検索結果

詳細検索絞り込み

ジャンル

公開日

  • #
  • #

筆者

並び順

検索範囲

検索結果の表示

検索結果 10507 件 / 31 ~ 40 件目を表示

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例77】「ゴルフ会員権に係る預託金債権の貸倒損失についての損金算入時期」

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例77】 「ゴルフ会員権に係る預託金債権の貸倒損失についての損金算入時期」   拓殖大学商学部教授 税理士 安部 和彦   【Q】 私は、関東地方のとある県の県庁所在地に本社を置き、ソフトウェアの開発やシステム関連のコンサルティングを行うX株式会社(資本金3億円の3月決算法人)において、経理のみならず採用も担当する、何でも屋の総務部長を務めております。 国のDX(Digital Transformation)化推進政策の影響等もあって、現在、ソフトウェアの開発やITシステム業界は概ね好況で、わが社も多額の受注残を抱えてフル稼働しているところです。 しかし、現在のわが社の従業員数では、増え続ける受注をこなすことは到底困難であることから、昨年度から新卒採用のみならず第二新卒や中途採用にも力を入れていますが、残念ながら思うように採用できていないのが現状です。理工学部出身のわが社の社長は、数学ができない文系にはシステムなど分かるわけがない、採用は理工系学部出身か、最低でも高専出身者にしろと無理難題を押し付けてくるのですが、そのような「金の卵」は待遇のよい大手上場企業にすべてさらわれてしまい、私としては、文学部出身でシェークスピアや源氏物語を学んできた者でもいいから、とにかく人を集めたいと、今存亡の危機にある女子大にも足を伸ばして、学生を送り出してほしいと就職担当者に泣きついているところです。 さて、その一方で、社長は自分の道楽であるゴルフについては聖域であるかの如く日夜ふるまっていますが、今回の税務調査では社長の当該ゴルフ道楽に課税庁のメスが入ったところです。すなわち、わが社が会員となっているゴルフクラブのうち、1ヶ所が経営破綻したのですが、当該ゴルフクラブに係る預託金返還請求権につき切り捨てられた金額を退会手続の完了した日の属する事業年度(令和5年3月期)の損金の額に算入したことについて、調査官から問題視されました。 調査官の言うことには、当該金額はゴルフクラブが民事再生法の規定に基づく再生計画認可の決定につき切り捨てが確定した日の属する事業年度(平成30年3月期)に損金算入されるとのことでした。損金計上のタイミングがかなりずれるのですが、税法上いずれが妥当なのでしょうか、教えてください。 【A】 法人の有する金銭債権(預託金制ゴルフ会員権における預託金債権を含む)について貸倒れが生じた場合の貸倒損失については、一般に、法人税法第22条第3項の規定により損金の額に算入されることとなりますが、その具体的な要件としては、法基通9-6-1(1)の定めるとおり、民事再生法の規定に基づく再生計画認可の決定につき確定した日の属する事業年度に、預託金返還請求権につき切り捨てられた金額について損金算入されるのが妥当と言えます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 産業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進施策 近年、企業経営においてDX(デジタルトランスフォーメーション、Digital Transformation)という用語が1つのキーワードとなっているが、DXとは一般に、データ(中でもビッグデータ)とAI、IoTといったデジタル技術を活用・融合して、企業の業務プロセスを改善するのにとどまらず、製品やサービス、ビジネスモデルそのものを変革するとともに、組織や企業文化をも改革することで、競争上の優位性を確立することをいうものとされている。 わが国において、産業界のDX推進に係る諸施策を管轄している官庁は経済産業省である。経済産業省は2020年11月に、企業のDXに関する自主的取組を促すため、デジタル技術による社会変革を踏まえた経営ビジョンの策定・公表といった経営者に求められる対応を「デジタルガバナンス・コード」として取りまとめているところである。それによれば、企業のDX経営に求められる3つの視点・5つの柱は、以下の図のとおりとなる。 〇デジタルガバナンス・コードの全体像 (出典) 経済産業省HP「デジタルガバナンス・コード」   (2) 貸倒損失の損金算入時期 法人の有する金銭債権について貸倒れが生じた場合の貸倒損失については、一般に、法人税法第22条第3項の規定により損金の額に算入されることとなる。ここで問題となるのは、当該金銭債権が果たして貸倒れとなったかどうかの判断であり、それは事実認定の問題となる。とはいえ、判断基準なしに事実認定の問題だと言われても租税実務が混乱するばかりであることから、国税庁は、金銭債権の貸倒れに係る損金算入時期の判断に関する一般的な基準を示している(法基通9-6-1~3)。 当該通達によれば、以下に掲げる事実が発生した場合には、金銭債権の額のうち以下に掲げる金額は、その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入される(法基通9-6-1)。 なお、上記のような事実が発生した場合には、法人がそれを貸倒れとして損金経理しているか否かにかかわらず、その事実が発生した日の属する事業年度において損金の額に算入されることとなる。   (3) ゴルフ会員権に係る預託金債権の貸倒損失についての損金算入時期が争われた事例 それでは本件と同様に、ゴルフ会員権に係る預託金債権の貸倒損失について、その損金算入の時期が争われた事例(東京地裁令和5年1月27日判決・TAINSコード:Z888-2625)について、以下で確認してみたい。 ① 事案の概要 電子計算機利用技術の開発及びコンサルテーション等を目的とする株式会社である原告(7月決算)は、本所税務署の職員による実地調査において、原告が本件事業年度等の法人税及び地方法人税の確定申告に会員権償還損として計上した、民事再生法の規定に基づく再生計画認可の決定の確定により切り捨てられた預託金制ゴルフ会員権の預託金返還請求権が、本件事業年度等の損金の額には算入されない旨指摘されたことを受けて、本所税務署長に対し、本件事業年度等に係る法人税等の修正申告書を提出した。 本件は、本件修正申告をした原告が、上記のとおり切り捨てられた預託金返還請求権については、退会手続の完了した日の属する本件事業年度の損金の額に算入されるべきであるとして、本件事業年度等に係る法人税等の各更正の請求をしたところ、本所税務署長が令和2年3月16日付けで更正をすべき理由がない旨の各通知処分をしたことから、その取消しを求める事案である。 ② 事案の争点 本件預託金債権の貸倒損失を損金の額として算入すべき時期はいつか。 ③ 裁判所の判断 なお、本件は控訴されたが棄却され(東京高裁令和5年9月14日判決・TAINSコード:Z888-2598)、確定している。 ④ 本裁判例から学ぶこと 本件は、ゴルフ会員権に係る預託金債権の貸倒損失につき、その損金算入のタイミングについて争われた事案である。 原告・納税者側は、平成29年7月25日に本件ゴルフクラブを退会したことにより、返還を受けられなかった預託金債権に係る損失額については、本件事業年度(平成29年7月期)に発生した損失として損金の額に算入されるべきである旨主張したところであるが、裁判所はそれを斥け、元本金額の97.5%に相当する部分(損失額)については、民事再生法の規定により確定した認可決定によって認可された再生計画に従い、「支払免除の効力」が生じた平成17年1月31日に顕在化した上で切り捨てられて消滅したことから、平成17年7月期において損金の額に算入されるべきと判断した。これは、先に上げた法基通9-6-1に掲げられた要件のうち、(1)に該当するものである。 金銭債権の貸倒れについては、第一義的にはその金銭債権が「消滅したか」どうかによって判断されるわけであるが、課税庁はその具体的な判断基準として、法基通9-6-1において(1)から(4)までの要件を示しているわけである。当該(1)の文言では、損金計上のタイミングが明示されているわけではないが、通達ではその前提として、「その事実の発生した日の属する事業年度において」損金算入するとあるので、民事再生法の規定により確定した認可決定によって「支払免除の効力」が生じた日の属する事業年度(すなわち平成17年7月期)に損金算入するという裁判所の判断は、妥当と言えるだろう。   (4) 本件へのあてはめ 法人の有する金銭債権(本件で問題となっている預託金制ゴルフ会員権における預託金債権を含む)について貸倒れが生じた場合の貸倒損失については、一般に、法人税法第22条第3項の規定により損金の額に算入されることとなるが、その具体的な要件としては、法基通9-6-1(1)の定めるとおり、民事再生法の規定に基づく再生計画認可の決定につき確定した日の属する事業年度に、預託金返還請求権につき切り捨てられた金額について損金算入されるのが妥当と言える。   (了)

#No. 630(掲載号)
#安部 和彦
2025/08/07

租税争訟レポート 【第80回】「更正の請求の特則/遺留分減殺請求に基づく価額弁償金額が確定した日(第1審:東京地方裁判所令和5年6月29日判決、控訴審:東京高等裁判所令和5年12月13日判決)」

租税争訟レポート 【第80回】 「更正の請求の特則/遺留分減殺請求に基づく価額弁償金額が確定した日 (第1審:東京地方裁判所令和5年6月29日判決、 控訴審:東京高等裁判所令和5年12月13日判決)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【判決の概要】 〈第1審判決の概要〉 〈控訴審判決の概要〉   【事案の概要】 原告は、被相続人乙の相続について、相続税の申告をした後、裁判上の和解により定められた価額弁償金を遺留分権利者に支払ったことから、当初の申告に係る課税価格及び相続税額が過大になったなどとして、更正の請求をした。これに対し、新宿税務署長は、上記価額弁償金は上記裁判上の和解の成立によって「弁償すべき額が確定」したものであり、原告は当該事由を知った日の翌日から4か月以内に更正の請求をしていないから更正をすべき理由がないとして、これを前提とする更正処分をした。 本件は、原告が、上記価額弁償金は現実にこれを支払うことによって「弁償すべき額が確定」すると主張して、上記更正処分のうち、上記価額弁償金に係る更正の請求を認めなかった部分の取消しを求める事案である。 訴訟に至る経緯を時系列にまとめると次のようになる。   【争点】 争点は、本件価額弁償金は、本件和解の成立により、弁償すべき額として「確定」したか、である。   【争点に対する第1審での主張】 1 被告の主張 第1審被告は、民法1031条に基づく遺留分減殺請求に基づく和解が成立した場合、和解の効力により、受遺者は遺言のとおり財産を取得する一方、遺留分権利者は財産について有していた権利等を喪失する代償として金銭支払請求権を取得することとなり、その和解が裁判上の和解であれば、裁判上の和解の成立をもって弁償すべき額が確定したことになることから、裁判上の和解の成立をもって、相続税法32条3号に規定する「弁償すべき額が確定した」に該当するとするのが文理に即すると主張して、本件価額弁償金は、本件和解の成立により、弁償すべき額として「確定」したものであるとした。 2 原告の主張 第1審原告は、遺留分減殺請求事件の訴訟上の和解によって価額弁償金の支払が認められた場合の相続税法上の法的効果は、価額弁償金の支払が現実になされたときに生じ、弁償すべき額が確定することになると主張して、その理由を次のように説明した。   【東京地方裁判所の判断】 第1審である東京地方裁判所は、結論として、和解の成立により、原告が弁償すべき本件価額弁償金の額が「確定」したものであり、原告は、和解の当事者であるから、和解の成立日である平成28年4月13日に、「弁償すべき額が確定した」ことを知ったものと認められることから、本件更正請求は令和2年9月7日にされたものであって、原告が「弁償すべき額が確定した」ことを知った日の翌日から4か月以内にされたものではないから、本件更正請求のうち本件価額弁償金に係る部分について更正をすべき理由がないとした本件更正処分に誤りはないと判示し、本件更正処分は適法であり、原告の請求は理由がないから棄却する判決を下した。 1 東京地方裁判所による判決理由 東京地方裁判所は、丙及びAが、原告らに対して遺留分減殺請求権を行使し、相続財産である不動産につき所有権の一部移転登記手続などを求めて提起した訴訟において、丙及びAと原告らとの間で、原告らが、丙及びAに対して、遺留分として一定の金額の支払義務があることを認めるという裁判上の和解が成立することで、原告と丙及びAとの間で、亡乙の相続について、原告が支払うべき価額弁償の額が定まったものであるから、遺留分権利者である丙及びAからの遺留分減殺請求に基づき、原告が弁償すべき本件価額弁償金が確定したと解するのが、相続税法32条3号の文言に沿うという判断を示した。 さらに、東京地方裁判所は、民法における遺留分制度は、遺留分権利者による遺留分減殺請求権の行使により当然に物権的効果が生じ、受遺者が価額弁償を選択した場合に遺留分権利者の現物返還請求権が金銭支払請求権になるという構造であったものであるから、遺留分権利者と受遺者との間で、受遺者が支払うべき遺留分の額を定める裁判上の和解が成立した場合には、裁判上の和解は、受遺者が遺贈の目的物の返還義務を免れるためにすべき価額弁償の額を確定させるものと解するのが相当であり、原告が弁償すべき本件価額弁償金の額は、本件和解の成立によって「確定」したものというべきであると断じた。 2 原告の主張に対する判断 一方、原告による主張に対して、まず、相続税法32条3号は、遺留分による減殺の請求に基づき「弁償すべき額が確定」したことを受けて、当初申告に係る課税価格及び相続税額が過大になったか否かを判断しようとするものであり、価額弁償金に係る資産の譲渡の有無や時期とは無関係な規定であり、所得税法上の資産譲渡が生じる時期から相続税法32条3号を解釈しようとする主張は、採用することができないとの判断を示した。 また、原告による、受遺者が遺贈の目的物の返還義務を免れるためには、価額弁償を現実に履行し、又はその履行の提供をしなければならないとされており、相続税法32条3号の「弁償すべき額が確定」の意義も同様に解すべきであるという主張に対しては、相続税法32条3号は、遺留分による減殺の請求に基づき「弁償すべき額が確定」したことを受けて、当初申告に係る課税価格及び相続税額が過大になったか否かを判断しようとするものであり、受遺者が遺贈の目的物の返還義務を実際に免れるか否かとは無関係な規定であるとして、これを斥けた。 最後に、原告による、価額弁償金を取得する遺留分権利者の担税力を考慮すれば、価額弁償金の現実の受領をもって相続税法32条3号の「弁償すべき額が確定」したと解すべきであるという主張に対しては、遺留分による減殺の請求に基づき「弁償すべき額が確定」し、受遺者について更正処分がされた場合には、価額弁償を受けた遺留分権利者に課税することが予定されているものの、「弁償すべき額が確定」する時期の解釈に当たり、遺留分権利者の資力を考慮すべきことを根拠付ける規定は見当たらないとして、原告の主張は、原告が弁償すべき本件価額弁償金の額は、本件和解の成立によって「確定」したものというべきであるという判断を左右するものにはならないとした。   【東京高等裁判所の判断】 控訴審である東京高等裁判所は、控訴人の請求は理由がないから棄却すべきであるところ、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却する判決を言い渡した。 本項では、控訴審における控訴人の主張と、それに対する東京高等裁判所の判断を引用したい。 1 控訴審における控訴人の主張 控訴人は、相続税法における遺留分減殺に基づく更正の請求の規定は、民法からの借用概念であるとしたうえで、最高裁昭和54年7月10日第三小法廷判決(以下、「昭和54年最判」と略称する)を引用し、遺留分減殺請求に対する価額弁償は、「単に価額弁償の意思表示をしただけでは足らず、価額弁償を現実に履行し、又は価額弁償のための弁償の提供をした」ときに効力が生じることから、和解により価額弁償によることが認められたときの「確定」の意義は、「和解の確定」のときではなく、和解の内容としての価額弁償(代物弁済)の効力の確定したとき、と解すべきことになると主張を行った。 さらに、控訴人は、現行民法における遺留分侵害額請求の制度に関する所得税基本通達33-1の6は、「遺留分侵害額の請求に基づく金銭の支払に代えて行う資産の移転」の場合の考え方について、「民法第1046条第1項(遺留分侵害額の請求)の規定による遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求があった場合において、金銭の支払に代えて、その債務の全部又は一部の履行として資産(当該遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求の基因となった遺贈又は贈与により取得したものを含む)の移転があったときは、その履行をした者は、原則として、その履行があった時においてその履行により消滅した債務の額に相当する価額により当該資産を譲渡したこととなる。」と規定していることを挙げて、相続税法32条3号における「弁償額の確定」の意義を所得税法上の資産の譲渡の確定(現実的な財産の移転を履行時とするもの)と同義に解することを肯定するものである。価額弁償が和解手続においてされた場合でも、価額弁償という実体的内容が変わらない以上、同様に、現実的な資産の移転があったときに「確定」されると解すべきことになると主張した。 2 控訴審における控訴人の主張に対する東京高等裁判所の判断 最初の相続税法32条3号の「確定」は現実に資産が移転したときと解釈すべきであるという控訴人の主張に対して、東京高等裁判所は、相続税法32条3号の解釈上問題となるのは「確定」の文言の意義であり、価額弁償の規定である民法1041条においては「確定」という文言が用いられているものではなく、また、昭和54年最判も、遺留分減殺請求権を行使された者が現物返還義務を免れるための要件について判断したものにすぎないことから、「確定」は借用概念ではなく、控訴人の主張は、民法1041条の解釈に関する昭和54年最判の結論部分を立法目的の異なる相続税法32条3号の解釈に妥当させようとするものといえ、かつ、訴訟上の和解が成立すれば価額弁償による実体的権利義務関係が有権的に確定することと整合しないものであるから、採用できないとの判断を示した。 さらに、所得税基本通達33-1の6の規定の趣旨を相続税法32条3号に及ぼすべきであるという趣旨の控訴人の主張に対しては、所得税基本通達33-1の6の規定は、譲渡所得の規定である所得税法33条における「譲渡」の意義に関するものであることに照らすと、この規定から当然に、遺留分減殺請求に対して価額弁償をした場合に更正の請求をすることができる期間を画するものと解することはできないというべきであるとして、斥けている。   【判決の特徴】 本件は、判決文に代理人の氏名の記載がないことから、原告による本人訴訟であると思料できる。被相続人の三男である原告その子Dは、被相続人の公正証書遺言により、被相続人の遺産の一部を相続又は遺贈による取得したものの、この遺言が、被相続人の長男丙、次男の代襲相続人であるA及び四男丁の遺留分を侵害する内容であったことから、丙及びAに対しては訴訟上の和解による価額弁償金及び和解金の支払いというかたちで、死亡した四男丁の子であるEに対しては解決金名目の金員を支払うことで、相続に係る諍いの解決を図ったものである。 訴訟上の和解が成立した平成28年4月13日から、原告らが丙及びAに対して価額弁償金と和解金を支払った令和2年5月13日までの間に何があったかは判決文からは読み取れないのだが、原告としては、まだ和解が成立していない四男丁の子Eとの間での和解の見通しがつくまで支払いを保留したものかもしれないという推測はできる。ところが、相続税法32条3号は、更正の請求の起源について、「すべての」遺留分減殺請求者との間で弁償すべき額が確定したことを知った日の翌日から4か月以内にしなければならないという規定にはなっていないことから、本件における新宿税務署長による原告に対する更正処分を裁判所も支持したものである。 1 国税不服審判所の裁決 第1審原告(控訴人)は、本件訴訟を提起する前に、国税不服審判所に対して不服申し立てを行っている。国税不服審判所の裁決要旨検索システムから、その裁決の要旨を引用しておきたい。成立した和解に基づく価額弁償金を支払わなくても、相続税法32条3号に規定に該当することを明確に述べている。 2 遺留分侵害請求権に関する民法の定め 2019年1月1日に施行された改正民法では、それまでの「遺留分減殺請求権」が「遺留分侵害請求権」と名称が変更され、同時に、遺留分の侵害による精算が、現物返還(現物分割)ではなく、金銭の支払により行うことが規定された(民法第1046条第1項)。 遺留分侵害の精算は金銭の支払いによることで一本化されたことにより、現物返還による遺留分侵害の精算においては、減殺請求の結果、権利関係が複雑になること、つまり、目的財産は受遺者または受贈者と遺留分権利者との共有になることが多く、目的物の円滑な処分に支障をきたしたり、共有関係の解消をめぐって新たな紛争が生じたりするなどの弊害が解消されることになったと評価されている。 なお、遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が、相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知ったときから1年間行使しないと、時効により消滅し、相続開始のときから10年間が経過した場合、遺留分侵害額請求権は除斥期間により消滅する(民法1048条)。この事項と除斥期間については改正前民法と同じである。   (了)

#No. 630(掲載号)
#米澤 勝
2025/08/07

金融・投資商品の税務Q&A 【Q96】「特定口座で保有する株式と同一銘柄の株式を一般口座で譲渡した場合の取得費」

金融・投資商品の税務Q&A 【Q96】 「特定口座で保有する株式と同一銘柄の株式を一般口座で譲渡した場合の取得費」   PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 西川 真由美   ●○ 検 討 ○●   1 上場株式の譲渡に係る譲渡所得等の金額の計算 (1) 同一銘柄の株式を複数回にわたって購入した場合の取得費の計算 上場株式の譲渡により生じる譲渡益は、上場株式等に係る事業所得、雑所得及び譲渡所得の金額(上場株式等に係る譲渡所得等の金額)として申告分離課税の対象となり、原則として確定申告が必要となります(申告分離課税)。適用税率は、20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、地方税5%)です。 また、同一銘柄の株式を2回以上にわたって購入し、その株式の一部を譲渡した場合には、譲渡所得等の金額の計算上、譲渡収入から控除する株式等の取得費は、総平均法に準ずる方法によって計算することとされています。 (2) 特定口座制度と確定申告の関係 上場株式等の譲渡益課税については、上述のとおり、原則として申告分離課税が適用されますが、特定口座に保管されている上場株式等を譲渡した場合、金融商品取引業者等は、特定口座以外の口座(一般口座)で譲渡した他の株式等の譲渡による所得と区分して譲渡損益の計算を行い、投資家に「特定口座年間取引報告書」を交付します。これは、申告事務における投資家の利便性に配慮したものです。 また、特定口座内で生じる所得に対して源泉徴収されることを選択した場合には、上場株式等の譲渡損益について金融商品取引業者等により源泉徴収が行われます。 この場合、当該口座内の上場株式等を譲渡した都度、一定の計算により、譲渡益に相当する金額に20.315%の税率を乗じて計算した金額の所得税(復興特別所得税を含む)及び地方税が、その譲渡対価が支払われる際に源泉徴収されます。 源泉徴収選択口座における上場株式等の譲渡による所得は原則として、確定申告は不要となりますが、他の口座での株式等の譲渡損益と相殺する場合や上場株式等に係る譲渡損失を繰越控除する特例の適用を受ける場合には、確定申告が必要です。   2 本件へのあてはめ A株式(500株)を複数回にわたって取得し、その一部である200株を譲渡したとのことですので、原則として、上場株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上、取得費は総平均法に準ずる方法によって計算することとなります。 特定口座において保有する上場株式等を譲渡した場合は、一般口座で保管する他の株式等の譲渡による所得と区分して計算することが法令上明らかですが、同一銘柄の株式を特定口座と一般口座の両方で保有し、一般口座で保有する株式のみを譲渡した場合に、総平均法に準ずる方法で計算をする対象とすべき株式の範囲は、一般口座で保有する株式のみか、特定口座で保有する株式も含めて計算するのかという疑問が生じます。 この点、特定口座制度が個人投資家の申告事務の負担を軽減することを目的として他の口座との区分計算を定めたものであることや、特定口座への受入れは原則としてその特定口座において行われた取引により取得した上場株式等に限られるものとしていることなどの制度趣旨を考慮すると、一般口座に保管されている上場株式等を譲渡した場合にも、特定口座に保管されている上場株式等とは区分して取り扱うべきであり、たとえ同一銘柄の株式であっても、特定口座で保管されている株式はその銘柄が異なるものとして取り扱うのが相当であると考えられます。 したがって、一般口座内の200株のみを譲渡した場合の取得費は、特定口座内の株式を含めず、一般口座内の株式について総平均法に準ずる方法で計算するものと考えられます。   (了)

#No. 630(掲載号)
#西川 真由美
2025/08/07

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第73回】

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第73回】   東洋大学法学部教授 泉 絢也   29 CARF(暗号資産等報告枠組み)と日本版CARF (1) CARF・日本版CARFの概要① OECDは暗号資産の台頭がもたらす課税上の問題への対応に取り組んでいる。 暗号資産は、利用者自身で暗号資産を管理するためのプライベートウォレットなどを使うことで、従来の金融機関などの仲介者を介さずに移転・保有することが可能である。 仲介者を介さずに、個人で暗号資産を保有し、取引している場合には、税務当局にとっては情報の照会先や提出依頼先がない。 このため、税務当局においては、自国の納税者に係る暗号資産の取引又は保有等に関する情報を選別したり、入手したりすることが困難となる。 その結果、各国の税務当局はその管轄内で行われた課税に関連する活動を完全に把握することができず、関連する納税義務が適切に履行されているかを確認することが困難になっている。 このような状況は、CRS(共通報告基準)(※)によって実現された、世界的な課税の透明性の向上という成果を徐々に損なうという、重大なリスクをはらんでいる。 (※) CRSとは、自動的情報交換の対象となる非居住者の金融口座の特定方法や情報の範囲等を各国・地域で共通化する国際基準のこと。これを通用することにより、金融機関の事務負担を軽減しつつ、金融資産の情報を税務当局間で効率的に交換し、外国の金融機関の口座を通じた国際的な脱税及び租税回避に対処することを目的としている(国税庁「非居住者に係る金融口座情報の自動的交換のための報告制度(FAQ)」(平成28年7月(令和6年4月最終改訂))2頁)。 さらに、個人がプライベートウォレットを用いて暗号資産を保有し、かつ、国境を越えて自由に移転できることから、暗号資産が違法行為の手段として利用されたり、納税義務の回避に使われるリスクが存在する(OECD, PUBLIC CONSULTATION DOCUMENT: CRYPTO-ASSET REPORTING FRAMEWORK AND AMENDMENTS TO THE COMMON REPORTING STANDARD 4-5(2022); OECD, INTERNATIONAL STANDARDS FOR AUTOMATIC EXCHANGE OF INFORMATION IN TAX MATTERS: CRYPTO-ASSET REPORTING FRAMEWORK AND 2023 UPDATE TO THE COMMON REPORTING STANDARD 11-12(2023))。 こうした背景を踏まえ、OECDは、2022年から2023年にかけて、暗号資産取引に関する税務情報を、納税者の居住地国との間で、標準化された方法により、自動的に交換することで課税の透明性を確保する世界的な枠組みであるCARF(Crypto-Asset Reporting Framework:暗号資産等報告枠組み)を策定した。 CARFの概要は下図のとおりであり、現在、日本を含む60以上の国・地域が令和9年又は令和10年からこの枠組みに従った情報交換を開始することを表明している(国税庁「非居住者に係る暗号資産等取引情報の自動的交換のための報告制度の導入について」(令和7年6月)、OECD, Jurisdictions Committed to Implement the Crypto-Asset Reporting Framework (CARF) in Time to Commence Exchanges in 2027 or 2028 as Part of the Global Forum’s CARF Commitment Process(2025))。 情報交換の対象となる税務情報には、暗号資産の残高情報は含まれていないものの、利用者や事業体に係る実質的支配者の氏名、住所・所在地、居住地国、納税者番号、生年月日、出生地のほか、報告対象となる暗号資産の種類、法定通貨による購入や売却、暗号資産の交換、受領及び移転に係る暗号資産の名称、総額、総数量、件数などが含まれる(OECD, PUBLIC CONSULTATION DOCUMENT, at 4-5; OECD, INTERNATIONAL STANDARDS, at 11-12, 14, 18-19, 34-35)。   (了)

#No. 630(掲載号)
#泉 絢也
2025/08/07

〈判例・裁決例からみた〉国際税務Q&A 【第55回】「国外財産調書に係る過少申告加算税の加算措置」

〈判例・裁決例からみた〉 国際税務Q&A 【第55回】 「国外財産調書に係る過少申告加算税の加算措置」   公認会計士・税理士 霞 晴久   〔Q〕 国外財産調書及び債権債務調書について過少申告加算税の加重措置が適用される「重要なものの記載が不十分である」とはどのような場合をいうのでしょうか。 〔A〕 国税不服審判所の裁決において、記載すべき事項について誤りがあり、又は記載すべき事項の一部に記載漏れがあることにより、修正申告等の基因となる国外財産又は財産ないし債務の特定が困難である場合をいうという判断が示されました。 ●●●〔解説〕●●● 1 国外財産調書及び債権債務調書 (1) 国外財産調書 ① 制度の概要 居住者で、その年の12月31日現在の国外財産の価額が5,000万円を超える居住者は、その財産の種類、数量及び価額その他必要な事項を記載した国外財産調書を、その年の翌年の6月30日までに提出しなければならない(国送法(※1)5①)。国外財産調書制度は平成24年度の税制改正で整備されたが、その導入趣旨について、税制改正の解説(※2)では以下のように説明されている。 (※1) 正式名称は、「内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律」という。 (※2) 財務省「平成24年度税制改正の解説」613頁 ② インセンティブ措置 国外財産調書制度の導入を促進するため、以下のような制度が設けられている。 (2) 財産債務調書 ① 制度の概要 所得税及び復興特別所得税の納税義務者で、その年の総所得金額及び山林所得金額の合計額が2,000万円を超え、かつ、その年の12月31日において、その価額の合計額が3億円以上の財産又はその価額の合計額が1億円以上の国外転出特例対象財産(※3)を有する場合には、その財産の種類、数量及び価額並びに債務の金額その他必要な事項を記載した財産債務調書をその年の翌年の6月30日までに、所轄税務署長に提出しなければならない(国送法6の2)。 (※3) 国外転出特例対象財産とは、所得税法60条の2第1項に規定する有価証券並びに同条2項に規定する未決済信用取引等及び同条3項に規定する未決済デリバティブ取引に係る権利をいう(国送法6の2①、所法60の2①~③)。 財産債務調書制度は平成27年度の税制改正で導入されたが、それまで所得税法上の「財産債務明細書」として所得基準に合致する納税者についてのみ提出を求めてきたものを、平成27年度改正で導入された国外転出時課税制度の実効性を担保する目的も持たせて、所得基準と資産基準を併用して対象者を大口納税者に絞ったうえで、資産を時価で記載させるなど記載内容を充実させたものである(※4)。 (※4) 青山慶二「国外送金等に係る調書の提出等に関する法律に規定する国外財産又は財産債務に係る過少申告加算税の特例による加重措置を適用した事案」(TKC税情2025.2)32頁脚注4参照 財産債務調書を提出する者が国外財産調書を提出する場合には、その財産債務調書には、国外財産調書に記載した国外財産に関する事項の記載は要しないとされている(国送法6の2⑤) ② インセンティブ措置 財産債務調書についてもその適用を促進するため、国外財産調書と同様、過少申告加算税の5%軽減又は5%加重のインセンティブ措置が設けられており、内容はほぼ同一のため、記載は省略する。 以下では、国外財産調書につき、過少申告加算税の加重措置の適用の是非が争われた最近の裁決例を採り上げる。   2 過去の裁決例 令和5年12月7日国税不服審判所裁決(東栽(所)令5-48)(※5) (※5) 国税不服審判所HP (1) 事案の概要 本件は、審査請求人(以下「請求人」という)が、国外財産等に関して生じる所得の申告漏れ等があったとして修正申告書の提出をしたところ、原処分庁が、国送法に規定する国外財産又は財産債務に係る過少申告加算税の特例による加重措置を適用して過少申告加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、原処分の一部の取消しを求めた事案である。 請求人は、令和元年分ないし令和3年分(以下「本件各年分」という)の所得税等について、法定申告期限までに申告し、また、本件各年分に対応する国外財産調書及び財産債務調書をそれぞれ原処分庁に提出した。その後請求人は、原処分庁の調査を受け、令和4年3月5日、令和2年分の所得税等について、保有していた国内G株式に係る譲渡所得の計算誤り等があったとして、修正申告書を提出した。 さらに、請求人は、原処分庁の調査を受け、令和4年8月22日、本件各年分の所得税等について、米国に保有する賃貸用建物(以下「本件物件」という)に係る減価償却費の過大計上やG株式に係る譲渡所得の計算誤りに起因する各種申告漏れ等があったとして、修正申告書を提出した。原処分庁は、各修正申告に係る過少申告加算税の賦課決定処分に当たり、各年分の国外財産調書及び財産債務調書に記載すべき事項に誤りがあることを理由に、国外財産調書及び財産債務の加重措置を適用した。 請求人は、原処分庁による各加重措置が適用されたことを不服として審査請求した。 (2) 主な争点 本件の争点は、過少申告加算税について、加重措置が適用されるか否か、具体的には、請求人が提出した各調書は、「重要なものの記載が不十分である」(国送法6③及び同法6の3②)と認められるか否かである。 (3) 審判所の判断 ① 法令解釈 国外財産調書の提出制度は、国外財産に係る課税の適正化の観点から、納税者本人から国外財産の保有について申告を求める制度であり、国外財産調書の提出及び適正な記載を確保するためのインセンティブとして、国外財産軽減加重措置が設けられている。また、財産債務調書の提出制度は、所得税等の申告の適正性を確保するため、納税者の保有する財産及び債務に関する情報につき納税者本人から提出を求める制度であり、同様に、財産債務軽減加重措置が設けられている。 このような両調書の提出制度の趣旨から、国送法において、国外財産調書に「国外財産の種類、数量及び価額その他必要な事項」を記載すること、及び財産債務調書に「財産の種類、数量及び価額並びに債務の金額その他必要な事項」を記載することが規定されていることに照らすと、国送法第6条第3項及び同法第6条の3第2項に規定する「重要なものの記載が不十分である」と認められる場合とは、それぞれ、国送法施行規則第12条第1項(国外財産調書)及び同規則第15条第1項(財産債務調書)が規定する記載すべき事項について誤りがあり、又は記載すべき事項の一部に記載漏れがあることにより、修正申告等の基因となる国外財産又は財産ないし債務の特定が困難である場合をいうものと解され、これと同趣旨の国送法通達6-3(国外財産調書)の取扱い及び同通達6の3-3(財産債務調書)の取扱いは当審判所においても相当と認められる。 そして、国外財産軽減加重措置及び財産債務軽減加重措置が両調書の提出及び適正な記載を確保するためのインセンティブとして設けられていることに鑑みると、「重要なものの記載が不十分である」か否かを含めて、各軽減加重措置の適用の可否の判断は、各調書自体の記載内容から行うべきである。 ② あてはめ 審判所は、以下のように事実認定し、国外財産調書及び財産債務調書の各記載内容は、いずれも各調書に記載すべき事項のうち「重要なものの記載が不十分である」と認められるから、過少申告加算税について加重措置が適用されると判断した。 ➤本件物件について 本件物件は不動産所得を生ずべき業務の用に供されていたから、種類欄及び用途欄には、いずれも記載の誤りがあると認められる。また、その所在欄には居住用建物である旨の「Residence Property」との記載があるのみで、その所在地の記載はなく、さらに、戸数及び床面積の記載もない。 以上のように、令和元年分国外財産調書及び令和2年分国外財産調書は、本件物件の種類欄や用途欄の記載に誤りがあるだけでなく、所在地や戸数、床面積についても記載に誤りがあり、又は記載がないから、令和元年分修正申告及び令和2年分第2修正申告の基因となった本件物件を当該各記載内容から特定することは困難であると認められる。 ➤G株式について 請求人が(中略)G社の株式について記載したとする各順号3欄は、財産債務の区分欄に「匿名組合契約の出資の持分」と記載されているほか、その種類欄は、「株式」及び「G社」と記載すべきところを組合出資持分と解される「SECURITIES PARTNERSHIP INVESTM」と記載されており、記載の誤りがあると認められる。また、数量欄は「0」と誤って記載されており、取得価額の記載もない。 以上のように、(中略)G社の株式について、「株式」であるとの種類の記載やその数量の記載もないのであるから、令和2年分第1修正申告及び令和3年分修正申告の基因となった本件令和2年譲渡株式及び本件令和3年譲渡株式を当該各記載内容から特定することは困難であると認められる。   3 検討 請求人は、「重要なものの記載が不十分であると認められる場合」に当たるか否かは、国外財産調書又は財産債務調書の内容から財産の特定が困難か否かで判断するべきものではなく、自身が毎年確定申告していることや、原処分庁の調査担当職員から対象物件について確認等があったことに鑑みると、これらの財産は既に特定済みであるから、「重要なものの記載が不十分であると認められる場合」には当たらない旨主張した。これに対し審判所は、「重要なものの記載が不十分である」か否かを含めて、国外財産軽減加重措置又は財産債務軽減加重措置の適用の可否の判断は、国外財産調書又は財産債務調書自体の記載内容から行うべきであり、これらの記載内容に基づくと、本件において「重要なものの記載が不十分である」と認められることは上記のとおりであるとして、請求人の主張を排斥した。事実関係からして、請求人の主張が認められる余地は全くなかったものと思われる。   (了)

#No. 630(掲載号)
#霞 晴久
2025/08/07

決算短信の訂正事例から学ぶ実務の知識 【第17回】「表示方法変更時における過年度数値の組替え忘れ」

◆◇◆◇◆ 決算短信の訂正事例から学ぶ実務の知識 【第17回】 「表示方法変更時における過年度数値の組替え忘れ」   公認会計士 石王丸 周夫   決算短信では、連結財務諸表を2期併記します。当連結会計年度と前連結会計年度の2期分です。 併記されている2期の情報のうち、前連結会計年度に係る事項を「比較情報」(当連結会計年度に係る連結財務諸表に記載された事項に対応する前連結会計年度に係る事項)といいます。比較情報を作成することは連結財務諸表規則に定められており、決算短信の添付資料である連結財務諸表の開示様式については連結財務諸表規則に従うため、決算短信の連結財務諸表は2期併記となっています。 今回取り上げる訂正事例は、この比較情報の数値が訂正になった事例です。メインの情報である当連結会計年度の数値については何ら問題なく、訂正はありませんでした。 さっそく訂正事例を見ていきましょう。   訂正事例の概要 訂正されたのは、連結損益計算書の営業外費用の内訳でした。訂正前と訂正後を見比べてみましょう。 〈決算短信の連結損益計算書(訂正箇所抜粋)〉 【訂正前】 【訂正後】 まず、訂正前を見てください。 営業外費用の内訳は3つあります。支払利息、支払手数料、その他の3つです。 次に、訂正後を見てください。 営業外費用の内訳が少し変わりました。支払利息とその他の2つだけになっています。支払手数料は消えてしまっています。 これはどうしたことかというと、前連結会計年度に関して、訂正前において支払手数料として計上されていた14,683千円を、訂正後においては「その他」に統合したのです。当連結会計年度の方はどうかというと、訂正前の状態において支払手数料は「-」となっていましたので、この統合の影響はありません。 以上が訂正の内容になります。   どうして訂正しなければならないのか 上記の訂正内容は、過年度数値について一部科目を統合しただけのことです。そのままでもよかったのではないかと思いたくなるかもしれません。 しかし、そうではありません。 訂正前と訂正後の営業外費用の姿は、連結損益計算書の利用者に、それぞれ違った情報を伝えています。 訂正前の営業外費用は、当連結会計年度において支払手数料は0円だったという情報を発信しています。当連結会計年度の営業外費用の内訳は支払利息とその他であり、支払手数料は「-」となっている以上、支払手数料は1円たりとも計上されていないことを意味しています。 一方、訂正後の営業外費用は、支払手数料が発生しているかどうかは、当連結会計年度においても前連結会計年度においても識別不能であるという情報を発信しています。当連結会計年度及び前連結会計年度のいずれにおいても、営業外費用の内訳の「その他」に支払手数料が含まれている可能性を否定できませんが、この情報だけではそれはわかりません。 以上の違いを踏まえると、仮にこの企業の当連結会計年度の支払手数料が0円だったとしたら、訂正前のままでよいことになるので、訂正は行っていないはずです。しかし、実際には訂正していることから、当連結会計年度における支払手数料は0円ではなかったということがわかります。支払手数料は発生しているが、重要性が乏しいので「その他」に含めたということになるわけです。 その場合、当連結会計年度と並べて掲載される前連結会計年度の連結財務諸表は、当連結会計年度の表示に合わせて表示してあげなければなりません。そうでなければ、利用者にとって比較が難しくなるからです。それゆえに、当連結会計年度の表示方法の変更に合わせて、過年度の連結財務諸表を組み替えます。上記の訂正事例はそのような訂正でした。   会計基準の確認 会計基準を確認しておきましょう。 (企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第14項) また、営業外費用の内訳について、その他に含めてよいかどうかの判断基準についても定めがあります。 (連結財務諸表規則第58条) 本事例の場合、当連結会計年度の支払手数料の金額は、22,059千円(営業外費用総額)の100分の10以下だったということがわかります。   開示前のチェックポイント 表示方法の変更時に比較情報の組替えがなされていないという誤記載を見つけるには、数値欄に「-」がある科目に注意するという方法があります。 特に連結損益計算書の営業外費用は、経常的に発生する損益区分に含まれるため、毎期発生する可能性が高いと考えられます。それにもかかわらず「-」となっていれば、表示方法の変更があった可能性を考えて、内容を確認するとよいでしょう。 作成者自ら開示前に自己点検する場合は、表示方法を変更した箇所があれば覚えているはずですので、比較情報についても組替えしたかを思い起こしてみればよいかと思います。 (了)

#No. 630(掲載号)
#石王丸 周夫
2025/08/07

空き家をめぐる法律問題 【事例69】「別荘地の管理契約と管理費負担に関する問題」

空き家をめぐる法律問題 【事例69】 「別荘地の管理契約と管理費負担に関する問題」   弁護士 羽柴 研吾   - 事 例 - 私は、父から別荘地を相続しました。その後、別荘地の管理業者から管理費の請求を受けました。私は、その管理業者と契約を結んだ覚えはなく、父も契約していなかったはずです。別荘も建てておらず、土地も全く利用していません。それでも支払わなければならないのでしょうか。 管理会社の話では、「契約がなくても支払義務を認めた最高裁判例がある」とのことです。なぜそのような結論になるのでしょうか。   1 検討の視点 バブル期には「別荘を持つこと」が一種のステータスとして捉えられ、全国各地で多くの別荘地が開発・販売された。その際、土地の所有者と管理会社との間で、道路や排水施設などの共用部分を維持するための管理契約が結ばれることが一般的であり、こうした別荘地では、所有者の使用の有無にかかわらず、管理会社が共通の施設を維持するために一定のサービスを継続して提供している。 その一方で、相続などにより新たな所有者が登場し、管理契約を締結していないまま土地を保有するケースも増えている。本事例は、そのような管理契約を締結していない所有者が管理費の支払義務を負うか、この点について判示した2つの最判令和7年6月30日(以下「令和7年判決」という)を踏まえて検討する。   2 別荘地の管理契約とは 別荘地の管理契約とは、別荘地の所有者が、別荘地の共益的な施設等(道路・排水設備・街路灯・ゴミ集積所など)の維持管理を管理会社に委託するものである。そのため、他の所有者が管理契約を締結していた場合、所有者は自ら管理契約を締結するか否かにかかわらず、共益的な利益を得ることができることになる。 管理契約は、個々の所有者と管理会社との間で締結されることが多いと思われるが、所有者全体で構成された「管理組合」(法人格のない団体)が一括して契約する場合もある。具体的な管理業務の内容は個別の契約によるが、令和7年判決の管理契約では、次のような事項が含まれていた。   3 2つの令和7年判決 2つの令和7年判決では、別荘地を利用していない所有者が、管理会社と管理契約を締結していないにもかかわらず、管理業務による利益を受けたと評価できるか(=不当利得が成立するか)が争点となった。高裁レベルでは判断が分かれており、最高裁の判断が注目されていたところ、令和7年判決は不当利得の成立を認めるに至った(なお、不当利得を否定した高裁判決は「管理業務が土地の経済的価値に与えた影響が不明である以上、利益を受けたとはいえない」ことを理由としていた)。 令和7年判決が最も重視したのは、管理業務の性質である。すなわち、管理業務が道路や排水設備の保守、防犯、景観維持など、別荘地全体の機能維持に資するものである以上、土地を利用していない所有者であっても、これらの業務による利益を受けていると評価でき、管理契約を締結していない所有者だけを利益の対象から除外することは困難であるという性質である。 この前提に立ち、最高裁は、管理契約を締結していない別荘地の所有者についても、管理業務により法律上の原因なく利益を受けているとし、不当利得の成立を認めている。また、高裁判決で不当利得の成立を否定する理由とされていた「管理業務による土地の経済的価値への影響」についても、管理業務によって土地の経済的価値そのものを向上させていなかったとしても、不当利得の成立に影響はないと判断している。 さらに、別荘地の所有者から「不当利得の成立を認めることは、契約自由の原則に反する」との主張もされていたが、令和7年判決は次の点を理由にこの主張を排斥している。 このような事情から、たとえ別荘地の所有者が管理業務の提供を望んでいなかったとしても、管理費相当額の負担義務は免れず、それが契約自由の原則に反するものではないと判断されている。   4 今後の展開 令和7年判決以前の下級審裁判例では、管理会社が別荘地全体の管理を行う必要があるのは管理契約上の義務であること等を理由に不当利得の成立を否定する判決(東京地判令和5年9月28日、東京地判令和5年9月8日、東京地判平成30年9月14日、東京地判平成24年2月10日等)も見られた。 これに対し、令和7年判決は、別荘地及び管理業務の特性を重視し、不当利得の成立を肯定した点に意義がある。また、別荘地の所有者が受ける利得についても、土地の経済的価値への影響とは関係なく利得を認めている(利得した額は管理契約に基づく金額と同額になるものと考えられる)。 今後、バブル期に別荘地を購入した所有者の相続や二次相続に伴い、管理契約を締結しないまま別荘地を保有するケースがさらに増加することが予想される。このため、管理費相当額の返還を求める不当利得請求訴訟も増加することが見込まれる。今後の訴訟においては、「管理業務から生じる利益の有無」をめぐり、実際の管理業務の有無、管理業務の適切性等が主な争点になっていくように思われる。 (了)

#No. 630(掲載号)
#羽柴 研吾
2025/08/07

〈小説〉『所得課税第三部門にて。』 【第95話】「ふるさと納税返礼品と一時所得」

〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第95話】 「ふるさと納税返礼品と一時所得」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   中尾統括官は、昼食後、爪楊枝を銜えながら新聞を読んでいる。 新聞の見出しは、「ふるさと納税、返礼品の価値は 税務申告めぐり、訴訟に発展」となっている。 「・・・返礼品の価値か・・・」 中尾統括官は、銜えている爪楊枝を上下させながら新聞を読み続ける。 (※) 朝日新聞digital 2025.7.8 「・・・490件の寄付か・・・こんなに寄付をすると、毎日、自宅に返礼品が送られてきて、大変なことになると思うが・・・」 中尾統括官は、苦笑いをしながら読んでいる。 そこへ浅田調査官が昼食を終えて、やってくる。 「・・・中尾統括官・・・何をニャニャして読んでいるのですか?」 浅田調査官は、中尾統括官が持っている新聞を覗きながら訊ねる。 「・・・ふるさと納税の記事だよ・・・」 そう言うと、中尾統括官は、顔を上げる。 「・・・へえ・・・これって訴訟をしているのですか?」 浅田調査官は、立ちながら、新聞記事を読む。 「・・・ふるさと納税の返礼品は、確か・・・一時所得になるのですよね・・・」 浅田調査官は、そう言いながら話を続ける。 「・・・そして、一時所得とは、懸賞の賞金、競馬の払戻金、生命保険の満期返戻金等、営利を目的として継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で、労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものです」 浅田調査官は、東京高裁平成28年2月17日判決で述べられている一時所得の要件である「非継続要件(営利を目的として継続的行為から生じた所得以外の所得)」と「非対価要件(労務その他の役務又は資産の譲渡から生じた所得以外の所得)」の内容を思い出す。 「・・・ところで、一時所得の計算は(所法34②③)、総収入金額からその収入を得るために支出した金額を控除し、さらに特別控除額として50万円があると規定し・・・そして、この所得金額の2分の1相当額が課税される(所法22②二)ことになっている」 浅田調査官は、新聞を読みながら、一時所得の計算を頭の中で整理する。 「・・・この新聞記事によると、納税者は、一時所得の申告をしなかったので、税務署は、寄付先の自治体に照会をかけ、返礼品490件の総額の価値は、280万円が相当と判断したらしい」 中尾統括官は、爪楊枝を銜えながら新聞記事の一部を読む。 「・・・納税者は、各自治体に照会するには膨大な労力が必要で、納税者に対してこのようなことを強要することはおかしいと言っている・・・」 中尾統括官は、新聞記事の内容をそのまま伝える。 「・・・しかし・・・それは、納税者が自分の所得を申告する上で必要なことなのですから、納税者としては、当然、返礼品の価値を調べなければならないでしょう・・・」 浅田調査官は、横浜地裁判決の上記の記事を見ながら、頷く。 「・・・ところで、この納税者の寄付総額は、約660万円らしい・・・そうすると、返礼品の割合(280万円÷660万円)は、約42%になる・・・これは、総務省が定めた返礼品の基準(返礼品の返礼割合を3割以下とする)を超えることになるのでは・・・と納税者は反発しているらしい・・・」 中尾統括官は、税務六法を開いて、「地方税法37条の2第2項1号」を開く。 この規定は、地方税法で「3割ルール」を明示したものであるが、この規定を根拠として、3割を超える返礼品の価値の評価を認めることはできないとする納税者の主張は、「税務官庁が納税者に対して公的見解を示したとは認められない」として、横浜地裁では斥けられている。 「・・・しかし・・・一時所得の計算をするときに、この『3割ルール』を定めた地方税法の条文は、影響しないのであろうか・・・」 浅田調査官は、頸を傾げる。 「・・・仮に、税務署が返礼品の価値を算出して、その割合が42%になっていたとしても、上限を30%として、一時所得の計算をすべきだと僕は思うけれど・・・」 浅田調査官は、中尾統括官を見る。 「・・・しかし、税務署は、110の自治体一つ一つに照会をし、膨大な労力を費やして、返礼品の価値を算出し、その結果、返礼品の割合が42%になったのだから、それをわざわざ30%に引き下げることには抵抗があると思う・・・」 中尾統括官は、手に爪楊枝を持ちながら、苦笑する。 「・・・もっとも、納税者が、寄付総額660万円の30%である198万円について、自ら修正申告をしていれば、税務署はそれを認めたと思う・・・」 浅田調査官は、大きく頷く。 (つづく)

#No. 630(掲載号)
#八ッ尾 順一
2025/08/07

《速報解説》 JICPAから「欠損金に関する論点整理」についての研究報告が公表される~実務上の留意点等の取りまとめ~

《速報解説》 JICPAから「欠損金に関する論点整理」についての研究報告が公表される ~実務上の留意点等の取りまとめ~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2025年7月17日付けで(ホームページ掲載日は2025年7月30日)、日本公認会計士協会は、「欠損金に関する論点整理」(租税調査会研究報告第42号)を公表した。 これは、法人税制上の欠損金に関して、過去の税制改正の経緯を考慮し、実務上の留意点等を取りまとめたほか、諸外国における欠損金に係る税制と我が国の制度との比較検討を行ったものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 論点整理は表紙を含めて94ページあり、主な内容は次のとおりである。 企業再生税制における欠損金の活用と留意点、他社で生じた欠損金の引継制限・使用制限など、実務において有用な事項について詳細に記載している。 また、我が国における欠損金制度の課題と望まれる改正点として、次の事項について記載している。 (了)

#阿部 光成
2025/07/31

《速報解説》 日本監査役協会が会計基準の開発や会社法改正に対応した「会計監査人非設置会社の監査役の会計監査マニュアル」の第3版を公表

《速報解説》 日本監査役協会が会計基準の開発や会社法改正に対応した 「会計監査人非設置会社の監査役の会計監査マニュアル」の第3版を公表   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2025年7月30日、日本監査役協会は、「会計監査人非設置会社の監査役の会計監査マニュアル(第3版)」を公表した。 これは、前回の改定以降の環境変化に即した記載内容の改定並びに監査役監査基準、監査報告のひな型その他の日本監査役協会の公表資料の改定を踏まえた所要の修正を行うとともに、マニュアル全体の構成を見直すものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な改定内容 「第2部 会計監査の実務―チェックリスト編」では、チェックリスト項目の統合・削除・新設により、チェックリスト項目の見直しを行っている。 「第3部 会計監査の実務―解説編」では、「第2部 会計監査の実務―チェックリスト編」のチェックリストの各項目に即した解説を記載している。 近時のIPO(Initial Public Offering:新規株式公開)を目指す会社の増加を受け、第3部においては必要に応じ上場準備会社を意識した記載も追加している。 現行版の用語解説の内容は適宜関連する項目に収録している。 (了)

#阿部 光成
2025/07/31
#