居住用賃貸建物の取得等に係る 消費税の仕入税額控除制度の適正化 -令和2年度税制改正- 【第4回】 (最終回) 「新型コロナ税特法等に係る措置」 税理士 石川 幸恵 新型コロナウイルス感染症の影響により、設備投資計画の変更や事務処理能力の低下が生じた場合、消費税の納税義務に関する制限や簡易課税制度選択の制限が、業績回復の妨げになりかねない。 そこで消費税については、4月30日に公布・施行された新型コロナ税特法(新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための国税関係法律の臨時特例に関する法律)によって、「消費税の課税選択の変更に係る特例」及び「納税義務が免除されない制限を解除する特例」の2つの措置が設けられた。 なお簡易課税制度選択については、消費税法第37条の2「災害その他やむを得ない理由が生じたことにより被害を受けた場合」の特例を適用できる。 連載最終回となる今回は、新型コロナ税特法と消法37の2の特例のうち、【第3回】までに解説した居住用賃貸建物の取得に影響のある部分を解説する。 (※) 「消費税の課税選択の変更に関する特例」は、本連載の内容とは直接的には関係しないため割愛する。 1 3年間の「納税義務が免除されない制限」の解除 (1) 内容 本連載の【第3回】で解説したように、高額特定資産の仕入れ等に伴う「納税義務が免除されない制限」は、居住用賃貸建物の取得にも適用される。 簡潔にまとめると、次のとおりである。 新型コロナ税特法10⑤⑥の適用を受ければ、上記(イ)(ロ)の課税期間の初日以後3年間、「納税義務が免除されない制限」を解除することができる。 (2) 特例の対象となる事業者 特例の対象となる事業者は、新型コロナウイルス感染症等の影響により、令和2年2月1日から令和3年1月31日までの間のうち任意の連続した1ヶ月以上の期間(以下「調査期間」という)の事業としての収入金額が、前年の同時期と比べて、概ね50%以上減少している事業者(国税庁「新型コロナ税特法に係る消費税の特例に関するQ&A」(以下「Q&A」)問2)である。 なお、調査期間内の日を含む課税期間を「特定課税期間」という(Q&A問6)。 (3) 特例の対象となる取得等の時期 「納税義務が免除されない制限」の解除を受けられるのは、特定課税期間の初日以後2年を経過する日の属する課税期間までの課税期間において、高額特定資産を取得した場合や、高額特定資産等について棚卸資産の調整措置を受けた場合である。 取得等の時期が特定課税期間以前の課税期間や翌課税期間以後であっても適用があることに注意されたい(Q&A問16、問17、問19)。 (4) 手続き ① 提出書類 以下の書類を納税地の所轄税務署長に提出する。 ② 申請期限 (イ) 高額特定資産を取得した場合 「特定課税期間の確定申告書の提出期限」と「高額特定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の末日」とのいずれか遅い日(Q&A問15)。 (ロ) 高額特定資産等について棚卸資産の調整措置を受けた場合 「特定課税期間の確定申告書の提出期限」と「棚卸資産の調整規定の適用を受けることとなった日の属する課税期間の末日」とのいずれか遅い日(Q&A問18)。 2 簡易課税制度選択届出書の提出制限の不適用 (1) 内容 消法37の2「災害その他やむを得ない理由が生じたことにより被害を受けた場合」の特例により、課税期間(※)の開始後であっても簡易課税制度を選択することができる。 (※) 基準期間における課税売上高が5,000万円以下の場合に限る。 消法37の2の適用を受ける場合は、次の期間における簡易課税制度選択届出書の提出制限も適用されない(消法37の2①、Q&A問20)。これにより、3年間の一般課税による申告の強制適用が解除されることとなる。 (2) 特例の対象となる時期 消法37の2の特例は、災害その他やむを得ない理由の生じた日の属する課税期間について適用がある点に注意されたい。新型コロナ税特法に規定する「納税義務が免除されない制限」の解除を受けられる高額特定資産の取得時期等が、特定課税期間の初日以後2年を経過する日の属する課税期間までの課税期間である点と異なっている。 (3) 手続き ① 提出書類 以下の書類を納税地の所轄税務署長に提出する。 ② 申請期限 新型コロナウイルス感染症等の影響による被害がやんだ日から2月以内。被害のやんだ日がその申請に係る課税期間の末日の翌日(個人事業者の場合は、その末日の翌日から1月を経過した日)以後に到来する場合には、その課税期間に係る確定申告書の提出期限。 なお、本稿執筆時点で、災害等による消費税簡易課税制度選択(不適用)届出に係る特例承認申請書はe-Taxで利用可能な手続に掲載されていない。書面での提出が必要と考えられるので、注意されたい。 (連載了)
〔Q&Aで解消〕 診療所における税務の疑問 【第1回】 「診療所の収入の所得区分と消費税の課税関係」 税理士法人赤津総合会計 税理士・医業経営コンサルタント 赤津 剛史 【Q】 診療所の収入の所得区分で判断に迷うものがいくつかあります。 以下の収入について、所得区分及び消費税の課税関係を教えてください。 【A】 ご質問の収入について、所得区分及び消費税の課税関係は以下のとおりです。 ● ● ● 解 説 ● ● ● ① 自治体から委託を受けた予防接種や検診収入 自治体から委託を受けた予防接種や検診収入は、診療所の診療に付随する行為として、自費診療収入となります。つまり、個人診療所であれば「事業所得」に計上され、医療法人であれば法人の益金に算入されます。 消費税は個人診療所、医療法人ともに課税売上として取り扱います。 ② 休日夜間診療の報酬 休日夜間診療の報酬は、従事する形態によって所得区分が異なります。そのため2つのケースに分けて、以下でみていきます。 [ケース1] 地域の救急センター等で従事する場合 [ケース2] 輪番制で自身の診療所で診療する場合 ③ 産業医の報酬 「産業医」とは、事業場において労働者の健康管理等について、専門的な立場から指導・助言を行う医師を言います。労働安全衛生法により、一定の規模の事業場には産業医の選任が義務付けられています。 産業医の委託報酬は、個人診療所においては医師個人の「給与所得」に該当し、消費税は不課税として取り扱います。 一方、医療法人が事業場と産業医の派遣契約を締結し、勤務医を産業医として派遣したときは、委託収入として医療法人の益金となり、消費税は課税売上となります。 ④ 原稿料、講演料 医師個人が製薬会社等からの依頼に基づき、執筆した論文等に対する原稿料及び講演をしたことによる講演料等はいずれも個人の「雑所得」になります。 また、原稿料・講演料ともに、医師個人の診療という本来の事業に関連する内容の論文や講演を行う場合には本来業務の付随行為に該当することから、消費税の課税売上に該当すると考えられます。 なお、参考までに国税庁の質疑応答事例「消費税における「事業」の定義」を以下に引用します。 (出典) 国税庁・質疑応答事例「消費税における「事業」の定義」 ◆◇税務監査実務上の留意点◇◆ 個人診療所及び医療法人の税務監査においては、収入の帰属先及び所得区分並びに消費税の課税判定について判断に迷う場面が多くあります。 本来は、医師個人の収入となるものが、医療法人の預金口座へ振込まれているケースも散見されます。支払い側の認識の相違により、医療法人との産業医の派遣契約に基づく支払いに源泉所得税が徴収されているという事例もあります。 経理処理にあたっては、支払い側の経理処理と整合する必要があり、請求書、支払通知書、契約書といった証憑資料の確認という基本の徹底を行い、場合によっては支払い側に直接確認をするといった一歩踏み込んだ税務監査が必要となります。 (了)
令和2年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第2回】 「「適用法人の範囲」 「適用方法」」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 [3] 適用法人の範囲 グループ通算制度の適用対象となる法人は、適用の承認を受けた「通算親法人(次の法人に限る)及び通算親法人との間に通算親法人による完全支配関係がある通算子法人(次の法人に限る)」の全てとなる(法法64の9①)。 ここで、グループ通算制度の適用範囲となる「完全支配関係」は、完全支配関係のうち、通算除外法人(下記(1)③~⑦までの法人)及び外国法人が介在しない一定の関係となり、通算法人間の完全支配関係を「通算完全支配関係」という(法法64の9①、2十二の七の七)。 (1) 通算親法人 通算親法人とは、普通法人又は協同組合等のうち、次の①から⑥までの法人及び⑥に類する一定の法人のいずれにも該当しない法人をいう。 (2) 通算子法人 通算子法人とは、通算親法人との間に通算親法人による完全支配関係がある他の内国法人のうち、上記(1)③から⑦までの法人以外の法人をいう。 [4] 適用方法 (1) グループ通算制度の開始 ① 承認申請 親法人及び子法人が、通算承認を受けようとする場合には、その親法人のグループ通算制度の適用を受けようとする最初の事業年度開始日の3ヶ月前の日までに、その親法人及び子法人の全ての連名で、承認申請書をその親法人の納税地の所轄税務署長を経由して、国税庁長官に提出する必要がある(法法64の9②)。 ここで、「通算承認」とは、グループ通算制度の適用に係る国税庁長官の承認をいう。 この場合、グループ通算制度の適用を受けようとする最初の事業年度開始日の前日までにその申請についての通算承認又は却下の処分がなかったときは、その親法人及び子法人の全てについて、その開始日においてその通算承認があったものとみなされ、同日からその効力が生じる(法法64の9⑤⑥)。 ② 申請の却下 国税庁長官は、承認申請書の提出があった場合において、次のいずれかに該当する事実があるときは、その申請を却下することができる(法法64の9③)。 この場合、「通算予定法人」とは、グループ通算制度の適用を受けようとする親法人又は子法人をいう。 ③ 親法人の設立事業年度又は設立翌事業年度からの適用方法 親法人の設立事業年度又は設立事業年度の翌事業年度から、グループ通算制度を適用する場合の承認申請期限は次のとおりとなる(法法64の9⑦⑧⑨)。 この場合のグループ通算制度の適用を開始する事業年度を「申請特例年度」という。 (※1) 設立事業年度が3ヶ月に満たない場合に限る。設立事業年度が3ヶ月以上の場合は、原則どおり、3ヶ月前の日が申請期限となる。 (※2) 親法人が設立事業年度終了時に時価評価法人(時価評価対象法人に該当し、かつ、時価評価資産を有する法人)に該当する場合を除く。この場合で、親法人の設立事業年度が3ヶ月に満たない場合、結果的に設立事業年度の翌事業年度からグループ通算制度を適用することはできない。 この申請年度の特例を適用する場合、通算子法人となる法人のうち、時価評価法人(時価評価法人が発行済株式を直接又は間接に保有する法人を含む)に該当するものは、他の通算子法人のように申請特例年度開始日ではなく、申請特例年度終了日の翌日(つまり、1期遅れで)にグループ通算制度を開始又は加入することになるなど、特別な取扱いが適用される(法法64の9⑩⑫、14⑤⑥⑧)。 そのため、本連載では、この特例を適用する場合の税務上の取扱いは解説の対象外としており、原則どおり、グループ通算制度の適用を開始する日の3ヶ月前の日までに承認申請をした場合の取扱いのみ解説の対象としている。 ④ 経過措置 経過措置については次のとおりとなる。 (2) グループ通算制度の取りやめ 通算法人は、やむを得ない事情があるときは、国税庁長官の承認を受けてグループ通算制度の適用を受けることをやめることができる。この取りやめの承認を受けた場合には、その承認を受けた日の属する事業年度終了日の翌日から、通算承認の効力は失われる(法法64の10①②③④)。 また、通算親法人が他の内国法人の100%子会社となった場合、通算親法人が解散する場合(合併による解散を含む)、通算子法人がなくなった場合のほか、青色申告の承認の取消しの通知を受けた場合においても、通算承認の効力は失われる(法法64の10⑤⑥、127①②③④)。 (了)
Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第3回】 「〔第1表の1〕株主判定と配当還元価額の適否」 税理士 柴田 健次 Q 下記の通り、経営者甲が所有しているA社株式の全て(議決権総数の44%に相当する株式)を後継者乙に贈与する場合において、A社が有しているB社(大会社に該当)の株式の評価方式は原則的評価方式(類似業種比準価額)が適用されるのでしょうか。それとも特例的評価方式(配当還元価額等)が適用されるのでしょうか。 なお、C社、D社、E社、F社、G社、H社、I社が有しているA社株式は、甲から購入したものであり、いずれもB社の主要な取引先となります。A社株式の譲渡をする場合には、A社取締役会の承認が必要であるものとされています。 A社株式の議決権行使は甲に一任されておらず、C社からI社のそれぞれの会社が議決権行使をしていますが、甲は1社でも味方につければ50%超の議決権の行使が可能となり、甲は実質的にA社を支配している状態にあります。 A B社株式評価を行う場合の株主判定として、A社は同族株主以外に該当するため、特例的評価方式(配当還元価額等)で評価することが評価通達上の評価方法となります。 ただし、乙及びその親族がA社を実質的に支配している場合には、配当還元価額での評価方法は適切であると言えないため、配当還元価額での評価が認められない可能性があり、原則的評価方式により評価することが適正な評価であると考えられます。 ◆ ◆ ◆ ① 評価通達の株主判定 評価通達188(1)によれば、「同族株主のいる会社の株式のうち、同族株主以外の株主の取得した株式」は、特例的評価方式(配当還元価額等)が適用されるものとされています。 A社が所有しているB社の株式評価を行う場合の株主判定は、A社を納税義務者として株主判定を行うことになります。実際の株主判定では、乙が筆頭株主となる同族株主に該当しますが、A社は乙の同族関係者に含まれませんので、A社は同族株主以外の株主となります。 したがって、形式的な判定においては、A社が所有しているB社株式については、配当還元価額が適用可能となります。 ◎用語の意義と当てはめ ▷同族株主 課税時期における評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の30%以上(その評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が最も多いグループの有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の50%超である会社にあっては、50%超)である場合におけるその株主及びその同族関係者をいいます(評価通達188(1))。 本問の場合には、乙が同族株主に該当します。 ▷同族関係者 法人税法施行令第4条(同族関係者の範囲)に規定する特殊の関係のある個人又は法人をいいます(評価通達188(1))。 特殊の関係のある個人は、例えば株主等の親族などをいいます。本問の場合には、甲及び甲の配偶者は乙の同族関係者となります。特殊の関係のある法人は、例えば、乙及びその親族が直接又は間接に会社を支配(議決権の50%超保有)している場合におけるその会社が該当します。 本問の場合には、A社は乙、甲、甲の配偶者が支配している会社ではないため、A社は乙の同族関係者には該当しません。 ② 配当還元価額の適用の趣旨 関連会社株式の配当還元価額の適否が争われた東京地裁平成16年3月2日判決(TAINSコード:254-9583)では、次のように判示しています。 そして、評価会社に対する影響力を持ち、支配力がある株式に対しては原則的な評価方式が採用されるべきであるとして、配当還元価額の適用を否認しました。 本問の場合には、甲がC社からI社のうち1社でも味方につければ、A社について50%超の議決権行使が可能となり、反対に甲の支配を奪うためには、7社が結束する必要があり、さらにA社株式について譲渡制限も設けられていることからすると、実質的な支配は甲にあると考えることができますので、A社が所有するB社株式については、支配力がある株式に該当し、本来的には配当還元価額での評価方式は馴染まないと言えます。 ③ 評価通達6の適用 評価通達6を適用し、通達によらない評価を行う場合には、特別の事情が必要になります。 財産評価基本通達に定められた評価方法を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことによって、かえって実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかであるなど、この評価方法によらないことが正当と是認されるような特別な事情がある場合には、他の合理的な方法により評価をすることが許されるものと解されています。 本問の場合における評価通達6の適用の有無にあたっては、甲が取引先に譲渡した後の甲一族のA社の支配が継続的に及んでいるかどうか、甲がB社の取引先に株式を譲渡した理由が贈与税及び相続税の負担を減少することを目的としたものではなく経済的合理性に基づくものであるかどうか、B社と取引先との力関係、類似業種比準価額と配当還元価額による金額の差異等を総合勘案して決定されるべきものと考えられます。 ☆実務上のポイント☆ 配当還元価額の適用にあたっては、実質的に会社を支配している株主であるかどうかの着眼点も含めて検討する必要があります。 特に贈与前、相続前において株主に変動がある場合には、株主変動の理由をよく確認する必要があります。 (了)
法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例19】 「仮装経理による棚卸資産過大計上分に係る特別損失の損金性」 国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦 【Q】 私は、元々銀行マンでしたが、数年前に取引先である埼玉県所在の主として健康食品を扱っている専門商社X株式会社に移籍し、現在、会社の総務・経理を含む管理部門の責任者である管理部長を拝命しております。当社において主力商品として扱っている健康食品は、はやり廃りが極めて激しく、ある時マスコミに取り上げられると一気に注文が殺到したかと思えば、半年後にはそれまでの狂乱騒ぎが嘘のようにパタッと注文がやむということも珍しくありません。また、事前に何が当たるのかは全く予想がつかないため、商品の仕入れはバクチ的な要素があります。 それを反映してか、わが社においては、毎期末において、相当額の棚卸資産の評価損や廃棄損を計上しておりますが、これまでの税務調査で、期末棚卸資産の評価額に関しその計上額が過少であるとして否認されたことが何度もありました。 ただし、今回の税務調査で問題となったのは、営業部が秘かに行っていた架空在庫の経理処理に関してでした。その内容は、ある健康食品に関し、当てが外れて実際には想定よりも相当程度少ない数量しか売れなかったにもかかわらず、あたかも売れて利益を計上できたかのように仮装するため、翌期に売れるものと見込まれると称して、存在しない在庫を外部倉庫に預けているように経理処理したものでした。 〇該当健康食品の架空在庫に係るX社の経理処理(3期前) (注) 期首商品棚卸高はゼロ。 3期前の期末においてそのような架空在庫が5億3,800万円分あり、直ちに修正すべきであったにもかかわらず、それを行っていなかったため、内部監査でそれが判明した前期末においてその金額を一括で特別損失に計上し、確定申告においては損金の額に計上しました。その結果、当該事業年度においては、繰越欠損金額(青色欠損金、法法57)が2億9,000万円となりました。 ところがこれについて、課税庁の調査官が、当該特別損失については前事業年度の損金の額に算入できない旨を言い渡されました。これは経理処理の誤りであり、正しい経理処理に直したにもかかわらずそれを認めないというのはどうにも納得がいかないのですが、どう考えればよろしいのでしょうか。 【A】 過年度の棚卸資産に係る過大計上額については、それが計上された事業年度における売上収益に対応する売上原価を構成するものであるため、それが判明した事業年度(計上された事業年度の2期後にあたる前事業年度)に修正計上するのは適切ではないことから、その金額を前事業年度の損金の額に算入することはできないとする課税庁の調査官の指摘は妥当であると考えられます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 仮装経理の法人税法上の取扱い 本件のように、法人が仮装経理により法人税を過大に納付した場合には、当該法人はそれをどのように是正することとなるのであろうか。 その過大納付(申告税額が過大)の事実を課税庁が税務調査により把握した場合には、基本的に、その納税申告書に係る課税標準等又は税額等を(減額)更正することとなる(通法24)。 ただし、その理由が仮装経理の場合は、通常の過大納付とは別の取扱いがなされる。すなわち、内国法人が確定申告において(事実を仮装して経理した)仮装経理を行った場合には、当該事実に係る修正の経理をし、かつ、当該修正の経理をした事業年度の確定申告書を提出するまでの間は、税務署長は更正をしないことができるものとされているのである(法法129①)。 また、減額更正がなされた場合においても、それによる過誤納金(仮装経理法人税額)は直ちには還付されず、まず更正の日の属する事業年度開始前1年以内に開始する事業年度の確定法人税額から還付され(法法135②)、残額は更正の日の属する事業年度開始の日から5年以内に開始する各事業年度の法人税額から順次控除されることとなっている(法法70)。なお、5年目まで順次控除してもなお残額がある場合には、5年目の確定申告、期限後申告又は決定を待って最終的にその全額が還付されることとなる(法法135③)(※1)。 (※1) 当該規定は平成21年度の税制改正で整備・明確化されている。金子宏『租税法(第二十三版)』(弘文堂・2019年)446頁。 仮装経理に基づく過大申告の場合の更正と法人税額の控除及び還付に係る当該規定を図で示すと以下のとおりとなる。 〇仮装経理に基づく過大申告の場合の更正と法人税額の控除及び還付 (出典) 財務省編『平成21年度税制改正の解説』213頁を一部改変。 上記規定の意味するところであるが、税務署長は、一般の計算誤り等を行った「悪質とはいえない」納税者については速やかに減額更正によりその誤りを是正するものの、仮装経理により過大申告を行った「コンプライアンス意識の乏しい」納税者の場合には、当該納税者が本来の財務諸表において収益・費用を是正することによって税額を修正し、それを踏まえて税務署長が減額更正をするという手続きを経ることを求めることにより、一般の計算誤り等を行った「悪質とはいえない」納税者のケースよりも仮装経理をして過大申告を行った「コンプライアンス意識の乏しい」納税者のケースを劣後して取り扱うこととしている、と解されている(※2)。ただし、課税庁は還付しないのではなく、還付を遅らせるという措置を採るということである。 (※2) 岩品信明「粉飾」金子宏監修『現代租税法講座第3巻 企業・市場』(日本評論社・2017年)124頁参照。 (2) 仮装経理の場合の更正の特例の趣旨 そもそも上記(1)の規定は、昭和40年の仮装経理に伴う倒産事件であるいわゆる「山陽特殊鋼事件」を契機として、そのような仮装経理を抑制するための税制上の措置として、昭和41年度の税制改正で導入されたものである。 その趣旨は、後述する東京高裁平成23年3月24日判決・税資261号順号11648(TAINSコード:Z261-11648、原審東京地裁平成22年9月10日判決を引用)によれば、 であると解されている。 当該措置については、上記裁判例でも指摘するように、その導入時の昭和40年前後において、仮装経理を行って過大の法人税を納付し、後日仮装経理を理由として法人税の還付を求める事案が相当数あり、それが国家財政の安定化を脅かしかねないとの危機意識がその背景にあったものと考えられる(※3)。 (※3) 岩品前掲(※2)論文125頁。 しかし、現在、わざわざこのようなスキームを採用する法人は極めて稀であると考えられることから、当該措置が現在においても存続することの意義は、「粉飾決算の未然防止」一点に絞られると考えられる。ただし、ややうがった見方かもしれないが、一度国庫に収まった税金を還付することに極めて後ろ向きな、財政当局の「還付アレルギー」を考慮すれば、当該措置がその導入時の意義を失ったとしても、直ちに税制改正の俎上に載ることは考えにくいであろう。 (3) 仮装経理が問題となった裁判例 昭和40年前後と比較すれば、現在において仮装経理による法人税の取扱いが問題となる事案は大幅に減少しているものと考えられるが、少数ながら裁判で問題となった事案(東京高裁平成23年3月24日判決・税資261号順号11648(TAINSコード:Z261-11648))があるので以下で検討しておく。 ① 事案の内容 本件は、農薬等の販売を行う株式会社であり、青色申告法人である控訴人(原告)が、過去に過大に棚卸商品を計上するいわゆる粉飾決算を行っていたことから、平成14年12月期の損益計算書の特別損失の項目に棚卸商品過大計上損の科目で当該粉飾決算に係る金額を計上し、同金額を損金の額に算入して同期に係る法人税の確定申告をしたところ、処分行政庁が、当該金額を損金の額に算入することはできないとして平成14年12月期更正処分をし、また、これに連動して平成16年12月期更正処分及び本件賦課決定処分をしたため、控訴人が、被控訴人(被告)に対し、平成14年12月期更正処分及び平成16年12月期更正処分の各一部並びに本件賦課決定処分及び本件裁決の全部の取消しを求めた事案である。 控訴人は、平成10年9月期、平成11年9月期、平成12年9月期、平成13年9月期及び平成14年9月期の各事業年度において、棚卸商品につき、それぞれ、1億円、6億円、2億500万円、5億9,500万円及び4億5,300万円の合計19億5,300万円分を意図的に実際の額よりも過大に計上することにより、上記各事業年度の課税標準とされるべき実際の所得の金額を超える金額を所得金額として、法人税の確定申告をした。 また、控訴人は、平成14年12月期(事業年度の変更後)の法人税の申告において、本件粉飾に係る棚卸商品過大計上分である19億5,300万円を損益計算書の特別損失の項目に棚卸商品過大計上損の科目で計上し(本件損失)、これを損金の額に算入して、確定申告をした。当該申告は、所得(欠損)金額を25億2,004万6,219円の欠損とし、平成14年9月期の欠損金額168万3,196円との合計額である25億2,172万9,415円を翌期へ繰り越す欠損金とするものであった。 処分行政庁は、平成17年7月20日から同月22日までの間、控訴人に対し、税務調査(第1回調査)を行った。第1回調査を担当した調査官は、控訴人の事務所に臨場し、控訴人及び控訴人の依頼を受けたA税理士から、本件粉飾についての説明を受けたが、控訴人らに対し、平成14年12月期の申告について修正申告を慫慂しなかった。 また、処分行政庁は、平成19年10月25日から26日までの間に税務調査(第2回調査)を行い、平成14年12月期に計上した特別損失は損金の額に算入できない旨を説明して、修正申告を慫慂した。しかし、控訴人はこれに応じなかったため、処分行政庁は同年11月28日付けで、控訴人に対し、平成14年9月期に係る法人税の更正処分及び本件各処分を行った。更に、処分行政庁は、同日付けで、控訴人に対し、平成17年12月期及び平成18年12月期に係る法人税の更正処分も行った。その内容は以下のとおりである。 控訴人は、本件各処分を不服として、審査請求を経て本訴を提起した。 一審の東京地裁平成22年9月10日判決・税資260号順号11505(TAINSコード:Z260-11505)では、以下のように判示し納税者の主張を認めなかった。 ② 事案の争点 本件粉飾に係る過年度の棚卸商品過大計上分である計19億5,300万円を平成14年12月期の損失として損金の額に算入することができるか。 ③ 裁判所の判断 なお、本事案の上告は最高裁で不受理となり確定している(最高裁平成23年10月11日決定・TAINSコード:Z261-11783)。 ④ 本裁判例からいえること 本件は、法人税法上、過年度の棚卸資産に係る過大計上額(粉飾決算)を当期の損失として一括計上することが認められるのかどうかという事案である。この点につき東京地裁及び東京高裁はいずれも、粉飾決算に係る棚卸商品過大計上分である19億5,300万円(本件損失)は、「法人税法22条3項各号に規定するものに該当せず、同事業年度の損金の額に算入することができないものである」と判断している。 当該損失は、本来、赤字決算になったであろうと見込まれ、それを回避するために粉飾した各事業年度の売上原価を構成するものであり、費用収益対応の原則による適正な期間損益計算を求める企業会計の観点からも、それぞれの事業年度において計上すべきものであると言わざるを得ない。すなわち、納税者はまず過年度における決算の修正(※4)を行い、それに基づいて更正の請求を行うという手続きを経るべきといえる。したがって、本裁判例における裁判所の判断は、至極妥当なものであるといえるだろう。 (※4) 会計原則上は、従来の前期(過年度)損益修正で一括修正するという方法ではなく、各事業年度に遡及して会計処理の修正を行い、順次適正残高を繰り越すことを求めている。企業会計基準委員会「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準第24号・平成21年12月4日)参照。 (4) 本件への当てはめ 過年度の棚卸資産に係る過大計上額については、それが計上された事業年度における売上収益に対応する売上原価を構成するものであるため、それが判明した事業年度(計上された事業年度の2期後にあたる前事業年度)に一括して修正計上するのは適切ではなく、まず過年度に遡及して決算を修正すべきものといえる。したがって、その金額を前事業年度の損金の額に算入することはできないとする課税庁の調査官の指摘は、裁判例に照らしても妥当であると考えられる。 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第80回】 「工事期間の変更に関する覚書」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 当社は建設会社です。新型コロナウイルス感染症の影響により、当初定めた工事請負契約の工事期間に遅れが生じることとなり、そのため覚書を取り交わす予定です。印紙税の取扱いはどうなりますか。 なお、原契約は店舗新築請負工事を定めた文書であり、第2号文書(請負に関する契約書)に該当しています。 記載金額のない第2号文書に該当し、印紙税額は200円となる。 [検討1] 覚書は印紙税法上の契約書に該当するか 印紙税法上の契約書は名称のいかんを問わず、契約の成立若しくは更改又は契約の内容の変更若しくは補充の事実を証すべき文書をいい、念書、請書その他契約の当事者の一方のみが作成する文書又は契約の当事者の全部若しくは一部の署名を欠く文書で、当事者間の了解又は商慣習に基づき契約の成立等を証することとされているものを含むとされている。 したがって、覚書という名称であっても契約内容の変更の事実を証する文書であれば印紙税法上の契約書に該当し、その文書に課税事項が含まれていれば課税文書に該当する。 [検討2] 事例の工事期間の変更は印紙税法上の契約書に該当するか 第2号文書における重要な事項には「請負期日又は期限」が定められており、原契約が課税物件表の一の号のみの課税事項を含む場合において、課税事項のうちの重要な事項を変更する場合には、原契約と同一の号に該当するとされている。 このことから事例の場合は、原契約と同一の第2号文書に該当する。 (了)
〔失敗事例から考える〕 この相続対策の問題はドコ!? 【第3回】 (最終回) 「贈与税の配偶者控除に関する失敗事例(その2)」 ~贈与を原因とする所有権移転登記の要否~ 公認会計士・税理士 木下 勇人 - 事 例 - 資産家の夫は余命2ヶ月の宣告を受けた妻に対し、贈与税の配偶者控除を使って自宅2,110万円に相当する持分(全体持分の5分の1)を贈与することを12月15日に決定した。 この決定の背景には、1人娘が義理の両親と2世帯住宅で一緒に住むことになったため、いわゆる「家なき子特例」が娘に使えなくなるということを顧問税理士から教えてもらったことがある。つまり、保有資産が少額である妻を経由して、娘に自宅の一部を相続させるほうが節税になると判断したわけである。 妻が意識を保てる期間はそう長くないため、顧問税理士へ早急に段取りを確認したところ、贈与契約を締結するだけでは要件を満たしておらず、当該贈与契約に基づく所有権移転登記が必ず必要との回答があった。 そこで、贈与契約と所有権移転登記の手続を同時に進めるため、税理士へ司法書士の紹介を依頼した3日後、妻の容態が急変し帰らぬ人となってしまった(贈与契約未了)。妻の推定相続人は、夫・長女の2名である。 ■ ■ ■ 回 答 ■ ■ ■ この事例における失敗は、顧問税理士が平成28年度税制改正の「贈与税の配偶者控除に係る添付書類の見直し」を押さえておらず、贈与契約と所有権移転登記の手続きを同時に進めようとしたため、準備に時間を要し、妻が意識を保てている間に贈与契約を締結することができなかった点です。 -解 説- 1 贈与税の配偶者控除に係る添付書類の見直し(平成28年度税制改正) 平成28年度税制改正前までは、贈与税の配偶者控除の適用を受ける場合、法定添付書類として「居住用不動産の登記事項証明書」を申告書に添付する必要があった。 しかしながら、この贈与は夫婦間の財産移転であることから所有権の移転登記を行っていない場合や、改正前の規定では所有権の移転登記後の登記事項証明書の添付までは求められるものになっていなかったことから、贈与者名義のままの登記事項証明書が添付される事案が散見されていた。 そこで、平成28年度税制改正により、「所有権の移転登記後の登記事項証明書」や「贈与契約書」等、その居住用不動産を配偶者が取得したことを証する書類に改められた(相規9二)(財務省「平成28年度税制改正の解説」546頁)。 2 税理士の判断による贈与契約未了の罪 上記のとおり、妻が意識を保てていた期間に贈与契約書だけでも締結しておくべきであった。本件の家族構成は、父・母・長女の3人であり、父は資産家であることから、親族間の争いの可能性は一般的に低いため、相続税節税の観点が優先される案件となる。 平成30年度税制改正により「家なき子特例」の要件厳格化に伴い「相続開始前3年以内に3親等以内の親族の家に居住していないこと」が求められるようになった(措法69の4③二ロ)ため、本件長女が義理の両親と2世帯住宅に居住することで、要件を満たせなくなるとの顧問税理士の判断は正しい。 しかしながら、上記1を押さえていたならば、妻が意識を保てていた段階で早急に贈与契約書を締結すべきであった。また、その場合、相続直前と予想される贈与契約であるならば、公正証書を用いた贈与契約や、贈与契約の締結場面を録画しておくなどして贈与契約の事実を固め、税務調査を意識した疎明資料の強化を図るべきである。 仮に、12月中に贈与契約を締結し、翌年1月中に妻の相続が発生した場合でも、妻の立場として贈与税申告が必要になることは言うまでもないが、その場合には「贈与税の申告書付表」を用いて相続人が贈与税申告をすることになる。 3 最後に 認知症に罹患する高齢者の割合が増加している昨今の情勢を鑑みた場合、税理士としての提案も、緊急性を要し「時間との勝負」となる場面も多くなる。また、事前提案をしてもクライアントが高齢者の場合、実行の意思決定が長期化することは頻繁に起こりうる。筆者の肌感覚にはなるが、意思能力を保てる直前におけるクライアントからの駆け込み依頼が多くなっているようにも感じる。そのため、迅速な対応ができるようあらかじめ優先順位を決めておくなど、日頃からシミュレーションしておくことが望ましい。 ただし、本件においても、仮に両親と長女の間に確執がある場合は、贈与契約そのものの有効性につき、税務の観点から離れて、民事訴訟が長女から提起される可能性も否めない。贈与による財産の取得を課税原因として贈与税が課されるが、その前提に「贈与」という法律行為があることを、税理士の立場でも意識する必要性が高まっていると考える。 (連載了)
収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第32回】 千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也 (3) 法人税法22条の2第3項の適用要件 法人税法22条の2第3項は、資産の販売等を行った場合において、次の❶及び❷の要件を満たさないと適用されない。 ❶ その資産の販売等に係る法人税法22条の2第2項に規定する近接する日の属する事業年度の確定申告書に、その資産の販売等に係る収益の額の益金算入に関する申告の記載があること ❷ その資産の販売等に係る収益の額につき、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って、法人税法22条の2第1項の目的物の引渡日又は役務提供日、あるいは2項の近接日の属する事業年度の確定した決算において収益として経理した場合に該当しないこと ❶からすれば、引渡・役務提供基準という原則的なルールとは異なる収益計上基準を採用しようとする場合に、法人税法22条の2第3項をもってしても、2項に規定する近接日以外の日の属する事業年度に益金算入できるわけではないことは明らかである。 いかに、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従った処理(従前から認められてきた会計処理)であっても、目的物の引渡日又は役務の提供日との時間的近接性が認められなければ、法人税法上はその採用が認められないということになる。 この意味で、法人税法22条の2第3項は、2項と同様に、引渡・役務提供基準から離れた会計処理を行う場面を想定する場合に、引渡・役務提供基準との関係において“限定された柔軟さ”を体現する規定であるといえよう(本連載第21回参照)。 また、法人税法22条の2第3項を適用する場合の申告調整は、当初申告における申告調整に限られる。修正申告書において初めて、近接日基準に基づく申告調整を行ったとしても、法人税法22条の2第3項の適用はない。 確定申告書とは、法人税法「第74条第1項(確定申告)又は第144条の6第1項若しくは第2項(確定申告)の規定による申告書(当該申告書に係る期限後申告書を含む。)」を指すからである(法人税法2三十一・三十六)。 ❷について、法人税法22の2第1項を適用する場合に、公正処理基準に従っているとはいえない場合があるのか、明らかではない(無償取引については検討の余地があろうか)。 そもそも法人税法22条の2第1項は、2項と異なり、少なくとも明示的には公正処理基準に従うことを求めていない。そうすると、わざわざ3項括弧書きで、「第1項に規定する日・・・の属する事業年度の確定した決算において収益として経理した場合」という部分についても、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って」という限定的な語を付加したことの意味はどこにあるのであろうか。 さらにいえば、法人税法22条の2第3項の括弧書き(上記❷の部分,以下の(※)の部分)において、法人税法22条の2「第1項に規定する日」という部分はその後の「の属する事業年度の確定した決算において収益として経理した場合」につながっている。 法人税法22条の2第1項は、確定決算により引渡・役務提供基準に基づく収益計上を行うことまでは求めていない。そうであるにもかかわらず、わざわざ3項で、「第1項に規定する日」「の属する事業年度の確定した決算において収益として経理した場合」としたことの意味を検討する必要もありそうである。 すなわち、法人税法22条の2第1項は、引渡・役務提供基準の適用に際し、少なくとも形式上、法人税法22条の2第2項が定める公正処理基準準拠要件や確定決算収益経理要件を課していない。法人税法22条の2第1項は、2項のような確定決算収益経理要件を課していないため、3項のような申告調整の規定も用意されていない(本連載第14回参照)。 もう少し考えてみよう。 法人税法22条の2第1項に規定する引渡日又は役務提供日の属する事業年度で収益経理した場合には、第3項の適用はないことになるが、それは、引渡日又は役務提供日の属する事業年度の「確定した決算において」収益として経理した場合に限られる。 他方、引渡日又は役務提供日の属する事業年度で収益の額を益金算入すること自体は、申告調整によっても認められるはずである。第1項は、確定決算による経理を求めていないからである。 もっとも、申告調整によって引渡日又は役務提供日の属する事業年度で益金算入している場合には、法人税法22条の2第3項を適用する場合から除かれる「当該資産の販売等に係る収益の額につき一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って第1項に規定する日・・・の属する事業年度の確定した決算において収益として経理した場合」には該当しないものの、結局は、法人税法22条の2第3項の適用はないと考えるべきか。申告調整が競合した場合の規定の優先順位はどのようになるのか。 この点は、いくつかのパターンに分けてシミュレーションする余地が残されている。 例えば、引渡日又は役務提供日において、確定決算で収益計上せずに、法人税法22条の2第1項に基づき、申告調整により益金算入していた(又はしようとする)場合において、その引渡日又は役務提供日より後(又は前)の近接日において3項を適用しようとする(又はしていた)ときは、いずれの規定が優先されるのであろうか。2項や3項を1項の「別段の定め」としてこれらの規定が1項に優先すると整理すべきであろうか。 (了)
〔中小企業のM&Aの成否を決める〕 対象企業の見方・見られ方 【第4回】 「《特別編》コロナ禍が変える中小企業のM&A」 ~その1:資産・事業価値の減少が買い手・売り手のM&Aの視点を変える~ 公認会計士・税理士 荻窪 輝明 1 コロナ禍で変わる3者のM&Aの視点 新型コロナウイルスの感染拡大によって、中小企業の多くは今後の経営のあり方や戦略の見直しを迫られています。中小企業のM&Aについても、足元の経営環境の把握や、戦略の転換を図る中で、買い手・売り手はもちろんのこと、支援機関といった第三者に至るまで、従来とはスタンスを変えつつあります。 新型コロナウイルスによって一変した世界において更に変化し続ける環境のもと、中小企業のM&Aはどのような影響を受け、これからの対応はどう変わっていくのか、買い手・売り手・第三者の各当事者の視点を通じて、今、整理しておくことは有用です。 そこで、今回から《特別編》として、コロナ禍が変える中小企業のM&Aについて解説していきます。 今回のテーマは、「資産・事業価値の減少が買い手・売り手のM&Aの視点を変える」となります。M&Aによって事業の一部ないしは全部の売却を検討中の中小企業が、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、資産の損失が生じた・拡大した、事業価値そのものが低下した、M&Aを断念した、といったケースが現に見られます。甚大な被害を受けたなら、今後の事業そのものに影響し、M&Aの計画や戦略自体を見直す可能性が高まります。 この環境下で、あるいは今後を見据えて、売り手は買い手にどう見せ、どう見られるか、買い手は、売り手をどう見たらよいか、支援機関など第三者は、コロナ後の世界の中で、中小企業M&Aにどう対応すればよいか、新たな視点が必要とされる時期がきています。 2 資産・事業価値の減少に影響を受けやすいM&Aの対価 さて、今後しばらくの間、特に中小企業M&Aの売り手側からは、次のような相談が寄せられることが多くなると予想されます。 新型コロナウイルスの影響で、自社の資産価値が落ちたことを実感しました。社長の私が高齢になったこともあって、近いうちに事業の売却を考えていた矢先、目先の状況を見通せなくなりました。自社にとって最大の危機ともいえる中で、これからM&Aに向けた計画をどう見直すべきか、困っています。 資産の中身にもよりますが、事業そのものの価値という観点まで含めると、資産価値や事業価値が落ちるケースには、たとえば、次のようなことが考えられます。 一例ですが、こうした要素の1つや、複数に当てはまる企業は増えていると言わざるを得ません。 このような資産や事業自体の価値が下落、低下、き損した場合に、影響を受けやすいのは、M&Aの対価です。事業を譲渡する際の取引価額や、株式を譲渡する際の価額が変わるので、売って入ってくるお金の見込み額が、従来の水準より少なくなる可能性がある、という意味です。余力のある買い手なら、安い買い物が可能な機会が訪れた、と考えることもできます。 中小企業のB/Sでは、普段、ほぼすべての資産は簿価で記録されていると思います。資産や事業の価値が落ちた場合、この前提を崩さなくてはなりません。簿価を下落している時価に置き換えると、会計の仕組み上、その分だけ損失を生じさせます。結果として、P/Lの利益金額は当初よりマイナスになります。そして、B/Sもその影響を受け、資産の下落額相当だけ、純資産も目減りします。目先の資金不足を借入で賄えば、負債が膨らむので、被害状況が大きいと、債務超過(負債>資産となった状態)に陥ることも考えられます。 コロナ禍によって資産や事業が悪影響を受けたのであれば、少なくとも売り手の売却価値は下がったと判断されやすくなります。 一方で、コロナ禍によって影響を受けた資産や事業を前にして、とても大変なことですが、ここで適切な分析や対策を講じておくことができれば、後々、買い手に対する有効な見せ方として活用することも考えられます。 3 影響別に見る有効な買い手の見方、売り手の見せ方 以下では、コロナ禍によって影響を受けた企業をAからCの3パターンに分類し、それぞれで有効とされる買い手の見方、売り手の見せ方を確認します。 〈パターン別の買い手の見方、売り手の見せ方〉 * * * コロナ禍によって、従来の買い手・売り手の見方・見られ方が変わる可能性が大いにあります。苦しい環境下でも、自社の置かれた状況をなるべく冷静に判断し、焦って最悪の選択をしないようにすることが、この場面では特に重要です。 次回も続けて《特別編》をお届けします。次回は、第三者の視点から、M&Aの売り手・買い手をどう見ればよいかについて解説します。 (了)
空き家をめぐる法律問題 【事例24】 「倒壊のおそれがある隣家の空き家問題」 弁護士 羽柴 研吾 - 事 例 - 私は、地方に相続した建物を所有していますが、建物も古くなっていることや使い道もないことから、取り壊すことを考えています。ところが、実際に現地へ行ってみると、隣家の建物が傾いており、私の所有する建物に寄りかかっているような状態となっていました。 解体業者に相談したところ、私の所有する建物を取り壊そうとすると、支えを失って隣家が倒壊する可能性がある旨指摘を受けました。 このような場合に、どのようなことに注意して取壊しをすればよいですか。 なお、隣家は空き家となっており、誰が所有者か、現時点では分かっていません。 1 はじめに 建物の所有者が建物(以下「自己所有建物」という)を取り壊そうとしたところ、近接する隣家が傾いて寄りかかっている等の事情のために、取り壊すことに支障があるような事例が見受けられる。 現に、筆者の事務所所在地においても、市内中心部においては、このような状態の物件が散見されており、今後、全国においてもこのような事象が増えていく可能性があるように思われる。 そこで、今回は、自己所有建物を取り壊そうとする場合に、隣地に倒壊の危険性のある空き家の法律問題について検討することにしたい。 2 対策を講じない場合の法的責任 隣家の倒壊予防措置が講じられない状態が続くと、隣家が倒壊し、隣家の倒壊の影響を受けて自己所有建物が損傷する可能性がある。また、自己所有建物の屋根や外壁等が崩れた結果、通行人や第三者の物件にも損害を与えるおそれがある。 このような原因を作ったのは隣家の空き家ではあるが、自己所有建物の所有者が、隣家の空き家が自己所有建物側に傾いている状態を放置していたような場合には、自己所有建物の保存の瑕疵(当該工作物が、その種類に応じて、通常備えているべき安全性を欠いていること)が認められ、隣家の所有者とともに、損害賠償責任(民法第717条、民法第722条)を負う可能性がある。 3 隣家の修繕工事を行う方法 (1) 修繕工事の請求をする方法 自己所有建物の所有者は、隣家の倒壊等によって自己所有建物が損傷させられるおそれがあることから、隣家の所有者に対して、所有権に基づく物権的妨害排除請求権又は物権的妨害予防請求権を行使することが考えられる。これらの物権的請求権は、相手方が侵害状態を作出したか否かにかかわらず、費用を負担させて、侵害状態やそのおそれがある状態を取り除くことを請求する権利と解されているため、補強工事等の費用を隣家の所有者に負担させることができる。 しかしながら、隣家の所有者が任意に修繕工事を行う保障はなく(むしろ修繕工事する意思がないことから、倒壊のおそれのある状態が継続していると考えられる)、そのような場合は、調停、訴訟等の法的措置を講じざるを得ないが、法的手続は任意の対応に比べて時間を要するため、緊急性のある事案には適していない。 (2) 修繕工事を自ら行う方法 隣家の空き家の管理権は空き家の所有者にあるため、原則として、第三者が修繕工事を行うことはできない。しかしながら、建物の管理事務は当該所有者の事務と考えられることから、第三者は、事務管理(民法第697条)として、修繕工事を行うことが考えられる。この際に、事務管理を行った者の名義(非顕名代理)、本人の代理人名義(顕名代理)のいずれで修繕工事の契約を行っても、本人に修繕契約の効果を帰属させるためには、本人の追認が必要である。 そのため、空き家の所有者と連絡が取りにくいような場合、本人の追認がない限り、工事業者が本人に対して、修繕工事の請負代金請求をできないことから、請負工事業者は、例外的な事情がない限り、非顕名代理での修繕工事の契約を行うことを求めてくるものと思われる。 この場合、事務管理を行った者は、請負代金の負担について、①修繕工事代金を支払った後、本人に対して費用償還請求(民法第702条第1項)を行うか、②本人に対して、請負代金の代弁請求(民法第702条第2項)を行うかのいずれかによることになるが、本事例のような場合には、①によることになる可能性が高いと思われる。 このように、事務管理の方法によって自ら修繕工事を行うことは可能であるが、第一次的に費用を負担するリスクがあることには留意が必要である。 なお、第三者が事務管理を開始した場合、空き家の所有者が管理をすることができる状態になるまで事務管理を継続しなければならない(管理継続義務、民法第700条)が、空き家の所有者側に管理承継義務まで認められるかについては議論のあるところである。本件のような事案のほかに、地方公共団体が、やむをえず空き家の応急処置を行った後に、遠方に在住する空き家の所有権者に対して、管理を承継することを請求できるかというような事案で問題となりうる。 もっとも、民法第700条は管理者の管理継続義務を認めるに留まり、本人側の管理承継義務まで読み込むことは困難であろうから、管理継続義務消滅後に生じた空き家に関する管理問題は、不法行為その他の民法の規律によって判断されるべきもののように思われる。 (了)