相続税の実務問答 【第117回】 「相続時精算課税を適用した財産の評価額が誤っていた場合の相続税の申告」 税理士 梶野 研二 [答] 贈与税の申告書に記載した財産の価額に過大評価などの誤りがあった場合において、更正の請求等によりその贈与税の課税価格や税額の是正がされなかったとしても、相続税の課税価格の計算において加算する贈与財産の価額は、贈与税の申告書に記載した価額にかかわらず、正しい評価額となります。 ただし、贈与税の申告書に記載した価額は、納税者として正しい評価額であると考えて記載したものであると推定できますし、贈与時から長期間が経過した現時点で、申告書に記載した評価額とは異なる価額が適正な評価額であると合理的に説明することは困難な場合が多いと思います。 広大地評価通達の適用が問題となるお尋ねのケースでは、仮に広大地評価通達を適用して評価した価額を相続税の課税価格に加算する金額とする相続税の申告を行ったとしても、具体的な根拠を示し、説得力のある説明を準備できない限り、否認されるリスクが高いといえます。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 相続税の課税価格に加算する価額 相続時精算課税に係る贈与者に相続が開始した場合の相続税の計算において、相続時精算課税を適用した財産の価額を相続税の課税価格に加算(特定贈与者から財産を相続又は遺贈により取得した場合)、又は算入(特定贈与者から財産を相続又は遺贈により取得しなかった場合)しなければなりません(相法21の15①、21の16①)。 相続税の課税価格に加算又は算入する相続時精算課税を適用した財産の価額は、相続開始時におけるその財産の状態にかかわらず、その財産の贈与の時における価額となります(相法21の15①、21の16③、相基通21の15-2)。 例えば、相続時精算課税を適用した財産である建物が老朽化して価値のないものとなったとしても、あるいは贈与を受けた株式の価額が下落したとしても、相続税の課税価格に加算又は算入する財産の価額はそのような贈与後に生じた事情に関わりなくその財産の贈与を受けた時の価額となります。 また、相続時精算課税に係る贈与税の申告において、贈与を受けた財産の価額を過大に評価し、又は過少に評価していた場合、相続税の課税価格に加算又は算入する財産の価額は、贈与税の申告書に記載した評価額にかかわらずその財産の贈与を受けた時の価額となります。 贈与税の課税処分の除斥期間内(一般的には、贈与税の申告期限から6年(相法37①))に過大評価又は過小評価の事実が判明した場合には、修正申告や更正の請求により、又は当局の職権による更正処分により正しい評価額に基づいた贈与税課税に是正することができ、その是正をした結果により、贈与者に相続が開始した場合の相続税の課税価格の計算がされることとなります。 一方、贈与税の課税処分の除斥期間が徒過した後に贈与者に相続が開始し、相続税の申告準備の中で、贈与税の課税価格の計算における財産の価額に誤りがあることが判明したような場合、もはや贈与税の是正をすることはできませんが、このことによって相続税の課税価格に加算又は算入する贈与財産の価額までが、贈与税の申告書に記載した贈与財産の価額に固定されてしまうわけではありません。 2 相続税の申告において贈与財産の価額を見直すこと 上記1のとおり、相続税の課税価格に加算又は算入する相続時精算課税に係る財産の価額は、贈与税の申告書に記載した金額に固定されるわけではありません。しかしながら、贈与税の申告における価額は、納税者において贈与財産の適正な価額と判断したことを前提として計算したものであり、その価額は、特段の事情がない限り、適正なものと推定することができます。ですから、贈与税の申告における価額とは異なる価額をもって、相続税の課税価格に加算又は算入する贈与財産の価額とすることは、その推定を打ち破るほどの確かな裏付けが必要となるといえます。 贈与の時から相続税の申告の時までの期間が長期となる場合、贈与財産の価額を明らかにすることができる資料は散逸し、相続時精算課税適用者の記憶も薄れてしまっていることなども考え合わせると、贈与税の申告書に記載した贈与財産の価額とは異なる価額を相続税の課税価格に加算又は算入することは難しい場合が少なくないと考えられます。 3 いわゆる広大地評価通達 いわゆる広大地評価通達(平成29年9月20日付課評2-46ほかによる改正前の財産評価基本通達24-4)とは、その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地で、開発行為を行うとした場合に道路や公園等の公共公益的施設用地の負担が必要と認められる宅地(広大地)について、その広大地が路線価地域内に所在する場合には、その広大地の面する路線の路線価に一定の算式により求めた広大地補正率を乗じて計算した金額によって評価するとする評価上の取扱いです。 この広大地評価通達を適用するためには、①その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく広大な宅地であること、②開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められること、③中高層の集合住宅等の敷地に適している宅地(いわゆるマンション適地)ではないことなどの点についての判断が必要でしたが、これらの判断が難しいとの指摘もあり、この通達は平成29年までの課税事案をもって廃止され、この扱いに代わるものとして、「地積規模の大きな宅地」の評価方法が財産評価基本通達20-2に定められ、平成30年以降の課税事案に適用されることとなりました。 広大地通達を適用することができるかどうかの判断に当たっては、その評価対象地の形状、接道状況、有効利用方法、近隣の開発の状況、開発に係る法令等の規制などを確認する必要がありますが、このような観点の確認は、評価時点(贈与時)から時の経過が進むとともに困難となります。 4 質問の場合 昨年、お父様がお亡くなりになられたとのことですので、お父様から贈与を受けた財産で相続時精算課税の適用を受けたものについては、その財産の贈与時の価額を相続税の課税価格に加算しなければなりません。通常は、贈与税の申告書に記載した金額が、贈与を受けた時の価額であると認められますから、その金額を相続税の課税価格に加算することとなります。ただし、贈与税の申告書に記載した金額が誤ったものである場合には、適正に評価した価額を加算することとなります。 あなたは、お父様から贈与を受けた宅地について広大地評価通達を適用することができたのではないかとお考えのようです。その宅地について通達を適用することができたということであれば、相続税の申告に当たり課税価格に加算する当該宅地の価額は同通達を適用した後の金額となります。 しかしながら、上記3で述べたように、広大地評価通達を適用することができる要件を満たすかどうかの判断は、容易ではない場合もあり、専門家である税理士や税務当局の職員によっても判断が分かれるケースも珍しくありませんでした。 贈与を受けた当時において広大地評価通達を適用することができるかどうかの判断が困難であったとすれば、贈与を受けた時から10年以上が経過した現時点においてその判断を行うことは、さらに困難なものとなります。特段の事情がない限り、あなたの贈与税の申告において広大地評価通達を適用しなかったのは、当時のあなた又はあなたから委任を受けた税理士が広大地評価通達を適用することはできないと判断した結果であると推定されます。 したがって、相続税の申告におけるあなたの主張が認められなかった場合のリスクをも勘案して、相当程度確実な説明が準備できるかどうかにより、今回の相続税の課税価格に加算する贈与時の価額を決めるべきであると考えます。 (了)
〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第92回】 「日星両国の複数法人代表の居住者該当性が争われた事例 (東地令5.4.12)(その1)」 ~所得税法2条1項3号~ 税理士 大野 道千 1 判例 (1) 当事者等 (2) 事実の概要 原告会社及びその代表者である原告Xが、平成25年5月24日に、同月30日(以下「本件転出日」という)をもって東京都江戸川区(以下「本件転出前住所登録地」という)からシンガポール共和国(以下「シンガポール」という)へ転出する旨の届出(以下「本件届出」という)をし、原告Xが平成25年(本件転出日後)から平成27年において所得税法2条1項3号が定める「居住者」に該当するとしてされた原告更正処分等及び原告賦課決定処分並びに平成25年6月分から平成27年12月分までの原告会社納税告知処分等及び原告会社賦課決定処分等を違法として取消しを求めた事案。 【出国日等】 【滞在日数】 (※) 品川芳宣「所得税法における「居住者」と「非居住者」の区分~「住所」の認定~」T&A master(2024年2月19日号・No.1015)より引用 【住居・居住の所在】 物件名 所在 裁判所の判断 1 □□物件B2902号室 日本 ・定期建物賃貸借契約において、No.2□□物件B3301号室と不可分一体とする旨の特約が付されていた。 ・その大部分がゴルフ道具や衣装等を保管する倉庫としての使用。 ・ベッド、トイレ、風呂等の生活に必要な設備等は備えられていた。 ・日常生活に必要な衣服等もある程度は保管されていたことがうかがえるから、継続的な生活を送るための住居といえる程度の実体が最低限あったことは否定し難い。 ・賃料115万円/月 ・入居者の欄に原告の名前の記載あり。 2 □□物件B3301号室 日本 3 □□物件E302号室 日本 4 □□物件W1109号室 日本 5 汐留物件204号室 日本 6 芝大門物件301号室 日本 7 オーチャード物件 シンガポール 〈平成25年:シンガポール申告書記載の住所地〉 オーダーメイド家具や衣服等が十分に備えられていた。 8 コーヴウェイ物件 シンガポール 〈平成26年・平成27年:シンガポール申告書記載の住所地〉 オーダーメイド家具や衣服等が十分に備えられていた。 【職業の状況】 日本での職業の状況 シンガポールでの職業の状況 (平成25年及び平成26年) ・多額の役員報酬 ・毎月帰国し、業務関係者等との飲食、ゴルフ番組の収録等をしていた。 ・代表取締役等の地位にある原告元代表者の国内で従事すべき業務は限定的で、最終的な意思決定は担当者等による口頭等での説明を受けて追認等をする程度のものであった。 (平成25年及び平成26年) ・原告元代表者は、シンガポールにワイン事業の商機を見出し、同国には世界的なハブ空港があり、仕入れ等の際の利便性が高く、ワインの輸送に便利な港湾も整備されていたことなどから、O社を設立してワイン事業を始めた。 ・設立したばかりで、十分な従業員等がおらず、シンガポールでの事業経験等もなかったことから、シンガポールのワイン業界における人脈の構築や情報収集、仕入先との交渉や営業活動、第三国へ渡航しての仕入れ等を原告元代表者が自ら行っていた。 ・その結果、仕入本数等が増加し、平成25年が1社であったのに対し、平成26年は6社に仕入先が増加した。 ・原告元代表者は、シンガポールに滞在中、専らO社のワイン事業に従事しており、その業務の内容等に鑑みても、自らシンガポールに滞在する必要性があった。 (平成27年) ・平成25年及び平成26年と同様で年間の18%程度しか事業に従事していなかった。 (平成27年) ・原告元代表者は、O社のワイン事業が軌道に乗り始め、シンガポールに滞在する必要性が高まったこともあり、平成27年においては、シンガポールへ渡航する頻度が増加し、毎月シンガポールに滞在するようになり、それまでのオーチャード物件が手狭になったことから、3階建てでワイン倉庫を併設したコーヴウェイ物件を賃借し生活していた。 ・第三国へ渡航して、O社のワイン事業の仕入れ等をしていた日数を加味した上で、シンガポールでO社のワイン事業に従事していた日数は年間の32%程度であった。 【家族の状況】 原告元代表者には生計を一にする配偶者その他の親族はいない。 (3) 争点 Xの各年における居住者該当性(「住所」がどこにあるか)。 (4) 判旨 一部認容。 ((その2)へ続く)
2026年3月期決算における会計処理の留意事項 【第2回】 史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋 Ⅴ 「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正 2026年2月20日に金融庁より「「企業内容等の開示に関する内閣府令(以下、「開示府令」という)及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」等の公布及びパブリックコメントの結果について」が公表された。 主な改正内容及び適用時期について以下解説を行う。 〈主な改正内容〉 1 人的資本開示に関する制度見直し 有価証券報告書における人的資本の開示をより充実したものとするため、以下の改正が行われている。また、「従業員の状況」については、「第1 企業の概況」に記載していたが、「第4 提出会社の状況」に「5 従業員の状況等」を新設し、その中で「(2)従業員の状況」と新設の「(1)人材戦略に関する基本方針」を記載する(開示府令第二号様式記載上の注意(58-2)、第三号様式「第一部 第4【提出会社の状況】」及び記載上の注意(39-2)。 〈改正内容〉 (1) 「人材戦略に関する基本方針」の新設 「5 従業員の状況」において、「(1)人材戦略に関する基本方針」という項目が新設され、以下の①②の内容を記載する。ただし、全部又は一部を有価証券報告書の他の箇所において記載した場合には、その旨を記載することによって、記載を省略することができる(開示府令第二号様式記載上の注意(58-2)、第三号様式「第一部 第4【提出会社の状況】」及び記載上の注意(39-2)。 (※1) 「人材戦略」に関しては、有価証券報告書の「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」で記載する「経営方針・経営戦略等」に関連付けて記載する。「経営方針・経営戦略等」が連結会社ベースで記載することとされるため、「人材戦略」についても連結会社ベースで記載することが適当と考えられる。ただし、これは、連結会社を構成する個々の会社ごとの「人材戦略」の記載が必要という趣旨ではない(金融庁「コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方(企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令等)」(以下、「コメント考え方」という)149)。 (※2) 「人材戦略」の具体的な定義はないが、中長期的に企業価値を向上させていくために必要と考えられる人材戦略等が立案され、その内容を開示することが、投資判断に資する情報開示につながるものと考えられる(コメント考え方107)。 (※3) 上記②の方針は、提出会社が主として子会社の経営管理を行う会社(純粋持株会社など)否かで以下に限定して記載することができる(開示府令第二号様式記載上の注意(58-2))。 (※4) 従業員給与等の額及び内容の決定に関する方針として具体的な指標等を定めている場合で、投資情報としての有用性が認められるときは、必要に応じて当該指標について追加的に注記することも考えられる(コメント考え方150)。 (※5) 「最大人員会社」の従業員数は、提出会社の従業員数のカウント方法の例によりカウントすることができる。実務上、提出会社からグループ会社への出向者はカウントせず、グループ会社から提出会社への出向者はカウントしている例が多い(コメント考え方151)。 (2) 「従業員の状況」の開示の拡充 「従業員の状況」において、新たに以下の開示を行う(開示府令第二号様式記載上の注意(58-3)、第三号様式「第一部 第4【提出会社の状況】」及び記載上の注意(39-3))。 (※6) 最大人員会社のセグメント別の従業員数については、不要である(コメント考え方168)。 (※7) 最大人員会社の決算末日が提出会社と異なる場合、提出会社の決算日時点の最大人員会社の情報を記載するか、最大人員会社の決算日時点の情報を記載するかについては、各企業におけるデータ集計の容易さ等を勘案し、適切な方法により開示することが考えられる。決算日が提出会社と異なる連結子会社のセグメント別の従業員数の集計において、その子会社の決算日時点の数を合算している例もある(コメント考え方171)。 【従業員の状況】の記載箇所 (3) 適用時期 2026年3月期の有価証券報告書から適用される。 2 サステナビリティ開示基準の適用開始に向けた環境整備 サステナビリティ開示基準(SSBJ基準)の適用開始に向けて整備が行われている。 (1) 適用対象企業及び適用時期 SSBJ基準の適用対象企業及び適用時期は、以下のとおりである(開示府令19の9①④⑤)。 なお、2026年1月8日に公表されている金融審議会「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」報告では、平均時価総額1兆円未満5億円以上の企業については、2029年3月期から適用と記載されている。 (2) 平均時価総額 平均時価総額は、有価証券報告書の対象事業年度の前事業年度の末日その前4事業年度の末日における時価総額の平均値により算定する(開示府令19の9③)。例えば、2027年3月期の企業であれば、2022年3月末、2023年3月末、2024年3月末、2025年3月末、2026年3月末の時価総額の平均値により算定する。 また、プライム上場企業は、「第1 企業の概況 1 主要な経営指標等の推移」において、当事業年度及び前5事業年度の各事業年度末日における時価総額及び平均時価総額を注記する(開示府令第二号様式記載上の注意(25)h、第三号様式記載上の注意(5)a)。 3 株主総会前の有価証券報告書の開示への対応 株主総会前の有価証券報告書の開示については、【第3回】で解説する。 Ⅵ 金融商品会計に関する実務指針 1 投資事業有限責任組合の会計規則 (1) 改正内容 投資事業有限責任組合の会計規則について、公正価値評価を進めるため、経済産業省より2023年12月5日に「中小企業等投資事業有限責任組合会計規則」が廃止され、「投資事業有限責任組合会計規則」(以下、「会計規則」という)が公表されている。 この改正で、ファンドが保有している投資先の株式評価について、以下のように改正されている(会計規則7)。 改正前 改正後 会計処理 投資は、時価を付さなければならない。ただし、時価が取得価額を上回る場合には、取得価額によることも妨げない。 投資は、原則として、時価を付さなければならない。 時価の定義 - 金融商品にあっては、計算を行う日において、市場参加者間で秩序ある取引が行われるとした場合におけるその取引において、組合が受け取ると見込まれる対価の額又は取引の相手方に交付すると見込まれる対価の額とする。 ⇒つまり、時価=「公正価値」と定義された。 評価方法 組合契約に定めるところによる。 組合契約に定めるところによる。 (2) 適用時期 2 金融商品会計に関する実務指針 近年、ファンドに非上場株式を組み入れた金融商品が増加しており、これらの非上場株式を時価評価することによって、財務諸表の透明性が向上し、投資家に対して有用な情報が開示及び提供されることになり、その結果、国内外の機関投資家からより多くの成長資金がベンチャーキャピタルファンド等に供給されることが期待されるとして、ASBJより2025年3月11日に移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」(以下、「金融商品実務指針」という)の改正が公表された。 (1) 対象となる組合等 以下の要件を満たす組合等が改正の対象である(金融商品実務指針132-2)。 (※) 時価評価の方法としては、企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」に基づいた時価で評価する場合のほか、IFRS第13号「公正価値測定」又は FASB Accounting Standards Codification(米国財務会計基準審議会(FASB)による会計基準のコード化体系)の Topic 820「公正価値測定」に基づいた公正価値で測定している場合が含まれる(金融商品実務指針308-3)。 (2) 評価方法 組合等が保有する市場価格のない株式の評価は、以下のとおりである。改正により容認処理が追加されている。 原則 組合等の構成資産が金融資産に該当する場合には金融商品会計基準に従って評価し、組合等への出資者の会計処理の基礎とする(金融商品実務指針132)。 市場価格のない株式は、取得原価をもって貸借対照表価額とする(企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準 」19)。 減損は、市場価格のない株式等の減損処理に関する定め(基本的に株式の実質価額が取得原価の50%程度以上下落した場合に減損。金融商品実務指針92)に従い、会計処理を行う。 容認 上記(1)の要件を満たす組合等への出資は、当該組合等の構成資産に含まれるすべての市場価格のない株式(出資者である企業の子会社株式及び関連会社株式を除く)について時価をもって評価し、組合等への出資者の会計処理の基礎とすることができる。この場合、評価差額の持分相当額は純資産の部の「その他有価証券評価差額金」に計上する(金融商品実務指針 132-2)。 減損は、時価のある有価証券の減損処理に関する定め(基本的に株式の時価が取得原価の50%程度以上下落した場合に減損。金融商品実務指針91)に従い、会計処理を行う。 なお、上記評価方法は組合単位で決定し、容認処理を採用した場合は、出資後に取りやめることはできない(金融商品実務指針132-3、308-5)。 (3) 注記 有価証券報告書の「金融商品に関する注記」において、以下の注記が必要となる(金融商品実務指針132-5)。連結財務諸表において注記している場合は、個別財務諸表において注記不要である。なお、計算書類では必ずしも以下の注記は求められていない。 (4) 適用時期 (5) 実務上の留意点 組合等で非上場株式を時価評価した場合、その金額は貸借対照表に計上されるため、その金額の妥当性は重要である。そのため、組合等において非上場株式の評価が適切に行われているかの検討が欠かせない。もし、自社内で非上場株式の評価の検討を行うことが難しい場合は、外部の専門家などに相談することも必要となる。 (了)
〈経理部が知っておきたい〉 炭素と会計の基礎知識 【第18回】 「指標・目標の開示 ~リスクや機会と向き合う企業の現在地とゴール」 公認会計士 石王丸 香菜子 〔ジャーナル食品社の登場人物〕 * * * SSBJ基準では、企業がサステナビリティ関連のリスク及び機会に関する開示を行うにあたり、次の4要素を開示することが求められます(【第14回】参照)。 「指標及び目標」の開示は、サステナビリティ関連のリスク又は機会に関する企業の取り組み状況を表す指標、設定している目標やその進捗状況を具体的に示すものです。 * * * * * * 利用者にとって有用である可能性が高いと考えられる次の7項目が、「産業横断的指標等」とされています。 * * * * * * * * * * * * 気候基準は、報告期間中に生成した温室効果ガス排出量(【第3回】参照)を、スコープ1(【第4回】参照)・スコープ2(【第5回】参照)・スコープ3(【第6回】参照)に区分して開示するものとしています。 GHGプロトコル(【第3回】参照)に従った測定が原則ですが、「地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)」に基づく「温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度」(【第4回】参照)における測定方法を用いて開示することも、一定要件のもとで認められます。 なお、スコープ2については、ロケーション基準による排出量の開示が求められます。加えて、主要な利用者の理解のために必要な契約証書に関する情報がある場合には、それに関する情報も開示するものとされていますが、代わりにマーケット基準による排出量を開示することも可能です(【第5回】参照)。 * * * * * * スコープ3の算定にあたっては、広範なサプライチェーン全体からデータを収集する必要があり、それが実務上の大きな負担になると考えられます。そのため、SSBJ基準の適用初年度は、スコープ3排出量を開示しないこともできる経過措置が設けられています。 * * * * * * 移行リスクは、低炭素経済に移行する取組みから生じるリスクをいい、政策や法規制の変更、技術の進歩、市場の動向、レピュテーション(評判)の変化などによって損失を被るリスクを指します。 物理的リスクは、気候変動を原因とする物理的な影響(豪雨、大型台風、海面上昇など)により損害を被るリスクです。 一方、気候関連の機会は、気候変動から生じるプラス面の影響を意味します(【第11回】参照)。 * * * * * * 【(株)大和証券グループ本社 気候関連レポート2025(旧TCFD開示)】 より抜粋 物理的リスクについては、たとえば、洪水による浸水リスクがある資産に関して開示することなどが考えられます。なお、物理的リスクを評価するための資料として、国土交通省から「TCFD提言における物理的リスク評価の手引き~気候変動を踏まえた洪水による浸水リスク評価~」が公表されています。 * * * * * * そのため、どのような資産又は事業活動を開示対象としたのかについても開示すべき旨が、気候基準において示されています。 * * * * * * Ⅲのグループの指標は、意思決定や評価のしくみにおける取り組み状況を表すものです。 内部炭素価格(インターナルカーボンプライシング)とは、企業が、自社の排出する二酸化炭素に対して、社内で独自に価格を付けるしくみをいいます(【第8回】参照)。 * * * 【三菱製鋼(株) 2025年3月期有価証券報告書】 (第2 事業の状況 2【サステナビリティに関する考え方及び取組】(2)気候変動(TCFD提言に基づく情報開示)④ 指標と目標 より抜粋) * * * こうした産業横断的指標等に加え、自社に関連する産業別の指標のうち、主なものを開示することも求められます。開示する産業別の指標を決定するにあたっては、IFRS S2号に付属する「産業別ガイダンス」を参照し、その適用可能性を考慮することとされています。 * * * 【オムロン(株) 2025年3月期有価証券報告書】 (第2 事業の状況 2【サステナビリティに関する考え方及び取組】(3)環境(気候変動)に関する取組み より抜粋) このような指標と目標が開示されることによって、利用者は企業の取り組み状況や、目標とその達成に向けた進捗状況を具体的に把握することができるのです。 * * * * * * Q サステナビリティに関する指標と目標についてどのような開示をするの? A 気候関連の指標の開示では、温室効果ガス排出を含む7項目の産業横断的指標等が中核となります。加えて、産業別の指標などの開示も求められます。また、気候関連の目標とその進捗状況なども開示するものとされています。 (了)
連結会計を学ぶ(改) 【第17回】 「子会社株式の一部売却①」 -支配が継続するケース- 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 【第16回】では、連結子会社株式の追加取得について解説したが、今回は子会社株式の一部売却(支配が継続するケース)について解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 子会社株式の一部売却(支配が継続するケース) 1 基本的な会計処理 子会社株式を一部売却したが、親会社と子会社の支配関係が継続している場合には、売却した株式に対応する持分を親会社の持分から減額し、非支配株主持分を増額する(「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号。以下「連結会計基準」という)29項、(「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」(移管指針第4号。以下「資本連結実務指針」という)42項)。 この際、売却による親会社の持分の減少額(以下「売却持分」という)と売却価額との間に生じた差額は、資本剰余金として処理する(連結会計基準29項)。 当該会計処理を行うに際して次のことに注意する(資本連結実務指針42項、44項)。 ③については、親会社と子会社の支配関係が継続している状況下で、子会社株式を一部売却した場合等におけるのれんの未償却額の取扱いについては、減額する方法及び減額しない方法のそれぞれに一定の論拠があると考えられるが、のれんを減額する場合における実務上の負担や、のれんを減額しないこととしている国際的な会計基準における取扱い等を総合的に勘案して、支配獲得時に計上したのれんの未償却額を減額しないこととしたものである(連結会計基準66-2項)。 2 考え方 平成20年12月に公表された「連結財務諸表に関する会計基準」では、子会社株式を一部売却した場合は、損益を計上することとしていた。 平成25年に改正された連結会計基準では、親会社の持分変動による差額は、資本剰余金として処理することとされた(連結会計基準53-2項(1))。 これは、それまでの会計処理方法の問題点を、最も簡潔に対応する方法が損益を計上する取引の範囲を狭めることであるとも考えられたことによる(連結会計基準51-2項)。 3 投資と資本の相殺消去(非支配株主持分のあるケース) 設例を用いて、子会社株式の一部売却に関する会計処理を説明すると次のようになる。 (了)
給与計算の質問箱 【第75回】 「社会保険の料率の変更」 ~令和8年度対応~ 税理士・特定社会保険労務士 上前 剛 Q 令和8年度において各種社会保険の料率の変更はあるでしょうか。 A 労災保険、厚生年金保険、子ども・子育て拠出金の料率の変更はない。雇用保険、健康保険、介護保険(第2号被保険者)の料率は変更がある。また、子ども・子育て支援金が新設された。子ども・子育て拠出金は廃止にはならない。 * * 解 説 * * 1 料率の変更がないもの (1) 労災保険 労災保険料は、会社が全額負担し従業員の負担はないことから給料計算には関係しない。 〔労災保険率表〕 (※) 厚生労働省ホームページより (2) 厚生年金保険 厚生年金保険の料率は、18.3%を折半して会社負担が9.15%、役員・従業員負担が9.15%である。役員・従業員は、標準報酬月額×9.15%=厚生年金保険料を給料から天引きされる。 例えば標準報酬月額300,000円の場合、300,000円×9.15%=27,450円の厚生年金保険料を給料から天引きされる。 〔令和8年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表(東京都)〕 (※) 協会けんぽホームページより (3) 子ども・子育て拠出金 子ども・子育て拠出金は、会社が全額負担し従業員の負担はないことから給料計算には関係しない。 子ども・子育て拠出金の料率は、0.36%である。子ども・子育て拠出金の額は、被保険者個々の厚生年金保険の標準報酬月額×0.36%の総額である。 例えば厚生年金の標準報酬月額300,000円の役員1名だけが社会保険に加入している会社の場合、300,000円×0.36%=1,080円の子ども・子育て拠出金を年金事務所へ支払う。 2 料率の変更があるもの (1) 雇用保険 令和8年4月1日~令和9年3月31日までの一般の事業の雇用保険料率は、会社負担が0.85%(令和7年4月1日~令和8年3月31日は0.9%)、従業員負担が0.5%(令和7年4月1日~令和8年3月31日は0.55%)である。従業員は、給料の総支給額×0.5%=雇用保険料を給料から天引きされる。 例えば給料の総支給額300,000円の場合、300,000円×0.5%=1,500円の雇用保険料を給料から天引きされる。 〔令和8年度の雇用保険料率〕 (※) 厚生労働省ホームページより (2) 健康保険 協会けんぽに加入の東京の会社の令和8年2月分(3月納付分)までの健康保険の料率は、9.91%を折半して会社負担が4.955%、役員・従業員負担が4.955%だった。令和8年3月分(4月納付分)からの健康保険の料率は、0.06%引き下げの9.85%を折半して会社負担が4.925%、役員・従業員負担が4.925%になった。役員・従業員は、標準報酬月額×4.925%=健康保険料を給料から天引きされる。 例えば標準報酬月額300,000円の場合、300,000円×4.925%=14,775円の健康保険料を給料から天引きされる。 (3) 介護保険(第2号被保険者) 第2号被保険者とは、40歳以上65歳未満の役員・従業員をいう。40歳未満及び65歳以上の役員・従業員の給料からは介護保険料を天引きしない。 協会けんぽに加入の東京の会社の令和8年2月分(3月納付分)までの介護保険の料率は、1.59%を折半して会社負担が0.795%、役員・従業員負担が0.795%だった。令和8年3月分(4月納付分)からの介護保険の料率は、0.03%引き上げの1.62%を折半して会社負担が0.81%、役員・従業員負担が0.81%になった。役員・従業員は、標準報酬月額×0.81%=介護保険料を給料から天引きされる。 例えば標準報酬月額300,000円の場合、300,000円×0.81%=2,430円の介護保険料を給料から天引きされる。 (4) 子ども・子育て支援金 令和8年4月分(5月納付分)から適用開始になる。上記1(3)子ども・子育て拠出金は全額会社負担だが、子ども・子育て支援金は労使折半である。 協会けんぽに加入の東京の会社の令和8年4月分(5月納付分)からの子ども・子育て支援金の料率は、0.23%を折半して会社負担が0.115%、役員・従業員負担が0.115%になる。役員・従業員は、標準報酬月額×0.115%=子ども・子育て支援金を給料から天引きされる。 例えば標準報酬月額300,000円の場合、300,000円×0.115%=345円の子ども・子育て支援金を給料から天引きされる。 (了)
《税理士のための》 登記情報分析術 【第34回】 「所有不動産記録証明制度がスタート」 ~所有不動産記録証明制度の活用方法~ 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 「所有不動産記録証明制度」(以下、「本制度」という)は、日本全国にある不動産の所有状況を調査できる画期的な制度であり、様々な活用方法が考えられる。活用方法を知ることで税理士としても顧問先への提案の幅を広げることができるであろう。 1 所有財産のリスト化 メーカーの工場や倉庫、あるいは大学の校舎ように多数の不動産を所有している企業・団体では、本制度を利用することで、簡単に所有する不動産のリスト(所有不動産記録証明書)を取得することができる。 従来であれば所有する不動産の管理は登記情報などをもとに、エクセルなどにデータ入力をして管理するケースが多かったと思われるが、登記情報を取得するコストがかかるうえに、登記情報を読み解いて、データ入力をするのは一定の専門知識や労力を要していた。また、不動産の購入や処分がある度に更新する必要があり、更新が追い付かない事例や担当者が変更になったタイミングで何年も更新されていないという事例もあったようである。 【従来】 本制度を利用すれば日本全国に所有する不動産のリストを簡単に取得することができる。また、定期的に取得するようにすれば、不動産の入れ替わりがあっても最新の状態を保つことも可能である。 筆者が考える本制度の利用が適する業種の例としては次のものがある。 【本制度の利用が適する業種】 業 種 本制度の利用が適する理由 メーカー 工場などの不動産を持つため 倉庫業 倉庫などの不動産を持つため 運送業 倉庫や駐車場を持つため 不動産業 不動産を多数所有するため 不動産オーナー 不動産を多数所有するため 大学 校舎やその敷地を所有するため 宗教法人 境内地などを所有するため 顧問先にこのような業種の企業等があるのであれば、本制度を紹介するとよいだろう。 2 与信審査の資料 与信審査の資料として取引先に本制度を利用してリストを提出してもらうことも考えられる。これまでは取引先からの申告や信用調査会社のデータベース、決算書などの情報をもとに取引先の所有する不動産を調査していたと思われるが、本制度を利用すれば正確に取引先の所有する不動産を把握できる。 登記情報と異なり、取引先に取得してもらわなければ入手することはできないが、有力な資料といえるため採用を検討してもよいだろう。 3 生前対策の提案の切り口として 税理士が不動産オーナーに対して生前対策を提案する切り口としても活用できる。個人の不動産オーナーであれば、自身の不動産の所有状況については強い関心があるものの、正確にリストを作成している事例は稀であろう。 そのような不動産オーナーに対して、本制度を利用して所有状況を理解してもらえば、生前対策について考えてもらうきっかけにもなるであろう。 4 本制度について情報収集を 本制度はスタートして間もない制度ではあるが、制度開始直後から積極的に利用をしている企業等もあると聞く。これから様々な活用方法が紹介されていくと思われるが、情報収集をしっかりと行っていくとよいだろう。 (了)
税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第75回】 「市街化区域と市街化調整区域にまたがる土地の開発規制」 不動産鑑定士 黒沢 泰 1 はじめに 【第34回】では、「市街化調整区域内の土地の評価は不動産鑑定士でも難しい」というテーマを取り上げました。そこでは、市街化調整区域では開発や建築が著しく制限され、資材置場や駐車場等以外には思ったとおり土地を利用できないこと等をはじめ、土地の評価が難しい要因について述べました。 今回は、「市街化区域と市街化調整区域にまたがる土地の開発規制」について取り上げ、このような土地の評価を行う前提として、どのような点に留意しなければならないかについて述べておきます。 2 開発許可の対象区域 最初に、開発の対象とする区域が市街化区域と市街化調整区域にまたがる場合(イメージは(別紙図面)のとおりです)、全体の土地がどのような規制を受けるかを確認しておく必要があります。その結果のいかんにより、全体の土地の価格水準に著しい相違が生ずるからです(規制が厳しければ厳しいほど、土地の価格は下落する傾向にあります)。 (別紙図面) 開発区域が市街化区域と市街化調整区域にまたがる場合 結論から先にいえば、開発区域が市街化区域と市街化調整区域にまたがる場合には、開発の規模にかかわらず、開発区域全体について開発許可を要するということになります。 (国土交通省「開発許可制度運用指針」Ⅰ-2-6によります。この指針は都市計画法に関する技術的助言として位置付けられており、ホームページでも閲覧可能です)。 ちなみに、「開発許可を要する」ということの趣旨ですが、主として建築物の建築または特定工作物(プラント類その他)の建設の用に供する目的で土地の区画形質の変更(※)を行う場合(=開発行為に該当)には、例えば市街化区域であれば開発面積が一定規模以上(注1)であれば事前に都道府県知事の許可を要するということを意味しています(原則)(同法第29条第1項第一号、同法施行令第19条)。 (注1) 1,000㎡以上(ただし、三大都市圏の一定の市街化区域内では500㎡以上)のものを指します。 (※) 土地の区画形質の変更~以下のいずれかに該当する場合 それぞれのイメージ図は【第34回】で掲げましたので割愛させていただきます。 なお、ここで留意すべきは、市街化調整区域の場合は、市街化を抑制するという目的から開発面積の大小にかかわりなく許可が必要とされているという点です(注3)。 (注3) 例外的に、農林漁業従事者の自宅を建築するための敷地造成(都市計画法第29条第1項第二号)や公共的な用途に供する場合(同法第29条第1項第三号)など許可が不要とされているケースはありますが、市街化調整区域に関しては、一定面積未満であれば許可不要という規定は置かれていません。 このように、市街化調整区域における規制が厳しいことから、市街化区域に属する開発区域の面積が都市計画法で定める一定規模未満であっても、開発区域が市街化調整区域にもまたがっていれば、開発区域全体が市街化調整区域の規制を受けるものとして許可の対象とされています。決して、市街化区域の部分と市街化調整区域の部分が別個の規制として取り扱われるというわけではありません。 3 まとめ 市街化調整区域では、本文で取り上げた土地の区画形質の変更を伴う開発行為だけでなく、建築行為そのものも原則的に不許可とされています(下記条文のとおり)。そのため、開発区域が市街化調整区域にもまたがっている場合には、建築行為に関しても十分な留意が必要となります。この点は基本中の基本であり、不動産鑑定士としても原点に立ち戻って調査・確認を行うよう努めています。 《参考条文》 (了)
〈税務ライター・鈴木まゆ子の〉 ここがヘンだよ日本の税制 第3回 医療費控除、それでも必要ですか? 創設当時と様変わりした今、制度意義を考える 税理士・税務ライター 鈴木 まゆ子 確定申告の会場で、もっとも多い相談は「医療費控除」です。 上記の言葉は、還付がないとわかったとき、多くの納税者の口から飛び出します。公的年金等の源泉徴収票を見ても給与所得の源泉徴収票を見ても、源泉徴収税額は0円。税のしくみを丁寧に説明し「だから申告しても還付はないのです」とお伝えしても、釈然としない表情をされることがあります。 中には医療費控除があっても、複数所得で納税となるケースも。こうなると次のように言われます。 多くの納税者は「医療費控除を申告すれば必ずお金がもらえる」と思い込んでいるようです。 なぜそう思い込んでしまったのでしょうか。そもそも医療費控除とはどのような趣旨で創設されたものなのでしょう。 今回は、医療費控除の現代における意義を、戦後からの歴史を振り返りながら考えてみます。 医療費控除制度創設の趣旨と背景 本題に入る前に、医療費控除制度がなぜ創設されたのか、その趣旨と当時の状況を振り返ってみましょう。 (1) 趣旨は「医療の費用が異常に多くかかる場合の救済措置」 医療費控除は昭和25年の所得税法改正の際に創設されました。これは戦後、昭和24年に来日したカール・シャウプ博士率いる使節団による日本税制報告書、いわゆる「シャウプ勧告」の求めによるものです。大手術や長期入院、あるいは慢性的な疾患による医療費支出は、食費や住居費といった通常の生活費と異なり「拒否できない、異常な支出」とされていました。 「この不可避な異常な支出についてまで課税してしまうと、所得者本人の生活がままならなくなる」という懸念から、医療費については所得から差し引くという制度を導入することが勧告されました。これが「医療費控除」です。 その一方、「軽い風邪による診療などは日常の家事費に含めるべきものだ」「富裕な納税者が医療費を口実に不当に課税を軽減するのは許されない」という意見もありました。そこで設けられたのが、足切り額(下限額)と上限額です。 この足切り額と上限額は、時代の変遷を経て改変されました。昭和62年に「足切り額は総所得金額等の5%か10万円のいずれか低い方の金額」「上限額は200万円」とされ、現在の形に落ち着きます。 (2) 創設当時、国民皆保険制度がなかった ここで意識を向けたいのが、医療費控除制度が創設された当時の医療保険制度です。昭和20年代は国民皆保険制度がまだ存在していませんでした。企業向けの社会保険は一応ありましたが、戦後の激しいインフレの影響で多くの保険組合が機能不全に陥っていました。 実際、昭和22年時点で1万に上る国民健康保険組合の中で4,000前後の組合が医療給付を中止していました。そのため、多くの被保険者は、多額の医療費を自己負担せざるを得ませんでした。 戦後は誰もが貧困にあえいでいた時代です。多額の医療費を自己負担すれば、生活が破綻しかねません。 このほか、自営業者や農業従事者、失業者など、国民の約3分の1が何ら医療保険に加入していない「無保険者」でした。 まとめると、憲法25条で「最低限度の生活の保障」を謳いながらも実態は保証できていなかったのが昭和20年代の日本だったのです。 ここで重要な役割を果たしたのが医療費控除制度です。当時の日本において医療費控除は、国民生活における重要なセーフティネットとして機能していました。 医療保険の充実、通達による対象範囲の拡大・・・医療費制度が「過剰に」 戦後の医療福祉は医療費控除制度によって支えられたといってよいでしょう。しかし時間が経過し、高度経済成長期にさしかかると状況は徐々に変わりました。 (1) 国民皆保険制度の達成 昭和33年に国民健康保険法が制定され、昭和36年、国民皆保険制度が達成されました。これによりすべての国民が企業向けの社会保険(健康保険)か市町村が運営する国民健康保険に加入し、少ない負担で質のいい医療サービスを受けられるようになりました。 また、昭和48年には高額療養費制度が創設され、手術などによる高額な医療費負担が生じても保険で手当されるようになりました。つまり、昭和50年頃には「高額な医療で家計が破綻する」というほどではなくなってきたのです。 (2) 緩和通達による医療費の対象範囲の拡大 また、注目したいのが医療費控除の対象の拡大です。医療技術が進歩し、経済社会が発展していくにつれ問題になったのが「医療の付随費用・関連費用をどう扱うか」でした。 本来、このような取り扱いは法令の改正で対応すべきです。しかし法令改正での手当は、迅速性や柔軟性に欠けます。また、個別の諸事情をすべて網羅した規定をその都度作るのも困難です。 そこで通達によって付随費用・関連費用の扱いを細かく決めて対応するという形がとられました。事実、「医療の往復交通費をどうするか」「健康診断や入院時の部屋代はどうするか」「紙おむつ代はどうするか」といった扱いは、通達によって定められています。 これら緩和通達のおかげで、国民は目の前の医療費問題を今すぐ解決できるようになりました。反面、法令に定められた医療費のありようと実際の運用との間で大きな乖離が生じています。 租税法律主義を遵守していないのが今の医療費控除だ、といっても過言ではありません。 現在の医療費控除の懸念点 このような経緯をたどってきた医療費控除制度。創設当時から、その意義が大きく様変わりし、現在、次のような懸念点があります。 (1) 医療費控除の対象は「日常の医療で金額多め」が中心に 現在、医療費控除の申告の対象となるものの多くは「日常的に生じた医療費で、偶然足切り額を超えたもの」となっています。というのも、手術などの高額な医療費がかかっても、たいていは健康保険から高額療養費などの手当で補てんされるからです。 中には給付される金額の方が多く、結果自己負担額は0円となるケースも少なくありません。子供の歯科矯正など自費診療は別として、保険診療については医療費控除がなくても日常生活費の範囲内でまかなえます。 言い換えると「医療費控除がなくても最低限度の健康的な生活を多くの国民は送れている」のです。 にもかかわらず、制度それ自体は戦後から大きく変わっていません。そのため現在、医療費控除は「ギリギリの生活を支えるセーフティネット」ではなく「少しでもいいからお金をもらう(税金を安くする)手段」だと一般に認識されているように感じます。 (2) 架空の医療費控除申告のおそれ 現在、懸念されるのが「架空の医療費控除で還付を受ける」というケースです。平成29年度税制改正により、領収書添付義務が廃止されました。現在、確定申告書への記載と医療費控除の明細書の提出(※)で医療費控除を受けられます。領収書は5年間、自宅保管となったのです。 (※) 医療費通知(医療費のお知らせ)を利用して明細書への記載を省略するならこれも提出。 ということは、見方を変えると「架空の医療費を申告して還付を受けようとすればできてしまう」状況を惹起する、となります。税務署側で気づいて確認できればよいですが、見逃すケースもあるかと思われます。 現時点で多くの納税者は誠実に申告していると見られますが、社会状況が変われば不正申告が相次ぐかもしれません。 (3) 「医療費控除で申告すれば医療費が戻る」という誤解がまん延 税制が民主化されて70年超が経過しましたが、申告納税制度への国民の理解はそれほど高いとは言えません。特に医療費控除については「前払した所得税が申告で還付される」と認識している人は多くありません。「払った医療費が10万円を超えていたら申告で戻ってくる」と思い込んでいる人が大半です。 確定申告の無料相談の会場には毎年、多くの年金受給者がやってきます。医療費控除で還付申告をするためです。しかし源泉徴収税額0円で還付がないと分かると、多くの方が口をそろえて次のように言います。 創設当時、医療費控除による還付申告には申告納税制度を国民に浸透させ、主権者たる納税者としての意識を目覚めさせようという期待もあったようです。 しかし実際には、70年経過しても国民に税制が正しく理解されていません。「医療費控除を申告して戻ってくるもの」が税ではなく医療費だ、と認識されているのがその証左ではないでしょうか。 おわりに・・・今、本当に必要なものとは 余談ですが、筆者も電話相談で相談者の方に「医療費控除で申告しても還付ゼロ」に納得してもらえず、次のように言われたことがあります。 最後には「もういい、税務署に直接言って確認してくる」と電話を切られてしまいました。このような場面に出くわすと、筆者としては「今、必要なのは医療費控除の制度の充実ではなさそうだ。自費診療を含めた医療福祉制度の見直しと租税教育なのかもしれない」と感じます。 (了)
《速報解説》 名古屋国税局、非居住者となった場合の上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除の適用について文書回答事例を公表 ~恒久的施設を有しない非居住者でも損失申告書の提出が可能であることを示す~ Profession Journal編集部 名古屋国税局は、令和8年2月25日付(ホームページ掲載日は令和8年3月13日)で回答した文書回答事例「非居住者となった場合の上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除の適用について(恒久的施設を有しない非居住者であった期間における損失申告書の提出の可否)」を公表した。 本事例は、海外赴任により非居住者となった期間中に、国内源泉所得がなく通常の確定申告書を提出できない場合であっても、損失申告書の提出により「上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除」の適用要件である「連年提出要件」を満たすことができるか否かが問われたものである。 事前照会の内容 照会者(内国法人の従業員)は、X1年に上場株式等に係る譲渡損失が生じ、その翌年以後に上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除(措法37の12の2⑤)(※)の適用を受けるため、所得税の確定申告書を提出した。 (※) 上場株式等に係る譲渡損失について、その年分の上場株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上、控除しきれない部分の金額を、一定要件のもと翌年以降3年間にわたり繰り越す特例制度。適用にあたっては、「居住者又は恒久的施設を有する非居住者」が、①上場株式等に係る譲渡損失の金額が生じた年分の所得税につき確定申告書を提出し、かつ、②その後において連続して確定申告書を提出しなければならない(以下、②を「連年提出要件」という)(措法37の12の2⑦)。 その後、照会者はX2年の途中に、外国法人でX4年の途中まで勤務する予定で渡航し、非居住者となった。 X4年に帰国後、照会者はX1年に生じた上場株式等に係る譲渡損失について、上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除の適用を受けるため、X4年分の確定申告書を提出することを予定している。 なお、X2年に渡航するまでは、内国法人の従業員であり国内源泉所得があるため、当該国内源泉所得とともに、X1年に生じた上場株式等に係る譲渡損失を翌年以後に繰り越す旨のX2年分の所得税の確定申告書を提出し、X2年の渡航後、X4年に帰国するまでの間、照会者は、恒久的施設を有する非居住者には該当しない。 〈本事例の時系列〉 (出所) 国税庁ホームページ また照会者は、X4年分の所得税につき上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除の適用を受けるためには、連年提出要件を満たす必要があり、X3年分の所得税の確定申告書を提出しなければならないが、X3年中において、照会者は国内源泉所得がなく、いずれの規定(所法120、122、123(これらの規定を同法166条において準用する場合を含む))による申告書の提出もできず、居住者又は恒久的施設を有する非居住者にも該当しないことから、租税特別措置法(以下「措置法」という)37条の12の2第9項による損失申告書の提出もできないのではと考える一方、以下の理由から同項の規定により、X3年分の損失申告書を提出できると解してよいかを名古屋国税局に照会した。 照会者の見解となることの理由 上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除は、その適用を受けようとする者がその年において「居住者又は恒久的施設を有する非居住者」である場合に限り適用を受けることができることとされており、措置法37条の12の2第7項では、「第5項(中略)に規定する居住者又は恒久的施設を有する非居住者」と規定されているため、同条7項の「居住者又は恒久的施設を有する非居住者」とは、上場株式等に係る譲渡損失の金額が生じた年(X1年)の翌年(X2年)以後において、上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除の適用を受けようとして確定申告書を提出する者をいうものと解される。 これより、措置法37条の12の2第9項の「居住者又は恒久的施設を有する非居住者」についても、同項の規定が、同条7項の規定において確定申告書の連年提出要件が定められていることとの関係で、「居住者又は恒久的施設を有する非居住者」が、その年の翌年以後において上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除の適用を受けようとする場合であって、その年の年分の所得税の申告が所得税法120条、122条又は123条1項(これらの規定を同法166条において準用する場合を含む)のいずれの申告書にもよることができないときには、損失申告書を提出できるように措置されたものであるとされていることからすれば、上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除の適用を受ける年において「居住者又は恒久的施設を有する非居住者」であることを求めているものと解される。 そして、同項において準用する所得税法123条1項(2号を除く。以下同じ)の規定の適用については、非居住者の申告等について定めた同法166条において準用する場合の同項の規定の適用が含まれるため、恒久的施設を有しない非居住者についても、措置法37条の12の2第9項の規定により損失申告書を提出することができるものと解される。 よって照会者は、同項の規定により、X3年分の所得税の損失申告書を提出することができ、これを提出することで、連年提出要件を満たすことができるものと解されるとし、これに対して名古屋国税局は「貴見のとおりで差し支えありません」と回答している。 実務上の注意点 税理士としては、海外赴任等によって国内源泉所得がなくなるクライアント等に対して、将来の帰国後の上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除の適用を見据え、連年提出要件を満たすために、出国中も忘れずに申告書を提出するよう伝えることが考えられる。 (了)