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暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第84回】

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第84回】   東洋大学法学部教授 泉 絢也   キ CARFの限界 本連載第74回では、OECDのCARF(Crypto-Asset Reporting Framework:暗号資産等報告枠組み)について、次のような構造的特徴と懸念を指摘した。 この点について、以下では、OECDのCARFには次のような限界があることを確認する。 OECDは暗号資産の台頭がもたらす課税上の問題への対応に取り組んでいる。 すなわち、OECDは、2022年から2023年にかけて、暗号資産取引に関する税務情報を、納税者の居住地国との間で、標準化された方法により、自動的に交換することで課税の透明性を確保する世界的な枠組みであるCARFを策定した。 CARFにおいて、顧客から提出された自己証明書の妥当性を確認し(デューデリジェンス義務)、税務当局に報告義務を負うのはRCASPと呼ばれる暗号資産サービスプロバイダーである。 RCASPは、事業として、顧客のため又は顧客に代わって交換取引(報告の対象となる暗号資産と法定通貨との交換及び報告の対象となる暗号資産同士の交換)を実行する(effectuate)サービスを提供する個人又は事業体である。 つまり、RCASPは、暗号資産の流通・交換の場を提供し、利用者の代わりに取引を成立させる主体として、暗号資産等に係る報告制度の要となる。 上記のようなRCASPの定義は、単なる技術提供や接続支援にとどまらず、取引の意思形成・執行過程に実質的に関与するか否かがRCASP該当性の判断基準とされているという側面を有する。 個人又は事業体は、取引プラットフォームに対して支配力(control)を有し、又は十分に影響力(sufficient influence)を有している限りにおいて、当該プラットフォームを提供しているとみなされ、RCASPとして報告義務を課せられる。 このため、 DEXと称している取引所の関係者がRCASPに該当すると認定されるケースもあると考えられる。 上記の支配や十分な影響力の判断は2012年のFATF勧告及び関連するガイダンスと整合的な方法により評価される(OECD, INTERNATIONAL STANDARDS FOR AUTOMATIC EXCHANGE OF INFORMATION IN TAX MATTERS: CRYPTO-ASSET REPORTING FRAMEWORK AND 2023 UPDATE TO THE COMMON REPORTING STANDARD 22, 53-54, 68 (2023)(※))。 (※) CARFが手本としているFATFの勧告やガイダンスによれば、規制当局は、DeFiについて、CARFのRCASPに相当するVASP(Virtual Asset Service Providers)に対応する主体を特定し、責任主体を捕捉するための規制枠組みを作る必要がある。もっとも、DeFiが分散化や分散型の看板を掲げていてもそれは名目的なものであるケースがある一方、DeFiのアレンジメントに対して支配力や影響力を行使しており、VASPに該当しうる個人又は事業体を特定することは困難を伴うケースもある(See FATF, UPDATED GUIDANCE FOR A RISK-BASED APPROACH TO VIRTUAL ASSETS AND VIRTUAL ASSET SERVICE PROVIDERS, 27-28, 31-32(2021); FATF, TARGETED UPDATE ON IMPLEMENTATION OF THE FATF STANDARDS ON VIRTUAL ASSETS/VASPS 27 (2024); FATF, INTERNATIONAL STANDARDS ON COMBATING MONEY LAUNDERING AND THE FINANCING OF TERRORISM & PROLIFERATION 137-138(2012, rev. 2023))。 なお、FATFの基準自体は技術中立の立場をとっているため、FATFはVASPの活動に係る基盤技術を規制しようとしているわけではなく、所定の活動を他の自然人又は法人に代わって事業として行うような技術の背後に存在する自然人又は法人を規制しようとしている(FATF, UPDATED GUIDANCE, at 22, 24, 31-32)。 FATF基準によればDeFiアプリケーション(すなわちソフトウェアプログラム)はVASPに該当しない(FATF, UPDATED GUIDANCE, at 27)。 ただし、上記の支配力や影響力の定義、該当者が存在する場合の適用のあり方は必ずしも明確ではなく、DEXによってはRCASPに該当しないように運営される可能性もあることから、より詳細な解釈・適用に関するガイダンスが待たれる。 併せて、結局、DeFiのアレンジメントに対して、支配力や影響力を行使する個人又は事業体を特定することは依然として困難であることが認識されていることも理解しておく必要がある。 すなわち、多くのDeFiのアレンジメントは分散化を標榜しているものの、それは名目上のものにすぎないと考えられている。 他方で、FATF基準をDeFiのアレンジメントに適用する際には、特に規制上のアンカーポイントの特定のほか、DeFiプラットフォームの所在地、運営場所及び/又はライセンス取得や登録・届出の状況の特定に関して、依然として規制上の課題があると認識されている(FATF, TARGETED UPDATE, at 27)。 実際、DeFiやDEXの運営形態は多様であり、名目上は分散化を標榜していても、実態としては特定の開発者や運営者が重要な管理機能を保持している例も少なくない。見方によっては「偽装された分散性」といえるようなケースに直面した場合、誰がRCASPに該当するかの判断は極めて困難である。 他方で、ルールに曖昧さが残る中で、RCASPに該当しない者をあたかも該当するかのように当局が規制の圧力をかける事態も懸念される。 いずれにしても、 DEXの関係者の中にRCASPに該当する者が存在しない場合には、報告義務が課せられる主体が存在しないため、CARFは効果を発揮できない。 これは暗号資産の分散性に関わる問題であるところ、DEXの分散性の程度について、分散性の意義や評価指標は複数存在しうることからすると、税務執行の文脈において単に抽象的な分散性の議論を取り上げるだけでは十分ではない。 ここでは指摘にとどめるが、伝統的な金融機関と同様の役割を果たすべき又は果たすことが可能であると認められる者がDEXの関係者の中に存在するかどうかという観点から、規制の策定と執行の各場面で向き合うことになると考える。 また、暗号資産の利用者が、CARFに参加しない国(※)のCEXを通じて取引を行っている場合には、CARFは有効に機能しない。 (※) 2025年12月4日現在、76の国・地域が2027年~2029年の間に情報交換を開始するのに間に合うようにCARFを実施することを約束している(OECD, Jurisdictions Committed to Implement the Crypto-Asset Reporting Framework (CARF) in Time to Commence Exchanges in 2027 or 2028 as Part of the Global Forum’s CARF Commitment Process (2025))。 暗号資産取引量やウォレット保有数量が比較的多い発展途上国(OECD非加盟国)との関係でCARFの枠組みがうまく機能するかという問題が指摘されている(See Bob Michel & Tatiana Falcão, OECD(2022) Public Consultation on the Crypto-Asset Reporting Framework and Amendments to the Common Reporting Standard: Comments by B. Michel and T. Falcão 9(2022))。 オフショアのCEXの利用が拡大する場合には、これらのCEXの所在地国がCARFに参加するかどうかがCARFの有効性を決定づける重要な要素となる。そして、CARF参加国の拡大が国際的な暗号資産の透明性を高める1つの鍵となる。 仲介者に依存するCARFによる捕捉を回避するためにCEXやDEXなどの仲介サービスを利用せずに、RCASPに該当しないウォレットサービスプロバイダーが提供するプライベートウォレットを利用して取引を行っている場合にもCARFは有効に機能しない。 ただし、MetamaskやLedgerなどのウォレットプロバイダーも、顧客に対して交換サービスを提供している場合にはRCASPとみなされる可能性がある。 注目すべきことに、本人確認を行わない又は行っていても他国の税務当局が情報交換を期待できないようなCEXは、税務当局からするとブラックボックスであり、利用者の身元や取引内容に関する情報を把握する手段がかなり限定されるため、DEXよりも深刻な課題を提起する。 CARFがCRSの延長線上にあることからも明らかなように、国際課税制度の中核を担う「仲介者モデル」の限界が、分散型技術によって浮き彫りになったともいえる。 今後、CARFの実効性を補完するためには、スマートコントラクトやブロックチェーンのトランザクションの分析など、よりテクノロジー主導の課税執行手法の導入が不可欠であろう。 さらに、DeFiやDEXを念頭に置いた新たな法的枠組みや、RCASP該当性の明確な指針の整備が急務となる。 規制の明確性と技術的実行可能性を兼ね備えた制度設計が、CARFも含めた暗号資産課税の執行体制における重要な課題となるであろう。   (了)

#No. 652(掲載号)
#泉 絢也
2026/01/15

国際課税レポート 【第22回】「OECD「ピラー2・共存パッケージ」」~いくつものセーフハーバー~

国際課税レポート 【第22回】 「OECD「ピラー2・共存パッケージ」」 ~いくつものセーフハーバー~   税理士 岡 直樹 (公財)東京財団上席フェロー   OECD「ピラー2・共存パッケージ」の公表 2026年1月5日、OECDは「共存パッケージ」を公表した。形式的には、147の国が参加する包摂的枠組みの合意だが、実質的には、140余りの国が参加する包摂的枠組みと米国が、ピラー2のグローバル・ミニマム税を米国多国籍企業に適用しないことについて了解したものと評価することが可能だ。 グローバル・ミニマム税は多国籍企業に適用される制度であり、900もの多国籍企業を持つわが国でも関心が高い。今回のパッケージには、東南アジアに進出した日本企業にとって有利と思われる、優遇税制の軽減が実効税率の計算上不利になる範囲を狭める方向の改正も含まれている。本稿では共存パッケージの内容を紹介することとしたい。   ピラー2のこれまで 2021年10月、140あまり(当時)の国が参加するOECD/G20包摂的枠組みは、デジタル化に伴う課題への対応として二本の柱による解決策に合意し、その一環として、多国籍企業が最低限の税負担を確保する「グローバル・ミニマム課税」(ピラー2)を策定した。 ピラー2は「共通アプローチ」とされ、各国に採用義務はないが、採用するなら合意成果と整合する形で実施・運用し、さらに他国による適用(ルール順序や合意セーフハーバーを含む)を受け入れることが合意された。 その後、OECD合意では導入義務はないものの、「二本の柱による解決策」を主導した欧州においては、2022年12月に曲折を経てEU域内各国にグローバル・ミニマム課税の導入を義務付ける「EUピラー2指令」を採択し、各国は国内法の整備を進めている。わが国も2024年4月以降開始する事業年度から「所得合算ルール」(IIR)の適用を開始している。 しかし、2021年の合意から4年余りが経過したが、グローバル・ミニマム税導入国は地理的な広がりをみせていない。2025年11月時点で49か国(立法ベース)にとどまり、その大半は導入が義務付けられているEU加盟国である。欧州以外では、アジア・大洋州の8か国、米州の1か国、アフリカ等の3か国であり、欧州以外への広がりを見せていない。包摂的枠組みの共同議長1人(個人の資格)の出身国の出身国も導入していない。 (※) 導入国数について、OECDは55か国と説明している。OECD(2025)「Recognising progress and reducing burdens in the BEPS minimum standards」4頁 他方、世界第一の多国籍企業大国である米国、第三の中国は導入予定がない。それどころか、米国議会(共和党)は、ピラー2のグローバル・ミニマム課税、なかんずく軽課税所得ルール(UTPR)は不公正で差別的な外国の税として、これを米国企業に課す外国に対して報復的な課税を行う立法(899条)を準備し、2025年5月には下院で法案を承認した。 この対抗措置を招く流れは、2025年6月28日に発出された「グローバル・ミニマム課税に関するG7声明」による「共存システム」(注)により食い止められた。声明の骨子は、G7各国はグローバル・ミニマム税を米国多国籍企業に適用しない(IIR及びUTPRの対象外とする)ことを了解し、米国は報復的な課税の立法を行わないことを約束することにある。同声明は、①多国籍企業の利益に対し最低限の税負担を求める制度(ピラー2)と、②米国内国税法上のミニマム課税制度(NCTI=旧GILTI)を「共存(co-existence)」させる一般理解を示したものである。 報復課税を可能にする条項が成立直前になったことを重く見た各国は、米国が多国籍企業に対して実質的にグローバル・ミニマム税の要求する15%の税負担を課す制度を持っていることを理由に、米国多国籍企業へのグローバル・ミニマム税の適用をあきらめたという構図に見えなくもない。 ディールを可能にした米国国内法のミニマム課税は次の2つだ。後述するが、今回の共存パッケージで追加された「共存システムセーフハーバー」は、これら米国の制度をなぞっている。 2023年以降、CAMT(Corporate Alternative Minimum Tax)の規定により、大企業(所得10億ドル超)の会計上の利益に対して最低15%の負担の課税が行われている(国内課税) 2025年のトランプ税制改革(OBBBA法)で、それまでのGILTIがNCTIに改組され、より幅広い被支配外国子会社の所得が14%程度のミニマム税率で合算課税されることになった(全世界課税) 今回公表されたパッケージは、2025年6月のG7声明で示された「共存」原則を実施するための設計文書である。 (注) 詳しくは、本連載【第18回】「G7共存システムの具体化とピラー2」及び【第21回】「「多国籍企業課税制度と課税ベース」~ワールドワイドvsテリトリアル~」参照   「共存パッケージ」の内容 共存パッケージには、次の項目が盛り込まれている。   簡素化されたETR(実効税率)セーフハーバーの恒久化 ~ 2027年より開始する会計年度に適用 「簡素化ETRセーフハーバー」を恒久的な措置として導入する。狙いは、ミニマム課税のためのトップアップ課税リスクが低い多くの国において、包括的な実効税率計算を行うことを不要にし、コンプライアンス負担を大幅に軽減することにある。 実効税率の計算は、主として連結財務諸表作成に用いる財務会計データに基づいて行うことができ、調整は最小限とされる。なお、繰延税金の扱いでは一定の調整を行うこととする。   移行期CbCRセーフハーバーの延長 簡素化ETRセーフハーバーが円滑に運用されるまでの猶予として、包摂的枠組みは移行期CbCRセーフハーバーを1年間延長することとした。移行期間中は「簡素化ETR」か「移行期CbCR」のいずれかを選択できる構造となり、制度移行の急激な負担増を緩和する。 対象を、開始:2027年12月31日以前に開始する会計年度、終了:2029年6月30日を超えて終了しない会計年度まで拡張する。   実体に基づく税制優遇措置(SBTI)セーフハーバー 多国籍企業が一定の「適格税制優遇」により軽減された税額を、グローバル・ミニマム税の計算上、対象税額(分子)に加算することを認める。これにより、トップアップ税額を減らす、あるいは0とすることができる。 適格税制優遇の定義は、「一般に利用可能なもの(個別のものではない)」で、かつ税優遇の金額が①支出金額に基づいて計算される優遇(expenditure-based)又は②当該国の国内で生産された有形資産の量に基づいて計算される優遇(production-based)とされている。 なお、適格税制優遇による軽減であっても、無制限に“加算扱い”できるわけではなく、次の上限がある。 支払給与の5.5%の金額、減価償却費の5.5%の金額のいずれか大きい金額 代替として(選択により)土地を除く有形資産帳簿価額の1%の金額(1度選択したら5年固定) 〈BOX  実体に基づく税優遇措置(SBTI)セーフハーバーの具体例(典型的なもの)〉   共存システムセーフハーバー(Side by Side Safe Harbour) 2025年6月のG7声明に基づき今回はじめて導入された。多国籍企業単位での税負担(実効税率)を問題とするのではなく、多国籍企業の母国における税制を問題として判定される。 (1) 対象(誰が使えるか) 究極の親会社(UPE)が所在する国が、適格国内税制(eligible domestic regime)と適格全世界税制(eligible worldwide regime)の両方を有すると包括的枠組みにより認定された場合、その国に究極の親会社のある多国籍企業だけが利用できる。 2026年1月以降開始会計年度から適用 【表1】共存システムセーフハーバーの前提となる制度 (※) これらの制度は、原則として、2026年以前に制定・施行されていること 適格国内税制 適格全世界税制 a. 法人所得税率(名目)が少なくとも 20%であること; b. 財務諸表上の所得に基づき算定される 15%以上のミニマム税又は QDMTT を有し、当該管轄区域における対象多国籍企業グループの事業活動から生じる総所得の大部分に適用されること;および c. 優遇税制を考慮しても、15%を下回る実質的なリスクが存在しないこと。 a. 全世界所得課税の税制を有すること; i. 留保所得が対象となること ii. 最低課税の政策目的と整合する限定的な所得除外のみが適用されること(例:高率除外) b. BEPSリスクに対処するため、一方的に機能する実質的なメカニズムを組み込んでいること;および c. 優遇税制を考慮しても、15%を下回る実効税率を課される実質的なリスクが存在しないこと。 (2) 効果 グローバル・ミニマム税の計算(実効税率やトップアップ税)を省略 他国による合算課税ルール(IIR)及び軽課税所得ルール(UTPR)の適用免除(IIR、UTPRのためのトップアップ税が0とみなされる 実質的に「その国の制度で最低課税は達成されている」とみなす (3) 典型的な想定(事実上米国の制度に限定) 米国の法人税+外国子会社合算税制(GILTI/NCTI等) 高税率・全世界所得課税(留保所得を含む)を行う国の制度   究極親会社(UPE)セーフハーバー 2025年6月のG7声明に基づき今回はじめて導入された。多国籍企業単位での税負担(実効税率)を問題とするのではなく、多国籍企業の母国における税制を基準として判定する。 (1) 定義 (誰が使えるか) 究極の親会社(UPE)が所在する国の税制が、グローバル・ミニマム税と同等の最低課税機能を果たしていると包括的枠組みにより認定された場合に適用される。 2026年1月以降開始会計年度から適用。 (2) 効果 その国に究極の親会社を持つ多国籍企業グループについて、他国は、少なくとも究極親会社所在国の利益に関して軽課税所得ルール(UTPR)課税を行わない(Top-up Taxを0とみなす) (3) ポイント 「究極の親会社」がどこに所在するか 親会社国の制度への信頼を前提に、他国による課税介入(UTPR)を抑制 共存システムセーフハーバーと異なり、適用単位がグループ全体に及ぶ点が特徴 【表2】 共存システムセーフハーバーと究極親会社セーフハーバー 観点 共存(SbS)セーフハーバー 究極親会社(UPE)セーフハーバー 着眼点 国内・国外を通じ、15%以上の税負担が課される税制を持つ国であること UPE所在国の課税能力 適用 その国に究極の親会社を持つ多国籍企業グループが所在する各国 究極親会社所在国 目的 グローバル・ミニマム税との重複適用回避 他国によるUTPR 適用防止 性格 技術的・制度比較的 究極親会社所在国の主権への配慮 想定例 米国制度とグローバル・ミニマム税の共存 米国を母国とする多国籍企業   手続 共存システムセーフハーバー、究極親会社セーフハーバーの適用を受けるためには、包摂的枠組みが適格性を審査することとなっている。   おわりに 2021年10月に包摂的枠組みが合意したとき、二本柱による解決策は100年に1度の国際課税改革であり、税の引き下げ競争に終止符を打つと高揚した声で歓迎された。しかし、合意から4年がたって明らかになったのは、米国、中国という巨大経済圏の不参加と、欧州内部における不協和音だ(本稿では省略したが、一部の国から共存システムの受け入れは不平等などとして批判があったことが報じられている)。 欧州委員会は1月12日、通知をEU官報に掲載し、1月5日のOECD包括的枠組み合意(実質的には米国との間の合意)の内容を、ピラー2指令第32条に基づくセーフハーバーとして承認したが、EU指令そのものを変更せずに実質的に同合意を実施することについては、租税法律主義の観点から問題があるという指摘もなされている。欧州委員会がEU指令の改定に消極的なのは、全会一致が要請される中、あらためてグローバル・ミニマム税について加盟国の同意が取り付けられるか自信がないという理由のようだ。 国際課税の分野で知られるフロリダ大学のミンディ・ハーツフェルド教授は、二本の柱による解決策を巡る“大失敗”(fiasco)は、OECDが政治的な力学を適切に管理する能力を持つか否かについて疑問を投げかけていると指摘する。また、米国議会の一部には、OECDへの資金削減を訴える声もある。このプロジェクトがもたらした資源の浪費と悪意は、今後数年にわたりOECDを悩ませるだろうとも指摘している(Tax Notes誌2026年1月5日号)。 皮肉な見方だが、多国籍企業課税のためにスタートしたピラー2において、ここへきて我々が目にしているのはセーフハーバーの乱立と拡張だ。 特に、今回米国のために追加された共存システムセーフハーバー、究極親会社セーフハーバーは、制度の適格性を判断するための要件を多国籍企業の母国が持っているかどうかを包摂的枠組みが審査・認定することが予定されている。グローバル・ミニマム税を持たない包摂的枠組み参加国の代表者(欧州以外の国の多くはグローバル・ミニマム税を導入していない)が、他国の制度を審査する能力・経験や正統性・公平性には疑問なしとしない。 今回のパッケージは、2029年までに、共存システムセーフハーバーの運用・効果(副作用を含む)をデータに基づいて点検することも予定している。今後の運営における専門性や公平性によって制度への信頼が確保されることを期待しておきたい。   (了)

#No. 652(掲載号)
#岡 直樹
2026/01/15

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第179回】「2025年における調査委員会設置状況」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第179回】 「2025年における調査委員会設置状況」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   本連載では、個別の会計不正に関する調査報告書について、その内容を検討することを主眼としているが、本稿では、第三者委員会ドットコムが公開している情報をもとに、各社の適時開示情報を参照しながら、2025年において設置が公表された調査委員会について、調査の対象となった不正・不祥事を分類するとともに、調査委員会の構成、調査報告書の内容などを概観し、その特徴を検討したい。 第三者委員会ドットコムが公開しているデータを集計したところ、2025年において、調査委員会の設置を公表した会社は43社と1地方自治体(兵庫県)であり、2024年の77社及び2023年の71社を大きく下回っている。43社のうち、同一の事案で2つの調査委員会設置を公表した会社が6社あったため、設置が公表された調査委員会の数は50となる。 これらの6社については、会社数としてはそれぞれ「1社」とカウントする一方、委員会の構成については委員会ごとに、不正・不祥事の分類はその区分ごとに集計しているため、一部、合計数が合わないことをお断りしておく。 設置が公表された50の調査委員会のうち14の委員会は、本稿執筆時点において、まだ調査報告書(その概要を含む)を公表していない。このうち2つの委員会は「外部調査委員会」への移行に伴うものであり、さらに、5つの調査委員会については、設置そのものが12月であり、または調査が長期化していることが報じられており、まだ調査が終わっていないと考えられる。   【市場別分類】 市場別分類では、東証プライム上場会社が19社と全体の約43%を占めた(複数市場に上場している会社は東証の市場区分に含めている)。上場会社数は2025年12月29日現在。 東京証券取引所以外では、未上場のいわき信用組合、兵庫県が、それぞれ調査委員会の設置と調査報告書を公表している(下表では「その他」に分類)。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。   【会計監査人別分類】 会計監査人別の分類では、いわゆる大手4大監査法人の監査を受けていた会社が22社、中堅以下の監査法人の監査を受けていた会社が21社となっている。兵庫県の報告書には会計監査人の記載がないため、会計監査人の合計は「43」である。うち2社については、監査法人ではなく、個人の公認会計士が会計監査人に就任している。 2025年は、大手4大監査法人のクライアントの占める比率が低くなっているが、そのなかでは、有限責任監査法人トーマツのクライアントで調査委員会の設置を公表した社が7社と最も多く、EY新日本有限責任監査法人、有限責任あずさ監査法人およびPwC Japan有限責任監査法人はそれぞれ5社のクライアントで調査委員会が設置されている。 なお、中堅以下の監査法人で複数のクライアントが調査委員会を設置したのは、有限責任中部監査法人および太陽有限責任監査法人が各2社となっている。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。   【調査委員会の構成による分類】 一部、委員名を非公表または選定中としている委員会を含めた調査委員会の構成ごとの分類では、日本弁護士連合会が2010年に公表した「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」に準拠していると明言している調査委員会及び明言はしないまでもその趣旨に沿って外部の委員のみを選定していると認められる調査委員会は22であった。 また、2018年から続いていた、調査委員会の構成や委員名について、非公表とする傾向については、2025年も9社が「非公表」としており、他に3社が「選定中」となっている。また、従業員による横領事案を中心に、刑事告発の影響を考慮してか、調査報告書を非公表としていると推察できる委員会が増加傾向にある。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。   【調査委員会を設置することとなった不正・不祥事の分類】 調査対象となった不祥事別にこれを分類すると次表のとおりとなる。なお、分類上、経営者や従業員の不正であっても、決算修正等、公表している決算報告書に影響を及ぼす可能性のあるものについては、「会計不正」としている。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。   【会計不正の態様】 次いで、「会計不正」に分類された41件について、それぞれの不正の態様を見ておきたい。設置された56の調査委員会については次表をご参照いただきたい(黄色の網掛けは本連載でとりあげた報告書を意味している)。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (了)

#No. 652(掲載号)
#米澤 勝
2026/01/15

〔まとめて確認〕会計情報の月次速報解説 【2025年12月】

〔まとめて確認〕 会計情報の月次速報解説 【2025年12月】   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2025年12月1日から12月31日までに公開した速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。 なお、四半期ごとの速報解説のポイントについては、下記の連載を参照されたい。   Ⅱ 企業内容等開示関係 次のものが公表されている。 〇「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等 (内容:「期中財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第37号)等及び「防衛特別法人税の会計処理及び開示に関する当面の取扱い(案)」(実務対応報告公開草案第72号)を受けたもの。意見募集期間は2026年1月23日まで)   Ⅲ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① 「監査基準報告書570「継続企業」の改正について」(公開草案) (内容:継続企業の評価期間の改正などを行うもの。意見募集期間は2026年1月15日まで) ② 「サステナビリティ保証業務実務指針5000「サステナビリティ情報の保証業務に関する実務指針」の公表に伴う監査基準報告書等の改正について」(公開草案) (内容:2025年10月15日に公表した「サステナビリティ保証業務実務指針5000「サステナビリティ情報の保証業務に関する実務指針」」(公開草案)に伴うもの。意見募集期間は2026年1月16日まで) ③ 期中レビュー基準報告書第1号「独立監査人が実施する中間財務諸表に対するレビュー」、期中レビュー基準報告書第2号「独立監査人が実施する期中財務諸表に対するレビュー」及び期中レビュー基準報告書第2号実務ガイダンス第1号「東京証券取引所の有価証券上場規程に定める四半期財務諸表等に対する期中レビューに関するQ&A(実務ガイダンス)」の改正(公開草案) (内容:「期中財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第37号)等の公表を受けたもの。意見募集期間は2026年1月16日まで) ④ 品質管理基準報告書第1号「監査事務所における品質管理」及び品質管理基準報告書第2号「監査業務に係る審査」の改正(公開草案) (内容:2025年10月15日に公表した「サステナビリティ保証業務実務指針5000「サステナビリティ情報の保証業務に関する実務指針」」(公開草案)等に伴うもの。意見募集期間は2026年1月16日まで) ⑤ 倫理規則実務ガイダンス第1号「倫理規則に関するQ&A(実務ガイダンス)」の改正に関する公開草案(外部の専門家の作業の利用及び倫理規則改正公開草案に伴う適合修正) (内容:2025年10月15日に公表した「倫理規則」の改正に関する公開草案に伴うもの。意見募集期間は2026年月16日まで) (了)

#No. 652(掲載号)
#阿部 光成
2026/01/15

従業員の解雇をめぐる企業対応Q&A 【第17回】「問題行為を反省しない従業員を解雇するために必要な指導等の回数」

従業員の解雇をめぐる企業対応Q&A 【第17回】 「問題行為を反省しない従業員を解雇するために必要な指導等の回数」   弁護士 柳田 忍   【Question】 当社のA部長は部下の指導の際の発言がきつく、複数の部下から苦情が出ています。A部長に対して、部下に対する発言には気を付けるよう指導しましたが、「はっきり言わなければわからない」とか「できない奴にできないと言って何が悪い」などと述べ、全く改めようとしません(なお、A部長の部下の業績は良いとはいえませんが、特別悪いというわけでもありません。)。 解雇が有効になるためには、指導や配転を何度か経て、もはや改善は期待できず、解雇するしかないといえる状態でなければならないと聞いたことがありますが、A部長を解雇できる状態にあるでしょうか。それとも、何度か指導や配転をする必要があるのでしょうか。 【Answer】 少なくともあと1~2回は指導を行い、反省を促す必要があると思われます。 一方、A部長の配転が可能であれば実施しておくべきですが、A部長が他の部署でも同様の言動に及ぶ可能性が高いと思われることから、実施しなくても解雇の有効性が否定される可能性が高いとまではいえないと思われます。 ◆ ◇ ◆ 解 説 ◆ ◇ ◆ 1 はじめに 勤務成績・勤務態度等の不良を理由とした解雇の有効性の判断に際しては、(ⅰ)勤務成績・勤務態度等の不良が企業経営に支障を生ずるなどして企業から排斥すべき程度に達しており、(ⅱ)指導や教育訓練、配置転換や休職などによっても改善等が期待できず、解雇を回避することが難しいといえる必要があると考えられている(拙稿【第2回】参照)。 この点、どのような場合に、(ⅱ)改善等が期待できず、解雇を回避することが難しいといえるかについて、実務上、しばしば問題となる。筆者も「他の従業員が(当該問題社員の問題行為に)もう耐えられないと言っているのだが、何回指導すれば解雇できるのか。いつまで我慢すればいいのか。」といった相談を受けることも少なくない。 また、改善のためには、行為者が自分の問題行為を認識する必要があるが、本問のように、行為者が自分の言動の問題点を認識しておらず、認識する意欲すら示さないような場合は、もはや改善が期待できないのではないかとも思われるし、行為者が自分の言動の問題点を認識していないことから、再度同様の行為に及ぶ可能性が高く、当該行為者を企業等から排斥する必要性が高いといえるようにも思われる。 そこで、本稿においては、行為者が反省の態度を示さない場合、その時点で「改善等が期待できず、解雇を回避することが難しい」といえるのか、それとも、更なる指導や配転が必要なのかについて論ずるものとする。   2 必要な指導等の回数を考慮するうえでのポイント どの程度の指導や配転等を行ったら改善等が期待できないと判断してよいかは、行為者の反省の程度や事案の重大性(行為者を企業から排斥すべき緊急性)などにもよるため、一概には言えないが、以下がポイントになると思われる。 (1) 行為者が反省の態度を示さなくても複数回の指導等を実施しておくべきである 以下3のバイオテック事件においては、対象者Xの部下に対する態度に関する注意は1回しか行われていないが、それ以前に会社がXのその他の問題行為に対して複数回の指導を行ったところ、Xが部下等に冷たくあたるなどの行為に出たことから指導を控えたという事情がある。また、ディーコープ事件においては、対象者Xへの厳重注意が行われたのは1回だけであるが、被害者のうち1名は別の部署に異動せざるを得なくなり、もう1名は適応障害に罹患し傷病休暇を余儀なくされるなど、その結果が重大であったこと等の事情がある。よって、このような事情がある場合を除き、1回の注意・指導で十分とするにはリスクが高い場合が多いのではないかと思われる。 (2) 必ずしも懲戒処分を経ておく必要はない 以下の参考裁判例がいずれも行為者に懲戒処分歴がない事案であることに照らすと、必ずしも解雇を実施する前に懲戒処分を経ておく必要はないと思われる。もっとも、懲戒処分歴があると、当該対象者に企業から排斥すべき程度の勤務態度等の不良があることの裏付けにもなり得ることから、懲戒処分が可能な事案が生じた場合には懲戒処分を行っておくに越したことはない。 (3) 問題の言動に外的要因が見当たらない場合等には必ずしも配転を経る必要はない 本問のように、行為者の言動等に問題がある事案で、かかる問題の言動が複数の従業員に対してなされているような場合であり、特段の外的要因が見当たらないようなときは、配転を経なくても「改善等が期待できず、解雇を回避することが難しい」場合に当たるといえると思料する。このような場合は、行為者の問題行為が他者との関係で惹起されているというよりは行為者本人の問題から生じているものであるから、他の部署に異動して同僚や部下が入れ替わったからといって改善が期待できるわけではなく、他方で他の部署においても同様の問題行為に及んで被害を生じさせるリスクが高いと思われるためである。   3 参考裁判例 (了)

#No. 652(掲載号)
#柳田 忍
2026/01/15

〈Q&A〉税理士のための成年後見実務 【第26回】「任意後見と死後事務」

〈Q&A〉 税理士のための成年後見実務 【第26回】 「任意後見と死後事務」   司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎   【Q】 顧客の任意後見人になる予定ですが、「私が死んだらその後のこともお願いしたい」と言われています。どのような準備が必要でしょうか。 【A】 人が亡くなった後には、葬儀や納骨などの手続が必要になります。死後に必要となる手続を「死後事務」といいますが、任意後見人であっても本人が亡くなったら当然に死後事務を行う権限を持っているわけではありません。別途「死後事務委任契約」を締結することが必要になります。 ● ● ● ● 解 説 ● ● ● ● 1 死後事務の種類 人が亡くなった後に必要となる葬儀や納骨の手続を「死後事務」といいますが、主に以下のようなものがあります。 【死後事務の種類】 任意後見人の職務は本人の死亡によって終了するため、任意後見人であっても当然に本人の死後事務を行う権限を持つわけではありません。しかし、近くに死後事務を行ってもらえる親族がいない場合などには、任意後見人が死後事務を行うことが周囲からも期待され、様々な問い合わせが寄せられることになります。顧客と税理士が深い信頼関係のもとで任意後見契約を締結していることを考えると、死後事務についても担うことが望ましいでしょう。 【任意後見と死後事務のイメージ】   2 死後事務委任契約の締結 死後事務委任契約を引き受けることが決まったら、本人との間で「死後事務委任契約」を締結します。死後事務委任契約は必ずしも公正証書によって作成する必要はありませんが、死後事務を行うのが本人の死亡後であることを考えると、公正証書によって作成して、本人の意思を明確に示すことができるようにしておくとよいでしょう。任意後見契約は公正証書によることになるため、同時に作成することが効率的です。 死後事務委任契約書については様々なひな形が紹介されていますが、最も注意を払う必要があるのが、どのような死後事務を委任するかという点です。 【死後事務契約書のひな形(委任事務の範囲)】 上記の他にも本人の希望に応じて、本人の死後においてペットを指定した施設に預けることを委任事項として記載するような例もあります。死後事務委任契約は、本人の死亡後の憂いを少なくし、安心して生活してもらうために重要な契約です。本人の意向を時間をかけて聞き出すとよいでしょう。   3 死後事務の報酬 死後事務の報酬は当事者の合意で自由に決めることができますが、一般的に20万から100万円程度で設定されることが多いと思われます。死後事務には報酬以外にも葬儀費用や入院費用の支払い、遺品の整理などに多額の費用(実費)がかかることから、報酬と実費に充てるために「預託金」という形で事前に受任者が一定額を預かっておき、業務完了後に精算するという形もとられています。高額な預託金を預けることに本人が不安を感じている場合には、預託金の信託サービスなども存在するため利用を検討するとよいでしょう。 (了)

#No. 652(掲載号)
#北詰 健太郎
2026/01/15

《速報解説》 ASBJ、「後発事象に関する会計基準」の確定を公表~確定に伴い「後発事象に関する監査上の取扱い」は廃止~

《速報解説》 ASBJ、「後発事象に関する会計基準」の確定を公表 ~確定に伴い「後発事象に関する監査上の取扱い」は廃止~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2026年1月9日、企業会計基準委員会は、「後発事象に関する会計基準」(企業会計基準第41号)等を公表した。 これにより、2025年7月8日から意見募集を行っていた公開草案が確定することになる。公開草案に寄せられた「主なコメントの概要とそれらに対する対応」も公表されている。 同日、「後発事象に関する監査上の取扱い」(監査基準報告書560実務指針第1号)が廃止されている(ただし、2027年4月1日前に開始する連結会計年度及び事業年度の連結財務諸表及び個別財務諸表については、従前のとおり本実務指針を適用)。 これは、後発事象に関する会計処理及び開示について規定するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 移管にあたっての基本的な方針 後発事象の定義、会計処理及び開示等を取り扱う包括的な会計基準を設定することを優先的な課題とし、原則として「後発事象に関する監査上の取扱い」(監査基準報告書560実務指針第1号)で示されている会計に関する内容を踏襲して移管する(後発事象会計基準BC7項)。   Ⅲ 定義・評価期間 「後発事象」とは、決算日後に発生した企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を及ぼす事象のうち、評価期間の末日までに発生した事象をいう(後発事象会計基準4項)。 評価期間の末日は、原則として、財務諸表の公表の承認日である(後発事象会計基準7項)。 後発事象には、修正後発事象及び開示後発事象がある(後発事象会計基準4項~6項)。 後発事象会計基準等では、「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準第24号)の「会計事象」の用語とのコンフリクトを避けるために、「会計事象」の用語を「事象」という用語に変更している。   Ⅳ 財務諸表の公表の承認日 「財務諸表の公表の承認日」は、財務諸表を公表することを承認する権限を有する社内の機関又は個人が公表を承認した日付を指すものと考えられる(後発事象会計基準BC16項)。 また、「財務諸表を公表することを承認する権限を有する社内の機関又は個人」は、企業の経営とガバナンスの構造に基づき決定されると考えられるため、企業ごとに異なり得ると考えられる(後発事象会計基準BC16項)。 公開草案に対して、単に「財務諸表の公表」だけでは、例えば決算発表時の決算短信に、監査未済の金融商品取引法に基づく財務諸表を添付し公表することも含まれるのではないかと、誤解されるおそれがあるのではないかとのコメントが寄せられているが、「有価証券報告書提出会社においては、決算短信と有価証券報告書とでは公表の承認の対象が異なっており、誤解は生じないと考えられる」との対応が示されている(コメントNo.3)。   Ⅴ 会計監査人設置会社の計算書類等及び連結計算書類における評価期間 会計監査人設置会社(会社法2条11号)において会計監査人により監査される計算書類等又は連結計算書類に関する後発事象の評価期間の末日は、企業が一般に公正妥当と認められる企業会計の基準及び会社計算規則に準拠して計算書類等又は連結計算書類を作成する監査契約上の責任を果たしたことを確認した日(以下「確認日」という)としている(後発事象適用指針4項)。 当該確認日は、通常、経営者確認書の日付と同一になると考えられる(後発事象適用指針BC7項)。 これは、取締役会による計算書類等及び連結計算書類の承認日(会社法436条3項及び444条5項)が計算書類等及び連結計算書類の公表の承認日に該当すると解釈されるおそれがあることなどの懸念に対処したものである(後発事象適用指針BC4項~BC7項)。   Ⅵ 会計監査人設置会社における確認日後に発生した修正後発事象の取扱い 「後発事象に関する監査上の取扱い」で設けられていた修正後発事象が会社法監査における会計監査人の監査報告書日後に発生した場合には、金融商品取引法に基づいて作成される財務諸表においては、当該修正後発事象は開示後発事象に準じて取り扱う特例的な取扱いについては、基本的に踏襲する(後発事象適用指針BC9項)。 このため、会計監査人設置会社においては、後発事象会計基準8項の定めにかかわらず、次の(1)及び(2)の事象については、修正後発事象として取り扱わず、開示後発事象に準じて取り扱う(後発事象適用指針5項、BC9項、BC10項)。   Ⅶ 注記事項 次の注記を行う(後発事象会計基準10項、11項)。 重要な開示後発事象に関する注記については、連結財務諸表を作成している場合に連結財務諸表における注記と個別財務諸表における注記が同一の内容であるときには、個別財務諸表においては、その旨の記載をもって代えることができる(後発事象会計基準12項)。 なお、「期中財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第37号)においては、財務諸表の公表の承認に関する注記を行うことを求めていない。   Ⅷ 補足文書 実務において参考となるように、「後発事象に関する監査上の取扱い」で示されていた開示後発事象の例示及び開示内容の例示を提供することを目的として、補足文書が公表されている。   Ⅸ 適用時期等 2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する(後発事象会計基準13項)。 早期適用の定めを設けず、2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から一律に適用する(後発事象会計基準BC31項)。 後発事象会計基準の適用初年度においては、本会計基準を2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から将来にわたって適用する(後発事象会計基準14項)。 (了)

#阿部 光成
2026/01/13

《速報解説》 ASBJが「法人税等に関する会計基準(案)」を公表~法人税その他の課税対象利益を基礎とする税金に関する会計処理及び開示を規定~

《速報解説》 ASBJが「法人税等に関する会計基準(案)」を公表 ~法人税その他の課税対象利益を基礎とする税金に関する会計処理及び開示を規定~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2026年1月9日、企業会計基準委員会は、「法人税等に関する会計基準(案)」(企業会計基準公開草案第94号)等を公表し、意見募集を行っている。 現行の「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(企業会計基準第27号)では、具体的な税金を挙げて、当該税金について規定する税法を参照することにより、適用対象となる税金を特定して会計処理及び開示について定めている。 法人税等会計基準(案)では、法人税等に関する原則的な定めを置くこととし、具体的な税金を特定しない方法に見直す方向が提案されている。 意見募集期間は2026年3月9日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 目的及び範囲 法人税等会計基準(案)は、主として法人税その他の課税対象利益を基礎とする税金に関する会計処理及び開示を定めることを目的とする(法人税等会計基準(案)1項、2項)。 法人税額等の表示については、「企業会計原則」(企業会計原則注解を含む)及び「連結財務諸表原則」に定めがあるが、本会計基準が優先して適用される。   Ⅲ 定義 次の定義を規定する(法人税等会計基準(案)4項)。   Ⅳ 課税対象利益を基礎とする税金の会計処理 当事業年度の課税対象利益を基礎とする税金については、次を除いて、納付済みの額に納付予定の額を加算した額(又は還付が見込まれる額を減算した額。これには税務上の欠損金の繰戻しにより還付を請求する額及び税額控除の際に法人税額等から控除しきれないことにより還付される額を含む)を、法令を適用して算定し、損益に計上する(法人税等会計基準(案)5項~5-3項)。   Ⅴ 課税対象利益を基礎とする税金に該当しないものの会計処理 当事業年度の住民税(均等割)、事業税(付加価値割)及び事業税(資本割)については、法令を適用して算定した額を損益に計上する(法人税等会計基準(案)8-3項)。 受取利息及び受取配当金等に課される源泉所得税等の額については、損益に計上する(法人税等会計基準(案)8-4項)。 親会社及び国内子会社が外国の法令に従い納付する税金で課税対象利益を基礎とする税金に該当しないものの額については、損益に計上する(法人税等会計基準(案)8-5項)。   Ⅵ 開示 当事業年度の課税対象利益を基礎とする税金について、法人税等会計基準(案)5項、5-3項及び5-5項に基づき損益に計上する課税対象利益を基礎とする税金の額は、損益計算書の税引前当期純利益(又は損失)の次に、「法人税等」などの適切な科目をもって表示する(法人税等会計基準(案)9項)。 課税対象利益を基礎とする税金のうち納付されていない税額について、貸借対照表日の翌日から起算して1年以内に支払の期限が到来するものは、貸借対照表の流動負債の区分に、「未払法人税等」などその内容を示す科目をもって表示する(法人税等会計基準(案)11項)。 また、貸借対照表日の翌日から起算して1年を超えて支払の期限が到来するものは、貸借対照表の固定負債の区分に、「長期未払法人税等」などその内容を示す科目をもって表示する(法人税等会計基準(案)11項)。 課税対象利益を基礎とする税金に該当しないものについても、詳細に規定されている。 例えば、法人税等会計基準(案)8-3項に基づき損益に計上する当事業年度の住民税(均等割)、事業税(付加価値割)及び事業税(資本割)は、更正等による追徴税額及び還付税額を含め、損益計算書の売上原価、販売費及び一般管理費又は営業外費用のうち適切な表示区分に表示する(法人税等会計基準(案)18-2項)。 特に住民税(均等割)は課税対象利益を基礎とする税金に該当しないため、法人税等会計基準(案)では、現行の取扱いとは異なり、売上原価、販売費及び一般管理費又は営業外費用のうち適切な表示区分に表示することを提案している。   Ⅶ 税効果会計の対象となる税金 法人税等会計基準(案)において課税対象利益を基礎とする税金を定義したことを受け、これと整合するよう「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正(そのX)(案)」により、法人税その他の課税対象利益を基礎とする税金を税効果会計基準における「法人税等」と定義することを提案している。 「税効果会計に係る会計基準の適用指針(案)」において「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正(そのX)(案)」にあわせて法人税等の定義を見直すことを提案しているが、法人税等に該当する税金は従来と同様であり、税効果会計の対象となる税金に関して変更を意図するものではない。 「税効果会計に係る会計基準の適用指針(案)」では、法定実効税率の定義に関して具体的な税金の名称を使用した算式を削除し、代わりに「課税対象利益に対する税負担率」とすることを提案している(税効果会計に係る会計基準の適用指針(案)4項(11))。   Ⅷ 補足文書(案) 次の項目に関する補足文書(案)を公表する。 上記②からに④に関連して、補足文書(案)の別紙1から別紙3において、税効果会計における税率に関する取扱いについて示しており、防衛特別法人税の創設を反映したものとしている。   Ⅸ 適用時期等 20XX年4月1日[公表から1年程度経過した年の4月1日を想定している]以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。 ただし、公表日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することができる。 20XX年改正会計基準の適用初年度においては、適用初年度の比較情報について、住民税(均等割)に関して新たな表示方法に従い組替えを行うことを要しない。 (了)

#阿部 光成
2026/01/13

《速報解説》 金融庁、「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」報告を公表~サステナビリティ情報の第三者保証制度のあり方を中心に記載~

《速報解説》 金融庁、「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」報告を公表 ~サステナビリティ情報の第三者保証制度のあり方を中心に記載~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2026(令和8)年1月8日、金融審議会「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」は、「金融審議会 サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ 報告」を公表した。 2025年7月17日に公表された「金融審議会 サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ 中間論点整理」で今後の検討事項とされたものに関する報告であり、主にサステナビリティ情報の第三者保証制度のあり方について記載している。 報告書は、今後、金融審議会総会・金融分科会において報告されるとのことである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 適用対象企業及び開始時期 中間論点整理で示されたとおり、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)の公表したサステナビリティに関する開示基準(SSBJ基準)の適用は、企業等の準備期間を考慮し、次のスケジュールとする。 時価総額5千億円未満の企業へのSSBJ基準の適用については、企業の開示状況や投資家のニーズ等を踏まえて、今後検討する。 第三者保証は、開示基準の適用義務化の開始時期の翌年から義務付ける。 「金融審議会 サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ 報告 概要」では、次のロードマップが示されている。 (出所) 金融庁ホームページ   Ⅲ 有価証券告書の提出期限の延長 有価証券報告書の提出期限は、事業年度経過後3月以内とする現行制度を維持することが適当としている。 ただし、企業規模等によって、SSBJ基準に準拠したサステナビリティ情報の開示・保証への対応状況には差異があり得る。 この点、有価証券報告書は、やむを得ない理由により、事業年度経過後3月以内に提出できないと認められる場合には、内閣総理大臣の承認を得た期間内に提出できることとされている。 企業内容等の開示に関する留意事項(開示ガイドライン)の改正により、SSBJ基準に準拠した情報開示と保証制度の導入の初期の段階における承認プロセスを明確化し、個別的な対応として、延長承認の制度を柔軟に活用できるようにすることは、円滑な制度導入に資するものと考えられる。   Ⅳ サステナビリティ情報の第三者保証 1 保証業務実施者 我が国におけるサステナビリティ情報の保証は、国際基準(国際サステナビリティ保証基準(ISSA5000)、国際サステナビリティ倫理・独立性基準(IESSA)のほか国際品質マネジメント基準(ISQM1))と整合性が確保された基準に準拠して実施するものとし、こうした保証を実施できる者が監査法人であるかどうかにかかわらず保証業務実施者とすることを制度設計の基本的な考え方とすることが適当としている。 保証業務実施者を登録制とし、上述の基準に準拠した保証が提供される場合、監査法人・監査法人以外の者のいずれも、登録要件を満たす場合は登録可能な制度とし、事業者間で切磋琢磨することで、より良い保証が提供されることが期待されている。 保証業務実施者に対して、保証業務を実施する責任者(業務執行責任者)がサステナビリティ情報の開示・保証に必要な専門的知識・経験及び能力を有することを求めるべきであるとしている。ただし、公認会計士資格を有する者に限定する必要はないと考えられるとしている。 2 検査・監督等 当面の間は自主規制機関ではなく、金融庁において検査・監督すべきであるとしている。 3 エンフォースメント 行政上のエンフォースメント、民事上のエンフォースメント、刑事上のエンフォースメントが詳細に記載されている。 セーフハーバー・ルールについても記載されている。 (了)

#阿部 光成
2026/01/13

《速報解説》 極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置の見直し~令和8年度税制改正大綱~

《速報解説》 極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置の見直し ~令和8年度税制改正大綱~   税理士・税務ライター 鈴木 まゆ子   令和7年12月19日に公表された「令和8年度税制改正大綱」において、極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置につき、以下の見直しが行われた。   1 改正の趣旨 極めて高い水準の所得者に対する負担の適正化措置は、令和5年度税制改正において導入された。これはいわゆる「1億円の壁」対策として設けられたものである。 本来、所得税は給与等が高ければ高いほど税率が高くなる累進課税で計算されるものであるが、配当所得や株式などの一部の譲渡所得は所得税率が一律15%の分離課税方式で課税される。そして高所得者ほど配当所得や株式等の譲渡所得が所得に占める割合が高いため、「高所得者ほど税負担が下がる」という逆転現象が起きていた。 (出典) 内閣府「第3回 活力ある長寿社会に向けたライフコースに中立な税制に関する専門家会合(2025年11月13日)財務省資料」 令和5年度税制改正では、この課税の不公平を是正し、富の再分配を適正に行わせるべく、極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置が導入された。 これにより、確定申告不要制度の対象となる上場株式等の配当所得等を含む基準所得金額が3億3,000万円を超えると、次のような算式で納税額を計算することとなった。これは令和7年分の所得税から適用されている。 今回の税制改正では、税負担の公平性の確保という観点から、上記計算のうち、特別控除額の引き下げと適用税率の引き上げが行われた。   2 改正の内容 令和8年度税制改正により、この適正化措置は次の2点で変更となった。 (1) 特別控除額の引き下げ これまで3億3,000万円だったが、改正により1億6,500万円となった。 (2) 適用税率の引き上げ これまで税率22.5%だったが、改正により30%となった。 結果、負担の適正化措置における課税計算は次のようになる。 なお、この改正は令和9年分の所得税から適用される。   3 注意点 今回の改正で注意したいのは次の2点である。 (了)

#鈴木 まゆ子
2026/01/09
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