〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載8〕 会社分割における 不動産取得税の非課税規定 税理士 岡野 訓 《1》 制度の概要 不動産取得税は不動産の取得に対し課税される税目であるが、形式的な所有権の移転等に対する不動産取得税は非課税とされている。 具体的には、相続や合併による不動産の取得のほか、一定の要件を満たす会社分割や現物出資による取得も非課税の対象とされている。 会社分割の場合には、次の要件を満たす必要がある。ただし、法人税法上の適格要件とは異なるものであり、仮に法人税法上の適格要件に該当しない場合であっても、不動産取得税が課されないこともあり得る。 《2》 会社分割による事業の譲渡 事業再生の場面で、不採算部門をスポンサー等に引き受けてもらうということがある。 このとき、単なる資産の売買とするのか、それとも事業ごとまとめて移転するのかによりスキームが異なり、後者の場合にはさらに事業譲渡、会社分割等の選択肢が考えられる。 仮に事業譲渡を選択した場合には、次のような課税関係が生じることになる。 これに対し、分社型による会社分割を行った場合には、次のような課税関係が生じる。 事業譲渡との相違点は、消費税と不動産取得税ということになる。登録免許税は、事業譲渡であっても会社分割であっても共に生じることになるが、税率は会社分割の方が若干低く設定されている。 《3》 主要な資産及び負債の移転とは 上記のように、会社分割を利用すれば、不動産取得税を免れることができる場合がある。《1》で示した要件に該当する必要があるわけだが、条文の解釈について、多少の混乱が見受けられる。 例えば、次のようなケースだ。 この事例は、1)分割承継法人株式以外の資産が交付されず、2)主要な資産の移転が行われ、3)分割後の事業継続と、4)従業者全員の引継ぎが行われているため、不動産取得税は非課税となるようにみえる。 ところが、ホテル事業に係る負債の移転が全く行われていないため、地方税法施行令37条の14第1項1号にいう、「当該分割により分割事業に係る主要な資産及び負債が分割承継法人に移転していること。」という要件を満たしていないのではないかとの疑義が生じている。 つまり、主要な資産だけではなく、主要な負債をも分割承継法人に移転している必要があるとの見解である。 適格分割の要件を規定している法人税法2条12号の11ロにも、「当該分割により分割事業に係る主要な資産及び負債が当該分割承継法人に移転していること。」との規定がある。 不動産取得税の非課税要件と同様の規定であるが、この部分について、『コンメンタール法人税法』(第一法規)P621の11には、次のような解説がある。 すなわち、「分割事業に係る主要な資産及び負債の移転にあっては、少なくとも当該事業に属する生産設備や営業用設備等を引き継ぐ必要がある。」との解説である。 法人税法上は必ずしも主要な負債を移転させることを適格の要件とはしていないようである。 また、立法当時の『改正税法のすべて(平成13年版)』(大蔵財務協会)P549には、次のような解説がある。 立法当時の商法では、承継する会社の権利義務について、分割計画書もしくは分割契約書に記載した範囲内で行う旨の記載があるに止まり、必ずしも主要な負債の移転を会社分割の要件にするような規定は見当たらない。 また、「会社の分割に伴う労働契約の承継等に関する法律」に至っては、会社分割を機に、労働者の不当解雇や労働契約の不利益変更等が行われないように規制をする法律であるため、主要な負債の移転を求める規定が存在しないことは言うまでもない。 《4》 負債の移転は非課税措置の要件か 分割交付金が交付される分割については、分割法人又はその株主の分割承継法人に対する完全な支配関係が失われると考えられるので、非課税措置の対象から除外されている。 また、分割後の事業継続や、主要な資産及び負債の移転と従業者の引継ぎが非課税措置の要件として求められている理由は、分割事業が単なる名目的な移転でないことを認定するためのものであると考えられる。 すなわち、分割事業に係る主要な資産及び負債、従業員及び業務についても分割承継法人に移転されて営業活動が引き続き行われることを要件としているということである。 したがって、活動をしていない事業の移転や資産処分等による整理のためにする分割は、非課税措置の対象から除かれることになる。 〈事例〉の会社分割は、主要な資産の移転と従業者の引継ぎがされていることにより事業の実態が移転して、その後の事業継続に何ら支障はないのであるから、移転すべき『主要な負債』はなく、不動産取得税の非課税措置から除外する理由はないものと考えられる。 (了)
-お知らせ- 適用指針等を織り込んだ最新版の『税効果会計を学ぶ』が好評連載中です。 税効果会計を学ぶ 【第4回】 「適用する法定実効税率」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ 税効果会計で使用する税率 本稿では、税効果会計で使用する税率について解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 1 法定実効税率 「税効果会計に係る会計基準」第二、二、2は、繰延税金資産又は繰延税金負債の金額は、回収又は支払いが行われると見込まれる期の税率に基づいて計算すると規定している。 「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第10号。以下「個別税効果会計実務指針」という)は、税効果会計で使用する税率を「法定実効税率」と呼び、次のように算定すると規定している(個別税効果会計実務指針17項)。 【法定実効税率の算定方法】 2 法定実効税率算定上の留意点 法定実効税率の算定方法は上記のとおりであり、一時差異等が解消又は消滅する際の将来の各会社の法人税、住民税及び事業税の各適用税率を合理的に見積もる(個別税効果会計実務指針37項)。 実務上、将来の所得水準を考慮し、複数の事業所を有する会社においては、代表的な事業所(例えば、本社所在地、主な所得源泉地)に適用されている税率をもとに法定実効税率を算定する。 このため、標準税率が必ずしも法定実効税率の算定基礎になるとは限らないことに注意が必要である。 事業税の課税標準には、所得のほか、外形基準により付加価値割と資本割によるものも含まれる。これらの外形基準による税率は利益に関連する金額を課税標準とする税金ではないため、上記の算式の「事業税率」には所得割のみを含めることになる(個別税効果会計実務指針17項なお書)。 3 改正税法の公布がポイント 税効果会計上で適用する税率は、決算日現在における税法規定に基づく税率による(個別税効果会計実務指針18項)。 したがって、改正税法が当該決算日までに公布されており、将来の適用税率が確定している場合は、改正後の税率を適用することになる(個別税効果会計実務指針18項)。 この点については、税法の改正により税率の変更が予定されている場合には可能な限り改正内容を取り込むべきであるとの意見もあったようだが、会計のルールとしては、改正税法が当該決算日までに公布されているかどうかで判断するものと決めたものと解される。 このため、税制改正が行われ、法定実効税率の算定に影響する場合には、当該税制改正の公布日がいつなのかについて注意しておく必要がある。税制改正の内容は重要であるが、その公布日も重要であるということである。 Ⅱ 平成25年3月決算における税効果会計で使用する税率 平成23年度税制改正及び復興特別法人税の創設の概要は、次のようなものである。 平成24年4月1日以後に開始する事業年度の所得金額に対する法人税の税率が、現行の30%から25.5%に引き下げられている。 復興財源確保法においては復興特別法人税が創設され、平成24年4月1日から平成27年3月31日までの間に開始する事業年度において、各課税事業年度の基準法人税額に10%の税率を乗じて復興特別法人税額が計算される。 このため、平成25年3月決算においては、次のように事業年度によって適用される税率が異なることから、税効果会計の適用に際して注意が必要になる。なお、実際の会計処理に際しては、各社で実効税率の算定を行うようにお願いしたい。 【事業年度ごとの税率】 (期末資本金の額が1億円超法人に対する東京都の税率の場合) 前回用いた滞留棚卸資産に関する数値例では、当該将来減算一時差異1,000が、将来のどの事業年度において解消し、税務上、損金算入となる見込みかについて、スケジューリングを行うことになるとしていた。 【将来減算一時差異に関するスケジューリング】 将来減算一時差異の解消見込が、×1年から×3年までに行われると合理的に予測されているとする。 この場合、解消見込年度ごとに適用する税率が異なることから、【事業年度ごとの税率】と解消見込年度を照らし合わせて、将来減算一時差異に乗ずる法定実効税率を決定することに注意が必要である。 このようにスケジューリングと適用する法定実効税率の関係が重要となるので、税効果会計上のポイントとしては、スケジューリングの合理性ということになると考えられる。 (了)
「学校法人会計基準の在り方について 報告書」 改正のポイント 【第2回】 有限責任監査法人トーマツ 公認会計士 奈尾 光浩 5 資金収支計算書 当該年度の活動との関連において資金の流れを整理する資金収支計算書は、補助金の配分の基礎資料として、また学校法人の予算管理のための手法として現在も有用であり、今後も維持すべきとされた。 資金収支内訳表及び人件費支出内訳表に加えて、新たに資金収支計算書に附属する表として、活動区分別資金収支表を作成することが求められている。 学校法人においても活動区分別に資金の流れを把握することが重要であるため、活動区分別資金収支表によって、法人全体の資金の流れを教育研究事業活動、施設等整備活動、財務活動に区分して示すこととされたものである。 また、3つの活動区分ごとにキャッシュ・フローの流れが明確にできるよう、各活動区分の末尾に、それぞれ対応する調整勘定を置く必要がある。 なお、知事所轄法人については、活動区分別資金収支表の作成は義務付けられていない。 活動区分別資金収支表のイメージを簡単に示すと、以下のとおりである。 ※画像をクリックすると、PDFファイルが開きます。 6 貸借対照表 現行の貸借対照表について、その構造は引き続き維持するが、学校法人の財政状態をより分かりやすく表示するという観点から、表示区分や科目について以下の変更を行うべきとされている。 7 その他の論点 その他の論点についても検討されており、その結果は以下のとおりである。 この他、例えば、基準を私立学校法で閲覧に供する義務のある財務情報の基準としての位置付けを法制的により明確にすべきではないか、あるいは、合併・分離、引当金、外貨建て、図書、臨時償却、固定資産の評価替え等に係る在り方についても検討課題とすべきではないか等の意見があったとのことである。 これらの論点についても、今後議論を深めることが望まれる。 おわりに 今回の改正は、昭和46年に基準が制定されて以来、最大のものといっても過言ではなく、今後の実務に多大な影響を及ぼすことになる。 2年程度の準備期間はあるものの(知事所轄法人の場合は3年)詳細な実務上の論点の検討はこれからである。 今後発出ないし公表される文部科学省通知や日本公認会計士協会等による実務指針等に十分留意するとともに、改正後の基準に基づき、早めに計算書類の作成シミュレーションを行う等の対応が必要と考える。 【参考】 文部科学省ホームページ ・「学校法人会計基準の在り方について 報告書」 ・「学校法人会計基準の在り方に関する検討会」 (連載了)
〔形態別〕雇用契約書の作り方 【第4回】 「契約社員の雇用契約書」 社会保険労務士 真下 俊明 契約社員の定義 前回はパートタイマーの雇用契約書について記述したが、パートタイマーを雇う際には、契約期間を限定する(有期雇用契約)場合が多いのではないだろうか。 そこで今回は、有期雇用の社員(フルタイム・パートタイムとも)の雇用契約書について解説したい。 一般的には「契約期間の定めのある従業員」を契約社員というが、法的な定義があるわけではない。 雇用期間を区切って雇用契約を交わす場合は、主に以下のようなケースが考えられる。 フルタイム勤務だが契約期間を限定しているケース パートタイマーを契約期間を定めて雇用し、更新を繰り返すケース 新規に雇い入れた社員を試用期間の何ヶ月かを有期契約で雇うケース 定年退職後の再雇用 どのケースでも共通する、期間を定めた雇用契約書を作るうえでのポイント・注意点を以下に説明する。 雇用契約書作成のポイント 〈ポイントⅠ〉について 有期雇用契約における契約期間は、原則3年を超えることはできない。これは、長期の契約により労働者を不当に拘束することを避けるためである。 ただし、システムエンジニアなど専門的な知識を有する者との契約(最長5年)や、建設工事など一定の事業のための契約(必要な期間)など、いくつか例外もある。 一方、パートタイマーに対しては、短期契約を繰り返しているケースも見受けられるが、必要以上に短い期間を設定することは、労働者保護の観点からも望ましいことではない。 〈ポイントⅡ〉について 有期契約により雇う者に対しては、契約締結時に、次の2つの事項を明示する必要がある(今年4月より書面での明示が義務化される)。 上記2つの事項を雇用契約書に明示する際の記載例を挙げると、以下のようになる。 上記「② 契約更新の判断基準」については、できるだけ労働者が自ら判断しやすい客観的な表現が望ましい。 有期雇用契約については、雇止め(更新しないこと)についても注意が必要だが、ここでは割愛する。 ちなみに、雇用契約期間途中の解雇は、「やむを得ない事由」がなければできない。労働者からの退職申出も「やむを得ない事由」がある場合に限られる。 しかし、契約期間の初日から1年経過すれば、退職の申出をすれば退職することができる(上限期間が3年の場合)。 以下に、有期契約社員の雇用契約書のひな型の一部(抜粋)を掲載する。 〔有期契約社員の雇用契約書(ひな型)の一部(抜粋)〕 雇用契約を交わす意義 以上、本連載では4回にわたり雇用契約書の説明をしてきたが、雇用契約を交わすときに大事なのは、会社がその社員に期待することを書面で明示することである。 法的に義務付けられているいないにかかわらず、会社と社員のベクトルを合わせるためのツールとして、前向きに活用することをお勧めする。 (連載了)
誤りやすい [給与計算] 事例解説 〈第8回〉 税理士・社会保険労務士 安田 大 (4 控除額の計算―源泉所得税) 【事例⑪】―死亡退職の場合の源泉徴収― 〔正しい処理〕 〔解 説〕 1 死亡した人の給料 死亡した人の給料で、死亡日後に支払日の到来するものについては、遺族に対して支払われるものであり、所得税は課税されないため、源泉徴収は行わない。なお、その給料については、遺族に対する相続税の課税対象とされる。 なお、死亡した人の給与で、死亡日以前に支給日が到来しているもの(支給日当日に死亡した場合を含む)については、所得税の課税対象となり、源泉徴収が必要となる。 2 年末調整 年の中途で死亡退職した場合には、その時点で年末調整を行う必要がある。事例の場合には、1月以降7月25日支給分までの給与(賞与)を対象に年末調整を行うことになる。 【事例⑫】―アルバイトの少額給与― 〔正しい処理〕 〔解 説〕 1 源泉徴収税額表の適用 源泉徴収税額表には、月額表と日額表があり、日額表は、日払いや週払いの場合に使用し、月額表は、月払いの場合に使用することになる。 次に、月額表には、甲欄と乙欄があり、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」が提出されている場合には甲欄を、提出されていない場合には乙欄を使用することになる。 2 扶養控除等申告書の提出 給与の支払いを受ける者は、その年の最初に給与等の支払いを受ける日の前日までに、扶養控除等申告書に扶養親族等の状況を記載し、提出しなければならないことになっている。 同時に2ヶ所以上から給与の支払いを受ける場合には、原則としてそのうち1ヶ所(主たる給与の支払者)にしか提出できないので、注意する必要がある。 なお、控除対象配偶者や扶養親族がいない場合でも、扶養控除等申告書を提出する必要がある。 3 事例の場合の源泉徴収 事例の場合において、扶養控除等申告書が提出されていなければ、月額表乙欄を適用することになるので、源泉徴収税額(月額8万円の場合、2,450円)が発生することになり、源泉徴収が必要である。 その学生が、同時期に他で給与所得を得ていなければ、扶養控除等申告書を提出することによって月額表甲欄適用され、扶養親族等の数が0人であっても、月額8万円であれば源泉徴収税額が発生しないことになる。 (了)
事例で学ぶ内部統制 【第12回】 「運用評価のサンプルの対象期間と サンプル件数の工夫」 株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦 はじめに 今回は、PLCの運用評価のサンプルの対象期間とサンプル件数の工夫を取り上げる。 筆者(株式会社スタンダード機構)主催の実務家交流会では、運用評価のサンプルの対象期間とサンプル件数について監査法人が求める要請に応えながら、社内の実情に応じて運用評価を有効かつ効率的に行うため、どのように対応しているかについて意見交換を行った。 各社の創意工夫を見てみよう。 サンプルの対象期間 まず、議論を整理するため、サンプルの対象期間の意義を確認したい。 実施基準によれば、経営者による内部統制の有効性の評価は、期末日を評価時点として行うことになっている。監査法人による内部統制監査も、期末日における内部統制の有効性の評価について意見表明することで、経営者評価に平仄を合わせている。 つまるところ、経営者評価も内部統制監査の意見表明も、その対象は期末日を含む一会計期間のすべてのコントロール母集団となる。 しかし、期末日にすべての運用評価を行うことは不可能なので、期中の適切な時期を決め、その期間に属するコントロールから一定のサンプルを抽出し、運用評価を行うのが実務である。 このようにサンプルの対象期間とは、運用評価を行うために抽出するサンプルが属する母集団の期間をいう。 サンプルの対象期間の事例 では、各社はサンプルの対象期間をどのように設定しているのだろうか。 参加企業が3月決算、一会計期間で200件以上日常反復継続的に発生する取引に対する運用評価と仮定して話を進める。 参加企業Aは、「4月から9月までの間の3ヶ月分をサンプルの対象期間として、上期に運用評価を終えている」(航空会社)と話した。 参加企業Bは、「当初はA社さんと同じ3ヶ月分だったが、過年度の内部統制の評価結果が良好な状態が続いたので、監査法人と協議し、3ヶ月分から2ヶ月分に短縮した」(商社)と話した。 他方、参加企業Cは、「4月から9月までの間の2ヶ月分をサンプルの対象期間としているが、実際に運用評価を行うのは、その取引が完了する下期にしている。評価される部門から、取引が継続中の上期に証憑を提出したり、コピーしたりするのは、日常業務の妨げになるという意見が出たので、運用評価のスケジュールをずらした」(商社)と話した。 これに対して、参加企業Dは、「皆さんの話に驚いている。わが社のサンプルの対象期間は、4月から12月までの9ヶ月分であり、皆さんと比べて圧倒的に長い。監査法人が、できるだけ期末に近い時期までサンプルの対象期間を延ばすことを求めてきたからだ。わが社も、皆さんと同じように、サンプルの対象期間を上期で短くしたいが、監査法人が認めてくれない。皆さんの会社の監査法人の姿勢を聞きたい」(情報通信)と、自社と他社の現状に大きな乖離を発見し質問を投げかけた。 これに対して、複数の参加企業は、「制度が始まった当初は、監査法人の保守的な姿勢がサンプルの対象期間にも響いていて、期末に近いサンプルを要求された。当時は、運用評価の結果、不備が多発し、それを是正するため、期末までに業務改善しコントロールを頻繁に変えた。制度が5年目を迎えて、不備の数が少なくなってくると、必ずしも期末に近い下期でなくても、上期からサンプルの対象期間を設けることを承認し始めた。内部統制が良好という心証を持ったのかもしれない」と、過去の複数年度の運用評価の結果に裏書されたコントロールの安定性が、サンプルの対象期間を決める重要な要素になっているとの見解を示した。 サンプル件数の事例 では、サンプル件数については、各社どのようになっているのだろうか。 議論に入る前に、押さえておくべき基礎がある。 実施基準では、日常反復継続的に発生する取引について、アサーション毎に少なくとも25件のサンプルを取ることが例示されている。 このサンプル件数は、全社レベルの内部統制(ELC)が有効であり、母集団の中に存在すると予想される内部統制からの逸脱率(予想誤謬率)が0%だろうとの前提が成り立つときに、監査人が受け入れることのできる所定の内部統制からの逸脱率(許容誤謬率)を9%、サンプリングの信頼度を90%とした場合に統計的サンプリングから導かれる。 もしELCに不備があり、プロセスレベルでその母集団の中に内部統制の大きな逸脱が予想される場合、予想誤謬率が上昇するため、サンプル件数の拡大を検討する。 今回は、参加企業のELCがいずれも有効であったので、企業全体としては内部統制の大きな逸脱はなく予想誤謬率が0%であることを前提に、PLCの運用評価のサンプル件数の実態を意見交換した。 前出の参加企業Aが、「日常反復継続的に発生する取引について25件のサンプルを取っている。これより減らすことはできていない。抽出方法は、あらかじめ決めたサンプルの対象期間から無作為に取っている」と報告し、他のすべての参加企業がこれに一致した。 ただ、前出の参加企業Dは、「4月から12月までの9ヶ月のサンプルの対象期間を4月から9月までの1回目の運用評価期間と10月から12月までの2回目の再運用評価期間に区切り、1回目の母集団から17件、2回目の母集団から8件、合計で25件を抽出している。1回目も2回目も各期間の母集団からランダムに抽出するため、手間も2回分かかる感覚だ」と、サンプル抽出の方法を工夫していた。 これに対して、複数の参加企業が、「母集団を2つに分けるなら、各母集団から25件のサンプルを抽出しなければ各母集団を推定することができないのではないか」と疑問を投げかけた。 この疑問に対し、参加企業Dは、「二項分布を前提にした統計学を厳格に適用すればそうかもしれないが、その場合、年間サンプル件数は合計50件となり、同じ程度の心証形成に必要な証明としては理論的にかえって過剰となる。9ヶ月という通常の2倍以上のサンプルの対象期間が要請されている代わりに、各母集団から抽出するサンプル件数を減らして、業務負荷が増えないようにしたいと監査法人と交渉した」と答えた。 日常反復継続的に発生する取引以外の取引のサンプル件数 では、日常反復継続的に発生する取引以外の取引のサンプル件数はどうだろうか。 参加企業Eは、「週次、月次、四半期、年次などの頻度に従い、監査法人と協議して、適切なサンプル数を決定した」(部品メーカー)と話した。 まとめて表すと、次のとおりである。 参加企業Fは、「月次が2件でなく3件抽出しているが、特段の理由はないと思うので、減らすことを検討したい」(運輸)と、次のようなサンプル件数を報告した。 参加企業Gは、「週次が6件で他社さんより多いが、四半期次は1件で済んでいる」(商社)と、次のようなサンプル件数を報告した。 このように、日常反復継続的に発生する取引に比べて、サンプル件数に企業間のバラツキが目立った。 次回は、運用評価でエラーが発生した場合の再評価の対応の工夫について取り上げる。 (了)
資産の海外移転をめぐる シンガポール最新事情 【第4回】 ─富裕層はテイラーメイド型の資産運用─ Advance Business Support Pte. Ltd. 代表 大曽根 貴子 ■富裕層の投資術 普通の人は、資産を増やすために資産を運用する。 一方、富裕層は、次の世代に資産を繋げるため、資産保全のために投資をする。 これが、普通の人と富裕層との違いである。 普通の人は銀行預金、不動産、有価証券など、銀行や証券会社が販売しているパッケージ型の金融資産に投資する。 富裕層は、プライベートバンクやファミリーオフィスを利用し、テイラーメイド型の資産運用により資産を次の世代へ承継する。 ■プライベートバンクとは プライベートバンクとは、富裕層や機関投資家向けに資産の管理を包括的に行う金融機関である。ウェルスマネジメントともいう。 プライベートバンクに口座を開設する際の最低額は、金融機関によって異なるが、1億円(100万USドル)~3億円(300万USドル)程度が多い。 プライベートバンクは、クライアントの投資スタンスに基づいたポートフォリオを作成し、投資アドバイスを行う。 普通の人がアクセスできない投資機会を提供することで、富裕層はさらに有利に資産を増やすことが可能である。 またプライベートバンクは、投資アドバイスのみならず、税金や法律に関する専門家の紹介、住宅や教育に関する相談などにも応じている。 クライアントのニーズに応じ、柔軟できめ細やかな対応をするコンシェルジュのような存在である。 シンガポールのプライベートバンクでは、日本人富裕層のためにジャパン・デスクを設置しているところもある。 ここ数年で新たにジャパン・デスクを設置した金融機関や、日本人や日本語スピーカーを増員した金融機関が多い。 あるプライベートバンカーによれば、5年前は1月に数人程度の訪問者だったが、最近は毎月50名以上の訪問者がいるという。 シンガポールに資産を移転する日本人は、明らかに増えている。 ■ファミリーオフィスとは アメリカの産業が発達した19世紀初頭に誕生したファミリーオフィスは、ロックフェラーやカーネギー等の事業に成功した一族の資産を保全し、次世代へ継承することを目的として発達した。 一族のためにアセット・マネジャー、弁護士、会計士及び税理士等の専門家チームを雇用し、資産運用及び保全、子息が受ける学校教育のアレンジ、購入する美術品や骨董品の品定めなど、ありとあらゆるサービスを提供する。 プライベートバンクは、一般的に1人のリレーションシップマネジャーが担当者として顧客とコンタクトを取り、必要に応じて専門家とチームを組み対応する。 これに対し、ファミリーオフィスは、専門家チームがその一族のためだけに専属で従事する。 ファミリーオフィスを雇っているのは、金融資産200億円(2億USドル)超の超富裕層である。 ■シンガポールのプライベートバンクを利用する利点と注意点 シンガポールのプライベートバンクは、金融商品取引法の適用対象外である。 そのため日本のプライベートバンクと比べると商品力が高く、ハイリスク・ハイリターンの商品を購入することも可能である。 例えば、日本では取り扱うことができない不良債権ファンド、生命保険証券取引、融資付き生命保険などが購入できる。 シンガポールはキャピタルゲイン、インカムゲインが非課税である。 BVI(ブリティッシュ・バージン・アイランド)などのタックスヘイブンを利用したスキームを組むことにより、実質無税で資産を運用することができる。 ここ数年、日本人富裕層に爆発的に売れている商品にオフショア生命保険がある。 この保険では、死亡保険金が元本の2倍以上となっており、相続税を払っても元本を維持することができる。 保険料は契約時に一括払いだが、保険を担保として借入れが可能であり、実質的な負担は少ない。 (参考) 日本の居住者がシンガポールで資産運用し、利益を出した場合、シンガポールでの税金はゼロである。 しかし、これらの利益は日本の所得税法上、課税所得に該当するため、確定申告時に申告・納税する義務がある。 日本から海外に資産を移転する目的には、資産運用と税金対策がある。 日本に比べシンガポールは、金融商品の種類が多く、金融機関の手数料は安い。また、キャピタルゲインは非課税なので、資産を増やすチャンスが日本より大きいといえる。 ただし、日本の居住者である限り、海外に資産を移転しても、その利益及び資産は所得税又は相続税の対象となるため、節税の余地は少ない。 (連載了)
女性会計士の奮闘記 【第2話】 「ピカピカの月次決算書とは?」 公認会計士・税理士 小長谷 敦子 〈ワンポントアドバイス〉 お客様の声に耳を傾けて、必要があれば月次決算書に組み込みましょう。 (了)
中国における営業税改革の概要、 改革効果の検証及び展望 【第1回】 有限責任監査法人トーマツ 鄭 林根 中国における一部の業種に対する営業税を増値税に移行する税制改革(以下「営業税改革」)がスタートして1年間が経過した。 以下、改革の概要と改革効果及びその展望を簡単にまとめることとする。 なお、本稿中の見解は執筆者の個人的見解であり、執筆者の所属する法人の公式見解ではない。 本稿の実際の活用にあたっては、専門家と相談のうえ実行することを強く推奨する。 1 営業税改革のスタートと概要 2011年10月26日付けで、国務院により上海市の交通運輸業及び一部のサービス業等において営業税改革を試験的に開始することを決定した。 この決定を受けて、財政部・国家税務総局より「営業税を増値税へ移行する試験案」(1)及び「上海市における交通運輸業と一部の近代サービス業に対する営業税を増値税へ移行する試験に関する通知」(以下「財税[2011]111号(2)」。)を公布、施行した。 (1) 2011年11月16日財政部・国家税務総局「営業税を増値税へ移行する試験案」(財税[2011]110 号)。 (2) 財税[2011]111号には「交通運輸業と一部の近代サービス業の営業税を増値税へ移行する試験実施弁法」などの3つの付則が含まれている。 これにより、2012年1月1日以降、上海市の該当業種では営業税が廃止され増値税に統一され、売上増値税から仕入増値税額が控除されることになった。 概要は以下の通りである。 (1) 適用対象 ① 上海市にある役務提供者 上海市にある課税役務を提供する企業又は個人(以下「役務提供者」)が適用対象となる。 上海市にある役務提供者とは、機構所在地が上海市にある企業、個人事業者及び上海市に居住する個人を指す。 役務提供者の所在地が上海市に所在すれば、原則、役務受益者の所在地が上海市にあるか否かにかかわらず適用対象となる。上海市の役務提供者が上海市以外で役務を提供した場合には、その提供地で営業税を納付し、上海で増値税納付時に控除する。 なお、役務提供者が上海市以外の企業で、上海市の企業又は個人に対して役務を提供した場合には、当該役務提供者は、これまで通り営業税を納付する。 ② 国外にある役務提供者 国外にある企業と個人(非居住者)が上海市にある企業又は個人に対して課税役務を提供する場合も、適用対象となる。 (2) 対象となる業種、税率及び計算 対象業種及び適用税率は下記の通りであるが、詳細は「課税サービス範囲注釈」を参照。 (3) 気体、液体、固体物質の運輸役務等を指す。 (4) 設計、商標著作権譲渡、知的財産権、広告役務等 (5) 財務、税務、資産評価、法律、不動産土地評価等の鑑定認証役務等 (6) 財務、税務、法律、内部管理、業務運営、工程管理等の情報及びアドバイス等の業務活動等 (7) 2011年12月29日財政部、国家税務総局「課税サービスに増値税のゼロ税率及び免税政策を適用することに関する通知」(以下「財税「2011」131号」)によりゼロ税率の適用対象が明らかになった。 上記の業種及び税率を基に、以下の通り税額計算を行う。 増値税額=売上税額*1-仕入税額*2 *1:売上税額=売上額×適用税率 売上額(税込の場合)=税込売上額÷(1+適用税率) *2:仕入税額:物品の購入又は加工、修理補修、組立労務サービス受領時に支払い又は負担した増値税額 非居住者の外国企業と個人が中国に営業機構を有していない場合、その代理人又は役務受益者が税額を源泉徴収して納付することになる。 源泉徴収義務者が下記計算式に基づき、納税額を源泉徴収する。 2 営業税改革の背景と目的 今回の営業税改革の主な目的は、現行の間接税制における二重課税問題の解決及び構造的な減税措置を通じて、サービス業をはじめとする第三次産業の税負担を軽減する。また、分業発展を促進し、産業構造の調整を成し遂げ、雇用の創出にも寄与することである。 中国の増値税は1994年に導入されたが、経済状況・税収、徴収管理などの制約を受け、物の販売、加工・修理役務の提供及び輸入(全取引の60%相当)については課税対象とされたが、他の役務提供、無形資産の譲渡及び不動産の譲渡は対象外とされ、営業税の課税対象(全取引の40%相当)とされている。 増値税の一般納税者は売上税額から仕入税額を控除することができる。 これに対して、営業税は、原則として営業額全額に対して課税され、増値税のような仕入税額控除の仕組みはない。 この両税が並存していることにより、二重課税等の問題が生じることになる。 営業税の適用対象となると、対象業種(サービス業)の分業化が進むほど控除の仕組みがないため、価格に含まれる税コストが重なり、税負担が重くなることにより分業を阻害している。 また、増値税の納税者にとっては役務を仕入れるときに負担した営業税がコストとなり、営業税の納税者にとっては仕入れた物品を役務提供に用いる場合は、仕入れた物品に係る仕入税額を控除できないので、増値税を負担することになる。これにより、業種間の分業・提携が阻害されている。 営業税改革が全国で実施された場合、税収額が年間で1,000 億元(1元が12.5円に相当する)以上減少すると試算されているが、サービス業の税負担減、第三次産業分業発展の促進、産業構造の調整などを考え、政府は営業税改革による経済全般の発展にプラス(8)の働きをもたらすことから、営業税改革の実施を踏みきった。 (8) 国家税務総局では2009年をベースに試算すると営業税改革を実施する場合、GDPは0.5%増をもたらし、第三次産業及び生産性サービス業の付加価値はそれぞれ0.3%、0.2%増、また、社会投資が0.2%増、輸出が0.7%増、就業が70万人増をもたらすことができるという。 (了)
平成25年3月期 決算・申告にあたっての留意点 【第3回】 「繰越欠損金の使用制限と 控除期間の延長」 アクタス税理士法人 税理士 藤田 益浩 〈欠損金の繰越控除の改正の概要〉 欠損金の繰越控除制度は、法人の各事業年度開始の日前7年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額がある場合、その欠損金額に相当する金額を、各事業年度の所得の金額を限度として損金の額に算入する制度である。 平成23年12月改正により、繰越欠損金制度の改正が行われた。その内容は大きく2つになる。 1つは、中小法人等以外の法人について、欠損金の控除限度額は、その事業年度の所得の金額の80%相当額になる点。 もう1つは、繰越欠損金(青色欠損金、災害損失金及び連結欠損金)の繰越期間が7年から9年に延長された点である。 この改正は平成24年4月1日以後開始の事業年度から適用され、間もなく決算を迎える3月決算法人においては、最初の適用事業年度となる。 改正内容についてのポイントをまとめると、次のようになる。 《欠損金の繰越控除のイメージ図》 ― 記 入 例 ― ※法人税申告書 別表七(一)より抜粋 (了)