〔疑問点を紐解く〕
インボイス制度Q&A
【第9回】
「電子帳簿保存法と電子インボイス」
税理士 石川 幸恵
【Q】
国税庁ホームページで公表されている「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(令和4年6月版)」には次のような問があります。令和5年10月1日以降、インボイスも電子データでやり取りし、保存することができるのでしょうか。
令和4年1月1日の改正電子帳簿保存法の施行にあたり、消費税について注意点があれば、併せて教えてください。
〇電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(令和4年6月版)
【問15】
妻と2人で事業を営んでいる個人事業主です。取引の相手方から電子メールにPDFの請求書が添付されて送付されてきました。一般的なパソコンを使用しており、プリンタも持っていますが、特別な請求書等保存ソフトは使用していません。どのように保存しておけばよいですか。
【回答】
1 請求書データ(PDF)のファイル名に、規則性をもって内容を表示する。
例)2022年(令和4年)10月31日に株式会社国税商事から受領した110,000円の請求書 ⇒「20221031_㈱国税商事_110,000」
2 「取引の相手先」や「各月」など任意のフォルダに格納して保存する。
3 電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(令和4年6月版)【問28】に記載の規程(正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理の規程)を作成し備え付ける。
(以下、省略)
〔ポイント〕
(1) 適格請求書発行事業者は適格請求書(インボイス)を電子データで提供することが可能です(新消法57の4①⑤)。
(2) 適格請求書を電子データにより受領した場合に、仕入税額控除の適用を受けるためには、電子データのまま、又は紙に印刷したものを保存します(インボイスQ&A問100)。
(3) 電子データにより受領した適格請求書を電子データで保存する場合は、電子帳簿保存上の保存方法と同様の方法となります(インボイスQ&A問100)。現在、公表されている情報によれば、上記の【回答】(電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(令和4年6月版)【問14】の【回答】)のような方法により保存することが可能と思われますが、インボイス制度が開始されるまでに追加の情報が公表されるかもしれません。
(※) 電子帳簿保存法の定義(電帳法2三)では、「電子的方式、電磁的方式その他の人の知覚によっては認識することができない方式」を「電磁的方式」、「電磁的方式で作られる記録で電子計算機による情報処理の用に供されるもの」を「電磁的記録」としていますが、本稿ではわかりやすくするため、この「電磁的方式」と「電磁的記録」をいずれも「電子データ」と表現します。
* * *
【A】
(1) 適格請求書は電子データでの授受が可能
適格請求書発行事業者は、適格請求書の交付に代えて、適格請求書に係る電子データを提供することもできます(インボイスQ&A問28)。電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(令和4年6月版)【問15】の「PDFの請求書」が適格請求書の記載事項を満たしていれば、適格請求書として認められます。
(2) 適格請求書を電子データにより受領した場合の仕入税額控除の適用を受けるための保存方法
① データのまま保存
データのまま保存する場合は、真実性や可視性を確保するため、次の要件を満たす必要があります(電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(令和4年6月版)【問14】、インボイスQ&A問100)。
- 電子計算機処理システムの概要を記載した書類の備付け
- ディスプレイ、プリンタ等の備付け
- 改ざん防止措置
- 検索機能の確保
② 書面に印刷
整然とした形式及び明瞭な状態で印刷した書面を保存することも認められます(新消規15の5②、インボイスQ&A問83)。
(3) 区分記載請求書等保存方式(令和5年9月30日まで)での帳簿の記載及び請求書等の保存
① 仕入税額控除の要件
消費税の仕入税額控除には、必要な事項が記載された帳簿及び請求書等(書面)の保存が必要ですが、取引金額が3万円未満の場合や、3万円以上でも書面での請求書等の交付を受けなかったことにつき、やむを得ない理由がある場合には、帳簿のみを保存することにより仕入税額控除の適用を受けることができます(消法30⑦⑧)。
請求書等を電子データで受け取ったことは、「請求書等の交付を受けなかったことにつき、やむを得ない理由がある場合」に該当します(電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(令和4年6月版)【問4】)。このため、次の事項を追加で記載した帳簿を保存することにより仕入税額控除の適用を受けることができます。
イ やむを得ない理由
ロ 課税仕入れの相手方の住所又は所在地
② 書面に印刷も可
消費税法の仕入税額控除の要件としては、電子データで受け取った請求書等を書面に印刷して保存することも認められています(電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(令和4年6月版)【問18】)。
(4) 法人税、申告所得税での電子取引の取扱い(参考)
電子取引とは、注文書や領収書等の内容を電子データで授受する取引をいいます。PDFの請求書が電子メールに添付されて送付されてくるのは、電子取引に含まれます(電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(令和4年6月版)【問2】)。
令和3年12月31日までは、このようなPDFの請求書を印刷して保存することが認められていますが、令和3年度税制改正により、令和4年1月1日以降受け取ったPDFの請求書は電子データのままで保存しなければならなくなります(電帳法7、電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(令和4年6月版)【問3】)。
なお、改正電子帳簿保存法の施行にあたり、「電子データの一部を保存せずに書面を保存していた場合には、その事実をもって青色申告の承認が取り消され、税務調査においても経費として認められないことになるのではないか?」との懸念がありました。
これに対して、令和3年11月12日に、国税庁により「お問合せの多いご質問(令和3年11月)」が公表され、その中の【補4】にて、取引情報の内容を書面などにより確認できるような場合には、直ちに青色申告の承認が取り消されたり、経費として認められないということはないとの補足説明がなされています。
〔追記:2021/12/13〕
令和3年12月10日に公表された「令和4年度税制改正大綱」にて、電子取引の取引情報に係る電子データ保存について、令和4年1月1日から令和5年12月31日まで、書面の保存も可能とする宥恕措置を講ずることとされています。
〔凡例〕
・28年改正法・・・所得税法等の一部を改正する法律(平成28年法律第15号)
・消法・・・28年改正法による改正前の消費税法
・新消法・・・28年改正法及び所得税法等の一部を改正する法律(平成30年法律第7号)による改正後の消費税法
・新消規・・・消費税法施行規則等の一部を改正する省令(平成30年財務省令第18号)による改正後の消費税法施行規則
・通法・・・国税通則法
・電帳法・・・所得税法等の一部を改正する法律(令和3年法律第11号)による改正後の電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律
・インボイスQ&A・・・消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A(平成30年6月)(令和5年4月改訂)
・インボイス通達・・・消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関する取扱通達の制定について(法令解釈通達)
・消費税転嫁対策特別措置法・・・消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法
(了)
「〔疑問点を紐解く〕インボイス制度Q&A」は、毎月第2週に掲載されます。