除等の金額)について、確定申告書等に記載された金額を限度とするという「適用額の制限」が設けられている制度があった。 例えば、平成23年12月改正前の所得税額控除では、控除をされるべき金額は確定申告書に控除を受けるべき金額として記載された金額を限度とする、と規定されていたことから(平23.12改正前の法68③)、確定申告書に記載した控除金額がいわば絶対的な上限額として取り扱われていた。 このため、確定申告後に控除漏れの所得税額が判明したとしても、確定申告書等に記載された金額を超えて控除金額を増額させることは一切できなかったが、この点についても平成23年12月で改正(見直し)が行われた。 すなわち、所得税額控除、受取配当等の益金不算入といった制度については、確定申告書等だけでなく、修正申告書又は更正請求書に添付された書類に適用を受ける金額として記載された金額を限度とする、と改正され、修正申告書や更正請求書に記載・添付等をすることによって適用額(控除等の金額)を増額させることができるようになった(注4)。 (注4) 平成23年12月改正で「適用額の制限」の見直しが行われたのは、次の制度である。 (イ) 受取配当等の益金不算入(法23⑦) (ロ) 外国子会社から受ける配当等の益金不算入(法23の2③) (ハ) 国等に対する寄附金、指定寄附金及び特定公益増進法人に対する寄附金の損金算入(法37⑨) (ニ) 所得税額控除(法68③) (ホ) 外国税額控除(法69⑩⑪) なお、適用額(控除等の金額)の記載を一切不要としなかったのは、課税当局側に金額の立証責任が転換しないようにするためと趣旨説明がされている(財務省HP「平成24年度税制改正の解説」163頁参照)。 以上のとおり、平成23年12月の法人税法の改正は、それまで厳格に取り扱われていた当初申告要件や適用額の制限について、多くの制度についてこれを緩和するという大きな改正であった。 なお、その後の税制改正においても、平成23年12月改正の枠組みや考え方等は維持されている。 (2) 租税特別措置法 平成23年12月では、租税特別措置法(以下「措置法」という)についても改正が行われた。 平成23年12月改正前の試験研究費の特別税額控除制度や中小企業者等が機械等を取得した場合の特別税額控除制度等については、確定申告書等にその控除を受ける金額の申告の記載があり、かつ、その控除を受ける金額の計算に関する明細書の添付がある場合に限り適用することとされていた。 このため、確定申告書等において制度の適用を受けていない場合には、修正申告や更正の請求によって新たに制度の適用を受けることはできないこととされていた。これを「措置法における当初申告要件」という。 また、措置法における当初申告要件が設けられている制度の中には、その適用額(控除等の金額)について、確定申告書等に記載された事項を基礎として計算する場合に控除を受けることができる正当額を限度とするものがあった。例えば試験研究費の特別税額控除により控除される金額は、試験研究費の額や法人税額など確定申告書等に記載された全ての事項を基礎として計算された税額控除額(正当額)が適用限度額とされていた。 このため、確定申告書等に記載されたこれらの金額(例えば試験研究費の額や法人税額)が変動する場合であっても、修正申告や更正の請求によって、確定申告書等に記載された金額を是正して適用額(控除等の金額)を増加させることはできなかった。これを「措置法における適用額の制限」という。 平成23年12月改正では、措置法における適用額の制限の見直しが行われ、控除を受けることができる正当額を計算するに当たって基礎とする事項が、確定申告書等に記載された全ての事項から、確定申告書等に添付された書類に記載された特定の事項(試験研究費の額、資産の取得価額等)と改正された。換言すれば、確定申告書等に記載された試験研究費の額(又は資産の取得価額等)だけを基礎として(固定して)適用額(控除等の金額)を計算することになった。 このため、確定申告書等に記載された特定の事項以外の事項として記載された金額(例えば法人税額)に変動がある場合には、修正申告や更正の請求によってその金額を是正して適用額(控除等の金額)を増額できることとなった。 他方、措置法における当初申告要件は、確定申告書等に添付される書類に特定の事項(試験研究費の額、資産の取得価額等)を記載する必要があることされ、法人税法における当初申告要件とは異なり、引き続き存続することとされた。 当初申告要件の存続理由としては、措置法における特別税額控除制度等は、元々、研究開発促進、投資促進といった政策目的によるインセンティブ措置であることが考慮されたものと考えられる。 *  *  * 以上のとおり、平成23年12月では、法人税法、措置法のいずれも改正されたが、両者では異なる改正内容であったことに留意しておきたい。 (了)

#No. 233(掲載号)
#谷口 勝司
2017/08/31
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