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能登半島地震の被災地で必要な法務アドバイス 【第3回】「被災により納品ができない場合における不可抗力条項の活用(2)」~不可抗力が生じた場合の対応と活用しやすい条項への見直し~

能登半島地震の被災地で必要な法務アドバイス 【第3回】 「被災により納品ができない場合における不可抗力条項の活用(2)」 ~不可抗力が生じた場合の対応と活用しやすい条項への見直し~   弁護士法人飛翔法律事務所 弁護士 濱永 健太   前回は、不可抗力とは何かを述べるとともに、不可抗力による免責を求めるための要件、不可抗力条項がない場合の対応を検討した。 今回は、実際に不可抗力が生じた場合の対応と今後の見直しに関するアドバイスを行った上で、それを踏まえたモデル条項を提案したい。   1 不可抗力条項による免責と契約解除 実際に不可抗力によって履行遅滞や履行不能が生じた場合には、不可抗力条項に従った処理がなされることになるが、一般的な不可抗力条項においては、不可抗力によってこれらが生じた場合に「責任を負わない。」という免責の規定に留まっており、その後の処理については何ら定められていない場合が多い。 そうすると、例えば不可抗力によって納期に間に合わないことが判明した際に、納期の変更によって対応するのか、代替手段を取ることによって納期に間に合わせるように対応するのか、あるいは契約解除によって契約の拘束力から解放することで処理するのかについては、当事者双方の協議によって決めることになる。 しかしながら、この場合に円満に協議が整えばよいが(実際、今回の地震のような場合には受注者の窮状に配慮して柔軟に対応される場合も多いと思われるが、以前の新型コロナウイルスを原因とする場合には発注者自身も多大な影響を受けており、柔軟に対応するにも余力がないという状況もあった)、意見が合致しない場合には、結局は双方とも責任を負わない状況(受注者は遅延の責任を負わず、発注者は代金の支払義務を負わない)のままで膠着してしまうことになることも懸念される。 なお、不可抗力によって全部又は一部の履行が「不能」(不可能)という状態であれば、発注者から民法542条に基づく契約解除が選択されることはありうる。 そのため、不可抗力による履行遅滞が生じた場合に備えて、どのように処理するのか(納期の延長による対応を基本とするのか、当事者に契約解除まで認めるのか、認めるとしてもどのような条件でそれを認めるのかなど)については、予め不可抗力条項の中に規定すべきである。   2 今後の不可抗力条項の見直しについて 今後の新たな不可抗力の発生に備えて不可抗力条項を見直す際には、以下の点を意識すべきであろう。 まず、不可抗力として列挙すべき事由に関しては、受注者としては想定しうる限りの事象を漏れなく列挙すべきである。なぜなら、念のため「その他の事象」というバスケット条項を設けていたとしても、契約解釈上は列挙した事由に準じるものに限定される場合が多いため、不可抗力に該当する事由として認められないという場合もありうるからである(新型コロナウイルスの蔓延に際しては、不可抗力に該当するかは大いに議論が生じた)。 また、受注者側としては、不可抗力によって直接的に生じた影響だけでなく、間接的かつ関連して生じた影響による場合にも不可抗力条項が適用できるようにすべきである。 その上で受注者が不可抗力による影響で納期に間に合わないという因果関係の立証を容易にするために以下のような対応も有用である。つまり、因果関係の立証に関して更に踏み込んで言えば、「以下の事由が生じた場合には、履行遅延又は履行不能は不可抗力によって生じたものとみなす。」とした上で、例えば「通常の輸送手段が5日以上の遅延、停止したために材料の仕入れが遅延した場合」など懸念される状況を細分化し、受注者による因果関係の立証を更に容易にすることも考えられる。 このように不可抗力に該当する事象を十分に列挙した上で、因果関係の立証についても配慮した後は、上述の通り、不可抗力によって納期通りに履行できない場合の対応方法についても規定すべきである。 つまり、まずは納期や納品の数量について協議することで対応するのか、契約解除によって処理をするのか、どのような場合に契約解除を認めるか等について規定することになるが、仮に協議すると規定する場合には、協議がまとまらなかった場合の処理についても意識した条項にすることが、実務上非常に重要である。 他方、発注者の視点からみれば、受注者の状況(どの程度の影響を受けており、実際にどの範囲に関して履行が困難であるのか、それがいつまで続くのかなど)が分からない場合も多いため、不可抗力によって納期の遅延等が生じた場合やその可能性がある場合、以降の見込みについては、受注者からの通知(情報共有)を要求したいと考えるであろう。また、不可抗力で納期の遅延が生じるとしても、受注者に影響を最小限に抑えるための代替措置やその他の努力を行って欲しいと考えるであろう。そのため、発注者側からは、そのような情報提供のための通知や影響を軽減すべき義務を設けること、あるいは日常よりBCPプランを策定しておく義務を提案することが考えられる。 なお、発注者側としては、「第〇項の免責を受けるための条件として、受注者は以下の対応を行わなければならない。」として、これらの対応が免責を受けるための条件とする場合も考えられる。 以上を意識したモデル条項例を後述の「4 モデル条項例」に記載する。   3 契約の継続を意識した視点 以前に筆者が平成28年に起きた熊本地震にて被災した経験を持つ事業者の方と話をした際に非常に印象に残っているのが、発注者との協議によって円満に契約(個別契約)の解除が行えたとしても、発注者側が他の業者に一度でも変更してしまうと、たとえ設備が復旧して生産が可能となったとしても、再度発注をもらうことが非常に難しくなると仰っていたことである。 確かに、契約を解除することによって納期遅延による責任(損害賠償など)を回避できたとしても、一旦契約関係が解消されてしまえば、受注者がよほど特殊な技術を有していて代替できない場合を除いて、発注者は他の事業者への発注を行うことも想定され、それを機に当該別業者への発注を継続してしまうという懸念は大いにあるところである。 そのため、今後の発注を継続してもらうことを考えるのであれば、契約解除による処理ではなく、受注者側から納期や納品数の変更を請求できるようにして、契約の継続や維持を図るという視点も重要であると思われる。 下記においては受注者の立場から、不可抗力が生じた場合に納期や数量の変更を求めることができるという条項の例も示したい。   4 モデル条項例 ※「協議が整わない場合には、納期について2ヶ月間延長されるものとする。」と定めることも考えられる。   5 まとめ 以上、全2回にわたって不可抗力条項をテーマに検討してきたが、今後も大規模地震や新規の感染症の蔓延の可能性も懸念される。また、自然災害に限らず、台湾有事による影響も排除できない時代である。 今回の能登半島地震にて被災された方々の一刻も早い復興を心からお祈りするとともに、今後発生しうる未曽有の事態にも対応できるような活きた不可抗力条項への見直しを行っていただくことを願う次第である。 (了)

#No. 566(掲載号)
#濱永 健太
2024/04/25

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例92】ENEOSホールディングス株式会社「コンプライアンスに関する取組みの再徹底に係る進捗について」(2024.2.28)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例92】 ENEOSホールディングス株式会社 「コンプライアンスに関する取組みの再徹底に係る進捗について」 (2024.2.28)   公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、ENEOSホールディングス株式会社(以下「ENEOSホールディングス」という)が2024年2月28日に開示した「コンプライアンスに関する取組みの再徹底に係る進捗について」である。タイトルの中に「コンプライアンスに関する取組みの再徹底」とあるが、それは、同社が2023年2月27日に開示した「人権尊重・コンプライアンスに関する取組みの強化・再徹底について」で示されたものである。 その開示の主文は次のとおりである(下線は筆者による)。 「当社元会長」とは、同社が2022年8月12日に開示した「代表取締役の異動(辞任)に関するお知らせ」において辞任するとされた元代表取締役会長の杉森務氏(以下「杉森氏」という)である。辞任の理由は「一身上の都合」とされていたが、それは病気や家庭の事情などではなかった。 同社が2022年9月21日に自社ホームページ上に開示した「当社元会長に関する一部報道について」では、「不適切な言動に及んだと判断」したため、彼に辞任を求めたとされていたのだが、マスコミの報道によれば、その「不適切な言動」とは、女性に対する不適切行為であった。   2 再びトップによる不適切行為 今回の開示は、その杉森氏による不適切行為を踏まえて決定された「コンプライアンスに関する取組みの再徹底」の「進捗」についてなのだが、その主文は次のとおりである(下線は筆者による)。 今度は「当社元社長」が不適切行為を起こしたとある。その「当社元社長」とは、元代表取締役社長の齊藤猛氏(以下「齊藤氏」という)である。 同社が2023年12月19日に開示した「社長等の処分および異動について(代表取締役の異動等)」の「処分および異動の理由」には、次の記載がある(下線は筆者による)。 杉森氏の件に続いてということもあるが、ほかに代表取締役副社長と常務執行役員も同席している場におけることであるため、今回は「一身上の都合」で片づけることはできず、不適切行為についても「女性に抱きつく」と具体的に記載されている。そして、齊藤氏は、辞任では済まされず、解任されることになった。   3 不適切行為の原因 このように連続してトップによる不適切行為があったことを踏まえたものであるため、今回の開示は「コンプライアンスに関する取組みの再徹底」の「進捗」についてというよりは、さらなる「再徹底」についてといった内容になっている。 「人権尊重・コンプライアンスに関する取組みの強化・再徹底について」では、①人材デュー・デリジェンスの実施、②人権尊重・コンプライアンス徹底意識の維持・確認施策の実行、③役員処分プロセスの明確化、④役員懲罰規定の導入、といった取組みを実施するとされていたが、今回の開示では、外部専門家による分析・評価を踏まえて、それらの取組みを強化するとされている。 効果がないとはいわないが、それで根本的な解決になるのだろうか。上でみたとおり、「人権尊重・コンプライアンスに関する取組みの強化・再徹底について」の主文において、齊藤氏は「人権尊重・コンプライアンス徹底を経営の最優先事項と位置付けており、これまで継続して強化に取り組んでまいりました」とある。コンプライアンスに対する意識が低くはなかったはずである。 それでも不適切行為に及んでしまったのは、なぜだろうか。杉森氏や齊藤氏による不適切行為の根底には、女性を対等にみる意識が欠落していたことがあると思われる。女性を対等にみて、敬意を持って接する態度が彼らにあれば、不適切行為は生じなかったはずである。 本当に必要なことは、女性を対等にみる意識をENEOSホールディングスの男性に持たせることだろう。おそらく、杉森氏や齊藤氏だけでなく同社の男性全般にそうした意識が欠落している可能性が高い。 2023年3月末における女性管理職の割合は同社が13.6%、子会社のENEOS株式会社は3.9%、JX石油開発株式会社は5.6%、JX金属株式会社は4.2%であり、その結果、3名の女性取締役がいるものの、いずれも社外取締役であり、社内出身の女性取締役はゼロである(第13期有価証券報告書)。そうした男性優位の環境では女性を対等にみる意識は育ちにくいだろう。   4 強化しても 「人権尊重・コンプライアンスに関する取組みの強化・再徹底について」では、「人材デュー・デリジェンス(以下、「人材DD」)の実施」として次のように記載されている。 そして、今回の開示の「取締役の選任プロセスの強化【実施済】」では、次のように記載されている。 しかし、現状のままでは男性が取締役候補者に選ばれる可能性が高いし、「指名諮問委員会」も3分の2以上が男性である(第13期有価証券報告書)。女性が取締役に選ばれる可能性も、女性を対等に見る意識を持った男性が取締役に選ばれる可能性も低いままだろう。不適切行為の根本原因を検証して、何が必要かを考える必要がある。   5 社外取締役よりも ENEOSホールディングスに必要なことは、優秀な女性が「普通に」(男性と異なる特別な努力を要することなく)活躍できる環境を整備することだろう。必要なのは同社だけではない。日本企業のほとんどは、まだそうした環境を整備できていない。女性が活躍している印象のある株式会社資生堂でさえ、2023年12月末における女性管理職の割合は37.2%、グループ全体で40.0%である(第124期有価証券報告書)。 優秀な女性が普通に活躍できる環境を日本企業全体に整備していく必要があるのは、男性の意識を変えて、女性に対する不適切行為をなくすためだけではない。働き手が少なくなるなか、優秀な女性に活躍してもらわなければ、日本経済は立ちゆかなくなるはずである。 今回の開示では、2024年6月から社外取締役の比率を50%超まで引き上げるとされている。しかし、それよりも社内出身の女性取締役の比率を50%に引き上げる努力をした方がいいのではないだろうか。 (了)

#No. 566(掲載号)
#鈴木 広樹
2024/04/25

《速報解説》 東京国税局、前の退職手当等が同一年に複数ある場合の退職所得控除額の計算の特例について示した文書回答事例を公表

《速報解説》 東京国税局、前の退職手当等が同一年に複数ある場合の退職所得控除額の計算の特例について示した文書回答事例を公表   税理士 菅野 真美   東京国税局は、令和6年3月22日付(ホームページ掲載は令和6年4月22日)で回答した文書回答事例「前の退職手当等が同一年に複数ある場合の退職所得控除額の計算の特例について」を公表した。   1 個人型DCの特徴 確定拠出年金は、拠出された掛金とその運用益との合計額をもとに、将来の給付額が決定する年金制度である(※)。 (※) 厚生労働省ホームページ「確定拠出年金制度の概要」(2024年4月24日閲覧) 確定拠出年金には企業型(企業が掛金を拠出するもの等、以下「企業型DC」という)と個人型(個人が掛金を拠出するもの、以下「個人型DC」という)がある。2022年の改正で企業型の加入者は、原則的には、個人型の加入者になることが可能となった。個人型DCの掛金を加入者が支払った場合は所得控除の対象となり、一時金で受け取った場合は退職所得として取り扱われ、税制上の恩典を受けることができる。 しかし、会社の退職時に退職手当等や企業型DCの一時金を受け取り、その後、個人型DCの一時金を受け取った場合は、退職所得控除額の制限を受ける場合がある。以下において、今回の文書回答事例を踏まえて退職所得控除額の制限について解説する。   2 退職手当等を1年に2以上受けた場合の退職所得控除の金額の計算 退職所得は、原則的には、その年中の退職手当等の収入金額から退職所得控除額を控除した残額の2分の1に相当する金額となる(所法30②)。 1年に2以上の退職手当等の支給を受けた場合の収入金額は退職手当等の合計額とする。退職所得控除額の計算においては、勤続年数の最も長い期間により勤続年数を計算し、重複しない勤続期間等がある場合は、加算して計算する(所法30③、所令69①三)。 〈退職所得控除額の算定〉 ◆最も長い勤続期間:A1+A2 < B1 ∴ B1 ◆重複していない期間:C1+C2 ⇒ 勤続年数:B1+C1+C2   3 個人型DCの一時金の支給の前年以前19年内に退職手当等を受けた場合の退職所得控除額の原則計算 今回個人型DCの一時金の支給を受けるが、前年以前19年内において、勤めていた会社から退職手当等を受け取ったような場合は、退職所得控除額の計算は次のようになる。すなわち、その年の退職所得控除額から重複部分の勤続期間等を勤続年数とみなして計算した退職所得控除額を控除して計算する(所法30⑥一、所令70①二)。 【例】   4 個人型DCの一時金の支給の前年以前19年内に退職手当等を受けた場合の退職所得控除の特例計算 上記3が前年以前19年内に重複期間がある場合の原則的な計算方法だが、例外がある。 これは、前の退職手当等の金額が一定の退職所得控除額に満たない場合は、前の退職手当等の計算の基礎となった勤続期間等のうち、前の退職手当等に係る就職の日等から、前の退職手当等の収入金額に応じて次の算式により計算した数に相当する年数を経過した日の前日までの期間を前の勤続期間等とみなして、退職所得控除額を計算することとされている(所令70②)。この算式を用いることにより、重複期間が短くなる。 【例】   5 前の退職手当等が同一年に複数ある場合の退職所得控除額の計算の特例 上記4は、前の退職手当等が1ヶ所から受け取った場合の特例計算であったが、今回文書回答を求めたのは、複数の退職手当等を受け取った場合の特例に対する照会である。 すなわち、前の退職手当等が「一定の退職所得金額に満たないとき」の判定で、退職手当等とは、その年において受けた複数の退職手当等の合計額であり、「前の退職手当等に係る就職の日等」とは、前の退職手当等に係る就職の日等のうち、最も早い日で問題ないかということである。 この根拠は、退職手当等を同一年に2以上受けた場合の退職所得控除の金額の計算等と平仄をとったもの考えられ、当局からは、「貴見のとおりで差し支えありません。」との回答が示されている。 このように多様な退職金や給付金が支払われることは課税上の取扱いを複雑化させ、ミスが生じやすい。ちなみに、先に個人型DCの給付金を受け取り、後で退職金を受け取ったような場合は、前年以前19年内の制限が4年内の制限となる(所令70①二)。 (了)

#菅野 真美
2024/04/25

《速報解説》 買戻条件の付された種類株式について株価算定書の価額で買戻しが行われた場合の税務上の取扱いを示す文書回答事例が国税庁から公表される

 《速報解説》 買戻条件の付された種類株式について株価算定書の価額で買戻しが行われた場合の税務上の取扱いを示す文書回答事例が国税庁から公表される   税理士 柴田 健次   1 はじめに 昨今、スタートアップ企業で資金調達を行う際に種類株式の活用が増えている。種類株式の評価をどのように行うのかが重要となっており、実際の価額の算定においては、日本公認会計士協会から公表されている以下の研究報告を参考に価格算定が行われている。 しかしながら、現状の種類株式の税務上の評価については、国税庁より「種類株式の評価について(情報)」(資産評価企画官情報第1号他)が公表されてはいるものの①配当優先の無議決権株式の評価、②社債類似株式の評価、③拒否権付株式の評価の3つについてしか記載がされていない。 また、これら3つの評価については相続等により取得した種類株式の評価についての定めであり、所得税や法人税における時価の定めではないため、種類株式の譲渡や発行をする場合におけるその時における価額については明確に定められていない。令和5年7月に所得税基本通達23~25共9が改正され、その通達の内容に「種類株式を発行している場合には、その内容を勘案して当該株式の価額を算定すること」が新たに追記されたが、どのように勘案するかについては何ら記載がない。 したがって、税務上は個々の事案に応じて種類株式の価額を算定し、低額譲渡等の課税関係を考える必要がある。 課税上の取扱いが不明瞭である場合には、課税の予測可能性が損なわれ、スタートアップ企業の資金調達に弊害もあるため、日本公認会計士協会から令和6年度税制改正意見書において種類株式の評価についての考え方及び課税上の取扱いを明確化することの要望が出されており、令和6年度の税制改正大綱には、「買戻条件の付された一定の種類株式について買戻しが行われた場合における譲渡法人の課税上の取扱いを明確化する。」と記載がされていた。 これに関連して、日本公認会計士協会は「買戻条件の付された種類株式について買戻しが行われた場合における譲渡法人の税務上の取扱い(株価算定書の価額を参酌して決定された価額に基づき買戻しが行われた場合)」について国税庁に照会をしていたところ、国税庁から令和6年3月28日付で回答があり、その内容が下記のとおり公表された。 文章回答事例の概要は、下記のとおりとなる。   2 事前照会の内容 【取引関係図】 (※) 文書回答事例に掲載の図を抜粋 (1) 設立時(5年前) スタートアップ企業であるX社は、X社の代表取締役である甲により資本金1,000万円(1株当たり10,000円で1,000株発行)として5年前に設立された非上場の会社である。 (2) 増資時(3年前) X社は、順調に業況が拡大し、更なる収益獲得を見据えた研究開発を検討し、そのための資金を調達するため資本政策を考えていたところ、3年前に資本関係や取引関係等の利害関係のないベンチャーキャピタルY社から出資の打診を受けた。 具体的には、普通株式500株(1株当たり43,000円)、配当優先付無議決権株式(以下「本件種類株式」という)500株(1株当たり57,000円)を新たに発行(これらの株式の新たな発行を以下「本件新株発行」という)して、総額5,000万円の資金調達を行うこと、及びこれらの株式を引き受けることについてY社からの提案があり、X社取締役会は当該提案を受け入れ、X社はY社と下記の投資契約を締結し、X社は本件新株発行をし、Y社はこれを引き受けた。 【投資契約の内容】 (3) X社による買戻し(現在) 本件新株発行を行った日から3年が経過し、X社はY社の保有する本件種類株式を買い戻すこととしたため、Z社に株価算定を依頼したところ、本件種類株式について、1株当たり63,000円から66,000円までの株価が提示された。X社は、買取価額を64,500円とすることでY社と交渉し、Y社もこれに応じ、X社は金銭を対価として本件種類株式を取得した。 このようにZ社が算定した株価算定書の価額を参酌してX社とY社との間で合意された価額により買戻しが実行された場合には、Y社からX社への本件種類株式の譲渡について、税務上、低廉譲渡等であるかどうかについての疑義は生じないと考えて問題ないか。 なお、本照会においては、次のイ及びロのことを前提とする。   3 示された見解 国税庁は主に次の理由から、貴見のとおりで差し支えない旨を示している。 【理由】   4 法人から発行法人に非上場株式を譲渡した場合の課税関係 (1) 売主法人の課税関係 法人から発行法人に非上場株式を譲渡した場合には、売主法人ではみなし配当課税及び譲渡損益課税の課税関係が生じる。時価よりも低い価額で譲渡した場合には、時価と対価との差額は、原則として寄付金となる。 ① みなし配当課税 法人の株主等である内国法人がその法人の自己株式の取得等の事由により金銭その他の資産の交付を受けた場合において、その金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額がその法人の資本金等の額のうちその交付の基因となったその法人の株式又は出資に対応する部分の金額を超えるときは、その超える部分の金額は、法人税法23条1項1号又は2号(受取配当等の益金不算入)に掲げる金額とみなす(法法24①五、法令23①六)。 ② 譲渡損益課税 法人から発行法人に非上場株式を譲渡した場合には、譲渡に係る収入金額は、法人税の時価からみなし配当金額を控除した金額となる。その収入金額から譲渡原価の額を控除し、譲渡損益の計算がなされる(法法22の2④、61の2①)。 時価の算定に当たっては、法人税基本通達4-1-5(原則的な時価の定め)及び4-1-6(財産評価基本通達の準用)に基づきを行う(法基通2-3-4)。ただし、純然たる第三者間において種々の経済性を考慮して定められた取引価額は、時価と考えられるため、上記の通達による価額から乖離していても問題はないとされる。 (2) 買主法人の課税関係 自己株式の取得は資本等取引に該当するため、原則として発行法人に益金は生じない(法法22②③④⑤)。なお、発行法人には配当所得の源泉徴収義務があるので、源泉所得税等を徴収して、その徴収日の属する月の翌月10日までに国に納付する必要がある。   5 種類株式の時価の考察と実務上の留意点 上記1に記載の日本公認会計士協会から公表されている研究報告に基づき算定された価額(以下「株価算定書の価額」という)は、種類株式の税務上の時価を考察する上で重要となる。 例えば、開業後3年未満の会社が種類株式を発行する場合には、財産評価基本通達においては特定の評価会社に該当し、純資産価額で評価されることになり、その財産評価基本通達を準用し、法人税における時価算定を行った場合には時価純資産価額で評価されることになるが、スタートアップ企業の本来の価値は、時価純資産価額ではなく、将来キャッシュフローに基づき算定されたDCF法等に基づき算定された価額になると考えられる。 日本公認会計士協会が公表している「スタートアップ企業の価値評価実務」(経営研究調査会研究報告第70号)(2023年3月16日)74頁によれば、「スタートアップ企業の『真の価値』評価は、将来キャッシュフローや利益計画等に基づくインカム・アプローチによるべき」とされている。 しかしながら、税務上は、恣意性の排除からDCF法等のインカム・アプローチは採用されていないため、スタートアップ企業の場合には、時価純資産価額を重視して算定された税務上の時価と将来キャッシュフローを重視して算定された株価算定書の価額に大きな乖離が生じることが考えられる。 そこで課税上の問題がないかといった疑問が当然生ずるが、利害関係のない第三者によって合理的に計算された株価算定書の価額であれば、原則として、その株価算定書の価額を税務上の時価(所得税や法人税における時価)として取り扱って問題ないと思料される。もっとも、文書回答事例は「純然たる第三者間」で行われた取引が前提にされており、同族関係者について回答した事例ではないため、個々の事案に応じて慎重に課税関係を考える必要があるが、第三者によって合理的に計算された株価算定書の価額が税務上の時価となり得るという考え方は重要になってくる。 それでは、相続税や贈与税の課税の場面においても第三者によって合理的に計算された株価算定書の価額で課税される可能性もあるのではないかといった懸念も考えられる。相続税法22条は、相続等により取得した財産の価額を当該財産の取得の時における時価によるとしており、時価とは当該財産の客観的な交換価値をいうものと解されているため、第三者が合理的に計算された株価算定書の価額が相続税法22条の時価であるとする考え方は当然あり得る。 しかし、相続税や贈与税については、課税の公平性、安全性に着目し、原則として財産評価基本通達に基づき算定された価額が課税価格に算入される価額となる。例えば、配当優先無議決権の種類株式の評価額として財産評価基本通達による価額が100であり、第三者によって合理的に計算された株価算定書の価額が150(相続税法22条の時価)であったとする。 この場合においては、課税の公平の観点から原則として100が課税価格に算入されることになる。例外として150での課税が許容されるのは、例えば、納税者が意図して相続税法22条の時価と財産評価基本通達による価額の著しい乖離を作出している場合である。この場合には、財産評価基本通達6の定めにより、国税庁長官の指示を得て、財産評価基本通達とは別の評価を認めているため、150での課税が許容される。 特に非上場株式の場合には、財産評価基本通達による価額と相続税法22条の時価との乖離が大きい場合も頻繁に散見され、財産評価基本通達6の定めには注意が必要となる。   (了)

#柴田 健次
2024/04/23

《速報解説》 監査役協会及び会計士協会が「監査役等と監査人との連携に関する共同研究報告」の改正案を公表~倫理規則の改正や四半期開示制度の見直しなどに対応~

《速報解説》 監査役協会及び会計士協会が 「監査役等と監査人との連携に関する共同研究報告」の改正案を公表 ~倫理規則の改正や四半期開示制度の見直しなどに対応~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2024年4月22日、日本監査役協会と日本公認会計士協会は、「監査役等と監査人との連携に関する共同研究報告」の改正(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、倫理規則(2022年7月改正)、四半期開示制度の見直し(金融商品取引法(2023年11月改正))などに対応するものである。 意見募集期間は2024年5月22日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な改正内容 主な改正内容は次のとおりである。 (了)

#阿部 光成
2024/04/22

《速報解説》 会計士協会、財務諸表等作成者にも資する「会社法計算書類等・有価証券報告書に関する表示のチェックリスト」の改正を公表

《速報解説》 会計士協会、財務諸表等作成者にも資する「会社法計算書類等・有価証券報告書に関する表示のチェックリスト」の改正を公表   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2024年4月18日、日本公認会計士協会は次のものを公表した。 これは、会社法監査における計算書類(連結計算書類)及びその附属明細書の表示、金融商品取引法監査における財務諸表(連結財務諸表)の表示の確認を実施する際に、参考となるチェックリストである。 いずれの研究報告も監査事務所における利用を想定しているが、計算書類等及び財務諸表(連結財務諸表)の作成者も利用可能である。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 「会社法計算書類等に関する表示のチェックリスト」は次の構成となっている。 「有価証券報告書に関する表示のチェックリスト」は次の構成となっている。 (了)

#阿部 光成
2024/04/18

プロフェッションジャーナル No.565が公開されました!~今週のお薦め記事~

2024年4月18日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.565を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2024/04/18

日本の企業税制 【第126回】「賃上げ促進税制の強化」

日本の企業税制 【第126回】 「賃上げ促進税制の強化」   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴   令和6年度税制改正に係る「所得税等の一部を改正する法律案」が3月28日、参議院本会議で可決成立し、3月30日に官報特別号外第28号にて公布された。 令和6年度税制改正では、賃金上昇が物価高に追いついていない国民の負担を緩和し、物価上昇を上回る持続的な賃上げが行われる経済の実現を目指す観点から、所得税・個人住民税の定額減税の実施や、賃上げ促進税制の強化等が盛り込まれている。 連合(日本労働組合総連合会)が4月4日に発表した2024年春闘の中間回答集計(第3回)によると、基本給を底上げするベースアップと定期昇給を合わせた賃上げ率(2,620組合の加重平均)は5.24%(月額1万6,037円)となり、昨年同時期比4,923円増・1.54ポイント増で、過去の最終集計に比べ33年ぶりの高水準を維持した。このうち、組合員300人未満の中小組合(1,600組合)の加重平均においても1万2,097円・4.69%(昨年同時期比3,543円増・1.27ポイント増)となった。 今回の税制改正が、令和7年以降の構造的な賃上げの後押しとなることが期待される。   〇賃上げ促進税制の強化 従来の制度では、大企業については、賃上げ率が3%(控除率15%)、4%(同25%)の2段階の設定であったところ、新たに賃上げ率5%と7%のカテゴリーが追加されるとともに従来の賃上げ率の区分の控除率が見直され、賃上げ率3%(控除率10%)、4%(同15%)、5%(同20%)、7%(同25%)の4段階となった。併せて、プラチナくるみん認定又はプラチナえるぼし認定を取得した企業には上乗せ措置(控除率5%)が新設され、従来の教育訓練費に係る上乗せ措置(同5%)と合計で控除率10%の上乗せとなる。 従来、資本金1億円以下の中小企業と1億円超の大企業の2区分であったところ、新たに中堅企業(「特定法人」:常時使用従業員2,000人以下)のカテゴリーが設けられ、これまでの大企業が、中堅企業と中堅企業以外の大企業の2つのカテゴリーに分けられた。 中堅企業に対しては、賃上げ率3%(控除率10%)、4%(同25%)の2段階の措置が講じられるとともに、大企業と同様に、教育訓練費に係る上乗せ措置(控除率5%)とプラチナくるみん認定又はえるぼし認定(3段階目以上)に係る上乗せ措置(同5%)も講じられた。 賃上げ促進税制では、従来の大法人(資本金1億円超)の中でも特に大規模な企業(事業年度終了時において資本金10億円以上かつ常時使用従業員数1,000人以上)を対象に、マルチステークホルダー方針の公表が要件とされていた。令和6年度税制改正では、中堅企業のカテゴリーの創設に伴い、マルチステークホルダー方針の公表が要件となる企業の範囲が拡大され、事業年度終了時における常時使用従業員2,000人超の企業が追加された。 なお、マルチステークホルダー方針として掲げるべき事項については、経済産業大臣等の告示により定められているが、今回の与党の税制改正大綱においては、「インボイス制度の実施に伴い、消費税の免税事業者との適切な関係の構築の方針」についても盛り込むことが指摘されており、この告示の改正も見込まれるところである。 中小企業(資本金1億円以下)には、くるみん認定又はえるぼし認定(2段階目以上)に係る上乗せ措置(控除率5%)と、欠損法人が6割を占めることを背景に、控除限度超過額の5年繰越控除が設けられた。   〇労務費の適切な転嫁 中小企業も含めた賃上げが進む中、この傾向が構造的なものとなるには、労務費の適切な取引価格への転嫁が円滑になされることが不可欠となる。昨年11月29日に「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(以下「労務費の指針」)が政府から公表されており、公正取引委員会は、3月15日、相当数の取引先について協議を経ない取引価格の据置き等が確認された10社について、独占禁止法43条の規定に基づき事業者名を公表した。 また、4月1日には、上記の「労務費の指針」を踏まえ、下請法上の買いたたきの解釈・考え方が更に明確になるよう、「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」の改正案を公表した。 具体的には、下請法上禁止されている買いたたきとは「下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」とされており、この「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額」に該当するものとして、「主なコスト(労務費、原材料価格、エネルギーコスト等)の著しい上昇を、例えば、最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率などの経済の実態が反映されていると考えられる公表資料から把握することができる場合において、据え置かれた下請代金の額」を明示し、労務費等のコスト上昇局面では取引価格の据置きも買いたたきに該当することが明確化されている。 一方、中小企業庁も、上記の「労務費の指針」を踏まえ、3月25日、下請中小企業振興法に基づく「振興基準」を改正・施行した。改正された振興基準では、親事業者と下請事業者の双方に対し、同指針の内容を踏まえて価格協議を行うよう求めるとともに、原材料費やエネルギーコストの高騰があった場合には、コスト増加分を取引価格に全額転嫁することを目指すことなどが追加された。 これに併せて、同日、経済産業省では、「パートナーシップ構築宣言」のひな形の改正を公表した。具体的には、「価格決定方法」に関して、「下請事業者と少なくとも年に1回以上の協議を行う」旨記載を修正するとともに、①「労務費の指針」に掲げられた行動を適切にとった上で取引対価を決定すること、②原材料費やエネルギーコストの高騰があった場合に適切なコスト増加分の全額転嫁を目指すこと、が追加された。   〇マルチステークホルダー方針に係る様式の改定 上記のように、一定の規模以上の企業が賃上げ促進税制の適用を受けるには、適用事業年度終了の日の翌日から45日を経過する日までに、マルチステークホルダー方針を作成し自社HPに公表した上で、その公表した旨を経済産業大臣に届け出なければならない。 つまり、本年の場合、3月決算の会社は、5月15日までにHP上での公表と経済産業省への届出を済ませなければならない。届出に不備がない場合、届出は受理され、届出の受理後、経済産業省から発出(本年3月28日からGビズフォームによるオンライン送付開始)される受理通知書の写しを確定申告書に添付することとされている。 マルチステークホルダー方針、届出書、受理通知書については、それぞれ様式第一、様式第二、様式第三が定められており、本年3月28日に様式の改定が行われたところである。特に、マルチステークホルダー方針の記載内容に係る様式第一では、「賃金の引上げ」「教育訓練等」に関する具体的な内容の記載が必須であることについて明確化が図られている。 また、従来から、パートナーシップ構築宣言のURLの記載が必須とされているところ、上記のように本年3月25日付けでパートナーシップ構築宣言のひな形が改正されているが、旧ひな形、新ひな形ともに有効である。 今回の様式の改定は、令和5年度に係る申告にも適用されるが、マルチステークホルダー方針(様式第一)を本年5月31日までに公表する場合には、旧様式の使用も可能とされている。一方、経済産業大臣への届出書(様式第二)については新様式の使用が求められている点に注意が必要である。 (了)

#No. 565(掲載号)
#小畑 良晴
2024/04/18

相続税の実務問答 【第94回】「相続税の申告期限前に土地建物が被災した場合」

相続税の実務問答 【第94回】 「相続税の申告期限前に土地建物が被災した場合」   税理士 梶野 研二   [答] 特定土地等に該当するU町の土地については、令和6年分の路線価又は評価倍率に、今後公表されると見込まれる「調整率」を乗じたものを令和5年分の路線価又は評価倍率として評価することができます。 また、液状化現象による土地の被害及び液状化現象に伴い建物が傾いた被害については、災害減免法第6条の要件を満たせば、原状回復費用の見積額(保険金、損害賠償金等により補填された金額を除きます)の100分の80に相当する金額をもって被害を受けた部分の価額とし、この金額を上記により評価した額から控除した残額を、相続により取得した土地の価額及び建物の価額として相続税の課税価格の計算をすることができます。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 特定非常災害に係る特例措置 (1) 評価の原則 相続や遺贈により取得した財産の価額は、相続開始時の時価によることとされています(相法22)。相続や遺贈により取得した財産が、その後に滅失若しくは毀損し、あるいは経済環境の変化により価額が下落したとしても、相続開始時の時価により相続税の課税価格の計算をすることに変わりはありません。 (2) 特定非常災害により特定土地等又は特定株式等の価額が下落した場合の特例 特定非常災害の発生日の前に相続又は遺贈によって財産を取得した場合で、相続税法第27条第1項に定める相続税の申告書の提出期限が当該特定非常災害の発生日以後であるときには、災害発生日に所有していた特定土地等又は特定株式等の価額について、上記の原則に関わらず特定非常災害の発生直後の価額により相続税の課税価格の計算をすることができる特例措置(以下「特定非常災害に係る特例措置」といいます)が設けられています(措法69の6①)。 特定土地等の「特定非常災害の発生直後の価額」とは、当該特定土地等(当該特定土地等の上にある不動産を含みます)の状況が特定非常災害の発生直後も引き続き相続や遺贈により取得した時の現況にあったものとみなして、特定非常災害の発生直後における当該特定土地等の価額として評価した額に相当する金額とされています(措令40の2の3③一)。つまり、特定土地等について、課税時期から特定非常災害の発生直後までの間に区画形質の変更や権利関係の異動等があった場合でも、これらの事由は考慮しません(措通69の6・69の7共-2)。 特定土地等の特定非常災害発生日後の価額については、国税局長(沖縄国税事務所長を含みます)が不動産鑑定士等の意見を基として特定地域内の一定の地域ごとに特定土地等の特定非常災害の発生直後の価額を算出するための率(以下「調整率」といいます)を別途定めている場合には、特定非常災害発生日の属する年分の財産評価基本通達14《路線価》に定める路線価及び同21-2《倍率方式による評価》に定める評価倍率に調整率を乗じたものを課税時期の属する年分の路線価及び評価倍率として評価することができるものとされます(措通69の6・69の7共-2なお書き)。 令和6年能登半島地震に係る特定土地等についても、これまでの特定非常災害のケースと同様に、「調整率」が定められるものと思われます。 (注) 特定非常災害、特定地域、特定土地等及び特定株式等の意義については、「【第93回】 相続財産の中に特定非常災害の区域内の土地がある場合の相続税の申告期限」を参照してください。   2 災害減免法の規定 特定非常災害により地割れ、崩落、液状化現象等が生じたことによって、土地そのものの形状が変わったことによる被害、換言すれば、物理的な損失が生じ、その結果、当該土地の価額が下落することとなった場合には、当該被害に起因する価額の下落については、上記(2)の特定非常災害に係る特例措置は適用されません。 しかしながら、一定の要件に該当するときには、災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律(以下「災害減免法」といいます)第6条《相続税又は贈与税の計算》の規定により、被害を受けた土地等の価額の計算上、被害を受けた部分の価額を控除することができる相続税の減免措置の対象となります。なお、建物などの土地等及び一定の株式等以外の財産については特定非常災害に係る特例措置の対象とはされていませんが、災害減免法第6条は、災害により被害を受けた建物などの財産についても適用されます。 災害減免法第6条に定める「一定の要件に該当するとき」とは、次のいずれかに該当する場合をいいます(災害減免法施行令12①)。 なお、「被害を受けた部分の価額」については、物理的な損失に係る原状回復費用の見積額(保険金、損害賠償金等により補填された金額を除きます)の100分の80に相当する金額とすることができます(「平成30年1月15日資産評価企画官情報第1号「特定土地等及び特定株式等に係る相続税の課税価格の計算の特例(措置法69の6)並びに特定土地等及び特定株式等に係る贈与税の課税価格の計算の特例(措置法69の7)に規定する特定土地等及び特定株式等の評価に関する質疑応答事例集」の送付について(情報)」Q2)。 (注) 上記の災害減免法の規定による救済措置は、特定非常災害に係る特定地域以外の地域に所在する土地等や建物等についても適用することができます。なお、物理的な損失が生じた特定土地等について、災害減免法第6条と特定非常災害に係る特例措置の両方が適用される場合があります。この場合には、特定非常災害に係る特例措置を適用して特定非常災害発生日の属する年分の路線価及び評価倍率に「調整率」を乗じたものを基に計算した当該特定土地等の価額から、災害減免法第6条に定める「被害を受けた部分の価額」を控除した額が、その特定土地等に係る相続税及び贈与税の課税価格に算入すべき価額となります。   3 ご質問の場合 お父様が亡くなられたことによる相続税の申告書の相続税法第27条の規定による申告期限は、令和6年6月10日でしたが、令和6年能登半島地震は、その申告期限前である令和6年1月1日に発生し、あなたがお父様から相続した土地や建物に被害が生じたとのことです。 石川県は、特定非常災害である令和6年能登半島地震の特定地域に該当します。したがって、あなたが相続により取得したU町のご実家の土地は特定土地等に該当しますので、今後、公表されると見込まれる「調整率」を令和6年分の路線価又は評価倍率に乗じたものをお父様の相続開始日の属する令和5年分の路線価及び評価倍率として評価することができます。ただし、特定地域内に所在する土地のすべてについて、調整率が1未満とされるわけではないことにご留意ください。 また、液状化現象が生じたことによる土地の被害及び液状化現象に伴い建物が傾いた被害については、災害減免法第6条の要件を満たせば、原状回復費用の見積額(保険金、損害賠償金等により補填された金額を除きます)の100分の80に相当する金額をもって被害を受けた部分の価額とし、この金額を控除した金額を相続により取得した土地の価額及び建物の価額として相続税の課税価格の計算をすることができます。災害減免法第6条の要件を満たすかどうかについては、「災害減免法第6条の規定による相続税・贈与税の財産の価額の計算明細書」に所定の記載をすることにより判定することができます。 なお、相続税の申告書は、相続税法の規定上は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に提出しなければなりませんが、前回説明しましたように、租税特別措置法第69条の6第1項及び国税通則法第11条の規定により提出期限が延長されています。 (了)

#No. 565(掲載号)
#梶野 研二
2024/04/18

〈ポイント解説〉役員報酬の税務 【第60回】「株主総会決議の不存在と役員報酬の返還に係る源泉徴収税額の取扱い」

〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第60回】 「株主総会決議の不存在と役員報酬の返還に係る源泉徴収税額の取扱い」   税理士 中尾 隼大   ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 過大徴収された源泉徴収税額について、源泉徴収義務者である法人が国に請求できると示された事例 このように示された事例として、国税不服審判所令和5年4月12日裁決があるため(※1)、以下にその概要を紹介する。 (※1) 裁決事例集131集36頁、TAINS:J131-1-02。 本件は、当該法人の株主が、役員報酬額を増額した株主総会決議不存在確認の訴え等を裁判所に提起したことに端を発する。当該株主総会決議不存在確認請求訴訟では、株主総会決議がいずれも存在しなかったという事実を相互に確認する旨の和解が成立した。 これを受け、当該法人は納税者に対し、当該和解内容を基に、納税者が受領した役員報酬額について、不当利得返還請求訴訟を提起した。結果、その請求が認められ、納税者は本件役員給与の返還を命ずる判決を言い渡され、その後確定したという背景となっている。 納税者は本件について、「役員給与が減額された一方で源泉徴収税額が減額されていないことにより過大となってい」たことから、「過大となった源泉徴収税額について、当該法人に対しその返還を求めたが、当該法人はこれに応じ」なかったことに加え、課税庁に対して「『源泉徴収票不交付の届出書』を提出するとともに当該法人に対する行政指導を求めたが是正には至らなかった」とした。 そして、「源泉徴収義務者が源泉徴収税額の精算をしない場合は、給与の受給者が源泉徴収義務者に対して支払った源泉所得税を国は収納し利益を得ているのであるから、所得税法第120条第1項第5号の『源泉徴収された又はされるべき所得税の額』は、実際に源泉徴収された所得税等の額と解するのが相当であ」り、納税者が「提出した本件各当初申告書に記載した課税標準等又は税額等の計算は、国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額が過大であるときに該当する」等と主張した。 これに対し裁判所は納税者の主張を退けているが、最高裁平成4年2月18日判決を引用し(※2)、当該法人が当該誤納金の還付の主体となる旨を示し、かつ納税者は当該法人に対し、誤って徴収された金額の支払を直接に請求することになるとしている。 (※2) 民集46巻2号77頁、TAINS:Z188-6849。   (2) 株主総会決議不存在確認の訴えに関連する税務上の問題 本件は、【第8回】にて紹介した、源泉徴収税額に過誤納があった場合の救済手段の内容について、国税不服審判所が示したものだといえる。なお、本件が示された後、当該法人が国税通則法56条による過誤納還付請求を行ったかどうかは不明であるが、仮に請求を行った場合、例外的な過納原因に該当し(※3)、還付を受けることが可能であると考えられる。 (※3) 志場喜徳郎他編『国税通則法精解 第十六版』(大蔵財務協会、2019)635頁。 さらに、納税者の主張より、法人が返還に応じていないのが事実であれば、法人を主体とした還付を受けることができたかどうかはさておき、代表取締役であった個人と当該法人とで民事上の問題に移行することとなるだろう。この場合においては、当該法人は、納税者から役員報酬の返還を受けた際、源泉徴収税額部分を精算する形を取るべきだったのだろうと思われる。 また、本件では、納税者自身が更正の請求ができるか否かが争点であったため、法人税の所得計算上、当該役員給与の損金算入ができるかどうかについて言及されていない。この点、【第8回】でも触れたように、当該役員給与の損金算入の是非についても疑問は生じるところである。この点、興味深い事例として、東京地裁平成29年3月10日判決がある(※4)。 (※4) 税務訴訟資料267号順号12994、TAINS:Z267-12994。この事例は控訴されているが、高裁は地裁判断を支持している。 この事例は、法人の役員選任について、別件訴訟にて株主総会決議不存在確認請求及び株主の地位確認請求がなされつつ、役員が職務執行停止及び職務代行者選任の仮処分を受けていたところ、裁判所は、当該別件訴訟について株主総会決議不存在確認請求を認める一方、株主の地位確認請求は棄却する判断を示したことから、別途改めて株主総会決議等を開催し、1人株主が代表取締役に就任したというものであり、当該代表取締役に対する役員給与の損金算入の可否が争点となっている。 裁判所は、別件訴訟が確定するまでは役員らの職務の執行は停止されていたものであることに注目し、その期間は取締役としての業務に従事することはできなかったために、債務として成立していない等として、法人税法22条3項を根拠に役員給与の損金算入を否定している。 この事例からは、取締役としての職務に従事することが法的に不可能な場合、債務確定主義を理由とした役員給与の損金算入性が否定され得ることが分かる。(1)で取り上げた本件事例は、役員報酬の増額に関して株主総会決議不存在確認訴訟がなされたが、仮に役員の選任について同様の訴訟がなされていた場合においては、役員給与の損金算入性が揺らぐことになる可能性は否定できないと思われる。   (了)

#No. 565(掲載号)
#中尾 隼大
2024/04/18
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