固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第53回】 「マンションの売却時に買主が負担すべき修繕積立基金を売主が負担したことによる経済的利益は、雑所得ではなく、一時所得と判断された事例」 税理士 菅野 真美 ▷マンションの管理費や修繕積立金 居住用家屋に関連する支出のうちマンション所有者特有のものとして、管理費や修繕積立金の支払いがある。管理費とは、マンションの共用部分の維持管理のための費用であり、修繕積立金は、マンションの共用部分の大規模修繕に備えて、定期的に積み立てるものである。これらはいったん支払うとマンション所有者に返金されることはない。 管理費や修繕積立金は、一般的には、前払いであることから、中古マンションの売買時には、売主が支払った管理費等のうち、買主が所有する期間に対応する部分について精算が行われる。 新築マンションを購入する際は、一時金としてまとまったお金の管理準備金や修繕積立基金を支払うことが一般的である。 新築マンションの販売が不調の場合、売主としては、早く販売して投下資本を回収したいことから、たとえば、モデルルームで使用した家具付きで販売すること等、様々な方法で販売活動をする。マンションの価額を値引き販売する方法が潜在的な買主に訴求しやすいが、既にそのマンションを購入した人と、購入価額に差があるとトラブルの原因になりかねないことから、値引きを明らかにすることは控えられる傾向にある。 ところで、マンションの値引きの方法として、マンション自体の値引きはしないが、マンションに関連したサービスとして入居時に買主に支払い義務のある修繕積立基金部分を売主がサービスすることも考えられる。修繕積立基金の負担がなくなった部分については、買主である個人の所得が生じないのか、それとも所得が発生するのか、所得が発生した場合、その所得は一時所得になるのか、雑所得になるのか。 今回の事例は、裁決書においてマスキング部分が多いことから新築のマンションかどうかは明確ではないが、修繕積立基金の負担部分についての課税関係が争われた事案を検討する。 ▷どのような事案か 納税者は、39,880,000円のマンションを値引きして購入しようと交渉をしたが、販売担当者が、値引きはできないが、諸費用のうち、修繕積立基金(修繕積立一時金)であれば売主負担をすることにより実質的な値引きとしてサービスができると提案したことから納税者は購入を申し込んだ。 平成30年3月21日に納税者は売買契約を締結した。これは以下のような内容である。 同日、売買契約書とは別に覚書を取り交わした。内容は次のとおりである。 平成30年9月21日に残代金を支払い、引渡しを受けた。 平成30年10月19日に売主は、本件合意に基づき、本件販売代理会社を経由して修繕積立基金を支払った。 納税者は平成30年分の所得税の確定申告をしたが、修繕積立基金の負担を受けたことによる経済的利益を申告に含めなかった。 令和4年6月29日、処分庁は、納税者が負担すべき修繕積立基金を売主が負担したことによる経済的利益は、雑所得に該当するとして更正処分等をした。 令和4年8月15日に納税者は、処分を不服として審査請求をした。 ▷争点 争点は、2つある。 ▷裁決 裁決では、金銭以外の物又は権利その他経済的な利益が生じており、本件経済的利益は一時所得に該当するから、雑所得とした更正処分等は違法であり取り消すべきであるとした。 ① 所得税法36条1項括弧書きに規定する「金銭以外の物又は権利その他経済的な利益」が生じているか。 売買契約書には、売買代金として、39,880,000円が記載されており、売買の目的物として、本件物件のみが記載されている。 覚書においては、費用負担に関し、修繕積立基金を売主の負担とするという記載はあるが、費用負担が、上記売買代金39,880,000円と対価関係を有することをうかがわせる記載はない。 本件売買契約及び本件合意において、本件費用負担は、本件売買契約の目的物である本件物件とは別に、無償で納税者に提供されたというべきである。 そうすると、請求人には、本件合意により外部から本件費用負担に係る経済的利益の流入があったというべきであり、所得税法36条1項括弧書に規定する「金銭以外の物又は権利その他経済的な利益」が生じていたと認められる。 ② 仮に「金銭以外の物又は権利その他経済的な利益」が生じている場合、本件経済的利益は一時所得又は雑所得のいずれに該当するか。 本件経済的利益が、「営利を目的とする継続的な行為から生じた所得以外の一時の所得」(以下「非継続要件」)であるか否か、「労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないもの」(以下「非対価要件」)であるか否かを検討する。 納税者は、本件売主との間で、本件売買契約及び本件合意をし、居住用マンションである本件物件を購入するとともに、本件売主から無償で本件費用負担を受けたにすぎず、本件費用負担により請求人に生じた本件経済的利益は、営利を目的とする継続的行為から生じたものとは認められない。 本件経済的利益は、本件合意により納税者が無償で本件費用負担を受けたことによって生じたものであり、本件費用負担に係る給付が納税者の何らかの具体的な役務提供行為に関連してなされたものとは認められず、また、抽象的な又は一般的な役務行為に密接に関連するものとも認められない。 以上からすれば、本件経済的利益は、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得であり、非継続要件及び非対価要件を満たしていることから一時所得に該当する。 このように修繕積立基金の売主負担は一時所得と判断された。この裁決について、渡辺充明治学院大学法学部教授は「「請求人と本件売主との間でなされた私法上の合意内容を検討しても、本件物件に加えて本件費用負担をも対象とした上で、本件物件及び本件費用負担の対価として39,880,000円を支払う旨の合意をしたとはいえない。」と実質的事実を曲解しているが、まさに契約の実態に干渉する結果となり、適当ではないと考える。」(※1)と批判している。なるほど、契約書自体には、修繕積立基金の売主負担について一言も記載されていないが、同日付の覚書に記載されていることから考えると、契約書と覚書は一体のものであり、形式基準で、別のものであるとして、費用負担について経済的利益を認めることについては疑問がある。 (※1) 渡辺充「ブラッシュアップ判例・裁決例 マンション購入時に売主が負担した修繕積立基金と課税関係」(税理2025.8 108頁) しかし、一時所得であると判断したことから、マンション購入時の値引きによる経済的利益が50万円以下の場合は課税されないということが示された。これは、ふるさと納税の返礼品に対する課税(※2)と整合をとったと考える。 (※2) 国税庁「「ふるさと納税」を支出した者が地方公共団体から謝礼を受けた場合の課税関係」 (了)
〔実務で差がつく!〕 相続時精算課税制度Q&A 【第3回】 「特定贈与者より先に相続時精算課税適用者が死亡し、相続税申告で相続時精算課税適用財産の申告漏れがあった場合の対応と加算税の取扱い」 税理士 徳田 敏彦 【Q】 父Aから子Bへ令和2年1月に贈与があり、子Bは相続時精算課税を適用した。 令和4年2月に子Bが父Aより先に死亡した。子Bの相続人はBの子である孫Cの1名である。 令和6年6月に父Aが死亡し、相続財産は代襲相続人である孫Cが1名で全て相続した。 孫Cは父Aに係る相続税の期限内申告で、子Bの相続時精算課税適用財産を申告漏れしていた(子Bの氏名等を相続税の期限内申告書に記載していない)。 このような場合に申告期限後に相続時精算課税適用財産の申告漏れを是正するために孫Cはどのように申告すべきか。また、加算税はどうなるのか(この申告漏れを是正する申告は更正決定等を予知してされたものではない)。 【A】 申告への対応及び加算税の取扱いは次のとおりとなる。 ◆ ◇ ◆ 解 説 ◆ ◇ ◆ 相続税法第21条の17(相続時精算課税に係る相続税の納付義務の承継等)は、特定贈与者の死亡以前に当該特定贈与者に係る相続時精算課税適用者が死亡した場合には、当該相続時精算課税適用者の相続人は、相続時精算課税適用者の納税に係る権利又は義務を承継すると規定している。 この規定は、あくまで相続時精算課税適用者の権利又は義務をその相続人が承継するという規定であり、当該権利又は義務を承継した相続人を相続時精算課税適用者と同視するものでない。 そうすると、孫Cは「子Bの代襲相続人としての申告」と「子Bの納税義務を承継した者としての申告」をそれぞれ行う必要がある。 本事例では、孫Cは子Bの代襲相続人として当初申告をしているものの、その申告には子Bの氏名等の記載をしていないため、子Bの納税義務を承継した者としての申告をしたとは認められない。 そのため、孫Cは納税義務を承継した者としての申告が無申告となっており、期限後申告が必要となる。この場合の加算税は無申告加算税となる。 また、代襲相続人としての修正申告は自主修正申告であることから過少申告加算税は課されない。 孫Cが代襲相続人として期限内申告をしていることをもって、子Bの納税義務承継人として期限内申告を行っていると考え、無申告加算税は賦課されないのではないか、という点について、東京国税局資産課税課情報 第13号(令和6年7月)の「質疑応答事例集」では次のように見解を表明している。 上記のように表明し、無申告加算税を賦課する取扱いとしている。 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第99回】 「電子契約に係る契約金額等を記載した変更契約書の記載金額」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 当社は建設業者です。当初、電子契約により建築工事請負契約を受注先との間で締結しました。その後、当初契約の請負金額を増額する際に、書面にて変更契約書を取り交わすこととなりました。 変更契約書には、当初契約である電子契約の契約日や表題を引用し、変更前の契約金額及び増額金額を記載しています。この場合、変更契約書の記載金額はどのようになりますか。 〈当初契約(電子契約)〉 〈変更契約書(書面作成)〉 記載金額6,500万円の第2号文書(請負に関する契約書)に該当し、印紙税額30,000円(軽減税率適用)となる。 [検討1] 契約金額を変更する場合の記載金額 事例のように契約金額を増額する場合、変更前の契約金額等を記載した文書が作成されていることが明らかであり、かつ、変更契約書に増加金額が記載されている場合には、増加金額が記載金額となるとされている。 また、変更後の金額(当初契約金額と変更金額が記載されているなどして、変更後の金額がわかる場合も含む)が記載されていて、変更前の契約金額等を記載した文書が作成されていることが明らかでない場合には、変更後の金額が課税文書の記載金額とされる。 [検討2] 電磁的記録(電子契約)は文書にあたるか 印紙税法8条1項によると課税文書の作成者は、課税文書の作成の時までに、その文書に印紙を貼り付ける方法により、印紙税を納めなければならないとされており、その「作成」については印紙税法基本通達第44条では法に規定する課税文書の「作成」とは、単なる課税文書の調製行為をいうのではなく、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これを当該文書の目的に従って行使することをいうとされている。 印紙税の課税対象となるのは、課税物件表の物件名に掲げられている文書であり、電磁的記録は文書には含まれないとされている。 したがって、変更契約書において当初契約(電子契約)の契約日や表題を引用しているが、印紙税法上、当初契約である電子契約は文書には含まれないことから、変更前の契約金額等を記載した文書が作成されていることが明らかである場合には該当しない。 よって、変更契約書には変更前の契約金額6,000万円及び増加金額500万円を記載していることから、変更後の金額である、6,500万円が記載金額となる。 (了)
〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第81回】 「三井住友信託銀行特定民間国外債事件 -政令委任による解除条件付利子非課税規定の解釈について- (地判令2.12.1、高判令3.9.30、最判令4.5.26)(その1)」 税理士 畠山 和夫 【裁決・判決】 【関係法令の定め】(①は項数、❶は号数をいう) 【定義】 Ⅰ はじめに 本事件は、民間国外債の利子の非課税の規定により三井住友信託銀行(以下「X」という)が特定民間国外債利子の支払い時に源泉所得税の徴収を行っていなかったところ、課税庁より非居住者等の本人確認書類である利子受領者確認書の提出が期限内に行われなかったため利子の非課税措置が受けることができないとして、源泉所得税の納税告知処分及び不納付加算税賦課決定処分を行った事案である。 第1審及び第2審とも利子受領者確認書の期限内提出が非課税措置の適用を受けるための要件であるとして、原告敗訴の判決を行った。その後上告棄却、上告受理申立不受理決定により判決が確定した。 しかしながら、利子受領者確認書の提出義務の期限は措置法施行令第3条の2の2で規定されたものであるため、判決通り利子受領者確認書の期限内提出が非課税措置の適用を受ける要件であるとすると、期限後提出を行った場合、利子の支払時に自動確定すべき源泉所得税(以下「源泉所得税の基本構造」という)の非課税要件に政令委任により解除条件附款を付すことと同じことになる。そうすると、憲法第84条の租税法律主義(課税要件法定明確主義)に反するのではないかという疑問が生じる。 ついては、このような疑問に対し「政令委任による解除条件付利子非課税規定の解釈について」という副題を付して検討を行いたい。 Ⅱ 事案の概要 【概要図】 Ⅲ 原告(X)、被告(Y)の主張と裁判所(地裁・高裁)の判断 一 裁判に表れた争点 二 争点ごとの原告、被告の主張と裁判所の判断(以下、TAINSの判決文を要約した) 1 地裁 (1) 被告Yの主張 ◆ ❷非課税要件 ◆ ❹論理解釈 納税徴収義務者が法定納期限までに納付を行わない場合、税務署長は「納税の告知」を行わなければならないが、仮に、利子受領者確認書を所定の提出期限を徒過した後に提出した場合であっても措法第6条⑦が適用されるとすると、提出期限がないことと同義となり、措法第3条の2の2㉗は死文化してしまう。 また、いつ提出されるか分からない利子受領者確認書のために徴収手続きを行うことができず、手続後利子受領者確認書が提出されれば徴収手続が違法となり得るので、法律関係が確定しないという問題が生じてしまう。 ◆ ❺政令委任 利子受領者確認書の提出に関する事項は技術的細目的事項であり委任の内容が措置法において明確にされているといえる。 ◆ ❶利子受領者確認書提出期限の非課税要件性:肯定 (2) 原告Xの主張 ◆ ❷非課税要件 ◆ ❸文理解釈:措法6条⑥の「みなし提出時期」 非課税適用申告書又は利子受領者確認書が利子支払者によって提出された場合には、提出の時期を問わず、あまねく同項の「みなし提出時期(利子支払者に受理された時に提出があったものとみなす。)」が適用されるというのが文理に沿った解釈である。 ◆ ❹論理解釈:措法6条⑥の規定は同条⑦にも適用されること ◆ ❺政令委任:包括委任規定により要件を加重することはできない 政令で定めた期日までに利子受領者確認書の提出を措法6条⑦の要件とすることは、政令により法律に定めのない新たな要件を追加するものであり認められない。 ◆ ❻立法趣旨 民間国外債に関する非居住者等の確認手続は、非居住者等による外国投資家へのなりすましによる非課税措置の濫用を防ぐための手続的規制として導入されたものであるが、利子の支払時までに利子支払者が利子受領者情報を受領していれば、非居住者等確認手続の目的は達成されているといえるのであり、措法6条⑦は適用要件としてあえて提出期限を設けなかったと解するのが合理的である。 ◆ ❼結果妥当性 「みなし提出時期」の規定が提出の時期を問わず適用されると解釈することは、源泉税の負担者である非居住者等が、非課税適用申告書又は利子受領者情報の利子支払者への提出という自ら行うべきことをすべて完了しているにもかかわらず、たまさか利子支払者が税務署長への提出を失念していたために極めて多額の源泉税を課されるという公平を欠く事態の発生を阻止できるものであって、実質的な公正にも合致し、その立法趣旨に忠実な解釈である。 ◆ ❶利子受領者確認書提出期限の非課税要件性:否定 (3)裁判所の判断 ◆ ❷非課税要件 利子受領者確認書を施行令第3条の2の2㉗所定の期日までに税務署に提出することが、非課税規定である措法6条⑦の適用を受ける要件となっている。 ◆ ❸文理解釈 措法6条⑬は利子受領者確認書の提出に関する事項その他同条⑦の適用に関し必要な事項につき政令で定める旨規定し、これを受けて施行令3条の2の2㉗を規定しているところ、上記❷非課税要件の通り解するのが「文理」に沿った解釈であるといえる。 ◆ ❹論理解釈:被告Yの主張に同意 措法6条⑦の適用要件として提出期限を設ける必要があり、同項自体がそのことを「当然に予定」しているといえる(以下「当然予定説」という)。 ◆ ❺政令委任:一般的包括的委任の禁止(技術的細目的事項説) 憲法の採用する租税法律主義の趣旨からすれば、課税要件の定めを「一般的又は包括的に」委任することは許されず、課税要件等に係る基本的な事項については法律において定めることを要し、政令に委任することが許されるのは「技術的細目的事項」に限られると解するのが相当である。 措法6条⑦自体がその適用要件として利子受領者確認書の提出に期限を設けることを当然に予定しているといえることからすると、措法6条⑬は、⑦の適用要件として、利子受領者確認書の提出という基本的事項が法律で定められていることを前提に、その提出の時期等の手続の細目的事項について、政令に委任する趣旨の規定であると解される。 ◆ ❼結果妥当性:原告Xに対する反論 利子支払者が非課税規定に係る手続を履践しなかった結果、原則通り所得税が課されることとなったとしても、やむを得ないものである。 ◆ ❶利子受領者確認書提出期限の非課税要件性:肯定 2 高裁 (1) 控訴人Xの補足的主張 ◆ ❷非課税要件 ◆ ❹論理解釈 ◆ ❺政令委任:措法6条の非居住者等本人確認書類提出期限の政令委任の可否 措法6条⑬は、「利子受領者確認書の提出期限に関する事項」とは規定していない。同項の「利子受領者確認書の提出に関する事項」や「措法6条の・・・規定の適用に関し必要な事項」もその文理上、政令において、新たに同条の非課税措置の適用要件を設けることを一般的に認めるものとは考えられない。 ◆ ❼結果妥当性 事務的な書面の提出遅延が、所得税本税の100%の課税を招き、かつ、それを本来の納税義務者ではない源泉徴収義務者が負担しなければならないという結論は、租税法における他の書面との関係でも明らかに均衡を欠いている。 (2) 被控訴人Yの補足的主張:控訴人Xへの反論 ◆ ❷非課税要件:当然予定説 ◆ ❹論理解釈:特定民間国外債の「みなし遡及提出解釈」 同条⑦の「その利子の支払を行う際」とは、利子支払者が利子受領者確認書を作成する時期を定めるものであり、利子受領者確認書の税務署への提出時期を定めるものではない。仮に利子受領者確認書の提出が利子の支払いの後であったとしても、同条⑦に基づき利子支払者が利子受領者確認書を施行令で定める期限までに税務署に提出した場合は、利子の支払いを受ける非居住者等は、その利子の支払を受ける際に、非課税適用申告書を税務署に提出したものとみなされ、同条④⑦に基づき非課税措置を受けることとなるのであるから、同条⑦の場合に同条⑥を適用する必要性は全くない。 ◆ ❺政令委任 措法6条⑦が利子受領者確認書の提出期限をその適用要件とすることを当然に予定しているということは、その提出期限を法律で定めなければならない理由とはならない。同条⑬の規定はその文理上、同条⑦の適用要件として利子受領者確認書の提出期限を定めることが、同項の規定の適用に関し必要な事項に含まれることは明らかである。 ◆ ❼結果妥当性 利子受領者確認書の提出期限も含めた措法6条⑦の適用要件を全て充足することによって初めて例外的に非課税とされるのであるから、当該各要件が一つでも充足されなければ、非居住者等はその利子について、原則通り源泉税を課されることは法律が当然に予定するところであり、何ら不当ではない。 (3) 裁判所の判断 ◆ ❺立法趣旨:一般民間国外債の「みなし遡及提出規定」と特定民間国外債の「みなし遡及提出解釈」の関係 ◆ ❸文理解釈 措法6条⑥⑦は非課税適用申告書又は利子受領者確認書の税務署への提出期限を明文をもって規定していない。 ◆ ❹論理解釈:当然予定説 しかし、同法の立法趣旨のとおりその提出は非課税措置適用のための手続要件であることから、源泉所得税等に関する法律関係が確定しない状況が生じることとなるため、利子支払の時から一定の合理的期間内に法律関係が確定される必要がある。 措法6条⑥⑦において、その適用要件として、一定の合理的期間内に非課税適用申告書又は利子受領者確認書が提出されるべきことが当然に予定されているというべきであり、その具体的期間については、施行令に委ねたものと解される。 ◆ ❺政令委任:技術的細目的事項説 ((その2)へ続く)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第175回】 株式会社トーシンホールディングス 「第三者委員会調査報告書(開示版)(2025年8月29日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【株式会社トーシンホールディングス第三者委員会の概要】 【株式会社トーシンホールディングスの概要】 株式会社トーシンホールディングス(以下「トーシンHD」と略称する)は、1988(昭和63)年設立。設立時の社名は東新産業株式会社。2000(平成12)年、株式会社トーシンへの社名変更を経て、2018(平成30)年、現社名に商号変更。移動体通信関連事業、不動産事業及びリゾート事業を主たる事業とし、国内子会社4社を有している。 連結売上高17,400百万円、連結経常利益578百万円、資本金742百万円。従業員数132名(訂正前の2024年4月期連結実績)。本店所在地は愛知県名古屋市中区。創業者であり、代表取締役会長の石田信文氏(以下「石田会長」と略称する)及びその配偶者である取締役石田ゆかり氏並びに石田会長が代表取締役を務める株式会社ジェットが、発行済株式数の44.33%を所有する大株主である。東京証券取引所スタンダード市場上場。 トーシンHDの会計監査人の異動状況は次のとおりである。 トーシンHDの会社案内によれば、同社は子会社である株式会社トーシンモバイル(以下「トーシンモバイル」と略称する)が、愛知県を中心に、岐阜県、三重県、静岡県及び長野県でソフトバンクショップ店舗及びauショップ店舗を運営している。 なお、本連載【第168回】では、トーシンHDの第三者委員会調査報告書を取り上げており、以下では、便宜上、2024年12月13日に設置した第三者委員会を「第1次調査委員会」と呼び、今回、2025年5月9日に設置した第三者委員会を「第2次調査委員会」と呼ぶことにする。 【第三者委員会(第2次調査委員会)による調査報告書の概要】 1 第2次調査委員会設置の経緯 2025年4月30日、トーシンHDの当時の一時会計監査人である中部総合監査法人(報告書上の表記は、B監査法人)からの指摘によって、トーシンモバイルの財務報告に関し、2023年4月期から2024年4月期にかけて、主に移動体通信関連事業における二次代理店向けの代理店精算において、財務報告用資料と実際の代理店精算用資料の2種類が存在しており、かつ財務報告用資料において二次代理店向けの端末販売等の売上高が過大計上となっており、その結果として帳簿上未回収となっている売掛金が存在している事実(本事案)が判明した。 本事案について、事案の解明を図るためには、独立性及び専門性を有する第三者による調査が必要であるという中部総合監査法人からの指摘を受け、トーシンHDは、公正性を確保した調査が必要であると判断し、2025年5月9日開催の取締役会において、外部の有識者によって構成する第三者委員会(第2次調査委員会)の設置を決議し、同月20日開催の取締役会において、第三者委員会の委員を決定し、調査に着手した。 2 第2次調査委員会による調査結果の概要 (1) 本事案に関する調査結果 第2次調査委員会は、本事案の手口について、モバイル代理店委託事業の代理店精算において、仕訳入力時に、実際に二次代理店に提出した代理店精算書の金額に、端末代金等を上乗せして二次代理店に対する請求額を過大に計上したもの(以下、「代理店精算の調整(売掛金)」という)としている。 発覚の経緯について、第2次調査委員会は、前回報告書の提出後、2025年2月入社のトーシンHD管理部経理課所属の従業員が、4月7日に残高確認を開始し、翌8日に売掛金の残高を確認したところ、二次代理店に対する売掛金について、通常2か月後に代理店精算が行われるにもかかわらず、精算が完了していない売掛金が億単位で生じていることを発見し、この計上額と精算額のずれについて、当初、管理部経理課のb氏はわからないと述べていたが、社内調査の結果、精算用の代理店精算書と財務報告用の代理店精算書の2種類が存在していることが発覚したものであるとしている。 (2) 類似事案の調査 第2次調査委員会は、本事案の類似事案として、次の8事案を調査の対象としている。 第2次調査委員会は、類似事案について、トーシンHD元取締役由比藤一真氏(報告書上の表記は「a氏」。以下「由比藤元取締役」という)の管理下である管理部経理課において、主に利益調整(決算期末における利益の減額を含む)のために行われたものであり、本事案と同様の目的で行われたものと考えられると評価している。 類似事案の発覚経緯について、第2次調査委員会は、調査を開始した際に、b氏に対して、代理店精算の調整(売掛金)以外の手法による売上・費用等の調整が行われていないか確認したところ、b氏より棚卸資産の額を調整することにより移動体通信関連事業の利益を調整している旨の申告を受けるとともに、調査の過程で、由比藤元取締役がトーシンHD管理部経理課及び財務課の部下との間の業務上のやり取りをショートメールやLINE などのツールを用いた私用デバイスにより行っていたことが判明したことから、管理部経理課及び財務課の従業員の私用デバイスを保全し、調査した結果、b氏が申告した棚卸資産の額の調整のみならず、複数の手法による利益調整が発覚したものであると説明している。 3 第1次調査委員会調査との相違点 (調査報告書104頁以下) 第2次調査委員会は、前回調査と本調査は結論を異にする部分があり、本調査においては、キャッシュバックの計上時期の調整についても虚偽表示の集計に含めたものであるとして、相違点を次のようにまとめている。 (1) 調査手続の相違点 第2次調査委員会は、本事案に係る調査において、事案に関与したトーシンHD管理部経理課社員b氏が、自らの関与について正直な供述をしたこと及びそれに伴うデジタル・フォレンジック調査で私用デバイスを提供し、データが保全できたことが大きく寄与していると評価し、さらに、b氏は、前回調査時には由比藤元取締役が在任していたことから、直属の上司である由比藤元取締役に不利益な供述をすると、自らの業務に支障が出てしまう可能性があるため、前回調査では供述できなかったということで、調査手続に大きな相違点があるとしている。 (2) 虚偽表示集計の方針の相違点 第2次調査委員会は、第1次調査委員会では、キャッシュバックについては、支払サイトの分析を行うことに留められており、費用計上のタイミングについては、その重要性をトーシンHDにおいて判断し、修正の要否を検討するとの方針が取られていたが、本調査において、多数の類似事案の存在が発覚しており、その一部であるキャッシュバックの計上時期の調整について、集計すべき虚偽表示から除外する理由はないことから、キャッシュバックの計上時期の調整についても、修正事項として追加していると説明している。 4 原因分析 (調査報告書106頁以下) 第2次調査委員会は、原因分析について、第1次調査委員会による指摘を踏まえて、「新たに明らかになった原因」をまとめている。 (1) 第1次調査委員会による指摘事項 (2) 新たに明らかになった原因 第2次調査委員会が原因分析の冒頭に挙げた「経営トップの倫理観・誠実さを欠いた姿勢・言動」のなかで、とくに石田会長の調査に対する協力姿勢について、批判している箇所を検証しておきたい。 第2次調査委員会は、従業員ですら当委員会による私用デバイスの提供を快く応じたにもかかわらず、石田会長は(その真偽は明らかでないものの)規制当局による調査において携帯電話に不具合が生じたと述べ、トーシンHDグループが、企業経営上の重大な局面に至っており、当委員会の調査に全面的に協力することがグループの再生の第一歩であるにもかかわらず、私用デバイスの提供を拒絶するという態度を示していると強い口調で批判した。 さらに、本事案とは関係がないものの、2021年に石田会長に支給された役員退職慰労金について、2025年に実施された税務調査で、退職金認定を否認され、トーシンHDが数億円の追徴課税を受けたことについても、こうしたキャッシュアウトをもたらしたことは少数株主にとっても非常に不利益なものであり、その事情について、少数株主を含むステークホルダーに対して説明することはもちろん、自らの責任の在り方、再発防止策なども含めて検討するのが、誠実な上場企業のトップとして採るべき行動であると考えられるにもかかわらず、石田会長は、第2次調査委員会によるインタビューにおいて、この点について、「見解の相違であり、少数株主に対しては説明すればよい」などと述べるに留まり、少数株主への配慮が感じられない態度を示しているとして、こうした石田会長の姿勢・言動は、不特定多数の株主がステークホルダーとなる上場企業のトップとして要求される高度な倫理観、備えるべき誠実性を欠いているものと評価せざるを得ないと厳しく指摘している。 また、第2次調査委員会が、「ガバナンスの機能不全」としてあげた「社外役員の機能不全・役員選任プロセスの不透明性」のなかでは、社外役員に対するインタビューにおいて、社外役員の一部からは「意見を述べたとしても、石田会長が聞かないから言わない」などと社外役員としてあるまじき発言があったとして、このような態度を示す社外役員は、社外役員としての最低限の職責を果たせていたか疑問を呈せざるを得ず、その点において、社外役員としての適性にも問題があった可能性も否定できないと断じている。 5 再発防止策の提言 (調査報告書116頁以下) 第2次調査委員会は、再発防止策の提言の前に、第1次調査委員会による再発防止策の提言を受けて、提言を踏まえてトーシンHDで実施された改善措置の実施状況について、第1次調査委員会の調査の結果を受けた改善措置としては、トーシンHDグループにおける再発防止策として機能し得るものと思われると評価したうえで、別の観点からの改善措置を講ずることも検討が必要になるとし、再発防止策の提言として、以下の8項目にまとめている。 第2次調査委員会は、再発防止策においても、トーシンHDグループの経営トップである石田会長について、上場会社のトップとして要求される高度な倫理観、備えるべき誠実性を欠く姿勢・言動をとっていたといわざるを得ないこと、長年にわたり、トーシンHDグループ全体のガバナンスの機能不全を認識せず、むしろ自ら会計上の不正行為に関与しながら、何らの対策を講じてこなかったこと、新規発覚事案に関する自身の責任を自覚する発言がなかったことを挙げて、石田会長と同格の代表取締役として石田雅文氏を選任したり、内部統制を再構築したりしても、トーシンHDグループにおける根本的な問題の解決には至らない可能性もあると考えられると指摘して、抜本的なガバナンス改革が必要であることを提言している。 その具体策として、第2次調査委員会は、トーシンHDグループとして、例えば、石田会長の代表権を維持したままで抜本的な改革をなし得るのかという観点から、石田会長の代表権を維持するか否か、役員としての地位を維持するか否か、トーシンHD株式を直接又は間接に保有することによる影響力を維持するか否かを含め、あらゆる改善施策を選択肢から外すことなく、社外役員の意見はもちろん、あらゆるステークホルダーの意見を尊重して検討し、実行することが強く望まれると結論を述べている。 さらに、第2次調査委員会は、トーシンHDの内部監査室から委員会にあてて、「内部監査活動への不当な干渉」、「経営層による責任回避的態度と情報統制」、「監査室の孤立化と委縮」といった問題点の報告があったことを紹介したうえで、現在、内部監査室は、代表取締役直属の組織とされているが、代表取締役と内部監査室の間で信頼関係が構築されていないとは内部監査手続に影響を及ぼしかねないため、両者の信頼関係の再構築、内部監査室の組織上の位置付けを再検討する等、社外役員も交えて内部監査室とも真摯に意見交換し、トーシンHDグループにとって最もよい経営陣と内部監査室との関係性を検討すべきであると述べている。 【調査報告書の特徴】 前回【第174回】でも書いたように、2025年は、短期間のうちに複数の調査委員会の設置を決議している上場会社が目立っている。今回取り上げたトーシンHDもそのうちの1社である。同社が、2024年12月13日に設置した第1次調査委員会の調査においては、調査の対象外として、「モバイル直営以外の事業の検討」を挙げ、脚注でその理由を、「二次代理店には直接会社の支配は及ばないことも鑑み、当委員会はモバイル代理事業を本調査の対象外としている」と説明したうえで、結論としても、「トーシンHDにおいて、個別取引ごとにキャッシュバック対象者との契約日の把握を詳細に実施したうえで発生日に基づいて費用計上するか、支払サイトの分析に基づいてキャッシュバックが発生したと合理的に認められるタイミングにおいて費用計上するかを含め、過去の財務報告への影響を勘案されたい」としていたため、当時の一時会計監査人である中部総合監査法人からの指摘を受けて、第2次調査委員会を設置して、財務報告に与える影響も含めて再調査をした結果が、本報告書である。 1 東京証券取引所への改善報告書の提出 第2次調査委員会が調査中の5月16日、トーシンHDは、「東京証券取引所への「改善報告書」の提出に関するお知らせ」をリリースして、「改善報告書」を公表した。報告書からトーシンHDの「改善措置」を引用しておきたい。 トーシンHDは、改善措置(2)③「取締役会及び監査役会のガバナンス機能の強化」の内容として、「監査法人との連携強化」を挙げ、以下のように説明している。 報告書作成時にトーシンHDの会計監査人であった中部総合監査法人との監査契約は、2025年6月30日をもって合意解除されており、「四半期に一度の意見交換」が実施されたかどうかは不明であり、監査法人との連携強化より前に信頼関係が築けなかったのかもしれない。 その一方、改善措置の(2)⑥「グループ全体の経理規程の策定及び経理機能の強化」のなかで、トーシンHDは、「2025年2月には、上場会社において、15年超にわたり、経理業務を行っていた者(経理部門でマネジメント職の経験があり、監査法人対応についても豊富な経験を有しております)」を採用したことを挙げて、「経理機能の強化」を図っていることが書かれているが、本事案は、この中途採用者による売掛金の残高確認プロセスで発覚しており、「経理機能の強化」については、早くも効果が出ていると評価することができるだろう。 2 石田代表取締役会長の辞任 トーシンHDは、10月7日、「代表取締役の異動(辞任)に関するお知らせ」をリリースして、代表取締役会長の石田信文氏が10月25日をもって、代表取締役会長及び取締役を辞任することを公表した。トーシンHDは、異動(辞任)の理由として、第三者委員会による調査報告書において、本事案の要因の1つとして、代表取締役会長である石田信文氏の倫理観等を欠いた姿勢・言動が指摘されていることを挙げている。 第2次調査委員会が、報告書において、「石田会長の姿勢・言動は、不特定多数の株主がステークホルダーとなる上場企業のトップとして要求される高度な倫理観、備えるべき誠実性を欠いているものと評価せざるを得ない」と厳しく批判していることもあって、辞任という決断に至った面もあるのかもしれないが、後継の代表取締役社長である石田雅文氏は、石田会長の長男であり、2022年にトーシンHDに入社後すぐに取締役に就任しているものの、経営手腕は未知数だと思われる。 第2次調査委員会が、「企業経営上の重大な局面」にあるという認識を示しているトーシンHDグループをどのように立て直すか、社員をはじめ、すべてのステークホルダーが注目しているに違いない。 (了)
連結会計を学ぶ(改) 【第7回】 「連結決算日と決算日の変更」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 連結財務諸表の作成において、連結財務諸表の作成に関する期間は1年であり、親会社の会計期間に基づいて、年1回一定の日をもって連結決算日とすると規定されている(「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号。以下「連結会計基準」という)15項)。 ただし、親会社と子会社は、その決算日が必ずしも一致するとは限らないので、連結会計基準などでは一定の規定を設けている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 連結決算日に関する規定 1 基本的な考え方 前述のように、連結財務諸表の作成に関する期間は1年であり、親会社の会計期間に基づいて、年1回一定の日をもって連結決算日とすることになる(連結会計基準15項、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(以下「連結財務諸表規則」という)3条1項)。 ただし、親会社と子会社は、その決算日が必ずしも一致するとは限らないので、連結会計基準は、子会社の決算日が連結決算日と異なる場合には、子会社は、連結決算日に正規の決算に準ずる合理的な手続により決算を行うとし、次の規定を設けている(連結会計基準16項、注解4)。 連結財務諸表規則12条及び連結財務諸表規則ガイドライン12-1は次のように規定している。 2 連結財務諸表規則ガイドライン12-1 本来、仮決算は連結決算日に行うべきものと解されるが、上記のとおり、連結財務諸表規則ガイドライン12-1は、「相当の理由がある場合には」、「連結決算日から3か月を超えない範囲の一定の日」に仮決算を行うことができるとしている。 「相当の理由がある場合には」について、四半期決算のスケジュールとの関係や、日程的に連結手続を容易に行うことを説明しているものがある(平松朗、金子裕子、柳川俊成、大橋英樹『連結財務諸表規則逐条詳解』(中央経済社、2011年10月)170、172ページ)。 Ⅲ 決算日の変更 1 決算日の変更と会計方針の変更 「会計方針」とは、財務諸表の作成に当たって採用した会計処理の原則及び手続をいい、「会計方針の変更」とは、従来採用していた一般に公正妥当と認められた会計方針から他の一般に公正妥当と認められた会計方針に変更することをいうと定義されている(「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準第24号)4項(1)及び(5))。 親会社又は子会社の決算日の変更が行われた場合、当該変更が会計方針の変更に該当するかどうかであるが、これは会計方針の変更に該当しないと考えられている(「比較情報の取扱いに関する研究報告(中間報告)」(会計制度委員会研究報告第14号。以下「比較情報研究報告」という)Q5)。 このため、決算日の変更が行われたとしても、それは会計方針の変更ではないので、遡及適用はされず、比較情報については、前連結会計年度に係る連結財務諸表を記載することになる(比較情報研究報告Q6のA(2))。 前述のように、決算日の変更は会計方針の変更に該当しないが、四半期報告制度や次年度以降の比較情報の有用性等を考慮すると、会計方針の変更の取扱いに準じて、親会社の第1四半期決算から四半期連結決算日の統一を行うことが適当と考えられる。 なお、いわゆる第4四半期において決算日の統一を行うやむを得ない場合もあると考えられる。この場合には、損益計算書を通して調整する方法のみが採用でき、実施した会計処理の概要のほか、その理由も記載することが適当と考えられる(比較情報研究報告Q6のA(1))。 2 親会社又は子会社の決算日の変更 親会社の決算日を変更すると、連結決算日を変更することになるため、その旨、変更の理由及び当該変更に伴う連結会計年度の期間を連結財務諸表に注記することになる(連結財務諸表規則3条1項、3条3項)。 なお、連結子会社の決算日が変更されたこと等により、当該連結子会社の事業年度の月数が、連結会計年度の月数と異なる場合には、その旨及びその内容を連結財務諸表に注記するものとされている(連結財務諸表規則ガイドライン3-3)。 親子会社又は子会社の決算日の変更に伴う会計処理及び比較情報の開示については、比較情報研究報告Q6に詳細に規定されているので、実際に決算日の変更を行う際には参照していただきたい。 (了)
税理士事務所の労務管理Q&A 【第28回】 「健康保険被扶養者認定における年収要件」 特定社会保険労務士 佐竹 康男 令和7年度税制改正において、19歳以上23歳未満の親族等を扶養する場合における特定扶養控除の要件の見直し等が行われたことを踏まえ、健康保険の被扶養者の認定を受ける人が19歳以上23歳未満である場合(被保険者の配偶者を除く)の年収要件の取扱いが変わりました。今回は健康保険被扶養者の認定について解説します。 * * 解 説 * * 1 被扶養者の範囲 被扶養者とは、三親等内の親族で主として被保険者により生計を維持されている下記の人をいいます。 2 生計維持関係 被扶養者になるためには、被保険者との生計維持関係が必要となりますが、生計維持関係とは、被保険者と生計を同じくしている一定の収入以下の人をいいます。認定対象者に収入がある場合の認定基準は下記の通りです。 (※) (180万円)は、認定対象者が60歳以上である場合又は概ね障害厚生年金の受給要件に該当する程度の障害者である場合。 3 年収の考え方 年収とは、過去の収入のことではなく、被扶養者に該当する時点及び認定された日以降の概ね1年間の見込み収入額のことで、所得税の算定期間のように1月~12月ではありません。 また、被扶養者の収入には、給与や公的年金のみならず、雇用保険の失業等給付、健康保険の傷病手当金や出産手当金などの非課税収入も含まれます。 4 今回の改正点 19歳以上23歳未満の者の被扶養者認定における年収要件が変わりました。 税制改正における取扱いと同様、学生であることの要件でなく、あくまでも年齢によって判断します。ただし、配偶者は今回の改正の対象になりません。 扶養認定日が令和7年10月1日以降で、扶養認定を受ける人が19歳以上23歳未満の場合(被保険者の配偶者を除く)は、「年収130万円未満」が「年収150万円未満」に変わります。なお、この「年収要件」以外の要件に変更はありません。 5 留意点 実務対応を含めた留意点は、下記のとおりです。申請時期により適用基準が異なるため、注意が必要です。 (了)
事例で検証する 最新コンプライアンス問題 【第34回】 「信用組合による不正融資と、その後の第三者委員会への調査妨害(上)」 弁護士 原 正雄 I信用組合は、福島県いわき市に本店を置く信用協同組合である。 2024年9月30日当時、店舗数15店、常勤役職員200名弱で、約4万人の組合員から約2,100億円の預金を集めるとともに、約1,200億円の貸出しを行っていた。 2024 年9月、X(旧Twitter)上でI信用組合が粉飾決算をしているなどとの投稿がなされたことが契機となって不正が発覚し、I信用組合は第三者委員会を設置した。 2025年5月30日、第三者委員会が調査を終了し、調査報告書を完成させた。I信用組合は同報告書(公表版)を公表するとともに、プロパー役員が1名を除き全員辞任することや、外部から新役員を迎えることを公表した。 本稿は、同報告書が報告する不正のうち、①約250億円の不正融資、②約2億円の横領とその隠蔽、③I信用組合による第三者委員会の調査への妨害の三つを中心に論ずる。 1 約250億円の不正融資 調査報告書によれば、I信用組合は、①不正融資として、当初は「迂回融資」を行い、その後は「無関係の個人名義を借用した融資」を行っていた。 (1) 迂回融資 I信用組合は、大口融資先にXグループがあった。2004年当時、Xグループは資金繰りに困窮していた。Xグループからの返済が滞れば、I信用組合は、多額の貸倒引当金を計上しなければならなかった。 しかし、I信用組合は、2002年にT信用組合を救済合併していた。Xグループは、T信用組合においても大口融資先であった。T信用組合と合併したことで、I信用組合のXグループへの融資残高は倍増し、与信上限を大幅に超過してしまった。追加融資はもはや不可能となっていた。 I信用組合の代表理事らは、I信用組合の存亡に関わるとの危機感を抱き、Xグループへの資金注入が必要と判断した。そこで、I信用組合は、Xグループへの迂回融資を決定し、遅くとも2004年3月には迂回融資を開始した。 (2) 借名融資 迂回融資によるXグループへの資金注入は、事業実態がないペーパーカンパニーを経由したもので、発覚のリスクを伴っていた。 そこで、2007年12月、当時の代表理事らは、借名融資を実行して資金を捻出し、その資金によって実施済みの迂回融資を回収することを決定した。I信用組合は、2010 年5月頃までに迂回融資を借名融資に切り替えた。借名融資は、当初は役員名義を使用していたが、その後、役職員の家族・親族・友人・知人の名義や、既存顧客などの名義を無断で使用するようになった。 Xグループへの資金注入は、2011年3月に東日本大震災が発生してXグループの営業が休止したことで不要となった。もっとも、そのままでは実施済みの借名融資の返済が延滞し、不正融資が発覚するおそれがあった。そこで、当時の代表理事らは、実施済みの借名融資の利払いや元金返済に当てるため、借名融資を継続して資金を捻出し続けることを決めた。その結果、無断借名融資は、2024年2月頃まで継続することとなった。 (3) 不正融資の金額 ① 総額と外部流出額 I信用組合の不正融資は、累計約250億円(約1,300件)に及ぶ、極めて大規模なものであった。内訳は、迂回融資が約18億円(54件)、無断借名融資が約230億円(1,239件)であった。 ただし、不正融資の利息や返済金としてI信用組合に還流した分もあるため、外部流出額は約22億円と推計されている。 ② 震災被害回復のための資本増強と、直接償却への流用 東日本大震災をきっかけに、2012年1月、全信組連からI信用組合に200億円の資本増強支援がなされた。I信用組合が「被災した地域の中小規模事業者や個人の皆様に対する円滑な資金供給」を行うためのものであった(全国信用協同組合連合会2016年6月特定震災特例経営強化指導計画)。 ところが、I信用組合は、資本増強として200億円を得たことを奇貨として、それを財源に流用して無断借名融資を直接償却してしまった。直接償却とは、回収不能の債権について損失処理を行い、バランスシートの資産項目から抹消することである。直接償却をして「なかったこと」にされた無断借名融資は、約10億円(59件)にのぼる。 「被災した地域の中小規模事業者や個人」のために用いられるはずの約10億円が、不正を隠蔽する目的に流用されてしまった。 (4) 組織としての隠蔽 I信用組合は、無断借名融資が発覚しないよう、本部と支店で組織として隠蔽を行った。 まず、監査部が行う内部監査では、無断借名融資について指摘しないよう、前任者からの引き継ぎや、役員からの指示がされていた。 また、貸付の返済期日が迫ると債務者に「期日到来のお知らせ」通知が発送される。無断借名融資の場合、名義を無断で利用していた顧客にそうした通知が発送されてしまう。そこで、管理担当役員が無断借名融資に係る通知を抜き取る等していた。 さらに、本件不正融資は、約20年という長きにわたり、延べ16店舗で25名もの役職員が借入申込書等の偽造を行っていた。さらに営業店での稟議書の作成や、本部での審査、融資実行後の払出し、金銭の運搬・保管等も行われており、多数の役職員が関与し、またはその存在を認識・推測していたが、声をあげる者はいなかった。 稀に、無断借名融資の存在を知らない職員が通常業務の中で疑問を抱き確認することがあった。そうした場合、支店長や融資担当者は「本部案件だからそのまま稟議を回してほしい」「言われたとおりにやればいい」「見なかったことにしてくれ」「綺麗ごとばかりではない」「会社にいたいのであれば触れないように」「会社にいたければ黙っているように」などと伝えていた。 2 約2億円の横領とその隠蔽 不正融資はI信用組合を着実に蝕み、さらなる不正を招いてしまった。調査報告書によれば、②I信用組合職員(当時)Y氏が約2億円(I信用組合に生じた損失額)を横領し、I信用組合は当該横領を二回把握しつつ、二回とも組織的に隠蔽してしまった。 (1) 横領と、一回目の隠蔽 Y氏は、2010年2月頃、顧客名義を無断借用して借名融資を実行し、その融資金を着服するなどの方法で横領を開始し、繰り返し実行した。これは、I信用組合が行っていた無断借名融資の模倣であった。I信用組合が無断借名融資をしていなければ、Y氏による横領は行われていなかったかもしれない。 2013年6月頃、Y氏による横領が発覚した。しかし、当時の代表理事4名は、本件横領を隠蔽するとの方針を決定した。Y氏を処分すると、無断借名融資も明るみに出てしまうと考えてのことであった。無断借名融資が、さらなる不正へと拡大してしまった。 その後、I信用組合は、Y氏に何らの処分も下さず同じ支店で勤務させ続けた。また、横領による損失は、無断借名融資を実施して約1億2,000万円を捻出することで穴埋めをしたようである。 (2) 横領の再開と、二回目の隠蔽 I信用組合が何らの処分もしなかったことから、2013年6月、Y氏は横領を再開した。横領を隠蔽したことが、さらなる横領を招いてしまったのである。 2014年9月、再開後の横領が発覚した。報告を受けた理事の中には「Y氏に何らかの処分を下すべきではないか」と発言した者もいたが、当時の代表理事3名は、再び横領を隠蔽することを決定した。前回も隠蔽した以上、ここでY氏を処分すると、無断借名融資に加えて前回の横領の隠蔽も明らかになってしまう。その責任を回避するためには、隠蔽を繰り返すしかなかった。 I信用組合は、一回目と同様にY氏に何らの処分も下さず、横領による損失額(最大1億円程度)を、本部現金を用いて穴埋めした。 (了)
〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例110】 河西工業株式会社 「過年度決算の訂正、開示遅延に関する原因分析と再発防止策について」 (2025.10.8) 公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、河西工業株式会社(以下「河西工業」という)が2025年10月8日に開示した「過年度決算の訂正、開示遅延に関する原因分析と再発防止策について」である。 同日に「2025年3月期第3四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」と「2025年3月期決算短信〔日本基準〕(連結) 」、そして「過年度有価証券報告書等の訂正報告書の提出及び過年度決算短信等の訂正に関するお知らせ」を開示しているのだが(2025年6月19日に「2025年3月期第3四半期決算短信および2025年3月期決算短信の開示遅延ならびに第94期有価証券報告書(自2024年4月1日至2025年3月31日)の提出期限の延長承認申請の検討に関するお知らせ」を開示していた)、その開示遅延と決算訂正に関する原因分析と再発防止策を記載している。 2 問題は以前から 今回の開示遅延と決算訂正は、メキシコにある子会社における決算の誤りが原因なのだが、そのメキシコ子会社において決算の誤りが判明したのは、今回が初めてではない。 2023年6月27日には、そのメキシコ子会社における決算の誤りを理由として、2023年3月期の四半期決算短信と決算短信のすべてを訂正している(「(訂正・数値データ訂正)『2023年3月期第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)』の一部訂正に関するお知らせ」、「(訂正・数値データ訂正)『2023年3月期第2四半期決算短信〔日本基準〕(連結)』の一部訂正に関するお知らせ」、「(訂正・数値データ訂正)『2023年3月期第3四半期決算短信〔日本基準〕(連結)』の一部訂正に関するお知らせ」、「(訂正・数値データ訂正)『2023年3月期決算短信〔日本基準〕(連結)』の一部訂正に関するお知らせ」)。 さらに2024年7月22日には「過年度決算短信等の訂正に関するお知らせ」を開示して、そのメキシコ子会社における決算の誤りを理由として、2021年3月期から2024年3月期にかけての決算短信と四半期決算短信を訂正している。 そのため、河西工業の2023年3月期以降の内部統制報告書では、開示すべき重要な不備があり、財務報告に係る内部統制は有効でないとされている(2023年6月30日開示「財務報告に係る内部統制の開示すべき重要な不備に関するお知らせ」、2024年7月29日開示「財務報告に係る内部統制の開示すべき重要な不備に関するお知らせ」、2025年10月8日開示「財務報告に係る内部統制の開示すべき重要な不備に関するお知らせ」)。 今回、誤りはすべて判明したのだろうか。また、今回の開示では、1頁ほどの「再発防止策の概要」が示されているが、それで大丈夫なのだろうか。 3 海外子会社における特別損失 河西工業は、メキシコ以外にも多くの海外子会社を抱えているのだが、2020年以降、それらの会社で多額の特別損失が相次いで計上されている。 2020年には英国子会社における工場閉鎖に伴う特別損失とスロバキア子会社における固定資産の減損損失が計上され(2020年3月13日開示「特別損失の計上、通期連結業績予想の修正並びに配当予想の修正に関するお知らせ」)、翌2021年には、そのスロバキア子会社が解散することになり、それに伴う特別損失が計上されている(2021年6月10日開示「当社一部事業の撤退に伴う子会社の解散並びに特別損失の計上に関するお知らせ」、2021年11月12日開示「特別損失の計上に関するお知らせ」)。また、2022年には北米子会社において固定資産の減損損失が計上されている(2022年2月10日開示「特別損失の計上に関するお知らせ」。2025年4月28日にも「特別損失の計上に関するお知らせ」を開示し、固定資産の減損損失を計上)。 2025年に入っても、ドイツ子会社を譲渡し、それに伴う特別損失が計上されたほか(2025年3月19日開示「連結子会社の異動(子会社株式の譲渡)及び特別損失の計上ならびに個別決算における特別損失の計上に関するお知らせ」)、中国子会社において固定資産の減損損失が計上されている(2025年10月8日開示「(開示事項の経過)特別損失の計上額の確定及び特別損失の計上に関するお知らせ」)。 海外投資全般がうまくいかなくなっているようである。なお、2020年3月13日に開示された「特別損失の計上、通期連結業績予想の修正並びに配当予想の修正に関するお知らせ」には、業績予想の下方修正についても記載されており、その「修正の理由」には「新型コロナウイルスの感染拡大により、得意先の減産影響を受け」と記載されている。コロナ禍をきっかけとしてうまくいかなくなったのかもしれない。 4 メキシコ子会社だけか? メキシコ子会社における決算の誤りは、同社を適切に管理できていなかったために生じたのだが、他の海外子会社は適切に管理できているのだろうか。今回の開示の「決算の誤りが発生した原因の分析」において、原因の一つとして「KMEXの決算財務報告プロセスに対し、十分な関与ができなかったこと」が挙げられているが、その記載は次のとおりである(一部省略。「KMEX」はメキシコ子会社)。 この記載を見ると、他の海外子会社を適切に管理できているのか、不安に思われてくる。加えて、他の海外子会社の多くは業績が悪いようである。今回、メキシコ子会社で判明したのは決算の誤りだが、業績が悪いと、親会社に対して業績を良く見せるため、意図的な不正を行おうとするようになるかもしれない。 河西工業の業績は良くなく、2025年3月期は営業損失を計上している。現在の同社には、多くの海外子会社を適切に管理する力が残されていないのかもしれない。今回判明したのは、メキシコ子会社における決算の誤りだけだが、この際、他の海外子会社においても問題が生じていないかを調査した方がいいのではないだろうか。そして、海外子会社の管理が難しいようであれば、グループ全体のあり方について検討すべきかもしれない。 (了)
《速報解説》 ASBJが「期中財務諸表に関する会計基準」等を公表 ~補足文書として「実務対応報告及び移管指針において定めている期中の取扱い」も示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2025年10月16日、企業会計基準委員会は、「期中財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第37号。以下「期中会計基準」という)等を公表した。 これにより、2025年4月23日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。 公開草案に寄せられた主なコメントの概要とそれらに対する対応も公表されている。 上場会社及び財務諸表利用者から中間決算と四半期決算は同じ会計基準等に基づいて行うべきであるとの意見が聞かれていたことから、「中間財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第33号)と「四半期財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第12号)などについて、統合した会計基準等とし、「期中財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第37号)及び「期中財務諸表に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第34号。以下「期中適用指針」という)などとして開発したものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 開発にあたっての基本的な方針 同じ企業が作成する期中財務諸表であるにもかかわらず金融商品取引法と金融商品取引所の定める規則のいずれに基づくかにより会計処理に不整合が生じることは適切ではないと考えられることから、次の考え方を採用している(期中会計基準BC15項~BC18項)。 Ⅲ 範囲 期中会計基準は、期中財務諸表を作成する場合に適用する(期中会計基準3項)。 ただし、第二種中間連結財務諸表及び第二種中間財務諸表については、「中間連結財務諸表作成基準」、「中間連結財務諸表作成基準注解」、「中間財務諸表作成基準」及び「中間財務諸表作成基準注解」並びに「『中間連結財務諸表等の作成基準』の一部改正」(企業会計基準第38号)を適用する。 金融商品取引法に基づく半期報告書において開示される第二種中間財務諸表等については、従前より中間作成基準等が適用されており、引き続き中間作成基準等が適用される(期中会計基準3項)ため、期中会計基準の適用対象となる期中財務諸表には含まれない(期中会計基準BC22項)。 また、臨時計算書類については、期中会計基準の適用対象とする期中財務諸表には含まれないと考えられている(期中会計基準BC22項)。 Ⅳ 定義 例えば、次の定義が規定されている(期中会計基準4項)。 Ⅴ 期中連結財務諸表の範囲 期中連結財務諸表の範囲は、「包括利益の表示に関する会計基準」(企業会計基準第25号)に従って、1計算書方式による場合、期中連結貸借対照表、期中連結損益及び包括利益計算書、並びに期中連結キャッシュ・フロー計算書とする(期中会計基準5項)。 また、2計算書方式による場合、期中連結貸借対照表、期中連結損益計算書、期中連結包括利益計算書及び期中連結キャッシュ・フロー計算書とする。 期中個別財務諸表の範囲は期中会計基準6項に規定されている。 Ⅵ 会計処理 次のように規定されている(期中会計基準9項、10項、14項)。 Ⅶ 有価証券の減損処理などの個別の項目 前述の「Ⅱ 開発にあたっての基本的な方針」で述べた原則に照らして、個別に検討を行った項目は次のとおりである(期中会計基準BC16項)。 有価証券の減損処理及び棚卸資産の簿価切下げに係る方法については、期中洗替え法が原則とされている(期中適用指針4項、7項)。 ただし、期中適用指針の適用前に「中間財務諸表に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第32号)又は「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第14号)に基づき切放し法を適用していた場合には、継続して切放し法を適用することができる(期中切放し法を適用する場合には、その旨を注記する)。 期中会計基準は、上記の個別に検討を行ったものを除いて、基本的に「四半期財務諸表に関する会計基準」等と「中間財務諸表に関する会計基準」等の定め及び考え方を引き継いでいる(期中会計基準BC17項)。 このため、期中会計基準の開発にあたり再検討を実施せずに考え方を引き継いでいるものについては、「四半期財務諸表に関する会計基準」等及び「中間財務諸表に関する会計基準」等の結論の背景をそのまま引用している(期中会計基準BC17項)。 「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第6号)145-2項では、期中会計基準において「有価証券の減損処理及び棚卸資産の簿価切下げに係る方法」について洗替え法を原則とすることとしたが、固定資産の減損会計について洗替え法の採用を求めるものではないと記載されている。 「金融商品会計に関するQ&A」(移管指針第12号)Q31には次の記載があったが、削除されている。 Ⅷ 期中財務諸表の科目の表示 次のように規定されている(期中会計基準21項、22項)。 Ⅸ 注記事項 重要な会計方針について変更を行った場合に関する事項、セグメント情報等に関する事項、収益の分解情報に関する事項などについて規定されている(期中会計基準24項)。 Ⅹ 6ヶ月ごとより高い頻度で期中財務諸表を作成する場合の固有の取扱い 第一種中間財務諸表等及び四半期財務諸表に共通の取扱いと、四半期財務諸表のみに適用される取扱い(6ヶ月ごとより高い頻度で期中財務諸表を作成する場合の固有の取扱い)を区分し、6ヶ月ごとより高い頻度で期中会計基準に従い期中財務諸表を作成する場合には、期中会計基準26項までの記載に加えて、28項から33項を適用する(期中会計基準27項、BC18項(1))。 例えば、期中キャッシュ・フロー計算書の開示の省略について規定されている(期中会計基準33項)。 Ⅺ 適用時期等 2026年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の最初の期中会計期間から適用する(期中会計基準34項)。 期中会計基準の適用初年度において、期中会計基準の定めに従い会計方針を変更する場合には、新たな会計方針を適用初年度の最初の期中会計期間から将来にわたって適用する(期中会計基準35項)。 Ⅻ 補足文書 補足文書を公表し、「(別紙)実務対応報告及び移管指針において定めている期中の取扱い」を示している。 (了)