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〔令和3年度税制改正〕中小企業経営強化税制におけるD類型(経営資源集約化設備)の追加 【前編】

〔令和3年度税制改正〕 中小企業経営強化税制における D類型(経営資源集約化設備)の追加 【前編】   税理士 坂井 晴行   1 はじめに M&Aによる中小企業の経営資源の集約化を図ることを目的に、令和3年度税制改正により中小企業経営強化税制(以下「本税制」という)の対象にD類型(経営資源集約化設備)が追加され、適用期限が2年延長された。 正確に述べると、本税制の対象資産及び手続きに関しては、中小企業等経営強化法に規定されており、中小企業等経営強化法の改正によりD類型が対象資産に追加された。 税務上の取扱いは、従来からあるA・B・C類型と同様に対象資産につき、即時償却又は税額控除の選択適用となり、主務大臣の認定を受けた経営力向上計画の申請書等の写しの添付が要件となる。よって、中小企業等経営強化法に従った手続きをスケジュールに則り申告期限内までに行う必要がある。 本稿では前後編の2回にわたり、新たに追加されたD類型を中心に、①税務面(租税特別措置法)と②手続面(中小企業等経営強化法)から解説していく。   2 税務面(租税特別措置法) (1) 内容 青色申告書を提出する中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定(強化法17①)を受けた中小企業者等が平成29年4月1日から令和5年3月31日までの期間内に、認定を受けた経営力向上計画に基づき新品の特定経営力向上設備等を取得又は製作若しくは建設して、国内にあるその法人の指定事業の用に供した場合に、その指定事業の用に供した日を含む事業年度において、即時償却又は取得価額の7%(一定の法人は、10%)相当額の税額控除の選択適用ができる(措法42の12の4①②)。 (2) 対象者「中小企業者等」 適用対象者となる「中小企業者等」とは、次の法人等のうち、中小企業等経営強化法の認定を受けた「特定事業者等」(※)に該当するものをいう(措法42の4⑧七、八、強化法2⑥)。 (※) 「特定事業者等」とは、「経営力向上計画」を提出できる事業者で、常時使用する従業員数が2,000人以下の法人又は個人、協同組合等、医療法人等、社会福祉法人、特定非営利活動法人が該当する(詳細については【後編】の3の(1)参照)。 (3) 対象資産「特定経営力向上設備等」 中小企業等経営強化法に規定する「経営力向上設備等」のうち、政令で定める一定の取得価額以上のものが「特定経営力向上設備等」として対象となる(詳しくは【後編】の3の(2)参照)。 特定経営力向上設備等に該当するものであることを証するために、確定申告書に経営力向上計画の写し及び経営力向上計画に係る認定書の写しを添付しなければならない(措令27の12の4②③⑤、措規20の9①②、強化規16②)。 (4) 指定事業 この制度の適用対象となる指定事業は、次に掲げる事業をいう(措法42の6①)。 (注1) 電気業、水道業、鉄道業、航空運輸業、銀行業、娯楽業(映画業を除く)等は対象外。 (注2) 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律2条5項に規定する性風俗関連特殊営業に該当するものを除く。 (注3) 料亭、バー、キャバレー、ナイトクラブその他これらに類する飲食店業は、生活衛生同業組合の組合員が営むもののみが指定事業。 法人の営む事業が指定事業に該当するかどうかは、当該法人が主たる事業としてその事業を営んでいるかどうかを問わない。指定事業は、おおむね日本標準産業分類(総務省)の分類を基準として判定する(措基通42の12の4-6)。 (5) 特別償却 特別償却限度額は、取得価額から普通償却限度額を控除した金額に相当する金額とされ、普通償却限度額と併せその取得価額の全額を償却(即時償却)することができる。 なお、所有権移転外リース取引により取得した特定経営力向上設備等については、特別償却を適用することはできず、税額控除のみ適用を受けることができる(措法42の12の4①⑥)。 (6) 特別償却不足額の1年間の繰越 特別償却限度額まで償却費を計上しなかった場合に生じる特別償却不足額は、1年間繰り越すことができる(措法52の2)。 (7) 税額控除 税額控除限度額は、特定経営力向上設備等の取得価額の7%相当額(中小企業者等のうち、資本金又は出資金の額が3,000万円以下の法人は10%)となる。 ただし、その税額控除限度額がその事業年度の法人税額の20%相当額を超える場合には、控除を受ける金額は、その20%相当額が限度となる。 なお、租税特別措置法42条の6(中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除)の税額控除額及び繰越税額控除限度超過額の金額がある場合には、その20%相当額からこれらの金額の合計額を控除した残額が限度となる(措法42の12の4②)。 (8) 繰越税額控除限度超過額の1年間の繰越 税額控除限度額がその事業年度の法人税額の20%相当額を超えるために、その事業年度において税額控除限度額の全部を控除しきれなかった場合には、その控除しきれなかった金額(繰越税額控除限度超過額)について1年間繰り越すことができる(措法42の12の4③④)。 (9) 留意点 以下、税務面に係る主な留意点についてまとめたので参考とされたい。 *  *  * 次回は手続面(中小企業等経営強化法)を中心に解説を行う。 (【後編】に続く)

#No. 437(掲載号)
#坂井 晴行
2021/09/22

〔令和3年度税制改正〕中小企業事業再編投資損失準備金の手続と税務処理 【前編】

〔令和3年度税制改正〕 中小企業事業再編投資損失準備金の手続と税務処理 【前編】   公認会計士・税理士 荻窪 輝明   令和3年度税制改正で創設された中小企業事業再編投資損失準備金制度(措法55の2)(以下「本制度」という)について、改正中小企業等経営強化法による認定手続から準備金積立額(損金算入・益金算入)に係る税務処理までを2回に分けて解説する。 なお、本制度の把握に有用と思われる範囲で補足しているが、これらはあくまで現時点で公表済みの情報によるものであり、今後の更新情報に留意されたい。また、文中の意見に関する部分は、所属する団体や組織の公式見解ではなく筆者の私見であることを申し添える。 本制度の概要や全体像の理解にあたっては、令和3年度税制改正大綱の公表時点の記事であるが、以下の拙稿を参照されたい。   1 改正中小企業等経営強化法による認定手続 2021年8月2日付で「経営資源集約化税制(中小企業事業再編投資損失準備金)」の活用について」が公表され、本制度の手引きやQ&Aなどが示された。 今回は、この内容を踏まえて、改正中小企業等経営強化法による認定手続について解説する。   2 本制度の申請の流れ 本制度の申請の流れは、次のフロー図のとおりである。 (出所) 中小企業庁「経営資源集約化税制(中小企業事業再編投資損失準備金)の活用について」 計画に従って取得した株式が本制度の対象となるため、既に株式譲渡を行っているM&Aについては、計画の申請はできない(本制度の対象とならない)。   3 経営力向上計画の申請・認定(上記2で示したフロー図の①の段階) 経営力向上計画の申請様式など申請の詳細については、中小企業庁ホームページの「経営力向上計画の申請について」より入手、確認できる。 (1) 経営力向上計画の申請にあたって必要となる記載事項 本制度の活用にあたっては、通常の経営力向上計画の記載内容に加えて、以下の2点の記載が必要とされる(Q&A 2ページ)。 (※1) 事業承継等事前調査とは、M&Aの買い手側が売り手側に対して行う調査で、法務、財務、税務等の観点から、引き継ぐ経営資源について損害が生ずる恐れがないか調査を行うものをいう。一般的にデューデリジェンス(DD)と呼ばれる。 また、「10 事業承継等事前調査に関する事項」の記載例は次のとおりである。「法務に関する事項」「財務・税務に関する事項」は必ず記載(必須記載)する点(「その他の調査」については任意記載)に留意したい。製造業を例に記載例を紹介する。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (出所) 中小企業庁「経営力向上計画の申請について」1-3.申請書記載例 製造業(2021年8月13日更新)8ページ。 (2) 経営力向上計画の申請に必要な添付書類 申請書(様式第1、第2)に加えて、以下の書類を添付する(Q&A 2ページ)。 なかでも「事業承継等事前調査チェックシート」は、中小企業事業再編投資損失準備金(「以下、準備金」)の活用を予定する場合に、M&Aの実施にあたって十分なDDが行われているかの確認を行うために提出する書類であり、①経営力向上計画の申請時と、②M&Aの報告時の2回提出する。 作成にあたっては、中小企業庁ホームページの「事業承継等事前調査チェックシート作成の手引き」を参考にするとよい。 このうち、①計画申請時の「事業承継等事前調査チェックシート」では、「財務・税務DD」シート、「法務DD」シートの両シートについて、小項目ごとに実施予定があるかどうかを確認し、実施予定の場合はシートのF列に〇(そうでない場合は✕)を記載し、実施予定でない場合はG列に実施しない理由を記載する。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (出所) 中小企業庁「事業承継等事前調査チェックシート作成の手引き」1ページ。   4 M&Aの報告・確認書の発行(上記2で示したフロー図の②の段階) (1) 経営力向上計画認定後に提出する書類 M&Aの実施後、主務大臣に対してM&Aを行ったことを、事業承継等報告書(様式第5)を用いて報告する必要があり、併せて「事業承継等事前調査チェックシート」を添付する必要がある。 ① 「認定経営力向上計画に係る事業の承継及び事業承継等事前調査報告書(様式第5)」(事業承継等報告書) 実施した事業承継等の概要及び事業承継等事前調査の内容を記載する。株式を取得した日及び買収対象法人の名称の記載は必須となる。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (出所) 中小企業庁「事業承継等事前調査チェックシート作成の手引き」2ページ。 ② M&A実行後の報告時における「事業承継等事前調査チェックシート」 「財務・税務DD」シート、「法務DD」シートの両シートについて、小項目ごとに実施したかどうかを確認し、実施した場合はシートのH列に〇(そうでない場合✕)を記載し、実施しなかった場合はその理由をI列に記載する。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (出所) 中小企業庁「事業承継等事前調査チェックシート作成の手引き」3ページ。 「事業承継等事前調査チェックシート作成の手引き」には、事業承継等事前調査チェックシートQ&Aが掲載されているため、必要に応じて参考にするとよい。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (出所) 中小企業庁「事業承継等事前調査チェックシート作成の手引き」4ページ。 (2) 事業承継等の報告に必要な資料 事業承継等報告書(様式第5)に加えて、以下の書類を添付する(Q&A 2ページ)。 また、事業承継等事前調査についての実施主体が、有資格者(※2)でない場合、以下の資料についても添付が必要となる。 (※2) 法務DD:弁護士、財務・税務DD:税理士又は公認会計士。 この点に関して、「事業承継等事前調査チェックシート」の内容を満たすような調査であれば、自社でDDを実施した場合にも対象となるが、調査の実施主体が、有資格者でない場合、事業承継等の報告時に、追加的に以下の資料についても添付が必要となる(Q&A 4ページ)。 なお、事業承継等事前調査報告書と、チェックシートとの対応関係を示す資料は、中小企業庁ホームページの「経営力向上計画の申請について」に、EXCEL形式の例が示されており、ダウンロードが可能である。   5 主務大臣に対する事後報告 提出する部数は1部(郵送可)であり、初回の提出期限は、M&Aを行った事業年度の翌事業年度終了後4ヶ月以内となっている。また、事業承継等状況報告書の受理にあたって、必要に応じてヒアリングの実施があり得る。 「事業承継等状況報告書(各年度・最終年度)」、「事業承継等状況報告書作成の手引き」は下記参考資料より入手、確認できる。「事業承継等状況報告書作成の手引き」には、個別Q&Aが掲載されており、必要に応じて参考にするとよい。 〇事業承継等状況報告書作成に際しての記載方法 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (出所) 中小企業庁「事業承継等状況報告書作成の手引き」を筆者加工。 *  *  * 次回は、本制度について、準備金積立額(損金算入・益金算入)に係る税務処理を解説する。 (【後編】に続く)

#No. 437(掲載号)
#荻窪 輝明
2021/09/22

〔令和3年度税制改正における〕株式交付に係る課税繰延べ措置 【第2回】「旧租税特別措置法における株式対価M&Aに係る課税繰延べ措置」

〔令和3年度税制改正における〕 株式交付に係る課税繰延べ措置 【第2回】 「旧租税特別措置法における株式対価M&Aに係る課税繰延べ措置」   太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太   【第2回】は、旧租税特別措置法(以下「措置法」という)における株式対価M&Aに係る課税繰延べ措置について確認する。 なお、旧措置法における株式対価M&Aに係る課税繰延べ措置については、令和3年3月31日までの期限の到来をもって廃止されている。   1 旧措置法における株式対価M&Aに係る課税繰延べ措置(概要) (1) 法人株主の取扱い ① 譲渡損益の繰延べ 法人株主が、買収会社(認定特別事業再編事業者(※1))の行った産業競争力強化法の認定に係る特別事業再編計画(※2)に係る特別事業再編によりその有する対象会社(特別事業再編対象法人)の株式を譲渡し、買収会社株式の交付を受けた場合には、対象会社株式の譲渡について算入すべき益金の額又は損金の額はないこととされている(旧措法66の2の2①)。 (※1) 「認定特別事業再編事業者」とは、産業競争力強化法第25条第1項に規定する特別事業再編計画について認定を受けた法人をいう。 (※2) 「特別事業再編計画」とは、特別事業再編に関する計画をいい(産競法25①)、特別事業再編とは、産業競争力強化法第2条第11項に規定する事業再編のうち、2以上の事業者が、それぞれの経営資源を有効に組み合わせて一体的に活用して、それぞれの事業の全部又は一部の生産性を著しく向上させることを目指したものであって、一定の要件に該当するものとされている(産競法2⑫)。 《特別事業再編のイメージ》 ② 買収会社株式の取得価額 特別事業再編により交付を受けた買収会社株式の取得価額は、譲渡した対象会社株式の譲渡直前の帳簿価額(交付を受けるために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)に相当する金額とされている(旧措令39の10の3①一)。 ③ 対象会社株式が売買目的有価証券に該当していた場合 譲渡した対象会社株式が売買目的有価証券とされていた場合には、交付を受けた買収会社株式も売買目的有価証券として処理する(旧措令39の10の3①二)。 (2) 個人株主の取扱い ① 譲渡損益の繰延べ 個人株主が、買収会社の行った産業競争力強化法の認定に係る特別事業再編計画に係る特別事業再編により対象会社株式を譲渡し、買収会社株式の交付を受けた場合には、その株式譲渡はなかったものとみなし、その譲渡に係る事業所得、譲渡所得及び雑所得の課税を繰り延べられる(旧措法37の13の3①)。 ② 買収会社株式の取得価額 特別事業再編により交付を受けた買収会社株式の取得価額は、譲渡した対象会社株式の取得価額(交付株式の交付を受けるために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)となる(旧措令25の12の3)。 (3) 買収会社の取扱い ① 対象会社株式の取得価額 対象会社株式の取得価額は、次の場合の区分に応じそれぞれ次の金額となる(旧措令39の10の3②一)。 〔特別事業再編計画認定の日における対象会社の株主数〕 (※3) 「前期期末時」とは、特別事業再編対象法人の取得の日を含む事業年度の前事業年度終了の時をいう(旧措令39の10の3②一)。ただし、同日以前6ヶ月以内に中間申告書を提出し、かつ、提出の日から取得の日までの間に確定申告書を提出していなかった場合には、取得の日を含む事業年度開始の日以後6ヶ月の期間終了の時とされている(旧措令39の10の3②一)。 (※4) 「簿価純資産価額」とは、資産の帳簿価額から負債の帳簿価額を減算した金額をいい、前期期末時から取得の日までの間に資本金等の額又は利益積立金額が増加し、又は減少した場合には、増加した金額を加算し、又は減少した金額を減算した金額とされている(旧措令39の10の3②一)。 ② 増加資本金等の額 買収会社において増加する資本金等の額は、その特別事業再編により移転を受けた対象会社株式の取得価額(取得をするために要した費用の額が含まれている場合には、その費用の額を控除した金額)とされている(旧措令39の10の3②二)。 買収会社が2以上の種類株式を発行している場合には、増加した資本金等の額を交付株式の交付直後の価額の合計額で除し、これにその交付株式のうちその種類株式の交付直後の価額の合計額を乗じて計算した金額(時価比で按分した金額)を、その種類株式に係る種類資本金額に加算する(旧措令39の10の3②三)。   2 旧措置法における株式対価M&Aに係る課税繰延べ措置の適用 認定期限である令和3年3月31日の到来をもって、制度自体は廃止されたが、令和3年4月1日前に特別事業再編計画の認定を受けた場合の株式譲渡については、旧措置法の課税繰延べ措置が適用されることとなる(改正法附則54)。 《課税関係のまとめ》 *  *  * 次回は、株式交付に係る課税繰延べ措置について解説していきたい。 (了)

#No. 437(掲載号)
#川瀬 裕太
2021/09/22

〔令和3年度税制改正における〕退職所得課税の適正化 【第1回】「退職所得課税の基本と「短期退職手当等」の取扱い」

〔令和3年度税制改正における〕 退職所得課税の適正化 【第1回】 「退職所得課税の基本と「短期退職手当等」の取扱い」   公認会計士・税理士 新名 貴則   令和3年度税制改正において、退職所得課税の適正化が行われた。平成24年度税制改正において「特定役員退職手当等」が導入されたことに続き、今回は「短期退職手当等」が導入され、退職所得金額の算定において一定の制限が加えられることとなった。本連載では、その内容について解説する。 【第1回】は退職所得課税の基本と、短期退職手当等の取扱いの概要について解説する。   1 退職所得課税の基本 課税対象となる退職所得金額の算定式は次の通りである。 退職所得控除額は退職者の勤続年数に応じて、次の算定式に従って算定される。勤続年数が20年以内か20年超かで、算定式が異なるため注意が必要である。 〔退職所得控除額の算定式〕 《計算例(令和3年度税制改正前)》 ➤勤続年数5年で退職した従業員の場合 勤続5年で退職した従業員が、退職金1,000万円を受け取った場合、所得税額(復興特別所得税を含む)は次の通りになる。 ただし、平成24年度税制改正により、役員等としての勤続年数が5年以下の役員に対する退職手当等は「特定役員退職手当等」とされ、その退職所得金額を算定する際に「2分の1」を乗じないこととされている。 ➤勤続年数5年で退職した役員の場合 勤続5年で退職した役員が、退職金1,000万円を受け取った場合、所得税額(復興特別所得税を含む)は次の通りになる。   2 令和3年度税制改正後の取扱い 特定役員退職手当等に該当して税負担が増加することを回避する目的で、あえて役員等に就任せずに短期間で高額の退職金を受け取るようなケースに対応するため、令和3年度税制改正において「短期退職手当等」が導入され、退職所得金額の算定において一定の制限が加えられることとなった。 具体的には、役員でない従業員が、5年以下の勤続年数に対して高額の退職金を受け取る場合等が該当する。 「短期退職手当等」に該当する場合、退職所得金額の算定において、退職金の額から退職所得控除額を控除した残額のうち、300万円を超える部分については「2分の1」を乗じないこととされた。 この改正は、令和4年分以後の所得税について適用される。 ◆勤続年数5年以下の従業員に対する退職所得金額 ◆勤続年数5年超の従業員に対する退職所得金額 《計算例》 勤続5年で退職した従業員が、退職金1,000万円を受け取った場合、改正の前後で所得税額(復興特別所得税を含む)は次の通りになる。 ➤令和3年度税制改正後 ➤現行制度(令和3年度税制改正前) *  *  * 次回は退職手当の分類の仕方と退職所得の計算について、注意が必要な事例を中心に解説を行う。 (了)

#No. 437(掲載号)
#新名 貴則
2021/09/22

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例102(所得税)】 「事業用買換特例を適用して申告したが、買換取得資産の土地の面積制限の判定を誤ったため、特例が受けられず、修正申告となってしまった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例102(所得税)】   税理士 齋藤 和助     《基礎知識》 ◆特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例(措法37) 個人が事業の用に供している特定の地域内にある土地建物等を譲渡し、一定期間内に特定地域内にある土地等の特定資産を取得し、その取得の日から1年以内に買換資産を事業の用に供した場合には、譲渡所得の課税について、譲渡資産のうち、譲渡による収入金額又は買換資産の取得価額に対応する部分の80%に相当する部分については、譲渡がなかったものとする取得価額の引継ぎによる課税の繰延べの特例が認められる。 ◆長期間保有の土地建物等から特定の資産への買換え(措法37①四) 国内にある土地等、建物又は構築物で、譲渡の日の属する年の1月1日において所有期間が10年を超えるものを譲渡し、国内にある土地等、建物又は構築物への買換えで、その面積が300㎡以上のものを取得して事業の用に供した場合には、買換えの特例の適用を受けることができる。 ◆長期所有の土地等の買換えに係る面積の判定(措通37-11の14) その者が取得した土地等で特定施設の敷地の用に供されるものの面積が300㎡以上であるかどうかの判定は、その土地等が、共有物である場合には、土地等の全体の面積にその者の共有持分の割合を乗じて計算した面積(当該土地等が独立部分を区分所有する特定施設の敷地の用に供するものである場合には、当該土地等の総面積に当該特定施設に係る建物の独立部分の総床面積のうちにその者の区分所有する独立部分の床面積の占める割合を乗じて計算した面積)を、その者が取得した土地等の面積とする。       (了)

#No. 437(掲載号)
#齋藤 和助
2021/09/22

居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第47回】「住宅ローンを繰上返済した場合」-繰上返済等をした場合-

居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第47回】 「住宅ローンを繰上返済した場合」 -繰上返済等をした場合-   税理士 大久保 昭佳   Q Xは、14年前から住んでいた家屋とその土地を本年1月に売却したところ、譲渡損失が発生しました。 同年3月に、銀行に償還期間20年の住宅ローンを組んで買換資産を購入し、居住の用に供しましたが、父親の相続が発生し、その預貯金を相続したことから、同年11月に繰上返済してその償還期間を7年としました。 他の適用要件が具備されている場合に、Xは「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」を受けることができるでしょうか。 A 「居住用財産買換の譲渡損失特例」を受けることができません。 ●○●○解説○●○● 「居住用財産買換の譲渡損失特例」における「住宅借入金等」とは、住宅の用に供する家屋の新築若しくは取得又はその家屋の敷地の用に供される土地等の取得に要する資金に充てるために、契約において償還期間又は賦払期間が10年以上の割賦償還又は割賦払の方法により返済することとされている政令(措令26の7⑫)で定める金融機関等からの借入金等とされています(措法41の5⑦四)。 そして、住宅ローンを繰り上げて返済等をした場合については、次の通達により取り扱われます。 租税特別措置法関係通達41の5-17(繰上返済等をした場合) ※下線は筆者による。 したがって、本事例の場合、繰上返済によりその償還期間が10年未満となったことから、Xは「居住用財産買換の譲渡損失特例」を受けることができません。 (了)

#No. 437(掲載号)
#大久保 昭佳
2021/09/22

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第4回】「贈与税の配偶者控除と小規模宅地等の特例の適用面積」

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第4回】 「贈与税の配偶者控除と小規模宅地等の特例の適用面積」   税理士 柴田 健次   [Q] 被相続人である甲は、100%所有していた土地(100㎡)及び家屋(40㎡は甲の事業用、60㎡は甲と配偶者乙の居住用)について、生前に土地の持分2分の1、家屋の持分2分の1を配偶者乙に贈与を行い、乙は贈与税の配偶者控除を適用して申告を行っています。贈与税の配偶者控除の適用については、相続税法基本通達21の6-3のただし書きの適用を受け、優先的に受贈配偶者の居住用部分として、土地家屋の2分の1相当は居住用不動産の贈与を受けたものとして贈与税の申告を行っています。 甲の相続により、甲の土地家屋の持分2分の1について、乙が10分の2、長男である丙が10分の8の割合で相続することになり、最終的な土地家屋の持分は、乙が10分の6、丙が10分の4となりました。 乙は特定居住用宅地等の要件を満たし、甲の事業を承継した丙は特定事業用宅地等の要件を満たしています。 小規模宅地等の特例の適用にあたっては、贈与時の申告状況を考慮し、既に100㎡の敷地のうち、50㎡(100㎡ × 1/2)は居住用不動産の贈与があったものとして、10㎡(100㎡ × 60㎡/100㎡ - 50㎡)が特定居住用宅地等に該当し、残りの40㎡は特定事業用宅地等に該当するものとして小規模宅地等の特例の適用をすることはできますか。 [A] 小規模宅地等の特例(以下単に「特例」という)の面積は、上記質問のように取り扱うことはできず、乙は6㎡(100㎡ × 1/2 × 60㎡/100㎡ × 2/10)が特定居住用宅地等に該当し、丙は16㎡(100㎡ × 1/2 × 40㎡/100㎡ × 8/10)が特定事業用宅地等に該当することになります。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 贈与税の配偶者控除 贈与税の配偶者控除は、生存配偶者の老後の生活安定に配慮する趣旨から、婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産又は居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合に、贈与税の基礎控除110万円のほかに最高2,000万円まで控除ができるという特例です(相法21の6)。 店舗兼住宅及びその敷地の用に供されている土地等のように、居住の用に供されている部分と居住の用以外の用に供されている部分がある場合には、原則として、居住の用に供されている部分のみが対象となります。したがって、居住用の割合を算出する必要がありますが、居住の用に供されている家屋の面積及び土地の面積は次の方法により求めることになります(相基通21の6-2)。 (1) 家屋のうち居住の用に供している部分の面積 (2) 土地のうち居住の用に供している部分の面積 本問の場合には、家屋のうち居住の用に供している部分の面積は60㎡、土地のうち居住の用に供している部分の面積は60㎡(100㎡ × 60㎡/100㎡)となります。したがって、家屋の居住用の割合は60%(60㎡/100㎡)、土地の居住用の割合は60%(60㎡/100㎡)となります。 原則的には、上記のように土地等及び家屋について居住用の割合を算定し、居住用部分に贈与を受けた持分を乗じた部分のみが対象となりますが、例外として、下記の方法が認められています。 本問の場合には、贈与を受けた持分の割合50%が夫婦の居住用割合60%(60% ×(1/2 + 1/2))以下となりますので、贈与を受けた部分の全てについて、居住用不動産の贈与があったものとして、贈与税の申告をすることができます。   2 贈与税の配偶者控除と小規模宅地等の特例の関係 自宅兼店舗の贈与税の配偶者控除の適用があった場合において、上記1の例外②の取扱いを受けている場合においても、被相続人等の居住の用に供されていた部分の判定は、相続の開始の直前における現況によって行うこととされています(措法69の4①、措通69の4-9)。共有の考え方は、【第3回】の「共有で取得した場合の小規模宅地等の特例の適用面積」で解説の通り、各共有者は共有物の全部について権利を有することになります。持分の考え方の例外の措置である相続税法基本通達21の6-3のただし書きの適用は、居住用不動産の贈与が夫婦間においては、居住の用に供している部分のみが贈与の対象であるとの認識で通常行われることに鑑み、特別に認められているもので、あくまでも贈与税の配偶者控除の計算をする場合の取扱いとなります。 したがって、特例の適用面積は、贈与時の状況を考慮する必要がなく、相続開始の直前の利用状況に基づき、乙及び丙は、甲の居住用及び事業用の土地及び家屋を持分に応じて取得したものとして、下記の通り、計算することになります。   ★実務上のポイント★ 特例の適用は、相続の開始の直前における現況によります。各共有者は共有物の全部について権利を有することになるという民法の共有の基本的な考え方をもとに、特例の適用面積の算定を行うことになります。   (了)

#No. 437(掲載号)
#柴田 健次
2021/09/22

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第9回】「行政庁が間違って固定資産税を非課税として処理した過年度分について、遡って課税処分をすることは、「禁反言の法理」により違法とされるか否かが争われた判例」

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第9回】 「行政庁が間違って固定資産税を非課税として処理した過年度分について、遡って課税処分をすることは、「禁反言の法理」により違法とされるか否かが争われた判例」   税理士 菅野 真美   ▷禁反言の法理 「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない」(民法第1条第2項)は信義則ともいわれるが、同じような原則として「禁反言の法理」がある。これは、「人はいったんなした言動をそれが誤りである理由としてひるがえすことができない」という原則である(※)。 (※) 金子宏『租税法(第23版)』(弘文堂、2019年)143~144頁。 この禁反言の法理が問題となるケースの1つとして、課税当局が誤った表示(税の減免)をし、それを納税者が信じて課税処理をしたが、実は、当局の表示内容が間違っており、課税当局が誤りに気付いた時点で過去に遡って是正し、その結果、納税者にとっては想定外の負担を生ずるようなことが考えられる。 この場合、課税当局の表示を信頼した納税者の保護を重視すべきという考え方と、誤った表示は法的根拠がなく合法な処理に是正することを重視すべきという考え方があり、各々の考え方のいずれを選択するかによって答えが変わってくる。 今回は、行政庁が固定資産税非課税の通知をし、その後、非課税となっていたが、突然、過去に遡って固定資産税の賦課決定処分をしたことについて、納税者が不服として裁判所に訴え、禁反言の法理について、地裁と高裁で判断が異なった事例を検討する。   ▷どのような事案か これは、次のような事案である。   ▷禁反言の法理以外の争点 禁反言の法理以外の争点に関して簡単に説明する。 Xは、地方税法第348条第2項第9号の趣旨は、学校教育が公共性を有し非営利的性質のものだから、教育用固定資産を非課税とするものであり、組織形態を問題とするものではない。よって、固定資産税の課税対象から除外されると主張したが、民法上の財団法人であって準学校法人でないから、たとえ、直接教育の用に供されているものであるとしても、固定資産税の課税対象から除外されるものではないと判断された。 さらにXは、非課税の決定は行政処分だから、それが取り消されない限り賦課処分をすることは許されないと主張したが、非課税の決定に何の法的根拠もないことから、この決定を行政処分と解することはできないと判断された。   ▷禁反言の法理と、地裁、高裁の判断 Xは上記の主張に加えて、都税事務所長が非課税決定をして、原告に通知しながら、その後、過年度に遡って固定資産税を賦課することは、禁反言の法理に反すると主張した。 この主張に対して、地裁は次のように考えてXの主張を認めた。 他方、高裁は次のように考えてXの主張を退けた。 固定資産税の通知書に記載された税額が真の税額よりも高い場合は、納税者の更正の請求により5年間(ケースによってはそれ以上の期間)の還付を受けることができる。 固定資産税の通知書に記載された税額が真の税額よりも低い場合、行政庁側から過去5年間にわたって課税処分できるということはバランスを考えると納得できる。しかし、法律が改正されて非課税とならないという情報は昭和25年の段階でわかっていたにもかかわらず、財団法人に対して非課税の通知をしたということは行政側の大きなミスであり、そこを考慮せず、決定通知前から誤解していたから禁反言の法理では認められないと切り捨てる判断は、税理士としては釈然としないところがある。 (了)

#No. 437(掲載号)
#菅野 真美
2021/09/22

収益認識会計基準と法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第62回】

収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第62回】   千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也   (6) 法人税法施行令18条の2第4項は委任の趣旨を逸脱しているか 法人税法22条の2第5項は、第4項の資産の引渡しの時における価額相当額又は提供をした役務につき通常得べき対価の額相当額は、その資産の販売等につき、次の事実が生ずる可能性がある場合においても、その可能性がないものとした場合における価額とする旨定めている。 収益認識会計基準は、契約上の対価の金額をそのまま収益の額(取引価格)とするものではない。同基準は、約束した財又はサービスの顧客への移転を当該財又はサービスと交換に「企業が権利を得ると見込む対価の額」で描写するように、収益を認識することを基本原則としている。 この原則に従い、契約において、顧客と約束した対価に値引きやリベートなどの変動対価が含まれる場合、財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ることとなる対価の額を見積もることに特徴がある(本連載第1回参照)。 法人税法22条の2第5項によって、収益認識会計基準を適用した場合の会計処理と法人税法上の処理にズレが生じるが、これは、「売上高」のようにいわば損益計算書項目におけるズレである。 例えば、会計上、(直接的であるにせよ、間接的であるにせよ)貸倒れ見込みを反映して「売上高」を減額することにより、これに対応する「売掛金」も減額されるのであれば、法人税法上の処理との間で、貸借対照表項目におけるズレも生じる。 このような貸借対照表項目におけるズレについては、法人税法施行令18条の2第4項等で手当てされている。 法人税法施行令18条の2第4項は、次のとおり定めている。 この規定は、会計上、収益の額から控除し、金銭債権の帳簿価額を構成しないこととされた金額について、税法上は金銭債権の帳簿価額を構成することを明確にするものである(本連載第38回参照)。 ただし、この規定については、その内容が、法人税法22条の2第5項に関するものである以上、第7項の政令委任の文言、又は、同法施行令18条の2第4項という政令の規定内容に問題があるという指摘がなされているため、検討を加える。 法人税法施行令18条の2第4項は、資産の販売等の対価として受け取る金額のうち、同法22条の2第5項に規定する貸倒れや返品の事実が生ずる可能性があることにより、売掛金等の金銭債権の勘定としていない金額(金銭債権計上差額)があるときは、その対価の額に係る金銭債権の帳簿価額は、その金銭債権計上差額を加算した金額とする旨定めている。 上記の指摘は、法人税法22条の2第7項が「第1項から第4項までの規定の適用に関し必要な事項」に関する定めを政令に委任しているにもかかわらず、同法施行令18条の2第4項が同法22条の2第5項に関する内容を定めていることを問題視する(長島弘「収益認識基準対応としての法人税法22条の2の問題点」会計・監査ジャーナル30巻12号116頁参照)。 しかしながら、この点をことさら問題視する必要はないと考える。 法人税法22条の2第7項は、「前2項に定めるもののほか」つまり第5項及び第6項に加えて、「資産の販売等に係る収益の額につき修正の経理をした場合の処理その他第1項から第4項までの規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める」としている。 第5項も第6項も「資産の販売等に係る収益の額につき修正の経理をした場合の処理その他第1項から第4項までの規定の適用に関し必要な事項」(あるいは、「資産の販売等に係る収益の額につき修正の経理をした場合の処理」に関する規定又は「その他第1項から第4項までの規定の適用に関し必要な事項」に関する規定)であることを前提としていることがわかる。法人税法は、第5項及び第6項を第1項~第4項の補足ないし付随的規定として位置付けていると捉えてもよいであろう。 第5項は、第4項と無関係の規定ではなく、第4項でいう「価額」又は「通常得べき対価の額」について、その資産の販売等に係る金銭債権の貸倒れ等の事実が生ずる可能性がある場合でも、その可能性がないものとした場合における価額とすることを定めるものである。 第5項の主語は第4項の「引渡しの時における価額又はその提供をした役務につき通常得べき対価の額」であり、第5項は、この価額又は対価の額について、「資産の販売等につき次に掲げる事実が生ずる可能性がある場合においても、その可能性がないものとした場合における価額とする」ことを定めていることからも明らかである。 よって、第5項は、収益の計上額に関して定めている第4項との関係では補足ないし付随的規定であると評価し得る。 そうすると、法人税法施行令18条の2第4項は、同法22条の2第5項に関連する内容を定めているとしても、結局は、資産の販売等に係る収益の計上額について定める同条第4項の適用に関する内容を定めていることになる。 条文の建付け上、法人税法22条の2第4項の適用がないにもかかわらず、第5項が単独で適用される場面はないのであるから、同法施行令18条の2第4項について、同法22条の2第5項に関する政令であるという点だけを切り出して、強調することは妥当でない。 また、法人税法施行令18条の2第4項は、「内国法人が資産の販売等を行った場合において」としており、この場合の「資産の販売等」とは法人税法22条の2第1項に規定する「資産の販売等」(法令18の2①)であるという関係性も指摘しておく。 加えて、委任の対象範囲という観点から委任規定である法人税法22条の2第7項を眺めると、同項が資産の販売等に係る収益の額につき修正の経理をした場合の処理その他第1項から第4項までの規定の適用「に関し」、「必要な事項」という比較的広い範囲で政令に委任していることに気が付く。 ここで、もう一度、法人税法22条の2第7項を注意深く読んでみよう。 以上からすれば、法人税法施行令18条の2第4項が法人税法22条の2第5項に関する内容を定めていることをことさら問題視する必要はない。同条第7項の委任の文言も然りである。 ただし、同条第7項の委任の対象範囲が広すぎる、包括にすぎるという批判は一応あり得る。   (了)

#No. 437(掲載号)
#泉 絢也
2021/09/22

収益認識会計基準を学ぶ 【第13回】「履行義務の充足に係る進捗度」

収益認識会計基準を学ぶ 【第13回】 「履行義務の充足に係る進捗度」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 収益認識会計基準の5つのステップの5番目は、履行義務の充足による収益認識である。これには、【第9回】と【第10回】で解説したとおり、一定の期間にわたり充足される履行義務と一時点で充足される履行義務がある(収益認識会計基準17項(5))。 今回は、一定の期間にわたり充足される履行義務に関して、履行義務の充足に係る進捗度について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 履行義務の充足に係る進捗度 収益認識会計基準38項の要件のいずれかを満たす場合、資産に対する支配を顧客に一定の期間にわたり移転することにより、一定の期間にわたり履行義務を充足し収益を認識する。 1 進捗度の見積り 一定の期間にわたり充足される履行義務については、履行義務の充足に係る進捗度を見積もり、当該進捗度に基づき収益を一定の期間にわたり認識する(収益認識会計基準41項)。 履行義務の充足に係る進捗度の適切な見積りの方法には次の方法があり、財又はサービスの性質を考慮して決定する(収益認識適用指針15項)。 次の事項に注意する(収益認識会計基準42項、44項、45項、153項、収益認識適用指針16項)。 2 アウトプット法 アウトプット法は、現在までに移転した財又はサービスの顧客にとっての価値を直接的に見積もるものであり、現在までに移転した財又はサービスと契約において約束した残りの財又はサービスとの比率に基づき、収益を認識するものである(収益認識適用指針17項)。 アウトプット法に使用される指標には、現在までに履行を完了した部分の調査、達成した成果の評価、達成したマイルストーン、経過期間、生産単位数、引渡単位数等がある(収益認識適用指針17項)。 アウトプット法の適用に際しては、履行義務の充足に係る進捗度を忠実に描写するような方法を採用することに注意する(収益認識適用指針18項、123項)。 例えば、生産単位数又は引渡単位数に基づくアウトプット法において、企業の履行により顧客が支配する仕掛品又は製品が決算日に生産されているが、当該仕掛品又は製品がアウトプットの見積りに含まれていない場合には、企業の履行を忠実に描写していないとされている(収益認識適用指針18項)。 生産単位数又は引渡単位数に基づくアウトプット法は、顧客が支配する仕掛品がアウトプットの見積りに含まれないため、当該仕掛品が契約又は財務諸表全体のいずれかに対して重要性がある場合には、企業の履行を忠実に描写していないとされている(収益認識適用指針124項)。 アウトプット法を採用するかどうかを検討する際には、この例示のような方法となっていないかどうかについて、慎重に検討する必要がある。 提供したサービスの時間に基づき固定額を請求する契約等、現在までに企業の履行が完了した部分に対する顧客にとっての価値に直接対応する対価の額を顧客から受け取る権利を有している場合には、請求する権利を有している金額で収益を認識することができるとされている(収益認識適用指針19項)。 3 インプット法 インプット法は、履行義務の充足に使用されたインプットが契約における取引開始日から履行義務を完全に充足するまでに予想されるインプット合計に占める割合に基づいて、収益を認識するものである(収益認識適用指針20項)。 インプット法に使用される指標には、消費した資源、発生した労働時間、発生したコスト、経過期間、機械使用時間等がある。企業のインプットが履行期間を通じて均等に費消される場合には、収益を定額で認識することが適切となることがある(収益認識適用指針20項)。 インプット法の適用に際しては、財又はサービスに対する支配を顧客に移転する際の企業の履行を描写しないものの影響は、インプット法に反映しないとされていることに注意する(収益認識適用指針21項)。 例えば、履行義務を充足するために生じた想定外の金額の材料費、労務費又は他の資源の仕損のコストは、契約の価格に反映されていない著しく非効率な企業の履行に起因して発生したコストであるため、当該コストに対応する収益は認識しない(収益認識適用指針125項)。 コストに基づくインプット法を使用するにあたっては、次の(1)又は(2)の状況において、履行義務の充足に係る進捗度の見積りを修正するかどうかを判断する(収益認識適用指針22項)。 4 進捗度の見積りの変更 履行義務の充足に係る進捗度は、各決算日に見直す(収益認識会計基準43項)。 当該進捗度の見積りを変更する場合は、会計上の見積りの変更(「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準第24号)4項(7))として処理する(収益認識会計基準43項)。   (了)

#No. 437(掲載号)
#阿部 光成
2021/09/22
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