〈適切な判断を導くための〉 消費税実務Q&A 【第17回】 「無形固定資産に係る輸入消費税について」 税理士 石川 幸恵 【Q】 当社は台湾の製造業者から商品を輸入しています。この商品には特定の商標が付されており、その商標権使用料(以下「ロイヤルティ」といいます。)は製造業者ではなくアメリカの法人に支払っています。 このロイヤルティは売手である製造業者に支払ったものではなく、商品の製造委託契約とは別の契約に基づき支払われています。また、通関時にこのロイヤルティを課税価格に含めて輸入消費税を納付したとしても、その輸入消費税は仕入税額控除の対象となるため、結果的に税負担は生じません。 このような場合、ロイヤルティは輸入消費税の課税価格に含めずに申告してよいでしょうか。 【A】 ロイヤルティを関税や消費税の課税価格に含めるかどうかは、「輸入貨物に係る取引の状況その他の事情からみて当該輸入貨物の輸入取引をするために買手により直接又は間接に支払われるもの(関税定率法4①四)」であるか否かにより判断が異なります。具体例については、【解説】で見ていきます。 なお、「仕入税額控除により結果的に税負担が生じないから」という理由で、課税価格に含めなくてよいものではありません。 ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ 1 輸入消費税の課税価格 保税地域から引き取られる課税貨物に係る消費税の課税標準は、当該課税貨物につき関税定率法第4条から第4条の8までの規定に準じて算出した価格に当該課税貨物の保税地域からの引き取りに係る消費税以外の消費税等及び関税の額に相当する金額を加算した金額とされている(消法28④)。 また、輸入貨物の課税価格の決定方法は、輸入取引がされた時に買手より売手に対し、又は売手のために、当該輸入貨物につき現実に支払われた又は支払われるべき価格に、その含まれていない限度において、当該貨物が輸入港に到着するまでに要する運賃・保険料等の額、当該輸入貨物に係る商標権等の使用に伴う対価で輸入取引の条件として買手により直接又は間接に支払われるもの等を加えた価格によることを原則としている(関税定率法4①)。 以下では、輸入貨物に係るロイヤルティについて、課税価格に含めるかどうかの判断基準を具体例により確認する。 2 ロイヤルティの支払いに関する事例 輸入取引の売手以外に支払うロイヤルティが輸入消費税の課税価格に含まれるかどうかは、「輸入貨物に関連しているか」、その支払が「輸入取引をするための条件」となっているか否かで決まる。以下、結論が異なる事例2つと裁決事例を紹介する。 (1) ロイヤルティを課税価格に含める場合 ① 取引の概要 図のように、買手は商標権者A社とのライセンス契約に基づき、商標の使用許諾を受け、A社の子会社である売手から当該商標が付された靴を輸入している。ロイヤルティはA社に、貨物の代金は売手にそれぞれ支払われている。 ② 取扱い 売手と特殊関係にある商標権者に支払うロイヤルティは課税価格に含める。 ③ 理由 ロイヤルティは輸入貨物に付されている商標の使用の対価であることから輸入貨物に係るものである。また、そのロイヤルティは売手の親会社である商標権者に対して支払われており、支払いがなければ売手は貨物を買手に販売しないものと解される。このため、このロイヤルティは輸入取引をするために買手により支払われるものと認められるためである(関税定率法基本通達4-13(4)ハ)。 (2) 課税価格に含めない場合 ① 取引の概要 図のとおり、買手であるB社は、商標権者L社とのロイヤルティ契約に基づいてロイヤルティを支払っている。このロイヤルティ契約により、商標権の使用許諾に加え、経営上のノウハウの利用や社会的信用の向上、競業者に対する優位性という経済的利益を得られる。 一方、B社は、売手であるS社からL社の商標が付された商品を輸入している(商標の使用については上記のロイヤルティ契約に基づくものである。)が、売手はB社がロイヤルティを支払っていることを認識していない。また、B社は売手をS社以外でも自由に選択することが可能である。 ロイヤルティの支払額は、商標を使用するか否か、輸入か国内調達かにかかわらず一定である。 ② 取扱い このロイヤルティは課税価格に含めない。 ③ 理由 この課税貨物は商標を付したものであり、ロイヤルティは輸入貨物に係るものであると認められる。 一方、商標権者L社は輸入取引及び輸入貨物の製造・管理には関与しておらず、ロイヤルティの支払いやその金額は輸入の有無によって変動しない。このことから、このロイヤルティは「輸入取引をするために買手により支払われるもの」には該当しないと認められるためである。 (3) 裁決事例 やや古いものではあるが、平成13年にロイヤルティが消費税の課税標準(関税課税価格)に含まれると認められるのが相当であると判断された裁決事例がある(TAINSコード:F0-5-125)。本件では売手は商標権者と特殊関係になかったので、(1)のケースには該当しないものの、課税価格に含まれると判断されたところが特徴である。 買手は商標権者から商品の製造権及び日本での販売権を取得し、その対価としてロイヤルティを支払う義務を負っていた。 また、実態として、商標権者は輸出者の実態を十分に把握しており、製品の製造過程や輸入取引について商標権者の立場から相当程度管理又は支配していたと認められた。 これらの事情を総合的に勘案し、ロイヤルティは「輸入取引をするために支払われるもの」に該当するとして、課税価格に算入すべきと判断されている。 (了)
国際課税レポート 【第23回】 「データから読み解くピラー2」 税理士 岡 直樹 (公財)東京財団上席フェロー 先月公開した本連載【第22回】では、2026年1月5日にOECD・G20包摂的枠組み(Inclusive Framework)が公表した、いわゆる「ピラー2・共存パッケージ(Administrative Guidance)」の概要を取り上げた。そこでは「共存セーフハーバー(Side-by-Side Safe Harbour)」を導入する方針が示された。これは、米国国内法に既にある制度と、ピラー2を併存させる枠組みである。 その後、2026年1月23日、日本政府は「グローバル・ミニマム課税に係る国際合意を踏まえた措置」について閣議決定を行い、米国多国籍企業について、15%のトップアップ課税によるグローバル・ミニマム課税のための3つの制度(本稿では「ピラー2」と呼ぶ)のうち、IIR(所得合算ルール)及びUTPR(軽課税所得ルール)を適用しない方針を示した。2026年度(令和8年度)税制改正において所要の法整備が行われることになる。 2021年10月の「OECD・G20 BEPS包摂的枠組みによる国際合意」⇒それを踏まえた検討⇒今回の米国をつなぎとめるための共存パッケージによる決着、という流れを踏まえると、2021年10月に国際社会が合意した「ピラー2」実施を巡る検討は、1つの節目・区切りを迎えたように見える。 ピラー2は、自国の法律に基づく多国籍企業課税の事務負担と税負担を大きく変える制度である。多くの国が同時に導入し、制度間の抜け穴をふさぐことを前提としている。 裏返せば、各国が企業に負担を求める根拠の1つは、自国の歳入のためではなく、ピラー2が「グローバル・ルール」だからだ。OECDはこのたび、グローバル・ミニマム課税に関する「中央記録(Central Record)」も公開した。これは、包摂的枠組参加国間の相互審査で確認済の(但し現時点では自己申告ベースの移行的なもの)「適格国内法」のリストを公示するためのものである。 本稿ではこの機会に、「グローバル・ルール」としてのピラー2の姿を、関連データを通じてとらえてみたい。 OECD「中央記録」でみるピラー2 ピラー2の地理的な広がりから確認することとしたい。OECDの中央記録によれば、2025年12月1日現在、次のようになっている。 適格所得合算ルール(Q-IIR):43法域 適格国内ミニマム課税セーフハーバー(QDMTT Safe Harbour):46法域 両方を備える法域:40法域 少なくともいずれか一方を備える法域:49法域 内訳として、QDMTT Safe Harbourのみは 、バーレーン、バルバドス、ブラジル、ブルガリア、スロバキア、アラブ首長国連邦(UAE) の6法域である。また、Q-IIRのみは ジャージー、韓国、ニュージーランドの3法域である。 なお、中央記録は適格性についての合意を経たものを記載しており、ここに記載がなくても不適格・未導入を意味しない。なお、現在の内容は自己申告に基づく移行期間の暫定的なものとされている。 ピラー2導入国の現在地 ピラー2導入国の現在地について、表に暫定的にまとめてみた。 【表】世界の中のピラー2導入国(2026年1月現在) (注) 暫定的なもの。国数はOECD中央記録による。包摂的枠組国・地域数は2025年12月現在。GDPはIMF(WEO)による。多国籍企業数はOECD「Corporate Tax Statistics 2025」Table 7.2による。ここでいう「導入」は、OECD中央記録上「暫定的に適格性が確認できる(transitional qualified status)」であることを指す。 (出所) 筆者作成。 【表】が示すように、加盟国に導入を義務付けたEU27ヶ国においても、2025年12月時点では5ヶ国(2004年のEU拡大でEUに加盟したキプロス、エストニア、ラトビア、リトアニア、マルタ)はピラー2の制度をいずれも現時点では導入していない。 これは、EUは2022年12月のEU指令で加盟国にピラー2導入のための国内法整備を義務付けているが、特例により、一定の要件を満たす国はIIR/UTPRの適用を2029年末まで繰り延べることができる。これらの国はこの繰延べを利用したことによる。 OECDの国でみると、チリ、コロンビア、コスタリカ、エストニア、アイスランド、イスラエル、ラトビア、リトアニア、メキシコ、米国の10ヶ国は導入していない。 ピラー2(グローバル・ミニマム課税)は、G20(加盟国数では19ヶ国)のイニシアチブでもあるが、7ヶ国(アルゼンチン、中国、インド、メキシコ、ロシア、サウジアラビア、米国)は導入していない。 ピラー2について議論し、モデルルールやそのコメンタリ、事務運営指針を作成・公表している「包摂的枠組」参加国・地域148のうち、なんらかのピラー2の措置を導入している49の国・地域は3分の1に過ぎない。 結果として、中央記録上の「導入」法域は地理的に欧州に偏っており、経済規模でみてもピラー2の対象になる多国籍企業数でみると6割程度、GDPでみると4割程度にとどまっている。 最大の要因は、世界第一、第二の経済大国であり、世界第一、第三の多国籍企業大国である米国と中国がピラー2の制度を導入していないことが大きい。この点では、今回、共存パッケージで米国を的に取り込んだ形で一応の決着をみることができたが、「グローバル・ルール」と呼べる実質を伴っているかについての見解は分かれたとしても不思議ではないかもしれない。 地理的拡大の見通し ピラー2の核心は、①複数の制度を組み合わせた「パッケージ」として、②とりわけ域外適用という法的問題を伴うUTPRを含めて、③各国が協調的に実施することで、本国での課税を含め、多国籍企業に全世界で15%以上のミニマム課税を徹底する点にある。国際協調がなければ、そこが“抜け穴”となり、意味をもちにくい制度設計になっている。 しかし、そのピラー2の核心に位置付けられた措置であるIIRとUTPRについて、米国を母国とする多国籍企業については、個別の実効税負担率を不要とし、一括して適用対象から除くセーフハーバー(トップアップ税額をゼロとみなす)を導入したことで、他の多国籍企業の母国である国(及びその国を母国とする多国籍企業)からみれば不公平感がある一方(中国は米国同様の扱いを求めたことが報じられている)、米国から直接投資を受け入れている国からは、新たにQDMTTを適用するインセンティブは削がれることになる(自国で課税しなければ、米国を親会社とする多国籍企業にとってはメリットがある)。 実際、シンガポールは米国をQDMTTの対象としない制度を検討したことが報じられている(ただし、OECDはその場合適格なDMTTに該当しなくなると牽制したようだ)。 現時点で導入を繰り延べているEUの5ヶ国はいずれ導入する蓋然性が高いが、OECDやEU域外の導入国が今後国内法による施行を取りやめる可能性が指摘されている。今後、参加国が拡大するか否かは、各国の国内政治・産業政策の帰結に左右されよう。 OECDによる監視と予測可能性 米国制度の共存セーフハーバー適格性については、包摂的枠組みが審査することになるが、このプロセスは外形上「見えにくい」部分が残る。 そもそも、各国の制度がピラー2制度としての基準を満たしているかどうかについての包摂的枠組による審査の仕組みについては、今後詳細に詰めることとされている(OECDピラー2モデルルールコメンタリ(2025))。 ピラー2の制度を導入していない国が3分の2を占める包摂的枠組が、審査に必要な経験や権威を持っているのかという疑問も生じるかもしれない。 OECD(包摂的枠組み)は、1月5日の共存パッケージの中で、2029年までに共存システムの現状検証を行い、必要な見直しを行うとしている。欧州委員会も、2029年までに今回のパッケージが欧州の競争力に及ぼす影響を評価することとしている。いってみれば、制度の恒久化を最初から前提としていないことになる。 多国籍企業にとって、予測可能性の確保と税制の安定は重要である。制度間の差異が残る局面では、企業行動(投資・組織再編・本社機能の配置等)に影響が生じ得る。究極の親会社が米国であればセーフハーバーが適用されるので、形式的に米国に親会社を移す多国籍企業が出てくるかもしれないという指摘もある。 輸出で稼ぐ国から多国籍企業への投資リターンで潤う国へ わが国は、米国の約2,000に次ぐ900の多国籍企業を有する多国籍企業大国である。ピラー2の対象となる水準は1,100億円程度であるので、対象となる多国籍企業のすそ野は広い。ピラー2の影響は、一部の巨大多国籍企業に限られない。 下記の【図1】にあるように、近年、貿易収支は4.2兆円あまりの赤字に転じる一方、投資収益等からなる第一次所得収支の黒字が31.3兆円あまりになっている(直近5年間の平均)。 【図1】貿易収支と第一次所得収支の推移 (出所) 財務省国際収支統計より筆者作成。 わが国は輸出で稼ぐ国から、海外への投資からの収益で潤う国に変わっている。 また、直接投資からのリターン(収益)の内訳をみると、配当が12兆円あまり、留保所得(再投資)が11兆円あまりとなっており、子会社等からの収益のおよそ半分が子会社に留保されている。 【図2】直接投資収益の推移(配当と再投資(留保)) (出所) 財務省国際収支統計より筆者作成。 おわりに 多国籍企業課税の在り方は、企業の国際競争力という意味でも、課税ベースという意味でも、わが国にとって重要な意味を持つ。 本稿では、ピラー2の導入状況のデータから、ピラー2の「導入」法域が地理的に欧州に偏っていること、また経済規模や対象多国籍企業数でみたカバー率が地理的な広がりを欠いていることをみてきた。 欧州では、共存パッケージが欧州企業の競争力に与え得る影響を踏まえ、欧州委員会が一定期間後にパッケージの影響を評価し、必要に応じて見直す枠組みが置かれている。 以上を踏まえると、資源も市場も限られている日本は、国内に閉じこもり、輸出を通じて稼ぐだけでなく、これまでどおり海外展開を通じて稼ぐ力を強くしていく必要があると言えるだろう。 そのためにも、わが国としては国際的な動きを精緻に把握し、制度の実質とインセンティブを見極めた上で、適切な対応を講じることにより、わが国企業の国際競争力を保持・向上させることが重要となるだろう。 (了)
計算書類作成に関する “うっかりミス”の事例と防止策 【第50回】 「参考として掲載された前期の連結P/Lの訂正」 公認会計士 石王丸 周夫 1 営業外費用の内訳表示の訂正 計算書類にはうっかりミスがつきものです。 実際、こんなミスが起きています。 参考として掲載した前期の連結損益計算書について、営業外費用の内訳表示に訂正すべき事項が判明したというものです。 会社法による計算書類の開示では、決算書本体は単年度開示が基本です。すなわち、当期の決算書のみを開示します。しかしながら、過年度の決算書を参考のために併記することも可能であり、そのような会社も少数ながらみられます。今回の事例の会社は、そのような会社の1つです。 では早速、事例を見ていきましょう。 【事例50】 ご参考として掲載した前期の表示を訂正した事例 〈訂正前〉 〈訂正後〉 (出所) 森永製菓株式会社「「第177期定時株主総会招集ご通知」の一部訂正について」(2025年6月11日) この事例の会社は、2025年5月29日に本事例を含む「第177期定時株主総会招集ご通知」を公表(電子提供措置の開始)し、2025年6月11日に当該一部訂正を公表しています。 訂正された箇所は【事例50】の赤字下線部で、連結損益計算書の営業外費用の内訳を見直したものです。訂正前は、営業外費用の内訳として、「自己株式取得費用」を区分掲記していましたが、訂正後はそれを削除しています。これは、前期の金額に着目するとわかるとおり、「自己株式取得費用」の金額を「その他」に含める訂正を行ったものです。当期については、「自己株式取得費用」の金額欄は「-」(0円)となっているので、科目統合の影響は特にないということになります。 2 訂正前と訂正後の違いは? 【事例50】の訂正前と訂正後について、各表示が示している内容を考えてみましょう。 訂正前は、営業外費用の内訳に「自己株式取得費用」がありました。当期の金額欄は「-」となっています。つまり、0円です。当期において、自己株式取得費用は一切発生しなかったことを示しています。 次に訂正後です。訂正後は「自己株式取得費用」の科目は示されていません。訂正後の営業外費用の表示を見る限りでは、当期においても前期においても自己株式取得費用が発生したかどうかはわかりません。発生している場合は「その他」に含まれていることになります。 もし、当期において自己株式取得費用の発生がなかったとしたら、訂正前の状態で問題ないため、訂正の必要はなかったことになります。そのように考えると、当期において自己株式取得費用が発生していたということになります。ただし、それを「その他」に含めていることから、金額的には重要性が乏しかったということだと考えられます。 3 表示方法の変更か? 【事例50】は、表示方法の変更に伴う前期の連結損益計算書の組替を忘れてしまったというミスであるようにみえます。その線で話を進めます。 この事例の会社について、前年の定時株主総会招集通知を確認すると、連結損益計算書の営業外費用の内訳には「自己株式取得費用」の科目がありました。前述のように、当期において「自己株式取得費用」を「その他」に統合したというのであれば、これは前期からの表示方法の変更になります。表示方法の変更を行った場合は、連結注記表にその旨を記載します(会社計算規則第102条の3第1項)。 しかしながら、この会社の当期の連結注記表をみても、表示方法の変更の注記は見当たりません。表示方法の変更の注記対象については、「重要性の乏しいものを除く」(会社計算規則第102条の3第1項)とあるので、この表示方法の変更は重要性が乏しいと判断され、注記は省略されたのではないでしょうか。 自己株式取得費用は、すでに前期の段階で営業外費用計の金額の約1%にすぎず、重要性の乏しい項目でした。当期における表示方法の変更を前期にも適用した結果、前期の「その他」の金額が比較的大きくなっているというなら、その説明も必要ですが、そのような現象も起きていないので、重要性が乏しいといえます。 なお、前期の決算書は「ご参考」として掲載しているものなので、前期に開示した連結損益計算書と同じものを載せればよいという考え方もあるのかもしれませんが、2期併記する以上、比較可能性を確保する観点から前期の組替が必要と考えるのが適切ではないかと思われます。 4 このミスを防止するには このミスを防止するにはどうすればよいかも考えてみましょう。 ミスを発生させないという1点に絞った場合の話ですが、「ご参考」として掲載している前期の決算書について、「掲載しない」というのが答えになります。 ミスの発生を防ぐには、そのミスが発生する作業そのものを行わないのが最も確実です。【事例50】の場合、ミスが発生した箇所は参考のために記載した部分でしたので、必ず記載すべき箇所ではありません。記載省略可能なのです。実際、多くの会社では、前期の金額を併記していません。 もちろん、積極的な情報開示という意味では、2期併記は望ましいことなのですが、同様の情報は決算短信で開示されています。決算短信の公表は、通常、株主総会招集通知の公表よりも前です。この企業の場合も期末決算短信は2025年5月9日に公表されています。2025年5月29日の株主総会招集通知の開示の20日前です。情報開示としては、それで十分だったといえないでしょうか。 〈今回のまとめ〉 ミスを発生させないためには、そのミスが発生した作業を行わないことが最も確実な防止法であり、そのような対策がとれる作業なのかどうかを議論してみる価値はあります。 (了)
〔まとめて確認〕 会計情報の月次速報解説 【2026年1月】 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2026年1月1日から1月31日までに公開した速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。 なお、四半期ごとの速報解説のポイントについては、下記の連載を参照されたい。 Ⅱ 新会計基準関係 次のものが公表されている。 ① 企業会計基準公開草案第94号「法人税等に関する会計基準(案)」等 (内容:法人税等に関する原則的な定めを置くこととし、具体的な税金を特定しない方法に見直す方向を提案。意見募集期間は2026年3月9日まで) ② 企業会計基準第41号「後発事象に関する会計基準」等 (内容:後発事象に関する会計処理及び開示について規定するもの) Ⅲ 企業内容等開示関係 次のものが公表されている。 ① 「記述情報の開示の好事例集2025(サステナビリティ情報の開示)」 (内容:「全般、気候、個別テーマ」、「人的資本、従業員の状況」の開示例に関する好事例集) ② 金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告 (内容:スタートアップ等の資金調達ニーズの高まり、非財務情報の開示の拡充等について検討したもの) ③ 金融審議会「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」報告 (内容:主にサステナビリティ情報の第三者保証制度のあり方について記載) ④ 「人的資本可視化指針(改訂版)」(案) (内容:人的資本開示を行う場合に、どのような開示が企業と投資家の建設的な対話に有用であると考えられるか検討を行い、取りまとめたもの。意見募集期間は2026年2月10日まで) ⑤ サステナビリティ開示実務対応基準公開草案第1号「温対法におけるSHK制度の定める方法により測定し報告する温室効果ガス排出を用いて『気候基準』の定めに従う場合の測定及び開示(案)」 (内容:サステナビリティ開示テーマ別基準第2号「気候関連開示基準」の解釈に関する懸念に対応するもの。意見募集期間は2026年3月25日まで) Ⅳ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 〇「新規上場会社等の会計不正事例を踏まえた監査上の対応について(通知)」 (内容:最近の新規上場会社等の会計不正事例を踏まえて、監査業務実施上の留意事項を改めて取りまとめ) (了)
従業員の解雇をめぐる企業対応Q&A 【第18回】 「無断欠勤を継続する従業員に対して解雇通知を交付する方法」 弁護士 柳田 忍 【Question】 当社の従業員Aが無断欠勤を継続し、当社からの電話や電子メールにも応答しません。当社の就業規則上、一定期間の無断欠勤がある場合を懲戒解雇事由としていますので、当該懲戒事由に基づいてAを解雇することになりましたが、解雇通知はどのように交付すればよいでしょうか。 【Answer】 解雇通知がAに到達したことを証明できるよう、郵送の場合は配達証明付き郵便で送付するのがよいでしょう。電子メールで送付する場合は、送付先のアドレスがAが通常利用するメールアドレスであるかを確認してから送付するべきです。郵送による方法と電子メールによる方法の双方を併用することも考えられます。 ◆ ◇ ◆ 解 説 ◆ ◇ ◆ 1 はじめに 従業員が長期間欠勤した場合、就業規則に、一定期間の無断欠勤を懲戒解雇事由とする定めがあれば、会社は、これを根拠に当該従業員を解雇することを検討することになる。 しかし、いざ解雇しようとしても、当該従業員に対して解雇の意思表示をどのように通知するかが問題となる。すなわち、解雇の意思表示は相手方(対象の従業員)に到達しなければ効力を生じないことから、対象の従業員に対して解雇を通知しなければならない。 解雇の通知の様式(口頭か書面か等)に法的な要件はないが、多くの場合、書面や電子メールなどにより行われる。しかし、対象の従業員と連絡がつかず、解雇通知を直接交付することができないし、郵送しても対象の従業員に到達するかどうかがわからない場合がある。 本稿においては、このような場合に対象の従業員に対して解雇通知を交付する方法について論じるものとする。 2 解雇通知を不要とする方法 まず、そもそも、設問のような場合に解雇通知なく退職の効果を得られる方法として、就業規則上に「従業員が行方不明となり、●日以上連絡がとれないとき」には退職するものとする、といった規定を定めておくことが考えられる。このような条項があれば、解雇通知を交付しなくても、「従業員が行方不明となり、●日以上連絡がとれないとき」に、自動的に問題の従業員の退職の効果が生じることになる。 しかし、「従業員が行方不明となり、●日以上連絡がとれないとき」とは、従業員が所在不明となり、かつ、会社が当該従業員に対して出勤命令や解雇等の通知や意思表示をする通常の手段が全くなくなったときを指すと考えられている(※1)。通信手段が多岐にわたる昨今において、どこまでの手段をとれば「解雇等の通知や意思表示をする通常の手段が全くなくなったとき」といえるかは、なかなか難しい問題である。 (※1) 東京地判令和2年2月4日(O・S・I事件) 3 解雇通知の方法①:郵便による場合 解雇通知を郵便で送付する方法として、主なもの及びそれぞれのメリット・デメリットは以下のとおりである。 上記のとおり、解雇通知は相手方(対象の従業員)に到達しなければ効力を生じないが、通知が相手方に到達した(民法97条1項)といえるためには、必ずしも相手が実際に内容を読んだことを要せず、相手が通知内容を了知し得る状態に置かれれば足りるとされている。すなわち、郵便による通知なら、相手の郵便受けに書面が投函された時点が「到達」に該当することになり、実際に開封・閲覧されたかは問われない。 よって、以上より、郵送であれば、基本的には、②や③のように、相手方に配達されたことの証明までを要するわけではなく、①の特定記録郵便でもよいということになるが、特定記録郵便の場合、本人が「しばらく実家に帰っていた」などと主張した場合には、「相手が通知内容を了知し得る状態に置かれた」かどうかについて疑義が生じ得る。 一方、上記のとおり、②や③の方法については、相手方が留守の場合や相手方に受領拒否をされた場合、配達されないリスクがある。もっとも、正当な理由のない受領拒絶の場合は、解雇通知は通常到達すべきであったときに到達したとみなされるため、解雇通知の効力が生じることになる(民法97条2項)(※2)。すなわち、②や③の方法によると、相手方が受領した場合にその事実を証明できるというメリットがある一方、相手方が受領しない場合のリスクは限定的であるともいえる。 (※2) 出勤停止の懲戒処分を受けた従業員が、処分の通知書を受領していないため処分は無効であると主張した事案において、裁判所は、当該従業員が簡易書留によって送付された通知書の受領を拒絶し、普通郵便によって送付された通知書を使用者に返送したことなどから、当該従業員が通知書の受領を不当に拒絶したものであり、使用者の意思表示は通常到達すべきであったときに到達したとみなされる(民法97条2項)とした(東京地判令和6年4月24日)。 なお、実務的には、内容証明郵便は、主に紛争関係にある当事者間で内容に争いが生じるおそれのある書面のやりとりをするときに使用されるものであるため、そのような場合を除き、解雇通知の送付に際しては、内容証明郵便ではなく配達証明付き郵便が使用されることが多い。 4 解雇通知の方法②:電子メールによる場合 電子メールについては、相手がそのメールアドレスに通常ログインして確認できる状況になれば、メールは相手方のメールサーバに届いた時点で「了知し得る状態」に置かれたと評価される。ただし、本人が通常利用していないメールアドレス宛への通知は「了知し得る状態」に置かれたとはいえないと判断されるおそれがあるため、注意が必要である(※3)。 (※3) 取締役会の招集通知をメールで送ったところ、取締役Xが受け取っていないと主張し、取締役会決議の有効性が争われたケースにおいて、裁判所は、Xが自らPC操作をせず、XのPCは秘書室において管理されていた上、当該メールアドレスに電子メールが送信されることがなく、秘書室において同アドレスの受信状況を確認していなかったことなどをもって、メールサーバに記録されたというだけでは受信者が了知し得る状態におかれたとはいえないとして、メールは到達していないと判断した(東京地判平成29年4月13日)。 (了)
〈Q&A〉 税理士のための成年後見実務 【第27回】 「成年後見業務の紹介元」 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 【Q】 今後も高齢者が増加していくことが見込まれていることから、自分も成年後見業務に取り組んでみようと考えるようになりました。案件の紹介元はどのような先があるのでしょうか。 【A】 AIの急速な進展により税理士の業務も大きな影響を受けると言われています。人口減少が進むなかでは、顧問先となりうる企業も減っていくことが見込まれますから、業務の多様化を図っていくことは事務所経営としては必要な判断だと思われます。 成年後見業務に乗り出すためには知識の習得だけでは不十分で、案件を獲得しなければなりません。税理士に成年後見業務の依頼をするのは顧問先が多いと思いますが、様々な税理士の関係先が紹介元となる可能性があります。 ● ● ● ● 解 説 ● ● ● ● 1 成年後見業務の紹介元は様々 筆者が司法書士として活動するなかでは、関係先から成年後見業務の紹介が多く寄せられます。それほど判断能力に問題を抱えた高齢者が多くなっているのだと思われます。司法書士は成年後見人の就任実績が多いため、成年後見人の話題になると筆者のことを思い出してくれる方が多いようです。 紹介元は実に様々で、税理士とすでに接点がある関係先も成年後見業務の紹介元となる可能性があると思われます。 2 どのような紹介元があるのか (1) 金融機関 業務のなかで顧客の判断能力が問題になることが多いためか、金融機関から成年後見制度の利用を必要とする顧客の紹介や相談をよく受けます。例えば、親の介護をしている子が、親の定期預金を解約したいと申し出てきた場合、原則としては親の判断能力がなければ対応が難しいため、成年後見制度の利用を提案することがあるようです。定期預金の解約を希望する顧客に親しい専門家がいない場合には、金融機関から紹介を行うことがあります。また金融機関は顧客企業の事業承継支援の取組みを強化していますが、そのなかで当事者の判断能力が問題になることもあり、専門家の紹介を行うこともあるようです。 金融機関と税理士は日頃から接点が多いと思いますが、やり取りがある金融機関に成年後見業務に対応できることをしっかりと伝えておくと効果的でしょう。 (2) 不動産会社 不動産会社も判断能力に課題を抱える顧客との接点が多いといえます。例えば、不動産売買の仲介を行う会社であれば、売主となる不動産所有者に認知症が進行しており成年後見制度を利用しなければならない状態であることはよくあることです。また相続対策でマンション建築を提案する会社であれば、案件を進めていくなかで施主となる方の判断能力に不安が生じるということもあります。 不動産業は税に関する問題も生じることが多いため、税理士との接点も少なくないと思います。接点のある不動産会社に成年後見業務にも対応できることを伝えておくとよいでしょう。 (3) 高齢者施設 老人ホームなどの高齢者施設から成年後見制度の利用を必要とする人の紹介を受けることがあります。入居時には判断能力に問題はなかったけれども、生活をしていくうちにサポートが必要になることがあるようです。高齢者施設としても必要な備品の購入やサービスを受けてもらうためには、本人に代わって判断をしてもらう人が必要になることから紹介につながるようです。 高齢者施設は入居している方の成年後見人など、成年後見業務に対応する専門家との接点を持っています。紹介を受けられるようになるためには、誠実に業務を行っていることを知ってもらうなどして、強い信頼関係を構築していく姿勢が欠かせません。 (4) 他士業 成年後見業務は税理士を含めた他の士業から紹介を受けるということもあります。税理士から司法書士や弁護士へ紹介を行うことはよくある例かもしれませんが、実は司法書士同士でも、自身ではサポートできない事情がある場合には、他の司法書士を紹介するということがあります。同業の税理士に成年後見業務に取り組んでいることを伝えると、紹介につながるかもしれません。 (5) その他 市町村が設置した地域包括支援センターや自治体の職員から紹介を受けるということもあります。ただし、これらの機関からの紹介は専門家団体からの推薦に基づくことが多いため、直接の紹介を受けるということは少ないと思われます。 税理士会も「成年後見支援センター」の設置を行っており、公的機関との連携を深めているようです。税理士会員向けの研修も実施しているようですから、参加をしてみるのもよいでしょう。 3 報酬がしっかりもらえる案件ばかりではない 成年後見業務を行ううえで理解をしておかなければならないのは、業務量に対して報酬がしっかりともらえる案件ばかりではないという点です。成年後見人の報酬の原資は本人の財産ですから、財産が少なければ業務量がかなり多い場合でも報酬はあまりもらえないということも少なくありません。 成年後見業務は、判断能力に課題を抱える人を保護するという公益的な性格を持つ業務です。この点は業務を行ううえでしっかりと理解をしておく必要があります。 (了)
2026年2月5日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.655を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.156- 「2年限定の消費減税、やるなら給付付き税額控除につながるように」 東京財団 シニア政策オフィサー 森信 茂樹 突然の衆院解散となり、財政ポピュリズムが再燃、与野党とも消費税減税を打ち出した。せっかく1月から各党がメンバーとなる「国民会議」が開催され、落ち着いて給付付き税額控除をはじめとした税・社会保障改革の議論が始まる予定であったのに、選挙後に延期された。 筆者が懸念するのは、「国民会議」で消費税減税が先行して議論されるという点だ。消費税減税の代わりに給付付き税額控除というストーリーだったはずだが、高市首相は、党首会談などで「2年間限定食料品消費税ゼロ、その後は給付付き税額控除」という意向を明言している。 消費税減税の問題点はすでにマスコミでも指摘されている。食料品ゼロ税率で失われる5兆円の財源が不明確で金利上昇など財政不安を招きかねない、物価引下げ効果がはっきりしない、与党の主張する2年間限定の食料品ゼロ税率導入は、買い控え、買いだめなど経済を混乱させ、事業者のシステム変更などコストがかかるということなどである。 またゼロ税率特有の問題として、農家や食料品店への還付が生じるので、申告の手間やコスト、還付までの資金繰り、さらには農家が課税事業者となり、インボイスが必要となることへの抵抗など多くの問題がある。 これらの課題は、本来事前に幅広く検討され、その結果を選挙で国民の選択にゆだねるという手順を踏むべき話だが、各党がそろって消費税減税を主張する中、課題として議論されることはない。選挙が終わった段階で、「そんなことは知らなかった」という農家などの声が聞こえてきそうだ。 * * * 筆者は、仮に導入するということになれば、2年後の導入が検討されているという給付付き税額控除につながる設計が望ましいと考える。 2015年9月10日、財務省は自民党税調の場で、「日本型軽減税率」という財務省試案を提示した。詳しい経緯は拙著『日本の消費税―社会保障・税一体改革の経緯と重要資料』(中央経済社)の207頁以降、あるいは東京財団のホームページ「消費税アーカイブ」を参照いただきたいが、この制度の概要は以下のとおりである。 ポイント制度を活用して対象品目の購入に係る軽減分の消費税相当額を消費者に還付する。軽減税率が、生産者、卸、小売とあらゆる取引段階で大きなコストを生じさせるのに対し、小売段階だけの対応で完結するという点に基本的な相違がある。また、マイナンバーカードを所得情報と結びつけることにより、還付する者に所得制限を設けることが可能となるので、ばらまきではない効果的・効率的な逆進性対策になる。そもそも現在必要な政策が物価高で苦しむ生活者対策ということなら、中低所得者に対象を限定すべきで、それが可能になる。 会計(レジ)の際にマイナンバーカードを店舗の端末にかざし、カードに記載されたICチップを読み取ることで本人確認をするので、店側にはカードを読み取る機械(リーダー)の設置コストや手間がかかるが、それは国が負担する。 2019年(令和元年)10月1日の消費増税による景気の落ち込みを緩和するために、キャッシュレス・消費者還元事業が行われた。これは、消費者が電子マネーやクレジットカードなど現金以外のキャッシュレス決済を行った場合に事業者が2~5%の還元を行うというものだが、「買い物時に一定割合を払い戻す」という点において、前述の財務省案と類似している。 * * * わが国の地方自治体はマイナンバーで住民全員の所得を把握している。また地方自治体のシステムの標準化も進み、ガバメントクラウドの活用により、国と地方自治体との情報連携も可能になっている。マイナカードが普及し公金口座の登録も増えている今日、日本型軽減税率導入のハードルは高くない。 重要なことは、日本型軽減税率のインフラに必要な、マイナンバーで紐づいた国民の所得データベースが、給付付き税額控除に活用できるということだ。選挙後に開催予定の国民会議では、是非このことを検討してほしい。 (了)
法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例83】 「グループ企業の国内統括会社に支払った経営指導料の寄付金該当性」 拓殖大学商学部教授 税理士 安部 和彦 【Q】 私は、欧州に本社がある外資系の製薬会社の日本法人X(資本金30億円で12月決算)において、経営企画部長を務めております。ご承知の通り製薬業界、中でも新薬の開発に注力している業界のトップ企業は、いずれも多額の研究開発投資を行っています。 一般に、新薬の販売に至るまでには、「探索研究→前臨床試験→臨床試験→承認審査」という段階を経る必要があります。このような各段階を経て新薬の販売に至るまでには、9年から16年に及ぶ研究開発期間と数百億円から1千億円を越える莫大な研究開発費用がかかります。しかも、研究開発の対象となった新薬候補のほとんどが、上記プロセスのかなり早い段階において開発が断念されるという現実があります。このことから、製薬業界に属する数ある企業の中でも、新薬の研究開発部門は非常に難易度が高い業務であり、そこから多額の富が生み出されるという構図があります。 わが社は製薬業界といえども外資系ということもあり、日系企業と比較すれば、日本国内における研究開発投資は、グローバルな企業規模と比較するとそれほど大きいというわけでもありません。しかし、市場としては高齢化が進み需要が大きいため、グローバルな観点から言っても重要地域の一つですので、販売やマーケティング活動にはかなり力を入れています。そのため、日本事業を統括するわが社の傘下に、研究開発部門、製造部門、販売部門の各子会社群があり、わが社が持株会社兼事業統括会社として、欧州本社の全世界的な事業戦略を実現すべく、傘下企業のマネージメントや人事、総務、法務、会計、税務等を支援する機能を担っております。そのような業務の対価として、傘下企業から経営指導料を受けていますが、最近受けている国税局のグループ企業に対する同時調査で、その算定根拠について厳しいやり取りが続いております。 特に販売部門を担う子会社Yに対する経営指導料の料率(年間売上高の1%)が他の部門を担う子会社各社よりかなり高いことが問題視されており、その料率の差額部分は販売部門を担う子会社Yからわが社への「経済的利益の贈与」に当たるとして、子会社Yに対して寄付金課税を行う旨主張しております。わが社の子会社Yに対する経営指導の内容は、欧州本社からもたらされる顧客リストの紹介も含まれており、それがYの売上に増加に寄与する部分が大きいことから、他の子会社よりも料率が高いのは当然であり、「経済的利益の贈与」に当たることなど全くないと考えておりますが、税法上どのように考えるのが妥当でしょうか、教えてください。 【A】 経営指導のような役務の提供に対して金銭が支払われる契約が締結されている場合、仮にそれが独立企業間において行われる同種の契約で設定される対価の水準と著しく乖離している場合には、経済的利益の贈与に当たると判断され寄付金に該当する可能性がありますが、その役務の提供が提供先の売上や利益に対する寄与度が高いと評価されれば、役務提供者における提供経費を超えているからといって、当該超える部分の金額が直ちに寄付金に該当するということにはなりません。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 寄付金の意義 法人税法上の寄付金とは、その名義を問わず、金銭その他の資産又は経済的利益の贈与又は無償の供与を指す(法法37⑦)。したがって、当該寄付金は、通常の、公共又は公益のための拠出ないし提供よりもはるかに広い概念である(※1)。寄付金は一般に販売費・一般管理費の一項目となるであろうが、それが損金性を有するかどうかは必ずしも明確ではない。そのような寄付金にどれだけ損金性があるのか客観的に判定することは困難であるため、法人税法においては、行政的便宜並びに公平維持の観点から、統一的な損金算入限度額が設定され、法人が支出した寄付金のうちその範囲内の金額は費用として損金算入を認め、それを超える部分の金額は損金に算入しないこととされている(法法37①)(※2)。 (※1) 金子宏『租税法(第二十四版)』(弘文堂・2021年)415頁参照。 (※2) 金子前掲(※1)書416頁参照。 (2) グループ内の法人間における経営指導と経済的利益の供与 平成22年度の税制改正で、直接・間接を含め100%の持株関係(完全支配関係)にあるグループ法人相互間の取引については、そのグループ内の法人が一体的管理・運営の下にあることを考慮して、その間の一定の取引について、一定の時期まで課税を繰り延べることとされた(グループ法人単体課税制度)。 一方で、100%の持分関係とまでは至っていないが、直接・間接を含め過半数の持分関係にあるグループ法人においては、そのグループ全体の競争力や収益力を強化・改善するため、法人相互間の有形・無形の指導(経営指導)や支援等がなされるのが通常である。そのような指導や支援等が、場合によっては税務調査において、「金銭その他の資産又は経済的利益の贈与又は無償の供与」に該当するのではないかと課税庁から指摘されるケースも珍しくないところである。 このような場合において、子会社等を整理する場合の損失負担等(法基通9-4-1)や子会社等を再建する場合の無利息貸付け等(法基通9-4-2)については、実務上、それにより生じる経済的利益の供与は寄付金に該当しない旨の取扱いが明確化されている。しかし、それ以外のケースについては、残念ながら取扱いが不明確であり、実務上判断に迷うことも少なくないところである。 (3) グループ企業の国内統括会社に支払った経営指導料に関する寄付金該当性が争われた事例 それでは本件と同様に、グループ企業の国内統括会社に支払った経営指導料に関する寄付金該当性が争われた事例(東京地裁平成12年2月3日判決・税資246号393頁、TAINS Z246-8578)について、以下で確認してみたい。 ① 事案の概要 NPC(日本フィリップス株式会社)は、オランダに拠点を置く多国籍企業であるフィリップスグループ(その中核企業はオランダ法人で持株会社であるNVPG)の企業として、1)海外で製造されたフィリップスブランドの製品を輸入して日本国内で販売を行うこと、2)日本においてOEM製品(フィリップスのブランド名の付いた、フィリップスの製品仕様書に基づいて日本の製造業者によって製造されたフィリップスの商品)及び部品を含む各種製品の調達を行うことを、その役割としていた。 NPCは、オランダ法人の100%子会社であり、フィリップスグループの現地法人として、日本におけるフィリップスグループ会社の管理運営について責任を負っていたPKK(フィリップス株式会社)に対し、PKKとの間で取り交わした1973年(昭和48年)3月31日付け及び1981年(昭和56年)12月15日付けの各覚書に基づき、一般経営・管理・技術援助・営業法務等の人的役務の提供並びに海外の顧客の紹介及び連絡の人的役務提供の対価として、NPCの年間売上総(予算)額の1パーセントに相当する金額13億2,217万5,000円を「経営指導料」として支払い、損金の額に算入した。 しかしながら、課税庁は、当該支払については、管理部門を有していないNPCの管理事務の遂行に対する費用負担の相当額として認められる部分を除き、個々の具体的な役務提供の事実が認められず、また、原処分に係る調査時においてNPCが提出した証拠資料等によっても、その経営指導料の額の計算根拠及び負担理由並びにその支払金額の相当性も明らかではないものと判断した。 そのため、課税庁は、NPCが負担すべき管理事務の費用の額3億2,611万6,000円を超える部分の金額9億9,605万9,000円は、PKKに対する法人税法第37条第6項に規定する経済的利益の贈与に当たると判断し、寄付金の損金不算入額について課税処分を行った。 ② 事案の争点 NPCがPKKに支払った経営指導料には、提供された役務との対価性を欠くものとして、法人税法第37条第6項にいう経済的利益の贈与に当たる部分があるか否か(経営指導料の寄付金該当性)である。 ③ 裁判所の判断 なお、本件は控訴されず確定している。 ④ 本裁判例から学ぶこと 企業活動が拡大し多角化がなされると、単体の企業(法人)が事業ごとに子会社等を設立したり、他社から企業を買収したりして、資本・持分関係を通じて企業グループを形成していくというような流れができるのは、ごく一般的な現象である。そのように形成された企業グループの事業運営を効率的・効果的・一体的に進めるという観点で、グループの中核企業がその傘下子会社等に対し経営指導を行い、その対価として経営指導料を徴収するという方法を採ることも、今や珍しくない。従来は、そのような経営指導は親会社等の業務の一環であるとして、特に対価を徴収していない企業グループも珍しくなかった。また、外資系企業の事業スタイルに倣う形で、対価の徴収を行うケースであっても、その設定基準が不明確で、適正な水準とはいえない事例も散見されたところである。当該水準が独立企業間において行われる同種の契約で設定される対価の水準と比して著しく乖離しており適正とはいえないような場合には、寄付金課税の問題が惹起されることとなる。 本裁判例も課税庁がそのような問題意識の下税務調査を行い、NPCがPKKに支払った経営指導料は、PKKから実際に提供された役務の内容から見て高額であるとして、法人税法第37条第6項にいう経済的利益の贈与に当たる部分があるとのことで寄付金に係る課税処分がなされたわけである。それに対して裁判所は、「NPCの販売面におけるPKKへの依存の広範さにかんがみて、必ずしも企業間の特殊な関係に基づく租税回避のための価格操作と認めるべきような不合理なものということはできない」とするとともに、「本件の経営指導料の額が、独立企業間において行われる同種の契約に基づく対価の水準と著しく乖離していて、企業間の特殊な関係に基づく租税回避のための価格操作であるとすべき事情を認めるに足りる証拠はない」と判断し、課税庁の課税処分は違法だとして取り消したところである。経営指導料の水準の適正性は、経営指導の具体的な内容に大きく依存することと言えることから、税務調査対策としては、経営指導の具体的な内容をいかに社内文書等の証憑書類で裏付けることができるかがポイントとなりそうである。 (4) 本件へのあてはめ 経営指導のような役務の提供に対して金銭が支払われる契約が締結されている場合、仮にそれが独立企業間において行われる同種の契約で設定される対価の水準と著しく乖離していている場合には、経済的利益の贈与に当たると判断され寄付金に該当する可能性がある。しかし、その役務の提供が提供先の売上や利益に対する寄与度が高いと評価されれば、役務提供者における提供経費を超えているからといって、当該超える部分の金額が直ちに寄付金に該当するということにはならないといえる。 (了)
《税務必敗法》 【第9回】 「設立1期目を7ヶ月以下にすることを忘れた」 公認会計士・税理士 森 智幸 【事例】 X会計事務所の税理士甲は、飲食店を営む個人事業者Aとは約5年間、税務顧問契約を締結している。 ×1年1月、Aから「×1年度から法人成りしたい。インボイス登録は行わず、2期間は消費税を免税にしたい。決算月は3月で、できるだけ早く設立したい。」という依頼を受けた。 そこで、甲は「それでは、×1年6月中に設立手続を行い、×1年7月1日から新会社をスタートさせましょう。」と回答した。その後、Aは日本国内において、×1年7月1日を事業開始日とする資本金500万円の株式会社Bを設立した。また、インボイス登録は行わなかった。 しかし、翌×2年2月に、甲が別の顧問先の消費税の確定申告にあたり、税理士会による業務チェックリストを使ってチェックをしていたところ「特定期間における課税売上高を確認したか。」という項目を見て株式会社Bを思い出した。 調べたところ、株式会社Bの特定期間(×1年7月1日から同年12月31日)の課税売上高及び給与支払額は、ともに1,000万円を超えていたことが分かった。そのため、株式会社Bの×2年度は課税事業者となり、消費税の納税義務が生じることがわかった。 これをAに伝えたところ「2期間は免税のはずではないか」と激怒された。結局、株式会社Bの×2年度の消費税は過大納付となり、甲は損害賠償をすることになった。しかし、甲は事前税務相談業務担保特約に入っていなかったため、この損害賠償について保険金が支払われなかった。 1 はじめに 本連載は、税務を行う上で「これをやったら失敗する」という必敗法を紹介するものである。今回は「設立1期目を7ヶ月以下にすることを忘れた」である。 この事故事例は、株式会社日税連保険サービス『税理士職業賠償責任保険事故事例(2023年7月1日~2024年6月30日)』の事前税務相談業務担保特約事例1に紹介されているが、筆者の周囲にも、事例のように設立1期目を7ヶ月以下にする助言を忘れたため損害賠償となった税理士がいた。原因は「うっかりしていた」ということであった。 とはいえ、会社設立業務は頻繁に行うものではないので、消費税法上の落とし穴を失念してしまうことも考えられる。そこで、今回は設立1期目の特定期間の注意点とその対策について説明する。また、税理士職業賠償責任保険の事前税務相談業務担保特約についても説明する。 なお、本稿は私見であることにご留意いただきたい。 2 制度の概要 (1) 納税義務の免除の特例 消費税法上、事業者はその課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円以下である場合は、原則として、納税義務は免除される。そのため、新たに設立された法人は、設立1期目及び2期目の基準期間はないことから、原則として納税義務が免除される。 しかしながら、一定の場合は、基準期間における課税売上高が1,000万円以下であっても納税義務は免除されない。その1つが、特定期間における課税売上高が1,000万円を超える場合である(消費税法9条の2、消費税法施行令20条の5、20条の6)。 (2) 特定期間とは 特定期間とは、法人の場合は、原則として、その事業年度の前事業年度開始の日以後6ヶ月の期間をいう(消費税法9条の2第4項)。 新設法人の場合、設立2期目は基準期間がないため、原則では納税義務が免除されるはずであるが、特定期間の課税売上が1,000万円を超えている場合、法人設立2期目であっても課税事業者となり、消費税の納税義務が生じる。 なお、国外事業者以外の事業者については、特定期間の課税売上高1,000万円超の判定について、課税売上高に代えて、特定期間中に支払った給与等の金額により判定することができる。 すなわち、特定期間の課税売上高が1,000万円を超えていても、給与等支払額が1,000万円を超えていなければ、給与等支払額により免税事業者と判定することができる(国税庁・質疑応答事例「特定期間の課税売上高による免税事業者の判定」参照)。 (3) 給与等支払額の範囲 給与等支払額の範囲については消費税法基本通達1-5-23において定められている。同通達では、所得税が非課税とされる通勤手当、旅費等は該当しないとしている。また、給与や賞与の未払額も含まれない。含めなくてよいものを含めてしまって誤った判定をしてしまわないよう注意されたい。また、国税庁タックスアンサー「No.6125 国内取引の納税義務者」のQ4も併せて参照していただきたい。 (4) 短期事業年度の場合 このように、基準期間における課税売上高が1,000万円以下であっても、特定期間における課税売上高が1,000万円を超える場合は、納税義務は免除されないが、特定期間については、その事業年度の前事業年度が7ヶ月以下などの短期事業年度の場合は除くとされている(消費税法9条の2第4項2号かっこ書き、3号)。 すなわち、設立1期目の事業期間が7ヶ月以下の場合、特定期間による納税義務の判定は行われない。したがって、後述するが、設立1期目の事業期間は7ヶ月以下に設定することが事故を防ぐポイントである。 3 設立1期目を7ヶ月以下にすることを忘れた場合の影響 (1) 損害賠償 設立1期目を7ヶ月以下にする助言を忘れてしまい、特定期間の規定により設立2期目に納税義務が発生してしまった場合、顧問税理士は損害賠償となる可能性がある。 (2) 無申告加算税・延滞税の発生 税理士が気付かず、設立3期目以後に税務当局から指摘された場合、設立2期目は無申告となるため、無申告加算税が発生することになる。また、納付が遅延したため、延滞税も発生する。 無申告加算税や延滞税は税理士職業賠償責任保険の保険金の支払い対象とならないため、税理士の自己負担となる可能性がある。 4 対策 株式会社など法人の設立時における特定期間に関する消費税の事故を防止するためには以下の対策が考えられる。 (1) 希望の決算月を確認する 依頼者から法人を設立したいと相談された場合、まず希望する決算月を確認する。 (2) 法人設立日を調整する そのうえで、依頼者が消費税の免税を希望するかどうかを聞く。依頼者が設立1期目と2期目は免税事業者を希望する場合は、設立1期目は7ヶ月以下にすることが望ましいことを助言し、加えて法人設立日の調整を助言する。もちろん、資本金、インボイス登録についても助言が必要である。また、このようなやりとりは記録して相手にも示し、齟齬がないようにしておきたいところである。 (3) 法人成りは注意する 個人事業者が法人成りする場合、設立1期目から特定期間において、課税売上・給与等支払額がともに1,000万円を超える可能性があるので十分な注意が必要である。 売上ゼロからの新規開業であっても短期間で売上や給与支払額が大きくなる可能性もあるため、設立1期目は7ヶ月以下にしておくことが無難である。 (4) 事前税務相談業務担保特約にも加入する 今回紹介した、設立1期目を7ヶ月以下にする助言を失念した事例は、その時点では課税要件が発生していないため、課税要件が確定していない段階での税務に関する相談は、税理士法上の税務相談に該当せず、税理士職業賠償責任保険の主契約では補償対象外となる(株式会社日税連保険サービスのパンフレットより)。つまり、主契約のみの契約では、このケースは保険金が支払われないのである。 一方、株式会社日税連保険サービスでは、このような将来に課税要件が発生することを前提とした場合の相談に対しては、事前税務相談業務担保特約によって補償するとしている。 したがって、事前相談のリスクを考えると、この特約にも加入することが望まれる。 5 おわりに 今回は、新規設立時における消費税に関する助言の失念について説明した。消費税法は、「節税スキーム」を封じるために数々の制度改正が行われたため、かなり複雑化している。そのため、税理士は消費税法に関する感度を常に高める必要がある。 その手段の1つとして、普段の消費税の確定申告時から、日本税理士会連合会のサイトに掲載されている業務チェックリストを使用することをお勧めする。また、税理士会による研修受講も有効である。 本稿が皆様の実務の参考になれば幸いである。 (了)