顧客との面談が“ちょっと”苦手な 税理士のための面談術 【第6回】 「相手の心を開かせる『傾聴』にトライしましょう」 有限会社コーディアル 代表取締役 坪田 まり子 皆さん、こんにちは。坪田まり子です。 前回は「雑談」の有用性についてお話しましたが、いかがでしたでしょうか。 私の連載を有効にご活用いただくためには、「読む」だけで納得するのではなく、「すぐに試してみる」ことにあると思います。雑談が上手にできるようになるかどうかは、まずは勇気、次はその場に慣れていくことが大切だからです。 試した結果、うまくいった場合には自分を誇らしく嬉しく感じるものですが、それ以上に、相手も嬉しくなるはずです。「この先生に逢えてよかった!」と思ってもらえることこそ、ビジネスチャンス拡大につながります。 ぜひ私の連載内容は、頭の中の知識にとどめるだけでなく、実際にご活用いただくことをお勧めいたします! ◆ ◆ ◆ さあ今回は、その雑談時や本論に入った際の「聞き方」についてお話します。 「話す」という行為以上に、「聞く」という行為は大切だと考えています。なぜならば、皆さんが切り出す話題がどんなに良い内容でも、それが上手に展開されるかどうか(相手が十分に情報を開示してくれるかどうか)は、相手がちゃんと話してくれなければ意味がないからです。 そしてそれは、皆さんの「聞き方」如何にかかっています。相手の要望をしっかりと全部聞き出すためには、傾聴の良し悪しが大きな違いを生み出します。 皆さんは、「傾聴」は得意でしょうか? 話すことも苦手だし、前回の雑談も。。。とおっしゃる方もいらっしゃることでしょう。 大丈夫です! 自分から話をすることや雑談に自信がない方こそ、傾聴を得意にすることで、上手に会話が弾むようになるはずだからです。 安心して、今回も先を読み進めてくださいませ。 ◆ ◆ ◆ まずは傾聴の意義からお話します。傾聴の姿勢を示すことが、相手とのより良いコミュニケーションの始まりです。皆さんが相手のニーズをしっかりつかんでこそ、的確なアドバイスができるはずです。 相手は税務のプロではありません。プロではないからこそ、税理士である皆さんに依頼をしようとしているのです。ということは、的確なアドバイスをするためには、まずは相手の心を開かせ、上手に相手の話を全部聞き出すことが大切です。 漢字で書き表すと、「聞く」ではなく、「聴く」ことが、相手と良好な関係づくりに必要です。 「聞く」とは、端的に言えば、相手の話を耳だけで聞いているような状態です。国会中継をみると、寝ている??と思えるような国会議員たちがいますが、あれは好感を与える聞き方ではありません。単に相手の話を耳で捉えるだけでは不充分で、何よりも感じが悪いからです。 それに対し「聴く」は、耳だけでなく、目(視線)と心までを相手に傾けて、一生懸命に相手の話を理解しようという姿勢が見受けられます。士業者である皆さんの場合には、相手があってこその実務ですから、相談者にしっかりとご要望を話してもらうためにも、この「聴く」という傾聴の仕方がポイントになるのです。 相手の真意を言葉尻だけでなく、相手の表情や口調から捉えてみてください。相手の言葉を一言も聞き洩らさないためには、必死にメモをとることも重要ですが、相手の表情を見ないままメモを完全にとったとしても、それこそ国会中継時の速記者と同じで、ただ、書き取ったということにしかなりません。 相談者はなぜ、税理士に業務を依頼するのでしょうか。 独立して初めてその必要性があることを知ったからという依頼者もいれば、以前お願いしていた税理士が良くないために変えたいという方もいるはずです。後者のような依頼者は、これまでに依頼していた税理士に大いなる不満を持っていますから、次にお願いする税理士に対しては、無意識に厳しいチェックをするのではないでしょうか。 このチェックポイントは、やはり、この連載でずっと一貫してお話してきた皆さんの「人となり」、「存在感」の良し悪しに、大いに関係があります。実務ができるのは当たり前であり、そんな税理士の誰を選ぶかは、お客様側が自由に決めることだからです。 税理士という専門家だからこそ、「話す=アドバイスが的確である」ことは当たり前。だから差別化を図るのは前回お話した雑談や、今回の傾聴する姿勢にあるのです。「なんて誠意のない税理士なんだ。。。」とがっかりされないためにも、税理士や士業者の皆さんこそ、傾聴を本気で得意にする必要性があると考えています。 話がそれてしまいましたが、相手の言葉尻だけでなく真意をしっかり受けとめるためには、相手の表情と口調から判断できるはずです。相談者が特に皆さんに伝えたい、分かってほしいと思うところでは、おそらく表情や口調が多少変わるはずだからです。 言葉そのものも何度も同じ言葉が出てくるかもしれません。相手が一息ついたタイミングで、皆さんの方からそのキーワードを使って質問したり、相手の協調する言葉をオウム返しのように言葉にしてみましょう。 まさしく相手の伝えたいキーワードや相手の感情をしっかりと理解した士業者に対しては、話をする側である相談者こそ、直感で この先生はしっかりと自分の話を聞いてくれている。言葉だけなく、感情も理解してくれようとしている。 と感じるはずです。 だからこそ、そんな税理士に対しては、 隠し立てするのではなく、素直に情報を開示しよう。 と心を開いてくれるはずです。 相手にたくさん情報を開示してもらうためには、相手に「話したい!」という気持ちにさせなければなりません。そうでなければ、『訊く』ことになってしまいます。この「訊く」は、尋問時に使う聞き方で、良好な関係を築かなければならない面談シーンでは一番ふさわしくないものです。 ポイントは、相づちを上手に打つこと。 例えば、道路の信号が壊れていると考えてください。交通量の多い場所では、自分の目だけで左右を見ても、怖くて道路を横断することがなかなかできないかもしれません。だからこそ信号があるのです。赤なら止まれ、黄色ならちょっと待て、そして青になるから、安心して道路を横断することができるのです。 会話も同じで、だんまり・むっつりして相談者の話を聞いている実務家の姿は、「壊れた信号機」と同じ状態です。 「まだ話し続けてもいいの? それともこの話はやめた方がいいの?」と相手に感じさせてしまうようでは、相手の心を開き上手に自己開示をさせることの真逆の効果しか生まれません。 相づちを打つことにより、話し手には、税理士である皆さんが自分の話をちゃんと聞いてくれていることが分かり、安心して話を続けることができます。 傾聴姿勢の重要性は、こんなふうに相手の心理状態に大きく絡んでくるものなのです。 ◆ ◆ ◆ 効果的な相づちのポイントをまとめてみます。 大切なことですから一つひとつ解説しましょう。 1つ目の「適切なタイミング」とは、相手の話の区切りということです。文章でいえば、句読点のところで相づちを打つということ。相手がどんなに早口でも、しっかり聞き取って、話の切れ間や区切りで相づちを打ちましょう。そうでないと、相手は話がしづらくなるからです。 2つ目の「相手に分かるようにはっきりと相づちを打つ」とは、青信号の役割を果たすためにも、相づちを打っていることが相手に分からなければ意味がないということです。 そのためにも、首を縦にはっきりと振ることをお勧めします。横に振るとそれは“いやいや”という否定を表してしまうからです。慣れないうちは、首が痛く感じるくらい(苦笑)、ぶんぶん首を縦に大きく振ってみましょう。 3つ目の、「相手の話の内容に合わせて表情豊かに聞くこと」とは、表情こそ互いに見えるものであり、その結果、何かを感じ合うことにつながる場面だからです。 例えば、相手が事業に失敗したというような話をしたとき、笑って聞いていたら相手はムッとすることでしょう。真顔で多少、眉毛をへの字にして、「それは大変でしたね」という感情が分かるような表情が必要です。 そして、「でも、おかげさまで持ち直しまして・・・」という場面に切り替わったら、表情や眉毛もへの字状態ではなく、ホッとしたような温かい笑顔に、瞬時に変わることが大切です。 まるで小学生の頃、理科の実験で活用したリトマス紙のように、聞き手の表情が話し手にとって表情豊かで分かりやすいということが、傾聴のためには一番大切なことと言っても過言ではありません。 士業者の皆さんのお仕事では、ときにポーカーフェイスで依頼者のために相手方と交渉をすることもあるかもしれません。そんなときは相手方に真意を見抜かれないよう表情を隠すことも必要ですが、この連載の趣旨は、『相手と良好な関係を築くこと』に重きを置いています。この点、どうぞ誤解をなさいませんように。 最後の「ときどき声を発する」とは、相づちの際に、適切な声を出すということです。首を縦に振る相づちは、相手にはっきりと見えますが、表情に合わせた適切な声音で「えー」「はあ」「それは大変でしたねえ」というように、効果的なタイミンングで声を出すことも大切です。 相手が話し、皆さんが聴くだけの場面であっても、効果的な相づちのための声出しがあれば、それは会話として適切に成立していることをも意味しています。 声を出すときには、相づち例として様々なバリエーションがあります。 下記をご覧くださいませ。 まずは声を出して読んでみてくださいますか? 次は、鏡を見ながら、感情を表情と声音にのせて、口に出してみましょう。 無表情と表情豊かに声を出すことの両方を、鏡を見ながらお客様目線で試してみてください。 その重要性に、きっと気づいていただけるはずです。 ◆ ◆ ◆ 次は、一通り相手の話を聞き終えたあとにやるべきことについてお話します。それは適宜、相手の話を要約して確認することが必要です。税理士としての実務に絡む数字や業績面を的確に復唱することはもちろんのこと、相手の感情も適宜、言葉にして確認してあげるようにします。 例えば その点はさぞかし大変だっただろうと拝察します。 よく乗り越えられましたね。素晴らしいです。 など。 相手にはそれだけで、「この税理士にお話してよかった!」と、心の中で大きな安堵感と満足感が生まれるはずです。 私は思います。相手は税務の素人で、皆さんは税務のプロ。どんなに相手のために良かれと思うアドバイスも、相手がそれを良しとしなければ、依頼にはつながらないのではないかと。 何度もお話してきましたが、仕事ができることは当たり前のことなのです。そのたくさんいらっしゃる税理士の中から、どなたに依頼するかは、紹介のあるなしにかかわらず、相談者の自由な感情にかかってきます。 だからこそ、相談に対し、プロとして答えてやっているという姿勢が一瞬見えただけで、相手は心を閉ざしてしまう。そこまで意識をしていただけないでしょうか。 それが相手に満足感を与えることにつながる、皆さんのプロ意識だと私は思いますが、言いすぎでしょうか? ◆ ◆ ◆ 最後にまとめをしておきましょう。 ▷税理士と依頼者の関係であっても、良好な関係を築くためのポイントは、雑談や一般の面談と同じです。相手の感情を逆なですることなく、上手に自己開示をしてもらうためにも、傾聴姿勢が大切です。 ▷上手な相づちが信号=シグナルの役割を果たし、話し手である相手が安心して話ができる環境をつくることができます。 そのためにも、傾聴時、決してやってはいけないことは、無表情で、足を組み、腕を組んで相手の話を聞くような皆さんのお姿です。お客様の立場で想像してみてください。そんな姿は、絶対に相手に見せたくない、ゾッとするような雰囲気ですよね。 傾聴時は、少し前傾姿勢で、背筋をまっすぐに伸ばし、相手の感情に添った柔らかい表情で、首を縦に上手なタイミングで振りながら、丁寧に聞くこと。 こんなイメージトレーニングをぜひ一度はなさってみてくださいませ。 うっとりするほど、丁寧で且つ誠実、そして凛とした税理士の姿を目指しましょう! * * * 次回は、「論理的な話し方・伝え方」についてお話します。 早いものでこの連載も、残り2回となってしまいました。 皆さんのお役に立てるよう引き続き頑張ります! どうぞ次回もお楽しみに。 (続く)
《速報解説》 経団連より「のれんの会計処理に関するアンケート結果の整理」が公表 ~回答企業の多くが償却処理の再導入を支持~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2017(平成29)年2月20日、(一社)日本経済団体連合会 金融・資本市場委員会 企業会計部会は、「のれんの会計処理に関するアンケート結果の整理」(以下「アンケート結果」)を公表した。 経団連は、これまでIFRS・米国基準でも、のれんの償却を復活させるべきと主張してきたが、今回、経団連の会員企業の意見を確認するために、のれんの会計処理(償却処理が必要かどうか)等についてアンケートを実施し、その結果を公表するものである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 アンケートの送付先と回答 下記のように、回答企業のほとんどが、のれんに関する償却処理の再導入を支持している。 (出所) アンケート結果p8より 2 アンケートの内容 次の事項についてアンケートを行っている。 のれんの償却を支持する理由には、①M&A後の適切な業績把握を可能にする、②企業経営を安定させ、企業経営の適切な規律付けを行うことができる、③のれんの経年での減価を財務諸表に適切に反映することができ、自己創設のれんの計上を回避できることなどがあげられている。 また、のれんの「減損のみ」を支持する理由には、①のれんの消費パターンの見積りが難しい、②のれんの中には、減価しないものも含まれていると考えられ、のれんのすべてを償却するのは理論的ではないことなどがあげられている。 日本基準とIFRSの相違点として、IFRSにおけるのれんの非償却があげられることが多い。 この点について、アンケート結果では、多くの企業がIFRS適用時に、のれんの非償却よる影響を議論したが、IFRS適用による全体的なメリット(国際的な比較可能性の確保等)を踏まえ、IFRS適用の判断を行ったと述べられている(アンケート結果p14)。 (了)
2017年2月16日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.206を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第40回】 「業績連動給与の損金不算入」 -改正法案における規定の確認- 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 平成29年度税制改正に関する「所得税法等の一部を改正する等の法律案」が、2月3日、閣議決定の上、国会に提出された。 改正の概要については、すでに、昨年12月の与党税制改正大綱において明らかにされているところであるが、それが、実際の条文にどのように落とし込まれるのかが確認できるようになったわけである。 法人税法の改正の主要な項目としては、役員給与の損金不算入制度と組織再編税制の2つが挙げられるが、役員給与の損金不算入制度の見直しは、平成28年度税制改正に続いての改正となる。 平成28年度税制改正では、法人税法上、損金算入が認められるいわゆる「利益連動給与」について見直しが行われた。その算定方法は、従来「利益に関する指標」を基礎にすることとされていたところ、「利益の状況を示す指標」を基礎とすることと改められ(法法34①三イ)、一定の「有価証券報告書に記載されるべき事項による調整を加えた指標」(法令69⑧)でもよいことが明らかになった。 今回の改正では、役員給与のうち、これまで利益連動給与として損金算入要件が定められていたものの範囲が拡大され、「業績連動給与」となることを踏まえ、その規定を整理したい。 1 損金不算入制度の対象の拡大 今回の改正では、従来、損金不算入制度(法法34①)の適用対象から除外されていた退職給与及び新株予約権にも、その適用が及ぶこととなっている。 具体的には、従来、 とされていたところ、改正法案では、 と改められており、新株予約権と業績連動給与に該当する退職給与とが、損金不算入制度の対象に追加されている。 ここで、「業績連動給与」という新たなカテゴリーが創設されていることがわかる。 2 業績連動給与とは では、「業績連動給与」とは何か。この点は、同条第5項(現行の第5項は第6項に移動)に定義規定が追加されている。 同項によれば、大別すると次の2つのカテゴリーの給与が「業績連動給与」に該当する。 ① 利益の状況を示す指標、株式の市場価格の状況を示す指標その他の同項の内国法人又は当該内国法人との間に支配関係がある法人の業績を示す指標を基礎として ・算定される額の金銭による給与 ・算定される数の株式による給与 ・算定される数の新株予約権による給与 ②・特定譲渡制限付株式若しくは承継譲渡制限付株式(法法54①)による給与 ・特定新株予約権若しくは承継新株予約権(法法54の2①)による給与 で、無償で取得され、又は消滅する株式又は新株予約権の数が役務の提供期間以外の事由により変動するもの イメージとして敢えて言えば、①は一定の業績が達成された時点で与えられるものであり、②は一定の業績が達成されない場合に没収されるものである。 3 損金算入される業績連動給与 従来、いわゆる利益連動給与として損金算入の対象となるものは、「利益の状況を示す指標を基礎とした」もののみであったが、改正法案では、上記の「業績連動給与」のうち一定の要件を満たすものが、損金算入の対象となることとされている(法法34①三柱書)。 (1) 指標の追加 具体的には、「株式の市場価格の状況を示す指標」と「売上高の状況を示す指標」が追加されている(法法34①三イ)。前者については2で示した第5項にも明示されている指標であり、後者は第5項では「その他の・・・指標」にあたるものと考えられる。 ただし、前者(株式の市場価格の状況を示す指標)については、「当該内国法人又は当該内国法人との間に完全支配関係がある法人の株式の市場価格又はその平均値その他の株式の市場価格に関する指標として政令で定めるものに限る。」との限定が付されており、後者(売上高の状況を示す指標)については、単独で使用することはできず、「利益の状況を示す指標又は株式の市場価格の状況を示す指標と同時に用いられるもの」であることが求められている。 また、従来の「利益の状況を示す指標」は「当該事業年度」のものに限られていたが、「職務執行期間開始日以後に終了する事業年度」のものも対象とされ、「株式の市場価格の状況を示す指標」については、「職務執行期間開始日の属する事業年度開始の日以後の所定の期間若しくは職務執行期間開始日以後の所定の日」のもの、「売上高の状況を示す指標」については、「職務執行期間開始日以後に終了する事業年度」のものがそれぞれ対象とされている。 (2) 金銭以外の給与の追加 従来、 (法法34①三イ)とされ、金銭による給与であることが前提とされていたところ、改正法案では、 とされ、「適格株式による給与」と「適格新株予約権による給与」とが追加されている。 しかも、株式又は新株予約権による給与については、「確定した数を・・・限度としているもの」であることが必要である(法法34①三イ(1))。 なお、適格株式は「市場価格のある株式又は市場価格のある株式と交換される株式」であり、適格新株予約権は「その行使により市場価格のある株式が交付される新株予約権」であり、いずれも「当該内国法人又は関係法人(当該内国法人との間に支配関係がある法人として政令で定める法人(法法34⑦))が発行したものに限」られている(法法34①二ロ・ハ)。 上記第5項の「業績連動給与」の定義との対比で言えば、損金算入される「業績連動給与」の範囲は絞り込まれており、第二のカテゴリーにおいて、新株予約権のみとなっている点に注意が必要である(つまり、業績連動給与の特定譲渡制限付株式と承継譲渡制限付株式は損金算入の余地がない)(法法34①三イ)。 (3) 100%子会社の支給する給与の追加 従来、 ものに限られていたところ、改正法案では、 (法法34①三柱書)ものとされており、100%子会社であってもその親会社が同族会社でなければ、その業績連動給与も損金算入の対象となる。 (了)
〔平成29年3月期〕 決算・申告にあたっての税務上の留意点 【第4回】 (最終回) 「「雇用促進税制の縮減・延長」 「役員給与の損金算入要件の緩和」 「交際費等の損金不算入の特例の延長」」 公認会計士・税理士 新名 貴則 平成28年度税制改正における改正事項を中心として、平成29年3月期の決算・申告においては、いくつか留意すべき点がある。【第3回】は、「減価償却の見直し」、「少額減価償却資産の特例の延長」、「生産性向上設備投資促進税制の縮減・終了」及び「環境関連投資促進税制の見直しと延長」について解説した。 【第4回】は、「雇用促進税制の縮減・延長」、「役員給与の損金算入要件の緩和」及び「交際費等の損金不算入の特例の延長」について解説する。 1 雇用促進税制の縮減・延長 雇用促進税制とは、青色申告書を提出している法人が、雇用者の数を一定以上増加させた場合に、その増加数に40万円を乗じた金額の税額控除を受けられる制度である。平成28年度税制改正において、この雇用促進税制の見直しが行われている。 具体的な見直しのポイントは次の通りである。 税額控除の対象となる雇用者増加数の範囲を限定 選択適用であった所得拡大促進税制との併用を認める 適用期限を2年(平成30年3月31日以前に開始する事業年度まで)延長 したがって、平成29年3月期決算申告においても、要件を満たす法人には適用がある。 【雇用促進税制の見直し】 (※1) 当期末の雇用者の数から前期末の雇用者(当期末において高年齢雇用者に該当する者を除く)の数を引いた数 (※2) 「同意雇用開発促進地域」として指定された地域内にある事業所における、「無期雇用」かつ「フルタイム雇用」の雇用者の増加数 2 役員給与の損金算入要件の緩和 役員給与が損金に算入されるためには、次の3つのいずれかに該当する必要がある。 【損金算入される役員給与】 ① リストリクテッド・ストック 平成28年度税制改正により、役員の役務提供の対価として一定の要件を満たす譲渡制限付株式(リストリクテッド・ストック)を交付する場合は、事前確定の届出が不要とされた。これは、平成28年4月1日以後に交付の決議がなされる譲渡制限付株式について適用される。 リストリクテッド・ストックとは、次のような株式報酬をいう。 一定期間の譲渡制限が付された「現物株式」を報酬として付与 (ストック・オプションのような新株予約権ではない) 譲渡制限期間があるため、中長期の業績向上インセンティブが継続 原則として、譲渡制限が解除された事業年度の損金に算入される。株式を付与した事業年度の損金ではないので注意が必要である。 【リストリクテッド・ストックのイメージ】 ② 利益連動給与の指標の明確化 利益連動給与の算定に用いる指標に、ROE(自己資本利益率)、ROA(総資産利益率)その他の利益に関する一定の指標が含まれることが明確化された。 3 交際費等の損金不算入の特例の延長 平成26年度税制改正後の、税務上の交際費等の課税関係は次の通りである。 【交際費等の課税関係】 (※1) 中小法人だけでなく大法人にも適用 (※2) 接待飲食費の特例との選択適用可能 平成28年3月31日までに開始する事業年度まで、この課税関係が適用されることになっていたが、平成28年度税制改正により2年(平成30年3月31日までに開始する事業年度まで)延長されている。したがって、平成29年3月期決算申告においても、交際費等の課税関係は平成28年3月期と変更がない。 (連載了)
相続税の実務問答 【第8回】 「銀行預金の分割」 税理士 梶野 研二 [答] 相続税法には、配偶者が相続等により取得する財産については、その価額が一定の金額に達するまでの部分について相続税額が軽減される措置が設けられています。この軽減措置の対象となる財産は、分割済みのものに限られており、未分割の財産はこの軽減の対象とはなりません。 銀行預金についても、遺産分割の手続きを経て、配偶者が取得することが確定したものについてのみ、相続税額の軽減措置の対象となります。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 配偶者の税額軽減の措置 被相続人の配偶者については、その相続税の課税価格(注)のうち、①すべての相続人・受遺者の課税価格の合計額に対して配偶者の法定相続分に相当する額までの部分、又は②1億6,000万円以下の部分には、税額控除により納付すべき税額が算出されないという措置が講じられています(相法19の2①)。 (注) 「相続税の課税価格」とは、取得財産の価額から債務・葬式費用の額を控除し、被相続人からの相続開始前3年以内の贈与金額を加算した額をいいます。 この税額軽減の措置は、①配偶者による財産の取得は、同一世代間の財産移転であるため、比較的近いうちに次の相続が生じて、その際に相続税が課税されることとなること、②長年共同生活を営んできた配偶者に対する配慮、③遺産の維持形成に対する配偶者の貢献等を考慮して設けられたものであると説明されています。 この軽減措置の適用上、配偶者の課税価格の計算の基となる「取得財産」には、遺産分割や遺贈により配偶者が確定的に取得した財産に限られます。したがって、未分割の財産はこの軽減措置の対象とはなりません。 2 銀行預金の分割 共同相続人全員の合意を前提に預貯金等を遺産分割の対象に含めるのが家庭裁判所における実務であり、また、遺産争い等の相続人間のトラブルに巻き込まれることを回避するために、共同相続人全員の同意がない限り払戻しには応じないとするのが一般的な銀行実務です。 また、銀行預金については遺言書や遺産分割協議書に配偶者が取得する旨が明記されていない限り、配偶者の税額軽減措置の対象とはできないとするのが相続税実務に携わる多くの実務家の理解でもあり、課税当局もこうした指導を行ってきたものと思われます。 ところが、銀行預金をはじめとする可分債権は、相続開始とともに各相続人にその相続分に応じて帰属し、遺産分割の対象とはならないというのがこれまでの判例(平成16年4月20日第三小法廷判決・裁判集民事214号13頁)であり、通説的な民法解釈でしたので、上記の実務との間に齟齬がみられました。 そうしたところ、平成28年12月19日に最高裁判所大法廷は、これまでの解釈を変更し、 と判示しました(以下「平成28年判決」といいます)。 3 平成28年判決の影響 (1) 配偶者の税額軽減措置 平成28年判決を踏まえれば、銀行預金についても遺産分割の対象となることから、遺産中に銀行預金がある場合には、これも遺産分割協議等の手続きを経て特定の相続人に確定的に帰属すると解することになりますが、これはこれまでの相続税実務の採る考え方と一致するものですので、配偶者の税額軽減に係る相続税実務には特に影響はないと考えられます。 (2) 未分割財産の申告 相続税の申告書の提出期限までに、相続財産の一部が未分割である場合には、当該財産は法定相続分で相続したものとして相続税の申告をすることとなっています。 例えば、被相続人の子である甲が2億円の土地を、同じく子である乙が1億円の土地を取得する旨の遺産分割協議が調ったものの、8,000万円の銀行預金については協議書に記載がなかったときに、これまでの民法解釈に従えば、甲乙それぞれが分割協議により取得した土地の価額に銀行預金の2分の1に相当する4,000万円ずつを加算して、すべての遺産の分割が完了しているものとして申告をするのが通説的な民法解釈に沿った処理だったのかもしれません。 しかしながら、相続税実務においては、当該預金は未分割の遺産であるとして、いわゆる穴埋め方式により、分割財産の価額が法定相続分に達していない乙の取得財産の価額に加算し、乙の取得財産の価額を1億8,000万円として、相続税法第55条に定める計算をすることとしていたのではないでしょうか。 今後は、何ら躊躇することなく、これまでの相続税実務に従った申告をすることができます。 (3) 平成28年判決の射程 平成28年判決は、銀行預金に関するものですので、これが可分債権一般についても妥当するのかどうかについては、今後の研究を待つ必要があるでしょうが、相続税の申告においては、上記(1)及び(2)で述べたこれまでの実務を踏襲すればよいのではないかと思います。 4 ご質問の場合 ご質問の場合、銀行預金を含め、すべての財産について分割がされていませんので、配偶者の税額軽減の措置を適用することはできません。 なお、相続税の申告書を提出した後、相続税の申告期限から3年以内に遺産分割協議等により配偶者が相続財産を取得することとなった場合には、4ヶ月以内に更正の請求をすることにより、配偶者の税額軽減の措置を適用することができます(相法19の2②、32①一・八)。 (注) 相続税の申告期限後3年以内に遺産分割ができないことについて、相続に関する訴訟が係属しているなどの特別の事情がある場合において、税務署長の承認を受け、一定の期間内に遺産分割が行われたときには、更正の請求を行うことにより配偶者の税額軽減の措置を適用することができます(相法19の2②)。 (了)
特定居住用財産の買換え特例[一問一答] 【第2回】 「「買換えの特例」の譲渡価額要件(1億円以下)の判定② (店舗兼住宅等を譲渡した場合の計算例)」 -譲渡価額要件の判定- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、店舗兼住宅及びその敷地(いずれの所有期間も10年超で居住期間は10年以上)を、本年の9月に2億円(建物6,000万円、土地1億4,000万円)で譲渡しました。 その建物及び土地の利用状況は、下図のとおりです。 この場合、「特定の居住用財産の買換えの特例(措法36の2)」の譲渡価額要件(1億円以下)を満たすこととなるのでしょうか。 なお、当該譲渡した建物及び土地と一体としてXの居住の用に供されていた他の建物又は土地等の譲渡はありません。 (注) 敷地のうち居住の用に専ら供している部分は居住用の駐車場。 A 居住の用に供している部分に対応する譲渡対価の額が1億円を超えることから、譲渡価額要件を満たさないことになります。 ●○●○解説○●○● 「買換えの特例」は、その譲渡資産の譲渡に係る対価の額が1億円以下であることが、その要件の1つとされています(措法36の2①かっこ書)。 そして、この譲渡に係る対価の額が1億円を超えるかどうかについては、譲渡資産が店舗兼住宅等の用に供されている場合は、その居住の用に供している部分に対応する譲渡価額により判定し、この場合の譲渡対価の計算については、次の算式により行うこととされています(措通36の2-6の2(譲渡に係る対価の額が1億円を超えるかどうかの判定)(2))。 ▷算式 (イ) 当該家屋のうち居住の用に供している部分の譲渡対価の計算 (ロ) 当該土地等のうち居住の用に供している部分の譲渡対価の計算 本事例における建物及び土地の利用状況並びに譲渡価額を上記の算式に当てはめると、次のとおり、居住の用に供している部分に対応する譲渡に係る対価の額は、101,000千円(24,000千円+77,000千円)となり、譲渡価額要件を満たさず、特例を受けることができません。 (イ) 当該家屋のうち居住の用に供している部分の譲渡対価の計算 (ロ) 当該土地等のうち居住の用に供している部分の譲渡対価の計算 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第46回】 「債権譲渡に関する契約書(売掛債権譲渡契約書)」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 売掛債権を譲渡するにあたり、旧債権者と新債権者との間で債権譲渡契約書を作成しました。 印紙税の取扱いはどうなりますか。 債権をその同一性を失わせないで旧債権者から新債権者へ移転させる契約であり、債権譲渡契約の成立を証明する文書であり、第15号文書(債権譲渡に関する契約書)に該当する。 [検討1] 債権譲渡の意義(基通第15号文書の1) 債権譲渡契約とは、債権者が有する債務者に対する債権について、その同一性を失わせないで債権譲受人に移転する契約であり、旧債権者と債権譲受人である新債権者との間の契約をいう。 また、債権とは、特定の者(債権者)が特定の者(債務者)に対して、将来財貨又は労務を給付させることを目的とする権利で、指名債権と証券的債権とに区分される。証券的債権の譲渡契約書のうち、有価証券の譲渡契約となるものは、第15号文書には該当しないが、有価証券の継続的な譲渡を約するもので令第26条第1号に該当する場合は、第7号文書(継続的取引の基本となる契約書)に該当する。 その他の債権譲渡契約のうち、継続的な譲渡を約するもので令第26条第1号に該当する場合には、第15号文書と第7号文書に該当し、通則3のハの規定により第7号文書に該当する。 [検討2] 債権譲渡通知書等(基通第15号文書の4) 債権譲渡契約をした場合に、譲渡人が債務者に通知する債権譲渡通知書については、債務者に通知することによって債権譲渡契約が成立するものではなく、第15号文書には該当しない。 また、債権を第三者に譲渡しようとする債権者の申出に対して債務者がその譲渡について承諾した旨を記載した債権譲渡承諾書についても、債権譲渡契約の成立を証する文書ではないため、第15号文書には該当しない。 ▷ まとめ (了)
金融・投資商品の税務Q&A 【Q32】 「米国デラウェア・リミテッド・パートナーシップの法人該当性」 PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子 ●○ 検 討 ○● 1 事案の概要 米国デラウェア州のリミテッド・パートナーシップ事案(以下「本件LPS事案」)では、日本の個人である納税者が、受託銀行との信託契約を介して投資した米国所在の各建物の貸付に関する所得を不動産所得として、その減価償却費等による損益通算をして所得税の申告を行ったところ、当該所得は不動産所得に該当せず減価償却費等の損益通算は許されないとして、課税庁により処分が行われたというものです。 課税庁の処分に対して納税者は不服申立てを行いましたが、名古屋不服審判所は本件のLPSから請求人に配分された損益は不動産所得に該当せず、雑所得であるとの裁決を行い、納税者は当該裁決を不服として原処分の取消訴訟に及んだものです。 なお、本件LPS事案で争点となった組合事業から生じた不動産投資損失については、平成17年度税制改正により、平成18年以後の個人の所得申告上、生じなかったものとみなされる措置が講じられ、組合事業による中古不動産等投資の節税スキームは実質的に封じられることとなりました(【Q30】参照)。本件LPS事案は平成17年度税制改正前の不動産所得の申告に係るものです。 2 下級審判決の概要 本件LPS事案の裁判においては、LPSの不動産所得の損益通算をめぐって、主に3点(①本件各LPSの租税法上の法人該当性、②本件各LPSの租税法上の人格のない社団該当性、③本件各建物の貸付けから生じた損益の不動産所得該当性)が争点とされました。 ①の法人該当性判断の基準について、納税者勝訴となった判決(東京地裁(平成23年7月19日)、名古屋地裁(平成23年12月14日)、名古屋高裁(平成25年1月24日))では、設立準拠法における法人格付与の有無に加えて、損益帰属主体としての設立目的をも判断基準とすべきであるとの原告の主張を認めました。 一方、納税者敗訴となった、東京高裁(平成25年3月13日)及び大阪地裁(平成22年12月17日)、大阪高裁(平成25年4月25日)の判決では、LPSに付与される権利、パートナーシップ持分の性格、州LPS法及び本件LPS契約による本件各LPSの管理・運営の規定等から、州LPS法に基づいて設立された本件各LPSは、構成員から独立した法的主体として存在し、権利義務の帰属主体となるというべきであり、州LPS法に基づき設立されたLPSが「separate legal entity」となると規定する州LPS法201条(b)の規定は、州LPS法に基づいて設立されるLPSを法人とする旨を規定しているものと解すべきであるとの判示を行っています。 3 最高裁判決の概要 今般の最高裁判決では、日本の租税法に定める外国法人に該当するか否かを判断するに当たっては、まず、①当該組織体に係る設立根拠法令の規定の文言や法制の仕組みから、当該組織体が当該外国の法令において日本法上の法人に相当する法的地位を付与されているか否かを検討することとなり、これができない場合には、次に、②当該組織体の設立根拠法令の規定の内容や趣旨等から、当該組織体が権利義務の帰属主体であると認められるか否かを検討して判断すべき、としました。 ここで、米国デラウェア・リミテッド・パートナーシップについては、まず①について、州LPS法の規定その他関連法令の文言等を参照しても、本件LPSがデラウェア州法において日本法上の法人に相当する法的地位を付与されていること又は付与されていないことが疑義のない程度に明白であるとはいい難いこと、次に②については、LPSに付与される権利、パートナーシップ持分の性格、州LPS法及び本件LPS契約による本件LPSの管理・運営の規定等から、本件LPSは、自ら法律行為の当事者となることができ、かつ、その法律効果が本件LPSに帰属するものということができるから、権利義務の帰属主体であると認められる、として、外国法人に該当するとの結論に到っています。 4 本件LPS最高裁判決の実務上の影響 本件LPSの事案で争われた、個人組合員における組合事業から生じた不動産投資損失の所得通算については、平成17年度税制改正により損失の所得通算が認められないこととなったため、本件最高裁判決により、組合を通じた不動産等投資の損失を利用したスキーム自体に大きな影響はないと考えられます。 しかしながら、デラウェアLPSは米国投資に際しての一般的なビークルであるため、外国税額控除の取扱い等、その他の税務実務上の取扱いには注意が必要です。 (了)
包括的租税回避防止規定の 理論と解釈 【第33回】 「ヤフー・IDCF事件最高裁判決①」 公認会計士 佐藤 信祐 【第30回】からの解説により、ヤフー・IDCF事件東京地裁判決以降の租税回避に対する実務的な対応を検討してきた。 本稿では、ヤフー・IDCF事件最高裁判決について解説を行うこととする。 1 包括的租税回避防止規定の射程 最高裁は、ヤフー事件についても、IDCF事件についても、 と判示した。 これを整理してみると、まずは、包括的租税回避防止規定の射程を、組織再編税制の各規定を「租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるもの」としている。そして、濫用の有無の判断について、①経済合理性がないかどうか、②事業目的がないかどうか等を考慮したうえで、「当該行為又は計算が、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって、組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるか否かという観点から判断する」としている。 ここで、「等」となっているのは、経済合理性、事業目的というのは例示であり、それ以外のものも含まれる可能性があると推定される。しかし、「等」と付けているのは、例示できるものが他に想定できないからである。アカデミックに検討するのであれば、租税回避の本質を探る必要があるため、単なる例示であるということは重要な意味を持つ。そのため、濫用とはどのようなものか、租税回避の意図とはどのようなものか、趣旨及び目的から逸脱するとはどのようなものかを明確に分析していく必要がある。 さらに、太田洋弁護士も、 と指摘されている(※2)。 (※1) 原文では「理論上は」の箇所に傍点が付されているが、本稿では下線で代用している。 (※2) 太田洋「判批」税務弘報64巻6号47頁(平成28年)。 たしかに、税務訴訟に従事される立場からすれば、この指摘は重要なことであると考えられる。しかし、公認会計士、税理士として、税務調査に対応する立場からすると、異常ないし変則的かどうかの判断は、節税目的により最も経済合理性の高い手法を回避し、やや経済合理性の劣る手法を選択した場合には、租税回避に該当する可能性があるというものである。そして、正当な理由ないし事業目的がないかどうかは、事業目的が税目的を上回っているか、ないしは同等であるかどうかというものである。 すなわち、公認会計士、税理士、課税庁職員の中の暗黙知として、一部のアグレッシブな税務専門家を除き、かなり保守的に解していたのであり、太田洋弁護士の指摘を懸念する者は少ないのではなかろうか。それが故に、東京地裁判決が公表されてから本稿校了段階まで、今までの経済合理性基準とは異なる可能性があるという多くの判例評釈がありながらも、筆者は一貫して、何ら今までの経済合理性基準と変わらないと主張してきたのである。また、太田洋弁護士が「理論上は」という文言に、敢えて傍点(上記引用では下線箇所)を入れられた趣旨も、そのようなものであると信じたい。 このように、ヤフー・IDCF事件は、理論上は、包括的租税回避防止規定の射程範囲が拡張した可能性は否定できないものの、実務上は、今までの対応と全く変わらないという解釈で問題ないと思われる。 2 ヤフー事件 ヤフー事件に対しては、最高裁は、 としたうえで、 と判示した。 すなわち、経済合理性、事業目的の観点から濫用の有無を判断したうえで、趣旨及び目的を逸脱するものであると結論づけている。このことからも、結果だけ見れば、今までの経済合理性基準と何ら変わらない結論になっている。 3 IDCF事件 IDCF事件に対しては、最高裁は、 と判示した。ヤフー事件と同様に、経済合理性、事業目的の観点から濫用の有無を判断している。 このように、ヤフー・IDCF事件最高裁判決は、一応は納得感のある判決であったということが言える。 次回では、ヤフー・IDCF事件最高裁判決が、他の租税回避に対する否認手法に対して影響を与えるか否かについて検討を行うこととする。 (了)