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税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識 【第29回】「間口が2mに満たない土地の価格はどのように求めるか」~無道路地との相違とは~

税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第29回】 「間口が2mに満たない土地の価格はどのように求めるか」 ~無道路地との相違とは~   不動産鑑定士 黒沢 泰   1 はじめに 【第27回】では、都市計画区域及び準都市計画区域内の建築物の敷地は、建築基準法上の道路(ただし、自動車専用道路を除きます)に2m以上接していなければならないことを述べました(建築基準法における道路の定義は【第28回】に掲げたとおりです)。 しかし、なかには間口が著しく狭く、道路に接する幅が2mに満たない土地も散見されます。今回は、このような土地(=接道義務を満たさない土地)を不動産鑑定士はどのように評価しているのか解説していきます。 2 無道路地との相違 現実に存在する土地のなかには、建築基準法上の道路に全く接していないか、接していても間口が2m未満で建築可能な要件を満たしていないものがあります。前者はいわゆる無道路地であり、後者は無道路地ではないものの、土地の効用が無道路地にやや近いものと考えられます。 後者のような接道義務を満たさない宅地も建築物の建築ができないことから、このままでは資材置場や駐車場としての利用以外に活用の途はありません。 しかし、このような土地も道路に接していることは事実であり、全くの無道路地と比較すれば間口を2mに拡幅できる可能性が少しは残されているといえます。ただし、これは一般論であり、対象地や隣接地の利用状況は個々のケースで異なるため、いつでも思うように拡幅ができるというわけではありません。例えば、隣接地に建物が目一杯建築されていれば、隣接者は所有地の一部を譲ってくれない可能性が高いといえます。 このような事情を鑑みれば、相対的な比較ではありますが、接道義務を満たさない土地の価値は接道義務を満たす土地に比べて低い(減価が大きい)ものの、無道路地に比べれば高い(減価は少ない)といえます。 3 接道義務を満たさない土地の評価 接道義務を満たさない土地の評価方法については不動産鑑定評価基準に特段の定めはなく、固定資産評価基準においても然りです。なお、財産評価基本通達では接道義務を満たさない土地を無道路地と同様に扱っています。 鑑定実務では、下図のように道路に2m接すると想定した場合の路地状敷地の価格を最初に求め、この価格から接道義務を満たすために要する拡幅対象面積に相当する買収費用や工事費用を控除して求める方法を適用するのが一般的です。 【接道義務を満たさない土地】   4 理論と現実のギャップ 鑑定評価の考え方は上記のとおりですが、実際に土地買収に係る費用を検討する場合、対象地と同じ道路に面していて条件の似かよっている土地の価格をそのまま適用すれば足りるとは限りません。なぜなら、本件のような土地買収の場合、市場に供給されている売り物件とは異なり、隣接地の所有者がいつでも売却に応じてくれるかどうか予測が困難だからです。 また、隣接者が仮に売却に応じてくれたとしても、その結果が隣接者にとって残地利用に支障を来たすこととなる場合には、通常の相場ではなく、残地補償込みの価格でなければ売買が成立しないことも考えられます(隣接地所有者は土地の一部を売却することにより、使い勝手の悪い土地になってしまうこともあり得るからです)。 さらに、隣接地の所有者にとっては、もともと売却物件でない土地の一部を、接道義務を満たさない土地所有者の都合により、予期せず売却の検討をせざるを得ない状況となります。そのため、(仮に前向きな方向で交渉が進む場合であっても)買収までに要する期間も考慮に入れる必要があります。 それだけでなく、接道義務を満たさない土地の場合、同じような条件下にある土地の取引事例がきわめて少ないことから、鑑定実務で不可欠ともされる取引事例比較法の適用が実際には困難であることも事実です(仮に、このような事例が収集可能であったとしても、取引価格の中には特殊事情が含まれており規範性に欠ける場合が多いと思われます)。 このように、接道義務を満たさない土地の評価は鑑定実務においても難易度の高い部類に入るものです。   5 参考 ~財産評価基本通達では~ 財産評価基本通達では、無道路地も接道義務を満たしていない宅地も評価上の差異を設けず以下のとおり同じ考え方で行うこととしています(下線は筆者によります)。ただし、全くの無道路地と本稿で取り上げている接道義務を満たしていない宅地とは異なる部分があることから、このような措置はあくまでも申告者の評価の簡便性に配慮したものと受け止めるべきだと思われます。 (了)

#No. 470(掲載号)
#黒沢 泰
2022/05/19

〈エピソードでわかる〉M&A最前線 【第1回】「中堅・中小企業M&Aと地方創生」

〈エピソードでわかる〉 M&A最前線 【第1回】 「中堅・中小企業M&Aと地方創生」   株式会社日本M&Aセンター 常務執行役員 営業本部 副本部長 提携統括事業部 事業部長 鈴木 康之   ◆◇◆はじめに◆◇◆ 日本の中堅・中小企業は今、大変な時代に直面しています。 人口減少、少子高齢化によって、国内市場は縮小し、働き手は減少。企業を牽引する経営者の平均年齢は60.3歳となり、日本経済を支える多くの中堅・中小企業が後継者不在問題に悩んでいるという状況です。 中小企業庁の発表によると、約380万社の中堅・中小企業のうち、70歳以上の経営者が245万人で、2025年までの10年間でその半分の127万社が後継者不在によって廃業する可能性があるといわれています。127万社のうちの半分が黒字企業なので、推計60万社が黒字にもかかわらず廃業の危機にあるということです。 廃業、特に黒字廃業は、日本の経済にとって大きな損失となります。廃業によって、従業員の雇用は喪失し失業者が増えます。連綿と受け継がれてきた日本が誇る素晴らしい技術や独特で愛すべき文化が消滅してしまいます。結果、地域の活気が徐々に失われ、日本にとって取り戻すことのできない大きな損失となります。 廃業のピンチを救い、経営者から後継者不在という悩みを払拭する方法の1つがM&Aによる事業承継です。M&Aは、後継者不在問題を解決に導くだけでなく、マッチングの相手さえ間違えなければ、新しい経営体制のもとで事業の成長を加速させることもできます。売り手企業も買い手企業も成長し、業績アップで給料も増え、従業員も幸福にできます。さらに、売り手企業のオーナーは、後継者問題の悩みから解放され憂いを残すことなく経営をゆだねられることで、老後の生活も保障され安泰となります。M&Aによって後継者不在企業を救うことは、個人、企業、地域、国、どのレベルから見ても明るい未来を期待できるのです。 本連載では、今後の日本経済の発展の一端を担うM&Aについて、現場で経営者と対峙してきたコンサルタントや公認会計士が、様々な業種、業界の事例とともにM&A実務上のポイントを含めて紹介していきます。 【第1回】となる今回は、中堅・中小企業のM&Aの現状と地方創生についてお伝えします。   1 経営者にとって必須のM&Aリテラシー 筆者が所属する日本M&Aセンターは創業して31年になりますが、この約30年間で経営者のM&Aに対する認識は大きく変わりました。最近では、M&Aによる事業承継を行った経営者が、経営者仲間から称賛されるという話もよく聞くようになりました。多くの経営者が後継者不在や企業の行く末に悩み解決の糸口を探しているからこそ、M&Aによる事業承継という大きな決断をした経営者に対して、称賛の声をかけるのでしょう。 日本M&Aセンターが支援するM&Aの売り手企業は年間約1,000件でその約9割が売上20億円以下、約半分が従業員20名以下の中堅・中小企業です。大企業のM&Aばかりがマスコミに紹介されるため目立ちにくいですが、この30年間で国内の中堅・中小企業のM&Aはすっかり根付いてきたと思います。 M&Aは、正しく理解して使うことができれば、日本企業の大多数を占める中堅・中小企業の大きな味方となります。経営者がM&Aに対するリテラシーを高め、経営環境が激しく変化する時代を勝ち抜いていく。この時代を生き抜く経営者にとって、なくてはならない力となってきています。   2 拡大する中堅・中小企業のM&Aニーズ レコフM&AデータベースのM&A件数推移によると、2021年に日本企業が関わったM&Aの件数は合計4,280件と過去最多となりました。ここ5年で破竹の勢いで増加しており、M&Aは日本企業に完全に定着したといっていいと言えます。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (出所) レコフM&AデータベースのM&A件数推移を基に日本M&Aセンター作成 公表されていない中堅・中小企業などの非上場会社関連を含めると、実際の件数はさらに大きく増えます。前述のように、事業承継など差し迫った事情があり、中堅・中小企業によるM&A成約件数はうなぎ上りとなっています。潜在的な案件を含めると膨大な需要があると推定されます。 さらに、このコロナ禍による経営環境の変化に対応するため、M&Aによる事業承継を検討する中堅・中小企業の経営者が増加しています。 具体的には、 コロナ禍が経営者の事業承継への意識を変え、譲渡を希望する中堅・中小企業からのご相談が増えている状況です。 このように、M&Aが中堅・中小企業の経営者にとっても一般的になってきたこと、コロナ禍など経営環境の劇的な変化による先行き不安によって、M&Aニーズはここ数年で劇的に増加してきています。   3 動き出した政府の施策 中堅・中小企業のM&A熱が高まるのを背景に、政府による中小企業M&A支援・体制整備が急テンポで動き出しました。2020年に「中小M&Aガイドライン」、さらに2021年には「中小M&A推進計画」を策定したのです。前述の通り、60万社の中堅・中小企業が後継者不在により黒字廃業の危機にあるという現状が国の背中を押しています。中堅・中小企業の体質強化は、国家戦略の要です。M&Aで後継者難を解決に導き、同時に生産性を一気に引き上げて、海外企業との競争に負けない力を付けようとしているのです。 「中小M&A推進計画」では、M&A支援機関の質の担保にも触れ、M&A支援機関の登録制度が創設されました。登録を受けた機関を中堅・中小企業が利用する場合、各種の補助金を活用できます。また、2021年10月には、M&A仲介大手5社が中心となり、M&A仲介等に関わる自主規制団体を設立し、M&A支援機関の教育やレベルアップ、苦情の受付、「中小M&Aガイドライン」の徹底などを進め、中小企業が安心して支援を受けられる環境整備に努めています。 このように、中堅・中小企業の強化育成という大きな命題を達成するために、官と民がタッグを組み、M&A支援が進んでいます。このような取組みを通じて、全国の経営者にM&Aが後継者不在問題の解決方法や成長戦略の1つであることを周知しています。   4 中堅・中小企業のM&Aは会計・税務・法律の専門家による支援が不可欠 前述してきた通り、M&Aが中堅・中小企業にとって一般的になってきています。とはいえ、まだまだ馴染みのあるものではありません。M&Aについて知りたいと思った時にどこへ声を掛けたらいいか、迷う経営者も多いのが現実です。 普段から経営者に寄り添い、相談に乗られている税理士や公認会計士など専門家の方々から、M&Aが後継者不在や成長戦略などの悩みを解決する一手であることをお伝えいただくことが重要であると考えています。 M&Aの手続きの中には、法律、会計、税金、融資などの実務的な専門知識が必要となる場面が多々あります。それらは、公認会計士、税理士など専門家の力が不可欠なのです。 今の日本にとって最も重要なテーマの1つが「地方創生」です。日本M&Aセンターは、地域の企業に密着した会計事務所などと中堅・中小企業のM&Aを数多く支援させていただいています。今後も、公認会計士、税理士などの専門家の皆様と一緒に、中堅・中小企業の事業承継問題を解決すると同時に、地域経済の活性化を推進し「地方創生」を実現していきたいと考えています。 (了)

#No. 470(掲載号)
#株式会社日本M&Aセンター
2022/05/19

《速報解説》 「公認会計士法及び金融商品取引法の一部を改正する法律」が公布される~施行は公布日(2022.5.18)より1年以内、経過措置には注意を~

《速報解説》 「公認会計士法及び金融商品取引法の一部を改正する法律」が公布される ~施行は公布日(2022.5.18)より1年以内、経過措置には注意を~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 令和4年5月18日、「公認会計士法及び金融商品取引法の一部を改正する法律」(法律第41号)が公布された。 これは、会計監査の信頼性の確保並びに公認会計士の一層の能力発揮及び能力向上を図り、もって企業財務書類の信頼性を高めるため、上場会社等の監査に係る登録制度の導入などの措置を講ずるものである。 今回の改正にあたっては、令和4年1月4日に金融庁より公表された「金融審議会公認会計士制度部会報告」がベースになっていると思われる。 2022年5月11日、日本公認会計士協会の会長声明「公認会計士法の改正について」が公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 1 公認会計士法の一部改正 次の改正を行う。 2 金融商品取引法の一部改正 上場会社等は、その財務計算に関する書類及び内部統制報告書について、上場会社等監査人名簿に登録を受けた公認会計士又は監査法人の監査証明を受けなければならないこととする。   Ⅲ 施行期日 この法律は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行することとする(経過措置に注意する)。 (了)

#No. 469(掲載号)
#阿部 光成
2022/05/18

プロフェッションジャーナル No.469が公開されました!~今週のお薦め記事~

2022年5月12日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.469を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2022/05/12

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第107回】「節税商品取引を巡る法律問題(その1)」

酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第107回】 「節税商品取引を巡る法律問題(その1)」   中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦   はじめに 税理士に節税義務なるものが当然に一般的に課されているのかという素朴な疑問を出発点として、これまでいくつかの事例を基に税理士の責任を論じてきた。結論めいたことを述べるのは早計であると思われるが、税理士法1条《税理士の使命》のみから直接に節税義務なるものを導出することは難しいといわざるを得ず、個々の事案ごとで異なる、納税者と税理士との契約内容等に踏み込んで、個別に判断すべきものであるという点を指摘できよう。 もっとも、税理士の責任論を議論するのみでは、必ずしも十分とはいえない。例えば、前回取り上げた変額保険を巡っては、特に変額保険の契約者である納税者(以下「投資者」ともいう。)が想定していた節税効果を得られずに損失を被ることとなったわけであるが、そもそも、節税商品取引を巡る法律問題を整理する必要性が再確認されるべきであろう。一見すると迂遠なようにもみえるかもしれないが、そのような整理の上で、税理士の役割を考えるというアプローチも必要なのではないかと考えるのである。 そこで、今回からは、節税商品取引を巡る法律問題について焦点を当ててみたい。まずは、節税商品取引における「投資者保護」の必要性について考えてみよう。   Ⅰ 節税商品取引における「投資者保護」の必要性 以下においては、次の2点の観点から、投資者保護の必要性を明確にすることとしたい。 これら投資者保護の必要性については、第一に深刻な投資者の被害救済への対応措置としての十分な情報の提供という側面と、第二に社会基盤整備としての側面から検討すべきであると考える。 1 一般的金融商品取引と投資者保護 節税商品取引における投資者保護の検討を行う前提として、一般的な金融商品取引(以下「一般的金融商品取引」という。)において、投資者保護がいかなる意味において要請されるのかについて確認する必要があろう。 投資者保護の要請は、第一に、投資者損害の発生を視野に入れて、金融商品に対する十分な情報が提供されなければならないという局面と、第二に、取引が公正でなければならないという局面において検討する必要がある。 そもそも、投資取引における商品には、その内容を理解し投資効果を判断するのに日常的な知識だけでは不十分で、かなりの能力を要するものが多々あり、投資者損害の発生は情報の量や質の格差のみならず、情報処理能力の格差にもその原因がある。したがって、第一に、情報は投資者にとって単にアクセス可能であるにとどまらず、理解可能なものになっていなければならないという命題を導出し得る。 投資者にはリスクとリターンを適正に判断するための、商品に関する十分な情報が提供されていなければならず、そうでなければ、投資者はまったく予想外の損害を被ることとなるからである。 第二に、投資者が合理的判断に基づいて投資することができる環境をつくることが肝要である。 自己責任原則が否定されるべきでないことはいうまでもないが、しかし、責任とは、自由な判断が保障されている状況の基でなされた行為について負うべきものであり、自己責任に基づく民事ルールの確立のためには、投資判断に必要な情報が適時、適正に投資者に利用可能な状態になっていることが求められる。 この点、上村達男早稲田大学名誉教授は、「今日、最も重要なことは、投資者の自己責任原則を強調することではなく、投資者の自己責任原則の強調が許されるような公正な土俵(市場条件)の確立を求めることであろう」と主張される(上村「投資者保護概念の再検討-自己責任原則の成立根拠-」専法42号6頁(1985))。 そこで、投資者と販売者との公正な取引関係を前提として大衆投資市場を育成・発展させるためには、投資者という相対的弱者を保護する法体系が必要になるところ、投資者保護の規制態様は、理論的には2つに分けて考えることができる。すなわち、業者を規制することによって間接的に保護する方法と、直接的に投資者を保護する方法である。 特に、後者の方法は、契約の無効・取消し、損害賠償、クーリング・オフなど、私法レベルの救済手段を認めることによって投資者の直接的な権利を保障する方法であり、説明義務違反による損害賠償はこの類型に入る。 2 節税商品取引と投資者保護 節税商品取引における投資者保護の必要性についても、一般的金融商品取引におけるそれと近似した理由を挙げることができる。すなわち、第一に、投資者損害の救済への対応として節税商品に関する十分な情報提供の必要性と、第二に、社会基盤整備の観点からの要請である。 以下、この2点について、節税商品取引における投資者保護の必要性を検討することとしたい。 (1) 節税商品に関する十分な情報提供の必要性の観点 (a) 損害発生の状況 変額保険は、保険契約者が払い込んだ保険料のうち、一般勘定に繰り入れられる部分を除いた部分を特別勘定として独立に管理し、その運用実績により保険金額及び解約返戻金額が変動する生命保険である(前回参考)。 前回の事例で見たように、変額保険は、相続税対策として高額な保険料融資とセットで資産運用を図る節税型の利用が盛んに行われたものの、1990年以降の株価の低迷によって保険料積立金の運用実績が低下し、保険給付額が支払保険料を下回ったこと等の理由から、保険契約者が損害を被る事例が続出した。 その時点で、既に膨大な数の判決が出されていたが、顕在化していなかったケースが、融資期限到来や保険価値・担保不動産価値の劣化などで銀行から融資の返済を迫られるなどして、後に事件として顕在化するケースも多い。 このように、決して変額保険訴訟は過去の問題ではなく、現在においても進行中の問題であるともいえよう。 さて、変額保険に関する損害の特徴については、①損害を受けた者の数が多いこと、②高齢で投資経験のない者が多いこと、③損害額が多額であること、④損害が深刻であることなどが指摘されている。 長年にわたり社会問題となってきた変額保険の損害が節税商品取引から生じていることは看過すべきではない。今後も節税商品過誤訴訟が発生すると思われる今日、変額保険と同様の投資者損害を招来しないよう、節税商品取引に係る投資者保護を検討することは有益であると考える。 (b) 情報提供の必要性 変額保険に関する事件を概観すると、節税商品取引に係る投資者損害の実態が判然とする。社会問題となった変額保険事件は、節税効果というものの誘引性がそれだけ高いことを見せ付ける事件である。つまり、節税効果は十分に商売のネタになるものなのである。 節税商品への投資は、その行為が法に反しないものである限り自由に行い得るものであり、合理的な経済活動として問題視されるところはなかろう。 しかし、節税効果が十分に確認されていない商品が節税効果を謡い文句に販売されることの危険性はもっと強調されるべきであると考える。また、課税上の取扱いが明確とされていないような商品を「節税商品」として販売することは一層問題視されるべきではないかと感じざるを得ない。 節税商品取引においては、商品を手にとって確かめたり、五感を使って確認したりすることのできない将来的なキャッシュ・フローに還元される効果が商品内容であることから、投資者は販売者の提供する情報を元に判断せざるを得ない。 そこで、商品内容説明としての情報が明確でないような商品は、いわゆるいかがわしい「悪徳商品」である。いわば「悪徳商品対策」としての意味からも投資者保護の視点が失われることがあってはならないのではなかろうか。 (2) 社会基盤整備の観点 節税商品取引は、課税上の優遇措置を積極的に商品内部に取り込んで設計されたものである。そもそも、租税特別措置法に規定する非課税措置など、課税上の優遇措置の多くは、政策的な意味合いが強いものも多い。このような政策的優遇措置を置いているのは資金需要を喚起する必要のある産業育成のためなどであるから、本来的には、このような課税上の優遇措置を適正かつ積極的に活用して、当該産業に資金が還流されることが望ましい。 しかし、資金需要の喚起ができたとしても、それを利用して詐欺的な行為が横行してしまうのでは、所期の政策目的が別の社会問題を惹起することとなる。このような環境は当然望ましいものではなく、かような詐欺的行為は規制されるべきものである。 ところで、旧来的な業界規制は市場を歪め、競争力を阻害するという問題を提起しているところ、このような問題は、私法上の規律によって解決されるべきであると考えられる。 つまり、私法による社会基盤整備機能の重視という視点が重要性を帯びることとなる。 節税効果が確実でないものをさも確実なものであるかのように説明し、勧誘する販売者の責任は、民事上のルールで規律すべきであり、その規律は情報劣後者である投資者の保護に視座を置いたものである必要があろう。   小括 本稿において、一般的金融商品取引における投資者保護の要請に加え、更に節税商品取引における投資者保護の要請を強調する特有の意義を再確認した。そこでは、パターナリズムによる保護の視点からではなく、投資者の合理的判断に基づく投資が行われるような十分な情報の提供や社会基盤整備としての民事上のルールの重要性が強調され得るであろう。 (続く)

#No. 469(掲載号)
#酒井 克彦
2022/05/12

谷口教授と学ぶ「国税通則法の構造と手続」 【第2回】「国税通則法1条」-国税通則法の目的と国税通則法制定の趣旨-

谷口教授と学ぶ 国税通則法の構造と手続 【第2回】 「国税通則法1条」 -国税通則法の目的と国税通則法制定の趣旨-   大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫   国税通則法1条(目的)   1 目的規定と趣旨規定 国税通則法1条は、同法の「目的」を定める規定(以下「目的規定」という)である。国税徴収法1条や「内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律」1条も同様に目的規定である。 これに対して、個別税目に関する租税法律(所税1条、法税1条、相税1条、消税1条1項等)やそれらの特例を定める法律(税特措1条、電帳法1条等)はそれぞれの法律の「趣旨」を定めている(以下「趣旨規定」という)。 現行税法における「目的」と「趣旨」の使い分けについては、以上のように、通則的な規定を定める租税法律については「目的」という文言を、個別税目に関する租税法律(税目横断的な特例を定める法律を含む)については「趣旨」という文言をそれぞれ用いる、というような用語法によっていると一応はいうことができるように思われる。 目的規定及び趣旨規定の一般的意義については次のような解説がされている(坂本光「目的規定と趣旨規定/法律のラウンジ〔78〕」立法と調査282号(2008年)69頁。下線筆者)。 では、目的規定の一般的意義に関する以上の解説は、国税通則法1条の解説として妥当するのであろうか。この点を検討するに当たって、まず、国税通則法のコンメンタールとして伝統と権威のある志場喜徳郎=荒井勇=山下元利=茂串俊共編『国税通則法精解〔令和4年改訂・17版〕』(大蔵財務協会・2022年。以下「精解」という)129頁以下の解説における国税通則法1条の「目的」の整理からみていくことにしよう。   2 国税通則法1条の「目的」の整理と検討 国税通則法1条の規定のうち「国税についての基本的な事項及び共通的な事項を定め」の部分は、「何が基本的な事項であり、何が共通的な事項であるかをすべてについて区別することは困難である」(精解129頁)としても、ともかく「この法律の規定する対象となる事項」(同)を定めるものであるが、その部分に続く部分が「この法律の目的とするところ」(同)を定めている。精解はこれについて、「次の三つであることを明らかにしている」(130頁)として、①「税法の体系的な構成の整備」、②「国税の基本的な法律関係の明確化」及び③「税務の改善合理化と納税関係の適正円滑化」の3つに整理している。 これら3つの「目的」に関する解説を個別的にみておくと、まず、精解は①については、既に前回2でみたように、税制調査会「国税通則法の制定に関する答申(税制調査会第二次答申)」(昭和36年7月。以下「国税通則法答申」という)が「国税通則法制定の趣旨」として述べたこと(1頁)と基本的に同じ内容を述べた上で、「この法律は、このような実情に対処するものとして、税法の体系的な構成の整備を打ち出したものであって、以前の税法の規定が重複し、これにより条文数が不必要に多くなっていたこと、内容的な不統一があったことを解消させ、税法体系の簡易平明化を図ったのである。」(精解131頁。下線筆者)と解説している。これによれば、①「税法の体系的な構成の整備」という「目的」は、「税法体系の簡易平明化」を意味するものとされている。 なお、「税法の体系的な構成の整備」にいう「体系」という語は、筆者が本連載において国税通則法の「体系的構造」(前回3参照)という場合の「体系」とは異なる意味で用いられていると解される。後者は、租税実体法と租税手続法との目的従属的関係という法理論的意味連関を意味するのに対して、前者は、租税に関する基本的な事項及び共通的な事項について規定の欠落・重複・不備・不統一等がない、秩序づけられた実定法状態を意味するものと解される。 次に、精解は②「国税の基本的な法律関係の明確化」について、「1[=前記①]に述べたことに関連し」(131頁)と述べた上で、国税通則法答申1頁にいう「およそ租税法の基礎にあるべき基本的な法律関係、すなわち政府と納税者との間における権利・義務の態様や限界に関する制度上の仕組み」を明確にする旨を述べている(精解131頁)。 最後に、精解は③「税務の改善合理化と納税関係の適正円滑化」についても、「右の1、2に掲げた目的[=前記①②]と関連し」(131頁)と述べた上で、「この法律の目的は、税務行政の公正な運営を図るための改善合理化と、これらを通じて最終的には納税関係の適正円滑化を図ることにあることが示されている。」(同。下線筆者)と解説している。 前記③の「目的」については、「[これ]は(c)[=税務行政の公正な運営を図ること]および(d)[=国民の納税義務の適正かつ円滑な履行に資すること]にそっくりそのままあてはまらない。ことに『税務の改善合理化』というような文言は、この条[=国税通則法1条]には存しない。」(中川一郎・清永敬次編『コンメンタール国税通則法』(加除式[1989年追録第5号加除済]・税法研究所)D18頁[中川一郎執筆])との批判的な指摘もあるが、精解の上記解説の理解としては、③の前半の「目的」(「税務の改善合理化」)は、国税通則法1条にいう「税務行政の公正な運営を図[ること]」といういわば「中間目的」を達成するための手段であり、これらに対して同条にいう「国民の納税義務の適正かつ円滑な履行に資すること」を「最終目的」として対置しているという理解が成り立ち得るように思われる。 しかも、前記③の「目的」に関するそのような「目的」三段階説ともいうべき理解の方が、次の見解(武田昌輔監修『DHCコンメンタール国税通則法』(第一法規・加除式)604(~610)頁。下線筆者)の示す並列的理解よりも、国税通則法1条の「もつて」という文言(接続助詞相当連語)に照らして妥当であるように思われる。 もっとも、前記③の「目的」に関する三段階説は、第1段階の「税務の改善合理化」という「目的」が国税通則法1条の法文上明記されていないことから、先の指摘にみられるような批判や誤解を受けるかもしれない。このことを考慮したためであろうか、精解は、前記②の「目的」について次の解説(20-21頁。下線筆者)を行った上で、③の第1段階の「税務の改善合理化」という「目的」について、「課税処分に対する納税者の不服申立制度・・・・・・の改善」を含め「税務に関するこれら[各税に共通する]諸般の制度や手続について、納税者の便益を中心としてその改善合理化を図ること」(下線筆者)という理解を示すことによって、②と③との関連づけをより明確にしているように思われる(23頁)。 精解の以上の解説によれば、精解は、納税者の正当な権利利益ないし便益に対する配慮という点において、前記②の「目的」と③の第1段階の「税務の改善合理化」という「目的」とを関連づけ、もって前記①②③の「目的」を相互に関連づけ一体とみて、国税通則法1条の「目的」を構成したものと解されるのである。 そうすると、国税通則法1条の「目的」は、やはり、「国税通則法制定の趣旨」(国税通則法答申)ないし「この法律を制定する目的」・「この法律制定の目的」(中川・清永編・前掲コンメンタールD12頁・D17頁・D21頁[中川執筆])を意味すると解すべきであろう。したがって、同条の規定はまさに「目的規定」(前記1参照)というべきものである。   3 「国税通則法制定、、の趣旨・目的」と「国税通則法の目的」 ところで、精解は、「この条[=国税通則法1条]は、近時の立法例に従い、この法律の規定する対象となる事項及びこの法律の目的とするところを明らかにし、その解釈及び運用の指針を示したものである。」(129頁。下線筆者)と述べている。ここでいう「その解釈及び運用の指針」とは、何を意味するのであろうか。 この問題の検討に入る前に、ここでは、まず、「国税通則法制定の趣旨」ないし「この法律制定の目的」は、「国税通則法の趣旨」ないし「この法律の目的」ではないことを確認しておきたい。「国税通則法の趣旨」は、「国税通則法をはじめその他の税法そのものから客観的に知られ得るいわゆる存在理由」(中川・清永編・前掲コンメンタールB3頁[須貝脩一執筆])を意味するものとして、また、「この法律の目的」は、「国税についての基本的な事項、およびこれに関連する事項において、国民に対し財産権を保障すること」(同D23頁[中川執筆])を意味するものとして、「国税通則法制定の趣旨」ないし「この法律制定の目的」を批判的に検討する場合に拠って立つ見地とされることがある。 これらのうち「国税通則法をはじめその他の税法そのものから客観的に知られ得るいわゆる存在理由」について、その意味を理解するには、更に立ち入って「国税通則法の趣旨」を検討しておく必要があろう。その「存在理由」を説く論者は、「直接税と間接税との間における税法上の統一的規律の実現」という「税法上の新要素」の導入こそが「国税通則法制定の隠れた趣旨」であり(中川・清永編・前掲コンメンタールB16頁[須貝執筆])、これを「一層具体的にいうならば、申告納税方式の拡張適用、申告納税方式の一般化ないし普遍化ということにほかならない。」が、これこそが「国税通則法の隠れた趣旨」であると述べ(同B17頁[須貝執筆])、その上で、次のとおり説いている(同B21頁[須貝執筆]。下線筆者)。 このようにみてくると、「国税通則法制定の趣旨」ないし「この法律の制定の目的」を批判的に検討する場合に拠って立つ見地として「国税通則法の趣旨」といい「この法律の目的」といっても、両者に表現上の違いはあるものの、いずれも、納税者の権利利益の保護を国税通則法の「目的」と解するものといえよう。ここでは、税法は「自由主義的税法(自由主義に基づく租税法律主義を根本原理とする税法)」(拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【11】)として性格づけられていると解される(中川・清永編・前掲コンメンタールD23頁[中川執筆]は「税法の目的を民主主義的に理解し」国税通則法の「目的」を国民の財産権の保障として捉えているが、この見解は「自由と民主の不可分性」(芦部信喜『憲法学Ⅰ憲法総論』(有斐閣・1992年)51頁)を前提にして理解すべきであろう)。 これに対して、国税通則法の「目的」を行政手続法の「目的」と対比して理解しようとする見解がある。行政手続法1条1項は同法の「目的」について次のとおり定めている。 その見解は次のとおり述べている(品川芳宣『国税通則法講義-国税手続・争訟の法理と実務問題を解説-』(日本租税研究協会・2015年)3-4頁。下線筆者)。 上記の見解は、傾聴に値する重要な内容を含んでいると考えるが、ただ、以下の2つの点において疑問ないし問題があると考えるところである。 第1に、国税通則法の「目的」と行政手続法の「目的」とを前記の見解のような形で対比することは、そもそも、妥当であろうか。前記の見解は、「法律の範囲内で納税義務を果たせば良い」という意味での納税者の実体的権利と、「税収の確保」を要請する課税権(ここでは租税債権。谷口教授と学ぶ「税法基本判例」第1回Ⅱ2参照)という国の実体的権利とを対抗軸として、国税通則法の「目的」を捉えているが、行政手続法は適正手続保障原則(憲法13条、31条参照)に基づく国民の手続的権利の保護を「目的」とするものである以上、実体的権利の保護か手続的権利の保護かという点でレベルを区別し異なるレベルで議論すべきであるにもかかわらず、前記の見解が両者を対比して論ずることは直ちには妥当といえないように思われる。 第2に、前記の見解は、国側については「法律どおりに、、、、、、税収が国庫に確保されること」(傍点筆者)を説き、他方、納税者側については「法律の範囲内で、、、、、、納税義務を果たせば良いとする納税者の権利保護」(同)を説いているが、納税者側についても「法律の範囲内で」ではなく「法律どおりに」と説くべきであると考えるところである。つまり、租税法律主義の要請する「法律どおりの課税」(合法性の原則)は、個々の納税者に対する課税が「法律の範囲を上回る課税」の禁止と「法律の範囲を下回る課税」の禁止の両方(租税法律主義の2つの「側面」)を満たすものでなければならない。確かに、納税者と国とは立場ないし利害を異にするが、しかしながら、そうであるからといって、立場・利害の違いに応じて一方のみを説くのは妥当でない。上記のような意味での「法律どおりの課税」の要請は納税者・国の双方に共通して妥当するものである(拙著『税法創造論』(清文社・2022年)44-47頁[初出・2020年]参照)。 ここではこれらの点は措くとして、先にみてきたところによると、国税通則法の「目的」の理解については、ⓐ「納税者の権利利益の保護」という観点からのアプローチとⓑ「税収の確保」という観点からのアプローチがあるが、いずれのアプローチによるかで国税通則法の解釈適用に対する態度や「解釈及び運用の指針」の理解が異なってくるように思われる。   4 国税通則法の「解釈及び運用の指針」の意義 前記ⓑのアプローチからすれば、先の引用文にあるように、「法律どおりに税収が入ってこなければ、国民全体が、その利益を受けることができません。その問題をどのように理解するかが、税法の解釈適用において非常に重要な問題であると思います。」(下線筆者)ということになるが、ここで述べられている国税通則法の解釈適用に対する態度が、もしも、「税収の確保」という「目的」を基準として目的論的解釈・目的論的事実認定を行うことにつながるとすれば、このアプローチによる国税通則法の「目的」の理解に対しては次の批判(中川・清永編・前掲コンメンタールD24-25頁[中川執筆]。下線筆者)が妥当することになろう。 実質課税の原則ないし実質主義については、夙に、「本来その事柄の性質上絶えずその法律関係は明確なものでなければならないという要求の下におかれている税法において、他方あまりにも漠然とした、そして問題に応じて国庫に対して税収を確保するための理論的な武器として用いられがちであった」(清永敬次『租税回避の研究』(ミネルヴァ書房・1995年/復刻版2015年)362頁[初出・1967年]。下線筆者)との指摘がされていたが、それは、「租税法律の第1の目的は、資金を、しかもできるだけ多くの資金を調達することである。」(Enno Becker, Zur Auslegung der Steuergesetze, StuW 1924, 145, 162.)として説かれたかつての経済的観察法(wirtschaftliche Betrachtungsweise)やこれに相当する我が国のいわゆる経済的実質主義(前掲拙著『税法基本講義』【42】参照)を想定した指摘であろう。 実質主義は、その後の展開を通じて、税法の目的論的解釈・目的論的事実認定へとその「姿」を変えていったとはいえ、もしもそれらが「税収の確保」という「目的」を基準として行われることになれば、税法の解釈適用の「過形成」ひいてはいわゆる経済的実質主義への「先祖返り」を惹起してしまうおそれがある(谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第6回、前掲拙著『税法創造論』214-224頁・247-248頁[初出・2015年]参照)。つまり、もしも「税収の確保」という「目的」を基準として税法の解釈適用がされることになるならば、「最も多くの税収をもたらすような解釈[適用]があらゆる場合に正しいということになるであろう」(Moris Lehner, Wirtschaftliche Betrachtungsweise und Besteuerung nach der wirtschaftlichen Leistungsfähigkeit, Zur Möglichkeit einer teleologishen Auslegung der Fiskalzwecknormen, in: Joachim Lang(Hrsg.), Die Steuerrechtsordnung in der Diskussion, Festschrift für Klaus Tipke zum 70. Geburtstag, Köln 1995, 237, 240.)から、そのような意味での目的論的解釈・目的論的事実認定は、租税法律主義が禁止する「恣意的課税」の危険を孕んでいるといえるのである(「普遍条項」すなわち一般条項における「恣意の危険」については同前者第30回Ⅲ、同後者281-284頁[初出・2017年]参照)。 前記ⓑのアプローチを採用する前記3(の後半)の見解も、租税法律主義の一方の「側面」として「税収の確保」を説いている以上、租税法律主義が禁止する「恣意的課税」を容認するものでないことは明らかであるが、前記ⓑのアプローチが租税法律主義から離れていくと、「恣意的課税」の危険が高まってくることからすれば、「税収の確保」の要請には、必ず、前記ⓐのアプローチによって国税通則法の「目的」を理解し、そのように理解された「目的」によって、厳格に枠を嵌めておくべきである。 このような厳格な枠の存在を前提にして初めて、国税通則法の「目的」を、その「体系的構造」(前回3参照)に基づき適正に理解することができることになろう。というのも、国税通則法の「体系的構造」は、租税実体法と租税手続法との目的従属的関係に基礎を置くものであるが、その関係は目的と手段との相互拘束・相互制約の関係でもあるため、「税収の確保」という租税実体法の目的は、その目的を実現するための手段である租税手続法固有の論理による拘束・制約を受けるからである。なお、租税負担の公平の実現も租税実体法の目的であるが、税収の確保と租税負担の公平の実現とは対概念でありいわば「コインの裏表」をなすものであることには注意しておくべきである(前掲拙著『税法基本講義』【18】参照)。 以上のような意味で、次の見解(中川・清永編・前掲コンメンタールD25~30頁[中川執筆]。下線筆者)は、国税通則法の「解釈及び運用の指針」の理解として妥当である。 (了)

#No. 469(掲載号)
#谷口 勢津夫
2022/05/12

〔疑問点を紐解く〕インボイス制度Q&A 【第14回】「令和4年度税制改正における適格請求書等保存方式導入時の経過措置の見直し」

〔疑問点を紐解く〕 インボイス制度Q&A 【第14回】 「令和4年度税制改正における 適格請求書等保存方式導入時の経過措置の見直し」   税理士 石川 幸恵   【Q】 令和4年度税制改正では、適格請求書等保存方式に係る見直しが行われました。その中で、免税事業者が適格請求書発行事業者の登録をする場合の経過措置の期間が延長されましたが、条文上、どのような改正がなされたのでしょうか。 〔ポイント〕 免税事業者は、経過措置により課税期間の中途であっても、登録開始日から適格請求書発行事業者となることができます。この経過措置は、平成28年改正法附則第44条第4項に規定されており、令和4年度の税制改正で、同項を改正することにより、この経過措置が適用される期間が延長されました。 上記の経過措置の適用を受ける事業者が、登録開始日から簡易課税制度の適用を受けられる経過措置は、消費税法施行令等の一部を改正する政令(平成30年政令第135号)附則第18条に規定されており、同様に期間が延長されました。 *  *  * 【A】 (1) 経過措置の概要と税制改正の内容 ① 経過措置がない場合の原則 免税事業者は適格請求書発行事業者の登録を受けることができません(新消法57の2①)。 ② 経過措置 免税事業者が適格請求書発行事業者の登録申請書を提出して登録を受けることにより、登録開始日から適格請求書発行事業者となることができるという経過措置が設けられています。この経過措置により、課税期間の初日から登録開始日の前日までは免税事業者、登録開始日から課税期間の末日までは適格請求書発行事業者となります。 ③ 改正の内容 (イ) 上記②の経過措置の適用を受けられる期間が、「令和5年10月1日の属する課税期間」から、「令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間」に延長されました。 (ロ) 上記②の経過措置により登録開始日から課税事業者となった場合には、その登録開始日の属する課税期間の翌課税期間からその登録開始日以後2年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間については、事業者免税点制度は適用されません(登録開始日が令和5年10月1日の属する課税期間中である者を除く)。 ④ 簡易課税制度の適用について 従前の経過措置では、上記②の経過措置の適用を受ける事業者が登録開始日から簡易課税制度の適用を受けるための経過措置も合わせて設けられていましたが、税制改正大綱の段階では上記③と合わせて延長される旨の言及がありませんでした。 消費税法施行令等の改正(令和4年3月31日公布)により、上記③の改正後の経過措置の適用を受ける事業者が、登録開始日の属する課税期間中に簡易課税選択届出書を提出したときは、登録開始日の属する課税期間から簡易課税が適用されることが明らかとなりました。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 インボイス制度に関する令和4年度税制改正の概要は下記拙稿もご参照ください。   (2) 消費税法、消費税法施行令の改正箇所 ① 免税事業者が登録開始日から適格請求書発行事業者となることができる経過措置の原則 免税事業者が登録開始日から適格請求書発行事業者となることができる経過措置は、平成28年改正法附則第44条第4項に規定されています。令和4年度税制改正で「5年施行日の属する課税期間」から「5年施行日以後6年を経過する日までの日の属する課税期間」へと期間が変更されました(令和4年改正法20)。 《改正後》 (注) 条文中の破線部分は、意味を変えない程度に省略しています(以降同様)。 《改正前》 ② 事業者免税点制度の適用制限 令和5年10月1日を含む課税期間の翌課税期間以後に登録する場合の事業者免税点制度の適用制限は、新設された同附則第44条の第5項に拠ります(令和4年改正法20)。 ③ 簡易課税制度の経過措置について 簡易課税制度の経過措置は消費税法施行令等の一部を改正する政令(平成30年政令第135号)附則第18条の改正に拠ります。「5年施行日」を「登録開始日」とすることにより、平成28年改正法附則第44条第4項の規定の適用期間と合わせています(令和4年改正消令2)。 《改正後》 《改正前》   (了)

#No. 469(掲載号)
#石川 幸恵
2022/05/12

金融・投資商品の税務Q&A 【Q75】「NFTを譲渡した場合の課税関係」

金融・投資商品の税務Q&A 【Q75】 「NFTを譲渡した場合の課税関係」   PwC税理士法人 金融部 ディレクター 税理士 西川 真由美   ●○ 検 討 ○● 1 NFTを譲渡した場合の課税関係 NFT(非代替性トークン)やFT(代替性トークン)が取引されるケースが話題になっていますが、国税庁は、NFTやFTが暗号資産などの財産的価値を有する資産と交換できるものである場合の所得税法上の取扱いを、タックスアンサーの中で公表しました。 これによると、NFTやFTを譲渡した場合、その譲渡したNFTやFTがどのような資産であるかにより、下記の取扱いとなることが明らかにされています。 (1) 譲渡所得の基因となる資産に該当する場合 その所得が譲渡したNFTやFTの値上がり益(キャピタル・ゲイン)と認められる場合は、譲渡所得に区分されます。ここで、譲渡所得の基因となる資産とは具体的にどのような資産を指すのかについては、所得税法上、譲渡所得が「資産の譲渡による所得」と定義されていることから、一般に、資産そのものの値上がりによって価値が増加するものであると解されます。 これに対して、暗号資産の譲渡による所得については、所得税法上、原則として雑所得に区分されますが、これは暗号資産取引により生じた損益が、邦貨又は外貨との相対的な関係により認識される損益で、資産そのものの値上がりにより生じた所得とは性格が異なるためであると解されています(国税庁「暗号資産に関する税務上の取扱いについて」問8参照)。 なお、NFTやFTの譲渡が、営利を目的として継続的に行われている場合には、譲渡所得ではなく、雑所得又は事業所得に区分されることになります。 (2) 譲渡所得の基因となる資産に該当しない場合 譲渡所得の基因となる資産に該当しない場合には、雑所得(規模等によっては事業所得)に区分されます。これは、前述の暗号資産の譲渡による所得の取扱いと整合しています。   2 本件へのあてはめ NFTを使ったデジタルトレーディングカードを譲渡したことによる所得が、その譲渡したデジタルトレーディングカードの値上がり益と認められる場合には、原則として譲渡所得に区分されるものと考えられます。 したがって、譲渡に係る収入金額から、譲渡の基因となったデジタルトレーディングカードの取得費及びその譲渡に要した費用の額の合計額を控除して、譲渡所得を計算することとなります。 ただし、デジタルトレーディングカードの譲渡を、営利を目的として継続的に行う場合には、雑所得又は事業所得として取り扱われることになると考えられます。 (了)

#No. 469(掲載号)
#西川 真由美
2022/05/12

“国際興業事件”を巡る5つの疑問点~プロラタ計算違法判決を生んだ根本原因~ 【追補】

“国際興業事件”を巡る5つの疑問点 ~プロラタ計算違法判決を生んだ根本原因~ 【追補】   公認会計士・税理士 霞 晴久   1 はじめに 令和4年度税制改正の一環として、本年3月31日、法人税法施行令の一部を改正する政令が公布された(※1)。本稿は、同改正のうち、利益剰余金と資本剰余金の双方を原資として行われた剰余金の配当(以下「混合配当」という)の取扱いが争われた国際興業事件最高裁令和3年3月11日判決(※2)(以下「本件最判」という)を踏まえた同施行令23条1項4号の改正を中心に検討する。 (※1) 官報ホームページ「令和4年3月31日(特別号外 第37号)」。 (※2) 最高裁令和3年3月11日第一小法廷判決(令和元年(行ヒ)第333号)・TAINSコード:Z888-2354。 なお、かかる改正に先立ち、国税庁は、平成3年10月25日、同HP『お知らせ』において、混合配当の取扱いを公表しており(※3)、改正前の法人税法施行令23条1項4号(及び所得税法施行令61条2項4号(※4)。以下、改正前法人税法施行令を「旧法令」という)について、混合配当があった場合に算出される直前払戻等対応資本金額等につき減少資本剰余金額を上限として取り扱うという見解が示されていた。 (※3) 拙稿「《速報解説》国税庁、最高裁判決を踏まえた混合配当の取扱いについて公表~混合配当の際に算出される直前払戻等対応資本金額等につき減少資本剰余金額を上限に~」参照。 (※4) 本稿では、所得税法施行令に関する改正についての検討は省略する。詳しくは、前掲(※1)の「令和4年3月31日官報(特別号外 第37号)」の128頁を参照されたい。   2 問題の所在 本件最判で問題にされたのは、外国子会社(米国デラウエア州法に基づき設立されたLLC)から、それぞれの決議を別にする混合配当を受けた内国法人のみなし配当及び株式譲渡損益の計算方法であった。 この点につき、旧法令23条1項4号は、資本の払戻しに係るみなし配当と株式譲渡損益計算の原価となる対応資本金額等の分解(いわゆる「プロラタ計算」)について、次のように規定していた。 国際興業事件では、剰余金の分配をしたデラウエア州子会社は納税者の100%子会社であったため、最初の算式における分数の解は1である。それゆえ、株式又は出資に対応する部分の金額を計算するには2番目の算式が重要となる。そこで、国際興業事件の概要を単純化して示すと、次の表のとおりとなる。 〔表〕 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 本件最判も国側も混合配当についてはその全体が資本の払戻しに該当すると判断した(※5)ため、〔表〕でいえば、6,000が資本の払戻しとなる。次に、払戻等の直前資本金等の額は2,000であるところ、分数式①の分母(旧法令23①四イ)は前事業年度末の簿価純資産900となる(※6)ものの、同金額は分数式①の分子(旧法令23①四ロ)となるべき減少資本剰余金の金額1,000を下回るため、結果的に分数式①の分子は900となって(旧法令23①四ロ括弧書き)、分数式の解は1となり、払戻等の直前資本金等の額2,000がそのまま払戻等対応資本金額等、すなわち、株式の譲渡対価となって、全体配当6,000との差額4,000がみなし配当となるという結論が導かれるのである。 (※5) 納税者が採用した混合配当の考え方は裁判所の判示とは異なるが、その計算結果は裁判所の判示と一致している。 (※6) 法人税法施行令の規定上、プロラタ計算の分母は前事業年度終了時の簿価純資産の金額に同終了後の一定の調整項目を加減算して求めることとなるが、国際興業事件のように、翌期に配当を受領したような場合の当該配当の額は調整されないこととなっている。かかる経緯について、拙稿「“国際興業事件”を巡る5つの疑問点~プロラタ計算違法判決を生んだ根本原因~」【第1回】を参照。 すなわち、本件の混合配当に法施行令の規定をそのまま適用すると、実際に払い出した金額以上に、利益積立金の金額に食い込んで、資本金等の額が計算されてしまうという不合理な結果となってしまうので、裁判所は、減少資本剰余金額を超える直前払戻等対応資本金額等が算出される結果となる限度において、法の趣旨に適合するものではなく、法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効というべきであるという判断を示した。   3 改正法施行令の内容 旧法令が、同令23条1項4号イでプロラタ計算の分母を、同ロでプロラタ計算の分子を規定し、当該分数式で求められた割合を払戻等の直前資本金等の額に乗ずるという構造であったのに対し、改正法施行令23条1項4号は、同項ロが、2以上の種類株式を発行している法人のケース、同項イがそれ以外のケースの2つに分け、それぞれが別途プロラタ計算を行うという体系となり、旧法令の柱書の部分がそれぞれ同項イ及びロに繰り下がっている形となっている。 ❶ 種類株式を発行していない場合 改正法施行令では、当該プロラタ計算によって求められた金額について、改正法施行令23条1項4号イ括弧書きで「当該払戻し等が法第24条第1項第4号に規定する資本の払戻しである場合において、当該計算した金額が当該払戻し等により減少した資本剰余金の額を超えるときは、その超える部分の金額を控除した金額(下線筆者)」という限定を付すことで、減少資本剰余金額を超える直前払戻等対応資本金額等が算出されることを防止している。上記〔表〕の例では、払戻等の直前資本金等の額が2,000と計算されたとしても、それは、減少資本剰余金の額を1,000上回っているので、結果的に払戻等の直前資本金等の額は1,000と計算されることになる。 ❷ 種類株式を発行している場合 資本の払戻しを行った法人が2以上の種類の株式を発行している場合は、資本の払戻しに係る株式の種類ごとに、種類資本金額に種類払戻割合を乗じて計算した種類株式に係る払戻対応種類資本金額の計算において、上記❶で付したのと同様の限定を付すことで、減少資本剰余金額を超える直前払戻等対応資本金額等が算出されることを防止している。 具体的には、改正法施行令23条1項4号ロ括弧書きで、「当該金額が(2)(ⅰ)又は(ⅱ)に掲げる場合の区分に応じそれぞれ(2)(ⅰ)又は(ⅱ)に定める金額を超える場合には、その超える部分の金額を控除した金額)をいう。」と定め、ここでいう(1)及び(2)について、以下のように規定している。 (※7) 法人税法施行令23条1項4号の改正と関連し、同令8条《資本金等の額》1項15号、18号、19号及び同条2項、4項、5項、6項、並びに同令9条《利益積立金額》1号、12号、13号が改正されている(詳細は前掲(※1)を参照されたい)。 ❸ 遡及調整 上述した国税庁HP『おしらせ』では、直前払戻等対応資本金額等の再計算を行った結果、過去に行った申告内容等に異動が生じ、納付税額等が過大となる株主等納税者は、国税通則法の規定に基づき所轄の税務署に更正の請求を行うことができるとしている。 ただし、更正の請求につき法定申告期限等から5年を経過している法人税又は所得税については減額更正を行うことはできないため(通則法23①本文)、留意が必要である。   4 残された課題 今回の改正は、裁判所が指摘した問題について、ピンポイントで防止する内容となっており、その範囲では異論はないものの、拙稿「“国際興業事件”を巡る5つの疑問点~プロラタ計算違法判決を生んだ根本原因~」【第1回】~【第4回】で指摘した様々な問題は依然残されたままである。最後に、それら問題を列挙し、本稿を締めくくりたい。 (※8) 東京地裁平成21年11月12日判決(平成21年(ワ)第4746号)・TAINSコード:Z999-5192。   (了)

#No. 469(掲載号)
#霞 晴久
2022/05/12

事例でわかる[事業承継対策]解決へのヒント 【第41回】「「事業承継ガイドライン」の改訂と活用」

事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第41回】 「「事業承継ガイドライン」の改訂と活用」   太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 税理士 西田 尚子   相談内容 私はA社の創業社長です。今年60歳になるのでそろそろ事業の承継について考えたいと思っていますが、何から始めればよいのかわかりません。知り合いから最近改訂された中小企業庁の「事業承継ガイドライン」を一度読んでみることを勧められましたが、どういった内容の資料なのでしょうか。教えてください。 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 「事業承継ガイドライン」の改訂内容 (1) 改訂の背景 中小企業は、日本の企業数の約99%、従業員数の約69%を占め、地域経済・社会を支える存在です。その中小企業の円滑な事業承継は日本経済にとって極めて重要な課題であるため、中小企業庁は、関係士業団体や中小企業関係団体とともに、「事業承継協議会」を設立し、中小企業の事業承継円滑化に向けた総合的な検討を行い、その手引きとして2006年に「事業承継ガイドライン」が策定されました。 その後、親族外後継者の増加、事業承継円滑化法の施行など、中小企業の事業承継を取り巻く環境に変化が現れました。経営者の高齢化が進む中、早期に計画的な事業承継への取組みを促進することを目的として、2016年に次の3点を中心とした現在の基本構成に改訂されました。 2016年の改訂から約5年が経過し、新型コロナウイルス感染症の影響等による厳しい経営環境の中で事業承継が後回しにされる傾向もあり、経営者の高齢化はさらに進み、早期の事業承継対策は喫緊の課題となっています。こうした状況を踏まえて、前回改訂時以降に生じた変化や新たに認識された課題と対応策を反映して2022年3月に「事業承継ガイドライン(第3版)」が公表されました。 (2) 改訂のポイント ① 掲載データを最新のものに更新 各種掲載データが更新されています。また、地域や業種等による後継者不在率など新たなデータも掲載されています。 ② 新設・拡充された施策など最新の実務慣行を反映 法人版・個人版事業承継税制の特例措置、所在不明株主に関する会社法の特例、株式併合の手法などの詳細な説明が追加されています。 ③ 従業員への承継やM&Aについての説明を充実 従業員承継について、後継者の選定・育成プロセスの内容が調査データや事例も交えて充実されています。M&Aについても、2020年3月に中小企業庁が策定した「中小M&Aガイドライン」の内容を反映し、充実されています。 ④ 後継者目線に立った説明を充実 事業承継の実施時期、承継に向けた経営計画、承継後の企業の成長など、後継者に対する調査結果を踏まえ、後継者目線での説明が加えられています。   [2] 「事業承継ガイドライン(第3版)」の概要 「事業承継ガイドライン(第3版)」は、以下のような構成となっています。   [3] 具体的な活用方法 事業承継について考える際には、まずは顧問税理士への相談をお勧めします。相談を受けた顧問税理士は経営者に真摯に向き合い、対応することが求められるでしょう。例えば、次の2つの質問を経営者に持ちかけるだけで今後の方向性が定まるのではないでしょうか。 株式の承継者が子供であれば、事業承継ガイドライン54頁を、従業員であれば88頁を、承継者がいないとなれば98頁を見れば、いくつかの手法や留意点等が記載されています。これらを参考に顧問税理士は経営者へスキームを提案できるはずです。 また、財産の承継を考える際には相続税などの税負担に対する事前準備が重要です。61頁以降の事業承継に際して知っておくべき基本的な税制を確認して、どの手法を採用するかについて経営者は顧問税理士と相談しておく必要があります。 承継先が決まれば、事業承継ガイドライン31頁以降の5ステップを確認します。具体的な事業計画の策定には135頁のシートが活用できます。 事業承継の計画・実行の際には、必要に応じて金融機関や弁護士等の専門家と連携すればよいでしょう。どこに依頼すればよいのかわからない場合には、125頁以降に事業承継サポート機関の連絡先が掲載されていますので、参考としてください。   [4] 結論 「事業承継ガイドライン」は事業承継への取組み方が具体的にまとめられているので、まず事業承継を考える手始めに一読されることをお勧めします。今回の改訂では、2016年の改訂から基本的な構成に変更はありませんが、掲載データが更新され、新たな制度に関する記載内容なども充実しています。 円滑な事業承継のためには、早期に準備に取り組むことが重要です。ガイドラインでは60歳を目安とし承継対策に着手することを推奨しています。早めに顧問税理士等の専門家や事業承継支援機関に相談のうえ、事業承継プランを立てることをお勧めします。   (了)

#No. 469(掲載号)
#太陽グラントソントン税理士法人 事業承継対策研究会
2022/05/12
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