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値上げの「理屈」~管理会計で正解を探る~ 【第14回】「費用構造をふまえて値上げする」~サブスク人気に乗っかりたい!~

値上げの「理屈」 ~管理会計で正解を探る~ 【第14回】 「費用構造をふまえて値上げする」 ~サブスク人気に乗っかりたい!~   公認会計士 石王丸 香菜子   登場人物 *  *  * 近年、いたるところで「サブスクリプション」という言葉を見かけますね。「サブスク」という言葉が独り歩きし、その意味するところが曖昧なことも多いですが、サブスクリプションは、利用者から利用期間に応じた料金を受け取り、継続的に製品やサービスの利用権を提供するビジネス・モデルです。 音楽や動画の配信サービスなどがすぐに思いつきますが、洋服やバッグなどのサブスクリプションも人気です。海外ではプライベート・ジェットのサブスクリプションまであり(!)、サブスクリプションの波はあらゆるビジネスに押し寄せています。この「Profession Journal」もサブスクリプションの典型ですね。 *  *  * *  *  * 従来からある「販売」というビジネス・モデルでは、製品やサービスを「所有する権利」が顧客に移転します。こうした「売り切り」のビジネス・モデルの場合、基本的には、企業と顧客との関係はその都度完結するので、企業は各取引で大きな利益を獲得することを目指します。企業は、取引ごとに「収益-費用=利益」という構造で損益を把握することができます。 一方、サブスクリプションの場合、製品やサービスの所有権そのものは顧客に移転せず、製品やサービスを「利用する権利」を顧客に提供します。企業と顧客との関係は長期にわたって継続していくので、企業は、顧客との長い継続的な関係の中で、小さな利益を何度も積み重ねていくことを目指します。 *  *  * *  *  * サブスクリプションのビジネス・モデルでは、新規顧客を獲得するために初期費用を投じる必要があります。この顧客獲得費用(CAC:Customer Acquisition Cost)を毎月の利益で回収し、さらに利益を積み重ねていくことが企業の目標です。 *  *  * *  *  * 毎月1件ずつ新規顧客を獲得していくことを想定し、全体の損益を考えてみましょう。 全体で考えると、黒字に転換するのはさらに先です。実際に、サブスクリプションを展開する企業では、スタートアップの段階で大幅な赤字を計上していることが多いようです。 *  *  * *  *  * サブスクリプションは、顧客と継続的な関係を構築し、長い時間をかけて費用を回収し利益を出していくビジネス・モデルなので、顧客を獲得することによる損益を長期的な視点で考えるのが合理的です。そのため、顧客が契約開始から終了までの期間を通じて企業にもたらす利益や収益として「顧客生涯価値(LTV:Life Time Value)」を把握する方法がよく利用されています。顧客生涯価値の具体的な算定方法は様々で、一義的ではありませんが、ここでは、毎月1,000円の利益を前提として算定してみます。仮に顧客の契約継続期間が18ヶ月ならば、 となります。この場合、顧客生涯価値(LTV)18,000円が顧客獲得費用(CAC)6,000円を上回っているので、長期的に見て利益が出るビジネスであることがわかります。 また、顧客生涯価値(LTV)÷ 顧客獲得費用(CAC)の値は、顧客当たりの収益性を表す指標として活用することができます。 この指標は「ユニット・エコノミクス」と呼ばれています。この指標が大きいほど、少ない元手で多くの利益を稼げることを意味しますので、収益性の高いビジネスです。 *  *  * *  *  * サブスクリプションのビジネス・モデルの場合、定額料金の設定が非常に難しいと言えます。大きな費用が先行し、小さな収益でこれを回収するという構造を踏まえ、長期的に見て採算の取れる価格に設定する必要がありますが、顧客の契約継続期間や解約率などを正確に見積もることは困難なことが多いでしょう。 また、定額料金が高い場合、顧客にとっての魅力が薄れて顧客の獲得や維持が難しくなります。一方、定額料金が低い場合、長期的には利益を計上できる見込みであっても、先行して支出した資金を回収できない期間が長期化し、資金ショートを起こす可能性も否定できません。単にサブスク人気に乗っかるだけではなく、多角的な検討や分析を十分に行ったうえで料金設定することが求められます。 (了)

#No. 420(掲載号)
#石王丸 香菜子
2021/05/20

社長のためのメンタルヘルス  【第1回】「「社長のためのメンタルヘルス」の考え方」

社長のためのメンタルヘルス 【第1回】 「「社長のためのメンタルヘルス」の考え方」   特定社会保険労務士 第一種衛生管理者 産業カウンセラー 寺本 匡俊     1 「社長」についての考え方 本連載のタイトルは経営トップに強く訴える効果を求めて、インパクトのある「社長」という言葉を使っている。一方、本連載では以下の理由により、「社長」はより広範な概念として用いる。例えば、経営の最高責任者が実質的には会長であることもあろうし、労働法で守られていないという意味においては、役員全般も個々人で健康管理を行う必要がある。 同様に、地方や海外の拠点のトップは、その限られた地域の企業活動においては、営業や人事など日常的に、社長に準ずる責務を負う。また、法人格はなくとも、個人事業主で従業員を雇用している場合、健康管理上は社長と同様の配慮が必要となる。 詳しくは次回の話題とするが、「社長ならではの大変さ」というものは、登記上の代表取締役ばかりではなく、上記のような事業経営に責任を有する方々が共通して背負うものがあり、本連載においては、そのような社長に準じる立場の方々も広く含めて、便宜的に「社長」と表現する。   2 「他覚」についての考え方 本項の「他覚」についての考え方も、前出の「社長」と同様、本連載に限っての発想を含んだ広範囲のものとして取り扱う。「自覚」は日常用語であるが、その対語である「他覚」は、労働安全衛生法における法律用語である。各社で行われている定期健康診断を規定した同法第66条には次のような定めがある。 上掲のカッコ内にある「第66条の10第1項」にある検査とは、ストレスチェック制度のことで、これが除かれているのは、「医師による」ばかりではなく、例えば保健師でも合法であることによる。また、同条において詳細は「厚生労働省令で定める」と規定されている。この省令は、労働安全衛生規則という。次に同規則の第44条の関連個所をみる。 後半は省略したが、健診項目は全部で11点ある。そのうちの第1項が「既往歴及び業務歴の調査」、第2項が「自覚症状及び他覚症状の有無の検査」であり、第1項及び第2項の「自覚症状」については、近年では一般に、事前に検診機関から送られてくるマークシート方式の自己申告で診断が行われている。 一方、「他覚症状」であるが、厚生労働省がホームページに公表している「定期健康診断等における各検査の概要(現状)」という資料をみると、過去の通達を引用しつつ、次のとおり解説がなされている。定期健康診断は法律において「医師による」と定められているため、ここにおいても、「医師の判断」でなされることになっている。通常、健診会場では「内診」などと呼ばれ、医師が聴診器ほかの器具による「問視診」により、健康状態を調べる。 このように法定の健康診断においては、「他覚」の「他」とは医師のことであるが、本連載は基本的に、医療にアクセスする前の段階における現場での予防を目的としている。したがって、他覚とは本人以外の上司や同僚、経営・人事や健康管理部門、広くは家族や友人まで、周囲の人たち全員を意味する。 具体的にいうと、うつ状態の前駆症状としてよく挙げられる「服装や髪型の乱れ」であるとか、簡単な文章での「誤字脱字の増加」といった、必ずしも本人が自覚していなくとも、周囲の他者が気付くような兆候も、メンタルヘルスでは重要な判断要素となる。この点は後の回でも改めて触れることになるが、労働法令では「労働者の心の健康の保持増進のための指針」にある「ラインによるケア」に類似する。   3 士業の皆様へ 本誌「Profession Journal」の読者層には、税理士や公認会計士ほか、いわゆる士業の方々が多いと聞いている。前述のように、個人事業であっても従業員を雇用している場合は、本連載における「社長」に当たるのみならず、個人のみの経営であっても顧問契約に基づく活動をしている場合、顧客の経営者に接する際に、前述した「他覚症状」のおそれを感じることもあり得る。 また、経営が多忙で自身の健康管理になかなか手が回らない社長に対し、日常的な接点があり信頼関係も築いている顧問から、メンタルヘルスを含む健康保健に関する情報提供や助言を行うことができれば、顧問契約の本業に加えて、健康管理という別の視点からも社長に、ひいては顧客の事業全体に対し役立ち得る。 このような観点から、本連載においては、健康管理とは直接関係のない分野で活躍中の士業各位におかれても活用可能な情報を提供できるように配慮する。もちろんご自身の健康管理にもお役立ていただければ幸いである。   4 最後に ~今後の連載予定について~ 今後の連載概要について、今の時点の予定としては、前半に総論的な事柄、後半には各論(ただし、なるべく多くの方に共通すると思うもの)を記事とすべく準備している。総論的な事柄としては、社長ならではの大変さ(経営者に多いストレス要因)、メンタル不調とは何か(うつばかりではない)、予防の考え方などを予定している。 各論においては、例えば、すでに労働者に対し各社で実施中の労災防止やストレスチェック等において、その対象を社長にまで広げるという効率的な方法を検討いただく意義について触れたい。また、この先の動向次第であるが、時事的な課題としては、コロナ禍や、それに伴うテレワーク等におけるストレスの対処についても話題とすることも検討しており、日常の業務・生活習慣の管理にお役立ていただければと思う。 (了)

#No. 420(掲載号)
#寺本 匡俊
2021/05/20

給与計算の質問箱 【第17回】「死亡した従業員の給与計算」

給与計算の質問箱 【第17回】 「死亡した従業員の給与計算」   税理士・特定社会保険労務士 上前 剛   Q 当社の従業員Aが2021年5月15日に急死しました。当社の給与計算の締め日は末日、支給日は翌月25日です。4月末締めの給料を5月25日に支給、5月末締めの給料を6月25日に支給します。給与計算にあたり税金・社会保険の注意点を教えてください。 A 死亡した従業員の給与計算における税金・社会保険の注意点は、以下のとおりである。 * * 解 説 * * 1 所得税 支給日が死亡日5月15日後の2021年5月25日支給、6月25日支給の給料は所得税の課税対象にならないので源泉所得税は天引きしない。なお、これらの給料は相続財産になる。 支給日が死亡日5月15日以前の2021年1月25日支給から4月25日支給の給料をもとに会社は年末調整を行い、給与所得の源泉徴収票を作成し、死亡した従業員の相続人に交付する。   2 住民税 給料から天引きできなくなった住民税は相続人が納付する。会社は特別徴収から普通徴収に切り替えるため、給与所得者異動届出書を市区町村役場へ提出する。   3 雇用保険 2021年5月25日支給、6月25日支給の給料から雇用保険料を天引きする。 会社は「雇用保険被保険者資格喪失届」を死亡日5月15日の翌日から10日以内にハローワークへ提出する。   4 健康保険・厚生年金保険 社会保険料は4月分まで発生する。そのため、2021年5月25日支給から4月分の社会保険料を天引きするが、6月25日支給の給料から社会保険料は天引きしない。 会社は「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」を死亡日5月15日から5日以内に年金事務所へ提出する。 また、埋葬を行った従業員の家族に健康保険から埋葬料5万円が支給される。従業員に家族がいないときは埋葬を行った人に埋葬料5万円の範囲内で埋葬費が支給される。 なお、受給するためには、埋葬を行った家族や埋葬を行った人が「埋葬料支給申請書」を協会けんぽ等へ提出する必要がある。 (了)

#No. 420(掲載号)
#上前 剛
2021/05/20

税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識 【第17回】「「減価修正」と「減価償却」の本質的な違い」~鑑定と会計・税務~

税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第17回】 「「減価修正」と「減価償却」の本質的な違い」 ~鑑定と会計・税務~   不動産鑑定士 黒沢 泰   「減価償却」ということばは、税理士の皆様にとって非常に馴染み深いものと思われます。そして、会計や税務において、建物等の固定資産の帳簿価額を計算する上で欠かすことのできない要素とされていることは、改めて述べるまでもありません。これに似ていて本質が大きく異なる「減価修正」ということばが、鑑定評価では用いられています。 それぞれのことばの登場場面は以下のとおりです。 〔会計や税務において〕 〔鑑定評価において〕 以上のとおり、減価償却と減価修正とは、計算式の上では概念的に共通するものがありますが、これから述べるように様々な点で相違があります。この点を理解することが、会計や税務と鑑定評価の、似て非なる点を理解することにつながります。   1 減価修正とは 減価修正とは、不動産の鑑定評価手法の1つである原価法のなかに登場する価値計算の要素で、上記のとおり対象不動産に発生していると考えられる減価額を再調達原価から控除することを意味しています。 建築後、数年あるいは数十年を経過した建物は、時の経過や損傷、その他の要因により価値が減少しており、相応の減価を伴うのが通常です。これを目的として実施される手続きが減価修正に他なりません。   2 減価償却と減価修正の相違 (1) 目的の相違 ここで留意すべきは、減価修正の計算手法は会計や税務上の減価償却費の計算手法と似ていますが、その目的は大きく異なっているという点です。 すなわち、減価償却費の計算は固定資産の取得価額を耐用年数の全期間にわたって配分する方法であり、その目的は適正な期間損益計算を実施することにあります。また、償却の方法は定額法であれ定率法であれ、毎期継続して同じ方法を用いる限り最終的な累計額は同額となるわけですから、いずれも期間損益計算の見地からは合理的といえます。 なお、会計や税務では法定耐用年数を用いることが通常であり、減価償却費の計算は取得価額を基に規則的に行われるため、現実に建物が損傷している場合でも、その程度が減価償却費の計算に反映されることはありません。 これに対して、鑑定評価で実施される減価修正は、定額法等の手法を用いる点においては減価償却費の計算と異なるものはありませんが、費用配分を行うことがその目的ではありません。その目的は、実際に発生している価値減少の程度を見積もり、これを再調達原価から控除して適切な価格(積算価格)を求めるところにあります。 したがって、建物の損傷度合いが激しい場合にはその補修に必要な費用を別途に見積もり、これを再調達原価からさらに控除する必要が生じます(鑑定評価では、これを「観察減価」と呼んでいます)。すなわち、規則的に発生する減価の状況を定額法等により計算に反映させるだけでなく、現実の維持管理の程度等の要因も建物の価格に反映されるということです。 (2) 減価修正におけるいくつかの減価要因 鑑定評価の特徴的な点は、減価修正に当たっては建築後何年経過しているかという視点から価値の減少分を査定するだけでなく、既に述べた観察減価という手法を併用し、物理的、機能的、経済的な減価要因の有無をさらに検討するところにあります。 そして、観察減価の有無を検討する際には、対象不動産の各構成要素についてその実態を調査することにより、具体的に以下の点から減価を要するものがないかどうかを念頭に置く必要があります。 ① 物理的な減価要因の有無 ② 機能的な減価要因の有無 ③ 経済的な減価要因の有無 このように、減価修正の対象となる要因には様々なものがあり、規則的な減価償却費の計算には反映されない(反映できない?)ものも多く含まれます。   3 まとめ 以上述べてきた内容を再確認するため、不動産鑑定評価基準に規定されている減価修正の目的に関連する個所を掲げておきます。 (了)

#No. 420(掲載号)
#黒沢 泰
2021/05/20

プロフェッションジャーナル No.419が公開されました!~今週のお薦め記事~

2021年5月13日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.419を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2021/05/13

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第95回】「節税義務なるものの正体(その1)」

酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第95回】 「節税義務なるものの正体(その1)」   中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦   はじめに これまで、プロフェッションジャーナルにおいて、連載投稿をさせていただいていましたが、全くの小職の身勝手な申し出でその連載を一時お休みさせていただいておりました。読者の皆さまにご迷惑をおかけしましたこと、お詫び申し上げます。 この度、連載を再開致しますことをご報告申し上げます。 そこで、比較的長期間のスケジュールで、「租税回避」について考えてみたいと思っております。そもそも、租税回避とは何か、課税庁による租税回避の試みに対する否認構成はどのような形でなされるのかといった点について、多くの事例を紹介しながら、独自の目線で述べていきたいと考えております。 再開第1回目の今号からは、租税回避を考えるに当たって、租税専門家に課されているといわれることがある「節税義務」ないし「節税措置義務」なるものの正体を明らかにしたいと考えます。 まずは、素材となる事案を使って考えていきましょう。   Ⅰ 節税措置義務〔東京地裁平成9年10月24日判決〕 1 事案の概要 X(原告)は、平成4年分の確定申告の際、A取引に係る不動産の譲渡所得を申告しなかったため、平成6年になって、かねてから税務申告手続を依頼しているY税理士(被告)に、A取引に係る譲渡所得の修正申告手続を依頼するとともに、B取引に係る譲渡所得の税務申告手続を依頼した。Y税理士は、Xのために、A取引についてのみ、平成4年分の譲渡所得として修正申告手続を行い、B取引については、平成6年3月に、平成5年分の譲渡所得として確定申告手続を行った。 その後、納税を終えたXは、これらの取引を一括して申告していたならば居住用不動産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例による軽減措置を受けられたはずであるのに、その軽減を受けられなかったのは、Y税理士に過失があると主張して、課税軽減を受けられたはずの金額の損害賠償を求め、訴えを提起した。これに対し、Y税理士は、同一年分の所得として申告手続をせず、別の年分の所得として税務申告手続をとった点に過失はないと主張した。 2 東京地裁平成9年10月24日判決(判タ884号198頁) 東京地裁は、まず、税理士の義務について次のように説示する。 そして、東京地裁は、Y税理士がXから税務申告手続の依頼を受けた当時、両取引に係る譲渡所得を平成4年分の譲渡所得として一括して修正申告することが可能であったこと、その場合、Xは、実際に納付した税額に比べ3,016万円以上の課税軽減を受けられたことが明らかであったとした。 そして、そもそも、両取引を一括して修正申告することには困難を伴わず、現にYも一旦は一括修正申告に思い至ったが、もっぱら加算税を賦課されることに気をとられてともかく早期に修正申告することばかりを念頭に置いたため、深く検討しないまま、平成4年分の譲渡所得として、A取引についてのみ修正申告手続をし、一括修正申告手続をしなかったと認定した。 上記のような認定を行った上で、結論において、Yには損害賠償義務があるとしている。 3 検討 岐阜地裁大垣支部昭和61年11月28日判決(判時1243号112頁:①事件)は、税理士の節税措置義務について否定的な説示を下している。 このように、過去の裁判例においては、「依頼者の租税に関してあらゆる有利を計らなければならない準委任上の義務を負うものでな〔い〕」として節税措置義務についてやや否定的な判断を下したものがある。 しかしながら、その後の判決の動向は、むしろ税理士の節税措置義務を認める傾向にあるといえよう。 例えば、そのような立場を採用するものとして、東京高裁平成7年6月19日判決(判タ904号140頁:②事件)を挙げることができる。 また、税理士が顧問先の会社の消費税について簡易課税を選択して申告したところ、本則課税を選択した方が有利だったとして、顧客が税理士に対して損害賠償を請求した事件として、東京地裁平成9年9月2日判決(判タ986号245頁:③事件)がある。そこでは、次のような判示がなされた。 また、相続税の申告に当たり、2億円余りの相続債務があることを税理士が念頭に置かなかったために、債務を配偶者が負担するとする遺産分割協議書を作成し、これに基づく申告をした税理士の責任を追及した事件として、東京地裁平成10年9月18日判決(判タ1002号202頁:④事件)は税理士の職務上の義務について説示している。 更に進んで、東京地裁平成10年11月26日判決(判タ1067号244頁:⑤事件)は、以下のように示し、積極的な節税対策の考案についてまで、税理士の義務が及ぶ旨の言及をしている。 税務相談の目的を達成すべき債務の中に節税措置を読み込む事件なども見られるところである。 かような判断を示すものとして、神戸地裁平成5年11月24日判決(判時1509号114頁:⑥事件)は、買換特例の適用を受けて不動産売却益を次の年度まで繰り越していたなら法人税等を節税できたとして、顧客の税理士に対する損害賠償請求を次のように認めている。 このように多くの裁判例では、税理士に課される高度の注意義務から税理士の節税措置義務を判示しているようである。特に②事件では、民法644条《受任者の注意義務》にいう善管注意義務を当然の前提とした上で、税理士法上の義務として「依頼者の利益に配慮する義務」があるとしている。 これらの判決から窺い知れるところは、税理士が、受任者であり、かつ、租税の専門家であることから節税を措置することまでが期待されているという前提に立って、税理士に要求される高度の注意義務から節税措置義務が導出されているという点である。 (続く)

#No. 419(掲載号)
#酒井 克彦
2021/05/13

〔顧問先を税務トラブルから救う〕不服申立ての実務 【第1回】「更正決定処分をするための税務署側の手続」

〔顧問先を税務トラブルから救う〕 不服申立ての実務 【第1回】 「更正決定処分をするための税務署側の手続」   公認会計士・税理士 大橋 誠一   ◆連載開始にあたって◆ クライアントの税理士に対する期待は、税務調査において特段の指摘事項を受けることがないように各事業年度の税務申告を履行することであって、弁護士が扱うような紛争処理を期待されているのではない。 とはいえ、税務調査の過程において誤った法令解釈や事実認定がなされることにより、また、法令解釈に対して事実を誤って当てはめられることにより更正・決定処分がなされ、納税者が不測の経済的損害を被る場面に立ち会うこともあり得る。 そのような場面においては、税理士は、国税に関する法律専門家として、納税者の権利救済を積極的に担うべきであるし、少なくとも不服申立て制度の枠内においては代理人として活動することが認容されている。 本稿では、税理士の関与する納税者が国税に関する不利益処分を実際に受けた場合にどのような権利救済の途があり、それをどのように選択して行使すべきかについて解説することを目的としている。 併せて、読者各位は、本稿の記述内容を把握することにより、実際に不利益処分を受けた後の「事後の段階」の救済のみならず、税務調査の進行中において不利益処分をこれから受けるかもしれないという「事前の段階」においてこそ活かすことにより、納税者を無用な税務争訟に巻き込ませないように行動してほしいと願うものである。 *  *  * 1 争点整理表 (1) 更正決定等をすべき指摘事項か否かの峻別 調査担当者は、調査により非違が疑われる事項を識別した際には、課税要件を認定するための証拠資料や聴取書等に基づいて上司である統括国税調査官等に復命して指示を仰ぐとともに、当該事項に対する納税義務者や税理士による反論を吟味して諾否を判断することになる。 そして、最終的な調査結果の説明時において、更正決定等をすべきと認められる事項として取り上げるべき項目とそうでない項目を選り分けることになるが、その際に重要となる署内作成資料に「争点整理表」がある。 (2) 争点整理表とは 争点整理表とは、いわゆる争点整理表通達により下記(4)の基準に該当する事案について調査担当者が作成することとされている様式をいい、これには次の役割がある。 〈争点整理表〉 (出所) TAINSコード:課税処分留意点H250400「Ⅰ 争点整理表作成のポイント」より抜粋。 (3) 争点とは 争点整理表における争点とは、調査において当局と納税者との間で見解の相違等が存する事項や具体的に見込まれる各不利益処分に係る主な非違事項をいう。 (4) 争点整理表作成事案の基準 争点整理表作成事案とは、調査により不利益処分が見込まれる事案のうち、次のいずれかの基準に該当するものをいう。 (5) 争点整理表作成のイメージ (出所) TAINSコード:課税処分留意点H250400「Ⅰ 争点整理表作成のポイント」より筆者一部改変。   2 税務当局は「法的三段論法」を意識している (1) 争点整理表の作成における基本的作業 争点整理表を作成するためには、「法令解釈」「事実認定」「課税要件の充足性の判断」を行う必要があり、この一連のプロセスを「法的三段論法」という。 (出所) TAINSコード:課税処分留意点H250400「Ⅰ 争点整理表作成のポイント」より筆者一部改変。 (2) 法令解釈 論点となっている事実の法的根拠を明らかにし、不利益処分に係る課税要件を抽出する。 課税要件とは、租税法規が定める「課税される」又は「課税されない」とするための要件(条件)をいう。 ◆ポイント 例えば、勤務実態のない従業員に対して給与が支払われている場合の重加算税を賦課する要件は、「労務の提供を受けていないこと」「労務の提供を受けたように事実を仮装し、その仮装したところに基づき納税申告書を提出したこと」と解される。 (3) 事実認定 上記(2)で抽出した課税要件に照らして、調査によって抽出した証拠(納税者の主張を含む)について事実関係時系列表により整理を行い、直接証拠(事実を直接示している証拠)や間接証拠(事実の存在を推認できる証拠)から事実認定を行う。 なお、税務当局が認定した事実及び主張する事実については、全てその根拠(証拠)が必要であり、税務当局側が立証責任を負うこととなる。 〈事実関係時系列表〉 (出所) TAINSコード:課税処分留意点H250400「Ⅰ 争点整理表作成のポイント」より抜粋。 ◆ポイント 事実認定を行う場合においては、「認定した事実が複数ある場合に、全体として矛盾点や不合理な点がないか」「事実を認定する根拠(証拠)は十分か」「調査担当者の思い込みで事実を認定していないか」といった吟味がなされるべきであろう。 (4) 納税者の主張 争点整理及び事実認定を行うためには、納税者の主張を具体的に聴き取ることが重要であり、主張と事実が異なる場合などの疑問がある場合には、その矛盾が解消されるまで聴き取りを行う必要がある。 また、どのような答述であったとしても、調査担当者の描く筋を基にして、頭から決め付けを行うことや否定を行うべきではなく、いったんはそれを受け入れた上で税務当局の収集した証拠との比較検討や証拠力の高低を吟味する必要がある。 (5) 課税要件を満たしているか否かの判断(当てはめ) 認定された事実が課税要件を満たしているか否かの判断(課税等要件事実があるか否かの判断)を行う。 課税等要件事実とは、課税等要件に該当する具体的な事実のことをいい、課税する(しない)ことができるか否かは、課税等要件事実の有無によることになる。   3 調査経過記録書 調査担当者は、通常、納税者又は関与税理士に対する調査連絡時(いわゆる反面調査など調査連絡時より前に先行して調査に着手している場合にはその実質的な着手時)以降、不利益処分までの間の調査経過を時系列に「調査経過記録書」に記録している。 これには、納税者又は関与税理士に対する架電又は受電の概要などが記載されて(詳細に記録する場合には別途「電話聴取書」が作成されて)いるほか、審理担当者との協議や税務署としての最終的な意思決定会議である「重要事案審議会」の開催といった署内の各種手続も記録されている。 不利益処分が審査請求に発展した場合、国税不服審判所の担当審判官は、原処分をした税務署に臨場して調査資料を検査することになるが、税務調査手続の違法が争点になっていない事案であっても、この調査経過記録書を確認することが通常である。 そして、担当審判官が調査経過記録書を職権で証拠収集した場合には、審査請求人はその内容の閲覧・謄写を請求することができる。   4 税務署の最終的意思決定 上記3の「重要事案審議会」は、調査結果の説明における修正(期限後)申告の勧奨に納税者が承服せず、最終的に不利益処分を行うことに先立って、署長・担当副署長・総務課長・第1部門と所轄部門の統括官・審理専門官・調査担当者による会議の場において、署長に事案を報告してその裁可を受けるための会議であり、これによる意思決定を経て、「調査決議書」「処分の理由書」を起案し、署長の決裁を得て「処分の通知書」が納税者に送達される。 なお、この「重要事案審議会」の審議資料及び議事録についても調査資料綴に編綴され、担当審判官が調査資料の検査時に確認することがあるが、これについては国税庁と国税不服審判所において証拠収集しない申し合わせがある。 その理由は、国税不服審判所側からすれば、課税等要件事実があるか否かの判断は国税不服審判所が主体的に行うべきものであって原処分庁の拘束を受ける立場にない(判断に影響を受けない)からとされている。 しかし、いずれにせよ、原処分庁は、上記でみた「法的三段論法」を意識して、その後の不服申立ての判断に耐え得る(不服申立てにおいて原処分が維持される)心証が相当程度高く得られることを前提にして不利益処分を行うことになる。 (了)

#No. 419(掲載号)
#大橋 誠一
2021/05/13

〔疑問点を紐解く〕インボイス制度Q&A 【第2回】「免税事業者が適格請求書発行事業者の登録をする場合の経過措置」

〔疑問点を紐解く〕 インボイス制度Q&A 【第2回】 「免税事業者が適格請求書発行事業者の登録をする場合の経過措置」   税理士 石川 幸恵   【Q】 私は開業以来ずっと免税事業者である個人事業者です。インボイス制度によって「免税事業者である」ことが取引先に明らかになると、価格交渉が難しくなりそうなので、適格請求書発行事業者の登録をしようと考えています。申請はどうしたらよいですか。 ※このQuestionでは、質問者は個人事業者、課税期間は暦年として解説を進めますが、法人でも同じです。 〔ポイント〕 (1) 経過措置があるので、インボイス制度が開始する令和5年については、令和5年10月1日~12月31日の期間のみ課税事業者になることが可能。 (2) 課税事業者選択届出書や課税期間特例選択・変更届出書は不要。 (3) 適格請求書発行事業者の登録申請書は令和3年10月1日に受付開始されるが、経過措置の適用についての記載欄は、令和5年の納税義務が明らかになってからでなければ書けない。 *  *  * 【A】 令和5年10月1日に登録を受けるためには、令和3年10月1日から令和5年3月31日(困難な事情がある場合は令和5年9月30日)までの間に適格請求書発行事業者の登録申請書を提出します。令和5年が免税事業者である場合には、課税期間の中途から課税事業者になる経過措置を受けられますので、経過措置の適用を受ける旨を記載してください。 (1) 経過措置とは 免税事業者が適格請求書発行事業者になるためには、原則として、課税事業者選択届出書を提出し、課税事業者となる必要があります。 ただし、免税事業者が令和5年10月1日の属する課税期間中に登録を受けることとなった場合には、登録を受けた日から課税事業者となる経過措置が設けられています(インボイスQ&A問8、インボイス通達5-1、28年改正法附則44④)。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※1) 令和4年までは免税事業者であるものとします。 (※2) 相続が発生した場合はこの限りではありません。   (2) 課税期間特例選択・変更届出書や課税事業者選択届出書は不要 課税期間の途中から課税事業者となるためには、課税期間の短縮を検討しますが、上記(1)の経過措置を受けるにあたっては、課税期間の短縮は必要ありません。 令和5年10月1日の属する課税期間中に登録を受ける場合に限り、課税事業者選択届出書の提出も必要ありません。 課税事業者届出書の提出要否については明記されていませんが、適格請求書発行事業者の登録申請書に個人番号や法人の事業年度、資本金の記載欄が設けられており、これらは課税事業者届出書と同様の内容なので、登録申請書が課税事業者届出書を兼用するものと考えられます。   (3) 申請書の提出は令和5年の納税義務の有無が明らかになってから ① いつから提出可能なのか 適格請求書発行事業者の登録申請書の受付は、令和3年10月1日から始まりますが、経過措置の適用に関しては、令和5年の納税義務がないことが明らかになってからでなければ記載できません。令和5年の納税義務の有無がわかるのは、(1)の図に示したように、令和4年の特定期間(令和4年6月30日)を過ぎてからです。 ② 経過措置を受ける場合の申請書の書き方 免税事業者が令和5年10月1日から適格請求書発行事業者になる場合の選択のチェック方法は、下図のとおりです。赤枠で囲んだ部分に課税事業者届出書と同様の項目の記載欄があります。 個人事業者の場合は、個人番号の記載がありますので、番号確認書類と身元確認書類の提示又は写しの提出をしてください。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ③ 提出期限 令和5年10月1日から適格請求書発行事業者になる場合の提出期限は、令和5年3月31日ですが、提出できなかったことにつき困難な事情(何を困難とするかのレベルは問わない)がある場合は、令和5年9月30日までとされています(インボイスQ&A問7)。   (4) 敢えて、令和5年10月1日以降に開始する課税期間から適格請求書発行事業者になることも可能 令和5年10月1日から令和6年3月31日までの間に開始(個人事業者ならば令和6年1月1日に開始)する課税期間から、適格請求書発行事業者になることも可能です。 こちらを選択する場合は、次のいずれかの届出がセットになります。 しかし、(1)の経過措置があるにもかかわらず、敢えて令和5年10月1日以降に開始する課税期間から適格請求書発行事業者になる必要性は薄いと考えられます。 (了)

#No. 419(掲載号)
#石川 幸恵
2021/05/13

事例でわかる[事業承継対策]解決へのヒント 【第29回】「海外居住者の相続税と国外転出時課税制度」

事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第29回】 「海外居住者の相続税と国外転出時課税制度」   太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 税理士 西田 尚子   相談内容 私Aは、製造業を営むX社(非上場会社)の社長です。X社の株式は私が40%、後継者の息子B(日本国籍)が60%を所有しています。Bは3年前からシンガポールにあるX社の子会社Y社へ出向しており、妻Cと長男D(いずれも日本国籍)と共にシンガポールで暮らしています。 Bが日本から出国する際には、私がBの納税管理人となり国外転出時課税の納税猶予の適用を受けました。 Bは今年帰国する予定だったのですが、新型コロナウイルスの影響で子会社の経営状況が悪化しており、その立て直しのため出向期間を延長することになりました。このような状況下で、万が一Bの相続が発生した場合に相続はどうなるのかが心配です。Bが海外居住中に相続が発生した場合の相続税の取扱いについてご教示ください。 〈相続関係図〉 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 相続税の納税義務と課税範囲 被相続人や相続人が海外に居住している場合や、日本国籍でない場合には、相続税の納税義務の判定が必要です。 被相続人と相続人が日本国籍の場合、両者ともに相続開始前10年以上日本に住所がない場合には、日本国内財産のみが相続税の課税対象になりますが、被相続人又は相続人のいずれかの住所が10年以内に日本にある場合には、国内財産、国外財産のすべてが課税対象になります。 下表は被相続人と相続人の状況別の相続税の納税義務の判定表です。 〈相続税の納税義務と課税範囲〉 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※1) 一時居住者 出入国管理及び難民認定法別表第1の在留資格で滞在している者で、相続開始前 15 年以内において国内に住所を有していた期間の合計が10年以下の者(相法1の3③一)。 (※2) 外国人被相続人 相続開始の時において、在留資格を有し、かつ、日本国内に住所を有していた被相続人 (相法1の3③二)。 (※3) 非居住被相続人 相続開始の時において日本国内に住所を有していなかった被相続人のうち次に掲げる者(相法1の3③三)。 (1) 相続開始前10年以内のいずれかの時において日本国内に住所を有していたことがある者のうちそのいずれの時においても日本国籍を有していなかった者。 (2) 相続開始前10年以内のいずれの時においても日本国内に住所を有していたことがない者。 上表のほか、相続又は遺贈により財産を取得しなかった相続時精算課税適用者は、その相続時精算課税の適用を受けた財産について相続税の納税義務があります(相法1の3①五、21の16①)。   [2] 相続財産の所在 相続財産の所在はその財産を相続により取得したときの現況により判定します。下表は財産の種類別の所在地です(相法10)。 〈財産の所在の判定〉 具体的にBの財産の所在地が国内か国外かを判定します。 〈Bの相続財産の所在地の判定〉   [3] 国外転出時課税制度 出国時に国外転出時課税の納税猶予の特例の適用を受けていた場合に、納税猶予期間の満了日の翌日以後4ヶ月を経過する日までに、その納税猶予を受けていた人に相続が発生した場合には、納税猶予分の所得税額の納付義務は、その納税猶予を受けていた人の相続人が承継します(所法137 の2⑬)。 納税猶予の特例の適用を受けていた人の相続人のうち非居住者である人は、既に納税管理人の届出をしている場合を除き、相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内に納税管理人の届出をする必要があります(所令266の2⑧)。 この場合、相続人は、被相続人が適用を受けていた納税猶予の期限を引き継ぎます(所令266の2⑦)。   [4] 結論 ご相談の場合、日本国籍のあるBに相続が発生した場合、Bが海外に居住していても日本の法律が適用され、相続税が課税されます。 つまり、C及びDが相続により取得した財産に対する相続税について、B、C、Dの住所が海外に移ってから10年以内に相続が発生した場合には、財産の所在地に関わらずすべての財産が日本の相続税の課税対象になります。また、Bが出国時に受けていた国外転出時課税の納税猶予に係る納付義務及び納税猶予期限を引き継ぐことになりますので、譲渡の際や納税猶予期限到来時には注意が必要です。 一方、住所が海外に移ってから10年を超えて相続が発生した場合には、所在地が日本国内と判定される財産のみに相続税が課されます(ただし、国外転出時課税制度の納税猶予期間が満了するため、納税を猶予されていた所得税及び利子税を納付しなければなりません)。 海外に所在する相続財産については、所在地国における遺産分割、名義変更手続きが複雑になるケースがあります。国によっては、財産の種類ごとにどの国の法律が適用されるのか異なるケースがあり、日本の法律に則った遺産分割手続きを行っても認められず、現地法令に則った処理を求められることがあります。気が進まないと思いますが、相続の際に相続人が困らないように予めどのような手続きが必要になるかを調べて、万が一に備えて準備をしておくことが有用です。 シンガポールの法令の適用や、具体的な対策については、現地の弁護士や会計士・税理士等の専門家と相談の上、実行されることをお勧めします。 (了)

#No. 419(掲載号)
#太陽グラントソントン税理士法人 事業承継対策研究会
2021/05/13

金融・投資商品の税務Q&A 【Q63】「投資一任口座(ラップ口座)を源泉徴収選択口座で開設する場合の投資顧問報酬の控除」

金融・投資商品の税務Q&A 【Q63】 「投資一任口座(ラップ口座)を源泉徴収選択口座で 開設する場合の投資顧問報酬の控除」   PwC税理士法人 金融部 ディレクター 税理士 西川 真由美   ●○ 検 討 ○● 1 ラップ口座が源泉徴収選択口座である場合の税務処理 (1) 株式等の譲渡に係る所得区分 上場株式等の譲渡から生じる所得については、他の所得と区分し、上場株式等の譲渡に係る事業所得、譲渡所得及び雑所得として、申告分離課税(所得税及び復興特別所得税15.315%、地方税5%)が適用されます。上場株式等の譲渡から生じる所得が、事業所得、譲渡所得、又は、雑所得のうちのいずれに該当するかについては、所得税基本通達(所基通23~35共-11)において、以下のとおり定められています。 さらに、租税特別措置法所得税関係通達(措通37の10・37の11共-2)において、上場株式等の所有期間が1年以下であれば、その上場株式等の譲渡は営利を目的とした継続的なものであるとして、その譲渡に係る所得は、事業所得又は雑所得として取り扱って差し支えないとされています。 (2) 投資一任契約に係る投資顧問報酬の取扱い 事業所得又は雑所得の金額の計算上、総収入金額から控除する必要経費に算入すべき金額は、総収入金額を得るために直接要した費用の額及びこれらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額とすることとされています。 ラップ口座における投資一任契約に係る投資顧問報酬は、固定報酬、成功報酬ともに、当該ラップ口座内の株式等の譲渡に係る収入金額を得るために直接必要な費用に該当するものと考えられることから、必要経費として取り扱うものと考えられます。 (3) 源泉徴収選択口座における税額計算 特定口座について、その年最初に当該特定口座に係る上場株式等の譲渡をする時又は当該特定口座において処理された上場株式等の信用取引等につきその年最初に差金決済を行う時のうちいずれか早い時までに、当該特定口座を開設する金融商品取引業者等に対して特定口座源泉徴収選択届出書を提出した場合には、当該特定口座は源泉徴収選択口座として取り扱われます。 源泉徴収選択口座では、その年中に行われた口座内の上場株式等の譲渡等について、下記の金額が源泉徴収されます。 ここで、投資一任契約に係る投資顧問報酬については、実務上、源泉徴収の基礎となる所得計算上考慮されない場合があります。この場合には、源泉徴収選択口座で生じた上場株式等の譲渡に係る所得であっても、上記(2)のとおり、確定申告を行うことにより、上場株式等の譲渡等に係る事業所得又は雑所得の金額の計算上、収入金額からこれを控除することができるものと考えられます。 なお、令和3年度の税制改正で、源泉徴収選択口座に係る投資一任契約に基づき金融商品取引業者等に支払う投資顧問報酬(株式等の譲渡等に係る事業所得又は雑所得の計算上必要経費に算入されるもの)がある場合には、当該源泉徴収選択口座において、当該投資顧問料の金額に20.315%を乗じて計算した所得税等が還付されることになりました。 つまり、確定申告を行うことなく、源泉徴収選択口座内で上場株式等の譲渡等に係る所得計算に反映されることになります。この改正は、令和4年1月1日以後に源泉徴収選択口座内で行われる上場株式等に係る譲渡等より適用されます。   2 本件へのあてはめ おたずねのラップ口座に係る投資一任契約は、顧客である個人が報酬を支払って、投資資金の運用に関する投資判断とその執行をA証券会社に一任し、営利を目的として継続的に、所有期間1年以下の上場株式等の売買を行うものであることから、当該ラップ口座で行われた上場株式等の譲渡等に係る所得は、事業所得又は雑所得に該当するものと考えられます。 また、当該投資一任契約に係る投資顧問報酬は、上場株式等の譲渡等に係る所得の金額の計算上、必要経費として取り扱うものと考えられますが、ラップ口座内の源泉徴収税額計算で考慮されない場合には、確定申告を行うことにより、上場株式等の譲渡等に係る収入金額から控除することができるものと考えられます。なお、令和4年以降は、当該ラップ口座内で所得計算に反映されるため、確定申告を要しないことになります。   (了)

#No. 419(掲載号)
#西川 真由美
2021/05/13
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