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貸倒損失における税務上の取扱い 【第31回】「判例分析⑰」

貸倒損失における税務上の取扱い 【第31回】 「判例分析⑰」   公認会計士 佐藤 信祐   第31回目においては、相続税の判例ではあるが、相続発生前に債権放棄を行うことにより、貸付金を消滅させ、相続財産全体についての相続税評価額を引き下げた行為について、同族会社等の行為計算の否認が適用されるか否かについて争われた事件について解説を行う。 法人税対策のために、債権放棄、DES又は第2会社方式等を行って、貸倒損失を認識するということは一般的に行われているが、このような行為が相続税においてどのように影響を与えるのかということは検討することが少ない。しかしながら、結果的に相続税評価額の引下げに繋がることもあるため、事業承継対策を行う際には、考慮しておいた方が望ましい判例であるといえる。   3 相続税における判例 (1) 第1審・浦和地裁昭和56年2月25日判決(行集32巻2号280頁、訟月27巻5号1005頁、判時1016号52頁、税資116号294頁) ① 判決の概要 財産評価基本通達204、205においては、金銭債権の評価について定められているが、法的に債権が消滅しない限り、金銭債権の評価を時価まで引き下げることは困難であり、券面額で評価されることが少なくない。 そのため、本事件においては、被相続人Xが支配する株式会社Yに対する金銭債権を、相続発生日よりも前に債権放棄を行うことにより、金銭債権の評価を0円にしたことにつき、相続税法64条に規定する同族会社等の行為計算の否認が適用されるか否かについて争われた。 第1審においては、民法519条により債権者による単独行為で行われるものであり、債務者である株式会社Yの行為であるとは言えないとして、原告の主張を認め、更正処分が取り消された。なお、本事件においては、宅地に関する課税価格についても争われているが、本連載は貸倒損失についての連載であるため、その部分についての解説は省略する。 ② 原告側(納税者)の主張 ③ 被告側(浦和税務署長)の主張 ④ 裁判所の判断 ⑤ 控訴審、上告審 東京高等裁判所、最高裁判所に、それぞれ原告が控訴、上告をしているが、争っている内容は本稿で省略した宅地に関する課税価格についてであり、本稿の内容である債権放棄については争われていないため、本連載においては、その解説を省略する。 ⑥ 総括 本事件は、債権放棄を行うことにより相続税評価額を引き下げた行為について、同族会社等の行為計算の否認が適用されるか否かについて争われた事件であり、相続税における債権放棄について争われた数少ない事例の一つである。 裁判所の判断としては、納税者の主張を全面的に認め、債権放棄は債権者である被相続人の単独行為であり、債務者である同族会社の行為ではないことから、同族会社等の行為計算の否認が適用されないと判示している。 しかしながら、DES(デット・エクイティ・スワップ)、第2会社方式といった手法を採用した場合には同族会社の行為でもあることから、この判決だけを読めば、同族会社等の行為計算の否認が適用される余地があるというのが、率直な印象である。 この点については、原告側が、相続開始時に存在しない金銭債権に対して相続税を評価できるのか否かというより根本的な争いをしていないことから、このような判決になっているが、実際にこのような主張をしたとしても、裁判所は認容せざるを得ない主張であったと考えられる。 この点につき、碓井光明助教授は、『判例時報1037号(判例時報社)』159頁において、主体の点に問題がない場合、すなわち、同族会社代表者の単独行為も否認の対象になると仮定したうえで、債権放棄後に債務超過が解消しないケース、すなわち、現在の相続税法基本通達9-2に該当しないケースにおいて、相続税法64条に規定する同族会社等の行為計算の否認を適用することができるか否かについて検討し、相続税の負担の軽減を積極的に意図している場合に限定する必要があると解説されている。 しかしながら、私見ではあるが、相続税の負担の軽減を積極的に意図していたとしても、存在しない財産について相続税を課税するということについては、同族会社等の行為計算の否認の対象にすること自体は難しいのではないかと考えられる。 たしかに、医者から自分の死期を告げられ、生きている前に散財してしまうようなケースについては、もはや経済実態的にも財産が存在しないことから、相続税の対象にすることができないのは当然ではあるが、本事件のように、同族会社の債務超過が軽減された結果、株式の評価は依然として0円のままであるのに対し、金銭債権の評価については、債権放棄により消滅していることから、結果的に引き下げることができるような場合には、相続人と同族会社を連結すれば、債権放棄を行う前と債権放棄を行った後で経済実態が変わっていないことから、同族会社等の行為計算の否認を適用できるのではないかという誤解が被告にあったこと分からなくはない。 しかしながら、相続税、贈与税は、相続、遺贈又は贈与により取得をした財産に対して課税されるものであり(相続税法2条、2条の2)、金銭債権という財産を取得していないにもかかわらず、相続税を課するというのはあまりにも無理のある理屈であり、主体の点に問題がなかったとしても、同族会社等の行為計算の否認の適用対象にすることは無理があると考えられる。 第15回から第31回までは判例分析を行った。第5回から第14回までで解説した無償取引についての判例も含め、貸倒損失についての主要な判例についてはおおむね触れることができたと思う。 次回以降は、貸倒損失についてのより具体的な理論について解説を行っていくが、まずは、法人税基本通達改正の歴史を遡ることにより、現在における貸倒損失に係る法人税基本通達の体系がどのように構築されていったのかについて解説を行う予定である。 (了)

#No. 96(掲載号)
#佐藤 信祐
2014/11/27

経理担当者のためのベーシック税務Q&A 【第21回】「設備投資と税額控除」

経理担当者のための ベーシック税務Q&A 【第21回】 「設備投資と税額控除」   仰星税理士法人 公認会計士・税理士 草薙 信久     1 中小企業投資促進税制 (1) 制度の概要 青色申告法人である中小企業者等が、平成29年3月31日までに機械装置等の対象設備を取得し、国内での指定事業(製造業、建設業、卸売業、小売業等)の用に供した場合には、取得価額の30%の特別償却または取得価額の7%の税額控除のいずれかを選択適用することができます(措法42の6、措令27の6、措規20の3)。 この制度の適用対象は、中小企業者等となります。また、税額控除は、中小企業者等のうち資本金の額が3,000万円以下の特定中小企業者等のみが選択できます。なお、税額控除は、その事業年度の法人税額の20%までが上限となり、その控除しきれなかった金額(繰越税額控除限度超過額)については、その後1年間の繰越しができます。 (2) 適用対象資産 平成29年3月31日までに次に掲げる設備を新品で取得し、指定事業の用に供したものが対象となります。   2 特定生産性向上設備等に該当する場合の上乗せ措置 (1) 制度の概要 中小企業者等が、産業競争力強化法の施行の日(平成26年1月20日)から平成29年3月31日までに特定機械装置等の特定生産性向上設備等を取得し、国内での指定事業(製造業、建設業、卸売業、小売業等)の用に供した場合には、取得価額の全額の即時償却または取得価額の7%の税額控除のいずれかを選択適用することができます。なお、特定中小企業者等に対しては、適用される税額控除割合が7%から10%に増額されています(措法42の12の5、措令27の12の5、措規20の10)。 (2) 適用対象資産 中小企業投資促進税制における貨物自動車と内航船舶以外の適用対象資産のうち、特定生産性向上設備等に該当するものが対象になります。また、特定生産性向上設備等に該当するためには、「A類型(先端設備)」または「B類型(生産ラインやオペレーションの改善に資する設備)」の要件のいずれかを満たす必要があります。 上乗せ措置を含めた特別償却と税額控除をまとめると、次のようになります。 また、適用対象資産は、次のように整理されます。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (※1) 一定の電子計算機に、複数合計120万円以上取得で上乗せ措置を適用する場合には、単品30万円以上であることが必要です。 (※2) 一定のソフトウェアに、複数合計70万円以上取得で上乗せ措置を適用する場合には、単品30万円以上であることが必要です。     3 設問の解説 ① 中小企業投資促進税制 設備の稼働状況等に係る情報収集・分析・指示機能をもつ1台70万円以上のソフトウェアとなりますので、中小企業投資促進税制の対象資産となります。 ② 特定生産性向上設備等に該当する場合の上乗せ措置 特定生産性向上設備等のA類型またはB類型に該当する場合には、上乗せ措置の対象資産となります。 ③ 現行措置 取得価額の30%の特別償却または取得価額の7%の税額控除のいずれかを選択適用することができます。 特別償却を選択する場合には、事業の用に供した年度において損金経理(利益処分方式も可)を要件に、300,000円(=1,000,000円×30%)分を特別償却費として損金に算入することができます。 税額控除を適用する場合には、最大で70,000円(=1,000,000円×7%)分の法人税が減額されます。 ④ 上乗せ措置 取得価額の全額の即時償却または取得価額の10%の税額控除のいずれかを選択適用することができます。 特別償却を選択する場合には、事業の用に供した年度において損金経理(利益処分方式も可)を要件に、800,000円(=1,000,000円×100%-普通償却限度額200,000円(=1,000,000円×0.2)分を特別償却費として損金に算入することができます。現行措置と比較して500,000円分の費用を多く計上することができます。 税額控除を適用する場合には、最大で100,000円(=1,000,000円×10%)分の法人税が減額され、現行措置と比較して最大で30,000円分の納税額が減少します。   ① 中小企業投資促進税制 車両総重量が3.5t以上の貨物自動車となりますので、中小企業投資促進税制の対象資産となります。 ② 特定生産性向上設備等に該当する場合の上乗せ措置 貨物自動車は特定生産性向上設備等には該当しませんので、生産性向上設備投資促進税制の適用はありません。 ③ 現行措置 取得価額の30%の特別償却または取得価額の7%の税額控除のいずれかを選択適用することができます。 特別償却を選択する場合には、事業の用に供した年度において損金経理(利益処分方式も可)を要件に、1,500,000円(=5,000,000円×30%)分を特別償却費として損金に算入することができます。 税額控除を適用する場合には、最大で350,000円(=5,000,000円×7%)分の法人税が減額されます。   ① 中小企業投資促進税制 ファイナンス・リース取引によって賃借した縦型ミキサーについては、賃借を始めた時点で資産を「取得」したものと取り扱われ、その取得価額が1台当たり160万円以上となりますので、中小企業投資促進税制の対象となります。 ② 特定生産性向上設備等に該当する場合の上乗せ措置 縦型ミキサーが特定生産性向上設備等(A類型またはB類型)に該当する場合には、生産性向上設備投資促進税制の上乗せ措置の適用を受けることができます。 ③ 現行措置 ファイナンス・リース取引のうち、所有権移転リース取引により賃借人が取得したものとみなされる資産については、特別償却または税額控除のいずれかを選択適用することができますが、所有権移転外リース取引により賃借人が取得したものとみなされる資産については、税額控除しか適用できません。 最大で175,000円(=2,500,000円×7%)分の法人税が減額されますが、特別償却を適用することはできません。 ④ 上乗せ措置 生産性向上設備投資促進税制の上乗せ措置の適用がある場合にも、税額控除しか適用できませんが、その割合が7%から10%に増額します。 税額控除額は、最大で250,000円(=2,500,000円×10%)分の法人税が減額され、現行措置と比較して最大で75,000円分の納税額が減少します。 (了)

#No. 96(掲載号)
#草薙 信久
2014/11/27

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第11回】「リース取引(借手)」

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第11回】 「リース取引(借手)」   仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋   【はじめに】 今回は、リース取引の借手の会計処理について解説する。 借手におけるリース取引の会計処理は以下の8つのSTEPで検討することになる。なお、本解説では企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」(以下「基準」という)及び企業会計基準適用指針第16号「リース取引に関する会計基準の適用指針」(以下「適用指針」という)適用前のリース取引の会計処理については解説していない。 ※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (次ページ【STEP1】へ進む) (前ページ【はじめに】へ戻る) リース取引は大きくファインス・リース取引とオペレーティング・リース取引に分けることができる。ファイナンス・リース取引とは解約不能で、借手がリース物件からもたらされる経済的利益を実質的に享受することができ、かつ、当該リース物件の使用に伴って生じるコストを実質的に負担する(フルペイアウト)ことになるリース取引をいう(基準5)。一方、オペレーティング・リース取引とは、ファイナンス・リース取引以外のリース取引をいう(基準6)。 ファイナンス・リース取引は売買処理に準じた会計処理(基準9)を行い、オペレーティング・リース取引は賃貸借処理に準じた会計処理(基準15)を行う。それぞれで会計処理が大きく異なるため、まず、ファイナンス・リースに該当するかオペレーティング・リースに該当するかを検討する。 具体的には、「現在価値基準」と「経済的耐用年数基準」のいずれかを満たす場合、解約不能、かつ、フルペイアウトを満たすためファイナンス・リース取引に該当する。いずれも満たさない場合にはオペレーティング・リース取引に該当する。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。   (1) 現在価値基準 現在価値基準の判定にあたっては、「解約不能のリース期間中のリース料総額の現在価値」と「見積現金購入価額」を算定することが必要となる。 ① 解約不能のリース期間中のリース料総額の現在価値の算定 解約不能のリース期間中のリース料総額の現在価値を算定する。現在価値を算定するためには、解約不能のリース期間中のリース料の集計と割引率の算定が必要である。 (ⅰ) 解約不能のリース期間中のリース料の集計 全リース期間のリース料ではなく、解約不能のリース期間中のリース料を集計する(適用指針9)。ここで、解約不能のリース期間とは、リース契約書で解約不能のリース期間を明記している場合のそのリース期間や解約時に未経過のリース期間に係るリース料全額を支払う場合のそのリース期間等をいう。 再リース期間については、再リースを行う意思が明らかな場合を除き、解約不能のリース期間には含めない(適用指針11)。 また、リース料に含まれている維持管理費用相当額、通常の保守等の役務提供相当額(以下「維持管理費用相当額等」という)は、原則、リース料総額から控除するのが原則である。しかし、一般的に、契約書等で維持管理費用相当額等が明示されない場合が多く、また、当該金額はリース物件の取得価額相当額に比較して重要性が乏しい場合が少なくない。そのため、維持管理費用相当額等は、その金額がリース料に占める割合に重要性が乏しい場合、これをリース料総額から控除しないことができる(適用指針14)。 さらに、リース契約上に残価保証(リース期間終了時にリース物件の処分価額が契約上取り決めた保証価額に満たない場合に、借手がその不足額を貸手に支払う義務)の取り決めがある場合は、残価保証額をリース料総額に含める(適用指針15)。 (ⅱ) 割引率の算定 現在価値を算出するため割引率が必要となる。割引率は借手が貸手の計算利子率を知り得る場合と知り得ない場合で異なる。 借手が貸手の計算利子率を知り得ない場合がほとんどのため、(ロ)の利率を用いることが多い。 (ⅲ) 解約不能のリース期間中のリース料総額の現在価値の算定 (ⅰ)で集計した解約不能のリース期間中のリース料を(ⅱ)で算定した割引率で割引計算を行う。 ② 見積現金購入価額の算定 見積現金購入価額は、リース物件の貸手の現金購入価額又は借手に対する現金販売価額(以下、「貸手の現金購入価額等」という)が借手において明らかな場合と明らかでない場合で異なる(適用指針95)。 貸手の現金購入価額等は、通常、借手は知り得ないため(ⅱ)を用いることが多い。 ③ 判定 以下の算式で算定された割合が概ね90%以上の場合、ファイナンス・リース取引に該当する(適用指針9(1))。ファイナンス・リース取引に該当した場合、【STEP2】を検討する。 概ね90%未満の場合、次に解説する(2)の経済的耐用年数基準を検討する。なお、90 %を大きく下回る場合、フルペイアウトの要件を満たさないことから、オペレーティング・リース取引に該当する(適用指針9(2))ことになるため、(2)の検討は不要となり、【STEP7】を検討する。 なお、適用指針では「概ね90%以上」とされているため、90%未満であるからといって必ずしもファイナンス・リース取引に該当しないわけではない。例えば、89%、88%である場合など、90%未満であっても実質的にフルペイアウトと考えられる場合にはファインス・リース取引に該当する(適用指針94)。   (2) 経済的耐用年数基準 経済的耐用年数基準の判定にあたっては、「解約不能のリース期間」と「経済的耐用年数」を算定することが必要となる。 ① 解約不能のリース期間の算定 解約不能のリース期間とは、上記(1)①(ⅰ)の解説のとおりである。なお、再リース期間については、再リースを行う意思が明らかな場合を除き、解約不能のリース期間には含めない(適用指針12)。 ② 経済的耐用年数の見積り 経済的耐用年数は物理的使用可能期間ではなく経済的使用可能予測期間に見合った年数である。なお、経済的使用可能予測期間と著しい相違がある等の不合理と認められる事情のない限り、税法耐用年数を用いることができる(適用指針96)。 ③ 判定 以下の算式で算定された割合が概ね75%以上の場合、ファイナンス・リース取引に該当する(適用指針9(2))。ファイナンス・リース取引に該当した場合、【STEP2】を検討する。 概ね75%未満の場合、オペレーティング・リース取引に該当することになるため、【STEP7】を検討する。 なお、適用指針では「概ね75%以上」とされているため、75%未満であるからといって必ずファイナンス・リース取引に該当しないわけではない。例えば、74%や73%である場合など、75%未満であっても実質的にフルペイアウトと考えらえる場合には、ファインス・リース取引に該当する(適用指針94)。 (次ページ【STEP2】へ進む) (前ページ【STEP1】へ戻る) ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 ファイナンス・リース取引は売買処理に準じた会計処理を行う(基準9)が、少額リース資産に該当する場合、オペレーティング・リース取引と同様(【STEP7】参照)に賃貸借処理に準じた会計処理を行うことができる(適用指針34、35(1))。 重要性が乏しい減価償却資産について、購入時に費用処理する方法を採用している場合に、リース料総額が、その重要性が乏しいと判断する金額(以下「基準額」という)以下の場合、少額リース資産に該当する。この基準額は各社で設定する必要がある。 例えば、20万円未満の減価償却資産について購入時に費用処理している場合、リース取引においても20万円未満のリース資産は賃貸借処理に準じた会計処理を行うことができる。 リース料総額が「基準額」以下の場合は【STEP7】を検討する。リース料総額が「基準額」超の場合は【STEP3】を検討する。 なお、リース料総額にはリース物件の取得価額のほかに利息相当額が含まれているため、「基準額」は各社が減価償却資産の処理について採用している「基準額」より利息相当額だけ高めに設定することができる。また、この「基準額」は通常取引される単位ごとに適用されるため、リース契約に複数の単位のリース物件が含まれる場合は、当該契約に含まれる物件の単位ごとに適用できる(適用指針35(1))。 (次ページ【STEP3】へ進む) (前ページ【STEP2】へ戻る) ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 ファイナンス・リース取引でリース期間が1年以内の短期リース取引に該当する場合、オペレーティング・リース取引と同様に賃貸借処理に準じた会計処理を行うことができる(適用指針34、35(2))。 リース期間が1年以内の場合は【STEP7】を検討する。リース期間が1年超の場合は【STEP4】を検討する。 (次ページ【STEP4】へ進む) (前ページ【STEP3】へ戻る) ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 リース期間終了後又はリース期間の途中で、所有権が借手に移転するかどうかで会計処理が異なる。そのため所有権が借手に移転するかどうかを判断する必要がある。 以下に該当する場合、所有権移転ファイナンス・リース取引に該当する(適用指針10、97)。 所有権移転ファイナンス・リース取引に該当する場合、【STEP6】を検討する。所有権移転外ファイナンス・リース取引に該当する場合、【STEP5】を検討する。 (次ページ【STEP5】へ進む) (前ページ【STEP4】へ戻る) 所有権移転外ファイナンス・リース取引は売買処理に準じた会計処理を行う(基準9)。ただし、企業の事業内容に照らして重要性の乏しいリース取引で300万円以下(維持管理費用相当額等のリース料総額に占める割合が重要な場合には、その合理的見積額を除くことができる)のリース取引については、賃貸借処理に準じた会計処理を行うことができる(適用指針34、35(3))。 具体的には以下の順に検討することになる。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。   (1) 企業の事業内容に照らして重要性の乏しいリース取引で、リース契約1件当たりのリース料総額が300万円以下のリース取引 ここでは、企業の事業内容に照らして重要性の乏しいリース取引で、リース契約1件当たりのリース料総額が300万円以下のリース取引に該当するか否かを検討する。 1つのリース契約に科目の異なる有形固定資産又は無形固定資産が含まれている場合は、異なる科目ごとに、その合計金額により判定することができる(適用指針35(3))。例えば、1つのリース契約に建物附属設備、器具備品、機械装置、ソフトウェアというように異なる科目が含まれている場合には、異なる科目ごとに判定することができる。 企業の事業内容に照らして重要性の乏しいリース取引で、リース契約1件当たりのリース料総額が300万円以下のリース契約に該当する場合、賃貸借処理に準じた会計処理を行うことができる(適用指針34)ため、【STEP7】を検討する。該当しない場合、売買処理に準じた会計処理を行うため、下記(2)以降を検討する。 なお、ここでの判定は300万円以下のリース契約という金額要件だけではなく、企業の事業内容に照らして重要性の乏しいリース取引という要件も満たす必要があることに留意が必要である。300万円以下の取引であっても、企業の事業内容に照らして重要性が乏しくない場合には、売買処理に準じた会計処理を行う必要がある。   (2) リース資産総額の重要性の判定 リース資産総額に重要性が乏しい場合、売買処理に準じた会計処理の中で簡便的な会計処理(下記(4)②参照)を行うことが認められている。 具体的な判定は、「未経過リース料の期末残高」の「未経過リース料の期末残高+有形固定資産及び無形固定資産残高の合計額」に対する割合で行い、これが10%未満の場合、リース資産総額の重要性は乏しいと判断する(適用指針32)。 重要性が乏しくない場合、下記(3)を検討する。重要性が乏しい場合、下記(4)を検討する。 上記の算定式における未経過リース料の期末残高には、以下のものは含まれない。 また、有形固定資産及び無形固定資産の期末残高には、所有権移転外ファイナンス・リース取引に係るリース資産の期末残高分は除くと考えられる。これは、所有権移転外ファイナンス・リース取引に係る未経過リース料が未経過リース料の残高に含まれているからである。   (3) リース資産総額の重要性が乏しくない場合の会計処理 リース資産総額の重要性が乏しくない場合、以下の3つを検討し売買処理に準じた会計処理を行う。 ① リース資産及びリース債務の計上額 貸手の現金購入価額等が明らかな場合と明らかでない場合で、リース資産及びリース債務の計上額は異なる。 (ⅰ) 貸手の現金購入価額等が明らかな場合 貸手の現金購入価額等が明らかな場合、リース料総額(残価保証がある場合は、残価保証額を含む。【STEP1】(1)①(ⅰ)参照)を【STEP1】(1)①(ⅱ)の割引率で割り引いた現在価値と貸手の現金購入価額等(【STEP1】(1)②参照)のいずれか低い価額によりリース資産及びリース債務を計上する(適用指針22(1))。通常、企業は同一のものであれば、金額が安い方を購入するため、低い価額の方で貸借対照表に計上することになる。 (ⅱ) 貸手の現金購入価額等が明らかでない場合 貸手の現金購入価額等が明らかでない場合、リース料総額(残価保証がある場合は、残価保証額を含む。【STEP1】(1)①(ⅰ)参照)を【STEP1】(1)①(ⅱ)の割引率で割り引いた現在価値と見積現金購入価額(【STEP1】(1)②参照)のいずれか低い価額によりリース資産及びリース債務を計上する(適用指針22(2))。低い価額の方で計上する理由は(ⅰ)と同様である。 また、貸手の現金購入価額等は明らかでない場合が多いので、(ⅱ)を用いることが多い。 ② 支払リース料の利息相当額 リース料総額は、利息相当額部分とリース債務の元本相当額部分とに区分計算し、利息相当額部分は利息法により各期に支払利息(下記(ⅱ)参照)として会計処理し、元本相当額部分はリース債務の元本返済として会計処理する(適用指針23、24)。現在価値基準(【STEP1】(1)参照)の判定上、維持管理費用相当額等をリース料総額から控除している場合、リース料総額から維持管理費用相当額等の合理的見積額を差し引く。維持管理費用相当額等は発生時にその内容を示す勘定科目で費用計上する(適用指針25、26)。 利息相当額の総額及び各期に計上する支払利息(利息法)は以下のようになる。 (ⅰ) 利息相当額の総額 利息相当額の総額は、リース取引開始日のリース料総額とリース資産(リース債務)の計上価額との差額になる(適用指針23)。 (ⅱ) 各期に計上する支払利息(利息法) 利息法により各期に計上する支払利息はリース債務の未返済元本残高に一定の利率(リース料総額の現在価値がリース取引開始日におけるリース資産(リース債務)の計上価額と等しくなる利率)を乗じて計算する(適用指針24)。 ③ リース資産の減価償却 リース資産の減価償却においても通常の固定資産と同様に耐用年数、残存価額、償却方法を決定する必要がある。 (ⅰ) 耐用年数 原則として、リース期間を耐用年数とする。リース期間終了後の再リース期間をファイナンス・リース取引の判定においてリース期間に含めている場合、再リース期間を耐用年数に含める(適用指針27)。 (ⅱ) 残存価額 残存価額は原則としてゼロとする。リース契約上に残価保証の取決めがある場合、原則として、当該残価保証額を残存価額とする(適用指針27)。 (ⅲ) リース資産の償却方法 リース資産の償却方法は、定額法、生産高比例法等から企業の実態に応じて選択する。自己所有の固定資産に適用する減価償却方法と同一の方法を選択する必要はない(適用指針28)。 会計処理の検討後は、【STEP8】(1)で注記を検討する。 《設例1》 当期首に所有権移転外ファイナンス・リース取引の契約を締結した。 当該リース取引に関する基本情報は以下のとおりである。 【基本情報】 借手の見積現金購入価額は12,500である。 リース期間は5年である。 リース料総額は15,000(消費税抜き)である。 リース料は1年に1回、年度末に3,000(消費税抜き)ずつ支払う。 償却方法は定額法である。 貸手の計算利子率は知り得ない。 借手の追加借入利子率は年5%である。 リース資産総額の重要性は乏しくない。 【会計処理】 (1) リース資産及びリース負債の計上 (※1) ① 現在価値基準 ② 借手の見積現金購入価額12,500 ③ ①>②のため、リース資産計額は12,500 (※2) 15,000×8%=1,200 (※3) (※1)+(※2)=13,700 (2) 支払リース料の支払い時 (※4) (※7)-(※5)=2,439 (※5) リース債務13,700×(※6)≒801 (※6) リース料総額の現在価値とリース取引開始日におけるリース資産(リース債務)の計上価額が等しくなる利率 (注) 上記利率は消費税込みのリース債務をもとに計算する場合と消費税抜きのリース債務をもとに計算する場合が考えられる。本設例では消費税込みのリース債務をもとに計算する場合で算定している。 (※7) 3,000×1.08=3,240 (3) 減価償却 (※8) リース資産12,500÷リース期間5年=2,500   (4) リース資産総額の重要性が乏しい場合の会計処理 リース資産総額の重要性が乏しい場合、上記(3)と同様に、以下の3つを検討し、売買処理に準じた会計処理を行う。 ① リース資産及びリース債務の計上額 貸手の現金購入価額等が明らかな場合と明らかでない場合で、リース資産及びリース債務の計上額は異なる。 (ⅰ) 貸手の現金購入価額等が明らかな場合 利子込み法(下記②(ⅰ)参照)を採用している場合は、リース料総額でリース資産及びリース負債を計上する。利息相当額の総額を定額法で配分する方法(下記②(ⅱ)参照)を採用している場合は、上記(3)①(ⅰ)と同様である。 (ⅱ) 貸手の現金購入価額等が明らかでない場合 利子込み法(下記②(ⅰ)参照)を採用している場合は、リース料総額でリース資産及びリース負債を計上する。利息相当額の総額を定額法で配分する方法(下記②(ⅱ)参照)を採用している場合は、上記(3)①(ⅱ)と同様である。 ② 支払リース料の利息相当額 支払リース料のうち利息相当額は利息法による会計処理が原則であるが、リース資産総額の重要性が乏しい場合、以下の2つの方法のいずれかを選択することができる(適用指針31)。 ③ リース資産の減価償却 リース資産の減価償却においても通常の固定資産と同様に耐用年数、残存価額、償却方法を決定する必要がある。 (ⅰ) 耐用年数 上記(3)③(ⅰ)と同様である。 (ⅱ) 残存価額 上記(3)③(ⅱ)と同様である。 (ⅲ) リース資産の償却方法 上記(3)③(ⅲ)と同様である。 なお、注記の検討は不要である(【STEP8】(1)参照)。 《設例2》 当期首に所有権移転外ファイナンス・リース取引の契約を締結した。 当該リース取引に関する基本情報は以下のとおりである。 【基本情報】 借手の見積現金購入価額は12,500である。 リース期間は5年である。 リース料総額は15,000(消費税抜き)である。 リース料は1年に1回、年度末に3,000(消費税抜き)ずつ支払う。 償却方法は定額法である。 貸手の計算利子率は知り得ない。 借手の追加借入利子率は年5%である。 リース資産総額の重要性は乏しく、利子込み法を採用している。 【会計処理】 (1) リース資産及びリース負債の計上 (※1) リース料総額 (※2) 15,000×8%=1,200 (※3) (※1)+(※2)=16,200 (2) 支払リース料の支払い時 (※4) 3,000×1.08=3,240 利子込み法のため支払利息は計上されない。 (3) 減価償却 (※5) リース資産15,000÷リース期間5年=3,000 (次ページ【STEP6】へ進む) (前ページ【STEP5】へ戻る) 所有権移転ファインス・リース取引でも所有権移転外ファイナンス・リース取引と同様に以下の3つを検討し、売買処理に準じた会計処理を行う。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。   (1) リース資産及びリース債務の計上額 貸手の現金購入価額等が明らかな場合と明らかでない場合で、リース資産及びリース債務の計上額は異なる。 (ⅰ) 貸手の現金購入価額等が明らかな場合 貸手の現金購入価額等が明らかな場合、当該現金購入価額等でリース資産及びリース債務を計上する(適用指針37(1))。 (ⅱ) 貸手の現金購入価額等が明らかでない場合 貸手の現金購入価額等が明らかでない場合、【STEP5】(3)①(ⅱ)と同様にリース料総額(残価保証がある場合は、残価保証額を含む)を【STEP1】(1)①(ⅱ)の割引率で割り引いた現在価値と見積現金購入価額(【STEP1】(1)②参照)のいずれか低い価額によりリース資産及びリース債務を計上する。割安購入選択権(【STEP4】参照)がある場合は、リース料総額にこの行使価額を含める(適用指針37(2))。 また、貸手の現金購入価額等は明らかでない場合が多いので、(ⅱ)を用いることが多い。   (2) 支払リース料の利息相当額 所有権移転外ファイナンス・リース取引と同様に、リース料総額は、利息相当額部分とリース債務の元本相当額部分とに区分計算し、利息相当額部分は利息法により各期に支払利息として会計処理し、元本相当額部分はリース債務の元本返済として会計処理する(適用指針38、39、23、24)。 現在価値基準の判定上、維持管理費用相当額等をリース料総額から控除している場合、リース料総額から維持管理費用相当額等の合理的見積額を差し引く。維持管理費用相当額等は発生時にその内容を示す勘定科目で費用計上する(適用指針40、41、25、26)。 また、利息相当額の総額及び各期に計上する支払利息(利息法)は以下のようになる。内容は【STEP5】(3)②と同様である。 (ⅰ) 利息相当額の総額 利息相当額の総額は、リース取引開始日のリース料総額とリース資産(リース債務)の計上価額との差額になる(適用指針38、23)。 (ⅱ) 各期に計上する支払利息(利息法) 利息法により各期に計上する支払利息はリース債務の未返済元本残高に一定の利率(リース料総額の現在価値がリース取引開始日におけるリース資産(リース債務)の計上価額が等しくなる利率)を乗じて計算する。割安購入選択権がある場合は、リース料総額にその行使価額を含める(適用指針39、24)。   (3) リース資産の減価償却 リース資産の減価償却においても通常の固定資産と同様に耐用年数、償却方法を決定する必要がある。 (ⅰ) 耐用年数 経済的使用可能予測期間を用いる(適用指針42)。 (ⅱ) リース資産の償却方法 自己所有の固定資産に適用する減価償却方法と同一の方法を用いる(適用指針42)。 会計処理の検討後は、【STEP8】(1)で注記を検討する。 (次ページ【STEP7】へ進む) (前ページ【STEP6】へ戻る) ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 オペレーティング・リース取引では賃貸借処理に準じた会計処理を行う(基準15)。したがって、資産計上は行わず、支払リース料を発生時に費用処理する。 会計処理の検討後は、【STEP8】(2)で注記を検討する。 (次ページ【STEP8】へ進む) (前ページ【STEP7】へ戻る) ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 ファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引で注記内容が異なる。   (1) ファイナンス・リース取引 主なリース資産の種類等及び減価償却費の方法を注記する。ただし、重要性が乏しい場合は注記を要しない(基準19)。 重要性が乏しい場合とは、【STEP5】(2)と同様にリース資産総額に重要性が乏しい場合をいう(適用指針71)。 なお、主なリース資産の種類等については、計算書類では必ずしも注記はもとめられていない。   (2) オペレーティング・リース取引 オペレーティング・リース取引のうち解約不能のものに係る未経過リース料を、貸借対照表日後1 年以内のリース期間に係るものと、貸借対照表日後1 年を超えるリース期間に係るものとに区分して注記する。ただし、重要性が乏しい場合は注記を要しない(基準22)。 解約不能のリース取引として取り扱われるものは、【STEP1】(1)①(ⅰ)と同様である。リース期間の一部分の期間について契約解除をできないこととされているものについては、当該リース期間の一部分に係る未経過リース料を注記する(適用指針74)。 また、重要性が乏しい場合とは、以下のいずれかに該当する場合をいう(適用指針75)。 なお、計算書類では必ずしも上記、注記はもとめられていない。 *   *   * 以上、5つのステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (了)

#No. 96(掲載号)
#西田 友洋
2014/11/27

IFRSの適用と会計システムへの影響 【第2回】「『複数元帳』への対応」

IFRSの適用と会計システムへの影響 【第2回】 「『複数元帳』への対応」   公認会計士 小田 恭彦     「2つの総勘定元帳」が必要に IFRSが適用となるのは上場企業等が開示する連結財務諸表のみです。よって連結財務諸表作成のベースとなる企業グループ各社の個別財務諸表をIFRS適用し、それをもとに連結財務諸表を作成する必要があります。 一方で、個別財務諸表は適用対象外です。つまり、税務申告等のための各社の個別財務諸表は従来どおり日本基準で作成することになります。 このためIFRSを適用する企業及びそのグループ各社はIFRSと日本基準の2つの個別財務諸表を作成する必要があることから、「2つの総勘定元帳」が必要になります。   複数元帳の構造 従来の会計システムでは、通常、総勘定元帳は1つです。これまでは複数の総勘定元帳を用意して1つの事実に対し異なった会計処理をするという考え方は、基本的にありませんでした。 よって、これまでの会計システムを使ってIFRSを適用する企業及びそのグループ各社がIFRSと日本基準の2つの総勘定元帳を手配するには、会計システムを2つ用意する必要が生じます。 厳密に言うと、会計システム自体を2つ用意するのではなく、1つの会計システムの中に2つの会社を設定し、それぞれの会計基準に準拠した総勘定元帳を作成することになります。 確かにこの方法でも2つの総勘定元帳を持つことは可能ですが、取引を常に二重に登録する必要があったり、両基準の差異内容の把握も難しかったりと現実的ではありません。 そこで登場したのが「複数元帳」機能です。 複数元帳対応の会計システムは、1つの会社の中で複数の元帳を保持することができます。 具体的には下図のようなイメージになります。 〈複数元帳機能のイメージ図〉 IFRSを適用した場合でも、通常ほとんどの取引はIFRSと日本基準で同じ会計処理を適用しますので、共通的な会計処理に関しては共通処理として計上し両者で共有します((B)の部分)。 そして、IFRSと日本基準で異なる会計処理が求められる事項に関しては、それぞれの元帳を指定し、それぞれの会計処理を適用します((C)の部分)。 その結果、「期首残高(A)」+「当期の取引の共通処理(B)」+「当期の取引-各会計基準で異なる処理(C)」を集計することにより、それぞれの元帳を作成します((D)の部分)。 そのうえで、IFRSの総勘定元帳は連結財務諸表作成の元データとして使い、日本基準の総勘定元帳は個別財務諸表の元データとして税務申告等に使います。   会計システムの複数元帳対応の状況 このような複数元帳機能は、2005年における欧州のIFRS適用の頃から欧州製のERPパッケージ(統合型業務システム)を中心に対応がされはじめ、IFRSを適用している日系企業でもこれらのERPシステムが多く採用されています。 日本製会計システムの対応状況ですが、2009年6月30日に金融庁-企業会計審議会から「我が国における国際会計基準の取扱いに関する意見書(中間報告)」が公表された当時は、企業もIFRS対応を主な目的とした会計システム刷新の動きが高まったのを受け、多くの会計システムベンダーも「複数元帳対応」をする方向で動き出しました。 しかし、数年後のIFRS強制適用が延期されたことにより、企業側も会計システムベンダー側も一気にトーンダウンしました(詳しくは前回を参照)。 現在は、IFRS導入を目指す比較的大規模な企業をターゲットにしている大手会計システムベンダーの一部は実際に複数元帳に対応しましたが、中堅企業向け会計システムベンダーの多くは、対応を見合わせたようです。   複数元帳が必要なのは親会社だけか? 連結財務諸表の作成にはグループ各社の個別財務諸表が必要であるため、IFRSで連結財務諸表を作成するためには親会社だけでなく、その子会社もIFRSの個別財務諸表を作成する必要があります。 よって、基本的にグループ各社は、複数元帳対応の会計システムを利用することに越したことはありません。ただ、現実的には以下のポイントを考慮したうえで、グループ各社の複数元帳対応の要否を決定することになろうかと思います。   複数元帳に対応しない場合のIFRS個別財務諸表の管理 複数元帳を使わない場合には、総勘定元帳は日本基準で作成しIFRSの個別財務諸表との差分はシステムの外で把握したうえで、連結の際に日本基準の個別財務諸表にその差分を反映することで、IFRSの個別財務諸表を作成することになります。 この作業は各子会社が行う場合もありますし、子会社からは日本基準の個別財務諸表で報告を受け親会社が行う場合もあります。 *   *   * なお本文中、意見に関する部分は私見であることを申し添えます。  (了)

#No. 96(掲載号)
#小田 恭彦
2014/11/27

〔会計不正調査報告書を読む〕【第23回】ジャパンベストレスキューシステム株式会社・「第2次第三者委員会調査報告書(平成26年7月28日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第23回】 ジャパンベストレスキューシステム株式会社・ 「第2次第三者委員会調査報告書(平成26年7月28日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝     【ジャパンベストレスキューシステム株式会社の概要(再掲)】 ジャパンベストレスキューシステム株式会社(以下「JBR」という)は、1997(平成9)年創業。創業時の社名は、日本二輪車ロードサービス株式会社。その後、平成11年8月に現社名に変更。 JBRホームページには、以下のような事業目的が記載されている。 連結売上高10,405百万円、連結経常利益141百万円(数字はいずれも平成25年9月期)。従業員数196名。本店所在地、愛知県名古屋市。東証1部、名証1部上場。   【2014(平成26)年5月以降の適時開示】   【概 要】   第2次調査委員会による報告書のポイント 1 第三者委員会の再設置に至った経緯 平成26年5月2日に設置された調査委員会(以下「第1次調査委員会」という)で調査の対象となった株式会社バイノス(以下「バイノス」という)における不適正な売上計上については、調査報告書受領後の6月13日に公表されたJBRの2014年9月期第2四半期報告書には、追加情報として以下の記載がある。 これに加えて、会計監査人である有限責任監査法人トーマツ(以下「トーマツ」という)は、平成26年9月期第2四半期において出資し、関連会社としている日本電源技術社株式会社(以下「NDG」という)の出資に関する減損処理及びNDG向け貸付金に対する貸倒引当金計上などの一連の取引に関する経済合理性についての疑義を指摘しており、再設置された第三者委員会(以下「第2次調査委員会」という)により、調査と評価を行うこととなった。   2 第2次調査報告書により判明した事実(その① バイノスにおける不適正な売上計上) (1) 調査・検討対象 第2次調査委員会では、第1次調査委員会における結論を前提に、不適正な売上計上について、JBR代表取締役社長榊原氏(以下「榊原社長」という)、JBR取締役管理部長鈴木氏(以下「鈴木取締役」という)、JBR取締役加盟店サポート部長竹内氏(以下「竹内取締役」という)及びJBR管理法務グループ兼バイノス取締役F氏(以下「F氏」という)の関与または認識していたか否かを判断するため、関係者に対するヒアリング、受領した書類及びデータの閲覧・検討、役職員が使用していたPC及びサーバーから保全したデータの分析により、調査を行った。 (2) 榊原社長の関与又は認識 e-mail調査及び他の関係者のヒアリングによれば、榊原社長自身は、バイノスの個々の現場や案件等を把握しておらず、不適正な売上計上についての関与又は認識を推察させる証拠はないことから、第2次調査委員会は、同氏の関与又は認識があったとまでは認められないと判断した。 (3) 鈴木取締役の関与又は認識 鈴木取締役及びその他の関係者は、同氏がバイノスにおける不適正な売上計上についての関与又は認識を否定し、逆に、同氏がバイノスに対する管理を強めていたことをうかがわせるe-mailが存在していたことを併せて検討した結果、第2次調査委員会は、同氏の関与又は認識があったとまでは認められないと判断した。 (4) 竹内取締役の関与又は認識 第2次調査委員会は、竹内取締役に送信された複数のe-mailには、売上の先行計上が強く推認される記載があり、同氏がそれらのe-mailを読んだことを認めていることから、同氏は、バイノスにおける不適正な売上計上の事実を認識していたと判断したが、一方、同氏が調達業務を担当していたこと、不適正な売上計上について命令又は指示をしたことを推認させる証拠はないことから、積極的に関与したとまでは認められないとした。 (5) F氏の関与又は認識 F氏に送信されたe-mailには、バイノスにおける不適正な売上計上に関係するものはなく、他の証拠からも、同氏が不適正な売上計上に関与又はこれを認識していたことを推認させるものはなく、第2次調査委員会は、同氏について、関与又は認識があったとまでは認められないと判断した。   3 第2次調査報告書により判明した事実(その② NDGに対する投融資) (1) 調査・検討対象 JBRは、NDGに対する投融資について、平成26年第2四半期において、貸付金121,000千円全額に貸倒引当金を設定し、出資金及び出資に係る付随費用33,975千円全額を減損処理している。 第2次調査委員会の調査内容は以下の2点である。 第2次調査委員会は、役職員その他関係者に対するヒアリング、受領した書類及びデータの閲覧・検討、PC及びサーバーから保全したデータの分析により、調査を行った。 (2) 投融資に至った経緯 平成26年2月5日、JBR榊原社長は、知人を介してNDG代表取締役社長原田克平(以下「原田社長」という)と面会し、資金支援の要請を受けた。原田社長から、NDGの手がけるLED照明ビジネスの将来性を聞かされ、提携によるJBRのメリットがあると判断した榊原社長は、投資を検討することを伝えた。 その後、法務デューデリジェンス、財務デューデリジェンス及び株価算定などを専門家に依頼し、並行して、NDG製LED照明と他社製品とのスペックの比較など、技術的裏付けについても検討を行った。 そして、平成26年2月27日は、以下の内容で取締役会決議を行った(ただし会社法370条に基づくみなし決議(※))。 JBRは、同決議に基づき、同月27日付で投資契約書を、同月28日付で金銭消費貸借契約書を締結し、実行した。同時に、集合物根譲渡担保設定契約及び債権根譲渡担保設定契約に基づき、動産譲渡登記及び債権譲渡登記手続がされている。 (3) 本件投融資の判断内容について 第2次調査委員会は、以下の判断に基づき、本件投融資についてその判断過程及び内容に著しく不合理な点があるとまでは認められないから、JBR各取締役が善管注意義務に違反したとまでは認められないと判断した。 (4) NDGにおける資金調達及び使途に関する検討 第2次調査委員会は、NDGにおける資金調達に不適切な点がないかどうか、また、資金使途に合理性があるかどうかを検討したところ、いずれも、不適切と認められるに足りる疑義は確認できなかった、としている。   4 改善報告書 (1) 東京証券取引所による公表措置 JBRによる2度にわたる第三者委員会の設置を受け、東京証券取引所は、8月8日、「公表措置及び改善報告書の徴求について」をリリースした。その理由として、次のように説明している。 (2) 取締役及び監査役の辞任 改善報告書では、バイノスにおける不適切な売上計上に関与し、又はこれを認識していた湯川社長、竹内取締役及びJBR管理部経理グループ・シニアマネージャーD氏(第1次調査報告書ではY氏とされていた)は、8月25日開催予定のバイノス臨時株主総会で辞任し、新任取締役が選任されることが報告されている。 (3) 再発防止に向けた改善措置 改善報告書に記載された改善措置については、以下のとおりである。   -3度目の第三者委員会設置へ- 再発防止策を実行中のJBRに、グループの元関係者から告発文書が届いたのは、平成26年10月20日。JBRは、「告発文書に係る記載内容等には信憑性に疑義がある」としながらも、3度目の第三者委員会の設置に踏み切った。 その目的としては、以下の4点を挙げている(同月29日リリース)。 今般の告発文書はJBR榊原社長に関わるものであり、過去2回の調査委員会とは調査の範囲を異にする可能性もあるが、第3次調査委員会がどのような結論を導くのか、注目されていたところ、本稿執筆中の11月11日、第3次調査報告書が公表された。 第3次調査報告書については、内容を検証のうえ、次回の本連載で取り上げたい。 (第24回(12/4公開)へ続く)

#No. 96(掲載号)
#米澤 勝
2014/11/27

公的年金制度の“今”を知る 【第4回】「公的年金制度の今後を考える」

公的年金制度の“今”を知る 【第4回】 (最終回)  「公的年金制度の今後を考える」   特定社会保険労務士 大東 恵子   1 女性の労働参加と少子化脱却という2つの課題の同時達成 6月3日に公的年金制度の今後を考えるうえで非常に重要な「平成26年財政検証結果」と「オプション試算結果」が厚生労働省から発表された。 公的年金は、少なくとも5年ごとに財政見通しを作成し、年金財政の健全性を検証することとされ、今年はちょうどその5年ごとの年に当たった。平成21年以来、2回目の検証となるが、今回の試算では、前回「前提が甘い」という批判を受け、8パターンの経済前提で計算された。 現在の公的年金制度は、少子高齢化と連動させて受給できる年金額を削減することにより財政のバランスを保つ仕組みになっている。今回の財政検証結果を読み解くにあたっても、私たちは「将来、受給できる年金がどこまで減るのか」を見ることになる。特に、将来のモデル世帯の年金水準が、法律で決められた下限(現役世代の平均手取り収入の50%)を超えているかどうかが、判断のポイントとなる。 今回の財政検証結果では、計算の前提に「女性」の労働参加を見込むかどうかで、結果が大きく分かれることが明らかになった。 女性の労働参加が進むパターンが実現すれば、将来の給付水準が法律で定められた下限を上回る結果になるものの、女性の労働参加が進まないパターンの場合、法定の下限を下回る結果となった。また、女性の労働参加が進むパターンでも、将来の日本全体の出生率が全国最下位の東京並みに低下すれば、給付水準が下限を下回る結果となった。 「女性の労働参加」と「少子化脱却」という2つの課題の同時達成、すなわち、男女が協力して子どもを産み育てながら仕事を続けられる社会の実現が、公的年金ひいては日本の未来を左右する重要な鍵となることが改めて見て取れる。 このようなケースを「実現困難」と捉えず、子どもを育てながら仕事を続けられる社会の実現に向けて社会をどう変えていくか。政治は、現役世代の保険料を担う側の社会的進出を促進する具体策の検討に注力すべきだろう。   2 若年世代と公的年金制度 厚生労働省の調査(平成23年)によると、20代の国民年金の第1号被保険者のうち保険料の支払い義務がある人(学生納付特例など納付の猶予・免除者を除く)の約46%が保険料を滞納している。 ここでは、20代で保険料を滞納した理由から、若年世代と公的年金制度の未来を考えてみる。 滞納理由のうち最も多い理由は「保険料が高く納付が困難」である。 若年世代の国民年金加入者のうち、非正規労働者の比率は20代前半では約38%、20代後半でも34%と高く、そもそも収入の少ない若年世代にとって保険料を納付し続けること自体に困難を伴っているのが現実である。若年世代が保険料を納付できない現状が意味すること、若年世代の雇用対策など根本的な社会構造が是正されない限り、年金制度に未来はない。 滞納理由のうち2番目に多い理由は、「公的年金制度や厚生労働省が信用できない」という『年金不信』であった。 根拠のない「年金破綻説」や「年金保険料の払い損説」など、年金不安を煽る一部世論に影響されている側面があることは否定できない。第3回でも述べたが、年金制度は、財政的に均衡するよう給付を抑制するか負担を引き上げれば持続可能である。また、老齢年金は生涯支給されるため、若年世代でも寿命によっては負担した保険料以上の給付を受ける可能性がある他、障害年金や遺族年金まで考えれば、必ずしも保険料の払い損ということはない。 滞納理由の3番目に「うっかり忘れた」がある。 これは、年金保険料の納付しやすい環境整備として、平成16年2月からはコンビニでの納付、同年4月からはインターネットによる納付、平成17年4月からは口座振替による保険料割引制度、平成20年2月からはクレジットカードによる納付と、若年世代が納付しやすい環境を広げてきた。 それでも「うっかり忘れた」という理由が挙げられる背景には、若年世代の公的年金制度に対する意識の希薄さ、また根底には根深い年金不信の影響も無関係とは言えないだろう。滞納が続けば将来、年金が受給できない場合もある。若年層が保険料を納付する意識を高める啓蒙が必要である。   3 おわりに これまで4回にわたり、公的年金制度の過去・現在・未来を考えてきた。これまでの考察で見えてきたことには、少子高齢化を背景に、公的年金制度の維持のためには、財政的に何らかのリスクや痛みを伴う改革を断行すること、そして女性や若年世代の雇用環境の改善が不可避であることが確認できた。これらの問題解決は、最終的には政治の力に委ねるしかない。 一方で、私たち国民がこれからの公的年金制度をどう考えるか。予測することができない人生の将来のリスクは、個人だけで備えるには限界がある。そして、日本国内に住所のあるすべての人が公的年金保険料は加入を義務づけられているという原点に立ち返ると、究極的には、「生きている限り、生活の一部を支える現金を受け取ることができる」安心感を担保するための「税金」と同様なのかもしれない。 (連載了)

#No. 96(掲載号)
#大東 恵子
2014/11/27

現代金融用語の基礎知識 【第12回】「日本版コーポレートガバナンス・コード」

現代金融用語の基礎知識 【第12回】 「日本版コーポレートガバナンス・コード」   事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹   1 日本版コーポレートガバナンス・コードとは 日本版コーポレートガバナンス・コードとは、日本の上場企業における望ましいコーポレートガバナンスのあり方を示すものであり、現在、金融庁と東京証券取引所を事務局とする「コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議」において、その内容が検討されている。平成27年6月頃までに東京証券取引所がその規則として策定する予定である。 以前解説した日本版スチュワードシップ・コードは、日本の上場企業のコーポレートガバナンスの質を向上させるために、機関投資家の投資先企業への適切な関与の仕方についての指針を示すものであるが、日本版コーポレートガバナンス・コードの方は、日本の上場企業自体に対してコーポレートガバナンスの指針を示すものである。 なお、日本版コーポレートガバナンス・コードは、上述のとおり東京証券取引所の「規則」として策定される予定ではあるが、日本版スチュワードシップ・コードと同様に、「しなければならない」規則ではなく、あくまで「すべきである」原則であり、日本の上場企業すべてが受け入れなければならないものではない。ただし、受け入れない場合には説明が必要とされる(コンプライ・オア・エクスプレイン)。   2 そもそもコーポレートガバナンスとは 日本版コーポレートガバナンス・コードは、日本の上場企業における望ましいコーポレートガバナンスのあり方を示すものなのだが、そもそもコーポレートガバナンスとは何なのだろうか。何となく分かるようでいて、正確に説明しようとすると、困ってしまうのではないだろうか。 コーポレートガバナンス(corporate governance)は、日本語では「企業統治」と訳されるが、実はそれには明確な定義があるわけではない。様々な言説の中で定義付けされることがあるが、それらは同一であるとは限らず、また、社会や時代によっても定義が異なることがある。 コーポレートガバナンスの様々な定義に共通する部分を抽出し、あえて最も簡潔な定義付けを行うとするならば、「企業が適切な意思決定を行うための仕組み」といえるのではないかと筆者は考えている。 企業には様々な利害関係者が存在するため、企業の意思決定はそれらの意向を踏まえて行われる必要がある。しかし、様々な利害関係者の意向をどのように企業の意思決定に反映させるのかについて何らかの仕組みが存在していなければ、混乱し、適切な意思決定など不可能なはずである。その仕組みがコーポレートガバナンスなのである。   3 日本版コーポレートガバナンス・コードの内容 「企業が適切な意思決定を行うための仕組み」という定義は、抽象的でわかりにくいかもしれないが、具体的には、わが国の場合、その仕組みは「会社法」という法律において定められている。株主総会、取締役会、代表取締役、監査役といった言葉は聞いたことがあるだろう。それらがコーポレートガバナンスを具体的に構成する要素である。 日本版コーポレートガバナンス・コードにおいては、それらの望ましいあり方が示される。具体的な内容は、現時点では分からず、「コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議」の議論の結果を待たなければならないが、OECD(経済協力開発機構)コーポレートガバナンス原則が参考になるかもしれない。コーポレートガバナンス・コードは欧米各国において定められているのだが、それらは各国の事情に応じて異なる。それに対して、OECDコーポレートガバナンス原則は、各国に適用可能なものとして定められているので、日本版コーポレートガバナンス・コードの内容も、それとかけ離れたものにはならないだろう。 【OECDコーポレートガバナンス原則の構成】   4 適当な社外取締役の人数 平成27年中に施行される改正会社法では、経済界の反対により、社外取締役設置を義務付けることは見送られた。しかし、監査役会設置会社(公開大会社に限る)のうち、その発行する株式について有価証券報告書の提出義務が課される会社は、社外取締役を置かない場合、社外取締役を置くことが相当でない理由を定時株主総会で説明する必要があるとされた。したがって、上場企業には、最低1名の社外取締役の設置が実質的に義務付けられたといえる。 日本版コーポレートガバナンス・コードの内容についての議論で最も難航しそうなのが、この社外取締役の人数である。 さらに複数の社外取締役を置くよう求めるべきとする意見がある一方、当然のことながら経済界の側はこれに反対している。複数の社外取締役を置くべきとする意見は、外部の客観的な視点を経営に反映させるのが望ましいという考えに基づくのだが、企業側にとっては、適当な社外取締役を複数確保するのはハードルが高い。また、社外取締役といっても、企業とまったく無関係の人物が就任するわけではなく(結局、経営者の「お友達」かもしれない)、その意義に懐疑的な意見もある。 日本版コーポレートガバナンス・コードの内容がどのようなものになるのか、そして、それをどの程度の上場企業が受け入れるのか、現時点では分からない。しかし、確実であるのは、内向きの経営はもう許されないということだろう。  (了)

#No. 96(掲載号)
#鈴木 広樹
2014/11/27

〔小説〕『東上野税務署の多楠と新田』~税務調査官の思考法~ 【第2話】「赤羽のスナックにて」

〔小説〕 『東上野税務署の多楠と新田』 ~税務調査官の思考法~ 【第2話】 「赤羽のスナックにて」 税理士 堀内 章典   ▼   ▲   ▼ 上野のとある日本料理店の座敷で、酒を酌み交わす6名の男女がいた。 東上野税務署法人課税第5部門の田村統括官をはじめとする5名の部下、新田調査官と多楠調査官、そして他署から異動してきた三浦上席調査官、小泉調査官、淡路調査官が初めてそろった部門の顔合わせ会である。 調査官の序列は、小泉、新田、淡路、多楠といった並びである。 淡路調査官は女性で、今回の異動で希望が叶い、十条税務署管理運営部門から法人の調査部門に配属になった。法人課税第1部門の経験はあるが、調査は多楠と同じく初めてである。三浦上席が淡路の指導役として指名されていた。 同じ部門に調査経験1年目の調査官が2人、職員の若返りが進んでいる最近の税務署ではけっして珍しい配置ではない。ベテランの調査官が毎年続々と定年で退官し、新たに採用された若手職員が調査官として調査部門に補充されているというのが主な理由である。 飲み会も開始から30分を過ぎ、メンバーが席の移動を始めたころ、末席にいた多楠ははじめに田村にビールを注ぎに、次に新田のところに行った。新田は東北出身ということもあり(1部門で同じだった先輩から聞いた)、先ほどから手酌で一人、冷酒を飲んでいた。 多楠が新田に対しあいさつ以外で言葉を交わすのは初めてであった。 恐る恐る冷酒を注いだが、緊張で少々手が震えていた。 「新田先輩、よろしくお願します。調査は初めてなのでいろいろと教えてください。」 新田は冷酒の入った杯を見つめながら、ポツリと言った。 「多楠、お前、なぜ調査部門に来た。」 多楠 「専科(国税専門官採用の職員の通称)は法人課税部門の内部事務を1年やったら必ず次の年は調査部門に配属になるようです。」 新田 「そんなことは百も承知。俺はおまえ自身の気持ちを聞いているんだ。」 多楠は戸惑いながら 「僕は1部門にいたころから早く調査に出たくて仕方なかったのです。大学の商学部で会計学を専攻していましたし、ゼミで2年間、みっちり租税法も勉強しましたので、調査で自分の力を試してみたいのです。」 それを聞いた新田は苦笑を浮かべ、初めて多楠に顔を向けた。 「じゃお前に聞くが・・・調査で一番大切なもの、なんだと思う?」 少し思案した多楠 「やはり仕事に対する意気込み、調査への情熱ですか。」 新田 「・・・・・・。」 多楠 「それに税法や通達を日ごろから勉強して、それを調査で活用することですか。」 先ほどから淡路と会話を始めた田村統括官が、心配そうに多楠の方をチラチラ見ている。 その視線を感じた新田は小さな声で 「多楠、お前このあと俺につき合え。いいな。」 もともと体育会系なので、先輩から無理難題を言われるケースには慣れている。心の内は顔に出さないように心がけたが、“まさかあの新田さんから誘いを受けるなんて”、目が点になる多楠であった。 「わかりました。よろしくお願いします。」 ▼   ▲   ▼ 顔合わせ会はその後1時間半ぐらいで終了、5部門のメンバーは三々五々解散した。皆にあいさつをして別れた多楠は、新田に指定された上野駅前にある大型電気店の入り口で、再び落ち合った。 多楠が待ち合わせ場所に到着すると、新田はすでにイライラした様子でタバコをふかしながら待っていた。 酒に強いと思われる新田であったが、2時間以上冷酒を呑んでいたので頬のあたりがやや赤く染まっている。しかし、あいかわらずのしかめっ面。 新田は多楠の顔を見るとすぐに 「行くぞ。」 と言って、さっさとタクシーに乗ってしまった。 多楠もあわててタクシーに乗り込むと、新田は運転手に赤羽に行くよう告げ、うたた寝を始めた。 多楠が聞いた話によれば、新田は山形出身で地元の高校を卒業したあと、家庭の事情で大学進学ができず、仙台国税局初級(普通科)採用として税務職員になったらしい。 多楠は思った。“新田が常々冷たい態度を取っていたのは、新田が多楠との境遇の違いを肌で感じていたからなのか?” 沈黙のうちにタクシーは赤羽の路地裏にある一軒のスナックに到着した。新田がスナック「かわばた」のドアを開けると、ママと思わしき40代後半の女性がカウンター越しに甲高い声で声をかけてきた。 「あら新田チャンいらっしゃい。今日は珍しくお連れさんがいるのね。」 スナックは横長の狭い店で、奥の方に3人ほど先客がいてカラオケを熱唱していた。 店に入ってすぐの席に案内された新田と多楠に、ママが近づいてきた。 「新田チャンどうだった? 税務署転勤したの?」 「いいや、残留。」 「あらそう、でも転勤したからといってご栄転とは限らないし、新田チャンなら間違いなく偉くなるはずだわ。仕事ができる男って、見ればわかるもの。」 (“新田、チャン?”) 新田はどうやらこの店の馴染みらしい。多楠は、このママが新田の勤め先、しかも民間からすればけっして快く思われない税務署の調査官であることを知っていることに驚いた。 新田は席に着き、水割りを二杯一気に飲み干した後、歌詞カードを広げるや、最近流行のポップスを歌い出した。歌はけっしてうまい方ではなかったが、熱唱するタイプのようだ。普段のクールな新田とは異なる姿を、ただ驚き、見つめるだけの多楠であった。 ▼   ▲   ▼ 会話らしい会話もないまま、どのくらいの時間が経っただろうか。ようやく店を引き上げようとしたとき、新田は多楠の方をまっすぐ見て言った。 「多楠、さっき聞いたことをもう一度聞く。・・・調査で一番大切なものはなんだ?」 「えっと・・・・・・」 答えを探している多楠に向かって、新田は小さな声であったがきっぱりと言った。 「それはな、不正を見つけることさ。税金をごまかしてスマしているヤツを絶対に見逃さないことだ。」 そう言い終わると新田はすばやく支払いを済ませ、店を出て通りへ出るなりタクシーをつかまえ、多楠に見向きもせずにさっさと帰ってしまった。 “新田さんはいったいオレに、何を言いたかったんだろう・・・” 今日の会話や立ち振る舞いで、ますます“新田”という男がわからなくなった多楠。 先が思いやられる長い長い一日が、ようやく終わった。 (続く)

#No. 96(掲載号)
#堀内 章典
2014/11/27

《速報解説》 ASBJより「リース手法を活用した先端設備等投資支援スキームにおける借手の会計処理等に関する実務上の取扱い(案)」が公表~6月改正に続きリース契約変更時の取扱いについて新たに規定~

《速報解説》 ASBJより「リース手法を活用した先端設備等投資支援スキームにおける借手の会計処理等に関する実務上の取扱い(案)」が公表 ~6月改正に続きリース契約変更時の取扱いについて新たに規定~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成26年11月21日付で、 企業会計基準委員会は、「リース手法を活用した先端設備等投資支援スキームにおける借手の会計処理等に関する実務上の取扱い(案)」(実務対応報告公開草案第43号(実務対応報告第31号の改正案))を公表し、意見募集を行っている。 「リース手法を活用した先端設備等投資支援スキームにおける借手の会計処理等に関する実務上の取扱い」(実務対応報告第31号)については、平成26年6月30日付で、すでに公表されている(詳細はこちらの拙稿を参照)。 ただし、同実務対応報告において、契約変更時の借手の会計上の取扱いについて別途定めることとされていたため(実務対応報告第31号、13項)、これに関する取扱いについて、公開草案を公表するものである。 意見募集期間は、平成27年1月21日までである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 リース・スキームにおけるリース契約の変更の取扱いについて、以下のように会計処理を行う。 公開草案では、次の設例が示されている。 1 ファイナンス・リース取引かどうかの再判定 リース取引開始日後にリース取引の契約内容が変更された場合のファイナンス・リース取引かオペレーティング・リース取引かの再判定にあたっては、契約変更時に、契約変更後の条件に基づいて当初のリース取引開始日に遡って判定を行う(公開草案3項、6項)。 判定を行うにあたって、借手が現在価値基準を適用する場合において現在価値の算定のために用いる割引率は、契約変更後の条件に基づいて当初のリース取引開始日における貸手の計算利子率を知り得る場合は当該利率とし、知り得ない場合は契約変更後の条件に基づいて当初のリース取引開始日における借手の追加借入に適用されていたであろうと合理的に見積もられる利率とする(公開草案7項)。 2 オペレーティング・リース取引からファイナンス・リース取引への変更 リース取引開始日後にリース取引の契約内容が変更された結果、オペレーティング・リース取引からファイナンス・リース取引となるリース取引については、契約変更日より通常の売買取引に係る方法に準じて会計処理を行う(公開草案8項)。 所有権移転外ファイナンス・リース取引については、リース適用指針23 項から30項の方法に準じて会計処理し、所有権移転ファイナンス・リース取引については、リース適用指針38項から44項の方法に準じて会計処理する。 リース物件とこれに係る債務をリース資産及びリース債務として計上する場合の価額は、原則として①の方法による。ただし、当該リース資産及びリース債務の価額を②の方法によることもできる(公開草案9項、25項)。   Ⅲ 適用時期 適用時期は、公表日以後適用する。 (了)

#No. 95(掲載号)
#阿部 光成
2014/11/26

Profession Journal No.95が公開されました!~今週のお薦め記事~

2014年11月20日(木)AM10:30、Profession Journal(プロフェッションジャーナル)  No.95 が公開されました。   - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2014/11/20
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