《速報解説》 会計協、「監査基準の改訂に関する意見書」の「その他の記載内容」の改訂等を受け、「農業協同組合法に基づく会計監査に係る監査上の取扱い及び監査報告書の文例」等の改正(公開草案)を公表 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年4月22日、日本公認会計士協会は次のものを公表し、意見募集を行っている。 これは、「監査基準の改訂に関する意見書」(2020年11月6日、企業会計審議会)及び「監査基準委員会報告書720「その他の記載内容に関連する監査人の責任」」(2021年1月14日)等を受けたものである。 意見募集期間は2021年5月31日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 「監査基準の改訂に関する意見書」において、監査した財務諸表を含む開示書類のうち当該財務諸表と監査報告書とを除いた部分の記載内容、すなわち「その他の記載内容」について、監査人の手続を明確にするとともに、 監査報告書に必要な記載を求める改訂が行われた。 監査報告書では、「その他の記載内容」又は他の適切な見出しを付した区分を設けて記載する(監基報720第20項)。 そこで、各公開草案において、「その他の記載内容」に関する規定を設け、「付録 独立監査人の監査報告書の文例」を改正する内容となっている。 Ⅲ 適用時期等 2022年3月31日以後終了する事業年度(会計年度)に係る監査から適用する。 ただし、2021年3月31日以後終了する事業年度(会計年度)に係る監査から適用することができる。 (了)
《速報解説》 会計士協会がリモートワークに伴う各企業の課題や 監査上の課題の整理を目的とした取りまとめを公表 ~労務管理、メンタルケア、OJTなど監査人側の問題にも指摘~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年4月22日、日本公認会計士協会は、「リモートワークを俯瞰した論点・課題(提言)」を公表した。 これは、リモートワークに伴う各企業の課題や監査上の課題の整理を目的とするものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 企業活動に関連して監査人の理解すべきリモートワークの課題 次の2つに分けて考察し、クラウド会計システムを利用したデジタライゼーション、在外子会社とのシステムの共通化、電子署名等の活用などについて述べている。 Ⅲ 監査人におけるリモートワークの課題 監査人はリモートワークによる内部統制の変化及びその重要な虚偽表示リスクに与える影響について、ウォークスルーなどを通じ、過去の理解にとらわれずに慎重に評価することが重要である。 リモートワークを背景とした証憑の電子化は、証憑の改竄を容易にするため、原資料の真正性の確保や検証可能性の確保、電子署名等の活用によるなりすまし・改竄防止の必要性といった課題がある。 リモートワーク拡大に伴い、監査チームも各々が遠隔地で業務する形が定着してきていることから、次の監査人側の問題が指摘されている。 Ⅳ 情報セキュリティに関する課題 監査法人におけるサイバー攻撃への対応などの情報セキュリティに関する課題が指摘されている。 (了)
《速報解説》 会計士協会、「新型コロナウイルス感染症に関連する 監査上の留意事項(その5-2)」を公表 ~電子形式で経営者確認書の原本を入手する際の留意点を示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年4月23日、日本公認会計士協会は、「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その5-2)」を公表した。 これは、電子形式によって経営者確認書の原本を入手する場合の留意点を示すものである。 2020年5月の「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その5)」は、紙媒体により経営者確認書を入手する場合に、日付と署名又は記名のある経営者確認書を改竄不能なPDF等で入手し、後日、署名又は記名捺印のある経営者確認書の原本を紙媒体によって入手する方法を示していた。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 PDF等電子形式で経営者確認書を入手する場合には、経営者確認書に記された提出者である経営者本人が記載内容について承知したものであること(本人識別性)及び作成後に記載内容の変更が生じていないこと(非改竄性)が確保されていること等に留意する必要がある。 本人識別性及び非改竄性が確保されていれば電子形式により経営者確認書を入手することができ、その場合には改めて紙媒体により経営者確認書を入手する必要はないと考えられるとしている。 (了)
《速報解説》 国税庁、令和2年10~12月までの路線価等の補正対象地域及び地価変動補正率を公表 ~1月下旬公表時から対象地域の追加・除外も~ Profession Journal編集部 国税庁はコロナ禍を受けた地価下落により、地価変動補正率による路線価の補正が必要な地域として、既報のとおり本年1月26日に、令和2年7~9月までの路線価等の補正を行う地域及びその地価変動補正率を公表していたが、4月23日付けで、それに続く「令和2年10~12月までの路線価等の補正を行う地域及びその地価変動補正率」を明らかにした。 この期間(令和2年10~12月)において、対象地域に所在する土地等を相続、遺贈又は贈与により取得した場合には、路線価に地価変動補正率を乗じた価額に基づき評価額を算出する。また、贈与による取得の場合は、個別の期限延長により、今回の公表日(令和3年4月23日)から2ヶ月以内の贈与税の申告・納付が認められる。 なお、この対象地域については、1月公表時に路線価を補正する可能性がある地域とされていたものから、新たに大阪府(大阪市中央区)の「心斎橋筋1丁目」が追加され、愛知県(名古屋市中区)の「錦3丁目」が対象から外れている。ただし「錦3丁目」についても対象地域と同様、申告・納付期限の延長を認めるとしている。 7月~9月分を含む対象地域及びその地価変動補正率は以下のとおり。 〔令和2年分 地価変動補正率表〕 (※) 国税庁ホームページより (了)
2021年4月22日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.416を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第1回】 「憲法上の租税概念」 -旭川市国民健康保険条例事件・最[大]判平成18年3月1日民集60巻2号587頁- 大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫 Ⅰ はじめに 本連載は、「谷口教授と学ぶ」シリーズとして、昨年(2020年)12月に第50回をもって連載を終了した「税法の基礎理論」に続くものであり、「税法基本判例」と題して税法判例を検討するものである。 とはいえ、通常行われるような判例評釈や判例研究を主たる目的とするものではなく、「税法の基礎理論」と同じく原則1回読み切りの「読み物」として税法判例を検討しようとするものであることから、検討対象の判例が取り扱った論点を網羅的に検討するのではなく、むしろ筆者の問題関心により論点を絞って(内容的には「税法の基礎理論」的思考を重視しながら)検討しようとするものであることを、連載を始めるに当たって予めお断りしておく。 本連載で検討の対象とする判例は、基本的には、拙著『税法基本講義〔第6版〕』(弘文堂・2018年)で参照している判例の中から、同書における叙述の順に従って取り上げていくことにする。 今回は、旭川市国民健康保険条例事件・最[大]判平成18年3月1日民集60巻2号587頁(前掲拙著・欄外番号【9】【12】。以下「本判決」という)を取り上げることにしよう。 この事件は、平成6年4月12日にY1(旭川市-被告・控訴人・被上告人)を保険者とする国民健康保険の一般被保険者(全被保険者から退職被保険者及びその被扶養者を除いた被保険者)の資格を取得した世帯主であるX(旭川市民-原告・被控訴人・上告人)が、平成6年度から同8年度までの各年度分の国民健康保険の保険料について、Y1から賦課処分を受け、また、Y2(旭川市長-被告・控訴人・被控訴人)から所定の減免事由に該当しないとして減免しない旨の通知処分を受けたことから、Y1に対し上記各賦課処分の取消し及び無効確認を、Y2に対し上記各通知処分の取消し及び無効確認をそれぞれ求めた事案である。 この事件における争点は、国民健康保険料に対して憲法84条による規律(租税法律主義)が適用されるか否かであるが、その出発点として、憲法84条に規定する「租税」の意義が問題となる。以下では、この問題を中心に検討することにする。 Ⅱ 講学上の租税概念 1 租税概念の要素 本判決は、前記の争点について判断するに当たり、その冒頭において、憲法84条に規定する「租税」の意義について次のとおり判示している。 本判決は、いわゆる保育料の租税該当性を否定した最判平成2年7月20日集民160号343頁とは異なり、大嶋訴訟・最[大]判昭和60年3月27日民集39巻2号247頁を引用してはいないものの、前記の判示は、同判決における「租税」の意義に関する判示、すなわち、「租税は、国家が、その課税権に基づき、特別の給付に対する反対給付としてでなく、その経費に充てるための資金を調達する目的をもつて、一定の要件に該当するすべての者に課する金銭給付である」という判示を踏襲したものと解される。 これらの判示にいう「租税」は、講学上の租税概念と基本的には同じものであると一般に解されている(差し当たり、講学上の租税概念を「固有の意義の租税」として同様の理解を示すものとして阪本勝「判解」最判解民事篇平成18年度(上)(法曹会・2009年)312頁、324頁参照)。講学上の租税概念については代表的な学説において下記のとおり概ね見解の一致がみられるところである(①=田中二郎『租税法〔第3版〕』(有斐閣・1990年)1-2頁、②=清永敬次『税法〔新装版〕』(ミネルヴァ書房・2013年)2頁、③=金子宏『租税法〔第23版〕』(弘文堂・2019年)9頁)。 租税の意義について、本判決による前記の定義も含め以上の定義に共通すると考えられる基本的要素は、相互に重なり合う部分もあるが、一応、㋑国家ないし国・地方公共団体、㋺課税権、㋩非対価性ないし無償性、㊁収入目的ないし資金調達目的、㋭権力性ないし一方性(強制性)、㋬金銭給付の6つに整理することができるように思われる(田中・前掲書2頁、清永・前掲書3頁、金子・前掲書10-11頁参照)。 2 課税権の意義 本判決は、租税の意義に関する前記の判示に続けて、「市町村が行う国民健康保険の保険料は、これ[=憲法84条に規定する租税]と異なり、被保険者において保険給付を受け得ることに対する反対給付として徴収されるものである。」と判示し、前記の㋩非対価性という要素を基準にして国民健康保険料の租税該当性を否定した。 この判断についてまず疑問に思われるのは、本判決がなぜ㋺課税権という要素を援用しなかったのかという点である。租税概念の前記の各要素のうち㋑、㊁、㋭及び㋬は、全く同一の意味においてではないにしても、国民健康保険料の要素でもある。すなわち、国民健康保険料は、市町村(㋑)が国民健康保健事業に要する経費を調達する目的(㊁)で強制加入制に基づき強制徴収(㋭)を行う金銭給付(㋬)である。しかし、国民健康保険料が㋺課税権に基づき課されるものでないことは明らかである。そうである以上、本判決が㋺課税権という要素を援用せず㋩非対価性という要素のみを援用して国民健康保険料の租税該当性を否定したのはなぜか、疑問に思われるのである。 この疑問を検討するに当たって、以下では、本判決は㋺課税権と㋩非対価性とを一体的に結びつけて判断したのではないかとの仮説を立て、その論証を行うことにしたい。 その論証を始めるに当たって、まず、課税権の意味を明らかにしておこう。「課税権」という語は、論者によって、また、文脈・場面によって、異なる意味で用いられる。例えば田中・前掲書によれば、ⓐ「国又は地方公共団体が統治権の主体として有する課税権」(2頁)という場合における「統治権の一環」(3頁)、ⓑ「行政権の一環としての課税権」(56頁)、Ⓒ「主権の発現としての租税高権」(106頁)、ⓓ「税務行政庁が租税債権の具体的確定のためにする処分、すなわち、更正若しくは決定(申告納税方式の場合)又は賦課決定(賦課課税方式の場合)をすることができる権利(公法上の一種の形成権)」(159頁。198頁も参照)というような意味が示されているが、田中・前掲書がⓓの意味での「課税権」(賦課権)と区別する「徴収権」すなわち「すでに確定した租税債務の履行として納付された税額を収納し、又はその履行を請求し、その収納をはかることができる権利」(159-160頁)も、見方によっては、次に述べるように、「課税権」に含めて理解することができるように思われる。 租税法律関係を租税債務関係とみる場合(租税債務関係説)には、「租税債権者としての国または地方団体の権利は、確定権と徴収権とに大別することができ」、「納税義務の内容を確定する権利」を確定権といい、「内容の確定した納税義務の履行を求め、その徴収を図る権利」を徴収権ということができる(金子・前掲書154頁)。この場合、確定権について、「従来は、賦課権という言葉が一般的に用いられてきたが、納税義務は法律の定める課税要件の充足によって成立し、更正・決定・賦課決定は租税を賦課する行為ではなく、納税義務の内容を確定する行為であるから、賦課権とか賦課処分という言葉を用いるのは不適当であると考える。」(同頁)といわれるが、この考え方は、田中・前掲書にみられる前記の用語法に租税権力関係説のいわば「残滓」を認めるものと解される。 ともかく、金子・前掲書の上記の考え方からすれば、確定権も徴収権も国又は地方公共団体の権利である以上、それらの権利を「課税権」に含めて理解することができ、さらには、それらの権利において確定や行使の対象となるⓔ租税債権それ自体も「課税権」に含めて理解することができるように思われる(前掲拙著【24】参照)。 この点について(そして、次のⅢ1における検討についても)、次の考え方は示唆に富むものである。それは、「課税権は公法的なものであるが、その結果生ずる租税債権には私法的性格が濃厚に残っているのである。」(中里実『財政と金融の法的構造』(有斐閣・2018年)57頁[初出・2014年])として、「租税は、主権と財産権の狭間に位置する存在といえるのではなかろうか。」(同58頁)と述べるものである。 Ⅲ 憲法上の租税概念の2つの側面 1 租税債権の目的としての租税 本判決が租税の意義に関してその要素として判示する「課税権」を、前述のようにⓔ租税債権の意味に理解する場合、㋺課税権と㋩非対価性とは一体的に結びつけて捉えることができると考えられる。その理由は以下のとおりである。 ここでは、まず、国家がなぜ租税債権を有するのかという問題から考えることにしよう。この問題は、国民がなぜ租税債務すなわち「納税の義務」(憲法30条)を負うのかという憲法上の租税根拠の問題を、国家の側からみたものである。 憲法上の租税根拠論について、筆者は、従来から次のとおり(前掲拙著【24】)、「憲法30条=29条『4項』論」を説いてきた。 この考え方によれば、ⓔ租税債権という意味での「課税権」は、国家が自由主義体制を選択し私有財産制を保障することといわば「引き換えに」私人に対して有する権利であると考えることができる。比喩的にいえば、いずれが「卵」か「鶏」かはともかく、租税債権(課税権)があるから私有財産制があるといってもよいし、私有財産制があるから租税債権(課税権)があるといってもよかろう。いずれにせよ、両者がこのような関係にあるが故に、租税は財産権にとって「内在的制約」であるといえるのである。 このことは、私有財産制に基礎を置く私人の自由な経済活動の「場」である市場には、租税はそれ自体としては登場しないことを意味する。換言すれば、租税は、市場を基礎づける私有財産制の中核的内容を構成するとはいえ、市場外の事象である。 そうすると、租税には、市場における交換経済の構成要素である対価性(給付に対する反対給付)は観念できないことになる。このことが、㋩非対価性が租税概念の要素とされる所以である。 以上により、「課税権」をⓔ租税債権の意味で理解する場合、㋺課税権(租税債権)に基づき課される租税、すなわち、租税債権の目的としての租税については、㋩非対価性がその属性として観念されることになるのである。この意味で、㋺課税権と㋩非対価性とは一体的に結びつけて捉えることができよう。 要するに、本判決は、憲法84条に規定する租税について租税債権の目的としての側面を問題にし、その属性としての㋩非対価性を基準にして、国民健康保険料の租税該当性を否定したものと解されるのである。 なお、本判決は、「Y1における国民健康保険事業に要する経費の約3分の2は公的資金によって賄われているが、これによって、保険料と保険給付を受け得る地位とのけん連性が断ち切られるものではない。」と判示する。ここでいう「けん連性」は対価性と言い換えてもよかろうが、それは、国民健康保険が、社会保険の一種として「国民の生活保障という社会政策目的に沿った扶助原理(扶養原理ともいわれる)によって修正」(加藤智章ほか『社会保障法〔第7版〕』(有斐閣・2019年)22頁[倉田聡執筆])を受けてはいるが、基本的には保険原理(給付反対給付均等の原則及び収支相等の原則)という市場原理に従って構想されており、その意味では市場内の事象であるからである。 この点に関連して、本判決が括弧書の中で「国民健康保険税は、前記のとおり目的税であって、上記の反対給付として徴収されるものであるが、形式が税である以上は、憲法84条の規定が適用されることとなる。」と判示したことにつき、「判旨全体との整合性には疑問がある」(藤谷武史「判批」租税判例百選〔第6版・2016年〕9頁)と指摘されることがある。理論的には成り立つ疑問であるが、その判示は、「日本国憲法の下では、租税を創設し、改廃するのはもとより、納税義務者、課税標準、徴税の手続はすべて前示のとおり法律に基いて定められなければならないと同時に法律に基いて定めるところに委せられていると解すべきである。」(下線筆者)という判例(最[大]判昭和30年3月23日民集9巻3号336頁。前掲大嶋訴訟・最[大]判も同旨)の立場を踏襲し、租税の創設を含め租税立法につき広範な裁量を認めたものと解される。 2 統治権の手段としての租税 ところで、本判決は、国民健康保険料に対して憲法84条が直接適用されるとはしなかったが、次のとおり判示して(下線筆者)、同条の趣旨が適用されることは認めた(憲法84条「趣旨」適用説。同説については拙稿「租税法律主義(憲法84条)」日税研論集77号(2020年)243頁、255頁参照)。 ここでいう「国民に対して義務を課し又は権利を制限するには法律の根拠を要するという法原則」は、法律による行政の原理の内容の1つである法律の留保について妥当する「侵害留保の原則」(塩野宏『行政法Ⅰ〔第6版〕』(有斐閣・2015年)80頁)を意味することからすると、「[憲法84条は侵害留保の原則を]租税について厳格化した形で明文化したものというべきである」という判示では、「課税権」のうちⓐ統治権やⓑ行政権の一環としての課税権(前記Ⅱ2参照)に基づき課される「租税」が問題にされていると解される。 この意味での「租税」は、国家がⓐ統治権に基づき㊁資金調達目的でⓑ行政権によって㋭一方的に(強制的に)賦課徴収する㋬金銭給付であり、「統治権の手段としての租税」(目的は㊁)ということができるが、国民健康保険料はこれに「類似する性質を有する」公課といえる。本判決はこのような性質を有する国民健康保険料について「憲法84条の趣旨」が及ぶと判示したのである。 本判決のいう「憲法84条の趣旨」は、憲法84条が83条の財政民主主義を租税について具体化するものであること(前掲拙稿251頁参照)からすると、租税の賦課徴収に対する民主的コントロールの要請を意味するものと解されるので、その趣旨が国民健康保険料について及ぶということは、同保険料の賦課徴収に対する民主的コントロールを租税法律主義が要請することを意味すると解される。本判決は、その民主的コントロール(「賦課要件が法律又は条例にどの程度明確に定められるべきかなどその規律」)の在り方(規律密度)については、「当該公課の性質、賦課徴収の目的、その強制の度合い等を総合考慮して判断すべきものである。」と判示している。 本判決は、前述のとおり、「[憲法84条は侵害留保の原則を]租税について厳格化した形で明文化したものというべきである」と判示したが、この判示は、憲法84条は租税の賦課徴収に対する民主的コントロールを「法律」にのみ委ねるという原則を明らかにしたものと解される。その原則が租税法律主義であるが、憲法84条は、明治憲法下では基本的には自由主義的な法律による行政の原理として性格づけられていた租税法律主義を、財政民主主義の具体化として民主主義的に再構成したものと解される。このような租税法律主義の民主主義的再構成によって、課税要件法定主義が、そしてこれと「一体」をなす要請として課税要件明確主義が、租税法律主義の内容として確立されたのである(前掲拙稿250-254頁、275-279頁、谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」【第34回】Ⅱ3・4、【第45回】参照)。これらは、租税法律の規律密度を高めることを立法者に命じるものである。 Ⅳ おわりに 以上を要するに、本判決は、憲法84条に規定する租税について、一方では、租税債権の目的としての側面では、非対価性・無償性を基準にして国民健康保険料との区別を行うことによって、租税法律主義の適用範囲を明確にし、他方では、統治権の手段としての側面では、賦課徴収に対する民主的コントロールを国民健康保険料その他の公課の場合に比べて厳格化することによって、租税法律主義の規律内容を明確にしたものと解される。 このように、租税法律主義については、その適用範囲を検討する場合とその規律内容を検討する場合とで、憲法上の租税概念の異なる側面にそれぞれ着目する必要があると考えられる。前者の場合には、租税債権の目的としての側面に着目すべきであるが、その租税概念から非対価性・無償性の要素を導き出すためには、憲法上の租税根拠論にまで立ち返って検討する必要があると考えるところである。 なお、本判決が示した憲法上の租税の意義は、実定税法上の租税の意義についても基本的に妥当するものと解されている(ガーンジー島法人所得税制事件最判平成21年12月3日民集63巻10号2283頁参照。この判決については、谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」【第9回】Ⅱ1参照)。 (了)
〈判例評釈〉 ユニバーサルミュージック高裁判決 【第6回】 (最終回) 公認会計士・税理士 霞 晴久 (2) 本件8つの目的に対する「合理性」についての裁判所の考え方 本件控訴審判決は、本件8つの目的について、原審同様、 とし、いずれも不自然なものとはいえず、税負担の減少以外にこれを行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するということができると結論付けている。以上の裁判所の考え方は、納税者に多くの示唆を与えており、以下それぞれ検証する。 (※42) V社は、IF社を通じて貸し付けられた①U社の余剰資金(約363億円)及び②UMOの余剰資金(約2億ポンド)を外部の金融機関に①円建て及び②ポンド建てで預金していたところ、ヘッジポリシー(為替レートの変動により、連結貸借対照表に計上する外貨建ての金融資産の価値が目減りし、又は外貨建ての負債が増加するという貸借対照表リスクをヘッジするための為替ヘッジを行うポリシー)を有していたことから、①本件ユーロ・円通貨スワップ取引及び②本件ポンド・ユーロ通貨スワップ取引を行っていた。V社は、通貨スワップ取引の仕組み上、本件ユーロ・円通貨スワップ取引につき、円とユーロの金利差に基づく手数料(年間約800万ユーロ)を上記金融機関に対して支払うべきこととなっており(したがって、ユーロの高い金利により得られる利益を享受することができなかった)、本件ポンド・ユーロ通貨スワップ取引についても、将来、ユーロの金利が上昇するなどして両通貨の金利差が生じた場合には、上記のような手数料負担が生じる可能性があった。 (A) デット・プッシュ・ダウンの容認 一般に、企業グループにおいて、借入金の返済に係る経済的負担を資本関係の下流にある子会社に負担させることを「デット・プッシュ・ダウン」と呼ぶが、その経済的負担をグループ内のどの子会社に負わせるのかについて、判決は、「財務上の観点からは、規模が大きく多額の利益を計上している事業会社に対してより多くの債務を負担させることが合理的」と述べている。 本件で東京高裁は、過重な負債を負っていたUMG部門のオランダ法人(D1社及びポリグラム)のIF社又はGT社に対する負債を減少させるため、UMG部門の日本統括会社として設立されたXが、オランダ親会社からU社等日本の関連会社の株式を買い取り、各売主がその代金に相当する金員をD1社又はポリグラムに貸し付け、D1社及びポリグラムがIF社又はGT社に対する負債を返済することや、Xが、日本の関連会社の買取資金を調達するため、V社グループのCMSの統括会社であるIF社から本件借入れを行うこと(多額の営業利益を計上し支払利息が極めて少ない日本の関連会社が債務を負うこと)、また、規模が大きく多額の利益を計上している日本の関連会社に対してUMG部門における企業買収のために負担が過重なオランダ法人の負債の一部を負担させることは、V社の対外的な信用力を高め、V社グループ全体の財務態勢の強化に資するものであるから、資金効率の最大化を可能とするものとして、財務上の観点からみて、不自然とはいえず、その必要性、合理性を認めることができると判示し、結果的にU社の事業を引き継いだXの利益が圧縮されたとしても、グループ全体の財務の効率化の結果を優先するという考え方を示した。裁判所は、税額の減少という国側の犠牲を天秤にかけることなく、多国籍企業が行ったデット・プッシュ・ダウンを積極的に容認することで、わが国司法としての度量を示したものといえる。 なお、本件におけるXのU社等の買収資金のグループ内調達は、資本金が約295億円、本件借入れが約866億円であり、その負債資本比率がわが国の過小資本税制にいう3:1に収まるように計画されたことは自明であった。このことは原審では特に触れられていなかったが、控訴審判決では、その事実認定において、「Xは、IF社から借り入れた資金を元に、ターゲット企業の公正市場価格を同企業の株主に支払い、ターゲット企業の発行済み全株式を譲り受ける。日本の過小資本税制に適合させるべく、XがIF社に対して負っている債務の25%の返済を行うという目的(※43)で、Xの株主からXに対し資本払込みが行われる(下線筆者)」と判示することで、日本の過小資本税制に抵触することなく負債及び資本金の金額が決められたことについて、高裁自ら認めている。 (※43) 25%部分が資本金となり、残余75%部分が負債となって、結果的にわが国の負債資本比率に収まるということを意味するものと解される。 (B) 国際的CMSの肯定的理解 多国籍企業グループにおいて導入されるCMSは、プーリングサービス(※44)やネッティング(※45)等に代表され、財務・経理業務の合理化やリスク管理の高度化を図るだけでなく、グループ法人間における資金余剰と資金不足とを相殺してグループ全体の所要資金量を低減させる効果や、グループ法人の余剰資金を集中させて、より有利な資金運用を可能とする効果を生じさせるものとされている。 (※44) グループ内の統括会社の銀行口座とグループ法人の銀行口座の間で、資金移動を自動的に行うこと。 (※45) グループ法人間の支払を、銀行を通さず統括会社・グループ法人間の貸借に付け替えて清算すること。 本件控訴審判決は、「XがU社等を買収する資金を調達するための増資及び本件借入れにつき、その原資としてUMO及びU社の余剰資金を活用することは、V社グループのCMSにおいて外部の金融機関からの借入れ等の金融取引を一括して行っていたユーロ・円通貨スワップ取引及びポンド・ユーロ通貨スワップ取引を終了させ、これらの取引に係る手数料の負担を免れ、資産管理のコストを軽減させるとともに、円資金等に代えてユーロ資金を保有することができるようにするものである」と判示し、また、「本件資金決済と併せて他のグループ法人間の貸借等に関する資金決済を同時に実施することは、貸倒れリスクや信用リスクを回避し、これに要する費用を軽減させることができるものである」から、「V社グループ全体の資金効率の最大化や財務リスクの最適化を可能とするものとして、財務上の観点からみて、不自然とはいえず、その必要性、合理性を認めることができる」と判示し、V社グループのCMS業務を肯定的に理解している点が興味深い。 (C) 米国における課税メリットの享受 UMG部門の日本における統括会社としてのXの組織形態をわざわざ合同会社としたことについて、本件控訴審は、D1社の他の子会社と同様、米国税制上チェック・ザ・ボックス規則により構成員課税を選択することができるようになり、D1社の子会社間における売買や利息の支払等について米国法人UMGの課税対象所得に合算されないという税務上のメリットがあったことを認めている(※46、47)。 (※46) 太田洋『ユニバーサル・ミュージック事件 東京地裁判決の分析と検討〈下〉』(月刊 国際税務 Vol.39 No.12 46頁)は、「法132条1項の不当減少性要件(筆者注:本連載では「不当性要件」)が充足されているか否かを検討するに際して、対象となる行為又は計算の経済的合理性を基礎付ける事情の一つとして、外国において税務上のメリットを享受することも含めることができる旨を積極的に認めた裁判例は、筆者の知る限り、公開されたものでは過去に例がなく、極めて注目される」と述べている。 (※47) なお、IBM事件の原告・被控訴人(納税者)は有限会社形態を採用しており、納税者の直接の米国親会社が日本IBM株式会社の株式を納税者に売却した取引について、本件同様、米国税制上チェック・ザ・ボックス規則により構成員課税が選択され、内部取引として米国では課税されなかったとのことである。 ところで、判決では、米国における課税メリットに言及されているが、V社グループはオランダに数多くのグループ会社を設置しており、本件では、オランダにおいて、以下の課税メリットを享受したものと推察することができる(※48)。 (※48) 太田洋「ユニバーサル・ミュージック事件東京地裁判決の分析と射程」租税研究2020年2月号67頁参照。 以上から、本件組織再編スキームは、国際税務プランニングの見地から、用意周到に準備された相当大掛かりなものであったことが窺われる。 (3) 租税回避行為に対する異なるアプローチ-本件における「究極の」不自然さとは 本件8つの目的は、原審及び高裁判決が認めるように、いずれも、グループ内のガバナンスや財務の効率性の見地から合理的な企業行動であって、本来企業行動に対し中立的であるべきという税制上の立場から、これらの是非を論じること自体無理があるといわざるを得ない。グループ内の一連の本件組織再編取引は、いずれも、同族会社ゆえになし得たものということはできないし、Xが本件8つの目的を主張する限りにおいて、裁判所はどの途首肯せざるを得ないと思われる。 しかしながら、本件において、異常・不自然なものといえば、本件借入れの利率の高さであろう。品川教授は、「Xは、本件借入れによって、年利6.8%または5.9%という当時の日本の市場金利に比して相当高額な本件利息を支払い、しかも、本件利息がその支払い前のXの利益金額に相当するというのであるから、日本の法人税の納付を免れたことになる。そうなると、そのこと自体が本件借入れの目的であるようにも考えられる。また、この年利については、無担保であるから相応の高金利になる旨の指摘もあろうが、取得するU株式を担保に供することで日本国内であれば、1%前後の金利で借り入れることも可能であったはずである」(※49)と述べている。判決文に、XのIF社に対する本件借入れに係る返済は円で支払われるという記述があるため、本件借入れは円建てで実行されたと思われ、その意味で、本件借入れの金利水準の高さは際立っているといわざるを得ない。 (※49) 品川芳宣『同族会社間の高額借入れと同族会社の行為計算の否認』T&A master No.855 2020.10.26 21頁参照。さらに、品川教授は、「Xは、U株式を1161億6123万円(ママ)で取得するために本件借入れを行ったのであるが、当該U株式の『価額』がどのように算定されたのかについて全く論証されていない。これでは、U株式の購入自体の合理性に疑問が生じるが、本件借入れ有りきで、本件借入金から逆算してU株式の購入代金が決定されたのではないかという疑問さえ生じかねない。そうであれば、本件借入れの不合理性、不自然性について検討の余地があるようにも考えられる」と述べている。 本件については、現在であれば、法人税法132条ではなく、過大支払利子税制(租税特別措置法66条の5の2第1項)(※50)の枠組みで取り扱われる可能性も指摘されるが、同制度は平成24年度税制改正により導入されたものであることから、当然、それ以前の本件事業年度には適用されない。しかしながら、本件事業年度当時においても、本件利息は、国外関連者への支払に該当するため、移転価格税制上、本件利息が独立企業間価格に該当するか否かの検討が行われる余地はあったというべきであろう(※51)。 (※50) 法人の関連者純支払利子等の額が、当該法人の調整所得金額の50%を超える場合、その超える部分の金額の損金算入が否認される制度。BEPSプロジェクトの最終報告書(行動4「利子控除制限ルール」)を受け、平成31年(令和元年)度の税制改正で支払利子の範囲が拡大された。 (※51) 太田・前掲(※46)44頁は、「当時のわが国税制の下では、国境を越えた利払いによる課税ベースの浸食の問題は、過小資本税制、タックス・ヘイブン対策税制及び移転価格税制で対処する建付けとされていたところ、(中略)にも拘らず、本件支払利息の損金算入を法132条1項(ないし法132条の2)を適用して否認することは、過小資本税制、タックス・ヘイブン対策税制及び移転価格税制の適用範囲が租税法によって厳格に定められている趣旨を没却することになってしまいかねない」と述べている。 (連載了)
船舶の評価を巡る贈与税決定処分等の 取消訴訟において全部取消が認められた事例 -東京地裁令和2年10月1日判決 (平成28年(行ウ)第413号:贈与税決定処分等取消請求事件)- 【第2回】 弁護士法人東町法律事務所 弁護士 木下 雅之 4 裁判所の判断 (1) 船舶の評価に関する基本的な考え方 裁判所は、まず、「精通者意見価格」をもって船舶の客観的な交換価値であるというためには、少なくとも、当該精通者による船舶の価値の評価が、鑑定の目的に照らして合理的に行われたものであることが前提となるところ、船価鑑定の具体的な手法は精通者の間においても一様ではなく、鑑定方式の選択や価格形成要因の評価等の取扱いが異なっていることに照らせば、その合理性の認定は慎重に行わなければならないと判示した。 (2) 定期傭船契約付きの船舶の評価に関する基本的な考え方 また、裁判所は、定期傭船契約が付された船舶の評価に関し、定期傭船契約における傭船料の設定は、契約ごとの個別性が高く、見込まれる運航収益の多寡によって当該船舶の経済的価値は大きく異なり得るものであることから、定期傭船契約付き船舶の客観的な交換価値を得るためには、評価時以降も定期傭船契約が存続する蓋然性がある限り、当該契約において見込まれる収益価値を考慮して評価を行うことが相当というべきであるとした。 (3) 鑑定方法の選択 前述のとおり、定期傭船契約付きで中古船舶が売りに出されるケースはほとんどないため、船舶の評価にあたって「取引事例比較法」を選択する場合、比較対象として抽出される売買実例は、定期傭船契約の付されていない船舶となる。 この点、上記(2)で判示した「見込まれる収益価値を考慮して評価を行う」こととの関係について、裁判所は、中古船の買主は、売買価格の決定に際し、購入した船舶を傭船に出した場合にどの程度の運航収益を得られるかにつき、市場傭船料の相場を参考にした検討がされているものと考えられるから、比較対象として抽出した売買実例の価格には、市場傭船料により試算される運航収益の見込みが反映されているということができ、そのため、契約傭船料と市場傭船料の差額に基づく調整を適正に行えば、取引事例比較法によっても、定期傭船契約付き船舶の価値を評価することができる旨判示した。 したがって、定期傭船契約付き船舶の価格鑑定の方式としては、取引事例比較法又は収益還元法(DCF法)のいずれを採用するかによって直ちにその価格評価の適否が決せられるものではなく、これらの方式を用いて行われた鑑定の具体的な評価・算定方法の適否が更に検討されるべきものであるとした。 (4) P社の「取引事例比較法」の合理性について そのうえで、裁判所は、Yが依拠するP社の「取引事例比較法」について、①市場傭船料も傭船期間が1年のものと3年のものとでは大きな差が生じるように、傭船期間は、それ自体が傭船料を決定する際の重要な考慮要素の1つとなり得るものであること、②新造時からの長期の傭船契約ほど契約ごとの個別性が強く、契約傭船料が市場傭船料と乖離する可能性が高まるため、残存傭船期間が3年を超えるような長期の定期傭船契約において、残存傭船期間の当初の3年において市場傭船料との乖離が生じている場合には、その4年目以降においても、市場傭船料と契約傭船料との間に乖離が発生する蓋然性が高いことなどを理由に、P社が定期傭船料に係る調整の期間を3年に限定し、残存傭船期間の4年目以降につき定期傭船料に係る調整をまったく行わないことは、当該定期傭船契約において見込まれる収益価値の正当な評価を損なうものといわざるを得ず、合理性を欠くとした。 その結果、P社が取引事例比較法を用いて評価した33隻(当事者間において価格に争いのない1隻を除く)のうち、残存傭船期間が3年以下であった10隻の評価額は精通者意見価格として参酌することができるが、その余の23隻の評価額は精通者意見価格として参酌することはできないとしている。 (5) P社の「建造船価償却法」の合理性について さらに、裁判所は、Yが依拠するP社の「建造船価償却法」について、当該方式によって得られる船価は、評価時ではなく、あくまでも造船契約締結時の市況を反映したものであるから、造船契約締結時から評価時までの市況の変化について適切な補正がなされているか、あるいは補正を要しない特段の事情が認められない限り、評価時の船価を鑑定する方法としては合理性を欠くものといわざるを得ないと判示したうえ、市況の変化の補正がなされておらず、上記の特段の事情も認められない本件においては、P社が「建造船価償却法」を用いて評価した34隻(当事者間において価格に争いのない2隻を除く)の評価額は精通者意見価格として参酌できないとした。 (6) Q社の「収益還元法(DCF法)」の合理性について 一方、Xが依拠するQ社の「収益還元法(DCF法)」について、Yは、算定の基礎となる船舶管理費や割引率等の各要素の設定が恣意的であり合理性が認められない等と主張したが、裁判所は、詳細な検討を行ったうえ、Yの主張をいずれも排斥し、Q社が「収益還元法(DCF法)」を用いて評価した本件各船舶の評価額は精通者意見価格として参酌することができると判示した。 (7) 贈与税決定処分等の適否について 以上の結果、実際に争点となった本件各船舶67隻のうち、上記(4)の10隻についてはP社が取引事例比較法を用いて評価した価格を精通者意見価格として参酌し、その余の57隻についてはQ社が収益還元法(DCF法)を用いて評価した価格を精通者意見価格として参酌して、これに当事者間において価格に争いのない3隻の評価額を加えると、本件各船舶の評価額の総額は約1,747億円となり、更にこれに基づいて、B社株式の価額を評価すると、その価額は0円となるから、Xに対する贈与税決定処分及びこれに伴う無申告加算税の賦課決定処分は、いずれも違法であるとして、その全部を取り消した。 (続く)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例97(相続税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(措法69の4) 相続により取得した財産のうちに被相続人の事業の用又は居住の用に供されていた宅地等で建物や構築物の敷地の用に供されているものがある場合には、一定要件のもと、これらの宅地等につき一定割合の評価減が受けられる(下表参照)。なお、この特例は借地権にも適用がある。 ◆貸付事業用宅地等(措法69の4③四) 被相続人等の事業(※1)の用に供されていた宅地等(※2)を被相続人の親族が取得し、下記の要件を満たす場合の宅地等をいう。 (※1) 不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業に限る(以下「貸付事業」という)。 (※2) 相続開始前3年以内に貸付事業の用に供されたものを除く。ただし、相続開始前3年を超えて事業的規模による貸付事業(準事業以外のものをいう)の用に供されていたものは対象となる。 ◆小規模宅地等の特例における申告要件(措法69の4⑦) 小規模宅地等の特例の適用に関しては、申告要件が付されており、相続税の期限内申告書(その申告に係る期限後申告書及び修正申告書を含む)にこの特例の適用を受ける旨を記載し、一定の書類の添付がある場合に限り適用することとされている。 したがって、当初申告において小規模宅地等の特例の適用がある宅地等に特例を適用しないで申告した場合には、更正の請求はできない。 ◆小規模宅地等の特例における宅地等の選択替えの可否(措令40の2⑤) 小規模宅地等の特例の適用において、特例対象宅地等が2以上ある場合又は特例対象宅地等を取得した者が2人以上あるときは、その選択に関する一定の書類を相続税の申告書に添付することとされている。 したがって、特例対象宅地等の選択は、相続税の申告において確定することとなり、その後において、宅地等についての選択替えは認められず、更正の請求もできない。 ◆国税通則法における更正の請求事由の場合(通則法23①) 申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額が過大であるときは、法定申告期限から5年以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等につき更正の請求をすることができる。 したがって、例えば、小規模宅地等の特例の適用を満たしていない宅地等に誤って特例を適用し、後日これが判明した場合で、他に特例の適用を満たしている宅地等がある場合には、期限内の更正の請求により、改めて当該他の宅地等に小規模宅地等の特例を適用することができる。 (了)
固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第4回】 「大学附属病院を建築中の土地の固定資産税は非課税か否かで争われた判例」 税理士 菅野 真美 ▷固定資産税の非課税 固定資産税は、その年1月1日に土地、建物、償却資産を所有している者が、固定資産の価格を基に算定された税額をその固定資産の所在する市町村に納付するものである。 しかし、市町村は、国、都道府県、市町村、特別区等に対しては、固定資産税を課することができない(地方税法第348条第1項)。 また、政策的な配慮等から固定資産税の非課税措置が設けられているものもある。その中に「学校法人又は私立学校法第64条第4項の法人(以下この号において「学校法人等」という。)がその設置する学校において直接保育又は教育の用に供する固定資産」(地方税法第348条第2項第9号)がある。これは学校法人等の有する公の性質や学校教育において果たす重要な役割を考慮して、学校法人等が教育の用に供する固定資産について、政策的な観点から非課税にしたと考える。 では、「直接教育の用に供する固定資産」とはどのような固定資産をいうのか。 今回は、大学附属病院建築中の土地の固定資産税が非課税か否かで争われた事例を検討する。 ▷どのような事案か 時系列で経緯を書くと次のようになる。 ▷争点は何か 争点は、「直接教育の用に供する固定資産」か否かである。 ① 原告の主張のポイント 地方税法第348条第2項第9号の非課税要件の「供する」とは、大阪高等裁判所平成19年6月26日判決を前提に解すると、「実際にその用に使用している」固定資産という意味ではない。固定資産上の建物が建築中の段階であっても、契約や設計の内容が教育施設として判断されるものであるか否か等を実質的に判断し、教育用固定資産であると認定し得るときは、非課税対象の固定資産であると解すべきである。 処分行政庁は、固定資産税等の課税に際し、学校法人等の所有する同一土地における建替えであれば、工事期間中は、「直接教育の用に供する固定資産」に該当するものと扱い、非課税とする実務運用を行っている。工事期間中であっても、「直接教育の用に供する固定資産」に当たるとする根拠は、土地上の建物建築工事完了後はそのまま学校教育活動が行われる予定であるという点に求められているならば、同一土地上の建替えに限らず、学校教育活動の用に供する建物の建築中であれば、「直接教育の用に供する固定資産」に該当すべきである。 ② 被告の主張のポイント 原告は、「直接教育の用に供する固定資産」とは、実際にその用に供している固定資産ではなく、その機能・目的から直接教育の用に供されるべき属性の固定資産であるとの意味であると主張するが、この主張の要因となる大阪高等裁判所平成19年6月26日判決は、地方税法第348条第2項第12号の解釈が問題となった事案であって、同項9号の規定が問題となる本件とは異なる。本件の場合は、平成22年3月19日に売買により本件土地の所有権を取得しているが、同年1月1日も新病院の建築工事中であり、平成23年1月1日においても建築中であったということは賦課期日前において土地が教育活動のために利用することを常態としているものであったという事実が認められないから非課税要件に該当しない。 原告が、建替えに関する実務運用として、自己所有かつ同一土地における建替えについては非課税の適用を行う場合がある旨処分庁から回答を受けたというが、処分庁職員は教育の用に供していると認められる場合には地方税法第348条第2項第9号を適用することがあるとの一般論を説明したものにすぎず、法令上、非課税となるような定めはないし、そのような扱いをする実務運用もない。実際の非課税の適用に当たっては、個々の案件の賦課期日現在の現況を勘案して判断している。本件については、単に他人の所有する土地を取得し、本件賦課期日において建物を建築中であったというものにすぎないから、直接教育の用に供されていなかったことは明らかである。 ▷裁判所の判断 裁判所は、以下のように言及し、原告の請求を棄却した。 この判決は、ほぼ、行政庁の主張を受け入れている。厳しい印象もあるが、たとえば、住宅の敷地となっている土地(住宅用地)は、3分の1、6分の1の軽減措置がある。賦課期日(1月1日)時点で既存の住宅を取り壊し、新住宅の建築中であったとしても、原則的には軽減措置は受けられない。 しかし、一定の条件を満たす場合は、申告により軽減措置が認められている。この要件は、簡単にまとめると次のとおりである。 (※) 旧自治省固定資産税課長通達(平成6年2月22日付自治固第17号)参照。 * * * このように、住宅の建替えの場合は、原則的には、同一敷地、同一所有者によることを条件として軽減措置が認められている。 本件の場合、軽減でなく非課税であることから、より法律を厳格に適用することが求められている。もし、同一敷地内の建替えの場合で、住宅の非課税と同様の要件を満たした場合ならば、非課税が認められた可能性はあるかもしれない。しかし、隣地であったとしても、同一敷地内の建替えではなく、当年度の賦課期日における所有者と前年度の賦課期日における所有者が異なり、1年以上建築中であったことから、教育活動が実施されることを常態としている固定資産とは、とても判断できなかったのだろう。 (了)