〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第101回】 「営利法人の本業以外の行為に関連して作成された受取書」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 当社は株式会社として飲食店を全国に展開しています。今回、不採算店舗を閉鎖するに際してその店舗敷地を売却する予定です。金額も多額なため、譲渡代金は銀行振込みにより入金してもらおうと思いますが、入金確認後、当社からは下記の領収書を発行します。 この場合、印紙税の取扱いはどうなりますか。 記載金額6,000万円の第17号の1文書(売上代金に係る金銭又は有価証券の受取書)に該当し、印紙税額20,000円となる。 [検討1] 銀行振込みであり、直接現金の引渡しを受けていないが、この場合の領収書にも収入印紙の貼付が必要なのか 第17号文書でいう金銭又は有価証券の受取書とは、金銭又は有価証券の引渡しを受けた者が、その受領事実を証明するため作成し、その引渡者に交付する単なる証拠書類をいうとされている。 事例は、直接現金の引渡しを受けたことにより発行した領収書ではないが、銀行振込みにより、銀行口座に入金された譲渡代金の受領事実を証明するために作成されたものであることから、売上代金に係る金銭の受取書に該当する。 [検討2] 当社の所有していた不動産を譲渡した対価として、代金を受領した際に発行するものであり、当社事業である飲食店の売上げではないので、営業に関しない受取書として非課税にならないのか 株式会社等の営利法人は、事業としてする行為及びその事業のためにする行為は、会社法の規定により「商行為」とされており、その名義で作成される受取書は、基通別表第一第17号文書の29~32を除き、営業に関する受取書に該当する。 (了)
連結会計を学ぶ(改) 【第10回】 「投資と資本の相殺消去・非支配株主持分」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 連結貸借対照表は、親会社及び子会社の個別貸借対照表における資産、負債及び純資産の金額を基礎とし、子会社の資産及び負債の評価、連結会社相互間の投資と資本及び債権と債務の相殺消去等の処理を行って作成する(「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号。以下「連結会計基準」という)18項)。 今回は、投資と資本の相殺消去及び非支配株主持分について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 投資と資本の相殺消去 資本連結とは、親会社の子会社に対する投資とこれに対応する子会社の資本を相殺消去し、消去差額が生じた場合には当該差額をのれん又は負ののれんとして計上するとともに、子会社の資本のうち親会社に帰属しない部分を非支配株主持分に振り替える一連の処理をいう(連結会計基準59項)。 支配獲得時における資本連結の手続には次のものがある(「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」(移管指針第4号。以下「資本連結実務指針」という)3項)。 1 基本的な考え方 連結貸借対照表は、親会社及び子会社の個別貸借対照表における資産、負債及び純資産の金額を基礎にしてこれらの数値を合算し、さらに二重計上になっている部分を調整することにより作成される。 支配獲得日において算定した子会社の資本のうち親会社に帰属する部分を投資と相殺消去し、支配獲得日後に生じた子会社の利益剰余金及び評価・換算差額等のうち親会社に帰属する部分は、利益剰余金及び評価・換算差額等として処理する(連結会計基準(注6))。 作成のイメージは、おおむね次の図表のとおりである。 【図表:連結貸借対照表の作成プロセスのイメージ】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 2 連結精算表の作成 【設例1】 Ⅲ 投資と資本の相殺消去に関する留意点 1 相殺消去される子会社の資本 連結会計基準は、親会社の子会社に対する投資とこれに対応する子会社の資本は相殺消去するものとし、相殺消去される子会社の資本は、子会社の個別貸借対照表上の純資産の部における株主資本及び評価・換算差額等と評価差額からなると規定している(連結会計基準23項)。 具体的には、資本連結手続において相殺消去の対象となる子会社の資本の額は、以下の①及び②に③の項目を加えた額となる(以下の金額はいずれも当期までの期間に課税された法人税等及び税効果額控除後の金額である。資本連結実務指針9項)。 なお、子会社の資本の額には、新株予約権は含まれない(「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準等の適用指針」(企業会計基準適用指針第8号)5項)。 2 支配獲得日までに生じた子会社の利益剰余金 支配獲得日までに生じた子会社の利益剰余金は投資と相殺される(資本連結実務指針21項)。 一方、支配獲得日後に生じた親会社の持分に帰属する子会社の損益は、親会社株主に帰属する当期純利益として処理され、取得後利益剰余金となる。 子会社に係るその他の包括利益累計額(その他有価証券評価差額金、退職給付に係る調整累計額など)については、支配獲得日までの持分額(投資と相殺消去)とその後に生じた持分額(連結株主資本等変動計算書上のその他有価証券評価差額金、退職給付に係る調整累計額の区分等に計上)とに分けて処理されることとなる。 子会社のその他有価証券評価差額金の増減額に関する連結包括利益計算書又は連結損益及び包括利益計算書上の取扱いについては、「金融商品会計に関するQ&A」(移管指針第12号)Q73が参考となる。 Ⅳ 非支配株主持分 1 非支配株主持分の概要 子会社の資本のうち親会社に帰属しない部分は、非支配株主持分とする(連結会計基準26項)。 支配獲得日の子会社の資本は、親会社に帰属する部分と非支配株主に帰属する部分とに分け、前者は親会社の投資と相殺消去し、後者は非支配株主持分として処理する(連結会計基準(注7)(1))。 支配獲得日後に生じた子会社の利益剰余金及び評価・換算差額等のうち非支配株主に帰属する部分は、非支配株主持分として処理する(連結会計基準(注7)(2))。 2 連結精算表の作成 設例を用いて、非支配株主持分を説明すると次のようになる。 【設例2】 3 非支配株主持分に関する留意点 非支配株主持分は、子会社の資本のうち親会社に帰属しない部分であり、支配獲得時に子会社の資本のうち非支配株主に帰属する部分について、議決権を有する株式の持分比率に基づいて計上する(資本連結実務指針23項)。 株式を段階的に取得している場合であっても非支配株主持分を計上するのは支配獲得時である。 支配獲得後においては、子会社の損益のうち非支配株主に帰属する部分を、持分比率に基づき算定して連結損益計算書の非支配株主に帰属する当期純利益に計上するとともに、非支配株主持分に加減する(資本連結実務指針24項)。 非支配株主持分の増減は、このほか、株式の追加取得、一部売却及び時価発行増資等による非支配株主持分比率の変動、子会社における支払配当金の発生、連結会社間の債権債務の相殺消去に伴う子会社における貸倒引当金の減額、子会社における未実現損益の消去などによっても生じる(資本連結実務指針24項)。 (了)
空き家をめぐる法律問題 【事例72】 「マンションの専有部分の所有者が不明な場合の対応方法」 弁護士 羽柴 研吾 - 事 例 - 私が区分所有するマンションの一室は、所有者が行方不明となり郵便物が滞留し、管理費の滞納が続いています。玄関の郵便受けから郵便物があふれ、ベランダにもごみが散乱しています。 管理組合でも問題となっておりますが、改正された区分所有法に活用できる方法はありますか。 1 検討の視点 区分所有者による管理が放置された専有部分は、室内の老朽化、ごみの放置、悪臭等の原因となり、共用部分や他の区分所有者の専有部分に悪影響を及ぼすおそれがある。 このような問題に対応するため、令和8年4月1日施行の「建物の区分所有等に関する法律」(以下「区分所有法」という)によって、所有者不明又は所在不明な区分所有建物の専有部分に関する管理制度(以下「所有者不明専有部分管理制度」という)が新たに導入された。 本事例では、改正前後の対応策を整理した上で本事例の解決策を検討する。なお、本文中では改正前後の区分所有法を区別するため、「改正前」「改正後」と表記する。 2 従来の方法 (1) 不在者財産管理人の選任申立て 区分所有者が長期間行方不明の場合に、不在者財産管理人(民法第25条第1項)の選任を申し立て、管理の適正化や滞納管理費の回収を図る方法があった。 もっとも、たとえ申立ての目的が専有部分の管理の適正化にあったとしても、管理対象が不在者の全財産に及び、裁判所の予納金も高額になりうる等の問題が指摘されていた。 (2) 区分所有法に基づく競売請求 管理費が長期間滞納され、あるいはゴミ屋敷化して共同生活の秩序が乱されているような場合に、管理組合は、当該状態が共同利益に違反することを理由として、集会決議を経て当該専有部分の競売を裁判所に請求することも考えられる(改正前第57条、第58条)。 もっとも、この手続は、問題となる行為が共同利益に違反しているかをめぐって問題となりやすく、直ちに競売請求が認められないこともある。 3 所有者不明専有部分管理制度について (1) 所有者不明専有部分管理人による管理の概要 区分所有者の中に区分所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない者(以下「所在不明等区分所有者」という)がいる場合、利害関係人は、地方裁判所に対し、所有者不明専有部分管理命令の申立てをすることができる(改正後第46条の2第1項)。 ここでいう「利害関係人」には、他の区分所有者や管理組合法人だけでなく、所在不明等区分所有者の区分所有権の購入希望者も含まれるため、不在者財産管理人の場合よりも広く認められる可能性がある。 申立人は、当該区分所有者の戸籍や住民票の調査、関係者への聴取等の必要な調査を行い、当該区分所有者が所在等不明区分所有者であることを立証する必要がある。裁判所は、必要性を認めた場合に、所有者不明等専有部分管理命令を発し、所有者不明専有部分管理人を選任することになる(改正後第46条の2第4項)。 (2) 管理人の権限と管理対象の範囲 所有者不明専有部分管理命令は、専有部分に加えて、共用部分、附属施設や建物の敷地にある所在不明等区分所有者の所有する動産等にまで及ぶ(改正後第46条の2第2項)。 所有者不明専有部分管理人は、これらを管理・処分する専属的な権利を有し、保存行為や専有部分等の性質を変えない範囲内で利用又は改良を目的とする行為に加え、裁判所の許可を得れば、専有部分等の任意売却を含む処分を行うこともできる(改正後第46条の3第1項、第2項)。 したがって、所有者不明専有部分管理人は、専有部分から共用部分等に流出した動産があったとしても、管理処分等を行うことができる。 (3) 管理組合が所在不明等区分所有者に請求できる費用 実際には、所有者不明専有部分管理人の選任申立ては、管理組合を通じて行われることが見込まれるところ、管理組合は、申立てに際し、裁判所への予納金や弁護士に依頼した場合の弁護士費用等の費用を負担する必要に迫られる。 これらの費用の取扱いについて区分所有法には特段の規定はないが、国土交通省が公表した「令和7年改正マンション標準管理規約(単棟型)」では、「管理組合が負担した費用」や「弁護士費用等」を加算して請求することができ、これを管理費に充当できる旨の条項が定められている(第67条の4第4項~第8項。なお、国土交通省の解説によれば、「管理組合が負担した費用」は予納金を想定している)。そのため、管理組合においては、改正法の施行に向けて管理規約を改正しておくことが望まれる。 (4) 所有者不明専有部分管理人による債務の弁済 所有者不明専有部分管理人の権限は、所在不明等区分所有者の負う債務にまでは及ばないため、原則として滞納管理費等の債務の弁済まで行うことはない。 もっとも、専有部分等を任意売却した場合、その売却代金は管理対象となる財産となり、その中から債務の弁済に充てることが相当である場合には、裁判所の許可を得て、その代金を債権者に弁済することもできると考えられる。 実務的には、専有部分等の売却許可を裁判所に申し立てる際に、売却代金を弁済のために充てることの許可を併せて得ることになると考えられる。所有者不明専有部分管理制度の運用場面として想定されるのは、区分所有者が管理費を長期間滞納して行方不明となっているような場合であり、このような場合には、専有部分の売却を通じて滞納管理費の回収が図られることになる。 4 本件において 行方不明の区分所有者の所在調査を行い、所在が判明しない場合には、所有者不明専有部分管理命令の申立てを行うことになると考えられる。なお、多くの場合に管理組合(理事長)名義で行うことになると思われるが、実害を被っている区分所有者も利害関係人として申し立てることは可能である。 管理人の選任後は、管理人の権限で専有部分内外のゴミの撤去・清掃など必要な管理措置が講じられることになる。なお、管理組合として申立てを行う際には、申立てに要する費用も回収するために、マンション標準管理規約に沿った改正を行っておくべきである。 また、滞納管理費の回収については、専有部分内に換価可能な動産があれば管理人が売却処分し、その代金を回収原資に充てることが考えられる。しかし、本件のようなゴミ屋敷状態では経済的価値のある動産が残っていないことが少なくないため、管理人において、専有部分の任意売却を進めることになると思われる。 (了)
〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第99話】 「給付付き税額控除」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「給付付き税額控除か・・・」 中尾統括官は、新聞を広げながら呟く。 新聞の見出しは次のようになっている。 「立憲案では・・・食料品にかかる消費税の平均負担額を踏まえ、国民に一律4万円を給付することになる・・・そのうえで、所得税の課税額を調整し、実質的な給付額に差を付けるという・・・」 中尾統括官は、続けて新聞の先を読む。 (※) 朝日新聞digital(2025.9.26) 「・・・今の制度だと、税額が低い人や非課税の人は、控除のメリットをフルに受けることができない。給付付き税額控除だと、低所得者も恩恵を受けることができる・・・」 中尾統括官は独り言をいうと、図を描く。 〈控除額が10万円のケース〉 そこに、昼食を終えた浅田調査官がやってくる。 「・・・中尾統括官・・・何を描いているのですか?」 浅田調査官は、中尾統括官が描いている図を覗く。 「・・・給付付き税額控除の図ですか・・・」 中尾統括官は、その問いに頷く。 「そうだ・・・給付と控除をセットにすれば、税額が低い人や非課税の人は控除のメリットを受けることができる。ところで、新聞には、次のようなことが書かれている」 中尾統括官は、新聞を浅田調査官に見せる。 「・・・問題は、その財源だ。この新聞では金融所得課税の強化などで賄うと書いているが・・・それはなかなか難しいだろう・・・」 中尾統括官は、そう言うと浅田調査官の顔を覗く。 「・・・政府が、仮に金融所得課税を強化すると言えば・・・直ちに証券市場で株価が下落するからめったに言えない。もっとも、野党であれば無責任なことも言えるのかもしれませんが・・・」 浅田調査官は、苦笑する。 「・・・ところで、給付付き税額控除の目的は、低所得者の支援として、課税最低限以下の所得層や控除しきれない所得税額に対し給付を行うことで、生活支援や貧困の緩和を図ると言われていますが・・・その制度設計そのものに時間がかかるとか、又は執行上にも課題があるなどの批判があります・・・」 浅田調査官は、新聞を見ながら話す。 その言葉を聞いて、中尾統括官は思案顔になる。 「・・・僕は・・・給付付き税額控除の導入には賛成なのだが・・・」 そう言うと中尾統括官はペンをとって、「導入する場合の課題」を書き始める。 「・・・給付付き税額控除には、いろいろと課題があるのですね・・・」 浅田調査官は、中尾統括官が書いた罫紙を見る。 「・・・しかし、これらの課題は、もちろん議論を尽くすべきだが、最後は法律のルールを定める政治家が決めることになる・・・」 中尾統括官はハッキリと言う。 「・・・今は少数与党ですから・・・自民党もある程度は野党に妥協しなければならないと思うのですが・・・給付付き税額控除について、そんなに簡単に結論が出るのでしょうか?」 浅田調査官は首をかしげる。 (つづく)
《速報解説》 令和8年の平均貸付割合が年0.8%に改定される ~4年ぶりの引上げで延滞税、利子税、還付加算金等の割合が変更~ Profession Journal編集部 Ⅰ はじめに 令和7年11月28日、「租税特別措置法第93条第2項の規定に基づき、令和8年の同項に規定する平均貸付割合を告示する件」(財務省告示第305号)が官報本誌第1598号に掲載され、公布された。 これにより、令和8年(令和8年1月1日から令和8年12月31日まで)の平均貸付割合は年0.8%とされ、令和7年の年0.4%から0.4ポイント引き上げられることとなった。 Ⅱ 平均貸付割合とは 平均貸付割合とは、租税特別措置法第93条第2項に規定される割合であり、各年の前々年の9月から前年の8月までの各月における銀行の新規の短期貸出約定平均金利の合計を12で除して得た割合として、各年の前年の11月30日までに財務大臣が告示するものである。 この平均貸付割合は、延滞税、利子税、還付加算金などの計算における基礎となる特例基準割合等を算出する際の基準として用いられる重要な指標である。 Ⅲ 改定の内容 1 令和8年の平均貸付割合 今回の告示により、令和8年(令和8年1月1日から令和8年12月31日までの期間)の平均貸付割合は、年0.8%とされた。 2 前年との比較 令和7年の平均貸付割合は年0.4%であったことから、令和8年は0.4ポイントの引上げとなる。 3 近年の推移 参考までに、近年の平均貸付割合の推移は以下のとおりである。 令和4年以降、年0.4%で据え置かれていたが、令和8年において4年ぶりに引き上げられることとなった。 Ⅳ 実務への影響 今回の平均貸付割合の改定により、延滞税、利子税、還付加算金等の割合が変更となる。 令和8年における各割合は以下のとおりとなる見込みである。 (参考) 令和7年は、延滞税が年2.4%/年8.7%、利子税・還付加算金が年0.9% Ⅴ おわりに 今回の平均貸付割合の引上げは、4年ぶりの改定となり、延滞税、利子税、還付加算金等の割合が変更となる。 令和8年1月1日以降の期間に適用されるため、納税者への助言等において留意されたい。 なお、国税庁ホームページ「延滞税の割合」等のページについては、今回の告示を受けて、今後、令和8年分の割合が追加される見込みである。実務担当者においては、最新情報を確認の上、適切に対応されたい。 (了)
《速報解説》 金融庁が「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正(案)を公表 ~サステナビリティ開示基準の適用開始に向けた環境整備等行う~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2025(令和7)年11月26日、金融庁は、「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(案)等を公表し、意見募集を行っている。 これは、サステナビリティ開示基準の適用、人的資本開示に関する制度見直し、株主総会前の有価証券報告書の開示などについて規定するものである。 意見募集期間は2025年12月26日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ サステナビリティ開示基準の適用開始に向けた環境整備 1 サステナビリティ開示基準の適用(開示府令19条の9) 2 SSBJ基準の適用に伴う開示項目の追加 3 Scope3温室効果ガス排出量の虚偽記載等に係るセーフハーバー・ルールの整備 Scope3温室効果ガス排出量に関する定量情報について、一般に合理的と考えられる範囲で差異が生じる要因や推論過程等、社内の開示手続等に関する記載がされている場合には、虚偽記載等の責任を負うものではないとする考え方を明示する(企業内容等の開示に関する留意事項について「B 基本ガイドライン 5-16-2」)。 Ⅲ 人的資本開示に関する制度見直し 開示府令第二号様式「第二部 第4【提出会社の状況】」、同様式記載上の注意「(58-2)人材戦略に関する基本方針等」及び同様式記載上の注意「(58-3)従業員の状況」等を改正し、以下のとおりとする。 有価証券報告書において、新たに次の事項を開示する。 「従業員の状況」を「第1【企業の概況】」から「第4【提出会社の状況】」に移動した上で、使用人その他の従業員のみを対象としたストックオプション制度や役員・従業員株式所有制度を導入している場合には、「従業員の状況」に記載することもできることとする。 Ⅳ 株主総会前の有価証券報告書の開示 有価証券報告書において、株主総会前開示を行う場合であって、有価証券報告書の記載事項等が定時株主総会又はその直後に開催される取締役会の決議事項となっているときにおける当該決議事項等の概要(剰余金の配当に関するものを除く)の記載を原則不要とする(開示府令第三号様式「記載上の注意(1)一般的事項」等)。 半期報告書において、中間配当基準日現在における「大株主の状況」及び「議決権の状況」を記載することができることとする(開示府令第四号の三様式記載上の注意「(15)大株主の状況」及び同様式記載上の注意「(16)議決権の状況」)。 Ⅴ 適用日等 改正後の規定は公布の日から施行する予定である。 改正後の「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の規定のうち、「サステナビリティ開示基準の適用開始に向けた環境整備」、「人的資本開示に関する制度見直し」、「株主総会前の有価証券報告書の開示」については、以下の適用を予定している。 1 サステナビリティ開示基準の適用開始に向けた環境整備 2 人的資本開示に関する制度見直し 2026(令和8)年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等 3 株主総会前の有価証券報告書の開示 2026(令和8)年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等 (了)
2025年11月27日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.646を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第54回】 「定年延長と退職所得課税」 -10年退職金事件・最判昭和58年12月6日訟月30巻6号1065頁の今日的意義と「雇用継続税制」- 大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫 Ⅰ はじめに 近時、退職所得課税の見直しが盛んに議論されるようになってきた。政府税制調査会では比較的早くから退職所得課税について「支給形態の多様化」、「雇用の流動化」、「課税の中立性」を主たる課題として検討がされてきたところである(油井雅志「退職金制度等における課税上の諸問題について―定年延長等における打切支給の取扱いを中心に―」税務大学校論叢110号(2023年)79頁、125頁以下参照。税制調査会「我が国税制の現状と課題―令和時代の構造変化と税制のあり方―」(令和5年6月)96頁も参照)。今回の原稿執筆中にも、「退職金課税の改正見送り」という見出しで「政府・与党は退職金課税の改正を2026年度は実施しない方針だ。政府で本格的な議論に上がって以降、見送りは3年連続となる。」旨が報じられた(日本経済新聞2025年11月15日朝刊5面)。 そのような議論状況の下、「近年における少子・高齢化の進展や公的年金等の支給開始年齢の段階的な引上げ等に伴い、高齢者雇用に関する就業機会の確保が求められることになり、企業において定年延長等の雇用制度の変更による労働環境の整備がなされている」(油井・前掲論文140頁)昨今、「定年延長等に伴い、退職手当を定年延長前の旧定年で支給する、いわゆる打切支給の退職金が支給されるケースも増えていると想定される」(同100-101頁)ところ、今回は、かつていわゆる短期定年制の下での打切支給退職金の退職所得該当性が争われた10年退職金事件に関する最判昭和58年12月6日訟月30巻6号1065頁(以下「本判決」という)の判断内容を検討し、その今日的意義に関連して若干の立法論的提言を述べることにする。 Ⅱ 退職所得課税の一般法理 1 退職所得の3要件 本判決は、まず、その約3か月前に示された5年退職金事件・最判昭和58年9月9日民集37巻7号962頁(以下「別件最判」という)を参照してこれと文言・表現上もほぼ同じ判示をもって退職所得課税の趣旨並びに退職所得の意義及び要件に関する一般法理を明らかにした。この一般法理に関する別件最判の判示は次のとおりである(下線【A】【B】【C】【D】筆者)。 別件最判については、「退職所得の意義と範囲を正面から問題とした最初の最高裁判所の判決であり、その意味で今後判例として重要な位置を占めてゆくことになると思われる」(金子宏「判批」判例評論313号(判例時報1139号)17頁、18頁。筆者の評価も同じであるが、これについては拙稿「判批」別冊ジュリスト120号(租税判例百選〔第3版〕・1992年)58頁、59頁参照)と評されている。 別件最判は「退職所得に対する優遇課税についての立法趣旨」(前記判示下線部【B】。同【A】参照)に照らして「退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与」(所税30条1項)という定めを解釈し3つの要件(同【C】の(1)(2)(3))を定立した。ここで問題となるのは、その定めや要件(1)にいう「退職」を私法からの借用概念と解すべきか又は税法上の固有概念と解すべきかである(「これらの性質を有する給与」についてもこれが「退職により一時に受ける給与と同じ性質を有する給与」(金子・前掲「判批」20頁)を意味することから、同じ議論が成り立つ)。この問題について、前者と解する見解(退職=借用概念説)は、筆者の知る限り、その理解を少なくとも文字どおり説くものとしては見当たらないが、後者と解する見解(退職=固有概念説)にも、次の2でみるように大別して2とおりの見解があるように思われる。 2 固有概念としての「退職」 退職=固有概念説には、1つには、本判決について「判旨は、『本件金員の支給を受けた従業員は、一たん退職したうえ再雇用されるものではなく、従前の雇用契約がそのまま継続しているとみるべきである』と判示し、このことをもって結論を導く一つのファクターとしているように見える。」(金子・前掲「判批」19頁)と述べた上で、次のとおり述べる見解がある(同19-20頁。下線筆者)。 この見解は、退職=借用概念説によると、給与所得と退職所得とが労務の対価として同じ性質をもつ所得であることから、退職所得に対する優遇課税が給与所得から退職所得への所得種類の転換による一種の租税回避(拙著『税法基本講義〔第8版〕』(弘文堂・2025年)【248】参照)の明白かつ容易な誘因となることを考慮するものであり、優遇課税を定める規定の解釈に当たってその立法趣旨の探究上留意すべき観点を示すものとして説得力をもつと考えられる。別件最判に関する調査官解説が「退職」について、「退職(雇傭契約の終了)の実質」(新村正人「判解」最判解民事篇(昭和58年度)356頁、364頁)及び「再雇傭(新たな雇傭契約の締結)の実質」(同365頁)で構成される「実質」を伴う退職を問題にするのも、そのような観点を考慮したものと解される。 ただ、上記の調査官解説が退職について問題にする「実質」は、退職の法的実質を重視するもの(法的実質主義)であり退職の経済的実質までをも問題にするもの(経済的実質主義)ではないと考えられる(法的実質主義と経済的実質主義については前掲拙著【57】参照)。というのも、調査官解説は、借地権利金「経済的実質」事件・最判昭和45年10月23日民集24巻11号1617頁(第10回、第51回)を「所得分類の問題に関して経済的実質の同一性に着目して税法の類推解釈を示していることに先例性を有している」(山田二郎「所得税法における所得の分類」民商法雑誌78巻4号(1978年)297頁、304頁)とみて下記のとおり説く見解(同307頁。下線筆者)について、「右の見解は、本件事実関係において定年制の定めは全く存しないにもかかわらず、これがあるかのようにとらえている点で問題がある。」(新村・前掲「判解」371頁。下線筆者)として、「本判決はこれを採用しなかった。」(同370頁)と述べているからである。 この見解(山田説)は、退職ないし退職金の経済的実質を重視するものであり、退職=固有概念説に属するものといえようが、前記の調査官解説や前記の見解(金子説)のように退職の法的実質を重視するものとは区別すべきであろう。 このようにみてくると、退職=固有概念説に属すると考えられる上記の2とおりの見解の当否を考えるに当たっては、前記の調査官解説が説くように、企業における「定年制の定め」の有無及び内容が重要な意味をもつように思われる。そこで、別件最判の事案とは異なり、「勤続満10年定年制」が会社の就業規則・退職金規程で定められていた事案に関する本判決の判断を次のⅢで検討することにしよう。 Ⅲ 退職の「実質」を伴う定年制と退職所得課税 本判決は、退職所得課税の一般法理に関する前記の判示に続けて、これを本件についてみて、「勤続満10年定年制」について次のとおり判示した(下線筆者)。 その上で、本判決は、本件勤続満10年定年制に基づく打切支給退職金に対する退職所得課税について、次のとおり、退職・再雇用の「実質」(前記調査官解説参照)をうかがわせるような「特別の事情」が存することを必要とする旨を判示した(下線筆者)。 もっとも、本判決には、本件勤続満10年定年制に基づく打切支給退職金の「経済的実質」に着目しこれに対する退職所得課税を認める横井大三裁判官の反対意見があったが、本判決は、結論として、原判決を審理不尽の違法により破棄し、上記の「特段の事情」等について更に審理を尽くさせるために本件を原審に差し戻した。差戻控訴審・大阪高判昭和59年5月31日判タ534号115頁は本件について次のとおり判示して上記の「特段の事情」を認めなかった。 以上のように、本判決及びその後の差戻控訴審判決は、退職の「実質」に関する「特段の事情」を厳格かつ限定的に解し認定しようとする態度を示したものと解されるが、その態度は妥当である。退職の「実質」すなわち前記の調査官解説の言葉を借りると「退職(雇傭契約の終了)の実質」及び「再雇傭(新たな雇傭契約の締結)の実質」を厳格かつ限定的に捉えることは、一般に法的実質と経済的実質との区別が困難であり微妙な判断を要することからすると、租税法律主義の予測可能性・法的安定性保障機能の観点からみて妥当である。しかも本件とは異なり「租税回避の目的」が認められる場合の「特段の事情」の認定については特に慎重な態度が必要であると考えるところである(第15回、第16回、第24回、第25回等のほか、前掲拙著【73】以下参照)。 退職所得課税に関する所得税法30条1項の解釈適用について、同様の考え方及び態度は課税実務も採るものであると考えられる。所得税基本通達30-2は次のとおり定めている。 この通達規定について別件最判に関する調査官解説は次のとおり述べている(新村・前掲「判解」369頁。傍点原文・下線筆者。なお、上記通達規定の(5)については同370頁(注3)参照)。 この解説によれば、前記通達規定の(4)及び(5)の場合も「勤務関係の実態において、一たん退職し再雇傭されたとみるべき実質がある場合」に当たり、したがって、そこでいう「定年」は、退職の「実質」(法的実質)を伴う定年制によるものであるということになろう。 Ⅳ おわりに 今回は、勤続満10年定年制に基づく打切支給退職金の退職所得該当性について本判決の判断内容を検討し、本判決はその判断に当たって退職の「実質」を法的実質として厳格かつ限定的に捉える態度を示した妥当な判決であるとの理解を示した上で、同様の考え方及び態度は所得税基本通達30-2にも認められる旨を述べた。 そうすると、本判決の今日的意義は、この通達規定とりわけ(4)及び(5)の場合に見出すことができるように思われる。このことは、近時盛んに議論されてきた退職所得課税の見直しにおいても重要な意味をもつと考えるところである。 これまでは退職所得課税の見直しに当たってその優遇課税の弊害を中心に議論され、その議論は二分の一控除(所税30条2項)の制限又は排除という形で、平成24年度税制改正では特定役員退職手当等(同条5項)について、令和3年度税制改正では短期退職手当等(同条4項)について具体化された。 ただ、前記Ⅰで述べたような近年におけるわが国の雇用・労働環境の変化・整備の状況に鑑みると、企業・官公署等における定年延長に対応した退職所得課税の見直しも検討すべき時期に来ているように思われる。その見直しの一方途として、所得税基本通達30-2(4)及び(5)の定めを法令化し、定年延長に伴う打切支給退職金に対する退職所得課税について予測可能性及び法的安定性を確保し高めるべきであろう。更にいえば、それを手がかりに、雇用の継続を税制面から支援する「雇用継続税制」ともいうべき税制の整備を図ることも検討に値するように思われる。 (了)
〈令和7年分〉 おさえておきたい 年末調整のポイント 【第4回】 (追補) 「通勤手当の非課税限度額の引上げ」 ~令和7年4月1日以後に支払われるべき通勤手当に適用~ 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 令和7年11月19日に所得税法施行令の一部を改正する政令が公布され、自動車等の交通用具を使用している給与所得者に支給する通勤手当の非課税限度額が引き上げられた(所令20の2二)。本改正は、令和7年11月20日に施行され、令和7年4月1日以後に支払われるべき通勤手当について適用される(令和7年改正令附則)。 改正前の非課税限度額を適用して源泉徴収が行われている役員及び従業員について、改正後の非課税限度額を適用することにより過納となる税額が生じる場合には、令和7年分の年末調整において精算することになる。 【1】 改正の概要 自動車や自転車等の交通用具を使用している人に支給する通勤手当の1か月当たりの非課税限度額(改正前及び改正後)は、次のとおりである(所令20の2二)。 なお、交通機関又は有料道路を利用している人に支給する通勤手当(1か月当たりの限度額15万円)等、上記以外の通勤手当の非課税限度額に改正はない(所令20の2一、三、四)。 【2】 改正後の非課税限度額が適用される通勤手当の範囲 改正後の非課税限度額は、「令和7年4月1日以後に支払われるべき通勤手当」に適用される(令和7年改正令附則2)。この「令和7年4月1日以後に支払われるべき通勤手当」とは、次に該当するものをいう。 反対に、次に該当する通勤手当には、改正後の非課税限度額は適用されない。 改正後の非課税限度額の適用の有無について、具体例を示す。 【3】 令和7年分の年末調整における対応 令和7年11月19日までに支払われた通勤手当について、遡って源泉徴収税額の再計算を行う必要はない。年末調整の際に過納となる税額をまとめて精算する。 改正後の非課税限度額を適用することにより過納となる税額が生じている役員や従業員については、以下の手続により年末調整で精算を行う。 なお、令和7年の中途で退職した人、死亡退職した人、非居住者となった人等、既に年末調整をしている人について、改正前の非課税限度額を超えた通勤手当を支払っていた場合には、改正後の非課税限度額により年末調整の再計算を行うことになる。 【4】 源泉徴収票の記入金額 令和7年分の源泉徴収票の「支払金額」欄には、改正により新たに非課税となった通勤手当の額を除いた金額を記入する。 年の中途で年末調整をした人に対し年末調整の再計算をした場合には、既に交付した源泉徴収票の「支払金額」欄の金額を訂正し、「摘要」欄に「再交付」と表示したものを再度交付する。 (※) 本稿では、年末調整で使用する各申告書等を次のとおり表記する。 (連載了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例152(所得税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆被相続人の居住用財産(空き家)を譲渡した場合の3,000万円の特別控除(空き家に係る3,000万円の特別控除)(措法35③④⑥⑦) 「空き家に係る3,000万円の特別控除」とは、平成28年4月1日から令和9年12月31日までの間に、相続により被相続人の居住用家屋及びその敷地等を取得した相続人が、その取得をした被相続人の居住用家屋及びその敷地等を譲渡した場合、居住用財産を譲渡したとみなして3,000万円の特別控除の適用を受けることができるものである。 この特別控除は、相続により被相続人の居住用家屋とその敷地の両方を取得し、相続があった日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡した場合に限り適用があり、譲渡価額が1億円を超える場合には適用できない。 なお、居住用家屋とともにその敷地等を譲渡する場合には、居住用家屋が一定の耐震基準を満たすものでなければならないが、令和5年度の税制改正により、令和6年1月1日以後の譲渡については、買主が譲渡の日の属する年の翌年2月15日までに耐震改修又は除去の工事を行った場合には、工事の実施が譲渡後であっても適用対象となる。 ◆特例の対象となる被相続人居住用家屋 次の①及び②又は①及び③に該当することが要件になる。 (了)