経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第7回】 退職給付会計④ 「確定拠出制度 (中小企業退職金共済制度)」 仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋 〈事例による解説〉 確定拠出年金に要拠出額500を掛金として拠出しています。 〈会計処理〉 〈会計処理の解説〉 確定給付型の場合、将来の金利の変動や年金資産の運用リスク等を会社が負担します。そのため、会社が拠出した掛金以外でも将来、負担が増加する可能性があります。その負担の増加を認識するために「退職給付引当金」を計上する必要があります。 他方、確定拠出型は、会社が制度に対して拠出した掛金が従業員の個人ごとに明確に区分され、従業員個人が自己責任により運用指示を行い、掛金と運用成績により、将来の退職給付の額が決まる制度です。 そのため、確定拠出型の場合、将来の金利の変動や年金資産の運用リスク等は会社が負担せず、従業員が負担することになります。つまり、会社の負担は掛金の拠出額のみとなります。 したがって、会計処理は、当期に負担する要拠出額を費用処理するのみとなります(退職給付に係る会計基準の設定に関する意見書三3(2))。なお、要拠出額のうち、当期において未払いがある場合には、その分を未払金として計上することになります。 また、従業員に退職金等を支払っても、会社が負担する費用は掛金のみであるため、会計処理は不要です。 なお、確定拠出年金と似たような制度として、「中小企業退職金共済制度」というものがあります。これも会社は掛金のみを拠出するだけで、追加で拠出が求められるわけではありませんので、確定拠出年金と同様に、要拠出額を費用処理するのみとなります。 (了) ※6月はリース会計を取り上げます。
-お知らせ- 適用指針等を織り込んだ最新版の『税効果会計を学ぶ』が好評連載中です。 税効果会計を学ぶ 【第10回】 「取締役会等の承認を得た経営計画等 及び会社分類(例示区分)の見直し」 公認会計士 阿部 光成 今回は、「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」(監査委員会報告第66号。以下「監査委員会報告第66号」という)を適用する際の留意点について解説を行う。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ 取締役会等の承認を得た経営計画等 1 経営計画等 監査委員会報告第66号は、収益力に基づく課税所得の十分性を根拠に繰延税金資産を計上する場合は、会社によって将来の業績予測が作成されていなければならないと規定している(監査委員会報告第66号5(3))。 将来の業績予測は、事業計画や経営計画又は予算編成の一部等その呼称にかかわらず、原則として、取締役会や常務会等(以下「取締役会等」という)の承認を得たものであることが必要であるとされている。 ただし、取締役会等の承認を得た経営計画等だからといって、ただちにそれが収益力に基づく課税所得の十分性の根拠となるわけではないことに注意が必要である。 例えば、従来、損失を計上していた会社において、社員に奮起を促すために、高い利益目標を掲げ、右肩上がりの経営計画等を策定することが考えられる。経営者としては高い利益目標を掲げ、社員に奮起を促すこと自体はおかしなことではない。 しかしながら、当該経営計画等が、過年度の実績のトレンドと比較して乖離しており、あまりにも楽観的である場合には、よほど積極的な根拠が示されない限り、その実現可能性に問題があるものと思われる。 取締役会等の承認を得た経営計画等であったとしても、その実現可能性を考慮し、一定のストレスをかけるなどをして、繰延税金資産の回収可能性を判断する際の収益力に基づく課税所得の十分性に用いることが考えられる。 監査委員会報告第66号でも、取締役会等の承認を得たものであっても、会社の現状の収益力等を勘案し、明らかに合理性を欠く業績予測であると認められる場合には、適宜その修正を行った上で課税所得を見積もる必要があることに留意すると規定している(監査委員会報告第66号5(3))。 2 経営計画等の見直し 前述のとおり、収益力に基づく課税所得の十分性を検討する際には、取締役会等の承認を得た経営計画等がポイントとなる。 年度決算においては、第3四半期までの実績が明らかになっているので、そのトレンドも踏まえ、従来の経営計画等と実績についての分析を行い、従来のトレンドが今後も継続するかどうか、また、経営計画等と実績との乖離が大きい場合には、その理由はどのようなものかなどを調査し、必要に応じて、新たな経営計画等に反映し、取締役会等の承認を得ることになると考えられる。 3 5年以内のより短い期間 将来の課税所得の合理的な見積可能期間(おおむね5年)は、個々の会社の業績予測期間、業績予測能力、会社の置かれている経営環境等を勘案した結果、5年以内のより短い期間となる場合がある。 その場合には、この短い期間を合理的な見積可能期間とする必要があることに留意する(監査委員会報告第66号5(3))。 Ⅱ 会社分類(例示区分)の見直し 繰延税金資産の回収可能性の検討に当たっては、第3四半期までの実績及び今後の経営計画等を慎重に検討の上、会社分類等の妥当性について検討を行うことが考えられる。 会社分類(例示区分)の判断に際しては、以下の点に留意することが必要と考えられる。 1 会社分類(例示区分)①について 会社分類(例示区分)①の会社等とは、「期末における将来減算一時差異を十分に上回る課税所得を毎期計上している会社等」である。 ここでは、将来減算一時差異を十分に上回る課税所得が毎期計上されていることが必要である。単に課税所得が将来減算一時差異を上回っているだけでなく、「十分に」上回る課税所得が毎期計上されていること、という点に注意が必要である。 2 会社分類(例示区分)②について 会社分類(例示区分)②の会社等とは、「業績は安定しているが、期末における将来減算一時差異を十分に上回るほどの課税所得がない会社等」である。 監査委員会報告第66号では、過去の業績が安定している会社等を、「当期及び過去(おおむね3年以上)連続してある程度の経常的な利益を計上しているような会社」と規定している。 「過去の業績が安定しているかどうか」については判断が必要になると解されるが、会社によっては、わずかな利益額であるものの、トレンドとしては安定的であるケースも考えられる。 監査委員会報告第66号は、将来年度の会社の収益力を客観的に判断することは実務上困難な場合が多いことから、会社の過去の業績等の状況を主たる判断基準として、将来年度の課税所得の見積額による繰延税金資産の回収可能性を判断する場合の指針を示している(監査委員会報告第66号5)。 繰延税金資産の回収可能性は将来年度の会社の収益力に依存するものであり、会社の基礎収益力等を的確に把握することがポイントと解される。 このため、単に利益額が安定しているかどうかをもって安易に会社分類(例示区分)②に該当すると判断するのではなく、「当期及び過去(おおむね3年以上)連続してある程度の経常的な利益を計上している」ことについて適切に判断する必要があると考えられる。 3 会社分類(例示区分)④但書について 会社分類(例示区分)④の会社等とは、「重要な税務上の繰越欠損金が存在する会社等」をいう。 監査委員会報告第66号では、会社分類(例示区分)④の但書において、「例えば、事業のリストラクチャリングや法令等の改正などによる非経常的な特別の原因により発生したものであり、それを除けば課税所得を毎期計上している会社の場合には、将来の合理的な見積可能期間(おおむね5年)内の課税所得の見積額を限度」として繰延税金資産は回収可能性があると判断できると規定されている。 「非経常的な特別原因」とは、リストラクチャリングや法令等の改正などが想定されているので、通常の事業活動を行っているときに潜在的に常時存在する事象、すなわち、景気の悪化、株価の下落、取引先の破綻のみでは非経常的な特別の原因には該当しないと解される。 (了)
残業代の適正な計算方法 【第4回】 「残業単価の考え方」 社会保険労務士 井下 英誉 1 はじめに 本連載の第1回で、下記のように、残業代を正しく計算するためには「残業時間」と「残業単価」を正しく算出しなければならないことをお伝えした。 そのうち、「残業時間」の算出については、第1回から第3回までで取り上げたので、今回は「残業単価」について解説する。 2 残業単価の算定基礎賃金 残業単価(残業1時間当たりの時間外割増単価)は、「時間単価×割増率」で算出されるが、まずは時間単価を算出する際に、何を算定基礎賃金に含めるかを正しく理解する必要がある。 この算定基礎賃金については労働基準法による規制があり、使用者の裁量で残業単価を決定することはできない。 具体的には、算定基礎賃金から除外できるのは、以下の賃金だけである。 しかし、手当の名称が上記に該当していても、下表のとおり、その性格によっては算定基礎賃金から除外できない場合があるので、注意が必要である。 3 時間単価の算出方法 算定基礎賃金を正しく把握できたら、次に「時間単価」を算出することになる。 時間給のように賃金が時間で決まっている場合は、そのままの金額が時間単価となるが、賃金の支払形態ごとに、以下のとおり算出方法が異なる。 ① 日給の場合 日給額を1日の所定労働時間で除して、時間単価を計算する。 ② 月給の場合 月給額を月の所定労働時間数(月によって異なる場合は、1年間における月平均所定労働時間数)で除して、時間単価を計算する。 ③ 週給の場合 週給額÷週所定労働時間数(週によって所定労働時間数が異なる場合は、「週給額÷4週間における1週平均所定労働時間数」) ④ 請負給の場合(出来高払制その他請負制による場合) 賃金算定期間(賃金締切日がある場合には賃金締切期間)における賃金総額÷賃金算定期間における総労働時間数 4 割増率の考え方 正しい残業単価を算出するためには、「割増率」の理解も重要である。 労働基準法では、法定労働時間を超えて労働させた場合(変形労働時間制の場合は第3回で解説した時間外労働に該当した場合)には、2割5分増の割増賃金を支払うことが義務付けられている。 ここでは、上記の時間単価の算出方法で解説した月給の場合の例を再度取り上げて、割増率と残業単価の関係を解説する。 なお、平成22年4月1日付の労働基準法の改正により、中小事業主(下表参照)を除いて、1ヶ月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率は、5割以上とすることが義務付けられている。 《猶予される中小事業主》 (了)
〔時系列でみる〕 出産・子を養育する社員への 対応と運営のヒント 【第4回】 「産後8週間経過後の対応(1)」 ―育児休業・保険給付― 社会保険労務士 佐藤 信 1 はじめに 今回は、子が生まれた後の育児休業や休業中の保険給付について触れる。 現在の育児休業の動向について見てみると、取得率は以下の通りである(参考「平成23年度雇用均等基本調査」より)。 男女共に取得率は上昇しているが、男性については過去最高を記録したものの依然として低い状況が続いている。 当連載の第1回冒頭に触れた通り、今後の人材確保や優秀な人材活用のための経営戦略の一環として、仕事と家庭の両立支援策に取り組んでいきたい。 会社の規模・事業の種類によっては、事業運営や代替要員の確保等の面で育児休業の取得率を高めていくことが困難であることも十分に考えられるが、両立支援策として会社が講ずべきものには「育児休業」だけではなく、次回掲載予定の「短時間勤務」や「時差出勤」、「時間外労働の制限」「深夜業の制限」など複数のものがある。 法律上、会社に義務付けられているものについて従業員から申出があったときに拒むことはできないが、会社の現状について理解を得て、導入可能なものから取り入れていくことも両立支援に向けての第一歩といえるであろう。 2 育児休業 (1) 育児休業期間 育児・介護休業法に定められた育児休業期間は、次の通りである。 (2) 取得手続 原則として1ヶ月前(1歳から1歳6ヶ月までの育児休業については、2週間前)までに、書面等により事業主に申し出る。 (3) 労使協定による育休対象労働者の制限 会社は、原則として育児休業の申出を拒むことができないが、労使協定を締結しているときは、次のいずれかに該当する従業員からの育休申出を拒むことができる。 2 育児休業中の給付(雇用保険) (1) 要件 育児・介護休業法における育児休業中は、雇用保険より「育児休業給付金」が支給される。 要件として、休業開始前の被保険者期間の長さや休業中の賃金支払い状況等が問われる。 (2) 支給額 原則として、育児休業開始前の賃金月額の50%が支給される。 休業中に賃金を受けているときは、給付の減額が行われることにも注意を要する。 減額は、休業開始時の賃金と休業中の賃金を比較し、次のように行われる。 3 育児休業中の保険料 育児・介護休業法による満3歳未満の子を養育するための育児休業期間は、健康保険・厚生年金保険の保険料が免除される(被保険者分及び事業主分のいずれも徴収なし)。 なお、女性の場合の「育児休業期間」とは、労働基準法により就業制限される産後8週間経過後のことを指す。 従来、産前6週間及び産後8週間の休業期間の保険料は免除されていなかったが、法改正により、平成26年4月からは育児休業期間中と同様に免除の対象となる。 雇用保険料については賃金額に一定の保険料率を乗じて算定することとなるため、休業中に賃金の支払いがなければ保険料の徴収は行われず、賃金の支払いがあるときはその賃金額に応じた保険料が徴収されることとなる。 4 不利益変更の禁止 妊娠や出産、育児休業等を理由にした不利益な取扱いは禁止されているため、申出があったときの対応には注意を要する。 第2回でも触れたが、不利益な取扱いの例としては、次のようなものがある。 5 おわりに 会社規模によっては従業員数等の問題から、育児休業の申出には応じにくい会社もあると思われるが、まずは会社側が制度を理解し、従業員の理解を得て、可能なもの(例:育児休業ではなく、短時間勤務等により一部を働いてもらう等)から実施していくこと、育児休業対象者以外の周囲の従業員の協力を得られるような制度(例:社内体制の変更のほか、育休サポートにより負荷が増す期間中の給与加算といった待遇面での変更もその一つといえる)を検討していくとよいであろう。 次回は、短時間勤務制度など仕事と育児を両立する従業員に対し、会社が実施する事項について触れる。 (了)
民法改正(中間試案) ─ここが気になる!─ 【第2回】 「保証人保護(2)」 弁護士 中西 和幸 1 個人保証を有効とする場合の保証人の保護 前回に説明した個人保証の制限については、導入されるかどうか、まだ不明である。しかし、過去の保証人トラブルの原因においては、主債務者が保証人に虚偽の説明をしたり、保証人が保証債務について誤解をしていることがあったり、また、主債務の状況を知らずに保証人となって想像以上の過大な保証債務を負うことなどがよく見られた。 そこで、保証人が保証債務を負うにあたって保証制度やそのリスクを正確に理解できるよう、債権者に説明義務及び情報提供義務を課すことが検討されている。 2 説明義務について (1) 契約前の説明義務 本改正案における説明義務は、事業者である債権者が個人を保証人とする保証契約を締結しようとする場合に、 を説明しなければならないとされる。そして、これを怠った場合、保証人が保証契約を取り消すことができるという考え方を取り上げている。 このうち、ア~ウについては、説明義務を課しても問題にはならないであろう。むしろ、債務者が融資を受けたいあまり保証人に対して虚偽あるいは誤解を招くような説明を行っている可能性があることから、債権者自らが正確に説明する必要がある事項といえよう。 これに対し、エについては、債権者が知らない事情があることや、債務者の企業秘密が含まれれば、これが拡散することで債務者が信用を喪失する可能性があるという問題が含まれている。しかし、そもそも、債務者の信用が悪化しているからこそ融資を受けるためには保証人が必要であるし、自らの信用状況を保証人に秘している一方、主債務者は融資を受けられたということが果たして公正・公平といえるかどうか疑問である。 また、保証人としては、債務者の信用状況を知ってこそ保証債務の額や条件等を正確に検討できるのであるし、そもそも、過去には、保証人が債務者の信用状況を正確に理解していなかったり虚偽の事実を告げられていたことが保証人トラブルの原因ともなっていたことからすると、信用状況の説明義務はそれなりに合理的と考えられる。 もっとも、債務者の信用状況に関する具体的な内容についてはさらに検討が必要であるとして、[信用状況]とブラケットで囲まれているので、その内容次第で、この規定の実効性が左右されることになろう。 (2) 契約後の情報提供義務 事業者である債権者が、個人を保証人とする保証契約を締結した場合には、保証人に対し、 とされている。 これらは、いずれも、契約後に保証人が自らの負担を最小限にできるよう、アは保証人が債権者に照会をした場合の情報提供義務であり、イは保証人からの照会を待つまでもなく債権者が行う、保証人が債務を履行するか否かを選択する必要がある旨の情報提供である。 これらの情報提供は、保証人が保証債務を履行しなければならない時期に速やかに履行することで、過剰な遅延損害金の負担を回避できるようにすることを主眼とするものである。そのため、債権者が違反した場合のペナルティは、義務を怠っている間に発生した遅延損害金について保証人に請求できない、というものである。 通常の債権回収時は元本すら満足に回収できないことが多いことからすると、このペナルティ自身は、債権者にとってさほど重いとは思われない。また、保証人にとっても、長期にわたり不履行が放置されていたという事情でもない限り、元本負担と比較するとあまりメリットを感じないのではなかろうか。 むしろ、この改正については、債務不履行に至る前に保証人が債務者の再起に向けたアドバイスや様々な協力をする契機となることが重要と考えられる。主債務者としては経済的苦境に陥った場合に保証人に正直に説明しにくいであろうし、また、保証人が主債務者の有形無形の援助をすることで主債務者が苦境を脱することもあり得ることから、主債務者と保証人の間を取り持つ意味でも、この契約後の情報提供義務は重要といえよう。すなわち、本条項の法的効果にはあまり意義を感じないが、主債務者と保証人の連携を密接にする契機となるという機能は評価に値するといえる。 3 その他の方策 (1) 裁判所による保証債務の減免 中間試案によれば、裁判所は、主たる債務の内容、保証契約の締結に至る経緯やその後の経過、保証期間、保証人の支払能力その他一切の事情を考慮して、保証債務の額を減免することができるようにすることについて引き続き検討するとされている。 これは、保証債務が親族関係や友人関係、取引上の関係等に基づいて行われる場合は保証自体を拒むことが容易でないことから、保証債務履行請求訴訟において、裁判所が保証人に支払いを求める判決を下す場合に、一定の金額を減免できるとするものである。 この裁判所による減免については、特段、金額等について定めがあるわけではなく、裁判所の裁量により決められるものである。 こうした裁判所による減免については、確かに保証人保護としては機能するであろう。しかし、債権者にとっては、裁判所の裁量ほど予測しにくいものはない。 実際、融資審査の際に、例えば、「通常であれば融資できないところ、この保証人の*****があることから、融資可能と判断する。」という意思決定を行うところ、「・・・融資可能と判断する。但し、保証人の債務が一定額に減免される可能性があることから、融資額は****円とする。」と、融資額を抑制する方向に働きかねない。 このように一定の融資額が算定できればよいが、予測不能であるとして、保証人を付けても債権者としては融資できない、という判断もあり得るところである。 このように、保証人を保護すればするほど、債権者が融資を行いにくくなるという相反関係があるので、その調整は容易ではないと思われる。 (2) 保証債務履行請求の制限 こちらは、(1)と異なり、裁判所が裁量により請求認容額を減額するのではない。そもそも、保証契約を締結した当時における保証債務の内容がその当時における保証人の財産・収入に照らして過大であったときは、債権者は原則として、保証人に対し、保証債務の[過大な部分の]履行を請求することができないものとして、債権者の権利行使を制限するものである。 この考え方は、保証人の資力に応じた保証債務額とすることが妥当である(比例原則)という考え方に基づくものである。しかし、「過大な部分」のみ請求ができないとするか、あるいは、保証債務全体の履行請求が認められないかについて議論がある状況である。 この点についても、裁判所による減免と同様、予測可能性がなく、債権者が融資に消極的となる要因となりそうである。 4 まとめ 貸金と保証人のトラブルについては古くから問題とされており、今回の民法改正において、個人保証そのものを禁止してしまおうという考え方と、個人による保証制度自身は存続させつつ保証人を一定の範囲で保護しようという考え方と二通り提示されているようである。民法改正案では、そのどちらが採用されるか現段階では不明である。 そもそも、保証人と主債務者の利益相反関係や、保証債務の非合理性、情誼性など、保証制度には元々トラブルの原因が潜んでいるといえよう。こうした民法改正が行われたとしても、果たして保証人のトラブルがなくなるかどうかというと、なくならないのではないかと思う。 また、個人による連帯保証を全く禁じてしまったり、事後に保証人を救済する仕組みを設けると、債権者としては債権保全が図れないから、また予測可能性に欠けるからということで、融資に消極的になりかねない。そうすると、事業者や住宅購入者などの資金需要者としては資金調達が容易でなくなってしまい、各種ビジネスにとってマイナスとなることも予想される。 どちらの制度を採用しても、プラスとマイナスがある、そんな改正が難しい制度が保証制度といえよう。 (了)
NPO法人 “AtoZ” 【第8回】 「NPO法人の税務③」 ~消費税~ 税理士 岩田 聡子 1 NPO法人と消費税 収益事業を行っていないNPO法人であっても、消費税は課税される。 消費税は、NPO法人が国内において事業として対価を得て行った資産の譲渡、資産の貸付け、役務の提供に対して課されるものであるため、非営利事業であっても、この要件に該当する場合には、NPO法人は、受け取る対価に対して消費税を預かり、これを国に納付しなければならない。 ただし、輸出取引等に該当する場合には、免税取引として消費税が免税に、非課税取引に該当する場合には、消費税が非課税になる(消法7①、6①)。 輸出取引等とは、本邦からの輸出として行われる資産の譲渡、貸付け等であり、非課税取引とは、土地の譲渡、貸付け、社会保険医療、介護サービスの提供、一定の社会福祉事業等である。 福祉を中心に活動するNPO法人にとっては、非課税取引に該当する事業も多いことと思われるが、例えば、介護サービスのうち、利用者の希望による特別な居室の提供や送迎等、非課税取引に該当しない事業もあるので注意が必要である。 また、NPO法人が受け取る寄附金、補助金等は、資産の譲渡、資産の貸付け、役務の提供に該当しないものであれば、課税取引には該当しないが、消費税の計算については、後述の特例計算が必要となる。 2 免税事業者 その課税期間の基準期間における課税売上高又は特定期間の課税売上高(給与支払額の合計額でも可能)が1,000万円以下の事業者は、免税事業者として、その課税期間の消費税が免除される(消法9①、9の2①③)。 基準期間とは、その事業年度の前々事業年度、特定期間とはその事業年度の前事業年度開始の日以後6ヶ月の期間をいう(消法2①十四、9の2②)。 設立して1年目に税務署へ相談に行った際には「消費税も申告しなくてよい」と言われても、事業を継続している間に課税売上が1,000万円を超えてしまうことがある。 当初免税事業者であっても、3年目以降は課税事業者になる可能性があることは常に念頭に置かなくてはならない。 気付かずに申告をしないでいると、最悪、課税事業者となった期間を5年間さかのぼって申告をしなければならないこともある。 法人税と同様、消費税も毎年、課税事業者に該当していないか、確認する必要がある。 3 原則課税・簡易課税 消費税は売上に対して預かった消費税から、仕入れに対して支払った消費税を差し引いて、差額を納付する。これが原則課税である。 この他、基準期間における課税売上高が5,000万円以下の事業者には、簡易課税制度を選択することが認められている。 簡易課税制度とは、課税売上に業種により定められたみなし仕入率(50%~90%)を乗じて計算した金額を預かった消費税額から差し引いて差額を納付する方法である(消法37①)。 基準期間における課税売上高が5,000万円以下の課税事業者は、消費税の計算方法について原則課税か簡易課税かを選択することができる。 4 国等に対する消費税の特例 原則課税で消費税を計算する場合、NPO法人は国等に対する消費税の特例により税額を計算しなければならないことがある。 つまり、NPO法人が「特定収入」を有する場合である。 特定収入とは、対価性のない(資産の譲渡等に該当しない)収入で、補助金、交付金、寄附金等がこれに該当する(消法60④、消令75①)。 特定収入を有し、かつ、特定収入割合※が5%を超える場合には、課税仕入れはすべて課税売上に対応するものではなく、消費税の課税対象ではない特定収入に対応するものもあるという考えに基づき、その特定収入に対応する部分は、課税売上から差し引く消費税から除外しようとするものである。 NPO法人の消費税の計算方法は、この特例によらなければならないことも多いと思うので、通常の原則課税で計算している場合には、この特例の適用はないのか、必ず確認することが必要である。 (了)
女性会計士の奮闘記 【第5話】 「お客様の“見えない要望”を汲み取る」 公認会計士・税理士 小長谷 敦子 ※名義株とは、株主としての名義を借りたもので、実質の所有者が別にいる株式のこと。 〈ワンポントアドバイス〉 お客様の信頼を勝ち取るためには、望んでおられることに一生懸命応えることが必要ですが、その要望を実現するための問題点を挙げ、きちんと説明しなければなりません。 さらに、お客様の言いたいことの「代弁者」になることも、信頼関係を築く近道です。 (了)
教育資金の一括贈与に係る 贈与税非課税措置について 【第1回】 「制度創設の背景と制度の概要」 ミレニア綜合会計事務所 代表税理士 甲田 義典 1 はじめに 平成25年3月1日付で国会に提出された平成25年度税制改正法案は、同年3月29日に可決成立し、同年4月1日付で施行されたところである。 本連載では、平成25年度税制改正で創設された「教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置」(以下「本制度」という)について、法令及び国税庁、文部科学省等にて公表されたQ&A等の情報に基づき、制度創設の背景、制度の概要、適用上の留意点について、全5回にわたり解説していく。 なお、本連載終了後、通達等新たな情報が公表された場合には、本誌の速報解説又は本連載の追補としてご案内する予定である。 2 制度創設の背景 本制度は、我が国の家計のうち、高齢者世代の保有するおよそ1,500兆円の金融資産のうち約6割の資産について、消費支出の高い子育て世代への移転を促進することにより、子育て世代を支援し、経済活性化に寄与することを期待するものとして創設された。 従来の税制では、扶養義務者相互間において教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち、通常必要と認められるものが贈与税の非課税とされるため、基本的には教育費として実際に支出した金額のみが贈与税の非課税対象とされていた(相法21の3①二)。 しかし、本制度創設により、上述の扶養義務者間で必要な都度支払われる教育費の贈与税の非課税の他に、本制度により扶養義務者かどうかを問わず、両親、祖父母等から子・孫への教育資金の贈与のうち1,500万円までは、贈与時に実際に教育費として支出されていなかったとしても、一定要件を満たせば将来の学費として非課税とすることが可能となった。 3 本制度の概要 本制度は、平成25年4月1日から平成27年12月31日までの間に、両親や祖父母等から子・孫に教育資金を一括贈与する場合には、その贈与を受けた子・孫ごとに1人当たり1,500万円(学校以外の学習塾などへの学費は500万円)を限度として贈与税が課税されない。 【図表1-1】 本制度のイメージ 出典:国税庁「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税に関するQ&A」(以下「国税庁QA」)P5 【図表1-2】 本制度の資金の流れと手続のイメージ 出典:同上 教育資金として一括贈与された資金は、金融機関で子・孫名義の教育資金口座を開設し管理することになる。そして、教育費の支払時に口座から資金を引き出した際には、その資金が教育費として使われたことを証明する領収証等を金融機関へ提出する必要がある。 なお、この教育資金口座は、子・孫が30歳に達する日に終了し、口座に使残しがあれば、贈与税が課税される。 口座を管理する各金融機関の手続の流れは、下記【図表1-3】のとおりである。 なお、本制度は、外国に所在する金融機関(日本の金融機関の海外支店を含む)では取り扱っていないため、留意が必要である(文部科学省「教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置について」(以下「文科省QA」)Q1-4)。 【図表1-3】 各金融機関の手続の流れ ① 信託銀行の場合 ② 銀行の場合 ③ 証券会社の場合 出典:「国税庁QA」P6 次回より、より詳細な本制度の内容について解説する。 (了)
国外財産調書に関する 通達の発遣について 税理士法人トーマツ パートナー 税理士 小林 正彦 1 はじめに 国税庁は、平成25年3月29日付け「内国税の適正な確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律(国外財産調書関係)の取扱いについて(法令解釈通達)」(以下「本通達」)を発遣した。 国外財産調書制度とは、平成24年度税制改正により導入された制度であり、各年の12月31日に5,000万円を超える国外財産を保有する居住者(非永住者を除く)に対して、翌年3月15日までに、保有する国外財産の内容を記載した報告書を所轄税務署長に提出することを義務付けるものであり、平成26年1月1日以降提出すべき調書から適用となる。 なお、本制度の詳細については、拙稿「「国外財産調書制度」の実務と留意点」(全8回)を参照いただきたい。 本稿では以下、本通達の内容のうち、留意すべき点を中心に解説する。 2 財産等の定義 (1) 対象となる「財産」の定義 「財産」とは「金銭に見積もることができる経済的価値のある全てのものをいう。」とされた。 (2) 「居住者」の判定時期 その年の12月31日の現況によることとされた。 3 所在の判定 (1) 保険金 「保険金」の所在判定については、内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律施行令(以下「送金等令」)10①により、相続税法に定めるところによることとされており、相続税法10①五に「保険金」が規定されている。 同規定によれば、その所在地は、「その保険の契約に係る保険会社等の本店又は主たる事務所(この法律の施行地に本店又は主たる事務所がない場合において、この法律の施行地に当該保険の契約に係る事務を行う営業所、事務所その他これらに準ずるものを有するときにあっては、当該営業所、事務所その他これらに準ずるもの・・・)の所在」とある。また、本通達は、「保険金」には「保険の契約に関する権利を含む。」としている(本通達5-5(1))。 以上から、日本に営業所のない外国の保険会社と保険契約を締結した場合の「保険の契約に関する権利」の所在地は国外になるが、その外国の保険会社が日本に営業所がある場合には、外国における営業所において締結した場合でも国外財産に該当しないことになる。 (2) ストックオプション (注)以下は平成25年改正前の送金等法令及び今回発遣の通達の取扱いであり、改正に伴う変更がありうる点に注意。 「株式を無償又は有利な価額で取得することができる権利」の所在については、送金等令10①により、相続税法に定めるところによるとされ、相続税法10①八の中に「社債若しくは株式、法人に対する出資又は政令で定める有価証券」とあり、その所在は「株式の発行法人の所在」によるとされている。 本通達では、「株式」に含まれるものとして、ストックオプションを例に挙げ、「12月31日が権利行使可能期間内に存しないものについては、国外財産調書への記載を要しないことに留意する。」とされた。 したがって、発行法人の所在が外国である、つまり本店又は主たる事務所が外国にある法人のストックオプションを保有する場合には、12月31日にストックオプションが権利行使期間内にあるものは「国外財産」として報告の対象となる。 なお、「その他これに類する権利」については、「株主となる権利、株式の割当てを受ける権利、株式無償交付期待権が含まれる。」とされた(本通達5-5(2))。 これらの権利は、その発行主体の法人が外国に本店又は主たる事務所を置く場合に「国外財産」となる。 (3) 信託に関する権利 信託財産については、相続税法10①九に集団投資信託又は法人課税信託に関する権利の所在についての定めがあり、その所在は、信託の引受けをした営業所、事務所等の所在地とされている。 集団投資信託は受益者に分配時に課税される信託であり、法人課税信託は受託者に発生時に法人税が課税される信託である。これらの他に、受益者に発生時に課税される信託がある。 内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律施行規則(以下「送金等規則」)12③によれば、送金等法適用上の「信託に関する権利」の意義については、上記相続税法の規定する財産を除くとされているところ、本通達において、具体的には「信託法第2条第7項《定義》に規定する「受益権」及び外国の法令上これと同様に取り扱われるものが該当する。」とされた(本通達5-6(3))。その多くは受益者に発生時課税される信託に分類されると考えられるが、そのような「信託に関する権利」の所在は、送金等規則12③により、「当該信託の引受けをした営業所、事務所その他これらに準ずるものの所在」により判定することとなる。 したがって、集団投資信託や法人課税信託と同様、受益者発生時課税信託についても引受けをした金融機関の営業所が外国にある場合、その信託の受益権は国外財産となる。 4 価額の算定 (1) 価額の意義 調書に記載する価額は、送金等法(内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律)に基づくものであり、実際に課税価格を算定する際には各税法による価額によらなければならない(本通達5-10)。課税価格を決定する時ほどの精緻さは要求されていないといえる。 国外財産の価額は、時価又は時価に準ずるものとして送金等規則12④に規定する「見積価額」によるが、時価とは、「不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立するものと認められる価額」をいい、その価額は、12月31日における専門家による鑑定評価額、金融商品取引所の公表する同日の最終価格(ない場合には同日に最も近い日の価額)などをいう。 見積価額とは、12月31日における財産の現況に応じ、その財産の取得価額や売買実例価額などを基に、合理的な方法により算定した価額をいうとされた(本通達5-7)。時価と取得価額が乖離している場合は、取得価額を記載するだけでは足りないことになる。 見積価額の計算上の減価償却費の計算は、一般用部分と事業用部分に分ける必要はない(本通達5-9)。 (2) 見積価額の例示 見積価額については、「例えば、次に掲げる方法により算定することができる。」とされている。 イ 土地、山林 ロ 建物 ハ 未上場有価証券、書画骨とう及び美術品、貴金属類 ニ ストックオプション(株式を無償又は有利な価額で取得することができる権利) その目的たる株式がその年の12月31日における取引所の公表する最終価格がないものである場合には、その年の12月31日における株式の見積価額から1株当たりの権利行使価額を控除した金額×株式数により計算した金額(本通達5-8(10))。 ホ 組合契約、匿名組合契約等の契約に基づく出資 12月31日の最も近い組合の計算書等に基づいて合理的に算出した価額(ただし、計算書等の送付がない場合には出資額によることとして差し支えない)。 ヘ 信託受益権 ト その他の財産 取得価額を基に取得後における価額の変動を合理的な方法によって見積もって算定した価額 (3) 邦貨換算 換算レートは調書提出義務者の取引金融機関が公表するその年の12月31日における最終の対顧客直物電信買相場による。同日に相場がない場合には、それ以前の最も近い日の相場による(本通達5-11)。 (4) 共有持分の定めのない場合 共有持分が定まっていない場合には、共有者の持分は等しいものと推定して按分した価額とする(本通達5-12)。 5 加算税の加重・軽減 (1) 国外財産に基因して生ずる所得の意義 「国外財産に基因して生ずる所得」に該当するかどうかは、加算税の加重及び軽減の要件となるため重要である。 通達は該当する所得の例として、以下の4つを挙げている(本通達6-1)。 一方、人的役務の提供に係る対価及び給与等の人的役務の提供に対する報酬については、株式を無償又は有利な価額で取得することができる権利その他これに類する権利の行使による経済的利益を除いて、国外財産に基因して生ずる所得に該当しないとされている(本通達6-2)。 6 実務上の留意点 実務において問題となるのは、土地や相場のない株式の見積価額の算定であろう。 しかし、課税価格そのものを報告するものではないため、実際に問題になるのは、評価の仕方によって合計金額が5,000万円超に届くかどうかが微妙な場合である。 そうした場合には、仮に5,000万円を超えなくても、そのままの金額で国外財産調書を提出しておくのも1つのリスク対策になるであろう。 (了)
分割の後に合併があった場合の 分割承継法人及び合併法人における 試験研究費の特別控除 日本税制研究所研究員 朝長 明日香 【問】 当社は、数年前よりA社及びB社の発行済株式の100%を有しています。 A社は、従来から2つの商品の研究開発事業を行ってきましたが、経営の効率化のため、平成24年8月1日に、当社との間で当社を分割承継法人とする適格分割を行い、P1商品の開発事業を当社に移転しました。 その後、平成25年10月1日に、A社とB社との間でB社を合併法人とする適格合併が行われ、A社は解散し、P2商品の開発事業がB社に移転されました。 当社及びB社においても、従来から、それぞれ独自に商品の研究開発事業を行っていましたが、当社及びB社がそれぞれ当期(平成25年4月1日から平成26年3月31日まで)に試験研究を行った場合の法人税額の特別控除の適用を受けるに当たって、A社から移転を受けた研究開発事業に係る試験研究費の額や売上調整年度の売上金額の取扱いが分かりませんので、ご教授下さい。 なお、いずれの法人も、事業年度は、毎年、4月1日から3月31日までとなっています。 【回答(要旨)】 分割承継法人や合併法人における増加型の比較試験研究費の額若しくは基準試験研究費の額、高水準型又は総額型の売上調整年度の売上金額の算定方法に関しては、いずれも分割法人や被合併法人の試験研究費の額又は売上金額を加味するという考え方が採られている。 本稿では、増加型の比較試験研究費の額を例にとって説明することとする。 貴社は、原則として、貴社の調整対象年度の試験研究費の額に、平成22年4月1日から平成24年7月31日までの期間のA社のP1商品及びP2商品の開発事業に係る試験研究費の額を加算して、比較試験研究費の額を計算することとなる。ただし、届出をすることにより、P1商品の開発事業に係る試験研究費の額のみを加算して計算することが可能である。 B社は、B社の調整対象年度の試験研究費の額に、平成22年4月1日から平成25年9月30日までの期間のA社のP1商品及びP2商品の開発事業に係る試験研究費の額を加算して、比較試験研究費の額を計算することとなる。 各法人の各事業年度における試験研究費の額を下図のとおりと仮定し、貴社及びB社における取扱いを具体的な数値を用いて述べることとする。 〈各法人の各事業年度における試験研究費の額〉 ※1 「基準日」とは、適用年度開始の日前3年以内に開始した事業年度のうち最も古い事業年度開始の日をいう。 ※2 690,000円のうち、分割の日の前日を事業年度終了の日とした場合にその事業年度に係るものとみなされる金額は、230,000円とする(計算方法に関しては、次の1(1)ⅱ注記を参照されたい)。 1 貴社(分割承継法人)における取扱い (1) 原則による場合 分割承継法人の基準日から適用年度開始の日の前日までの期間内に行われた分割に係るその分割承継法人の適用年度における比較試験研究費の額の計算の基礎となる試験研究費の額は、その基準日から分割の日の前日までの期間内の日を含む各事業年度(以下、1において「調整対象年度」という)については、その各調整対象年度ごとに次のⅰとⅱの金額を合計した金額をもって各調整対象年度に係る試験研究費の額とすることとされている(措令27の4⑫二)。 上記注書きからも分かるとおり、比較試験研究費の額の計算上加算することとなる分割法人の月別試験研究費の額は、原則として、移転事業に係るものとそれ以外のものとを区分せず計算することとされているため、貴社は、調整対象年度である平成23年3月期から平成25年3月期までの期間におけるA社のP1商品及びP2商品の開発事業に係る試験研究費の額の合計額を加算して適用年度の比較試験研究費の額とすることとなる。 (2) 特例による場合 分割法人が、納税地の所轄税務署長の認定を受けた合理的な方法によって各事業年度の試験研究費の額を移転事業に係るものと移転事業以外の事業に係るものに区分している場合において、分割法人及び分割承継法人のすべてがそれぞれの納税地の所轄税務署長に特例の適用を受ける旨の届出をしたときは、上記(1)ⅱにおける月別試験研究費の額の合計額は、分割法人の月別試験研究費の額のうち移転事業に係る金額(月別移転試験研究費の額)の合計額とすることとなる(措令27の4⑭二・⑮)。 このため、貴社が特例の適用を受ける場合には、平成23年3月期から平成25年3月期までの期間のA社の試験研究費の額のうち、移転を受けたP1商品の開発事業に係る金額のみを加算の対象とすることができることとなる。 本件のように、分割法人が移転事業の他にも研究開発業務を行っているような場合には、特例の適用を受ける方が有利となる。 なお、試験研究費の法人税額からの控除は、確定申告の時に行うこととなるが、上記の特例の認定の申請及び届出は、分割の日以後2月以内に行うこととされているため(措規20⑦・⑫)、この申請及び届出を失念することのないように、十分に注意する必要がある。 2 B社(合併法人)における取扱い 適用年度において行われた合併に係る合併法人(新設合併に係るものを除く)の適用年度における比較試験研究費の額の計算の基礎となる試験研究費の額は、その基準日から適用年度開始の日の前日までの期間内の日を含む各事業年度(以下、2において「調整対象年度」という)については、その各調整対象年度ごとに次のⅰとⅱの金額を合計した金額をもって各調整対象年度に係る試験研究費の額とすることとされている(措令27の4⑫一)。 このため、B社においても、平成23年3月期から平成25年3月期までの期間のA社のP1商品及びP2商品の開発事業に係る試験研究費の額の合計額を加算して適用年度の比較試験研究費の額を計算しなければならないこととなる。 3 まとめ 以上のように、貴社(分割承継法人)は、特例の適用を受けることにより、A社(分割法人)の移転事業に係る試験研究費の額のみを加算して比較試験研究費の額の計算をすることが可能となるが、現行の法令の規定上は、本件のように分割の後に合併を行うといったケースにはこのような特例は設けられておらず、B社(合併法人)は、既に分割承継法人に移転した事業に係る試験研究費の額についても、これを加算した金額で制度の適用可否の判定等を行わなければならないこととなっている。 合併法人は移転を受けていない事業に係る試験研究費の額までも加味して制度の適用の可否等を判断しなければならないこと、また、分割法人の過年度の試験研究費の額が分割承継法人及び合併法人において重複して計算の基礎とされることには、多分に疑問が残らざるを得ないが、現行の法令の規定においては、このような取扱いとなると解さざるを得ない。 なお、上記の取扱いは、適格分割や適格合併に限定されたものではなく、非適格分割や非適格合併であっても同様の取扱いをすることとなる。 (了)