会社を成長させる「会計力」 【第6回】 「経営情報システムの構築(SIGMA21プロジェクト)は どうやって成功をつかんだか(前編)」 島崎 憲明 企業に宿る会計力の一つが、高度な経営情報システムの整備とその積極的な活用にあることは前回述べたとおりである。 そこで、今回から2回にわたり、取締役就任後の2年目から8年間情報システム部隊のヘッドを勤め、そこで新経営情報システムの構築に携わった経験から、その成功要因について検証してみたい。 《新しい経営情報システムの構築が必要となった背景》 “情報システム部隊のヘッド”というと、今で言うCIOの役割だが、同時に経理部隊のトップも兼ねていた。その後、財務、リスクマネジメント、人事、経営計画策定など担当業務は広がっていったが、情報システムの担当も引き続き兼任していた。 情報システム担当役員としての8年間のうち、前半の約4年間は、既存のレガシーシステムの保守・運用業務と並行して新しいシステムの開発を進めた。 これは、私が担当役員になったから新システムの開発を手掛けたのではなく、経営情報システムを一から再構築するために担当役員に任命されたからである。 当時のシステムは100%手造りで、次のような問題を抱えていた。 これらの問題を解決するために、当時の連結純利益に相当する300億円の予算でスタートしたのがこの新しいシステムの開発プロジェクトであり、当時の社長の大英断がなければ実現は難しかったであろう。 これに先立つ10年前に構築したレガシーシステムは、コストオーバーラン、計画の遅延、ユーザーの使い勝手などに問題があった。 これらの問題に適切な対応をし、同じ轍を踏まないようにということで、最大ユーザーのトップで、全社の予算管理責任者である私にプロジェクトリーダーを務めるよう指示があったのである。 なお、このプロジェクトがスタートする1年前、私は経理業務のコスト20%削減を実現するための方策を検討していたが、営業および経理業務基幹システムの抜本的な作り変えと、経理業務の別会社化による業務プロセスの見直しにより、20%の削減は可能との感触を得ていた。 当時、社内ではコスト競争力不足をいかに改善すべきかが議論されており、「経理部門に止まらず全社的な問題としてシステムの抜本的見直しに取り組むべきである」との提言書をまとめたが、今思えば、これが担当任命へつながることとなったのだろう。 《プロジェクトの成功要因は何か》 プロジェクトは四苦八苦しながらも、最終的には当初立てた投資予算内で、予定した期限までに稼働させることができた。 この成功要因としては、次の点が挙げられる。 これらの要因について、以下で順に説明する。 《新しい部の立ち上げと部内融和》 垂直立ち上げした新しい部は、プロジェクトのピーク時には45人程度の体制となった。 構成は、20名が従来の情報システム部隊から、残り25人がユーザーである営業、経理、財務、リスクマネジメント、人事、物流部隊から集まった混成部隊であり、これに、システム開発会社等からの派遣で300名が加わった。 これにより体制としては「全社を挙げて」という形になったが、さらにこの組織に魂を入れるため、次の2つを実施した。 1つ目は、このプロジェクトの「愛称」を全社公募により決めたことである。 「SIGMA21プロジェクト」(Sumitomo Corporation Information & Global Management Systems Architecture for the 21st Century)との命名には、我々の意気込みと思いが詰まっている。 「SIGMA21」という短いプロジェクト名を社内公募により決めたことから、プロジェクトの目的が全社的に周知されることにもなった。 * * * 2つ目は、レガシーシステムの保守・運用を担う者と合わせると70名を超える部隊をどのように融和させ、総合力を発揮させるかに尽力したことである。 これには、私の同期入社2人が部長として支えてくれたのは心強かった。 部員からは当時流行った歌から、「団子3兄弟」と言われたが、新しい部がスタートした日に部員全員を集めて、「団子3兄弟」幹部からそれぞれメッセージを伝えた。 プロジェクトの目的と方針の明確な伝達である。 その翌日から、部長から事務職までの全員について面接を行った。 1人1時間としても、70時間を超える時間を面接に費やした。 一対一だから、仕事のことに限らずプライベートな話にまで及んだ人もいたが、主旨は、このプロジェクト推進についての意見交換であった。 この面接を通して、メンバー1人1人の経験や能力、希望などを知ることができたが、何にもまして、じっくりと話をしたことにより相互の理解が深まったことが最大の収穫であった。 ちなみにこのプロジェクトの後、新しい仕事に就いたときには、必ず個人面接を実行している。 今から3年ほど前に公益財団法人財務会計基準機構(含む会計基準委員会)の構造改革を検討した際にも、財団のメンバー40人程と個人面接を行ったことがある。 40人のほとんどが初対面であり、大半が会計専門家で、出向者であるという特異な組織であった。 改革のヒントを得ようとしての面接であったが、面接を通して得た情報や意見は、関係団体の責任者と設置した委員会の場での改革論議に役に立った。 《トップマネジメントのサポートと戦略立案部隊との協働》 このプロジェクト成功の最大の要因の一つが、社長などトップマネジメントの理解を得、戦略立案部署と協働したことにある。 連結純利益に相当するシステム投資は、社長の決断なくしては具体化できなかったであろうが、さらにシステム構築の過程でのトップマネジメントのサポートがなければ種々の課題の克服も難しかったと思われる。 プロジェクトの全社への浸透と理解はスピーディーに進んだが、システム構築が進むにつれ、「総論賛成だが各論反対」というユーザーの声も大きくなるのが常である。 新しいことへのチャレンジは、常に抵抗勢力との戦いでもある。 SAPのパッケージを使ったシステム作りは、全体最適ではあるものの、レガシーシステムの部分最適に慣れたユーザーからは、個別アドオンの要求が強くあった。10年前のレガシーシステム構築は、これで失敗したのだ。 そのため、トップマネジメントからは、パッケージ仕様によるシステム標準化の必要性を説いてもらった。 「アドオンは必要最小限」にし、「ご飯」「味噌汁」「おしんこ」までで十分、「業務に合わせたシステム構築ではなく、システムに業務を合わせる工夫」が必要などという話は、我々の背中を強く押してくれた。 トップマネジメントが月一回の部内連絡会に出席し、メンバーからの意見に耳を傾け、時にはコメントするという機会もプロジェクトメンバーのモチベーションアップに繋がった。 CIOは経営能力とITの専門性を兼ね備え、経営戦略とIT戦略とをブリッジする役割を担う役職であると言われる。 だが、当時私はCIOの立場であったが、IT技能は持ち合わせていなかった。 ただし、私は情報システムの最大のユーザーのトップであり、経営計画立案の責任者でもあったので、システム構築、ユーザー、経営戦略立案の三位一体でプロジェクトを推進することができた。 当時、社内では ことを掲げで様々な経営改革をパッケージで推進中であった。 その中で、中期経営計画とITの活用は、改革の両輪をなすと位置付けられ、経営戦略の一環としてITインフラの整備と情報システムの高度化は不可欠であった。 その整備・構築の目的は、次のように明確化された。 すなわち、 の整備・構築である。 システム構築の過程では幾多の障害に直面するが、その都度、基本方針に立ち戻ることにより、プロジェクト遂行上の軸を崩さない姿勢がプロジェクトリーダーには求められるのである。 * * * 次回も、経営情報システムの構築時の成功要因について、引き続き検証したい。 (了)
顧問先の経理財務部門の “偏差値”が分かる スコアリングモデル 【第34回】 「個別決算業務のKPI (その① 決算準備)」 株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦 はじめに 昨年の初夏の候にこの連載を始めたが、駟の隙を過ぐるが如く年改まり、早余寒の候、残すところ3回となった。そこで、今回から最終回までを、経理財務部門の業務の締めくくりである「個別決算業務」を評価するKPIの解説に当てて、連載の終着を図ることとしよう。 個別決算業務は、連結子会社を保有しない会社の決算報告書を作成する業務である。他のすべての業務の流れの最終地点に位置し、経理財務部門が最も主体性を持って取り組むことが経営者や利害関係者から期待されることを考えれば、個別決算業務は、経理財務部門のサービスレベルを直接的かつ総合的に映し出す業務である。 個別決算業務という呼称の語尾に、「管理」という文字を付けず、ただ「業務」と呼ばれているのは、それが他部門の業務を管理する性質のものではなく、それ自体が経理財務部門の本来業務であると理解されている表れかもしれない。 そこで、個別決算業務の入り口にあたる決算準備段階で経理財務部門が担うべき戦略性を評価するKPIを取り上げる。 KPIが設定された業務プロセスの確認 まず、経済産業省スタンダードで整理された業務プロセスを引用しながら、このKPIに対応する業務プロセスを押さえておこう。 経済産業省スタンダードにおいて、スコアリングモデルの個別決算業務に対応する業務を単体決算業務と呼んでいるが、両者の内容は同じである。 この単体決算業務において、会社が担う一般的な機能として、「決算準備」、「決算手続」、「役員報告」、「監査対応」の4個の機能を挙げている。 今回解説するKPIは、「決算準備」を構成する唯一の機能である「事前準備」に関連する業務プロセスにおいて設定されている。 〈経済産業省スタンダード:単体決算業務で会社が担う機能〉 (経済産業省「経理・財務サービス スキルスタンダード」より) さらに、経済産業省スタンダードでは、「事前準備」に関連して、決算方針策定という業務プロセスを次のようにまとめている。 〈経済産業省スタンダード:9.1.1決算方針策定〉 (経済産業省「経理・財務サービス スキルスタンダード」より) 決算方針策定は、経理財務部門が、期中の財務数値と決算予測数値の収集、当期から適用される会計制度変更、会計処理が決まっていない新たな会計事象の会計処理の方針の検討を行い、期末処理方針を策定する作業である。その成果として、経理財務部門は、経営層に対して、会計処理の方針案と会計事実の認識の方針案、経営目標を達成するため特定の会計事実を意思決定する高度な経営判断を促すための情報、そして利益処分の方針案を盛り込んだ期末処理方針を提示する。 今回のKPIは、戦略的に決算方針策定を進めるために日常的な情報伝達を図ることが期末処理方針の経営層への早期報告につながる関係性に着目し、期末処理方針を作成し、事前に経営層に報告する時点を問うものである。 定義を理解する 調査項目の文言から、KPIの定義を確認しよう。以下、KPIの項目を再掲する。 「期末処理方針」とは、①重要な会計方針となる会計処理の原則、②年度決算において採用する会計処理の方針、③利益処分の方針、④会計事実の決定方針をさす。 ①重要な会計方針は、いったん採用すればみだりに変更できない。会計上は変更の事実と理由と影響額を開示しなければならないし、税務上は原則として事業年度開始の日の前日までに税務署に申請を提出する必要があるから、期中で変更をする会社は少ないかもしれない。 ②年度決算において採用する会計処理の方針は、例えば、売掛金、受取手形、貸付金等に含まれる不良債権の評価、棚卸資産に含まれる不良在庫の評価、経過・未経過勘定の計上、有価証券の評価、固定資産の減損、償却資産の減価償却における特別償却、増加償却、割増償却、繰延税金資産の回収可能性の判断、返品調整引当金やその他引当金の計上等である。 ③利益処分の方針の説明は不要だろう。 ④さらに、経理財務部門が、会計事実である主管部門の業務に対する経営判断を促すため、経営層に対して重要な情報提供を行い、必要に応じて、その会計事実の決定について提案するような働きかけを行っている会社では、「期末処理方針」に、会計事実の決定方針が含まれるだろう。会計事実の決定方針は、例えば、不良債権の処分、不良在庫の処分、有価証券の処分、固定資産の処分、リースの活用、事業の分離や吸収等の会計事実の決定方針である。 「決算期末日から遡って起算して何日前」であるかについて、年度決算期末日の前日であれば、年度期末日を含めて「2日」と記入し、年度決算期末日の当日であれば、「0日」と記入する。 KPIの背景にある価値判断 スコアリングモデルでこのKPIを設定したのはなぜか。 このKPIは、経理財務部門が、経営層に対して、経営戦略に整合した期末処理方針を早期に提案することが望ましいという価値判断に基づいて設定されている。 決算業務は、会社を取り巻く利害関係者に対する一会計年度の経営成績と決算日における財政状態の報告を担うものであるから、大量かつ高度な判断を伴う複雑な作業を、締め切りが決まった時間的な制約の下で進めなければならない。 ところが、一会計年度に起こったすべての会計事実を、個別の会計基準と継続性の原則に準拠しながら正しく認識し、適正な会計処理の方針を決定するには、主管部門が担う業務の実態を把握することが必要である。 さらに、会計事実の決定の内容が、会社の業績に与える影響が大きい場合には、高度な経営判断が必要となるから、経理財務部門が経営判断を促す十分な情報を経営層に提供するため、主管部門だけでなく、経営層との間でも緊密な情報伝達を図らなければならない。 このような高度な判断を支えるための膨大な情報の伝達には、相応の時間がかかるため、決算作業に入ってから始めるのでは、後のスケジュールが逼迫してしまう。むしろ、経理財務部門が決算準備段階だけでなく、日頃から戦略的な視点を持って、積極的に主管部門や経営層との情報伝達を図ることが望ましい。そうすれば、結果として、期末処理方針を経営層に提示する時点が早くなり、決算準備段階で、十分な時間的余裕を確保することができる。 そこで、スコアリングモデルでは、経理財務部門と主管部門や経営層との戦略的な情報伝達のレベルを比較するため、そこから結果的に影響を受ける個別決算の期末処理方針の経営層への報告日に着目し、直前決算期末日から遡って起算した報告日の日数をKPIとした。この数値が大きい会社が小さい会社よりも相対的に望ましいと考えている。 顧問先のKPIを測定してみる では、実際にどのような手続でKPIを測定するのか。 読者は、顧問先の経理財務業務を観察し、個別決算業務において、経理財務部門が経営層に期末処理方針を報告する決算準備プロセスが組み込まれていることを確認していただきたい。 例えば、決算準備段階で経営層に提出される報告資料を閲覧し、期末処理方針に関連する事項が明記されていることを確認することが考えられる。それを前提に、報告資料の報告日を確認いただきたい。 さて、読者の顧問先において、経理財務部門が経営層に個別決算の期末処理方針を報告した日は、直前決算期末日から遡って起算して何日前になったであろうか。 * * * 次回は、「個別決算業務」を構成する複数のKPIから、決算承認に関連する業務プロセスに着目したKPIを取り上げる。 (了)
私が出会った[相続]のお話 【第2回】 「割引債券の有無を言うべきか、言わざるべきか」 ~守秘義務と過少申告リスクのはざまで起きた心の葛藤~ 財務コンサルタント 木山 順三 〔とある老弁護士が取得した割引債券〕 私は長年、ある老弁護士の担当をしていました。 仕事は主に資産運用のアドバイスです。 その老弁護士は、税務面については親しい税理士を顧問税理士として長年契約していました。 ある時、老弁護士は、相続対策のための資産整理の一環として実質オーナーだった某株式を売却し、その売却金2億円で割引債券を購入しました。 一連の経緯については、当時担当者であった私も十分認識していました。 そして、現物の割引債券については極力保護預かりに預けておくよう注意を促し、その手続きをすることを申し出ました。 ところがなぜか老弁護士は「これは自分で手続きするから」と言って、そのままになってしまいました。 それからも私は将来の相続について折に触れ相談し、特にこの割引債については必ず相続財産として算入する旨を伝えました。 すると、老弁護士はこう言いました。 「木山さん、私ら弁護士業界では、『割引債は税務署にはわからない』と皆が言っているよ。だから私も家族にも言わず、銀行の貸金庫にも証券会社の保護預かりにも預けず、あるところに内緒にしてあるのです」と。 思わず私は老弁護士に言いました。 「何をおっしゃっているのですか、今や『弁護士は必ず割引債を保有している』ことを、税務当局では常識になっているのですよ!」と。 〔割引債が私の貸金庫に・・・〕 それから数年経ちました。 ある日突然、老弁護士の顧問税理士が私のもとにやって来ました。 「木山さん、急で申し訳ないが私はこれから入院しなければならなくなったので、今まで弁護士先生から預かっていたこの割引債を、これからあなたが預かるよう先生から依頼されているのでよろしく」 と言って、いきなり現物を渡されたのです。 私はあわてて先生に連絡し、すぐ返却したい旨を述べましたが、所用にて2、3日待ってくれとのこと。 やむを得ず私は、私名義の銀行の貸金庫に一旦入庫しました。 もちろん割引債券の上に とのメモを付したのは言うまでもありません。 それから3日後、弁護士夫人の留守を見計らって、ご自宅に伺いました。 そして、 「先生、これはお預かりできません。万一私が死んで妻が私の貸金庫を開けたら、思わずこう言うでしょう。『あなた、こんなに残してくれていたなんて!』と。それでもいいですか?」 と言いました。 すると弁護士は「おっしゃることはもっともです。ご迷惑をおかけしました」と言って、私が持参した割引債を受け取られました。 もちろん、私から再度保護預かり等にされることを勧めたのは、申すまでもありません。 それからしばらくして、顧問税理士が退院することなく亡くなられました。 そしてその友人の税理士が新しい顧問税理士として担当することになりました。 ・・・それからかなり経ち、今度は老弁護士が亡くなられました。 〔老弁護士の相続開始〕 遺産整理作業は老弁護士との付き合い上、新しい顧問税理士が行うことに決定しました。そして、私には財産内容についてわからないことがあれば、協力してほしいとの依頼がありました。 さぁ、例の割引債は、相続財産に計上されているのでしょうか? 税理士の守秘義務として、何か“事”がない限り私には申告内容はわからず、そのまま時が経過しました。 〔木山さん、ご存じないですか?〕 相続税の申告期限も間近に迫ったころ、新しい顧問税理士から連絡が入りました。 「木山さん、生前に友人から聞いていた財産額からみて、どうしても数億円のお金が足らないのだが、ご存じないですか?奥様に聞いても『分からない』と言われる」と。 その時、私はとっさに返事ができませんでした。 あっ、あの時の割引債だ! 税理士が知らないということは、どこかに隠されているのか? また、奥様もご存じないということは、本当に知らないのか? または知っておられて申告されないつもりなのか? 私としては、相続人である妻または子供が本事態を把握しているのかどうか不明であるかぎり、新税理士に話すことはできません。 すなわち相続人が申告しないのであれば余計なお世話となり、守秘義務違反を問われないとも。 一方、単に知らないのであれば、過少申告になるのをみすみす見逃すことになります。 果たしてどうすれば・・・ 〔あなたなら、どうされますか?〕 もし私が担当税理士、または担当コンサルタントとして事態を知っている立場なら、問題なく割引債の存在を相続人に通知するでしょう。 なぜなら将来の加算税等の負担をなくし、結果的に相続人の利益に帰すからです。 本件は担当外のコンサルタントゆえ、微妙な立場でありました。 そこで私としては顧問税理士へのアドバイスとして、 「過去において『弁護士業界では、割引債は隠せるとの話を聞いた』と故人が言われていたので、相続人に再度貸金庫等の調査をお願いされてみてはどうですか?」 と言いました。 〔正しかった税理士の対応〕 それから数日後、再び顧問税理士から連絡が入りました。 「木山さん、助かりました!出てきました、割引債2億円が!おかげさまで、これで帳尻が合います!」 顧問税理士の要請により再度調べたところ、新たに銀行の貸金庫キーが出てきて、そこに保管されていました。どうやら全く別の銀行で貸金庫を借りていた模様です。 このことから、いかに税理士の確認作業が大切かということがわかります。 今回は これらの行動が財産内容の完全把握につながったものと思います。 当時の筆者の気持ちをあえて付け加えれば、担当税理士先生の真剣かつ誠実な態度が、“いかにすれば、知り得た情報を守秘義務をクリアしながら知らせられるか”という考えになりました。 〔最後に、、、筆者のつぶやき〕 あのまま割引債を、私の金庫にメモをつけずに預かっていれば、どうなったのでしょうか・・・ たぶん、ずっと眠れぬ夜を過ごしていたことでしょう。 そして私亡き後、妻は私が宝くじに当たっていたと思い、喜んだことでしょう(もちろん冗談ですが)。 当然のことですが賢明な税理士のみなさんは、いくら親しいクライアントでもこのような大事な財産を預かることはないですね! (了)
《速報解説》 「中小企業の会計に関する指針(平成25年版)」の公表について 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成26年2月3日付で、日本公認会計士協会、日本税理士会連合会、日本商工会議所及び企業会計基準委員会から、「中小企業の会計に関する指針」(以下「中小会計指針」)の「平成25年版」が公表された。 上記の関係4団体は、中小会計指針を取引実態に合わせた合理性のあるものとするために、年次ごとの見直し及び改正が行っているが、今回の平成25年版では企業会計基準委員会が公表した各種の企業会計基準のうち、主に「退職給付に関する会計基準」(企業会計基準第26号)に対応した用語の見直しなどが反映されている。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 平成25年版の中小会計指針における主な改正点は、以下のとおりである。 (了)
2014年1月30日(木)AM10:30、Profession Journal No.54 が公開されました。 Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開してまいります。 Web情報誌 Profession Journalは、プロフェッションネットワークのプレミアム会員専用の閲覧サービスです。 Profession Journalについての詳細はこちら。 バックナンバー一覧はこちら。
損益通算廃止に伴う ゴルフ会員権売却判断のポイント 【第1回】 「現行制度の確認と売却時の注意点」 税理士 内山 隆一 はじめに ゴルフ会員権には、いわゆる「預託金方式」(ゴルフクラブに入会金と預託金を払い込むことにより優先的施設利用権を取得する形態)のものと、「株式方式」(ゴルフ場を経営する法人の株主となることにより優先的施設利用権を取得する形態)とがあるが、我が国におけるゴルフ会員権のほとんどが預託金方式によるものである。 このゴルフ会員権の譲渡による所得は、いずれの方式によるものであっても総合課税の譲渡所得とされ、保有期間が5年以内のものは総合短期譲渡所得、5年を超えるものは総合長期譲渡所得として取り扱われている。 また、ゴルフ会員権の譲渡により生じた損失は損益通算の対象とされ、通算しきれない金額は、青色申告者は純損失の繰越控除又は繰戻還付の適用を受けることができる。 平成26年度税制改正では、平成26年4月1日以後のゴルフ会員権の譲渡による損失を損益通算の対象から除外する旨が示されている。 そこで本連載では、ゴルフ会員権の譲渡にあたり注意すべき事項をあらためて確認するとともに、上記の改正に対応するための「譲渡(売却)を判断するポイント」について2回にわたり解説する。 1 現行制度の概要及び平成26年度改正内容 現行制度では、総合課税による譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額は損益通算の対象とされるが、このうち「生活に通常必要でない資産」に係るものはその対象から除外する旨が規定されており、ゴルフ会員権は現行法上この「生活に通常必要でない資産」に該当しないことから、損益通算ができるものとして取り扱われてきた。 今回の改正により、この「生活に通常必要でない資産」にゴルフ会員権が該当するように見直され、損益通算を規制することとなる。 2 売却にあたり注意すべき事項 ゴルフ会員権の譲渡にあたり注意しなければならないのは、その取得費をどう捉えるかということである。 その要点を以下にまとめる。 (1) 基本的考え方 ゴルフ会員権の取得に直接要した金額として、次のようなものが該当する。 なお、預託金方式のゴルフ会員権の性格は、優先的施設利用権【A】と預託金返還請求権【B】を内容とする契約上の地位とされており、【A】と【B】セットで譲渡所得の基因となる資産とされる。 (2) 預託金の分割が行われた場合 【A】も【B】も維持されるため、契約内容の変更とみて、分割前の取得価額を、預託金の比によって分割後のゴルフ会員権に振り分ける(取得時期は分割前の取得時期が維持される)。 《例1》 分割前の預託金1,000万円、入会金 250万円のゴルフ会員権が5口に分割された場合 《例2》 上記《例1》で、預託金100万円を返還後に5口に分割された場合 (3) 更生手続等によって預託金の切捨てが行われた場合 ① 預託金の一部が切り捨てられた場合 契約内容の変更とみて、取得価額、取得時期ともに維持される。 ② 預託金の全部が切り捨てられた場合 イ 原則 預託金返還請求権が消滅し、優先的施設利用権のみで構成される新たな地位を取得したことになるため、取得価額をその時点での適正評価額に付け替える。 なお、この場合の損失は家事上の損失となり考慮されない。 ロ 特例 次の要件を満たすときは、【A】の部分について取得価額を適正評価額に付け替えず、切捨て前の優先的施設利用権の取得価額を維持する。 3 いつまでに判断しないと間に合わないのか ゴルフ会員権の譲渡による損失が損益通算の対象から除外されるのは、平成26年4月1日以後の譲渡であるため、いわゆる損出しによる節税を図るタイムリミットは平成26年3月31日ということになる。 そのため、売却した場合に譲渡損失となるかどうかについて、上記2の取得費についても勘案しつつ、2月中に検討しておく必要があろう。 (了)
平成25年分 確定申告実務の留意点 【第4回】 (最終回) 「金融所得に対する課税(まとめ)」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 平成25年は、日経平均株価の年間上昇率が50%を超えるなど、金融所得が生じやすい環境にあった。そこで、シリーズ最終回は、金融所得課税を取り上げ、課税方法の概要と計算上の留意点をまとめることとする。 なお、本稿の内容は平成25年分の確定申告を前提としており、平成26年以後適用される改正項目についてはふれていない。また、営利を目的とする継続的な資金運用に基づく金融所得は取り上げていない。 なお、所得計算や所得控除等に関する留意点については、以下の拙稿も併せてご参照いただきたい。 個人が得る金融所得は、その発生源泉により、利子所得、配当所得、譲渡所得(総合、分離)、雑所得に区分される。以下ではその区分ごとに解説する。 【1】 利子所得 (1) 利子所得に区分される金融所得(所法23①) 次の利子は、利子所得ではなく「雑所得」に区分される(所基通35-1、35-2)。 (2) 課税方法 利子所得に対する課税方法は、次の通りである。 (3) 外貨預金の取扱い 外貨預金に関する所得税法上の取扱いは、次の通りである。 居住者が外貨建取引を行った場合には、取引時の外国為替の売買相場により円換算し、所得金額を計算する(所法57の3①)。利子は、利払日の対顧客直物電信買相場(TTB)により円換算する(措通3の3-6(1))。 預金の預入時と引出時の為替レートが異なることにより、為替差損益が生じることがある。この為替差損益は、雑所得に区分される(所法35)。 円高になり為替差損が生じた場合、他にも雑所得があれば当該他の雑所得の金額から控除することができるが、給与所得をはじめ他の各種所得と損益通算することはできない。 また、元本や利子に為替予約を付しているときには、為替差益部分も利子と同様に20.315%の率による源泉分離課税の対象となる(所法174①七、所令298④、措法41の10)。 【2】 配当所得 (1) 配当所得に区分される金融所得(所法24①、25①) 次の配当等は、配当所得には該当しない(所基通24-2、23~35共-5、35-1、所法76①、77①)。 (2) 課税方法 配当所得に対する課税方法は、次の通りである。 なお、配当等の支払いに際し、上場株式等の配当等については10.147%(所得税7%、復興特別所得税0.147%、地方税3%)、非上場株式の配当等については20.42%(所得税20%、復興特別所得税0.42%、地方税なし)の率で所得税等が源泉徴収されている。 (3) 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算 上場株式等の譲渡損失の金額は、申告分離課税を選択した上場株式等に係る配当所得の金額と損益通算することができる(措法37の12の2①)。 この損益通算の対象となる上場株式等の譲渡損失の金額は、同年に譲渡した他の株式等に係る譲渡益を控除した金額である(措法37の12の2②)。 (次ページへつづく) (前ページへ戻る) 【3】 譲渡所得(総合課税) (1) 譲渡所得(総合課税)に区分される金融所得(所法33①) (2) 課税方法 次の算式で算出した譲渡所得の金額を、他の各種所得の金額と合計し総所得金額及び税額を計算する(所法33③~⑤、60①、所令82)。総所得金額の計算上、長期譲渡所得については1/2相当額を他の各種所得の金額と合算する(所法22②二)。 なお、譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、一定の順序により他の各種所得の金額と損益通算することができる(所法69①、所令198)。 (注1) 金等、生活に通常必要でない資産に係る譲渡損失は、損益通算の対象とならない(所法69②)。 (注2) 平成26年度税制改正大綱によると、平成26年4月1日以後は、ゴルフ会員権等の譲渡損失を他の所得と損益通算することは認められない。 (3) 取得費及び譲渡費用の範囲 譲渡益の計算上控除する「取得費」は、資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の合計額であり、「譲渡費用」は、譲渡のために直接要した費用である(所法38①、所基通33-7)。 例えば、ゴルフ会員権の「取得費」及び「譲渡費用」としては、次のものが該当する。 【4】 譲渡所得(申告分離課税) (1) 譲渡所得(申告分離課税)に区分される金融所得(措法29の2④、37の10①②) (2) 課税方法 次の算式で算出した株式等に係る譲渡所得の金額に対し、他の所得と区分し一定の税率を乗じて税額を計算する(措法37の10①⑥)。 特定口座での取引について源泉徴収口座を選択している場合には、口座内での譲渡及び受け取った配当等の金額に対して所得税及び地方税が計算され源泉徴収されている。 そのため、源泉徴収口座内の取引は、原則として確定申告する必要はない。 源泉徴収口座内の取引について確定申告が必要となるのは、次の場合である。 株式等に係る譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額は、申告分離課税を選択した上場株式等の配当所得を除き、他の各種所得の金額との損益通算は認められない(措法37の10①)。 また、上場株式等に係る譲渡損失の金額は、翌年以後3年にわたり、各年分の株式等に係る譲渡所得の金額及び上場株式等に係る配当所得の金額から控除することができる(上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除)(措法37の12の2⑥)。 平成25年において、株式等の譲渡所得に適用される税率は、譲渡の形態に応じて次の通りとなる。 (3) 外国株式の譲渡 外国法人が発行する株式を譲渡した場合も、原則的な課税方法は国内株式の譲渡の場合と同じである(措法37の10①②)。 譲渡対価の額が外貨で表示されている場合の邦貨換算は、約定日における対顧客直物電信買相場(TTB)により行う。為替差損益部分の金額も譲渡損益に含めることとなる(措通37の10-8)。 外国法人が発行する上場株式等について譲渡損失が生じたとき(国内の証券会社等を通した取引の場合に限る)には、国内株式の場合と同様に3年間の繰越控除が可能である(措法37の12の2⑥)。 【5】 雑所得 (1) 雑所得に区分される金融所得(所法35①②、措法41の14①、措令26の23②) (2) 課税方法 ① 総合課税、源泉分離課税 雑所得に区分される利子は、原則として他の各種所得の金額と合計し総所得金額及び税額を計算する(所法35①②)。 次のものについては、金融類似商品の収益として20.315%(所得税15%、復興特別所得税0.315%、地方税5%)の税率による源泉分離課税が適用され、源泉徴収だけで課税関係は終了する(所法174、175、209の3、措法41の10、措通41の10・41の12共-1)。 ② 申告分離課税(先物取引に係る雑所得等) 商品先物取引、金融商品先物取引等をし、かつ、差金等決済をした場合には、他の各種所得の金額と区分して20.315%(所得税15%、復興特別所得税0.315%、地方税5%)の税率による申告分離課税が適用される(措法41の14①)。 先物取引に係る雑所得等の金額の計算上生じた損失の金額は、他の先物取引に係る雑所得等から差し引くことはできるが、それ以外の各種所得の金額と損益通算することはできない(措法41の14①、措令26の23①)。 先物取引の差金等決済に係る損失の金額は、翌年以後3年内の各年分の先物取引に係る雑所得等の金額から控除することができる(先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除)(措法41の15①)。 (3) 外国為替証拠金取引(FX取引) FX取引には、「店頭取引」と「取引所取引」がある。 平成23年以前は、「店頭取引」による場合には総合課税の雑所得として課税されていたが、平成24年からは「取引所取引」の場合と同じ取扱い(上記(2)②の課税方法)となった。 (連載了)
提出前に確認したい 「国外財産調書制度」のポイントQ&A 【第4回】 「国外財産の見積価額の例示」 公認会計士・税理士 前原 啓二 Q 国外財産の見積価額を、例示で詳しく教えてください。 A 国外財産のそれぞれの区分ごとの見積価額の例示は、次のとおりである(調書通5-8)。 なお、国外財産に関する所得税及び復興特別所得税の課税標準並びに相続税及び贈与税の課税価格は、上記の価額でもって国外財産調書に記載される金額にかかわらず、各税に関する法令の規定に基づいて計算されることになる(調書通5-10)。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例10(贈与税)】 税理士 齋藤 和助 《事例の概要》 平成X4年分の贈与税につき、贈与税の配偶者控除を適用して生前贈与を行おうとしたが、贈与対象土地が居住用宅地と賃家建付地とが一筆になっている土地であった。 利用状況の異なる2棟の建物の敷地となっている土地について贈与税の配偶者控除を適用しようとする場合には、居住用部分を特定して申告しなければならない。 税理士はこれを指導しないまま贈与を実行し、申告直前になってこれに気づき、贈与をなかったこととして贈与税の申告を取りやめ、贈与登記を錯誤として無効とすることとなってしまった。 これにより、登記費用等50万円につき損害が発生し、賠償請求を受けた。 《賠償請求の経緯》 平成X4年7月に貸家建付地と居住用宅地が一筆となっている土地のうち、居住用宅地部分について、贈与税の配偶者控除を使って生前贈与を受けたい旨の相談を受ける。 平成X4年9月に上記業務を受任し、司法書士に依頼して持分による登記が完了する。 平成X4年12月に不動産取得税を支払う。 平成X5年2月に贈与税申告の準備中に居住用宅地を分筆して特定しないと贈与税の配偶者控除の適用が受けられないことが判明 平成X5年3月に贈与税の申告を取りやめ、錯誤で登記を無効とした。その後、課税団体より不動産取得税還付の連絡を受ける。 《基礎知識》 ◆贈与税の配偶者控除(相法21の6) その年において贈与によりその者との婚姻期間が20年以上である配偶者から居住用不動産等を取得した者が、当該取得の日の翌年3月15日までに当該居住用不動産をその者の居住の用に供し、かつ、その後引き続き居住の用に供する見込みである場合には、その年分の贈与税については、課税価格から2,000万円を控除する。 ◆居住用と居住用以外の建物の敷地となっている土地の持分である本件受贈財産のそのすべてが居住用家屋の敷地であるとはいえないとした事例(国税不服審判所 裁決事例集 No.62-329頁。平成13年9月13日裁決) 請求人は、居住用と居住用以外の建物の敷地となっている不動産につき持分で贈与を受けた場合には、贈与当事者の真意を汲んで配偶者の特別控除の特例の適否を判定すべきであると主張するが、当該特例は、生存配偶者の老後の生活安定に配慮する趣旨から、一生に一度限り、その取得した居住用財産の課税価格から2,000万円を限度として控除することを、登記簿の謄本等の提出を要件として認める措置であり、その解釈は厳格にされるべきである。したがって、本件においては、本件受贈財産のそのすべてが居住用家屋の敷地であるとはいえず、請求人の更正の請求には理由がない。 《税理士の落とし穴》 《税理士の責任》 税理士は、依頼者から、貸家建付地と居住用宅地が一筆となっている土地について贈与税の配偶者控除を適用した生前贈与の相談を受けた際、適用が可能であると説明し、分筆しないまま持分贈与を実行し、登記を行った。 そして贈与税の申告にあたり、裁決事例を確認していて、分筆して居住用部分を特定しないと適用が受けられないことに気づき、贈与をなかったこととして贈与税の申告を取りやめ、贈与登記を錯誤により無効とすることとなってしまった。 贈与の相談を受けた段階で、分筆の指導をしていれば、贈与税の配偶者控除の適用は受けられたことから、税理士に責任がある。 ただし、本事例においては、錯誤登記により不動産取得税が還付されたことから、過大納付税額は発生していない。 しかし、税理士の誤指導による贈与登記費用45万円と錯誤による抹消登記費用5万円(合計50万円)は、損害に該当するものと思われる。 《予防策》 [ポイント] 情報収集を心がける 本事例のように、法律や通達にはないが、裁決事例にほとんど同様の事例の結論ともいえる情報が掲載されていることも少なくない。判断に迷うような依頼を受けた場合には、法律や通達だけでなく、国税庁から発せられる情報や、国税不服審判所の裁決事例、さらには判決事例などにも関心を持ち、常にアンテナを張り、情報収集に心がけたい。 また、本事例のような単独の依頼については、所轄税務署に事前に確認をすることも有効である。 (了)
居住用財産の譲渡所得 3,000万円特別控除 [一問一答] 【第16問】 「家屋の貸し合いをしている場合」 -居住用財産の範囲- 税理士 大久保 昭佳 Q 大阪本社に勤務しているXは大阪市内の自宅に居住し、東京支社に勤務しているYは東京都内の自宅に居住していました。 6年ほど前に、Xは東京支社にYは大阪本社に、同時に転勤となり、会社からの斡旋もあったことから、XとYは、それぞれの家屋を無償で貸し合い、それぞれ居住していました。 このほど、Xは会社を退社して他社へ転職することとなったことから、大阪の家屋からYを立ち退かせた上で、この家屋を売却することとしました。 この場合、「3,000万円特別控除(措法35)」の特例を受けることができるでしょうか? A この家屋は、その居住の用に供されなくなった日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡されていないため、「3,000万円特別控除」の特例の適用を受けることはできない。 〈解説〉 この場合、相互に貸し合っていることから、自己が自己所有の家屋に居住しているものと同一視することはできない。 したがって、措法35①で規定されている法定期限内(その居住の用に供されなくなった日以後3年を経過する日の属する年の12月31日まで)の譲渡に該当しないこととなる。 (了)