高額特定資産を取得した場合の 納税義務の免除の特例及び簡易課税制度の特例 【第1回】 「改正の概要及びその背景」 アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 ① 改正の概要とその背景 平成28年度の税制改正により、事業者(免税事業者を除く)が簡易課税制度の適用を受けない課税期間中に高額特定資産の仕入れ等を行った場合には、その高額特定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の翌課税期間から、その仕入れ等の日の属する課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間においては、事業者免税点制度及び簡易課税制度の適用を受けることができなくなった。 なお、「高額特定資産」とは、一の取引の単位につき、課税仕入れに係る支払対価の額(税抜)が1,000万円以上の棚卸資産又は調整対象固定資産(※)をいう。 (※) 調整対象固定資産とは、棚卸資産以外の資産で、建物、建物附属設備、構築物、機械及び装置、車両運搬具、工具器具備品その他の資産で、一の取引単位の価額(税抜)が100万円以上のものをいう。 本規定が創設された背景としては、仕入時の課税期間で「原則課税」により仕入税額控除を行い、仕入時の課税期間の翌課税期間において簡易課税制度を選択して仕入税額控除(みなし規定)を行うことで課税仕入れの2重控除となるケースがあり、問題視されていた。 そこで、高額特定資産を取得した場合には、その資産の仕入れ等の課税期間から3年間は、課税事業者となり、かつ、原則課税が強制適用されることとなった。 なお、本規定は、自己が資産等を建設する場合で、その建設費用のうち課税仕入れの支払対価の額の累計額(税抜)が1,000万円以上となった場合にも適用されることとなっている。 本規定は、平成22年度税制改正で創設された調整対象固定資産(税抜100万円以上の資産)の仕入れ等を行った場合の特例規定(納税義務の免除の特例及び簡易課税制度の特例)と同様の規定となる。 ただし、本規定における高額特定資産は、棚卸資産、調整対象固定資産、自ら建設等をした資産(以下、「自己建設高額特定資産」という)を対象としており、棚卸資産及び自己建設高額特定資産も含まれることに注意が必要である。 ② 簡易課税制度による2重控除スキーム(改正前) PFI事業(※)を行う目的で設立された特定目的会社(SPC)が、そのPFI事業のための高額な資産(公共施設等)を取得した課税期間に原則課税によりその取得に係る課税仕入れ等について仕入税額控除の適用を受け、翌課税期間以後にその公共施設等の完成・引渡しを行った際に、簡易課税制度を適用することで、2重に仕入税額控除を受けることとなる。 (※) PFI(Private Finance Initiative)事業とは、公共施設等の整備等に関する事業であって、民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用することにより効率的かつ効果的に実施されるものをいう。 《消費税計算の流れ》 ① 公共施設等の建設をする(課税仕入れの発生) ② 第×1期目に届出書を提出し、第×2期目に簡易課税制度を選択する ③ 第×2期目に施設等の引渡しを行う(課税売上げの発生) ④ 第×2期目を簡易課税制度で計算する(課税売上げの70%が課税仕入れとなる) 公共施設等の建設等をした課税期間(第×1期)はその施設の建設等のみで引渡しは行っていないため、課税売上げは生じない。また、第×1期においては公共施設等の建設等に係る課税仕入れのみ生じているため、原則課税を採用すれば課税売上げに対応させその仕入れに係る消費税の控除を受け、還付を受けることとなる。 そして、第×1期に簡易課税制度選択届出書を提出することで、公共施設等の引渡し課税期間(第×2期)において簡易課税の適用を受けることとなり、その施設の引渡しが課税売上げになるため、その売上に対してみなし仕入率(建設業70%)を適用することとなる。 したがって、第×1期で建設等に係る税額控除をしているにもかかわらず、本来課税仕入れが生じていない第×2期においても再度税額控除するという、いわゆる2重控除というスキームとなっている。 * * * 次回より本改正について、「高額特定資産を取得した場合」と「自己建設高額特定資産を建設等した場合」に分けて解説していく。 (了)
マイナンバーの会社実務 Q&A 【第24回】 「給与所得の源泉徴収票(受給者交付用)、 給与所得の源泉徴収票(税務署提出用)、 給与支払報告書へのマイナンバーの記載」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 〈Q〉 給与所得の源泉徴収票(受給者交付用)、給与所得の源泉徴収票(税務署提出用)、給与支払報告書へのマイナンバーの記載について教えてください。 〈A〉 それぞれ次の通りとなる。 1 給与所得の源泉徴収票(受給者交付用) マイナンバーの記載は不要である。 2 給与所得の源泉徴収票(税務署提出用) 配偶者特別控除の対象となる配偶者、16歳未満の扶養親族を除き、マイナンバーの記載が必要である。 3 給与支払報告書 配偶者特別控除の対象となる配偶者を除き、マイナンバーの記載が必要である。 * * * 以上をまとめると、下表の通りとなる。 【図表】 マイナンバーの記載 【参考①】 給与所得の源泉徴収票(受給者交付用) 【参考②】 給与所得の源泉徴収票(税務署提出用) 【参考③】 給与支払報告書 (了)
金融・投資商品の税務Q&A 【Q23】 「外国籍契約型投資信託の受益証券を保有する場合の タックス・ヘイブン税制の適用」 PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子 ●○ 検 討 ○● 1 タックス・ヘイブン税制の概要 タックス・ヘイブン税制(外国子会社合算税制)は、外国子会社を通じて行われる租税回避に対処するため、一定の条件の下で、軽課税国に所在する外国の子会社の所得をその親会社である内国法人の所得に合算して課税するものです。 タックス・ヘイブン税制は原則として内国法人に係る特定外国子会社(外国法人)に対して適用があります。ただし、外国信託についても一定の場合、適用があります。 タックス・ヘイブン税制の適用対象となる外国信託は、外国投資信託のうち租税特別措置法第68条の3の3第1項に規定する特定投資信託に類するもの、とされています。すなわち、外国投資信託のうち、①証券投資信託に類するもの、または②募集が公募かつ主として国内で行われる投資信託に類するもの、以外の投資信託について、タックス・ヘイブン税制の適用対象とされ、会社型の外国投資法人と同様の判定が必要となります(詳細については【Q25】参照)。 2 本件へのあてはめ おたずねの外国投資信託が、証券投資信託に類するとされる場合は、タックス・ヘイブン税制の適用対象外とされます。 証券投資信託の定義自体は投信法の規定をリファーしていますので、証券投資信託に類するかどうかについては、投信法の規定等に照らして判断する必要があると考えられます。 (了)
被災したクライアント企業への 実務支援のポイント 〔税務面(法人税・消費税)のアドバイス〕 【第4回】 「被災した取引先に対する支援の取扱い」 公認会計士・税理士 新名 貴則 1 災害見舞金 (※) 被災した自社の従業員等に対する災害見舞金の取扱いについては、【第3回】を参照されたい。 ① 被災した取引先に対する見舞金 被災前の取引関係の維持・回復を目的として、災害発生後相当の期間内(取引先の復旧過程)において、法人が取引先に対して災害見舞金を支出した場合は、交際費等として取り扱わず全額を損金に算入する(措通61の4(1)-10の3)。 これは、災害見舞金の支出が単なる慰安・贈答のためではなく、取引先の復旧を手助けすることにより、自らが蒙る可能性のある損失を回避するためのものと考えられるからである。 したがって、取引先の被災の程度や、取引先との取引状況等を勘案した相応の金額であれば、金額の多寡は問題とならない。また、このような場合は取引先から領収書の発行を受け難いことも考えられる。このときは、法人の帳簿書類に支出先の所在地、名称、支出年月日を記録しておく必要がある(国税庁「災害に関する法人税、消費税及び源泉所得税の取扱いFAQ」(以下「災害FAQ」)Q17)。 ② 消費税の取扱い 金銭により支出する災害見舞金は、対価性がないため不課税取引に該当する。 ③ 取引先の役員等の個人に対する見舞金 被災した取引先にではなく、その役員や使用人等の個人に対して法人が個別に見舞金を支出する場合は、社外の者の慶弔、禍福に際し支出する金品等の費用として交際費等に該当する(措通61の4(1)-15(3))。 このような個人への見舞金の支出は、相手が個人事業主である場合を除いて、取引先の救済により法人の損失を回避するためというより、いわゆる付き合いとしての性質を有すると考えられるからである。 ただし、前回解説したように、法人が自己の役員等と同等の事情にある専属下請先の役員等又はその親族等に対して、一定の基準に従って支給する災害見舞金は、損金に算入される(措通61の4(1)-18(4))。 2 事業用資産の供与又は役務の提供 (※) 不特定又は多数の被災者に対する自社製品等の提供の取扱いについては、【第3回】を参照されたい。 ① 被災した取引先に対する事業用資産の供与又は役務の提供 被災前の取引関係の維持・回復を目的として、災害発生後相当の期間内(取引先の復旧過程)において、法人が取引先に対して事業用資産を供与又は役務を提供した場合、その費用は交際費等として取り扱わず全額を損金に算入する(措通61の4(1)-10の3)。 ここでいう「事業用資産」には、取引先において棚卸資産や固定資産として販売又は使用されることが明らかな物品だけでなく、当該取引先の福利厚生の一環として被災した従業員等に供与されるものも含まれる。 ② 自社製品等を取り扱う小売業者等への交換又は無償補填 自社製品等を取り扱う小売業者等に対して、災害により滅失又は損壊した製品等と同種の商品を交換又は無償補填した場合、その費用は交際費等として取り扱わず全額を損金に算入する(措通61の4(1)-10の3(注1))。この場合、当該小売業者等が法人にとって直接の取引先であるか否かは問わない。 これは、当該費用は広告宣伝費や販売促進費の側面を有しているとみることができるためである。 3 債権の免除 ① 被災した取引先に対する債権の免除 被災した取引先の復旧支援を目的として、災害発生後相当の期間(通常の営業活動を再開するための復旧過程の期間)内に、当該取引先に対する売掛金、貸付金等の債権の全部又は一部を免除した場合、その損失は寄附金や交際費等として取り扱わず、全額を損金に算入する(法基通9-4-6の2、措通61の4(1)-10の2)。 上記の取扱いは、次のような場合にも同様である。 ② 取引先の範囲 上記の取引先には、得意先、仕入先、下請工場、特約店、代理店等のほか、商社等を通じた取引であっても価格交渉等を直接行っているような納品先など、実質的な取引関係にあると認められるものも含まれる(法基通9-4-6の2(注)、措通61の4(1)-10の2(注))。 ③ 一部の者だけが債権の免除を行う場合 被災取引先に対する債権免除が、上記のように寄附金や交際費等に該当しないとされるのは、債権免除が取引先の復旧支援を目的としているためである。したがって、被災した法人の全ての取引先が揃って債権免除を行うことは前提とされておらず、一部の企業のみが債権免除を行った場合でも、それが上記の要件を満たすものであれば、寄附金や交際費等には該当しない(「災害FAQ」Q20)。 ④ 消費税の取扱い 債権を免除したことによる損失(上記の要件を満たし、寄附金又は交際費等に該当しないもの)に係る消費税の取扱いは、次の通り当該債権の内容によって異なる(「災害FAQ」Q32)。 4 低利又は無利息での融資 ① 被災した取引先に対する見舞金 被災した取引先の復旧支援を目的として、災害発生後相当の期間(通常の営業活動を再開するための復旧過程の期間)内に、当該取引先に対して低利又は無利息での融資をした場合、当該融資は正常な取引条件で行われたものとされる(法基通9-4-6の3)。したがって、通常受け取るべき利息との差額を寄附金として取り扱う必要はない。 これは、取引先の復旧を手助けすることにより、自らが蒙る可能性のある損失を回避するためのものと考えられるからである。 ② 融資期間及び融資額の制限 融資が取引先の復旧支援を目的としたものであり、かつ、取引先の被災の程度や取引状況等を勘案した合理性のあるものであれば、融資期間や融資額に制限はない(「災害FAQ」Q22)。 ただし、言い方を変えると、「取引先が通常の営業活動を再開するまでの復旧過程の期間内の融資であって、あくまで復旧支援を目的とした融資額である必要がある」とも言える。 (了)
裁判例・裁決例からみた 非上場株式の評価 【第21回】 「租税法上の評価⑤」 公認会計士 佐藤 信祐 前回では、東京地裁平成17年10月12日判決について解説を行った。 本稿では、東京地裁平成19年1月31日判決について解説を行う。本事件は、相続税法7条が租税回避の問題が生じるような特殊な場合に限り適用されるものか否かが争われている。 5 東京地裁平成19年1月31日判決・TAINSコード:Z257-10622 (1) 事実の概要 本事件は、株式会社A(以下「A」という)の代表取締役である原告が、Aの複数の株主からAの株式を買い受けたところ、市川税務署長が、上記株式の売買は、相続税法7条の「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」に当たるとして、上記株式の譲渡の対価と当該譲渡があった時における上記株式の時価との差額に相当する金額を原告が贈与により取得したものとみなし、原告に対し、贈与税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分をした事件である。 本事件の争点は、①相続税法7条が、取引当事者が、租税回避の問題が生じるような特殊な関係にある場合に限り適用されるものであるか、②同条にいう「時価」の意義及び財産評価基本通達に規定されている株式評価方法の合理性の2つである。 (2) 裁判所の判断 (3) 評釈 このように、本事件では、納税者の主張は認められず、国側の課税処分が認められた。前回までで解説したように、特別な事情が認められない限り、財産評価基本通達に定める評価方式(本事件では、原則的評価方式)によるべきところ、額面金額の250%という低廉な譲渡価額であったため、低廉譲渡という認定を受けている。 なお、「原告が提示した買取価額を基に、原告と本件各譲渡人との間のせめぎ合いにより形成された価額である」という原告の主張に対しては、 として否定されている。判決文の中から推測される事実関係からすると、当然のことである。 この点については、【第17回】でも解説したように、第三者と言えるかどうかは、親族等やグループ内の関係に無いというだけでは足りず、他の要素を全く含まずに、売買価格に対してせめぎあいの交渉が行われる関係にある必要がある。すなわち、【第17回】で解説した従業員との取引だけでなく、取引先、仕入先、提携先、下請先などのように、売買価格について妥協が入りそうな要素が含まれている場合には、純粋な第三者とは言えないという点に留意が必要である。 また、本事件では、相続税法7条が、取引当事者が、租税回避の問題が生じるような特殊な関係にある場合に限り適用されるものであるか否かが争われている。この点については、前述のように、租税回避か否かを問わないこととしており、条文の文言解釈からすると当然のことと言える。このことは、所得税法、法人税法において類似の事案が生じた場合においても同様である。租税回避の意図なく、低廉な価額で譲渡や譲受をした場合には、課税上の問題が生じる可能性があると言えよう。 さらに、本事件では、 という点も問題視されている。 すなわち、グループ内の売買であっても、財産評価基本通達に定める評価方法以外で売買がなされる事案は数多く存在し、とりわけ、外資系企業や上場会社では、自社の保有する非上場株式をDCF法などの評価方法により売買をしている事案も多い。このような事案は、必ずしも、財産評価基本通達に定める評価方法よりも高い金額になる場合だけでなく、安い金額になることも少なくない。そのような場合であっても、低廉譲渡として否認されるわけではなく、専門家による鑑定意見書が存在し、かつ、その計算過程に問題がないのであれば、租税法上も容認されることになる。 本事件の主要な部分ではないことから、他の事件に射程が及ぶ部分ではないものの、必要に応じ、専門家による鑑定意見書を入手しておく必要があるということが言える。 次回では、最高裁平成7年12月19日判決について解説を行う予定である。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【96】 〔第9章〕代表的な税務判例を読む (その24:「政令委任と租税法律主義①」) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 本誌の創刊以来、長く続いた本連載も、このテーマについての検討で、最後となった。長期にわたり続いた本連載を締め括るに相応しい、「租税法律主義とは何か」という根本的な問題と最も関係する、税法における政令委任のあり方について検討したい。 1 租税法律主義と政令・省令 まず、憲法第84条は、「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。」と規定している。 この憲法の趣旨からは、課税要件は法律で定めることが求められ、政令で定める場合でも、法律において政令で規定する内容について具体的に法律で定めたうえで政令に委任すべきものとされている。 なお、政令にではなく、手続事項として省令に委任される(法律から直接の場合もあれば、政令を介しての再委任という場合もある)こともあり、それが、手続事項といえども課税要件(減免を含む)に関する手続要件として定められている場合には、課税要件を省令で定めうるのかという問題を生じることになる。 筆者は、この点問題がないとはいえないと思っているが、省令においての手続要件としての規定例は多く存在しており、現在はあまり問題視されていない。そこで、この問題意識はここで触れるにとどめる。 これまでも、法律と政令の関係については、本連載において幾度か記しているが、その中で、【1】(〔第1章〕法(法源)の種類 4 成文法の種類 ④命令)や【2】(〔第2章〕法令の解釈方法(その1)3 法規的解釈 ④定義の委任命令)においては、「法律で命令へ委任するにあたっても、委任の内容・程度が具体的・個別的であることを要し、概括的・白地的な委任は許されないと解される。」、「命令によって解釈する旨の委任規定を置いている場合は、その委任が包括的白紙的委任として問題となる場合は格別、有効な法規的解釈として裁判所も拘束する」と、委任においては、個別的・具体的である旨、記している。 このように、問題となる委任の在り方については、「概括的」「包括的」「白地的」「白紙的」と複数の表現を用いているが、これらは裁判例や国会答弁(※)においても統一性なく使われていることから、本稿でも敢えて多くの表現で記したが、その内容は差があるものではなく、有効なものが個別的・具体的委任にも続くべきものである点には相違がない。 (※) これまで法律と命令の関係について、昭和29年5月17日参議院法務委員会や平成3年3月4日参議院予算委員会など、国会でも幾度か議論されており、その折には法制局長官等が答弁している。 そこで、この政令・省令への委任が問題となり、裁判例でその主張が認められた事例について見ていく。 2 租税法における委任命令の限界事例 ① 大阪銘板事件 第一審 大阪地裁昭和41年5月30日(行集17巻5号591頁) 控訴審 大阪高裁昭和43年6月28日(行集19巻6号1130頁、判例時報523号31頁、判例タイムズ223号179頁) 残念ながら、裁判所ホームページでは公開されていない。そこで事案の概略をここで紹介しながら進めていく。 下級審のものであるため、厳格な意味で判例と呼べるかは疑問されつつも、法人税法において特に多くみられる委任立法ないしは受任政令の問題について正面から取り組んだ画期的な裁判例であると評価されている(村井正「法律と政令」租税判例百選(別冊ジュリスト17号)14頁)裁判例である。 法人税法は、昭和40年に一新されており、これは旧法下の事案である。 旧法下においては、以下のように規定されている。 原告会社は、これら規則は所得の計算に関してのみ必要な事項を命令に委任できるとする法人税法9条8項の委任の範囲を超えた違法な規定であり、それに基づく本件処分は違法であると主張して、不服申立手続を経て出訴に及んだ。その主張に対する裁判所の判断は以下の通りである。 (A) 第一審の判断 上記のように判示した上で、本件では使用人賞与として支給された金員とは別に役員賞与が支給されており、その分は益金として計上すべきであるので、結局、損金とみなすことができるのは、全支給額の半額であるとした。 (B) 控訴審の判断 原審判決が規則10条の3第6項4号は租税法律主義に反して適用できないとしたのに対し、控訴審においては「10条の4本文の役員賞与中には、その性質において損金性を有する賞与は含まないと解するのが相当である」と、当該規定がすべての場合に租税法律主義に反するとする判断を回避しながらも、納税者の主張を容れ、原審を支持して控訴を棄却している。 なおこの事案は、この控訴審で確定している。 (続く)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第53回】 株式会社高田工業所 「第三者委員会調査報告書(平成28年7月8日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【第三者委員会の概要】 【株式会社高田工業所の概要】 株式会社高田工業所(以下「高田工業所」と略称する)は、1940(昭和15)年創業、1948(昭和23)年設立の総合プラント建設会社。資本金36億4,000万円。連結売上高42,672百万円、連結経常利益1,259百万円。従業員数1,517名(数字はいずれ平成28年3月期)。本店所在地は福岡県北九州市。東京証券取引所一部上場。 【調査委員会報告書の概要】 1 福岡国税局による税務調査と社内調査委員会の設置 会計不正が発覚したきっかけは、高田工業所が、福岡国税局による税務調査を受けた中で、売上高の繰延と下請業者との不正取引が指摘されたことにあった。 以下に、3月9日付「内部調査委員会設置に関するお知らせ」と題されたリリースから、「本件の概要について」の部分を引用する。 この結果を受け、高田工業所は、再発防止策の策定を目的として、事実関係、背景事情等の調査分析、責任の所在を明確にするために、社外監査役を委員長とし、社外役員が半数を占める内部調査委員会を設置した。 2 内部調査委員会から第三者委員会への移行 高田工業所は、3月29日になって「第三者委員会設置に関するお知らせ」と題するリリースにおいて、第三者委員会を設置して、内部調査委員会の調査を引き継ぐことを取締役会で決議したことを公表した。 その設置理由について、同リリースでは、「日本取引所自主規制法人の「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」に従い、調査の客観性・中立性・専門性を高めるために、会計監査人である新日本有限責任監査法人の要請のもと」という説明がなされている。 3 不適切な会計処理の概要 (1) 完成工事高・完成工事原価の操作 ① 概要 第三者委員会による調査の結果、完成工事高の繰延計上、完成工事高の先行計上及び完成工事原価の付替といった完成工事高・完成工事原価の操作は、高田工業所プラント事業本部統括下のすべての事業所・支社(以下、調査報告書の記載にしたがって、「場所」と略称する)において、長期間にわたって行われてきたことが判明した。 なお、その開始時期においては、調査では特定できなかったが、遅くとも平成17年3月期の会計期間以前から行われており、各場所において完成工事高・完成工事原価の操作手法が慣習的に引き継がれていたことが推測される、としている。 ② 目的 完成工事高の先行計上又は繰延計上などの操作の動機としては、 工事ごとの原価率を平準化するため 業績目標達成を容易にするため といった目的が説明され、また、完成工事原価の付け替えについては、以下のような説明がなされている。 架空工事を隠蔽するため 工事ごとの原価率を平準化するため 事業・支社における間接費予算を削減するため ③ 操作件数 第三者委員会による調査の結果、操作があった完成工事高・完成工事原価の事業所ごとの件数は、【図表1】のとおりである。 【図表1】 各支社・事業所ごとの完成工事高・完成工事原価の操作件数 ※調査期間:平成17年3月期~平成26年3月期第3四半期 (2) 下請け業者との間における不正取引 ① 概要 第三者委員会による調査の結果、高田工業所プラント事業部統括下の支社・事業所では、連結子会社である高田プラント建設株式会社、甲社との間で、不正な取引、具体的には架空・水増し発注によるキックバックの受領という不正が行われていたことが判明した。 キックバックの金額は発注額の5割から6割程度に相当し、交際費予算を補填するため、または、社内の慰労会等の費用に充てるための資金を捻出するために利用されており、不正取引の実行者がキックバックを受けた現金を個人的に着服した行為までは認められていないということである。 ② 不正取引の実態 調査の結果、高田プラント建設を利用した不正取引では、多くの場合、管理課長が不正取引実行者であり、不正取引の実務的な処理を行うとともに、高田プラント建設からキックバックを受けた現金を管理・保管していたことが判明している。管理課長は、当時の高田プラント建設統括管理部長に申し入れて、高田プラント建設との不正取引を開始し、不正取引の方法を後任の管理課長に引き継ぐことにより、継続的な裏金作りが行われていた。 キックバックを受けていた金額の総額は1億5,000万円あまりであった。 【図表2】 不正受給額の合計 ③ 高田プラント建設を利用した不正取引の発覚(報告書p.61) 2012年5月頃、当時の高田プラント建設代表取締役は、裏金作りの存在を知り、これを、当時の高田工業所の一部取締役に対し、報告した。報告を受けた取締役らは、高田プラント建設を利用した裏金作りに係る事実関係を調査することとし、その結果、2012年夏頃には、黒崎事業所、八幡支社、水島事業所、京葉事業所及び鹿島事業所において、高田プラント建設を利用した裏金作りが行われていたことや、当時の取締役等が関与していたことなどが明らかとなった。 しかしながら、調査を行った当時の取締役らは、裏金作りの件が表沙汰になることによる税務上の影響、裏金作りの関与者のうち上記調査時点での在職者のみに対し人事処分を行うことの不公平さ、事業所運営の根幹を担う所長及び管理部門長に対して処分を行うことによる運営への影響等を考慮し、高田プラント建設を利用した裏金作りの存在を、これ以上他の者に広めないとの方針を決め、代表取締役社長である髙田氏に対してこの事実を伝えなかったほか、取締役会等への報告もせず、その他の必要な対応をしなかった。 ④ 京葉事業所による甲社との不正取引 京葉事業所の管理課長は、高田プラント建設との不正取引が終了した後も、顧客の接待のために交際費予算を上回る支出を続けていたため、他の業者との不正取引を行ってこれを補填しようと考え、当時の事業所長と相談の上、2012年2月頃、甲社代表者に対し、不正取引を申し入れた。管理課長はキックバックの金額を発注額の概ね半額とすることを提案したところ、同代表者が当該条件を了承し、不正取引が開始された。 管理課長は、不正取引実行者として、部下に指示して、架空発注に係る費用を計上するための架空工事番号を準備させ、同代表者に対し、不正取引の発注額を伝え、それを基に作成された見積書の交付を受け、外注発注査定表を作成、見積書を添付して、あたかも高田工業所が甲社に対して実際に工事を発注しているかのように装って調達課従業員に回付し、発注・検収手続を済ませるように依頼した。 管理課長は、甲社との不正取引に係るキックバックにより捻出した裏金を、接待の費用、京葉事業所の所内旅行や花見の補助金及び本社からの出張者との飲食費等に費消したほか、自身の部下を連れて飲食する際の飲食費として使用することもあった。 キックバックを受けていた金額は約4,200万円であった。 4 不適切な会計処理・取引に対する経営陣の関与・認識(報告書p.58以下) 第三者委員会は、不適切な会計処理・取引に対する経営陣の関与・認識について、以下のように判断している。 (1) 完成工事高の繰延処理について なお、こうした第三者委員会の指摘を受けて、山谷氏、朝長氏及び川藤氏は、調査報告書を公表した日と同日付で、取締役を辞任している。 (2) 不正取引について 高田プラント建設との不正取引を利用した裏金作りが2012年5月頃に露見したのは上述のとおりだが、その際、報告を受けた取締役とは、当時代表取締役兼専務執行役員であった中村洋一氏(現顧問)と川藤氏であり、両名は、山谷氏と協議したうえで、事実関係の調査を行った。 今回の不適切な会計処理・取引の調査にあたっても、第三者委員会設置に先立って調査を行った内部調査委員会においては、この裏金作りの存在が議論された形跡はなく、報告書にも記載がなかった。第三者委員会は、内部調査委員会事務局が、高田プラント建設を利用した不正取引の事実を知りながら、「この問題を表沙汰にすることにより問題が拡大してしまうことを危惧したため」に、記載がされなかったとしている。 5 原因・背景事情(報告書p.67以下) 第三者委員会が「原因・背景事情」として指摘した項目は、以下の5項目である。 (1) 適正な財務報告に関する意識の鈍麻・欠如 (2) 本社による管理・統制機能の脆弱性 (3) 工事の受発注に係る業務プロセスの不備 (4) コンプライアンス意識の欠如 (5) 会計監査人に関する背景事項 原因・背景事情の中では、(5)会計監査人に関する背景事項について、詳しく見ておきたい(報告書p.86)。 第三者委員会は、高田工業所の会計監査人である新日本有限責任監査法人による会計監査について、会計監査人の責任を論じるものではなく、会計監査人の監査の適否について見解を示すものではないと断ったうえで、完工高の繰延計上と監査手続の関係を記述している。 会計監査人による、2015年3月期の完工未収入金の確認手続において、一部の顧客について、顧客による回答額が帳簿残高を大きく上回るという差異が生じており、その数は7社・19件、金額にして約1億5,000万円であったことが、第三者委員会の調査で判明した。会計監査人は、高田工業所が受領した「監査結果説明書」において、「特別な検討を必要とするリスク」の項目として「収益認識を誤るリスク」が存在することを示してはいたものの、これらの差異については、「案件ごとの金額において重要性を超える取引はなかった」と回答しているとのことである。 6 再発防止策(報告書p.90以下) 第三者委員会による再発防止策の提言内容は、以下の4項目である。 (1) 高田工業所の役職員の意識改革 (2) 場所の実情に見合った合理的な管理体制の構築 (3) 本社による管理・統制機能の改善・強化 (4) 不適切な会計処理・取引を防止する受発注業務プロセスの確立 こうした提言を受けて、高田工業所は、7月8日付リリースで、いち早く「業務改革部の新設」という再発防止策を公表したうえで、詳細な再発防止策については、8月30日付「不適切な会計処理・取引に対する再発防止策の策定等に関するお知らせ」の中で、以下の3点を重点項目として挙げている。 (1) コーポレート・ガバナンス機能の再構築 (2) コンプライアンス意識の醸成に向けた取組み (3) 透明性の高い業務プロセスの再構築 その中には、ガバナンス委員会を設置して外部有識者(弁護士)を委員長として迎えること、部門横断プロジェクトとしての業務改革委員会の設置などの組織改革をはじめとする多岐にわたった再発防止策が説明されている。 筆者が特に注目するのは、同リリース最終ページに掲載された〔コーポレート・ガバナンス体制の概要〕である。 図の一番下には、「内部統制部」から名称変更され、機能の強化も図られた「内部監査部」が、経営陣から完全に独立した形で、業務執行機関の外側に示されているところである。その連携先は、会計監査人、監査役会及びコンプライアンス推進部であり、監査役会、取締役会及びガバナンス委員会が報告先として矢印で示されている。 内部監査部門の組織における位置づけについては、代表取締役役社長又は取締役会の直轄組織とするあり方が多かったところ、監査等委員会設置会社への移行を機に、内部監査部門を執行機関から分離して、監査等委員会の直轄にする動きも見られているだけに、こうした組織変更が不正の防止・早期発見にどの程度資するのか、注目したい。 【調査報告書の特徴】 本文99ページの後に別紙が1から11まで附された大部の調査報告書、その概要についてのリリースも11ページという紙数に及んでいる本件調査において、第三者委員会が繰り返し指摘し続けたのは、高田工業所における「適正な財務報告に関する意識の鈍麻・欠如」であった。 1 日本取引所プリンシプルへの準拠と日弁連ガイドラインへの一部不準拠(報告書p.8) これまでの第三者委員会報告書にはつきもののように記されていた、日本弁護士連合会が策定した「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」に準拠しているという文言に代わって、本報告書では、「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」には準拠しているが、「第三者委員会ガイドライン」の一部には準拠していないという記述がある。 この点について報告書では、プリンシプルにおいて示された①不祥事の根本的な原因の解明及び②独立性・中立性・専門性の確保等の原則を充足するよう、調査を実施するため、高田工業所との間で、以下の項目について、合意したことを明示している。 ① 本調査の遂行方法、調査スケジュール及び本調査のために必要な弁護士、公認会計士等のスタッフの選定・人数の各々の決定につき、本委員会が独立性を有すること ② 本調査報告書の起案権が本委員会に専属し、高田工業所が変更・修正を行うことができないこと ③ 高田工業所が本調査に全面的に協力すること 等 一方、「第三者委員会ガイドライン」に対しては、その指針のうち、「調査報告書の事前非開示」には準拠していないとし、その理由として、「適切かつ適時の財務諸表の修正がなされない場合の高田工業所が被る不利益の大きさに鑑み」て、調査結果を適時に開示することにより、高田工業所が調査の経過に応じて適切かつ適時の対応を図ることができるようにするためであり、また、事実関係の誤りがないかを確認するなどの目的で、正式な提出前にその内容を高田工業所に対して開示したと、説明している。 2 税務調査における指摘事項への対応(報告書p.76) 報告書を読んで驚いたことの一つに、国税局による税務調査における指摘事項に対して、具体的な是正措置が採られないまま、今回の第三者委員会による調査に至ってしまったという事実がある。 例えば、2008年3月に終了した税務調査では、完工高の繰延計上が発覚し、「入金した工事金を複数の他工事で処理をして隠蔽を重ねるなど、悪質である」と指摘されており、おそらくは重加算税の賦課決定処分が課されたものと思料するが、その後、事業統括部が策定した「完工高(出来高)の適正計上策」は、実施されることはなかったようである。 第三者委員会は、その原因の一つとして、財務部の「完工高計上の適切性を確保する責任は場所にある」という考えを挙げたあと、以下のように評している。 税務調査における指摘事項を契機に、内部統制システムを整備して、その後の不正を未然に防ぐ、または早期発見につなげるという考えが、高田工業所にはまったく見られなかったことが、結果的に大きな風評被害を招くことになったことは、税務に携わる人間の一人として大いに残念である。 3 特別損失の計上 高田工業所の過年度損益の修正は、完成工事高・完成工事原価の操作については、基本的には「期ずれ」の問題に落ち着くため、「税金等調整前当期純損益には影響はない見込み」であり、「純資産は毀損しない見込み」であると発表している(7月8日付けリリース)。 ところが、8月15日に公表した「特別損失の計上に関するお知らせ」というリリースにおいて、「第三者委員会による調査費用並びに過年度決算訂正に係る監査費用及び外部委託費用等が発生したことにより、過年度決算訂正関連費用(特別損失)5億8百万円を計上する」ことが発表された。長年にわたる不正を放置してきたツケには違いないが、高田工業所における「適正な財務報告に関する意識の鈍麻・欠如」の代償は、風評被害のみならず、会社業績に大きな影響を与える結果となった。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第129回】 連結会計⑫ 「持分法適用会社におけるのれんの償却」 仰星監査法人 公認会計士 渡邉 徹 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 1-1 X1年3月31日 (1) 土地に係る評価差額の計上(単位:百万円) (※1) (1,200百万円-800百万円)×30%=120 (※2) 120×40%=48 (※3) 貸借差額 (2) 連結修正仕訳 ① のれんの発生 持分法上、仕訳なし。 (S社資本勘定のP社持分額は、資本金150百万円(500百万円×30%)、利益剰余金90百万円(300百万円×30%)、土地に係る評価差額120百万円((1,200百万円-800百万円)×30%)及びこれに対する繰延税金負債48百万円であり、その合計は312百万円となる。これに対して持分法評価額は450百万円であるから、その差額138百万円がのれんとなる。) 1-2 X2年3月31日 (1) 連結修正仕訳 ① 当期純利益の按分(単位:百万円) (※4) 200×30%=60 ② のれんの償却(単位:百万円) (※5) 138÷3年=46 〈会計処理〉 2 X1年3月31日 (1) 土地に係る評価差額の計上(単位:百万円) (※6) (1,200百万円-800百万円)×30%=120 (※7) 120×40%=48 (※8) 貸借差額 (2) 連結修正仕訳 ① 負ののれんの発生(単位:百万円) (S社資本勘定のP社持分額は、資本150百万円(500百万円×30%)、利益剰余金90百万円(300百万円×30%)、土地に係る評価差額120百万円((1,200百万円-800百万円)×30%)及びこれに対する繰延税金負債が48百万円であり、その合計は312百万円となる。これに対して取得原価は300百万円であるから、その差額△12百万円が負ののれんとなる。) 〈会計処理の解説〉 投資会社の投資日における投資とこれに対応する被投資会社の資本との間に差額がある場合には、当該差額はのれん又は負ののれんとし、のれんは投資に含めて処理します。そして、のれんは、原則として、その計上後20年以内に、定額法その他合理的な方法により償却しなければなりません。ただし、その金額に重要性が乏しい場合には、のれんが生じた期の損益として処理することができます(持分法実務指針第9項)。 本事例では、P社のS社株式取得日X1年3月31日におけるS社株式の取得原価450百万円と、これに対応するS社資本勘定のP社持分額312百万円に、138百万円の差額が生じている(1-1(2)①)ので、これをのれんとして償却期間である3年間で償却します(1-2(1)②の仕訳)。 また、負ののれんが生じると見込まれる場合には、次の処理を行います。 (1) 取得企業は、すべての識別可能資産及び負債が把握されているか、また、それらに対する取得原価の配分が適切に行われているかどうかを見直す。 (2) (1)の見直しを行っても、なお取得原価が受け入れた資産及び負債に配分された純額を下回り、負ののれんが生じる場合には、当該負ののれんが生じた事業年度の利益として処理する。 ただし、負ののれんが生じると見込まれた時における取得原価が受け入れた資産及び引き受けた負債に配分された純額を下回る額に重要性が乏しい場合には、上記の処理を行わずに、当該下回る額を当期の利益として処理することができます(企業結合会計基準第33項)。 なお、負ののれん発生益は、持分法適用会社の投資に係る損益として考えられるため「持分法による投資損益」として一括して営業外損益の区分に計上します(持分法会計基準第27項)。 本事例では、P社のS社株式取得日X1年3月31日におけるS社株式の取得原価300百万円と、これに対応するS社資本勘定のP社持分額312百万円に、△12百万円の差額が生じているので、これをX1年3月期の利益として処理します(2(2)①の仕訳)。 * * * 次回は、持分法適用会社における包括利益の取り込みについて解説します。 (了)
家族信託による 新しい相続・資産承継対策 【第2回】 「家族信託普及の潮流」 弁護士 荒木 俊和 1 はじめに 家族信託は近時になって相続・資産承継対策の手法として広まりを見せつつあるものであるが、本稿ではなぜ近時まで利用されてこなかったのか、どのようなきっかけで広まってきたのかについて解説する。 まず前提としての信託関係の法制度の変遷について触れた上で、普及の拡大を進めた団体の活動等について述べる。 2 信託法制の変遷 家族信託は、基本的に家族内で信託契約を締結し、資産の管理・処分を子、孫又は配偶者等に対して委ねるということが眼目となっている。 このため、家族信託を実行するためには信託法に則った信託契約を締結することが前提となる。 また、一方で家族間での信託といっても必ずしも信託業法による規制の対象外というものではないため、信託業法に違反しないよう運用することも不可欠である。 これらの観点から、日本における信託法制の変遷について概観する。 まず、日本においては明治時代から無尽会社や貸金業者において信託類似の業務が取り扱われてきたが、現在の信託銀行や信託会社のように健全性の担保された事業体ではなく、不健全な経営状態の会社も多く見受けられる状況があった。 こうした中で、信託制度を整備して健全な信託業務が行われることが求められ、信託法制の整備が急務とされた。これにより大正11年に信託法と信託業法が制定され、不健全な信託会社が淘汰され、昭和に入るころまでには少数の信託会社に整理されていった。 日本において信託法は制定当初から商事信託の場面で利用されることが大半であり、民事信託の活用はわずかであった。 その後、日中戦争、第二次世界大戦の影響によって信託会社の整理統合が進められるとともに、昭和18年には銀行にも信託業務を認める「普通銀行等ノ貯蓄業務又ハ信託業務ノ兼営ニ関スル法律」(兼営法)が制定されたことにより、銀行による信託会社の吸収合併が進んだ。 これにより戦後はごく少数の信託銀行が信託業務の趨勢を握ることとなり、やはり信託法が信託銀行による商事信託のための法律としての色を持ち続けることとなった。 平成に入って、金融制度が多様化、グローバル化するのに際し、いわゆる日本版金融ビッグバンが叫ばれるようになったことで、信託法制についても抜本的な見直しが迫られることとなった。 そのような中で信託法が商事信託のみならず、少子高齢化の進展に伴い、社会的需要が一層高まることが予想される民事信託分野における活用も見込むべきとの指針が示され、平成18年改正(平成19年施行)により誕生した新信託法では、「目的信託」、「自己信託」及び「限定責任信託」等の制度が新設されるとともに、現代語化され、条文数も大きく増やされたことにより、信託銀行又は信託会社以外の者による信託制度の利用が図られることとなり、一般市民による家族信託の活用も見込まれることとなった。 3 家族信託普及への動き 以上のように、家族信託の活用に必要な法制度が創設されたものの、それまでに個人間で信託制度が活用されることが稀であったこともあり、すぐには家族信託の活用は進まなかった。 そのような中で、以下に挙げる団体は、家族信託の積極的な活用を進める動きを見せている。 (1) 日本司法書士会連合会 信託法改正後、日本司法書士会連合会はいち早く家族信託の活用に着目し、普及活動に取り組み始めた。 その一環として平成23年9月に一般社団法人民事信託推進センターを設立し、家族信託に関するセミナーや司法書士を対象とした研修を開催する等の普及活動を行っている。 また、一方で家族信託案件を取り扱える人材育成のため、平成26年4月には一般社団法人民事信託士協会を設立するとともに、平成27年からは民事信託士という資格制度を創設して動きを進めている。 (2) 一般社団法人家族信託普及協会 平成25年10月には、不動産コンサルタント、相続コンサルタント、司法書士らが母体となった一般社団法人家族信託普及協会が設立された。 同協会においては、セミナー活動による家族信託の普及を図るとともに、家族信託コーディネーター及び家族信託専門士という資格制度を設け、専門士業及び家族信託の活用を進めるコンサルタントの養成を図っている。 また、全国にいる専門士業との連携体制の構築を図り、全国的な専門家に対する需要への対応を行っている。 (3) 一般社団法人民事信託活用支援機構 平成27年12月には、信託会社を母体として、家族信託に関する専門職の養成と専門職に対する情報提供を目的として一般社団法人民事信託活用支援機構が設立された。 同機構では専門職育成のためのセミナー及びワークショップを開催するとともに、専門職に対する情報提供を進めている。 (4) 一部の金融機関 それらの他、一部の金融機関が家族信託の普及について取り組みを始めている。 筆者が知る限りでは、城南信用金庫の「高齢者向け総合サポートサービス」、千葉銀行の「ちばぎんファミリートラストサポートサービス」、広島銀行の「家族つなぐ信託」等の家族信託をサポートするサービスが開始されている。 なお、多くの金融機関が「遺言信託」のサービス提供を行っているが、これは家族信託とは全く別個のものであり、むしろ旧来型の遺言書の作成と遺言執行者への就任をパッケージ化したものに過ぎないことを念のため付言する。 4 実際の普及状況 このように複数の家族信託に関する団体が設立され、専門書籍の数もこの1、2年の間、急激に増加している。 しかしながら、弁護士、司法書士又は税理士等の専門士業の中でも家族信託を取り扱える者は少数派である現状があり、かつその案件処理能力にも大きな格差があるように思われる。そのような意味で、家族信託が業務を遂行すべき専門士業の中でも十分な普及に至っているものとはいえないであろう。 一方で、実際に相続・資産承継対策においてどの程度家族信託が活用されているかについては、信頼できる統計データ等が存在しないため明確ではないが、一般市民を招いたセミナーで家族信託を知っている割合を質問してもまず過半数に至らないことが通常であり、その中で活用経験のある参加者がいるということはめったにないことであろう。 そのような意味で、実際の普及はまだこれからといった段階である。 私見では、公共機関や金融機関が家族信託へのサポート体制を構築し、充実させることが、家族信託の普及にとって望ましいことであると考えている。 (了)
税理士業務に必要な 『農地』の知識 【第4回】 「都市計画法」 税理士 島田 晃一 今回は、都市計画法について説明していく。都市計画法に関しては前回、前々回に説明した農地法のように直接農地に関わるものではないが、農地に関連する知識として理解しておきたい。 1 都市計画法と都市計画区域 都市計画法とは、都市計画区域を定め、その区域内において計画的な町づくりを行うための法律である。 都市計画法は原則として都市計画区域内に限り適用され、原則として都道府県知事が指定する。ただし、人口1万人未満の町村、人口の半数以上が農業、漁業等に従事する町村については基本的に指定対象外になる。 なお、平成25年度末において、都市計画区域に指定された面積は国土全体の27%であるが、人口の95%は都市計画区域に居住している。 2 市街化区域と市街化調整区域 市街化区域とは市街化を促進すべき地域をいい、この区域内においては積極的に道路、公園、下水道などの都市施設を整備する。市街化調整区域は逆に市街化を抑制すべき地域である。ただし、市街化が全面的に禁止されるのではなく、この区域内においても必要と認められれば都市施設の整備等が行われる。 市街化調整区域においては、原則として新たに住宅を建築することはできない。ただし、市街化区域に隣接又は近接し、市街化区域と一体的な日常生活圏を構成していると認められ、かつ、市街化区域内を含め概ね50以上の建物が建っている地域については建築が許可される。なお、農林業・漁業用の建築物、及び、農林業・漁業従事者の住居については許可不要である。 3 非線引区域 非線引区域とは、都市計画区域のうち市街化区域と市街化調整区域いずれにも区分(線引き)されていない区域であり、平成12年以前は未線引区域と呼ばれていた。 平成12年以前は、都市計画区域を有するすべての市町村が、都市計画区域を市街化区域と市街化調整区域いずれかに区分しなければならないとされており、まだ区分されていない区域もいずれ区分されるという意味で「未線引」となっていたのである。 しかし、平成12年の都市計画法の改正において三大都市圏の特定市のみ線引きが義務づけられ、その他の都市計画区域においては各都道府県の選択に委ねられたことにより、必ずしも線引きをしなければならなくなったため「非線引」と呼称が改められた。 逆に言えば、三大都市圏の特定市の都市計画区域は、必ず市街化区域と市街化調整区域に区分されていることになる。 三大都市圏の特定市は、東京都特別区、首都圏、中央圏、近畿圏にある政令指定都市及び既成市街地・近郊整備地帯に指定されている地域に所在する市をいい、平成27年1月1日において首都圏113市(東京都特別区を1市とみなした場合)、中部圏38市、近畿圏63市が該当する。なお、東京都特別区とは東京23区のうち目黒区、大田区、中野区、世田谷区、杉並区、北区、板橋区、練馬区、足立区、葛飾区、江戸川区の11区をいう。 4 用途地域 都市計画法においては、都市計画区域を市街化区域、市街化調整区域、非線引区域に区分した後、地域地区(用途地域)が定められる。 用途地域は市街化区域において必ず定められ(非線引区域においても定めることができる)、すべての用途地域において容積率が、また、商業地域以外の用途地域において建蔽率が定められる。さらに、補助的地域地区として「高度利用地域」、「防火地域又は準防火地域」及び「生産緑地地区」等が定められる場合がある。 用途地域は現在12種類あり、それぞれ用途や建築物の高さ等の制限がある。 例えば、第1種低層住居専用地域には一般住宅の他、小規模な兼用住宅(店舗・事務所)、学校等が建築可能である。ただし、建物の高さや容積率の制限が厳しいため、この地域内においては主として戸建て住宅や3階以下の共同住宅が主となる。 第1種中高層住居専用地域は第1種低層住居専用地域より容積率や高さ制限が緩和されるとともに、建築可能な建物の用途が広げられる。 評価対象土地がどの用途地域にあるかは、各市町村の都市計画課に備えつけてある都市計画図により調査する。また、自治体によっては、ホームページで都市計画図を公開しているところもある。 5 都市計画道路 都市計画道路とは、都市交通における重要な都市施設として都市計画法に基づいて都市計画決定された道路である。都市計画道路が評価対象地にかかっているかどうかは、用途地域と同様に都市計画図によって調査する。 なお、都市計画道路予定地上に建物を建築する場合、都市計画法第53条に基づき都道府県知事等の許可を受ける必要がある。ただし、階数が3階以下のもの、地下階がないもの、主要構造部が鉄骨造、鉄筋コンクリート造等堅固なもの以外のものについては原則として許可される。ただし、建築許可を受けられるのは都市計画道路の「計画決定」の段階であり、「事業決定」がされ実際に事業が動き出しているときは許可されない。 このように都市計画道路予定地上の土地には建築制限があるため、財産評価基本通達(24-7)においては一定の評価減が認められている。 6 開発許可 都市計画法第29条では、一定規模以上の土地に開発行為を行う場合、都道府県知事等の許可を受けなければならないとされている。 開発行為とは建築物・一定の工作物の建設を目的とした「土地の区画形質の変更」をいう。具体的には道路、水路等公共施設の新設、変更、廃止を行うことによる土地の区画変更、切土、盛土による土地の形質変更をいう。 開発許可を要する各区域毎の面積は次のとおりである。 (注) 条例により300㎡まで引下げ可能。 開発許可の可否基準には、①技術的基準と②立地基準がある。 ①技術的基準はすべての開発行為に適用される。具体的には、予定建築物が用途地域等に定めるものに適合していること、接続先の道路、開発区域内の道路が基準に適合していること、給排水設備が基準に適合していること、工事施行者に必要な能力があることなどを満たしている必要がある。 ②立地基準は市街化調整区域の開発行為に適用され、公益上必要な建物を建築するなど開発後の建物に関する事業内容に応じて許可の可否が決められる。 広大地評価の適用には、評価対象地が開発許可の対象であることが条件になるため、上表の面積については常に頭に入れておきたい。 * * * 以上、都市計画法について税務に関係あると思われるところを中心に簡単に解説した。次回は、今回解説した都市計画法の補助的地域地区のうち、生産緑地について取り上げる予定である。 (了)