常識としてのビジネス法律 【第16回】 「独占禁止法《平成25年改正対応》(その1)」 弁護士 矢野 千秋 第1 独占禁止法の目的・規制と基本概念 1 独占禁止法の立法目的 「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」、いわゆる独占禁止法(以下、独禁法)は、「公正かつ自由な競争を促進」し、「一般消費者の利益の確保」と「国民経済の民主的で健全な発達を促進」することを目的とするために、競争の手段、過程、ならびに結果におけるルールを規定するものである。 学説の通説的位置を占めているのは、独禁法の目的は「公正且つ自由な競争の促進」にあるとし、本法を競争(秩序維持)政策を実現する法律であると捉える説である。公正取引委員会(以下、公取委)も通説的見解を採用している。すなわち自由競争を放置すれば、競争秩序は崩れ独占的な企業に市場は左右されることにもなる。そこで自由競争に独禁法を介入させることにより、公正な競争を目指しているものであるとする。 これに対して「一般消費者の利益の確保」と「国民経済の民主的で健全な発達を促進」することが目的とする学説もある。これはカルテルの「公共の利益」をどう考えるかなどで差が出てくる。 判例(石油価格カルテル刑事事件=最判昭和59・2・24刑集38・4・1287)は、独禁法の直接の目的は自由競争経済秩序の維持、すなわち「公正且つ自由な競争の促進」にあるが、究極の目的は「一般消費者の利益の確保」と「国民経済の民主的で健全な発達を促進」することとする。これにより究極の目的のために例外的に競争政策が譲らねばならぬ場合があることを認めている。 2 3つの規制内容 独禁法は「公正且つ自由な競争の促進」という目的を実現するために、事業者および事業団体による種々の阻害的な行為や構造を規制している。 それらの規制内容を規制対象の実質的共通性に着目して分類するならば、「独占および集中の規制」、「共同行為の規制」および「不公正な取引方法の規制」の3つに分けることができる。 (1) 独占および集中の規制 独占および集中の規制は、少数の個人、企業または企業集団への経済力・事業支配力の過度の集中を防止し、競争が行われる基盤を整備する「一般集中規制」と、特定の市場を少数の企業または企業集団が支配し競争制限をもたらすことを防止する「市場集中規制」とに大別できる。 「一般集中規制」には、他の国内の会社の株式を所有することにより事業支配力が過度に集中することとなる会社の設立・他の会社のそのような会社への転化の禁止(独9条)、および金融会社(銀行または保険会社)が非金融会社の総株主の議決権の5%または10%を超えて保有することを禁止する金融会社の議決権保有の制限であり(独11条)、いずれも主として企業結合による国民経済全体の構造変化を規制するものである。 「市場集中規制」に向けられているのは、私的独占の禁止(独2条5項)、独占的状態の規制(独2条7項)、およびそれらの予防的規制である企業結合規制(独10条1項前段等)である。 (2) 共同行為の規制 共同行為の規制には、事業者が他の事業者と共同し、相互拘束または共同遂行することによって「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」行為を禁止する不当な取引制限の禁止規定(独3条後段・2条6項)と、事業者団体が「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」行為等を禁止する規定(独8条1号・3号・4号)がある。そのほか、事業者または事業者団体による不当な取引制限に該当する事項を内容とする国際的協定・契約の締結の禁止規定(独6条・8条2号)もある。 (3) 不公正な取引方法の規制 不公正な取引方法は、法が規定する行為(独2条9項1ないし5号)および不当な差別的取扱い、不当対価取引、不当な顧客誘引・取引強制、不当な拘束条件付取引、取引上の地位の不当利用、競争業者への妨害または内部攪乱のいずれかの類型に該当する行為であって、「公正な競争を阻害するおそれがある」として公取委が指定するものである(独2条9項6号イ~へ)。 3 独占禁止法の基本概念 (1) 事業者 独禁法によって規制を受けるのは、原則として事業者および事業者団体である。 「事業者」は、「商業、工業、金融業その他の事業を行う者をいう」と定義されており(独2条1項)、「事業者団体」は、「事業者の共通の利益増進を目的とする事業者の結合体またはその連合体である」(独2条2項)と定義されている。 事業者中の「その他の事業を行う者」とは「なんらかの経済的利益の供給に対応して反対給付を反復継続して受ける経済活動を行う者」であり、経済事業であれば営利を目的とするか否かも問わない。したがって政府・地方公共団体、公社・公団、協同組合などの行う経済事業に対しても適用される。 (2) 競争 「競争」とは「二以上の事業者がその通常の事業活動の範囲内において、かつ、当該事業活動の施設又は態様に重要な変更を加えることなく次の各号の一に掲げる行為をし、又はすることができる状態をいう」と定義されている(独2条4項)。 前者が売り手競争であり、後者が買い手競争である。 (3) 一定の取引分野 「一定の取引分野」とは「一定の供給者群と需要者群との間に成立する市場のこと」、したがって、一定の取引分野は、取引の地域や段階、取引の相手方や商品等の観点から、供給の代替性と需要の代替性が機能する範囲において画定されることになる。 複数メーカーの商品について「一定の取引分野」が画定されることが多いが(ブランド間競争)、特定メーカーの商品が差別化に成功している場合などには、特定メーカーの商品のみについて「一定の取引分野」が画定されることもある(ブランド内競争)。「一定の取引分野」は、一般に取引段階を同じくする事業者間において成立する。 (4) 競争の実質的制限 「競争の実質的制限」とは、特定の事業者または事業者集団が市場支配力を形成・維持・強化している状態を意味しており、公取委は「競争を実質的に制限するとは、競争自体が減少して、特定の事業者または事業者集団が、その意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量、その他諸般の条件を左右することによって、市場を支配することができる状態をもたらすことをいう」としている。 市場支配力の存否は、経済的諸条件を考慮して総合的に判断をしなければならないが、それらの条件の中では、当該事業者の事業分野占拠率が最も重要視されている。独占的状態の市場構造要件の一つである当該1年間で1社で2分の1超または2社で4分の3超の事業分野占拠率(独2条7項1号)は、市場支配力の存否判断における重要な条件である。 (5) 公共の利益 通説は「公共の利益」とは自由競争経済秩序の維持それ自体であるとする。 石油価格カルテル刑事事件・最高裁判決(最判昭和59・2・24刑集38・4・1287)は、不当な取引制限の「公共の利益に反して」の要件について、原則として独禁法の直接の保護法益である「自由競争経済秩序に反すること」を指すが、現に行われた行為が形式的に右に該当する場合であっても、右法益と当該行為によって守られる利益とを比較衡量して「一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進する」という究極の目的に実質的に反しないと認められる例外的な場合を不当な取引制限行為から除外する趣旨と解すべきである、と判示する。 第2 独占および集中の規制 1 総説 「集中」とは特定の市場または経済全体の中で単独または少数の企業がその大きな部分を占めることを意味し、集中は、「市場集中」と「一般集中」に分けられる。 市場集中とは、特定の市場において、売り手・買い手がどのような相対的規模を持っているか、すなわち一ないし少数の者が占める市場占拠率によって表される。それに対し、国民経済全体において、少数の個人または大企業が大きな割合を占めるようになることを、一般集中という。 2 市場集中の規制 (1) 私的独占の意義 「私的独占」とは、「事業者が、単独に、又は他の事業者と結合し、若しくは通謀し、その他いかなる方法をもってするかを問わず、他の事業者の事業活動を排除し、又は支配することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」と定義され(独2条5項)、これを受けて、「事業者は、私的独占又は不当な取引制限をしてはならない」としている(独3条)。 (2) 「排除」・「支配」(行為要件) 「排除」とは、他の事業者が事業活動を続けること、または新規参入することを著しく困難にすることである。 「支配」とは、他の事業者を拘束しあるいは強制することによって、その事業活動を自己の意思に従わせることである。 (3) 「排除」の事例 埼玉銀行・丸佐生糸事件では、埼玉銀行が、その融資先である埼玉県下の12の製糸工場に対し、同銀行の実質的な子会社である丸佐生糸と取引するように要求したことが、従来それらの製糸工場と取引していた問屋を「排除」したとされた(同意審決昭和25・7・13審決集2・74)。 雪印乳業・農林中金事件は、雪印乳業と北海道バターの両社が共同して、両社と密接な関係にある農林中金による融資を両社に生産乳を供給する農家に対してのみ斡旋しようとして、両社が競争関係にある他の集乳業者の「排除」を図ったとされた(審判審決昭和31・7・28審決集8・12)。 パラマウントベッド事件は、東京都財務局が発注事務を所管する都立病院向け医療用ベッドにつき、同社は病院の入札事務担当者に対し、同社の製品のみが適合する仕様を盛り込むよう働きかけ、しかもそれは同社が実用新案権等を有している構造であることを伏せており、これにより同社のベッドのみが納入できる仕様書入札を実現して競争者を「排除」したことが私的独占に当たるとされた(勧告審決平成17・4・13審決集52・341)。 (4) 「支配」の事例 野田醤油事件は、醤油製造業でシェア第1位で他の醤油製造業者3社に対してプライスリーダーの地位を形成維持していた野田醤油が、自己の指示する価格以下で販売する小売業者に対し出荷停止等の措置を採り、他の3社はこれに追随せざるを得ないところから野田醤油が自己のプライスリーダーとしての地位をさらに強化する目的で再販行為をしたことが、他の3社の事業活動の「支配」に当たるとされた(東京高判昭和32・12・25高民10・12・743)。 (5) 「競争の実質的制限」(市場要件) 競争の実質的制限の有無は、当該行為者が問題になる行為(排除・支配)によって市場支配力を形成・維持・強化したか否かである。市場支配力は程度概念であり、新たに市場支配力を形成したかの判断は極めて難しい。そこで私的独占の適用例のほとんどは、既に市場支配力を有している大企業が、さらにそれを維持・強化しようとして、一定の戦略を採る場合を問題にしたものである。 その際、明らかに独禁法上違法ないし不当と評価されるような行為を用いる場合であれば、それによる市場支配力の維持・強化を私的独占に当たるとすることは容易である。例えば、野田醤油事件は再販売価格維持というそれ自体が独禁法違反に当たる行為をしたケースであり、埼玉銀行・丸佐生糸事件や雪印乳業・農林中金事件は融資を材料に使って競争者との取引を阻止したケースである。 私的独占の禁止は、その認定の困難性と、不公正な取引方法でも規制できる場合がほとんどであるので、実際の適用例は極めて少数にとどまっている。 (1) 総説 企業結合に対する規制には、市場集中を進める企業結合の規制、および一般集中を進める企業結合の規制の双方が含まれている。 市場集中に関する規制としては、企業結合の制限(独10条1項、13条1項、14条、15条1項1号、15条の2第1項1号、15条の3第1項1号、16条)、および独占的状態に対する措置(独8条の4、2条7項)がある。 一般集中に関する規制としては、事業支配力過度集中会社の禁止(独9条)と、銀行と保険会社の株式保有の制限(独11条)がある。 (2) 企業結合の諸形態 ある企業が他の企業の株式を保有することが、企業結合の基本的形態である。株式保有による結合の極限形態は、複数の企業が完全に単一の企業となる合併である。役員兼任・派遣等も、企業結合の一形態である。その他、他の会社の事業の全部または重要部分の譲受け、事業上の固定資産の全部または重要部分の譲受け等についても企業結合と類似の規制がなされる(独16条)。 (3) 規制手続 規制の手法として、結合が結ばれる事前に届け出させて、違法でないと判断された場合にはじめて当該結合を認めるほうが、被規制企業側としてもリスクが少ないし、国民経済全体としても望ましいことであろう。そこで従前から事前届出制である合併等と同様、株式保有の場合も、事前届出制にしている。 したがって、やはり合併等の場合と同様に、株式取得会社においては、届出受理の日から30日(待機期間。公取委の必要な措置はこの間に)を経過するまでは当該届出に係る株式の取得をしてはならないものとされる(独10条8項)。届出を要する株式取得は、取得会社の属する企業結合集団の当該株式取得後の議決権保有比率が20%および50%を超えて取得することに限られている(独10条2項)。対象企業も、取得会社が属する企業結合集団の国内売上高合計額200億円超の会社が国内売上高合計額50億円超の会社の株式を取得する場合に限られている(独10条2項)。 合併等も、いずれかの会社の属する企業結合集団の国内売上高合計額200億円超の会社が、他の会社の属する企業結合集団の国内売上高合計額50億円超の会社と合併する場合に事前届出が必要と定めている(独15条2項等)。 (4) 「競争の実質的制限」 独禁法10条1項などは、会社は他の会社の株式を取得しまたは所有することによって、「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合」には、当該株式を取得しまたは所有してはならない、と定める。 「競争の実質的制限」とは、「市場支配力」が形成・維持・強化されることであり、「競争が実質的に制限されることとなる場合」とは、当該企業結合により市場構造が変化して市場支配力の形成・維持・強化が生じる蓋然性があることである。 3 一般集中の規制 一般集中の規制とは、少数の個人や企業または企業集団に日本経済全体に対する経済力・事業支配力が過度に集中することを防止しようとするものである。独禁法は事業支配力過度集中会社規制(独9条3項)と銀行(他の国内会社の議決権の100分の5超)および保険会社(他の国内会社の議決権の100分の10超)の持株制限(独11条)を置いている。 (了)
セミナーお申込受付開始! 平成26年11月21日(金)開催 平成26年度税制改正による制度拡充により、その適用判定が複雑化した「所得拡大促進税制」(雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除:租税特別措置法第42条の12の4)。 このセミナーでは、平成27年3月決算・申告に対応するために、その適用判断や集計方法を事例を交えて解説。さらに、計算演習や別表6(20)の作成演習を通じ、申告実務や実務上の留意事項まで、1日で本制度を徹底的に理解することを目的としています。 セミナー内容の詳細やお申込方法など、くわしくは下記からご覧ください。
《速報解説》 国税不服審判所「公表裁決事例(平成26年1月~3月)」 ~注目事例の紹介~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 国税不服審判所は、9月30日、「平成26年1月から3月分までの裁決事例の追加等」を公表した。 今回追加されたのは表のとおり、全10件の裁決となっていて、3ヶ月ごとに区切って公表されている裁決の数としては、やや少なくなっている。 今回公表された裁決では、国税不服審判所によって課税処分等が全部又は一部取消された事例が6件、すべて棄却された事例は4件であった税法・税目としては、所得税法関係が5件と半数を占め、国税通則法及び国税徴収法が各2件、消費税法が1件であったが、法人税、相続税については、今回、公表事例はなかった。 【公表裁決事例(平成26年1月~3月)の一覧】 ※本稿で取り上げた裁決 本稿では、公表された10件の裁決事例のうち、注目される事例を紹介したい。 1 雑収入の計上洩れに対する重加算税の賦課決定処分・・・① (1) 事例の概要 請求人は、従業員である課長から、「目標を成し遂げる強い意志を約束」するためとして、私財200万円を預かっていたが、平成19年10月期において、このうち120万円について、課長は、自己の成績不振、稟議違反を理由に返還請求権を放棄したか、少なくとも返還請求権を行使しない意思表示を、請求人に対して行ったことが認められる。 しかし、同期において、請求人は、これを雑収入として帳簿書類に記録していなかった。 また、課長が作成した預り金に関する覚書等を請求人の机の引出しに保管するなど、積極的に事実と反する不正を行い、租税を免れようとする意思が認められることから、重加算税の賦課要件を満たすと、原処分庁は判断した。 なお、本裁決では、他にも販売促進費や旅費交通費の損金算入をめぐっても、審査請求がなされているが、本稿では、「隠ぺい又は仮装の行為」のみに争点を絞って取り上げていることをお断りしておく。 (2) 審判所の判断 審判所は、以下のように述べ、請求人には、「隠ぺい又は仮装の行為」があったとは認められない、とした。 そして、原処分庁の主張に対しては、「単に請求人が本件覚書を机の引出しで管理していたとの事実のみにより、雑収入発生の事実を隠ぺいしたものであるとは認定」できないとして、これを斥けたものである。 2 ロータリークラブの会費等の必要経費算入の可否・・・③ (1) 事例の概要 司法書士業を営む請求人が、営業活動の一環として、ロータリークラブに入会し、クラブの活動に継続的に参加することにより、顧客を獲得していると主張して、その会費等を必要経費に算入していたところ、原処分庁は、本クラブは、司法書士業を営む者がすべて入会しなければならないものではなく、個人的な立場で入会するものであって、クラブの活動は、事業所得を生ずべき業務に密接に関係するものとはいえないことから、各諸会費は、請求人の事業と直接関連するものではなく、かつ、業務の遂行上通常必要な支出であるとは認められないし、もし、仮にこれらの諸会費が家事関連費に該当するとしても、請求人のクラブにおける活動が、主として業務上の必要性に基づくものであると客観的に認めることはできず、また業務上の必要性があったとしても、事業所得を生ずべき業務の遂行上必要である部分を明らかにすることができないことから、必要経費には該当しないとして更正処分及び賦課決定処分を行ったものである。 (2) 審判所の判断 審判所は、一般論としての司法書士業の必要経費について、次のように説示する。 そのうえで、ロータリークラブの活動を以下のようにまとめたうえで、「司法書士として行う事業所得を生ずべき業務と直接関係し、かつ、当該業務の遂行上必要なものであったと認めることはできない」と結論づけた。 (3) 東京高裁の判決について 請求人は、東京高裁平成24年9月19日判決を引用して、「所得を生ずべき業務について生じた費用」とは、「所得を生ずべき業務を遂行するのに必要であった費用」であって、事業の業務と直接の関係を持つことが要件であるとの解釈をすることはできず、また、事業所得を生ずべき業務に該当するか否かについては、当該活動が社会通念に照らし、客観的にみて所得を生ずるのに必要な活動であるといえるか否かで判断すべきであると主張したが、審判所は、高裁判決の本件審査請求への適用については、「事案を異にするから」理由がないとして、以下のとおり、一蹴した。 本裁決は、東京高裁判決があくまでも事例判決であるとして、通達等の改正を見送った国税庁の判断に沿ったものであると言えそうである。 (4) 法人税と所得税における課税上の取扱いの違いについて 請求人は、また、法人が支出するロータリークラブの会費等については交際費等の経費として認められており、同じ会費等の支出であるのに、人格の違い及び税法上の解釈で経費計上の取扱いが異なることは、合理性を欠くといえるから、個人事業者においても交際費等として必要経費に算入されるべきであると主張したが、審判所は、法人と個人の支出の取扱いに違いがあることを以下のように説示して、請求人の主張には理由がないとした。 3 百貨店のマネキンに対する支払いは給与等に該当し、課税仕入れに該当しない・・・⑧ (1) 事例の概要 本事例は、弁当等調理食品の販売等を業とする請求人が、販売員に対して支払った金員について、原処分庁が給与等に当たるため、消費税法に規定する課税仕入れに該当せず、また、所得税の源泉徴収義務があるとして、消費税等の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分並びに源泉徴収に係る所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、その取消しを求めた事例である。 なお、本件では、請求人によって、税務調査における手続きの違法性や信義則違反なども主張されているが、いずれも「理由がない」として斥けられているため、販売員等に支払った金員の給与等該当性についてのみ、取り上げていることをお断りしておく。 (2) 審判所の判断 審判所は、請求人の営む弁当等の販売に従事した者について、その雇用の経緯や雇用関係の成立の実態に即して事実認定を行ったうえで、マネキン紹介所から斡旋を受けた販売員に対して支払った金員について、以下のとおり、給与等に該当するものと判断した。 また、百貨店側が募集した販売員が、請求人が出展した物産展において役務の提供をした場合においても、請求人、百貨店及び本件各販売員の間で、誰が雇用主となるか明確にされた契約書等の書面が作成された事実は認められないとはいえ、以下の事実から、雇用主は請求人であるとして、販売員に支払った金員は給与等に該当するとした。 (了)
連載「会計不正調査報告書を読む」が 書籍になりました! - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
2014年10月2日(木)AM10:30、Profession Journal No.88 が公開されました。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
monthly TAX views -No.21- 「消費税率引上げと法人税減税は同時の決断に」 中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹 本年4月に実行された消費税率8%への引上げが、景気に「想定外」の悪影響を与えており、来年10月からの消費税率10%への引上げが「にわかに怪しくなった」というのが、最近のマスコミ論調だ。 確かに、中小企業や地方企業の賃金引上げは本格化しておらず実質賃金の減少は続いており、また円安によるガソリン価格上昇などの影響も考慮すると、簡単に10%への引上げを決断できるような状況にないことはその通りだ。 しかし筆者は、消費税率の引上げと賃金上昇には当然タイムラグがあるので、当面は悪影響が先行するが、それが一巡すれば元の軌道に戻ると考えている。 日本の将来のためにも、安易な増税先送りは避けてほしい。 この問題は、消費税単独で決断されるのではなく、「骨太の方針」に書かれた「数年で法人実効税率を20%台まで引き下げる」という決断と事実上セットで議論され、その結果、両方とも決断される(されざるを得ない)のではないか、これが筆者の予想である。 その理由は、以下のようにまとめることができる。 今後、選択肢として考えられる決断の方向としては、以下の4通りがある。 【選択1】は、アベノミクスの失敗を意味するのであり得ない。 【選択2】についても、安倍政権のプライオリティーが株価上昇、デフレ脱却にあるので、これもあり得ない。 では、【選択3】はどうか。 筆者は外国投資ファンドから意見を求められる機会が多いが、彼らは、法人税減税と同じぐらいの比重で、消費税率が法律通りに引き上げられるかどうかという点についても注目をしている。 彼らには、「日本は先進国最大の借金国」というパーセプション(perception)が浸透している。法人税減税を決めたとしても、「財政再建の課題にも応えているのか」ということに疑義が生じれば、「予測しがたい」リスクが生じることになる。 また消費税率引上げを先延ばしにするためには、3党合意の下で作られた法律を出し直す必要があり、これはこれで大きな政治リスクとなりかねない。 このように消去法で考えていくと、【選択4】である、消費税率10%への引上げを法律通り行い、法人税を「数年かけて20%台へ引き下げる」ことを具体化するしかない、と思われる。 アベノミクスは、経済活性化だけを叫んでいるわけではなく、財政再建も両立させることが、その内容に入っている。 したがって、法人税減税は、「課税ベースを拡大して」行わざるを得ない。つまり、極力ネット減税にならないようにするということである。 その範囲での減税ということになれば、数年内で行われる法人税率引下げのめどは、29%ということになる。 その先の展開については、いずれこの連載において、筆者の意見を述べていきたい。 (了)
法人税改革における各検討事項が 連結納税制度の採用(有利・不利)に与える影響 【第1回】 「法人税率の段階的引下げ、租税特別措置の見直し」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト パートナー 足立 好幸 ~はじめに~ 政府は平成26年6月24日、法人税改革を盛り込んだ「経済財政運営と改革の基本方針2014」(骨太の方針)を閣議決定し、来年度から数年で法人実効税率を20%台まで引き下げることを目指すと明記した。そして、政府税制調査会は平成26年6月27日の総会で、法人実効税率の引下げに伴う代替財源の具体案を盛り込んだ「法人税の改革について」(以下、「法人税改革案」という)を決定した。また、同年8月31日までに各府省庁は、平成27年度税制改正要望を提出している。 そのような大きな税制改正が来年度に検討される中、3月決算法人では、平成27年4月1日~平成28年3月31日事業年度から連結納税を適用するか否かについて、平成26年12月31日を申請期限として、これから本格的に検討をしていくこととなる。 連結納税は、適用開始事業年度の開始日の3ヶ月前の日を申請期限として検討することとなるため(法法4の3①)、3月決算法人の場合、基本的には、適用開始事業年度の前事業年度の税法に基づき単体納税との有利・不利のシミュレーションをすることとなるが、あくまで適用開始は次事業年度となるため、適用開始事業年度から改正が検討されている項目がある場合、その検討項目が連結納税の有利・不利にどのような影響を与えるかについて検討を加える必要が生じる。 そのため、法人税率の段階的引下げ及び法人税改革案で謳われている各検討項目(以下では、両者を合わせて「法人税改革の各検討項目」ということとする)が実現するかどうか及びその改正内容の詳細は、本誌の掲載日時点で不明ではあるが、本稿では、法人税改革の各検討項目が連結納税の有利・不利にどのような影響を与えるかについて考察することとする。 本稿は、本誌の掲載日現在、政府税制調査会から公表されている「法人税の改革について」などの資料に基づき解説しているため、今後、公表される平成27年度税制改正大綱、それに基づく法律、政令、省令、通達等により、実現しないことを含め実際の取扱いが異なる可能性があること、及び、本稿の意見に関する部分は、筆者の個人的な見解であることをあらかじめお断りする。 1 連結納税の有利・不利に影響を与える法人税改革の各検討項目 法人税改革の各検討項目のうち、連結納税の有利・不利に影響を与えるものは次のとおりとなる(◎は影響があると見込まれる項目、〇は改正内容によっては影響があると見込まれる項目、×は影響がないと予想される項目)。 以下では、法人税改革の各検討項目のうち、連結納税の有利・不利に影響を与えることが見込まれる項目について、実際にどのような影響を与えるのかを現在の制度と比較しながら考察することとする。 2 「法人税率の段階的引下げ」が与える連結納税の有利・不利への影響 連結納税の最大のメリットである損益通算効果は、各連結法人の個別欠損金額に法人税率を乗じた金額となるため、連結納税適用開始事業年度から法人税率が段階的に引き下げられる場合は、連結納税の損益通算効果も段階的に減少していくこととなる(法法2十八の四、81、81の2)。 〈法人税率の段階的引下げが与える損益通算効果への影響〉 (注) 上記は端数調整はしておらず、表示は四捨五入としている。 3 「租税特別措置の見直し」が与える連結納税の有利・不利への影響 租税特別措置で定める減税制度(研究開発税制を除く)のうち、生産性向上設備投資促進税制のように各連結法人ごとに適用の要件判定及び税額控除額の計算をするものについては、各連結法人の連結法人税個別帰属額の20%のみならず、連結納税グループ全体の連結法人税額の20%も税額控除限度額となる(注)ことを除いて、基本的に単体納税と同じ取扱いとなるため、連結納税による有利・不利は生じない(措法42の12の5①②⑦⑧ 、68の15の6①②⑦⑧、措令39の47⑧)。 (注) 特定生産性向上設備等の取得等をした連結親法人又は連結子法人の税額控除限度額は、次の①又は②のうちいずれか少ない金額となる(措令39の47⑧)。 (※) 調整前連結税額とは、所得税額控除、外国税額控除、試験研究費の税額控除等の各種税額控除の規定を適用する前の連結法人税額をいう(措法68の15の6⑦)。 一方、人材投資促進税制のように連結納税グループ全体で適用の要件判定及び税額控除額を計算するものについては、単体納税では人材投資促進税制が適用できなかった連結法人がある場合でも、連結納税では連結法人全体に対して人材投資促進税制が適用できる場合があり、逆に、単体納税では人材投資促進税制が適用できた連結法人がある場合でも、連結納税では連結法人全体について人材投資促進税制が適用できなくなる場合があるため、人材投資促進税制について連結納税の有利・不利が生じることとなる(措法42の12の4①②、68の15の5①②)。 したがって、期限の定めのある租税特別措置法の減税制度が期限到来時に予定どおり廃止される場合は、適用期限の延長を想定して生じることが見込まれていた連結納税の有利・不利が期限到来時に消滅することとなる。 なお、生産性向上設備投資促進税制は、産業競争力強化法の施行日(平成26年1月20日)から平成29年3月31日までの期間、人材投資促進税制は、平成25年4月1日から平成30年3月31日までの間に開始する連結親法人事業年度が適用期限として定められている(措法68の15の5①、68の15の6①)。 (了)
有料老人ホームをめぐる 税務上の留意点 【第3回】 「有料老人ホームをめぐる消費税実務のポイント」 税理士 齋藤 和助 1 はじめに 今回は、老人ホームにおける消費税の問題を取り上げる。 消費税は課税事業者に申告納税義務が課せられるため、主として経営者側の論点となる。したがって、老人ホームを関与先に持った場合に課非判断で注意すべき項目や、設備投資を行う際の仕入税額控除における注意点等を裁決事例から確認してみたい。 2 介護サービス費 介護保険法に係る資産の譲渡等については、非課税が列挙されている消費税法別表第1七イに次のように規定されており、基本的には非課税となる。 そして、非課税となる居宅サービスの範囲等は、消費税法施行令14条の2第1項から3項に規定されている。 したがって、実務においては、どのような施設においてどのような介護サービスが行われているのかを確認し、これらの条文に当てはめて、最終的な課非判断をする必要がある。 なお、非課税となる介護サービスを外部委託した場合には、居宅サービス事業者等に対して行われることとなり、消費税法の非課税規定に該当しないことから、課税仕入れとなる。 3 入居一時金 有料老人ホームに入居する際に入居者が支払う入居一時金には、住宅家賃相当分のほか、介護料などサービス費用相当分が含まれている場合がある。そのような場合には、以下の通達により、非課税となる住宅の貸付けに係る対価の額と、課税となる役務提供に係る対価の額とを合理的に区分することが必要である。 有料老人ホームの入居一時金のうち家賃相当分は『非課税』、介護料等サービス費用相当分(介護保険に係る部分を除く)は『課税』、将来返還する単なる預り金相当分は『不課税』となる。 なお、資産の譲渡等の時期については、賃貸借契約に基づく保証金、敷金等と同様に、期間の経過等により返還しないこととなる部分の金額を、その返還しないことが確定した時点で、その確定した金額につき、その都度資産の譲渡等を行ったものとして取り扱う。 4 特定施設入居者生活介護 都道府県から認定を受けた介護付有料老人ホーム等の特定施設において、要介護者に対して行われる特定施設入居者生活介護についての消費税は以下のように取り扱うこととされている。 5 建物を購入、新築した場合 老人ホーム用建物を新築する場合においては、上記で確認したように、住宅の貸付けとして非課税となる売上げと、介護サービスとして課税となる売上げが混在することになる。 この場合には、これを合理的に区分して計算した課税売上割合により建物新築に係る仕入税額控除を行うことになる。 この住宅の貸付けに係る契約内容や区分について争われた裁決事例がある。 ① 裁決事例集未登載(平成24年9月27日裁決):国税不服審判所 「当該貸付けに係る契約において人の居住の用に供することが明らかにされているもの」とは、契約書の契約条項の記載のほか、建物の建築や賃貸借契約締結の経緯、建物の構造、建物の使用状況等の諸事情を総合考慮して判断するのが相当であるとした事例 〈裁決要旨〉 ② 裁決事例集 No.79(平成22年6月25日裁決):国税不服審判所 (非課税取引(住宅の貸付けの範囲))介護付有料老人ホームにおける住宅の貸付けの範囲の判定に当たっては、賃借人が日常生活を送るために必要な場所と認められる部分はすべて住宅に含まれると解されるから、これらの部分の貸付けは非課税となる住宅の貸付けに該当するとした事例 〈裁決要旨〉 ①の裁決からは、契約内容だけでなく、実態も勘案して判断すべきことが、②の裁決からは、課税となる役務の提供に係る部分の解釈は極めて限定的であることが分かる。 これらの裁決事例を念頭に、設備投資に係る消費税の仕入税額控除は慎重に行いたい。 6 老人ホームに建物を賃貸した場合 建物新築に係る仕入税額控除については、自らが老人ホームを運営せず、建物を新築して老人ホームに賃貸する場合においても上記5と同様の制約がある。 消費税には以下の通達がある。 したがって、建物を新築し、老人ホーム運営事業者に賃貸する場合で、老人ホーム運営事業者が住宅として転貸することが契約書その他において明らかな場合には、当該建物の貸付けは、住宅の貸付けに含まれるものとして取り扱われる。 この非課税売上の範囲について争われた裁決事例について確認しておく。 ▼情報公開法第9条第1項による開示情報 TAINS F0-5-093 (平成18年6月1日裁決):国税不服審判所 (非課税取引/介護付有料老人ホームにおける住宅の貸付け)建物の貸付けは、賃借人により運営されている介護付有料老人ホームの入居者の利用に供されることが契約上明らかであることから、その全部が非課税となる住宅の貸付けに該当するとされた事例 〈裁決要旨〉 したがって、建物を新築し、老人ホーム運営事業者に賃貸する場合で、住宅として転貸することが契約書等において明らかな場合には、当該建物の貸付けは、住宅の貸付けに含まれるものとして取り扱われるため、建物新築に係る消費税の仕入税額控除は、他に課税売上げがない場合には、原則としてできないことになる。 (了)
租税争訟レポート 【第19回】 「団地の管理組合が行う収益事業(国税不服審判所裁決)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【事案の概要】 本件は、団地の管理組合である審査請求人(以下「請求人」という)が、団地共用部分の一部を無線基地局等の設置のため携帯電話会社に賃貸して得た収入を団地の修繕積立金として充当していたところ、原処分庁が、請求人は、法人税法第2条第8号に規定する人格のない社団等(以下「人格のない社団等」という)に該当し、当該賃貸収入は請求人の収益事業による収入であるとして、法人税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分をしたことに対し、請求人が、当該収入は団地建物の各区分所有者の不動産収入であって請求人の収入ではないなどとして、その全部の取消しを求めた事案である。 1 〔争点1〕団地の管理組合の納税義務(管理組合は人格のない社団等に該当するか) 法人税法第3条は、「人格のない社団等は、法人とみなして、この法律の規定を適用する」と定めている。人格のない社団等が、法人とみなされて納税義務の主体となっている理由については、「人格のない社団等も、実質的に法人と異ならない活動をしていることに鑑み、法人と同様に扱うことが実体に合致するのみでなく、公平に税負担を配分する」ためであると説明されており(※1)、団地の管理組合が、法人税の納税義務者となるためには、人格のない社団等の要件である、 の4点が挙げられる(※2)。 (※1) 金子宏『租税法(第19版)』141ページ(弘文堂,2014年) (※2) 最高裁昭和39年10月15日判決,民集18.8.1671 原処分庁が、請求人はこうした要件を満たしていることから、法人税の納税義務を負うと主張したところ、請求人は、以下のように主張した。 これに対し、審判所は、以下の事実認定から、請求人が人格のない社団等に該当すると認定して、以下のように説示した。 そのうえで、「請求人に人格のない社団等に該当するか否かの認識がなかったとしても、法の不知により、法人税法の規定を適用しないとする規定はない」ことを理由に、請求人の主張を斥けた。 2 〔争点2〕共用部分の賃貸料収入の帰属 共用部分の賃貸料収入について、請求人は以下のとおり、管理組合にではなく、建物所有者に帰属すると主張した。 (※3) 建物の区分所有等に関する法律第19条 「各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共用部分の負担に任じ、共用部分から生ずる利益を収取する。」 これに対し、審判所の判断は以下のとおりであり、請求人の主張は、いずれも採用することができないとしている。 3 〔争点3〕共用部分の賃貸は収益事業に該当するか 次いで、共用部分の賃貸が収益事業に該当するかどうかについて、請求人の主張は以下のとおりであり、仮に、収益事業であると判断するのであれば、修繕費を損金の額に算入すべきであるとする予備的主張も行っている。 これに対し、審判所は、以下のとおり、請求人による共用部分の賃貸を不動産貸付業と認定したうえで、支出した修繕費についても、「団地の塔屋をアンテナ基地局の設置場所として賃貸するか否かにかかわらず」要したものであり、損金の額に算入することを認めなかった。 以上、すべての争点で、審判所は請求人の主張を斥け、請求人は人格のない社団等に該当し、本件賃貸収入が請求人の収益事業による収入であるとしてされた各決定処分は、いずれも適法であると結論づけた。同時に、各事業年度に係る期限内申告書の提出がなかったことについて、国税通則法第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由がある場合には該当しないので、各賦課決定処分についても、いずれも適法であるとして、請求を棄却した。 4 人格のない社団等と組合の相違点について 本件裁決は、団地の管理組合が人格のない社団等に該当することから、法人税の納税義務を負い、基地局の設置によって得る賃貸収入は収益事業である不動産貸付業に当たるとして、請求人の主張をすべて斥け、法人税を追徴課税するだけでなく、無申告加算税の賦課決定についても、原処分庁の判断を是認したものである。 この項では、マンション等の管理組合が「人格のない社団等」の要件を満たさず、民法上の組合であるとされた場合に、課税関係にどのような相違が生じるかを検討したい。 (1) 民法上の組合の特徴 「組合」とは、組合契約により成立した団体であり、民法667条から688条に規定されたものをいう。複数人の出資約束で成立し、組合契約(諾成契約)は明示的なものでなく、黙示の合意でもよいと考えられている。 組合には代表機関はなく、組合の財産は、各組合員が共有(合有的に帰属)し、各構成員が自由に財産を処分することは認められない。また、債務についても、組合においては各組合員に合有的に帰属し、無限責任を負うこととなる。 これに引き換え、人格のない社団等(権利能力なき社団)については、財産及び債務は、構成員に総有的に帰属(全員で所有=団体のものであり、個人個人に持ち分はない)することとされており、債務に関しては有限責任である。 (2) 課税関係の相違 民法上の組合の事業に係る所得は、各組合員に対して、損益分配割合又は出資割合に応じて配分され、組合員個人に対する所得税課税が行われる(所得税基本通達36・37共-19)。 ただし、たとえ、民法上の組合であっても、人格のない社団等の要件(〔争点1〕参照)を満たした場合には、法人税の納税義務を負う。 (3) 任意組合を作って契約をすれば、法人税の納税義務はどうなったか 本件においても、区分所有者全員で構成される任意組合を結成し、区分所有者の代理人としての業務執行組合員が借主との間で契約を締結、賃貸に係る収益を区分所有者にその持分割合に応じて分配し、区分所有者がそれぞれ不動産所得を申告していれば、人格のない社団等として法人税を課税されることはなかったと考えられる。 とはいえ、実務上は、区分所有者全員の合意を得ることが難しいうえ、いったん分配した収益を再び修繕積立金として徴収しなければならず、また、区分所有者が変わるたびに契約を変更する必要もあり、小規模なマンションであればともかく、規模が大きくなれなるほど、実現可能性は低くなると言わざるを得ない。 ただし、区分所有者が青色申告を選択することによる課税上の優遇措置が使えることや、法人税率よりも低い所得税率が適用される場合もあることを考え合わせると、マンション管理組合の収益事業をどのような形態で行うかについては、さらに議論を深める余地があるのではないだろうか。 (次ページ(5 質疑応答事例、事前照会に見る課税庁の考え方)へ) (前ページへ) 5 質疑応答事例、事前照会に見る課税庁の考え方 本稿で取り上げた裁決が公開されたのち、国税庁ホームページの質疑応答事例にも、ほぼ同様の照会と回答が追加されている。 この他にも、マンション管理組合が行う駐車場の貸付について、収益事業に該当するかどうかに関する質疑応答事例、事前照会が公開されているので、併せて確認しておきたい。 (1) 質疑応答事例:マンション管理組合が携帯電話基地局の設置場所を貸し付けた場合の収益事業判定 【照会要旨】 【回答要旨】 その理由として、①人格のない社団等に対する法人税は、収益事業から生じた所得にのみ課されること、②マンション管理組合が賃貸借契約に基づいてマンション(建物)の一部を他の者に使用させ、その対価を得た場合には、収益事業(不動産貸付業)に該当することを説明している。 (2) 質疑応答事例:(収益事業)団地管理組合等が行う駐車場の収益事業判定 【照会要旨】 【回答要旨】 その理由として、「団地管理組合は人格のない社団等であるという趣旨の注書きを入れたうえで、①管理組合が、その構成員を対象として行う共済的な事業であること、②駐車料金は、区分所有者が所有している共有物たる駐車場の敷地を特別に利用したことによる「管理費の割増金」と考えられること、③その収入は、区分所有者に分配されることなく、管理組合において運営費又は修繕積立金の一部に充当されていることを挙げ、管理組合が駐車場を貸し付けた場合であっても、その貸し付けた相手が区分所有者であるときは、収益事業には当たらず、法人税の納税義務は生じないことを明らかにしている。 (3) 質疑応答事例:(資産の譲渡の範囲)マンション管理組合の課税関係 【照会要旨】 【回答要旨】 マンション管理組合に対する消費税の課税関係に関する質疑であり、こちらは、人格のない社団等ではなく、民法上の組合を前提とした回答になっているようであるが、組合員から得る賃貸料、管理費等は消費税の課税対象とはならないとする一方、組合員以外から得る賃貸料は消費税の課税対象となることが明らかにされている。 (4) 事前照会:マンション管理組合が区分所有者以外の者へのマンション駐車場の使用を認めた場合の収益事業の判定について 国土交通省住宅局長からの照会に、国税庁課税部長が、平成24年2月13日に回答した事前照会は、上記(2)のマンション管理組合が得る駐車場収入に関する課税関係について、さらに細かい前提条件を付けて分類したものであり、実務上も参考になる事前照会である。 【照会要旨:ケース1】 【課税関係:ケース1】 【照会要旨:ケース2】 【課税関係:ケース2】 【照会要旨:ケース3】 【課税関係:ケース3】 課税関係を上記のように解した理由として、照会者は次のように説明している。 ケース1については、A組合が行う外部使用は、区分所有者に対する優先性がまったく見られず、Aマンションの敷地内にあるものの、管理業務の一環としての「共済的事業」とは認められず、市中の有料駐車場と同様の駐車場業を行っているものと考えられる。したがって、区分所有者に対する使用と区分所有者以外の者に対する使用を区分することなく、その全体が収益事業たる駐車場業に該当することとなると考える。 ケース2については、B組合が行う外部使用については、区分所有者の使用希望がない場合にのみ外部使用を行うこととし、また、外部使用を行っている状態で区分所有者から駐車場の使用希望があった場合には、一定の期間(例えば3ヶ月)以内に、外部使用を受けている者は明け渡さなければならないといった区分所有者を優先する条件を設定しており、区分所有者に対する一定の優先性が見られることから、少なくとも区分所有者の使用に限れば、管理業務の一環としての「共済的事業」であり、収益事業たる「駐車場業」には該当しないと考えられる。次に、区分所有者以外の者に対する外部使用は管理業務の一環としての「共済的事業」とは別に、異なる独立した事業を行っていると考えることが相当である。このように独立した事業である駐車場の外部使用については、「共済的事業」及び「管理費の割増金」といった性質のものではないため、「駐車場業」として収益事業に該当することとなる。 ケース3については、C組合が行う外部使用は、そもそも積極的にC組合が外部使用を行おうとしたわけではなく、相手方(区分所有者以外の者)の申出に応じたものであり、また、区分所有者の利用の妨げにならない範囲内で、ごく短期的に行うものであるから、ケース2とは異なり、独立した事業とすべき事情も存在しない。したがって、C組合が行う外部使用は、管理業務の一環としての「共済的事業」である区分所有者に対する駐車場使用と一体的に行っているものと考えられる。C組合が行う外部使用については、管理業務の一環として行われている区分所有者に対する駐車場使用に付随して行われる行為であることから、この外部使用を含めたC組合が行う駐車場使用の全体が収益事業には該当しないものと解して差し支えないと考えたところである。 この照会についての国税庁の回答は、お定まりの「標題のことについては、ご照会に係る事実関係を前提とする限り、貴見のとおりで差し支えありません」とするものであった。 (了)
貸倒損失における税務上の取扱い 【第27回】 「判例分析⑬」 公認会計士 佐藤 信祐 第15回から第26回までにおいては、日本興業銀行事件について分析し、法人税基本通達9-6-2の射程距離についての分析を行った。 第27回以降においては、寄附金として否認された相互タクシー事件について分析し、法人税基本通達9-4-2の射程距離についての分析を行うこととする。 2 相互タクシー事件 (1) 第1審・福井地裁平成13年1月17日判決(訟月48巻6号1560頁、税資250号順号8815) ① 判決の概要 本事件は、債務超過であるグループ会社(以下、「X不動産」という)に対して、第三者割当増資により金銭の払込みを行った後に、当該株式を時価で関連者に対して譲渡することにより、本来であれば債権放棄損失として認識されるべき損失を有価証券譲渡損として認識したことに対し、課税庁が、当該第三者割当増資による金銭の払込みについて有価証券の取得価額を構成しないものとして、有価証券譲渡損を否認した事件である。 本事件の争点としては、 という点と、 という点であったが、判決においては、法人税法第37条のみが判断され、法人税法第132条については判断されなかった。 これに対し、本事件と類似の事件として、日本スリーエス事件(平成13年7月5日東京高裁判決)があるが、日本スリーエス事件については、法人税法第132条により判断がなされたという違いがある。 なお、両事件とも、額面株式が存在し、額面金額未満での増資ができなかった時代の事件であり、額面株式が廃止された現在においては、寄附金として認定されるべき金額が異なる可能性があるという点に留意が必要である。 ② 争点1(法人税法第37条に規定する寄附金についての判断) (ⅰ) 被告側(大野税務署長)の主張 (ⅱ) 原告側(納税者)の主張 ③ 争点2(法人税法第132条に規定する同族会社等の行為計算の否認についての判断) (ⅰ) 被告側(大野税務署長)の主張 (ⅱ) 原告側(納税者)の主張 本事件においては、双方から上記のような主張がなされている。次回においても解説するが、本事件においては法人税法第132条に規定する同族会社等の行為計算の否認についての判断はなされなかったが、判決文においても、上記の通り、被告側の主張はかなり大雑把なものとなっており、類似事件である日本スリーエス事件とは大きな違いが見受けられる。 実際の判決文を見てみると興味深いが、相互タクシー事件については有価証券の取得価額についての規定についての条文解釈と事実認定が重視されているのに対し、日本スリーエス事件については法人税の負担が不当に減少されているという点を重視しているという違いがある。 次回においては、上記のような主張を踏まえ、裁判所がどのような判断を下したのか、また、それをどのように考えるべきであるのかという点についてそれぞれ解説を行う予定である。 (了)