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税理士事務所の労務管理Q&A 【第13回】「減給の制裁」

税理士事務所の労務管理Q&A 【第13回】 「減給の制裁」   特定社会保険労務士 佐竹 康男   無断欠勤や遅刻等が多い従業員に対して、制裁として減給する場合がありますが、今回は、減給する際の留意点等について解説します。 * * 解 説 * * 1 減給の制裁の上限 労働者が遅刻・早退や勤務時間中に無断で外出を繰り返したとき等に、制裁として減給処分を課すことがありますが、その額には、上限が定められています。 就業規則において、減給の額を定めることになりますが、減給の額は、1回の事案に対しては減給の総額が平均賃金(※1)の半額以内(※2)、一賃金支払期に発生した数事案に対しては、賃金の総額(※3)の10分の1以内にしなければなりません(労働基準法第91条)。 (※1) 平均賃金とは、原則として、平均賃金を算定しなければならない事由の発生した日以前3ヶ月間に支払われた賃金の総額をその期間の総日数で除した金額をいいます(労働基準法第12条)。 (※2) 1日に3回の違反行為があった場合は、1回の減給額が平均賃金の半額以内であればよく、3回分の減給の合計額が平均賃金の1日分の半額を超えていても差し支えありません(基収1789号)。 (※3) 一賃金支払期に現実に支払われる賃金の総額をいいます。したがって一賃金支払期に支払われる賃金の総額が欠勤等のため少額になったときは、その少額となった賃金総額を基礎とします(基収1338号)。 したがって、例えば6ヶ月にわたって月給の10%をカットするという制裁処分をすることはできません。   2 遅刻・早退をした場合の取扱い 遅刻・早退をした時間分の賃金カットは制裁ではありません。遅刻・早退をした時間分を超える賃金カットが減給の制裁の対象になります。   3 二重処分 正式に減給の額を決める前に、とりあえず自宅待機等を命じることがありますが、1回の違反行為に対して、自宅待機を命じ、その後正式な処分として減給することは、1事案に対して二重の処分を課すことになり、刑法の一事不再理の原則(1つの犯罪に対しては、罪も1回限りとする原則)に反するので、適切な処分とはいえません。   4 勤務状況の悪い従業員の処遇 (1) 降格と減給処分 勤務態度が改まらないと、降格ということもありえますが、降格となると当然賃金は低下します。降格となったことによる賃金の低下は、減給の制裁ではありません。ただし、従前の職務に従事させつつ、賃金額のみを減じる場合には、減給の制裁となります(基収518号、基発917号)。 降格は実質的には、継続的な減給ですので、処分に当たっては相当の秩序違反に限って行うべきものと考えます。 (2) 解雇 勤務状況の悪い従業員を解雇する場合も考えられますが、解雇理由に正当性がなければ、解雇はできないのが一般的です。 「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と規定されています(労働契約法16条)。 「客観的に合理的な理由」とは、誰が見ても解雇はやむを得ないと考えられる理由です。勤務状況が悪いというだけでは難しく、仮に訴訟になった場合などは、①就業規則に解雇事由を明確に定めておくこと、②勤務不良の客観的な裏づけ資料や再三の注意を誰がいつ、どのようにしたのか等を明確にしておくことが必要になります。 勤務状況の悪い従業員の処遇は、なかなか難しいと思いますが、減給の制裁のみならず、降格や解雇をする場合は、相当慎重にしなければなりません。 (了)

#No. 517(掲載号)
#佐竹 康男
2023/04/27

〔相続実務への影響がよくわかる〕改正民法・不動産登記法Q&A 【第17回】「ライフライン設備の設置・使用権の概要」

〔相続実務への影響がよくわかる〕 改正民法・不動産登記法Q&A 【第17回】 「ライフライン設備の設置・使用権の概要」   司法書士 丸山 洋一郎 弁護士 松井 知行    【Q】 他の土地や他人の所有する設備を利用して自分の土地にライフラインを引き込む場合に関して、どのようなルールが定められたか教えてください。 【A】 以下のルールが定められた。 -《解説》- 1 改正の経緯 現代生活において、水道、ガス、電気、電気通信等のライフラインは必要不可欠だが、他の土地や他人の所有する設備を経由しなければライフラインを利用することができない土地も存在する。そのような土地を利用するためには、他の土地に設備を設置することや他人の所有する設備を使用することが必要になるが、これまでは他の土地への設備の設置や他人の所有する設備の使用について直接定めた規定は存在しなかった。 そのため、他の土地への設備の設置又は他人の所有する設備の使用をしようとしても、所有者が設備の設置・使用を拒否した場合やそもそも所有者が所在不明である場合には、対応が困難であった。また、土地・設備の使用に伴う償金の支払義務の有無などのルールが不明確であったため、所有者等から不当な承諾料を求められるケースもあった。 そこで、このような問題を解消するため、今回の改正では、土地の所有者は、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用しなければ電気、ガス又は水道水の供給その他これらに類する継続的給付(以下、「継続的給付」という)を受けることができないときは、継続的給付を受けるため必要な範囲内で、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用することができる旨が明記された(新民法第213条の2第1項)。また、設備の設置・使用の方法や、事前の通知、償金などについての規定が整備された(新民法第213条の2第2項以下)。   2 要件 (1)-A 他の土地に設備を設置しなければ継続的給付を受けることができないこと(設備設置権) 設備設置権が発生するのは、土地の所有者が、他の土地に設備を設置しなければ継続的給付を受けることができないときである(新民法第213条の2第1項)。 ここでいう「他の土地」は隣接地に限られず、土地の所有者は隣接していない土地についても必要な範囲で設備を設置することができると考えられる。 又は (1)-B 他人が所有する設備を使用しなければ継続的給付を受けることができないこと(設備使用権) 設備使用権が発生するのは、土地の所有者が、他人が所有する設備を設置しなければ継続的給付を受けることができないときである(新民法第213条の2第1項)。 ここでいう「他人が所有する設備」とは、例えば他人が設置し所有する水道管などをいう。 (※) なお、事案によっては設備設置権と設備使用権の両方を行使することもありうる。例えば、他の土地に設置されている他人の所有する設備を使用する必要があるような場合には、設備設置権に基づいて導管・導線等を他の土地に設置するとともに、設備使用権に基づいて他人が所有する設備に導管・導線等を接続することになると考えられる。 (2) 継続的給付 設備設置権・設備使用権は電気、ガス又は水道水の供給その他これらに類する継続的給付を受けるために必要な場合に認められる(新民法第213条の2第1項)。 ここでいう「その他これらに類する継続的給付」には、電話・インターネット等の電気通信が含まれるとされている。 (3) 必要な範囲内 設備設置権・設備使用権は「必要な範囲内」で認められるとされている(新民法第213条の2第1項)。そのため、他の土地に設備を設置するにあたり必要以上に大がかりな設備を設置することや、他人が所有する設備を使用するにあたり必要以上に大きな負担をかける形で使用することは認められない。   3 設備の設置・使用の態様 設備の設置又は使用の場所及び方法は、他の土地又は他人が所有する設備のために損害が最も少ないものを選ばなければならないとされている(新民法第213条の2第2項)。 そのため、設備設置等の方法が複数ある場合(例えば、水道水の供給を受けるケースで、水道管を設置することが可能な土地が複数存在する場合や、複数の土地上に接続可能な給水管が既に設置されている場合など)においても、最も損害が少ない方法を選択する必要がある。 また、設備を設置する場合には、公道に通じる私道や公道に至るための通行権(民法第210条)の対象部分があれば、通常はその部分を選択することになると考えられる。 なお、設備設置権・設備使用権がある場合であっても、一般的に自力執行は禁止されているため、例えば、他の土地の所有者等に設備の設置・使用を拒まれた場合には、訴訟を提起して妨害禁止の判決を求めることになると考えられる。 他方で、事案ごとの判断にはなるものの、例えば、他の土地が空き地になっており、実際に使用している者がおらず、かつ、設備の設置等が妨害されるおそれもない場合には、裁判を経なくても適法に設備の設置等を行うことができると考えられる。   4 権利行使をするための手続(事前通知) 他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用する者は、あらかじめ、その目的、場所及び方法を他の土地等の所有者及び他の土地を現に使用している者に通知しなければならないとされている(新民法第213条の2第3項)。この規定の趣旨は、他の土地等の所有者等に対して、通知した者が行おうとしている設置・使用の内容が新民法第213条の2第1項・第2項の要件を満たしているかを判断し、場合によっては別の場所又は方法をとるよう提案する機会を与えるとともに、当該設置・使用を受け入れる準備をする機会を与えることにあると考えられる。 そのため、「あらかじめ」といえるためには、通知の相手方が、その目的・場所・方法に鑑みて設備設置権・設備使用権の行使に対する準備をするに足りる合理的な期間(事案によるが、2週間~1ヶ月程度)を置く必要があると考えられる。 また、通知の相手方は「他の土地等の所有者及び他の土地を現に使用している者」とされている。他人の設備に所有者とは別の使用者がいる場合、このような者は「他の土地等の所有者及び他の土地を現に使用している者」に該当しないため、法律上は通知することが求められていないが、使用者への影響も考慮し、事実上通知することが望ましいと考えられる。 なお、上記のような事前通知は、通知の相手方が不特定又は所在不明である場合にも例外なく必要であり、このような場合には、簡易裁判所の公示による意思表示(民法第98条)を活用することが考えられる。   5 設備を設置・使用する工事のための一時的な土地使用 設備設置権・設備使用権を有する者は、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用するために当該他の土地又は当該他人が所有する設備がある土地を使用することができるとされている(新民法第213条の2第4項前段)。 この場合、一時的なものであっても他人の土地を使用する以上、他の土地の所有者等の権利に配慮する必要があることから、隣地使用権の規律(民法第209条第1項ただし書及び第2項から第4項までの規定)を準用することとされている(新民法第213条の2第4項後段)。 そのため、設備の設置工事等のために一時的に他の土地を使用する場合には、設備設置権等に関する事前通知の際に、当該使用についても併せて通知することになる。   6 償金・費用負担 (1) 設備設置権 ① 設備設置工事のために一時的に他の土地を使用する際に、当該土地の所有者・使用者に生じた損害 (例) 他の土地上の工作物や竹木を除去したために生じた損害 このような損害に対する償金は一括して支払わなければならないとされている(新民法第213条の2第4項、民法第209条第4項)。ここでいう「損害」とは実損害であるとされており、例えば設備を設置するために他の土地上の工作物や竹木を除去することによって生じた損害などが該当する。 ② 設備の設置により土地が継続的に使用することができなくなることによって他の土地に生じた損害 (例) 給水管等の設備が地上に設置され、その場所の使用が継続的に制限されることに伴う損害 このような損害に対する償金は、1年ごとに支払うことができるとされている(新民法第213条の2第5項)。ここでいう「損害」とは、設備設置部分の使用料相当額であるとされている。 (※) なお、事案ごとの判断になるが、導管などの設備を地下に設置し、地上の利用自体は制限しないケースなどでは、①②いずれの損害も発生しない場合もありうると考えられる。また、他の土地の所有者等から、上記の償金とは別に、設備の設置を承諾することに対するいわゆる承諾料を求められても、これに応じる義務はない。 (2) 設備使用権 ① 設備の使用を開始するために生じた損害 (例) 設備の接続工事の際に一時的に設備を使用停止したことに伴って生じた損害 このような損害に対する償金は、一括して支払わなければならないとされている(新民法第213条の2第6項)。 ② 設備の修繕・維持等の費用負担 設備使用権に基づいて他人が所有する設備を使用する者は、その利益を受ける割合に応じて、その設置、改築、修繕及び維持に要する費用を負担しなければならないとされている(新民法第213条の2第7項)。   7 土地の分割又は一部譲渡によって継続的給付を受けることができなくなった場合 土地の分割又は一部譲渡によって継続的給付を受けることができない土地が生じる場合、分割・譲渡の当事者間においてはそのような土地が発生することを当然に予期することができる以上、設備設置権の負担を周囲の第三者に負わせるべきではなく、設備の設置に伴う継続的な負担についても分割・譲渡の中で考慮されたものとして取り扱うのが相当であると考えられる。 そこで、改正法では、土地の分割又は一部譲渡によって他の土地に設備を設置しなければ継続的給付を受けることができない土地が生じたときは、その土地の所有者は、継続的給付を受けるため、他の分割者又は譲渡行為の相手方の所有地のみに設備を設置することができるとし、この場合には設備設置権の目的となる土地において継続的に生じる損害について償金を支払うことを要しないとされている(新民法第213条の3)。 他方で、この場合であっても、新民法第213条の2の規律は同条第5項を除いて適用されるため(新民法第213条の3第1項後段)、工事の際に生じた一時的損害に対しては償金の支払義務を負うほか、設備の設置の場所・方法については他の分割者等の所有地のために損害が最も少ないものを選ばなければならない点や設備設置の際に事前の通知が必要である点は変わらない。 なお、設備使用権に関しては、土地の分割又は一部譲渡がなされたとしても、既存の設備の所有者が直ちに変更されるわけではないことから、新民法第213条の3の適用はない。 (了)

#No. 517(掲載号)
#丸山 洋一郎、松井 知行
2023/04/27

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例82】株式会社ODKソリューションズ「『スタンダード市場』の選択申請及び『プライム市場』上場維持基準(売買代金基準)の適合状況について」 (2023.3.29)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例82】 株式会社ODKソリューションズ 「『スタンダード市場』の選択申請及び『プライム市場』上場維持基準(売買代金基準)の適合状況について」 (2023.3.29)   公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、株式会社ODKソリューションズ(以下「ODKソリューションズ」という)が2023年3月29日に開示した「『スタンダード市場』の選択申請及び『プライム市場』上場維持基準(売買代金基準)の適合状況について」である。 本連載【事例69】で取り上げたエバラ食品工業株式会社の開示「新市場区分における『スタンダード市場』の選択申請に関するお知らせ」は、プライム市場の上場維持基準に適合しているにもかかわらず、あえてスタンダード市場を選択したという内容だった。 今回の開示は、タイトルの「『スタンダード市場』の選択申請」は同じだが、内容はまったく異なる。プライム市場の上場維持基準に適合していなかったため、「経過措置」の適用を受けてプライム市場に上場していたのだが、やはりスタンダード市場へ移ることにしたという内容である。 なお、「経過措置」とは、【事例69】で説明したとおり、プライム市場の本来の上場維持基準に適合していなくても、「新市場区分の上場維持基準の適合に向けた計画書」を開示することにより、緩和された上場維持基準が適用されてプライム市場に上場できるという措置である。   2 10年計画 ODKソリューションズは、プライム市場の本来の上場維持基準に適合していなかったものの、経過措置の適用を受けてプライム市場に上場することとし(2021年9月29日「『プライム市場』を選択市場とする市場選択申請書の提出に関するお知らせ」にて開示)、2021年12月29日に「新市場区分の上場維持基準の適合に向けた計画書」を開示している。 そこで示された計画期間は、何と2032年3月末までであり、10年間だった。もちろんこれは、経過措置の適用を受けた会社が開示した計画の中で最長である。計画期間を3年間程度とする会社が多い中、10年間とはやや非常識な印象を受けてしまう。 プライム市場における流通株式時価総額の上場維持基準が100億円とされているのに対して、同社の流通株式時価総額は25億円だったため、10年は必要と考えたのかもしれない。3年程度で株価を4倍にするのは、さすがに無理だろう。 しかし、同社は、まだ1年ほどしか経っていないのに、その10年計画をあっさりと諦めてしまった。今回の開示には、その理由が次のように記載されている。 「それならば、最初からスタンダード市場を選択しておけばよかったのでは?」と突っ込みたくなるが、この1年間で考えが変わる何かがあったのだろうか。   3 なぜ今? 経過措置の適用を受けてプライム市場に上場していたものの、やはりスタンダード市場へ移ることにしたという会社は、ODKソリューションズだけではない。今年に入って同様の開示を行ったのは、本稿執筆時点(2023年4月14日)で同社を含めて6社である。 東京証券取引所(以下「東証」という)は2023年1月30日に「上場維持基準に関する経過措置の取扱い等について」を公表し、「当分の間」とされていた経過措置の終了時期を明示した。2025年3月1日以後に到来する上場維持基準の判定に関する基準日から本来の上場維持基準を適用し、その基準日において上場維持基準に適合していない場合、1年間(売買高基準の場合は6ヶ月間)の改善期間に入り、その期間内に基準に適合しなかったときは、原則として6ヶ月間の監理銘柄・整理銘柄指定期間を経て上場廃止になるとされた。 ただし、ODKソリューションズのように2026年3月1日以後最初に到来する基準日を超える時期を終了期限とする計画を開示している会社については、改善期間の終了後に監理銘柄に指定したまま、上場は維持することとされた。 経過措置の適用を受けてプライム市場に上場したものの、東証が示した期限内に上場維持基準に適合することが難しそうな会社への「救済措置」も設けられた。2022年4月3日において一部市場に上場していたプライム市場上場会社は、2023年4月1日から9月29日までの6ヶ月間、スタンダード市場への上場を選択できることとされた。市場区分の変更審査は不要で、市場選択申請書を提出するだけでスタンダード市場へ移ることができる。 ODKソリューションズは、その「救済措置」の適用を受けるのである。同社の場合、プライム市場の本来の上場維持基準に適合しなくても、2032年3月末まで上場が維持されるが、監理銘柄に指定される。監理銘柄に指定されることが目に見えているのであれば、スタンダード市場へ移った方がいいだろう。   4 流通株式時価総額基準への適合状況は? 今回の開示には、「プライム市場上場維持基準(売買代金基準)適合状況について」として次のような記載がある(下線は筆者による)。 1日平均売買代金だけでなく流通株式時価総額の上場維持基準にも適合していないのだが、そちらには触れていない。上場維持基準との乖離は、流通株式時価総額の方が深刻である。上述のとおりプライム市場における流通株式時価総額の上場維持基準が100億円であるのに対して、同社の流通株式時価総額は2022年12月31日時点で19.3億円である。「新市場区分の上場維持基準の適合に向けた計画書」に記載していた移行基準日(2021年6月30日)時点の額が25億円だったので、それよりも悪化している。「積極的な情報開示」と2回も記載しているが、流通株式時価総額に関する開示を積極的に行いたくはないようである。 (了)

#No. 517(掲載号)
#鈴木 広樹
2023/04/27

プラス思考の経済効果 【第14回】「お花見の経済効果」

プラス思考の経済効果 【第14回】 「お花見の経済効果」   関西大学名誉教授・大阪府立大学名誉教授 宮本 勝浩   1 はじめに 日本気象協会は2023年3月30日に全国の桜の満開予想日を発表しました。それによると、東京は3月22日で平年よりも9日早く、大阪は3月27日で平年よりも8日早くなっています。今年は温暖化の影響でしょうか、日本全国の桜の開花、そして満開の日が非常に早くなっています。 今年のお花見は新型コロナの流行による外出、飲食、マスク着用などのいろいろな規制が緩和されて、数年ぶりに多くの人出が予想されます。その結果、今年のお花見はコロナ禍の時と比べて人出が多くなり、経済効果も大きくなると期待することができます。もちろん、まだ完全に新型コロナが収束したわけではないので外出を控える人もいると思われますが、数年ぶりに桜の名所は観光客で賑わうでしょう。今回は今年のお花見の経済効果を推計しました。   2 日本在住の人たちのお花見の総支出額 (1) お花見に行く日本在住の人たちの総数 ① 日本の総人口 まず日本に在住していて今年お花見に行く人の数を推定します。総務省統計局の2023年2月20日の発表によると、2023年2月1日の日本の総人口(日本人+在日外国人)は概算値で約1億2,463万人です。その詳細は以下のとおりです。 【第1表】 日本の総人口 本稿では、自主的にお花見に行って1人前の経費がかかる年齢層を10~79歳と仮定します。その人数は約1億308万人となります。 ② お花見の人数 ではこのうち何人がお花見に行くのでしょうか。日本トレンドリサーチ(運営会社:株式会社NEXER)の2022年3月11日発表の調査(10~70代、標本450人)では、「コロナが収束したらお花見に行きたい人」の割合は68.4%でした。そして、これまでのお花見、祭り、イベントなどのいろいろな事前調査では、行く予定の人で実際には行かなかった人の割合は約20%です。そこで本稿では、事前のアンケート調査ではお花見に行く予定だった人のうち、病気、ケガ、急用、気が変わったなどの理由で約20%の人がお花見に行かないと仮定します。そうすると、全体の約54.7%の人がお花見に行くことになります。 この比率を用いて、【第2表】には【第1表】のうち、実際にお花見に行くと推定される人数を示しています。これら以外の人たちは小さい子供や高齢者ですので、費用がほとんどかからないか、同行者が費用を負担すると仮定します。そうすると、今年のお花見に行く人数は約5,639万人となります。 【第2表】 お花見に行く推定人数 (2) お花見の1人当たり消費額 次に、お花見の1人当たりの消費額を推定してみます。日本ホームパーティー協会の2017年3月2日の発表によると、お花見の1人当たりの予算は次のようになっています。 〈お花見の1人当たり予算と比率〉 しかし、2023年は昨年来の諸物価の高騰により、飲食費、交通費、土産代などが上昇してきていますので、今年は飲酒をする20歳以上の花見客の1人平均消費額は約4,000円、飲酒をしない20歳未満の花見客は約3,000円と仮定します。 (3) 日本在住の人たちのお花見の総支出額 以上の仮定から、今年の日本在住の人のお花見の総支出額は約2,196億5,000万円となります。   3 訪日外国人のお花見の総支出額 (1) お花見に行く訪日外国人数 ① 春に日本を訪問する外国人数 ここ数年、新型コロナにより観光目的で訪日する外国人の数は激減していました。しかし、2022年秋から規制緩和により訪日外国人は増加してきています。そして、3月1日より中国からの入国者の規制も緩和されました。春に訪日する外国人の多くは美しい日本の桜を見たいと思っているといわれています。 株式会社JTBは2023年1月26日に、2023年の訪日外国人の数は、対前年度比550.6%増加の約2,110万人になると予想しています。これはピークに達した2019年の約66.2%に当たることになります。この数値を用いて推計した2023年春の訪日外国人数を以下に示しています。 【第3表】 春に訪日する外国人数 ② お花見に行く訪日外国人数 日本の桜は、南から北まで、3月下旬から5月上旬まで咲き誇るので、訪日外国人は長期にわたって楽しむことができます。これらの訪日外国人のかなりの人は3月下旬(1ヶ月の1/4)、4月の1ヶ月、5月上旬(1ヶ月の1/4)にお花見に行くことを希望していると思われます。この期間の訪日外国人の総数は約286万人となります。 これらの訪日外国人の多くは日本の桜に関心があると予想されますが、時間や仕事の関係上、またご自身の関心からお花見に行かない観光客もいると考えられます。そこで、上述の約286万人のうち約8割がお花見に行くと仮定します。 その結果、春の訪日外国人のうち約229万人が何らかの形でお花見に行くと想定します。 (2) お花見に行く訪日外国人の支出額 ① 訪日外国人観光客の1人当たりの支出額 国土交通省観光庁の2023年1月18日発表「【訪日外国人消費動向調査】2022年10-12月期の全国調査結果(1次速報)の概要」によると、観光・レジャー目的の訪日外国人観光客の1人当たり支出額は20万62円(6泊7日)で1日当たり2万8,580円でした。 ② 訪日外国人のお花見の総支出額 お花見に行く訪日外国人の人数は229万人、1人当たりのお花見の支出金額は2万8,580円に基づいて計算しますと、訪日外国人のお花見の総支出額は約654億4,820万円となります。   4 お花見の総消費支出額(直接効果) 以上の計算より、日本人と訪日外国人のお花見の消費支出の総額は約2,850億9,820万円となります。   5 経済効果(経済波及効果) 次にこれまで計算してきたお花見の直接効果約2,850億9,820万円を基にして経済効果を推計します。推計には総務省内閣府が作成した最新の「全国の産業連関表」(2019年に発表した2015年版の「全国の産業連関表」の修正版)を用いて経済効果を分析します。 〈お花見の経済効果〉 分析の結果、2023年のお花見の経済効果は約6,158億1,211万円となりました。   6 まとめ 日本人が「桜」をめでる「お花見」は、いにしえからの国民的行事です。そして、今やこの日本の美しい桜は、外国人観光客を呼び込む観光資源にもなっています。今年のお花見の経済効果は約6,158億1,211万円となりました。これは、新型コロナで外出や飲食が制約された2022年の経済効果約2,016億3,600万円の約3倍です。しかし、これまで筆者が計算したお花見の経済効果の中ではピークであった2018年の約6,517億4,013万円にはまだ届いていません。 また、今年のお花見の経済効果は、【第13回】で推計した「2023年WBC優勝の経済効果」596億4,847万円の10倍以上です。たった2ヶ月足らずで日本にこれだけ大きな経済効果をもたらす、世界に誇る観光資源であるこの美しい「桜」を、長年に渡って守り育ててこられた関係者の方々に私たちは改めて感謝したいと思います。 (了)

#No. 517(掲載号)
#宮本 勝浩
2023/04/27

《速報解説》 会計士協会から「財務報告に係る内部統制の監査」の改正案が公表される~内部統制監査基準等の改訂及び監基報600の改正を受けての対応を反映~

《速報解説》 会計士協会から「財務報告に係る内部統制の監査」の改正案が公表される ~内部統制監査基準等の改訂及び監基報600の改正を受けての対応を反映~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2023年4月21日、日本公認会計士協会は「財務報告内部統制監査基準報告書第1号「財務報告に係る内部統制の監査」の改正」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」(2023年4月7日、企業会計審議会)及び監査基準報告書600「グループ監査における特別な考慮事項」(2023年1月12日付けの改正)を受けたものである。 意見募集期間は2023年6月23日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 内部統制の基本的枠組み 1 「財務報告の信頼性」から「報告の信頼性」 意見書は、サステナビリティ等の非財務情報に係る開示の進展やCOSO報告書の改訂を踏まえ、内部統制の目的の1つである「財務報告の信頼性」を「報告の信頼性」としている。 公開草案では、内部統制報告制度の目的は、あくまで「財務報告の信頼性」であるという前提に基づいているため、特段の対応をしていない。 2 内部統制の基本的要素 公開草案では、次の対応を行っている(37項、181-2項)。 3 経営者による内部統制の無効化 公開草案では、次の対応を行っている(126-2項)。 4 内部統制に関係を有する者の役割と責任 公開草案では、特段の対応をしていない。 5 内部統制とガバナンス及び全組織的なリスク管理 意見書では、3線モデル等が例示されているが、公開草案では、特段の対応をしていない。   Ⅲ 財務報告に係る内部統制の評価及び報告 1 経営者による内部統制の評価範囲の決定 意見書では、「売上高等のおおむね3分の2」や「売上、売掛金及び棚卸資産の3勘定」について機械的に適用しないことや、評価範囲に関する監査人との協議が監査人の指導的機能の一環として行われることが記載されている。 公開草案では、次の対応を行っている(66項、74項の削除、75-3項の追加など)。 2 ITを利用した内部統制の評価 公開草案では、次の対応を行っている(143-2項、165項など)。 3 財務報告に係る内部統制の報告 公開草案では、内部統制の報告に関する改正を行っている(257項、281項)。   Ⅳ 財務報告に係る内部統制の監査 公開草案では、次の対応を行っている(56項、75項、76項)。   Ⅴ 適用時期等 2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度における内部統制監査から適用する予定である。 (了)

#阿部 光成
2023/04/25

《速報解説》 倫理規則改正等を受け、会計士協会が「監査及びレビュー等の契約書の作成例」の改正を公表~報酬関連情報開示の求めから各監査約款の「守秘義務」に関する条文を改正~

《速報解説》 倫理規則改正等を受け、 会計士協会が「監査及びレビュー等の契約書の作成例」の改正を公表 ~報酬関連情報開示の求めから各監査約款の「守秘義務」に関する条文を改正~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2023年3月16日付けで(ホームページ掲載日は2023年4月21日)、日本公認会計士協会は、「法規・制度委員会研究報告第1号「監査及びレビュー等の契約書の作成例」の改正」を公表した。 これは、主に2022年7月に改正された倫理規則を受けたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 1 報酬関連情報の開示 倫理規則において、報酬関連情報の開示が求められることから、各監査約款における「守秘義務」に関する条文を改正している。 2 独立性に関する規定の強化 倫理規則において、非保証業務の提供に関する独立性に関する規定が強化されたことに伴い、各監査約款における「独立性の保持に関する情報提供」に関する条文を改正している。 3 「監査責任者(指定社員又は業務執行責任者)以外の主な従事者の氏名及び資格」の削除 従前までの監査(及び四半期レビュー)契約書・レビュー契約書・合意された手続業務契約書には、「監査責任者(指定社員又は業務執行責任者)以外の主な従事者の氏名及び資格」欄が記載されていた。 しかしながら、監査契約締結時においては、監査責任者以外の氏名や資格を記載する重要性は低いと考えられるため、項目ごと削除している。 4 「本業務の見積時間数」における肩書の削除 従前までの監査(及び四半期レビュー)契約書・レビュー契約書・合意された手続業務契約書における「本業務の見積時間数」には、監査責任者(指定社員又は業務執行責任者)・公認会計士・その他の肩書ごとの時間数を記載する様式としていた。 しかしながら、本条項は、監査責任者(指定社員又は業務執行責任者)・公認会計士・その他の区分で記載することを推奨するものではなく、監査チームの実情に応じた記載ができることを明確にするため、肩書ごとの記載を削除している。 (了)

#阿部 光成
2023/04/25

プロフェッションジャーナル No.516が公開されました!~今週のお薦め記事~

2023年4月20日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.516を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2023/04/20

日本の企業税制 【第114回】「グローバル・ミニマム課税の税効果会計上の取扱いが明らかに」

日本の企業税制 【第114回】 「グローバル・ミニマム課税の税効果会計上の取扱いが明らかに」   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴   2021年10月にOECD/G20の「BEPS包摂的枠組み」において合意されたグローバル・ミニマム課税のルールのうち、所得合算ルール(Income Inclusion Rule:IIR)に係る法制化として、本年3月末に公布された所得税法等の一部を改正する法律において、「各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税」の創設が行われた。併せて、各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税に係る地方法人税として、「特定基準法人税額に対する地方法人税」も創設された(概要は本連載【第112回】参照)。 今回創設されたIIRは、所得ではなく税額を課税ベースとするもののあくまでも法人税・地方法人税であることから、本来であれば、改正法人税法の成立日以後に終了する連結会計年度及び事業年度の決算(四半期決算を含む)において、IIRの適用を前提とした税効果会計の適用を行う必要がある(企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」第44項)。 3月決算法人が多数を占めるわが国では、今3月期決算からの税効果会計での新設されたIIRの影響を反映することは事実上極めて困難であるところ、決算作業のスケジュールとの関係で、税効果会計の適用に関する取扱いの早期の措置が求められていた。   〇日本基準での取扱い わが国の企業会計基準委員会(ASBJ)は、3月31日、実務対応報告第44号「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い」を公表した。 この実務対応報告の公表日以後ASBJがその適用を終了するまでの間、改正法人税法の成立日以後に終了する連結会計年度及び事業年度の決算(四半期連結決算及び四半期決算を含む)における税効果会計の適用にあたっては、企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」の定めにかかわらず、グローバル・ミニマム課税制度の影響を反映しないこととするものである。 また、グローバル・ミニマム課税制度を前提とした税効果会計については、現行の枠組みにおいて適用すべきか否かが明らかではないと考えられること、さらに、仮に税効果会計を適用する場合、グローバル・ミニマム課税制度に基づく税効果会計の会計処理については明らかではないと考えられる点があることを踏まえ、原則的な取扱いの適用を認めず、今回の特例的な取扱いを一律に適用することとしている。   〇IFRSでの取扱い この各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税は、グループの全世界での年間総収入金額が7億5,000万ユーロ以上の多国籍企業グループを対象にしており、この基準に該当する日本企業の中には、IFRSを適用するものも多く含まれるものと考えられる。なお、3月末時点でのIFRS適用済の上場会社及びIFRS適用を決定した上場会社の合計は264社に上っている(時価総額約340.9兆円、全上場企業の時価総額に占める割合は45.5%)。 IASBは、本年1月9日に、IAS第12号「法人所得税」を修正して、①IIRの導入から生じる繰延税金の会計処理に対する一時的な例外を導入すること(つまりIIRの法人所得税に係る繰延税金資産及び繰延税金負債に関しては、企業は認識することも情報を開示することもしないが、企業がその例外を適用した旨を開示)、②「的を絞った開示要求」を行うこと、を内容とするIAS第12号の修正に関する公開草案が公表されていた。 ただ、「的を絞った開示要求」については、次のような内容が提案され、情報作成者としての企業側の実務負荷だけでなく、法域毎の利益・税金費用に関する情報が機密事項を含む可能性が高い点などについて各方面からの懸念が示されていた。 4月11日に開かれたIASBの会合では、IAS第12号「法人所得税」の修正を最終確定することを決定し、IIRの各法域での導入から生じる繰延税金の会計処理に対する一時的な例外を設けること(例外を適用している旨の開示が必要)が確実となった。また、懸念が示されていた開示に関しては、公開草案から見直しが行われ、第2の柱の法人所得税に対する企業のエクスポージャーを財務諸表利用者がよりよく理解するのに有益な情報として、すでに判明しているあるいは合理的に見積可能な場合には、期末におけるエクスポージャーに係る定性的又は定量的な情報の開示を要求することとされた。 このIAS第12号「法人所得税」の最終的な修正は、2023年5月末までに公表される見込みである。 (了)

#No. 516(掲載号)
#小畑 良晴
2023/04/20

〈判例評釈〉ムゲン・ADW事件が残したもの~最高裁の判示は、納税者の納得が得られるものか~ 【第1回】

〈判例評釈〉 ムゲン・ADW事件が残したもの ~最高裁の判示は、納税者の納得が得られるものか~ 【第1回】   公認会計士・税理士 霞 晴久   Ⅰ はじめに 去る3月6日、2つの居住用賃貸建物仕入税額控除事件について、最高裁が、いずれも納税者全面敗訴の判断を示したことで、新聞報道でも大きく取り上げられ、専門家の間でも判断が分かれていた問題に終止符が打たれた。 ここでいう2つの事件とはマンション販売業者である(株)ムゲンエステート(以下「ムゲン」という)及び(株)エー・ディー・ワークス(以下「ADW」という)の消費税の仕入税額控除における個別対応方式を巡る訴訟(※1)をいい、両社は、中古の賃貸用マンション等の収益不動産を購入し、適正な賃料で貸し付けて空室を可能な限り減らした上で転売するというビジネスモデルを展開していた(※2)。 (※1) ムゲンは最高裁一小判決令和5年3月6日(令和3年(行ヒ)第260号)、ADWは最高裁一小判決令和5年3月6日(令和4年(行ヒ)第10号)で、両判決の裁判官は同一である。 (※2) ADW事件第一審判決で東京地裁は、「本件ビジネスモデル下における課税仕入れ(収益不動産〔建物〕の購入)が、将来における当該収益不動産(建物)の売却(課税資産の譲渡等)のために行われるものであることは、明らかである。」としている。 当該マンション購入時の建物価額相当額の課税仕入れ(以下「本件課税仕入れ」という)に係る消費税について、両社は、同マンションを転売目的で購入していたことから、個別対応方式における「課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れ」(消法30②一イ。以下「課税対応課税仕入れ」という)に区分されるとして確定申告していた。これに対し所轄税務署長は、同マンションの購入から転売までの期間に、非課税の賃貸収入が発生していたことから、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの(同上②一ロ。以下「共通対応課税仕入れ」という)に区分されるとして更正処分等をしたことから、両社はこれを不服として訴訟を提起した。 問題の所在は、両社が採用するビジネスモデルの下では、収益不動産を転売する際に、建物だけでなく、その敷地の譲渡(土地の譲渡は非課税である)も併せて行われることにある。すなわち、転売による売上げ全体に占める建物の売上げの割合は相対的に低いものとなり、事業者が当該課税期間中に行う資産の譲渡等の対価のうちに課税資産の譲渡等が占める割合(課税売上割合)も、これに応じた低いものとなることを免れない。収益不動産の譲渡の場合、建物部分の取得に係る課税仕入れが共通対応課税仕入れに区分されると、同収益不動産の保有期間に係る賃貸収入(非課税)が非常に少ないにもかかわらず、その相当部分の仕入税額控除が認められないという事態が生じてしまう。ADWの事例では、更正処分を受けた課税期間(以下「本件課税期間」という。以下では、ムゲン事件においても同じ用語を用いる)の収益不動産の販売収入と賃料収入の総和に対する賃料収入の割合は、平均で3.71%であり、販売収入のうち建物部分を仮に3割とすると、建物の販売収入と賃料収入の総和に対する賃料収入の割合は、平均で11.38%となっていた。所轄税務署長が行った更正処分に従えば、本件課税期間の課税売上割合(会社全体)は、約34~36%となり、建物取得に係る課税仕入れが共通対応課税仕入れに用途区分されてしまうと、本来約89%が控除対象仕入税額とされるべきところ、差額の約53~55%が控除されないまま、課税の累積を招いてしまうことになる。 両事件では、転売目的で購入した居住用賃貸建物に係る課税仕入れの取扱いについては、税務当局内部においても、従前から、「課税対応課税仕入れ」を認めるような見解が存在していた(※3)ことから、本件において税務当局が行った更正処分が仮に適法であるとしても、税務当局が課税上の取扱いを変更したことにより生じたという点で、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があるのではないか、すなわち過少申告加算税の賦課決定処分につき、国税通則法(以下「通則法」という)65条4項にいう正当な理由があるか否かについても争点とされた。 (※3) 日本経済新聞平成31年2月5日記事は、「国税OBの朝長英樹税理士は、これまで仕入れにかかった消費税の全額控除を認めてきた国税当局が唐突に一部しか控除できないと税法解釈を変更したとみる。国税庁は『税法解釈や取り扱いを変更した事実はない』としている。複数の不動産業界の関係者によると、同様な理由で消費税の申告漏れが指摘されるケースが相次ぐ。税務に詳しい森・浜田松本法律事務所(東京・千代田)の大石篤史弁護士によると、この1年半くらいで10社前後からの相談がある。朝長税理士は『多くの会社が課税処分を受けるという異例の事態。消費税についてしっかりと調査をしているという当局の国民へのアピールという側面もあるのだろう』と明かす。」と述べている。 上記のとおり、両事件の主な争点は、①課税対応課税仕入れ該当性(本件更正処分の適法性)、及び②通則法65条4項にいう「正当な理由」の有無の2つであるが、両事件の第一審から最高裁までの各裁判所のそれぞれの判断を概括すると以下の【表1】のとおり(納税者側から見て、〇は処分取消し(納税者側勝訴)、✕は処分適法(国側勝訴))となる。ムゲン事件では、控訴審判決の結果を受けて、国側(税務当局)が、過少申告加算税賦課決定処分の取消しを不服として上告受理申立てを行い、また、ADW事件では、納税者側が、賦課決定処分だけでなく、課税仕入れに係る消費税の更正処分の取消しを求めて上告受理申立てを行った。 【表1】 (※4) ムゲン事件では、国側が②の争点についてのみ上告したため、①の判断については控訴審で確定している。 両事件とそれぞれの審級を時系列で見ると次のとおりとなる。 (※5) 「第1事件」東京地裁平成29年(行ウ)第590号・TAINSコード:Z269-13325、「第2事件」東京地裁平成30年(行ウ)第2号・TAINSコード:Z269-13326 (※6) 東京地裁平成30年(行ウ)第559号・TAINSコード:Z270-13448 (※7) 東京高裁令和元年(行コ)第281号・TAINSコード:Z888-2359 (※8) 東京高裁令和2年(行コ)第190号・TAINSコード:Z888-2366 裁判結果を俯瞰すると、争点①の課税対応課税仕入れの是非については、ADW事件の東京地裁判決のみ異なる判断が示されたということができる。また、争点②の通則法65条4項「正当な理由」については、ムゲン事件控訴審判決の前後で大きく「潮目」が変わっていることが分かる。 そこで、本稿ではまず、争点①について、ADW事件において控訴審が示した考え方と、同事件第一審において、原告が提示し、地裁が認めた考え方について対比して検討する。次に争点②について、ムゲン事件の一審・二審を比較し、相違点を抽出するとともに、ADW事件控訴審判決と対比させ、何が判断の分かれ目となったかを浮き彫りにしたい。なお、争点②に関する課税庁側の解釈変更の実態については、国税不服審判所に対する審査請求件数からの推論を試みる。次に、ムゲン事件で争点③とされた、課税売上割合に準ずる割合適用の可能性について両事件の判決文を検討する。最後に、本件のような問題を解決する手法として令和2年の税制改正で新たに導入された、居住用賃貸建物の仕入税額控除の概要を確認する。   Ⅱ 争点①課税対応課税仕入れ該当性(本件更正処分の適法性) 1 ADW事件控訴審の判示 (1) 用途区分の判断基準について 東京高裁は、仕入税額控除に係る用途区分の現行制度の仕組みについて、次のように判示している。 ここで「課税売上割合自体、共通対応課税仕入課税売上割合に近似するのが通例」というのは、そもそもその他の資産の譲渡のために行われる課税仕入れについては、税負担の累積は生じないのであり、通常の事業活動を継続する限り、換言すれば、突発的な多額の非課税資産の譲渡でもなければ、共通対応課税仕入れに用途区分されたものに課税売上割合を乗ずることで、税負担が累積されないものは自動的に除外される仕組みを前提にしていると思われる。 また、「共通対応課税仕入課税売上割合が課税売上割合に近似していない場合」とは、ADW事件第一審では、「課税売上割合と、賃料収入が売上全体に占める割合とのギャップによって、建物の取得価格に対する消費税額のうち相当部分に税負担の累積が生じてしまうこととなる」と、より具体的に述べている(以下「ギャップの問題」という)が、上記のとおり、ADW事件控訴審では、そのような場合に備えて、課税売上割合よりも合理的な割合、すなわち、課税売上割合に準ずる割合が設けられているとしており、ここでの課税売上割合に準ずる割合の位置付けは、ムゲン事件第一審及び同控訴審でも全く同様である。 上記判示を踏まえ、東京高裁は、「(消費税法30条)2項1号の定める各課税仕入れについては、同号の文言及び趣旨等に即して、課税対応課税仕入れとは、当該課税仕入れにつき将来課税売上げを生ずる取引のみが客観的に見込まれている課税仕入れのみをいい、非課税対応課税仕入れとは、当該課税仕入れにつき将来非課税売上げを生ずる取引のみが客観的に見込まれている課税仕入れのみをいい、当該課税仕入れにつき将来課税売上を生ずる取引と非課税売上げを生ずる取引の双方が客観的に見込まれる課税仕入れについては、全て共通対応課税仕入れに区分されるものと解するのが相当である。(下線筆者)」という判断基準を示した。 (2) 検討 要するに、上記判断基準に従えば、事業者が中古マンションを取得した際に賃借人が1人でもいれば共通対応課税仕入れ、また、取得時に、仮に賃借人ゼロでも、保有期間中に住宅の貸付けの発生の可能性が少しでもあれば、同じく共通対応課税仕入れに区分されることになる。ここでは、次回Ⅱの3で述べるような、ADW第一審判決で展開された議論は否定されている。 ところで、ムゲン事件控訴審判決では、時系列的にADW事件第一審判決の直後に審理されたことから、用途区分の判断において、当該資産の「最終的な目的」や「主たる目的」がどのように影響するかについて検討している。そこでは、「要することが見込まれるかどうかの判断要素の一つとして課税仕入れの『目的』が挙げられるとしても、課税の累積は、課税仕入れの目的が課税資産の譲渡等であったことによって生じるものではなく、課税資産の譲渡等が行われることの結果によって生じるものであるから、『最終的な目的』や『主たる目的』に限定されると解すべき根拠はな」いと判示し、「用途区分の判定を課税仕入れの『最終的目的』によって判断し、事業者が課税資産の譲渡等を最終的な目的として行った課税仕入れについては、仮にその他の資産の譲渡が見込まれていたとしても、『課税資産の譲渡等にのみ要するもの』に該当するとする控訴人の主張は採用できない。」として、ADW事件の第一審判決を引用した控訴人(ムゲン)の主張を排斥している(※9)。なお、ADW事件控訴審判決では、この点について、ムゲン事件控訴審判決同様、「事業者の取引の客観的な内容や性質等を捨象して專らその目的のみに依拠してこれらのいずれの区分に当たるかを判断するのは相当とは解され(ない)」として、ADWの主張を排斥している。 (※9) ちなみに、ムゲン事件第一審判決においても、個別対応方式における用途区分の判定は、課税仕入れの最終的な目的によって行うべきという納税者の主張に対し、「用途区分の判定において課税仕入れの目的が考慮されるとしても、消費税法30条2項1号の文言や個別対応方式における用途区分に共通課税仕入れが設けられていることに照らすと、ここで考慮される課税仕入れの目的が、原告が主張するような最終的ないし主たる目的に限定されると解すべき理由はない。」と判示し、その主張を排斥している。 2 ADW事件最高裁の判示とその影響 ADWは、控訴審判決を不服として最高裁に上告した。最高裁は、原審の示した判断基準を簡潔に要約した上で、その事実認定において、「本件各課税仕入れは上告人(筆者注:ADW)が転売目的で本件各建物を購入したものであるが、本件各建物はその購入時から全部又は一部が住宅として賃貸されており、上告人は、転売までの間、その賃料を収受したというのである。そうすると、上告人の事業において、本件各課税仕入れは、課税資産の譲渡等である本件各建物の転売のみならず、その他の資産の譲渡等である本件各建物の住宅としての賃貸にも対応するものであるということができる。」と判示した。その結果、原審の判断は揺るがず、納税者の敗訴が確定した。 非常に簡潔ではあるが、上記のように最高裁が判示したことで、転売目的で資産を購入した事業者が、当該課税仕入れを行った日に、将来同資産から非課税収入が発生する可能性が少しでもあれば、それは共通対応課税仕入れとなるという考え方が確定したことになる。 しかしながら、この考え方によれば、事業者が個別対応方式を採用する場合、仮に少額でも非課税売上げが生じていれば、税務調査等において共通対応に用途区分すべきとして更正処分を受ける恐れがある(※10)。特に、最高裁の判示からは、非課税収入が発生したという事実に着目した記載振りとなっているので、本件のようなビジネスモデルを展開する事業者にかかわらず、注意が必要であろう。 (※10) T&Amaster No.971(2023.3.20)8頁参照。さらに、同記事では、最高裁が示した「対応する」という判断基準が不明確という指摘もある。 (続く)

#No. 516(掲載号)
#霞 晴久
2023/04/20

〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第14回】「TDK事件(審裁平22.1.27)(その1)」~租税特別措置法66条の4第2項1号二・2号ロ、租税特別措置法施行令39条の12第8項1号、租税特別措置法通達66の4(4)-5(現行66の4(5)-4)~

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第14回】 「TDK事件(審裁平22.1.27)(その1)」 ~租税特別措置法66条の4第2項1号二・2号ロ、 租税特別措置法施行令39条の12第8項1号、 租税特別措置法通達66の4(4)-5(現行66の4(5)-4)~   税理士 松田 祐弥   1 事件の概要(※1) (※1) TAINSコード:F0-2-463、本件裁決は情報公開過程でマスキングされている部分が多くあるため、推定で補完記載していることに留意されたい。 本件課税対象となった国外関連取引は、間接に100%の出資を有する国外関連者A社、直接100%の出資を有する国外関連者B社との間で行った次の取引である。 ①請求人がA社及びB社に対して最終製品製造用の部品である棚卸資産を販売した国外関連取引、②A社及びB社が当該棚卸資産を用いて製造した棚卸資産(最終製品)を請求人が購入した国外関連取引、並びに③請求人がA社との間で締結した無形資産供与を主眼とする技術移転契約に係る国外関連取引に関して、東京国税局(以下、「原処分庁」という)はこれら国外関連取引の全てを対象とした残余利益分割法を適用し、独立企業間価格を算定し更正処分を行った。これに対して請求人は、国税不服審判所に審査請求を行った。 〈取引フロー〉   2 残余利益分割法 残余利益分割法は、平成23年改正前租税特別措置法(以下「措置法」という)66条の4第2項1号ニ・2号ロ、同改正前同法施行令39条の12第8項1号を法令上の根拠として、2000(平成12)年に新設された(平成23年改正前)措置法通達66の4(4)-5によって解釈上認められていた方法であり、 法人及び国外関連者の双方が重要な無形資産を有する場合に適用される。 具体的には、まず、法人及び国外関連者の営業利益を合算し(分割対象利益)、その分割対象利益について、第一段階として重要な無形資産を有しない非関連者間の取引において通常得られる利益(基本的利益)に相当する金額を当該法人及び当該国外関連者にそれぞれ配分する。次に第二段階として、基本的利益を配分した後の残額(残余利益)を、当該法人又は当該国外関連者それぞれにおいて、残余利益の発生に寄与した程度を推測するに足りる要因(分割要因)に応じて、当該法人及び当該国外関連者に配分する。 〈残余利益分割法のイメージ〉   3 争点 本件に係る争点は次のとおりである。   4 請求人及び原処分庁の主張と審判所の判断 各争点に関する請求人及び原処分庁の主張と審判所の判断は、主に以下のとおりである。 審判所は、国外関連者は研究開発において相応の役割を果たしており無形資産の形成に貢献しているなどとして、研究開発費の負担金を国外関連者の分割指標に含め、結果として所得額にして141億円の処分を取り消した。 〈各争点に関する請求人及び原処分庁の主張と裁決〉 争点1の① 告知聴聞の機会 争点1の② 事前確認申請のしょうよう 争点2 国外関連者が請求人に対して配当をしているにも関わらず移転価格課税が行われたことの適否 争点3 独立企業間価格の算定において、残余利益分割法を適用したことの適否 争点4の① 基本的利益の算定において比較対象取引からX社を除くべきか否か 争点4の② 非関連者からの調達部品に帰属する損益を分割対象利益から除外すべきか否か 争点4の③ A社が支出した研究開発費の負担金を請求人の分割指標としての研究開発費の金額に含めたことの適否 争点4の④ 分割指標としての研究開発費の金額の算定上、過年度未払賞与の戻入れ額を控除したことの適否 争点4の⑤ A社の加工委託先の特定費用を分割指標としてA社のマーケティング費用に含めることができるか否か 争点4の⑥ 請求人の技術営業部署の費用を請求人の分割指標としてマーケティング費用としたことの適否 争点4の⑦ 国外関連者の所在地国の貨幣購買力の違いを考慮すべきかどうか ((その2)へ続く)

#No. 516(掲載号)
#松田 祐弥
2023/04/20
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