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〈IT会計士が教える〉『情報システム』導入のヒント(!) 【第2回】「なぜ『導入したはずのシステムが使えない』のか?」

〈IT会計士が教える〉 『情報システム』導入のヒント (!) 【第2回】 「なぜ『導入したはずのシステムが使えない』のか?」   公認会計士 中原 國尋     はじめに 情報システムの導入により業務効率が向上し、利便性が高くなるはずにもかかわらず、「うちの会社のシステムは使えない」という話をよく耳にする。 なぜそのようなことが起こってしまうのか。 実施すべき手続とのギャップを見ながら、その理由に迫りたい。   ▼システム導入の当初目的▼ 情報システムの導入目的は、もちろん業務の効率化とそれに基づく生産性の向上にある。 情報システムの導入を検討するにあたっては、例えば、 表計算ソフトで作成している帳票の作成を自動化したい 入力項目を減らしたい 手作業しているデータの集計を自動化したい などのユーザー(利用者)ニーズを満たすことによって、業務が円滑に遂行できることを目標とするのである。   ▼まずはユーザーニーズの抽出と確定▼ 情報システムの導入は、一般に以下のステップで行われる。 まずは、新しいシステムに実現する機能を確定するために、ユーザーニーズを収集し、そのうちシステムに機能として実装するものを確定しなければならない。 ユーザーニーズの収集は担当部署に対するヒアリングをベースに行われるが、ユーザーに対してただ「実現したいこと」を問うても、具体的な話に落し込むのは困難であるため、現在の業務フローチャートを作成して、それをベースに議論を進めることが多い。 その中で現在の業務における不都合な点や問題点を相互に認識しながら、次期システムにおいて解決すべき項目を抽出する。 しかし、ここで抽出されたユーザーニーズをすべてシステム的に実現することは非現実的である。もちろん、ユーザーは自動化することにより業務が簡便になり効率化が進むと考えているが、本当に効果があるのか、優先的に対応すべきか否かについて判断しなければならない。 判断にあたっては、システムで対応することによる効率化の度合い、対応に要するコストとの関係、自動化する項目の柔軟性(特にアウトプットの作成)について考慮する。   ▼導入のリスクについても把握する▼ 情報システムには、次のような特徴がある(※)。そのため、それらの特徴を考慮したうえで、何をシステム上実装することが効果的なのかを考えていくのである。 (※) 日本公認会計士協会 監査基準委員会報告書315「企業及び企業環境の理解を通じた重要な虚偽表示リスクの識別と評価」A52 これらの特徴は情報システムのメリットに焦点を当てているが、特徴がデメリットになる点もある。例えば、権限が付与されていないユーザーによるデータへのアクセスや、データの未承認の変更、データの改ざん等である。これらリスクも考慮した検討が必要となる。   ▼ユーザーニーズだけでなく会社の方針も明確に▼ 実現すべき機能が明確になった段階で、導入するパッケージを選定し、実際の導入作業に入る。採用するパッケージを検討するにあたっては、当初ニーズをすべて実現することは難しい場合も想定されるため、優先順位を検討しながら、最終的に何を実装するのかを判断し確定させる。 その際に、システムを導入した後の「あるべき業務フロー」を作成し、それをベースに検討することで、具体的な検討が行われることになる。 なお、導入後の業務フローを検討するにあたっては、各ユーザーの意見も尊重されるべきであるが、それ以前に会社としての方針を明確にするとともに、業務全体としての有効性・効率性を図ることで全体最適を図っていくことが求められることに留意すべきである。   ▼ベンダーとのコミュニケーション不足が「使えないシステム」を作る▼ 実際に導入が進められると、必要な改修部分については依頼したベンダーが対応することになる。ベンダーが行っている業務については、導入側で適切に行われるようにコントロールしなければならない。またユーザーニーズを適切にベンダーに伝えることも重要なので、ベンダーの対応をモニタリングしながら、ユーザーニーズが適切にシステムとして実装されているのかをユーザー企業側で確認していく。 ベンダーの窓口となりうるのは、情報システム部門が一般的であるが、特に中堅規模以下の企業では情報システム部門を設置していない場合もある。その場合には責任部署を明確にして、担当を定めることが必須である。 また、窓口になる担当者は、ユーザー側と充分なコミュニケーションを図ってニーズを適切に理解し、それをベンダーに間違いなく伝達できるスキルが求められる。ユーザーとシステム担当者のコミュニケーションの欠如や要求仕様のベンダーへの不十分・不適切な伝達については、最終的に使えないシステムが完成する大きな要因となる。   ▼新たに生じた要求は実装すべきか▼ なお、導入の過程で当初想定していなかったユーザーニーズが洗い出され、新たな要求項目として出てくることがある。これらの項目については、当初目的をかんがみると、業務の効率化等を実現できるのであれば、積極的に実装すべきと判断されることもあるが、追加ニーズのすべてに対応することは、現実的ではない。 往々にして、これらのすべてに対応しようとすることで、開発コストの増大を招き、スケジュールの遅延にもつながる。そのため、原則としては次のシステム開発案件として検討すべきものとし、特に効果と優先順位が高いと判断されるものに限って対応することが現実的となる。   ▼稼動前テストを「やったことにする」?▼ 導入されるシステムは、稼働前にテストを行い、十分利用するに値するかを検討する。 テストはまずベンダーが行い、その結果をもってユーザーが確認するステップを取ることが多いが、ベンダーがどのようなテストを行ったのかについては開示されないケースもある。そのため、ベンダーに対してどのような品質管理を行っているのかを十分に確かめ、ベンダーがテストを重ねて品質に問題ないと判断するに至った過程をモニタリングすることで、ベンダーに対するけん制機能を働かせるとともに品質管理を行う。 最終的にはユーザーが利用できなければならないため、実際の業務に照らしながらユーザー側で受入テストを実施する。ここで可能な限りの問題点を抽出して改善することが必要となる。 しかし、ユーザーが主体的に実施すべきものであることから、システム部門や担当者が見ていないところでユーザーが「テストをやったことにする」ケースが極まれにみられる。ユーザーのニーズが適切にシステムに実装されているとは限らないため、そのような場合には特に、実際に稼働したのちに大きな問題に発展する可能性が高い。 ユーザー受入テストの結果を集約し、日常業務を遂行するにあたって特段大きな問題はないと判断された場合には、ユーザー側の業務の責任者の判断でリリースされることになる。   ▼リリース後の不具合は起こるもの▼ しかし、リリースしたからといって、不具合が全くない状況になっているわけではない。 システムを利用しながら、不具合は発見されることもあるが、それらについては都度解決してくことになる。しかし、リリース前の段階でユーザーが十分なテストを行わなければ、そもそも通常の業務遂行に不具合をきたすほどの問題が生じる可能性が高くなるのである。 したがって、責任者が問題ないと判断するためにユーザーはしっかりと時間をかけてテストをすべきであるし、情報システム部門としてもその結果が適切なものなのかを評価することが必要である。   ▼導入したシステムが使えない「本当の理由」▼ 導入したはずのシステムが使えない理由として一般に言われるのは、導入したシステムが合わない、必要な情報が出力されない、などがあるが、それらは「適切な導入が行われなかったこと」によるケースが非常に多い。 そしてその要因は、ユーザー部門と情報システム部門とのコミュニケーション不足や理解不足、そしてユーザー企業とベンダーとの間のコミュニケーション不足や理解不足であることが多い。 そうならないためにも、システム導入にあたっては当事者意識を持たせ続けるためにユーザーを適切に導入プロセスに巻き込むことで、導入過程でも意識をもって対応してもらうとともに、最終的に行われるユーザー受入テスト段階で確認作業を十分かつ適切に実施してもらうことが必要である。 ユーザーニーズをベンダーに適切に伝え、導入されたシステムが自社での利用に耐えうるかをユーザー側で判断してリリース判定を行わなければならず、決してベンダーに丸投げしてはならないのである。 (了)

#No. 95(掲載号)
#中原 國尋
2014/11/20

女性会計士の奮闘記 【第23話】「相続税は計算も説明も気をつけて」

女性会計士の奮闘記 【第23話】 「相続税は計算も説明も気をつけて」   公認会計士・税理士 小長谷 敦子   ◆ワンポントアドバイス◆ 相続税対策の話を当事者にするのは、なかなか難しいものです。 タイミングを間違えると相手の気分を害することもあります。 まずは「こんな事例がありましたよ」というふうに、他の人の実例を話すと受け入れやすいのではないでしょうか。 (注) 上記は本稿公開日(平成26年11月20日)現在の法令等によるものです。 (了)

#No. 95(掲載号)
#小長谷 敦子
2014/11/20

セミナーお申込受付は「20日(木)の17時まで」 11月21日(金)開催【平成27年3月決算・申告対応】1日で徹底理解! 所得拡大促進税制-適用判断と申告実務-

セミナーお申込受付は本日(11/20)17時まで! 平成26年11月21日(金)開催 株式会社プロフェッションネットワーク主催セミナー「【平成27年3月決算・申告対応】1日で徹底理解! 所得拡大促進税制-適用判断と申告実務-」の開催が、明日11月21日(金)となりました。 お申込みは、本日11月20日(木)17時まで受け付けております。 ※銀行振込のご利用は 11月19日(水)で終了させていただきました。 ※お申込受付は終了しました。

#Profession Journal 編集部
2014/11/20

《速報解説》 消費税率10%引上げに伴う経過措置取扱通達が公表~規定内容の確認と今後の留意点~

 《速報解説》 消費税率10%引上げに伴う経過措置取扱通達が公表 ~規定内容の確認と今後の留意点~   アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩   はじめに 平成26年10月27日付けで、『平成27年10月1日以後に行われる資産の譲渡等に適用される消費税率等に関する経過措置の取扱いについて(法令解釈通達)』が国税庁より公表され、同時に『消費税法令の改正等のお知らせ~税率引上げに伴う経過措置について~』のリーフレットも公表された。 内容としては、10%引上げに伴う経過措置に関連するものであるが、8%引上げに伴う経過措置と同様の法令となっていることから、平成25年3月25日に公表された『平成26年4月1日以後に行われる資産の譲渡等に適用される消費税率等に関する経過措置の取扱いについて(法令解釈通達)』の読み替え規定となっている。 ただし、今回の法令解釈通達では、8%引上げの施行日である平成26年4月1日を『施行日』、10%引上げの施行日(予定)である平成27年10月1日を『一部施行日』と定義しており、また、8%引上げに伴う経過措置規定の指定日である平成25年10月1日を『指定日』、10%引上げに伴う指定日(予定)を平成27年4月1日とした上で『27年指定日』と定義しているので留意されたい。 したがって、今回の経過措置規定は、本来であれば10%が適用される平成27年10月1日(予定)以後に行われる資産の譲渡等につき、各種の経過措置規定の要件を満たせば8%を適用されるものである。なお、5%が適用される取引については、5%から8%の経過措置規定が適用されるため、今回の経過措置規定から除外されている。 また、リーフレットの内容も8%引上げ時に公表されたものと同様のものであり、施行日や指定日を読み替えた形で作成されている。なお、10%引上げに伴う経過措置規定の施行令により創設された『特定家庭用機器再商品化法(家電リサイクル法)に規定する再商品化等』の規定が明記されている(後述)。 なお、リーフレットには以下の注記がなされている。 今回の法令解釈通達の主な内容は以下のとおりであるが、先ほども述べたように5%から8%へ引き上げられた経過措置と同じであり、再確認されたい。 なお、本稿と併せて下記拙稿もご覧いただきたい。   【法令解釈通達の概要】(一部抜粋・要約) 〈リーフレットの内容に関する追加事項〉 (了)

#No. 94(掲載号)
#島添 浩
2014/11/13

《速報解説》 国税庁、HPで「2年前納された国民年金保険料の社会保険料控除について」を公表 ~「社会保険料(国民年金保険料)控除額内訳明細書」の添付がある場合の年末調整対応に注意~

 《速報解説》 国税庁、HPで「2年前納された国民年金保険料の社会保険料控除について」を公表 ~「社会保険料(国民年金保険料)控除額内訳明細書」の添付がある場合の年末調整対応に注意~   公認会計士・税理士 篠藤 敦子   平成26年11月7日、国税庁ホームページにて「2年前納された国民年金保険料の社会保険料控除について」が公表された。 平成26年分の年末調整にも関わる内容であり、適切な対応ができるよう備えておきたい。 (1) 国民年金保険料の前納制度 国民年金保険料の納付方法には、毎月納付の他、「6ヶ月前納」と「1年前納」の制度があった。これらに加え、平成26年4月から「2年前納」の制度が始まった。前納制度を利用すると、毎月納付よりも保険料が割り引かれる。「2年前納」の割引額は、「6ヶ月前納」や「1年前納」よりも高く設定されている。 「2年前納」の場合、平成26年度に納付する保険料は、平成26年4月分から平成28年3月分であり、保険料を現金で納付することはできず、口座振替のみの取扱い(※)となる。 (※) 口座振替による前納制度を利用するためには、毎年2月末までに一定の手続が必要である。 【参考】日本年金機構ホームページ 「平成26年度4月から国民年金保険料の「2年前納」が始まりました」   (2) 社会保険料控除の方法 2年分前納された国民年金保険料に係る社会保険料控除については、次の2つのうち、どちらかの方法を選択することができる(所基通74・75-1、74・75-2)。 具体的には、次のとおりとなる。   (3) 年末調整における対応 (2)の①、②どちらの方法を選択しても、年末調整において社会保険料控除の適用を受ける場合には、保険料控除申告書に控除を受ける国民年金保険料の額を記入し、日本年金機構が発行した「社会保険料(国民年金保険料)控除証明書」(以下、控除証明書という)を添付することとなる(所法196②、所令319一)。 控除証明書には、その年に納付された国民年金保険料の総額が記載されるため、保険料を2年前納している場合には、2年分の保険料の合計額が記載されている。そこで、②の方法を選択する場合には、所得者が各年おいて「社会保険料(国民年金保険料)控除額内訳明細書」を作成し、控除証明書と併せて保険料控除申告書に添付することが必要となる。 「社会保険料(国民年金保険料)控除額内訳明細書」の様式等の詳細については、日本年金機構の下記ホームページをご参照いただきたい。 保険料控除申告書に「社会保険料(国民年金保険料)控除額内訳明細書」の添付がある場合には、保険料控除申告書に記載のある国民年金保険料の額と、当該明細書及び控除証明書に記載された内容との間に整合性があるかどうかを確認し、社会保険料控除を正しく計算できるようにしなければならない。 (了)

#No. 94(掲載号)
#篠藤 敦子
2014/11/13

《速報解説》 東証、「決算短信・四半期決算短信作成要領等」を改訂~IFRS任意適用拡大促進に向け「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示を要請~

《速報解説》 東証、「決算短信・四半期決算短信作成要領等」を改訂 ~IFRS任意適用拡大促進に向け「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示を要請~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成26年11月11日、東京証券取引所は、「会計基準の選択に関する基本的な考え方の開示に関する『決算短信の作成要領』の改訂について」を上場会社に通知している。 これは、平成26年6月24日に閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2014-未来への挑戦-」において、「IFRS の任意適用企業の拡大促進」についての提言を踏まえたものであり、決算短信において、会計基準の選択に関する基本的な考え方を記載するものである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 改訂内容 「決算短信・四半期決算短信作成要領等」(2014年11月)の27ページに次の規定が設けられている。   Ⅲ 適用時期 「決算短信の作成要領」の改訂は、平成27年3月31日以後に終了する通期決算に係る決算短信から適用する。 ただし、平成27年3月30日以前に終了する通期決算に係る決算短信から適用することもできる。 (了)

#No. 94(掲載号)
#阿部 光成
2014/11/13

Profession Journal No.94が公開されました!~今週のお薦め記事~

2014年11月13日(木)AM10:30、Profession Journal(プロフェッションジャーナル)  No.94 が公開されました。   - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2014/11/13

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第23回】「法人税法22条2項の「取引」の意義(その2)」

酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第23回】 「法人税法22条2項の「取引」の意義(その2)」   中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦   この事件では、法人税法22条2項にいう「取引」の意義が重要な論点とされた。 以下では、簡単に判決をみてみたい。 3 判決の要旨 第一審東京地裁平成13年11月9日判決(判時1784号45頁)は、本件増資は、B社と、有利な条件でB社から新株の発行を受けたC社との間の行為にほかならず、X社はC社に対して何らの行為もしていないというほかないとして、更正処分を違法と認定した。 これに対して、控訴審東京高裁平成16年1月28日判決(訟月50巻8号2512頁)は、次のように判示してX社の主張を排斥した。 そして、東京高裁は、両社間における無償による上記持分の譲渡は、法人税法22条2項に規定する「無償による資産の譲渡」に当たると認定判断することができるとした上で、同条項にいう「取引」の意義について、次のように論じている。 この事件はX社から上告された。そして、上告審最高裁平成18年1月24日第三小法廷判決(訟月53巻10号2946頁)は、次のように判示した。 最高裁は、このように判示して、法人税法22条2項にいう「取引」とは、関係者間の意思の合致に基づいて生じた法的及び経済的な結果を把握する概念と解されるとするのである。すなわち、ここにいう「取引」について、X社が法律概念であると主張するのに対し、Yは法律概念ではないと反論し、むしろ経済的概念であると捉えていたのであるが、最高裁は、法律概念でもあり、経済的概念でもあると論じたのである。 法人税法22条2項にいう「取引」を「関係者間の意思の合致に基づいて生じた結果を把握する概念」であると最高裁が位置付けたことは、X社とYの主張にいう法律概念であるか、あるいは経済的概念であるかという点よりもはるかに重要であるように思われるのである。   Ⅱ 法人税法上の「取引」概念 法人税法22条4項は、同条2項にいう「当該事業年度の収益の額」は、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする。」と規定する。このような規定振りからすれば、同条項にいう「無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額」も、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されることになるのである。このように考えると、「取引」という用語の意義は、企業会計の考え方に従って解釈されるべきという理解があり得るように思われる。 この点につき、法人税法22条2項にいう「取引」は、会計からの借用概念であると論じる見解がある。 さて、会計学では、「取引」について、どのように定義されているのであろうか。 例えば、番場嘉一郎教授は、簿記・会計上の「取引」を次のように定義される(番場編『会計学大辞典〔第3版・増補版〕』763頁(中央経済社1993))。 また、広瀬義州教授は、次のように「取引」を定義される(広瀬『財務会計〔第12版〕』78頁(中央経済社2014))。 ところで、これまでこの連載において解説してきたとおり、借用概念というものは他の法律分野からの概念の借用をいうのであって、会計からの借用概念というものはあり得ない。この点をまずは確認しておきたい。 しかしながら、そうであるからといって、会計にいうところの「取引」と同様の意味で理解すべきとする考え方が必ずしも否定されることになるわけではない。すなわち、固有概念として理解することができないわけではないからである。この点について、検討を加えることとしよう。 法人税法22条5項は、「資本等取引とは、法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引並びに法人が行う利益又は剰余金の分配及び残余財産の分配又は引渡しをいう。」と規定している。この規定から、「取引」には、法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引と、そうではない取引があると理解することができそうである。 すなわち、例えば、利益準備金の資本組入れのような「資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引」と、例えば、売掛金を現金で回収したというような「資本金等の額の増加又は減少を生じない取引」があるわけであるが、資本等取引には、前者のような取引が含まれると規定しているのである。 このように、法人税法22条5項が、「法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引」と規定しているところから、「法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引以外の取引」が観念されると考えることは、条文解釈としては自然であるように思われるのである。 次に、法人税法施行規則53条《青色申告法人の決算》をみてみたい。同条は、次のように規定する。 ここでの「資産、負債及び資本に影響を及ぼす一切の取引」という規定振りは、前述の番場教授のいう「簿記上で取引とは、資産、負債および資本に増減変化を及ぼす一切の事象である。」という点と極めて近似していることが判然とする。このような点から考えると、なるほど、法人税法にいう「取引」とは、簿記・会計にいうところの「取引」と同様に理解されているということができるように思われるのである。 しかしながら、この規定を先ほどの法人税法22条5項の解釈と同じように整理するとどうなるであろうか。 このように、取引には、①「資産、負債及び資本に影響を及ぼす取引」と、そうではない②「資産、負債及び資本に影響を及ぼさない取引」があると理解することができそうである。 果たして、このような理解が可能であるとすると、会計上の「取引」が、①「資産、負債及び資本に影響を及ぼす取引」にとどまるのに対し、法人税法上の「取引」には、会計上の「取引」以外の取引も含まれるということになるように思われる。 このような理解になるのであろうか? (続く)

#No. 94(掲載号)
#酒井 克彦
2014/11/13

法人税に係る帰属主義及びAOAの導入と実務への影響 【第1回】「改正の趣旨と背景」

法人税に係る帰属主義及び AOAの導入と実務への影響 【第1回】 「改正の趣旨と背景」   税理士法人トーマツ パートナー 税理士 小林 正彦 1  はじめに 平成26年度税制改正において、外国法人及び非居住者(以下「外国法人等」という)に対する課税原則が、総合主義から帰属主義に大きく変わるとともに、帰属主義の適用方法として、OECDモデル条約が採用しているAOAが導入された。 AOAとは、帰属所得の計算に関するOECD公認アプローチ(Authorized OECD Approach) の略称である。その内容は、まず、本店と支店を別々の分離した法人と擬制して、機能分析を行って内部取引を認識する。次に、機能分析の結果に基づいて、本店及び各支店への資産と資本の帰属を確定する。その上で、本支店間の取引価格を移転価格税制と同様の方法で算定し、それに基づいて本店及び各支店の帰属所得を計算する、というものである。 今回の改正の影響を最も大きく受ける者は、わが国に恒久的施設(以下「PE」という)を有する外国法人であるが、国外にPEを有する内国法人や個人の居住者も、外国税額控除の計算に関して影響を受ける。また、所得計算の方法の改正だけでなく、本支店間取引について移転価格税制と同様の文書化義務が課された点が実務的に大きな影響を伴う。 今回の改正の結果、国内法の課税原則をOECDで認められた国際課税原則に合わせたことにより二重課税や二重非課税の発生をある程度防止できることが期待されるというメリットがある。しかし、企業にとって次のような点から、コンプライアンス・コストがかかるという問題がある。 こうしたことから、わが国に支店を有する外国法人だけでなく、外国に支店を有する内国法人にとっても税務コンプライアンス・コストが相当の規模で増加することが予想される。 今回の改正は、平成28年4月1日以降開始事業年度に適用される。 大幅な改正であるため、準備期間を考慮して適用開始まで2年の猶予を見込んでいる。 内容が大幅に変わっただけでなく、改正条文の数からみても膨大な量の改正であるため、影響を受ける納税者にとって相当な準備期間を要する。対象となる企業は、早期に影響を評価し適時に対応策の検討を開始する必要がある。 本連載では、改正の趣旨・概要をできるだけ分かりやすく解説するとともに、実務への影響について考察する。 なお、今回の改正は個人の居住者・非居住者にも影響があるが、本稿では法人についての説明となっていることに留意されたい。 また、本稿の意見にわたる部分は筆者の私見であり、筆者の所属する団体の見解ではないことをお断りしておく。   2 改正の趣旨と背景 2-1 総合主義から帰属主義へ 外国法人や非居住者の課税の範囲については原則として国内源泉所得のみに課税するのが国際的に確立した課税ルールであり、わが国の税法もそれに従っている。国内源泉所得のうち、PEに帰属する所得のみに課税するのが「帰属主義」であり、PEがあればPEに帰属しない所得も含めてすべての国内源泉所得に課税するのが「総合主義」である。 例えば、米国本店が日本の顧客との直接取引によって得た利益は、日本支店に帰属しているとは言えないので、帰属主義の下ではわが国で課税されない。しかし、総合主義の下では、日本に支店があれば支店が関与していない所得でも日本で課税されることになる。 わが国の国内法における外国法人課税の規定は、昭和38年に総合主義を採用して以来、ずっとこれを維持してきた。しかし、世界の趨勢は圧倒的に帰属主義であり、わが国の締結している租税条約は最後の総合主義の条約であったパキスタンとの条約が帰属主義に変更されたことにより、すべてが帰属主義となった。 わが国は国内法と租税条約が乖離する状態が長い間続いてきたが、今回の改正で帰属主義に統一されることになった。   2-2 AOAの導入 帰属主義は国際課税ルールとして確立した原則であり、OECDモデル条約7条がそれに当たる。帰属主義とは、外国法人等の事業所得の課税範囲をPEに帰属する所得に制限する原則である。 帰属主義は一見シンプルだが、2010年にOECDがAOA(OECD公認アプローチ)を導入するまでは、国によって「帰属する」という文言の解釈の違いが存在した。ひとつは支店と本店を全く別個の法人と擬制して本支店間の取引も取引として認識したうえで所得計算をする方法である。これをOECDの議論においてはSeparate entity approachと称していた。欧州諸国の多くはもともと支店を独立した会計単位として会計処理を行う慣例があったという歴史的背景もあって、この解釈を採用すべきと主張した。 これに対立する解釈が、Single entity approachであった。これは、支店の所得は、法人全体の活動による所得のうち、支店が関与した活動による部分として計算されるべきという解釈である。主に米国とわが国が主張していた。 両者の違いが顕著に現れるのは、法人全体が赤字のときに支店だけが黒字になることがあり得るかという命題に対する答えである。 Separate entity approachでは法人全体が赤字でも支店は黒字ということはあり得る。一方、Single entity approach ではひとつの取引から得られる法人の所得を本店と支店で分けるという発想なので、法人全体が赤字のときに支店だけが黒字ということはあり得ない。 Separate entity approachの結論は、移転価格算定方法のTNMMの帰結と同じである。TNMMではグループ取引による合算利益が赤字でも、子会社が単純な機能しか果たしていない場合には黒字であってもおかしくないという結果になる。Separate entity approachは移転価格課税と親和性の高い課税方式である。これに対してSingle entity approachはオール・オア・ナッシング課税と親和性が高い。 例えば、外国法人による商品の輸入販売の場合、棚卸資産の販売地がわが国であれば売買益の総額が我が国の国内源泉所得として課税された。本支店間で利益を分け合うという考え方は、わが国の支店課税方式においては無かった。AOAが導入されると、このような場合には本支店間で所得を配分することになる。したがって、根本的に国際取引の課税に関する考え方が違ってくることになる。 そうした意味において、今回の改正は非常に大きな改正といえる。 AOAが導入された背景には、世界経済のグローバル化がある。 ある企業グループ内部では、関連者間取引と本支間あるいは支店・支店間取引が交錯して取引が行われることも少なくない。このような状況において、グループ内で所得配分を行う場合、関連取引には移転価格課税原則が、本支店間取引には支店課税独自の原則が適用されると、二重課税や二重非課税が生じやすくなる。この不都合を回避することがOECD租税委員会に求められていたのである。 なお、BEPSとの関係であるが、AOAの議論は過去20年以上にわたり行われてきたものであるのに対して、BEPSの議論は最近取沙汰されるようになったものである。AOAはどちらかといえば二重課税防止に力点がある。これに対してBEPSは租税回避防止が目的である。 「国際課税ルールの見直し」という点では共通点もあるが、目的が異なるので、相互に関係する部分は少ないといえるだろう。   2-3 改正の概要 2-3-1 外国法人の日本支店の課税所得計算の見直し(概要) わが国に所在するPEを通じて事業を行う外国法人に対して、本店とPEが分離・独立の企業であると擬制した場合にPEに帰属する所得を算定し、これに課税することとした。 関連する主な改正点は以下のとおりであり、多岐にわたる。 なお、法令解釈通達が平成26年7月9日付けで発遣されている(「課法2-9他2課共同」)。 2-3-2 内国法人に影響する改正点(概要) 内国法人については、支店形態で海外進出している場合に、外国税額控除の控除限度額の計算が変わるとともに、文書化を行う義務が新たに課された。外国税額控除を適用しない場合には影響がない。 主な改正点は以下のとおり。 (1) 国外源泉所得の定義(見直し) 改正前は国内源泉所得以外の所得との定義であったが、改正後は、「国外事業所等帰属所得」、国外資産の運用保有所得、国外資産の譲渡所得等積極的に定義することにより明確化した。 (2) 国外事業所等帰属所得(見直し、新設) 国外事業所等帰属所得(以下「国外PE帰属所得」という)の計算は、外国法人のPE帰属所得の計算に準じて行う。つまり、国外PEが内国法人と独立して事業を行う事業者であるとしたならば、当該国外PEが果たす機能、使用する資産、内部取引その他の状況を勘案して認識する。 ただし、以下の点については外国法人のPEの計算とは異なる。 (3) 国外PEの帰属資本の額(新設) 国外PEへの帰属資本の計算方法は、資本配賦法又は同業者比準法のいずれかを選択できる。いったん選択した方法は、特段の事情がない限り継続適用が必要になる。 帰属資本の配賦計算は外国税額控除の控除限度額の計算のためにのみ必要なので、銀行及び証券会社を除く内国法人は、外国税額控除を適用しない場合には行わなくてよい。 外国税額控除を適用する場合には、銀行・証券以外でも資本配賦計算が必要になる。 銀行等が国外PE帰属資本の算定上リスクウェイト資産を計算する場合、信用リスクが全リスクの80%を超えており、かつ貸出債権に係る信用リスクがその50%を超えるときには、貸出債権の信用リスクのみに基づいて計算ができる(法規28の10)。 (4) 国外PEの範囲(新設) 国外PEの範囲は、租税条約相手国所在のものは条約の規定により、それ以外はわが国の国内法による。積極的な定義はなく、「国外にある恒久的施設に相当するものその他法令で定めるものをいう。」(法法69④一)とある。 (5) 外国税額控除の対象とならない外国法人税(新設) 国外PEから本店等に対する内部利子等の支払いに対して課された源泉税は、わが国の外国税額控除の対象とならない(法令142の2⑦四)。その外国法人税の課税標準である支払金額が、わが国の法人税の課税標準として認識されるからである。 (6) 国外PE帰属所得に関する文書化(新設) 外国税額控除の適用を受けるためには、国外PEの外部取引に関する書類のほか、本店等との内部取引について文書化し、調査の際に要求があった場合には遅滞なく提示、提出しなければならない。内部取引の価格算定については、移転価格税制と同様の算定方法が適用され、文書化も必要になる(法法69⑲、法規30の2)。 (了)

#No. 94(掲載号)
#小林 正彦
2014/11/13

租税争訟レポート 【第20回】「株主優待券の使用に係る費用に対する課税(国税不服審判所裁決)」

租税争訟レポート 【第20回】 「株主優待券の使用に係る費用に対する課税(国税不服審判所裁決)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   (※) 本件の請求人は、株式会社安楽亭であることが判明している。   【事案の概要】 本件は、飲食業を営む審査請求人(以下「請求人」という)が、使用された株主優待券の券面額を売上値引き等として経理し、確定申告していたところ、原処分庁が、当該株主優待券の使用に係る費用の額が交際費等に当たるとして更正処分を行ったのに対し、請求人が、同処分の一部の取消しを求めた事案である。 前提となる事実と請求人の経理処理は以下のとおりである(下線は筆者による)。 本稿では、交際費等に該当するための三要件について、請求人がこれをすべて否定し、株主優待券の使用により生じた費用を交際費等に該当しないという主張をしたのに対し、国税不服審判所がその主張をすべて斥けた点に注目して、原処分庁による更正処分を認めた事例の検討を行いたい。   1 〔争点1〕本件各更正処分に理由附記の不備の違法があるか (1) 請求人による主張 【更正通知書に附記された理由の結論部分(抜粋)】 請求人は、まず、原処分庁の審査請求における主張では、行為の形態を「権利の贈答」としており、これは、更正通知書に附記された理由の中にある、行為の形態を「接待又は贈答」という記載と一致しないとして、本件各更正処分には理由附記の不備の違法がある、と主張した。 (2) 審判所の判断 これに対し、国税不服審判所は、次のとおり判断して、請求人の主張を斥けた。本件各更正通知書については、原処分庁が本件株主優待券の使用に係る費用が交際費等に当たるとして本件各更正処分を行うに至った理由並びに当該更正処分の対象となった科目及び金額について、更正の根拠を具体的に明示したものであると認められる。 したがって、本件株主優待券の使用に係る費用に関する本件各更正通知書の理由附記は、更正の根拠を原処分庁の恣意の抑制及び不服申立ての便宜という理由附記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示しているといえるから、本件各更正処分に理由附記の不備の違法はない。 これに対し、請求人は、行為の形態に関し、原処分庁は、本件各更正通知書においては、「接待又は贈答」と記載していたにもかかわらず、審査請求においては、「権利の贈答」と主張しており、本件各更正通知書からは、原処分庁が認定した行為の形態が「権利の贈答」であることは理解できない旨主張する。 しかしながら、本件各更正通知書の理由附記が法人税法の要求する理由附記として欠けることがないことは上記のとおりであり、請求人の主張する内容をもってしても、かかる判断は左右されない。   2 〔争点2〕本件株主優待券の使用に係る費用は交際費等に当たるか (1) 請求人の主張 請求人は、株主優待券の使用に係る費用は、交際費等の三要件である「支出の相手方」、「支出の目的」及び「行為の形態」のいずれも満たさないことから、交際費等に該当しないと主張した。 すなわち、「支出の相手方」については、株主優待券が使用者を制限していないことから、株主優待券を使用して飲食等した者が株主以外の不特定多数の者である場合には、支出の相手方は、事業に関係ある者等ではない。 また、「支出の目的」については、販売促進・広告宣伝(請求人店舗等の口コミ依頼)・顧客及び株主からの意見収集・投資家向け広報にあり、取引関係の円滑な進行を目的としたものではない。 最後に、「行為の形態」についても、株主優待券の配付を株主としての当然の権利と考え、接待供応行為を受けていると意識していない株主もおり、接待供応行為は成立しないし、仮に株主が国家公務員であった場合、その国家公務員たる株主は国家公務員倫理規程違反に問われる可能性があるが、そのような理由で処分を受けたとは聞いたことがないから、請求人から株主に対する、接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為は存しないと主張した。 (2) 審判所の判断 これに対し、国税不服審判所は、交際費等の三要件説に立ったうえで、請求人について、要件を充足しているかどうかを判断した。 最初に、「行為の形態」については、請求人は、株主に対し、その持株数に応じて、請求人店舗等において現金同様に使用可能な株主優待券を配付し、株主優待券を使用して請求人店舗等で飲食した場合には、その飲食代から本件株主優待券使用額分の値引きを行っていたのであるから、本件株主優待券を無償で配付してこれを使用させていたものとして、同行為が本件における接待供応行為に当たると認めるのが相当であると説示した。 請求人による、株主優待券の配付を株主としての当然の権利と考えている株主もおり、接待供応行為を受けていると意識していない株主もいるという主張については、そもそも株主優待制度とは一般に会社が株主に対して任意で行うものであり、株主優待制度の継続を求める株主が存在するなど、請求人においても株主の当然の権利とまではいえないとして、これを斥けている。 次いで、「支出の相手方」については、請求人は株主に対し、株主以外の一般顧客に対する各種割引券等とは別に作成した優待券を配付しているのであり、明らかに、株主を対象として接待供応行為を行っていると認められる。したがって、本件株主優待券に係る接待供応行為に要した費用も、株主のために支出したというべきであり、支出の相手方は株主、すなわち会社の出資者として事業に関係ある者等と認めるのが相当であると判断した。 請求人による、株主優待券は株主以外の者でも使用可能であり、必ずしも株主が本件株主優待券を使用しているとは限らないとする主張に対しては、請求人が、株主に対して、接待供応行為によって得る利益を第三者に付与する権能を与えたという意味を持つにすぎないため、支出の相手方に関する上記判断を左右するとはいえないとしている。 最後に、「支出の目的」については、請求人の一般株主は、株主優待制度を期待して、請求人株式を取得し保有し続けているものと考えられ、株主優待制度の存在が、株の長期保有ひいては株価の安定に寄与しているものと認められるなどの事実に照らせば、株主優待券を配付して使用させることの目的は、株主の歓心を買って株主の地位を維持する関係を構築することにあり、それによって、一般株主を安定株主とし、また、一般株主ひいては市場の好感を得て株価を安定、上昇させるなどして、事業の円滑な遂行を図ることにあると認めるのが相当であるとして、要件を満たしているとした。 請求人による、株主優待券配付の目的を販売促進・広告宣伝・顧客及び株主からの意見収集・IRであるという主張には、会社がある行為を複数の目的をもって行うことは日常的に行われるところであり、交際費等の要件においても、支出の目的が交際目的のみに限られることが要求されているのではなく、支出の主たる目的が交際目的であれば足りるとして、その主張を斥けた。   3 裁決の検討 (1) 三要件説 ある支出が、交際費等に該当するための要件としては、萬有製薬事件高裁判決(※1)が、三要件説を採用し、これが確定したことから、以下の3つの要件が必要とされる。 (※1) 東京高等裁判所平成15年9月9日判決。 本裁決は、株主優待券の使用に伴い発生した費用が、この三要件に該当するかどうかをめぐる請求人の主張を、国税不服審判所がことごとく排斥したものであり、株主=利害関係者等であるという、判断が明らかにされたものである。 (2) 請求人の経理処理 冒頭「事案の概要」のところで述べたとおり、請求人は、自社店舗での株主優待券の使用は「売上値引き」、FC店舗での使用は「支払手数料」としてそれぞれ損金の額に計上し、優待券に代えて物品を贈った場合にのみ、物品の購入対価を交際費等として損金の額に含めない経理処理を行っており、本件における請求人の主張と整合性のある経理処理であり、交際費等の該当性についても、事前に協議がされたうえでの判断であることが見てとれるが、上記(1)のとおり、株主=利害関係者等である以上、株主優待券の使用により生じた費用が交際費等に該当しないという国税不服審判所の判断を引き出すことはできなかった。 (3) 株主が国家公務員であった場合 請求人の主張の中のユニークなものとして、仮に株主が国家公務員である場合には、その国家公務員たる株主は国家公務員倫理規程違反になるではないかというものがあった。 同規定は第3条で、利害関係者から金銭、物品又は不動産の贈与(せん別、祝儀、香典又は供花その他これらに類するものとしてされるものを含む)を受けることその他を禁止しており、第5条は、利害関係者でなくとも、供応接待を受けることを禁じるものであるが、国税不服審判所は、この主張についても、措置法61条の4に規定する交際費等の要件としての贈答行為を受けた公務員が直ちに国家公務員倫理規程第5条第1項に違反するものでもないのであるから、請求人の主張はその前提を欠き採用できないとしている。「直ちに・・・違反するものでもない」の根拠は明言されていないが、株主優待制度が、同規程の「社会通念上相当と認められる程度を超えて」はいないというのが、その理由であろうと推測することは可能である。 (4) 交際費等として計上すべき金額 交際費等として計上すべき金額について、国税不服審判所は、直営店舗に関しては、配付した本件株主優待券が使用されたことによって請求人が対価を受け取らなかった役務提供の原価であるとしており、原価には人件費を含むと判断した。 この判断は、取引先等に自社の経営するレストランで接待した場合における、交際費等として計上すべき金額として、提供した料理のメニュー記載の金額ではなく、その料理の原価相当額(材料費、人件費等)となるとする実務上の解釈とも一致しており、妥当な判断であると言える(※2)。 (※2) 岸田光正『厳選100問 交際費等の税務』(清文社、2014年)22ページ。 一方、FC店等に関しては、請求人がFC店等に対して支払った支払手数料の額が、FC店等における本件株主優待券使用額であると認められることから、FC店等の役務提供の原価ではなく、実際にFC店等で値引きされた金額が交際費等の額となると判断した。 (了)

#No. 94(掲載号)
#米澤 勝
2014/11/13
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