〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第48回】 「株式報酬制度に関する役員と従業員の相違点」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 従業員を株式報酬制度の対象とする背景 株式報酬制度は、対象者に中長期のインセンティブを与えることで、モチベーションアップや離脱を防止できる等のメリットがあり、従来は役員を対象としたものが一般的であった(※1)。 (※1) 株式報酬制度のうち、事前交付型リストリクテッド・ストックについての解説は、【第4回】参照。その他、株式報酬制度には事後交付型が存在する。これは、対象勤務期間の終了後株式を交付するという形態であり、事後交付型リストリクテッド・ストックや、パフォーマンス・シェアがある。 これに対し、近年では会社法上の取締役等に該当しない執行役員や、その他幹部従業員に対して株式報酬制度を導入する企業が増えているといわれている。現に、2022年7月19日、経済産業省が改訂した「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」には、「5.5. 幹部候補人材の育成・エンゲージメント向上」に、「報酬設計において、これまでも自社株報酬が付与されていることが多い執行役員に加え、中堅の幹部候補等も自社株報酬の付与対象に含めることも考えられる」と明記されている。 昨今では、ワーク・ライフ・バランスという概念が浸透し、働き方改革が実践される等したため、従来と比較してフレキシブルな働き方を選択する労働者が多くなっている。この点、企業にとっては時代の潮流に対応しながら優秀な人材を確保し続けることは課題となるため、今後、従業員に対して株式報酬制度を導入することを検討する企業はさらに増加すると思われる。 ところが、従業員は役員と異なるため、労働基準法上の「賃金通貨払いの原則」や、株式の無償交付に係る会社法との関係等が問題となり得る。したがって、株式報酬制度の導入には不明瞭な部分があった。そこで経済産業省は、上記の通り手引きを改訂することで、このような問題に対する解説を示したのである。 (2) 手引きに示された内容 従業員を対象とした株式報酬制度の導入について、手引きには、役員との相違点に触れる形で以下の点が追記された。 ① 「賃金通貨払いの原則」への抵触可能性(手引きQ80及びQ81(1)) 労働基準法では、従業員の賃金を通貨で支払うことを原則とする「賃金通貨払いの原則」が定められている(労働基準法24)。ここで、従業員に通貨ではなく株式を交付する仕組みである株式報酬制度が、当該原則に抵触するか否かが問題となっていた。 この点、手引きQ80及びQ81(1)では、CGSガイドラインが改訂された際、以下の要件を充足することで「福利厚生施設」に該当すると考えられるため、当該原則には抵触しないと整理されたことに言及している。 なお、留意点として、上記bについては、「賃金として株式を給付する」と定められている場合には賃金性が肯定されやすくなることが示されている。また、上記cについては、「事後的な利益の大小ではなく、制度設計として、通貨による賃金等が報酬体系の中で補助的なものであり、自社株式給付によって得られる利益が主とされていると解されるかどうかの問題である」と示されている。 これは、賃金等に該当すれば通貨払いが求められるところ、労働の対価としての性質が色濃いことを示すことができれば、株式としての支給が可能となるという趣旨だと思われる。ただし、従業員を対象とした株式報酬制度の導入については、以下②の会社法との関係にも留意する必要がある。 ② 会社法上の手続き(手引きQ81(2)) 株式報酬制度について、役員を対象とする場合には、株主総会や報酬委員会において、役員報酬に係る決議を行うことが必要となる。この点、従業員は役員と異なるため、従業員を対象とした株式報酬制度については、株主総会や報酬委員会に係る決議が不要であると解説された。 また、会社法上、従業員に株式を無償交付することができないため(※2)、現物出資型を前提として、基本的な流れは以下の通りであるとも示されている。 (※2) この件については以下③及び⑤でも触れられている。 ③ 金融商品取引法や上場規則における開示との関係(手引きQ81(3)及び(4)) 上場企業が従業員に対して株式報酬を交付するために第三者割当を行う場合の金融商品取引法上の開示規制、及び上場規則における開示については、原則として役員等を対象とする場合と同様であることが示された。 ④ 社会保険料算定への影響(手引きQ81(5)及びQ13) 従業員を対象として株式報酬制度によって株式を交付した場合においても、原則として社会保険料の算定の基礎となる「報酬」及び「賞与」の範囲(以下、「報酬等」という)に含まれることが示された(※3)。 (※3) ただし、ストックオプションについては、自社株をあらかじめ定められた権利行使価格で購入する権利を付与するものであることから、報酬等に該当しないこと等も併せて示されている。 ⑤ 税務上及び会計上の取扱い(手引きQ81(6)) 従業員を対象とする場合には、役員給与の損金不算入が適用されないため、原則として損金算入が可能である(法法34)。 しかし、執行役員などの場合、法人の経営に従事しているものとして法人税法上の役員に該当した場合(法法2十五)、役員給与に関する規定が適用される可能性があることにも言及されている(※4)。 (※4) 法人税法上のみなし役員に関しては、【第1回】参照。 * * * このように、2023年3月31日に行われた手引きの改訂は、従業員を対象とした株式報酬制度の導入に係る論点が中心となっている。さらに、従業員に株式を発行する場合の譲渡制限付株式割当契約書の例も示されているため、実際に導入を検討する場合には必見といえる。 (3) 従業員等への自社株報酬以外の改訂箇所 その他の改訂ポイントとして、役員を対象とした株式報酬制度を導入した際、必要となる株主総会に付議する報酬議案について、一例を示す形で株主総会報酬議案等が示されている。 (了)
基礎から身につく組織再編税制 【第51回】 「株式分配の概要」 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 今回は、株式分配の概要について解説していきます。 1 株式分配の定義 「株式分配」とは、現物分配のうち、現物分配直前において現物分配法人により発行済株式の全部を保有されていた法人(完全子法人)のその発行済株式の全部が移転するもの(※)をいいます(法法2十二の十五の二)。 (※) 現物分配により完全子法人株式の全部の移転を受ける者が、現物分配の直前において現物分配法人との間に完全支配関係がある者のみである場合における現物分配は、株式分配から除かれています。 株主に対して、会社の事業を切り出して設立した子会社の株式又は既存の子会社の株式を交付することにより、事業又は子会社を切り離す行為を「スピンオフ」といいますが、株式分配は子会社をスピンオフする場合に使われる手法です。 ① 単独新設分割型分割 ② 株式分配 上図①の分割型分割により特定の事業をスピンオフする場合については、本連載【第23回】をご参照ください。今回は、上図②の完全子法人をスピンオフする株式分配について解説します。 2 株式分配の課税関係 株式分配に係る課税関係を非適格・適格ごとに表にまとめると、次のようになります。なお、今回は株式分配の課税関係のイメージをつかんでいただくことを目的としているため、現時点で下記の表をすべて理解する必要はありません。 現物分配法人、現物分配法人の株主の課税上の取扱いの詳細については、次回以降で説明していきます。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 3 株式分配の事由 株式分配とは、法人がその株主等に対し、その法人の次に掲げる事由により、完全子法人株式の交付をすることをいいます(法法2十二の十五の二)。 ◆株式分配の概要のポイント◆ 株式分配は、現物分配法人から現物分配法人の株主へ完全子法人株式が時価で譲渡されたものとして取り扱います。 株式分配があった場合には、現物分配法人は、完全子法人株式の譲渡損益を認識します。 株式分配があった場合には、現物分配法人の株主は、みなし配当を認識します。 特例として適格株式分配の場合には、現物分配法人は完全子法人株式を簿価で移転したものとして課税されず、現物分配法人の株主においてもみなし配当は認識されません。 (了)
「人的資本可視化指針」の内容と 開示実務における対応のポイント 【第2回】 「人的資本可視化の方法と参考となるフレームワークや考え方」 PwCあらた有限責任監査法人 ディレクター 公認会計士 北尾 聡子 【第1回】では、人的資本の可視化のニーズの高まりとその背景、国内外の開示規制の動向について解説を行った。人的資本の可視化を推進することにより、企業は投資家の理解を得ながら、中長期的に企業価値の向上を実現することが期待されている。 【第2回】においては、人的資本の可視化の方法について、参考となるフレームワークや考え方を紹介するとともに、可視化を行う際の開示実務上の対応のポイントを解説する。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りしておく。 第2章 人的資本の可視化の方法 1 原則主義に基づく3つのフレームワークの活用 (1) 価値協創ガイダンスの活用 投資家との対話を通じて価値創造ストーリーを磨き上げる「価値協創」を加速させるためには、企業と投資家をつなぐ共通言語が必要であるとして、2017年5月に経済産業省から、企業固有の価値創造ストーリーを構築し、質の高い情報開示・対話につなげるためのフレームワーク「価値協創ガイダンス」が、2022年8月に改訂版「価値協創ガイダンス2.0」が公表された。 『自社の人的資本への投資・人材戦略』が、自社の価値観、目指す姿(長期ビジョン)、ビジネスモデル、経営上のリスクと機会の各要素とどのように結びついているのかを、「価値協創ガイダンス」を活用し、確認しながら議論することで、自社の経営戦略との関係性を明確にすることができる。 (出典:経済産業省「企業と投資家の対話のための「価値協創ガイダンス 2.0」」) (2) IIRC(International Integrated Reporting Council:国際統合報告評議会)フレームワークの活用 IIRCのフレームワークは、組織の価値創造能力の分析を助けるために利用されることを目的として、統合報告書に含まれるべき情報を特定したものである。当フレームワークは、2013年12月に公表された後、 2021年1月に改訂版が公表された。企業が人的資本を含む6つの資本を用いて、長期にわたり価値の創造、保全をどのように行うのか、また事業活動の中で価値の毀損がどのように生じるのか、資本とビジネスモデルとの関係性、価値創造とのつながりを説明することを求めている。 『人的資本』に関するインプットが、事業活動を通じてどのようなアウトプットにつながり、さらにどのようなアウトカム(短、中、長期にわたる正及び負の影響)につながるのか、他の資本との関係性を含めて統合的に説明していく上での効果的なフレームワークとなっており、活用が期待されている。 (出典:内閣官房「人的資本可視化指針」P.12) (3) FRC(Financial Reporting Council:英国財務報告評議会)の「従業員に関する企業報告」の活用 FRCの人的資本に関する報告書(「Workforce-related corporate reporting-where to next?-」)では、企業が従業員関連事項について説明が奨励される事項を4つの要素(「ガバナンスと経営」、「ビジネスモデルと戦略」、「リスク管理」、「指標と目標」)に沿って解説している。 (※) 内閣官房「人的資本可視化指針」P.13をもとに筆者作成 ⇒ FRCの人的資本に関する報告書で採用されているとおり、人的資本の開示においても、4つの要素を検討することが効果的であり、活用が期待される。 (※) 内閣官房「人的資本可視化指針」P.14、15、38、39をもとに筆者作成 2 人的資本の可視化を進める際の開示実務における対応ポイント 上記1において、人的資本への投資が企業価値向上や競争力強化にどのようにつながるかを明確化するための、参考となるフレームワークを複数(3つ)紹介した。ただ、フレームワークが複数あると混乱や迷いが生じやすいかもしれない。これらのフレームワークはそれぞれ独立しており、どれを参考にしてもよいと思うが、いずれにせよ、5W1Hを意識したシンプルな開示内容を検討することが重要である。 その他、人的資本の開示実務における対応ポイントとして、いくつか紹介する。 〈開示における2つの類型(独自性・比較可能性)を考慮する〉 (※) 内閣官房「人的資本可視化指針」P.16~18をもとに筆者作成 ⇒ 「独自性」と「比較可能性」のバランスを確保することを開示において意識することがポイントである。 〈2つの側面(価値向上・リスクマネジメント)を意識する〉 (※) 内閣官房「人的資本可視化指針」P.28をもとに筆者作成 ⇒ 2つの側面があることを意識し、説明方法を整理することがポイントである。 (出典:内閣官房「人的資本可視化指針」P.28) 〈さまざまな開示上のアピールポイントを考慮する〉 (※) 内閣官房「人的資本可視化指針」P.30、31をもとに筆者作成 ◆まとめ◆ 人的資本の可視化の方法としては、まずは原則主義に従い、参考となるフレームワークに沿って開示の大枠を検討した上で、開示上留意すべきいくつかのポイントを押さえることが重要である。次回【第3回】(最終回)は、実質を伴った強靭な人事戦略を策定するための基盤・体制づくりについて解説する。加えて、有価証券報告書における制度開示対応や積極的な任意開示を行う際の開示実務におけるポイントを解説する。 (了)
内部統制報告制度改訂案のポイントを読み解く 【第3回】 (最終回) 「業務プロセス選定手続と評価範囲の変更の可能性」 米国公認会計士・公認内部監査人 打田 昌行 本連載の最終回となる本稿では、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(公開草案)」で示された、内部統制の基本的枠組みに関する改訂について、以下のポイントを読み解く。 Ⅰ 財務報告に係る内部統制の評価及び報告、そして内部統制の監査に関する改訂点 財務報告に係る内部統制の評価及び報告において示された改訂点のうち、「経営者による内部統制の評価範囲の決定」に重点を置いて分析をしたい。具体的には、業務プロセスに関わる重要な事業拠点の選定や企業の事業目的に大きく関わる勘定科目に関する考え方が、今後も更に企業会計審議会において段階的に検討され、大きく変貌する可能性が想定されるからである。 次に、財務報告に係る内部統制の監査に関する改訂点については、外部監査人の視点から離れ、あえて内部統制の整備や運用を担う企業の立場から考える。 Ⅱ 経営者による内部統制の評価範囲の決定 1 重要な事業拠点を決定するための複数の指標 現行では、企業が複数の事業拠点を有する場合は、「例えば、本社を含む各事業拠点の売上高等の金額の高い拠点から合算していき、連結ベースの売上高等の一定の割合(筆者注:売上高の概ね2/3)に達している事業拠点を評価の対象とする。」としている。つまり売上高を、評価範囲を決定する際の基本的な指標に定め、その範囲に属する拠点を業務プロセスに関わる重要な事業拠点として定義してきた。他方で企業の周囲の環境や事業特性を考慮し、銀行等の経常収益も異なる指標として例に挙げていた。 今回の改訂では、「更に、総資産、税引前利益等の異なる指標や追加的な指標を用いることがある。」と述べ、主な指標として用いてきた売上高に加え、新たな指標を追加するかたちとなった。 2 「財務報告に及ぼす影響」を踏まえた業務プロセスの選定 今後は業務プロセスの選定に関わる考え方やアプローチが大きく変貌する可能性がある。 (1) 企業の事業目的に大きく関わる勘定科目に至る業務プロセス 重要な事業拠点の中でも、企業の事業目的に大きく関わる勘定科目に至る業務プロセスは、原則として全てを評価の対象とすると定められてきた。しかし今回の改訂案では、「財務報告に及ぼす影響を勘案し」という前提を加えたうえで、業務プロセスは「原則として全てを評価の対象とする。」に改められた。後述するが、この新たに加えられた前提は今後、評価範囲の選定の手続に関する重要な変更の検討に道を開く足がかりとなり得る。 (2) 売上、売掛金及び棚卸資産に繋がる業務プロセス 業務プロセスの選定に係る例示として、一般的な事業会社の場合、売上、売掛金及び棚卸資産に繋がるプロセスを従来通り挙げているが、「これはあくまで例示であり、個別の業種、企業の置かれた環境や事業の特性等に応じて適切に判断される必要がある。」と述べ、機械的な適用を避けるよう求めたことは、改訂前後を通じ変わりはない。 (3) 業務プロセス選定に関わる考え方やアプローチが大きく変貌する可能性 今回の改訂案では、業務プロセスの選定に際して「売上高等の概ね2/3」や「売上、売掛金及び棚卸資産の3勘定」を「機械的に適用せず、(中略)財務報告に対する影響の重要性を適切に勘案することを促すよう、基準及び実施基準における段階的な削除を含む取扱いに関して、今後、当審議会で検討を行う」と述べられた。 つまり、「売上高等の概ね2/3」や「売上、売掛金及び棚卸資産の3勘定」に関する取扱いに対して、今後段階的な削除を含む検討が重ねられ、業務プロセスの選定の手続や評価の範囲が大きく変わる可能性が出てきた。では、米国の企業改革法(US-SOX)の場合はどうかといえば、「売上高等の概ね2/3」や「売上、売掛金及び棚卸資産の3勘定」などの例を示すことで、業務プロセスの評価範囲を絞り込むことは、元来していない。 3 評価範囲外の事業拠点や業務プロセスにおいて発生した不備への対応 内部統制の評価や監査の際に、内部統制評価の枠外の事業拠点や業務プロセスにおいて、開示すべき重要な不備に相当する事象が検出されることはよくある。検出された不備は内部統制の評価や監査の有効性に影響をもたらすが、評価範囲の枠外であるために、内部統制報告制度のルールに従い、当該会計期間内に改善が求められるものではなかった。 しかし、今回の改訂案では、「評価範囲外の事業拠点又は業務プロセスにおいて開示すべき重要な不備が識別された場合には、(中略)少なくとも当該開示すべき重要な不備が識別された時点を含む会計期間の評価範囲に含めることが適切である。」と述べるとともに、「財務諸表監査の過程で識別された内部統制の不備には、経営者による内部統制評価の範囲外のものが含まれることがある。監査人は、当該不備について内部統制報告制度における内部統制の評価範囲及び評価に及ぼす影響を十分に考慮しなければならない。」として、外部監査人に対し、評価範囲外における財務諸表監査の不備についても加味することを求めた。 この改訂案が実施された場合、評価の枠外で検出された開示すべき重要な不備は、内部統制報告制度のルールに沿って、当該会計期間内に全て改善を施すため、文書を整備したうえに評価と監査を経なければならない。さもなければ自社の内部統制は非有効となり、内部統制報告書においてその旨を開示しなければならない。特に、期末近くに不備が検出された場合、改善に要する期間が短いために不備の克服自体がきわめて厳しくなることが想定される。 4 長期間にわたり評価範囲外としてきた特定の業務プロセス 更に改訂案によれば、「長期間にわたり評価範囲外としてきた特定の業務プロセスについても、評価範囲に含めることの必要性の有無を考慮しなければならない。」と述べているが、これがいかなるケースを具体的に想定したのか、現時点では想像がつかない。来期以降、本改訂が実務に導入された場合、金融庁による内部統制報告制度に関するQ&Aなどで具体的な事例が示されることを期待したい。 Ⅲ 財務報告に係る内部統制の監査 内部統制報告制度の実務運用において、経営者による評価範囲の決定は毎期、重要な課題である。前述の通り、評価範囲決定に用いる指標は様々だが、評価の対象拠点や業務プロセスなどの評価範囲を巡り、経営者が外部監査人と激しい議論に発展するケースは多い。また年度当初に評価範囲を決めたにも関わらず、売上高等の激変、期中における事業売却や企業買収等で、その後に評価範囲や評価対象拠点が変動することもしばしば起きる。 そこで今回の改訂では、「監査人は、経営者による内部統制の評価範囲の決定前後に、当該範囲を決定した方法及びその根拠等について、(中略)経営者と協議を行っておくことが適切である。」と述べられた。経営者及び外部監査人双方による、評価範囲の決定前後の協議を求めながら、「一方で、(中略)評価範囲の決定は経営者が行うものであり、当該協議は、あくまで監査人による指摘を含む指導的機能の一環であることに留意が必要である。」と、双方の権限や責任についても述べている。これらを具体的な手続として示せば、以下のようになる。 1 経営者による評価の計画段階における協議 「通常、経営者は、評価計画の作成過程で内部統制の評価範囲を決定する。経営者との協議は、経営者が評価範囲を決定するまでに実施することが適切である」と改訂案は述べている。つまり、経営者は主体的に評価計画や範囲を決定するが、その間外部監査人が必要に応じて指導を行い、双方協議を通じ最終的に評価範囲を決定すべきであるとされている。経営者と外部監査人が相互理解を深めるべきであることは、従前と変わりはない。 2 状況の変化などがあった場合の協議 更に改訂案では、「経営者との協議は、経営者による評価の計画段階に限定されない。監査人は、経営者による評価の計画段階で把握した事象や状況が変化した場合、あるいは新たな事実を発見した場合には 、評価範囲の妥当性を検討し、経営者と協議することが適切である。」と述べている。ビジネスは常に変わる。そのため経営者は、外部監査人との相互の理解を共有しておく必要がある、さもないと思わぬ不備を呼び込むことにもなりかねない。事業の買収や組織の改編などがあれば、なおさらである。要するに双方は長距離マラソンを同伴するようなものである。 (連載了)
〔まとめて確認〕 会計情報の四半期速報解説 【2023年4月】 期末決算(2023年3月31日) 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 3月決算会社を想定し、期末決算(2023年3月31日)に関連する速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 基本的に2023年1月1日から3月31日までに公開した速報解説を対象としている。 期末決算でも、すでに公表した四半期決算に関連する速報解説に引き続き注意する必要がある。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。 Ⅱ 会計関係 企業会計基準委員会から次のものが公表されている。 ① 国際会計基準審議会(IASB)「国際的な税制改革-第2の柱モデルルール IAS第12号の修正案」(公開草案)(内容:経済協力開発機構(OECD)が公表した第2の柱モデルルールの間近に迫った適用から生じる繰延税金の会計処理からの一時的な救済措置を取り扱うもの。意見募集期間は2023年3月10日まで) ② 「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い(案)」(実務対応報告公開草案第64号)(内容:グローバル・ミニマム課税制度を前提として税効果会計を適用することについては、実務上困難であるとの意見があることから、必要と考えられる特例的な取扱いを示す) なお、②の公開草案については、2023年3月31日、「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い」(実務対応報告第44号)として確定している。 Ⅲ 法令関係 1 会社法関係 2022(令和4)年12月26日、「会社法施行規則等の一部を改正する省令」(法務省令第43号)が公布された。 これは、電子提供制度における書面交付請求をした株主に交付する書面に記載することを要しない事項に関して改正するものである。 いわゆるウェブ開示によるみなし提供制度の対象事項についても同様の見直しを行い、また、形式的整備を含む所要の改正も行っている。 上記に対応して、日本経済団体連合会 経済法規委員会企画部会の「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型」(改訂版)が更新されている。 2 金融商品取引法関係 次のものが公布・公表されている。 ① 「企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第11号)(内容:有価証券報告書等において、サステナビリティに関する企業の取組みの開示及び人的資本・多様性に関する開示、コーポレートガバナンスに関する開示などを行うもの) ② 「記述情報の開示の好事例集2022」(内容:サステナビリティ情報等に関する開示の好事例を示す) ③ 「記述情報の開示の好事例集2022」の更新(内容:「コーポレート・ガバナンスの概要」、「監査の状況」、「役員の報酬等」及び「株式の保有状況」に関する開示の好事例の追加) ④ 「有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項及び有価証券報告書レビューの実施について(令和5年度)」(内容:重点テーマ審査として「サステナビリティに関する企業の取組みの開示」を示す) Ⅳ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① 「監査基準報告書701 研究文書第2号「監査上の主要な検討事項」の事例分析(2021 年4月~2022 年3月期)レポート(研究文書)」(内容:2022年3月期で強制適用2年目となる監査上の主要な検討事項(Key Audit Matters:KAM)についての分析) ② 「監査上の主要な検討事項(KAM)の特徴的な事例と記載のポイント2022」(内容:金融庁がKAMの記載に関する適用2年目に見られた創意工夫と課題についてまとめたもの) Ⅴ 監査役等の監査関係 監査役等の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① 「改訂コーポレートガバナンス・コードにおける監査役等関連項目への対応と今後の課題」(内容:2021年6月のコーポレートガバナンス・コードの改訂から1年を経過するタイミングで、監査役・監査等委員・監査委員関連の項目について、各社の対応状況や監査役等の監査の状況について調査を実施し、今後の取組みを検討) ② 「企業のサステナビリティへの取組みおよび監査等委員会の関与の在り方〈現状分析編〉」(内容:サステナビリティに関する議論や背景などについての整理や、アンケート調査の実施) Ⅵ 過年度に公表されている会計基準等 過年度に公表されている会計基準等のうち、2022年4月1日以後に適用されるものとして、次の会計基準等がある。 ① 「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」(2021年8月12日、実務対応報告第42号)(内容:グループ通算制度の適用に関する会計処理及び開示) ② 「時価の算定に関する会計基準の適用指針」(2021年6月17日、改正企業会計基準適用指針第31号)(内容:投資信託の時価の算定と貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資の時価についての取扱い) また、「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い」(2022年8月26日、実務対応報告第43号)については、2023年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用する。 ただし、実務対応報告の公表日(2022年8月26日)以後終了する事業年度及び四半期会計期間から適用することができる。 (了)
給与計算の質問箱 【第40回】 「締め日又は支給日を基準とした書類の作成」 税理士・特定社会保険労務士 上前 剛 Q 社会保険の書類や税金の納付書には給料の締め日を基準に作成するものと支給日を基準に作成するものがあるそうですが、末日締めの翌月20日払いのケースと20日締めの当月末日払いのケースを例にご教示ください。 A 給料の締め日もしくは支給日を基準に作成する労働保険料申告書、算定基礎届、源泉所得税納付書における「末日締めの翌月20日払いのケース」と「20日締めの当月末日払いのケース」は以下のとおりである。 * * 解 説 * * 1 労働保険料申告書 労働保険料申告書は締め日ベースで作成する。 労働保険料申告書は毎年6月1日から7月10日の間に前年4月締めの給料から当年3月締めの給料を集計して労災保険料と雇用保険料の申告・納付をする。 〈末日締め翌月20日払いのケース〉 前年4月30日締め5月20日支給の給料から当年3月31日締め4月20日支給の給料を集計する。 〈20日締めの当月末日払いのケース〉 前年4月20日締め4月30日支給の給料から当年3月20日締め3月31日支給の給料を集計する。 2 算定基礎届 算定基礎届は支給日ベースで作成する。 算定基礎届は毎年7月1日から7月10日の間に当年4月支給、5月支給、6月支給の給料を記入して提出する。後日、当年9月から翌年8月までの社会保険料(健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料)が決定される。 〈末日締め翌月20日払いのケース〉 〈20日締めの当月末日払いのケース〉 3 源泉所得税納付書 源泉所得税納付書は支給日ベースで作成する。 源泉所得税は1月分から6月分を7月10日まで、7月分から12月分を翌年1月20日までに納付する。1月分から6月分の給料にかかる源泉所得税については、以下のとおり記入する。 〈末日締め翌月20日払いのケース〉 12月31日締め1月20日支給の給料より天引きした源泉所得税から5月31日締め6月20日支給の給料より天引きした源泉所得税を記入する。 〈20日締めの当月末日払いのケース〉 1月20日締め1月31日支給の給料より天引きした源泉所得税から6月20日締め6月30日支給の給料より天引きした源泉所得税を記入する。 (了)
税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第40回】 「新規地代を求める新しい考え方」 ~賃貸事業分析法という手法~ 不動産鑑定士 黒沢 泰 1 はじめに 前回は、事業用不動産、すなわちその収益性が事業の経営動向に強く影響を受けるものにつき、建物施設等の支払賃料等相当額を売上高をベースに求める手法について解説しました。そこでは、数ある事業形態のうち、賃貸・運営委託方式(=不動産の賃借人が事業経営を行い、運営をマネジメント会社に委託する方式)を前提とした場合に、賃借人の売上高から推してどれだけの賃料の支払いが可能か(=負担可能賃料はどこまでか)という視点から考え方を紹介しました(これは、不動産鑑定評価基準では「収益分析法」という手法の1つに含まれますが、前回の解説ではこの用語そのものは取り上げませんでした)。 今回は、(これも非常に紛らわしい概念で恐縮ですが)事業者が土地を賃借し、その契約内容に基づく予定建物(敷地を含む)を一括してテナントに新規に貸し付けること(イメージは〈資料1〉)を想定した場合の期待家賃を出発点として新規地代相当額を試算する考え方を紹介します(この手法を「賃貸事業分析法」と呼んでいます)。 〈資料1〉賃貸事業分析法の前提 この手法は、後掲の一連の作業過程を経て、建物が生み出す純収益と土地が生み出す純収益をそれぞれ査定し、土地が生み出す純収益をもって新規地代相当額とみなす点に特徴があります。 税理士の皆様にとっては、あまり見かけることのない手法であると思いますが、平成26年の不動産鑑定評価基準の一部改正に伴って追加されていますので、参考までに紹介させていただきます。 2 賃貸事業分析法という手法が新たに導入された背景 旧借地法においても新しい借地借家法においても同じことがいえますが、建物所有を目的として土地を長期間貸し出した場合、貸主に余程の事情がない限り土地は半永久的に戻って来ないのが実情です(ただし、新しい借地借家法で創設された定期借地権を設定した場合は別です)。そのため、親族間あるいは親子会社間等の特殊な関係や一部の例外を除き、新規に借地権(普通借地権)を設定するケースは現時点ではほとんど見受けられません。 このようなことから、従来、新規地代の鑑定評価の依頼を受けるケースは、実際問題として珍しかったといえます。もちろん、不動産鑑定評価基準には新規地代を求める手法として、土地価格に期待利回りを乗じて得た額に公租公課等の必要諸経費を加算して求める方法(積算法)(※1)や賃貸事例比較法(※2)等が規定されていますが、普通借地権の設定事例が収集しにくいため地代相場をつかむことが困難であり、仮に新規地代の鑑定評価を依頼された場合でも積算法のみに頼らざるを得ないというのが正直なところでした。 (※1) この手法を適用して試算した賃料を「積算賃料」と呼んでいます。 (※2) この手法を適用して試算した賃料を「比準賃料」と呼んでいます。 世間的には、公租公課の何倍という地代の取り決めも行われていますが、不動産鑑定評価基準には直接この手法が登場しているわけではありません(【第6回】の本連載でも取り上げましたが、他の手法で求められた結果の検証手段としての位置付けにあります)。 その後、新しい借地借家法(平成4年8月1日施行)により定期借地権の制度が創設されたこともあり、これを活用した建物賃貸事業が増えてきました。これに伴い、事業者にとっては賃貸建物の敷地が定期借地権によることから、その地代をどのように決めるかが重要な関心事となってきました。このような状況を踏まえ、平成26年の不動産鑑定評価基準の一部改正時に、宅地の新規賃料を求める手法として新たに賃貸事業分析法が追加されたという背景があります。 3 賃貸事業分析法の流れ ここで、賃貸事業分析法の大まかな流れを表わしたものが〈資料2〉であり、その前提となっている考え方は以下のとおりです。 〈資料2〉 (出所) 「不動産鑑定評価基準に関する実務指針-平成26年不動産鑑定評価基準改正部分について-」(令和3年11月一部改正)(公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会 鑑定評価基準委員会)。 なお、上記(5)に掲げた建物所有者(借地権者)に帰属する純収益の査定に当たっては、建物の初期投資額や借地期間満了時の取壊費用の合計額に利回り(正確には元利均等償還率と呼ばれるもの)を乗じて求めることが基本となります。 また、その結果を土地建物に帰属する純収益から控除して土地所有者(借地権設定者)に帰属する純収益を求めた場合でも、定期借地権の性格(土地の賃借開始後、建物を建築し賃貸に供するとともに、借地期間満了時までに建物を取り壊して更地で返却すること)を踏まえれば、借地期間の前後に建物賃貸収益の未収入期間が発生します。そのため、この影響も考慮(補修正)して新規地代を求めることが必要とされています(※3)。 (※3) 「不動産鑑定評価基準に関する実務指針-平成26年不動産鑑定評価基準改正部分について-」(令和3年11月一部改正)(公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会 鑑定評価基準委員会)の解説部分によります。 ただし、これに関する正確な解説を加えようとすればかなり煩雑となり、また、本稿の狙いも賃貸事業分析法の大まかなイメージを理解していただくことにあるため、詳細は割愛させていただきます。 4 まとめ 前回と今回の2回にわたり、賃料を試算する新しい手法について解説を試みました。 なお、前回取り上げた事業用不動産の賃料を求める手法(収益分析法)にしても、今回取り上げた賃貸事業分析法にしても、現時点では積算賃料や比準賃料に比べ、その説得力が一般的に劣ると考えられることから比較考量すべきもの(※4)とされています。 (※4) その趣旨については上記(※3)に解説があります。 その理由は、これらの試算過程には(本文で述べた内容からも察せられるとおり)想定要素が少なからず含まれており、加えて市場における検証を経た結果ではないという事情が存するものと思われます。しかし、今般紹介したそれぞれの手法は不動産の賃貸借をめぐる時代の新しい流れに対応しようとするものであり、決して軽視することのできないものであるといえます。 (了)
《速報解説》 JICPAより「監査報告書の文例」及び「監査報告書に係るQ&A(実務ガイダンス)」の改正案が公表される ~報酬関連情報の開示の新設に対応し記載例や留意事項を解説する設問を追加~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2023年4月18日、日本公認会計士協会は、「監査基準報告書700 実務指針第1号「監査報告書の文例」及び監査基準報告書700 実務ガイダンス第1号「監査報告書に係るQ&A(実務ガイダンス)」の改正」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、2022年10月の「財務諸表に対する意見の形成と監査報告」(監査基準報告書700)の改正を受けて、所要の改正を行うものである。 意見募集期間は2023年6月16日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 監査報告書の文例の改正案 改正倫理規則(2022年7月25日変更)において、監査業務の依頼人が社会的影響度の高い事業体(Public Interest Entity:PIE)である場合、報酬関連情報(監査報酬、非監査報酬及び報酬依存度)の開示が要求事項として新設されたことに対応し、その他の報告責任区分における報酬関連情報の記載例を追加する。 倫理規則の規定(セクション410)では、監査報告書において報酬関連情報(監査報酬及び監査以外の業務の報酬並びに報酬依存度)の開示を行うことが示されている。 「監査報告書の文例」では、その他の報告責任(監基報700第39項)として、監査報告書において報酬関連情報を記載する場合、「報酬関連情報」という見出しを付した区分を「利害関係」の直前に設けて記載することとしている(26-2項)。 「財務諸表等の監査証明に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(令和5年3月27日、内閣府令第21号)は、金融商品取引法に基づく監査の監査報告書における報酬関連情報の開示について規定している。 2 監査報告書に係るQ&Aの改正案 監査報告書において報酬関連情報の開示を行う場合の具体的な留意事項の解説として、Q1-10「監査報告書における報酬関連情報開示の適用範囲」及びQ1-11「監査報告書における報酬関連情報開示の省略等」を新設している。 フロー図によるパターンの整理がなされている。 Ⅲ 適用時期等 改正後の実務指針は、2023年4月1日以後開始する事業年度に係る財務諸表の監査から適用する予定である。 ただし、改正後の実務指針を、倫理規則(2022年7月25日変更)と併せて2023年4月1日以後終了する事業年度に係る財務諸表の監査から早期適用することを妨げないとする予定である。 (了)
《速報解説》 令和5年度税制改正を受け法人税申告書(別表)様式を定めた 改正法人税法施行規則が公布 ~連納関係様式は削除、別表8(1)及び同付表1は過年度改正により統合~ Profession Journal編集部 令和5年度税制改正に対応した法人税申告書(別表)の様式を定めた改正法人税法施行規則(財務省令第34号)が、4月14日付官報号外第81号で公布された。これら改正後の様式は原則、令和5年4月1日以後終了事業年度から適用される(改正法規附則2)。官報同号では地方法人税及び租税特別措置の適用額明細書の様式改正も行われている。 今回の様式改正では連結納税制度の廃止に伴う各様式内の「連結事業年度」等の記載削除や関連様式(別表4の2、5の2、6の2関係等)の削除が行われているほか、5年度改正で控除率・控除上限等が見直された研究開発税制に係る「別表6(9) 一般試験研究費に係る法人税額の特別控除に関する明細書」が事業年度毎の記載追加など全体的に見直され、オープンイノベーション型に新規高度人件費割合に係る措置が追加されたことで新たに「別表6(14)付表1 新規高度人件費割合等に関する明細書」が新設された。 〈別表6(9) 一般試験研究費に係る法人税額の特別控除に関する明細書〉 〈別表6(14)付表1 新規高度人件費割合等に関する明細書〉 また、オープンイノベーション促進税制に係る「別表10(6) 特別新事業開拓事業者に対し特定事業活動として出資をした場合の特別勘定の金額の損金算入に関する明細書」及び同付表1(各特定株式の特別勘定の金額に関する明細書)も所得控除を受けるための対象となる取得株式(特定株式)に関する要件見直しによって全体的な見直しが行われている。 なお令和2年度税制改正において「連結納税制度の見直しに伴うグループ法人税制等の見直し」の1つとして受取配当等の益金不算入制度(関連法人株式の負債利子控除の計算方法)が見直され令和4年4月1日以後開始事業年度から不要となった欄が今回削除されたことで、「別表8(1) 受取配当等の益金不算入に関する明細書」及び同付表1(支払利子等の額及び受取配当等の額に関する明細書)は下記の通り、別表8(1)の1枚へ統合された。 〈別表8(1) 受取配当等の益金不算入に関する明細書〉 ちなみに既報のとおり、記載誤りが多いとして3月に国税庁が注意喚起を行った賃上げ促進税制は今年度、軽微な改正にとどまっていることから、関連様式である別表6(31)は番号が別表6(26)へ繰り上げられた上、番号変更に伴う記載の見直しのみ行われている。 国税庁では今後、今回の改正省令に対応した申告書様式のページが公表される予定。 (了)
《速報解説》 国税庁、令和5年度改正受け「インボイス制度Q&A」を改訂 ~2割特例や少額特例、少額返還インボイス等に係る15問を追加~ Profession Journal編集部 国税庁は4月14日、インボイス制度Q&A(「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」)を改訂(前回改訂は令和4年11月25日)、新たに15問を追加し25問の改訂を行った。 また、同日には「お問合せの多いご質問」の更新や「令和5年度税制改正関係(インボイス関連)」ページにおいて「令和5年4月 インボイス制度に関する改正について」のリーフレットの公表もしている。 令和5年度税制改正ではインボイス制度導入に係る激変緩和措置として2割特例等、小規模事業者に向けた措置等が講じられているが、今回の改訂ではこれらに係る設問を含め、追加等がされている。 今回の更新で追加、改訂された設問については以下のとおり。 (了) ↓お勧め連載記事↓