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税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識 【第24回】「収益還元法といっても2通りの手法がある」~直接還元法とDCF法~

税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第24回】 「収益還元法といっても2通りの手法がある」 ~直接還元法とDCF法~   不動産鑑定士 黒沢 泰   1 はじめに 前回は収益還元法をテーマに、計算例も交えながらその適用過程を解説しましたが、そこで前提とした純収益(総収益-総費用)は、収益期間についてみれば初年度のものでした。すなわち、収益価格の試算上、最初の1年間の純収益が同額で将来にわたり永続するという前提の基に、これを還元利回りで還元して(=割り戻して)元本である土地建物の価格を求めたことになります。このような手法を鑑定評価では「直接還元法」と呼んでいます。そして、直接還元法では年々の純収益の変動は価格に反映されない点に特徴があります。 これに対し、年々の純収益の変動を価格に反映することのできる手法として「DCF法」と呼ばれる手法があります。この手法は、対象不動産を一定期間賃貸した後に、対象不動産が貸主の元に返還されることを前提に収益価格を試算するものです。すなわち、賃貸借期間が有期である点に特徴があります。 どちらの手法で試算しても理論的には価格は一致すべきものですが、適用過程にそれぞれ判断要素が織り込まれることから、むしろそれぞれの結果が全く一致することはないと考えた方が現実的かと思われます。 今回は、このような収益還元法の2つの手法の基本的な仕組みと特徴について解説していきます。   2 直接還元法について 直接還元法は、上記のとおり、一期間の純収益を還元利回りで還元して対象不動産の収益価格を求める手法ですが、純収益が永続することを前提とした計算式となっているため、「永久還元の手法」とも呼ばれています。 この手法が適用される典型的な例は更地の鑑定評価ですが、建物及びその敷地の場合でも、建物等の償却資産の耐用年数が尽きた時点で償却累計額を建設費に投入し、永続的に純収益を生むことができると想定して鑑定評価を行うことが可能となります。 計算式は以下のとおりですが、一期間の純収益(a)を還元利回り(r)で割り戻すことにより、対象不動産の収益価格(P)を求めることになります。その意味で、純収益は将来にわたり一定であるといえます。   3 DCF法について DCF法(Discounted Cash Flow Analysis)は、直接還元法と異なり、年々の純収益が変動する場合でもその流れを的確に土地建物の価格に反映できる点に特徴があります。 また、この手法を適用する際には、将来継続的に発生する純収益(キャッシュ・フロー)の流れに関し一定期間を捉えて把握することになります。 その際、期間中に発生する年々の純収益を、割引率を用いて現在価値に置き換えるとともに、投資期間終了後の不動産価格(※)を現在価値に置き換え、これらをすべて合計することによって不動産の収益価格を求めるという考え方が適用されます。 (※) 投資期間終了後に貸主の元に戻ってくるという意味でこれを「復帰価格」と呼んでいます。 その計算式を示せば以下のとおりです。 〈DCF法による収益価格の計算式〉 これを要約すれば、 ということになります。   4 手法に登場する「還元利回り」、「割引率」、「最終還元利回り」の相互関係 直接還元法には「還元利回り」という概念が、DCF法には「割引率」及び「最終還元利回り」という概念が登場します。 還元利回り及び割引率は、ともに不動産の収益性を表すものですが、それぞれ以下のように区別して扱われています。 (1) 還元利回り 還元利回りは投資収益や投資の回収を図るための判断の指標として用いられ、将来予測の不確実性(リスク)を反映するとともに、収益と元本に対する変動予測を含んでいます。 (2) 割引率 これに対し、割引率は投資収益という視点からの判断指標に用いられ、将来予測の不確実性(リスク)は反映するものの、収益と元本に対する変動予測を含んでいない点に相違があります。 (3) 還元利回りと割引率の関係 国土交通省ホームページの「不動産鑑定評価基準運用上の留意事項」(Ⅴ.1.(4).①.オ.(エ))では、還元利回りと割引率との関係を次の式で表わしています。 この式は、割引率を基に純収益の変動率を反映させて還元利回りを求める方法を意味しています。すなわち、割引率には将来の変動予測を含んでいないため、これを基に還元利回りを求める方式を採用する場合には、割引率に純収益の変動率を加減する必要があるからです。 例えば、割引率を5%とし、純収益が年1%の変動率で上昇している場合には、 となり、純収益の変動率が年△1%であれば、 となります(純収益の上昇時には還元利回りは低く、純収益の下降時には還元利回りは高くなるという、いわば逆相関の関係にあります)。 (4) 還元利回りと最終還元利回りの関係 最終還元利回りとは、文字どおり最終の収益期間に対応する利回りです。すなわち、貸主と借主間で賃貸借関係が終了し、所有者の元に不動産が返還される時点での一期間の予想純収益をその時点での還元利回りで割り戻すことにより復帰価格を求める目的で用いられます(さらに、その結果を現在価値に割引くという計算が必要となります)。 最終還元利回りを査定するに当たっては、それが将来時点を対象として適用されるものなので、通常の還元利回りに比べて一層の不確実性(リスク)や長期間における変動予測も反映させる必要があります。そのため、通常の還元利回りよりも高めに設定されることが一般的です。   5 DCF法の試算例 下記の【別表】に、簡素化した数値を用いたDCF法による計算例(事業用定期借地権の設定による土地賃貸を想定)を掲げておきます。イメージの把握に役立てられれば幸いです。 【別表】 DCF法の適用例(事業用定期借地権の設定による土地賃貸) ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (了)

#No. 449(掲載号)
#黒沢 泰
2021/12/16

《速報解説》 交際費等の損金不算入制度の特例、見直しなく令和6年3月31日まで2年延長~令和4年度税制改正大綱~

 《速報解説》 交際費等の損金不算入制度の特例、令和6年3月31日まで2年延長 ~令和4年度税制改正大綱~   Profession Journal編集部   令和3年12月10日に公表された「令和4年度税制改正大綱」(与党大綱)では、交際費等の損金不算入制度について、現行内容のまま適用期限を2年延長することが明記された。   1 現行制度の概要 交際費等(※)の額は、原則としてその全額が損金不算入とされているが、損金不算入額の計算に当たっては、資本金の額又は出資金の額に応じて次の特例措置が設けられており、この特例は平成26年4月1日から令和4年3月31日までの間に開始する各事業年度において支出する交際費等の額について適用される(措法61の4)。 (※) 交際費等とは、交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するものをいう。 〔A〕 期末の資本金の額又は出資金の額が1億円以下である等の法人 損金不算入額は、下記①②のいずれかの金額となる。 〔B〕 〔A〕以外の法人 (イ) 期末の資本金の額又は出資金の額が100億円を超える法人 損金不算入額は、支出する交際費等の額の全額とされる(令和2年4月1日以後開始事業年度から適用)。 (ハ) (イ)以外の法人 損金不算入額は〔A〕の①の金額となる。 *  *  * なお、資本金の額又は出資金の額が5億円以上の法人の100%子法人等は、期末の資本金の額又は出資金の額が1億円以下であっても、〔A〕ではなく、〔B〕に従って損金不算入額を計算する。   2 改正内容 上記1の適用期限について、地方活性化の中心的役割を担う中小企業の経済活動を支援する観点等から、令和6年3月31日まで2年延長される(大綱P55・64)。 (了)

#No. 448(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2021/12/15

《速報解説》 不動産譲渡契約書等の税額軽減特例の延長、印紙税に係る改正事項~令和4年度税制改正大綱~

《速報解説》 不動産譲渡契約書等の税額軽減特例の延長、 印紙税に係る改正事項 ~令和4年度税制改正大綱~   税理士・行政書士・AFP 山端 美德   令和3年12月10日、「令和4年度税制改正大綱(与党大綱)」が公表された。 印紙税については、不動産譲渡契約書及び工事請負契約書に係る印紙税の税率の特例措置が延長される。   【概要】 建設工事請負契約書や不動産譲渡契約書に係る印紙税については、高額な負担となっていることから、消費者の負担を軽減し、更なる建設投資の促進、不動産取引の活性化を図ることを目的とし、租税特別措置法第91条による「不動産の譲渡に関する契約書等に係る印紙税の税率の特例」の適用期間が、令和6年3月31日までの2年間延長されることとなった。 【軽減税率】 ① 第1号の1文書に該当する「不動産の譲渡に関する契約書」のうち、令和4年4月1日から令和6年3月31日までの間に作成されるものについては、契約書の作成年月日及び記載された契約金額に応じて、下記の印紙税額の軽減が延長される。 ② 第2号文書(請負に関する契約書)のうち、建設業法第2条第1項に規定する建設工事(※)の請負に係る契約に基づき作成されるもので、令和4年4月1日から令和6年3月31日までの間に作成されるものについては、契約書の作成年月日及び記載された契約金額に応じて、下記の印紙税額の軽減が延長される。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#No. 448(掲載号)
#山端 美德
2021/12/14

《速報解説》 「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令」が公布される~新型コロナの影響を踏まえ、ウェブ開示によるみなし提供制度の対象を拡充~

《速報解説》 「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令」が公布される ~新型コロナの影響を踏まえ、ウェブ開示によるみなし提供制度の対象を拡充~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2021(令和3)年12月13日、「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令」(法務省令第45号)が公布された。これにより、2021(令和3)年10月12日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に寄せられた意見の概要とそれに対する法務省の考え方も公表されている。 これは、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、 事業報告に表示すべき事項の一部並びに貸借対照表及び損益計算書に表示すべき事項をいわゆるウェブ開示によるみなし提供制度の対象とするためのものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ ウェブ開示によるみなし提供制度に関する改正 ウェブ開示によるみなし提供制度に関して次の改正を行う(会社法施行規則133条の2、会社計算規則133条の2)。 どのように株主の利益に配慮するかについては、各社が置かれた個別具体的な事情を踏まえた各社の判断によることとなるとのことである。 例えば、次に掲げるような方法をとることが考えられるとしている。   Ⅲ 施行時期等 1 施行期日 公布の日(2021年12月13日)から施行する。 2 失効 (了) ↓直近1ヶ月の会計情報の速報解説をまとめた連載が開始しました↓

#No. 448(掲載号)
#阿部 光成
2021/12/14

《速報解説》 金融機関からの要請を受け、会計士協会が「銀行等取引残高確認書」についての注意喚起を公表~十分な回答期間の確保や確認依頼の宛先に関し留意を促す~

《速報解説》 金融機関からの要請を受け、 会計士協会が「銀行等取引残高確認書」についての注意喚起を公表 ~十分な回答期間の確保や確認依頼の宛先に関し留意を促す~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2021年12月10日、日本公認会計士協会は、「銀行等取引残高確認書について(お知らせ)」を公表した。 これは、確認手続の実施に際して、特に、決算期においては、残高確認書が銀行等に集中する状況にあることから、金融機関からの要請を受けて公表するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 確認手続に当たっては、確認回答者から協力を得ていることを再認識する必要があるとして、監査業務に従事する公認会計士に対して注意喚起している。 確認回答者の状況も十分に考慮し、監査手続を実施することを今一度検討していただきたい旨を記載している。 1 十分な回答期間の確保 次の事項について記載している。 2 確認依頼の宛先 被監査会社が本邦銀行出資の海外現地法人宛に保証を差し入れている場合、本邦銀行に対し、当該海外現地法人の残高確認を依頼するケースが散見されるとのことである。 海外現地法人は、本邦銀行とは別法人であり、確認依頼の宛先としては適切ではないと考えられるとし、確認依頼の宛先は当該現地法人等が適切であることに留意することが記載されている。 適切な宛先に関する一覧表が掲載されているので、確認手続の実施に際して、参考になると考えられる。 (了) ↓直近1ヶ月の会計情報の速報解説をまとめた連載が開始しました↓

#No. 448(掲載号)
#阿部 光成
2021/12/14

《速報解説》 会計士協会、監基報580「経営者確認書」の改正を受け、「四半期レビューに関する実務指針」の改正を公表

《速報解説》 会計士協会、監基報580「経営者確認書」の改正を受け、 「四半期レビューに関する実務指針」の改正を公表   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2021年12月7日付けで(ホームページ掲載日は2021年12月10日)、日本公認会計士協会は、監査・保証実務委員会報告第83号「四半期レビューに関する実務指針」の改正を公表した。 これは、監査基準委員会報告書580「経営者確認書」の改正を受けたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 経営者確認書の記載例(付録2)において、次の文例が示されている。 その他追加項目の確認事項(四半期レビュー全般に共通する事項)の記載に当たっては、監基報580を参照することが有用であると記載している。   Ⅲ 適用時期等 2021年12月31日以後終了する四半期連結会計期間又は四半期会計期間に係る四半期連結財務諸表又は四半期財務諸表の四半期レビューから適用する。 なお、《付録2》の会計上の見積りの監査に関連する事項は、2023年3月に終了する連結会計年度又は事業年度に係る四半期連結財務諸表又は四半期財務諸表の四半期レビューから適用する。ただし、それ以前の連結会計年度又は事業年度に係る四半期連結財務諸表又は四半期財務諸表の四半期レビューから適用することを妨げない。 (了) ↓直近1ヶ月の会計情報の速報解説をまとめた連載が開始しました↓

#No. 448(掲載号)
#阿部 光成
2021/12/14

《速報解説》 インボイス制度における適格請求書発行事業者の登録に関する見直し~令和4年度税制改正大綱~

《速報解説》 インボイス制度における適格請求書発行事業者の登録に関する見直し ~令和4年度税制改正大綱~   税理士 石川 幸恵   令和3年12月10日に「令和4年度税制改正大綱」(与党大綱)が公表された。以下では、適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス制度)に係る見直しのうち、適格請求書発行事業者の登録に関する見直し(大綱P71~72)について概説する。   1 改正の背景 (1) 免税事業者に関する現行の経過措置(平成28年改正法附則44④) ① 免税事業者向けの経過措置の内容 免税事業者が適格請求書発行事業者の登録を申請した場合、令和5年10月1日の属する課税期間においては、経過措置により、課税期間の中途でも登録を受けた日から適格請求書発行事業者となることができる(平成28年改正法附則44④)。 一方、その後の課税期間においては、課税期間の中途からの登録を受けることはできない。 ② 免税事業者の実態 各地で行われているインボイス制度の説明会等では、「課税事業者になった場合、売上や事務負担、資金繰り等について、どうなるかわからず不安だ」という声も上がっており、登録の検討について様子見する免税事業者も多いと考えられる。 このような状況で、免税事業者が登録の必要性に迫られた際、翌課税期間(原則として、翌事業年度(個人事業者の場合は翌年))からしか登録ができない、あるいは課税期間を短縮して登録するしかないというのは酷ともいえよう。 (3) 国外事業者に係る問題点 国内に事務所等を有し、住所等を有しない国外事業者は、適正な納税を確保する観点から納税管理人を定めることとされている(国税通則法117)。 他方で、消費税法における適格請求書発行事業者の登録では、国内に事務所等を有する国外事業者については、納税管理人を定めていない場合であっても登録を拒否できない。このため、適格請求書を発行したうえで消費税の申告・納税を行わないまま姿をくらます、いわゆるミッシングトレーダーが生ずることが想定される。 ミッシングトレーダーの介在する取引は、密輸品を使った不正還付が問題であると考えられ、平成30年の税制調査会においても、インボイス制度との関係が議論されている(※)。なお、この年の改正では、「密輸品と知りながら行った課税仕入れに係る仕入税額控除の制限」(消法30⑫)、「金又は白金の地金の課税仕入れを行った場合の本人確認書類の保存」(消法30⑪)が設けられた。 (※) 「平成30年税制調査会(第18回総会)議事録(平成30年10月17日)」P8   2 改正案の内容 (1) 免税事業者に関する経過措置の見直し 免税事業者が令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間中に適格請求書発行事業者の登録を受ける場合には、その登録日から適格請求書発行事業者となることができることとする。 ただし、令和5年10月1日の属する課税期間の翌課税期間以後に上記の適用を受けた適格請求書発行事業者は、その登録日の属する課税期間の翌課税期間からその登録日以後2年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間については、事業者免税点制度を適用しない。 下図で例示したように、令和6年10月1日に登録を受けた場合は、 となる(事業者免税点制度は、令和8期まで適用されない)。 なお、適格請求書発行事業者である限り、事業者免税点制度は適用されない(国税庁「インボイス制度に関するQ&A」問18)ため、適格請求書発行事業者が免税事業者になるための手続きについては、下記拙稿も参照されたい。 (2) ミッシングトレーダーへの対応 ① 登録の拒否可能 特定国外事業者(事務所及び事業所等を国内に有しない国外事業者をいう)以外の者であって納税管理人を定めなければならないこととされている国外事業者が納税管理人を定めていない場合には、税務署長は登録を拒否できることとする。 ② 登録の取消し可能 登録を受けている上記の国外事業者が納税管理人を定めていない場合には、税務署長はその登録を取り消すことができることとする。 (3) 申請書に虚偽の記載をした場合 適格請求書発行事業者の登録申請書に虚偽の記載をして登録を受けた場合には、税務署長はその登録を取り消すことができることとする。 *  *  * 上記の改正案について、大綱では特に適用時期が明記されていない。登録の準備期間中における見直しであるためと考えられるが、申請書の様式などは、本改正に合わせて、今後、変更されることも考えられる。 (了)

#No. 448(掲載号)
#石川 幸恵
2021/12/14

《速報解説》 賃上げ促進税制・所得拡大促進税制の抜本改正について~令和4年度税制改正大綱~

 《速報解説》 賃上げ促進税制・所得拡大促進税制の抜本改正について ~令和4年度税制改正大綱~   公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎   1 はじめに 令和3年12月10日、与党(自由民主党及び公明党)より令和4年度税制改正大綱が公表された。 岸田内閣は、新型コロナウイルス感染症への対応に万全を期しつつ、未来を見据え、「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」をコンセプトとした、新しい資本主義の実現に取り組むこととしている。 これに関連したところでは、令和3年11月8日に公表された「新しい資本主義実現会議」緊急提言の中でも『民間企業において人的資本など未来への投資を強化させることで、中長期的に稼ぐ力を高め、その収益を賃上げ等の分配や更なる未来投資へ循環させることで持続的な成長を実現する。そして、現場で働く従業員や下請企業も含めて、広く関係者の幸せにつながる、多様なステークホルダーを重視した、持続可能な資本主義を構築していく。』と謳われているように、「分配」を通じたマルチステークホルダーへの配慮まで言及されている。 そのような背景をふまえ、今回の税制改正大綱においては「成長と分配の好循環の実現」が主要項目の第一に掲げられ、そのための第一の措置として積極的な賃上げ等を促すための措置が含まれている。これは、『成長と分配の好循環』の実現に向けて、長期的な視点に立って一人ひとりの積極的な賃上げを促すとともに、株主だけでなく従業員、取引先などの多様なステークホルダーへの還元を後押しする観点から措置されるものである。 そこで本稿では、令和4年度税制改正大綱において示された、賃上げ促進税制(所得拡大促進税制)の改正項目について紹介する。なお、文中の意見にわたる記述は筆者の私見であり、所属する団体・組織の公式見解ではないことを申し添える。   2 「賃上げ促進税制」への再改組(大企業向け) 大企業(中小企業者等以外の企業)向けの税制については、令和3年度税制改正において「賃上げ・投資促進税制」から「人材確保等促進税制」に抜本改組されたばかりであるが、わずか1年で再び抜本的に改組されることとなった。 具体的には、令和2年度まで適用されていた「賃上げ・投資促進税制」から国内設備投資要件を除いた「賃上げ促進税制」に戻るようなイメージである。 改正案の概要は下表の通りである。 〈大企業向け税制の改正案概要〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (※) 税制改正大綱では「資本金の額等」とされているが、「資本金等の額」の誤りではないかと思料する(以下、本稿において同様)。本件については、今後の情報に引き続き注視したい。 今回の改正のポイントとしては、制度設計が令和2年度末で廃止された「賃上げ・投資促進税制」と同様の仕組みに戻ったということである。 改正案における「継続雇用者給与等支給額」とは、継続雇用者(当期及び前期の全期間の各月分の給与等の支給がある一定の雇用者)に対する給与等の支給額をいい、「継続雇用者比較給与等支給額」とは、前期の継続雇用者給与等支給額をいう。これは現行制度の「特定税額控除規定の適用停止措置」における定義(措法42の13⑥一)と同義になるものと考えられる。 そのうえで継続雇用者給与等支給額については、前年度比3%以上の増加が求められた。これは岸田首相が常々「3%を超える賃上げを期待している」旨の発言(令和3年11月26日 第3回「新しい資本主義実現会議」内での発言)を行っていること等も影響しているであろう。議論の過程では、「1人あたり給与支給額の増加要件とすべき」「基本給の引き上げを要件とすべき」といった意見も出ていたが、最終的には給与総額ベースでの比較に落ち着いたところである。 また、資本金の額等(上表(※)参照)が10億円以上であり、かつ、常時使用従業者数が1,000人以上である企業に対して、給与等の支給額の引上げ方針等について が追加的な要件として定められることとなった。 これは、一定規模以上の企業については、マルチステークホルダーに配慮した経営を行うようコミットメントを促す観点から設けられたものと考えられる。 控除率の上乗せについては、2段階に分けて措置された。継続雇用者給与等支給額の前年度比4%以上増加を達成すれば10%の上乗せ、教育訓練費の前年度比2%以上増加を達成すればさらに5%の上乗せとなるから、双方の要件を満たせば最大控除率は30%となる。なお、教育訓練費の要件による上乗せ控除の適用を受ける場合には、教育訓練費の明細を記載した書類の保存(現行制度では確定申告書への添付)が必要とされる。   3 所得拡大促進税制の見直し(中小企業者等向け) 中小企業者等向けの「所得拡大促進税制」については、制度の枠組みを維持しつつ、上乗せ控除の要件及び適用年度の見直しが行われる。 改正の概要は下表の通りである。 〈中小企業向け税制の改正案概要〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 中小企業者等向けの所得拡大促進税制については、上乗せ控除のための要件が変更されたこと以外は、現行制度を維持するものとなっている。 上乗せ控除のための要件については、現行制度では「積極的な賃上げ要件」を満たした上で、さらに「教育訓練費増加要件」または「経営力向上要件」のいずれかを満たす必要があるが、改正案では「積極的な賃上げ要件」と「教育訓練費増加要件」のそれぞれについて税額控除率の加算措置が設けられていることから、双方の要件をいずれも満たす必要はなく、別個独立的に検討すればよいものと考えられる。   4 地方税の取扱い 法人事業税(外形標準課税)の付加価値割の課税標準からの控除制度について、法人税の制度と同様の適用要件に改正された上で、控除対象雇用者給与等支給増加額について、雇用安定控除との調整等をふまえて付加価値額から控除できることとされる。 また中小企業者等については、(改正後の)賃上げ促進税制または所得拡大促進税制の適用による税額控除を、法人住民税にも適用する措置が継続される。   5 特定税額控除規定の適用停止措置の見直し 現行制度では、「継続雇用者給与等支給額が継続雇用者比較給与等支給額を超えること」という要件を満たさない場合には、賃上げに消極的な企業として取り扱われ、(さらに設備投資に消極的とされる要件も満たした場合には)研究開発税制等(注)の一定の租税特別措置の適用が停止される(措法42の13⑥)。 (注) 研究開発税制の他、地域未来投資促進税制、5G導入促進税制、デジタルトランスフォーメーション投資促進税制、カーボンニュートラル投資促進税制が対象とされている。 改正案では、賃上げに消極的な企業とされる要件が段階的に厳しくされる。具体的には、資本金の額等(上表(※)参照)が10億円以上であり、かつ、常時使用従業員数が1,000人以上である場合、及び前事業年度の所得の金額がゼロを超える一定の場合のいずれにも該当する場合には、継続雇用者給与等支給額にかかる要件を以下の通り見直すこととされる。 (了)

#No. 448(掲載号)
#鯨岡 健太郎
2021/12/14

《速報解説》 改正電子帳簿保存法、出力書面の保存を認める経過措置(宥恕規定)が講じられる~令和4年度税制改正大綱~

 《速報解説》 改正電子帳簿保存法、出力書面の保存を認める経過措置(宥恕規定)が講じられる ~令和4年度税制改正大綱~   辻・本郷税理士法人 税理士 安積 健   ▷令和3年度税制改正における電子帳簿保存法の見直し 令和3年度税制改正により電子帳簿保存法が大きく改正された。 特に、電子取引に係るデータ保存制度の改正が与えた影響は大きかった。 令和3年度改正前は、電子取引を行った場合には、一定の要件に従い、その電子取引の取引情報に係るデータを保存しなければならないとされていたが、そのデータを出力することにより作成した書面を保存する場合には、データを保存しなくてもよかった。 これに対し改正後は、データの出力書面の保存による代替措置が認められなくなった。つまり、原則通り、一定の要件に従って、電子取引の取引情報に係るデータの保存が義務付けられたことになる。しかも、保存要件に従って保存されていない場合、総合勘案の上、検討する(※)としながらも、青色申告の承認取消の対象となり得る。 (※) 国税庁「「法人の青色申告の承認の取消しについて」の一部改正について(事務運営指針)」(課法2-38他、令和3年11月30日)第6項 改正法は、令和4年1月1日以後に行う電子取引の取引情報について適用される。これに対して、電子取引の状況は企業ごとに異なり、改正法への対応も区々であり、改正法施行日までに対応を完了させることが困難であるとの指摘もされてきた。   ▷令和4年度税制改正大綱で示された宥恕規定 令和4年度税制改正大綱では、令和4年1月1日から令和5年12月31日までの間に行う電子取引につき、次の要件を満たす場合には、その保存要件にかかわらず、そのデータの保存をすることができる経過措置を講ずることが明らかにされた。 上記要件のうち①については、保存義務者から何らかの手続が必要となるのではないかということが懸念されるが、保存義務者から納税地等の所轄税務署長への手続を要せずその出力書面等による保存を可能とすることが大綱P91(注2)で明らかにされたため、上記懸念は払しょくされたといえよう。 なお、この改正案は、令和4年1月1日以後に行う電子取引の取引情報について適用が予定されている。 ただし、あくまで2年間の時限的な取扱いであることから、引き続き、令和3年度改正への実現に向けて対応していくことが必要となる。 (了)

#No. 448(掲載号)
#安積 健
2021/12/13

《速報解説》 大口株主等の要件の見直し~令和4年度税制改正大綱~

 《速報解説》 大口株主等の要件の見直し ~令和4年度税制改正大綱~   太陽グラントソントン税理士法人 マネジャー 公認会計士・税理士 岩丸 涼一   令和3年12月10日に公表された「令和4年度税制改正大綱」(与党大綱)において、「上場株式等に係る配当所得等の課税の特例について」として、以下の改正案が示された。   1 改正案の概要 大綱P27では、「内国法人から支払を受ける上場株式等の配当等で、その支払いを受ける居住者等(以下「対象者」という)及びその対象者を判定の基礎となる株主として選定した場合に同族会社に該当する法人が保有する株式等の発行済株式等の総数等に占める割合(以下「株式等保有割合」という)が3%以上となるときにおけるその対象者が受けるものを総合課税の対象とする」こととされた。 現行制度では、株式等保有割合が3%以上のいわゆる大口株主等は、会社の経営に参画する持分としての事業参加的な性格が強いことから、その支払いを受ける上場株式の配当等は、金融所得として分離課税することは必ずしも適当ではなく、事業所得とのバランスを踏まえ、総合課税の対象とされている。 ただし、会計検査院の「令和2年度決算検査報告」において問題視されており、例えば下図のように、対象者のA上場株式の株式等保有割合が3%未満で申告不要配当特例等を適用し、当該対象者の支配する同族会社を通じてA上場株式に対する持株割合を実質的に3%以上とすることが可能であった。 このため上記改正案のように、個人とその個人が支配する同族会社を合わせた株式等保有割合が3%以上となるときは、実質的に事業参加的な性格が強いと考えられるため、申告不要制度や申告分離課税制度を認めず、当該配当等については総合課税の対象とされる。   2 適正に執行するための措置 1の改正案と合わせて、上場株式等の配当等の支払をする内国法人は、その配当等の支払に係る基準日においてその株式等保有割合が1%以上となる対象者の氏名、個人番号及び株式保有割合その他の事項を記載した報告書を、その支払いの確定した日から1月以内に、所轄税務署長に提出しなければならないこととされる。   3 適用時期 上記の改正案は、令和5年10月1日以後に支払うべき上場株式等の配当等について適用される。 (了)

#No. 448(掲載号)
#岩丸 涼一
2021/12/13
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