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〔中小企業のM&Aの成否を決める〕対象企業の見方・見られ方 【第14回】「他人事ではいけない調査の心得」~調査機関の会計的視点編~

〔中小企業のM&Aの成否を決める〕 対象企業の見方・見られ方 【第14回】 「他人事ではいけない調査の心得」 ~調査機関の会計的視点編~   公認会計士・税理士 荻窪 輝明   《今回の対象者別ポイント》 買い手企業 ⇒M&Aの調査機関の会計的視点を売り手の実態把握に活かす。 売り手企業 ⇒M&Aの調査で特に見られている取引や調査機関の会計的視点を知る。 支援機関(第三者) ⇒M&Aの調査機関による会計的視点を知ってM&Aの助言と支援に活かす。 その他の対象者 ⇒M&A調査のポイントを通じて対象企業の見方・見られ方のヒントにする。   1 調査で重視する時間軸と評価軸 調査機関が売り手企業に対して実施する調査は、主に財務の視点から売り手の実態把握に努める財務デューデリジェンス(財務DD)という方法が多くとられます。では、財務につながるすべての事項をくまなく調べているかというと、そうとは限りません。通常、調査には時間や人手の制約があるので、何を重視して、何を優先するかの方針を調査機関側であらかじめ決めてから臨む場合が多くなっています。 このとき、重視する項目や優先度合を考えるために欠かせないのが時間軸と評価軸です。時間軸や評価軸の影響を受けやすい勘定科目や取引については、調査機関がより重点的に調査を行います。 (1) 時間軸 時間軸とは、ある取引の会計(経理)処理をする上で早く計上するか遅く計上するかの計上時期を表します。本来計上すべき年月日よりも早く計上しているか遅く計上している場合、正しい年月日に会計処理を修正する必要があります。 時間軸が関係する取引は、収益や費用の計上時期といったP/Lの数値に影響する取引で多く見られ、中小企業M&Aの調査の過程では、修正しなければならない取引として、多く指摘されるものの1つです。このケースで会計処理の修正を伴う取引の中には、うっかりによるミスだけでなく、ごく稀に意図的ではないかと疑われるものも含まれます。 調査“時点”の売り手の実態把握が財務DDの主な目的なので、日付が正確に記録されているかどうかは調査機関にとっての重大な関心事であり、「誤りが多い場合」や「多額の誤りがある場合」、「意図的に計上時期を歪めている場合」は、調査機関や買い手の心証を害する恐れがあります。 調査で計上時期を疑うケースは比較的期末日前後の取引に集中しやすいので、売り手としては、毎年の決算期末日前後の取引については、特に意識して正しい時期に会計処理をするよう気を付けたいものです。 加えて、経過勘定といわれる前払費用、未収収益、前受収益、未払費用といった主に決算整理で使用されるこれらの勘定科目については、毎期、計上漏れや誤りがないかどうかを確認します。 (2) 評価軸 上記(1)の時間軸に比べて、評価軸は、売り手の会計処理自体は誤っているわけではないけれど、調査時点の売り手の実態を数値でよりリアルに表現する必要性から帳簿価額(簿価)を修正する場合が多い性質のものです。売掛金や未収入金について相手先からの代金回収が確実といえない場合に、引当金を積むほどではないので取引時点の簿価のまま計上していたが、調査機関としては回収が不確実な金額を織り込んで、より保守的に損失とみなして修正するようなケースが想定されます。 この軸に該当する取引(勘定科目)としては、ほかにも次のようなケースが想定されます。主にB/Sの資産の部に計上する勘定科目がこの軸の中心になります。 【評価軸に該当する取引(勘定科目)と想定されるケース】 ◆在庫(原材料、仕掛品、商品・製品など) 陳腐化、型落ち、季節外れ、規格変更などの理由で簿価ほどの売値にならない場合に評価損とみなす場合があります。 ◆有価証券・ゴルフ会員権・デリバティブ取引(金融機関に勧められた金利スワップやオプション取引など) 市場価額、実質価額(投資・出資先の1株当たり純資産額)の含み損益を加味した評価額とする場合や、50%以上時価が下落している有価証券に損失があるとみなす場合があります。 ◆貸付金・立替金 長期の未回収や回収が滞っている相手先からの回収が困難なものと判断して損失とみなす場合があります。 ◆預け金・入会金・保証金・出資金・電話加入権 契約書記載の内容や契約実態などから返還予定がないと考えられる取引については、回収されない(換金しがたい)資産と考え、損失とみなす場合があります。 ◆不動産(主に土地・建物) 不動産鑑定評価額、公示価格(相続税路線価などにより把握する場合も含む)、近隣の売買事例による取引価格、固定資産税評価額などの把握を通じて、現在の価額が簿価を上回る又は下回る場合に含み損益を加味した評価額とする場合があります。調査の多くの場合で、含み損=評価損の有無に着目します。 ◆償却資産(減価償却を行う有形固定資産など) 減価償却費の不足又は超過があると考えられる場合に簿価を修正(加減算)する場合があります。 ◆保険積立金 解約返戻金の額などについて、保険会社を通じて確認した結果を踏まえて帳簿価額を修正する場合があります。 (3) 引当金 将来予想される損失や発生しそうな費用の金額を現時点で見積もっておくための引当金について、会計のルール(会計基準など)を踏まえた会計処理を行い、M&Aの調査時点での売り手の実態を表すために反映させる場合があります。 中小企業のM&Aの調査過程で修正がよく見られる引当金の種類は、「賞与引当金」「退職給付引当金」「役員退職慰労引当金」です。帳簿上これらの引当金を計上していない場合が多いですが、過去に役員・従業員に対する賞与や退職金の支払い実績がある、あるいは、今後の支払い予定があるとき、近い将来において会社から支払われる賞与や退職金の予定金額を合理的に見積もることができる場合には、これらの引当金を調査上の必要性から計上する場合があります。   2 「あるのにない」「ないのにある」ように見せる会計処理は論外 取引がないのに架空の取引を装って会計処理がされている(決算書に計上する)ケース、取引があるのに会計処理を避ける(決算書に計上しない)ケースを稀に見かけます。いずれもM&A以前の問題ですから当然にタブーですし、このような取引が発覚すると、買い手の信用はおろか、取引金融機関からの信頼まで失います。M&Aの調査にあたって売り手は過不足なく、すべての取引が網羅的に会計処理を通じて決算書に計上されていて、計上している取引はすべて実在するものであると確証を得られるようにするための普段の心がけが肝心です。 調査機関からすれば、決算書に計上されている取引であれば調査を通じて誤りの発見が可能ですが、計上されていない取引の発見は難しく、過去の資料などを手掛かりに地道な調査を行うしかありません。それだけに発見や発覚による影響は大きく、M&Aの成立にも影響します。 (了)

#No. 418(掲載号)
#荻窪 輝明
2021/05/06

コロナ禍に伴う企業の解雇・雇止めにおける留意点 【第1回】「解雇を行う場合の留意点」

コロナ禍に伴う企業の解雇・雇止めにおける留意点 【第1回】 「解雇を行う場合の留意点」   特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ   はじめに 2020年1月に日本国内で新型コロナウイルス感染症の陽性者が確認されてからすでに1年3ヶ月が経過している。この間、収束するかに見えた時期もあったものの、2021年1月には再度の緊急事態宣言が発令され、また、3月以降は変異ウイルス感染者の増加がみられるなど、依然として先行きが不透明な状況が続いている。 厚生労働省がまとめた「新型コロナウイルス感染症に起因する雇用への影響に関する情報について」によれば、新型コロナウイルス感染症に起因する解雇・雇止めの見込み労働者数は累計で102,153人(2021年4月23日時点)であり、この長期混乱の中で、解雇や雇止めを選択せざるを得ない会社が多い状況になっている。しかし、コロナ禍であっても、安易な解雇や雇止めは訴訟などの労務トラブルにつながりかねない。 そこで本稿では、解雇・雇止めについての基本的な考え方やコロナ禍における留意点を2回にわたって確認したい。 第1回は、「解雇」についてその留意点を確認する。   1 解雇 労働契約法16条では、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と規定している。 解雇は、使用者からの申し出による一方的な労働契約の終了であるため、容易には認められず、その実施にあたっては客観的合理性と社会通念上の相当性が求められ厳しく制限されている。   2 整理解雇 解雇には、大きくわけて「普通解雇」と「懲戒解雇」があり、また、普通解雇の1つに「整理解雇」がある。 整理解雇は、業績不振などの経営上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた場合に、雇用調整の1つである人員削減のために行われる解雇をいうが、裁判例からその有効性は次の4要件(要素)から判断されると解されている。 〈整理解雇の4要件〉 ① 人員削減の必要性 人員削減のための解雇が企業経営上の必要性に基づいているか。 ② 解雇回避努力 人員削減のための解雇を実施する前に、配置転換、出向、一時休業、希望退職の募集などの手段により解雇を回避するための努力をしたか。 ③ 人選の合理性 人員削減のための解雇の対象者の選定基準は、客観的・合理的で、それを公正に適用したか。 ④ 解雇手続の妥当性 労働組合や労働者に対して、人員削減のための解雇の必要性やその時期・規模・方法、解雇対象者の選定基準について納得を得るために説明を行い、誠実に協議したか。   3 コロナ禍における解雇 コロナ禍における業績不振のため人員削減をせざるを得ない場合に行う解雇は、前述の整理解雇にあたる。したがって、解雇するにあたっては、コロナ禍であっても前述の整理解雇の4要件(要素)を踏まえた対応検討が必要になる。 また、以下の点を補足したい。 (注1) 長栄運送事件(神戸地裁平成7年6月26日判決・労判685号60頁):判決理由の中で、「人員整理の必要性について、阪神大震災による道路事情の悪化、港湾施設の甚大な被害による港湾運送業者の業績の悪化を挙げるが、道路事情は震災直後の事情からみれば急速に改善されつつあるし、港湾施設の復旧も急ピッチでなされていることは顕著な事実であり、震災後、(一部省略)解雇までの間に6名が退職している事実もあり、整理解雇の必要性について疎明があるものとはいいがたい」と言及された。 (注2) 雇用調整助成金:事業活動の縮小を余儀なくされた場合に従業員の雇用維持を図るため休業などを実施する事業主に対して休業手当などの一部を国が助成する制度。   4 解雇制限など 整理解雇の4要件(要素)を踏まえて解雇する場合であっても、解雇にあたっては次のルールがあるため注意が必要になる。 (1) 解雇制限(労働基準法19条) 業務上の傷病により療養のため休業する期間とその後30日間、産前産後の休業期間とその後30日間は解雇することができない。ただし、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となり労働基準監督署長の認定を受けた場合等においては、制限規定が除外される。 (2) 解雇の予告(労働基準法20条) 解雇しようとするときは、30日前に予告を行うか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければならない。ただし、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となり労働基準監督署長の認定を受けた場合等においては、予告規定が除外される。 なお、予告の日数は平均賃金を支払った日数分だけ短縮することができる。 (3) 再就職援助計画(労働施策総合推進法24条) 事業規模の縮小等に伴い、1つの事業所において、1ヶ月以内に30人以上の離職者(事業規模の縮小等による離職者をいい、自己都合による退職者等は含まれない。ただし、事業規模の縮小等に起因する事情による離職者は含まれる)が見込まれる場合、最初の離職者が生じる日の1ヶ月前までに「再就職援助計画」を公共職業安定所に提出して認定を受けなければならない。 (4) 大量雇用変動届(労働施策総合推進法27条) 1つの事業所において、1ヶ月以内に30人以上の離職者(事業規模の縮小等による離職者のほか、自己都合による退職者等も含まれる)が発生する場合、最後の離職が発生する日の1ヶ月前までに「大量雇用変動届」を公共職業安定所に提出しなければならない。   *   *   * 次回は、「雇止め」の留意点について確認する。 (了)

#No. 418(掲載号)
#岩楯 めぐみ
2021/05/06

対面が難しい時代の相続実務 【第1回】「コロナショックがもたらした激変」-コロナ“以前”と“以後”の現場の状況-

対面が難しい時代の相続実務 【第1回】 「コロナショックがもたらした激変」 -コロナ“以前”と“以後”の現場の状況-   クレド法律事務所 弁護士 栗田 祐太郎   1 2020年コロナショックによる激震 令和の時代は、期せずして「コロナ」という3文字とともに歩みを始めた。 2020年1月のダイヤモンド・プリンセス号の一件から始まった“コロナショック”によって、文字どおり、日本を含めて世界中の、さまざまな場面での日常生活は激変した。 本連載は、現在もまだコロナウイルスの感染拡大が終息しない状況のもとで、①コロナがもたらした「人との接触・対面をできるだけ避けるべき(非対面・非接触)という社会的要請」と、従前からの社会の動きである「IT化・オンライン化」という波が相続実務にどのような影響を与えているか、そして、②このような状況下で、われわれ実務家はどのような工夫ができるかを考えてみたい。 なお、税理士や弁護士といった士業の日常業務で非対面化・非接触化が問題とされる場合、大きく分ければ、 の2つの側面に大別されよう。 本連載では、このうち「(1)事務所の「外」との関係」を取り上げることにしたい。   2 筆者の日常業務において実際に起こった変化 検討の出発点として、第1回では、コロナ下で推移した2020年3月以降において、筆者自身の日常業務に起こった変化を具体的に紹介したい。 相続実務に関係するものとして、次のような場面での変化が挙げられる。 場面①-法律相談・依頼者との打合せ コロナによってまずもって大きく変化した点は、この場面である。 従来も、依頼者が遠方に居住していたり、深夜の時間しか空きがないような場合には電話やメールでの打合せを行ってきたが、大部分は事務所に来所してもらい、直接顔をあわせて打合せを行ってきた。 コロナ前は、Zoom等を利用してオンライン上でお互いの顔が見える形で打ち合わせることは、筆者の事務所では実施した例はなかった(依頼者の側からも特にそのような要望はなかった)。 しかし、コロナ後は、上記のあり方が180度転換した。 相談・打合せは原則として電話やメール、Zoomを利用した非対面方式で実施するようになった。これは、既存の顧客でも新規顧客でも変わりはない。 打合せの内容や依頼者の希望によっては、現在でも面談で打合せを行うこともあるが、会議室のイスの配置や打合せ中・打合せ後の室内の換気やテーブルの消毒等、感染防止に配慮しようとするといろいろな手間がかかるのが実情である。 それもあって、筆者の場合は、極力、来所・面談での打合せは遠慮していただくようお願いをしている。 場面②-相手方弁護士との示談交渉 従来は、たとえば遺産相続に関連して相手方となる本人や代理人弁護士と交渉を行う場合、相手方が遠方のときは別として、事務所や弁護士会館の打合室にて面談し、リアルの場で示談交渉を行うのが常であった。 しかし、コロナ後は、このような示談交渉の場面でも電話やZoom等を利用することで、なるべく対面・面談を避ける形で交渉を行っている。 お互いに東京在住で、会おうと思えば会える距離の弁護士同士がZoom等を使って示談交渉を行うという方式は、コロナ前にはまったく考えつかなかった発想であった。 場面③-民事裁判手続 通常の民事訴訟の場合、大半の事件では1回の裁判期日はおよそ5~20分前後である。このような短時間のやり取りのためだけに、わざわざ電車を乗り継ぎ、遠方であれば移動時間だけでも半日近くを費やすような状況が、長年にわたり当たり前の状態にあった。 しかし、コロナ後は、以前は電話会議システムの利用が許可されなかった近隣の裁判所(筆者の場合であれば、最寄りの東京地裁など)の事件でも、裁判所のほうから積極的に、電話会議や新たに導入されたウェブ会議システムを利用した形での手続進行を打診されるケースが非常に多くなった。 ただし、家事調停事件や高裁の事件は、東京での取扱いを見る限り、2021年5月現在では電話会議やウェブ会議システムへの切替えはまだそれほど進んでいないようである。 場面④-研修・研究会等 筆者が個人的にありがたいと思っていることの1つが、上記の場面である。 コロナ以後は、研修会やセミナー、学会等はほぼ全てがオンラインに切り替わった。従来であれば、開催地が遠方であったりスケジュールが合わない場合には研修等への参加が難しかったが、オンラインで開催・配信されることにより、開催地や移動時間が障害とならずに、自宅で気軽に参加できるようになった。 特に、海外で開催される学会やシンポジウム、海外のスピーカー(演説者)が主催するセミナーについては、従来は長期の休みを取り、飛行機に乗って海外のセミナー会場に出向いて参加するしか方法がなかった。これらがコロナ後はこぞってオンライン開催されることにより、渡航費や宿泊費、移動時間も要せずに自宅にいながらにして参加できる機会が増えたことは非常にありがたい。 コロナが沈静化した後も、ぜひこのような取扱いを続けてほしいと思っている。   3 相続実務の現場に押し寄せる“非対面化の波” 冒頭でも触れたように、もともと社会のIT化の流れによって進んでいた“オンライン化”の波に、コロナによる“非対面・非接触”の社会的要請とが合わさることにより、今後もより一層、相続実務のあらゆる場面で“非対面”方式の導入が進んでいくことは疑いがないものと思われる。 そこで、本連載では、相続実務で頻出するような具体的場面を取り上げ、コロナ後に筆者がどのような取組みや工夫をしているか、また筆者が見聞きした範囲でどのような取組みがなされているかを紹介していきたい。 なお、弁護士と公認会計士・税理士の先生方との業務内容や関心の違いというものが少なからずあると思われるため、連載を読まれての疑問や質問、テーマのご要望等がもしおありであれば、ぜひお寄せいただきたいと思う。 (了)

#No. 418(掲載号)
#栗田 祐太郎
2021/05/06

空き家をめぐる法律問題 【事例34】「空き家を売買する場合の留意点」

空き家をめぐる法律問題 【事例34】 「空き家を売買する場合の留意点」   弁護士 羽柴 研吾   - 事 例 - 私は、相続した建物を所有していますが、売却をしようと考えています。空き家バンクに登録をして買主を見つけようと思いますが、空き家バンクの場合、買主と直接交渉する必要があると聞いたこともあります。 空き家バンクを利用して売却をする場合、どのようなことに留意すればよいでしょうか。   1 はじめに 空き家を売却しようとする場合、まず問題となるのは、どのようにして買主を見つけ、どのような条件で売却するかであろう。また、空き家は老朽化しており、売買契約後に法的紛争が発生するリスクも新築物件に比べて高いと思われるため、紛争発生を予防する方法も検討しておく必要がある。 そこで、今回は、空き家のような中古住宅を売却する場合の留意点について検討することとしたい。   2 空き家バンクの利用と媒介契約の要否 近年、地方公共団体の中に、空き家の売却等を促すため、空き家バンクを設置し、空き家の売主と買主とのマッチング事業を行うところが増えている。地方公共団体の位置付けは、空き家情報の登録と情報提供に留まるが、宅地建物取引業者の媒介を受けることを空き家バンクの登録の条件としているところもあれば、当事者間で直接交渉を認めるところもある。 仲介手数料を支払う必要がなくなるため、特にコストを下げることを希望している契約当事者からすれば直接交渉による方法を選択することにメリットがあると思われる。一方で、中古住宅に関する紛争予防の観点からも、媒介契約の要否を検討しておく必要がある。 この点に関して、中古住宅に関する建物状況調査(※)に関する平成28年の宅地建物取引業法(以下「宅建業法」という)の改正が注目される。宅地建物取引業者は、①媒介契約締結時に、依頼者に対して、建物状況調査を実施する者のあっせんの有無を説明するとともに(同法第34条の2第1項第4号)、②建物状況調査を実施したときは、重要事項説明時に、その結果を説明する義務を負う(同法第35条第1項第6号の二イ)。また、宅地建物取引業者は、③売買契約の締結時に、基礎、壁、柱のような構造耐力上主要な部分の状況を双方当事者と確認し、その結果を書面で交付することとなった(同法第37条第1項第2号の2)。 (※) 建物状況調査とは、建物の構造耐力上主要な部分又は雨水の侵入を防止する部分として国土交通省令で定めるものの状況の調査であり、同省令で定める者によって行われるものをいう(宅建業法第34条の2第1項第4号)。なお、実務上、インスペクションとも呼ばれている。 このように、中古住宅については、宅建業法上、建物状況調査を実施するか否かを検討する機会が保障されており、実際に調査が行われる場合には、当該建物の状態を当事者の共通認識とすることができる。このことは、下記3で言及する紛争予防の観点から有益であり、直接交渉によるよりも媒介契約を利用した方が適当であるように思われる。   3 現状有姿条項と瑕疵担保責任・契約不適合責任 従来、売買の目的物に瑕疵がある場合、売主は、買主に対して、瑕疵担保責任を負う旨規定(民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)第570条)されており、当該瑕疵の有無は、当該売買契約において予定されていた品質・性能に照らして、売買契約当時の取引観念等を踏まえて判断するものと解されていた(最判平成22年6月1日民集64巻4号953頁)。 具体的には、瑕疵の有無は、当該目的物の利用目的やこれに対する各種規制等を踏まえて、当該空き家が通常有すべき品質や性能を有しているかを判断することになる。なお、東京地判平成29年1月12日判タ1455-241は、シェアハウスについて、一般的な居宅であるもののシェアハウスとして利用されている性状の目的物と認定した上で、契約締結当時、シェアハウスが建築基準法上の寄宿舎に該当する旨の国土交通省の通知が発出されていなかったことを理由に、同法に関する公法的規制を考慮することなく、瑕疵の有無を判断しており、瑕疵の有無の判断方法を理解する上で参考となる。 また、不動産の売買契約においては、目的物を現状有姿で引き渡す旨の条項(現状有姿条項)が設けられることがあるところ、現状有姿条項がある場合に、売主は、そのことを理由に瑕疵担保責任を負わない旨主張できるだろうか。 裁判例では、現状有姿条項は、契約締結後から引渡しまでの間に、目的物の状態に変化があったとしても、売主は引渡時の状態で引き渡せば足りることを意味するに留まり、当該条項があるからといって、売主の瑕疵担保責任が免除されることまでは意味しないと解される傾向にある。 そのため、瑕疵担保責任の免除条項がない場合には、買主は、売主に対して瑕疵担保責任を追及できる可能性がある。逆に言えば、瑕疵担保責任の免除条項がない場合には、現状有姿条項が瑕疵担保責任を免除する意味まで含んでいるかどうかを、契約に至る目的や経緯等から解釈して判断することになる(もっとも、実際には、経年劣化等は、瑕疵の対象から外れるものと解釈される傾向にあるように思われる)。 現行民法においては、瑕疵担保責任は削除され、売主は、種類、品質、数量に関して、契約の内容に適合しないものである場合に責任(契約不適合責任)を負うルールに変更された(民法第562条)。そのため、契約不適合責任の判断に当たっては、当事者間において、どのような内容が合意されていたのかを、売買の経緯や目的、当事者の目的物の状態に関する認識等を考慮して判断していくことになる。 そうすると、どのような目的や前提で売買契約を締結したのかを事後的に確認できるかが重要となる。この点、前掲東京地判が買主の利用目的を考慮したように、契約書に買主の利用目的を記載しておくことも有益であろう。 また、上記2のとおり、宅地建物取引業者の媒介がある場合には重要事項説明が行われ、建物状況調査が行われるような場合には、当事者間が前提とした目的物の状態を特定することも比較的容易である。これに対して、当事者間のみで直接交渉をして契約書を作成するような場合には、代替的な方法として、少なくとも目的物の状態等を買主との間で直接確認して書面化するような対応が望まれる。 (了)

#No. 418(掲載号)
#羽柴 研吾
2021/05/06

〈小説〉『所得課税第三部門にて。』 【第44話】「中尾統括官、Twitterにハマる」

〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第44話】 「中尾統括官、Twitterにハマる」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   「何をしているのですか?」 浅田調査官は、うつむきながら、しきりにスマートフォンの画面に指を走らせている中尾統括官に声をかける。 中尾統括官は、驚いたように顔をあげる。 「いや・・・」 中尾統括官は、照れ笑いをして、頭をかく。 浅田調査官は中尾統括官に近づき、スマホの画面を覗く。 「Twitter・・・ですか?」 浅田調査官は、真面目な顔をして、尋ねる。 スマホの画面には、Twitterのロゴマークである「青い鳥」が映っている。 「しかし、これは・・・面白いものだな・・・」 そう言うと、中尾統括官は満足そうに画面を見る。 「私のツイートに対して、実に反応が早いんだ。」 中尾統括官は、浅田調査官の顔を見る。 「この前なんて、こんなツイートをしたら・・・すごい反応があったんだ。」 中尾統括官は、自身がツイートした画面を浅田調査官へ自慢げに見せる。 「納税者に、租税回避をそそのかすようなことをツイートしては駄目ですよ。」 画面を見た浅田調査官は、渋い顔をする。 「問題点を指摘しているだけだよ。ただ・・・反応はすごいだろう・・・」 中尾統括官は、自慢そうに言う。 「まあでも・・・このImpressionsは、統括官のツイートがユーザーに表示された回数ですから、かなりの人が見た・・・ということですね。」 浅田調査官が感心したようにコメントする。 「ツイートには140字の文字制限があるから、ダラダラとは書けない・・・その意味で、Twitterは、文章力を鍛えるのに適している『場』であると思うんだ。」 中尾統括官は、ニヤリと笑う。 「それに、Total engagementsは、クリック、リツイート、返信、フォロー、いいね、などの好感度の合計数を示しているから、1,178という数字は、立派ですね。」 浅田調査官の言葉に、中尾統括官は満足そうに頷く。 「・・・ところで・・・所得税法56条は、なぜ、租税回避になるのですか?」 浅田調査官は、真面目な顔で質問する。 「それは、所得税法56条を適用すると、子は母親から地代を受け取るが、その地代は課税されない代わりに、母親の不動産所得の必要経費にもならない・・・結果的に子は無税で地代を受け取ることができる。・・・もちろん、母親は子の分まで税金を払うことになるが・・・母親の財産を減らして、子に財産を多く渡すという、相続税対策になるのでは・・・」 中尾統括官は、ペンを取り、図を描き始める。 「所得税法56条の適用がなければ、母親と子がそれぞれ申告し、次のようになる。」 「そして、所得税法56条が適用されると、子の税金については、結果として、母親が負担することになるから、次のようになる。」 中尾統括官は、ペンを動かしながら、説明する。 「そうすると、所得税法56条を適用することによって、母親の財産の一部が無税で子に移転したことが、これを見れば分かるだろう。」 中尾統括官は、満足そうに、自分の図を見る。 「・・・ということは、納税者は、所得税法56条を使って、相続税対策ができる・・・ということなのですね。」 浅田調査官は、中尾統括官の顔を見る。 「私は・・・以前から、ここが所得税法56条の問題点だと思っていたから・・・つい余計なことをツイートしてしまったんだ。」 中尾統括官は、頭を掻きながら、苦笑いをした。 (つづく)

#No. 418(掲載号)
#八ッ尾 順一
2021/05/06

《速報解説》 4月23日の緊急事態宣言発令を受け、金融庁、改めて有価証券報告書等の提出期限の取扱いを公表

《速報解説》 4月23日の緊急事態宣言発令を受け、 金融庁、改めて有価証券報告書等の提出期限の取扱いを公表   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2021(令和3)年4月26日、金融庁は、「新型コロナウイルス感染症に関連する有価証券報告書等の提出期限について」を公表した。 これは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、2021(令和3)年4月23日に、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が発令されたことに伴うものである。 2021(令和3)年1月8日にも、金融庁は、同様のものを公表している。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 金融庁の公表 次のことについて記載している。 (了)

#No. 417(掲載号)
#阿部 光成
2021/04/28

《速報解説》 保険契約等に関する権利の評価を見直す所基通36-37の改正案がパブコメに付される~令和3年7月1日以後に行う保険契約等に関する権利の支給より適用予定~

《速報解説》 保険契約等に関する権利の評価を見直す所基通36-37の改正案がパブコメに付される ~令和3年7月1日以後に行う保険契約等に関する権利の支給より適用予定~   Profession Journal編集部   先月にも一部新聞報道がなされていた、いわゆる低解約返戻金型保険を使った節税策への対応として、本日(2021年4月28日)付け、国税庁は所得税基本通達36-37を見直すパブリックコメントを公表した(意見募集は5月27日まで)。 現行では、使用者が役員や従業員に対し保険契約等(生命保険契約若しくは損害保険契約又はこれらに類する共済契約)に関する権利を支給した場合、支給時において保険契約等を解約した場合に支払われることとなる解約返戻金の額で評価する取扱いとされている。 他方、「低解約返戻金型保険」や「復旧することのできる払済保険」など解約返戻金の額が著しく低いと認められる保険契約等については、第三者との通常の取引において低い解約返戻金の額で名義変更等を行うことは想定されないことから、支給時解約返戻金の額で評価することは適当ではないとして、今回の見直しに至った。 改正案では、保険契約等に関する権利について、支払保険料の一部を前払保険料として資産に計上する取扱いが定められている法人税基本通達の取扱いを踏まえ、使用者が、役員や従業員に対して、解約返戻金の額が著しく低いと認められる次の保険契約等に関する権利を支給した場合には、それぞれ次の金額で評価することとしている。 (注) 「支給時資産計上額」とは、使用者が支払った保険料の額のうちその保険契約等に関する権利の支給時の直前において前払保険料として法人税基本通達の取扱いにより資産に計上すべき金額をいい、預け金などで処理した前納保険料の金額、未収の剰余金の分配額等がある場合には、これらの金額を加算した金額をいう。 今回の見直しの対象は、法人税基本通達9-3-5の2の適用を受ける保険契約等に関する権利としているが、法人税基本通達の他の取扱いにより保険料の一部を前払保険料に計上する「解約返戻率の低い定期保険等」及び「養老保険」などについては、保険商品の設計などを調査したうえで、見直しの要否を検討するとしている。 改正後の所得税基本通達の取扱いは、令和3年7月1日以後に行う保険契約等に関する権利の支給について適用することが予定されている。 なお、法人税基本通達9-3-5の2は令和元年の改正通達によって新設されたものだが(詳しくは[こちら]を参照)、その取扱いは令和元年7月8日以後に締結する保険契約等について適用するとされていることから、同日前に締結した保険契約等は、原則として見直しの対象にならないとの見解を示している。 〈所得税基本通達36-37の新旧対照表〉 (了)

#No. 417(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2021/04/28

プロフェッションジャーナル No.417が公開されました!~今週のお薦め記事~

2021年4月28日(水)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.417を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2021/04/28

船舶の評価を巡る贈与税決定処分等の取消訴訟において全部取消が認められた事例-東京地裁令和2年10月1日判決(平成28年(行ウ)第413号:贈与税決定処分等取消請求事件)- 【第3回】

船舶の評価を巡る贈与税決定処分等の 取消訴訟において全部取消が認められた事例 -東京地裁令和2年10月1日判決 (平成28年(行ウ)第413号:贈与税決定処分等取消請求事件)- 【第3回】 (最終回)   弁護士法人東町法律事務所 弁護士 木下 雅之   5 本判決のポイント-今後の実務に与える影響等- (1) 定期傭船契約で見込まれる収益価値の評価の必要性の明確化 船舶、特に本件のように定期傭船契約の付された船舶の価値の評価については、船価鑑定の専門業者の見解もまちまちであり、不動産のように確立した鑑定の方法が存在しているわけではない。また、我が国において船価鑑定を行う専門業者は、極めて限られているという特殊な事情も存在する。本件は、そのような特殊性を有する船舶の価値の評価が正面から争点となった事例である。 評価通達は、このような船舶の価額について、原則として売買実例価額又は精通者意見価格等を参酌して評価するものとしているが、これは、平成20年の評価通達改正時までに中古船舶の取引市場が形成されてきたことなどを踏まえたものであるとともに、評価時の市況や評価対象船舶の内容等によっては適切な売買実例が抽出できない場合があることも考慮して、船価鑑定を行い船舶取引の実情に通じた精通者による価格評価(精通者意見価格)を参酌するとしたものと解される。 もっとも、「精通者」と認定される者が算定した意見価格を参酌してさえいれば、課税処分がすべて適法とされるわけではなく、本判決も指摘するとおり、当該意見価格自体が合理性を有するものであることが前提となることは言うまでもない。 一方で、例えば、評価時に定期傭船契約が付されている船舶であっても、当該契約を解約して船舶を売却する前提で鑑定を依頼する場合や、金融機関が当該船舶の担保価値を把握するための参考として鑑定を依頼する場合など、一般的に、船価鑑定は、定期傭船契約の付されていない状態の船舶(カラ船)の鑑定を行うことも多い。そのため、船価鑑定の専門業者の中には、定期傭船契約付き船舶の鑑定を行う場合でも、船体自体の価値(カラ船としての価格)のみを評価するという取扱いを行っている専門業者も存在する。 本件でYが依拠した船価鑑定業者であるP社も、カラ船としての価格の算定を依頼されることが多く、船価鑑定において定期傭船契約が付されていることを考慮に入れた価値の評価を行ったという実績はほとんど有していなかった。 しかしながら、本件のように、株式の贈与時における定期傭船契約付き船舶の客観的な交換価値が評価の対象とされている場合には、当該契約が評価時以降も存続することが当然の前提となるといえるから、船体自体の価値(カラ船としての価格)を評価することのみでは足りず、評価対象船舶に付された定期傭船契約において見込まれる収益価値の評価を行うことが必要であり、この点を明確に判示したことが、本判決のポイントの1つといえる。 (2) 今後の実務に与える影響 かかる「見込まれる収益価値の評価」において、市場傭船料の指標となるデータが傭船期間3年までのものしか公表されていなかったことを理由に、契約上の残存傭船期間にかかわらず、調整期間を3年に限定したP社の鑑定方法は、合理性を欠くものと判断された。 今後、本件と同様に、相続税又は贈与税の決定処分において定期傭船契約付き船舶の評価が争点となる事案においては、処分行政庁の依拠する鑑定評価が、定期傭船契約において見込まれる収益価値を適切に評価しているかどうかが重要なポイントの1つとなるが、前述したとおり、我が国においては船価鑑定を行う専門業者が限られているという点も、実際の訴訟の場面においては留意を要する。 本件においても、訴訟提起後に、YがP社・Q社以外の船価鑑定業者5社に対して、船価鑑定の方法一般についてヒアリングを行い、その結果を証拠として提出していたこともあって、本件訴訟においては、いずれの当事者からも、別途、裁判上の鑑定の申請(民事訴訟法第212条、民事訴訟規則第129条参照)はなされなかった。 そのため、本件訴訟に顕出された精通者意見価格は、各当事者が提出するP社・Q社の2つの私的鑑定のみであったところ、裁判所は、これらの意見価格について、まず、Yが依拠するP社の価格評価の合理性を検討し、その合理性が否定される場合に、Xの依拠する価格評価を採用することができるか否かについて検討するという判断方法を用いた(P社・Q社の各意見価格を相対的に検討し、どちらの鑑定評価のほうがより合理的かを判断する方法を用いたわけではない)。 かかる判断枠組みについて、「固定資産評価基準」に基づく「土地」の価格に関して示された最高裁平成25年7月12日判決民集67巻6号1255頁(TAINSコード:Z999-8323)の射程が、「財産評価基本通達」に基づく「船舶」の価格についても及ぶことを前提とするものであるのか、本判決の内容からは明らかではないが、少なくとも、本判決が上記のような判断方法を用いて審理を行ったことは、今後の実務において、参考になるものと思われる。 納税者側としては、単に自らが依頼する船価鑑定業者の鑑定評価の合理性を主張立証するだけでは足りず、まずは、処分行政庁が依拠する船価鑑定業者の鑑定評価の不合理性を主張立証しなければならないが、船価鑑定業者が限られている(定期傭船契約が付されていることを考慮に入れた価値の評価を行っている専門業者は更に限られる)ことなどの事情も併せ考慮すると、かかる主張立証に困難を伴う場面も想定され得るところである。 (連載了)

#No. 417(掲載号)
#木下 雅之
2021/04/28

NPO法人の解散に必要な会計・税務の知識

NPO法人の解散に必要な会計・税務の知識   税理士・中小企業診断士・行政書士 脇坂 誠也   はじめに 1998年の特定非営利活動促進法(以下「NPO法」という)の制定以降、NPO法人は増加の一途をたどり、2014年には5万法人を超えた。しかし、その後はおおむね横ばいに推移している。新たなNPO法人が設立される一方で、解散するNPO法人も増加していることがわかる。新型コロナウイルスの感染拡大により、多くのNPO法人がその運営や事業活動に大きな影響を受けていることから、今後は解散するNPO法人がより一層増加することが見込まれる。 そこで本稿では、NPO法人が解散するにあたって必要となる会計・税務の知識や手続きについて解説する。   1 NPO法人とは NPO法人は、正式には「特定非営利活動法人」という。1998年にできた法人格で、市民が行う自由な社会貢献活動の健全な発展を促進し、もって公益の増進に寄与することを目的とする、公益法人の一種である(NPO法第1条)。 NPO法人の特徴として、以下のようなことが挙げられる。 なお、NPO法人の認証権及び監督権を持つ行政機関を「所轄庁」といい、原則として所轄庁は主たる事務所が所在する都道府県知事になるが、その事務所が一の指定都市の区域内のみに所在する場合は、その指定都市の長になる(NPO法第9条)。   2 NPO法人の現状 NPO法人は、2021年2月28日現在で、所轄庁に認証されている法人は、50,991法人ある(内閣府 NPOホームページ「認証申請受理数・認証数」より)。1998年にNPO法ができてから、右肩上がりで法人数が増加していたが、2014年に5万法人を超えてからは同じくらいの数で推移している。その理由としては、2008年に公益法人改革があり、一般社団法人として設立する法人が増えてきていること、所轄庁が認証を取り消す法人が増えてきたこと、解散する法人が増えてきたこと、などが挙げられる。 なお、解散数は20,404法人ある。かなり多くのNPO法人が、解散をしていることがわかる。   3 NPO法人の解散の方法 (1) NPO法人が解散をする方法 NPO法人が解散するのは、以下の7つの場合である。このうち、②の社員総会で解散の決議をすることが大部分だと思われる。 (2) 社員総会の決議で解散をする場合 社員総会で解散の決議をする場合には、社員の自主的な判断で解散することができる。この場合、原則として、総社員の4分の3以上の承諾による決議が必要である。この4分の3という数字は定款の定めにより増減することができる。 解散の総会で決議するのは、以下の事項である。 NPO法人は、構成員に利益を分配してはならないので、残余財産を一定の法人に分配する必要がある。NPO法では、残余財産の分配先は、以下の者から選定しなければならないとされている。 (3) 社員総会の開催が困難な場合 役員や社員が集まらず、解散に関する理事会及び総会の開催が困難である法人は、以下の方法で解散することができる。 ① 社員が1人も存在しない場合 非社員である者(役員)は存在するが、社員が1人も存在しない状況である場合、社員の欠亡を理由として解散をすることができる。この場合において、法務局で解散登記をする際は、社員の欠亡を証明する書類(全社員の退会届等)が必要となる。 ② 目的とする事業の成功が不能な場合 目的とする特定非営利活動に係る成功の不能を理由として、所轄庁でその事由について認定された場合は、解散をすることができる。この場合、成功の不能を証明する書類を所轄庁に提出する必要がある。なお、所轄庁の認定後、法務局において解散登記を行う際には、 成功の不能を証明する書面及び所轄庁の認定書が必要となる。 ③ 役員が存在しない場合 社員は存在するが、役員が1人も存在しない状況である場合は、定款に基づく社員総会の開催(役員の選任)や解散登記等もできない状況であり、これによって、法人運営が停滞することはもとより取引をする相手方にも損害を生じさせる恐れもあることから、NPO法第17条の3に基づき、まずは所轄庁に仮理事を選任してもらい、社員総会を招集し、新たな役員を選任した上で、解散議決を得ることが考えられる。   4 解散後、清算結了までの手続き 解散後、清算結了までの手続きを、社員総会の決議で解散した場合を例にしてみていくことにする。 (1) 解散及び清算人の登記 社員総会で解散の決議をしたら、2週間以内に、主たる事務所の所在地を管轄する法務局において解散及び清算人の選任の登記をする(登録免許税は非課税)。登記にあたって必要な書類は、以下の通りである。 (2) 所轄庁への解散届出書の提出 解散と清算人就任が登記された登記事項証明書の原本を添付して、所轄庁に解散届出書を提出する。解散届出書の様式は、各所轄庁のホームページに掲載されている。 (3) 解散の公告 解散をした場合には、官報に債権の申出の公告を行う。公告は、1回以上、官報掲載の日から少なくとも2ヶ月間掲載する。この官報による解散の公告は、たとえ債権者がいないと思われる場合でも、法人が把握できていない債権者がいる可能性もあるため、NPO法により必ず行わなければならない。 また、すでに法人で把握している債権者がいる場合は、この官報による解散の公告とは別に、個別に債権者に対して催告をしなければならない。 (4) 残余財産の確定、分配 公告の期間が終わり、債権債務の支払いがすべて終わったら、清算人は残余財産を確定して、残余財産の分配を行う。 (5) 清算の登記 残余財産の分配が終わったら、法務局に清算の登記を行う。その際に、清算事務報告書と財産目録、貸借対照表が必要である。 (6) 所轄庁へ清算結了届出書の提出 清算結了が登記された登記事項証明書の原本を添付して、所轄庁に清算結了届出書を提出する。   5 税務署及び都道府県税事務所、市町村役場への提出書類 次に、解散及び清算をした場合に、税務署、都道府県税事務所、市町村役場にどのような書類を提出すればいいのかを見ていくことにする。 収益事業を行っているかどうかにより、取扱いが違ってくるので、分けて説明することにする。 (1) 解散をした場合 ① 収益事業を行っている場合 収益事業を行っていて解散をした場合には、解散をした日で収益事業を廃止することになるので、収益事業廃止届出書を提出するとともに、解散の日までで法人税等の申告をする必要がある。 法人税法上は、みなし事業年度規定があり、事業年度開始の日から解散の日までを一事業年度とみなすことになるためである。 また、解散をした後については、収益事業を行っていないので、法人税の申告は不要である。 ② 収益事業を行っていない場合 収益事業を行っていない場合には、税務署への届出は不要である。都道府県税事務所及び市町村役場へは異動届出書を提出する。 (2) 清算をした場合 清算をした場合には、税務署、都道府県税事務所、市町村役場へ異動届出書を提出する。   6 所轄庁への事業報告書、会計報告書の提出 (1) 解散をした場合 解散をした場合には、解散届出書の提出は必要だが、NPO法には法人税法のような「みなし事業年度規定」はないので、解散の日までの事業報告書や会計報告書の提出は不要である。ただし、事業年度末を解散の日としている場合には、その事業年度の事業報告書及び会計報告書を3ヶ月以内に提出しなければならない。 (2) 清算期間中の提出 清算期間中であっても、事業年度終了後3ヶ月以内に事業報告書と会計報告書を提出する必要がある。 NPO法には、会社法や一般社団法人及び一般財団法人に関する法律にあるような、清算期間を規定した条文がなく、清算期間中も定款に定める会計年度で提出をすることになる。 事業報告書や会計報告書の提出期限前に法人の清算が結了し、法人が存在しないこともあり得るので、そのような場合に事業報告書や会計報告書の提出が必要であるかどうかは、所轄庁に確認をしたほうがよいと思われる。 (了)

#No. 417(掲載号)
#脇坂 誠也
2021/04/28
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