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IT業界の労務問題と対応策 【第2回】「IT業界でありがちな労務トラブル(その1)」

IT業界の労務問題と対応策 【第2回】 「IT業界でありがちな労務トラブル(その1)」   社会保険労務士法人スマイング 代表社員 特定社会保険労務士 成澤 紀美   IT業界では、エンジニア35歳定年説があったり、3K(キツイ、キビシイ、帰れない)業界といわれたりする。 こういった情報が出るということは、それだけ厳しい労働環境であったり、労務トラブルが発生しやすい業界であるといえる。現に労働裁判でも多くの係争判例があり、過重労働や未払い残業問題が争われている。 では、この業界でありがちな労務トラブルにはどのようなものがあるのかを確認したい。   (1) 時間外労働・休日出勤の扱い IT業界の労務トラブルの中で一番多いのが、時間外労働や休日出勤に関する取扱いといえる。 これは主に業務委託契約で働く職場のケースになるが、委託契約上の月間作業時間とエンジニアの実労働時間との差異を吸収するために、時間外労働があったにもかかわらず割増賃金が支払われていない、年次有給休暇の取得分に相当する時間を実作業時間として委託元へ請求できないため無給扱いとしている、休日出勤分の労働時間に対する割増賃金が未払いになるなど、ほとんどがサービス残業に関連するものになる。 また、長時間労働に対する健康管理の甘さからメンタル不全者が増加していることも懸念される。 実労働時間の適正把握と賃金支払いに関しては、監督官庁では今後も厳しく取り扱うとしており、安全衛生面から見て会社側の配慮義務違反として処分されないよう、過重労働を防止する意味でも、本来は真剣に取り組んでいかなければならない。   (2) 出退勤時間にルーズな社員 エンジニアには、出社時間にルーズな社員をよく見かける。夕方からでないとパフォーマンスが上がらないと午後から出社し、夜中遅くまで仕事をし深夜に帰宅する、翌日の朝は起きられないので、また午後から出社をする・・・。 このように出退勤時間を意識せずに仕事を行うエンジニアは周囲へ悪影響を与えてしまうため、労務管理上で苦労させられる。 技術スキルが非常に高く、また出された成果が非常に良いものだったとしても、会社の基本的なルールを守れない以上は、「使用者」と「労働者」という雇用関係の中ではうまく機能しない。むしろフリーランスとして活躍するほうが向いているともいえる。 こういったケースでは、使用者が注意・指導を繰り返し、場合によっては懲戒処分の対象とすることになるが、一方では、注意指導や懲戒処分が適正でないとトラブルになることも多い。   (3) 年俸制での未払い残業代 給与形態には様々なものがあるが、IT業界の場合、設立間もない企業、社員数が少ない企業において、専門業務型裁量労働制と組み合わせて年俸制を導入しているところをよく見かる。 年俸制は、文字通り年を単位として給与を支払うという形態であるが、支払方法は、①基本年俸を12分割、②基本年俸を14~16分割し賞与時にも支給、③基本年俸を12分割+賞与、などいくつかに分けられる。 年俸制と裁量労働制を組み合わせて導入している場合、勤務時間は社員に裁量性を持たせ、給与は年額で定めて年俸制として支給し、割増賃金(時間外勤務・深夜勤務・休日出勤)を支給しないケースがある。 一見すると勤務時間にも裁量制があり問題がないように捉えられがちだが、年俸制は給与の支給形態の一つでしかなく、もともとの年俸額に一定時間の時間外手当相当分が含まれていない場合には、深夜勤務や休日出勤分も含め割増賃金の支払いが必要となる。 また、専門業務型裁量労働制を適用する場合は、一定の職種に限られるが、本来適用できないプログラマー等にも裁量労働制を導入し、時間管理を行わないケースも見られる。 次回も引き続き、IT業界にありがちな労務トラブルについてお伝えしたい。 (了)

#No. 73(掲載号)
#成澤 紀美
2014/06/12

事例でわかる消費税転嫁対策特別措置法のポイントQ&A 【第11回】「業種別の転嫁拒否等の留意点〔③飲食・サービス業〕」

事例でわかる消費税転嫁対策特別措置法のポイントQ&A 【第11回】 「業種別の転嫁拒否等の留意点〔③飲食・サービス業〕」   のぞみ総合法律事務所 弁護士 大東 泰雄 弁護士 山田 瞳     1 飲食・サービス業における買いたたき (1) サービス提供に必要な物品の仕入・発注取引 一口にサービス業といっても、その内容は様々であり、仕入・発注を行う物品等の内容や量も全く異なっている。例えば、飲食業、ホテル・旅館業においては、食材等の仕入取引が経営上重要な位置づけを占める。また、学習塾等においては、教材等の発注取引が重要となる。 もっとも、いずれの業態においても、サービス提供に必要な物品の仕入・発注取引においては、そのコストが原価としてサービス業者の利益率を左右するため、少しでも金額を抑制したいという心理的要因が働きやすい。 そこで、サービス業においては、このようなサービス提供に必要物品の仕入・発注取引を中心に、違法な減額や買いたたきが行われないよう監視していくことが必要となる。 サービス提供に必要な物品のうち、食材等については、元々、気候等の諸条件により価格が変動しやすいため、平成26年3月以前の仕入価格と同年4月以降の仕入価格を単純に比較することには、あまり意味がないように思われる。 したがって、相場の変動に沿って仕入価格を決定した結果、平成26年3月以前の仕入価格に消費税率引上げ分を上乗せした額を下回る金額で仕入れることとなった場合にも、相場の変動やその理由などの状況を説明し、かつ、特定供給事業者(売手)との間の交渉経緯が適切であることを説明できれば、「合理的な理由」(※1)の説明が比較的認められやすいのではないかと思われる。 (※1) 「合理的な理由」の考え方については,本連載第6回参照。 他方、元々価格変動が小さい物品については、何らかの特別な事情のない限り、平成26年3月以前の仕入価格に消費税率引上げ分を上乗せした額を下回る額で仕入れることは、説明がつきづらいであろう。 このように、「合理的な理由」の有無や説明材料を検討する上では、商品の特性について考慮することも重要である。 (2) サービスの外注取引 サービス業においては、顧客に提供するサービス自体を外注することがある。例えば、ビルメンテナンス業者が、メンテナンス業務の一部を他のビルメンテナンス業者に委託するような場合である。 このような場合には、役務の取引がなされることとなるが、一般的に、役務の対価の相当の部分は人件費の要素で占められることとなる。そして、人件費は、景気の変動や需給のバランス等の事情により、徐々に変動することはあっても、日々激しく変動するような性質のものではなく、何らかの特別な事情がない限り、その金額はおおむね安定する傾向にあると考えられる。 そこで、サービスの外注取引の対価について、平成26年3月以前の対価の額に消費税率引上げ分を上乗せした額よりも低い額を定める場合は、「合理的な理由」が存在しないと疑われやすいといえ、何らかの特別な事情の存在を示すことが求められるであろう。 「合理的な理由」の説明材料となり得る事情としては、例えば以下のようなものが考えられる。 また、上記の例よりは説得力が弱いと思われるが、発注者側の厳しい事情を受注側に説明し、その納得を得たという事情がある場合にも、「合理的な理由」が認められる余地はあると考えられる。特に、サービス業者が苦境に置かれた場合には、サービスの外注を打ち切るか、価格を下げてでも外注を継続するかという選択を迫られる場合があり得る。 このような場合には、特定事業者(買手)と特定供給事業者(売手)の十分な協議の下に、売手側において、取引が打ち切られるよりは価格を下げた方が得策であると考え、納得の下に対価の額を引き下げることも考えられる。このような場合には、「合理的な理由」が認められる可能性があるだろう。 この点、公正取引委員会「『消費税の転嫁を阻害する行為等に関する消費税転嫁対策特別措置法、独占禁止法及び下請法上の考え方(案)』に対する意見の概要とこれに対する考え方」には以下の記述があり、上記のような場合に「合理的な理由」が認められる可能性があることを示唆している。 このような場合には、厳しい経営を強いられている事情と、売手との協議の経緯がポイントとなるため、それぞれについて、当局の検査に備えてエビデンス(証拠となるもの)を残すことをお勧めしたい。   2 商品の購入や役務の利用の要請 消費税転嫁対策特別措置法は、消費税の転嫁を受け入れる代わりに、自己の指定する商品を購入させ、若しくは自己の指定する役務を利用させ、又は自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させることを「商品購入、役務利用又は利益提供の要請」として禁止している(3条2号)。 前述のとおり、サービス業を営む業者が、納入業者等に対して自己の役務の利用を要請することは、飲食店やホテル・旅館を中心に多くみられるようであるが、このような行為は、商品購入、役務利用又は利益提供の要請として消費税転嫁対策特別措置法に違反する可能性がある。 公正取引委員会「消費税の転嫁を阻害する行為等に関する消費税転嫁対策特別措置法、独占禁止法及び下請法上の考え方」も、ホテル・旅館を想定して、以下の違反想定例を挙げている(第1部第1、4(6)ア)。 このような行為は、消費税転嫁対策特別措置法に違反する可能性があるのみならず、独占禁止法が禁止する優越的地位の濫用に該当する可能性もある。 この点、公正取引委員会は、平成25年5月27日付けで「外食事業者と納入業者との取引に関する実態調査報告書」を公表している。公取委が、あえて外食事業者にターゲットを絞ってこのような調査を行ったのは、外食産業において優越的地位の濫用に当たりかねない行為が多く行われているからであると思われる。 そして、上記調査報告書においては、要旨、以下のように報告されている。 また、公正取引委員会「平成24年度における優越タスクの取組状況」によれば、平成24年度に公正取引委員会の優越的地位濫用事件タスクフォースが注意した事案の中では、宿泊業者に対する納入等取引が最も多かった。 このように、飲食店やホテル・旅館を中心とするサービス業における購入・利用強制は、相当な数が行われていると思われる。 そして、消費税転嫁対策特別措置法と異なり、独占禁止法が禁止する優越的地位の濫用を行った場合には、数十億円にも及ぶ課徴金納付命令を受ける可能性もある。飲食・サービス業の企業にとって最も脅威となるのは、消費税転嫁拒否等に関する調査を通じて、商品や役務の購入・利用強制を含む様々な優越的地位の濫用行為が判明し、優越的地位の濫用事件として正式に立件され、課徴金納付命令を受けるという流れである。 このような事態に至らないよう、消費税転嫁拒否等の行為や優越的地位の濫用に当たりかねない行為を行っている企業においては、早急に是正等の適切な措置を講ずることが望まれる。 (了)

#No. 73(掲載号)
#大東 泰雄、山田 瞳
2014/06/12

リゾート会員権をめぐる法律問題とトラブル事例 【第3回】「近年発生しているトラブル事例とその対応策②」

リゾート会員権をめぐる法律問題とトラブル事例 【第3回】 「近年発生しているトラブル事例とその対応策②」   クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎   前回に引き続き、リゾート会員権をめぐるトラブルの代表例を紹介し、これに対する対応方法を解説したい。 今回は、相談事例の中でもとりわけ多い「預託金」に関するトラブルを取り上げる。   3 預託金をめぐるトラブル(1)-据置期間の延長 - 解 説 - 第1回で説明したリゾートクラブの形態を問わず、入会時に数百万円前後の預託金の納付を求める例は非常に多い。 「預託金」とは、退会時に返還されることを前提として、入会時にクラブに対して預けるまとまった額の金銭のことをいう。クラブによっては、「保証金」や「会員資格金」等と呼ばれることもある。 この預託金は、会員・クラブ間の消費寄託契約(民法666条)によるものと解されており、クラブ側において施設の建設や維持管理、用地買収等に使用することが予定されている。 また、一定期間(多くは5~10年間程度)の据置期間が設けられていることが通常であり、預託金が返還されるまでの間の利息は付されない。 据置期間は入会規約等において定められており、入会を希望する者は、据置期間の経過後は、退会時に預託金の返還を受けられることを期待しているのが通常である。 ところが、多くのリゾートクラブにおいては、入会契約ないし規約中に「天変地異、その他クラブの運営上やむを得ない事由が発生した場合には、当クラブ理事会の決議により、預託金の据置期間を延長することができるものとする。」といった条項が設けられている。 設問におけるクラブ側の対応も、上記のような条項の存在を根拠としているものであり、同様の理由で預託金の返還を拒絶される事例は非常に多く見受けられる。 上記条項が[ケース3]においても存在する場合は、預託金の返還を諦めなければならないのだろうか。 この点、ゴルフ会員権における同様の問題につき、次のような参考判例が存在する(下線は筆者)。 上記の最高裁判例の趣旨に照らせば、リゾートクラブにおける預託金についても、据置期間を延長するには会員の個別的な承諾が必要と解されることになる。 そうなると、[ケース3]では会員の個別的な承諾がない以上、理事会決議による据置期間の延長を会員に対して主張できない。 したがって、[ケース3]においては、上記の参考判例を援用しながらクラブ側と交渉し、交渉が難航するようであれば、民事調停ないしは民事訴訟の申立てを検討すべきであろう。 なお、リゾートクラブの形態には様々なものがあり、それに伴い会員規約の内容も個々の事案ごとに異なることも予想されるので、前記の参考判例の射程については事案ごとに慎重に検討されるべきことに注意が必要である。   4 預託金をめぐるトラブル(2)-リゾートクラブの事業譲渡 - 解 説 - [ケース3]で解説したように、最高裁判例が預託金据置期間の一方的な延長を認めない判断を下して以降、ゴルフクラブの中には、意図的に、他社([ケース4]のB社)に事業譲渡をなした上で、自己は他社からゴルフ場運営の業務委託を受ける形を取り、外形上は従前と全く変わらずに運営をしているにもかかわらず、預託金の返還を拒むという事例が頻発した。B社はA社の協力企業である場合もあるし、形だけのいわゆるトンネル会社の場合もある。 [ケース4]は、リゾートクラブにおいても上記と同様の形式を取り、クラブ側が預託金の返還を拒んでいるというケースである。 これについても、ゴルフクラブでの事例ではあるが、次のような参考判例が存在する(原文には下線が付されているが、引用にあたり省略した)。 この判例によれば、リゾートクラブの場合でも、営業譲渡を受けたB社において従前と同様の名称でクラブを継続しており、会員による施設利用を認めていた場合には、事業譲渡を受けたB社に対して預託金の返還を請求できる余地がある。 したがって、[ケース4]の場合にも、すぐには諦めずにB社と交渉を継続し、話し合いでの解決が難しいようであれば、弁護士等の専門家にも相談の上、民事訴訟の提起を検討すべきであろう。 (了)

#No. 73(掲載号)
#栗田 祐太郎
2014/06/12

常識としてのビジネス法律 【第12回】「手形・小切手に関する法律知識(その2)」

常識としてのビジネス法律 【第12回】 「手形・小切手に関する法律知識(その2)」   弁護士 矢野 千秋   1 商業手形 「商業手形」とは、手形振出の原因関係に商取引がある手形のことで、通常流通に置かれているものはこの手形である(例外が次に述べる融通手形である)。 商取引を原因としているだけに、不渡りになった場合には連鎖倒産のおそれがある。 支払銀行は、手形の場合は表面に「不渡付箋」を付して不渡宣言を記載し、小切手の場合は裏面に「不渡宣言」を記載して手形・小切手を返却する。 不渡宣言には、『不渡事由』が記載されている。そこで、交換に掛けた手形が不渡りになった場合、まず、不渡付箋に記載された不渡事由を確認する。 手形訴訟は、必ず「手形訴訟による審理と判決を求める」旨を明記し、支払地を管轄する地方裁判所(手形金額140万円超過)か、簡易裁判所(手形金額140万円以下)に提訴する。   2 融通手形 「融通手形」とは、商取引の裏付けがなく、手形を割り引いて金策をする目的で振り出されたものをいう。 通常、金策に困った受取人が振出人から約束手形を対価なしで振り出してもらい、満期までに受取人が決済資金を手当てする形式で行われる。 受取人はもともと金策に窮しているのであり、加えて通常の金融機関は融通手形の疑いがあれば割り引かないため、高利の金融を利用することになり、不渡りになりやすい。 このため、融通手形は『倒産への第一歩』とも言われ、できる限り受け取らないことが重要である。 その見分け方は、 等である。   3 裏書人・保証人の署名 裏書人は、振出人(為替手形なら支払人)の担保責任を負担し、また保証人は被保証人(通常は振出人)の手形債務の保証責任を負担するので、いずれもその署名(記名押印)に不審な点がないかをチェックする。 振出人の後に名前を書くだけで手形保証になる。これを「略式保証」という。しかし、通常の手形にはあまり保証はなされない。「保証人を付ける」ということは、逆に振出人に信用がないことをも意味してしまい、手形の流通が難しくなるからである。 ただし、相手方の資力信用に問題があり、売掛債権を手形化するようなときは、もはや相手方の信用に問題が発生しているのであるから、手形債権をより確実なものにするために手形保証を取ることも検討せねばならない。   4 小切手を受け取るときの注意点 小切手は、振出人が支払人(銀行)に一定金額の支払いを委託する有価証券である。 通常、約束手形が将来の日における支払いを約束するのに対して、小切手は、現在における支払い、つまり現金払いの代わりの機能(これを一覧払いという)を営むものである。 小切手も手形と同じく絶対に記載が必要なものとして、小切手要件が小切手法第1条に法定されている。そして、やはり小切手も厳格な要式証券である(小切手法2条1項)。 (1) 振出日 法には、小切手上の振出日が実際の振出日に一致せねばならないとする規定はない。そこで、実際の振出日より将来の日付を振出日として記載して振り出した小切手を「先日付小切手」という(小切手の呈示期間は振出日から10日間である)。 これをそのまま認めれば、支払呈示期間は振出日から10日間であるから、先日付小切手の場合は将来の日付から10日間となり、小切手用紙を約束手形として用いることが可能になり、小切手の現金払いの代わりとしての機能、一覧払性が害される。そこで法は、先日付小切手は無効ではないが記載されている振出日以前にも支払呈示できるとして、一覧払性を貫いた。 そこで振出人には振出日前に呈示されて不渡りになる危険があり(決済資金がないから先日付にしているのである)、また受取人には裏契約違反として損害賠償請求される危険がある。 なぜなら、振出人は先日付の危険から、受取人に対し、記載した振出日まで呈示しない旨の約束をさせているはずだからである(受取人が約束しなければ、先日付小切手は危なくて振り出せない)。 小切手にも銀行取引停止処分のペナルティがあることから債権回収の有力な手段であるが、先日付小切手を受領するときは、振出日まで入金処理は控え、受取手形とみなして処理しておくことが必要である。 (2) 横線の有無・線引き小切手 小切手の表面に2本の平行線を引いたものを「線引き小切手」という(平行線の中に特定の銀行名を記したものを「特定線引き小切手」というが、仕組みは基本的に同じである。両者を合わせて「横線小切手」という)。 線引きでない小切手は、所持人が支払銀行に持ち込めば現金が支払われ(一覧払であるから。加えて持参人払式の小切手が多い。)、拾った者や盗んだ者などの不正所持人に悪用される恐れがある。 そこで線引き小切手は、最終的には支払銀行は取引先にしか支払えないとして悪用を防いだものである(逆に言えば、線引き小切手の所持人は自分の身元を把握されている取引銀行でしか支払ってもらえない)。悪用すれば足が付いてしまうからである。 加えて、持ち逃げを防ぐため、線引き小切手を銀行に呈示すれば銀行口座に金額は入る(一覧払性を充足)のだが、銀行が線引き小切手の真正の確認が取れるまで金額の払出しが認められない扱いにしている。 (3) 銀行の自己宛小切手 銀行が自分を支払人として振り出す小切手(実際に利用するのは銀行ではなく自己宛小切手を銀行から受け取る者である)のことで、銀行に小切手と同額の預金を預けてこの小切手を振り出してもらうところから、預金小切手(略称「預手(よて)」)ともいう。 この小切手は銀行が振出人であり支払人でもあることから、確実に支払いを受けることができ(支払人が支払わなければ振出人が担保責任を負担する)、このため多額の現金取引(不動産の決済など)をするとき、その煩雑危険を避けるため、現金に代えて用いられるものである。 (4) 記名式小切手 通常の小切手は持参人払式小切手であるが、その持参人払式小切手の持参人(金額欄の下2行にわたる支払委託文句中にある)の文字を2本線で抹消し、その代わりに振出人が交付したい特定の者の名称を記載した小切手である。 記名式小切手は、原則その特定の者だけが取り立てることができるので、不正取得者に悪用される可能性は極めて低くなる。   5 手形・小切手を取り立てるには (1) 呈示期間 小切手及び満期の到来した手形は、支払銀行に手形・小切手を呈示して請求することが必要であり(呈示証券性)、次の呈示期間内に呈示する必要がある。 手形の呈示期間は、一覧払のものは振出日から1年間であり、それ以外の満期のものは支払いをなすべき日(通常は満期日。満期日が銀行取引日でないときは次の銀行取引日を指す)及びそれに次ぐ2銀行取引日である。 小切手の呈示期間は、振出日の翌日から10日間である(初日不算入は民事法の大原則)。 (2) 呈示方法 法の原則は、約束手形なら振出人への呈示、為替手形なら支払人(引受人)への呈示、小切手なら支払人(銀行)への呈示ということであるが、通常は自分の取引銀行に取立てを委任する。 銀行に取立てを委任するときの注意事項としては、手形・小切手要件をすべて充足しているかをチェックする。特に確定日払いの約束手形(ほとんどがこの場合)の受取人と振出日に注意する。銀行は、その欄が白地になっていてもそのまま交換に掛けることがある(当座勘定規定17条1項)。   6 手形・小切手を紛失したときの対策 手形・小切手には、善意の所持人保護のために認められている善意取得(手形法16条2項、小切手法21条)の危険がある。 これは、手形・小切手を盗んだ者等から善意かつ無重過失で取得した者はその権利者となり、盗まれた者は権利を失うとして取引の安全を図った規定である。 そこで、以下の対策を取る必要がある。 ただし、盗難などの場合は善意取得者が出現する場合が多く、第2号不渡で頑張ったとしても、不利な結果になることが多い。 くれぐれも手形・小切手などの有価証券は紛失しないことが大事である。 (了)

#No. 73(掲載号)
#矢野 千秋
2014/06/12

エコ関連(環境・エネルギーに関する)助成金・補助金とはどういうものか? 【第2回】「大幅拡充された『エネルギー使用合理化等事業者支援補助金』について」

エコ関連(環境・エネルギーに関する) 助成金・補助金とはどういうものか? 【第2回】 「大幅拡充された『エネルギー使用合理化等事業者支援補助金』について」   行政書士 石下 貴大   1 大幅拡充された注目の補助金 前回、環境に関する助成金・補助金について紹介させていただいたが、今回はその中でも大注目の補助金である「エネルギー使用合理化等事業者支援補助金」を紹介したい。 何が注目かといえば、その予算額。実に約190億円もの予算が組まれている。 補助金の限度額としても、1事業あたりの補助金がなんと「50億円」とされているのだ。 なかなかこれだけの予算を組んでいる補助金・助成金はない。 政府としても2010年6月に策定したエネルギー政策基本法の第三次計画で、2030年に向けた目標として、エネルギー自給率と化石燃料の自主開発比率を倍増して自主エネルギー比率を約70%とすること、電源構成に占めるゼロ・エミッション電源(原子力及び再生可能エネルギー由来)の比率を約70%とすることなどを記載しているため、その実現に向けた補助金として大きな役割を期待しているのだろう。   2 制度の概要 どのような補助金かというと、既設の工場・事業場等における先端的(市場に普及しきっておらず、一定の投資回収期間が必要なもの)な省エネ設備・システム等の導入であって、「省エネルギー効果・電力ピーク対策効果」、「費用対効果」及び「技術の先端性」を踏まえて政策的意義の高いものと認められ、エネルギー使用合理化等事業者支援補助金交付規程に基づき一定の要件を満たす事業に対して、国庫補助金(経済産業省からのエネルギー使用合理化等事業者支援補助金交付要綱第3条に基づく国庫補助金)の交付が行われるというものだ。 具体的には、工場・事業場等における既設設備・システムの置き換え、又は、製造プロセスの改善等の改修により、省エネルギー化を行う際に必要となる費用について補助される。 また、本年度より、電力ピーク対策についても支援対象に追加するとともに、エネルギー管理支援サービス事業者(以下「エネマネ事業者」という)と連携し、エネルギーマネジメントシステム(EMS)を導入することでより一層の効率的・効果的な省エネルギーを実施する事業を支援対象に追加することとなった。 昨年よりも質量共に拡充された印象である。   3 補助率及び補助金限度額 事業区分及び補助率は下表のとおりである。 また、補助金限度額は以下のとおりである。   4 申請にあたっての要件 申請要件としては、下記のいずれかに該当することが必要である。   5 補助対象となる経費 補助対象経費としては、補助事業の実施に必要な機械装置、建築材料等の設計費、システム設計費等の設計費、補助事業の実施に必要な機械装置、建築材料等の購入、製造(改修を含む)又は据付等に要する経費(ただし、当該事業に係る土地の取得及び賃借料を除く)などの設備費、補助事業の実施のための工事費、その他の経費が対象となる。 ただし、補助金交付決定が行われる以前の事前調査費などの経費は含まれず、また、国からの他の補助金やグリーン投資減税との併用はできないので注意したい。   6 公募期間は7月1日まで スケジュールとしては、8月下旬に交付決定がなされ、事業を開始し、平成27年1月30日までに事業を完了する。その後、実績報告書を作成・提出し、確定通知を発行して精算払請求を出せば、平成27年3月末までに補助金が支払われる。 LEDの導入など省エネ設備や省エネシステムの導入をお考えの場合には非常に有用な補助金だといえるが、公募期間が「6月9日から7月1日」となっているので、迅速に対応する必要がある。 くわしくは本補助金を行う一般社団法人 環境共創イニシアチブ(SII)のホームページをご覧いただきたい。 (連載了)

#No. 73(掲載号)
#石下 貴大
2014/06/12

《速報解説》 「法人税改革に当たっての基本認識と論点」(与党税制協議会)の公表について

《速報解説》 「法人税改革に当たっての基本認識と論点」 (与党税制協議会)の公表について   弁護士 木村 浩之   1 はじめに 近年、わが国では、急速な少子・高齢化によって成熟した社会を迎え、さらにはデフレ経済の長期化によって経済成長が停滞し、財政の悪化がますます進行しているという状況の中で、社会的なコストを国民全員で負担するという「支え合う社会」を回復するための税制改革が相次いでなされている。その第一歩として、消費税率の引上げが実現したことは記憶に新しいところであるが、この税制改革については、消費税率の引上げにとどまらず、「支え合う社会」の回復という目標に向けて、法人税の観点からは、法人税の実効税率引下げが議論されている。 このような大きな流れの中で、自民党・公明党の与党税制調査会は、本年6月5日付けで、法人税率の引下げの実現に向けて、「法人税改革に当たっての基本認識と論点」を公表した。 法人税率の引下げについては、与党税制調査会が昨年発表した平成26年度税制改正大綱でも謳われていたところであるが、その具体的な方向性についてさらに議論が一歩進められたことになる。   2 法人税改革の基本的な考え方 与党税制調査会では、デフレ脱却と日本経済再生のためには、法人税の税率引下げによる経済の活性化が必要であり、その財源については、「支え合う社会」という観点から、赤字企業に対する課税を含めた課税ベースの拡大を基本的な考え方としている。 具体的には、法人税を納付している企業が全体の3割という税収の偏在状況、地方税における応益課税の考え方(赤字企業であっても企業活動を行うに当たって行政サービスを享受していること)などから、地方税における外形標準課税の強化による課税ベースの拡大が示唆されている。 これにより財源を確保した上で、法人税の実効税率を引き下げることで、収益力の高い企業(黒字企業)の競争力を強化し、さらには海外からの投資を呼び込むことで、経済を活性化することが意図されている。 現在、諸外国では、国内投資を誘致するために法人税の税率引下げがなされる傾向にあるといえ、法人税改革の考え方はその傾向にもマッチすることになる。   3 今後の見通し 以上の考え方は改革の展望を示したものであり、今後の政治状況・経済状況によって変化することが当然あり得る。特に、外形標準課税の強化については、中小企業の体力を奪うことにもなり兼ねないことから、慎重な配慮が求められることになろう。 それでも、特に大企業を中心として法人税の減税を求める声は強いこと、消費税率の引上げによる国民の負担増との均衡などから、法人税の税率引下げは何らかの形で実現する可能性がある。 今後も、法人税改革をめぐっては、その動向に注視する必要があるといえよう。 (了)

#No. 72(掲載号)
#木村 浩之
2014/06/09

《速報解説》 「産業競争力強化法に基づく会計監査に係る監査上の取扱い」等の改正について

《速報解説》 「産業競争力強化法に基づく 会計監査に係る監査上の取扱い」等の改正について   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成26年6月3日付(掲載日6月6日)で、 日本公認会計士協会は、次の監査・保証実務委員会実務指針等を公表した。 これは、産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法(産活法)が廃止され、平成26年1月20日に施行された産業競争力強化法において、産活法と同様の措置(事業再編の促進措置)が講じられたことに対応するための改正である。 経済産業省からは、産業競争力強化法における「債権放棄を含む計画Q&A」が公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な改正事項 基本的に、用語の改正を内容とするものであり、「産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法」(産活法)の記載から「産業競争力強化法」(強化法)の記載に改正されている。 産業競争力強化法(強化法)の施行により、年次報告及び半期報告において監査を受けた貸借対照表及び損益計算書の添付が必要となる計画は、債権放棄を含む「事業再編計画」及び「特定事業再編計画」の2計画となった(監査・保証実務委員会実務指針第89号、3-2項)。 「独立監査人の監査報告書」、「合意された手続実施結果報告書」についても、根拠規定に関する改正が行われているので、注意が必要である。   Ⅲ 適用時期 平成26年6月改正の監査・保証実務委員会実務指針第89号は、平成26年6月3日以後適用する。 (了)

#No. 72(掲載号)
#阿部 光成
2014/06/06

Profession Journal No.72が公開されました!~お薦め記事のご紹介~

2014年6月5日(木)AM10:30、Profession Journal  No.72 が公開されました。 Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開してまいります。

#Profession Journal 編集部
2014/06/05

monthly TAX views -No.17-「OECD自動的情報交換とマイナンバーの既存口座付番」

monthly TAX views -No.17- 「OECD自動的情報交換とマイナンバーの既存口座付番」   中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹   OECDの場で、各国の所得情報を当局間で自動的に交換するという話が急ピッチで進んでいる。 税務当局間の情報交換というのは、納税者の取引などの税に関する情報を異なる国の税務当局間で互いに提供する仕組みのことである。 租税条約に基づくものとしては、 ① 要請に基づく情報交換 ② 自発的情報交換 ③ 自動的情報交換 の3形態があり、①②についてはこれまで拡充が図られてきたが、今回話が進んでいるのは、③のケースである。 この結果、イメージとして次のようなことが行われるようになる。 この自動的情報交換は、今のところおおむね次のようなスケジュール感で進んでいくようだ。 まず、2014年央までに自動的情報交換の技術的様式を完成させることへのコミットが行われる予定である。その後2015年末までにG20諸国間で自動的情報交換が開始されることが期待されている。 そこでOECDは、2014年央までに、共通報告基準の統一的適用を確保するための実施細目、及び、税務当局間の情報に用いるデータ言語構造や情報の送受信手段等の必要な技術的側面を決定することになっている。 このような大きなプロジェクトが国際税務当局間で動く背景には、どのような事情があるのだろうか。 直接のきっかけは、2008年のリーマンショックである。 リーマンショックの原因となるマネーの出所をたどっていくと、タックスヘイブンからの不透明な資金であったということが判明した。そこで、今後ふたたび金融不安を生じさせないために、タックスヘイブンマネーの透明性を求める声が国際社会から上がったのである。加えて、スイスUBSが米国の脱税ほう助を行うという事件やリヒテンシュタインの投資銀行の事件などもあり、2009年4月のG20サミットで、「銀行機密の時代は終わった」という有名な宣言がなされた。これにより、資金の透明性を求める声は一気に加速した。 実は、この問題は、わが国で議論されている預金口座に番号(マイナンバー)を付けるかどうかの議論に大きな影響を与える。 国内の議論いかんにかかわらず、OECDの情報交換が合意されれば、先進諸国の税務当局はこれを実行せねばならなくなる。そうなれば、国内非居住者の口座にはマイナンバーが付されるとともに、外国の金融機関に口座を保有する日本居住者について、口座開設時にわが国の番号(マイナンバー)を告知しなければならなくなる。対象の口座は順次「既存の」口座にも広がっていく。そうでなければ情報交換の意味はない。 このような広がりが、わが国の預金口座への付番、さらには「既存」口座にさかのぼって付番すべきという議論に広がっていくことは確実だ。 思わぬところから、「既存」預金口座への付番という議論に、新たな展開が始まる。 (了)

#No. 72(掲載号)
#森信 茂樹
2014/06/05

所得拡大促進税制・雇用促進税制の対象となる「従業者」に関する要件整理~雇用形態による適用関係の差異を検討する~ 【第2回】「雇用形態ごとの適用可否を検討」

所得拡大促進税制・雇用促進税制の対象となる 「従業者」に関する要件整理 ~雇用形態による適用関係の差異を検討する~ 【第2回】 「雇用形態ごとの適用可否を検討」   公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎   前回の説明により、所得拡大促進税制における「国内雇用者」は賃金台帳に記載のある者が対象となり、雇用促進税制における「雇用者」は雇用保険の一般被保険者が対象となることをご理解いただけたと思う。 それを踏まえた上で、今回は以下の雇用形態について、所得拡大促進税制及び雇用促進税制の適用可否を検討していくこととする(なお説明の都合上、60歳定年制を前提とする)。   (1) 60歳未満の正社員(定年退職前) 〔所得拡大促進税制〕 賃金台帳への記載対象であることから、所得拡大促進税制の適用対象となる。 〔雇用促進税制〕 雇用保険の一般被保険者でもあることから、雇用促進税制の適用対象となる。   (2) 60歳で定年退職後、65歳まで継続雇用制度の適用を受けている正社員 〔所得拡大促進税制〕 賃金台帳への記載対象であることから、所得拡大促進税制の適用対象となる。ただし、継続雇用制度の適用を受けることから、平均給与等支給額の算定上は、該当の金額を控除する必要がある。 〔雇用促進税制〕 継続雇用制度の適用を受けたとしても引き続き一般被保険者の資格を有していることから、雇用促進税制の適用対象となる。   (3) 65歳以降も勤務している正社員 〔所得拡大促進税制〕 賃金台帳への記載対象であることから、所得拡大促進税制の適用対象となる。ただし、雇用保険の一般被保険者には該当しないことから、平均給与等支給額の算定上は、該当の金額を控除する必要がある。 〔雇用促進税制〕 2つのケースが考えられる。ひとつは、65歳まで継続雇用制度の適用を受けつつ、その終了後も引き続き就業するケース、もう1つは、65歳以降全く新しい企業に就業するケースである。 前者のケースは、65歳をまたいで同一の企業に所属していることから、雇用保険の「高年齢継続被保険者」の資格を得ることとなる。しかしこれは、雇用促進税制の適用上は「高年齢雇用者」に該当するため、基準雇用者数の算定上控除されることとなり、結果として、雇用促進税制の適用対象とはならない。 これに対して後者のケースは、そもそも雇用保険に加入することができない(一般被保険者は65歳まで)うえ、高年齢継続被保険者の資格要件も満たさないことから、やはり雇用促進税制の適用対象とはならない。   (4) 在籍出向者(出向元で正社員、出向先で役員又は使用人兼務役員) 〔所得拡大促進税制〕 出向者(在籍出向)については、出向元との雇用契約を維持したまま、出向先とも雇用契約が成立する状態にあることから、賃金台帳については出向元と出向先のそれぞれで整備する必要がある。 しかしながら、出向先で役員となっている場合には、賃金台帳の記載対象から除外されるほか、使用人兼務役員については、使用人分給与について賃金台帳への記載が必要ではあるが、いずれにしても国内雇用者の定義から除外されている。 したがって、出向先で役員又は使用人兼務役員になっている者については、出向先において所得拡大促進税制を適用することはできない。 なお、出向元法人では所得拡大促進税制の適用を受けることができると考えられるが、出向先法人から支払を受ける給与負担金については、「他の者から支払を受ける額」として控除する必要がある(措法42の12の4②三、措通42の12の4-2(2))。 〔雇用促進税制〕 雇用保険については原則として、出向元法人において加入していると考えられるため、出向先法人においては対象とならない。 ただし、出向先法人で使用人兼務役員となる場合において、雇用保険の一般被保険者となる場合は少なからずあると考えられる(詳細は労務の問題であり、本稿ではこれ以上は踏み込まない)。仮に出向先法人で雇用保険の一般被保険者となる場合には、雇用促進税制の適用対象に含まれるものと考えられる。   (5) 在籍出向者(出向元で正社員、出向先でも正社員) 〔所得拡大促進税制〕 出向者(在籍出向)については、出向元との雇用契約を維持したまま、出向先とも雇用契約が成立する状態にあることから、賃金台帳については出向元と出向先のそれぞれで整備する必要がある。 したがって、出向先で社員である者については、賃金台帳への記載対象となることから、出向先において所得拡大促進税制を適用することはできる。この場合、出向元法人に対して支払う給与負担金の額は雇用者給与等支給額に含まれる(措通42の12の4-3)。ただし、出向先法人において雇用保険の一般被保険者に該当しない場合には、平均給与等支給額の算定上は、該当の金額を控除する必要がある。 なお、出向元法人でも所得拡大促進税制の適用を受けることができると考えられるが、出向先法人から支払を受ける給与負担金については、「他の者から支払を受ける額」として控除する必要がある(措法42の12の4②三、措通42の12の4-2(2))。 〔雇用促進税制〕 雇用保険については原則として、出向元法人において加入していると考えられるため、出向先法人においては対象とならない。 ただし、出向先法人で雇用保険の一般被保険者となる場合は少なからずあると考えられる(詳細は労務の問題であり、本稿ではこれ以上は踏み込まない)。仮に出向先法人で雇用保険の一般被保険者となる場合には、雇用促進税制の適用対象に含まれるものと考えられる。   (6) 嘱託社員・契約社員 〔所得拡大促進税制〕 嘱託社員、契約社員といった非正規雇用形態の社員であっても、賃金台帳への記載は必要であることから、所得拡大促進税制の適用対象となる。 ただし、雇用保険の一般被保険者に該当しない場合には、平均給与等支給額の算定上は、該当の金額を控除する必要がある。 〔雇用促進税制〕 就業形態によって雇用保険の加入要否が異なるため一概には言えないが、仮に雇用保険の要件(31日以上の雇用見込、週間所定労働時間20時間以上)を満たせば一般被保険者となることから、その場合には雇用促進税制の適用対象に含まれると考えられる。   (7) 派遣社員 〔所得拡大促進税制〕 派遣社員については、労働基準法第108条に定める賃金台帳ではなく、労働者派遣法第42条に定める派遣先管理台帳の整備が求められている。賃金台帳への記載は行われないため、所得拡大促進税制の適用対象とはならない。 〔雇用促進税制〕 派遣社員は、派遣会社において雇用保険に加入するものであるため、派遣先企業における雇用促進税制の適用対象にはならない。   (8) 海外勤務社員 〔所得拡大促進税制〕 賃金台帳は、国内事業所において作成されるものであるから、国内事業所に所属しない海外勤務社員は賃金台帳の記載対象外となる。したがって、所得拡大促進税制の適用対象とはならない。 〔雇用促進税制〕 海外企業への転籍を伴わない限り、海外勤務に伴いただちに雇用保険の資格を失うものではないと考えられるため、引き続き雇用保険の一般被保険者の資格が維持される。この限りにおいて、雇用促進税制の適用対象に含まれると考えられる。   (9) パート、アルバイト 〔所得拡大促進税制〕 パート社員及びアルバイト社員についても、賃金台帳への記載は必要であることから、所得拡大促進税制の適用対象となる。ただし、雇用保険の一般被保険者には該当しないことから、平均給与等支給額の算定上は、該当の金額を控除する必要がある。 〔雇用促進税制〕 パート社員、アルバイト社員が雇用保険に加入する場合には、一般被保険者ではなく「短期雇用特例被保険者」となると考えられるため、雇用促進税制の適用対象とはならない。   (10) 日雇い労働者 〔所得拡大促進税制〕 日雇い労働者についても、賃金台帳への記載は必要であることから、所得拡大促進税制の適用対象となる。雇用保険の一般被保険者には該当しないことから、平均給与等支給額の算定上は、該当の金額を控除する必要がある。 〔雇用促進税制〕 日雇い労働者が雇用保険に加入する場合には、一般被保険者ではなく「日雇労働被保険者」となると考えられるため、雇用促進税制の適用対象とはならない。 *  *  * ま と め 最後に総括として、雇用形態ごとの賃金台帳記載要否と雇用保険の有無についてまとめると、下表のようになる。 〈所得拡大促進税制・雇用促進税制の適用対象者となる「従業者」の分類〉  ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 上表のうち、緑のアミカケ部分が所得拡大促進税制または雇用促進税制の適用対象となる。 賃金台帳記載対象者は所得拡大促進税制の適用を受けることができるとともに、その中でも雇用保険一般被保険者の資格を有する者については、さらに雇用促進税制の適用対象になると考えられる。 ただし、両者の税制は同時に適用することはできず、いずれか有利な制度を選択適用することとなる(措法42の12の4①)。 (連載了)

#No. 72(掲載号)
#鯨岡 健太郎
2014/06/05
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