《速報解説》 「都市計画道路予定地」及び「電話加入権」に係る財産評価基本通達の改正案がパブコメに付される ~電話加入権の「国税局長の定める標準価額による評価」は廃止へ~ Profession Journal編集部 国税庁は4月20日(火)付けで「「財産評価基本通達」の一部改正(案)」を公示しパブリックコメントを開始した(意見募集は「2021年5月20日」まで)。 今回のパブコメでは「都市計画道路予定地の区域内にある宅地の評価(評基通24-7)」及び「電話加入権の評価(評基通161、162)」において見直しが行われており、令和3年1月1日以後に相続等により取得した財産の評価から適用するとされている。 まず、都市計画法に基づき将来道路用地となることが決まっている土地の評価を行う場合に、自用地価額に乗じる補正率を定めた「都市計画道路予定地の区域内にある宅地の評価(評基通24-7)」について、容積率の区分の整理及びこれに伴う補正率の見直しが行われる。 具体的には、地区区分(「ビル街地区、高度商業地区」「繁華街地区、普通商業・ 併用住宅地区」「普通住宅地区、中小工場地区、大工場地区」)における容積率の区分が、下記のように見直される(下線部が変更箇所)。 また上記区分変更に伴い、一部補正率の見直しも行われている。 次に、「電話加入権の評価(評基通161、162)」について、現行では①取引相場のある電話加入権の価額は、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価し、②それ以外の場合は売買実例価額等を基として、電話取扱局ごとに国税局長の定める標準価額によって評価するとしており、②の標準価額は国税庁の財産評価基準ページで確認できるものの、全国一律1,500円とされている。 今回のパブコメでは、上記の課税時期における通常の取引価額に相当する金額や国税局長の定める標準価額による評価が廃止され、売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価するかたちへ見直される。 なお申告に当たっては、財産評価基本通達128により一括評価する家庭用動産等(1個又は1組の価額が5万円以下のもの)に、「電話加入権を含めることとして差し支えないものとする予定」とのことだ。 また、「1番から10番まで若しくは100番のような呼称しやすい番号又は42番、4989番のような誰もが嫌がる番号」といった特殊な番号の電話加入権の評価について定めた財産評価基本通達162は削除される。 (了)
《速報解説》 令和3年度税制改正に対応した法人税申告書(別表)様式が明らかに ~改正法人税法施行規則公布、DX/カーボンニュートラル税制は同一様式~ Profession Journal編集部 令和3年度税制改正に対応した法人税申告書(別表)の様式を定めた改正法人税法施行規則が4月15日付官報号外第88号で公布された。これら改正後の様式は、原則令和3年4月1日以後終了事業年度から適用される(改正法規附則2)。 今回の税制改正により税務関係書類の押印義務原則廃止が行われたことを受け、別表1など各様式における代表者等の押印欄が削除されている。 以下、新設された様式を中心に紹介する。 令和3年度税制改正で新設された「①デジタルトランスフォーメーション(DX)投資促進税制」及び「②カーボンニュートラルに向けた投資促進税制の創設」は、改正税法では共に「事業適応設備を取得した場合等の特別償却又は法人税額の特別控除」(措法42の12の7)において規定されている(同条1項・2項は①の特別償却、3項は②の特別償却、4項・5項は①の税額控除、6項は②の税額控除を規定)。 税額控除の控除上限が両税制合わせて当期の法人税額の20%を上限とされていることもあり、税額控除に係る明細書は新様式「別表6(32) 事業適応設備を取得した場合等の法人税額の特別控除に関する明細書」にまとめられている。 〈別表6(32)事業適応設備を取得した場合等の法人税額の特別控除に関する明細書〉 なお、DX投資促進税制では、いわゆる繰延資産の特別償却が認められるため、「別表16(6) 繰延資産の償却額の計算に関する明細書」も様式が一新されている。 さらに、上記のようにDX、カーボンニュートラルや、事業再構築・再編等を行う企業がコロナ禍の影響で欠損金額を生じた場合に、一定の範囲で最大5年間、繰越欠損金の控除限度額を最大100%とする特例(認定事業適応法人の欠損金の損金算入の特例(措法66の11の4))が創設されたが、この特例措置に関しては別表7(1)の付表として「付表5 認定事業適応法人の欠損金の損金算入の特例に関する明細書」が新設されている。 〈別表7(1)付表5 認定事業適応法人の欠損金の損金算入の特例に関する明細書〉 次に中小企業の経営資源の集約化に資する税制としてM&A実施後のリスクに備えるために創設された「中小企業事業再編投資損失準備金制度(措法55の2)」に関し、「別表12(2) 中小企業事業再編投資損失準備金の損金算入に関する明細書」が新設された。 〈別表12(2) 中小企業事業再編投資損失準備金の損金算入に関する明細書〉 ここまで紹介した新様式については、国会で審議中の「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律案」の施行の日以後の適用となる(改正法規附則1二)。 令和3年度改正における既存制度の見直しに関する様式変更としては、まず、研究開発税制において、新たに、基準年度と比べて売上が2%以上減少し、かつ、その事業年度の試験研究費を増加させた場合には控除税額の5%上乗せする措置が講じられるが、この計算を行う様式として「別表6(11) 試験研究を行った場合の法人税額の特別控除における基準年度比売上金額減少割合及び基準年度試験研究費の額の計算に関する明細書」が新設、合わせて既存の別表6(8)等も見直しが行われている。 〈別表6(11) 試験研究を行った場合の法人税額の特別控除における基準年度比売上金額減少割合及び基準年度試験研究費の額の計算に関する明細書〉 次に、「給与等の引上げ及び設備投資を行った場合等の法人税額の特別控除(措法42の12の5)」については、設備投資要件を除外した上で、新規採用人材への投資に重点を置いた制度(人材確保等促進税制)へと見直されたことに伴い、既存制度の様式(別表6(24)・中小企業向けは6(25))については一部見直しを行い、新たな様式「別表6(27) 給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」(中小企業向けは「別表6(28)」)が設けられた。 〈別表6(27) 給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書〉 なお、別表4、5(1)、5(2)については、項目内の文言の見直しは行われているものの、項目(欄)の新設や番号の変更は行われていない。 なお、官報同号では地方法人税及び租税特別措置の適用額明細書の様式改正も行われているほか、今般の改正を受けグループ通算制度対応の別表様式を定めた「法人税法施行規則等の一部を改正する省令(令和2年財務省令第56号)」の一部改正も行われているため留意されたい。 また、冒頭で紹介したDX投資促進税制は税額控除との選択制として特別償却の適用も可能だが、こちらは後日、この通達改正により付表様式が定められる。 国税庁では今後、今回の改正省令に対応した申告書様式のページが公表される予定となっている。 (了)
《速報解説》 会計士協会、監基報810「要約財務諸表に関する報告業務」の改正案を公表 ~「要約財務諸表に対する報告書」及び「その他の記載」の定義・検討について示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年4月14日、日本公認会計士協会は、「監査基準委員会報告書810「要約財務諸表に関する報告業務」の改正について」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、監査基準の改訂及び監査報告に関する国際監査基準(ISA)の改訂を受けた監査基準委員会報告書の改正を反映させるためのものである。 意見募集期間は2021年5月14日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 報告書は、一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して監査を実施した監査人が、監査済財務諸表を基礎として作成された要約財務諸表に関して報告業務を行う場合における監査人の責任について、実務上の指針を提供するものである(1項)。 「要約財務諸表」とは、一定時点における企業の経済的資源もしくは義務又は一定期間におけるそれらの変動に関して、財務諸表ほど詳細ではないが、それと整合する体系的な情報を提供するために、財務諸表を基礎として作成された過去財務情報である(3項(4))。 1 「その他の記載」の定義 「その他の記載」とは、要約財務諸表を含む開示書類のうち、当該要約財務諸表と要約財務諸表に対する報告書とを除いた部分の記載をいう(3項(2))。 2 「その他の記載」の検討 監査人は、要約財務諸表及び要約財務諸表に対する報告書が含まれる開示書類におけるその他の記載を通読し、その他の記載と要約財務諸表の間に重要な相違があるかどうかを検討しなければならない(13項)。 そして、監査人は、重要な相違を識別した場合には、当該事項について経営者と協議し、要約財務諸表及びその要約財務諸表に対する報告書が含まれる開示書類の要約財務諸表又はその他の記載を修正する必要があるかどうかを判断しなければならない(14項)。 13項及び14項では、要約財務諸表及び要約財務諸表に対する報告書が含まれる開示書類におけるその他の記載に関連する監査人の責任を扱っており、ここでのその他の記載には、次のものが含まれる場合がある(A12項)。 3 要約財務諸表に対する報告書 監査基準の改訂及び監査報告に関する国際監査基準(ISA)の改訂を受けた監査基準委員会報告書の改正に対応し、「要約財務諸表に対する報告書」の記載内容を整理するとともに、「監査済財務諸表に対する監査報告書への参照」について詳細に規定している(15項~19項)。 18項は、監査済財務諸表に対する監査報告書において、監査基準委員会報告書701「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」に従った監査上の主要な検討事項の報告が含まれている場合には、その旨を要約財務諸表に対する報告書に含めることを監査人に要求している(A21項)。 しかしながら、監査人は要約財務諸表に対する報告書において、監査上の主要な検討事項を個別に記載することは要求されていない(A21項)。 報告書の19項により要求される記述は、このような事項に注意を喚起することを意図したものであり、監査済財務諸表に対する監査報告書を代替するものではない。また、この記述は、当該事項の内容を伝えることを意図したものであり、監査済財務諸表に対する監査報告書の関連する文章を繰り返して記載する必要はない(A22項)。 Ⅲ 適用時期等 2022年3月31日以後終了する事業年度に係る要約財務諸表に関する報告業務から適用する。 (了)
《速報解説》 監査役協会・会計士協会が「監査役等と監査人との 連携に関する共同研究報告」の改正を確定 ~「監査基準における規定」をはじめ、KAMや「その他の記載内容」等につき追加等行う~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年4月14日、日本監査役協会と日本公認会計士協会は、「「監査役等と監査人との連携に関する共同研究報告」の改正について」を公表した。 これにより、2021年1月27日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に対するコメントの概要及び対応も公表されている。 これは、監査基準の改訂等を反映させるためのものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 1 監査基準における規定 「2.監査役等と監査人との連携と効果」の「① 監査基準等における関連規定」において、「監査基準における規定」を追加し、「監査上の主要な検討事項」(KAM)などについて記載している。 2 「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」関係 監査基準委員会報告書701「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」に関連して、次の記載を行っている。 3 「その他の記載内容」関係 「その他の記載内容」(監査人が監査した財務諸表を含む開示書類のうち当該財務諸表と監査報告書とを除いた部分の記載内容)について、「4.連携の時期及び情報・意見交換すべき基本的事項の例示」などにコミュニケーション項目(入手時期等)を記載している。 「その他の記載内容」に関して、「注3」に次の記載を行っている。 (了)
2021年4月15日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.415を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第90回】 「米国バイデン政権の税制改革計画」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 米国バイデン政権は4月7日、「メイド・イン・アメリカ税制計画(Made in America Tax Plan)」を発表した。この税制計画の目的は、3月31日に公表された「米国雇用計画(American Jobs Plan)」に盛り込まれたインフラ投資、研究開発、製造業支援等の8年で約2.25兆ドルにも上る支出をまかなうための財源的な手当である。今回の税制計画では15年で約2.5兆ドルの税収増が見込まれている。 税制計画の基本的な考え方は、米国企業と労働者の競争力を高めることを念頭に置き、現行のいわゆるトランプ税制(2017 年 Tax Cuts and Jobs Act(TCJA))を否定し、連邦法人税率を21%から28%に引き上げるとともに、各国による法人税率の引下げ競争を終わらせるため国際的な最低税率の導入を目指すというものである。また、化石燃料の生産者への長年にわたる補助金を廃止し、クリーンエネルギーの生産者に対する税制優遇措置を提供する方針も示されている。 4月5日には、上院財政委員会の民主党メンバーから国際課税に関する租税政策フレームワークも発表されており、今後、具体的な税制改正法案が議会において議論される見込みである。すでにペロシ下院議長(民主党)は、米国雇用計画と税制計画の双方を実現する法案を本年7月4日までに下院で成立させる目標を示している。 〇2017年のTCJA まず、今回の税制計画で否定されている2017年のTCJAについて振り返っておきたい。 TCJAでは、法人税率の恒久的な大幅引下げ(35% ⇒ 21%)や固定資産の即時償却、及び、AMT(代替ミニマム税)の撤廃に加えて、国際課税の分野では海外配当益金不算入制度(テリトリアル課税)を導入する一方で、税源浸食防止規定(BEAT課税)の創設、グローバル無形資産低課税所得(GILTI)への課税制度の創設、外国源泉の無形資産関連所得(FDII)に対する所得控除制度の創設など特徴的な制度の創設が目玉であった。 (1) BEAT課税 BEAT課税とは、米国法人税申告時に損金算入されている一定の外国関連者に対する支払い(償却資産の取得対価や支払い利子等)を通常の課税所得に加算調整して算出される修正後課税所得にBEAT適用税率(10%)を乗じて再計算される金額が、通常の法人税額(R&D税額控除等適用後)を超過する場合に、超過額(プレミアム)を追加的に納税する制度である。 (2) GILTI合算課税 CFC(10%以上保有の米国外会社)の米国税法ベースで計算した課税所得の持分相当額の全世界ベースの合計額から、黒字のCFCの有形償却資産の定額償却ベース簿価の10%からすべてのCFCで損金算入された支払い利子を減額した金額を控除(QBAI控除)したものをGILTI(Global Intangible Low-Taxed Income)として米国の株主(親会社)の課税所得に合算して課税する制度である。なお、いったん合算された後、GILTI50%相当額の所得控除が認められている。また、CFCの課税所得に対応する外国法人税の持分相当額の80%が外国税額控除の対象額となる。 このような計算を単純化してみれば、GILTI合算による税額の増加額は「CFCの課税所得×50%×21%(法人税率)」となり、外国税額控除額は「CFCの課税所得×80%×外国法人税率」となることから、両者を比較すると、外国法人税率が13.125%に満たない場合に、この制度による税負担の増が生じる結果となる。 (3) FDIIに対する所得控除制度 外国源泉の無形資産関連所得(Foreign-Derived Intangible Income(FDII))に対して37.5%の所得控除を認めるものであり、米国法人による外国での所得稼得活動を奨励する趣旨であるといえる。 〇メイド・イン・アメリカ税制計画 今回の税制計画では、冒頭に述べたように、連邦法人税率を21%から28%に引き上げることに始まり、会計上の利益に対する15%ミニマム税の創設(これはTCJAで廃止されたAMTの復活ともいえよう)、BEAT課税の見直し、GILTI合算課税の強化、FDIIに対する所得控除制度の廃止と、ことごとくTCJAの逆を行く提案となっている。 BEAT課税については、損金不算入の対象となる支払いをミニマム税未導入の低税率国の関連者に対する支払いに限定し、その趣旨を税率引下げ競争に終止符を打つということに転換し、名称もSHIELD(Stopping Harmful Inversions and Ending Low-tax Developments)と変えることとしている。 GILTI合算課税については、QBAI控除を廃止することとともにGILTIの半額の損金算入を縮減し25%の損金算入にとどめることが盛り込まれている。 (了)
船舶の評価を巡る贈与税決定処分等の 取消訴訟において全部取消が認められた事例 -東京地裁令和2年10月1日判決 (平成28年(行ウ)第413号:贈与税決定処分等取消請求事件)- 【第1回】 弁護士法人東町法律事務所 弁護士 木下 雅之 1 はじめに 相続税法第22条は、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、原則として、当該財産の取得の時における時価による旨規定する。そして、この財産の評価に関する基本的な取扱いを定める財産評価基本通達(以下「評価通達」という)は、船舶の価額について、原則として、売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価するものとし、これが明らかでない船舶については、同種同型の船舶を課税時期において新造する場合の価額から償却費等を控除した価額によって評価するものとしている(評価通達136)。 かかる船舶の評価が争点となった贈与税決定処分等の取消訴訟において、東京地方裁判所は、令和2年10月1日、原告側の主張を認め、贈与税決定処分等の全部を取り消す判決を下したため、事例判断ではあるが、今後の実務の参考として紹介する(同月16日判決確定)。 2 事案の概要 海上運送業等を事業の目的とするA社の代表取締役であるX(原告)は、平成21年2月28日(以下「本件贈与日」という)、Xの母から、同じく海上運送業等を事業の目的とするB社の株式20株の贈与を受けたが、平成20年9月に発生したいわゆるリーマン・ショックの影響等により、B社株式の価額は0円であり、贈与税額は生じないと考えて、法定申告期限までに贈与税の納税申告書を提出しなかった。 なお、B社株式は、評価通達168(3)の「取引相場のない株式」で、かつ、評価通達189の「特定の評価会社の株式」のうち(4)「開業後3年未満の会社等の株式」に該当するものであったため、その価額は、評価通達185所定の「純資産価額方式」によって評価される。 一般的に、我が国の海運業においては、日本法人が海外子会社(多くはペーパーカンパニー)を設立し、当該海外子会社に船舶を所有させる仕組み(いわゆる便宜置籍船の仕組み)が広く採用されている。これにより、船舶は外国籍となるため、日本籍船と比べて、税負担や船舶の登録費用が安くなる等のメリットを享受することができる。 B社も便宜置籍船の仕組みを採用しており、本件贈与日当時、パナマ共和国を本店所在地とするM社の発行済み株式の全部を保有し、このM社が合計70隻の船舶(以下「本件各船舶」という)を所有していた。 したがって、純資産価額方式によってB社株式を評価するにあたっては、B社の海外子会社であるM社が所有する本件各船舶の評価がその算定の基礎となる。 処分行政庁(税務署長)は、本件各船舶の価額を約2,226億円と評価したうえで、M社株式の価額(純資産価額)を約374億円と評価し、更にこれに基づいて、B社株式の価額を評価したところ、B社株式の価額は約43億円となったことから、平成25年7月8日、Xに対し、贈与税約21億円の決定処分及びこれに伴う無申告加算税約4億円の賦課決定処分を行った。 Xは、上記各処分を不服として、不服申立手続を行ったところ、裁決により上記各処分の一部が取り消されたため、残部(贈与税額約5億円)の取消しを求め、平成28年9月9日、Y(国・被告)を相手に提起した取消訴訟が本件である。 本件の主たる争点は、本件各船舶の評価であった(全70隻の本件各船舶のうち3隻については当事者間に争いがなく、実際に争点となったのは、その余の67隻の価額である)。なお、本件各船舶には、本件贈与日当時、いずれも定期傭船契約(※1)が付されていた。 (※1) 船舶所有者が船員を乗船させ、備品等を備えた運航可能な状態にして船舶を傭船者に貸し渡し、傭船者がその対価として契約期間(傭船期間)につき定額の傭船料(定期傭船料)を支払う契約。 3 各当事者が依拠する本件各船舶の価格鑑定に用いられた鑑定方法 前述のとおり、船舶の評価は、「精通者意見価格」等を参酌して評価するものとされているところ(評価通達136)、X及びYは、それぞれ別の船価鑑定業者に鑑定を依頼し、かかる「精通者意見価格」を参酌して、本件各船舶の評価額を主張した。 (1) Y(被告)の依拠する価格鑑定に用いられた鑑定方法の概要 Yが船価鑑定を依頼した鑑定業者P社は、本件各船舶(全70隻)のうち34隻については「取引事例比較法」により価格鑑定を行い、その余の36隻については「建造船価償却法」によって価格鑑定を行った。 P社の採用する「取引事例比較法」は、本件贈与日に近接した平成21年1月から同年2月までの2ヶ月間の売買実例から、個別の評価対象船舶の比較対象となる売買実例を抽出し、その価格に、①船齢差による調整、②積載能力差による調整、③装備等(クレーン等の荷役装置の有無等)の差異による調整を行うほか、④定期傭船料に係る調整を行うことによって、本件各船舶の評価額を算定していた(※2)。 (※2) 中古船市場において定期傭船契約が付されたままの状態の船舶が取引されることはほとんどないため、抽出される売買実例は、いずれも定期傭船契約が付されていない船舶の価格である。しかし、評価対象船舶は、本件贈与日当時、いずれも定期傭船契約が付されていたことから、P社は、比較対象となる売買実例に①~③の調整を加えることによって、定期傭船契約が付されていない場合の評価対象船舶の価格を算定し、さらに、これに定期傭船料に係る調整を行うこととした。 このうち④について、P社は、具体的には、個別の評価対象船舶に付された定期傭船契約の契約傭船料と本件贈与日における定期傭船料の市場水準(市場傭船料)との差額に基づく調整額を加減算することで評価対象船舶の価格を算定したが、市場傭船料の指標となるデータが、傭船期間3年までのものしか公表されていなかったため、評価対象船舶に付された定期傭船契約の残存傭船期間が3年以下の場合はその全部を調整の対象とし、3年を超える場合には3年の限度で調整の対象とすることとしていた。 その結果、P社が取引事例比較法を用いて評価した本件各船舶(当事者間において価格に争いのない1隻を除く33隻)のうち、10隻は残存傭船期間が3年以下であったため、残存傭船期間の全部が調整の対象となったが、その余の23隻は残存傭船期間が3年を超えていたことから、残存傭船期間の全部についてではなく、いずれも3年の限度でのみ定期傭船料の調整が行われた。 P社の採用する「建造船価償却法」は、上記の「取引事例比較法」において価格算定の参考となり得る売買実例を収集することができなかった船型の船舶について、建造船価を基準に、建造時から本件贈与日までの経過年数に基づく減価修正(償却)を行うことで、本件各船舶(当事者間において価格に争いのない2隻を除く34隻)の評価額を算定していた。 (2) X(原告)の依拠する価格鑑定に用いられた鑑定方法の概要 Xが船価鑑定を依頼した鑑定業者Q社は、本件各船舶(全70隻)のうち当事者間に争いのある67隻すべてについて、「収益還元法(DCF法)」により価格鑑定を行った。 Q社の採用する「収益還元法(DCF法)」は、定期傭船契約の契約期間(傭船期間)中の収益価値に、契約終了時の船舶価値を加えることによって(いずれも現在価値に割り引いたもの)、本件各船舶の評価額を算定していた。 (続く)
相続税の実務問答 【第58回】 「相続税の申告に誤りがあった場合の更正の請求の期限」 税理士 梶野 研二 [答] 相続税の法定申告期限から5年を経過する日以前6ヶ月以内に更正の請求を行った場合には、税務署長は、その更正の請求に基づいて行う(減額)更正を、その更正の請求があった日から6ヶ月を経過する日まで行うことができることとされています。 したがって、あなたが5月20日の直前に更正の請求を行ったとしても、更正の請求に理由があると認められれば、税務署長は、更正の請求書を提出した日から6ヶ月間は減額の更正を行うことができますので、心配はいりません。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 通常の更正の請求 国税の申告書を提出した者は、その申告書に記載した課税標準又は税額に誤りがあったことにより、納付すべき税額が過大となっていた場合には、その国税の法定申告期限から5年以内に限り、課税標準や税額について減額することを求める更正の請求をすることができます(通法23①)。税務署長は、その請求に係る課税標準や税額について調査の上、更正をすべき理由があると認めたときには、減額の更正をすることとなります(通法23④)。 ところで、税務署長は、その国税の法定申告期限から5年を経過しますと、原則として、更正処分をすることができなくなります(通法70①)。この更正処分の期間制限の規定は、課税標準や税額を増額する処分だけではなく、課税標準や税額を減額する処分についても適用になります。税務署長の調査にはある程度の日数を要することとなりますから、法定申告期限から5年を経過する日に近接した時点で更正の請求を行った場合には、税務署長が当該5年を経過する日までに更正の請求に基づく減額処理をすることは困難又は不可能となります。 そこで、法定申告期限から5年を経過することにより更正をすることができないこととなる日の前6ヶ月以内に更正の請求が行われたときには、特例としてその更正の請求があった日から6ヶ月を経過する日まで更正の請求に基づく減額処理を行うことができることとされています(通法70③)。 2 更正の請求が提出された場合の税務署長の対応 申告等に係る課税標準又は税額が過大であるとして更正の請求をする場合、更正の請求をする理由、更正の請求をするに至った事情の詳細その他参考となるべき事項を更正の請求書に記載しなければなりません。また、相続税などの更正の請求をする場合には、更正の請求をする理由の基礎となる事実を証明する書類があるときには、これを更正の請求書に添付しなければなりません(通令6②)。 更正の請求がされると、税務署長は、更正の請求書の記載や添付された書類を確認・検討し、当該更正の請求に理由があるかどうかについて調査を行い、理由があると判断された場合には、更正の請求どおりの課税標準又は税額とする更正処分を行うこととなります。また、更正の請求書の一部についてのみ理由があると認められた場合には、税務署長が認める金額について課税標準又は税額について減額の更正処分をすることとなります。一方、更正の請求に理由がないと認めた場合には、更正をすべき理由がない旨の通知処分を行います(通法23④)。 国税庁では、更正の請求書が提出された場合、3ヶ月以内に、更正をすべき理由があるかどうかについて調査を実施し、更正処分又は通知処分をすることを目標としており、ほとんどの更正の請求については、3ヶ月以内に結論が出されています。したがって、一般的には、更正の請求が提出された日から6ヶ月間のうちに、税務署長は、更正の請求書の記載や添付書類をも踏まえ更正の請求に理由があるかどうかについて調査を実施し、更正をするかどうかの判断をすることができると考えられます。 (注) 令和元事務年度(令和元年7月1日から令和2年6月30日)における「更正の請求」の3ヶ月以内の処理件数割合は、96.9%です。3ヶ月以内に処理できなかったものの多くは、添付(証拠)書類等に不備があり、その補正等の対処に時間を要したものであると説明されています(「令和元事務年度国税庁実績評価書」(20頁)より)。 3 ご質問の場合 ご質問の場合、相続税の法定申告期限である平成28年(2016年)5月20日から5年以内の日である令和3年(2021年)5月20日までに更正の請求をすることができます。この日前6ヶ月以内に更正の請求がされた場合には、更正の請求を受けた税務署長は、更正の請求書の提出があった日から6ヶ月を経過する日までに調査を実施し、更正の請求に対する判断を行うこととなります。したがって、ご質問のようなご心配には及びません。 なお、あなたが更正の請求を行うのは、お父様の友人への貸付金の額が1,000万円と申告書に記載した点に誤りがあり、実際には貸付金残高は100万円に過ぎなかったというものですから、6ヶ月間に税務署長が更正の請求に理由があると判断できるように、更正の請求書には課税時期における貸付金残高が100万円であったことを証明できる書類その他参考となる資料を添付してください。 (了)
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第25回】 「株価引下げ効果を目的とした役員退職給与の支給」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 役員退職給与支給スキームの利用価値 一般的な中小企業は所有と経営が一致しているため、代表取締役の相続財産のうち、自社株式がその多くを占めるケースがある。この点、昨今は法人版事業承継税制が大幅に緩和される等(措法70条の7の5、同法70条の7の6)、現在では事業承継問題について国を挙げて制度面から取り組みがなされているといえる。 しかし、法人版事業承継税制のデメリット面を嫌厭したり、要件を充足できなかったりという諸般の事情から、従来から存在する最もポピュラーな手法、すなわち役員退職給与を支給することで株価を引き下げ、翌事業年度において生前贈与等により株式を移動させるという方法を選択するケースも未だに多い。 この場合において、かねてより本連載で取り上げてきた留意点を充足しなければ、役員退職給与が否認されるリスクが高まるのはいうまでもない(※1)。 (※1) 本連載では、以下のような留意点に触れている。 ・【第2回】⇒ 役員退職給与支給に係る実質的な退職の必要性。 ・【第3回】⇒ 株主総会等での決議が必要。 ・【第12回】⇒ 功績倍率は、実務上3倍以下にするべきである。 ・【第18回】⇒ 役員退職給与を分割支給する場合の留意点。 その上で、税務上適正な損金算入額で役員退職給与を支給した場合、法人にとっては法人税・法人住民税・法人事業税の節税につながり、退職所得であることから退任した役員個人の節税にもなり、更には株価引下げ対策としての効果が期待できる。このようなことが、事業承継の一手法として、多くの専門家のみならず一般的な経営者にも広く認知されることとなっているのだろう。 (2) 本事例の場合 本事例は、功績倍率10倍を採用して損金算入したことを前提としたが、実際にこのようなことをすれば課税庁に対するチャレンジという他なく、損金算入が否定されることに全く疑義はない。退職の事実が認められる上での支給であれば、個人にとっては退職所得であることに変わりなく(※2)、【第2回】で触れたような「トリプルパンチ課税」とはならずとも、理論的には株価評価にも影響を与えることとなると考えられる。 (※2) 最高裁は、退職所得該当性につき、①退職すなわち勤務関係の終了という事実によってはじめて給付され、②従来の継続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の後払いの性質を有し、③一時金として支払われること、との要件を備えることが必要であると示していることから、法人税法上の過大性判断とは一線を画する。最高裁昭和58年9月9日判決(税務訴訟資料133号636頁、TAINS:Z133-5247)。 株価評価ロジックについて詳述することは避けるが、類似業種比準価額方式に拠る場合の株価評価に必要となる大きな要素として、課税所得と利益積立金額がある。これらは実務上株価評価を行う際に使用する計算シートにいう「第4表 類似業種比準価額等の計算明細書」の⑪欄・⑱欄以降の内容を指し、それぞれ税務上のもの、すなわち法人税確定申告書の記載内容をベースとすることとなる(※3)。また、純資産価額方式の場合であっても、キャッシュアウトにより預貯金が減少するため、「第5表 1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」の⑤欄、すなわち時価純資産価額が減少することとなる。 (※3) なお、会計上の利益ではなく税務上の所得をベースとして株価評価をする理由は、一般的な中小企業は監査義務が課されておらず、会計上の利益操作の可能性を排除し、納税者の利便性を考慮することが目的であると説かれている。松本好正『非上場株式等の評価Q&A(改訂版)』(大蔵財務協会、2020)214頁。 したがって、役員退職給与の支給により、特に類似業種比準価額方式に引下げ効果を生むこととなる。ここで、役員退職給与に係る税務上の損金算入限度額が後日の税務調査において認定され、損金不算入となる部分が生じた場合、株価評価に用いた前提が崩れることから、理論的、そして上記目的に鑑みると贈与税・相続税の領域にも影響があると考えられる。 なお、筆者がリサーチした限り、過大役員退職給与により株価評価額にまで影響が及んだという判例は見当たらない。私見ではあるが、無理筋な功績倍率にて役員退職給与を支給した例自体が少ないことに加え、仮に課税庁側が税務調査にて否認する場合には、いわゆる総合調査によると考えられることから、現場にて決着しているケースが多いのかもしれない。 役員退職給与を株価引下げ目的で支給する場合、実際に影響するかどうかはさておき、このような可能性も頭の片隅に入れておきたい。 (了)
基礎から身につく組織再編税制 【第27回】 「非適格分割型分割を行った場合の分割法人の取扱い」 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 前回は、非適格分割型分割を行った場合の分割承継法人の取扱いについて確認しました。 今回は、非適格分割型分割を行った場合の分割法人の取扱いについて解説します。 1 資産負債の譲渡損益 (1) 原則 分割法人が分割により分割承継法人にその有する資産・負債の移転をしたときは、分割時の時価により譲渡したものとします(法法62①)。分割対価として分割承継法人株式等を分割時の時価により取得し、分割法人は直ちに分割法人の株主に交付したものとされます。 (2) 完全支配関係がある法人間で非適格分割型分割が行われた場合 ① 内容 グループ法人税制の適用により、完全支配関係がある法人間で非適格分割型分割が行われた場合には、譲渡損益調整資産(②参照)にかかる譲渡損益が繰り延べられ、簿価で移転したのと同様の結果となります(法法61の13①)。譲渡損益調整資産以外の資産については、原則通り、譲渡損益を認識することとなります。 ② 譲渡損益調整資産 「譲渡損益調整資産」とは、固定資産、棚卸資産である土地等、有価証券(売買目的有価証券を除きます)、金銭債権、繰延資産のうち、直前の帳簿価額が1,000万円以上の資産をいいます。 2 みなし事業年度 非適格分割型分割の場合は、非適格合併と異なり、みなし事業年度は生じません。 3 分割法人の役員、使用人に対する退職給与 非適格合併と異なり、非適格分割型分割により分割法人は消滅しないので、分割法人における役員退職金の損金算入時期は原則通り、株主総会等で金額が具体的に確定した日又は退職給与を支給した日の属する事業年度の損金の額に算入されます(法基通9-2-28)。 分割により退職した分割法人の使用人に対して退職給与を支給する場合には、退職給与規程等で退職給与を支給する旨及びその金額が決まっているときは、分割事業年度において債務として確定しているため、未払金として処理しても損金の額に算入されます。 4 欠損金の繰戻し還付 非適格分割型分割の場合には、非適格合併と異なり、欠損金の繰戻しによる法人税の還付請求はできません。 5 繰延資産 非適格分割型分割の場合には、繰延資産の未償却残高は、分割法人の分割事業年度の損金の額に算入することとなります(法基通8-3-6)。 6 一括償却資産 非適格合併の場合には、一括償却資産の未償却残高を被合併法人の最後事業年度の損金の額に算入することとなっていますが、非適格分割型分割により分割法人が一括償却資産を分割承継法人に移転した場合には、特段の定めはないことから、一括償却資産を除却したときと同様に、分割法人側で引き続き償却していくこととなります。 7 事業税 非適格合併と異なり、分割法人の分割事業年度の事業税は、分割法人側で翌期に確定申告を行ったときに損金の額に算入されます。 8 非適格分割型分割により減少する資本金等の額 分割法人において非適格分割型分割により減少する資本金等の額は、次のとおりです(法令8①十五)。 9 非適格分割型分割により減少する利益積立金額 分割法人において非適格分割型分割により減少する利益積立金額は、次のとおりです(法令9①九)。 10 具体例 下記では具体例を用いて、非適格分割型分割を行った場合の分割法人の取扱いについてみていきます。 〈分割法人の貸借対照表〉 〔前提〕 〔分割法人の移転税務仕訳〕 〇減少する資本金等の額 分割法人の分割型分割直前の資本金等の額に移転割合を乗じて計算します。 〇減少する利益積立金額 対価として交付した分割承継法人株式の時価から分割型分割により減少する資本金等の額を減算して計算します。 ◆非適格分割型分割を行った場合の分割法人の取扱いのポイント◆ みなし事業年度は生じません。 資産・負債の移転は、分割時の時価による譲渡をしたものとされ、分割法人において譲渡損益が生じます。 分割法人において移転資産等に対応する資本金等の額及び利益積立金額が減少します。 (了)