《速報解説》 住宅ローン控除等、6つの住宅税制特例が適用期限1年6ヶ月延長 ~消費税率引上げの影響を考慮し平成31年6月30まで(平成27年度税制改正大綱)~ 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 (1) はじめに 平成26年12月30日、与党による「平成27年度税制改正大綱」が公表された。 所得税に関する改正項目は、①金融・証券税制、②住宅・土地税制、③租税特別措置等、④その他、に大きく区分されている。 以下では、所得税に関する改正項目のうち、住宅ローン控除等の延長について解説を行う。 なお、住宅借入金等特別控除の現行の制度の概要については、拙稿「《速報解説》 住宅税制(住宅ローン控除等)の拡充・延長について─平成25年度税制改正大綱─」(平成25年2月15日公開)をご参照いただきたい。 (2) 見直しの背景 上記拙稿のとおり、消費税率8%引上げを控えた平成25年度の税制改正において、住宅ローン控除の拡充等、住宅税制について大幅な見直しが行われた。 住宅は、取引価額が高額であることから、消費税率引上げ前の駆け込み需要と引上げ後の反動が大きくなる可能性が高い。住宅税制の見直しは、消費税率引上げによる住宅投資への影響を平準化及び緩和することを目的としている。 今回公表された平成27年度税制改正大綱には、消費税率10%への引上げ時期について、当初の平成27年10月1日から1年6ヶ月先延ばしし、平成29年4月1日とすることが示されている。この税率引上げ時期の変更を踏まえ、住宅取得等に係る措置についても適用期限を1年6ヶ月延長することが示された。 (3) 見直しの概要 次に掲げる住宅取得等に係る措置の適用期限(現行:平成29年12月31日)を1年6ヶ月延長し、「平成31年6月30日」までとすることが示された。 なお、個人住民税における住宅借入金等特別税額控除についても、所得税と同様に、適用期限を1年6ヶ月延長し、平成31年6月30日までとすることが示されている。 (了) 【参考図】(2015/1/8追記) (※) 財務省ホームページより
《速報解説》 研究開発税制、控除限度額の構造を見直し ~特別試験研究費税額控除を別枠に。繰越控除制度は廃止へ(平成27年度税制改正大綱)~ 税理士法人山田&パートナーズ 税理士 吉澤 大輔 はじめに 「平成27年度税制改正大綱」により、経済成長力、国際競争力の維持・強化を図るためには、研究開発を促進するための税制措置が引き続き必要であるとの観点から、平成27年度においても、研究開発税制に関する改正が行われる予定であることが明らかとなった(大綱p64)。 そこで本稿では、改正案の内容とその留意点を述べることとするが、『自前主義からオープンイノベーション志向への変革』を意識した改正内容であることに注目していただきたい。 1 改正案の内容 税額控除限度額の上限を当期法人税額の30%(措法42条の4の2)とする措置が適用期限(平成27年3月31日)をもって廃止されるが、新たに次の措置により、税額控除限度額の上限の総枠を当期法人税額の30%とする改正が予定されている。 【改正案のイメージ図】 2 改正案における留意点 (1) オープンイノベーションへ取り組む企業には朗報 『試験研究費の総額に係る税額控除制度』及び『中小企業技術基盤強化税制』と『特別試験研究費の額に係る税額控除制度』の税額控除限度額が別枠となり、自前主義の企業においては税額控除額が減額する可能性がある。 他方、オープンイノベーションに積極的に取り組んでいる企業については今回の改正でさほど影響を受けないどころか、『特別試験研究費の額に係る税額控除制度』の税額控除率の引上げ、特別試験研究費の対象範囲の見直しにより、研究開発税制の優遇を受けやすくなったと言える。 (2) 繰越控除制度廃止の影響 繰越(中小企業者等)税額控除限度超過額に係る税額控除制度の廃止により、法人税額の負担に比して試験研究費の額が大きい企業については、研究開発税制の優遇を受けづらくなったと言える。今後の経過措置等に注目したい。 (了)
《速報解説》 固定資産税に係る主な平成27年度税制改正事項 ~宅地等の負担調整措置は継続。特定空家等の敷地は特例措置の適用除外へ~ 税理士 島田 晃一 平成26年12月30日に公表された「平成27年度税制改正大綱」における固定資産税関連の主な改正点等は次のとおりである。 1 土地に係る負担調整措置の仕組みの継続 固定資産税は過去3年に一度の固定資産税評価替えに合わせ何らかの改正が行われてきた。 平成27年度は評価替えの年にあたるが、平成27年度の大綱では45ページに と記載されており、大きな変更はなく現行の計算方法が踏襲される。 宅地等の固定資産税は、宅地等を住宅用地とそれ以外(商業地等)に区分し、それぞれ「負担水準」といい、当該年度の固定資産税評価額に対し前年度における課税標準額がどのくらいの割合にあるかを求め、その負担水準に基づき課税標準額を計算し税率(原則1.4%)を乗じて税額を算出する。 住宅用地に関しては、負担水準の計算の際、固定資産税評価額に小規模住宅用地(住宅用地のうち「200㎡×住居の数」までの部分)は6分の1、その他の住宅用地(一般住宅用地)は3分の1を乗じて計算し、その負担水準に応じて前年の課税標準額を次表に応じて調整することになる。 結果として、住宅用地については、この特例があることで商業地等より税負担が低く抑えられるわけである。 一方、商業地等に関しては、負担水準の上限部分について負担水準が70%を超える土地は、課税標準額を固定資産税評価額の70%まで引き下げ、負担水準が60%以上70%以下の場合については税額が据え置かれる。 負担水準が20%以上60%未満の商業地等に関しては、前年度の課税標準額にその年度の固定資産税評価額の5%が追加され(固定資産税評価額×60%が限度)、20%未満のときは固定資産税評価額の20%相当額になる。 また、大綱にある「税負担急増土地に係る条例減額制度」とは、住宅用地、商業地等ともに、当年度の税額が前年度の税額の1.1倍を超える場合、各市町村の条例により超える部分の税額を減額できる特例をいい、「商業地等に係る条例減額制度」とは、条例により商業地等に係る課税標準額の上限を固定資産税評価額の70%から60%を限度として引き下げることができるというものである。 これらの制度ついては改正後も継続されることになる。 なお、都市計画税に関しては、大綱の45ページに「固定資産税の改正に伴う所要の改正」を行うと記載されている。固定資産税の計算方法に大きな改正がないことから、都市計画税についても現行の計算を踏襲することになる。 都市計画税(税率は0.3%の範囲内で各市町村が独自に設定)の課税標準額の計算は固定資産税の計算に準じる。ただし、住宅用地の特例割合は小規模住宅用地3分の1、一般住宅用地3分の2になっている。 2 特定空家に関する住宅特例措置の適用除外 平成27年度の税制改正大綱には、平成26年11月に臨時国会で成立した「空家等対策の推進に関する特別措置法」を受け、同法に定める特定空家等に係る土地について、固定資産税及び都市計画税に係る住宅用地の特例措置の対象から除外する措置を講ずると記載されている(大綱48ページ)。 特定空家等については、「空家等対策の推進に関する特別措置法」の第2条において詳細が定められている。具体的には次のとおりである。 特定空家等に該当するか否かについては、同法第9条において、立ち入り調査権が認められているので、今後随時市町村の調査が実行されることになる。この調査により特定空家等に該当すると判定された場合は、市町村長から取り壊しや修繕等をするよう助言・指導・勧告がなされ、是正されない場合には行政代執行法により所有者に代わり取り壊し等を行うことができるとされている(同法第14条)。 特定空家等に該当することとなった場合、前述したようにその敷地に関して固定資産税については固定資産税評価額に6分の1(3分の1)、都市計画税は3分の1(3分の2)を乗ずる住宅用地の特例措置が受けられなくなった。この場合、当該敷地は住宅用地として取り扱われ特例措置のみがなくなるのではなく、「商業地等」として取り扱われるようである。ただし、現段階ではまだ不透明であり今後の情報を待ちたい。 また、平成27年度の固定資産税の課税においては、当初住宅用地とされていても、その後の立ち入り調査等で「特定空家等」の敷地に該当する場合も考えられる。この場合の当初税額との差額を徴収するのかどうか、また、急激な税負担増に関する緩和措置が設けられるかどうかなども今後明らかにされていくであろう。 (了)
《速報解説》 所得拡大促進税制の適用要件緩和と外形標準課税への適用 ~中小企業者等の「雇用者給与等支給増加割合」は3%据置き(平成27年度税制改正大綱)~ 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 1 はじめに 平成26年12月30日、与党(自由民主党及び公明党)より「平成27年度税制改正大綱」が公表された。今回の税制改正でも、デフレ脱却・経済再生をより確実なものにしていく必要があるとの認識から、企業の収益力を高め、賃上げを促進するための税制措置が盛り込まれたところである。 具体的には、「所得拡大促進税制」(雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除)について、一層の適用要件の緩和を行うとともに、法人事業税の外形標準課税においても所得拡大促進税制が導入することとなった。 本稿では、平成27年度税制改正における、所得拡大促進税制に関連する改正点について解説を行う。 2 所得拡大促進税制の改正 所得拡大促進税制(措法42の12の4)については、適用要件のうち「雇用者給与等支給増加割合の要件」についての見直しが行われることとされた(大綱p65)。 「雇用者給与等支給増加額割合」とは、雇用者給与等支給額から基準雇用者給与等支給額を控除した金額(雇用者給与等支給増加額)の、当該基準雇用者給与等支給額に対する割合をいうが、所得拡大促進税制の適用を受けるために充足すべき割合が下表のように改正される。 すなわち、改正点のない事業年度も含めると、以下のように改正されるということである。 3 外形標準課税(付加価値割)における所得拡大促進税制の導入 資本金1億円超の法人について適用される、法人事業税の外形標準課税においては、付加価値割の課税標準として「報酬給与額」が含まれている(地法72の14)。 所得拡大促進税制の適用を受けることのできる状況では、当然、付加価値割の課税標準たる報酬給与額も増加し、税額も増加してしまうこととなる(雇用安定控除はあるが)。 そこで平成27年度税制改正では、所得拡大促進税制の適用要件を満たしている場合には、付加価値割の課税標準の算定上、所得拡大促進税制における「雇用者給与等支給増加額」を控除できることとするよう改正される(大綱p66)。 ただし税制改正大綱では、「付加価値割の課税標準」から控除されるとの記載となっており、「報酬給与額から控除」という表現にはなっていない。これは前述の「雇用安定控除」との調整が必要なためと考えられるが、税制改正大綱においても「雇用安定控除との調整等所要の措置を講ずる」とされている。引き続き確認していきたい。 (了)
《速報解説》 不動産登記に係る主な登録免許税の軽減措置の延長及び廃止 ~平成27年度税制改正大綱~ 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 平成26年12月30日、自由民主党と公明党による「平成27年度税制改正大綱」が公表された。 不動産登記に係る登録免許税に関する改正内容の主なものとして、次のとおり延長及び廃止の措置を講ずることとされた。 延長の目的としては、土地の取得コストの軽減による土地の流動化・有効利用の促進を通じて、資産デフレからの脱却及び経済再生の実現を図ることを目的としている。 1 延長の概要(大綱p47) ① 土地の所有権移転登記等に係る登録免許税の税率について、下記の軽減税率を平成29年3月31日まで2年間延長することとなった。 ② 住宅用家屋の所有権の保存登記及び移転登記並びに住宅取得資金の貸付け等に係る抵当権の設定登記についての登録免許税の税率について、下記の軽減税率を平成29年3月31日まで2年間延長することとなった。 注1 なお、特定認定長期優良住宅の所有権の保存登記等、認定低炭素住宅の所有権の保存登記等及び特定の増改築等がされた住宅用家屋の所有権の移転登記については、平成26年度税制改正により平成28年3月31日までとされている。 2 また、住宅用の家屋についての軽減税率の適用を受けるには、下記の要件が必要となる。 2 廃止の概要(大綱p48) 会社分割に伴う不動産の所有権の移転登記等の登録免許税について税率を軽減する措置については、会社分割制度の創設以降その活用等に貢献し、その役割を果たしたということと、平成26年度税制改正において講じられた産業競争力強化法に規定する事業再編等に係る登録免許税の税率の軽減措置によって、組織再編・事業再編を通じた経営資源の効率的活用を図る取組みを促進させられることにより、平成27年3月31日をもって廃止されることとなった。 (了)
《速報解説》 消費税率10%施行の延期と複数税率制度への移行について ~軽減税率は「平成29年度からの導入を目指す」との記述(平成27年度税制改正大綱)~ 税理士 金井 恵美子 〇消費税率10%は平成29年4月1日から~経過措置の「指定日」は平成28年10月1日 平成27年度税制改正大綱は、消費税率10%への引上げの施行日を「平成29年4月1日」とした(大綱p82)。 税率変更の時期は、政府により、衆院選前に1年半先送りすることが決定されたが、そのため財政再建の道筋が不透明になったことを理由として日本国債の格付けが格下げされるなど、日本政府の財政運営に関する信認低下が懸念されている。 大綱は、市場や国際社会からの信認を高めるために財政健全化を着実に進める姿勢を示す観点から、「景気判断条項」を付さずに確実に実施するものとしている。 これに伴い、工事の請負等に関する適用税率の経過措置等の指定日は「平成28年10月1日」となり、平成29年3月31日までの時限立法である消費税転嫁対策特別措置法は平成30年9月30日まで延長される。 〇軽減税率は「平成29年度からの導入を目指す」 税率構造については、「消費税の軽減税率制度については、関係事業者を含む国民の理解を得た上で、税率10%時に導入する。平成29年度からの導入を目指して、対象品目、区分経理、安定財源等について、早急に具体的な検討を進める。」とした(大綱p9)。 公明党は、消費増税に際して「痛税感を和らげる措置」として、消費税率10%への引上げと同時に複数税率制度に移行し、食料品などの税率を8%に据え置くことを求めており、自民党の野田毅税制調査会長は、12月30日の記者会見で、「遅くとも(平成27年)秋までの制度案の決定に向けての検討を開始したい」と述べ、本年秋までに与党合意を目指す考えを示した。1月中に自民、公明両党の税調幹部で構成する協議会を設置し、対象品目などの具体案の検討に入る。 〇複数税率制度への移行に向けた課題 しかし、経済界では、複数税率制度への移行に反対する意見が多い。 平成26年12月30日、日本商工会議所の三村会頭は、「消費税の複数税率については、社会保障財源の毀損や、対象品目の線引きが困難であるという問題を抱えている。加えて転嫁問題に直面する事業者、とりわけ規模の小さい事業者ほど事務負担が大きくなることから、導入すべきでないと考える。」とコメントしており、日本経済団体連合会の榊原会長も「消費税の軽減税率については、社会保障財源の減少や中小企業を中心とした納税者の事務負担の増大等を十分に踏まえたうえで、慎重に検討することが必要である。」としている。 売手と買手の適用税率を一致させる区分経理の方法として、与党税制協議会は、昨年6月5日に公表した「消費税の軽減税率に関する検討について」において、次の4つの方式を提案している。 (A案)及び(B案)は現行の請求書等保存方式、(C案)及び(D案)はインボイス方式のカテゴリに属するものである。両者の制度的な違いは、免税事業者からの仕入れを仕入税額控除の対象とするかどうかであり、いずれの方式を採用するかは今後検討される。適正な税率適用のための担保という観点からは(D案)が最も優れていると思われるが、仕入税額控除の仕組みを激変させるものであり、制度構築のハードルは高い。 また、大綱は、内外判定の基準を見直して国外事業者が国境を越えて行う電子商取引を消費税の課税対象とするものとしており(大綱p84)、新しい制度は、国内の事業者に係る事業者登録制度がないことを前提としている。現時点で(D案)EU型インボイス方式を採用する可能性は低いと考えられる。 (了)
《速報解説》 特定資産に係るいわゆる“9号買換え特例”は2年3ヶ月延長 ~買換資産要件から機械装置等を除外(平成27年度税制改正大綱)~ 税理士 内山 隆一 平成26年12月30日、平成27年度税制改正の大綱が閣議決定された。 デフレ経済の脱却及び経済再生への取り組みとして、税制面からも「企業の設備更新の円滑化」、「土地の流動化・有効利用の促進」、「地域の活性化」といったところに資するため、平成26年12月31日で適用期限が終了する、措置法第37条第1項第9号《特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例》【所得税】及び同法第65条の7条第1項第9号《特定の資産の買換えの場合の課税の特例》【法人税】における長期所有の土地等から国内にある土地、建物、機械装置等への買換えについて、一定の見直しを行った上、適用期限を2年3ヶ月間(平成29年3月31日まで)延長することとされている。 1 制度の概要 事業の用に供する次の譲渡資産を譲渡し、次の買換資産を取得して事業の用に供したとき又は供する見込みであるときは、その譲渡資産の譲渡について80%相当の課税の繰延べが受けられる。 2 改正内容(大綱p78) 下記の見直しを行った上、その適用期限(現行:平成26年12月31日まで)を2年3ヶ月(平成29年3月31日まで)延長する。 【参考】 国土交通省ホームページ (了)
《速報解説》 欠損金の繰越控除制度は控除限度額の縮減・繰越期間の延長 ~中小法人等の全額控除は存置(平成27年度税制改正大綱)~ 公認会計士・税理士 新名 貴則 自由民主党と公明党は、平成26年12月30日、「平成27年度税制改正大綱」を発表した。 この中で、法人税率引下げに伴う代替財源確保のために、欠損金の繰越控除制度の見直しが明記された(大綱p61)。 ここでは、その内容について解説する。 〈平成27年度税制改正前後における欠損金の繰越控除〉 上表のとおり、原則として繰越欠損金の控除限度額は、段階的に控除前所得の「50%」相当額まで引き下げられることになった。ただし、中小法人等においては、改正前と同様に控除前所得の「全額」を控除できることとされた。 更正手続開始決定や再生手続開始決定等の事実が生じた法人については、下図のとおり例外措置が設けられている。 (※) 金融商品取引所への再上場等があった場合、再上場の日等以後に終了する事業年度は対象外。 設立直後の法人についても、下図のとおり例外措置が設けられている。 (※) 金融商品取引所への上場等があった場合、上場の日等以後に終了する事業年度は対象外。 (※) 資本金等が5億円以上である大法人の100%子法人、及び100%グループ内の複数の大法人に発行済株式等のすべてを保有されている法人は対象外。 また上表のとおり、法人の規模に関係なく、平成29年4月1日以後に開始する事業年度において発生する欠損金については、繰越期間が「9年」から「10年」に延長された。 中小法人等については、平成27年度改正後も控除前所得の全額を控除できることは変わりなく、欠損金の繰越期間が9年から10年に延長されたのみである。 (了)
《速報解説》 課税ベース拡大により「受取配当等の益金不算入制度」が見直し ~保有割合区分の細分化で不算入割合20%も(平成27年度税制改正大綱)~ 税理士法人オランジェ 代表社員 税理士 石田 寿行 平成26年12月30日に公表された「平成27年度税制改正大綱」により、受取配当等の益金不算入制度についての見直しが明記された(大綱p63)。 法人実効税率を引き下げる一方で、2020年度の基礎的財政収支黒字化目標との整合性を確保するため、制度改正を通じた課税ベースの拡大等により、恒久財源を確保する目的である。 1 対象となる株式等の区分及び益金不算入割合の変更 現行では、株式等保有割合が25%以上であれば、益金不算入割合は100%であったが、改正により「関連法人株式等(株式等保有割合の3分の1超)」と「非支配目的株式等(株式等保有割合5%以下)」という区分を設け、益金不算入の対象となる株式等の区分及び益金不算入割合は以下の通りとなる。 上記のように、現行では、株式等保有割合が25%未満でも100分の50、25%以上であれば100分の100(全額)益金不算入となっていたが、平成27年度以降は、株式等保有割合が3分の1超で100分の100(全額)、5%超3分の1以下で100分の50、5%以下は100分の20となる。 2 公社債投資信託以外の証券投資信託の取扱い 公社債投資信託以外の証券投資信託の収益の分配の額については、その全額を益金算入(現行は収益の分配の額の2分の1(又は4分の1)の金額の100分の50相当額を益金不算入)とされる。 ただし、特定株式投資信託の収益の分配の額については、その受益権を株式等と同様に扱い、上記1の非支配目的株式等として、その収益の分配の額の100分の20相当額を益金不算入とする。 3 負債利子控除の対象除外 上記1の「その他の株式等」及び「非支配目的株式等」については、負債利子がある場合の控除計算(負債利子控除)の対象から除外される。 この改正に伴い、損害保険会社の受取配当等の益金不算入等の特例(特別利子に係る負債利子控除の特例)は廃止される。 4 保険会社の特例 上記1及び2に伴い、青色申告書を提出する保険会社が受ける非支配目的株式等に係る配当等の額については、その100分の40相当額(原則100分の20相当額)を益金不算入とする特例が創設される。 5 関連法人株式等に係る負債利子控除の計算の簡便法の基準年度変更 上記の改正に伴い、関連法人株式等に係る負債利子控除の計算の簡便法の基準年度(現行:平成22年4月1日から平成24年3月31日まで)を平成27年4月1日から平成29年3月31日までの間に開始する事業年度とする。 (了)
《速報解説》 平成27年4月1日開始事業年度より外形標準課税の課税強化 ~賃上の負担増に配慮し付加価値割に所得拡大促進税制を導入(平成27年度税制改正大綱)~ 弁護士 木村 浩之 1 はじめに 平成27年度税制改正大綱の「目玉」として、法人税改革に着手する姿勢が示された。 課税ベースの拡大と税率の引下げを図ろうとする法人税改革については、デフレ脱却・経済再生に向けた税制措置として、以前より実現に向けて議論のあったところであるが、今回の大綱では、課税ベースの拡大によって財源を確保するとともに、税率の引下げによって収益力のある企業の税負担を軽減することで、「強い」企業や将来性のある企業の競争力をより高めるという成長志向型の法人課税が志向されている。 本稿では、この法人税改革の一つの柱である「課税ベースの拡大」という観点から、地方税における外形標準課税の強化という点について解説することとしたい。 2 外形標準課税の強化 地方税に関しては、平成15年度税制改正により、企業間の税負担の公平を図ることや応益課税としての性格を明確にすること(地方公共団体によってサービスを享受している企業が応分の対価として税を支払うということ)といった観点から、資本金1億円超の法人に限り、法人事業税の一部について、所得を課税標準とするのではなく、付加価値や資本という企業規模を課税標準とする外形標準課税が導入されている。 今回の改正案では、この外形標準課税を強化することが予定されており、具体的には、下表のとおり、付加価値割の税率と資本割の税率が引き上げられ、それに見合う所得割の税率が引き下げられることになる。これにより、いわゆる赤字企業においても、企業規模に応じた税負担がこれまで以上に求められることになる(大綱p65)。 (※) 年800万円以下の所得については軽減税率の適用があり得る。また、所得割の税率には地方法人特別税の税率が含まれる。 3 付加価値割における所得拡大促進税制の導入 外形標準課税の強化を図る一方で、賃上げを促進するための所得拡大促進税制が地方税においても導入されることとなる。所得拡大促進税制は平成25年度税制改正において法人税に導入されたものであるが、これを法人事業税の付加価値割にも拡大しようとするものである(大綱p66)。 これは雇用者に対する給与の支給額が一定割合以上増加した場合に、その増加額を付加価値割の課税標準から控除できるようにするものであり、これによって企業における賃上げがさらに底上げされることが期待される。 4 適用時期と今後の展望 以上の改正案については、平成27年4月1日開始事業年度より適用されることになる。 なお、今回の改正案では、外形標準課税は、従前どおり、資本金1億円超の法人に限って適用されることになるため、中小法人について直ちに影響するところはない。しかしながら、外形標準課税については、平成28年度以降もさらなる拡大に向けて検討がなされるものとされており、特に、課税ベースの拡大という観点からは、適用対象法人の拡大について検討がなされることになる。 日本の法人の99%を占めるとされる中小法人にまで外形標準課税のベースが拡大するとすれば、その影響は極めて大きいといえることから、今後も議論の動向を注視する必要があろう。 (了) ↓お薦め連載記事↓