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〈令和6年分〉おさえておきたい年末調整のポイント 【第1回】「令和6年分所得税の定額減税」

〈令和6年分〉 おさえておきたい 年末調整のポイント 【第1回】 「令和6年分所得税の定額減税」   公認会計士・税理士 篠藤 敦子   11月に入り、今年も年末調整に向けた準備を始める時期となった。 今回から3回シリーズで、年末調整における実務上の注意点やポイント等を解説する。 第1回(本稿)と第2回は、「令和6年分における特別税額控除」(以下「定額減税」という)を取り上げる。 なお、本年分の記事に加え、論末の連載目次に掲載された過去の拙稿もご参照いただきたい。 (※) 本稿では、年末調整で使用する各申告書等を次のとおり表記する。 令和6年度税制改正により、定額減税が実施されることとなった(措法41の3の3①)。定額減税とは、納税者の税額から一律に一定額を差し引く減税方法である。 今回の定額減税は、令和6年分の所得税(個人住民税は令和6年度分)に限った措置とされている。 以下、定額減税の概要と、定額減税に係る年末調整事務(年調減税事務)の概要について解説する。   【1】 定額減税の概要 (1) 定額減税の対象者 ① 所得制限あり 定額減税の適用には所得制限があり、対象となるのは、所得税は令和6年分、個人住民税は令和5年分の合計所得金額が1,805万円以下(給与所得のみの場合、給与収入2,000万円以下)の納税者本人に限られる(措法41の3の3①、地税附則5の8①)。 ② 居住者に限定 定額減税の対象者は、納税者本人のうち居住者に限られる。また、減税額計算の基礎となる同一生計配偶者と扶養親族も居住者に限られている(措法41の3の3②)。 (2) 減税額 令和6年分として措置された減税額は、下記〈表1〉の金額の合計額である(措法41の3の3②)。 〈表1:減税額〉   【2】 年調減税事務の概要 (1) 所得税の減税事務 給与支払者(会社等)が行う所得税に係る減税事務は、減税額を月々の源泉徴収税額から控除する月次減税事務と、年末調整の際に減税額の精算を行う年調減税事務の2つがある。 このうち、年調減税事務の手順は次の(2)のとおりである(措法41の3の8)。 (2) 年調減税事務の手順 (※) 国税庁ホームページ「令和6年分所得税の定額減税Q&A(概要・源泉所得税関係)【令和6年9月改訂版】」5頁より抜粋 *  *  * 次回(第2回)は、年調減税事務の留意点及びチェックポイントを解説する予定である。 (注) 上記の記事については、掲載後の税制改正等により、解説内容が現在の規定に基づくものとは異なるケースがある。過年度の記事内に順次コメントを入れるので留意していただきたい。 (了)   

#No. 594(掲載号)
#篠藤 敦子
2024/11/14

〔令和6年度税制改正における〕賃上げ促進税制の拡充及び延長等 【第4回】

〔令和6年度税制改正における〕 賃上げ促進税制の拡充及び延長等 【第4回】   公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎   ←(前回) | (次回)→   ③ 公表及び届出の手続 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 このように、マルチステークホルダー方針の公表・届出要件の充足については、経済産業省における確認を経る必要があるから、法定申告期限をにらみつつ早期の対応が必要になると考えられる。届出(事業年度終了後45日以内)から所定の審査(提出後15日程度)を受けるというプロセスを経るだけで法定申告期限(事業年度終了日の翌日から2月経過日)を迎える可能性が高まるため、特に前者の届出は速やかに行うことが望まれる。 【様式第二】 【様式第三】 ④ 届出事項の変更 マルチステークホルダー方針の公表期間中において以下の事項に変更があった場合には、速やかに「様式第四」(変更届出書)を経済産業大臣に届け出る必要がある。 変更届出書の提出後、あらためて受理通知(様式第三)が発行される。 〈変更があった場合に届出が必要な事項〉 (※19) パートナーシップ構築宣言は、2024年11月1日付けでひな形が改正されているが、改正前後のひな形のいずれも有効である。ただし、改正されたひな形への移行に伴い、パートナーシップ構築宣言のURLが変更になった場合には、マルチステークホルダー方針中に記載されている「パートナーシップ構築宣言」のURLについても修正しなければならない。 公表期間中かつ確定申告書提出期限前に変更があった場合には、確定申告の際には、変更届出に対する受理通知書の写しを提出する必要がある(変更前の届出に対する受理通知書の写しは不要)。 【様式第四】   6 中堅企業向けの賃上げ促進税制 (1) 制度の概要 青色申告書を提出する法人が、適用年度(※20)(令和6年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度)中に国内雇用者に対して給与等を支給する場合で、かつ、当該事業年度終了の時において特定法人に該当する場合において、一定の適用要件を満たすときは、その給与等支給増加額の10%相当額(特定、、税額控除限度額)を法人税額(当該法人の当該事業年度の所得に対する調整前法人税額)から控除する(措法42の12の5②)。 (※20) 大企業向けの賃上げ促進税制の適用を受ける事業年度を除く。 さらに「上乗せ控除のための要件」が定められており、それらの要件の充足度合いに応じて控除率は5%~25%上乗せされる(税額控除限度額は最大35%相当額まで拡大する)。 ただし控除上限は調整前法人税額の20%相当額である。 (2) 適用要件 中堅企業向けの制度における適用要件は下表のとおりである(措法42の12の5②)。 (※21) 詳細については大企業向け制度の解説(前回及び本稿)を参照されたい。 (3) 上乗せ控除のための要件 上乗せ控除(税額控除率の上乗せ)措置としては、「継続雇用者給与等支給額の増加に伴う上乗せ措置」、「教育訓練費の増加に伴う上乗せ措置」及び「厚生労働省の認定制度の適用による上乗せ措置」の3つがあり、それぞれに応じて下表のとおり上乗せ控除率が定められている(措法42の12の5②一~三、措規20の10①)。 すべての上乗せ控除の適用を受けることができる場合、最大の税額控除率は調整前法人税額の35%(=本則10%+上乗せ①15%+上乗せ②5%+上乗せ③5%)相当額となる。 【上乗せ①:継続雇用者給与等支給額の増加に伴う上乗せ措置】 【上乗せ②:教育訓練費の増加に伴う上乗せ措置】 【上乗せ③:厚生労働省の認定制度の適用に伴う上乗せ措置】 「プラチナくるみん認定」又は「プラチナえるぼし認定」については、適用事業年度終了日において認定を取得していればよいため、適用事業年度前に認定を取得していた場合であっても、適用事業年度における要件を満たすこととなる(下図参照)。 出典:経済産業省『「賃上げ促進税制」御利用ガイドブック(令和6年8月5日公表版)』p.40より抜粋 これに対して「えるぼし認定(3段階目)」については、適用事業年度中に認定を取得した場合に限り、上乗せ控除の要件を満たすこととなるので留意が必要である(下図参照)。 出典:経済産業省『「賃上げ促進税制」御利用ガイドブック(令和6年8月5日公表版)』p.40より抜粋   (【第5回】に続く)

#No. 594(掲載号)
#鯨岡 健太郎
2024/11/14

〈適切な判断を導くための〉消費税実務Q&A 【第3回】「消費者が支払時に利用した共通ポイントの額は課税資産の譲渡等の対価の額に含まれるか」

〈適切な判断を導くための〉 消費税実務Q&A 【第3回】 「消費者が支払時に利用した共通ポイントの額は課税資産の譲渡等の対価の額に含まれるか」   税理士 石川 幸恵   【Q】 顧客が支払時に共通ポイントを利用した場合、次のようなレシートを交付しています。当店の税込売上金額は共通ポイントによる受領額も含めた金額でしょうか、それとも現金で受領した金額のみでしょうか。 【A】 国税不服審判所令和3年5月17日裁決(TAINSコード:F0-5-347)では、質問のようなレシートを交付した場合は共通ポイントによる支払額も含めた11,000円が貴店の税込売上金額になると判断しています。 参考までに仕訳を示すと次のようになります。 ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ 当該裁決では、消費者が支払いに利用した共通ポイント(例では2,000円)が美容室の課税資産の譲渡等の対価の額に含まれるか否かが争点であった。美容室は消費者からポイント利用分の金額に相当する金銭を受領していないこと等から課税資産の譲渡等の対価の額に含まれない旨を主張したが、不服審判所は美容室が発行したレシートの記載内容を基にポイント利用分の金額は課税資産の譲渡等の対価の額に含まれると判断した。 以下で消費者がポイントを利用した場合の売手の取扱いについて、審判所の判断に基づいて解説する。   (1) 共通ポイント利用時の基本的な仕組み 共通ポイント制度はポイント運営会社、ポイント制度の加盟店、ポイントを利用する消費者の三者が関係する取引である。【Q】に基づいて、お金の流れを整理してみよう。 美容室は、消費者から9,000円しか受領しないが、ポイント運営会社から2,000円を受領するため、合計11,000円を受領できる。 ※国税庁ホームページ「共通ポイント制度を利用する事業者(加盟店A)及びポイント会員の取引の概要」を基に筆者加工   (2) 審判所による判断の注目点 裁決書の基礎事実によれば、美容室が交付したレシートには美容室が消費者に対して提供したサービスの内容並びにその対価の額である消費税等込みの売上金額が記載された上で、その対価の支払方法として、現金、クレジット等及び消費者が支払方法の一部として利用したポイント利用額が記載されていたということである。裁決書に実際のレシートは示されていないが、【Q】で示したレシートの記載事項を参考とされたい。 審判所はこのレシートの記載事項を基に次の(イ)及び(ロ)より共通ポイントによる支払額も課税標準となる課税資産の譲渡等の対価の額に含まれると判断した。 (イ) 美容室と消費者の間で合意した対価はいくらか 消費税の課税標準となる課税資産の譲渡等の対価の額は、その課税資産の譲渡等を行った場合のその課税資産等の価額をいうのではなく、当事者間で授受することとした対価の額をいう(消法28①、消基通10-1-1)。審判所は、次の2点よりポイント利用分の金額を含む売上金額が美容室と消費者との間で合意し、授受することとした消費税込みの対価の額であるとした。 (ロ) ポイントは対価か 上記(イ)のとおり、美容室と消費者との間で授受することとした対価の額(消費税の課税標準)はレシートに記載された税込売上金額から消費税額等に相当する金額を控除した金額であり、金銭に代えてポイントで受領したとしてもその判断に影響を及ぼすものではない。   (3) レシートの記載方法により判断が変わるか 上記(2)では検討にあたりレシートの記載方法に着目していることから、レシートの記載方法により判断が変わる可能性も否定できない。そこで、レシートの書き方によって値引きか値引きでないかの処理が異なる国税庁タックスアンサーを参照し、ポイント利用分が対価の額に含まれない場合について考察したい。 (イ) 商品購入時にポイントを使用した場合の消費税の仕入税額控除の考え方 国税庁のタックスアンサーでは、ポイント使用が「商品本体価額の値引き」である場合(下図①)と「支払うべき価額の値引き」である場合(下図②)について課税仕入れに係る支払対価の額が異なる点を解説し、どちらであるかはレシートの表記から判断して差し支えないとしている。 〈レシート表記の例〉 ※国税庁ホームページ「No.6480 事業者が商品購入時にポイントを使用した場合の消費税の仕入税額控除の考え方」より抜粋 国税庁のタックスアンサーでは、「商品本体価額の値引き」を「①のケース:値引き」とし、「支払うべき価額の値引き」を「②のケース:値引きでない」と表記している。 [①のケース:値引き]=「商品本体価額の値引き」 ①のケースでは上記のとおりとし、実際に授受した現金を課税仕入れに係る支払対価の額としている。 [②のケース:値引きでない]=「支払うべき価額の値引き」 ②のケースでは上記のとおりとして、買手で不課税の雑収入が生じると解説している。 裁決事例のレシートの記載事項は「②のケース:値引きでない」の書き方に近いと考えられる。タックスアンサーNo.6480は買手の処理のみが解説され、売手の処理に言及されているものではないが、レシートの書き方により値引きとなるケース、値引きでないケースに分かれる可能性があるのは注視すべき事項であると考えられる。 (ロ) タックスアンサーNo.6480の売手への置き換え 朝長英樹氏は、共通ポイントの使用について値引処理を行うべきという主張(※)をされている。ポイントの使用は値引きで、ポイント運営会社から受領するポイント相当額はポイント収益として不課税になるとしており(下記仕訳例参照)、売手の課税資産の譲渡等の対価の額が減少することとなる。 (※) 朝長英樹「TKCWEBコラム特別寄稿 ポイント制度における消費税の取扱いの検証」(2021年10月) 〈ポイント利用額が対価の額に含まれない場合の美容室の仕訳例〉 今回の裁決ではタックスアンサーNo.6480の①のケースのような値引きとなるレシートに触れていないので、このようなレシートを交付した場合の課税資産の譲渡等の対価の額についての問題は残っているとも考えられる。今後の情報に注目したい。   (了)

#No. 594(掲載号)
#石川 幸恵
2024/11/14

Q&Aでわかる〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第48回】「〔第5表〕直前期末から課税時期までの間に土地の売買契約を締結した場合の買主法人における資産の部及び負債の部の計上金額の留意点」

Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第48回】 「〔第5表〕直前期末から課税時期までの間に土地の売買契約を締結した場合の買主法人における資産の部及び負債の部の計上金額の留意点」   税理士 柴田 健次   Q 経営者甲(令和6年8月1日相続開始)が100%所有している甲株式会社の株式を長男が相続していますが、甲株式会社は駐車場として賃貸予定のA土地について令和6年5月1日に売買契約を締結し、同日に10,000千円の手付金を支払い、令和6年10月1日に引渡しを受けています。A社は土地の購入に対して借入ではなく預貯金で購入しています。 甲株式会社は3月決算で直前期末は令和6年3月31日となり、売買契約の内容及び時系列は、下記の通りとなります。 この場合に、甲の相続税の甲株式会社の株式価額の算定上、第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」のA土地の購入に関連する資産の部及び負債の部に計上する相続税評価額及び帳簿価額はそれぞれいくらになりますか。 なお、純資産価額の計算においては、直前期末方式(直前期末の資産及び負債の帳簿価額に基づき評価する方式)により計算するものとします。 A土地の令和6年における路線価に基づく相続税評価額は、70,000千円です。 A 第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」の資産の部及び負債の部に計上する相続税評価額及び帳簿価額は、下記《A案》、《B案》、《C案》が考えられます。《B案》と《C案》については、仮決算方式との整合性を考慮したものですが、本問の場合には、直前期末方式と仮決算方式との整合性を考慮する意義は少ないと考えられますので、《A案》で処理することが一般的かと思料されます。 《A案》 A土地の購入に関して処理なし 《B案》 《C案》  ◆  ◆  ◆ ① 仮決算方式と直前期末方式 第5表の純資産価額の計算は、原則として仮決算方式で評価するべきこととされていますが、評価会社が課税時期において仮決算を行っていないため、課税時期における資産及び負債の金額が明確でない場合において、直前期末から課税時期までの間に資産及び負債について著しく増減がなく評価額の計算に影響が少ないと認められるときは、直前期末方式により計算することができるものとされています。 したがって、直前期末から課税時期までの間に資産及び負債について著しく増減がある場合については、直前期末方式により計算ができません。 仮決算方式と直前期末方式を比較すると下記の通りとなります。 (※) 帳簿価額は、会計上の帳簿価額ではなく税務上の帳簿価額となります。   ② 売買契約締結後に課税時期が到来した場合の買主側における相続財産の種類と相続税評価 売買契約締結後、引渡しの前に買主に相続が発生した場合の相続財産の種類と相続税評価については、【第47回】で解説をしていますが、国税庁情報の取扱いをまとめると下記の通りとなります。 なお、上記の国税庁情報が公表される要因となった昭和61年12月5日の最高裁判決(TAINSコード:Z154-5841)においては、被相続人が農地の買受契約を締結し、農地法3条による許可申請に対する許可通知が被相続人の死亡後に到達した場合、相続に係る相続税の課税財産は農地であるのか債権であるのか、その評価はどうするかが争われた事例となりますが、下記の通り判示しており、原則処理を前提としています。   ③ 本問への当てはめ (1) 《A案》の考え方 直前期末方式は直前期末の資産を対象として、課税時期に適用される評価通達を適用して計算しますので、土地の売買契約はないものとして評価を行います。そして、直前期末方式で計算した結果に基づいて土地保有特定株式会社や株式等保有特定会社の株式の判定を行います。ただし、直前期末から課税時期までの間に資産構成に大きな変動があった場合には直前期末方式は認められません。 この点について、仮決算方式との整合性の観点から考察する必要があります。 本問の場合において仮決算方式を採用した場合には、令和6年5月1日の売買契約の締結時において手付金10,000千円を支払っていますので、前渡金が資産の部に計上されます。 そして、土地の売買契約締結後、引渡しの日までの間に課税時期が到来した場合には、財産評価上は課税時期時点において土地の引渡しが行われた場合の仕訳を考えます。 ただし、課税時期時点においてまだ引渡しはされていないため、帳簿価額においては前渡金の精算がされていないことになりますので、第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」のA土地の購入に関連する資産の部及び負債の部に計上する相続税評価額及び帳簿価額は、下記の通りとなります。 《仮決算方式の場合》 仮決算方式における処理については、上記②に記載のとおり、原則処理(引渡請求権)と例外処理(土地)がありますので、それぞれについて資産構成の変動及び土地保有割合の比較を検証すると下記の通りとなります。 仮決算方式の原則処理と例外処理のいずれも認められるという前提の場合には、どちらを採用するかによって土地保有割合は大きく変動します。土地保有割合が高い順に並べてみると、①仮決算方式(例外処理)、②直前期末方式(《A案》)、③仮決算方式(原則処理)の順番になります。 上記の通り、資産構成に大きな変動はあるものの原則処理と例外処理の2つ方法が考えられることから、直前期末方式を採用したことによる課税上の弊害もないと考えられますので、基本的には《A案》での処理も認められるものと考えられます。 (2) 《B案》の考え方 仮決算方式との整合性を考慮し、かつ、上記②の原則処理を前提とする場合には、財産の種類は土地ではなく、引渡請求権として100,000千円で評価を行います。《B案》の考え方は、仮決算方式との整合性の観点から肯定できますが、国税庁からの情報や通達において明確にされていません。厳密な意味における直前期末方式ではないため、《B案》の考え方は相当ではなく、直前期末方式ではなく仮決算方式で計算するべきとの意見もあるかと思います。 ただし、課税実務において仮決算方式を行っていないことが多く、簡便性を考慮して直前期末方式が認められている趣旨を鑑みると、直前期末方式を基礎にしながら仮決算方式との整合性を考慮し、財産の種類や金額を一部変更することで、適正な評価となる場合には、そのような方法も認められるものと考えられます。 もっとも、本問の場合には《A案》での処理で課税上の弊害がなく、かつ、仮決算方式との整合性を考慮する意義が少ないと考えられますので《B案》での処理を行う必要性はないものと思料されます。 (3) 《C案》の考え方 仮決算方式との整合性を考慮し、かつ、上記②の例外処理を前提とする場合には、財産の種類は土地として100,000千円で評価を行います。基本的な考え方は《B案》と同様ですが、土地として評価を行うか否かが相違点となります。土地として評価を行う場合には、課税時期前3年以内取得土地等に該当するか否かが問題となります。 すなわち、評価会社が課税時期前3年以内に取得又は新築した土地及び土地の上に存する権利(以下「土地等」という)並びに家屋及びその附属設備又は構築物の価額は、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価するものとされています(評価通達185括弧書)。現実に課税時期時点において土地を購入しているわけではありませんが、《C案》の考え方は、相続開始前に土地の購入があったものとして処理をしていますので、上記の評価通達185括弧書の対象になると考えられます。 一方で文理解釈上、課税時期前3年以内に取得した土地等には該当しないという解釈も当然あり得ますので、相続税評価で評価することが相当とする意見もあるかと思います。 しかし、②の例外処理は財産評価基本通達に定める路線価等による価額を認めるとしていますが、売買価額とされる事例もあることに留意する必要がありますので、無条件で路線価等による価額を認めるということではない点には、注意する必要があります。また、《B案》との整合性もありますので私見としては、取得価額で計上することが相当かと考えます。 もっとも、本問の場合には《A案》での処理で課税上の弊害がなく、かつ、仮決算方式との整合性を考慮する意義が少ないと考えられますので《C案》での処理を行う必要性はないものと思料されます。   ☆実務上のポイント☆ 直前期末方式を採用する場合であっても、仮決算方式ではどのように処理がされるかを考えて評価することが適正な評価実務になります。ただし、仮決算方式との整合性を考慮する必要性が高くない場合には、仮決算方式に合わせる必要もないものと思料されます。 (了)

#No. 594(掲載号)
#柴田 健次
2024/11/14

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第55回】

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第55回】   東洋大学法学部准教授 泉 絢也   イ 特定資産の意義と「投信法上の投資信託」該当性② 暗号資産の特定資産該当性に関して、補足的に、国内において暗号資産ETFを組成することについての金融庁の見解を確認しておく。 金融庁は、暗号資産ETFを国内で組成・販売することも、外国で組成された暗号資産ETFに対して投資する投資信託等を組成・販売することも認めないという見解を有しているようである。 金融庁は、投信法において、投資信託や投資法人が国民の長期・安定的な資産形成手段として特別の制度的位置付けを与えられているという趣旨に照らして、非特定資産やこれを投資対象とするファンド出資持分等、実質的に非特定資産と同等の性格を有する特定資産が投資目的となっているような商品などを販売することは適切ではないとしている(金融庁「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」(2024.11)のIV-3-1-2の「(9)特定資産以外の資産を投資対象の一部とする投資信託等の販売に係る留意事項」参照)。 続けて、金融庁は次のとおり述べている。 2019年の上記監督指針に係るパブリックコメントでは、上記①に関して、「暗号資産ETFは、・・・『実質的に非特定資産と同等の性格を有する特定資産』に該当するとの理解でよいか。」という質問が寄せられた。 これに対して、金融庁は、次のような見解を示している(金融庁「コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」4頁)。 また、金融庁は、上記と関連した質問に対する回答の中で、上記監督指針で使われている「投資目的」という語の意義について、次のとおり説明している。 もっとも、暗号資産ETFに関する上記見解はあくまで行政機関である金融庁の解釈ないし立場を示したものにすぎない。そのような解釈を法令の文言から直ちに導出することも難しい。 例えば、投資信託は「主として」特定資産に対する投資として運用することを目的とする信託に限定されているところ、この場合の「主として」の解釈については、証券投資信託の範囲を画する際に投資信託財産の総額の50%を超える額という数値基準を定める投信法施行令6条等の存在が考慮されて、信託財産の総額(時価)の50%超をいうものと解されている(野村アセットマネジメント株式会社編著『投資信託の法務と実務〔第5版〕』88頁(きんざい、2019)参照)。 そうであれば、少なくとも、信託財産総額の50%未満について現物の暗号資産を運用対象とするETFを組成・販売することは、投信法上は可能であるということになろう。 法令ではない金融庁の指針や見解に課税関係が左右される可能性があるとすれば、租税法律主義の原則(憲法30、84)の潜脱を許すことになりかねないため、その是非を慎重に検討する必要がある。 いずれにしても、本信託は暗号資産であるビットコインのみに投資するものであり、主として特定資産に対する投資として運用することを目的とする信託ではないことから、委託者指図型投資信託と委託者非指図型投資信託のいずれにも該当しない。 よって、この点からしても本信託は投信法上の投資信託に該当しない。 ウ 「外国投資信託」該当性 所得税法及び本件分離課税特例における投資信託とは、投信法2条3項に規定する投資信託及び同法2条24項に規定する外国投資信託をいう。 投信法上の外国投資信託とは、外国において外国の法令に基づいて設定された信託で、投信法上の投資信託(委託者指図型投資信託及び委託者非指図型投資信託)に類するものをいう(所法2①十二の二、措法2①五、投信法2③㉔)。 そうすると、外国で組成された信託が本件分離課税特例の対象であるかを検討する際には、当該信託が投信法上の「投資信託に類するもの」であるかが重要な論点となる。 この点に関して、次のような見解が示されている(伊藤剛志「外国投資信託に係る課税上の問題」中里実ほか編著『クロスボーダー取引課税のフロンティア』198~201頁(有斐閣、2014)参照)。 〈「投資信託に類するもの」であるかを判断する際の考慮要素〉 この見解に従うならば、本信託の外国投資信託該当性を検討する場面では、投資として運用することを目的とする信託であること及び複数の受益者の存在を前提としていることは明らかであるから、運用対象が主として特定資産に対するものであるかが問われることになる。 これを本信託に当てはめてみると、本信託は暗号資産であるビットコインのみに投資するものであり、主として特定資産に対する投資として運用することを目的とする信託ではないばかりか、非特定資産である暗号資産のみに対する投資として運用することを目的とするものである。 そうであれば、本信託は、投信法上の投資信託に類するものではないということになる。 この点について、次の回答を前提とすると、国税当局も同様の見解を採用する可能性が高いといえる。 本連載第54回で確認した投信法施行令3条の「政令で定められている特定資産」に⑨の「商品」が掲げられていなかった時代のものであるが、大阪国税局審理課は「上場された金現物連動型ETF『SPDRゴールド・シェア』の特定口座の対象となる株式の適否について」と題する照会に対する回答の中で、次のとおり述べている(大阪国税局審理インフォメーション127号(平成20年9月29日課税第一情報第66号)参照(TAINSコード:審理課インフォメーション127大阪局H200929)。 このことからすると、国税当局も、本信託は投信法上の投資信託に該当せず、投資信託に類するものとしての外国投資信託にも該当しないことから、本件持分は投資信託の受益権(措法37の10②四)に該当しないという結論を採用する可能性があるといえよう。 なお、上記資料では、次のような見解も示されている。 以上からすれば、本信託は、投信法上の委託者指図型投資信託と委託者非指図型投資信託のいずれにも類するものではなく、投信法上の「投資信託に類するもの」に該当しないため、投信法上の外国投資信託に該当せず、よって所得税法及び租税特別措置法上の外国投資信託にも該当しない。   (了)

#No. 594(掲載号)
#泉 絢也
2024/11/14

〔まとめて確認〕会計情報の月次速報解説 【2024年10月】

〔まとめて確認〕 会計情報の月次速報解説 【2024年10月】   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2024年10月1日から10月31日までに公開した速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。   Ⅱ 企業内容等開示関係 次のものが公表されている。 〇 「企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン)」の改正(内容:「有価証券報告書等の提出期限の承認の取扱い」について改正するもの)   Ⅲ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① 中小事務所等施策調査会研究報告第9号「第1種中間連結財務諸表等を含む半期報告書に関する表示のチェックリスト」の改正(内容:「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い」(実務対応報告第46号)について記載) ② 中小事務所等施策調査会研究報告第12号「第2種中間連結財務諸表等を含む半期報告書に関する表示のチェックリスト」の公表(内容:表示の確認を実施する際の参考となるチェックリスト) ③ 監査基準報告書700研究文書第1号「監査法人の計算書類及び監査報告書の文例に関する研究文書」(内容:監査法人が作成する年次報告書「業務及び財産の状況に関する説明書類」に含まれる計算書類の作成及び開示に当たり、参考となる内容を取りまとめたもの)   Ⅳ 監査役等の監査関係 監査役等の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 〇 「監査役会の実効性向上に向けた監査役スタッフの業務-社外監査役の活動及び三様監査会議の視点から-」(内容:監査役会の実効性の向上に向けた監査役スタッフの業務について、社外監査役の活動と三様監査会議の視点で研究したもの) (了)

#No. 594(掲載号)
#阿部 光成
2024/11/14

従業員の解雇をめぐる企業対応Q&A 【第3回】「制裁罰としての懲戒解雇・諭旨解雇の留意点」

従業員の解雇をめぐる企業対応Q&A 【第3回】 「制裁罰としての懲戒解雇・諭旨解雇の留意点」   弁護士 柳田 忍   1 はじめに 懲戒解雇とは、懲戒として行われる解雇であり、懲戒処分の中で最も重い処分である。諭旨解雇とは、会社によってその定義するところは異なるものではあるが、一般的には、従業員に対して退職届の提出を勧告し、これに応じない場合は懲戒解雇とするという形式をとることが多く(諭旨退職と呼ばれることもある)、2番目に重い懲戒処分である。 懲戒処分とは制裁罰であり、いわば刑事罰のようなものであるから、予測可能性を担保するために、懲戒の種別及び事由が就業規則等において明示的に定められていなければ実施することができない(※1)。また、懲戒解雇・諭旨解雇について、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には無効となる(労契法15条)。 (※1) 最判昭和54年10月30日 懲戒処分は企業秩序違反に対して課せられる制裁罰であるから、懲戒事由には規律違反行為が含まれることが一般的である。そして、前回において述べたとおり、企業秩序を乱す規律違反行為は普通解雇事由にも該当するため、ある行為が懲戒解雇事由・諭旨解雇事由にも普通解雇事由にも該当するという場合がある。また、いずれも、客観的に合理的な理由や社会的相当性を欠く場合には無効となる(解雇権濫用法理・労契法15条、16条)という点において共通する。 しかし、懲戒解雇・諭旨解雇は、その制裁罰という性質から、解雇権濫用法理の適用上、普通解雇よりも厳格な規制に服する。すなわち、懲戒解雇・諭旨解雇と普通解雇とでは、客観的に合理的な理由や社会的相当性の判断基準が異なることに留意すべきである。このため、同じ企業秩序違反・規律違反行為について、懲戒解雇・諭旨解雇は無効だが、普通解雇は有効である、といった事態が生じ得ることになるが、懲戒解雇・諭旨解雇の意思表示に普通解雇の意思表示が含まれるという主張は認められない。そこで、懲戒解雇・諭旨解雇が無効になったとしても普通解雇が有効になるように、実務上、懲戒解雇・諭旨解雇を行うのと同時に普通解雇も(予備的に)実施することが行われている。 本稿においては、懲戒解雇及び諭旨解雇について、実務上よく問題となる点を中心に説明する。   2 従業員が逮捕された場合 従業員が逮捕された場合、何らかの非違行為がなされたことが前提とされていることになるが、だからといって即座に懲戒解雇や諭旨解雇を行うことができるというわけではない。 (1) 私生活上の問題行為に基づく逮捕 例えば、逮捕の理由となった行為が私生活上の非行である場合、まずは、私生活上の非行が懲戒事由として定められている必要がある。更に、私生活上の非行が懲戒の対象となり得るのは、基本的には、①当該非行が企業秩序に直接関連を有する場合や、②企業の社会的評価を毀損するおそれがある場合などに限られる点に注意が必要である。 (2) 逮捕に関する懲戒事由 有罪判決がなされたことを懲戒事由とする場合、逮捕されただけではそもそも懲戒事由に該当しないため、その他の懲戒解雇事由・諭旨解雇事由に該当しない限り、懲戒解雇や諭旨解雇の対象とすることができないことになる。 一方、「刑法、その他の法律に触れる行為」に及んだことなどを懲戒事由とする場合、当該懲戒事由が存在し、懲戒解雇・諭旨解雇が相当であると判断するときには、裁判結果を待たずに懲戒解雇・諭旨解雇を実施することは可能である。 もっとも、無罪判決がなされた場合には、「刑法、その他の法律に触れる行為」をしたと認定できないと判断されることが多いであろう。よって、判決が出される前に懲戒処分を行うと、後から無罪であると確定したときに懲戒処分が無効となるおそれがあるが、裁判の結果を待っていたのでは処分の時期を失するような場合もあると思われる(例えば、報道の対象となるおそれがある場合、仮に報道されるとしても「元社員」の犯罪行為として報道されるよう、速やかに懲戒解雇を実施したいというニーズもあるであろう)。そのようなケースで、本人が「刑法、その他の法律に触れる行為」をしたことを認めたような場合等においては、裁判結果を待たずに懲戒処分を行うことも合理的な判断であるといえると思われる。   3 退職金の不支給・減額 懲戒解雇や諭旨解雇の場合には、当然に退職金を支給しなくてよいと考えている使用者は少なくない。しかし、懲戒解雇・諭旨解雇の場合に退職金を不支給・減額とするには、まず、就業規則等においてそのような定めがなければならない。また、退職金の不支給・減額は、当該労働者のそれまでの勤続の功労を抹消ないし減殺してしまう程度の著しく信義に反する行為があった場合でなければ認められない(※2)。 (※2) 最判昭和52年8月9日(三晃社事件)等 どのような場合に「当該労働者のそれまでの勤続の功労を抹消(全額不支給の場合)ないし減殺(減額支給の場合)してしまう程度の著しく信義に反する行為があった場合」と認められるかはケース・バイ・ケースであるが、裁判例を見ると、管理責任者による業務上の犯罪行為や、業務外の犯罪行為であっても重い刑罰や報道の対象になったものについては全額不支給が認められる一方、比較的軽微な刑罰の対象となった私生活上の犯罪行為で労働者の勤務態度が良好であった場合などは、減額支給が認められるに留まる傾向にあるように思われる。   4 手続上の要件 懲戒解雇や諭旨解雇を含む懲戒処分に関しては、就業規則等において手続上の要件が定められている場合が多い。よく見かける要件としては、懲戒委員会を設置して同委員会において審理・決定を行う、対象者に弁明の機会を与えるといったものがある。 対象者に弁明の機会を付与する旨の定めがある場合には、当然、弁明の機会を与えなければならないが、そのような定めがない場合であっても、弁明の機会を付与せずになされた懲戒処分は無効になる可能性が高いといわれている。特に懲戒解雇や諭旨解雇のような重い懲戒処分については、弁明の機会を与えなければほぼ確実に無効になると考えてよいのではないかと思う。 この点、裁判例では、労働者に対する弁明の機会付与を欠くことのみで懲戒処分を無効としないものも多く見られることから、無効とするには懲戒事由となる非違行為が認定でき、相当性もあるにもかかわらず、懲戒解雇の有効性を否定しなければならない理由を説明できる事例であることが必要であり、そのような事例は多くないのではないかという指摘がある、といった裁判官の見解が示されている(※3)。 (※3) 佐々木宗啓他「類型別 労働関係訴訟の実務[改訂版]II」(青林書院、2021年)391頁 これによると、あたかも、弁明の機会の付与を欠いた懲戒処分であっても有効となる場合が少なくないと述べているようにも見える。しかし、裁判所が労働者に有利な判断を示しがちであることは広く知れ渡っているところではあるが、筆者の感覚では、一般の認識の数割増しで裁判所は労働者寄りであるように思う。よって、軽めの懲戒処分であればともかくとして、懲戒解雇や諭旨解雇については、上記のとおり、弁明の機会を付与しなければ無効となる可能性が高いと考えるべきである。 なお、筆者が関与した案件においては、就業規則において懲戒処分の実施に際して取締役会の決議を要するとしているものがあった。このような定めは懲戒処分の判断及び決定が慎重になされることを担保し得るものであり、その意味では適切な定めであるが、取締役会の開催には原則として一定の日数を要することに注意する必要がある(実際、上記の案件においても、取締役会決議が間に合わず、やむなく普通解雇が実施されたものである)。   (了)

#No. 594(掲載号)
#柳田 忍
2024/11/14

〈Q&A〉税理士のための成年後見実務 【第12回】「成年後見制度と相続税対策」

〈Q&A〉 税理士のための成年後見実務 【第12回】 「成年後見制度と相続税対策」   司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎   【Q】 顧問先の家族の成年後見人に就任していますが、成年被後見人の子にあたる方から、相続税対策のために生前贈与を行いたいとの申し出がありました。成年後見人として応じることはできるのでしょうか。 【A】 相続税対策のために成年被後見人から子や孫に生前贈与をする、借入をしてアパート建築を行うなどの行為は原則としてできません。相続税対策を行っても、成年被後見人である本人にメリットがあるわけではないためです。資産家の方が顧客に多い税理士が成年後見人に就任したり、成年後見制度の利用を顧客に提案したりする場合に、注意しなければならない点の1つといえます。 ● ● ● ● 解 説 ● ● ● ● 1 成年後見人の職務 成年後見人は、成年被後見人の財産を適正に管理し、成年被後見人の生活に支障が生じないようにしなければなりません。あくまで成年被後見人である本人のために活動するのが成年後見人であり、成年被後見人の家族のために活動するのではないということを認識する必要があります。時として、成年被後見人を守るためにその家族と対峙することもあります。   2 贈与の実施 成年後見人は、成年被後見人の財産をその家族を含む第三者に贈与する権限を持っていますが、単に成年被後見人の財産が減少する行為である贈与を行うことは、原則として避けるべきであるとされています。すべての贈与が認められないわけではなく、冠婚葬祭における祝儀などは、家庭裁判所に相談の上行われている例もあるようです。 相続税対策のための生前贈与については、成年被後見人である本人にメリットがあるわけではなく、また多額になることから、基本的に認められないと考えられます。   3 アパート建築 相続税対策のために、親が借入をしてアパートを建築するということがよく行われていますが、成年被後見人が相続税対策のために借入をしてアパートを建築することはできないと考えられます。これも贈与と同じく、相続税対策は成年被後見人にメリットがあるわけではないためです。 借入をする行為自体がまったく認められないというわけではなく、自宅をバリアフリーにするためのリフォーム工事費用など、成年被後見人のために必要な範囲の借入であれば、家庭裁判所に相談し許可を得た上で行われることもあるとされています。 なお、少し論点が異なりますが、アパート建築を行っている途中で、施主である親の認知症が進行し、成年後見制度の利用が必要になったという事例もあるようです。多くの場合、親が高齢になってから相続税対策を検討することになるため、こうした事態も起こり得ます。このようなケースの対応策として、まず親と子で信託契約を締結しておき、そのうえでアパートを建築するということも行われています。実施にあたっては税務的な観点からのチェックが必要になるため、税理士の力が求められることになります。 (了)

#No. 594(掲載号)
#北詰 健太郎
2024/11/14

事例で検証する最新コンプライアンス問題 【第32回】「紅麹関連製品による健康被害と問題公表の遅延(下)」

事例で検証する 最新コンプライアンス問題 【第32回】 「紅麹関連製品による健康被害と問題公表の遅延(下)」   弁護士 原 正雄   前回は、K製薬が2024年1月15日から2月1日までのわずか半月で6件もの腎障害の報告を受けたにもかかわらず、2月21日までの間、原因や因果関係の究明ばかりを優先し、消費者への注意喚起や行政報告の要否についてはほとんど議論されなかったことを述べた。 今回も、引き続き紅麹関連製品による健康被害と、2月22日以降のK製薬の対応について分析する。   1 「混入(コンタミネーション)」が原因の可能性 (1) B医師との面談 2024年2月22日、安全管理部長らは、症例③④⑤を担当したB医師と面談した。最初の連絡から既に3週間が経過していた。B医師は、以下のとおり指摘した。 (2) 2月26日付GOM-行政報告はしないとの判断 2月26日、定例のGOMでB医師との面談結果として「本件製品によって症状が発現した可能性を強く疑う」との指摘があった旨が報告された。 これに対して、信頼性保証本部長は「行政報告は、因果関係が明確な場合に限る」との解釈を説明した。当時、安全管理部は「機能性表示食品の届出等に関するガイドライン」における「健康被害の発生及び拡大のおそれがある場合は、消費者庁食品表示企画課へ速やかに報告する」との定めをそのように解釈していた。そのため、信頼性保証本部も、安全管理部のそうした解釈に従ったものであった。 その結果、当時は「因果関係が明確な場合」ではなかったため、行政報告が必要との判断に至らなかった。その後もK製薬では原因や因果関係の究明のみを継続し、行政報告が遅れることになった。 当時、安全管理部による上記解釈に対して疑義を唱えた者はいなかった。しかし、こうした重要な解釈は、安全管理部のみに委ねるべきではなかった。経営陣や幹部は行政報告をしないことに合理的な疑問を持ち、法務部等に関与させ、必要に応じて外部専門家に相談させるべきであった。さらに消費者庁に問い合わせるよう指示すべきであった。 (3) A医師との面談 2月29日、安全管理グループ長らは、症例①を担当したA医師と面談した。A医師による最初の連絡から既に約1ヶ月半が経過していた。A医師は、以下の見解を示した。 (4) 社外取締役への情報共有の不存在 3月4日、常勤監査役は、経営陣との定例の意見交換会議で「GOMでの議題のうち重大リスクにつながり得る情報、例えば紅麹問題等は社外取締役にも共有すべき」と問題提起した。 K製薬には社外取締役が4名いた。この時点で社外取締役に情報を共有していれば、危機管理として何らかの有益な意見が得られた可能性があった。しかし、その後も3月中旬に「ピークX」が発見されるまで、本件が社外取締役に共有されることはなかった。 (5) 3月5日付GOM 3月5日、定例GOMで「B医師に続きA医師も、B)モナコリンKが要因の可能性を否定した」との面談結果が報告された。そのため、「原因を網羅的に検証すべき」と議論されたが、中央研究所長は「検証に8月末までかかる」と説明した。 (6) P医師兼弁護士への相談 3月6日、本件製品との関連性が疑われる症例は合計13件(医師の報告5件、消費者の報告8件)となっていた。 同日、信頼性保証本部長らはP医師兼弁護士と面談し、以下の指摘を受けた。 上記助言を受け、各患者が摂取した製品ロットの特定を試みたところ、翌7日、複数の患者が発症直前に「製品ロットH306」または「H306と同じ原料ロットを用いていたH3017」を摂取した可能性が判明した。品質保証監査部は、C)何らかの成分が混入(コンタミネーション)した可能性を検証する方針を決定した。 (7) 3月12日付GOM 3月12日、定例のGOMで「原因としてC)特定の製品ロットへの有害成分の混入(コンタミネーション)が考えられる」と報告された。しかし、この時点でも、社長が回収や消費者への注意喚起を指示することはなかった。 3月14日、会長は、社長に「広告を自粛すべきでは」と再度提案のメールをした。社長は海外出張中で同メールに返信しなかったが、同メールをCCで受信した信頼性保証本部長と食品カテゴリー長は「広告については現状を維持する」と説明した。会長が上記以上に回収や消費者への注意喚起を指示することはなかった。   2 「ピークX」の判明とその後の経緯 (1) 「ピークX」の検出 ロット調査の結果を踏まえ、中央研究所は、製品ロットH306とH3017等についてHPLC(高速液体クロマトグラフ)分析を実施した。その結果、2024年3月15日、未知の「ピークX」が検出された。 「ピーク」とは、HPLC 分析の結果データを出力した分析チャート上の波形が高い部分を指し、成分の検出を示す。「ピークX」は、後に腎毒性のある天然化合物「プベルル酸」の検出を示すものであったことが確認されている。 本件は、C)意図しない成分が混入(コンタミネーション)したことが原因であったことが判明した。 (2) 3月19日付GOM 3月17日夜、信頼性保証本部長は、会長とGOMメンバーに「ピークX」が検出されて意図しない成分の混入(コンタミネーション)が判明したことを伝えた。 その結果、会長、社長、専務は、本件について重大な危機感を持つに至り、翌18日、早急に出荷停止・回収・リリース・注意喚起することや、原因物質の解明に要する日数も考慮して4日後の22日を目安に回収のリリースを実施する方針を決定した。 翌19日、定例のGOMで「ピークX」が検出されたことが報告され、出荷停止・回収・リリースを行う方針が確認された。ただ、「混乱を防ぐため、消費者向けコールセンター設置や取引先への連絡等に一定の時間が必要」と意見があり、出荷停止・回収・リリースはさらに4日後の26日15時へと延期された。 (3) 社外役員への報告 3月20日夜、専務の指示に基づき、総務部長が社外取締役と社外監査役に、紅麹原料への意図しない成分の混入が判明したこと、腎障害が複数発生したこと、回収とリリースを行うことなどを報告した。社外取締役は、ここで初めて正式に情報共有を受けた。また、社外監査役は、2月21日付監査役会で一応の報告を受けていたが、ここで初めて情報のアップデートを受けた。 (4) 行政報告とリリース・記者会見 3月21日夕方、国内品質保証監査グループ担当者は、消費者庁へ電話をして「健康被害報告を行いたい」旨申し入れた。消費者庁は、大阪市保健所へ連絡するよう指示した。 翌22日午前、安全管理グループ長らは、大阪市保健所に「機能性表示食品である本件製品で腎疾患に関する申し出が複数発生した」と報告した。 上述のとおり、3月19日付GOMでは「出荷停止・回収・リリースは26日15時に行う」とされていた。しかし、会長や専務は「早期にリリースすべき」と強く求め、3月22日10時からのミーティングで、両名を含む参加者の総意で「本日中にリリースと記者会見を行う」ことを決定した。 その後、同日中の15時15分、安全管理グループ長らは消費者庁とWeb面談を行い、本件製品で腎疾患の症例連絡が複数あったこと、本日中に回収リリースを行うことを報告した。同Web面談には厚生労働省も同席した。 さらに16時、臨時取締役会を開催し、回収とリリースを実施することを決議したうえ、17時、「紅麹関連製品の使用中止のお願いと自主回収のお知らせ」と題するリリースをホームページに掲載した。 同日18時、社長、信頼性保証本部長、製造本部長、食品カテゴリー長が出席し、記者会見を実施した。記者会見でK製薬は、公表が遅れたことについて責任を厳しく問われ、大変な非難を浴びることになった。   3 結語 (1) ロット調査の必要性 本件のように、これまで問題なく販売していた商品について、ある日突然に事故報告が連続した場合、特定のロットを疑うのが基本である。しかし、本件ではK製薬はそうしたことに気付かなかった。そうした中で、P医師兼弁護士が「症状発現直前に摂取していた製品ロットを調査すべき」と助言し、本件の原因の把握につながった。非常に適切な助言であったと考える。 (2) 100万パッケージ当たりの報告件数 K製薬は、2月1日までに6件もの腎障害の報告を受けていた。 本件製品の販売数は定かではないが、紅麹関連事業の売上は6億3,594万円とある。1パッケージ(60粒入20日分)の希望小売価格が2,000円であったことから、卸値につき1パッケージ1,000円とすれば、年間64万パッケージ売れたことになる。腎障害6件は、100万パッケージ当たりに換算すると10件になる。 また、腎障害6件の報告は、わずか半月でなされた。その間の販売数は、約2万7,000パッケージと推測される(年64万パッケージ÷12ヶ月÷2)。6件の報告を100万パッケージ当たりに換算すると約222件にもなる。 例えば、2013年に発生した「美白化粧品」の白斑症案件では、100万個当たり9件の発症を把握した時点で化粧品会社が回収を公表した。その後、公表から2ヶ月で被害者数は1万人に達している。本件での上記100万パッケージ当たり10件ないし222件との数値は、極めて重いものであったことが分かる。 (3) 危機感を持つことができなかった K製薬は、腎障害6件の報告を受けた時点で、重大な危機感を持って行政報告と回収を検討すべきであった。しかし、そうした危機感を持てず、危機管理本部を設置することもせず、原因や因果関係の究明のみに焦点を当ててしまった。さらに、「ピークX」の存在が判明した後でさえ、「混乱を防ぐため、消費者向けコールセンター設置や取引先への連絡等に一定の時間が必要」との意見によって公表を遅らせようとした。本件への危機感が不足していたことが分かる。 とはいえ、危機の最中であっても、会社の中にいる者が危機感を持つことは、実は難しい。「まずは原因を究明したい」「混乱を防ぐため、公表前に十分な準備をしたい」という気持ちは、心情としてはよく分かる。K製薬の役員や担当者を単純に責めることはできない。 ここで活躍が期待されるのが、社外役員である。社外役員は一歩引いた立場から会社の問題を冷静に見ることができる。一般に不祥事が起きた場合、社外役員への報告を躊躇することが多いと考えるが、社外役員は「会社の味方」である。社内担当者は、ぜひ社外役員を頼ってほしい。それがコンプライアンスの充実、ひいては会社を守ることにもつながる。 (4) 小括 本件では、K製薬が隠蔽等を行おうとした様子は窺えない。症例の報告に対して、極めて真面目に取り組もうとしていたことがよく分かる。しかし、結果としては、公表が遅れたことで本件製品の被害が拡大してしまった。 非常事態において適切に対応することは、簡単なことではない。企業関係者は本件を他山の石とし、「いざ」というときに適切に対応できるよう準備をしておかなければならない。 (了)

#No. 594(掲載号)
#原 正雄
2024/11/14

《速報解説》 「『監査役会等の実効性評価』の実施と開示の状況」を監査役協会が公表~全体で19.7%の会社が実施、今後の取組みに関する提言示す~

《速報解説》 「『監査役会等の実効性評価』の実施と開示の状況」を監査役協会が公表 ~全体で19.7%の会社が実施、今後の取組みに関する提言示す~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2024年11月12日、日本監査役協会 ケース・スタディ委員会は、「『監査役会等の実効性評価』の実施と開示の状況」を公表した。 これは、会員上場会社を対象に行った「監査役会等の実効性評価と監査活動の振り返りについてのアンケート調査」をもとに取りまとめたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 コーポレートガバナンス・コードでは、取締役会全体の実効性について分析・評価を行うことなどが規定されているが、監査役会等の実効性評価については規定されていない。 監査役会等の実効性評価を実施している企業は一定数存在することから、その実態を把握し、今後の監査役会等の実効性評価の取組みに関する提言を行っている。 「監査役会等の実効性評価」を実施している会社は全体で19.7%であり、プライム市場上場会社では26.2%であるなどの分析結果が記載されている。 実効性評価は、全メンバーが等しく十分な情報量をもって議論し、課題を共有して改善するための有用かつ効率的なツールであるなどの効果に関する回答がある一方、自己採点(評価)のみのため他社との比較ができない、自己満足に終わっている危険性はないかなどの課題に関する回答も見られる。 次の提言が記載されている。 (了)

#阿部 光成
2024/11/13
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