〈注記事項から見えた〉 減損の深層 【第3回】 「ドラッグストアが減損に至った経緯」 -成長拡大路線の行方は?- 公認会計士 石王丸 周夫 〈はじめに〉 2020年、新型コロナウイルスの感染拡大で、インバウンド需要が消失しました。インバウンド需要を狙って成長拡大を目指していた会社では、何が課題になってくるのか。減損注記から読み解いていきましょう。 〈今回の注記事例〉 (出所:有価証券報告書) (※) 下線は筆者 〈インバウンド店舗の減損〉 この事例の減損の原因は2つあります。 ① 営業活動から生ずる利益が継続してマイナスとなっていること等 ② 新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う店舗の臨時休業 ①は「固定資産の減損に係る会計基準」で例示されている減損の兆候を示す事象です。この会社に特有のものというより、一般的な記載をしたものと見られます。 ②はこの会社特有の記載です。店舗の臨時休業により、売上が大幅に減少したということです。休業した店舗はインバウンド向け店舗とのことで、日本国内で新型コロナウイルスの感染が収まっても、海外旅行者が訪日できる状況になるのはさらに先だろうとの予想の下、「短期的な回復が見込めない」と記述しています。 詳しい情報を会社のホームページで確認すると、2020年4月17日付に公表された「新型コロナウイルス感染拡大に伴う店舗臨時休業に関するお知らせ」に、2020年5月1日より当面の間、ドラッグストア29店舗を臨時休業すると書いてあります(2020年6月以降、順次営業再開のアナウンスがなされています)。 この29店舗というのが、会社全体のどれくらいに当たるのかも気になります。2020年3月期決算説明会資料を参照すると、この会社の店舗数は、2020年3月期で1,168店舗となっており、内訳は、ドラッグストア876店舗、ディスカウントストア292店舗です。したがって、ドラッグストアだけで見ると、29店舗は3%程度に相当します。 割合からするとそれほどでもないという印象ですが、インバウンド向けということは、訪日外国人がやってくるような立地のはずで、家賃の高い都心の店舗ではないかと読めます。具体的な店舗名は、2020年4月20日付公表の「新型コロナウイルス感染防止に伴う臨時休業店名のお知らせ」で明らかにされており、新宿、渋谷、池袋、銀座、心斎橋等であることがわかります。 〈インバウンド消失のインパクト〉 以上の状況に基づき、将来の業績回復が短期的には見込めないとして減損処理を実施したわけですが、問題は、これが会社全体にとってどういう意味を持つかということです。 そもそもドラッグストア業界というのは、国内需要を念頭に置いたビジネスであり、人口減の日本においては、簡単には成長の見込めない分野です。その限られた需要を、同業他社や他の小売業と奪い合う(M&Aを含む)ことによって、個々の企業レベルでは成長拡大が可能となります。 ところが、ここ何年かはインバウンド需要により、国内需要の奪い合いという構図がやや緩んだと考えられます。成長拡大路線が以前よりも取り組みやすい目標になったはずなのです。 日本政府観光局の統計によれば、訪日外客数は2013年に約1,000万人でしたが、2019年は約3,000万人となり、6年で3倍規模になっています。観光庁の訪日外国人消費動向調査によれば、2019年の訪日外国人(中国人)旅行者の1人当たり旅行支出額は212,810円で、そのうち買物代は108,788円となっています。2019年の訪日外客数のうち中国人の数は9,594,394人なので、掛け算をすると約1兆円(108,788円×9,594,394人)になります。中国人旅行者だけでも、2019年1年間に日本で買い物をした金額が約1兆円というわけです。ドラッグストア業界の市場規模は、2018年度で約7兆円と報道されています。そこに占めるインバウンド需要はインパクトがあると考えて間違いないでしょう。 〈成長拡大路線をどうするか?〉 ちなみに、訪日外国人旅行者数の政府目標は、2020年に4,000万人、2030年に6,000万人とされていました(第2回 明日の日本を支える観光ビジョン構想会議「明日の日本を支える観光ビジョン(案)-世界が訪れたくなる日本へ-」(平成28年3月30日))。このインバウンド需要を狙えば、企業の成長拡大路線は取り組みやすい目標であったはずですが、今後見直しを迫られることは必至です。 この連載の【第2回】では、本業の関連事業への投資に関して経営環境が変化したケースを紹介しましたが、今回の事例は本業そのものの経営環境の変化です。経営への影響は、インバウンド需要への依存度や、新型コロナウイルス・ワクチンの普及スピードにもよりますが、インバウンド需要の回復が期待できない場合は、それに代わる新たな需要を掘り起こすか、多角化により別の事業を立ち上げるかしかありません。さもなければ、業界内あるいは小売業全体を巻き込んだシェア争いとなるのではないでしょうか。 インバウンド需要消滅による減損処理が行われた会社については、減損処理そのものよりも、成長拡大路線を今後どうするのかに注目したいです。 (了)
計算書類作成に関する “うっかりミス”の事例と防止策 【第37回】 「税率差異の注記に係るチェックポイント」 公認会計士 石王丸 周夫 1 税率差異の百分比が訂正されたケース 計算書類にはうっかりミスがつきものです。 実際、こんなミスが起きています。 【事例37-1】 いわゆる税率差異の注記で、数字が訂正されている。 ※下線が引かれている数字が訂正箇所。 (出所) 株式会社キャンドゥ「「第27 回定時株主総会招集ご通知」および「 法令及び定款に基づくインターネット開示事項 」の一部訂正について」 【事例37-1】は、計算書類の個別注記表に記載される「税効果会計に関する注記」の一部です。「法定実効税率と税効果会計適用後の法人税等の負担率との差異の主な内訳」という注記になります。 この注記の百分比の数字が訂正になっていますが、訂正の原因は外部からはわかりません。ただし、訂正前の数字の一部に、明らかに異常な点がありましたので、この連載で取り上げてきたうっかりミスの1つではないかと思われます。 明らかに異常な点というのは、訂正前の「税効果会計適用後の法人税等の負担率 63.3%」の百分比の数字です。以下説明していきます。 2 訂正前注記の異常点はここ まず、この注記の趣旨を簡単に説明しておきます。 この注記は、会社の法定実効税率と損益計算書上の法人税等の負担率とに差がある場合における、「差の説明」という意味合いがあります。 法定実効税率というのは、税法で定められている税率を元に計算された率のことで、会社の利益には法人税ほかいくつかの税金が課されるので、それらの税金を合わせるとどれくらいの税率になるのかというのを計算上求めたものです。【事例37-1】によれば、この会社のこの年度においては「30.6%」となっています。これは訂正前も訂正後も同じです。 これに対して、損益計算書上の法人税等の負担率というのは、実際に会社が負担した税額を税引前当期純利益で割り返した値です。負担した税額には税効果会計適用により計上された法人税等調整額を含みます。つまり、会計上の利益と税法上の所得に差異があって、それが将来解消すると見込まれるものについては、それを織り込んだベースの負担率になっているという意味です。 これらの2つの率は似たような値になるはずですが、実際にはそうならないことがあり、その場合に理由を示すというのが、この注記の趣旨です。 【事例37-1】の会社の実際の数値を使って、損益計算書上の法人税等の負担率を図で示すと以下のようになります。 この図によると、税効果会計適用後の法人税等の負担率は「63.7%」と計算されます。百万円単位の数字で計算しているため、誤差はありますが、それにしても訂正前の注記に示されている「63.3%」と比べると、少し差があります。 この点が明らかに異常な点というわけです。この異常が何らかのミスを原因とするものかどうかは断定できませんが、少なくとも原因調査すべきものであることは確かです。 3 この注記のチェックポイント 計算書類を外部公表する前にこのミスを検出するには、上に述べたように、注記に記載された法人税等負担率を損益計算書から計算される率と照らし合わせてあげる方法が効果的です。これは【第36回】で述べたクロスチェックの1つです。 この注記のチェックでは、法定実効税率の確認、縦の計算が合っているかどうかの計算チェックに加えて、法人税等の負担率のクロスチェックが必須というわけです。 ところで、今回取り上げた「法定実効税率と税効果会計適用後の法人税等の負担率との差異の主な内訳」の注記は、計算書類(個別注記表)においては、すべての会社に必須の注記ではありません。会社計算規則では、税効果会計に関する注記として、繰延税金資産及び負債の発生の主な原因の記載を求めています。税率差異には言及していないのです。 もちろん、【事例37-1】のように、この差異に重要性が認められるケースでは記載すべき注記だと考えられますが、そうでない場合は開示の必要がありませんので、差異の重要性の有無もチェックポイントの1つです。 なお、以上に加えて、差異の内容が会社の実態に即しているかどうかという確認が必要なことはいうまでもありません。【事例37-1】でいえば、差異の主なものは住民税均等割です。この会社は100円ショップを運営しているので、多店舗展開により住民税均等割が多額になりやすいのではないかと読めます。社内チェックであれば、こうした数字の背景は容易に把握できるはずですので、必ず確認しておきたいところです。 〈今回のまとめ〉 税率差異の注記については、損益計算書とのクロスチェックを実施しましょう。 (了)
〈事例から学ぶ〉 不正を防ぐ社内体制の作り方 【第4回】 「適切な売上計上のための「カットオフテスト」の実施」 米国公認会計士・公認内部監査人 打田 昌行 はじめに 上場企業は毎期、自社の内部統制の有効性を評価して、内部統制報告書に結果を表明しなければなりません。多くの上場企業は自社の内部統制が有効である旨を表明しますが、なかには、内部統制の非有効を伝える内部統制報告書も多く存在します。 非有効の原因はさまざまですが、なかでも目立つのは不正を含む不適切な会計処理を原因とするケースです。更にそれを分解してみると架空売上や売上の早期計上を理由として、内部統制が非有効と判断される場合が目を引きます。 世界的なパンデミックにより、景気が後退するなかで、経営陣にとって売上、利益の維持はなによりの急務ですが、他方で架空売上や早期計上は、自社の財務諸表の信頼性を著しく損なうことになります。 《1》 架空売上、売上の早期計上を考える 企業の最大の使命は売上、利益の極大化です。したがって、売上の計上といった場面で不正が起こりやすくなるというのも合点がゆく現象です。とはいえ売上の計上には会計上のルールがあり、いったん定めれば合理的な理由なく変更することはできません。 たとえば、企業は顧客へのサービスの提供の完了や商品・製品の出荷に基づき、請求書を発行し売上を計上します。この売上計上において、どのような不正のリスクが潜んでいるのでしょうか。以下の事例をもとに考えていきましょう。 ◎ 【事例】を分析する 《2》 収益認識の実務を考える 予防策の1つとしては、収益を認識するための根拠を、自社ではなく第三者の証明に求めるようにすることです。 まず、製品が出荷されたことを確認するため、製品の受渡しを示す配送業者のサインを入手します。たとえば、出荷指示書に配送業者が受取りを証するサインをすることを義務づけるのです。また、修理サービスが完全に提供されたことを客観的に証明するため、納品書や修理完了書に顧客のサインや押印を求めるようにします。 こうして財の出荷やサービスの提供が完了したことを第三者が証明する仕組みを作ります。第三者の証明による売上計上であれば、それは信頼に足るものといえましょう。逆にいえば、配送業者による出荷伝票へのサインや、納品書や修理完了書への顧客のサインや押印などのエビデンス(証拠)がなければ、売上を計上できない体制が必要です。 《3》 カットオフテストを推奨する 内部統制報告書を読んでいると、会計基準への理解不足や自社のルールが不明確なことが、不備の原因となったという反省や後悔の声が繰り返し述べられていることに気づきます。会計基準や自社のルールについて、それらを社員に周知させ、愚直に守ることは、上場企業でさえも難しいということです。 「精密機器の出荷や修理サービスの完了をもって売上を計上する」というルールができたら、それが絵に描いた餅とならないように定期的にテストすることをお勧めします。 請求書の発行が最も集中する期間のうち、5営業日程度を対象として請求書を無作為に一定数、抽出します。そして次のことを確認します。 上記のことが確認できれば、計測機器の販売や修理サービス、いずれも売上が適切に計上されているといえます。こうした検証を「カットオフテスト」といいます。 しかし、月内に売上が計上されているにもかかわらず、出荷やサービスの完了が翌月ならば、売上の早期計上となり、「カットオフエラー」として会計上の修正が求められます。 このようなカットオフテストを定期的(たとえば四半期ごと)に実施できれば、売上計上のルールを従業員の意識に定着させることができるでしょう。 《4》 内部統制報告書にみる不備事例 以下はある会社の内部統制報告書です。会計基準の適切な理解と運用を損なえば、財務報告の信頼性に重要な影響をもたらすことになりかねないことを示しています。 * * * 〔より深く理解するためのQ&A〕 ◆今回の重要ポイント◆ 売上計上のルールを明確に定めることは、財務報告の信頼性を高める。 カットオフテストを定期実施することで、収益認識のルールの定着が進む。 売掛金残高の定期的な検証にはさまざまな効果がある。 内部統制報告書から先人の躓きを学ぶ。 (了)
社外取締役と〇〇マルマル 【第12回】 (最終回) 「社外取締役と任期・退任」 西村あさひ法律事務所 パートナー 弁護士・ニューヨーク州弁護士 森田 多恵子 1 はじめに 1年にわたり連載してきた「社外取締役と〇〇マルマル」も本稿で最終回となる。 社外取締役として選任され、その職務を遂行してきた社外取締役もいつかは任期満了その他の事由により退任することとなる。本稿では、社外取締役の任期及び退任事由、退任後の会社に対する義務について概説する。退任後に後任として選任される社外取締役の指名については、連載第11回を参照いただきたい。 2 社外取締役の任期 社外取締役の任期も社内取締役と変わらず、公開会社の場合、①監査役会設置会社では選任後2年以内に終了する最終の事業年度に関する定時株主総会の終結時まで(定款又は株主総会決議で短縮可(※1))、②監査等委員会設置会社では監査等委員である取締役は選任後2年以内に終了する最終の事業年度に関する定時株主総会の終結時まで(定款又は株主総会決議で短縮不可)、それ以外の取締役は選任後1年以内に終了する最終の事業年度に関する定時株主総会の終結時まで、③指名委員会等設置会社では選任後1年以内に終了する最終の事業年度に関する定時株主総会の終結時までである(会社法332条)。 (※1) 定款規定により、剰余金の配当や自己株式の取得等を、株主総会ではなく取締役会での決議事項とするためには、取締役の任期が1年以内であることが、1つの要件となっていることから(会社法459条)、定款で取締役の任期を1年としている上場企業も多い。 再任は可能であるが、あまりに就任期間が長いと、馴れ合いから独立性が損なわれるのではないかとして、在任期間の長い社外取締役は非独立であるとし、再任に反対する議決権行使基準を持つ機関投資家もいる。他方、ある程度の長さの就任期間を経ることで、その会社に対する知見や経営陣との適度な信頼関係が築かれ、会社への貢献度合いや経営陣への影響が高まっていく面や、社外取締役のメンバー構成として就任期間が短い者だけでなく長い者も存在することで実効的な役割を果たすことができる面もある。 これらの指摘を踏まえ、経済産業省「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」(2018年9月28日改訂)では、一律に厳格な再任上限(就任期間の上限)を設けることまでは必要ないとしつつ、例えば、定量的な就任期間の目安を定め、それを超えて社外取締役に就任させ続ける場合には、指名委員会等において、その者の社外取締役としての貢献度合いや引き続き就任させる必要性と、就任期間の長さによる弊害の有無等を十分に考慮した上で、再任の適否を判断することが考えられるとされている。 3 退任事由 退任事由には、任期満了、辞任、解任、死亡、取締役の資格の喪失等がある。会社又は子会社の業務執行取締役になる等、社外取締役の要件(会社法2条15号)に該当しなくなった場合は、社外取締役である旨の抹消登記(同法911条3項22号等)が必要になる場合があるが、取締役を退任するわけではない。 取締役はいつでも辞任することができるが、会社に不利な時期に辞任したときは、やむを得ない事由があったときを除き、会社に生じた損害の賠償責任を負う(民法651条)。 株主総会は、いつでもその決議により取締役を解任することができる。解任された取締役は、解任について正当な理由がある場合を除き、会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる(会社法339条)。取締役の職務遂行上の法令・定款違反行為があった場合や、心身の故障等により客観的に職務遂行に支障を来す状態になった場合は、解任に正当な理由があると解されている。職務遂行への著しい不適任や能力の著しい欠如も解任の正当な理由に当たるとするのが多数説である(※2)。 (※2) 岩原紳作編『会社法コンメンタール7 機関(1)』(商事法務、2013)535-536頁[加藤貴仁]。 なお、令和元年改正会社法により、公開会社かつ大会社である監査役会設置会社で、有価証券報告書提出義務を負うものは、社外取締役の設置が義務となった(会社法327条の2)。法定の社外取締役を欠くこととなる場合、新たに社外取締役が選任されるまで、なお役員としての権利義務を有する(会社法346条1項)ほか、裁判所による一時役員の選任や(同条2項)、補欠の役員の選任(同法329条3項)の規定の適用もある。 4 退職後の義務 社外取締役は、会社に対して守秘義務、善管注意義務及び忠実義務を負うが、退任後も、信義則上、一定の範囲で引き続き守秘義務を負うと考えられ(※3)、また、会社の営業秘密の不正使用、開示は不正競争防止法違反となる場合がある(不正競争防止法2条1項7号、6項)。退任取締役の守秘義務の範囲の明確化のため、役員就任時又は退任時に秘密保持義務を約定しておくこともある。 (※3) 日本弁護士連合会「社外取締役ガイドライン」9頁、32頁参照。 会社法356条が定める取締役の競業取引の制限は、取締役在任中の義務であり、取締役は、退任後は、会社と同種の事業を行う会社の経営に参画することもできるのが原則である。ただし、社会的に許容される範囲を逸脱するような態様で競業行為を行った場合に、不法行為責任を負うことがある(※4)。 (※4) 落合誠一編『会社法コンメンタール8 機関(2)』(商事法務、2009)72頁[北村雅史]。 また、退任後の事業の準備行為として在任中に行った従業員の引き抜き行為等が在任中の取締役の忠実義務違反に当たるかどうかが問題となることが多い。 会社との特約があれば、取締役は退任後も特約に基づく競業避止義務を負う。もっとも、退任取締役の職業選択の自由を保障するため、特約が無制限に許されるわけではなく、あまりに広範な競業禁止特約は公序良俗違反により無効となる(民法90条)。競業禁止特約の有効性は、競業禁止期間の長短、禁止の場所的範囲の広狭、禁止対象職種、代償措置の有無等を考慮して判断される(※5)。 (※5) 落合誠一編『会社法コンメンタール8 機関(2)』(商事法務、2009)72頁[北村雅史]。 (連載了)
〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例57】 コタ株式会社 「当社元監査役による不正行為及び2021年3月期第3四半期決算発表予定日の変更に関するお知らせ」 (2021.1.26) 公認会計士/事業創造大学院大学准教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、コタ株式会社(以下「コタ」という)が2021年1月26日に開示した「当社元監査役による不正行為及び2021年3月期第3四半期決算発表予定日の変更に関するお知らせ」である。同社の元監査役が会社の資金を私的に流用していたことが発覚し、それにより2021年3月期第3四半期の決算発表が遅れることになった(元監査役に関係する旅費交通費及び役員退職慰労引当金繰入額等を合算した額の戻し入れが必要なため)という内容である。 2 前日に辞任 この開示の主文の最初は、次のように記載されている。 監査役による会社資金の私的流用が発覚し、その監査役が辞任したのは2021年1月25日とされている。しかし、この開示が行われたのは26日である。もっと早く開示できなかったのだろうか。 コタは、この開示と同時に「監査役の辞任及び補欠監査役の監査役就任に関するお知らせ」も開示している。その主文の最初は、次のように記載されている。 2021年1月26日に開示した「元」監査役による不正行為に伴い、25日に監査役(=「元」監査役)が辞任した、という不思議な文章である。しかも、その監査役の辞任理由には、「本人の一身上の都合によるものです」と記載されている。 本来であれば、「元」監査役ではなく「現」監査役による不正行為として速やかに開示したうえで、その監査役の辞任について開示し、辞任理由には、当然、「不正行為を認めて辞任」といった記載がなされるべきではないだろうか。 3 再発防止策 コタは、この件を受けて、2021年1月28日に「当社元監査役による不正行為に関する再発防止策について」を開示している。とても短いので、その記書きを全て引用する。 早期に再発防止策に関する開示を行った方がいいと思ったのだろうか。しかし、正直、こうした内容ならば、開示しない方がよかったのではないかと思えてしまう。取締役を監視する役割を負う監査役には、当然のことながら、コンプライアンスに関する深い理解が求められるが、上記(3)の記載から分かるように、これまで同社は監査役に対してそれを求めてこなかったのだろう。今回の件はその結果である。真の再発防止策は、監査役に相応しい人物を監査役候補者として選ぶことではないだろうか。 4 取締役は? コタの取締役には、1人だけ女性の方がいる。社外取締役であり、昨年の定時株主総会で選任されている(2020年5月14日に「社外取締役候補者の選任に関するお知らせ」を開示)。同社には、それまで女性の取締役はいなかった。 その方は社外取締役に相応しい人物に違いないのだが、たまたま女性だったのだろうか。それとも、「コーポレートガバナンス・コード」の次の原則が影響しているのだろうか(下線は筆者による)。 上場会社における女性の取締役の数は、少しずつではあるが増えているようである。しかし、そのほとんどは、コタと同様、「社外」取締役である。女性の「社内」取締役は、依然としてほとんどいない(ということは、女性の管理職の数も多くはないのだろう)。 「コーポレートガバナンス・コード」の次の原則に対応して、社外取締役を選ばなければならないが、取締役に女性を入れる必要もありそうなので、女性の社外取締役を選べば一石二鳥、などと考えているのであろうか。 コタは、監査役だけでなく取締役も、本当にそれに相応しい人物を選べているのだろうか。同社の事業内容(美容室向け頭髪用化粧品等の製造・販売)からすると、同社には多くの女性の従業員がいるように思われる(コーポレート・スローガン(2019年)は「美容室とともに女性を髪から美しくする」)。社内出身の取締役に女性が1人もいないというのは、奇異なことである(同社に限ったことではないのだが)。 「コーポレートガバナンス・コード」には次のような原則もあるのだが、これを本当に理解し、これに対応している会社はどのくらいあるのだろうか。 (了)
《速報解説》 金融庁が「記述情報の開示の好事例集2020」の追加を公表 ~あわせて「政策保有株式:投資家が期待する好開示のポイント(例)」を更新~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年3月22日、金融庁は「記述情報の開示の好事例集2020」の追加を公表した。 これは、新たに「監査の状況」、「役員の報酬等」等の開示の好事例を追加するとともに、令和元年11月に公表した「政策保有株式:投資家が期待する好開示のポイント(例)」を更新するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 重要な会計上の見積りに関する開示例 「会計上の見積りの開示に関する会計基準」(企業会計基準第31号)は、2021年3月31日以後終了する事業年度末に係る財務諸表等から適用される。 「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下「開示府令」という)でも、「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」(MD&A)において、会計上の見積りに関する記載事項を規定している。 財務諸表等の注記に重要な会計上の見積りに関する記載がある場合でも、開示府令が求めている事項に関する記載がないときには、財務諸表等の注記に記載されていない内容についてはMD&Aへの記載が必要となるので注意する。 なお、開示府令では、MD&Aに記載すべき事項の全部又は一部を財務諸表等の注記に記載した場合、MD&Aにその旨を記載することによって、当該注記において記載した事項の記載を省略することができるとしている。 好事例のポイントとして、次のことが記載されている。 Ⅲ 監査の状況に関する開示例 好事例のポイントとして、次のことが記載されている。 Ⅳ 役員の報酬等に関する開示例 好事例のポイントとして、次のことが記載されている。 Ⅴ 政策保有株式:投資家が期待する好開示のポイント(例) 次の記載に関する事例が紹介されている。 (了)
《速報解説》 会計士協会、リモートワーク対応第6号 「電子メールを利用した確認に関する監査上の留意事項」を公表 ~メールによる確認リスク対応として確認回答先への電話確認や電子署名の活用を示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年3月19日、日本公認会計士協会は、リモートワーク対応第6号「電子メールを利用した確認に関する監査上の留意事項」を公表した。 これは、電子メールを利用した確認に関する監査上の留意事項を記載したものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 電子メールを利用した確認 財務諸表監査では、紙面で確認状を送付しても回答が電子メールによって行われる場合や、確認依頼を電子メールで送付し、確認回答者が電子メールを利用して回答した確認回答データを監査人が入手するという方式により確認手続を実施することがある。 リモートワーク対応第6号は、監査人の実施する確認手続において、確認回答者が電子メールを利用して回答した確認回答データを監査人が入手するという方式(電子メールを利用した確認)について取り扱っている。 2 2つの方式 リモートワーク対応第6号は、次の2つの方式について述べており、いずれの場合も、監査人は、確認回答者が実際に回答を電子メールで送付したことを、電話などにより確認回答者に直接確かめるとされている。 次の事項が記載されているので、電子メールによる確認を行うかどうかの判断は慎重に行うべきと考えられる。 3 留意事項 電子メールを利用した確認に伴うリスクとして、次の4つのリスクを挙げている。 これらのリスクに対応する方法として、例えば、確認回答先への電話確認が示されており、可能な場合には、被監査会社から入手した確認回答者への直通電話ではなく、所属する組織の大代表に架電の上、当該回答者への取次を依頼することにより、当該回答者が、被監査会社から通知された確認回答先の組織(会社・部署)に実在することを確かめることが考えられると記載されている。 また、リスクに対応する方法の例には、例えば、電子署名の活用のように、被監査会社及び確認回答者の協力を得ることが重要となるものがあると記載している。 (了)
《速報解説》 熊本局より「業績連動型譲渡制限付株式報酬」について文書回答事例が示される 税理士 中尾 隼大 (1) 文書回答事例の公表 令和3年3月8日、国税庁ホームページにおいて、熊本国税局の文書回答事例「業績連動型譲渡制限付株式報酬の業績連動給与該当性について」が公表された(回答年月日は令和3年1月29日)。 本件は、先般導入事例が増加している業績連動型譲渡制限付株式報酬に係る損金算入時期について、そして対象取締役が当該株式を取得する際の所得区分を明らかにしたものである。 (2) 事前照会の内容 法人税法34条5項では、業績連動給与について と定めている。 事前照会を行った法人たる納税者は、業績連動型譲渡制限付株式報酬制度の導入に当たり、業務執行役員全てを対象として一定の方法により交付株式数を算定し、譲渡制限解除は役員の退任時とした上で、株式の無償取得事由を以下の通り定めることとしている。 本件は、この無償取得事由が上記に抵触しないこと、そしてその損金算入時期等について確認することを目的としたものである。 【本件における株式無償取得事由】 ➤対象取締役に一定の非違行為があった場合又は正当な理由による退任若しくは当社がやむを得ないと認めた事由による辞任以外の事由により退任した場合 (支給後の業績指標により無償で取得する株式の数が変動するものではない) (3) 示された見解 本件について国税庁は、以下の納税者の見解で差し支えない旨を示している。 (4) 想定される税務上の処理 上記のように、特定譲渡制限付株式に係る損金算入時期については、会計上の費用計上時期と一致しないことから、当該制度を導入する場合には申告調整が必要となる。 この点、経済産業省「攻めの経営を促す役員報酬~企業の持続的成長のためのインセンティブプラン導入の手引き~(2020年9月時点版)」58頁では会計処理が例示されており、当該会計処理例に税務上の損金算入時期の対比イメージを付け加えると、下図の通りとなる。 (了) ↓お勧め連載記事↓
2021年3月18日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.411を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第89回】 「グループ通算制度に係る税効果会計の検討」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 令和2年度税制改正で創設されたグループ通算制度は、令和4年4月1日以後に開始する事業年度から適用することとされており、適用開始まで1年余りとなった。現在連結納税制度を適用しているグループにおいては自動的にグループ通算制度へ移行することができることから、大方の連結納税制度適用グループにおいてはグループ通算制度へそのまま移行するものと見られる。 〇当面の税効果会計の取扱い 本税制の創設に際して、企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」第44項(「決算日において国会で成立している税法に規定されている方法に基づき・・・見積額を計算する」)の適用をめぐっては、グループ通算制度の適用を前提とした税効果会計の適用を行い、繰延税金資産の回収可能性の判断を行うことは、当時の状況からして困難であるということで、これを適用せず、改正前の税法に基づくことができることとされている(2020年3月31日 企業会計基準委員会実務対応報告第39号「連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い」)。 また、この実務対応報告第39号では、この取扱いは、実務対応報告第5号「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その1)」及び実務対応報告第7号「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その2)」に関する必要な改廃を企業会計基準委員会が行うまでの間の措置とされている。 こうしたことから、企業会計基準委員会では、新たな実務対応報告の策定に向けた検討が行われているところである。もっとも、現時点で新たな実務対応報告の公開草案の公表もされていないことからすると、新たな実務対応報告が3月末までに確定することはなく、本年3月期決算については現行の連結納税制度の下での税効果会計の適用ということとなる。 〇グループ通算制度と連結納税制度の相違点 現行の連結納税制度では、連結納税グループをあたかも1つの法人であるかのごとく扱い、連結親法人がグループを代表して申告・納税義務を負うこととされているが、グループ通算制度では、グループ全体での損益通算については維持する一方、グループに属する各法人が個別にそれぞれ法人税額の計算及び申告を行うこととなる。 また、グループ通算制度の下での損益通算の方法は、各法人で計算した所得をベースに、赤字法人の欠損の合計額を、黒字法人の所得の合計額を限度に、黒字法人の(所得の金額で按分して)損金として算入する(損金算入された欠損は赤字法人の欠損の金額で按分し赤字法人側で益金算入する)。いったん損益通算が行われた後は、個別の法人において修更正が行われても、原則として他の法人の税額計算に反映させず、当該法人において処理されることとなる。 繰越欠損金については、グループ全体で損金算入限度額が計算されるが、繰越控除により損金算入する法人は損益通算後の黒字法人に限られることから、グループ内の繰越欠損金を有する法人とそれを控除する法人とが別々になる(繰越欠損金の授受が生じる)場合がある。なお、損益通算や繰越欠損金の通算によって減少する法人税等の額(通算税効果額)について、通算法人間で授受が行われてもそれは益金の額及び損金の額に算入しない。 グループ通算制度の適用開始やグループへの加入の際の時価評価課税及び開始・加入前の繰越欠損金の切り捨てについては、組織再編税制との整合性の取れた制度とすることで、現行の連結納税制度の適用開始や連結納税グループへの加入の際の時価評価課税や欠損金の切り捨ての対象を縮小し、組織再編への柔軟な対応が可能となるが、時価評価の対象とならなかった場合であっても、繰越欠損金及び資産の含み損等の引継ぎの制限や制度適用後の損金算入制限が課される場合がある。 〇グループ通算制度における税効果会計の課題 グループ通算制度はあくまでも個別申告制度であるという点が、連結納税制度との最大の相違点であり、税効果会計の取扱いを検討するにあたってこの点をどう考えるかが最も重要な点となる。 すなわち、繰延税金資産の回収可能性の判断にあたって、通算グループ全体をベースとするのか、各通算法人をベースとするのかという問題である。 一方で、グループ通算制度の下でも損益通算や繰越欠損金の通算が行われることからすると、現行の連結納税制度と同様の考え方との親和性が高いという見方もできよう。 また、グループ通算制度の適用開始あるいはグループへの加入に際して、時価評価課税が適用されない場合であっても、繰越欠損金及び資産の含み損等の引継ぎの制限や制度適用後の損金算入制限が課される場合があることから、このような制度の適用がある場合には、対象となる繰越欠損金や含み損等に係る繰延税金資産の回収可能性はないということになろう。 (了)