2022年9月22日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.487を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第1回】 千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也 連載に当たって 令和4年6月7日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太の方針2022)において、日本政府は「Web3.0」を日本の成長戦略に組み込んだ(「Web3」、「web3」など表記方法や用語の使い分けが複数存在するが、本連載では「Web3.0」と表記する)。 そこでは、「第2章 新しい資本主義に向けた改革」の「2.社会課題の解決に向けた取組」の「(3)多極化・地域活性化の推進」の箇所において、要旨次のとおり述べている。 Web3.0について、経済産業省作成の「経済秩序の激動期における経済産業政策の方向性」(令和4年5月19日)の30頁では、次のとおり、デジタル技術の発展に合わせて、Web社会を3つの段階に分けて捉える考え方を紹介している。 また、上記の骨太の方針2022に先立ち、自由民主党政務調査会デジタル社会推進本部作成の「デジタル・ニッポン2022~デジタルによる新しい資本主義への挑戦~」(令和4年4月26日)の33頁は、国家戦略の策定・推進体制の構築という文脈で、「Web3.0やNFTを新しい資本主義の成長の柱に位置付け、Web3.0 担当大臣を置き、経済政策の推進、諸外国との連携の司令塔とすべき。省庁横断の相談窓口を置くべき」と提言している。 同資料31頁は、次世代インターネットとして注目されるWeb3.0は、ブロックチェーン技術で個人情報が暗号化され、複数ユーザーで共有しあうため、セキュリティに強く、特定のプラットフォーマーに依存しない技術として、主に次のような特徴を持つとしている。 このような状況の中で、本連載は、主として、Web3.0の時代をけん引する可能性がある重要なツールである暗号資産(仮想通貨)及びNFTに着目し、その税務上の取扱いや問題点を解説・検討する。 暗号資産及びNFTに係る取引は既に日本でも行われているが、その税務上の取扱いが明らかでないものが多数存在する。 これらの税務上の取扱いや問題点を明らかにするためには、税法の知識のみならず、私法や規制法の理解、時には技術的な側面までも理解する必要があると考える。 そこまでしてもなお、その税務上の取扱いを明らかにすることができないものも少なくないであろう。 しかしながら、申告納税制度を採用している以上、納税者は、租税の専門家の助けを借りつつも、自らの責任においてその税務処理を適正に行わなければならない。 本連載では、このような状況に置かれている納税者や税理士が、暗号資産やNFTの取引に係る税務処理を検討し、課税関係を判断する際に有益な情報を提供することを主たる目的とする。 NFTの譲渡代金やNFT取引に係る手数料は、通常、暗号資産で支払われる。よって、NFTの課税関係を検討する際には、暗号資産の課税上の取扱いに関する知識が必要になる。そこで、本連載では、暗号資産、NFTの順に、その税務上の取扱いや問題点を解説・検討する。 なお、暗号資産の種類は膨大な量に膨れ上がっているが、本連載では、説明の便宜上、暗号資産の種類や単位の例示として、主に、BTC(ビットコイン)やETH(イーサ)を用いる。 (了)
〈令和4年度税制改正の解説〉 完全子法人株式等の配当に係る源泉徴収の見直し 【第1回】 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 1 はじめに 令和4年度税制改正により、「完全子法人株式等に係る配当等の課税の特例措置」が創設されることとなった。本連載では、この新たに創設された完全子法人株式等に係る配当等の課税の特例措置について2回にわたり解説する。 【第1回】では、まず改正の背景と特例措置の内容について確認する。 2 改正の背景 会計検査院は令和2年11月に、完全子法人株式等に係る配当等の全額及び負債利子を控除した関連法人株式等に係る配当等の全額については、益金不算入となるにもかかわらず、これらの配当等について源泉徴収を行った場合、納税者側では配当等に係る源泉徴収により一時的な資金負担と事務負担が生じ、税務署側でも還付金及び還付加算金の支払事務が生じるという点で、源泉徴収の制度趣旨に必ずしも沿ったものとなっていないと指摘し、本来の趣旨に沿ったより適切なものとするための検討を行うよう求めていた。 これを受け、令和4年度税制改正において、完全子法人株式等及び関連法人株式等の配当に係る源泉徴収の見直しがされることとなった。 なお、改正の背景の詳細にあたっては、以下の拙稿を参照されたい。 3 完全子法人株式等に係る配当等の課税の特例措置 (1) 改正内容 一定の内国法人が支払を受ける配当等で、原則として全額に法人税が課されない一定の株式等に係る配当等については、所得税を課さないこととし、源泉徴収義務の対象から除外されることとなる。 一定の内国法人とは、内国法人のうち、一般社団法人及び一般財団法人(公益社団法人及び公益財団法人を除く)、人格のない社団等並びに法人税法以外の法律によって公益法人等とみなされている一定の法人以外の法人をいう。 (2) 特例措置の適用対象となる配当等 所得税を課さないこととし、源泉徴収義務の対象から除外される一定の株式等に係る配当等とは、次に掲げるものをいう(所法177、所令301②)。 (※1) 「自己の名義をもって有するもの」とは 財務省ホームページで公表されている「令和4年度税制改正の解説」88頁によると、「自己の名義をもって有するもの」とは、組合や信託経由で所有するもの以外のものとされている。 (※2) 「基準日等」とは 「基準日等」とは、法人税法施行令第22条第1項(関連法人株式等の範囲)に規定する基準日等をいう(所令301②)。 (3) 受取配当等の益金不算入制度における株式等の区分 受取配当等の益金不算入制度における完全子法人株式等と関連法人株式等は、次のとおりである(法法23④⑤、法令22、22の2)。 ① 完全子法人株式等 完全子法人株式等とは、配当等の額の計算期間を通じて内国法人との間に完全支配関係があった場合の当該他の内国法人の株式等をいう。 ② 関連法人株式等 関連法人株式等とは、内国法人(その内国法人との間に完全支配関係がある他の法人を含む)が他の内国法人の発行済株式等の3分の1を超える株式等を、配当等の額の計算期間の初日からその計算期間の末日(計算期間が6ヶ月を超える場合には、基準日までの6ヶ月間)まで引き続き有している場合における当該他の内国法人の株式等をいう。 (4) 受取配当等の益金不算入制度と特例措置との比較 受取配当等の益金不算入制度と特例措置を比較すると、以下の点で相違があるため注意が必要である。 ① 完全子法人株式等 受取配当等の益金不算入制度と特例措置とでは、完全子法人株式等の定義は同じであるが、受取配当等の益金不算入制度とは異なり、特例措置では自己の名義をもって有するものに限定されている。 ② 保有割合3分の1超の株式等 受取配当等の益金不算入制度と特例措置とでは、対象となる株式等の範囲が異なっており、特例措置では、そもそも関連法人株式等と定義されておらず、自己の名義をもって有するものに限定されている。 保有割合の判定も、受取配当等の益金不算入制度では継続保有が求められているが、特例措置では、配当等の額に係る基準日等の一時点で行うこととされ、継続保有を求めていない。 また、受取配当等の益金不算入制度では、令和2年度税制改正により、令和4年4月1日以後開始事業年度から、完全支配関係がある他の法人の保有株式数等を含めて保有割合を判定することとなったが、特例措置では、間接保有は含めず単独の保有割合で判定する。 これらの違いは、源泉徴収義務者である配当を支払う法人側で判断を行うことが実務上難しいことを考慮したためと考えられる。 《受取配当等の益金不算入制度と特例措置との比較》 (【第2回】に続く)
〔令和4年度税制改正における〕 賃上げ促進税制の抜本的見直しについて 【第2回】 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 ←(前回) | (次回)→ (2) マルチステークホルダー方針公表要件 マルチステークホルダー方針公表要件は、令和4年度の税制改正で新たに追加された要件であり、一定規模以上の法人については、多様なステークホルダー(利害関係者)に配慮した経営への取組を行うことが社会的責任として求められるとの認識のもと、そうした取組を行っている法人に限り賃上げ促進税制の適用を行うこととされた。 具体的には、一定の「マルチステークホルダー方針」を自社のホームページに公表するとともに、公表した旨を経済産業大臣に届け出ることが必要である。さらに、公表届出後に経済産業大臣から発行される「受理通知書」の写しを確定申告書に添付することが必要である(措法42の12の5①、措令27の12の5①②)。 このための具体的な手続については、「事業上の関係者との関係の構築の方針の公表及び届出に係る手続を定める告示」(令和4年3月31日 経済産業省告示第88号)が公表されていることから、以下その内容について紹介する。 ① 対象法人 事業年度末における資本金の額(又は出資金の額)が10億円以上であり、かつ、常時使用従業員数が1,000人以上である法人において、本要件を満たす必要がある。 ② マルチステークホルダー方針の内容 マルチステークホルダー方針に含まれる内容としては、給与等の支給額の引上げの方針、下請事業者(下請中小企業振興法2④)その他の取引先との適切な関係の構築の方針その他の事業上の関係者との関係の構築の方針に関する事項として厚生労働大臣、経済産業大臣及び国土交通大臣が定める事項とされ(措法42の12の5①、措令27の12の5①)、厚生労働大臣、経済産業大臣及び国土交通大臣は、これに係る事項を定めたときは、これを告示することとされている(措令27の12の5㉖)。 具体的には、「事業上の関係者との関係の構築の方針に記載する事項を定める告示」(厚生労働省・経済産業省・国土交通省告示第1号 令和4年3月31日)において、以下のように定められている。 このうち「下請事業者その他の取引先との適切な関係の構築の方針」については、別途、「パートナーシップ構築宣言」の作成と公表も求められている点に留意が必要である。実際には、以下の【様式第一】に従いこれらの方針を記載することとなる。経済産業省が公表する『大企業向け「賃上げ促進税制」御利用ガイドブック』(令和4年7月6日公表版)では、詳細な記載要領も示されている。 【様式第一】 【記載要領】 ③ 公表の方法及び期間 マルチステークホルダー方針は、自社のホームページに掲載する方法により公表することとし、公表期間は以下のいずれか遅い日までとされる。 ④ 公表した旨の届出 マルチステークホルダー方針を公表した旨の届出は、適用事業年度終了の日の翌日から起算して45日を経過する日までに、所定の事項を記載した届出書(【様式第二】)を経済産業大臣に提出することにより行う。もちろんこの届出は、適用事業年度中であっても、公表後であれば提出することが可能である。 【様式第二】 ⑤ 届出の受理 届出が受理されると、経済産業省より受理通知(【様式第三】)が発行される。 本税制の適用を受けるためには、確定申告書にこの受理通知の写しを添付する必要がある(措令27の12の5②)。 【様式第三】 ⑥ 届出事項の変更 ⑤の通知書を受理した後において、マルチステークホルダー方針の公表に係る事項について変更が生じた場合には、すみやかに変更届出書(【様式第四】)を経済産業大臣に届け出なければならない。 変更届出書の届出後、あらためて受理通知(【様式第三】)が発行される。 【様式第四】 ⑦ 届出手続の詳細 届出手続は、原則として、申請ウェブサイト「gBiz FORM」内の「小規模手続のオンライン申請・届出」でのみ受け付けているため、事前に「gBizIDプライム」のアカウントの作成を行い、その後、「gBiz FORM」内の「小規模手続のオンライン申請・届出」から届出を行うこととなる。 届出に不備がない場合にはそのまま受理され、受理通知書(【様式第三】)が郵送にて発出されるが、届出の受理から受理通知書の発出までの手続に約15日を要するとのことである。あまり期日ギリギリになって届出を行った場合、受理通知書の受取りが申告期限に間に合わなくなる可能性もあるため、申告書の提出スケジュール管理上も十分に留意が必要である。 (【第3回】に続く)
令和4年度税制改正における 『グループ通算制度』改正事項の解説 【第8回】 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 (8) 別表添付及び書類保存要件 資産調整勘定等対応金額の加算措置は、次の別表添付及び書類保存要件を満たした場合に適用することができる。 ① 別表添付要件 つまり、通算終了事由が生じた時の直前に離脱法人の株式を有する通算法人のすべてで資産調整勘定等対応金額の計算に関する明細(別表)の添付が必要となる。 また、これは、離脱法人の株式ごとに、その離脱法人の株式を有する通算法人全体で加算措置の適用を任意に選択することができることを意味している。また、その場合、加算措置を適用しない方が有利となる通算グループ全体で負債調整勘定対応金額が計算される場合においても不適用の選択をすることが可能となる。 また、連結納税制度では、別表添付は、投資簿価修正の対象となる株式の発行法人で行うが、グループ通算制度では、投資簿価修正の対象となる株式の保有法人で行う。その点も連結納税制度との相違点となる。 なお、ここでいう「離脱法人の簿価純資産価額及び資産調整勘定等対応金額の計算に関する明細を記載した書類」は「通算終了事由が生じた他の通算法人の株式につき資産調整勘定対応金額等がある場合の簿価純資産価額とする金額の計算に関する計算書」となり、【第5回】の〈図表9〉のケースについて記載例を示すと以下のとおりとなる。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 ② 書類保存要件 (注) 企業会計においては、連結子会社化に際し子会社の個別財務諸表上の資産及び負債の評価換えが必要となるが、この際の価額は上記一号のロの価額に該当し、その評価方法等を記載した書類は上記一号のハに該当するものと考えられる([法人税等]令和4年度税制改正の解説299頁)。なお、上記一号のイの対象株式の取得の時における価額として合理的であると認められる価額であれば、上記イの対象株式の各取得の時においてその取得した法人が実際に算定した価額に限られるものではない([法人税等]令和4年度税制改正の解説299頁)。 上記の保存書類は、資産調整勘定対応金額等を計算するための根拠となる書類を意味している。そして、この加算措置を適用するためには、離脱法人の株式を有する通算法人のいずれかで上記の書類を保存しておけばよいこととなる。 しかし、実際のところ、保存書類の入手、つまり、時価純資産価額の計算が難しいケースが多々あるものと思われる。 具体的には、資産調整勘定等対応金額(時価純資産価額)を算定するためには、取得時の離脱法人の貸借対照表、勘定科目内訳明細書、法人税申告書(貸借対照表等)を基礎にして、それらに計上されている資産及び負債を取得時の時価で評価する必要がある。 しかし、帳簿書類の保存期間である7年(青色繰越欠損金額又は災害損失欠損金額が生じた事業年度は10年)よりも前に離脱法人の株式を取得した場合には、その取得時の貸借対照表等が保存されていないこともあるだろう。 また、仮に、取得時の貸借対照表等が保存されていたとしても、土地や有価証券等を当時の時価で評価することが困難なケースも容易に想像できる。例えば、離脱法人がその取得時に未上場株式を所有していた場合は、当時のその株式の株価算定を行う必要があるが、それが困難なケースも多いと思われる。 そのため、取得時が古ければ古いほど、時価純資産価額の算定を行うことが困難となるだろう。 また、通算孫法人については通算子法人で保存書類を用意することになるが、通算親法人がその通算子法人の株式を取得する前にその通算子法人が通算孫法人の株式を取得している場合には、その通算子法人で通算孫法人の時価純資産価額に係る保存書類を用意することができないケースも生じるだろう。 なお、本来、加算措置を適用するためには、離脱法人の株式の取得時ごとに、資産調整勘定対応金額等を計算する必要があり、上記の保存書類もその取得時ごとに用意する必要があり、いずれかの通算法人で書類を用意できない場合(=計算できない場合)やいずれかの取得時に書類を用意できない場合(=計算できない場合)は、すべての通算法人で、その離脱法人の株式に関する資産調整勘定等対応金額の加算措置を適用することができないこととなる。 ただし、このような状況を考慮して、法人税基本通達2-3-21の4「資産調整勘定対応金額等の計算が困難な場合の取扱い」では「対象株式の取得後におけるその対象株式の保有割合が低い又はその取得の時期が古いなどの理由により、その取得の時における資産調整勘定対応金額等の計算が困難であると認められる場合において、その取得の時において計算される資産調整勘定対応金額等を0とし、その後に追加取得した対象株式について各追加取得の時における資産調整勘定対応金額等を計算し、その計算の基礎となる事項を記載した書類を保存しているときは、課税上弊害がない限り、加算措置の適用を受けることができる。ただし、負債調整勘定対応金額が計算されることが見込まれる場合に、その計算が困難であるとして、これを0としているときには、課税上弊害があるため、この取扱いの適用はない」という特例的な取扱いを設けており、この加算措置の実務での落としどころを図っている。 しかし、この法人税基本通達2-3-21の4があったとしても、必ず、少なくとも、いずれかの株式の取得時において時価純資産価額を算定し、資産調整勘定等対応金額の計算を行うことができなければ、結果的に資産調整勘定等対応金額の加算措置を適用することができないことに変わりはない。 以上より、加算措置の適用が事実上困難となるケースも想定されることから、各通算子法人について将来の離脱に備えて、事前に資産調整勘定等対応金額の計算(可能不可能の検討を含む)を行うとともに、将来、加入する可能性のある法人についても、取得時ごとに資産調整勘定対応金額等の計算(可能不可能の検討を含む)を行うことを検討する必要がある。 (続く)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例114(所得税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除(措法35) (1) 適用要件 個人が、次に掲げる場合に該当する居住用財産を譲渡したときは、居住用財産の譲渡所得の特別控除として、その譲渡所得の金額から3,000万円が控除される。なお、この特別控除は3年に1度しか適用できない。 (※) ③④については、居住の用に供さなくなった日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡した場合に限る。 (2) 適用除外 次のいずれかに該当する場合にはこの特例は受けられない。 ◆居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例(措法31の3) 個人が、その有する長期保有資産(譲渡した年の1月1日における所有期間が10年を超えるもの)で、一定の要件(原則として上記「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除」の適用要件と同じ)に該当する居住用財産を譲渡した場合のその課税長期譲渡所得金額については、他の土地建物等に係る譲渡所得と区分し、適用される税率が軽減される。 ◆居住用家屋の範囲(措通31の3-2) 「その居住の用に供している家屋」とは、その者が生活の拠点として利用している家屋(一時的な利用を目的とする家屋を除く)をいい、これに該当するかどうかは、その者及び配偶者等(社会通念に照らしその者と同居することが通常であると認められる配偶者その他の者をいう)の日常生活の状況、その家屋への入居目的、その家屋の構造及び設備の状況その他の事情を総合勘案して判定する。 したがって、上記特例の規定の適用を受けるためのみの目的で入居したと認められる家屋、その居住の用に供するための家屋の新築期間中だけの仮住まいである家屋その他一時的な目的で入居したと認められる家屋は除かれる。なお、譲渡した家屋に居住していた期間が短期間であっても、当該家屋への入居目的が一時的なものでない場合には、当該家屋は上記に掲げる家屋には該当しない。 ◆不服申し立て(通法75) (1) 再調査の請求 税務署長等が行った更正などに不服があるときは、処分の通知を受けた日の翌日から3ヶ月以内に、税務署長等に対して「再調査の請求」を行うことができる。また、納税者の選択により、直接国税不服審判所長に対して審査請求を行うこともできる。 税務署長等は、その処分が正しかったかどうか、改めて見直しを行い、その結果を「再調査決定書」により納税者に通知する。 (2) 審査請求 税務署長等が行った更正などの課税処分や差押えなどの滞納処分に不服があるときは、処分の通知を受けた日の翌日から3ヶ月以内に、国税不服審判所長に対して「審査請求」を行うことができる。また、再調査の請求を行った場合であっても、再調査の請求についての決定を経た後の処分になお不服があるときは、再調査決定の通知を受けた日の翌日から1ヶ月以内に審査請求を行うことができる。 国税不服審判所長は、税務署長等の処分が正しかったかどうかを調査・審理し、その結果を「裁決書」により納税者と税務署長等に通知する。 (3) 訴訟 国税不服審判所長の裁決を受けた後、なお処分に不服があるときは、裁決の通知を受けた日の翌日から6ヶ月以内に裁判所に「訴訟」を起こすことができる。 (了)
〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第52回】 「二世帯住宅である建物(区分登記なし)に配偶者居住権を設定した場合の特定居住用宅地等の特例の適用」 税理士 柴田 健次 [Q] 被相続人である甲(相続開始日:令和4年9月15日)は、下記の土地及び建物を所有していました。土地建物の生前の利用状況は、1階部分は甲と甲の配偶者である乙が居住の用に供し、2階部分は長女である丙家族が居住の用に供しています。区分登記はされていませんが、建物の各階ごとに玄関があります。また、甲は丙から賃料は収受していませんでした。 甲の相続発生に伴い、甲の所有していた土地及び建物について乙が配偶者居住権を取得し、土地建物の所有権を丙が取得した場合には、乙及び丙が適用できる特定居住用宅地等に係る小規模宅地等の特例の適用面積は何㎡でしょうか。 相続人は乙と丙の2人です。丙は甲と生計を別にしており、相続後は引き続き2階に居住しています。 (※) 配偶者居住権の存続年数に応じた複利現価率 [A] 乙が取得した敷地利用権198㎡(90㎡+108㎡)、丙が取得した敷地所有権132㎡(60㎡+72㎡)について、それぞれ小規模宅地等に係る特定居住用宅地等の特例(以下単に「特例」という)の適用を受けることができます。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 配偶者居住権等が及ぶ範囲 配偶者居住権が設定された場合には、居住建物の全部について無償で使用及び収益をする権利を取得することになります(民法1028)。ただし、居住建物の一部が賃貸用である場合には、賃借人に権利を主張することはできないため、配偶者居住権及び敷地利用権の評価額の計算の基礎となる金額から「賃貸の用に供されている部分」を除くこととされています(相法23の2①一かっこ書・③かっこ書、相令5の7)。 本問の場合には、2階部分は賃貸借ではなく使用貸借となりますので、建物の全部について配偶者居住権が及ぶことになります。したがって、配偶者居住権及び敷地利用権の及ぶ範囲をまとめると下記のとおりとなります。 2 特定居住用宅地等の特例の適否 一棟の建物で区分登記がされていない二世帯住宅の場合の特定居住用宅地等の特例の適否については、連載【第27回】で解説しています。特例の判定にあたっては、入口の要件として被相続人等の居住の用に供されていた宅地等に該当するのか、出口の要件として取得者の要件を確認することになります。 〔被相続人等の居住の用に供されていた宅地等に該当するのか〕 被相続人の居住の用に供されていた建物が一棟の建物(区分所有建物である旨の登記がされている建物を除く)である場合には、その一棟の建物の敷地の用に供されていた宅地等のうち被相続人の親族の居住の用に供されていた部分は、被相続人の居住の用に供されていた宅地等として取り扱います(措令40の2④、措通69の4-7)。 したがって、区分登記がされていない場合には、1階部分及び2階部分が被相続人等の居住の用に供されていた宅地等に該当することになります。 〔取得者の要件〕 乙は配偶者で要件はありませんので、特例対象者となります。 丙は生計一親族ではありませんので、同居親族の要件又は別居親族の要件を満たしているかを確認することになります。 同居親族の要件及び別居親族の要件は、下記のとおりとなります。 (1) 同居親族 当該親族が相続開始の直前において当該宅地等の上に存する当該被相続⼈の居住の⽤に供されていた⼀棟の建物(当該被相続⼈、当該被相続⼈の配偶者⼜は当該親族の居住の⽤に供されていた部分として政令で定める部分に限る)に居住していた者であって、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、当該建物に居住していること。 政令で定める部分とは、次に掲げる場合の区分に応じてそれぞれに定める部分をいいます(措令40の2⑬、措通69の4-7の4)。 (2) 別居親族 当該親族が次に掲げる要件の全てを満たすこと(措令40の2⑭⑮、措規23の2④)。 丙は上記(1)に記載されている「被相続⼈の居住の⽤に供されていた⼀棟の建物に居住していた者」であり、かつ、「相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、当該建物に居住していること」の要件を満たします。したがって、同居親族の要件を満たすことになりますので、他の要件を満たせば特例の対象になります。 なお、別居親族の要件については、上記(2)②の要件を満たしていないことから、丙は別居親族には該当しないことになります。 上記により特例対象宅地等の適否は、下記のとおりとなります。 3 利用区分ごとの相続税評価額の算定と面積の計算 本問の場合には、2階部分と1階部分の利用区分についてそれぞれ敷地利用権と敷地所有権がありますので、4つの区分に分けてそれぞれの相続税評価額及び面積を下記のとおり算定することになります。計算手順としてステップ❶で2階部分と1階部分に区分して計算し、ステップ❷で敷地利用権と敷地所有権に区分して計算することになります。 (※) 本問の場合には、2階部分と1階部分が特例の対象になりますので、必ずしも2階部分と1階部分に区分する必要はありませんが、分かりやすく解説をするため、区分して計算しています。 ステップ❶ 土地の相続税評価額について2階部分と1階部分に区分します。 ・2階部分の土地の相続税評価額 ・1階部分の土地の相続税評価額 ステップ❷ 2階部分と1階部分のそれぞれについて敷地利用権及び敷地所有権に区分し、相続税評価額と面積を計算します。 ・2階部分の敷地利用権の相続税評価額 ・2階部分の敷地所有権の相続税評価額 ・1階部分の敷地利用権の相続税評価額 ・1階部分の敷地所有権の相続税評価額 ・2階部分の敷地利用権の面積 ・2階部分の敷地所有権の面積 ・1階部分の敷地利用権の面積 ・1階部分の敷地所有権の面積 4 本問の場合の選択特例対象宅地等の面積 特定居住用宅地等の限度面積は330㎡であり、本問の場合の土地面積(330㎡)は限度面積以下となりますので、330㎡が選択特例対象宅地等の面積となります。取得者ごとの内訳は、下記のとおりとなります。 ★実務上のポイント★ 本問の場合にように、配偶者が相続開始時に居住の用に供していた範囲と配偶者居住権の及ぶ範囲は異なることもありますので、まずは配偶者居住権の及ぶ範囲を確認してから小規模宅地等の特例の適否を検討する必要があります。 (了)
固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第21回】 「区分所有のマンションのうち事務所用の部分について、居住部分と異なる経年減点補正率を適用して評価額を計算することが違法か否かで争われた事案」 税理士 菅野 真美 ▷地方税法第352条と区分所有の家屋の評価 共有の財産の固定資産税は、共有者に連帯納付義務がある。共有財産について、共有持分に応じて、ある共有者が固定資産税を納付したが、他の共有者が納付しなかった場合は、他の共有者持分相当の固定資産税も納付しなければならない(地方税法第10条の2)。しかし、区分所有のマンションの居住者の1人が固定資産税を納付しなかったことにより、全く関係のない他のマンションの居住者が連帯納付義務を負わされることは不合理である。 このような問題を回避するために、地方税法第352条第1項において、専有部分の床面積の割合により按分した額を固定資産税として納付すれば足り、他の区分所有者の固定資産税まで連帯納付する必要はないとされている。 それでは、このような区分所有された家屋の評価額はどのように算定するのか。固定資産税評価額の算定は固定資産評価基準に基づく。財産評価基本通達と異なり、固定資産の価格は固定資産評価基準によって決定しなければならないとされている(地方税法第403条第1項)。 家屋は、原則的には一棟の家屋について再建築費評点数に経年減点補正率を乗ずること等を行って評価する。一棟の家屋について、区分して評価するのは、増築された家屋や非課税部分等のある家屋(固定資産評価基準第2章第1節四、五)に限られる。 それでは、市町村が、区分所有された家屋について区分ごとに異なる経年減点補正率を乗じて価額を求め、固定資産税の賦課決定処分を行ったことは適法であろうか。このことについて争われた事案について、今回は検討する。 ▷どのような事案か 本事案について、時系列で並べると次のようになる。 ▷事案の争点 争点は、棄却決定の違法性と、固定資産税・都市計画税、不動産取得税の賦課決定の国家賠償法上の違法性及び被告らの過失の有無であるが、本稿では、固定資産評価審査委員会の棄却決定の違法性に絞って検討する。 ▷地裁の判決は 地裁はX社の主張を認め、札幌市の棄却決定は違法であるとした。 その理由は、概ね以下のとおりである。 そして、地裁の判決に不服な札幌市固定資産評価委員会等は控訴した。 ▷高裁の判決は 高裁は、札幌市固定資産評価審査委員会等の請求を認め、地裁での敗訴部分を棄却した。 その理由は、概ね以下のとおりである。 この高裁の判決には、次のような批判もある。 (※) 長島弘「一棟の区分所有建物に複数の補正率を適用することの可否(続)」税務事例Vol.49、No.4、28頁。 たしかに租税法律主義から考えると、この判決には疑問がないとはいえないところがある。高裁等は、違法であると判断したことによる地方自治体の負担の増大に配慮したのだろうか。 (了)
〔事例で使える〕 中小企業会計指針・会計要領 《収益・費用の計上-収益認識》編 【第1回】 「自社ポイントの付与」 公認会計士・税理士 前原 啓二 はじめに 平成30年3月に「収益認識に関する会計基準」(以下「収益認識会計基準」とします)が公表され、上場企業や会社法上の大会社等公認会計士又は監査法人の監査を受ける会社を対象に、令和3年4月1日以降開始する事業年度から強制適用されています。これを受けて、平成30年度税制改正において法人税法等の改正も行われました。 しかし、中小企業は、収益認識について、従来どおりの会計処理を継続できることとなりました。今回の『収益認識』編では、中小企業に適用義務化されなかった収益認識会計基準や平成30年度税制改正後の法人税等の取扱いによる会計処理をご紹介します。それらの中から今回は、「自社ポイントの付与」を取り上げます。 【設例1】 当社(家具量販店)はポイント制を採用しています。具体的には、法人・個人いずれの顧客にも、ポイント使用額を除く税込購入金額20円につき1ポイントを付与しています。当社家具商品購入に際して1ポイントで1円使用でき、このポイントを使用できる期間は、ポイント付与後3年間としています。 当社は、X4年4月4日に法人顧客H社へ応接セット400,000円(税抜)を販売・引渡して現金440,000円(消費税率10%)を受けとりました。 H社はそれで得た22,000ポイントのうち11,000ポイントを使用して、X4年5月6日に、当社から椅子11,000円(税込)を取得しました。 残りの11,000ポイントについては、当社は使用されると見込んでいましたが、その使用できる期間(3年間)において、当社に対して使用されることなく、X7年4月4日にポイントが失効しました。 1 収益認識会計基準を適用した場合の当社の仕訳 当社の仕訳は収益認識会計基準によった場合、次のとおりです。 〈X4年4月4日:応接セット販売時〉 〈X4年5月6日:椅子取得時〉 〈X7年4月4日:ポイント失効時〉 (4) これらの配分額を、履行義務を充足した時に収益を認識します(ステップ5)。「応接セットの販売」に対する履行義務は、販売・引渡したX4年4月4日に充足されているので、同日に379,147円を収益計上します。この時点では、「ポイント引き換えの商品引渡」に対する履行義務がまだなされていないため、その配分額20,853円は契約負債に計上します。 (5) その後、「22,000ポイント引き換えによる商品引渡」に対する履行義務は、そのうち11,000ポイントの使用により、当社が椅子11,000円(税込)を引き渡したX4年5月6日に充足されたため、同日に、20,853円×11,000ポイント/22,000ポイント=10,427円を収益計上します。 (6) この設例では、「残りの11,000ポイント引き換えによる商品引渡」に対する履行義務は、使用できる期間(3年間)に当社に対してポイントが使用されることなく、X7年4月4日を過ぎてポイントが失効したため、その時点で契約負債10,426円を収益に振替計上します。 以上(3)から(6)により、会計処理は、上記1の仕訳のとおりとなります。 2 収益認識会計基準により会計処理した場合の法人税法上の取扱い 既述のとおり、収益認識会計基準の公表を受けて、平成30年度税制改正において法人税法等の改正も行われ、ポイントを付与した場合の収益計上についても、次の①から④の要件のすべてを満たせば、継続適用を条件として、上記会計処理が法人税法上もできるとされました(法基通2-1-1の7)。 3 収益認識会計基準により会計処理した場合の消費税法上の取扱い 収益認識会計基準の公表を受けて、法人税法等の改正は行われたものの、消費税法の改正はありませんでした。したがって、収益認識会計基準の会計処理ではなく、それ以前の従来どおりの会計処理に合わせた仮受消費税の処理となります。この設例の場合、上記1の仕訳のとおり、X4年4月4日の応接セット販売時に40,000円(=440,000円×10/110)を仮受消費税処理します。 (了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第130回】 三協フロンテア株式会社 「調査委員会調査報告書(2022年6月27日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【三協フロンテア株式会社調査委員会の概要】 【三協フロンテア株式会社の概要】 三協フロンテア株式会社(以下「三協」と略称する)は、1969年12月設立。ユニットハウスの製造・販売・レンタルを主たる事業とする。売上高53,346百万円、経常利益10,101百万円、資本金1,545百万円。従業員数1,511名。創業者である前会長の長妻和夫氏が代表を務める有限会社和幸興産が発行済株式の50.54%を保有する筆頭株主であり、代表取締役社長の長妻貴嗣氏(報告書上の表記はω氏、以下、長妻社長と略称する)以下の長妻一族が69%を超える株式を保有している(いずれも2022年3月期連結実績)。本店所在地は千葉県柏市。東京証券取引所スタンダード市場上場。会計監査人はEY新日本有限責任監査法人東京事務所(以下「新日本監査法人」と略称する)。 【調査報告書の概要】 1 調査委員会設置の経緯 三協は、2022年1月から開始された東京国税局の税務調査及び三協による調査の過程で、以下の事実が判明したため、これらの案件の実態究明とその範囲の拡大の程度を確定することを目的として、2022年3月23日に調査委員会を設置した。 2 調査委員会の調査により判明した不正の概要 調査委員会の調査により判明した不適切な行為は、以下の4つの類型に大別されている。 (1) 仕入代金の水増し・架空請求による横領事案(不正案件) 報告書によれば、2013年から2022年1月までの間に、営業担当者33名(延べ人数)が、11社の仕入れ先の協力を得て、約1億1,333万円の現金又は物品を着服して、三協に損害を与えたとのことである。 (2) 請求内容変更による原価の付け替え 調査委員会は、決算に影響を与える原価の付け替え案件としては、決算月を跨ぐような現場及び計上月の双方を付け替える原価の付け替えであると認定を行い、調査の結果、調査期間中の原価付け替えで決算に影響を及ぼした額を算定、年度単位では2020年3月期の29百万円が最大であり、同期の連結売上原価が26,438百万円であることから、「当社の原価総額に比して極めて少額である」と結論づけている。 (3) プール金設定による原価の付け替え 報告書によれば、三協の一部営業担当者は、目標の粗利率を上回る粗利率が達成可能な現場において、仕入先に対し、仕入価額に一定の水増し金額による請求書を出すことを依頼し、仕入先において、水増し価額分をプールしておき、別の現場で粗利率が目標値を下回るような事態が生じた場合に、プール金を預けてある仕入業者に依頼して、プール金の全部又は一部を当該現場における仕入代金に充当してもらい、当該現場における仕入に係る請求書の金額を充当分だけ減額して粗利率が目標値より下回ることを回避するという処理をするという手法を編み出していた。 調査委員会は、こうした手法について、「プール金の設定は将来における粗利率の悪い現場における粗利率の調整のために設定するとはいえ、当該現場における粗利率に達成目標との間で乖離があることを奇貨として架空請求をするのであるから、違法・不正な行為であることは明白である」と断じている。 (4) 売上の先行計上 調査報告書によれば、売上の先行計上の大半は、営業担当者が、仕入先に対して、工事進行基準適用案件における進捗度を偽装するために、未施工部分の工事に係る請求書を発行させたり、工事が全て終了していないにもかかわらず残工事部分を含む請求書を発行させたりしていたものであった。 調査委員会による調査の結果、売上の先行計上(期ずれ)による影響額は2021年3月期が234百万円で最大であったが、連結売上高48,183百万円に対する影響としては、-0.5%となっている。 3 原因分析 調査委員会は、不適切な行為の類型ごとに、次のように原因を分析している。 (1) 仕入代金の水増し・架空請求による横領事案(不正案件) 調査委員会は、原因分析として、次の2点を挙げている。 すなわち、三協では、新規の協力業者と取引するに先立ち、協力業社について調査が十分でない場合があったため、会社の実態が全く存在しない事業者に対しても、多額の発注を行うことができる状況にあったこと、一部の協力業社に対して発注が集中する場合があり、取引業者に対して極めて優越した関係に立つことから、本来であれば応じられないような上乗せ請求や架空請求をさせることができる関係が生じてしまっていたことを挙げている。 (2) 請求内容変更による原価の付け替え 調査委員会は、営業担当者が原価の付け替えを行う原因は、粗利率維持に関する強い意識の浸透と、追加の営業仕入に係る原価計上に関する事務手続の煩雑さという2つに整理している。 (3) プール金設定による原価の付け替え 調査委員会は、プール金の設定及びその取崩しは、営業担当者において、もっぱら現場ごとの粗利率の平準化を図るため、粗利率を下回る現場における原価の付け替えのために行なわれていたといえ、プール金設定のための請求書の作成にあたっては背任的ないし背信的要素は否めないものの、少なくとも私的流用の意図はなかったとしながら、その原因は三協における粗利率管理にあると考えられるが、それだけに止まらず、不正案件において顕在化した仕入先との癒着がそのベースにあるだけに、根本的な是正を要するところであるとまとめている。 (4) 売上の先行計上 調査委員会は、売上の先行計上案件が発生した背景となる環境について、統括部長制の導入により、売上予算の目標設定手法が、各統括部長が自ら売上目標を出し、それを合算して会社の目標に達成するかどうかを議論して決めるように変化した結果、専務取締役管理本部長である端山秀人氏(報告書上の記載は「λ氏」。以下、「端山専務」と略称する)及び各統括部長においては、売上目標に拘泥し、一度立てた目標の変更が許されないという考え方も共有されていたとの認定を行った。 そのうえで、統括部長において、当然に適切な会計処理のもとで許される営業活動に尽力するものの、最後の最後において、売上目標を達成するためのわずかな誤差を埋めるためには、会計的に不適切な行為を行うこともやむを得ないとの誤った認識も共有されていたことから、売上の先行計上が行われたと分析している。 そのうえで、結論としては、売上目標を設定する端山専務及び各統括部長が、何よりも自ら設定した売上目標達成に対する重圧を感じており、それと同等の重圧を営業担当者も感じていたことに起因するとまとめている。 4 再発防止策の提言(調査報告書41ページ以下) 調査委員会による再発防止策の提言は以下のとおりである。 【調査報告書の特徴】 創業者であるオーナー一族が発行済株式の70%近くを保有し、業績も順調に推移し、TVコマーシャルなどで知名度も上がっているはずの三協で、国税局の税務調査で不適切な行為が発見された。過年度損益の修正を行うまでの影響はないものの、調査委員会を設置して、調査結果を公表せざるを得なくなった三協は、2人の顧問弁護士を委員とした調査委員会に、元福岡高検検事長として刑事事件の捜査に多大の知見を有するとともに、多くの第三者委員会での調査経験が豊富な有田知德弁護士を委員長に招聘し、かつ、会計に関する知見が必要となったことから藤田大介公認会計士がメンバーとして加わったものである。さらに調査補助に当たった弁護士も全て顧問弁護士事務所に所属することから、「顧問弁護士が主導して行われた調査」であるとの印象は拭えない。 また、調査委員会は、会計監査人である新日本監査法人とも、調査の方法及び進捗状況についての意見交換及びその時々の調査結果についての情報共有を行った(調査報告書7ページ)ということであるが、残念ながら、会計監査人のコメント等は、調査報告書にはまったく記載がなかった。 1 調査委員会の「独立性・中立性・客観性」は確保されているか 調査委員会は、報告書に「当委員会および当委員会の調査実施過程における独立性・中立性・客観性に関して」と名付けた項目を置き、調査委員会が独立性・中立性・客観性を確保するために、三協との間で、以下の事項を確認したことを説明している。 さらに、調査委員会は、調査を行うに際し、委員会の委員長であり、三協とは利害関係を有していない有田弁護士より、委員会の独立性・中立性を確保するための措置について、逐一監督を受けたうえで、調査を実施したことを明記している。 しかし、報告書の記述内容を検証すると、調査委員会の事実認定や事実認定に基づく分析がどうしても「会社寄り」になっているのではないかと思われる箇所が散見される。 (1) なぜ増収増益決算を続けてきた三協において、売上の先行計上や原価の付け替えといった粉飾行為が行われたのか 調査委員会は、売上の先行計上について、上述のような原因分析を行っているが、東日本大震災による特需以来、ほぼ一貫して増収増益基調にある三協において、売上高をわずかコンマ数パーセント増加させるために、工事進行基準適用案件において進捗度を仮装するため、仕入先に対して偽造した請求書の発行を要請するところまで、不適切な行為に及んだのか、十分に説明できているとは言い難い。 その一方で、全ての統括部長において、売上目標を達成するべく、適切な会計処理のもとで許される営業活動に尽力していることを強調し、売上の先行計上による影響額は極めて軽微なものであり、架空取引を含むものでもなく、その目的も悪質とまではいえないとも言及しており、原因を深く追及するよりは、「売上目標達成のためのやむを得ない行為」であるかのような印象を与えるように読めるのではないか。 (2) 不適切な行為を矮小化する印象を与える記述 調査委員会は、三協の営業担当者による不適切な行為を4つの類型に分けて分析し、決算への影響額を算定しているが、「違法・不正な行為である」と評価しているのは、プール金の設定による原価の付け替え行為のみである。横領罪又は業務上横領罪に該当する可能性が高い仕入れ業者からのキックバックを単なる「不正案件」と呼称して、その法的責任についての言及がないことや、有価証券報告書虚偽記載に問われる可能性のある売上の先行計上についても、「不適切な行為である」という評価は記述されているものの、過年度の有価証券報告書の訂正についての言及がないことなど、不適切な行為の「悪質性」を糊塗するかのような表面的な記述が目立っている。 (3) 代表取締役の関与と責任について 調査委員会は、報告書上では「ω氏」と記載されている長妻社長の売上先行計上案件への関与について、長妻社長は、2017年3月期以降、将来の事業収益を確保するため、海外事業を立ち上げて海外への渡航を繰り返し、また、経営戦略及び新製品の開発の指導に特化しており、国内におけるユニットハウスの販売を行う営業部門の実務は、端山専務に任せている状況であり、営業部門の統括部長会議に出席していることも確認されていないことから、売上の先行計上を指示しているという事実を基礎づける証拠は、一切存在せず、また、売上の先行計上を認識しながらこれを黙認していたという事情を推測させる証拠は何ら発見されなかったと結論づけている。 経営トップである長妻社長が「知らなかった」というだけで免責されるはずはなく、さらに、多数の社員による横領事件や原価の付け替え、プール金の設定というその他の不適切な行為に関しては、長妻社長の経営トップとしての責任にはまったく触れられていない。 (4) 結語 調査委員会による「結語」を全文引用する。 調査委員会は、調査報告書の末文で初めて「分断」という単語を使用し、「営業部門上位者と一部の営業担当者間の信頼関係の希薄化」が主たる要因であったと、ここまでの原因分析とはまったく異なる見解を表明しているように思える記述を連ねている。信頼関係の希薄化がどのように横領事件や売上の先行計上につながるかの説明は、ここには一切ない。 その一方で、「金額的影響は軽微」であることや、全社的な内部統制の不備が一部にとどまり、「財務報告に重要な影響を及ぼすものではない」ことが改めて強調されている点など、ここでも、不適切な行為をことさら「些少な影響しかない」ものであることが繰り返し表明されている。 2 役員の異動及び役員報酬の返上 三協は、「調査結果を重く受け止めるとともに、経営責任を明確にするため、以下のとおり処分を行うことを決議」したとして、調査報告書と同時に、社内処分を公表した。 役員の処分以外にも、「不正着服に関係した従業員につきましても、社内規定に基づき厳正に処分」するとの記載があるが、着服した金員の返還を求めるのかどうか、刑事告訴を行うかどうかについては言及がない。 なお、端山秀人氏及び三戸茂夫氏は、6月29日開催の定時株主総会終結の時をもって取締役を退任している。 3 三協による原因分析と再発防止策 三協が6月30日にリリースした「財務報告に係る内部統制の開示すべき重要な不備に関するお知らせ」によれば、不適切な会計処理は、「売上及び原価計上に係る業務プロセスにおける取引内容及び工事進捗の確認が行われる体制、ならびに営業部門における職務権限の分離が不十分であったこと等に起因」するものであると同時に、「全社的な観点から、人員の配置転換が適切に行われず固定的になっていたこと、不適切な会計処理を防止又は検出する日常モニタリングが不十分であった点、及び内部監査が適切に機能していなかった点も認識して」いることから、「調査報告書の提言を踏まえ、以下の通り再発防止策を設定・実行し、適切な内部統制の整備・運用」を図ると説明している。 (了)