2014年1月23日(木)AM10:30、Profession Journal No.53 が公開されました。 Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開してまいります。 Web情報誌 Profession Journalは、プロフェッションネットワークのプレミアム会員専用の閲覧サービスです。 Profession Journalについての詳細はこちら。 バックナンバー一覧はこちら。
日本の企業税制 【第3回】 「企業の公的負担」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 阿部 泰久 1 はじめに 法人実効税率の引下げが重要な課題となっている。 確かに法人税負担を比較する指標として、実効税率は明快である。 しかし、実効税率は法人の課税所得に課せられる法人所得課税の「表面税率」でしかない。 政策税制による減免だけでなく、企業会計上の当期利益(これは、国によって大きな違いはない)から課税所得を導くまでの「課税ベース」の計算方法が異なれば、実効税率だけを比べても意味はない。 〈法人実効税率の国際比較〉 (財務省資料より) また、法人の税負担は所得に対する課税だけではない。 固定資産税・都市計画税等の資産課税や、事業所税、不動産取得税、登録免許税など、企業活動に対して課される税金は多種多様である。 さらに「公的負担」全体を見るならば、社会保障負担(日本では社会保険料の事業主負担)は税金以上に重要である。 企業の負担を考える上で、これら多様な要素をすべて考慮に入れながら、望ましい姿を考えていくことが必要であることは言うまでもない。 2 税率か課税ベースか 法人税減税が議論される際には、必ず「課税ベースの拡大」と「税率の引下げ」がセットで論じられる。 そして、課税ベース拡大の最初に位置付けられるのが、政策税制の縮減である。 ただし正確には、政策税制のうち課税ベースに関わるのは、特別償却・割増償却等の減価償却制度の特例や、準備金等の期間損益の調整、益金不算入、所得控除等であり、税額控除制度は課税ベースとは関係のない、絶対的な減税である。 政策税制は、税率引下げと同様に法人税負担を軽減する確かな方法であり、業態などの事情によっては、税率以上に重要なこともある。現に、平成15年度改正で法人税減税が議論になった際には、税率引下げよりも政策税制の拡充が優先課題とされ、IT投資減税や人材投資減税が創設された経緯がある。 むしろ、日本経済の持続的成長を考えるのであれば、研究開発税制や各種投資減税、海外からの受取配当や使用料に対して優遇措置を講ずることで競争力を強化すべき方が望ましいケースもある。 仮に、これらを廃止して得た財源で税率を引き下げるならば、国際競争に直面する企業の税負担を増加させ、一方で、国際競争とは無縁の企業を優遇することにしかならない。 さらに、課税ベースについては、租税特別措置法で規定される政策税制以上に、法人税本法の減価償却制度や欠損金の扱いが重要であることは、平成23年度税制改正の経緯をみれば明らかであろう。 しかし、これらについては、23年度改正で可能な限りの見直しをしており、これ以上に深掘りすることには無理がある。 例えば、減価償却制度の定率償却割合の縮小や法定耐用年数の延長、欠損金の制限の拡大などは、多くの企業にとっては税率引下げによる減税を大きく上回る増税となりかねない。 経団連としては、もし課税ベースの拡大で得られる財源の範囲内のみで税率引下げを行う「税収中立」ならば、まったく無意味であると考える。 また、法人事業税の外形標準課税や法人住民税の均等割等、所得に対する課税以外の分野の拡大を財源とするならば、みかけの実効税率は下がっても、税負担自体の軽減とはならず、多くの欠損法人を窮地に追い込むことになりかねない。 3 企業の「公的負担」とは何か 当然のことながら、企業の税負担は法人税(法人所得課税減税)のみではない。 本来であれば、事業活動に関わるすべての税負担を考えることが必要である。 特に、わが国では固定資産税・都市計画税等の資産に対する課税のウエイトが大きく、先進諸外国ではまれな償却資産に対する課税さえなされている。 平成26年度与党税制改正大綱では、法人税減税の財源として法人税の課税ベース拡大と共に「他税目による増収」が明示されているが、法人税の減税分を、企業活動に関わる他の税目で補うのであれば、企業全体の税負担を軽減することにはならない。 さらに企業は、税金以外にも様々な「公的負担」を負っている。 その中で最も重要であるのは、社会保険料の事業主負担である。 かつて、財務省は法人所得課税と社会保険料の合計額を企業の「公的負担」として国際比較を行い、「日本は、法人実効税率は諸外国に比して高いが、公的負担全体としては、先進国の中で決して高くない」と主張していた。 確かに日本の「公的負担」は先進国の中ではアメリカ、イギリスよりは高く、ドイツ並みであり、フランスや北欧諸国に比べれば低いが、そもそも社会保障制度の水準の違いを無視して、負担の軽重を論じること自体が無意味である。 また、既に日本企業の社会保険料負担は法人税額を遥かに超え、将来に向けてさらに増大していく。早急に制度改正を行わないならば、仮に法人実効税率が10%ポイント引き下げられたとしても、その分は数年で、社会保険料負担の増大で覆ってしまうことになる。 〈企業の公的負担の国際比較〉 (経済産業省資料) 〇社会保険料(決算ベース)を含めた公的負担を企業利益に対するウエイトで比較 また、PwCが公表している「総合的財政貢献調査・平成22年度分」の結果によれば、回答企業41社の公的負担のうち、社会保険料事業主負担は39.4%であり、法人所得課税27.3%を大きく上回っている。また、固定資産税・都市計画税は17.3%に達している。 4 何が優先課題なのか―中長期展望を 平成26年度与党税制改正大綱は、「わが国経済の競争力の向上のために様々な対応を行う中で、法人実効税率を引き下げる環境を作り上げることも重要な課題である。」として、法人実効税率の引下げを具体的な課題として明示した。 また安倍政権は、かねてより成長戦略の実現のために法人税率引下げを重要視しており、経団連としても、これを平成27年度税制改正における最大のテーマとして臨んでいく。 しかし、税率10%ポイント分の引下げには約4兆円の財源を必要とし、税率引下げに向けた検討とは、すなわち減税財源の検討に他ならない。 繰り返すが、法人税の課税ベース拡大や、企業活動に関わる他の税目の増税でその大部分を賄うのでは、企業の税負担の軽減とはならない。 法人税減税が、経済を活性化させ、企業収益を拡大させることで税収が増大する「自然増収」は期待できるとしても、あらかじめ減税財源としてカウウントすることはできない。 であれば、段階的に税率を下げていくこと法定化した上で、法人税収が前期を下回る場合には、それ以上の引下げを停止する等の工夫も必要となる。 当然、法人税以外の税負担、とりわけ平成27年度改正が3年ごとの見直しの機会となる固定資産税等の軽減も、法人実効税率と同じくらいに重要である。 さらには、社会保険料負担を合わせた公的負担全体の適正な水準をどのように考えるのか。 何が真っ先に解決すべき優先課題であり、何がやや中長期を要するのかを見極めながら、現実的な対応を図り、企業の全体としての公的負担を引き下げていくことが最大の課題である。 (了)
まだある!消費税率引上げをめぐる実務のギモン 【第2回】 「前払費用の取扱いについて(その2)」 アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 (監修) 税理士 小嶋 敏夫(執筆) 第1回は、施行日を含む1年分の賃料を施行日前に支払った場合の取扱いについて確認したが、平成26年4月分以降の賃料については、新税率8%分を本体価格に上乗せして支払うことを前提条件とした。 今回は施行日を含む1年分の賃料を施行日前に支払った場合でも、その支払金額が全額旧税率で支払われるケースを取り上げて確認していくこととする。さらに、新旧税率差3%分につき施行日後に追加で支払った場合についても、併せて確認していくこととする。 【解 説】 以下のような処理が想定され、平成26年3月期において仕入税額控除を行うこととなる。 《平成26年3月期》 《平成27年3月期》 仕訳なし 仮に法人税において短期前払費用の特例の適用を受けない場合には、消費税においても当該特例の適用を受けることはできないため、以下のような処理となる。 《平成26年3月期》 《平成27年3月期》 (*1) 9,450,000 × (100/108) 上記のケースでは、貸主との賃貸借契約における賃料が税込金額のみの契約となっているため、施行日以後の賃料は貸付側による実質的な値引きとなっている。よって、施行日前までに、賃貸借契約書の賃料表示が税込のみの表示となっているか、または、本体価格プラス消費税の表記になっているかどうか、十分に確認する必要がある。 【解 説】 以下のような処理が想定される。 《平成26年3月期》 法人税については短期前払費用の特例を適用し、消費税についても短期前払費用の特例を適用し、平成26年1月分から12月分の全額について旧税率5%で仕入税額控除をする。 《平成27年3月期》 ○支払時(平成26年4月30日) ○決算時(平成27年3月31日) 前期において仕入税額控除の適用を受けた平成26年4月から12月分までの賃料に係る5%分の消費税について仕入れに係る対価の返還等を受けたものとした上で、当期において改めて8%の税率を適用して仕入税額控除をする。 (了)
平成25年分 確定申告実務の留意点 【第3回】 「住宅税制の要件・手続(まとめ)」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 所得税には、住宅に係る各種の特例が設けられている。その主なものは、居住用財産を譲渡又は買換え、交換した場合等に適用される譲渡所得の特例と、居住用財産を取得又は増改築等をした場合に適用できる特別控除の制度である。 以下に、平成25年分の所得税に適用される主な住宅税制について、その概要と適用要件等をまとめることとする。なお、特例毎に詳細な適用要件が規定されているが、一般的なケースに必要となる主な要件のみ列挙している。 また、東日本大震災により被害を受けた場合の取扱いについては、国税庁ホームページ「東日本大震災により被害を受けた場合等の税金の取扱いについて」をご参照いただきたい。 【1】 譲渡所得の特例 (1) 3,000万円の特別控除 ① 制度の概要 居住用財産を譲渡したときは、譲渡所得から最高3,000万円を控除することができる(措法35①)。この特例は、居住用財産の所有期間に関係なく適用できる。また、【1】(2)「長期譲渡所得の課税の特例(軽減税率)」との重複適用が可能である。 ② 適用要件 この特例を適用するには、次の要件を満たさなければならない(措法35①、措令23②、措令23の3①、措通35-2)。 ③ 適用手続 この特例を適用するには、確定申告をすることが必要である。 申告書には次の書類を添付する(措法35の2③)。 (2) 長期譲渡所得の課税の特例(軽減税率) ① 制度の概要 居住用財産を譲渡したときには、長期譲渡所得について適用される税率が次の通り軽減される(措法31の3①)。この特例は、【1】(1)「3,000万円の特別控除」と重複適用することができる。 〈居住用財産を売却した場合の軽減税率〉 ② 適用要件 この特例を適用するには、次の要件を満たさなければならない(措法31の3①、措令20の3①)。 ③ 適用手続 特例適用には確定申告をすることが必要である。 申告書には次の書類を添付する(措法31の3③、措規13の4)。 (3) 特定居住用財産の買換えの特例 ① 制度の概要 居住用財産を譲渡し別の居住用財産に買い換えた場合には、譲渡益に対する課税を、買換資産を譲渡するときまで繰り延べることができる(措法36の2①)。 この特例は、【2】(次ページ)で解説する「住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)」との併用が認められる。 ② 適用要件 この特例を適用するには、次の要件を満たさなければならない(措法36の2①、措令24の2①~④、⑥)。 ③ 適用手続 この特例を適用するには、確定申告をすることが必要である。 申告書には次の書類を添付する(措法36の2⑤⑦、措規18の4④⑤)。 (4) 譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例(買換資産がある場合) ① 制度の概要 居住用財産を譲渡し別の居住用財産に買い換えた場合で、譲渡した居住用財産について譲渡損失が生じているときは、その譲渡損失を他の所得と損益通算することができる。損益通算の結果、控除しきれない譲渡損失がある場合には、翌年以後3年にわたり繰越控除することができる(措法41の5①)。 この特例は、【2】(次ページ)で解説する「住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)」との併用が認められる。 ② 適用要件 この特例を適用するには、次の要件を満たさなければならない(措法41の5①④⑦、措令26の7③~⑥)。 ③ 繰越控除を適用することができない場合 ④ 適用手続 この特例を適用するには、確定申告をすることが必要である。 申告書には次の書類を添付する(措法41の5②、措規18の25①~③)。 (5) 譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例(借入金残高>譲渡価額の場合) ① 制度の概要 借入金の残っている居住用財産を借入金残高よりも低い価額で譲渡し、譲渡損失が生じたときは、その譲渡損失を他の所得と損益通算することができる。損益通算の結果、控除しきれない譲渡損失がある場合には、翌年以後3年にわたり繰越控除することができる(措法41の5の2①)。 譲渡損失のうち損益通算できるのは、譲渡契約日前日の借入金残高から譲渡価額を差し引いた金額が限度となる(措法41の5の2⑦一)。 この特例は、買換資産の有無にかかわらず適用することができる。また、買換資産がある場合には、【2】(次ページ)で解説する「住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)」との併用が認められる。 ② 適用要件 この特例を適用するには、次の要件を満たさなければならない(措法41の5の2①④⑦、措令26の7③~⑥)。 ③ 繰越控除を適用することができない場合 合計所得金額が3,000万円を超える年については、適用することができない。 ④ 適用手続 この特例を適用するには、確定申告をすることが必要である。 申告書には次の書類を添付する(措法41の5の2②、措規18の26①②)。 (次ページへつづく) (前ページへ戻る) 【2】 所得税額の特別控除 住宅を取得等した場合に適用できる所得税額の特別控除は、新たに住宅を取得した時だけでなく、既存の住宅に増改築等を行った場合も対象となる。 (1) 住宅を新築又は新築住宅を取得した場合 ① 制度の概要 ② 適用要件 この制度の適用を受けるためには、次の要件を満たす必要がある(措法41①、措令26①)③④)。 ③ 適用手続 適用初年度は、給与所得者であっても確定申告をする必要がある。 確定申告書には、次の書類を添付し、納税地の所轄税務署長に提出する(措法41(24)、措規18の21)。 (2) 中古住宅を取得した場合 ① 制度の概要 ② 適用要件 この制度の適用を受けるためには、次の要件を満たす必要がある(措法41①、措令26②~④)。 ③ 適用手続 基本的な手続及び添付書類は【2】(1)③と同じである。 取得した住宅が「一定の耐震基準に適合するもの」である場合には、要件に応じて次の書類も必要となる(措法41(24)、措規18の21)。 (3) 既存住宅を増改築した場合 ① 制度の概要 ② 適用要件 この制度の適用を受けるためには、次の要件を満たす必要がある(措法41①、措令26(27))。 ③ 適用手続 基本的な手続及び必要な書類は【2】(1)③と同じである。増築、改築以外の工事については、増改築等工事証明書等の添付も必要となる(措法41(24)、措規18の21)。 (4) 省エネ改修工事をした場合(【2】(3)の要件に該当する場合には(3)との選択適用) ① 制度の概要 ② 適用要件 この制度の適用を受けるためには、次の要件を満たす必要がある(措法41の3の2⑤⑥、措法41の19の3①二、③⑥)。 ③ 適用手続 基本的な手続及び必要な書類は【2】(1)③と同じである。増改築等工事証明書の添付が追加で必要となる。 また、借入金等を利用しない場合には、「(特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書」に代えて「住宅特定改修特別税額控除額の計算明細書」を添付する。 (5) バリアフリー改修工事をした場合(【2】(3)の要件に該当する場合には(3)との選択適用) ① 制度の概要 ② 適用要件 【2】(4)②と同じ。 ③ 適用手続 基本的な手続及び必要な書類も【2】(4)③と同じである。 適用要件に応じて介護保険の被保険者証の写しの添付が必要となることもある。 (6) 耐震改修工事をした場合(住宅借入金等特別控除の要件にも該当する場合には、重複適用可) ① 制度の概要 ② 適用要件 ③ 適用手続 適用のための手続及び必要な書類は、【2】(4)③と基本的に同じである。住宅耐震改修等証明書の添付が追加で必要となる(措法41の19の2②)。 また、「住宅特定改修特別税額控除額の計算明細書」に代えて「住宅耐震改修特別控除額の計算明細書」を添付する。 * * * 次回(最終回)は、金融所得課税を取り上げ、解説を行う予定である。 (了)
提出前に確認したい 「国外財産調書制度」のポイントQ&A 【第3回】 「対象となる国外財産の価額の算定」 公認会計士・税理士 前原 啓二 Q 国外財産調書の提出対象となる国外財産の価額とは、どのような金額ですか。 また、外国通貨で表示されている場合の円換算は、どのように行うのですか。 さらに、相続又は包括遺贈により取得した未分割の財産や共有財産については、どのように価額を計算するのですか。 A (1) 国外財産調書提出対象となる国外財産の価額とは 国外財産調書提出対象となるのは、国外財産の価額の合計額が5,000万円を超える場合である(調書法5①)。 ここでの「国外財産の価額」とは、その国外財産のその年の12月31日における時価又は時価に準ずるものとして定める価額である(調書令10④)。 「時価」とは、その年の12月31日における財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、専門家による鑑定評価額、金融商品取引所等の公表する同日の最終価格(同日の最終価格がない場合には、同日前の最終価格のうち同日に最も近い日の価額)などをいう(調書通5-7)。 「時価に準ずるものとして定める価額」とは、その年の12月31日における国外財産の見積価額である(調書施規12⑤)。「見積価額」とは、その年の12月31日における財産の現況に応じ、その財産の取得価額や売買実例価額などを基に、合理的な方法により算定した価額をいい(調書通5-7)、例えば、次のような価額である(調書施規12⑤)。 財産評価基本通達に相続税及び贈与税の課税価格計算の基礎となる各種財産の評価方法を定めているが、国外財産調書に記載する国外財産の価額についても、財産評価基本通達に定める方法により評価した価額として差し支えない(「国外財産調書の提出制度(FAQ)」Q20)。 (2) 国外財産の価額の円換算 国外財産の価額が外国通貨で表示される場合におけるその国外財産の価額の本邦通貨への換算は、その年の12月31日における為替相場により行うものとされる(調書令10⑤)。 具体的には、次のとおりである(調書通5-11)。 (3) 相続又は包括遺贈により取得した国外財産 相続又は包括遺贈により取得した国外財産について、国外財産調書を提出する場合において、その相続又は包括遺贈により取得した国外財産の全部又は一部が共同相続人又は包括遺贈者によってまだ分割されていないときは、その分割されていない国外財産については、各共同相続人又は包括受遺者が民法の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従ってその国外財産を取得したものとして、その価額を計算するものとする(調書令10⑥)。 (4) 共有財産の持分の価額 共有財産の持分の価額は、次のとおりとされる(調書通5-12)。 (了)
居住用財産の譲渡所得 3,000万円特別控除 [一問一答] 【第15問】 「居住期間が短期間である家屋の譲渡」 -居住用財産の範囲- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、10年ほど前に購入していた土地に、昨年2月に家屋を新築しその家族と共に入居しましたが、新築後間もない昨年4月に、交通事故にあって死亡しました。 Xの相続人である妻は、昨年9月にこの家屋と敷地を譲渡し、残された子供らと共に、妻の郷里に帰りました。 この場合、「3,000万円特別控除(措法35)」の特例を受けることができるでしょうか? A 「3,000万円特別控除」の特例の適用を受けることができる。 〈解説〉 Xの相続人である妻が所有者となってからの居住期間は短期間であるが、この家屋への入居目的が一時的なものとは認められず、また、特例の適用を受けるためのみの目的で入居したものとは認められない。 したがって、その家屋と土地は、Xの相続人である妻の居住用財産に該当する。 (了)
改正国税通則法、施行後1年を検証する ~税務調査は変わったか? 【後編】 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 4 留置きのケース 「留置き」とは、納税義務者から提出された帳簿書類その他の物件につき、税務署等の一定の場所に留め置くことである(関係通達2-1)。 国税庁等又は税関の当該職員は、国税の調査について必要があるときは、当該調査において提出された物件を留め置くことができる(通法74の7)。 従前においても、実際にこのようなことは行われていたのであるが、国税通則法の改正によって、物件の留置きが法律で定められたのである。また、「必要があるとき」については、最終的に、税務調査を担当している職員の判断によって決せられることになる。 ただし、事務運営指針では、次のような場合に物件の留置きの必要性を説明し、帳簿書類等を提出した者の理解と協力の下、その承諾を得て実施することとしている。 これらの内容は、従前から採られていた判断基準であり、上記の事務運営指針により文言化されたということで、これによって従来と取扱いが異なるということはない。しかしながら、判断基準が文言化されることによって、当該職員は、留置きを行う場合、慎重にならざるを得ないであろう。 国税庁等の職員は、物件を留め置く場合には、次の項目を記載した書面(以下「預り証」という)を作成し、これを、物件を提出した者に交付しなければならない(通令30の3①)。また、預り証には、交付手続として、帳簿書類を提出した者の署名・押印が求められる。 この手続も、これまでの税務調査で行われてきたことであるが、手続を法定化したがゆえに、納税者の理解と協力を得るために、従前以上の労力を要するものと思われる。 5 印紙税の調査に係る影響 税理士法において、印紙税の税務代理は認められていないので、他の税目の税務代理人となっている税理士に対して、税務職員は、印紙税については、説明する必要がないことになっている。したがって、印紙税に係る事前通知や調査結果の説明等については、納税義務者に対して行うことになる。 しかしながら、調査結果の説明等に際して、印紙税と他の税目を区分けして、納税義務者と税務代理人に対して説明するということは、現実的ではない。 税務当局の作成する「争点整理表」の中には、他の税目と並んで印紙税の事項(契約書に印紙が貼っていないなど)も記載されているのであるから、法律上はともかく、実際には納税義務者と税務代理人に説明されることになるのであろう。 6 調査終了後~申告是認・修正申告の勧奨・更正処分 税務調査の結果、更正決定等をすべきと認められない場合には、税務署長等は、その時点において更正決定等をすべきと認められない旨を書面で通知することになる(通法74の11①)。従来と異なり、納税義務者への通知は、法定化されたことにより徹底されている。これにより納税者は、当該税務調査の結果を明確に知ることができる。 従来は、この通知が徹底されていないことによって、いつ調査が終わったのかさえも不明なことがあった。なお、その後に「新たに得られた情報に照らして非違があると認めるとき」には、再度、調査が行われることがあることを明らかにしている(通法74の11⑥)。この点は、従前と同じである。 調査の結果、更正決定等をすべきと認められた場合には、税務署等の当該職員は、納税義務者に対し、調査の結果の内容を説明することになる。書面で、「争点整理表」を納税義務者に示し、それを説明することになるが、それらの準備等に多くの時間を要し、調査期間の長期化の原因にもなっている。 また、当該職員は、納税義務者に対して、修正申告等を勧奨することができる。ただ、その場合には、不服申立てをすることはできないが、更正の請求をすることができる旨の説明をするとともに、その旨を記載した書面を交付しなければならない(通法74の11③)。 従前は、更正の請求の期間制限が、法定申告期限から1年以内であったが、これが5年に延長されたことによって、更正の請求による税額等の是正も可能になったのである。 もちろん、争点整理表の項目について、双方の意見が異なり、対立した場合には、従前と同様に、税務署長等は、更正処分等を行うことになる。平成25年1月1日からすべての「不利益処分」について、「理由の附記」が必要となった(通法74の14)ことから、これらに要する時間等を考慮すると、従来の税務調査の否認傾向に変化が生じる可能性がある。 例えば、重加算税については、従来「理由附記」が求められていなかったが、それが求められることによって、重加算税の賦課決定処分の件数が減少するものと思われる。実際、税務調査の現場において、税務当局の重加算税の決裁(判断)に時間を要し、なかなか結論がなされないという話をしばしば耳にする。 おわりに 改正国税通則法によって、税務調査に関する多くの手続が法定化され、それが足枷となり、税務当局側の調査に要する時間が大幅に増加した。 前回紹介したように、税務調査の実地件数の大幅な減少が、その実態を明らかにしている。 また、税務調査の現場においては、新しい手続に戸惑いながら行われていることもあって、税務調査の質(職員のモチベーションも含めて)の低下が懸念されるという指摘もある。 しかしながら、これらの試行錯誤を経て、今後、新しい税務調査が整備されることを期待したい。 (連載了)
鵜野和夫の不動産税務講座 【連載10】 広大地の評価(2) 税理士・不動産鑑定士 鵜野 和夫 (一)広大地を適用すれば大幅の評価減 ―しかし、その適用には制限が 図表3(ア)(再掲) 図表3(イ)(再掲) (二)フローチャートを使って判定する 【参考資料3】広大地評価フローチャート(平成17年6月17日付資産評価企画官情報第1号「広大地の判定に当たり留意すべき事項」)(再掲) 【参考資料2】面積基準(平成17年6月17日付資産評価企画官情報第1号「広大地の判定に当たり留意すべき事項」)(再掲) 参考図1 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【27】 〔第5章〕法令用語 (その13) 税理士 長島 弘 10 期限や期日を示す表現 ① 「以前」と「前」、「以後」と「後」 前回、基準となる数値を含む場合には「以」の字を含むことを書いたが、これは期限や期日を示す場合も同様である。したがって、「以前」と「以後」は、ともにその基準となる日時を含む表現であるのに対し、「前」と「後」は、ともにその基準となる日時を含まない。 まず「以前」であるが、これは、その時間的関係は、基準時点より「前」であるが、その基準となる日時すなわち起算点を含む。 この点を所得税法第70条第1項から確認しよう。 この条文は、前年から起算して過去3年以内に生じていた純損失の金額を、所得控除できる旨定めている。 一方、青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越しとして、法人税法第57条第1項においては以下のように規定している。 この条文は、前事業年度から起算して過去9年以内に生じていた欠損金額を、損金に算入できる旨規定している。先に見た「以前」に対して、「前」は、基準日時を含まないのであるから、この条文では、「事業年度開始の日」を起算点としながら開始の日を含まないことになる。 したがって、事業年度開始の日を含まずに「開始の日前9年以内」に生じた欠損金額、すなわち、前事業年度末日から9年以内に生じた欠損金額ということになる。 次に「以後」の使用例を消費税法第37条第1項から見てみる。 この条文は、中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例として簡易課税制度を規定しているが、ここで消費税簡易課税制度選択届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間以後(「以後」であるから翌課税期間は含まれる)にその適用があるとしている。 次に「後」の使用例を所得税法第138条第3項から見てみる。 所得税法第138条第1項は、徴収税額等の控除不足額や損失の場合の源泉徴収税額等の還付を定めた規定であり、この第3項はその還付に際しての還付加算金の計算期間を定めたものである。 還付加算金の計算の起算点(計算の期間の初日は起算点の翌日)として、期限内申告の場合には確定申告の期日、期限後申告の場合にはその提出の日としている。そして計算の起算点はその翌日であるから、期限内申告の場合には確定申告の期日の翌日、期限後申告の場合にはその提出日の翌日ということになる。 ただし「同日後に納付された・・・」とあることから、この確定申告期日及び期限後申告の場合の提出日の後(「以後」であればその日を含むため「以後」ではなく「後」である)に納付された場合には、その納付日を起算点として、すなわち計算の期間の初日は、納付日の翌日ということになる。 なお「以降」という法令用語もあり、「以後」と同じ意味で用いられているが、税法関係ではほとんど使われていない。 (了)
設備投資減税を正しく活用して強い企業をつくる ~設備投資における管理会計のポイント~ 【第2回】 「「節税」と「課税の先送り」の違いを正しく理解する」 公認会計士・税理士 若松 弘之 第1回は、「節税」ありきの設備投資は本末転倒になるおそれがあることについて解説したが、そもそも「節税」とは何を意味するのであろうか。 今回は「節税」をきちんと定義することから始めてみたい。 〈その「節税」は「課税の先送り」ではないか?〉 一般的に「節税」とは、納税額が減少することを意味するが、厳密にいうと次の2つのパターンに分けられる。 第1回冒頭の会話にあった「減価償却の前倒し」をはじめとして、世の中の多くの「節税」が、②に該当する。 もちろん、現状十分な資金が手許になく、納税のために銀行借入れをしなければならないようなケースでは、とにかく目前の納税額を減らすことは意味のあることであろう。 しかしながら、長い期間を通して見れば、課税所得や支払うべき税額は基本的に同じになるのである(現在のように、復興特別法人税の廃止により将来の法定実効税率の引き下げが予定されている状況では僅かであるが、永久節税効果はある)。 では、①と②を整理して考えてみよう。 ①は、税務上、損金算入や益金不算入として課税所得を減らすことができ、その結果として納税額が減少したり、税額そのものから一定額を控除することができるものである。 しかも、これを適用できる要件や時期が限定されており、それが認められる間に税務処理しなければ、税務メリットを放棄したとして恩恵を受けられなくなるものである。 したがって、①については、適切に制度趣旨や要件を理解し、自らの企業にとって有利と判断された場合、適用すべきである。 一方、②については、複数期間にわたる課税所得への影響をきちんと理解しておく必要がある。 企業が外部にお金を払って購入した資産は、時期の差こそあれ、いずれは費用または損失となり、税務上は損金となる。 例えば、商品在庫であれば、出荷時点で全額が費用(損金)処理され、固定資産であれば、減価償却期間を通して全額が減価償却費として費用(損金)処理されることになる。 例えば、在庫が売れずに滞留したため会計上評価損を計上したり、固定資産が期待したほど収益に貢献せずに会計上減損損失を計上した時点では、すぐに税務上損金算入は認められないが、最終的な廃棄や売却により、取得価額の全額が、税務上も損金処理されることになる。 要するに、②で「節税」と言っているのは、費用(損金)処理を早め、なるべく納税を先送りするということである(下記【設例】参照)。 【設例】 ここで大事なことは、税率が同じであれば、期間を通して支払う税額は同じになるということである。 もちろん、税負担をなるべく先送りすることは、資金繰りにおいて優れた手法であり、それを合理的な税務戦略の一環として実施する分には何ら問題はない。 しかしながら、世の中では、必ずしもそうでないケースが散見されるため、注意が必要である。 〈節税目的の設備購入は本当に有利なのだろうか?〉 第1回で紹介した税制優遇措置は、その趣旨を十分に理解したうえで、事業目的に沿う形で適用するならば非常に有用といえる。ところが、第1回冒頭の会話のように、「とりあえず支払う税金を減らしたいから」という目的で設備投資が行われるならば、本末転倒になる。これを理解するために次の設例を参照していただきたい。 この設例は、本来不要の設備1,000万円を課税所得の圧縮目的で購入し、それを翌年度に700万円で中古下取りしてもらったという前提である(決算間際の高級外車の購入に置きかえてもいいであろう)。もちろん、中古下取額が700万円もつかない場合も多く、その場合、この不要の設備購入は資金繰りにさらに大きなダメージを与えることはいうまでもない。 非常に当たり前の話なのだが、特に必要ではない設備を1,000万円で購入し、仮にそれが700万円で売却できたとしても、2期通算してみると、結局キャッシュを300万円失ったにすぎないのである。失った300万円については実損失であるから、当然に税務で105万円(=300×35%)は損金として認められるが、それでも正味195万円を失ったことになる。 くれぐれも「当期の納税が350万円減る」という部分だけを見て、節税効果があると考えてはならないのである。 ここでの教訓は次の3点である。 * * * 次回は、企業の成長にとっての設備投資の重要性を考えながら、設備投資実務で見られる問題点を中心に解説していく。 (了)