計算書類作成に関する “うっかりミス”の事例と防止策 【第49回】 「損失を利益と表示してしまった例」 公認会計士 石王丸 周夫 1 損失を「~利益」と表示 計算書類にはうっかりミスがつきものです。 実際、こんなミスが起きています。 損益計算書の税引前当期純損益について、その年度は赤字であったにもかかわらず、「税引前当期純利益」と表示してしまったというミスです。 このミスは計算書類におけるうっかりミスの典型例といってよいでしょう。14年前の拙著『パターン別 計算書類作成「うっかりミス」の防ぎ方』(2012年)でも、ほぼ同じ事例を1番目の事例として紹介しました。また、本連載の【第25回】でも、経常損失であるにもかかわらず経常利益と表示してしまった【事例25-2】を紹介しています。 デジタル化が一層の進展を遂げている今日、企業の経理実務においてもシステム化が浸透していることは間違いないと思われますが、それでもなお、このようなミスが発見されることなく外部公表に至っています。 では早速、事例を見ていきましょう。 【事例49】 税引前当期純利益を税引前当期純損失に訂正した事例 〈訂正前〉 (出所) 株式会社FRONTEO「第22回定時株主総会招集ご通知」(2025年6月10日、電子提供措置の開始日2025年6月3日)及び「「第22回定時株主総会招集ご通知及び株主総会資料」の一部訂正について」(2025年6月20日) この事例の会社は、2025年6月3日に本事例を含む「第22回定時株主総会招集ご通知」を公表(電子提供措置の開始)し、2025年6月20日に当該誤記載の訂正を公表しています。 間違っていたのは【事例49】の赤枠部分で、損益計算書の税引前当期純利益の名称です。正しくは、「税引前当期純損失」でした。つまり、赤字だったわけです。損益の名称を逆にしてしまったもので、うっかりミスと思われます。 会社計算規則の定めを確認しておきましょう。 この規定の趣旨は、赤字の場合、「~損失」と表示しなければならないというものです。そして、数字には△(負数の記号)をつける必要はなく、数字のみを記載します。【事例49】は、この定めに従い訂正されています。 2 このミスに気づかなかった背景 【事例49】では表記を省略していますが、この損益計算書では、ミスのあった税引前当期純損益を除き、他の段階損益はすべて黒字でした。売上総利益、営業利益、経常利益、そして一番下の当期純利益というように、すべて「~利益」という表示になっています。そのなかで税引前当期純損益のみが赤字だったことから、「~損失」という表示にするのを忘れてしまったのではないかとみられます。 また、【事例49】の会社は連結財務諸表作成会社なので、業績は連結ベースで判断されます。個別財務諸表(株主総会招集通知では計算書類)への関心は高くはないでしょう。この会社の業績は、株主総会招集通知公表より前に決算短信で公表されており、その内容は基本的に連結ベースの数値です。そこには参考として個別業績の概要も記載されていますが、PL項目について開示されているのは、売上高、営業利益、経常利益、そして当期純利益の4つです。税引前当期純利益は開示対象になっていません。 つまり、株主総会招集通知の作成作業に先行して行われていると考えられる決算短信の作業に際して、個別決算における税引前損益が赤字であることを目にしたり耳にしたりする機会は少なかったのではないかと思われます。【事例49】のミスについて、公表前に気づくことができなかったのは、そういったこともあったのかもしれません。 3 計算チェックを欠かさない 【事例49】のミスについては、それが発生してしまったことは仕方がなかったとしても、開示前に発見することは可能だったと考えられます。 発見方法については、本連載の【第42回】が参考になります。【第42回】は、連結損益計算書の当期純利益に関するミスで、【事例42-1】と【事例42-2】は数字に関するミスでした。ミスが発生、見逃された原因は、関心の低い項目だったこととクロスチェックする相手項目がなかったことの2点だと述べましたが、その点で本事例と共通しています。 その【第42回】では、「最低でも計算チェックは行うべき」としました。 今回のミスも、計算チェックで検出可能です。 損益計算書を上から順に電卓で足し引きして、計算チェックしていきます。その際、段階損益のところでは、必ず損益の名称と計算結果のプラスマイナスの整合性を確認します。そうすると、税引前当期純利益のところで計算結果がマイナス値になるので、損益名称との不整合に気がつくはずです。 もちろん、人間が行うことですから、「そのように計算チェックしたのだけれど見逃してしまった」ということもあります。しかし、計算チェックを常に行うよう習慣づけていけば、間違いを開示前に発見できることが多くなってくるはずです。 〈今回のまとめ〉 損益計算書のうっかりミスを開示前に見つけるには、まずは計算チェックを欠かさないことです。 (了)
連結会計を学ぶ(改) 【第14回】 「未実現損益の消去」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 親会社と子会社で取引が行われる場合(連結会社相互間の取引高)、それは企業集団としては内部取引であることから、連結損益計算書の作成に際して、相殺消去する必要がある(「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号。以下「連結会計基準」という)35項)。 連結グループ(企業集団)の外部に、連結会社相互間の取引の対象となった棚卸資産などが売却されていない場合には、当該売却による利益は未実現ということになる。 今回は、未実現損益の消去に関する会計処理について解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 未実現損益の消去 例えば、連結グループの外部から仕入れた商品について、子会社から親会社へ売り上げたが、親会社ではまだ連結グループの外部に売却しておらず棚卸資産(商品)として残っている場合を考える。 この場合、連結会社相互間の取引によって取得した棚卸資産などの資産が、連結グループ内にとどまっており、連結グループの外部に売却されていないときには、子会社で計上した商品の売却益は、未実現ということになる。 連結会計基準は、連結会社相互間の取引によって取得した棚卸資産、固定資産その他の資産に含まれる未実現損益は、その全額を消去すると規定している(連結会計基準36項)。 この際、未実現損失については、売手側の帳簿価額のうち回収不能と認められる部分は消去しないと規定されていることに注意が必要である(連結会計基準36項)。 少し古いものであるが、公認会計士・監査審査会が公表した平成29年版の「監査事務所検査結果事例集」(平成29年7月26日公表)では、次の事例を紹介している(89ページ)。 作成のイメージは、おおむね次の図表のとおりである。 【図表:連結損益計算書の作成プロセスのイメージ】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 Ⅲ 連結精算表の作成 Ⅳ 子会社に非支配株主が存在する場合 上記の設例は、100%の持分比率の子会社を前提に解説している。 もし、子会社の持分比率が80%のように、商品の売手側の子会社に非支配株主が存在する場合には、未実現損益は、親会社と非支配株主の持分比率に応じて、親会社の持分と非支配株主持分に配分することとなる(連結会計基準38項)。 この場合、Ⅲの「②未実現損益の消去」は次のようになる。 (了)
空き家をめぐる法律問題 【事例74】 「管理組合がマンションの共用部分の管理について負う責任」 弁護士 羽柴 研吾 - 事 例 - 区分所有建物の共用部分である外壁コンクリート躯体部分に亀裂が発生し、そこから雨水が侵入したことによって、特定の専有部分の室内クロスや床材が損傷する事故が繰り返し発生しました。当該専有部分は空き部屋ですが、当該区分所有者から管理組合に対して損害賠償請求が行われる見込みです。管理組合は損害賠償請求に応じる必要がありますか。 なお、管理組合の規約には、①管理組合がその責任と負担で共用部分を管理することと、②管理組合が共用部分の保全・保守・修繕を行うことが定められています。 1 検討の視点 マンションの共用部分の瑕疵によって専有部分に被害が生じた場合、区分所有者全員が最終的に損害賠償責任を負うことになる。もっとも、区分所有者の数は多数になることもあり、全員を相手に請求することが現実的でない場合もあるため、管理組合に対して損害賠償請求をすることが認められるのかが問題となる。本事例では、最高裁判所令和8年1月22日判決(以下「令和8年判決」という。)を踏まえて、管理組合の責任の有無と留意点について検討する。 2 管理組合は「占有者」なのか? 民法第717条は、土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があり他人に損害が生じた場合、その工作物を支配管理して安全性を確保すべき地位にある占有者に、第一次的に損害賠償責任を負わせている。この点に関し、区分所有建物の共用部分は、区分所有者全員が共有しているため(区分所有法第11条第1項)、区分所有者全員が共用部分の占有者に該当し、区分所有者全員が占有者として損害賠償責任を負うものと理解されている。 一方で、管理組合に対する損害賠償請求が認められれば、請求手続の負担を軽減できる上、管理組合が有する財産を損害賠償の原資として活用できる利点もある。このため、管理組合が民法第717条の「占有者」に該当するか否かが問題となっていたが、下級審裁判例では、これを肯定するものと否定するものに分かれていた。そのため、令和8年判決の判断には大きな注目が集まっていた。 3 令和8年判決について 令和8年判決は、区分所有建物の共用部分の設置又は保存に瑕疵があることによって区分所有者が被った損害について、管理組合に対し民法第717条に基づく損害賠償請求をした事案であり、管理組合の占有者性を肯定して原判決を破棄し、審理を東京高裁に差し戻すこととなった。 令和8年判決は、民法第717条の趣旨が「通常有すべき安全性を欠く工作物」を管理する者に責任を負わせることにある旨指摘している。その上で、区分所有法の関係条文からすると、区分所有建物の共用部分は、管理組合がこれを支配管理して通常有すべき安全性を確保していくことが予定されていることから、管理組合は、特段の事情がない限り、区分所有建物の共用部分を支配管理してその設置又は保存の瑕疵による損害の発生を防止すべき地位にあることを判示している。また、令和8年判決は、管理組合の占有者性を認めることによって、管理組合の財産から賠償できることとなり、このことは区分所有者の通常の意思に沿うものとして、管理組合の占有者性を肯定した。 令和8年判決によれば、特段の事情がある場合には占有者性が否定されることになる。占有者性が否定される具体的な事例は、今後の裁判例の集積を待つことになるが、例えば、管理規約が形式的に作成されたのみで総会が開催された実績がないような場合や、区分所有者の多くが行方不明等となり管理組合が機能不全に陥っているような場合等が該当する可能性があるものと考えられる。築年数の古い区分所有建物の中には、上記のような物件も相当数含まれているものと推察される。 4 損害の範囲について 民法第717条に基づく損害賠償請求が認められる場合、瑕疵によって損傷した専有部分の修繕費が主な損害になるものと考えられる。また、被害が発生したことによって当該専有部分の資産価値が減少したような場合には、当該減少相当額も損害として認められる余地がある。なお、請求を行う区分所有者自身も共用部分の持分割合に応じて損害額の一部を負担する必要があるため、最終的な賠償額はその持分割合分を控除した金額となる。 5 本件において 管理組合の管理規約には、共用部分の管理を管理組合の責任と負担で行うことや、共用部分の保全・保守・修繕を行うことが定められているため、管理組合の存在が形骸化しているような事情がなければ、管理組合は民法第717条の占有者に該当するものと考えられる。また、本件では漏水事故が複数回発生しており、安全性確保のための修繕が十分でなかったと推測されるため、管理組合は、専有部分の室内クロス、床材の補修費用や資産価値の減少相当額等の賠償責任を負うことになるものと考えられる。 令和8年判決により、管理組合が民法第717条の占有者として損害賠償責任を負う主体となることが明らかになった。管理組合としては、損害賠償リスクに備え、適切な保険への加入や十分な修繕積立金の確保を行うとともに、共用部分の定期点検や予防的な修繕を積極的に実施することが重要である。特に空き家住戸については、巡回や所有者への連絡体制を整備し、異常の早期発見に努めることが期待される。 (了)
〈小説〉 国税審査官エイトの勤務日誌 ~ある国税不服審判所の記録~ 第1話 7月は人事異動の季節 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「永途、統括官が呼んでいるよ」 傍らにいた佐伯上席が告げる。 7月。税務署の人事異動の季節である。 永途は神妙な顔をして、山口統括官の前に立った。 「君は以前、税務大学校を希望していたが・・・今回は、大阪国税不服審判所に配属になった」 山口統括官は笑顔だった。 「国税不服審判所も、税務大学校同様に、税法の勉強ができる所だ。君には良いところだよ」 永途の顔を見ながら、統括官は続けた。 「もちろん、国税審査官として行くことになる。私も7年前は、統括官から、国税審査官として、国税不服審判所に勤務していた。国税調査官クラスの君は、審判所では若い国税審査官になるだろうね」 山口統括官は組織図を見せながら、 「審判所では、毎日、署長クラスの国税審判官と一緒に仕事をすることになる・・・」 と冗談めかして笑った。 国税審判官 指定官職 署長クラス 国税副審判官 副署長クラス 国税審査官 一般職員 統括官・上席・ 調査官クラス (注) 指定官職とは、辞令を発する者が国税庁長官で、一般職員は国税局長が辞令を発する。 「・・・次に、齋藤君を探してきてくれないか」 山口統括官は永途の内示を終えると、そう頼んだ。 齋藤は席を外している。 永途は礼をしながら、後輩の齋藤を探しに行く。 「それにしても審判所に転勤か・・・」 新しい職場を想像して、永途の心は躍った。 三階の法人課税第三部門から二階へ階段を降りると、齋藤が壁際で携帯電話を内ポケットにしまうところだった。 「おい齋藤、内示だ。山口統括官が呼んでいるよ」 永途の声に、齋藤は驚いて振り向いた。 「お前も異動だな・・・」 永途は、笑いながら言った。 「・・・ということは、先輩も転勤ですか?」 齋藤がニコニコしながら訊く。 「審判所だったよ。それより早く、山口統括官のところに行けよ、統括官が待っている」 齋藤を急かすと、彼は勢いよく階段を駆け上がっていった。 永途は自分の席に戻り、税務大学校の授業で聞いた国税不服審判所の話を聞いたことを思い出した。 税務大学校の授業で、担当教授は国税不服審判所の特色として、「争点主義的運営」を強調していた。 国税通則法の一部改正(参議院大蔵委員会の付帯決議:昭和45年3月24日)では、次のように規定されている。 「争点主義的運営か・・・審判所は、税務署と大分違うな」 永途は呟きながら、思案顔になる。 そんな説明を、永途は税務大学校の授業で聞いたことがあった。 永途はパソコンで国税不服審判所の組織図を見ながら、新しい職場に期待を膨らませた。 (注) 支部は、東京、大阪など12支部あり、支所は各支部に7つある。 (つづく)
令和8年度税制改正に関する 《資料リンク集》 このページでは「令和8年度税制改正」に関し各府省庁・主な団体等から公表された情報ページへのリンク先をまとめています。 新たな情報の公表により、随時更新します。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
【重要】 会員2万人突破記念! 新連載開始キャンペーンのお知らせ 平素より株式会社プロフェッションネットワークのサービスをご愛用いただき、厚くお礼申し上げます。 既報のとおり、当社が運営しております税務・会計Web情報誌プロフェッションジャーナル(Profession Journal)はおかげさまで会員2万人を突破いたしました。 会員2万人突破に伴い、2025年10月1日(水)より、本誌掲載の連載第1回をすべて無料公開とさせていただいておりますが、今回これに続くキャンペーンの一環として、2026年1月より複数の新連載を順次開始してまいります。 以下、新連載の概要及び開始時期等をお知らせさせていただきますので、どうぞご期待ください。 ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ※下記の新連載のタイトルをクリックすると詳細箇所に遷移します。 ◆ ◇ ◆ ◆ ◇ ◆ ◆ ◇ ◆ ◆ ◇ ◆ ◆ ◇ ◆ ◆ ◇ ◆ ◆ ◇ ◆ ※上記新連載の内容は随時更新し、今後も追加を予定しています。 ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ 今後ともプロフェッションジャーナルをご愛読賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
《速報解説》 グローバル・ミニマム課税に係る 国際合意を踏まえた措置が閣議決定される ~特定多国籍企業グループの最終親会社等に該当する場合、税負担等軽減の可能性~ 公認会計士・税理士 霞 晴久 政府は、本年1月23日、グローバル・ミニマム課税に係る国際合意を踏まえた措置を閣議決定した。これは、多国籍企業に対して各国ごとに最低税率15%以上の課税を確保する仕組み、すなわち国際最低課税額に対する法人税として令和5年に初めて法制化され、その後数次の改正を経た制度について、国際課税システムの安定化の要請の下、米国等独自のミニマム課税制度を有する国の制度との共存を図る観点から、令和7年6月以降「BEPS (※1)包摂的枠組み」において議論され、令和8年1月5日に合意が成立したことから、令和8年度税制改正において、見直しを行ったものである。 (※1) Base Erosion and Profit Shifting : 税源浸食と利益移転 1 措置の内容 本措置は、国税及び地方税を対象とするが、地方税については、国税の取扱いに準じて所要の見直しが行われる。 (1) 各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税(※2)について (※2) グローバル・ミニマム課税のうち、所得合算ルール(Income Inclusion Rule:IIR)として、令和5年度税制改正において法制化された。 ① 特定多国籍企業グループの最終親会社等の所在地国又は地域について、財務大臣が、次に掲げる要件その他を満たしているとして当該所在地国又は地域を指定する場合には、その特定多国籍企業グループに属する構成会社等に係るグループ国際最低課税額及びその特定多国籍企業グループに係る共同支配会社等に係るグループ国際最低課税額は零とされる(適用免除基準)。当該改正は、令和8年1月1日以後に開始する対象会計年度から適用される。 イ その国又は地域の租税に関する法令(※3)において、20%以上の税率により会社等の所得に対する租税を課することとされていること。 (※3) 令和11年1月1日前に制定されたものに限る。ロ及びハにおいて同じ。 ロ その国又は地域の租税に関する法令において、自国内最低課税額に係る税を課することとされていること、又はその会社等の各対象会計年度に係る当期純損益金額を基礎とした金額に対して15%以上の税率により租税を課することとされていること。すなわち最終親会社等が、国内ミニマム課税(QDMTT)が既に法制化されている国又は地域に所在している場合をいう。 ハ その国又は地域の租税に関する法令において、他の会社等に持分を直接・間接に所有される会社等(「子会社等」という。)がその本店又は主たる事務所の所在する国又は地域においてその事業の管理、支配及び運営を自ら行っていない場合その他の場合において、その子会社等の所得の金額を当該他の会社等の収益の額とみなして益金の額に算入する規定であって、原則としてその子会社等の全ての所得の金額を基礎としてその益金の額に算入する金額を算出するものが設けられていること。すなわち、最終親会社等が、我が国でいう外国子会社合算税制類似の制度を法制化している国又は地域に所在している場合をいう。 ② 一定の国別報告事項における記載事項等を用いた経過的な適用免除基準の適用期限(現行:令和8年12月31日)は令和9年12月31日まで1年延長される。また、各対象会計年度の国内最低課税額に対する法人税に係る一定の国別報告事項における記載事項等を用いた経過的な適用免除基準についても同様の見直しが行なわれる。 ③ 税額控除制度等(※4)の適用を受けることが認められる金額のうち一定の金額(原則として、一定の従業員の給与等の額の合計額に5.5%を乗じて計算した金額と一定の有形資産に係る減価償却費の合計額に5.5%を乗じて計算した金額とのいずれか多い金額を按分した金額を上限)を調整後対象租税額に加算することができる特例が設けられる。上記の改正は、令和8年1月1日以後に開始する対象会計年度から適用される。 (※4) 投資を促進するための税額控除制度又は所得控除制度として次に掲げる要件を満たすものに限定される。 イ その適用を受けることができる金額が支出の額を基礎として計算される税額控除制度又は所得控除制度であること。 ロ その適用を受けることができる金額が所在地国における有形資産の生産量等を基礎として計算される税額控除制度であること。 ④ その他所要の措置が講じられる。 (2) 各対象会計年度の国際最低課税残余額(※5)に対する法人税について 特定多国籍企業グループの最終親会社等の所在地国又は地域について、財務大臣が、国際的に20%以上の税率(※6)により所得に対する租税が課されていると認められることその他の要件を満たしているとして指定する場合には、当該特定多国籍企業グループのグループ国際最低課税残余額には、当該最終親会社等の所在地国に係る部分の金額は含まれないものとされる(適用免除基準)。 (※5) グローバル・ミニマム課税のうち、軽課税所得ルール(Undertaxed Profits Rule:UTPR)として、令和7年度税制改正において法制化された。 (※6) 令和8年1月1日において当該所在地国又は地域で施行されている法令に従って課される場合に限られる。 2 我が国法人への影響 本措置の適用については、財務大臣の指定を待つことになると思われるが、上記(1)については、我が国法人が特定多国籍企業グループの最終親会社等に該当する場合、①イ~ハの要件を満たすことになるため、適用免除基準が適用され、グループ国際最低課税額は零となり、税負担及び事務負担は軽減される可能性がある。 また、上記(2)について適用があるのが、外国法人の我が国に所在する子会社及び恒久的施設ということとなるが、最終親会社等の所在地国又は地域が税率20%未満の軽課税国でない限り、適用免除となると思われる。 (了)
令和7年度税制改正に関する 《資料リンク集》 このページでは「令和7年度税制改正」に関し各府省庁・主な団体等から公表された情報ページへのリンク先をまとめています。 新たな情報の公表により、随時更新します。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
2026年1月29日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.654を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第55回】 「「譲渡所得課税の趣旨」法理と「趣旨内競い合い」の遅れ挽回」 -土地譲渡代金割賦弁済事件・最判昭和47年12月26日民集26巻10号2083頁- 大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫 Ⅰ はじめに 本連載の方針(第1回Ⅰ参照)に従い拙著『税法基本講義〔第8版〕』(弘文堂・2025年)の叙述の順に、今回からは、譲渡所得課税に関する判例をいくつか取り上げ検討することにする。まず、譲渡所得課税の趣旨に関する最高裁の考え方からみておこう。 最判昭和43年10月31日訟月14巻12号1442頁(以下「昭和43年最判」という)は譲渡所得課税の趣旨について次のとおり判示した(下線筆者)。 この判示の下線部は、原々審・浦和地判昭和39年1月29日行集15巻1号105頁(以下「昭和39年浦和地判」という)の次の判示内容(下線筆者)、すなわち、「資産の利益が当該資産そのものの値上りという形で発生し、それが所有者に帰属しているから、その資産の増加益を所得としてこれに課税するという基本的課税理論」に立脚しつつも、「資産の値上りによる増加益を所得としてこれに課税する場合、厳密にいえば、当該資産の市場価値の一年内の増加額を毎年査定し、これに対して課税すべきであるが、かような方法は技術的に困難である。そこでこの所得に対する課税の時期を資産譲渡の時という特定の時にした、すなわち、資産の値上りによる増加益がある年間に生じた場合でもこれに対して課税することなく、資産が売却されるなどして、所得が現金その他に換価されたときに始めてその年分の所得として課税の清算を行なうことにしたのである。すなわち、これを規定したのが所得税法第9条第1項第8号である。」と判示した内容を是認し要約したものと解される。 昭和43年最判やそれが引用する昭和39年浦和地判が判示した譲渡所得課税の趣旨は、シャウプ勧告(Report on Japanese Taxation by the Shoup Mission, Volume III Appendix B Section D. 邦訳は福田幸弘監修=シャウプ税制研究会編『シャウプの税制勧告』(霞出版社・1985年)311頁によった(下線筆者)。以下におけるシャウプ勧告の引用は同書による)の中で次のとおり述べていたものと解されている(藤田良一「判批」税経通信33巻14号(1978年)98頁、99頁、清永敬次「判批」㋐別冊ジュリスト79号(租税判例百選〔第2版〕・1983年)70頁、71頁等参照)。 ここで「勧告にいう課税理論は、ヘイグ(Haig)やサイモンズ(Simons)の包括的所得概念を指すもの」(清永・前掲「判批」㋐71頁)と考えられる。ただ、包括的所得概念に従う場合でも、実際の制度上は、実現した利得(realized gain)のみに課税することはやむを得ないとされてきた(金子宏『所得概念の研究 所得課税の基礎理論 上巻』(有斐閣・1995年)57頁以下[初出・1975年]、前掲拙著【184】等参照)。 昭和43年最判における譲渡所得課税の趣旨に関する前記判示の下線部は、後で検討する土地譲渡代金割賦弁済事件・最判昭和47年12月26日民集26巻10号2083頁(以下「昭和47年最判」という)で下記①のとおり(下線筆者)「当裁判所の判例」とされ、これが次回検討する財産分与者譲渡所得課税[名古屋医師]事件・最判昭和50年5月27日民集29巻5号641頁(以下「昭和50年最判」という)で下記②のとおり参照されて以降、判例法理として確立された、とみてよかろう(以下この判例法理を「『譲渡所得課税の趣旨』法理」という)。 「譲渡所得課税の趣旨」法理は、学説では、「増加益清算課税説」(三木義一編著『よくわかる税法入門〔第19版〕』(有斐閣・2025年)110頁等参照)ないし単に「清算課税説」(佐藤英明『スタンダード所得税法〔第4版〕』(弘文堂・2024年)85頁等参照)と呼ばれることが多い(前掲拙著【277】では第7版(2021年)までは「増加益清算課税説」と呼んでいたが、第8版(2025年)では「増加益実現時清算課税説」と呼ぶことにした)。 なお、「譲渡所得課税の趣旨」法理は、内容的には、山林所得課税の趣旨としても妥当するものとされた(最判昭和50年7月17日訟月21巻9号1966頁)。 Ⅱ 「譲渡所得課税の趣旨」法理と「趣旨内競い合い」随走 「譲渡所得課税の趣旨」法理は、大別して次の2つの部分から成ると整理することができる。すなわち、1つは、昭和43年最判の前記判示の下線部のうち前半の「資産の値上りによりその資産の所有者に帰属する増加益」を「所得」として課税するという部分(❶)であり、昭和39年浦和地判のいう「基本的課税理論」に立脚する部分である。もう1つは、後半の「その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する」という部分(❷)であり、所得税法は昭和39年浦和地判のいう「基本的課税理論」に「厳密に」従った課税方法が「技術的に困難」であることを考慮して譲渡所得課税を定めたという理解を述べる部分である。 筆者は従来から、「譲渡所得課税の趣旨」を上述のように2つの部分に区分し整理した上で、上記❶の部分が「譲渡所得の本質的意義(理論[包括的所得概念論]的意義)」を述べ上記❷の部分が「譲渡所得の実定法的意義」を述べているという理解を示してきた(前掲拙著【272】以下参照)。この2つの意義にそれぞれ対応する譲渡所得課税を、以下では、「譲渡所得課税❶」と「譲渡所得課税❷」ということにする。 前記Ⅰで引用したシャウプ勧告によれば、譲渡所得課税❶は、「発生した所得に対する厳格な課税理論」に従って「納税者の資産の市場価値の一年内の増加額」に対して毎年行われるべき課税であり、譲渡所得課税❷は、「納税者が、その資産を売却して 、利得を現金または他のより流動的な形態で実現する場合に限って」その「実現」した利得に対して行われる課税であり、「この実現が適当な期間内に行われる限り」譲渡所得課税❶が「僅かに延期された」にすぎないものである。 このように、譲渡所得課税❶と譲渡所得課税❷とは「譲渡所得課税の趣旨」の内部で並列的・一体的な関係にあるのではなく、課税時期の点ではむしろ譲渡所得課税❶が先行し譲渡所得課税❷が遅れるという関係にあると考えられる。 ここで、「譲渡所得課税の趣旨」の内部のこの関係(「趣旨内競い合い」)を陸上トラック競技に、譲渡所得課税❶と譲渡所得課税❷を陸上トラック競技で競い合う2人の走者にそれぞれ見立てると、シャウプ勧告では、譲渡所得課税❷は譲渡所得課税❶の「僅かに」後を随走するものとして想定されていた、といってよかろう。これに対して、その想定を外れ譲渡所得課税❷が譲渡所得課税❶に「無制限に」遅れる場合については、前記Ⅰでの引用部分に続けて、次のとおり述べられていた(福田監修=シャウプ税制研究会編・前掲書311頁。下線筆者)。 これは、「税制改革の方針の目的を十分に達成しようとするならば、キャピタル・ゲインの全額課税は、絶対に逸脱や妥協の許されない一点なのである。」(福田監修=シャウプ税制研究会編・前掲書311頁)とするシャウプ勧告の基本的立場を貫徹する提言であり、譲渡所得課税❷の「無制限の延期」の防止を必要とするものであるが、そのためにみなし譲渡課税が規定されたのである(旧所税5条の2。現行所税59条1項参照)。この点について、昭和43年最判は前記Ⅰでの引用部分に続けて次のとおり判示した(下線筆者)。 要するに、シャウプ勧告は、贈与・相続等による資産の無償移転の場合に起こり得る譲渡所得課税❷の「無制限の延期」をみなし譲渡課税によって防止し、もって「趣旨内競い合い」における譲渡所得課税❷の大きな(「無制限の」)遅れを明文のルールによって挽回し、譲渡所得課税❷が譲渡所得課税❶の「僅かに」後を随走するとの想定を維持しようとしたのである。 ただ、その後(特に昭和48年所得税法改正後は)、シャウプ課税の上記の想定は、原則として所得税法上維持されなくなり、代わって、譲渡所得課税❷の遅れは、取得費の引継ぎによる課税繰延べ(現行所税60条1項)によって所得税法上と正当化されることになった。 Ⅲ 「趣旨内競い合い」の遅れ挽回の試み 1 代金長期延払に係る譲渡所得の課税時期に関する裁判所の判断 ところで、シャウプ勧告の前記の想定がなお基本的に維持されていた当時、代金の長期延払による不動産売買の場合の「趣旨内競い合い」において譲渡所得課税❷のかなりの(部分的・逓減的な)遅れを認めるかどうかが争われたことがある。昭和47年最判の争点は、譲渡所得の課税時期について「要するに、代金の長期延払による譲渡所得について、そのような代金の延払によらない通常の譲渡所得におけると同じように課税するのが相当であるかどうか」(清永敬次「判批」㋑民商法雑誌69巻1号(1973年)159頁、164頁)であるが、これを「趣旨内競い合い」の観点から表現すれば、上記のようになろう。 原々審・熊本地判昭和38年2月1日行集14巻2号257頁(以下「昭和38年熊本地判」という)は、「譲渡所得課税の趣旨」法理(これが裁判所の判断で初めて採用されたのは昭和39年浦和地判においてであったと思われる)の登場前の判断であったためであろうか、本件の争点を「趣旨内競い合い」の観点からは捉えず、むしろ譲渡所得の年度帰属の観点だけから捉えた上で、下記のとおり判示して(下線筆者)、「衡平の見地から」、「本件においては権利確定主義の原則をそのままに適用すべきものではなく、例外的に現実収入主義を適用すべき場合であると認めるのが相当である。」として、本件がその例外の場合に当たる旨の判断を示したが、ただ、本件の争点を「趣旨内競い合い」の観点から捉え直すと、結局のところ、本件の「趣旨内競い合い」における譲渡所得課税❷の遅れを認めたことになるといってよかろう。 これに対して、原審・福岡高判昭和41年7月30日訟月12巻10号1457頁(以下「昭和41年福岡高判」という)は下記のとおり判示して(下線筆者)、旧所得税法9条1項8号及び10条1項の規定を、「譲渡所得の本質」に立脚して「権利確定の時期を基準として譲渡所得の帰属年度を決すべきもの」として理解し、本件の「趣旨内競い合い」における譲渡所得課税❷の遅れを認めなかった。 昭和47年最判も結論としては昭和41年福岡高判と同じく本件の「趣旨内競い合い」における譲渡所得課税❷の遅れを認めなかったが、ただ、同最判は次のとおり判示して(下線筆者)その結論を「譲渡所得課税の趣旨」法理(昭和43年最判)だけから導き出した。 2 「趣旨内競い合い」の遅れ挽回の法的根拠 昭和38年熊本地判は、控訴審・昭和41年福岡高判のように「譲渡所得の本質」あるいは上告審・昭和47年最判のように「譲渡所得に対する課税制度の本旨」(「譲渡所得課税の趣旨」法理)には言及せず、専ら「権利確定主義」及び「現実収入主義」の妥当範囲の観点から譲渡所得の課税時期について判断を示したが、上級審の判断との関係では、権利確定主義が譲渡所得の課税時期の判断基準として「常に絶対的なものではな[い]」旨を判示したところに重要な意義があると考えられる(同熊本地判を支持する見解として清永敬次「判批」㋒シュトイエル15号(1963年)1頁参照)。 この判示は、「収入すべき金額」(旧所税10条1項)に関する「『権利の確定』について法はなにもいつていない。」(清永敬次「判批」㋓シュトイエル56号(1966年)16頁、20頁)という正当な指摘(権利確定主義が「収入すべき金額」の解釈によって定立された規範でないとの筆者の見解については前掲拙著【336】参照)に照らして、妥当であると考えられる。その妥当性は、その後、利息制限法制限超過利息[所得税]事件・最判昭和46年11月9日民集25巻8号1120頁(以下「昭和46年最判」という)がいわゆる管理支配基準を示したこと(前掲拙著【335】参照)から、より一層明らかになったといえよう。 しかし、昭和38年熊本地判のように、代金の長期延払に係る譲渡所得の課税時期を現実収入主義によって判断することを認めてしまうと、当該譲渡所得に対する課税(譲渡所得課税❷)が前記Ⅱでみたシャウプ勧告の想定から外れることになってしまう。その結果生じる譲渡所得課税の遅れを挽回するために、昭和41年福岡高判は、昭和39年浦和地判がシャウプ勧告に立脚して判示した譲渡所得課税の趣旨に相当する「譲渡所得の本質」を援用し、これに基づき権利確定主義による譲渡所得の課税時期の判断を補強し、もって本件の「趣旨内競い合い」における譲渡所得課税❷の遅れを挽回しようとしたものと解される。 これに対して、昭和47年最判は、昭和46年最判による管理支配基準の採用により権利確定主義のいわば「絶対性」の崩壊が明らかになったこと(清永・前掲「判批」㋑166頁はこのことを示唆するように思われる)に加え、本件当時の通達上の割賦販売の取扱いや昭和40年全文改正後の所得税法132条による延払条件付譲渡に係る所得税額の延納(同166-167頁参照)をも考慮して、譲渡所得の課税時期の判断について権利確定主義を援用せず、「譲渡所得課税の趣旨」法理のみによってその判断を行ったものと解される。すなわち、昭和47年最判については、「帰するところ当該資産の所有権の移転の時に譲渡所得にかかる収入金額が発生するとする考え方に立っていることは明らかであろう。そして、とくに代金の支払が長期にわたるような場合でもこれと別異に解すべきではないとした点に本判決の意義が存在するのである。」(同166頁)との理解が示されているところである。 しかし、譲渡所得の課税時期の判断を「譲渡所得課税の趣旨」法理のみによって行い、もって本件の「趣旨内競い合い」における譲渡所得課税❷の遅れを挽回しこれが譲渡所得課税❶の「僅かに」後を随走するようにするのは、無理があるように思われる。というのも、「譲渡所得課税の趣旨」法理は、あくまでも譲渡所得課税の趣旨を述べるものにすぎず、実定租税法規そのものではなく、「趣旨内競い合い」の遅れ挽回の法的根拠としては薄弱なものといわざるを得ないからである(なお、「租税法規の趣旨・目的の法規範化論」の問題性については、谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第7回Ⅲ参照)。 この点については、確かに、下記のとおり説いて(下線筆者)昭和47年最判を擁護する見解(堺澤良「判批」税経通信28巻6号(1973年)209頁、215-216頁。渡辺徹也「判批」別冊ジュリスト178号(租税判例百選〔第4版〕・2005年)74頁、75頁も参照)もあるが、しかし、無償譲渡の場合についてみなし譲渡課税を定めるような明文の規定が、本件のような代金の長期延払の場合については定められていない以上、そのような擁護論にも無理があるように思われる。 そうすると、昭和47年最判が前記引用のとおり「割賦払いの期間が長期にわたるときは、売主は、初年度において現実に入手した代金額が過少であるにもかかわらず、より多額の納税を一時的に必要とすることになるわけで、これはもとより好ましいことではないが、前述のように、年々に蓄積された増加益が一挙に実現したものとみる制度の建前からして、やむをえないところといわなければならない。」と判示したのは、妥当でないように思われる。そのような判示をもって、本件において「趣旨内競い合い」における譲渡所得課税❷の遅れの挽回を正当化するのは、譲渡所得に対する課税制度に対して無理を強いる過重な負担を課すことになると考えられる。 むしろ、昭和38年熊本地判のように、本件においては「衡平の見地から」延払支払期ごとに当該譲渡所得に対して部分的に課税していく考え方によるのが妥当であると考えるところである。その考え方によれば、「趣旨内競い合い」における譲渡所得課税❷がかなり遅れることになるとしても、その遅れは、贈与・相続等の無償譲渡の場合のみなし譲渡課税のような特別な措置を所得税法上定める立法によって、挽回すべきものであって、司法に対する租税法律主義の要請としての司法的救済保障原則(前掲拙著【27】参照)の下では、裁判所とりわけ最高裁判所は「衡平の見地」を重視して(拙著『税法創造論』(清文社・2022年)119頁以下、特に136-138頁[初出・2022年]参照)、本件における「課税上の衡平」の実現を追求すべきであったように思われる(清永・前掲「判批」㋑167-168頁も参照)。 Ⅳ おわりに 以上、今回は、昭和43年最判によって示されその後判例法理として確立されるに至った「譲渡所得課税の趣旨」法理について、本質的・理論(包括的所得概念論)的観点からみた譲渡所得課税❶と実定法的観点からみた譲渡所得課税❷とが課税時期の点で同法理の内部で競い合う関係にあると考えた上で、「趣旨内競い合い」における譲渡所得課税❷の遅れをシャウプ勧告の想定内にとどめるためにその遅れを挽回する措置ないし法的根拠を検討した。 昭和43年最判は、みなし譲渡課税の事案において「譲渡所得課税の趣旨」法理を判示したものであるが、そうであるが故に、シャウプ勧告の想定どおり「趣旨内競い合い」における譲渡所得課税❷の遅れをみなし譲渡課税によって挽回することができ、その遅れの問題性を顕在化させることはなかった。 これに対して、昭和47年最判は、不動産譲渡代金の長期延払の事案において「譲渡所得課税の趣旨」法理を判示し、これのみによって「趣旨内競い合い」における譲渡所得課税❷の遅れを挽回しようとしたものであったがために、譲渡所得に対する課税制度に対して無理を強いる過重な負担を課すことになった。 昭和47年最判をこのように理解すると、同最判には「譲渡所得課税の趣旨」法理の「独走」の始まりを認めることができるように思われる。ここで「独走」という表現は、昭和50年最判に対する下記の論評(竹下重人「判批」別冊ジュリスト79号(租税判例百選〔第2版〕・1983年)76頁、77頁。下線筆者)から、借用したものであるが、次回検討する昭和50年最判では、まさに「譲渡所得課税の趣旨」法理の「独走」がより一層顕著になり、「趣旨内競い合い」における譲渡所得課税❷の遅れの問題性が拡大・増幅され、昭和47年最判とは異なる意味・文脈でも検討を要することになったと考えるところである。 (了)