酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第12回】 「内縁の妻は配偶者控除の適用を受けられるか?(その3)」 ~一夫多妻制における多数配偶者の配偶者控除~ 国士舘大学法学部教授・法学博士 酒井 克彦 1 裁判所の判断(結論) これまで検討したとおり、租税行政上の特段の問題はなく、また実質が形式を凌駕するという点からも、租税法において、内縁の妻を配偶者控除の対象としてもよいように思われるが、最終的に大阪地裁昭和36年9月19日判決は、次のように論じて、文理解釈の見地から内縁の妻に係る当時の扶養控除の適用において、その配偶者該当性を否定している。 判決は、このように原則論を論じた上で、次のように、「配偶者(届出をしないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む)」と規定する条文と、裸で「配偶者」と規定する条文があることを論じる。 このように、所得税法上の規定が「配偶者(届出をしないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む)」とせず、単に「配偶者」とのみ規定していることから、他の社会法と同様に配偶者の中に、内縁の妻を読み込むことはできないと論じるのである。 いかに説得的に配偶者に内縁の妻が含まれるべきであると述べても、結局は、文理を乗り越えられない限り、配偶者に内縁の妻を含めて解釈することはできないというのである。そして、このような考え方は、最高裁平成9年9月9日第三小法廷判決(訟月44巻6号1009頁)においても論じられ、現在の判例として定着しているのである。 そして、所得税基本通達もそのことを次のように明示している。 内縁の妻の問題は、今日の超高齢化社会においても大きな問題として伏在していると思われるが、担税力の配慮という面から立法論をも含めた再検証が図られるべきではなかろうか。 2 一夫多妻制と配偶者控除 さて、今日的問題の別の局面に、我が国居住者が、イスラム教国で認められる一夫多妻制の下で多数の配偶者を有する場合の配偶者控除適用の問題がある。 これは、配偶者控除の生計同一要件は本国への仕送りなどの事実によって確認することができる場合に、例えば、4人の配偶者を有するとすると、配偶者控除は38万円×4人分受けることができるか否かという問題である。 この問題は、前述のように借用概念の解釈で乗り越えられる問題であろうか。 少なくとも、民法を前提として配偶者概念を理解しようにも、民法はそもそも一夫一妻制を採用し、重婚を禁止しているのであるから、民法上、多数の配偶者の存在を観念することはできない。 そこで、解釈の糸口の1つを提示するものに、前述の所得税基本通達がある。 ここでは、法の適用に関する通則法に従うことを述べているが、同法によれば、当該外国に適法に成立した婚姻関係に従うということになるから(同法24)、配偶者控除の対象となる配偶者も4人まで認められることになる。 しかしながら、仮に配偶者が4人まで認められるとしても、所得税法76条は、配偶者控除として「控除対象配偶者を有していた場合に・・・38万円を控除する。」と規定している。 つまり、所得税法は、「控除対象配偶者を有している」か否かのみを問題としており、有している場合の控除額は38万円と固定されているのである(この点は扶養控除が、「1人につき38万円」を控除すると規定しているのとは異なる)。 このように、所得税法の規定は、控除対象配偶者の有無のみを対象とし、控除額を38万円に固定していることからすれば、たとえ控除対象配偶者が何人いても、その額は38万円の控除ということになるのである。 この点も、やはり文理解釈が支配しているというべきであろう。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例9(消費税)】 税理士 齋藤 和助 《事例の概要》 設立初年度である平成25年3月期の消費税につき、設立時の資本金が1,000万円未満であったため免税事業者であるにもかかわらず、期中増資により期末資本金が1,000万円以上となっていたため課税事業者と誤認し、提出期限までに「消費税課税事業者選択届出書」の提出を失念したことから、設立初年度の設備投資に係る消費税の還付を受けることができなかった。 これにより、還付不能となった消費税額560万円につき損害が発生し、賠償請求を受けた。 《賠償請求の経緯》 法人設立時の資本金は1万円であった。 設立関係の届出は前任税理士が行っており、その後税理士が業務を引き継いでいた。 期中増資により期末資本金は1,000万円を超えていた。 《基礎知識》 ◆基準期間がない法人の納税義務の免除の特例(消法12の2) その事業年度の基準期間がない法人のうち、当該事業年度開始の日における資本金の額又は出資の金額が1,000万円以上である法人(以下「新設法人」という。)については、当該新設法人の基準期間がない事業年度に含まれる各課税期間における課税資産の譲渡等については、納税義務は免除されない。 《税理士の落とし穴》 《税理士の責任》 税理士は、決算作業中に設立時の届出書類を確認してはじめてミスに気づいている。受任時に設立時の届出書類を確認し、期限までに「課税事業者選択届出書」を提出していれば、課税事業者となり、還付は受けられたことから、税理士に責任がある。 なお、課税事業者の選択には2年間の継続適用要件があるが、設立初年度中に増資し、期末において資本金額が1,000万円以上となっていることから、翌期は課税事業者になるため、損害は平成25年3月期のみである。 《予防策》 [ポイント①] 思い込みに注意する 本事例は新設法人の特例の判断基準が事業年度開始の日であるにもかかわらず、期末であるとの思い込みから生じたものである。 このようなミスをなくすためには、担当者だけでなく、所長又は有資格者等によるダブルチェック体制を構築することが必要である。 [ポイント②] 関与開始時に設立時の届出書類を確認する 本事例は設立初年度に税理士が変わるというレアケースであるが、新設法人のみならず、新規に法人に関与する場合には、次のような提出書類は、必ず控えのコピー(収受印等のあるもの)を入手して、「各種届出書類等」としてパーマネントファイル(永久保存ファイル)に保管しておくべきである。 消費税については、次のような届出書が提出されているかどうかを必ず確認し、提出されていれば、上記パーマネントファイルに保管し、新たに提出が必要な場合には、以下の《参考》ような「意思決定通知書」を入手したうえで提出するよう心がけたい。 《参考》 意思決定通知書の具体例 1 課税事業者の選択について ※クリックすると別ページでPDFファイルが開きます 2 簡易課税制度の選択について ※クリックすると別ページでPDFファイルが開きます (了)
居住用財産の譲渡所得 3,000万円特別控除 [一問一答] 【第12問】 「相続による取得後、居住の用に供したことがない家屋の譲渡」 -居住用財産の範囲- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、昨年3月に死亡した父親のA居住用物件を相続し、家族と共に暮らすB居住用物件から住民票をA物件に異動した後、A物件を居住の用に供することなく、本年11月に売却しました。 この場合、「3,000万円特別控除(措法35)」の特例を受けることができるでしょうか? A 「3,000万円特別控除」の特例の適用を受けることはできない。 〈解説〉 Xは、自己の所有となってから居住したという事実がないので、「特例」の適用を受けることはできない(措通31の3-2(居住用家屋の範囲))。 また、前回【問11】と同様に、居住の事実がないところを、特例を受ける目的のみで故意に住民票を異動するなどした場合には重加算税の対象となり得る可能性があることから、その判定にあたってはX及びその家族の日常生活の状況、住民票を異動した目的等について十分な聴取が必要であると考える。 (了)
〔しっかり身に付けたい!〕 はじめての相続税申告業務 【第12回】 「『上場株式』『公社債』『投資信託』の取扱い」 税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良 今回は相続財産のうち、上場株式、公社債、投資信託について学ぶこととする。 1 上場株式 上場株式を所有している場合、取引証券会社から、他界日を基準日とする残高証明書を入手し、所有株式数を把握する。 相続税申告においては、上場株式は、次のうち最も低い価額によって評価する(財産評価基本通達169)(*1)。 他界日の最終価格(*2) 他界日の属する月の毎月の最終価格の月平均額 他界日の属する月の前月の毎月の最終価格の月平均額 他界日の属する月の前々月の毎月の最終価格の月平均額 なお、上場株式の最終価格(月平均額)はインターネット(例えば、Yahoo!ファイナンス)で入手・算定可能であるが、(有償になるが)東京であれば東京税理士会データ通信協同組合が運営しているFAX情報提供サービスJustax Lineを利用すれば、より簡単に入手可能である。 上場株式の関連するものとして、配当期待権がある。 「配当期待権」とは、配当金交付の基準日の翌日から配当金交付の効力が発生する(具体的には株主総会の決議)日までにおける配当金を受けることができる権利をいう(財産評価基本通達168(7))。 配当金交付の効力発生日の翌日から配当金交付日までに他界した場合には、未収配当金となる。 配当期待権は、配当金交付額から源泉所得税の金額を控除した金額により評価する(財産評価基本通達193)。 なお、細かい点であるが、控除する源泉所得税の金額には、復興特別所得税も含まれる取扱いとなっている。 上場株式を所有している場合には、配当期待権、未収配当金がないか、留意をする必要がある。 2 公社債 上場株式を所有している場合、取引証券会社から、他界日を基準日とする残高証明書を入手し、所有公社債を把握する。 相続税申告においては、公社債は、以下のように評価を行う(財産評価基本通達197-2、197-3)。 なお、個人向国債は上記と異なる評価方法で評価するため、注意が必要である。 3 投資信託 投資信託(証券投資信託が多いと思われる)を所有している場合、取引証券会社から、他界日を基準日とする残高証明書を入手し、投資信託を把握する。 相続税申告上、証券投資信託は次のように評価を行う(財産評価基本通達199) なお、証券投資信託について、基準価額は残高証明書に記載されていることが多いが、記載されていない場合など不明なときには、証券会社へ問合せを行うなどして情報を入手する。 (了)
貸倒損失における税務上の取扱い 【第8回】 「子会社支援のための無償取引④」 公認会計士 佐藤 信祐 清水惣事件にかかわる第1審判決、控訴審判決の内容は、第6回、第7回で解説した通りである。 第8回目である本号においては、これらの判決の内容について分析を行い、無利息貸付けについての法人税法上の考え方について考察を行うこととする。 (3) 清水惣事件についての評釈 本事件において、武田昌輔教授は、 と述べられている。 すなわち、本事件の特徴として、法人税法第37条に規定する寄附金の解釈が問題となっただけでなく、無償による役務の提供としての収益の計上という法人税法第22条の解釈が問題となったという点が挙げられる。 具体的には、 としているため、実際に会計上はこのような仕訳が行われないものの、以下の仕訳が行われたと仮定して、法人税の課税所得の計算を行うことになる。 なお、控訴審判決においては、 としており、合理的な経済目的その他の事情があれば、無利息貸付けであっても課税対象にならない余地を残している。 この点につき、水野忠恒教授は、 としたうえで、 と批判されている。 この点につき、中村利雄教授は、 としており、条文構成上も、同意できる理論構成である。 これに対し、現在の法人税法においては、法人税基本通達9-4-2が定められ、合理的な再建計画がある場合には、寄附金として取り扱わず、損金の額に算入することができるとしているため、法人税法第22条に基づいて貸方において受取利息は認識するものの、借方においては寄附金とせずに、損金の額に算入するという処理になる。 しかしながら、水野忠恒教授は、 としている。 本評釈は、法人税基本通達9-4-2が定められる前の話であるが、寄附金の規定内容をこのように解するのであれば、現行法上、法人税基本通達9-4-2の適用はかなり特例的なものであり、限定的に解釈すべきであるということができる。 このように、清水惣事件は、法人税法第22条第2項に規定する「無償による役務の提供としての収益の計上」についての解釈が問題となった点で非常に重要な判決であるだけでなく、無償貸付けに伴う受取利息と寄附金の両建て計上や、合理的な経済目的がある場合における損金算入の余地等が議論されたという点で非常に重要な判決であると言える。 現在の法人税実務においては、無利息貸付けを行った場合には、貸方に受取利息を計上した上で、借方について、法人税基本通達9-4-2を適用することができるときは子会社支援損失として損金の額に算入することができ、本通達が適用できないときは寄附金として処理されるという整理になる。 どのような場面に法人税基本通達9-4-2を適用することができるのかという点については、本事件以降に創設される通達であるため、本事件のみで判断することはできないが、無利息貸付けにかかわる法人税法上の取扱いを概観するうえで、重要な判決であると言える。 次回以降においては、平成3年2月期から平成8年2月期までの事業年度において、低利貸付けを行った判例を分析することにより、子会社支援のための無償取引についての法人税法上の取扱いについて更なる分析を行うこととする。 ※本事件においては、適正な利率の算定根拠についても争われているが、低金利時代である現在とは時代背景が異なるため、本稿においては解説を割愛することとする。 ※大淵博義教授によると、「本判決は、法人税法22条2項の無償取引の規定について、旧法の法解釈上妥当と考えられているところを法文化したものと判示して、当該規定を確認規定と位置付けて昭和39事業年度についても、租税回避の有無とは無関係に利息収益を認識した。(『法人税法解釈の検証と実践的展開(大淵博義著、税務経理協会)』90頁)」としているが、この点については、法人税法第22条第2項の議論として、後ほど解説を行う予定である。 (了)
経理担当者のための ベーシック税務Q&A 【第10回】 「有価証券と税金」 ―受取配当等の益金不算入制度― 仰星税理士法人 公認会計士・税理士 草薙 信久 1 受取配当等が益金に算入されない理由 配当金は法人税等が課税された後の利益から株主に分配されるため、配当金支払法人の課税所得の計算上、損金とはなっていません。他方、支払いを受けた法人においてその受取配当金に対して法人税を課税すると、課税後の利益(すなわち、配当金)に対して二重に法人税等が課税されることになります。この二重課税を排除するために、受取配当等の益金不算入制度が設けられています。 2 益金不算入となる受取配当等 益金不算入となる受取配当等は、次のとおりです(法法23①③、24①②、法令19①)。 3 益金不算入とならない受取配当等 二重課税を排除する必要がないことや株主等の地位に基づかないこと等の理由から、次の受取配当等は益金不算入とはなりません。 4 益金不算入額の計算方法 (1) 完全子法人株式等に係る配当金 完全子法人株式等(注)に係る受取配当等の益金不算入額は、受取配当等の全額で、負債利子を控除する必要はありません(法法23④一、81の4①)。 (2) 関係法人株式等に係る配当金 関係法人株式等(注)に係る受取配当等の益金不算入額は、受取配当等の額から、当期において発生した負債利子の額のうち、関係法人株式等に係る部分の金額を控除した残額です(法法23④二)。 (3) 完全子法人株式等及び関係法人株式等のいずれにも該当しない株式等(一般株式等)に係る配当金 一般株式等に係る受取配当等の益金不算入額は、受取配当等の額から、当期において発生した負債利子の額のうち、一般株式等に係る部分の金額を控除した残額の50%相当額です(法法23④三)。 5 負債の利子(注)の額 負債利子の控除は、配当等の元本である株式等を一部負債で賄って取得しているとみなして、その負債利子を受取配当等に係るコストとして紐付けることにより、非課税所得(受取配当金)に係る費用を課税所得に係る収益から控除されてしまうのを防ぐために設けられています。 また、受取配当等の額から控除する負債利子の額は、原則として、配当に係る株式区分(関係法人株式等又は一般株式等の区分)ごとに総資産按分法によって計算しますが、平成22年4月1日に存在する会社に限り、基準年度の総資産按分法による実績に基づく簡便法により計算することができます。なお、原則法によるか、簡便法によるかは、事業年度毎に有利な方を選択することができます(法法23④、法令22①②⑤)。 6 益金不算入の適用を受けるための要件 法人税法における受取配当等の益金不算入制度は、「受取配当等の益金不算入に関する明細書(申告書別表八(一))」に一定の事項を記載するとともに、「所得の金額の計算に関する明細書(申告書別表四)」でその金額を減算した場合に限り、申告書に記載された金額を限度として益金不算入の適用を受けることができます(注)(旧法法23⑦、68③等)。 (了)
小説 『法人課税第三部門にて。』 【第23話】 「建設会社の税務調査(その2)」 ─ 検 証 ─ 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 (前回の続き) 「そうか・・・」 渕崎統括官は、田村上席の報告を静かに聞いている。 内藤建設の実施調査は、田村上席と山口調査官の2人で、3日間行われた。 渕崎統括官の横に置かれている小さなテーブルに、田村上席と山口調査官は、渕崎統括官と向かい合って座っている。 テーブルの上には、田村上席が作成した「検討事項一覧表」がある。 渕崎統括官は、その検討事項一覧表を見ながら、質問を続ける。 「例の・・・大手ゼネコンからの請負工事について、否認するのは無理なのですか?」 渕崎統括官は、田村上席の顔を見つめる。 「ええ、工事は途中で終わっているのですが・・・その経緯を明らかにする資料が会社にないので、ゼネコンに反面調査しょうかどうか迷っているのです。でも、工事担当者に聞くと、どうやら本当に中止になったようで・・・そこで、これ以上時間をかけるのもなんだと思って、そのままで・・・ただ、預かっている2億円については、ゼネコンに返すか否かを確認しなければ・・・」 田村上席が説明を続ける。 「結局、この件については、増差所得につながらないのでは、ということで、この検討事項一覧表には載せていません」 渕崎統括官は小さく頷く。 「ところで、倒産した外注先はどうなった?この一覧表には載っていないが・・・」 田村上席の横に座っている山口調査官が答える。 「ええ。外注先の所轄の税務署に問い合わせたところ、会社は実際に存在していたのですが、昨年から無申告の状態で、今は、その所在地には誰もいないということで・・・」 山口調査官は、申し訳なさそうに説明する。 「・・・しかし、そのほかの外注費の中に、個人で、実質、従業員と同様の待遇で働いている者が3人いまして、これらの者に支払っている外注費を給与として課税することを考えています」 そう言いながら山口調査官は、検討事項一覧表に記載されている数値を指差した。 検討事項一覧表の上段には、3期の事業年度が並び、その下に消費税の数値がそれぞれ示され、3期の合計額として2,865,600円が記載されている。 「給与として課税すれば、消費税では課税仕入れにならないということだね・・・もちろん、源泉所得税も徴収することになる」 渕崎統括官は、山口調査官の顔を見ながら、付け加える。 「ええ、そうなんですが・・・」 山口調査官は、歯切れの悪い返事をする。 「何かこの処理について、会社の方では納得していないのかい?」 渕崎統括官が尋ねる。 「会社は、雇用関係のある従業員ではなく、あくまでも外注先であると・・・工事を請け負うとき、工事現場で働く者は自社の従業員でなければならない・・・そうでなければ、その現場で働けないということになっていまして・・・」 「そうか・・・ところで、その外注先である個人の確定申告はどうなっているの?」 渕崎統括官は質問を続ける。 「所轄の税務署にそれぞれ問い合わせたところ、3人とも確定申告はしているのですが、そのうち1人は事業所得として申告せず、給与所得として申告しているのです」 「給与所得?」 渕崎統括官は、もう一度、尋ねる。 「ええ、しかし、たぶん・・・本人は何も考えずに申告しているのかもしれません・・・もちろん会社から本人に対して、給与所得の源泉徴収票は発行していません」 「そうか・・・それじゃあ、否認は難しいな・・・」 渕崎統括官の表情は、険しくなる。 「あの・・・監査役の賞与なんですけど・・・」 山口調査官は、渕崎統括官に50万円と記載されている数値を指差す。 「これは、監査役に対して3期で各50万円の賞与を出しているのですけど・・・会社は損金算入にしていたので、間違いなく否認できると思います」 山口調査官の声が大きくなる。 「会社は、なんで監査役の賞与を損金算入していたの?」 渕崎統括官が尋ねる。 「会社は、単に従業員に名前を借りただけだと・・・しかし、法律上、監査役になっているのですから、これは、損金不算入として処理せざるを得ない」 山口調査官は、渕崎統括官に対して、自信のある声で答える。 「そうだなあ・・・」 渕崎統括官は腕を組んでいる。 「そのほかは・・・?」 田村上席は、検討事項一覧表に記載されている数値の説明をする。 「あとは・・・弁護士に支払った報酬100万円の源泉徴収漏れ、金銭消費貸借契約書の印紙の貼り忘れ5万円・・・それと、期末に貯蔵品350万円の計上洩れが・・・」 「貯蔵品の計上洩れ?」 渕崎統括官は、しばしの間、思案顔になる。 「・・・それについては、とりあえず、会社から計上漏れがあったという確認書をもらっておいた方がよいだろう。証拠力としてはあまり意味はないが・・・しかし、相手方に一筆『洩れがあった』と書かせると、心理的に後で反対のことは言い難いだろう」 渕崎統括官は自分を納得させるように、田村上席に伝える。 「これを会社に示して、最終の増差所得がいくらになるのかわかりませんが、とにかく会社から修正申告書を提出してもらうようにします」 田村上席は検討一覧表を見ながら、渕崎統括官に言う。 「そうだな・・・会社にこれを見せて、納得させて、修正申告書を提出してもらったらいいだろう。その意味では、君の説得力が増差所得金額を決めることになるね」 渕崎統括官はそう言って笑った。 「はい・・・しかし、修正申告書を提出してもらっても、納税者に対しては更正の請求ができる旨をわざわざ伝えなければなりません」 田村上席が不満そうに言う。 「新しい国税通則法74条の11の3項では、ご丁寧に、その説明と書面の交付を要求しているからね・・・それは、仕方がない・・・」 渕崎統括官の言葉に、田村上席は、苦笑いを浮かべた。 (連載了)
林總の 管理会計[超]入門講座 【第17回】 「発生源まで遡る原価管理」 公認会計士 林 總 製品原価の「元の状態」とは何か 「5つの目的」を満たす原価計算システム (了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第13回】 コーナン商事株式会社・ 「取締役の不適切な行為に関する 第三者委員会調査報告書」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【概要】 【コーナン商事株式会社の概要】 コーナン商事株式会社(以下「コーナン商事」と略称)は1978年設立。大阪をはじめ西日本を中心にホームセンター278店舗を展開する(売上高では業界第4位)。売上高271,868百万円、経常利益14,300百万円。社員2,600名、パートタイマー6,854名(いずれも2013年2月期)。東証・大証1部上場。 【報告書のポイント】 1 調査結果により判明した事実 (1) 取締役による不適切な行為が発覚した経緯 平成25年9月、外部者から、コーナン商事取締役について、仕入取引先からの不適正な資金の受領の有無、コーナン商事と同取締役の関連当事者との取引開始の経緯等について照会がなされ、社内調査委員会による調査を行っていたところ、新聞報道がされたため、10月11日急遽、コーナン商事代表取締役社長疋田耕造氏(以下「疋田社長」という)が記者会見を行い、取引に問題があったことを認めるとともに、第三者委員会による実態解明を明らかにした。 (2) 調査の対象となった事実関係 (3) 調査結果(その1:不適正な資金受領の有無について) コーナン商事と荒川取締役の親密取引先である中国企業との間では、以下のようなコーナン商事にとって経済的に不利な取引が行われていた。 これらの取引によりコーナン商事は明らかに損失を被っており、荒川取締役又は同氏に近い関係者が、これらの親密取引先からリベート等の経済的利益を取得していた可能性は極めて高い。 一方、荒川取締役名義の中国国内の預金口座(7口座)には平成25年9月末時点で1,352万元(2億1,600万円相当)の残高が存在し、これは海外取引先から受領したリベートであることが推認される。 (4) 調査結果(その2:荒川取締役ないし関連当事者とコーナン商事の取引開始等の経緯) 2 調査報告書の特徴 (1) 調査の進捗より先行する新聞報道 本件の特徴の一つに、第三者委員会設置発表前の段階で、新聞報道でコーナン商事の女性取締役に関する不明朗な取引が次々に明らかになり、第三者委員会はいわばその報道の真偽を検証する役割を負うことになってしまったという点がある。 結果的には、調査報告書は、女性取締役が推進した中国企業からの仕入は、自らがリベートを受け取るためであったことが推認されるとするなど、報道内容のほぼすべてを追認する形となっている。 女性取締役が受け取ったと「推認」された多額のリベートの存在や、代表取締役から女性取締役への多額の資金貸与と贈与の認定には、新聞報道をきっかけに内部調査手続に入っていたと思われる税務当局にとっては、結果として有利に働いたこととなる。 (2) 本件不祥事の本質 ワンマン経営の創業社長(84歳)が、中国出身の女性社員(50歳)を内縁の妻(調査報告書には「生計を一にしていた」という表現しかないが、内容から「内縁関係にあった」ことがうかがわれる)としていただけでなく、多額の金員を貸与して購入させた土地に会社から賃料を支払わせ、上海のマンションを買い与え、親族が経営する中国企業との取引で得たリベートを蓄財することを容認したうえ、取締役・上席執行役員に就任させて実権を与えてきた。 そうして権力を得た女性取締役に対して、他の取締役、監査役、社員は反論もできず、マスコミに情報を洩らすことによって、会社を守ろうとした者が存在したのではないか。その結果、女性取締役は辞任に追い込まれ、ワンマン社長もまた経営の第一線から退かざるを得ない状況が作出された。 もちろん経営者による不正であるから、内部統制は機能しないし、創業社長の行為に異議を唱えられるような取締役・監査役も存在しなかったのであろうが、一部上場企業としてはあまりにもお粗末な管理体制であったといわざるを得ない。 (3) 関係者の処分 11月13日付で、疋田社長は代表取締役社長を退いて取締役相談役に、荒川取締役は辞任した。また、疋田取締役相談役は月額報酬の100%減額を6ヶ月、それ以外の取締役については月額報酬の10%から50%減額を6ヶ月間とする処分を発表するとともに、監査役についても報酬の一部返上を申し出た。 なお、荒川元取締役に対しては「法的手続きを法律事務所に依頼する」と発表しているが、具体的に何を意味しているのかは不明である。 (4) 再発防止策 11月15日のリリースにおける再発防止策は次のとおりである。 本件は、不適切な取引を行ってきた取締役とこれを容認してきた(と思われる)創業社長を辞任させることが、最大の再発防止策となるはずである。ただ、こうした不適切な行為を止められなかった取締役・監査役の監視・牽制機能の強化、意識改革が必要であることは、調査報告書も指摘するとおりであり、社外取締役の招聘や顧問弁護士を内部通報の窓口とすることは、一定の効果を上げる可能性はある。 とはいえ、調査報告書で「上場企業のトップとして、コンプライアンスに対する十分な理解や意識が備わっているとは認められない」と酷評された前代表取締役社長を相談役とはいえ取締役に残した点については、後継社長が2代目であるだけになおさら、その影響力をどこまで排除できるのか、懸念が残るのではないだろうか。 (了)
退職金制度の作り方 【第4回】 (最終回) 「退職金制度の課題」 なりさわ社会保険労務士事務所 代表 特定社会保険労務士 成澤 紀美 退職金制度をこれから新たに設けようとする場合は、仕組みをどうするか、原資をどうやって積み立てておくかを考えていけばよいが、既にある制度を変えようとすると、相当の労力がかかる。 では、退職金制度の課題をどう捉え、今後どのように考えていくべきなのか。 本当に退職金制度は必要か?を考える必要がある 退職金制度を仕組化し長期間運用していくためには、多大な費用負担を伴うものであり、これが果たして社員へのインセンティブになっているかどうかを考えるべきである。 つまり、企業は「費用対効果」をどこまで期待しているのか、退職金制度があることの「効果」とは何かを今一度整理することが重要である。 退職金制度をどこまで人事管理面で活用するのか 企業からすれば、退職金制度は長期債務である。この長期債務の仕組みを作ってまで企業に引き止めたい人材はどのような人材かを考えるべきである。 優秀な人材を引き寄せ、定年まで活躍してもらうステージを準備するためには、業務の成果とどの程度まで連動させた仕組みとする必要があるのか、また、このような人材に対する処遇として適した退職金制度はどのようなものかを明確にする必要がある。 年功的要素は必要か そうはいいつつも、やはり長期間にわたり会社に帰属している社員は、何かしらの形で貢献していると考えることもできる。 年功制度も取り入れ全社員を「一律」に扱うことにより、自然に長期勤続を促す効果を図る必要はあるのかも併せて検討していくべきである。 社員の自立意識を育てるかどうか 従来からある確定給付型の退職金制度から、選択制も含めた確定拠出型の退職金制度へ転換をし、又は併用することにより、社員が自ら、自身の将来の年金を考え自立を促すことも必要とするかどうかを、企業風土や企業のあり方として考えるべきかどうかも問われている。 * * * 以上4回にわたり、退職金制度についてお伝えしてきた。 将来の見通しが立てにくい世の中となった昨今、退職金制度は、一度制度を用意したら後戻りできるものではないことを十分に認識した上で仕組化していくべきである。 制度を設ける目的・意味、制度の運用と原資の積立方法を、外部の専門機関の意見も交えながら検討をしていただきたい。 (連載了)