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国際課税レポート 【第24回】「トップアップ課税の免除と越境電子商取引への消費税課税の強化」~令和8年度税制改正~

国際課税レポート 【第24回】 「トップアップ課税の免除と越境電子商取引への消費税課税の強化」 ~令和8年度税制改正~   税理士 岡 直樹 (公財)東京財団上席フェロー   令和8年度税制改正法案の国会提出(2月20日) 令和8年2月18日に発足した第2次高市内閣は、2日後の同月20日、令和8年度税制改正関連法案を閣議決定し、国会に提出した。 昨年の令和7年度税制改正では、政府案が令和7年2月4日に提出され、その後、同月28日に与党修正案が提出され、最終的に3月31日に成立した。令和8年度の法案提出は、令和7年度と比べるとやや後ろ倒しとなったが、高市早苗総理大臣は、国会答弁で年度内成立を目指すと強調している。   国際課税・国境を越える取引関係の改正項目 令和8年度税制改正のうち、クロスボーダー取引に関係する主な項目としては、次の2つを挙げることができる。 グローバル・ミニマム課税関係の見直し(米国多国籍企業等に対する適用免除基準の創設) 国境を越えた電子商取引に係る消費税の適正化(少額輸入貨物課税の拡大とプラットフォーム課税の創設) 本稿では、これらの改正の概要を簡単に紹介したい。 ※なお、令和8年度税制改正法案は第221回国会で審議中である(3月12日現在)。本稿は税制改正大綱及び法案ベースの内容に基づいており、今後異同があり得る。なお、条文番号は原則として改正法案のそれによる。   グローバル・ミニマム課税の見直し わが国は、OECD/G20の「BEPS包摂的枠組み」で合意されたグローバル・ミニマム課税に対応するため、令和5年度(2023)税制改正において所得合算ルール(IIR)、令和7年度(2025)税制改正において軽課税所得ルール(UTPR)、国内ミニマム課税(QDMTT)を導入し、多国籍企業の実効税負担率が15%を下回る場合、15%との差分についてトップアップ課税するための制度を整備してきた。 令和8年度改正では、一定の要件を満たす国又は地域について、財務大臣が指定した場合、その国又は地域(以下便宜上「対象国」という)を最終親会社所在地国とする特定多国籍企業グループ等につき、トップアップ税額を零とする(本稿では、便宜上トップアップ課税の免除と呼ぶ)適用免除基準や(法人税法第82条の3第7項)、国際最低課税残余額(UTPR)から当該対象国に最終親会社を置く多国籍企業を除外する適用免除基準(法人税法第82条の11第4項)を設けることとされている。 トップアップ税額を零とするための要件としては、20%以上の税率で会社等の所得に対する租税が課されること(法人税法第82条の3第7項第1号)、自国内最低課税額に係る税(QDMTT)又は15%以上の補完的課税があること(同条第7項第2号)、子会社等の所得を原則として広く親会社側で益金算入する規定があること(同条第7項第3号)などが掲げられている。 〈法人税法の改正(抜粋)〉 これは、2025年6月28日に発出された「グローバル・ミニマム課税に関するG7声明」を受けて、予定されていた年末を越えて2026年1月5日に公表した「共存パッケージ」を実施するためのものだ。その中核は、令和8年1月23日に閣議決定した文書において「米国を含む一定の要件を満たす国の制度との共存」としているように、米国多国籍企業にグローバル・ミニマム課税の「トップアップ税」を適用しないことを確保することにあると言ってよい(経緯について詳しくは、本連載【第22回】を参照)。 この見直しは、国際課税実務との摩擦を回避する観点から歓迎できる。この見直しの根底にある内容は、昨年6月のG7声明で、日本も当事者の一人として国際的に合意したものであり、この見直しなしですでに適用が開始されている(2024年4月以後に開始する会計年度)「国際最低課税額」(IIR)や「国際最低課税残余額」(UTPR)の規定を米国多国籍企業に適用した場合には、日本企業や日本の個人は米国で「報復的な」課税を受ける可能性があったからだ。今回の改正は、国際合意を踏まえて重要な制度調整を行うものと理解できる。   「国際基準」(ソフトロー)の「国内法基準」化と租税法律主義 もっとも、技術的には、わが国のこれまでの租税法にみられない規定となっている点に注目しておきたい。制度の発動要件(具体的には、グローバル・ミニマム税のためのトップアップ税が零となる要件)は、①「次に掲げる要件その他の財務省令で定める要件を満たしていると」②「国際的に認められる国又は地域として財務大臣が指定する国又は地域」の多国籍企業という二層構成を採っている。このため、多国籍企業からみると、どの国がいつ指定対象となるのか、どの程度安定的に運用されるのかは、現時点の資料等からだけではなお見通しにくい。国内法上の指定制度がOECDにおける議論や合意といった“ソフトロー”に依拠する点で、不確実性が残る仕組みとなっているようにも思われる。 租税法律主義(憲法84条)の縛りが強い日本においては、主要要件を国内法法律に置きつつ(ただし、日本独自のものではなく、「共存パッケージ」の内容をなぞったもの)、国際合意を踏まえた指定制度を組み合わせる2層構造の基準は、比較法的には理解可能であるが(後述の「国際基準の国内基準化の方法」参照)、その分、指定基準や運用方針の明確化が不可欠になるように思う。 OECDは対象国について公示する制度「Central Record」を導入し、対象となる制度を持つ国名を掲示している(例えば、トップアップ課税を免除する共存セーフハーバーの対象国としては米国だけが記載されている)。 したがって、これを直接引用できれば簡便であるが、OECD/G20の「BEPS包摂的枠組」は条約等に基づいた組織ではないし、「共存パッケージ」は事務運営指針(administrative guidance)と呼ばれるソフトローである。これを直接根拠とし、参照(cross-reference)により「法源」とすることはできないのかもしれない。しかし、そうであれば、国内法に規定する要件を満たしていると「国際的に認められる」とは何を意味しているのかが重要になる。 申告実務においては今後示される財務大臣の指定に従うほかないが、この問題は立法裁量と委任の限界なども含め、いくつかのこれまでに経験していない興味深い問題を内包している可能性がある。この点については、今後の説明や評価を待つこととしたい。   電子商取引(BtoCの物販)の拡大 今回の改正の背景には、プラットフォーム等を利用した物販のBtoC市場規模の拡大がある。経済産業省によると、物販系分野のBtoC EC市場規模は2024年に15.2兆円に達しており、コンピューターネットワーク上で受発注が行われるEC取引の率は9.78%となっている。 【図1】 BtoC EC物販市場の拡大とEC化率 (出所) 経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査報告書」5頁より引用。なお、EC化率は、電話、FAX、Eメール、相対(対面)等も含めた全ての商取引金額(商取引市場規模)に対するEC市場規模の割合と定義されている(16頁)。また、ECとは、「インターネットを利用して、受発注がコンピュータネットワークシステム上で行われること」としている(13頁)。   少額貨物の輸入の増加 また、課税価格の合計額が1万円以下の貨物で、輸入時に課される消費税等が免除される少額貨物の輸入金額・件数も大幅に増加している。 2019年には3,146万件、860億円、1件平均2,734円であったものが、 2024年には16,966万件、4,258億円、1件平均2,510円となった 少額貨物への消費税免税制度については、近年、廃止する国が増えていることから、わが国の消費税1万円以下の少額輸入貨物の免税制度の基準が相対的に見て高い状況が生まれている。 【図2】 少額免税貨物に対する消費税・関税免除制度 (注) 米国の関税免税基準額は、トランプ大統領令により、2025年8月29日に停止されている。 (出所) 財務省「国境を越えたEC取引に係る適正な課税に向けた課題」(令和7年5月13日)9頁より抜粋して引用。なお、原文にあった注(※1~※4)は割愛している。   海外から直送される少額資産(1品あたり1万円以下)への消費税課税の拡大 国境を越えて行われる通信販売のうち、1万円以下の少額輸入貨物の販売を、資産の譲渡等に係る消費税の課税対象とすることとされた(消費税法第4条第3項)。 この見直しは、国内事業者と越境EC事業者との競争条件を平準化するという点で理解しやすい。国内販売には消費税が課されるのに、海外からの少額貨物に有利な扱いが残ると、中立性が損なわれるからである。 他方で、登録番号の付記、輸入申告との連動、特定少額資産販売事業者の登録、公表・通知義務、仕入税額控除との関係整理など、実務上の対応事項は多い。制度目的は理解できるが、海外事業者、プラットフォーム事業者、通関実務のそれぞれにそれなりに重いコンプライアンス負担を課す点は否定し難い。   資産の譲渡に係るプラットフォーム課税の創設(アプリ課税と同様の仕組みを物販に導入) 資産の譲渡に係るプラットフォーム課税制度が創設される。対象は、デジタルプラットフォームを介した次の2つである。 国外事業者が国内で行う資産の譲渡(国内の倉庫から国内の消費者に商品を発送するようなケース。消費税法第15条の3第1項第1号) 事業者が行う特定少額資産の譲渡(消費税法第15条の3第1項第2号) ※特定少額資産の譲渡とは、通信販売の方法により、国内以外の地域から国内宛てに発送される資産で、1個あたりの対価額が1万円(税抜き)以下のもの(消費税法第2条第1項第8号の6)。 これらがデジタルプラットフォームを介して行われ、その対価が国税庁長官が指定するプラットフォーム事業者(「第二種プラットフォーム事業者」)を介して収受される場合には、その第二種プラットフォーム事業者が当該譲渡を行ったものとみなされ、納税義務者となる(消費税法第15条の3を新設)。 指定基準は、当該対価のうち当該プラットフォーム事業者を介して収受する額の合計が課税期間に50億円を超える場合である。通知・公表、明細書添付、仕入税額控除の特例も併せて整備されている。 無数の国外販売者を個別に追うよりも、大規模なプラットフォーム事業者に納税義務を転換する方が、執行可能性を高めるという意味で合理性がある。 もっとも、50億円基準の下では、中規模事業者やプラットフォーム外取引には同じ仕組みが及ばない。そのため、制度は徴税可能性を高める一方で、課税の網に一定の段差を残す構造でもある。これは制度設計上の割り切りであるが、適正課税の担保と社会的なコストのバランスの観点から、理解できるものである。 なお、この仕組みの原型としては、令和6年度税制改正で導入され、令和7年4月1日から適用された、国外事業者によるアプリ配信等の消費者向け電気通信利用役務の提供に対するプラットフォーム課税がある。今回の改正により、クロスボーダーの消費税課税において、プラットフォーマーを納税義務者とする流れが明確になったと言えるだろう。   国会審議への期待 令和7年度税制改正法案は、最終的に3月31日に成立した。令和8年度税制改正法案は2月20日に国会提出され、3月9日時点では衆議院で審議中である。税制改正法は、成立後の解釈や将来の紛争処理において立法趣旨が参照される場面もあり、議会での議論は将来の解釈・適用にも影響がある。したがって、国民生活や企業活動への影響が大きい改正については、十分な審議を行い、法案の趣旨と射程を明らかにすることが望ましい。 【表】 税制改正日程(令和8年3月12日現在) 令和8年度税制改正 (参考)令和7年度税制改正 税制改正大綱閣議決定 令和7年12月26日 令和6年12月27日 追加閣議決定 令和8年1月23日(※1) 法律案閣議決定・国会提出 令和8年2月20日 令和7年2月4日 与党修正案国会提出 令和7年2月28日(※2) 法律の成立 令和7年3月31日 (※1) 「グローバル・ミニマム課税に係る国際合意を踏まえた措置」 (※2) 基礎控除の特例を創設するための修正案(自民・公明案) (出所) 筆者作成。 令和8年度改正には、基礎控除等の物価連動見直し、AI・量子等を対象とする戦略技術領域型研究開発税制、NISAの拡充、防衛特別所得税の創設など、従来の枠組みに収まらない先駆的な項目も多く含まれている。国際課税・消費課税の分野でも、制度の実務運用と予見可能性の確保は今後の大きな論点であり、国会審議において必要な議論がなされることが期待される。   (了)

#No. 660(掲載号)
#岡 直樹
2026/03/12

2026年3月期決算における会計処理の留意事項 【第1回】

2026年3月期決算における会計処理の留意事項 【第1回】   史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋     Ⅰ 法定実効税率 2025年2月4日に国会に提出された令和7年度税制改正に係る「所得税法等の一部を改正する法律案」において、防衛特別法人税が2026年4月1日以後に開始する事業年度から課されることとなった。そして、2025年3月決算の会社において防衛特別法人税の税効果会計における取扱いがないため、それを明らかにするために2025年2月20日にASBJから補足文書「2025年3月期決算における令和7年度税制改正において創設される予定の防衛特別法人税の税効果会計の取扱いについて」(以下「補足文書」という)が公表された。 その後、令和7年3月 31 日に公布された「所得税法等の一部を改正する法律(令和7年法律第13号)(令7改正法)」により「我が国の防衛力の抜本的な強化等のために必要な財源の確保に関する特別措置法(防確法)」が改正され、防衛特別法人税が創設された。そして、2026年2月7日にASBJから、実務対応報告第48号「防衛特別法人税の会計処理及び開示に関する当面の取扱い」(以下「防衛取扱い」という)が公表された。防衛取扱いは2026年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用される。 なお、令和8年度税制改正は今後行われる予定であるが、法定実効税率への影響はないと考えられる。   1 法定実効税率 法定実効税率については、防衛特別法人税率は地方法人税率と同様に取り扱うとされている(補足文書13、防衛取扱い9)。防衛特別法人税は2026年4月1日以後に開始する事業年度から適用されるため、2026年3月決算で使用する法定実効税率は防衛特別法人税を考慮して、繰延税金資産及び繰延税金負債を算定する。   Ⅱ 外形標準課税の改正 令和6年度税制改正により、法人事業税の外形標準課税について、従前の外形標準課税の適用対象法人(事業年度終了の日において資本金1億円超の法人)に加え、以下1、2に該当する法人についても外形標準課税の対象とする改正が行われている。   1 外形標準課税の対象の追加 事業年度末時点で資本金1億円超の法人に加えて、資本金が1億円以下であっても以下の要件をすべて満たす法人は、外形標準課税の対象となる。   2 駆け込み減資への対応 駆け込み減資を行い、外形標準課税の対象から外れることを防止するため、以下の経過措置が設けられている。 (出所:総務省「法人事業税における外形標準課税」)   3 100子法人等への対応 一定規模以上の親会社の子会社についても実態に応じて外形標準課税の対象とするため、以下の要件をすべて満たす子会社は、外形標準課税の対象となる。 (出所:総務省「法人事業税における外形標準課税」) なお、この対応によって、新たに外形標準課税の対象となったことにより、法人事業税額が従来の税額を超えることとなる場合は、以下のとおり税負担が軽減される。 2026年4月1日から2027年3月31日まで の間に開始する事業年度 当該超える額の3分の2を軽減 2027年4月1日から2028年3月31日まで の間に開始する事業年度 当該超える額の3分の1を軽減   4 適用時期 適用時期は、以下のとおりである。 1 外形標準課税の対象の追加 2 駆け込み減資への対応 2025年4月1日以降開始する事業年度から適用 3 100%子会社への対応 2026年4月1日以降開始する事業年度から適用   5 中間申告義務 中間申告の義務も以下のように改正されている。 改正前 改正後 中間申告義務を有することとされる外形標準課税の適用対象法人であるかどうかの判定は、当該事業年度開始の日以後6か月を経過した日の前日の現況による。 中間申告義務を有することとされる外形標準課税の適用対象法人であるかどうかの判定は、当該事業年度の前事業年度の事業税について外形標準課税の適用対象法人であるかどうかによる。 2025年4月1日以後開始事業年度においては、前事業年度について外形標準課税の適用対象法人(従前の外形標準課税の適用対象法人(事業年度終了の日において資本金1億円超の法人)を含む)である場合には、当該事業年度開始の日以後6か月を経過した日の前日において外形標準課税の対象外であっても、中間申告を行う必要がある。   Ⅲ 令和8年度税制改正大綱 2025年12月26日に令和8年度税制改正大綱が公表されている。本解説では、この中から多くの企業に影響する項目について解説する。 〈企業グループ間の取引に係る書類保存の特例の創設〉 1 概要 内国法人が関連者との間で特定取引を行った場合、その取引に関して、取引関連書類等にその取引に関する資産又は役務の提供の明細、その取引においてその内国法人が支払うこととなる対価の額の計算の明細等のその取引に係る対価の額を算定するために必要な事項の記載又は記録がないときは、その記載又は記録がない事項を明らかにする書類(電磁的記録を含む)を取得し、又は作成し、かつ、これを保存しなければならない。 書類の保存が法令の定めに従って行われない場合は、青色申告の承認の取消事由等となる。 関連者 移転価格税制における関連者(株式保有割合50%以上の持株関係や役員兼務による実質的支配関係等があるもの)と同様の基準により判定 特定取引(販売費、一般管理費その他の費用 の額の基因となるものに限る) ① 資産の譲渡又は貸付け ・工業所有権その他の技術に関する権利、特別の技術による生産方式又はこれらに準ずるもの ・著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む) ・プログラムの著作物 ② 役務の提供 ・一定の研究開発、広告宣伝等の事業活動 ・資産を使用させる行為、維持及び管理 ・関連者が内国法人に対して行う経営の管理又は指導、情報の提供等の役務の提供で一定のもの ・以上の役務の提供に類するもの 取引関連書類等 注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類(電磁的記録を含む)   2 実務上の留意点 グループ間の資産の譲渡・貸付け、役務の提供について「対価の額の計算の明細等のその取引に係る対価の額を算定するために必要な事項の記載又は記録がないときは、その記載又は記録がない事項を明らかにする書類」を保存することが義務付けられることになるため、これらの書類を作成していない場合は、作成する必要がある。   3 適用時期 税制改正大綱においては、適用時期は明記されていない。   Ⅳ 未適用の会計基準等の注記 2024年9月に「リースに関する会計基準」及び「リースに関する会計基準の適用指針」等が公表されている。 当該基準等は、多くの会社にとって相当程度の影響がある基準であると考えられるため、有価証券報告書では「未適用の会計基準等に関する注記」の記載を検討する必要がある。なお、連結財務諸表を作成している場合には、個別財務諸表において注記する必要はない(財務諸表等規則8の3の3、連結財務諸表規則14の4)。 なお、計算書類においては、会社計算規則上、必ずしも注記は求められていない。 【(株)マネーフォワード 2025年11月期 有価証券報告書】 (了)

#No. 660(掲載号)
#西田 友洋
2026/03/12

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第182回】株式会社サンウェルズ「外部弁護士からの調査報告書(2026年3月6日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第182回】 株式会社サンウェルズ 「外部弁護士からの調査報告書(2026年3月6日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【株式会社サンウェルズ外部弁護士による調査の概要】   【株式会社サンウェルズの概要】 株式会社サンウェルズ(報告書上は「当社」、以下、「サンウェルズ」と略称する)は、代表取締役社長の苗代亮達氏(以下、「社長」と略称する)が、2006年9月に設立。当初は石川県内を中心にデイサービスやグループホームを展開していたが、2018年よりパーキンソン病(PD)専門フロアを開設し、現在は中核事業であるパーキンソン病専門ホーム(PDハウス)を全国に40施設以上展開している。 売上高26,496百万円、経常利益388百万円、資本金35百万円、税引前当期純損失△316百万円。従業員数3,302人。社長とその資産管理会社が発行済み株式の53.66%を所有している(いずれも2025年3月期実績)。本店所在地は石川県金沢市。2022年6月、東京証券取引所グロース市場に上場し、2024年7月にはプライム市場へ区分変更。会計監査人は、有限責任監査法人トーマツ北陸事務所。 〈事案の経緯〉 2024年9月3日 前日、共同通信社が配信した記事において運営する施設で過剰訪問看護及び保険の不正請求が存在すると報じられたことを、サンウェルズ側は、そのような事実は一切ないと否定するリリース(※1)を公表 2024年9月20日 共同通信社の報道に関する調査のため、特別調査委員会を設置(※2) 2025年2月7日 調査報告書を受領し、公表(※3) 2025年2月12日 過年度有価証券報告書等の訂正(※4) 2025年5月1日 宣誓書違反による再審査に係る猶予期間入り及び上場契約違約金の徴求(※5) 2025年12月1日 運転代行サービスの利用経費等に関する調査の実施及び外部弁護士からの調査報告書の受領(※6) (※1) 「共同通信社における記事について」 (※2) 「特別長委員会の設置に関するお知らせ」 (※3) 「特別調査委員会の調査報告書の受領に関するお知らせ」 (※4) 「過年度の有価証券報告書等の訂正報告書の提出及び過年度の決算短信等の訂正に関するお知らせ」 (※5) 「宣誓書違反による再審査に係る猶予期間入り及び上場契約違約金の徴求に関するお知らせ」 (※6) 「運転代行サービスの利用経費等に関する調査の実施及び外部弁護士からの調査報告書の受領並びに再発防止策の策定及び関係者の処分に関するお知らせ」   【調査報告書の概要】 1 外部弁護士に調査を委嘱した経緯 サンウェルズは、契約していた運転代行会社のサービスについて、社長が私的目的で利用していたこと等の疑いに関する調査(以下、「前回調査」という)を外部の弁護士を起用して行ったところ、この調査の過程において、社長が東京の社有車も業務に使用していることが判明した。このような調査の結果を受け、外部機関から、上場申請時に日本取引所自主規制法人(以下、「取引所」という)に提出した「役員に割り当てられた社有車が金沢に所在の社有車1台である」という趣旨の回答内容と齟齬が生じるのではないかとの疑義を指摘されたことから、監査等委員会は、2026年1月、独立した立場の外部弁護士に依頼して、疑義について調査を行うこととした。   2 前回調査の結果概要 (1) 社長による私的利用 外部弁護士による調査の結果、社長による私的利用が確認され、その金額は、運転代行サービスで約406万円、接待交際費で約145万円など、合計614万円あまりであった。 (2) 原因分析 外部弁護士は、原因分析として、以下の5項目を挙げている。その中で、社長の接待交際費資料に関して、監査等委員会がこれを牽制し、一定の成果が上がっていたにもかかわらず、社長の理解不足と社長秘書による形式的な申請により、監査等委員会の指摘の趣旨・意図が正しく理解されておらず、適切な運用が徹底されていなかったために不適切な交際費の処理につながった部分があることも否定できないとしている。 (3) 再発防止策 外部弁護士による再発防止策の提言は、次の4項目からなっている。 (4) 財務上の影響について サンウェルズは、調査結果を受けて、社長から、運転代行サービス等の私的利用分の経費(2025年12月1日時点で確定している金額は約16百万円)に加え、本調査に要した費用の全額(2025年12月1日時点で確定している金額は約40百万円)を自主的に返還したいとの申し出があり、これを受理することとしたことから、財務上の重要な影響はないことを公表している。   3 外部弁護士による調査結果の概要 (1) 2022年3月17日付けで取引所に提出した回答書1の記載内容 報告書によれば、取引所からの「社有車について」に質問に答える形で、サンウェルズは、「2022年3月当時、社有車は80台稼働しており、社有車輛管理規程を定めて管理しており、業務での使用を目的として役員及び社員(従業員)に適用し、私用での使用・社外への貸与は禁止している、ただし、役員では社長のみ業務用として社有車1台を支給していることを回答した」(下線は引用者による)。 (2) 事実関係 外部弁護士による調査の結果、2022年3月時点において、役員に支給されていた社有車は、金沢に配置されていた車両1台に加え、東京に配置されていた車両1台の合計2台であり、サンウェルズが提出した回答書における社有車の台数の記載との間に齟齬が認められた。 ただし、社長以外の役員に社有車が支給されていた事実は認められていない。 (3) 社有車の管理記録 外部弁護士による調査の結果、金沢の社有車について作成されていた車両管理日報には、通勤や会食等の利用に関する記載が十分に反映されていない例が確認され、記録として完全に正確なものとは言い難い状況が認められた。 (4) 故意性の判断 外部弁護士による調査の結果、サンウェルズが、提出し回答書の内容に事実との齟齬が認められる点はあるものの、作成者が当時の認識に反する内容を意図的に記載したものとまでは認められなかった。   4 外部弁護士の提言を受けたサンウェルズによる再発防止策 調査報告書公表時のリリースで、サンウェルズは、次のとおり3項目からなる再発防止策を明らかにしている。 サンウェルズは、このリリースを、「これらの再発防止策を着実に実行し、社有車管理の適正化およびコンプライアンス体制の一層の強化に努めてまいります」と締め括っている。   【調査報告書の特徴】 市場区分をグロースからプライムへ変更したサンウェルズは、変更後間もなく、「診療報酬の不正請求」を報道され、最初は、これを真っ向から否定するリリースを出したものの、調査委員会を設置して事実解明に当たらざるを得なくなり、調査の結果、「診療報酬の不正請求」を認め、過年度決算の修正を行うとともに、2025年3月期決算では、638百万円の特別調査費用等を特別損失に計上して、当期純損失の決算となった。 その後、東京証券取引所による上場再審査と上場契約違約金の徴求措置を受け、おそらくは、現在進行形で証券取引等監視委員会の開示検査を受けるなかで、社長による運転代行サービスの私的利用が判明して、さらなる調査の必要が生じ、監査等委員会が外部弁護士による調査を依頼しただけでなく、その調査の過程で発見された上場審査の回答における疑義の調査のために、さらに別の外部弁護士の調査を求めるという、異例の展開をたどってきた。 極めつけは、代表取締役が私財1,000百万円を寄付し、会社はこれを特別損失に計上して、運転資金に充当するという、中小のオーナー会社でもあまり目にすることのない、巨額の資金調達を行ったことである。 一連の経緯を振り返っておきたい。   1 監査等委員会が外部の弁護士に検証を求めた理由 特別調査委員会による調査報告書には、2024年2月、不正請求に関してPDハウス職員から内部通報があり、窓口を担当する社外取締役で常勤監査等委員である山本英博氏(以下、「山本氏」という)から、当時の専務取締役及び常務取締役に情報が共有された後、常務取締役から社長にも報告されていた。通報を受けて行われた社内調査の結果は、山本氏及び社長にも報告されたが、問題自体は存在するものの指導・改善がなされているという結論であり、社長も、対応方針について異論を述べるなどはしなかったことから、結果として、この事案は、特定のPDハウスにおける個別の問題事象であるとして、内部通報を踏まえた実態把握のためのより詳細な調査等の対応はとられなかったことが説明されている。 特別調査委員会は、サンウェルズのこの内部通報への対応について、とくに批判的なコメントは附していないが、通報をもとに、外部の調査者による全社的な調査が行われていたら、共同通信による報道で不正請求が露見して、風評被害も含めて、業績に大きな悪影響を受けることは避けられたかもしれないという監査等委員会の思いが、外部弁護士による調査を求めただけではなく、さらに、調査報告書の検証を求めるという意思決定に現れていたのではないかと思料する次第である。   2 東京証券取引所による宣誓書違反による再審査に係る猶予期間入り及び上場契約違約金の徴求 2025年4月30日、東京証券取引所は、サンウェルズに対して、宣誓書違反による再審査に係る猶予期間入り及び上場契約違約金の徴求を行っている。再審査の理由としては、「市場区分の変更申請に係る宣誓書において宣誓した事項に違反し、市場区分の変更に係る基準に適合していなかったと当取引所が認めた場合に該当するため」とし、上場契約違約金6,240万円の徴求理由については、以下のように説明されている。   3 社長によるサンウェルズに対する寄付 2026年2月12日、サンウェルズは、「代表取締役からの寄付金受入及び特別利益の計上に関するお知らせ」をリリースして、苗代亮達代表取締役社長が、サンウェルズの財務基盤の強化を目的として、1,000百万円の寄付を行うことを公表した。 リリースにある「寄付の背景と理由」によると、サンウェルズは、特別調査委員会による調査の結果、訪問看護事業において診療報酬の請求が過大に行われた事実が判明したため、当該事実の対象となる部分について過年度決算の訂正を行うとともに、特別調査委員会による調査報告書において指摘された原因分析及び再発防止策の提言と真摯に向き合い、「PDハウス」の運営体制について抜本的な見直しに取り組んだ結果、収益性は一時的に大幅に低下し、2025年3月期において当期純損失925百万円、2026年3月期第3四半期累計期間において四半期純損失2,055百万円を計上するに至ったことによって、手元資金水準が低下したため、財務基盤の安定化を図るべく運転資金の確保を企図して、苗代亮達代表取締役社長から寄付金1,000百万円の受入れを行うこととしたとのことである。 翌日公表された2026年3月期第3四半期決算短信によれば、サンウェルズは、この寄付金を、2月13日に受領しているが、通期の業績予想の修正は行っていない。   4 訂正された過年度の決算内容 本稿の最後に、サンウェルズが、2025年2月12日に提出した有価証券報告書の訂正報告書から、財務諸表の訂正内容をまとめておきたい。訂正の対象となったのは、2021年3月期から2024年3月期までの4期分である。 表から読み取れるのは、2024年3月期になって、「診療報酬の不正請求」による訂正金額が一気に増加していることである。もちろん主力事業である「PDハウス」の設置数が増加し、売上高も右肩上がりで上昇している中での事象ではあるのだろうが、調査に当たった特別調査委員会は、不正請求額の増加についてはとくに分析を行っていないようである。 (了)

#No. 660(掲載号)
#米澤 勝
2026/03/12

〔まとめて確認〕会計情報の月次速報解説 【2026年2月】

〔まとめて確認〕 会計情報の月次速報解説 【2026年2月】   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2026年2月1日から2月28日までに公開した速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。 なお、四半期ごとの速報解説のポイントについては、下記の連載を参照されたい。   Ⅱ 新会計基準関係 次のものが公表されている。 ① 実務対応報告第48号「防衛特別法人税の会計処理及び開示に関する当面の取扱い」 (内容:防衛特別法人税の取扱いについて、実務対応報告を公表することにより短期的な対応を行うもの) ② 企業会計基準公開草案第97号「金融商品に関する会計基準(案)」等 (内容:金融資産の譲渡において、譲受人が特別目的会社である場合の金融資産の消滅範囲の明確化を行うもの。意見募集期間は2026年3月31日まで)   Ⅲ 企業内容等開示関係 次のものが公布されている。 〇 「企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第5号)等 (内容:サステナビリティ開示基準の適用、人的資本開示に関する制度見直し、株主総会前の有価証券報告書の開示などについて規定するもの)   Ⅳ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 〇 監査基準報告書700実務ガイダンス「事業報告等と有価証券報告書の一体書類に含まれる財務諸表等に対する監査報告書に係る実務ガイダンス(2026年版)」(公開草案) (内容:現行の法制度下における一体書類に対する監査報告書の文例について検討し、各種の文例を示す。意見募集期間は2026年3月17日まで) (了)

#No. 660(掲載号)
#阿部 光成
2026/03/12

従業員の解雇をめぐる企業対応Q&A 【第19回】「従業員による性的身体接触を理由とする解雇の有効性」

従業員の解雇をめぐる企業対応Q&A 【第19回】 「従業員による性的身体接触を理由とする解雇の有効性」   弁護士 柳田 忍   【Question】 当社は女性用の化粧品を取り扱う会社ですが、当社の女性従業員Aから、上司Bに何度か通りすがりにお尻を触られたり、胸をわしづかみにされたりしており、大変な精神的な苦痛を受けているという申告がありました。 当社は特に女性の顧客からの評判や印象を大切にしており、このような破廉恥なことをする上司には一刻も早く出て行ってほしいと考えていますが、上司Bを解雇してもよいでしょうか。 【Answer】 上司Bの行為は刑法上の不同意わいせつ罪に該当し得る行為であり、複数回行われており態様も悪質であることから、上司Bに対する解雇は有効と判断される可能性が高いと思われます。 ◆ ◇ ◆ 解 説 ◆ ◇ ◆ 1 はじめに 従業員がセクシュアル・ハラスメント(セクハラ)に及んだ場合、当該従業員が厳しい懲戒処分等の対象となり、また、企業の評判が損なわれることについてはもはや周知の事実であるにもかかわらず、いまだにセクハラに及ぶ従業員は後を絶たず、従業員が相手の意に反する性的な身体的接触に及んだという話もよく耳にする。企業のコンプライアンス違反(特にわいせつ事案)に対する世間の評価が厳しい昨今において、このような行為を行った従業員は即座に解雇すべきなのではないか、しかし、どの程度の身体的接触があれば解雇にしてよいのかがよくわからない、と感じている使用者も少なくないと思われる。そこで、本稿においては、従業員による相手の意に反する身体的接触を理由とする解雇の有効性について論じるものとする。   2 判断基準 まず、人事院事務総長発平成12年3月31日職職-68「懲戒処分の指針について」(※1)によると、以下のとおり、「強いてわいせつな行為をした職員」は「免職又は停職とする」とされている。 (※1) 人事院が公務員の懲戒処分について任命権者の処分量定の参考に供することを目的として、代表的な事例における標準的な懲戒処分の種類を掲げたもの。これについて、(コンピュータの不適正使用についてであるが、)民間における懲戒処分の判断に際しても参考になる旨の裁判官の見解が示されている(白石哲編「裁判実務シリーズ1労働関係訴訟の実務[第2版]」263頁(2018年、商事法務))。 また、後述の参考裁判例⑤は、問題の行為が「強制わいせつ的なもの」とは一線を画すものであることなどを理由に、行為者に対してなされた解雇を無効とする判断を示している。 これらに照らすと、従業員による相手に対する性的接触のみを理由としてなされた解雇が有効と判断されるためには、少なくとも当該行為が「強いて」なされた「わいせつ行為」ないし「強制わいせつ的な行為」に該当する必要があるということになる。「強制わいせつ的な行為」とは刑法上の強制わいせつ罪に該当するような行為を指すと思われるが、2023年に施行された改正刑法において、「強制わいせつ罪」は「不同意わいせつ罪」(※2)へと改められたことから、従業員による相手に対する性的接触についてなされた解雇が有効と判断されるためには、少なくとも当該行為が、相手が同意しない、若しくは、同意することが困難な状態において「わいせつな行為」をしたことが必要になるということになると思われる。 (※2) 「不同意わいせつ罪」は、一定の原因のもとで、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした」場合に成立する(刑法176条1項)。 また、「わいせつな行為」とは、「いたずらに性欲を興奮・刺激させ、かつ普通の人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為」を指し、具体的には、相手の胸部や臀部、陰部を触る、キスをするといった行為が該当すると考えられている。しかし、後述の参考裁判例に照らすと、これらの部位への接触があったからといって必ず「わいせつな行為」に該当するわけではないと思われる。一方、これらの部位に該当しない部位(例えば太ももなど)への接触についても、接触の態様や回数等によっては「わいせつな行為」に該当する場合もあるであろう。 後述の参考裁判例に照らすと、あくまで目安であり、最終的には個別具体的な判断にはなるであろうが、概ね以下のように考えるべきではないかと思われる。   3 参考裁判例 (了)

#No. 660(掲載号)
#柳田 忍
2026/03/12

〈Q&A〉税理士のための成年後見実務 【第28回】「成年後見と遺留分」

〈Q&A〉 税理士のための成年後見実務 【第28回】 「成年後見と遺留分」   司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎   【Q】 後見人を務めていますが、本人の親が先日死去しました。どうも亡くなった親は遺言書を残していたらしく、その内容をみると本人の遺留分を侵害しているようです。 どのように対応するべきでしょうか。 【A】 まず遺言書の内容を確認し、遺留分を侵害しているようであれば遺留分を侵害する遺贈等を受けた人に対して遺留分侵害額請求を行うことになります。 遺留分の請求を行うためには、遺留分についての理解と遺言の内容の確認方法を知っておく必要があります。もし相手方との交渉が難航しそうであれば弁護士に依頼することも必要です。 ● ● ● ● 解 説 ● ● ● ● 1 遺留分は主張する必要がある 遺留分は相続人に最低限保障された相続財産に対する取り分です。成年後見人として本人の遺留分が侵害されている事実に気が付いたのであれば、遺留分を主張する必要があります。 もし、遺留分が侵害されている事実に気が付いていたにも関わらず遺留分の主張をしなかったとすると責任を問われる可能性もありますから、本人に関係する相続が発生したら注意を払う必要があります。   2 遺留分の割合 遺留分は兄弟姉妹以外の相続人に認められており、誰が相続人となるかにより異なります。直系尊属のみが相続人であるときは相続財産の3分の1、それ以外の場合には2分の1です。相続人全体としての遺留分を「総体的遺留分」といいます。 各相続人が具体的にもつ遺留分を個別的遺留分といいます。個別的遺留分は、総体的遺留分に各相続人の法定相続分を乗じて計算します。 【配偶者と子2人がいる場合の遺留分】 総体的遺留分 1 / 2 個別的遺留分(配偶者) 1 / 4( 1 / 2(総体的遺留分)× 1 / 2(法定相続分)) 個別的遺留分(子) (子2人いる想定) 1 / 8( 1 / 2(総体的遺留分)× 1 / 4(法定相続分)) 具体的にいくら遺留分が侵害されているかについては少し複雑な計算が必要ですが、まずは本人の個別的遺留分を押さえておくようにしましょう。   3 遺言書の内容の確認方法 遺産分割協議が行われる場合は、本人のために成年後見人も必ず協議に参加するため遺留分の侵害が発生する可能性は低いと思われます。 問題となりやすいのは被相続人が遺留分を侵害するような遺言書を残しているケースでしょう。遺言の内容を事前に知らされているとは限りませんから、成年後見人としても遺言書の内容の確認方法を知っておく必要があります。 (1) 自筆証書遺言(保管制度を利用していない場合) 被相続人が自筆証書遺言を残している場合、相続開始後に家庭裁判所において「検認」(民法1004条)という手続が行われます。検認では期日を定めて相続人等が家庭裁判所に集められ、遺言の内容の確認等が行われるため、期日に出席することで内容を知ることができます。 (2) 自筆証書遺言(保管制度を利用している場合) 2020年7月10日からは法務局において自筆証書遺言を保管してくれる「自筆証書遺言保管制度」がスタートしています。被相続人が本制度を利用していた場合、相続開始後に、法務局から本人のもとに関係する遺言が保管されている旨の通知等がなされることになっており、通知を受けた後に法務局に対して遺言書の内容について開示請求を行うことで内容を確認することができます。 (3) 公正証書遺言 被相続人が公正証書遺言を作成していた場合、相続開始後に公証役場において開示請求を行うことができます。公正証書遺言の場合、遺言執行者を選任した遺言内容でなければ本人のもとにまったく通知が来ないこともあり得ます。相続が発生したにも関わらず遺産分割協議について連絡がないようであれば、遺言によって相続手続を進めている可能性があるため、開示請求を検討するとよいでしょう。   4 弁護士に依頼することも必要 税理士であれば一度は顧客に相続争いが生じた事例を見たことがあるのではないでしょうか。理解されているとおり相続に関する争いは感情がもつれている上に、法的な論点も多く存在します。円滑にまとまらないことが予想される場合には、当初から弁護士に依頼するとよいでしょう。 (了)

#No. 660(掲載号)
#北詰 健太郎
2026/03/12

《速報解説》 東京国税局、国庫補助金等の返還を要しないことが確定した年分後に固定資産等を取得等した場合の課税上の取扱いについて文書回答

《速報解説》 東京国税局、国庫補助金等の返還を要しないことが確定した年分後に固定資産等を取得等した場合の課税上の取扱いについて文書回答   税理士 菅野 真美   令和8年2月18日に東京国税局が文書回答した「国庫補助金等の返還を要しないことが確定した年分後に固定資産等を取得等した場合の課税上の取扱いについて」が、令和8年3月6日に国税庁のHPで公開された。今回はこの事前照会事例について解説し、申告上の留意点について確認する。   1 国庫補助金等の益金不算入の制度 居住者が固定資産の取得等に充てるために国等の補助金等の交付を受け、その国庫補助金等をもって交付の目的に適合した固定資産の取得等をした場合には、国庫補助金等のうち、その固定資産の取得等した部分の金額に相当する金額を総収入金額に算入しない。国庫補助金等に課税されると納税が生じ固定資産の取得資金不足となると、その交付目的の実現が難しくなるからと考える。 国庫補助金等の総収入金額不算入となるのは、次のいずれかの要件を満たす場合である。 ① 居住者が固定資産の取得等に充てるための補助金等の交付を受けた場合で、その年の12月31日までに交付の目的に適合した固定資産の取得等をしたとき(所法42①) (注) この補助金は交付を受けた年の12月31日までに返還を要しないことが確定していることが条件となる。 ② 居住者が固定資産の取得等に充てるための補助金等の交付を受けたが、その年の12月31日までに返還を要しないことが確定していないとき(所法43①)   2 事前照会事例 今回の事前照会事例は、次のようなものである。 個人事業者が、幼稚園から幼稚園型認定こども園に移行するために補助金の交付を受け、園舎を建て替える工事を実施した。工事は令和6年度から令和7年度にかけて行い、工事完了は令和8年2月である。補助金は、工事の進行状況に応じて2回交付される。簡単に時系列で取引をまとめると次のようになる。 令和7年5月の補助金は、令和7年12月31日までに返還しないことが確定しているが、令和7年12月31日までに固定資産を取得していない。そのため、上記1の①及び②に該当しないことになるから令和7年5月に取得した国庫補助金を収入金額として認識しなければならないか。しかし、課税された場合は、税の分だけ固定資産の取得資金が不足することになるという問題点が生ずる。   3 当局の見解 交付を受けた年の12月31日までに固定資産を取得することができない場合であっても、国庫補助金等の交付時点で固定資産の取得が認められる限り、国庫補助金等の交付時点では課税関係を生じさせないことが制度趣旨に合致する。 したがって、補助金の額については、令和7年分の総収入金額に算入しない。この事前照会に関して、東京国税局は、照会に係る事実関係を前提とする限り、貴見のとおりで差し支えありませんと回答した。   4 申告上の留意点 令和7年分の確定申告書で総収入金額に算入しないためには、「国庫補助金等の総収入金額不算入明細書」に、固定資産の取得予定年月日や取得に要する金額の見込額等を記載して申告書に添付する必要がある。 令和8年分の所得金額の計算上も、必要事項を記載した「国庫補助金等の総収入金額不算入明細書」を確定申告書に添付して、令和7年、8年に受け取った補助金を総収入金額に算入しないことができる。ただし、固定資産の取得に要した金額から補助金の合計額を控除した金額に基づいて減価償却を計算しなければならない(所法42①、49①、所令90②一)。 (了)

#菅野 真美
2026/03/09

プロフェッションジャーナル No.659が公開されました!~今週のお薦め記事~

2026年3月5日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.659を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2026/03/05

monthly TAX views -No.157-「責任ある積極財政、判断するのは国民」

monthly TAX views -No.157- 「責任ある積極財政、判断するのは国民」   東京財団 シニア政策オフィサー 森信 茂樹   総選挙で大勝した高市首相、2月の施政方針演説で政策の本丸は「責任ある積極財政」と改めて述べた。 今のところ「責任ある積極財政」を占うのは、令和8年度予算案だ。令和8年度予算案は、一般会計ベースで「国債費を除く一般歳出等」と「公債金収入を除く税収等」を比べると後者の方が1.7兆円ほど多く、プライマリーバランスの黒字になっている。 これを総理や財務大臣は、「責任ある」と胸を張っている。しかしそのプライマリーバランス単年度黒字化という財政目標を取り下げ、複数年度で判断できるようにするとも言明している。この辺りの整合性はどうなるのだろうか。単年度で赤字になっても、翌年度、あるいは翌々年度でつじつまを合わせるということなのだろうか。 *  *  * 次に責任が問われるのは、2年間食料品消費税ゼロ(以下消費税減税)だ。特例公債は出さないというが、財源は不明確で、また2年間で終わるかどうかもわからない。「責任ある」かどうか、いつの時点で、誰が判断するのか、仮に無責任ということになると引き返すことはできるのか、考えれば考えるほど疑問が湧いてくるスローガンだ。 消費税減税には単年度5兆円の財源が必要になる。特例公債は出さないということなので、外為特会や日銀保有のETFの売却(日銀納付金として税外収入の増加となる)、基金の整理統合などいわゆる「埋蔵金」から捻出する議論が進んでいる。 そのあと給付付き税額控除を導入する予定なので、その財源も必要になる。3月の訪米を終えればたちまち防衛費の増額が大きな課題となる。 何とか埋蔵金から5兆円捻出できても、マーケットは今度、防衛費の財源探しに目を向けるだろう。中期的なわが国の財政需要にきちんと答えているのかどうかという判断となる。 *  *  * 難しいのは、消費税減税を2年でやめることと給付付き税額控除のつなぎをどうするかという点だ。消費税減税は年金生活者など国民全員に恩恵が行くが、給付付き税額控除は基本的に勤労者をターゲットにしたもので、受益者は異なる。そうなると、2年後に年金生活者などは食料品が8%に増税となり、給付はないということになりかねない。これで政治的に耐えられるのだろうか。 基礎年金については、別途「年金底上げ」の議論が必要で、年金改革として議論をして基礎年金の充実を図るべきだと考えるが、この辺りをどう設計するのだろうか。 「責任ある」かどうかを判断するのは、一義的には市場(マーケット)ということになるが、市場というのはグリーディーな投資家のあつまる金儲けの場でもある。その判断が必ずしも絶対ということにはならない。最終的には国民が判断するべきだと考える。 *  *  * 更なる円安が進みインフレ要因となれば中低所得者には大きな打撃となる。国債金利が上昇すれば、住宅ローン金利や中小企業の借入金利の上昇につながり、国民生活に大きな影響が及ぶ。「責任ある財政政策」の最終的な影響は国民自らに降りかかる。安易な消費税減税を喜んでいいのかどうか。 国民会議では、今後増加が予想される防衛費や社会保障費などすべてをテーブルに乗せて大きな議論をすることが必要だ。部分的な解決では大きな方向を見誤ってしまう。 (了)

#No. 659(掲載号)
#森信 茂樹
2026/03/05

《税務必敗法》 【第10回】「税務手続の情報提供を忘れた」

《税務必敗法》 【第10回】 「税務手続の情報提供を忘れた」   公認会計士・税理士 森 智幸   【事例】 X会計事務所の顧問先である3月決算の株式会社A社(資本金1,000万円)は消費税の納税義務者である。X会計事務所は、A社の申告を電子申告で行っている。一方、A社はダイレクト納付の申込みはしておらず、これまで納付は金融機関の窓口で行っている。 前々事業年度および前事業年度は、法人税等は地方税の均等割のみの納付で、消費税等は還付であった。そのため、A社の経理担当者は、この2年間、消費税の納付経験がなかった。 当事業年度は、法人税等は引き続き地方税の均等割のみの納付であったが、消費税は納付となった。X会計事務所は、5月第3週目にA社の法人税等および消費税等の確定申告書を電子申告により提出し、併せて納付一覧を送付して、5月末日までに納付するよう伝えた。 その後、5月第4週目に入り、A社の経理担当者から次のような電話があった。 「地方税の均等割は納付書が届いたので納付したが、まだ消費税の納付書が届いていない。どのような方法で納付すればよいのか。」 これに対して、X会計事務所の担当者は「2024年5月送付分からe-Taxで申告している法人には納付書は送付されなくなったため、税務署で納付書を入手して納付してほしい。」と回答した。 すると、A社の経理担当者からは「そのような重要な変更は、もっと早く説明してほしかった。」と不満を述べられた。   1 はじめに 本連載は、税務を行う上で「これをやったら失敗する」という必敗法を紹介するものである。今回は「税務手続の情報提供を忘れた」である。 ここ数年、国税庁からは行政コストの抑制や税務行政のデジタル・トランスフォーメーション(DX)の観点から、税務手続の見直しが行われている。 例えば、一部納税者に対する納付書の事前送付の取りやめと、申告書等の控えへの収受日付印の押なつの廃止が挙げられる。 近年は、キャッシュレス納付や電子申告が普及しているものの、依然として納付書による納付や紙面による申告書等の提出を行っている納税者も多い。 そのため、このような納税者に対しては、税務手続の見直しに関する情報を提供する必要がある。また、納税者は1年経過すると忘れてしまう可能性があるので、この情報提供は毎年行うことがよいであろう。 さらに、納付書の事前送付の取りやめは、地方自治体にも拡大しているので、今後も注意が必要である。 そこで、今回は、会計事務所が税務手続の情報提供を毎年行う必要性について説明する。 なお、本稿は私見であることにご留意いただきたい。   2 最近の税務手続の改正 現在は2026年3月であるが、直近約2年間で以下の税務手続の改正が行われた。 (1) 一部納税者に対する納付書の事前送付の取りやめ 2024年5月送付分からe-Taxにより申告書を提出している法人やe-Taxによる申告書の提出が義務化されている法人などの一部の納税者を対象として、納付書の事前送付は行われなくなった。(国税庁「納付書の事前送付に関するお知らせ」) (2) 申告書等の控えへの収受日付印の押なつの廃止 2025年1月から、申告書等を紙面で提出する場合、申告書等の控えに収受日付印の押なつが行われなくなった。(国税庁「令和7年1月からの申告書等の控えへの収受日付印の押なつについて」)   3 地方自治体による納付書の事前送付の取りやめ 地方税についてもeLTAXで申告書等を提出している法人に対して事前送付の取りやめを行う地方自治体が増加している。以下は、福井県と神奈川県茅ヶ崎市の例である。   4 税務手続に関する情報提供を忘れた場合の影響 (1) 納付書の事前送付の取りやめに関する影響 ① 延滞税等の発生の可能性 納付書で納付している顧問先が、納付書の入手が遅れて期限後納付となった場合、延滞税や延滞金が発生する可能性がある。 ② 納期限直前の混乱の可能性 納期限直前だと、経理担当者の都合により金融機関等に行く時間がとれない可能性もある。また、社内決裁が間に合わない可能性もある。 ③ 顧問先から不満を持たれる 納期限近くに「納付書は送られてこない」と伝えると、顧問先からは「なぜ早く教えてくれなかったのか」と不満を持たれる可能性がある。 (2) 収受日付印の押なつの廃止に関する影響 ① 顧問先からの問い合わせ 顧問先に申告書等の控えが送られてこないと「控えはいつ送ってくれるのか」と問い合わせが来る可能性がある。 ② 金融機関からの融資・補助金等に関するトラブル 収受日付印がない紙の確定申告書の場合、金融機関からの融資や補助金・助成金の申請などにおいて手続きが進みにくくなる場合もあり、顧問先が不安になる可能性がある。   5 対策 (1) 共通事項 納付書の事前送付の取りやめと収受日付印の廃止に関する共通の対策は以下の通りである。 ① 毎年、念押しで伝える 顧問先によっては1年経つと忘れてしまうこともある。近年の改正税務手続については、決算期に入る前に毎年再度確認をするとよいであろう。 ② 経理担当者が変わった場合 経理担当者が変わった場合も注意すべきである。引継がうまく行われていないと、新しい経理担当者が税務手続の変更を知らない可能性がある。したがって、経理担当者が変わった場合の情報提供は重要である。 (2) 納付書の事前送付の取りやめ ① 法人税予定申告も注意する 法人税の予定申告分の納付書の事前送付も取りやめになったため、法人税の予定申告分の納付失念が生じる恐れがある。こちらも1年経つと忘れてしまう可能性があるので、毎年再度確認を徹底することが望まれる。 ② 地方税も注意する 前述の3で述べたように、地方税でも納付書の事前送付の取りやめを行う地方自治体が増えている。そのため、納付書で地方税を納付している顧問先があれば、決算期に入る前に情報提供をすることが望まれる。 ③ 他の納付手続の案内をする 納付書がなくても、インターネットバンキングなど他の手段で納付できる可能性もあるので、その案内も行うとよいであろう。 ④ 印刷した場合の注意喚起をする 税務申告ソフト等を使って印刷した納付書は、機械の読み取りの問題があるため、国税庁は税務署で用意した所定の納付書の使用を案内している。印刷した納付書はリスクがあることも説明しておくとよいであろう。 (3) 収受日付印の廃止 ① 申告済であることの説明をする 申告書等の控えがないと顧問先は不安になる可能性が高い。そのため、申告書等を税務署に提出したことを顧問先に報告することが望まれる。 ② 他の手段による確認方法を紹介する 紙による提出であっても、「申告書等の閲覧サービス」によって確認することが可能であることも説明しておくとよいであろう。 個人所得税の場合は「申告書等情報取得サービス」、「保有個人情報の開示請求」も設けられている。 ③ 計算書類等を別送した場合 電子申告を行っている場合でも、計算書類等は紙で別送している会計事務所もあるであろう。例えば、公益法人など非営利法人は、e-Taxのフォームが対応していないため、紙で別送せざるを得ない。 計算書類等も控えはないこともあらかじめ説明しておくとよいであろう。   6 おわりに 今回は、近年の税務手続の改正に関する情報提供の必要性について説明した。 納付書の事前送付の取りやめと申告書等への収受印の押なつの廃止はすでに行われているものの、1年経つと忘れてしまっている顧問先もあるので、毎年確認の案内をしておくとよいであろう。 また、地方自治体による納付書の事前送付の取りやめも増加しているので、納付書については引き続き注意が必要である。 対策として最も有効なのは、キャッシュレス納付と電子申告の導入である。会計事務所は、顧問先に対して積極的に推奨することが望まれる。 本稿が皆様の実務の参考になれば幸いである。 (了)

#No. 659(掲載号)
#森 智幸
2026/03/05
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