検索結果

詳細検索絞り込み

ジャンル

公開日

  • #
  • #

筆者

並び順

検索範囲

検索結果の表示

検索結果 10697 件 / 21 ~ 30 件目を表示

相続税の実務問答 【第113回】「人身傷害保険金に対する相続税課税」

相続税の実務問答 【第113回】 「人身傷害保険金に対する相続税課税」   税理士 梶野 研二   [答] 相続人であるあなたが支払いを受けた人身傷害保険金2,000万円は相続税法の規定により相続により取得したものとみなされ、非課税金額500万円を控除した残額(1,500万円)が相続税の課税対象となります。   ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 みなし相続の規定 被相続人の死亡により、相続人等が取得する保険金については、一般的、、、に、被相続人の遺産には含まれず(注)、したがって、保険金の支払いを受ける相続人等が相続又は遺贈により取得するのではなく、相続人等が固有の権利として取得するものと解されています。 (注) 保険契約の受取人が「相続人」となっているとき、あるいは「被相続人」自身が保険金受取人となっているときには被相続人の遺産に含まれるとの見解もあることから、「一般的に」としました。 相続税は相続又は遺贈により取得した財産に対して課税されますので、被相続人の相続開始を契機として取得した財産であっても、それが相続又は遺贈により取得したものでなければ相続税の課税対象とはならないはずです。 しかしながら、相続又は遺贈により取得した財産のみを相続税の課税対象とすると、相続人等が被相続人の死亡により取得する死亡保険金などの財産であって、実質的には相続により取得するのと同様の結果となるにもかかわらず、これらの財産には相続税が課されないこととなり、課税上の不公平が生じることとなります。そのため、相続税法では、相続又は遺贈により取得した財産以外の財産であっても一定の財産については相続又は遺贈により取得したものとみなして相続税の課税対象としています。 例えば、相続税法は、被相続人の死亡により相続人等が、損害保険契約(保険業法第2条第4項に規定する損害保険会社と締結した保険契約その他の政令で定める一定の契約をいいます)の保険金で、偶然な事故に基因する死亡に伴い支払われるものを取得した場合において、その保険料を被相続人が負担していたときには、その保険金は、その保険金の受取人が相続(その者が相続人である場合)又は遺贈(その者が相続人ではない場合)により取得したものとみなして、相続税の課税対象としています (相法3①一)。   2 人身傷害保険 ところで、多くの自動車保険では、契約の特約条項として人身傷害保険がセットされています。人身傷害保険が付保されている自動車保険契約では、その保険に加入している本人、その家族又は同乗者(これらの者を「被保険者」といいます)が自動車事故により①傷害を受けた場合、②後遺症が残った場合又は③死亡した場合には保険金が支払われます。保険金額は、葬儀費用、精神的損害及び逸失利益などを基に、契約に定められた限度額の範囲内で算定されます。これらのうち、③の被保険者の死亡による保険金の支払いを受けた場合(保険料の負担者が被相続人であるときに限ります)には、この保険金は、原則として、相続税法第3条第1項第1号の規定に基づき、保険金の支払いを受けた者が相続又は遺贈により取得したものとみなされて、相続税の課税財産に含まれることとなります(注)。 (注) ただし、保険金額のうち損害賠償金の性格を有する金額がある場合には、当該金額を除いた金額が、相続税の課税対象となります(平成11年10月18日課審5-1ほか「人身傷害補償保険金に係る所得税、相続税及び贈与税の取扱い等について(平成11年10月4日付照会に対する回答)」(以下、国税庁回答)といいます)参照)。   3 令和7年10月30日最高裁第一小法廷判決 被相続人甲が車両を運転中に自損事故を起こして死亡し、人身傷害保険金が支払われることとなった場合において、甲の子である乙(相続を放棄しています)が、当該車両に係る自動車保険契約の保険者である上告人(保険会社)に対し、当該保険契約に適用される普通保険約款中の人身傷害条項(以下「本件人身傷害条項」という)に基づく甲の人身傷害保険金の請求権を自らが取得したと主張し、人身傷害保険金の支払を求めて提起した訴訟において、令和7年10月30日に、最高裁判所第一小法廷は、次のように述べ、この人身傷害保険金の請求権は、被保険者の相続財産に属するものと解することが相当であるとの判断を示しました(以下、この判決を「最高裁判決」といいます)。 本件人身傷害条項によれば、人身傷害保険金は人身傷害事故により生ずる損害に対して支払われるものとされ、本件人身傷害条項の柱書きは、保険金請求権者を「人身傷害事故により損害を被った」者とする旨を定めている。また、本件人身傷害条項では、人身傷害保険金を支払うべき損害の額について、損害項目に応じて、これを実費、あるいは、損害の程度等を踏まえた特定の方法により算定される額としており、人身傷害保険金の額は、人身傷害事故により生ずる具体的な損害額に即して定まるものとされている。そして、損害を填補する性質の金員の支払等がされた場合は、当該金員の額を控除するなどして人身傷害保険金を支払うものとされている。これらの点からすれば、本件人身傷害条項において、人身傷害保険金は、人身傷害事故により損害を被った者に対し、その損害を填補することを目的として支払われるものとされているとみることができる。 そして、本件人身傷害条項では、人身傷害事故により被保険者が死亡した場合においても、精神的損害につき被保険者「本人」等が受けた精神的苦痛による損害とする旨の文言があり、逸失利益につき被保険者自身に生ずるものであることを前提とした算定方法が定められていることからすれば、死亡保険金により填補されるべき損害が、被保険者自身に生ずるものであることが前提にされているといえる。 以上のような本件人身傷害条項の文言、本件人身傷害条項の他の条項の文言や構造等に加え、保険契約者の通常の理解を踏まえると、本件人身傷害条項は、人身傷害事故により被保険者が死亡した場合を含め、被保険者に生じた損害を填補するための人身傷害保険金の請求権が、被保険者自身に発生する旨を定めているものと解すべきである。本件人身傷害条項中のただし書は、死亡保険金の請求権について、被保険者の相続財産に属することを前提として、通常は法定相続人が相続によりこれを取得することになる旨を注意的に規定したものにすぎないというべきである。   4 最高裁判決の判示から生ずる相続税における問題点 人身傷害補償保険に係る保険金に対する課税関係については、上記2の(注)の国税庁回答により、国税当局の見解が示されているところですが、最高裁判決の判示内容からは、次のような相続税等の課税上の疑問点を指摘することができます。これらの点について、今後、どのように考え方の整理されるのかが注目されます。   5 ご質問の場合 最高裁判決を踏まえれば、ご質問の人身傷害保険金2,000万円の請求権は、相続税法第3条第1項第1号に規定されるみなし相続財産ではなく、亡くなられたお父様の本来の相続財産として相続税が課税されることとなるのではないかとの疑問が生じます。 しかしながら、同様の保険金請求権が、相続財産なのか、あるいは相続人等が原始的に取得する相続人等の固有の財産なのかという点に関しては、従前より両方の学説があるところです(上記1の(注))。その点をも踏まえたうえで、課税上の疑義の生じることのないよう、相続税法は、被相続人の死亡に伴い相続人等が支払いを受ける保険金については、保険契約に基づいて保険金受取人である相続人等が原始取得したものであると整理し、みなし相続財産として課税する旨を定めたものと考えられます。 そうしますと、最高裁判決を契機に、今後、新たな規定又は取扱いが示されれば格別、現時点では、これまでどおりみなし相続財産として取り扱うことが相当であると考えられます。 したがって、あなたが支払いを受けた2,000万円の人身傷害保険金は、相続人であるあなたが相続により取得したものとみなして、非課税金額500万円を控除した残額(1,500万円)を相続税の課税対象とすればよいと考えます。 (了)

#No. 645(掲載号)
#梶野 研二
2025/11/20

給与計算の質問箱 【第71回】「令和8年分源泉徴収税額表の変更点」

給与計算の質問箱 【第71回】 「令和8年分源泉徴収税額表の変更点」   税理士・特定社会保険労務士 上前 剛   Q 令和8年分源泉徴収税額表は、令和7年分源泉徴収税額表と比較して変更点はあるでしょうか。 A 給与と賞与の源泉徴収税額表が変更になった。退職所得の源泉徴収税額表は変更がなかった。具体的には、以下のとおりである。 * * 解 説 * * 令和7年度税制改正において、所得税の基礎控除の見直し等が行われたことに伴い、税額や扶養親族等の数の算定方法が変更となっている。   1 「税額表の使い方」の変更点〈19~20頁〉 令和7年では「控除対象扶養親族」であったが、令和8年では「源泉控除対象親族」に変更となった。以下、赤枠が変更点である。 《令和7年分》 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (※) 国税庁「令和7年分源泉徴収税額表」19~20頁より抜粋のうえ筆者作成 《令和8年分》 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (※) 国税庁「令和8年分源泉徴収税額表」19~20頁より抜粋のうえ筆者作成   2 「扶養親族等の数の算定方法」の変更点〈20~21頁〉 《令和7年分》 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (※) 国税庁「令和7年分源泉徴収税額表」20~21頁より抜粋のうえ筆者作成 《令和8年分》 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (※) 国税庁「令和8年分源泉徴収税額表」20~21頁より抜粋のうえ筆者作成 (了)

#No. 645(掲載号)
#上前 剛
2025/11/20

〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第83回】「海外子会社への貸付利子と移転価格税制-平成29年9月26日裁決の検討-(審裁平29.9.26)(その1)」~租税特別措置法〔平成26年法律第10号改正前〕66条の4、租税特別措置法関係通達66の4(7)-1・66の4(7)-4等~

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第83回】 「海外子会社への貸付利子と移転価格税制-平成29年9月26日裁決の検討-(審裁平29.9.26)(その1)」 ~租税特別措置法〔平成26年法律第10号改正前〕66条の4、 租税特別措置法関係通達66の4(7)-1・66の4(7)-4等~   税理士 中野 亘     1 はじめに 海外子会社への貸付利率をいくらに設定すべきか。 グループ内取引で最も日常的かつ誤りやすい論点である。金銭貸借取引は、単価や数量といったモノの価格ではなく、「利率」という抽象的指標で判断されるため、算定過程の合理性を欠くとたちまち課税調整の対象になる。 平成29年9月26日の国税不服審判所の裁決は、こうした金銭貸借取引の実態を掘り下げ、独立企業原則の運用を実務的に整理した事例である。特筆すべきは、表面上の金利水準ではなく、算定プロセスの妥当性を中心に検証している点である。 本稿では、本件の事案の概要、課税庁と請求人双方の主張、そして審判所の判断を詳細にたどり、実務上の留意点を抽出する。   2 事案の概要 請求人は、国内で製造販売業を営む法人であり、平成25年にK国へ100%出資の子会社(以下「K社」)を設立した。K社は現地で販売拠点を担う子会社であったが、設立当初は売上規模が小さく、自己資本も脆弱であったため、設備資金及び運転資金を親会社である請求人が支援する形で貸付を行った。 貸付は2件。いずれも米ドル建てで、期間は5年、利率2.00%。貸付資金は請求人の手元資金(内部留保)を充当し、外部借入によるものではなかった。貸付契約書は作成され、利払条件や返済期日は定められていたが、利率の根拠を示す資料は添付されていなかった。 K社は設立後2年間、営業赤字を計上し、資金繰りが厳しかったが、同期間中に第三者金融機関からの借入実績はなかった。請求人はこの状況を踏まえ、「通常の商業金利では負担が大きすぎる」として、2.00%の支援的利率を設定したと説明していた。 一方、課税庁は、移転価格税制上の「独立企業間価格」に基づき、より高い利率を採用すべきと判断し、請求人に対し、益金不算入となっていた利息部分を追加課税した。 〈事案の概要図〉 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。   3 課税庁及び請求人の主張 (1) 課税庁の見解 課税庁は、租税特別措置法66条の4(※1)に基づく国外関連取引のうち、金銭貸借取引に該当するものであり、独立企業間価格での算定が必要であるとした。 (※1) 租税特別措置法第66条の4(国外関連者との取引に係る課税)〔平成26年改正前〕 「内国法人が国外関連者と行う取引について、当該取引に係る対価が独立企業間価格に満たない場合には、その取引は独立企業間価格で行われたものとみなす。」 ⇒ 国外関連者との取引価格を独立企業原則に沿って修正する根拠条文。 (現行法補足:令和元年改正により11項以下で文書化義務を明文化し、マスターファイル・ローカルファイルの提出義務を追加) ただし、独立価格比準法や再販売価格基準法などの基本三法では直接比較できる取引が存在しないため、「同等の方法」(移転価格事務運営指針2-7(※2))による算定が最も合理的であるとした。 (※2) 移転価格事務運営指針2-7(三段階利率法)〔平成28年版〕 「借手の銀行調達利率 → 貸手の銀行調達利率 → 国債等の運用利率の順に検討する。」 ⇒ 本件審判で採用された算定手法の根拠。 (現行法補足:令和3年改訂で通貨別市場金利参照順位を明文化。為替スワップコスト考慮を推奨項目として追加) また、課税庁は、移転価格事務運営指針2-6(※3)(金銭貸借取引の独立企業間価格算定)に照らしても、本件のようなグループ内貸付であっても実態に応じた市場利率を採用すべきだと主張した。すなわち、金銭貸借取引の利率は、独立企業間で設定されると認められる利率を基礎として決定されなければならず、支援目的や資金余力を理由に低利とすることは許されないと主張した。 (※3) 移転価格事務運営指針2-6(金銭貸借取引の独立企業間価格算定)〔平成28年版〕 「金銭貸借取引については、取引の実態に応じ、独立企業間で設定されると認められる利率を基礎として算定する。」 ⇒ 形式ではなく実態(貸借期間・信用度)に即した算定を求める。 (現行法補足:令和3年6月改訂により『担保・保証付取引の調整方法』を追記し、より精緻化された) 具体的には、貸手の銀行調達利率方式を採用し、当時の日本の5年物スワップレート1.1%に、中小企業向け貸出金利のスプレッド1.5%を加算。これにより独立企業間利率を2.6%前後と算出した。 課税庁は、請求人の設定した2.00%は市場実勢を下回るとして、「独立企業間価格との差額を益金算入すべき」と主張した。 また、課税庁は「内部留保を原資にしている点は利率設定の根拠にはならない」と指摘。独立企業原則はあくまで“取引単位の市場合理性”で評価されるべきであり、親会社の資金余力や子会社の経営支援目的は利率設定の妥当性を担保しないとした。 (2) 請求人の主張 請求人は、まず本件貸付が「経営支援目的」である点を強調し、「K社は設立直後の赤字企業であり、通常の借入金利を適用すれば返済不能となる。したがって、独立企業原則の適用においても、合理的経済人であれば同様に低利融資を行う」と主張した。 また、法人税基本通達9-4-2(※4)を引用し、「倒産防止等のためやむを得ず行う無利息貸付は寄附金課税の対象外」と規定されている点から、本件もそれに準じて扱うべきだとした。 (※4) 法人税基本通達9-4-2(無利息貸付け等)〔平成26年改正版〕 「倒産防止のためにやむを得ず行う無利息貸付けで、合理的再建計画に基づくものは、寄附金課税の対象としない。」 ⇒ 再建計画の存在が要件。単なる支援貸付には適用されない。 (現行法補足:令和2年改訂により『資金繰計画・経営改善計画を伴う場合』が要件として明文化。実証資料がなければ寄附金認定リスクが高い) さらに、請求人は、「仮に利率を上げた場合、子会社の財務が悪化し最終的にグループ全体の損益を損なう」と説明し、経済合理性の観点からも支援的利率が妥当であると述べた。 加えて、請求人は課税庁の算定した2.6%という利率が「机上の数値」であり、実際のK国金融市場や為替リスクを十分考慮していないと指摘。現地通貨ベースの金利構造や為替ヘッジコストを加味すれば、2.00%前後がむしろ合理的であると反論した。 なお、請求人は移転価格事務運営指針2-6を明示的に引用してはいないものの、「金銭貸借取引の実態に応じた利率設定が独立企業原則に適う」との立場をとっており、その主張内容は同指針の趣旨と整合していた。   4 審判所の判断 審判所はまず、租税特別措置法第66条の4第2項(※5)に基づき、国外関連取引の独立企業間価格は「当該取引の内容に応じ、最も適切な方法で算定した金額」と定義されると確認。 (※5) 租税特別措置法66条の4第2項(独立企業間価格の定義)〔平成26年改正前〕 「独立企業間価格は、当該国外関連取引の内容に応じ、最も適切な方法により算定した金額とする。」 ⇒ 各取引の性質に応じて柔軟な方法選定を認める規定。 (現行法補足:令和元年改正後も文言変更なし。ただし第11項以降との体系整理により、“最も適切な方法”の選定根拠が文書化義務の対象範囲に統合) また、移転価格事務運営指針2-6における「金銭貸借取引に係る実態に即した算定原則」を前提とし、本件取引の実質を分析した。すなわち、貸手・借手の双方における調達・運用環境を把握したうえで、実際に独立企業間で成立しうる利率範囲を導出することが求められるとした。 この「最も適切な方法」を判断するにあたり、移転価格事務運営指針2-7の三段階利率法を採用し、順に検証を進めた。 審判所も、移転価格事務運営指針2-6の「実態に応じた独立企業間価格の算定原則」を踏まえ、貸手・借手双方の資金状況と取引実態を総合的に検討した。すなわち、単に市場金利を参照するのではなく、当該取引が独立企業間で成立しうる合理的利率の範囲にあるかどうかを重視した。 (1) 借手側の検討 K社の現地金融機関における借入実績を調査したが、設立後2年間は赤字が続き、融資残高ゼロ。したがって市場調達金利を推定する資料が存在しなかった。 また、現地通貨建ての金利情報はあったものの、本件は米ドル建てであり、為替スワップのコストを反映しなければ比較にならないと判断された。 (2) 貸手側の検討 請求人については、無借金経営であり、銀行からの借入実績がないことが確認された。 審判所は「内部留保による資金余力は、資金調達コストゼロを意味するものではない」とし、企業が仮に他に運用した場合の機会利得を考慮すべきと指摘した。 ただし、具体的な代替運用利率を示すデータがなかったため、実証的比較が困難であると結論づけた。 (3) 第三段階の適用(国債等の運用利率法) 上記を踏まえ、審判所は「国債等の運用利率」を基礎とする方法が最も合理的と判断。 米国5年国債利回り(1.4%)に、信用リスクプレミアム(0.6%)を加算し、2.0%を独立企業間価格と認定した。この計算に際し、審判所はK社の信用リスクを「無担保・保証なし・グループ内保証なし」と位置づけ、BBB格相当のリスクプレミアムを採用。 結果として、請求人が設定した2.00%は、統計的レンジの中間値にほぼ一致すると認定した。 (4) 法人税基本通達9-4-2の適用可否 請求人が主張した法人税基本通達9-4-2の「無利息貸付け等に相当な理由がある場合」について、審判所はその趣旨が「倒産防止を目的とし、合理的再建計画に基づく貸付」に限定されると明示。 本件は、設立支援・資金繰り補助の域を出ず、再建計画やモニタリング体制が存在しないため、通達の適用対象外と判断した。 (5) 判断の総括 最終的に審判所は、「請求人の利率設定は結果的に独立企業間価格の範囲内にある」として、更正処分の一部を取り消した。 ただし、「利率設定の根拠資料や算定手順の文書化が不十分であった」として、形式的合理性の欠如を指摘。「結果的に一致しても、合理的算定過程が欠ければ独立企業原則の遵守とは言えない」と明確に述べた。 また、審判所は「独立企業間価格は単一値ではなく合理的レンジとして捉えるべき」と補足し、OECDガイドラインの考え方と整合させた。 この判断は、令和以降の三段階利率法運用にも影響を与えたと評価されている。 ((その2)へ続く)

#No. 645(掲載号)
#中野 亘
2025/11/20

〈経理部が知っておきたい〉炭素と会計の基礎知識 【第14回】「サステナビリティ関連財務開示のコア・コンテンツ ~全体像を描く4つの柱」

〈経理部が知っておきたい〉 炭素と会計の基礎知識 【第14回】 「サステナビリティ関連財務開示のコア・コンテンツ ~全体像を描く4つの柱」   公認会計士 石王丸 香菜子   〔ジャーナル食品社の登場人物〕 *  *  * IFRS S1及びS2や、それと整合する我が国のSSBJ基準では、企業がサステナビリティ関連のリスク及び機会に関する開示を行うにあたり、次の4要素を開示することが求められています。 *  *  * *  *  * なお、我が国の有価証券報告書の「第2 事業の状況」にはすでに「サステナビリティに関する考え方及び取組」の欄が設けられています(※1)。ここでも、4要素に基づく開示が求められています。 (※1) 2023年1月の「企業内容等の開示に関する内閣府令」等改正により、「サステナビリティに関する考え方及び取組」の欄が新設され、2023年3月期決算から適用されている。 *  *  * (※2) ただし、人的資本に関する「戦略」と「指標及び目標」に関しては、人材育成方針や社内環境整備方針、それらの方針に関する指標の内容、その指標を用いた目標・実績の開示が必須とされる。 *  *  * SSBJ基準は次のように構成されます。 「適用基準」はコア・コンテンツ以外の基本事項を定めており、「一般基準」と「気候基準」はどちらも4つのコア・コンテンツを定めるものです。 【SSBJ基準の構成】 (※) 適用基準と一般基準を合わせたものがIFRS S1に相当し、気候基準はIFRS S2に相当する。 *  *  * *  *  * これに対し、「一般基準」は、コア・コンテンツに関して一般的・汎用的な内容を定めるものです。「一般基準」以外のSSBJ基準で、サステナビリティ関連のリスク及び機会に関する情報の開示について具体的に定められている場合には、その定めに従うものとされています。 *  *  * *  *  * ①の「ガバナンス」は、サステナビリティ関連のリスク及び機会に関して、企業のガバナンス機関や経営陣がどのように監督や役割を果たしているかを開示するものです。 *  *  * *  *  * ②の「戦略」は、サステナビリティ関連のリスク及び機会を管理する企業の戦略を開示するものです。企業がどのようなサステナビリティ関連のリスク及び機会に直面し、それが企業のビジネス・モデルや財務面などにどのような影響を及ぼすのか、戦略や意思決定にどのように組み込まれているのかを、具体的に説明します。 *  *  * *  *  * ③の「リスク管理」は、企業がサステナビリティ関連のリスク及び機会を識別し、評価し、優先順位付けし、モニタリングするプロセスを開示するものです。また、そうしたプロセスが全社的なリスク・マネジメントにどのように統合されているかも示すことが求められます。 *  *  * *  *  * ④の「指標及び目標」は、サステナビリティ関連のリスク及び機会に対する企業の取り組みについて、その進捗や成果を測定するための指標や設定した目標を開示するものです。 *  *  * *  *  * これら4要素が開示されることで、利用者はサステナビリティ関連のリスク及び機会、そしてそれが企業の財務や企業価値に及ぼす影響を含めた全体像を把握できると言えます。 *  *  * *  *  * *  *  * *  *  * Q サステナビリティ関連財務開示のコア・コンテンツとは? A サステナビリティ関連財務開示では、①ガバナンス・②戦略・③リスク管理・④指標及び目標という4つのコア・コンテンツを開示することが求められます。4つの要素が開示されることで、利用者は、企業のサステナビリティ関連のリスク及び機会に関する全体像を理解できます。 (了)

#No. 645(掲載号)
#石王丸 香菜子
2025/11/20

連結会計を学ぶ(改) 【第9回】「親会社及び子会社の会計方針の統一」

連結会計を学ぶ(改) 【第9回】 「親会社及び子会社の会計方針の統一」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 親会社及び子会社の会計方針は、同一環境下で行われた同一の性質の取引等について、原則として統一することとされている(「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号。以下「連結会計基準」という)17項)。 当該取扱いに関連して次のものが公表されているので、実務の適用に際しては、これらの規定をよく理解する必要がある。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 親子会社間の会計処理の統一 1 基本的な考え方 親子会社間の会計処理の統一は、平成9年6月6日に改訂された「連結財務諸表原則」において規定されたものであり、同一の環境下にあるにもかかわらず、同一の性質の取引等について連結会社間で会計処理が異なっている場合には、その個別財務諸表を基礎とした連結財務諸表が企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の適切な表示を損なうことは否定できないと考えられたことによる(連結会計基準57項)。 「原則として統一する」とは、①統一しないことに合理的な理由がある場合又は②重要性がない場合を除いて、統一しなければならないことを意味する(会計処理統一実務指針3項)。 会計処理統一Q&Aでは、次のように述べている(会計処理統一Q&AのQ2)。 持分法の適用対象となる非連結子会社についても、連結子会社と同様に、原則として統一する(「持分法に関する会計基準」(企業会計基準第16号)9項、21項、会計処理統一実務指針3項)。 2 基準性の原則 「連結財務諸表は、企業集団に属する親会社及び子会社が一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して作成した個別財務諸表を基礎として作成しなければならない。」として、いわゆる「基準性の原則」を定めている。 「基準性の原則」の下では、親子会社間の会計処理の統一は、各個別財務諸表の作成段階で行うことが原則となる(会計処理統一Q&AのQ1)。 各連結会社の個別財務諸表の作成段階においては、適用されていない特定の会計方針を、企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況をより適正に表示するという観点から、連結決算手続上、個別財務諸表の処理を修正して適用する場合もある(会計処理統一Q&AのQ1)。 3 親子会社間の会計処理の統一に関する監査上の取扱い 会計処理統一実務指針は、同一環境下で行われた同一の性質の取引等について、親子会社間の会計処理を統一する手順を次のように規定している(会計処理統一実務指針4項、会計処理統一Q&AのQ3)。 【親子会社間の会計処理を統一する手順】 なお、親子会社間の会計処理の統一を目的として会計方針を変更する場合には、連結財務諸表及び個別財務諸表上、これを「正当な理由」による会計方針の変更として認めるものとされている(会計処理統一実務指針4項(4)、会計処理統一Q&AのQ7~Q9)。 4 個別の会計処理基準等に関する取扱い 会計処理統一実務指針は、(1)原則として統一すべき会計処理と(2)必ずしも統一を必要としない会計処理に分けて規定している。 (1) 原則として統一すべき会計処理 資産の評価基準、同一の種類の繰延資産の処理方法、引当金の計上基準及び営業収益の計上基準については、統一しないことに合理的な理由がある場合又は重要性がない場合を除いて、親子会社間で統一する。 例えば、営業収益の計上基準については、原則として事業セグメント単位等ごとに、企業集団内の親会社又は子会社が採用している計上基準の中で、企業集団の財政状態及び経営成績をより適切に表示すると判断される計上基準に統一する(会計処理統一実務指針5項(1))。 (2) 必ずしも統一を必要としない会計処理 資産の評価方法及び固定資産の減価償却の方法については、本来統一することが望ましいが、事務処理の経済性等を考慮し、必ずしも統一を要しないものとされている(会計処理統一実務指針5項(2))。 5 連結決算手続上、親会社の会計処理を修正した場合の取扱い 会計処理の統一にあたっては、より合理的な会計方針を選択すべきであり、子会社の会計処理を親会社の会計処理に合わせる場合のほか、親会社の会計処理を子会社の会計処理に合わせる場合も考えられる(連結会計基準58項)。 連結決算手続上、親会社の会計処理を修正した場合で、その影響額が重要なときには、その旨、修正の理由及び当該修正が個別財務諸表において行われたとした場合の影響の内容を連結財務諸表に追加情報として注記しなければならない。この場合の重要性の判断基準については、例えば、財務諸表項目の連単倍率等の算定において極めて重要な影響を及ぼす場合等が考えられている(会計処理統一実務指針6項、会計処理統一Q&AのQ10、Q11)。   (了)

#No. 645(掲載号)
#阿部 光成
2025/11/20

税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識 【第71回】「底地取引をめぐる新しい動向と鑑定評価」

税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第71回】 「底地取引をめぐる新しい動向と鑑定評価」   不動産鑑定士 黒沢 泰   1 はじめに 旧借地法の下で締結された土地の賃貸借契約で長期間にわたり継続しているものについて、地代の利回り(=年額地代÷更地価格×100%)を計算した場合、経済合理性という観点からみて著しく低いものとなっているのが一般的な傾向です。 その理由は、旧借地法による借主保護という観点から、地価が上昇してもこれに見合う十分な地代に改定することが難しいという事情が大きく影響していたことが様々な方面から指摘されています。 そのため、土地の賃借人がいる状態でその土地の所有権(すなわち、底地の所有権)を取得しようと考える人は、一般市場においてはきわめて限られているのが実情です。 しかし、平成4年8月1日から新しい借地借家法が施行され、事業用定期借地権が活用されるに伴い、ここ最近、従来とは異なるスタイルでの底地取引が見受けられるようになってきました。 例えば、J-REITによる事業用不動産の敷地の取得です(ここで取得の対象とされているのは、あくまでも土地の賃借人がいる状態における土地の所有権であり、これがまさに底地に他なりません)。 このような新しい動向は、2025年9月29日付日本経済新聞朝刊にも「『底地ビジネス』10兆円市場」(※1)という大きな見出しで掲載されています。 (※1) この記事では、土地と建物の所有権を分離し、土地のみを取引する「底地ビジネス」が拡大しているとし、それは企業が資産の効率化に向けて土地の売却を進めていることが要因であり、米投資ファンドのKKRやイオンリテールが活用している旨が紹介されています。 そこで、今回はこのような動向を鑑定評価という視点も交えながら分析してみたいと思います。   2 J-REITによる底地取得の状況 J-REITによる投資不動産の用途は、2001年3月に東京証券取引所に上場市場が創設されて以来しばらくの間は、そのほとんどがオフィス、共同住宅、商業施設であったといわれています。しかし、現在では、物流施設、ホテル、ヘルスケア施設、工場だけでなく、底地に至るまで幅広い領域にわたっています。 ちなみに、底地に関しては、J-REITの投資全体に占める割合は少ないものの、以下の〈資料1〉及び〈資料2〉にみられるとおり、(年度により変動があるものの)ここ最近、J-REITが底地を積極的に取得している傾向にあることが読み取れます。 〈資料1〉 J-REITの価額増加分に係る用途別の割合の推移 (注) J-REITの各年における取得価額の合計から売却物件の取得価額の合計を差し引いた価額分の用途別の割合を示したもの。 (出所) 一般財団法人土地総合研究所「土地総研リサーチ・メモ『J-REITにおける不動産投資の動向~2024年の状況』(2025年3月4日)」から抜粋。 〈資料2〉 J-REITの物件数増加分に係る用途別の割合の推移 (注) J-REITの各年における取得物件数の合計から売却物件数の合計を差し引いた物件数の用途別の割合を示したもの。 (出所)上記〈資料1〉と同様。   3 J-REITによる底地取得の動機 それでは、従来のわが国の借地事情に照らし、流動性がきわめて乏しく、投資利回りの著しく低い底地に対し、J-REITが積極的な取得の姿勢を示している動機にはどのようなものがあるのでしょうか。 旧借地法の制約下で、貸主にとって将来返還を受けることがきわめて難しく、しかも地代改定もままならない底地であれば、それが新たな投資対象として着目されることなどないはずです。現在、J-REITが底地取得に関心を示している背景には、従来の底地事情とは全く異なる考え方が存在していると思われます。 その主なものとして、次の点が各方面から指摘されています。 (※2) 併せて、次の指摘も見受けられます。 「敷地のみの保有であれば、建物整備コストがない分初期投資が小さくなり、投融資による新たな資金調達の必要性が相対的に低くなるほか、テナント退去等による賃料減収リスクが低く(実際、底地物件に立地する建物の大部分は商業施設である)、減価償却や維持・修繕がないため建物に比べて管理コストが低く、災害等による資産価値の下落リスクも低い(建物からのテナント退去は相当程度の確度で想定されるが、土地から建物を整備・保有するテナントが退去することは、建物等に係る初期投資や建物撤去費用などを勘案すれば、建物からの退去に比べ、かなり確度が低くなる)。」(一般財団法人土地総合研究所「土地総研リサーチ・メモ『J-REITにみる不動産証券化市場における取引主体の傾向(前編)』」、2022年12月1日) なお、〈資料3〉は、上記のような動機によって底地が生じるイメージを表わしたものです。 〈資料3〉 底地が生ずるイメージ 上記のように、土地建物から敷地のみが分離して売却された場合(結果としてその土地は底地に変化します)、売主はその後、当該土地を借地することにより建物を継続使用することとなります(いわゆる「セール・アンド・リースバック」です)。このような状況を踏まえれば、J-REITの底地取引はファイナンス的色彩が強いという捉え方もできると思われます。   4 J-REITが保有する事業用不動産の底地の利回り水準 J-REITが保有する事業用不動産の底地の利回り水準についての調査資料(ただし、公表されているもの)としては、三菱UFJ信託銀行不動産コンサルティング部作成の「不動産マーケットリサーチレポート(VOL.210(2022年6月17日))」があげられます。 これは、J-REITが情報開示している物件運用のデータを基に、同行が事業用不動産の底地の利回りの水準等について分析したものであり、概略は以下のとおりです。ただし、調査時点からやや期間が経過していることもあり、現時点においては利回りの数値自体が変動していることも考えられます。そのため、(これは筆者の見解ですが)ここに掲げた割合は絶対的な尺度というよりも、(後掲する)旧借地法下における底地の利回りとの相対的な比較をする際の物差しという意味で参考にしていただければと思います。 ちなみに、上記レポートによれば、投資家側の視点では、事業用不動産の底地の地代と取引価格の関係は期待する利回りによって決まるが(底地の地代(純収益・NOI(※3))÷利回り=価格)、NOIを(当時の)鑑定評価額で割り戻して求められた利回りの平均は4.4%、中央値は4.3%と報告されています。 (※3) 地代収入-固定資産税・都市計画税-管理費用=純収益(NOI) さらに、ここでは特記すべき事項として次の点が併せて指摘されており、留意が必要と思われます。 (※4) 筆者注。価格が高くなれば利回りが低くなるという逆相関の関係にあるためです。 (※5) 筆者注。このような場合、(※4)に掲げたケースと同じく利回りは低くなる傾向にあります。   5 旧借地法下における土地賃貸借契約の底地の利回り水準 日税不動産鑑定士会(税理士と不動産鑑定士の2つの資格保有者で組織する会)では、継続地代の実態(ただし、東京都23区を中心として)を昭和49年から3年ごとに調査し、その結果を「継続地代の実態調べ」(成果物)として刊行しています。 以下、同会ホームページに掲載された「令和6年版(第18回)『継続地代の実態調べ』をめぐって」のなかから調査結果の一部を参照させていただき、旧借地法下における底地の利回りの水準について振り返ってみます。   6 まとめ 旧借地法の下で締結された土地賃貸借契約に関しては、「底地の利回りは著しく低い」というのが従来からの傾向であり、このことは現在でも変わりはありません。しかし、J-REITが取得し保有している物件に関しては事情が異なることは、今まで述べてきたことから理解できると思います。 不動産鑑定士としても、従来の常識だけに捉われず、新しい知識を吸収するとともに市場の動向を見極めながら鑑定業務に携わる必要があることを痛感させられます。 (了)

#No. 645(掲載号)
#黒沢 泰
2025/11/20

《税理士のための》登記情報分析術 【第30回】「株式会社の設立登記について」~依頼者からヒアリングすべき事項~

《税理士のための》 登記情報分析術 【第30回】 「株式会社の設立登記について」 ~依頼者からヒアリングすべき事項~   司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎   2025年も残すところ1か月程度となったが、年末に差し掛かると増えてくるのが設立登記の依頼である。新年の1月に設立をしたいという依頼者が多いためである。本稿では、株主も少数で取締役会を設置しない小規模な株式会社を念頭に設立登記のポイントについて複数回に分けて解説を行う。   1 設立登記にあたってヒアリングが必要な情報 司法書士が株式会社の設立登記の依頼を受けるにあたって、依頼者からヒアリングをする主な情報とポイントは次のとおりである。 筆者の場合、ヒアリングシートを用意して依頼者に記載をしてもらうようにしている。 (1) 商号 会社名のことであり、ひらがなやカタカナ、漢字以外にもローマ字や一定の符号(「&」や「・」など)も使用することができる。ただし、使用できない文字や符号もあるため、特殊な文字を利用したい場合には、事前に司法書士に相談するとよいだろう。また前株(株式会社〇〇)なのか、後株(〇〇株式会社)なのかについても決定する必要がある。 商号が決まったら法務局に届出する会社実印も作成する必要がある。手配を忘れていると設立登記が遅れることがあるため注意したいところである。 (2) 本店の所在場所 本店の所在場所がビルの一室にある場合でも、ビル名や部屋番号まで登記することは求められていない。ビル名等を省略すると郵便物が到達しない場合は登記した方がよいが、ビル名等が変更されると登記申請を行う必要があるため検討の余地がある。設立登記の申請にあたって、法務局に賃貸契約書など、本店の所在場所を使用する権限があることを証明する書類を提出する必要はない。 (3) 目的 会社の事業目的のことであるが、依頼者自身ではやりたいことは決まっていてもどのような記載ぶりとすればよいかわからないことが多い。筆者はまず自由に依頼者に記載してもらい、登記に適する形で記載ぶりを整えるようにしている。許認可が必要になる事業の場合は、事前に行政書士に目的の記載ぶりについて相談することもある。 (4) 役員 取締役の氏名、代表取締役の氏名・住所など情報が必要になる。役員については印鑑証明書等の書類を準備してもらう必要があるため、役員構成は早めに決定することがスムーズに設立登記を進めるコツといえる。 (5) 役員の任期 役員の任期は原則として選任から2年間であるが、発行するすべての株式に譲渡制限を設定する株式会社については、役員の任期を選任から10年間と伸長することができる。小規模な株式会社の設立の場合は、任期を10年間とすることが多いが、10年後に役員の改選登記を失念している事例も散見されるため検討の余地がある。 (6) 公告方法 公告方法には、官報、日刊新聞紙、電子公告の方法があるが、圧倒的に官報を選択する事例が多い。特にこだわりがなければ、官報として差し支えないだろう。 (7) 資本金の額 資本金の額の下限に制限はなく、極端な例では1円とするような事例もあるが、筆者の経験では100万円程度とすることが多いように思われる。 (8) 発起人 設立後に株主となる人のことであり、氏名・住所と出資額の情報が必要になる。発起人には、印鑑証明書等の書類を準備してもらうことや資本金を入金する手続をしてもらう必要になるため、発起人についても役員と同じく早めに決定するとスムーズである。 (9) 事業年度 事業年度については、会社で自由に決めることができる。必ずしもよくある3月末や12月末などにする必要はないため、業務の繁閑を考慮して決定するとよいだろう。 (10) 設立日 設立登記を法務局に申請した日が設立日となるが、法務局が閉庁している土日や祝日、年末年始期間は設立日とすることができない。1月1日を設立日としたいとするニーズは多いが、法務局が閉庁しているため設立日とすることはできない。   2 1月1日を設立日にすることが可能に? 法務局が閉庁している土日や祝日、年末年始期間の日を設立日とすることができないという問題については改正が予定されている。商業登記規則等の一部改正により2026年2月2日以降は、1月1日などの法務局が閉庁している日でも設立日とすることが認められる方向である。細かい論点整理はこれからとなるが、設立予定があるときは事前に司法書士に相談をしておくとよいだろう。   (了)

#No. 645(掲載号)
#北詰 健太郎
2025/11/20

《顧問先にも教えたくなる!》資産づくりの基礎知識 【第29回】「安心して資産の成長を見守るための「スイッチング」と「配分変更」の活用」

《顧問先にも教えたくなる!》 資産づくりの基礎知識 【第29回】 「安心して資産の成長を見守るための 「スイッチング」と「配分変更」の活用」   株式会社アセット・アドバンテージ 代表取締役 一般社団法人公的保険アドバイザー協会 理事 日本FP協会認定ファイナンシャルプランナー(CFP®) 山中 伸枝   〇株価の上昇に伴う不安 株式市場が堅調な動きを続けています。2025年10月末時点の日経平均株価は52,411円でした。2025年の始まりは約40,000円でしたから、1年弱で約12,000円の上昇となっています。また、S&P500も2025年10月末時点で6,840ドルと、年初から1,000ドルほど値上がりしています。 しかしこれだけ株価の上昇が続くと、「そのうち一気に下がるかもしれない」という不安も広がってきます。実際、お客様からは「今のうちに利益確定をした方がよいでしょうか」という問い合わせも増えています。 例えば人気の投資信託eMaxis Slimシリーズの日本株式(日経平均)については、2025年9月末時点の運用報告書による直近1年の騰落率が+20.8%です。同じく米国株式(S&P500)は+22.4%、全世界株式(いわゆる「オルカン」)は+22.1%となっています。オルカンは米国株が6割程度を占めるため、米国市場の影響が大きい一方、新興国株式も堅調であったことが報告書で触れられています。 特に投資経験が浅い場合、評価益が+10%、+20%、あるいはそれ以上になると、「これはいつまで続くのか」「大きな下落が来るのでは」と不安になる気持ちも理解できます。   〇長期投資では「気持ちと折り合いをつける」ことも大切 もちろん、今後の株価動向を正確に予想することはできません。もっともっと上がるかもしれないし、リーマンショック級の暴落が来るかもしれません。保有が正解か、売却が正解か誰も分からない中、長期投資では「気持ちと折り合いをつける」ことも大切ではないかと考えます。 特に今後の運用期間が1年ないし3年程度しか見込めないという方であれば、利益の確定を考えるのも良いかもしれません。 特定口座あるいは一般口座で運用をしている方の場合、売却をすると税金がかかりますが、もし塩漬けにしていた運用商品があるのであれば、その売却損と利益を通算することができます。損益の発生が異なる証券会社の場合は、確定申告で通算します。 NISA利用の場合は、いつ解約をしても問題ありませんので、履歴を確認しながら売却を実施します。もし一般NISAで運用している商品がある場合は、非課税期間内に売却を行うことも重要です。 NISAの投資はいつお休みしても、いつ再開しても構わないので、市場が過熱しすぎていると感じるのであれば、少し積立を中止する、あるいは積立の金額を減額して継続するなどの対策も有効です。   〇スイッチングの手続き方法 iDeCoはご存じの通り、60歳まで資金を引き出すことは原則できませんが、口座内の運用商品の売買(スイッチング)はいつでも可能です。つまり、利益が大きくなってきたと感じたら、その一部または全部を売却し、定期預金などの元本確保型商品へ預け替えることができます。ただしiDeCoの手続きは少し複雑ですから、詳しく説明します。 スイッチングは、今ある資産を売却して、その売却資金で別の資産を購入するということです。この時、資産を全部売却しても良いですし、一部売却することもできます。 例えば、利益が出ている日本の株式に投資をするインデックスファンドを全部売却するとしましょう。まず、iDeCoの管理画面で「スイッチング(預け替え)」を選ぶと保有中の運用商品が一覧で表示されます。そのうち売却したい日本株インデックスファンドを選び売却を選ぶと、全部売却するのか一部売却するのかの選択が示されますので、全部を選択します。 すると今度は、その売却資金で何を購入するかを問う画面に変わります。加入中のプランの運用商品一覧が表示されるので、そこで購入する商品を選びます。確認の行程を経て操作は完了です。名称や画面構成は金融機関によって多少異なりますが、流れは概ね同じです。 投資信託の売却には通常4営業日程度かかり、次の商品を購入するまでにはさらに数日かかる場合がありますので、表示されるスケジュールは必ず確認しましょう。 例えば、1つの運用商品を売却して、その資金で2つの運用商品を購入したいという場合もあるでしょう。その時は、2回に分けて手続きをした方が分かりやすいです。例えば、最初に日本株インデックスファンドを半分売却し、その資金で定期預金を購入する。その後、残り半分を売却して、年金保険を購入する、というような流れです。 一部売却する場合は「口数」で指定します。投資信託は基準価額(=1口あたりの価格)に保有口数を掛けて評価額を算出します。たとえば「20万円分だけ売却したい」といった場合には、売却したい金額を基準価額で割ることで、目安の売却口数が計算できます。画面のヘルプやコールセンターでもサポートが受けられますので、落ち着いて進めれば難しくありません。 ここまでは、今保有している運用商品を売却する手順です。この操作だけを行うと、日本株インデックスの売却はあくまでも現在保有資産のみですから、翌月にはこれまでと同様に日本株インデックスの買い付けが行われます。   〇配分変更の手順 そこでもうひとつ大切な設定が「配分変更」です。配分とは、毎月の掛金でどの運用商品を購入するかという割合のことです。先に配分変更をしておくことにより、「もう購入したくない運用商品」を売却したあとも、翌月以降に再度積み立て買付が行われてしまうことを防ぐことができます。 そのため、(1)配分変更で今後の購入先を元本確保型に変更 ⇒(2)その後スイッチングで保有資産を売却・預け替え、という順番にすると意図通りの運用ができます。 手順としては、まず配分変更のタブを開き、翌月購入する運用商品を変更します。最初は現在購入中の運用商品にチェックが入っていますので、積立購入を中止する運用商品のチェックを外し、元本確保型商品にチェックを入れ、資金の配分割合を設定します。その後翌月の買い付けが実行されてからスイッチングを行います。   〇最後の確認は忘れずに 作業の仕上げは、確認です。思った通りに配分が変更されたのか、思った通りに売買が行われたのかの確認は必ず実行しましょう。どうしても時間差が発生する行程なので、どこかで指示がうまくいかず、配分変更が行われていなかった、スイッチングができていなかったということもありますので、忘れずに確認することをお勧めします。 このようにiDeCoは、口座内での運用商品の売買はいつでも可能です。iDeCo内の投資信託は購入時手数料がかからず、売却時に信託財産留保額が発生する商品も現在は多くありません。さらに、利益を確定しても非課税で全額を次の運用に回せるという点は、iDeCoならではの大きなメリットです。   〇まとめ 市場が活況な今こそ、一度ご自身の評価益と向き合い、今後のライフプランと照らし合わせながら、運用リスクの取り方を見直す良い機会かもしれません。スイッチングと配分変更という機能を知り、上手に活用することで、資産の成長をより安心して見守ることができるようになるでしょう。ぜひ参考にしてみてください。 (了)

#No. 645(掲載号)
#山中 伸枝
2025/11/20

《速報解説》 会計士協会、「倫理規則に関するQ&A(実務ガイダンス)」の改正に関する公開草案を公表~タックス・プランニング業務及びサステナビリティ保証業務に係るQ&Aを改正~

《速報解説》 会計士協会、「倫理規則に関するQ&A(実務ガイダンス)」の 改正に関する公開草案を公表 ~タックス・プランニング業務及びサステナビリティ保証業務に係るQ&Aを改正~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2025年11月18日、日本公認会計士協会は、倫理規則実務ガイダンス第1号「倫理規則に関するQ&A(実務ガイダンス)」の改正に関する公開草案(タックス・プランニング業務及びサステナビリティ)を公表し、意見募集を行っている。 2025年10月15日に、日本公認会計士協会は、「倫理規則」の改正に関する公開草案を公表し意見募集を行っているが、これを受けて、「倫理規則に関するQ&A(実務ガイダンス)」の改正に関する公開草案を公表するものである。 意見募集期間は2025年12月18日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 倫理規則の改正内容とIESBAから公表されているスタッフQ&Aを踏まえ、「倫理規則に関するQ&A(実務ガイダンス)」について、次の項目に関する改正を行う。 Q&Aの各項目では、その内容が詳細に規定されているので、実際の適用に際しては、Q&Aを確認する必要がある。 (了)

#阿部 光成
2025/11/19

《速報解説》 「所得税法施行令の一部を改正する政令」が11月19日付官報:号外第254号にて公布~通勤手当の非課税限度額の引上げ~

《速報解説》 「所得税法施行令の一部を改正する政令」が 11月19日付官報:号外第254号にて公布 ~通勤手当の非課税限度額の引上げ~   Profession Journal編集部   Ⅰ はじめに 令和7年11月19日、「所得税法施行令の一部を改正する政令」(政令第380号)が官報号外第254号に掲載され、公布された。 この改正は、令和7年8月7日に人事院が行った「令和7年人事院勧告」において、自動車などの交通用具使用者に対する通勤手当の額の引上げが勧告されたことを受けたものである。 人事院勧告に基づく通勤手当の改正は、民間企業の所得税法上の通勤手当の非課税限度額にも連動するのが通例であり、今回の政令改正により、令和7年4月1日以降に受ける通勤手当について、新たな非課税限度額が適用されることとなった。 なお、今回公布された政令は、令和7年8月の人事院勧告における改正内容のうち、②に該当する部分(現行の「60㎞以上」までの距離区分の引上げ)のみを対象としている。人事院勧告における①(65㎞以上から100㎞以上までの区分の新設)及び③(駐車場等の利用に対する通勤手当の新設)については、令和8年4月実施予定とされており、今後別途政令改正が行われる見込みである。   Ⅱ 改正の内容 今回の政令改正による通勤手当の非課税限度額の変更内容は、以下のとおりである。 1 改正の対象 所得税法施行令第20条の2第2号に規定する、自動車等の交通用具を使用して通勤する者に係る非課税限度額について、距離区分に応じた引上げが行われた。 2 具体的な改正内容 各距離区分における非課税限度額の改正内容は、以下のとおりである。 今回の改正により、10㎞以上の距離区分において、200円から7,100円までの幅で非課税限度額が引き上げられた。特に、45㎞以上の距離区分においては、4,300円から7,100円と大幅な引上げとなっている点が注目される。   Ⅲ 施行日及び経過措置 1 施行日 この政令は、令和7年11月20日から施行される。 2 適用関係 改正後の非課税限度額は、令和7年4月1日以後に受けるべき通勤手当(以下「新通勤手当」という。)について適用される。 ただし、令和7年4月1日前に受けるべき通勤手当の差額として追給されるもの(「特定差額追給手当」)については、従前の例による。すなわち、特定差額追給手当については、改正前の非課税限度額が適用される。 3 施行日前に受けた通勤手当の取扱い 新通勤手当のうち、この政令の施行日(令和7年11月20日)前に受けたものに係る所得税法第4編第2章第1節(源泉徴収)の規定の適用については、なお従前の例による。 これは、施行日前に既に源泉徴収が行われた通勤手当について、改正後の非課税限度額を遡及適用しないことを意味している。   Ⅳ 年末調整における実務上の留意点 今回の改正は、令和7年4月1日に遡及して適用されるため、令和7年4月から11月19日までに既に支払われた通勤手当については、改正前の非課税限度額を前提として源泉徴収が行われている。 したがって、令和7年12月に実施する年末調整において、改正後の非課税限度額を適用した再計算と、過納付税額の精算処理が必要となる可能性が高い。 なお、年末調整における具体的な処理方法や留意点については、本誌連載「〈令和7年分〉おさえておきたい年末調整のポイント」(公認会計士・税理士 篠藤敦子)において、今後、追補として詳細に解説する予定である。 また、国税庁は、令和7年8月の人事院勧告を受けて、「通勤手当の非課税限度額の改正について」と題する特設ページを公開しており、年末調整における対応を呼びかけている。今回の政令公布を受けて、同ページには更なる詳細情報が追加されることが予想されるため、年末調整実務に当たっては、最新の情報を確認することが重要である。   Ⅴ 今後の改正予定 前述のとおり、人事院勧告においては、以下の2点についても改正が予定されている。 これらは令和8年4月実施予定とされている。実務担当者においては、これらの改正動向についても引き続き注視する必要がある。   Ⅵ  おわりに 今回の通勤手当の非課税限度額の引上げは、令和7年4月に遡及して適用されるため、年末調整において差額調整が必要となる可能性が極めて高い。 給与支払者においては、従業員の通勤実態を改めて確認するとともに、年末調整における適切な処理を行うため、国税庁の特設ページ等を通じて最新情報を入手し、適切に対応していただきたい。 (了)

#Profession Journal 編集部
2025/11/19
#