《速報解説》 時価算定基準等に対応した 「会社計算規則の一部を改正する省令」が公布される ~公開草案に寄せられた意見の概要及び意見に対する法務省の考え方も公表~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020(令和2)年3月31日、「会社計算規則の一部を改正する省令」(令和2年法務省令第27号)が公布された。これにより、2020年2月10日から意見募集していた公開草案が確定することになる。 これは、2019年7月4日に企業会計基準委員会が公表した「時価の算定に関する会計基準」(企業会計基準第30号)等及び同年12月12日に金融庁が公表した「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)」に対応するものである。同内閣府令(案)については、2020(令和2)年3月6日に、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第9号)として公布されている。 なお、公開草案に対する意見の概要及び意見に対する法務省の考え方が公表されている(以下「法務省の考え方」という)。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 金融商品に関する注記として表示すべき事項に「金融商品の時価の適切な区分ごとの内訳等に関する事項」を追加する(会社計算規則109条1項3号)。 ただし、会社法444条3項に規定する株式会社以外の株式会社にあっては、会社計算規則109条1項3号に掲げる事項を省略することができる。 Ⅲ 法務省の考え方 Ⅳ 適用時期等 (了)
《速報解説》 東証、新型コロナウイルス感染症拡大・長期化懸念による企業活動への影響実態に応じ「有価証券上場規程」等に特例を新設 ~パブコメ手続終了次第、速やかに施行~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020年3月31日、東京証券取引所は、「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた上場制度上の対応に係る有価証券上場規程等の一部改正について」を公表し、意見募集を行っている。 すでに、東京証券取引所は、「新型コロナウイルス感染症に関するリスク情報の早期開示のお願い」と「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた対応方針について」を公表しており、「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた対応方針の概要」では、上場廃止基準等に関して、2020年3月期から適用することを想定し、速やかに制度改正手続に着手すると述べていた。 公開草案は、新型コロナウイルス感染症の拡大と長期化懸念による企業活動への影響度合いを踏まえ、上場会社及び上場申請会社に対する現行の上場制度の適用について、実態に応じた柔軟な取扱いを可能とするために、特例を新設するものである。 パブリック・コメントの期間は、通常よりも短縮されており、2020年4月14日までとされている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 上場会社を対象とした対応 上場会社が、新型コロナウイルス感染症の影響により債務超過の状態となった場合又は債務超過の状態が解消できない場合は、上場廃止までの猶予期間を1年間から2年間に延長する(指定替え基準についても1年間の猶予期間を新設)。 Ⅲ 上場申請会社を対象とした対応 上場審査に関して次のことが述べられている。 Ⅳ 適用時期等(施行日) (了)
《速報解説》 民法(債権関係)の改正・KAM強制適用等に対応した 「監査及びレビュー等の契約書の作成例」(法規・制度委員会研究報告第1号)が公表される ~法規委員会研究報告第16号から名称等を変更~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020年3月17日付けで(ホームページ掲載日は2020年4月1日)、日本公認会計士協会は、「監査及びレビュー等の契約書の作成例」(法規・制度委員会研究報告第1号)を公表した。 従来、「監査及びレビュー等の契約書の作成について 」(法規委員会研究報告第16号)を公表していたが、民法(債権関係)の改正、監査上の主要な検討事項(KAM)の強制適用などに対応し、また、法規委員会と公認会計士制度委員会が統合し、新たに法規・制度委員会となったことから、法規・制度委員会研究報告第1号として、研究報告の名称及び付番を行っている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 1 民法(債権関係)改正に伴う対応 「民法の一部を改正する法律」(平成29年法律第44号)が、 2020年4月1日から施行され、これに対応して研究報告を改正している。 「Ⅲ 監査及び四半期レビュー契約書の作成例」の「2.契約書の記載内容」の「(14)契約の解除・終了」の②に、次の記載が行われている。 2 監査・保証実務委員会報告及び実務指針の改正に伴う対応 「財務報告に係る内部統制の監査に関する実務上の取扱い」(監査・保証実務委員会報告第82号)の改正、「四半期レビューに関する実務指針」(監査・保証実務委員会報告第83号)の改正対応、「監査報告書の文例」(監査・保証実務委員会実務指針第85号)の改正に対応し、監査約款2条「受嘱者の責任」及び3条「監査の性質及び限界」(四半期レビュー約款2条及び3条)を改正している。 3 監査上の主要な検討事項(KAM)の強制適用に伴う対応 監査上の主要な検討事項(KAM)は、上場企業等の金融商品取引法に基づく2021年3月31日以降終了する事業年度の監査から適用となることから、改正前の研究報告本文にあったKAMの早期適用を前提とした記載を削除するとともに、様式1から様式5までのすべての監査契約書の様式例を改正する。 (了)
《速報解説》 「財務報告に係る内部統制の監査に関する実務上の取扱い」が改正される ~「開示すべき重要な不備」の監査上の主要な検討事項としての取扱いを示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020年3月17日付けで(ホームページ掲載日は2020年3月31日)、日本公認会計士協会は、「監査・保証実務委員会報告第82号「財務報告に係る内部統制の監査に関する実務上の取扱い」の改正について」を公表した。これにより、2020年1月31日から意見募集していた公開草案が確定することになる。 これは、2019年12月6日の「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂に関する意見書」(企業会計審議会)を受けたものである。 なお、コメントの概要及び対応も公表されており、コメントを受け、公開草案を修正している部分もある。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 主な改正内容 主な改正内容は次のとおりである。 内部統制監査報告書の文例なども改正されている。 2 監査上の主要な検討事項関係 「監査上の主要な検討事項」に関して、財務報告に係る内部統制における開示すべき重要な不備自体は、監査基準委員会報告書 701「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」における監査上の主要な検討事項として取り扱う必要は必ずしもないと記載されている(222-2項)。 ただし、当該識別された開示すべき重要な不備が財務諸表監査に及ぼす影響を考慮して、当該不備に関連する事項が監査上の主要な検討事項に該当すると判断した場合は、財務諸表監査の監査報告書に記載することがある(その場合、財務諸表監査の監査報告書の監査上の主要な検討事項において内部統制監査報告書の強調事項や不適正意見の根拠に参照を付すことがある)。 3 内部統制監査報告書における監査意見関係 限定付適正意見及び不適正意見の表明並びに意見不表明に関して、その内容や財務諸表監査に及ぼす影響などの記載について規定されている(274-2項、276-2項、277-2項、278-2項)。 Ⅲ 適用時期等 (了)
《速報解説》 「四半期レビューに関する実務指針」 の改正が確定 ~「監査人の結論」を冒頭に変更し「結論の根拠」を新設~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020年3月17日付けで(ホームページ掲載日は2020年3月31日)、日本公認会計士協会は、「監査・保証実務委員会報告第83号「四半期レビューに関する実務指針」の改正について」を公表した。これにより、2020年1月31日から意見募集していた公開草案が確定することになる。 これは、2019年9月3日の「四半期レビュー基準の改訂に関する意見書」(企業会計審議会)を受けたものである。 なお、コメントの概要及び対応も公表されており、コメントを受け、公開草案を修正している部分もある。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 主な改正内容 主な改正内容は次のとおりである。 四半期レビュー報告書の文例なども改正されている。 2 四半期レビュー報告書における監査人の結論関係 次のことが規定されている。 Ⅲ 適用時期等 2020年4月1日以後開始する連結会計年度又は事業年度に係る四半期連結財務諸表又は四半期財務諸表の四半期レビューから適用する。 (了)
《速報解説》 会計士協会、監査基準等の改訂を受け「監査報告書の文例」を改正 ~意見募集での指摘により公開草案から一部修正~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020年3月17日付けで(ホームページ掲載日は2020年3月31日)、日本公認会計士協会は、「監査・保証実務委員会実務指針第85号「監査報告書の文例」の改正について」を公表した。これにより、2020年1月31日から意見募集していた公開草案が確定することになる。 これは、2019年9月3日の「監査基準の改訂に関する意見書」及び「中間監査基準の改訂に関する意見書」(企業会計審議会)を受けたものである。 なお、コメントの概要及び対応も公表されており、コメントを受け、公開草案を修正している部分がある。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 次のとおりである。 Ⅲ 適用時期等 (了)
2020年4月2日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.363を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.87- 「コロナ経済対策を機にあらゆる垣根を越えた「デジタルガバメント」構築を」 東京財団政策研究所研究主幹 森信 茂樹 今回の新型コロナウイルス感染症問題で明らかになったことの1つは、わが国の様々な分野において、デジタル化が遅れているということである。 医療のオンライン診療は、医師会の圧力により診療報酬を低くすることで普及が抑制されてきた。オンラインによる遠隔教育も様々な利害関係や教材の著作権問題などの調整が進まず、本格的な普及には至っていない。現に昨年の規制改革委員会答申には、双方とも課題として取り上げられている。 一方、現在、本格的な経済対策として、政府部内で現金給付が検討されている。安倍首相は3月28日の記者会見で、経済減速の影響を受ける個人や中小企業に現金を給付する方針を明らかにしているが、所得補償や消費喚起策として、現金を配ることは即効性があり、それなりの効果が期待できる。 しかし、1つ大きな問題がある。それは現金給付金が、種々議論の結果、前回09年に実施された定額給付金のように、国民全員に一律配布されるようになれば、いかにも非効率であり、効果的ではないということだ。 * * * 今回の対応では、前年より所得が大きく減少したフリーランス・個人事業主、雇止めや解雇にあった非正規雇用者などを把握して、手厚く給付することが必要だ。一方で、国家・地方公務員や大企業正社員、さらには年金生活者などは、収入という面では被害が少なく、経済対策としての給付は制限・排除して、その分困窮者に手厚くすべきである。 国民の所得情報を知るためには、住基コードと結び付いたマイナンバーの活用が不可欠となる。もうすぐ確定申告が終われば、2019年分の所得が世帯も含めて把握できる。個々の自治体レベルでこれを活用すれば、生活困窮者を突き止めることができ、その人たちへの給付を効率的・効果的に行うことができる。 2014年4月の消費税5%から8%への引上げ時には、地方自治体がシステムを整備して、住民税非課税世帯に1人当たり1万5,000円の給付を行った。10%引上げの際には、住民税非課税の年金生活者に支援金を行った。今回そのシステムを改修して、「住民税非課税かどうか」ではなく「一定の所得基準(例えば収入700万円)」で線を引き、あとは窓口対応とすればよいのではないか。 * * * 所得情報(税務情報)と社会保障情報を結び付け、一体的に運営するシステムの構築は、デジタルガバメントの第一歩であり、今後わが国の社会保障制度にとって極めて重要な社会インフラとなる。 欧米では、番号により国民全員の税情報(課税所得)と社会保障給付が情報連携され、有機的に活用されている。 米国では、番号情報により貧困ラインを下回る収入の納税者には、勤労税額控除(EITC)という減税と給付が与えられる制度があり、申告の段階で適用されている。今回米国が行う対策は、それを活用して、既婚カップルには2,400ドル(17歳以下の子ども1人につき500ドル上乗せ)の一時金が給付されるが、所得が15万ドルを超えたところから逓減し、19万8,000ドルでなくなるという内容だ。 また英国には「ユニバーサル・クレジット」という制度があり、あらゆる社会保障給付と税負担が一体的に捉えられ、貧困対策・子育て支援としての給付が行われている。今回の対策はこれをフル活用している。同様の制度は、オランダ、スウェーデンなど主要欧州諸国、韓国などで導入されている。 * * * 今回のような緊急時は、これまで既得権益からの反対、各種規制、財源問題、各省間の縄張りなどから導入できなかったデジタルガバメント構築に向けて、一気に進めていくチャンスと捉えるべきだ。 (了)
法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例16】 「宅地造成に伴う雨水排水路工事費に係る見積金額の損金計上」 国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦 【Q】 私は埼玉県で宅地開発業を営む株式会社A(3月決算)の代表取締役です。今回のご相談は、わが社が数年前から行ってきた、県内のX市における宅地開発事業に関する法人税の取扱いに関するものです。 A社は、X市から土地を購入し、宅地として造成し販売することとしました。当該宅地開発は、都市計画法上、埼玉県知事の許可を必要とし、当該許可にはX市の同意が必要とされます。X市はこの同意権を背景に、A社に対して、今回の開発区域外にある雨水排水路の整備などを行うよう指導してきました。A社は当該指導を了承し、X市の同意を得て埼玉県知事から平成27年6月に開発許可を受けました。その後A社は当該宅地を造成して平成29年12月末までの6ヶ月間にすべて販売し、法人税の申告上、その収益を平成30年3月期の益金に算入しました。 しかし、宅地販売後になって、X市の担当者は雨水排水路の仕様の変更を要請してきましたが、これにより工事費が一挙に3倍となるため、A社は当該要請を拒否しました。その後X市の担当者は、当初の工費の範囲内で収まるような仕様の変更にとどめる代案を提示してきましたので、A社はこれを受け入れ、当該排水路の工事を行うB建築株式会社に見積もりを依頼しました。B社は直ちに見積もり(1億5,000万円)を提示してきたので、これをX市の担当者に連絡しました。 困ったことに、X市は更に方針を変更し、当該工事は公共事業として行うこととし、A社に対して、当該見積額を都市下水路整備負担金としてX市に支払うよう求めたため、A社はこれを平成30年3月までに了承しました。また、A社は当該負担金相当額を全額平成30年3月期の法人税の申告上、売上原価として損金に算入しました。X市も当該金額を平成30年度一般会計予算において歳入として計上したところです。 ところが、X市の住民が当該工事を含む下水路整備事業につき反対運動を起こしたため、X市は平成31年3月において当該工事を実施しないことを決定し、結局、A社もまた上記負担金の支出を行わないこととなりました。 このような経緯がありましたが、最近受けた税務調査で調査官から、都市下水路整備負担金として平成30年3月期に売上原価として損金算入した金額は、実際に支払っておらず、債務として確定していないことから、損金算入は認められない旨言い渡されました。平成30年3月の決算時点においては、都市下水路整備負担金を支出することは確実であり、その金額も合理的に見積もることができることから、実際に支払っていなくとも売上原価とするのは妥当と考えますが、いかがでしょうか。 〇宅地開発許可と都市下水路整備の負担 【A】 最高裁判決の判示から考えると、債務の確定していない支出の見込みであっても、その支出が相当程度の確実性をもって見込まれ、かつその金額を適正に見積もることができる場合には、法人税法第22条第3項第1号にいう売上原価として損金算入することに問題はないものと考えられます。 ただし、都市下水路整備負担金を事実上の(租税)公課と解する場合には、売上原価ではなく販管費となり、その損金算入には債務の確定が求められるため、平成30年3月期に損金算入することはできないとされる可能性はあります。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 法人税法上の「債務の確定」の意義 法人税法においては、損金をどの事業年度に計上すべきか(損金の年度帰属)については、一般に、企業会計上の発生主義及び費用収益対応の原則によることとされている。 一方で、企業会計上、費用収益対応の原則に基づき費用計上が広く認められる引当金や見積費用について、法人税法上は課税の公平等の観点からその計上を制限しているが(※1)、その理論的根拠として用いられているのが債務の確定(債務確定基準)という考え方である(法法22③二カッコ書)。 (※1) 租税法が債務の確定を求めるのは、販管費のような期間に基づく対応関係を基準に費用認識をするケースを制限するためと解されている。岡村忠生「法人税法22条3項1号の売上原価と費用見積金額」、中里他編『租税判例百選(第6版)』(有斐閣・2016年)105頁。 その内容については、法人税基本通達2-2-12によれば、以下の3つの要件を挙げている。 債務確定基準は、販売費・一般管理費のように、特定の収益との対応関係が明らかではないもの(期間的・間接的な対応関係に過ぎないもの)について適用される基準である(法法22③二)(※2)。 (※2) 金子名誉教授は、債務確定基準について、債務の発生が確実であり、かつその金額を正確に確認できることが要件であると解しており、後述(3)の最高裁平成16年10月29日判決・刑集58巻7号697頁と同様の立場(最高裁判決は売上原価に係るものであるが)を採っている。金子宏『租税法(第二十三版)』(弘文堂・2019年)368頁参照。 (2) 売上原価と「債務の確定」 法人税法上、損金の額に算入すべき金額の中には、当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額が挙げられ、収益(売上)に対応する売上原価は損金の額に算入すべきものとされている(法法22③一)。ここには、上記の「債務の確定」の文言は出てこない。 売上原価が認識されるのは、収益との直接的な対応関係に基づくもの(費用収益対応の原則)であり、商品等の仕入れに係る対価の支払債務の確定に基づくものではない。したがって、収益認識時点で仕入代価が決まっていなくとも(債務の確定がなくとも)、費用収益対応の原則から、売上原価は認識しなければならないというのが法人税法の考え方なのである。すなわち、法人税法上、売上原価の損金算入には債務確定の要件はない、ということを確認しておきたい。 (3) 見積費用の原価性 それでは、本件のように、収益計上時には負担することが見込まれているものの、翌期において結局支払いが中止となった見積費用(都市下水路整備負担金)は、売上原価として損金算入することに問題はないのであろうか。 この点について争われた裁判例(最高裁平成16年10月29日判決・刑集58巻7号697頁、TAINSコード:Z999-9050、虚偽過少申告をして法人税を免れたとして起訴された事案)があるので、以下でその内容を検討したい。 ① 事案の概要 被告人A株式会社は、茨城県稲敷郡牛久町(現牛久市)内の土地を購入して造成し宅地として販売することにした。被告会社は、上記開発行為につき茨城県知事の許可を得るため、都市計画法に基づいて牛久市と協議をした。牛久市は、宅地開発に当たっては、開発区域の内外を問わず、流末排水路を開発業者に整備させるという行政指導を行い、開発業者がこれに従わない場合には、同法32条に基づく公共施設の管理者としての同意を与えず、開発許可申請を茨城県知事に申達しないという取扱いをしていた。このため、牛久市の担当者は、被告会社に対し、本件土地内から排出された雨水が流下することになる開発区域外の長さ約400mの農業用水路を、直径2mの管を埋設した暗渠の雨水排水路とすることなどを内容とする改修工事を行うよう指導した。 被告会社は、これを了承し、牛久市の同意を得て、昭和58年6月に茨城県知事から開発許可を受けた。その後、被告会社は、本件土地を造成し、昭和62年6月にこれを販売した。 昭和62年7月ころ、牛久市の担当者は、方針を変更し、被告会社に対し、幅4mの開渠の雨水排水路とすることなどを内容とする改修工事を行うよう指導した。当該改定案は当初案の約3倍の工費を必要とするため、被告会社が難色を示すと、牛久市の担当者は、当初案の工費の範囲内で被告会社が改定案の工事を部分的に施工するとの代案を提示した。これを受け入れた被告会社は、本件改修工事を請け負わせようと考えていた株式会社C建設に対し、当初案の工費を見積もるよう依頼した。昭和62年9月ころ、同社は1億4,668万円と見積もり、被告会社はこの見積金額を牛久市の担当者に連絡した。 昭和62年10月ころ、牛久市側は、更に方針を変更し、本件改修工事をすべて公共工事として行うこととし、被告会社に対し、当初案の工費に相当する上記金額を都市下水路整備負担金として牛久市に支払うよう求め、被告会社はこれを了承した。 昭和62年11月30日、被告会社は、本件土地の販売に係る収益の額を昭和61年10月1日から同62年9月30日までの事業年度の益金の額に算入し、上記1億4,668万円を上記収益に係る売上原価の額として当期の損金の額に算入した上、確定申告をした。 牛久市は、昭和63年度から3年計画で本件改修工事を行うこととし、昭和63年3月成立の同年度一般会計予算において、被告会社が支出する上記負担金の初年度分として総額の約3分の1に当たる5,000万円を歳入に計上した。しかし、その後、牛久市は、住民の反対運動が起きることを懸念して同工事を行わず、被告会社も、上記負担金を支出していない。 一審の水戸地裁(平成11年5月31日判決・刑集[参]58巻7号813頁)は、被告会社と牛久市との間に改修工事に関して権利義務関係が成立していないとして、上記負担金の金額1億4,668万円を売上原価とすることはできないと判示した。 また、控訴審の東京高裁(平成12年10月20日判決・刑集[参]58巻7号865頁)も、 と判示して、上記負担金の金額全額を売上原価とすることはできないとした。 ② 事案の争点 都市下水路整備負担金である1億4,668万円を昭和62年9月期の収益に係る売上原価の額として損金の額に算入することの是非。 ③ 裁判所の判断 ④ 上記判決からいえること 本件の争点である、都市下水路整備負担金である1億4,668万円を昭和62年9月期の収益に係る売上原価の額として損金の額に算入することの是非について、最高裁はそれを是認した。その理由として、最高裁は以下の3つの事実に着目している。 上記から、最高裁は、「当期終了の日である同年9月末日において、被告会社が近い将来に上記費用を支出することが相当程度の確実性をもって見込まれており、かつ、同日の現況によりその金額を適正に見積もることが可能であったとみることができる」と判示している。そのため、昭和62年9月期において都市下水路整備負担金である1億4,668万円を売上原価として損金に算入することは妥当であるとの結論を導いている。 本件に関する最高裁の結論は妥当と考えられる。一方で、本件の最高裁の判示が一見、法人税基本通達2-2-12の3要件に似ているからといって、最高裁が売上原価の認識のタイミングに債務確定基準を適用したと理解することは誤りではないかと考える。これについては、既に(2)で見たとおり、法人税法は売上原価の認識のタイミングに関し債務確定基準を採用しておらず、あくまでも費用収益対応の原則により認識のタイミング(年度帰属)が決まるという点を確認しておきたい。 それでは、売上原価の「計上」と最高裁のいう「その金額を適正に見積もることが可能」とは、どのような関係にあるのであろうか。これは、売上(収益計上)時点で仕入代価が決まっていない(債務が確定していない)場合であっても、費用収益対応の原則から売上原価は認識しなければならず、そのために必要なものとして「見積計上」という手法があるということを意味するのである。 (4) 負担金の売上原価性 (3)の最高裁判決の事案及び本件に関し、そもそも論として、排水路改修の実施費用から転換した都市下水路整備負担金を、宅地販売収益との対応関係がある売上原価として捉えるのが妥当なのかについては、議論の余地があるだろう。すなわち、牛久市から負担を求められた都市下水路整備負担金は、宅地販売収益との直接の対応関係があるといえるのかどうか、必ずしも判然としない。 〇負担金の売上原価性 前述(3)④に掲げた最高裁の「牛久市は、都市計画法上の同意権を背景として、被告会社に対し本件改修工事を行うよう求めたものであって、被告会社は、事実上その費用を支出せざるを得ない立場に置かれていた」という判示をみると、最終的には支出しなかったとはいえ、少なくとも昭和62年9月期末においては、当該負担金は支出の可能性が高い金額であったといえるであろう。しかし、宅地販売収益と直接の対応関係があったといえるのかについては、必ずしも明確ではない。 仮に、事実上の強制力を伴う負担金であると解するのであれば、売上原価というよりは販管費の(租税)公課に分類されるという判断も可能であろう。その場合、当該負担金は法人税法第22条第3項第2号の「販売費、一般管理費その他の費用」となり、債務の確定により損金計上のタイミングが決まってくる。そうなると、昭和62年9月期末においてはまだ債務の確定はなく、損金計上はできないという結論になる可能性がある(※3)。 (※3) 岡村前掲(※1)評釈105頁参照。 (5) 本件への当てはめ 上記(3)で見てきた最高裁判決の判示から考えると、本件の都市下水路整備負担金のような債務の確定していない支出の見込みであっても、その支出が相当程度の確実性をもって見込まれ、かつその金額を適正に見積もることができる場合には、販売収益を計上した平成30年3月期において、法人税法第22条第3項第1号にいう売上原価として損金算入することに問題はないものと考えられる。 ただし、本件の都市下水路整備負担金を事実上の(租税)公課と解する場合には、売上原価ではなく販管費となり、その損金算入には債務の確定が求められるため、平成30年3月期に損金算入することはできないとされる可能性がある。 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第77回】 「継続的取引の基本となる契約書⑧ (販売協力金の支払に関する覚書)」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 当社は飲料商品等の製造会社です。当文書は当社と小売店との間で、販売協力金の支払について定める文書ですが、印紙税法上の課税文書に該当しますか。 なお、両社間には直接の売買取引はなく、取引には卸売会社が中間に入ります。 不課税文書に該当する。 [検討] 第7号文書に該当しないか 第7号文書の要件の1つとして、令第26条第1号において「営業者の間において、売買、売買の委託に関する二以上の取引を継続して行うため作成される契約書で、当該二以上の取引に共通して適用される取引条件のうち目的物の種類、取扱数量、単価、対価の支払方法、債務不履行の場合の損害賠償の方法又は再販売価格を定めるもの」と規定されている。 甲乙はともに営業者ではあるものの、売買の当事者は甲と卸売会社間、乙と卸売会社となるため甲乙は直接の売買取引がないので、第7号文書には該当しない。 ▷まとめ 事例の場合は、売買取引の直接の当事者間でないため、第7号文書には該当しないが、その売買取引の直接の当事者間であれば、事例のように売買に関する二以上の取引に際して作成する文書であり、取扱数量を定める場合は第7号文書に該当する。 (了)