養子縁組を使った相続対策と 法規制・手続のポイント 【第8回】 「離縁の手続(普通養子・特別養子)」 弁護士・税理士 米倉 裕樹 [1] はじめに 今回は養子の離縁に関し、普通養子と特別養子それぞれの手続面について説明を行う。 普通養子の離縁については、 協議離縁 調停離縁 審判離縁 裁判離縁 の4つの手続が認められているものの、特別養子の離縁については、厳格な要件のもと、家庭裁判所による審判に基づく離縁しか認められていない。 相続対策は主に普通養子を想定してなされることが多いことから、以下、普通養子の離縁を中心に解説を行う。 [2] 普通養子の離縁手続 1 協議離縁 養親と養子がそれぞれ署名押印し、証人2名が署名押印したものを市区町村長に提出することで離縁が成立する(民812・739②、戸法70・27)。 養子が未成年でも、養子縁組を行う場合と異なり、家庭裁判所の許可は不要である。ただし、養子が15歳未満の場合は、離縁後に法定代理人となる者が代諾権者として養親との間で離縁の合意を行う(民811②)。 離縁が当事者間の話し合いによって合意できるのであれば、何ら特別な理由は必要でなく、離縁理由は限定されない。 なお、配偶者の連れ子を養子とした場合(この場合、連れ子が未成年者でも裁判所の許可は不要)、その配偶者と離婚しただけでは、配偶者の連れ子との養子縁組は存続するため、配偶者の連れ子との親子関係を解消するには、別途、連れ子との離縁手続が必要である。 2 調停離縁 離縁事件は「人事に関する訴訟事件」(家法244)であることから、養親子間で離縁の協議が整わない場合であっても、いきなり訴訟を提起することはできず、まずは、家庭裁判所に対して調停を申し立てる必要がある(調停前置主義・家法257①)。 調停離縁を申し立てるには、申立権者またはその代理人が、申立書を作成して管轄の家庭裁判所に申し立てる(家法255)。 申立権者は、離縁当事者(養親または養子)である。なお、養親が夫婦である場合に未成年の養子と離縁するには、夫婦ともにしなければならない(民811の2)。ただし、養親夫婦の一方がその意思を表示することができないときは、他の一方のみでできる(民811の2但書)。 申立書には、申立の趣旨の欄に、申立人と相手方は離縁するとの調停を求める旨を記載する。申立の実情の欄には、民法814条第1項各号に定められた離縁原因に該当する具体的事実を記載することになる。なお、調停や審判による離縁の場合には、民法814条第1項各号規定の法定の離縁原因に該当する事実の存在は要件とはされないため、申立の実情は、便宜上、記載するものである。 添付書類としては、養親、養親の戸籍謄本(全部事項証明書)各1通、養子が15歳未満の場合は、離縁後に法定代理人となるべき者の戸籍謄本(全部事項証明書)がさらに必要となる。申立裁判所は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所、または当事者が合意で定める家庭裁判所である(家法245①)。 調停離縁申立の際に、同時に相手方に対して慰謝料請求を求めることができる。ただし、離縁に関しては財産分与に関する民法の規定が存在しないため、財産分与請求は想定されていない。 調停において、当事者間に離縁の合意が成立し、これを調書に記載したときは、調停が成立したものとされ、その記載は確定判決と同一の効力を有する(家法268①)。これにより離縁が成立する。 離縁の調停が成立したときは、調停申立人は、調停成立日から10日以内に、養親または養子の本籍地もしくは届出人の所在地の市区町村長に離縁の届出をしなければならない(戸法73①・63①)。協議離縁が届出によって離縁の効力が生じるのに対し、この届出は報告的届出である。なお、調停申立人が届出をしないときは相手方が届け出ることができる(戸法73①・63②)。 3 審判離縁 調停離縁が申し立てられ、これが不成立に終わった場合には、離縁訴訟提起となるのが原則であり、一般的に、審判手続に移行することはない。もっとも、調停が成立しない場合であっても、主要事項については合意に達しており、その他財産関係等、付随的事項をめぐって合意に達しないような場合には、家庭裁判所が職権で調停に代わる審判を下すことができる(調停に代わる審判・家法284)。 ただし、調停に代わる審判は、審判日から2週間以内に異議申立があると効力を失ってしまうことから(家法286・279)、異議申立が予想される案件では、調停に代わる審判を経ずに調停不成立とし、離縁訴訟に誘導・移行させることが多いと言われている。 4 裁判離縁 離縁の訴えでは、養子縁組の当事者(養親及び養子)の一方が原告となり、他方が被告となる。養子が満15歳未満の場合は、養子に代わって離縁後にその法定代理人となるべき者(代諾権者)が訴訟遂行を行い、訴訟継続中に養子が15歳に達した場合は、訴訟手続は中断し、養子本人が受継する(民訴124①三)。 なお、離縁の手続は、養親または養子の一方が死亡した場合、例えば、離縁したい養親が原告となって養子を被告として訴訟をしたが、養親が離縁の訴訟中に死亡した場合、当事者がいなくなったことによりその訴訟は当然に終了する(人訴27)。 この場合、養親が養子に自分の遺産を相続させたくないとして離縁の調停や訴訟をしていても、その手続中に養親が死亡してしまうと離縁の手続が当然に終了する結果、離縁できなくなり、養子が養親の遺産を相続することになる。そのため、養親が離縁を決断した場合は速やかに離縁の手続をすべきである。 他方で、離縁したくない養子または養親が先に死亡した場合、残った養親または養子が家庭裁判所の許可を受けて離縁をすることができる(死後離縁)。もっとも、養親死亡後に養子が多額の相続をしながら、養親の親族に対する扶養義務を免れることのみを意図した離縁など道義に反するような場合、養子が未成年である場合の養子からの死後離縁のように、それを認めることで離縁後の養子の福祉に合しない場合等には死後離縁が認められる可能性は少ない。 [3] 特別養子の離縁手続 特別養子縁組の離縁は、養子、実父母または検察官の請求により家庭裁判所が審判によって行う。養親からの離縁の審判請求は認められておらず(民817の10①)、特別養子が成年に達して監護の必要性がないときには特段の事情がない限り、離縁させることはできない。また、実父母の双方が死亡した場合、または子が棄児(捨て子)であって実父母がない場合にも認められない(中川善之助・山畠正男『新版注釈民法(24)』(有斐閣、2002年)634頁~)。 なお、普通養子の場合には、養親が夫婦のときでも、養子が未成年者である場合を除き、養親の一方と離縁できるが(民811の2)、特別養子の場合には、養親の双方と離縁しなければならない。そのため、養親が離婚した場合、及び養親の一方が死亡している場合でも、その一方のみと離縁させることはできない。 特別養子については、家庭裁判所の審判によってのみなされるため(民817の10)、調停離縁を申し立てることはできない。普通養子縁組の場合と異なり、15歳未満であっても、意思能力を有する限り、養子が自ら申立を行うことができる。 (了)
コーポレートガバナンス・コードのポイントと 企業実務における対応のヒント 【第12回(特別編)】 「2015年8月末までに新様式で提出された コーポレート・ガバナンス報告書の概観」 PwCあらた監査法人 マネージャー 米国公認会計士 阿部 環 〔コーポレート・ガバナンス報告書の概観の対象会社〕 2015年6月1日よりコーポレートガバナンス・コード(以下、「コード」)の適用が始まった。コードを反映した新様式でのコーポレート・ガバナンス報告書(以下、「報告書」)の最初の提出には総会終了後6ヶ月間の猶予が与えられているにもかかわらず、任意に報告書を早期提出する企業が少なからずあり、中にはコード適用初日の6月1日に提出する企業もあった。 本連載はコード原案が確定した3月よりいち早く連載を開始し、コードの重要項目と企業対応について、7月まで解説を行ってきた。 今回はその特別編として、コード適用からおよそ3ヶ月経過した2015年8月31日までに、新様式での報告書を提出した東証一部・二部上場会社66社(一部上場64社および二部上場2社)を対象として、その開示状況を概観してみる。 なお、マザーズやJASDAQについては「基本原則」部分のみが適用の対象となっており、今回の調査対象としていない。集計は9月10日時点における筆者によるものであり、その後の更新状況により最新の情報と異なる場合があり、網羅的な情報に基づくものではない。なお、文中の意見に相当する部分は、筆者の私見であることをお断りしておく。 〔各原則を実施せずエクスプレインした会社数〕 上述の今回集計の対象とした66社のうち、【コーポレートガバナンス・コードの各原則を全て実施している】会社は40社であり、一方【各原則を実施しない理由を開示した会社】は26社であった。 表1:2015年8月31日までに新様式での報告書を提出した東証一部・二部上場会社66社のコード適用状況 (出所:日本取引所グループ東京証券取引所 コーポレート・ガバナンス情報サービスをもとに筆者が作成) 各原則を実施しない理由を開示した26社について、開示された「実施しない理由」を原則別に見ると、内訳は表2のとおりであった。 表2:コーポレートガバナンス・コードの各原則を実施しない理由 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (※) 東証の上場規則による「特定事項を開示すべきとする11原則」については、後述を参照のこと。 (出所:日本取引所グループ東京証券取引所 コーポレート・ガバナンス情報サービスをもとに筆者が作成) 「実施しない理由」(すなわちエクスプレイン)は30項目と、比較的多岐にわたっているようである。基本原則の章別に見ると、基本原則4「取締役会等の責務」に記載された諸原則についてエクスプレインしている会社が多いことがわかる。 では、基本原則4の中からエクスプレインの多かったトップ3の項目(表2のハイライト参照)についてみてみよう。 〔エクスプレインの多かった上位3項目〕 補充原則4-11③「取締役会の実効性評価」(【第7回】参照)は、エクスプレインが最も多かった項目であり、16社にのぼった。「取締役会の実効性評価」自体が日本企業には馴染みがないことに起因するものと思われる。実際に、「取締役会の実効性評価は誰がどのように行うべきかわからない」といった声は企業側から多く聞かれる。 また、コード導入当初は、取締役会運営やガバナンス態勢の見直し段階であり、今後一定期間の運用を経た上で取締役会の実効性評価を実施することが適切とも考えられるので、この補充原則は、当初からエクスプレインする会社が多いことが想定されていた項目でもある。 次にエクスプレインが多かった項目は、原則4-8「独立社外取締役 少なくとも2名以上選任」(【第5回】参照)であり、66社中11社にのぼった。 2015年8月1日に日本取締役協会から発表された「上場企業のコーポレート・ガバナンス調査」によると東証一部1,888社中、社外取締役を2人以上選任している企業が59.4%(前年比24.7%増)、独立取締役を2人以上選任している企業が49.1%(前年比27.5%増)と、社外取締役・独立取締役の複数選任が2014年に較べ大幅にアップしたことを示している。両者の増加傾向は明らかにコード適用の影響といえよう。 3番目にエクスプレインが多かった項目は、補充原則4-10①「取締役の選任・報酬などの重要な事項に関する検討にあたり独立社外取締役(または任意の諮問委員会)の適切な関与・助言」であった。 この項目についてエクスプレインをした7社のうち、2社はタイプA「本来は実施したいが、何らかの理由で今は実施できていない。今後実施する予定である。」という説明があり、それ以外の5社はタイプB「自社の状況に照らすと別な方法によりガバナンスの趣旨を達成しているので、現段階では実施していない。」というものであった。 現在までの日本の開示では、ほとんどがタイプAの説明が多いなか、当該補充原則ではタイプBのものが目立った(注:タイプA及びタイプBは筆者の命名による)。 〔特定の事項を開示すべきとする原則に基づく開示〕 【コーポレートガバナンス・コードの各原則に基づく開示】として報告書に記載するか、もしくは各社のウェブサイト上等にて開示することとされている11項目のうち、上記の表2で「●」のついている9項目についてはエクスプレインしている会社がある。ひるがえって、以下の表3に示す残りの2項目については、今回集計対象とした66社全てがコンプライしているという結果となっている。 表3:集計した66社が全てコンプライしていた開示11項目のうちの2項目 上記原則1-7「関連当事者取引」については、コードで求められている開示項目は、関連当事者間の取引の重要性やその性質に応じた適切な手続きの枠組みの開示であり、今までも有価証券報告書等で開示が要求されている関連当事者取引そのものとは異なるが、開示にあたっての社内承認等の枠組みはあるということで、8月31日までに開示した66社は全てコンプライという結果となったものと思われる。 また上記原則5-1「株主との対話」については、各社IRとしてなんらかの形で過去から取り組んできたということを踏まえ、コンプライが比較的容易と判断した会社が多く見られたのではないかと思われる。 【コーポレートガバナンス・コードの各原則に基づく開示】の方法については、多種多様である。開示が求められる11項目について、企業のホームページのURLを掲載し、参照を織り交ぜながら1項目ずつ説明している企業もあれば、全ての項目について企業のホームページのURLを一括して参照する方式を採用している企業もあった。 今回考察の対象としている東証一部・二部上場の66社がどのように開示したか、その傾向を表4にまとめた。 表4:開示方法の傾向 (出所:日本取引所グループ東京証券取引所 コーポレート・ガバナンス情報サービスをもとに筆者が作成) 合計66社のうち圧倒的に②の方式をとっている会社が多いことがわかる。こちらの方式は、従来から統合報告やガバナンス開示を行っている会社が採っている傾向にある。 6月1日のコード適用から、報告書発表まで時間の少なさを考えた場合、当期は各社が一番対応しやすい形にまとめているような印象をもった。 来年以降、開示方法がどのように変わっていくか、興味深いところである。 〔海外でのコンプライまたはエクスプレインの進化の過程〕 今回、8月25日の時点において、日本ではコード適用初年度で66社中40社(およそ61%)が、全て実施(コンプライ)しているという結果となった。 1992年からコードを採用している英国で、コンプライまたはエクスプレインがどのような進化を遂げてきたか、グラントソントン社が英国のFTSE350を対象とした調査結果によれば、全て実施している会社が半数(50%)を超えたのは2010年のコード適用9年目であり、コード適用14年目の2014年になって、全て実施している会社の割合は61%であった(※)。 (※) 出所:Grant-thornton社の「CORPORATE GOVERNANCE REVIEW 2014」P.14を参考にしている。 今回考察の対象とした66社に着目すると、全てコンプライしている企業が半数を超えてはいる。ここまではコンプライしている企業の比率が比較的高いような印象であるが、報告書を任意に早期に提出する企業は、もともとガバナンスに対する意識が高く、従前から態勢整備やガバナンス開示を進めていたとの見方もある。 今後、上場会社3,000社超(東証一部上場企業数は1,888社)の報告書が出そろうにつれ、開示がどのような傾向になっていくのか、興味深いところである。 日本人の真面目な性質から「各原則は全てコンプライした」という会社が多くなるのか、その際には「取組に対して真摯な姿勢が伝わってくる」と取れるのか、または「表層的にコードを適用したように見せている」のか、今後ステークホルダーからの声を聞いていきたい。 いずれにしても、適用初年度、報告書提出の出だしが好調であるというのは喜ばしいことである。1年足らずで適用となった我が国のコードであるが、イギリス・フランス・ドイツなど他国に追随したコード適用であり、海外投資家から見ると、今後提出される報告書次第ではあるが、満を持して適用されたコードという好印象を与えるのではなかろうか。 (了)
現代金融用語の基礎知識 【第22回】 「アクルーアル」 事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹 1 アクルーアルとは アクルーアル(accrual)とは、財務指標の一種で、利益と現金収入の差を表すものである。損益計算書における税引後経常利益(税引後当期純利益から特別損益の影響を除いた額)から、キャッシュ・フロー計算書における営業活動によるキャッシュ・フローを引いて算出する。 なお、アクルーアルという言葉を初めて聞く方もいらっしゃるかもしれないが、現在の利益計算の原則である発生主義は誰もがご存知だろう。その発生主義は、英語で「accrual basis」である。 2 アクルーアルが低い企業=利益の質が高い企業? このアクルーアルは、最近新しく考えられた財務指標というわけではなく、以前からある財務指標なのだが、平成27年7月23日の日本経済新聞の「会計問題、身構える市場」という記事で、「市場関係者の共通の話題に上るキーワード」として紹介されている。 そこでは、アクルーアルが低い企業は、利益の質が高い企業であるとされているのだが、そうした捉え方には違和感を持たざるを得ない。確かに、アクルーアルが高いと、利益に対して現金収入が少ないということになる。しかし、だからといって、アクルーアルの高低を利益の質の高低に結び付けるのは少し乱暴だろう。 そもそも現金主義により計算される利益には問題があるため、発生主義が考え出されたわけであるし、アクルーアルは、保有する固定資産の量や取引サイクルなど、企業の事業形態の違いによって差が生じる性質のものである。 3 財務指標の使い方 財務指標には、売上高~利益率、ROE、自己資本比率など、様々なものがある。そうした比率は高いほど良いように思われるかもしれないが、必ずしもそうとは限らない。企業の事業形態や経営戦略などの違いにより差が生じる性質のものであるため、そうした企業の内容を踏まえた上で使わないと、実はあまり意味のないものなのである。 アクルーアルの使い方にも同様に注意が必要である。上述の日本経済新聞の記事には、「投資先のクオリティを測る際には必ず参照する」というある金融機関の株式運用担当者の方の言葉が紹介されているが、アクルーアルのみによって投資判断を行うのは適切とはいえない。あくまで、企業の内容を踏まえた上で、様々ある投資判断材料の中の一つとして使うべきだろう。 (了)
2015年9月17日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.136を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第23回】 「平成28年度税制改正と 法人税改革の早期実現」 一般社団法人日本経済団体連合会 常務理事 阿部 泰久 1 はじめに 8月末には各省庁の税制改正要望も出揃い、平成28年度税制改正作業がスタートした。 平成28年度税制改正では、配偶者控除の見直しをはじめとする個人所得課税、消費税の軽減税率(9月10日の与党税制協議会で軽減税率に代わる還付措置の具体案が提示された)が2大課題とされていたが、ここへ来て「法人税」が、もう1つの重要課題として浮上している。 そこで今回は、平成28年度税制改正で法人税改革がどのように進むのかを展望しておきたい。 2 法人税改革の早期実現とは 与党の平成27年度税制改正大綱では、法人実効税率について、27・28両年度にわたり3.29%引き下げて31.33%とするとともに、「平成28年度税制改正においても、課税ベースの拡大等により財源を確保して、平成28 年度における税率引下げ幅の更なる上乗せを図る(▲3.29%+α)。さらに、その後の年度の税制改正においても、引き続き、法人実効税率を20%台まで引き下げることを目指して、改革を継続する。」ことが示されていた。 一方で6月に閣議決定された骨太の方針及び日本再興戦略改訂版では、「現在進めている成長志向の法人税改革をできるだけ早期に完了する」こととされていた。 さらに、アベノミクスの第2ステージとしての供給サイドへの取組みが明示され、民間設備投資の拡大に焦点を当てた「官民対話」の開始と、そのための環境整備としての法人税改革の早期実現が安倍総理から言及されるに至り、規定分プラスαの引下げに加えて、法人税改革の早期実現=法人実効税率の20%台までの引下げが、平成28年度税制改正における現実の課題となってきた。 3 財源問題 当然のことながら、実効税率の引下げがすべて実質減税で行われることはなく、また、2020年の基礎的財政収支黒字化を考えるならば、税収の減少は許されることではない。与党の平成27年度税制改正大綱でも、「課税ベースの拡大等により財源を確保」が明記されており、実効税率引下げに対応する課税ベースの拡大ができるのかが、法人税改革の早期実現の鍵となる。 昨年の段階で、29年度以降において、研究開発税制をはじめとする政策税制の廃止・縮減、外形標準課税のさらなる拡大、減価償却制度の抜本的見直しを財源とし、法人実効税率20%台を目指すことが認識されており、財源策としては、まず、これらが検討対象となる。 (1) 政策税制 政策税制を期限到来時に見直すことは当然であるが、実際に大きな財源となるべき生産性向上設備投資促進税制は、平成28年度中は縮小されながらも存続することとされており、これを前倒しで廃止することはできない。 研究開発税制は、わが国が科学技術イノベーション立国として、常に技術革新を生み出し、今後も世界経済をリードする存在であるために不可欠のものである。日本再興戦略改訂版で強調されている「イノベーション・ナショナルシステム」においては、企業は民の立場から研究開発を強力に推進する役割を担うこととされており、大学における産学連携や研究開発体制の充実と並行して、引き続き民間が主体となって研究開発投資をリードしていくことが必要である。 そのためにも、研究開発税制の維持・拡充は不可欠であり、特に総額型については、平成27年度税制改正において、期限の定めを置くことなく25%の税額控除が認められるともに、オープンイノベーション型の特別試験研究費について総額型とは別枠で5%の税額控除が認められたところであり、縮減・廃止はあり得ない。 法人実効税率との関係においても、諸外国では法人税率を引き下げる一方、産業競争力強化の必要性から、研究開発税制を継続・拡充しており、実効税率と研究開発税制が二者択一であるかのような議論はすべきではない。 (2) 外形標準課税のさらなる見直し 外形標準課税については、平成27年度税制改正により、資本金1億円超の法人について、法人事業税の外形標準課税を2年間で拡充し、外形標準課税と所得割とを1:1にする措置がなされた。 しかし、赤字である企業はもちろん、業績が回復途上にある企業の税負担が重くなるなどのデメリットがあり、平成27年度、平成28年度における2段階の拡大の結果を踏まえ、その影響を十分に精査した上でなければ、外形標準課税のさらなる拡充を検討することは難しいと考える。 また、資本金1億円以下の法人への適用対象の拡大は、赤字法人が7割を占める中小法人に対する深刻な影響を考えれば、選択肢とはならないと考える。 むしろ、中小法人への適用拡大を考える前に、長年の課題である法人税における中小法人の定義の見直しが先決であろう。 (3) 減価償却制度 もともと平成29年度改正では、減価償却制度の定額法一本化が大きな課題となる予定であった。しかし、今後とも経済の好循環を実現させるためには、設備投資の持続的な増大が不可欠であり、さらに、アベノミクスの第2ステージにおいては、民間設備投資の拡大が重要な要素とされている。 減価償却制度による投資コストの回収は企業の競争力に大きな影響を与え、現行定率法の廃止が新規設備投資を抑制する恐れを否定できない。 一方で、国際会計基準への移行にあわせて定額法に変更する企業が続出しており、タイミングを見失えば定額法への移行が財源として期待できないことにもなりかねない。 課税ベースとは関係ないが、償却資産に係る固定資産税、特に機械装置への課税は米国やカナダの一部の州などのみで行われている極めて稀な税であり、わが国製造業が競合するアジア近隣諸国において例がない。 今後、アベノミクスによる経済の好循環の継続に向けて、少なくとも新規取得した機械装置については固定資産税を縮減・廃止するならば、減価償却制度の見直しによる民間設備投資の減退を十分に相殺できるはずである。 これらの点を踏まえ、減価償却制度の見直しについては、慎重に検討することが必要である。 4 何を目指すべきか 平成28年度改正で、法人税改革の早期実現ができるか否かは、その財源としてのさらなる課税ベースの拡大について、経済界がどこまで具体的に対応できるのかが鍵となる。しかし、前述のように、減価償却制度を除けば、大幅な課税ベースの拡大を直ちに行うことは困難である。 経団連としては、平成28年度税制改正では、法人実効税率25%台までの「道筋」が示されることが最重要であると考えている。 具体的には、平成28年度改正において、将来にわたって実効税率引下げと課税ベース拡大を順次行っていくことを決定し、その「道筋」を明らかにすることである。 その上で、平成28年度以降の課税ベース拡大を法定化することを条件に、「先行減税」の決断を政治に求めることも選択肢としてあり得るものと考える。 (了)
国境を越えた役務の提供に係る 消費税課税の見直し等と実務対応 【第1回】 「改正前の国内取引の判定基準」 国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦 1 はじめに 平成27年度の税制改正により、国境を越える役務の提供に係る消費税の課税が大幅に見直されることとなった。当該改正は原則として平成27年10月1日以降において行われる取引について適用されることから、正にこれから実務で問題となり得る項目であるといえる。 そこで本連載では、国境を越える役務の提供に係る消費税の課税に関し、新たに導入されることとなる「リバースチャージ方式」が国内企業の実務に及ぼす影響と対策について検討することとする。 2 消費税法における国内取引の判定基準 平成27年度税制改正に伴う「リバースチャージ方式」の中身を確認する前に、その前提となる改正前消費税法における国内取引の判定基準をまず見ていくこととしたい。 (1) 国内取引の判定基準 現行消費税法において課税対象となる取引は、国内取引と輸入取引(※1)である。このうち国内取引とは、国内において事業者が行った資産の譲渡等である(消法4①)。問題は、取引が国内において行われたかどうかの判断基準である。 (※1) 輸入取引はリバースチャージ方式とは関係ないため、本稿では原則として取り扱わない。 資産の譲渡・貸付については、消費税法上、原則として、譲渡・貸付が行われたときに資産が所在していた場所を基準としてその判定を行うこととされている(消法4③一)。しかしながら、船舶・航空機・無体財産権といった一定の資産については、資産の譲渡・貸付が行われたときにおける登録機関の所在地等を基準として判定することとされている(消法4③一カッコ書、消令6①)。 また、役務の提供に関しては、消費税法上、原則として、役務の提供が行われた場所を基準としてその判定を行うこととされている(消法4③二)。しかし、役務の提供が運輸・通信等、国内及び国外に渡って行われるものであるときには、国際運輸の場合には出発地・発送地又は到着地、国際郵便の場合には差出地又は配達地など、一定の場所を基準として判定することとされている(消法4③一カッコ書、消令6②)。 いずれにせよ、現行税法上の国内取引の判定は、「資産の譲渡等を行う者」を基準に行うものであることが分かる。 (2) 国内取引の判定基準のまとめ表 消費税法における資産の譲渡等に係る態様別の内外判定基準を表にまとめると、以下のとおりとなる。特に注目すべきは、改正前の役務の提供に関する内外判定基準である。 ① 資産の譲渡又は貸付に係る国内取引の判定基準のまとめ表(消令6①・改正なし) ② 役務提供に係る国内取引の判定基準のまとめ表(消令6②・改正前) (注) ★印は今回の改正事項 (了)
改正電子帳簿保存法と企業実務 【第1回】 「電子帳簿保存法の導入経緯」 税理士 袖山 喜久造 (1) 電子帳簿保存法の創設 企業等の帳簿書類の保存義務は、法人税法のほか消費税法、所得税法、地方税法などに規定されており、書面で作成された帳簿の備付け及び保存、書面で作成又は受領した書類が対象とされている。 30年ほど前から一般的となったコンピュータ会計により、中小企業においても電子計算機により記帳し帳簿を作成できるようになったが、帳簿書類はデータで保存することが可能となったにもかかわらず、税法の規定により、法定保存期間中、紙で保存しなければならなかった。 平成10年7月に施行された電子帳簿保存法は、このような納税者の国税関係帳簿書類の保存に係る負担の軽減等を図るために、その電磁的記録等による保存等を容認した法律である。 納税者の国税関係帳簿書類の備付け、保存という行為は、申告納税制度の基礎をなすものであることから、電子帳簿保存法では、あらかじめ所轄の税務署長等の承認を受け、かつ、適正公平な課税の確保に必要な一定の要件に従った形で、電磁的記録等の保存等を行うことが条件とされている。 電子帳簿保存法においては、帳簿書類の保存方法の特例のほかに、法人税法等では規定されていなかった電子取引に係る取引情報の電磁的記録の保存について義務付けている。 所得税法及び法人税法では、取引に関して相手方から受け取った注文書、領収書等や相手方に交付したこれらの書類の写しの保存義務が定められているが、これらの書類に記載される取引情報等を電子取引により授受した場合には、この注文書、領収書等の原始記録の保存が行われない結果となりかねない状況となりつつあったため、電子帳簿保存法の第10条において当該電磁的記録の保存が義務付けられた。 電子取引については、当初はEDI取引等の限定的な取引手法として利用されてきたが、昨今ではメールによる取引情報の授受はごく一般的であり、このほか技術革新により新しい技術がどんどん採用され、取引の方法や形態がどんどん多様化しており、現状の電子帳簿保存法第10条の規定のみでは運用が困難になりつつあるといえる。 しかしながら、電子取引による取引情報の授受に該当するデータを保存していない場合には罰則規定もあることから、少なくとも廃棄することなく法定保存期間中、保存することが最低限必要である。 (2) e-文書法の施行、スキャナ保存制度の導入 平成17年4月に施行されたe-文書整備法により、国税関係書類についても電子保存ができる措置が義務付けられ、電子帳簿保存法の改正が行われた。このスキャナ保存制度が導入され、これにより紙でしか保存ができなかった国税関係書類のスキャンデータによる保存が容認された。 当初の電子帳簿保存法では、自己が最初の記録段階から一貫して電子計算機を使用して作成する帳簿及び自己が一貫して電子計算機を使用して作成する書類についての電磁的記録による保存等を認めていたが、取引の相手先から紙で受け取った請求書等についてのスキャン文書による保存は認めていなかった。 その理由として、 ①スキャン文書は電子データの特性として変更が容易であり、変更履歴を完全に保持するシステムがないこと、 ②スキャニングにより書類に残された紙質、筆圧等の情報が消滅するため、不正把握の重要な端緒が消滅する、など証拠収集上の問題があった。 文書電子化には、帳簿書類保存制度の目的を損なわないような真実性・可視性を確保するための実効性のある技術が必要とされていたが、平成17年当時には、電子署名、タイムスタンプにより、スキャン文書の変更・改ざん等の検知が可能となったこと及びバージョン管理によるスキャン文書の変更履歴を保持することが可能になったことなどから、スキャン文書による保存を認めることとなったのである。 しかし、導入当初のスキャナ保存制度においては、文書の真正性を担保するための入力時期やデータ措置の厳格化などにより、経理等の実務においては導入が非常に困難を極め、承認件数が極端に少なくなり、内閣府の規制改革会議でも問題なしとはされなかった。 (3) 電子帳簿保存法の現状の問題点 平成10年7月に施行された電子帳簿保存法は、本稿を執筆している平成27年で17年が経過した。平成26年6月末現在で電子帳簿保存法の承認を受けている件数は約154千件であり、過去の件数は下表のとおりである。 【電子帳簿保存法承認件数推移】 (注) 内書きは、スキャナ保存に係る件数である。 全国の法人数は約300万法人とすれば、法人の承認件数はわずか約5%となる。ほとんどの法人でコンピュータ会計が導入しているにもかかわらず、承認件数はわずかである。 帳簿書類のデータ保存を行った場合、書類保管に係る人件費、保存費用などから考えれば大規模企業ほどメリットは大きくなると思われるが、紙の帳簿を保存している法人が多いということは、このメリットを享受していない法人が非常に多いということになる。また、国税関係書類のスキャナ保存の承認件数は直近のデータでは133件である。全体から見ればほとんど零に近い数字である。 なぜこのような事態になったのか、それは税務調査をする側に挙証責任がある我が国の申告納税制度により、書類の真正性の担保を取るために厳しい要件を義務付けているからである。 ところで大規模法人の税務調査においては、ほとんどのケースで紙の帳簿でなく、帳簿データで調査を受けているはずである。仕訳の件数、取引件数が多いほど紙の調査は効率が悪く、与えられた時間内に効率的な調査を行う必要があるからである。電子帳簿保存法の適用法人であれば税務調査時には帳簿データの提出を求められるが、それ以外の法人は紙の帳簿を本来用意しなければならない。これとは別問題であるが、紙の帳簿を法定保存年数保存ができている会社がどのくらいあるのかも疑問である。 電子帳簿保存法の適用法人の税務調査時には、帳簿データなどの保存状況が法令要件をきちんと満たしていない法人については、国税サイドからの指導を受ける場合も多い。多くは電子帳票システムで帳簿データを保存しているケースである。 正しい知識で法令要件が理解されていないことが、電子帳簿保存法の問題点である。 本年は10年ぶりに電子帳簿保存法が改正された。国税関係書類のスキャナ保存制度の規制緩和である。この規制緩和による国税関係書類のスキャナ保存の申請を行うためには正しく帳簿書類が備付け、保存されていることが前提となる。 今後は会計システムや業務システムを提供している事業者、納税者である法人自体、そして税理士等が電子帳簿保存法の正しい知識を身に付けつつ、企業の電子化を大いに進めていくべきと思われる。 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第14回】 「作成した文書を電子メールで送信した場合」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 当社は建築業者です。 顧客から建物建築工事の依頼があり、注文書が送られてきたので、受注にあたり当社からは注文請書を電子メールで返送しました。 建物建築工事の注文請書は第2号文書の請負に関する契約書に該当し、収入印紙が必要だと思うのですが、電子メールで送信した場合はどうなりますか。 電子メールで注文請書を送信し、相手方において出力された文書については課税文書を作成したことにはならず、収入印紙を貼付する必要はない。ただし、電子メールで注文請書を送付した後に、改めて文書を相手方に持参または郵送等により現物を交付した場合には、その文書に対して印紙の貼付が必要となる。 [検討1] 課税文書の作成 通則5において、「印紙税法上の契約書」とは、契約証書、協定書、約定書その他名称のいかんを問わず、契約の成立等を証すべき文書とされており、念書、請書その他契約の当事者の一方のみが作成する文書又は契約の当事者の全部若しくは一部の署名を欠く文書で、当事者間の了解または商慣習に基づき契約の成立等を証することとされているものを含むとされている。 また、「課税文書の作成」とは、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これを当該文書の目的に従って行使することをいい、「作成の時」とは請書のように相手方に交付する目的で作成される課税文書の場合であれば、交付の時とされている。 したがって、事例の場合は電子メールにおいて注文請書が送信されているものの、原本は相手方に交付されておらず、文書が作成されたことにはならないため、課税文書に該当しない。 [検討2] FAXの場合 FAXの場合も電子メールと同様に、受信先にてプリントアウトされた文書についてはコピーと同様のものと認められるため、課税文書には該当しない。 また、文書の作成者が保管するFAX送信用文書の原本についても、それ自体が相手方に交付されるのではないため、課税文書には該当しない。ただし、送信後に改めて文書を持参するなどの方法により、正本となる文書を相手方に交付する場合は、課税対象となる。 ▷ まとめ ◆作成等の意義 法に規定する課税文書の「作成」とは、単なる課税文書の調製行為をいうのではなく、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これを当該文書の目的に従って行使することをいう。 課税文書の「作成の時」とは、次の区分に応じ、それぞれ次に掲げるところによる。 (了)
〔平成27年分〕 相続税の申告実務の留意点 【第1回】 「基礎控除の引下げ・税率構造の見直し」 税理士事務所ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良 (1) 改正内容のポイント 平成25年度税制改正により、相続税の基礎控除の引下げが行われ、かつ、税率構造の見直しが行われた。この改正は、平成27年1月1日以後に相続又は遺贈により取得する財産に係る相続税について適用される(平成25年改正法附則1⑤ロ、10)(※)。 相続税の基礎控除の引下げ、税率構造の見直しの内容は(2)(3)の通りである。 (2) 相続税の基礎控除の引下げ (財務省「平成25年度税制改正の解説」569頁) なお、改正後の基礎控除の金額については、財務省の立法担当者によれば以下のように解説されている(財務省「平成25年度税制改正の解説」567頁)。 【参考図】 相続税の基礎控除額の水準 (注) 地価は「地価公示」(国土交通省)の全国・全用途に係る値により、物価は「消費者物価指数」(総務省)の総合指数による。 (財務省「平成25年度税制改正の解説」569頁) (3) 相続税の税率構造の見直し 税率構造は以下のように見直されている。 (財務省「平成25年度税制改正の解説」570頁) なお、相続税の税率構造の見直しについて、財務省の立法担当者は以下のように述べている(財務省「平成25年度税制改正の解説」570頁)。 (4) 相続税申告書様式 相続税の総額は、相続税申告書様式の第2表で計算される。以下の赤線で囲んだ部分が、この税制改正により修正された部分である。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (5) 実務に与える影響・留意点 相続税の基礎控除の引下げが行われることにより、相続税申告が必要となる対象者が増加する可能性が高く、相続税申告書作成の依頼が増加することが予想される。 したがって、税理士は、相続税申告業務を進めるに当たり、業務契約書、資料依頼一覧、確認事項一覧、業務スケジュール表の雛形を準備するなど、業務を効率的かつ効果的に進捗できるような体制を整えることが必要と考えられる。 また、相続税の税率構造の見直しについては、(基礎控除後の相続財産を法定相続分で按分した)各相続人の取得金額2億円までは改正が行われていないため、相対的に小規模な財産の相続税案件について影響は少ないものと考えられる。 ただし、企業オーナーなど相続財産の大きい案件については、相続税の税率構造の見直しにより、増税となる可能性があるため、従前以上に注意を払って業務を進める必要がある。 (了)
《平成27年度改正対応》 住宅取得等資金の贈与税非課税特例 【第5回】 (最終回) 「贈与者が死亡した場合・やむを得ない事情がある場合」 税理士 齋藤 和助 前回は「取得時期」、「土地等の取得」「住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)との併用」における注意点を確認した。 最終回となる今回は「贈与者が死亡した場合」及び「やむを得ない事情がある場合」の適用関係について確認したい。 【具体例①】 ~贈与者が死亡した場合~ 私は父から住宅取得等資金1,000万円の贈与を受けて、マイホームを取得し、贈与税非課税特例の適用を受けるつもりである。 3年以内に父が亡くなった場合には、生前贈与加算の対象になるか。 また、仮に申告期限までの間に父が亡くなった場合はどうか。 【回答】 贈与税非課税特例の適用額は、生前贈与加算されない。 また、仮に贈与後その年中に父が死亡しても、贈与税の期限内申告書を提出すれば、特例は適用される。 【解説】 1 住宅取得等資金の贈与者が死亡した場合における相続税の課税価格に加算する金額 住宅資金贈与者が死亡した場合に、住宅取得等資金の贈与税非課税特例の適用により贈与税の課税価格に算入されなかった住宅取得等資金の額は、相続税の課税価格の計算の基礎に算入されない(措法70の2③、措令40の4の2⑨)。 したがって、住宅取得資金贈与が適法に行われていた場合には、その贈与財産は相続税の対象にはならない。 2 住宅資金贈与者が贈与した年中に死亡した場合 住宅資金贈与者がその贈与をした年の中途において死亡した場合において、次に掲げる場合には、その住宅取得等資金を取得した特定受贈者は、贈与税の申告書等を期限内に提出することにより、非課税制度の適用を受けることができる(措令40の4の2⑩)。 上記のいずれかに該当している場合には、贈与税の期限内申告書を提出することにより贈与税非課税特例の適用が受けられる。 したがって、住宅資金贈与者がその贈与をした年の中途において死亡した場合において、特定受贈者が贈与税の申告書を期限内に提出しない場合にはこの特例の適用はなく、贈与された住宅取得等資金の額は、暦年課税における生前贈与加算又は相続時精算課税の規定によりその贈与をした者の死亡に係る相続税の課税価格の計算の基礎に算入される(措通70の2-14なお書き)。 3 生前贈与加算における非課税の適用順序 相続又は遺贈により財産を取得した者が、当該相続又は遺贈に係る被相続人から相続開始の日の属する年の3年前の年に2回以上にわたって特例の規定の適用を受けることのできる住宅取得等資金の贈与を受け、当該年分の贈与税につき特例の規定の適用を受けている場合で、当該贈与により取得した住宅取得等資金の価額の合計額が特例の規定の適用を受けることができる金額を超え、かつ、当該贈与に係る住宅取得等資金のうちに相続開始前3年以内の贈与に該当するものと該当しないものとがあるときにおける生前贈与加算の規定の適用に当たっては、特例の適用を受ける住宅取得等資金は、まず、相続税の課税価格の計算上、相続開始前3年以内の贈与に該当する住宅取得等資金から適用されたものとして取り扱う(措通70の2-12)。 4 特定受贈者が、贈与税の申告書等の提出期限前に申告書等を提出しないで死亡した場合 上記2とは逆に、特定受贈者が、贈与税の申告書等の提出期限前に申告書等を提出しないで死亡した場合には、その特定受贈者の相続人及び包括受遺者は、その申告書等を提出することにより、非課税制度の適用を受けることができる。 この場合に提出する贈与税の申告書等は、その特定受贈者の相続人がその相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に提出しなければならない(措令40の4の2⑪)。 【具体例②】 ~やむを得ない事情がある場合~ 私は、父から住宅取得等資金1,000万円の贈与を受けて、マイホームを新築中である。しかし、転勤の辞令を受け、申告期限前に地方支店に赴任することになった。 新居には妻と子が住む予定であるが、特例の適用は受けられるか。 【回答】 転勤等の場合は、「やむを得ない事情」に該当するため、他の要件を満たしていれば特例の適用は可能である。 【解説】 1 やむを得ない事情がある場合 住宅取得資金贈与の特例において、「特定受贈者の居住の用に供したとき、又は同日後遅滞なく特定受贈者の居住の用に供することが確実であると見込まれるとき」とは、住宅取得等資金の贈与を受け、その全額を充てて住宅用家屋等の新築等をした者が、住宅用家屋等を現にその居住の用に供したとき、又はその住宅用家屋等をその居住の用に供することが確実であると見込まれるときをいう。 しかし、その者が、転勤、転地療養その他のやむを得ない事情により、配偶者、扶養親族その他その者と生計を一にする親族と日常の起居を共にしていない場合において、その者と生計を一にする親族が居住の用に供し、又は居住の用に供することが確実であると見込まれるときで、やむを得ない事情が解消した後はその者が共に当該住宅用家屋等に居住することとなると認められるときは、これに該当するものとして取り扱うこととされている(措通70の2-2)。 特例の適用対象となる住宅用家屋とは、その者が生活の拠点として利用している家屋をいうものであり、その者の親族を居住させるための住宅用家屋の新築等は、特例の要件に該当しない。しかし、その者が、転勤等のやむを得ない事由により一時的に家族と別居するような場合にまで適用を認めないとすることは適当ではないため、その者が転勤等のやむを得ない事情により、その住宅用家屋に居住できない場合においても、その者と生計を一にする親族がその住宅用家屋を居住の用に供しており、かつ、やむを得ない事情が解消した場合には、その者が共にその住宅用家屋に居住することとなるときには、その者の居住の用に供したものとして取り扱うこととされる。 2 やむを得ない事情なく居住の用に供しなかった場合 住宅取得等資金を贈与により取得した日の属する年の翌年3月15日後遅滞なく居住の用に供することが確実であると見込まれることにより、特例の適用を受けていた特定受贈者が、贈与を受けた年の翌年12月31日までに、居住の用に供することが確実と見込まれていた家屋を居住の用に供しなかったときは、この特例は適用されない。 この場合、住宅取得等資金を贈与により取得した日の属する年の翌年の12月31日から2ヶ月以内に修正申告書を提出し、その提出により納付すべき税額を納付しなければならない(措法70の2④、措通70の2-13)。 財産を取得した者が相続時精算課税適用者以外の者である場合には暦年課税により贈与税を計算し、相続時精算課税適用者である場合には、相続時精算課税に係る特別控除額を控除しないで贈与税を計算する(措通70の2-13(注))。 なお、修正申告書の提出がないときは、税務署長は更正を行うこととされている(措法70の2⑤)。 (連載了)