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〈Q&A〉税理士のための成年後見実務 【第1回】「どんな場合に成年後見制度の利用が必要になるのか」

〈Q&A〉 税理士のための成年後見実務 【第1回】 「どんな場合に成年後見制度の利用が必要になるのか」   司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎   ◆連載開始にあたって◆ 認知症を患う高齢者の人数が増加しており、2025年には700万人にもなるといわれています(※1)。これにともない、認知症等により判断能力が不十分な人などのサポートを行う制度である「成年後見制度」の利用者も増加傾向にあります。2022年12月末時点での成年後見制度(成年後見、保佐、補助、任意後見)の利用者は、約245,000人でした(※2)。成年後見人等の援助者に専門家が就任する場合、司法書士や弁護士が就任することが多いですが、税理士もわずかではありますが、成年後見人等として活動している実績があります。 (※1) 厚生労働省「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~(概要)」 (※2) 最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況-令和4年1月~12月-」 成年後見業務は、本人と家族との関係性や、財産の額、内容等によって注意点や対応方法が異なり、実務の現場では答えのない問題にあたることが多い業務です。おそらく成年後見業務に対応している税理士の方々は、相談できる同業の方なども少なく、悩みながら対応されているのではないかと思います。 本連載では、成年後見業務に関心がある税理士の方々を念頭に、実務の現場で起こりうる問題と対応方法等について、司法書士がQ&A形式で解説します。   【Q】 「成年後見制度」の存在は知っていますが、どのようなケースで利用されているのでしょうか。 【A】 税理士の方のなかには、「成年後見制度がどんな場合に利用されることになるのかわからない」という方もいらっしゃると思われます。 実際に成年後見制度の利用に至るケースを知ると、実は今まで気が付かなかっただけで、成年後見制度のニーズが発生していたということがあるかもしれません。 以下の解説で具体的なケースを確認します。 ● ● ● ● 解 説 ● ● ● ● 現に成年後見制度を利用されている方も、何らかのきっかけがあり、思いがけず利用することになったという方が多いと思われます。成年後見制度の利用に至るケースとして多いのは以下の通りです。   1 不動産の売却が必要なケース 高齢者の方が施設に入所することになり、不要となった自宅を売却することがあります。この場合に不動産の所有者である高齢者の方が、認知症により判断能力が低下していると、不動産の売却が困難となることがあります。売買契約を締結するにも法的には一定の判断能力(意思能力)が必要とされており、判断能力がない状態で締結した契約は無効となるためです。 所有者の判断能力が低下した状態でも、生活資金を捻出するためにどうしても早期に売却が必要な場合は、成年後見制度の利用をすることになります。司法書士のもとには所有者の家族や仲介を担当する不動産会社から相談を寄せられることがあり、その流れで成年後見人への就任を依頼されることがあります。   2 遺産分割協議を行うケース 相続が発生し、遺産分割協議を行う場合、有効に遺産分割協議を行うためには、参加した相続人に十分な判断能力が備わっている必要があります。もし判断能力を欠いた状態で遺産分割協議を行っても、遺産分割協議自体が無効となってしまうリスクがあります。相続手続を進めていくなかで、相続人のうちに認知症等により判断能力が十分でない方がいることが判明した場合には、成年後見制度の利用を検討することがあります。   3 その他 上記1、2のほかにも、高齢者施設や行政機関等から身寄りのない高齢者の方のサポートの依頼を受けたり、お付き合いのある顧客から顧客自身や身内の成年後見人への就任を依頼されたりする場合などがあります。   4 認知症の問題にどのように向き合うべきか 税理士実務を行ううえでも、顧客の判断能力の程度が問題になる事例は少なくないと思います。上記2で紹介した遺産分割協議以外にも、例えば、生前対策として贈与を行う場合には、贈与当事者に判断能力が備わっていることが前提になります。どの程度厳密に判断能力を求めていくかについては、顧客と各専門家の考えによることになりますが、認知症を患うことが珍しいことではない現代では、しっかりとした確認をしたうえで実行することが必要だというのが筆者の考えです。仮に判断能力が十分でない状態で生前贈与を行っても、後々無効を争われる可能性もあり、顧客に不利益を与えることにつながりかねません。成年後見制度には、さまざまな課題がありますが、認知症を患う方が増加していくなかでは必要な制度です。本連載を通して税理士の方々に、成年後見制度を少しでも身近に感じていただければと考えています。 (了)

#No. 548(掲載号)
#北詰 健太郎
2023/12/14

《速報解説》 金融庁、四半期報告書制度の廃止含む令和5年金商法等改正に係る政令・内閣府令案等を公表~第1種中間財務諸表等の基準は、ASBJの基準案の内容踏まえた修正の可能性あり~

《速報解説》 金融庁、四半期報告書制度の廃止含む 令和5年金商法等改正に係る政令・内閣府令案等を公表 ~第1種中間財務諸表等の基準は、ASBJの基準案の内容踏まえた修正の可能性あり~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 令和5(2023)年12月8日、金融庁は、「令和5年金融商品取引法等改正に係る政令・内閣府令案等」を公表し、意見募集を行っている。 これは、「金融商品取引法等の一部を改正する法律」(令和5年11月29日法律第79号。以下「改正法」という)により、四半期報告書制度が廃止となることから、関連する関係政令・内閣府令等(関連するガイドラインを含む)を改正するものである。 意見募集期間は2024年1月9日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 四半期報告書から半期報告書への改正関係 1 概要 金融商品取引法等の改正により、四半期報告書制度が廃止され、半期報告書の提出へと改正される。 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正案では、四半期報告書及び四半期(連結)財務諸表関係の規定が削除されている。 このため、次の内閣府令を廃止し、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」及び「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」において、従前の四半期財務諸表を「第1種中間財務諸表」、従前の中間財務諸表を「第2種中間財務諸表」として中間財務諸表の作成方法等を含めて規定する。 なお、財務諸表等規則の改正案では、「第一種中間財務諸表」と記載されているが、本稿では、金融庁のホームページの記載に合わせて、「第1種中間財務諸表」と記載している。 今回の関係政令・内閣府令等で用いられている名称については、企業会計審議会等における議論の結果を踏まえ、名称を変更する可能性があるということである。 2 第1種中間財務諸表と第2種中間財務諸表 前述のとおり、財務諸表等規則及び連結財務諸表規則において、従前の四半期財務諸表を「第1種中間財務諸表」、従前の中間財務諸表を「第2種中間財務諸表」として中間財務諸表の作成方法等を含めて規定する。 財務諸表等規則の改正案では次の構成となっている。 財務諸表等規則の改正案では、この規則において「連結財務諸表」、「第一種中間連結財務諸表」又は「第二種中間連結財務諸表」とは、それぞれ連結財務諸表規則1条1項各号に規定する連結財務諸表、第1種中間連結財務諸表又は第2種中間連結財務諸表をいうと規定されている(財務諸表等規則8条15項)。 財務諸表等規則の改正案では、第3編において、第1種中間財務諸表に関する規定が設けられている。 例えば、第1種中間財務諸表作成の一般原則として、第1種中間財務諸表は、原則として財務諸表の作成に当たって適用される会計処理の原則及び手続に準拠して作成されなければならない(財務諸表等規則129条1項)や、「重要な後発事象の注記」として、中間貸借対照表日後、第1種中間財務諸表提出会社の当該第1種中間財務諸表に係る中間会計期間が属する事業年度(当該中間会計期間を除く)以降の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を及ぼす事象が発生したときは、当該事象を注記しなければならない(財務諸表等規則137条)と規定されている。 なお、財務諸表等規則等の本改正案は、金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告(「上場企業の半期報告書については、現行と同様、第2四半期報告書と同程度の記載内容とする」)に基づき作成しているとのことである。 ただし、第1種中間財務諸表等に適用される会計基準については、現在、企業会計基準委員会において議論が行われているところであり、その基準案の内容を踏まえた修正を行う可能性があるとのことである。   Ⅲ 臨時報告書関係 次の事項について、臨時報告書の提出事由に追加する。 Ⅳ 適用日 パブリックコメント終了後、所要の手続を経て公布、施行(2024年4月1日)の予定である。 有価証券報告書等の様式に係る規定の適用については、次のように予定しており、注意が必要である。 (了)

#阿部 光成
2023/12/12

《速報解説》 金融庁から電子決済手段に関する財規の改正案が公表される~キャッシュ・フロー計算書における「資金」の定義を改正~

《速報解説》 金融庁から電子決済手段に関する財規の改正案が公表される ~キャッシュ・フロー計算書における「資金」の定義を改正~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 令和5(2023)年12月7日、金融庁は、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等を公表し、意見募集を行っている。 これは、企業会計基準委員会から公表された「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い」(実務対応報告第45号)及び「『連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準』の一部改正」(企業会計基準第32号)を受けたものである。 意見募集期間は2024年1月9日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ キャッシュ・フロー計算書における資金 キャッシュ・フロー計算書における「資金」の定義について、次のように改正する(アンダーラインが改正点)。   Ⅲ 施行日 公布の日から施行する予定である。 (了)

#阿部 光成
2023/12/12

《速報解説》 令和6年の施行前に生前贈与制度の見直しに係る相続税関係の改正通達が公表される

《速報解説》 令和6年の施行前に 生前贈与制度の見直しに係る相続税関係の改正通達が公表される   Profession Journal編集部   令和5年度税制改正では生前贈与分の相続財産への加算期間が相続開始前3年以内から7年以内とされ(経過措置により段階的に延長)、相続時精算課税制度に110万円の基礎控除が認められる等の見直しが行われ、令和6年1月1日以後の贈与から適用される。 そしてこのほど、国税庁は12月8日(金)に下記の改正通達を公表、上記税制改正に係る通達上の取扱いを明らかにした。 改正通達は「相続税法基本通達」(法令解釈通達)及び「租税特別措置法(相続税法の特例関係)の取扱いについて」(法令解釈通達)の2つからなり、前者の改正相基通では、相続時精算課税に係る基礎控除の額は各年分において相続時精算課税適用者ごとに110万円であることを留意的に明らかにする(改正相基通21の11の2-1)とともに、相続時精算課税適用者が同一年中において2人以上の特定贈与者からの贈与により財産を取得した場合における特定贈与者ごとの贈与税の課税価格から控除される相続時精算課税に係る基礎控除の額の計算を算式で示す(改正相基通21の11の2-2)など、〔第21条の11の2《(相続時精算課税に係る贈与税の基礎控除》〕関係が新設されたほか、各所に見直しが行われている。 また後者の改正措通では、特定贈与者からの贈与により取得した土地又は建物が、その贈与を受けた日から特定贈与者の死亡に係る相続税の申告書の提出期限までの間に災害によって相当の被害を受けた場合、土地又は建物の贈与の時における価額から一定額が控除される「相続時精算課税に係る土地又は建物の価額の特例(措法70の3の3)」の創設に伴い、〔措置法第70条の3の3《相続時精算課税に係る土地又は建物の価額の特例》関係〕として、下記の17項目が新設されている。 なお本誌では来年において、これら改正事項の解説記事(連載)を掲載する予定です。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#Profession Journal 編集部
2023/12/11

プロフェッションジャーナル No.547が公開されました!~今週のお薦め記事~

2023年12月7日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.547を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2023/12/07

monthly TAX views -No.130-「岸田減税が提起する地方税の諸問題」

monthly TAX views -No.130- 「岸田減税が提起する地方税の諸問題」   東京財団政策研究所研究主幹 森信 茂樹   岸田総理が決断した、所得税・住民税1人あたり4万円の減税と住民税非課税世帯への計10万円給付(以下、岸田減税)は、財政積極派からも財政再建派からも評判が悪い。何のための減税なのか趣旨が国民に伝わらないまま行われる。 筆者がここで取り上げたいのは、岸田減税が住民税の諸課題を浮き彫りにしたことだ。 まずは住民税非課税世帯とは何かということである。住民税非課税基準の問題点は、本連載のNo.123で述べたが、あまりにも大雑把な基準(筆者は「アナログ基準」と呼んでいる)で、必ずしも生活困窮者を切り取っていない。 厚生労働省の国民生活基礎調査によると、住民税非課税世帯の63%が65歳以上の高齢者世帯で、その多くが年金受給者だ。年金受給者は公的年金等控除があるので所得が圧縮されることが影響している。年金生活者は、資産もそこそこ保有しており、すべて生活困窮者とするのは間違いだ。 また住民税は払っているので給付金はもらえないが所得税は非課税という世帯が300万世帯あるという。なぜ所得税と住民税とで課税最低限が異なるのだろうか。この点、令和5年6月に公表された「わが国税制の現状と課題」(政府税制調査会中期答申)には、住民税について以下の記述がある。 しかし徴税の手間などを考えると、課税最低限は国と合わせつつ、税率を、比例税率(地方税)、累進税率(所得税)と役割分担すれば十分ではないか、という疑問が生じる。 *  *  * 次に、国税と住民税のシステム整備の遅れである。国や地方自治体間で、住民税情報を社会保障給付に結び付けるシステムが整っていない。これを可能にするため、2025年度中をめどに、データの活用・連携を迅速化する新たな情報連携基盤として、公共サービスメッシュとガバメントクラウドの構築が進められているが、進捗状況は芳しくない。早急に進める必要がある。 *  *  * 最後に、住民税の現年課税化の問題も提起されるところとなった。住民税情報は、前年所得課税を基本としているため、住民税非課税世帯への給付は、最新の所得情報に基づいていない(1年遅れ)。 住民税の現年課税化は、長年検討が続けられてきた。1968(昭和43)年の政府税制調査会中期答申では、「現在、住民税は、前年の所得を基礎として課税するいわゆる前年所得課税のたてまえをとっている。所得発生の時点と税の徴収の時点との間の時間的間隔をできるだけ少なくすることにより、所得の発生に応じた税負担を求めることとするためには現年所得課税とすることが望ましいと考えられるので、この方法を採用する場合における源泉徴収義務者の徴収事務、給与所得者以外の者に係る申告手続等の諸問題について、引き続き検討することが適当である。」とされている。 それから半世紀以上が経過し、地方税が前年所得課税であることの不都合は、退職だけでなく、転職の増加、フリーランスやギグワーカー等所得の変動の大きい働き方の増大で拡大した。また増加を続ける外国人労働者が1月1日前に帰国すると課税できないという問題も出てきた。現年課税化の必要性はこれまで以上に高まっている。デジタル化技術を駆使すれば、地方税の現年課税化のハードルは高くないはずだ。 (了)

#No. 547(掲載号)
#森信 茂樹
2023/12/07

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例58】「パチンコ器及びスロットマシンの少額の減価償却資産該当性」

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例58】 「パチンコ器及びスロットマシンの少額の減価償却資産該当性」   拓殖大学商学部教授 税理士 安部 和彦   【Q】 私は、近畿地方の県庁所在地に本社を置き、本社の所在地県及び近隣の府県一円において、パチンコ及びスロットマシンの遊技店を経営する株式会社Y(資本金10億円で3月決算)に勤務し、現在経理部長を務めております。少子高齢化はわが国の社会経済全般に様々な影響を及ぼしておりますが、エンターテインメント業界もその例外ではなく、人口減は端的に市場規模の縮小をもたらしているところであり、ここ数年、パチンコホールの倒産・民事再生手続の開始といったニュースも度々耳にするところです。 そのような環境下にあっても、わが社は他社との厳しい競争を勝ち抜いて生き残っていかねばならず、そのためにあらゆる手段を採ってきたところです。最も力を入れてきた施策は、お客様を1人でも多く呼び込むために、常に最新の人気機種をすべてのお店に導入することです。その甲斐もあって、近隣の同業他社との比較で集客力は上回っており、売上げの落ち込みも最低限に抑えることができたものと自負しております。 さて、そのような中、わが社は先日来税務調査を受けております。昔からわが業界は税務署との相性はよろしくないのですが、今回もまたこれまで以上に厳しいやり取りが続いております。今回特に問題となっているのは、わが社が企業存続のために行っている最重要施策である、最新人気パチンコ・パチスロ機種の矢継ぎ早の更新についてです。すなわち、耐用年数に関する省令では、パチンコ器の耐用年数は2年、パチスロ機は「スポーツ具」に該当するため3年とあるのにもかかわらず、わが社はその更新が概ね1年未満ということで、使用可能期間が1年未満の少額の減価償却資産に該当することから、損金経理により全額取得した年度の損金としているのですが、当該処理が「問題」であると指摘されております。法人税法も認めている当該経理処理を否認することは、税務署といえどもできないのではと考えますが、私どもの理解で問題ないか教えてください。 【A】 法人税法施行令第133条に規定される少額の減価償却資産のうち、使用可能期間が1年未満のものは、その事業の用に供した日の属する事業年度において損金経理したときには、その取得価額が全額損金に算入されますが、ここでいう「使用可能期間」は、法人の属する業種において、一般的に消耗性のものとして認識されているか否かに基づいて判断すべきと解されています。 実際のパチンコ業界において、パチンコ器はその取得時において、通常の管理又は修理をする場合に、事業の用に供してから1年以内に経済的にみて使用することができなくなる消耗性のものであるとの取扱いはされていないことから、少額の減価償却資産には該当しないと解されます。また、パチスロ機は耐用年数省令上、パチンコ器とは異なる分類のものとされており、同様に少額の減価償却資産には該当しないと解されます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) パチンコ及びスロット業界の現状 わが国において「大人の娯楽」として長らく君臨してきたパチンコ・スロット業界であるが、最近では、少子高齢化に伴う人口減少、レジャーの多様化、若者のパチンコ離れなどといった要因から、市場規模の縮小がささやかれているところである。近年のパチンコ産業の市場規模は以下のグラフの通りである。 〈パチンコ産業の売上高の推移(貸玉料ベース)〉 (出典) 公益財団法人日本生産性本部『レジャー白書』に基づき筆者作成。 上記グラフを見ると、2012年の25兆7,000億円弱をピークに売上高は徐々に下がってきており、2020年はコロナ禍の影響で前年から一気に5兆4,000億円も減少するという厳しい状況となっている。 なお、パチンコ産業について、海外のカジノ産業と同種のギャンブル産業と捉えるならば、上記統計のように貸玉料ベースの「売上高」で産業の規模を測るというのは適切ではなく、むしろそこからプレーヤーが景品に交換した金額を差し引いた「粗利額」をベースに考えるべき説も有力である(※1)。この場合、2020年の粗利額は2兆3,500億円となる。 (※1) 「パチンコ業界WEB資料室」参照。   (2) 少額の減価償却資産の損金算入 固定資産の取得価額は、企業会計上一般に、費用収益対応の原則に従い、その取得年度において一括して費用計上するのではなく、使用又は時間の経過に従ってその価値が減少するのに応じて徐々に費用化すべきと考えられるが、当該費用化の手続きを減価償却という。 租税法における減価償却の考え方は、基本的に上記企業会計の考え方に準拠しているが、法人税法においては、減価償却の手続きにより減価償却費として損金に算入されるのは、法人が償却費として損金経理した金額となっている(法法2二十五、31①)。 ただし、取得価額が10万円未満(※2)であるか、又は使用可能期間が1年未満である「少額の減価償却資産」は、損金経理を要件として、事業の用に供した日の属する事業年度において損金に算入される(法令133①、なお後者は「短期減価償却資産(※3)」ともいう)。当該少額の減価償却資産が取得時における一時の損金となるのは、一般に、当該資産には期間損益の算定に係る適正化の必要性が乏しいこと、及び、資産管理上「資産」として計上する必要性がないことから、実務上減価償却資産として扱う意味がないためであると解されている(※4)。 (※2) 平成10年度の税制改正で「20万円未満」から引き下げられた。 (※3) 武田隆二『平成15年版 法人税法精説』(森山書店・2003年)367頁。 (※4) 武田前掲(※3)書366-367頁参照。 なお、使用可能期間が1年未満の「短期減価償却資産」とは、通達で、法人の属する業種(例えば、紡績業、鉄鋼業、建設業等)において、以下のものをいい、当該資産については、法定耐用年数ではなく実際の使用可能期間(1年未満)により損金性を判断するものとされている(法基通7-1-12)。   (3) パチンコ器及びスロットマシンに係る少額の減価償却資産該当性が争われた事例 それでは、本件と同様に、法人の保有するパチンコ器及びスロットマシンについて、その少額の減価償却資産該当性が争われた事例(東京地裁平成23年4月20日判決・税資261号-82(順号11672)、TAINSコード:Z261-11672)について、以下で確認してみたい。 ① 事案の概要 本件は、パチンコ等の遊技場(パチンコホール)の経営を主な事業内容とする株式会社である原告が、平成18年1月1日から同年12月31日までの事業年度に事業の用に供したパチンコ器及びスロットマシン(パチスロ機)について、法人税法施行令第133条の適用があることを前提にその取得価額の全額を本件事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入して確定申告をしたところ、柏税務署長が、本件パチンコ器等には同条の適用はなく、これを固定資産に計上して減価償却をするべきであるとして、法人税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をしたため、その取消しを求めた事案である。 〈申告所得、更正処分及び異議決定処分の内容〉 ② 事案の争点 本件における争点は、本件パチンコ器等は法人税法施行令第133条所定の「使用可能期間が1年未満である」減価償却資産に該当するとして同条を適用し、その取得価額の全額を本件事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入することができるか否かである。 ③ 裁判所の判断 なお、本件は控訴されたものの棄却され(東京高裁平成23年11月29日判決・税資261号-230(順号11820)、TAINSコード:Z261-11820)、上告されたが不受理となり確定している(最高裁平成25年6月7日決定・税資263号-107(順号12231)、TAINSコード:Z263-12231)。 ④ 本裁判例から学ぶこと 減価償却資産は、その使用又は時間の経過によって価値が減少し、当該価値の減少分を減価償却費として計上することとなるが、当該価値の減少は、時間の経過による物理的な減少のみならず、社会的・経済的環境の変化に伴う陳腐化等を原因として生じるものもある。本裁判例で原告・納税者側は、主として後者の立場から、パチンコ器及びスロットマシン(パチスロ機)はその使用可能期間が1年未満の減価償却資産であることを主張していたものと思われる。 しかしながら、裁判所が業界におけるパチンコ器の使用実態を確認してみると、その更新の頻度は高いものの、人気機種を中心に中古での流通も活発に行われており、1年未満で使用されなくなるというようなことは一般的ではないということが判明したところである。そうなると、パチンコ器につき法定耐用年数が2年の減価償却資産とされることは、使用実態に照らしても相当といえ、使用可能期間が1年未満の消耗性の資産に該当するという納税者の主張が退けられたのは妥当であると考えられる。 また、スロットマシンは、耐用年数の適用等に関する取扱通達2-7-14によれば、耐用年数省令別表第一「器具及び備品」の中の「スポーツ具」に該当することから、その耐用年数は3年となる。スロットマシンの使用実態もパチンコ器と同様と考えられることから、少額の減価償却資産には該当しないといえよう。   (4) 本件へのあてはめ 法人税法施行令第133条に規定される少額の減価償却資産のうち、使用可能期間が1年未満のものは、その事業の用に供した日の属する事業年度において損金経理したときには、その取得価額が全額損金に算入されるが、ここでいう「使用可能期間」については、法人の属する業種において、一般的に消耗性のものとして認識されているか否かに基づいて判断すべきと解されている。パチンコ業界では、パチンコ器はその取得時において、通常の管理又は修理をするものとした場合に、事業の用に供してから1年以内に経済的にみて使用することができなくなる消耗性のものであるとの取扱いはされていないことから、少額の減価償却資産には該当しないと解される。また、パチスロ機は耐用年数省令上、パチンコ器とは異なる分類(スポーツ具、耐用年数3年)となっており、同様に少額の減価償却資産には該当しないものと解される。 (了)

#No. 547(掲載号)
#安部 和彦
2023/12/07

金融・投資商品の税務Q&A 【Q85】「上場外国株式を譲渡して外貨建てMMFを取得する場合の為替差損益」

金融・投資商品の税務Q&A 【Q85】 「上場外国株式を譲渡して外貨建てMMFを取得する場合の為替差損益」   PwC税理士法人 金融部 ディレクター 税理士 西川 真由美   ●○ 検 討 ○● 1 上場外国株式を譲渡した場合の課税関係 外国株式を譲渡し、譲渡対価の額が外貨で表示されている場合であっても、外貨で表示されている対価の額及び取得の対価の額を約定日の為替レートで換算した日本円の金額により譲渡損益を計算することとされています。 この換算に使用する為替レートは、外国株式の譲渡の対価の額については、金融商品取引業者との間の外国証券取引口座約款において定められている約定日におけるその支払をする者の主要取引金融機関(その支払をする者がその外貨に係る対顧客直物電信売買相場を公表している場合には、当該支払をする者)の当該外貨に係る対顧客直物電信買相場(TTB)によることとされています。また、取得の対価の額については、対顧客直物電信売相場(TTS)によることとされています。 したがって、外国株式の譲渡収入及び取得費は円ベースで計算されることになるため、為替差損益が含まれる場合であっても、それを区分することなく、譲渡損益を認識するものと考えられます。   2 金融資産の取得と為替差損益の認識 外国通貨で表示された預貯金を受け入れる金融機関を相手方とする当該預貯金に関する契約に基づき預入が行われる当該預貯金の元本に係る金銭により引き続き同一の金融機関に同一の外国通貨で行われる預貯金の預入からは、為替差損益を認識しないこととされています。つまり、実質的に外貨を保有し続けている状態であれば、為替レートの変動により為替に係る含み益が生じたとしても、それを課税所得として認識して確定申告する必要はないものと考えられます。 しかしながら、同じ外国通貨であっても、別の金融資産を取得する場合には、実質的に外貨を保有し続けている状態とはいい難いため、別の金融資産を取得した時点で為替差損益が実現したものとして取り扱うことになると考えられます。   3 本件へのあてはめ おたずねの場合、A株式に係る譲渡損益の額の計算は下記のとおりと考えられます(購入手数料や売却手数料はないものとします)。 A株式は上場株式等に該当するため、上記の譲渡所得の金額は上場株式等に係る譲渡所得等として申告分離課税(所得税及び復興特別所得税15.315%、地方税5%)の対象となると考えられます。 また、A株式の譲渡代金をドル建てで受領し、その後、ドル建てのMMFを取得したとのことですので、当該MMFの取得時に為替差益を認識する必要があるものと考えられます。この為替差益に係る所得は、雑所得として総合課税の対象となります。 なお、当該MMFは公募の公社債投資信託として上場株式等に該当するため、譲渡時には上場株式等に係る譲渡所得等として申告分離課税の対象になりますが、保有期間中の為替差損益は課税所得を構成せず、上記のA株式の譲渡損益と同様に、譲渡時に認識することになるものと考えられます。   (了)

#No. 547(掲載号)
#西川 真由美
2023/12/07

〈判例・裁決例からみた〉国際税務Q&A 【第36回】「管理支配基準における自ら事業の管理、支配等を行っていることの意義」

〈判例・裁決例からみた〉 国際税務Q&A 【第36回】 「管理支配基準における自ら事業の管理、支配等を行っていることの意義」   公認会計士・税理士 霞 晴久   〔Q〕 管理支配基準における自ら事業の管理、支配等を行っていることとはどのように考えればよいのでしょうか。 〔A〕 管理支配基準の判定において、外国関係会社が、その事業の管理、支配及び運営を本店所在地において自ら行っているといえるか否かについては、事業の実態を踏まえ、その事業上の意思決定やこれに基づく経営管理活動が本店所在地国において経常的にされているか否かを、株主総会や取締役会の開催状況、各役員の職務執行の状況、会計記録の作成・保管の状況その他経営資源の管理の状況等により総合的に勘案するという判断枠組みが示されました。 ●●●〔解説〕●●● 1 管理支配基準における自ら事業の管理、支配等を行っていることの意義 (1) 基本的な考え方 管理支配基準は、外国関係会社が本店所在地国においてその事業の管理、支配及び運営を自ら行っていることが要件とされている。「自ら行う」とは、外国関係会社が、事業の管理・支配・運営を自ら行うことを意味するものであることから、その行為の結果と責任等が外国関係会社自らに帰属することである(措基通66の6-7)。 ここでいう「結果と責任等が帰属すること」とは、独立企業として事業を行っていれば通常生じることとなる結果及び負担すべき責任が帰属することをいうのであって、外国関係会社の利益が配当を通じて株主である親会社に帰属することまでを意味するものではない(※1)。 (※1) 国税庁「外国子会社合算税制に関するQ&A(平成29年度改正関係等)平成30年1月(平成30年8月・令和元年6月改訂)」11頁。 (2) 役員が兼務役員である場合 外国関係会社の役員が、その親会社又は地域統括会社の役員又は使用人を兼務している場合もあるが、その役員が本店所在地国において外国関係会社の役員の立場で外国関係会社の事業計画の策定等を行い、かつ、その事業計画等に従い職務を遂行している限りにおいては管理支配基準を満たすものと考えられる(※2)。この場合において、役員が責任を負い、裁量をもって事業を遂行しているのであれば、外国関係会社はその活動に対する報酬を負担するのが通常であると考えられる。そのため、外国関係会社からの報酬の支払が認められない場合には、役員が責任を負い、裁量をもって事業を執行していることの証明には乏しく、ひいては外国関係会社自らが事業の管理、支配及び運営を行っていないと判断される重要な要素となり得る。とりわけ、地域統括会社の役員又は従業員が、外国関係会社の役員を兼務している場合等、同じグループ会社に勤務している場合は、どちらの会社の立場で業務が執行されたのかの判別は困難であるため、合理的な理由(例えば、労務管理の事務負担の観点等から、別途外国関係会社が報酬を負担していると認められるような事実)なく、外国関係会社から報酬が支払われず地域統括会社から報酬が支払われている時は、その役員は、地域統括会社の役員又は使用人の立場で業務を執行していると判断されることもあり得る。 (※2) 国税庁「平成29年12月21日付課法2-22ほか課共同「租税特別措置法関係通達(法人税法編)等の一部改正について」(法令解釈通達)の趣旨説明」11頁は、「外国関係会社の役員は、必ずしも常勤である必要はなく、いわゆる非常勤であったとしても(中略)当該外国関係会社の職務を執行している場合には、管理支配基準を満たすものと考えられる。」と述べている。 なお、外国関係会社の役員が、名義だけの役員や、不特定多数の会社のための業として行う役員のみである場合には、一般的にはその役員が外国関係会社の事業計画の策定等を行っておらず、職務を執行していないと考えられるため、外国関係会社は自ら事業の管理、支配及び運営を行っていないものと考えられる(※3)。 (※3) 前掲(※1)11~12頁。 以下では、事業上の意思決定等が行われる場所がどこかが問題とされた最近の裁判例を検討する。   2 最近の裁判例 《(第一審)東京地裁令和4年3月2日判決 (平成30年(行ウ)第87号)》(※4) (※4) TAINSコード:Z888-2443、控訴棄却〈確定〉 (1) 事案の概要 本件は、内国法人X(原告)が、香港に所在するB社(Xが30%出資する外国法人)には外国子会社合算税制が適用されないことを前提に確定申告をしたところ、所轄税務署長から、B社はXの特定外国子会社等に該当し、かつ、香港において、その事業の管理、支配及び運営を自ら行っていたとはいえず、外国子会社合算税制を適用すべきであるとして、更正処分等を受けたことから、Xは、同各処分は違法であると主張し、各処分の取消しを求めた事案である。 B社の発行済株式の60%を保有するU社は、焼結部品の製造等を営む内国法人であり、Xと共同でB社を設立し、B社は、中国広東省東莞市所在の工場(T工場)に加工を委託した粉末冶金製品の販売を行っていた。T工場の董事長兼総経理は当初U社の取締役であるS氏でその後U社の取締役であるA氏に交代した。S氏及びA氏は、それぞれ同時期にB社の董事長兼総経理を兼務していた。またB社及びT工場の董事は、Xの常務であるK氏であり、K氏はT工場が製造する焼結部品をB社から仕入れて第三者のメーカーに販売するK商社(Xが60%出資)の董事も兼務していた。 (2) 裁判所の判示 東京地裁は、以下のように判示し、適用除外規定は適用されず、Xには外国子会社合算税制が適用されると結論付けた。 ① 管理支配基準の判断基準 ② 事実認定及び検討 ③ Xの主張の排斥 Xによる、「(K氏が)、S氏との間で情報共有を図りながら、継続的に市場調査を行い、B社の取り扱う焼結部品の香港における新規ユーザーを開拓していたことは、B社の董事としての重要な職務の執行であったといえるから、(中略)B社は管理支配基準を満たす」という主張に対し、東京地裁は以下のように排斥した。 (3) 解説 本件では、管理支配基準充足の有無を判定するに当たり、事業上の意思決定やこれに基づく経営管理活動が行われた場所がどこであるかについて、具体的に、株主総会や取締役会(香港法人においては董事会)の開催状況、各役員の職務執行の状況、会計記録の作成・保管の状況その他経営資源の管理の状況等を総合的に勘案して判断するという枠組みが示されたところに意義があると思われる。複数の国又は地域に海外進出し、それぞれの国又は地域において機能別に分社化するようなグループ・ストラクチャーを採用する我が国法人が多い中で、グループ内にどのように人員を配置し、どのような役割を負わせるかについて、大いに参考となる事例であるといえる。 (了)

#No. 547(掲載号)
#霞 晴久
2023/12/07

Q&Aでわかる〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第36回】「相続後に発行法人に相続税評価額で株式を売却した場合の課税関係の留意点」

Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第36回】 「相続後に発行法人に相続税評価額で 株式を売却した場合の課税関係の留意点」   税理士 柴田 健次   Q A株式会社の取締役である甲は令和5年11月1日に相続が発生しています。甲はA社の株式4,000株(議決権総数の40%に相当する株式)を所有していましたが、遺言によりA社の株式は、甲の配偶者である乙及び長男である丙に2,000株ずつ相続させ、その他の財産は全て乙に相続させる旨の遺言書を遺していました。A社株式の相続税評価額は、236,000,000円(59,000円 × 4,000株)であり、その他財産は14,000,000円となります。 甲の相続人は乙及び丙の2人となり、乙の納付すべき相続税は配偶者の税額軽減の適用により0円、丙の納付すべき相続税は23,222,400円となります。 乙及び丙は、A社の代表取締役である丁にA社株式の買取について相談し、A社株式4,000株を相続税評価額236,000,000円でA社に売却することで合意しました。乙及び丙は、A社の株式を令和5年11月30日に発行法人であるA社に相続税評価額236,000,000円で売却を行っています。 相続後におけるA社株主の親族構成と株式保有状況は、下記の通りとなります。 発行済株式総数は10,000株であり、1株につき1議決権を有しているものとします。 A社は甲の父が創業者であり、創業当初から現在に至るまで資本金は10,000,000円であり、甲は、甲の父からA社株式4,000株を相続し、乙及び丙は甲から2,000株ずつ相続していますので、乙及び丙の取得費はそれぞれ2,000,000円となります。 A社の役員は、甲の死亡後は丁のみとなります。 上記の場合において、A社の株式を発行法人に売却した場合の乙及び丙の課税関係、自己株式を取得したA社の課税関係、A社株主である丁の課税関係はそれぞれどのようになりますか。 所得税の時価の算定にあたっては、財産評価基本通達を準用するものとします。 A社の株式の1株当たりの類似業種比準価額と純資産価額は次の通りとなります。A社の会社の規模区分は中会社の中に該当し、A社は特定の評価会社には該当しませんので、A社株式の相続税評価額は、1株当たり59,000円(12,000円 × 75% + 200,000円 × 25%)となります。 A 乙、丙、A社、丁の課税関係は、それぞれ下記の通りとなります。 (1) 乙の課税関係 下記を所得金額として所得税及び住民税が課税されます。 (2) 丙の課税関係 下記を所得金額として所得税及び住民税が課税されます。 (3) A社の課税関係 自己株式の取得はA社にとって資本等取引に該当するため、課税関係は発生しません。 (4) 丁の課税関係 自己株式取得後の丁のA社株式の相続税評価額と自社株式取得前の丁のA社株式の相続税評価額の差額が乙及び丙から贈与された金額となり、贈与税が課税されます。  ◆  ◆  ◆ ① 発行法人に株式を売却した場合の課税関係 (1) 売主の課税関係 非上場株式を発行法人に売却した場合には、みなし配当課税(所法25①)、みなし配当課税の特例(措法9の7)、みなし譲渡課税(所法59①)、相続税の取得費加算の特例(措法39)の適用の有無を判断する必要があります。 ❶ みなし配当課税 法人の株主等がその法人の自己株式の取得等の事由により金銭その他の資産の交付を受けた場合において、その金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額がその法人の資本金等の額のうちその交付の基因となったその法人の株式又は出資に対応する部分の金額を超えるときは、その超える部分の金額に係る金銭その他の資産は、剰余金の配当等とみなされます(所法25①)。 ❷ みなし配当課税の特例 相続又は遺贈による財産の取得をした個人で納付すべき相続税額があるものが、その相続に係る相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までの間にその相続税額に係る課税価格の計算の基礎に算入された非上場株式をその発行会社に譲渡した場合には、上記❶のみなし配当課税の規定は適用されないこととされています(措法9の7)。このみなし配当課税の特例の適用がある場合には、譲渡所得のみで課税関係を考えることになります。みなし配当課税の特例を受ける者は、「相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例に関する届出書」を譲渡する日までに発行会社に提出する必要があります。発行会社は譲り受けた日の属する年の翌年1月31日までに所轄税務署長にその届出書を提出する必要があります(措令5の2)。 ❸ みなし譲渡課税 個人から法人に非上場株式を著しく低い価額で譲渡した場合(時価の1/2未満の対価の額により譲渡した場合)には、みなし譲渡の適用がありますので、時価が資産の譲渡対価として取り扱われることになり、時価と取得価額等の差額に対して譲渡所得の課税がされることになります(所法59①、所令169)。 なお、時価の1/2以上の対価で譲渡した場合には、通常の売買と同様に譲渡対価と取得価額等の差額が譲渡損益として課税されます。ただし、法人に対する譲渡が所得税法157条の同族会社の行為又は計算の否認等の規定に該当する場合には、時価で譲渡したものとみなされます(所基通59-3)。 上記の時価は、所得税法の時価となりますので、所得税基本通達59-6に基づき算定することになります。 ❹ 譲渡所得の収入金額 法人が個人株主から自己の株式又は出資の取得を行う場合には、その個人株主が交付を受ける金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額(みなし配当額を除く)は譲渡所得等に係る収入金額とみなされます。この場合において所得税法59条1項2号の低額譲渡に該当するか否かの判断は、その自己株式等の時価に対して、個人株主に交付された金銭等の額が、著しく低い価額の対価であるかどうかにより判定を行います。そして、自己株式等の時価は、所得税基本通達59-6(株式等を贈与等した場合の「その時における価額」)により算定するものとされています。 したがって、低額譲渡に該当する場合には、自己株式等の時価に相当する金額から、みなし配当額に相当する金額を控除した金額が譲渡所得の収入金額とみなされます(措法37の10③五、措通37の10・37の11共-22) ❺ 相続税の取得費加算の特例 相続又は遺贈による財産の取得をした個人で相続税額があるものが、その相続に係る相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までの間にその相続税額に係る課税価格の計算の基礎に算入された資産の譲渡をした場合には、譲渡所得の金額の計算における取得費は、その取得費に相当する金額にその者の相続税額のうちその譲渡をした資産に対応する部分に相当する金額を加算した金額となります(措法39)。 (2) 発行法人の課税関係 自己株式を無償や低額で取得した場合に、取得時の時価と実際の取得価額との差額について受贈益を認識すべきという考え方も一部にありますが、平成18年度税制改正後の法人税法は、自己株式を有価証券としては認識をせず、自己株式の取得を資本等取引としているため、原則として発行法人に益金は生じないことになります(法法22②③④⑤)。 なお、A社には配当所得の源泉徴収義務がありますので、源泉所得税等として23,687,200円(116,000,000円 × 20.42%)を徴収して、その徴収日の属する月の翌月10日までに国に納付する必要があります。A社の税務仕訳は下記の通りとなります。 〔A社の税務仕訳〕 (3) 発行法人の株主の課税関係 みなし贈与課税(相法9)の適用の有無を判断する必要があります。 ❶ みなし贈与課税 著しく低い価額で発行法人に資産を譲渡したことにより、発行法人の株主は、株式の価値が増加しますので、その価値増加部分について譲渡をした者からその株主に対して贈与税が課税されることになります(相法9、相基通9-2)。この場合における著しく低い価額については、明確な基準がありませんので注意する必要があります(本連載【第35回】で解説)。 明確な基準はありませんが、みなし譲渡課税の場合の著しく低い価額は、時価の1/2未満の対価の額により譲渡した場合をいいますので、少なくとも時価の1/2未満の対価の額により譲渡した場合には、みなし贈与課税の問題も発生すると考えられます。 本問の場合の1株当たりの自己株式等の時価は126,000円、1株当たりの対価は59,000円であり時価の1/2未満の対価の額により譲渡した場合に該当しますので、みなし贈与課税の問題が発生することになります。 ❷ 丁のみなし贈与課税の計算 丁は直接乙及び丙から利益を受けたわけではなく、A社が自己株式を取得したことで所有していた株式の価値が増加したに過ぎません。したがって、贈与を受けた金額は、A社が取得した自己株式等の時価相当額である504,000,000円と交付金銭等の額236,000,000円の差額ではなく、自己株式取得後の丁のA社株式の相続税評価額と自己株式取得前の丁のA社株式の相続税評価額の差額となります。あくまでも贈与税課税の計算となりますので、A社株式の相続税評価額を基に計算することになります。 自己株式を取得後のA社株式の相続税評価額の計算は、上記(2)のA社の税務仕訳を確認し、下記の点について留意する必要があります。   ② 自己株式等の時価の算定 自己株式等の時価は、下記の所得税基本通達59-6(株式等を贈与等した場合の「その時における価額」)により算定することになります。 所得税基本通達59-6(株式等を贈与等した場合の「その時における価額」) (下線部は筆者による) 本問の場合には、財産評価基本通達を準用するものとしていますので、上記通達の(1)から(4)の定めに基づき時価算定することになります。(1)の定めにより、株主判定は譲渡前の議決権数に基づきその判定を行うことになります。 同族株主がいる場合の株主判定の手順は、下記の通りとなります。 【個人から法人に売却した場合において同族株主がいる場合の株主判定の手順】 ◎用語の意義と当てはめ ▷同族株主 課税時期における評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の30%以上(その評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が最も多いグループの有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の50%超である会社にあっては、50%超)である場合におけるその株主及びその同族関係者をいいます(評価通達188(1))。本問の場合には、譲渡前で株主判定を行うことになりますので、乙、丙及び丁が同族株主に該当します。 ▷同族関係者 法人税法施行令第4条(同族関係者の範囲)に規定する特殊の関係のある個人又は法人をいいます(評価通達188(1))。 特殊の関係のある個人は、例えば株主等の親族などをいいます。本問の場合には、乙の同族関係者に丙及び丁も含まれることになります。 ▷中心的な同族株主 課税時期において同族株主の1人並びにその株主の配偶者、直系血族、兄弟姉妹及び1親等の姻族(これらの者の同族関係者である会社のうち、これらの者が有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の25%以上である会社を含む)の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の25%以上である場合におけるその株主をいいます(評価通達188(2))。 本問の場合には、譲渡前で中心的な同族株主の判定を行うことになりますが、乙、丙及び丁の判定は次の通りとなります。 乙:20% + 20% = 40% ≧ 25% ∴中心的な同族株主に該当する 丙:20% + 20% = 40% ≧ 25% ∴中心的な同族株主に該当する 丁:60% ≧ 25% ∴中心的な同族株主に該当する ■本問の場合における株主判定 筆頭株主グループの議決権割合は100%となり、50%超の区分に該当することになります。 乙及び丙は、譲渡直前の議決権割合は、それぞれ単独で5%以上所有していますので、原則的評価方式が適用される株主に該当することになります。 ■本問の場合における自己株式等の時価算定 乙及び丙は譲渡直前において中心的な同族株主に該当することになりますので、所得税基本通達59-6(2)の適用により小会社に該当するものとして計算することになります。したがって、類似業種比準価額の使用割合であるLの割合は50%となり、類似業種比準価額 × 50% + 純資産価額 × 50%で計算することになります。 この場合の類似業種比準価額を求める際の斟酌割合は小会社としての斟酌割合(0.5)ではなく、A社の会社規模区分(中会社)としての斟酌割合(0.6)となりますので、採用する類似業種比準価額は12,000円となります(令和2年9月30日国税庁資産課税課情報第22号)。 また、純資産価額は、所得税基本通達59-6(3)及び(4)の定めにより、土地及び上場有価証券は相続税評価ではなく時価により算定し、法人税額等相当額の控除もしない価額(240,000円)となります。 したがって、1株当たりの価額は126,000円(12,000円 × 50% + 240,000円 × 50%)となります。   ☆実務上のポイント☆ 相続後に相続人等が発行法人へ非上場株式を売却することは、相続税の納税資金の確保等のために利用されますが、相続税評価額で売却するとみなし譲渡課税やみなし贈与課税のリスクがありますので注意する必要があります。 また、みなし配当課税の特例は、相続税の納税がない相続人等には適用されず、みなし配当課税になると多額の税額負担になりますので、取得者を配偶者にする場合には、注意が必要となります。 (了)

#No. 547(掲載号)
#柴田 健次
2023/12/07
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