租税争訟レポート 【第48回】 「居住者の認定を巡る無申告加算税・不納付加算税賦課決定処分と納税告知処分 (第一審:東京地方裁判所2019(令和1)年5月30日判決、控訴審:東京高等裁判所2019(令和1)年11月27日判決)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【判決の概要】 〈第一審〉 〈控訴審〉 【事案の概要】 本件は、下記の第1事件及び第3事件について、原告B社及び原告C社が、各納税告知処分及び第1・3事件各賦課決定処分の取消しを求め、第2事件について、原告Aが各通知処分及び第2事件各賦課決定処分の取消しを求める事案である。 1 第2事件 原告Aは、自らが所得税法2条1項5号の「非居住者」に該当するとの認識のもと、平成21年分から平成24年分について、いずれも確定申告期限までに所得税の申告をしなかったところ、同項3号の「居住者」に該当するとして所轄税務署長から期限後申告を勧奨されたため、各年分の所得税について期限後申告を行った上で、平成23年及び平成24年分の所得税について更正の請求をしたが、所轄税務署長から、いずれも更正をすべき理由がない旨の通知を受け、さらに、各年分の所得税の無申告加算税に係る賦課決定処分を受けた。 2 第1事件及び第3事件 原告Aが代表取締役を務める原告B社及び原告C社は、原告Aに対して支払った役員報酬について、原告Aが同項5号の「非居住者」に該当するとの前提で所得税を源泉徴収して納付していたところ、所轄税務署長から、原告Aが同項3号の「居住者」に該当するとして、平成21年11月から平成24年12月までの各月分の源泉徴収に係る所得税の納税告知処分及び不納付加算税の各賦課決定処分(以下「第1・3事件各賦課決定処分」という)を受けた。 【原告Aについて】 1 原告Aの国別滞在状況 判決別紙にまとめられた原告Aの国別滞在日数は、次のとおりである。本件で争点となっているいずれの年においても、日本での滞在日数は2分の1を下回っている。 《原告Aの国別滞在日数》 2 原告Aの職務内容について 裁判所の認定した原告Aの各社での役職と役員報酬をまとめると、次のとおりとなる。 ※ 原告Aの海外関連会社の社名について、判決文は「不開示」となっているため特定はできないが、裁判所による事実認定における関連会社の検討順序から、それぞれの役員報酬を上記のとおりと判断している。 【第一審判決の概要】 1 争点 本件の争点は、本件各処分の適法性であるところ、具体的な争点は以下のとおりである。 2 裁判所の判断 東京地方裁判所は、原告Aが「居住者に該当するか否か」について検討するにあたって、次の項目について事実認定を行った。 裁判所は、「住民票その他の書類の状況」の項目で、原告Aが、各年を通じ、シンガポールにおいては居住者用の納税申告書を用いて納税申告を行い、アメリカにおいては、非居住者用の納税申告書を用いて納税申告を行っていたことを認定している。 そのうえで、最高裁判所平成23年2月18日第二小法廷判決を引用する形で、次のように検討の前提条件を示した。 さらに、「客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かは、滞在日数、住居、職業、生計を一にする配偶者その他の親族の居所、資産の所在等を総合的に考慮して判断するのが相当である」として、各項目について検討を行った。 (1) 滞在日数及び住居について 裁判所は、本件各年において原告Aが滞在していた各国のうち、原告Aが自己所有建物又は賃貸建物に居を構え、定住できる態勢の整っていた国は、日本、アメリカ、シンガポールの3ヶ国であり、そのうち、日本国内における滞在日数と、原告らが原告Aの住所があったと主張するシンガポールにおける滞在日数とを比較すると、いずれの年についても、日本国内における滞在日数が上回っていたが、両国における滞在日数に大きな差があるとはいえないことから、滞在日数の比較から、原告の生活の本拠が日本国内にあったことを積極的に基礎付けることはできないものというべきであると判断した。 (2) 原告Aの職業について 次いで、裁判所は、原告Aは、各年を通じ、各海外法人の営業活動や工場の管理等の業務のため、年間の66~75%程度の期間は、諸外国に滞在して業務を行っていたものと認められ、年間の約4割の日数においてシンガポール又は同国を起点として渡航したインドネシアや中国及びその他の国に滞在していたことになるから、原告Aの職業活動は、シンガポールを本拠として行われていたと評価することができるものといえると評価した。 さらにこの評価の裏付けとなる事実として、①原告A自身、シンガポールの居住者として納税申告をし、シンガポールに居住しているとの認識を有していたこと、②アメリカに居住していた長男を後にシンガポールに呼び寄せていることという認定した事実を挙げている。 (3) 生計を一にする配偶者その他の親族の居所について さらに、裁判所は、原告Aと生計を一にする妻や二女は、各年を通じて、日本居宅において居住を続けていたことが認められるとしながらも、原告Aとその妻は、年間の大部分を海外の各地で過ごすことになる原告Aの職業活動に適応した生活の在り方として、妻らの生活の本拠は海外に移さず、日本居宅のままとし、原告Aが帰国したときに休暇も兼ねて妻らと会うという方法を選択したものということができると評価したうえで、生計を一にする妻らが国内に居住していたことは、原告Aの生活の本拠が日本国内にあったことを積極的に基礎付けるものとはいえないという判断を示した。 (4) 資産の所在について 原告Aの資産の所在について、裁判所は、日本国内において原告各社の株式、日本居宅の共有持分権、自動車及び多額の預貯金等を有しているものの、シンガポールにおいても1,700万円以上の預貯金を有しており、当面生活するために十分な額の資産を有していたものと認定したうえで、日本の預貯金等の資産をシンガポールに移転していないことについては、家族を残して海外に赴任する者の行動として不自然なものとはいえないことから、原告Aが日本により多くの資産を所有していることをもって、その生活の本拠が日本にあったことを積極的に基礎付けるものとはいえないと評価した。 (5) その他の事情について 裁判所は、原告Aが、日本住所地における住民登録について転出の届出をしていなかったことについては、一般に、適切な届出がされないため、住民登録の所在が必ずしも生活の実体を反映したものとなっていない例があることや、海外に赴任する者が他の手続上の便宜のために日本国内に住民登録を残しておくこともその者の行動として不自然であるとはいい難いことから、住民登録について転出の届出をしていなかったことをもって、原告Aの生活の本拠が日本にあったことを積極的に基礎付けるものとはいえないと判断を示した。 また、裁判所は、原告Aが、各年を通じて、日本の健康保険組合に加入を継続し、日本国内の病院において、毎年の人間ドックを受診し、おおむね毎月通院していたほか、平成24年には網膜剥離や心臓の手術を受けるために入通院していたこともあったことが認められるものの、医療水準や保険制度の整備状況、通院や入退院の便宜等に鑑み、一時帰国時に日本の病院に通院等することが不自然であるとはいい難いことから、このことをもって、原告Aの生活の本拠が日本にあったことを積極的に基礎付けるものとはいえないと評価した。 (6) まとめ 以上の検討の結果、裁判所は、原告Aの職業活動はシンガポールを本拠として行われていたものと認める一方、日本国内における滞在日数とシンガポールにおける滞在日数とに有意な差を認めることはできず、原告Aと生計を一にする家族の居所、資産の所在及びその他の事情についても、原告Aの生活の本拠が日本にあったことを積極的に基礎付けるものとはいえないと判断をした そして、裁判所は、処分の対象となった各年のいずれにおいても、原告Aの生活の本拠が日本にあったと認めることはできないから、原告Aは所得税法2条1項3号に定める「居住者」に該当するとは認められないと結論づけ、原告Aが居住者に該当することを前提としてされた各処分は、その前提を欠くものとしていずれも違法であるとして、原告らの主張を認め、各処分について全部取消しの判決を下した。 【控訴審判決の概要】 控訴審である東京高等裁判所は、結論として、第一審原告Aは所得税法2条1項3号の「居住者」に該当するとは認められないから、「居住者」であることを前提になされた各処分は違法であると判断すると述べたうえで、第一審被告による主張について、次のとおり、補足的判断を付加して、主張をすべて斥けた。 【解説】 英語では、「perpetual traveler」とも「permanent traveler」とも呼ばれる「永遠の旅行者」問題。複数の国で、居住者に該当しないだけの日数を滞在して、合法的に税金を納付しない人のことである。本稿の原告Aもまた、各国の居住日数だけを見れば、すべての国で非居住者となりそうであるが、彼はシンガポールを自分の住所と定め、シンガポール居住者として納税を行っていた。ところが、処分行政庁である昭和税務署と名古屋中税務署は、原告Aを居住者であると主張して、課税処分を行い、裁判所が納税者の請求を認容する判決を出したことにより、敗訴してしまう。 1 武富士事件(最高裁判所平成23年2月18日第二小法廷判決) 日本国内において住所を有しているか否かが争われた事案としては、いわゆる武富士事件(最高裁判所平成23年2月18日第二小法廷判決)が判例となっており、本件第一審判決でもその一部が引用されている。最高裁の事実認定の枠組みは、本件第一審判決でも維持されていると考えられるので、概要をまとめておきたい。 以上の事実認定に基づいて、最高裁は、贈与を受けた時において、上告人は、香港居宅は生活の本拠たる実体を有していたものというべきであり、日本における杉並居宅が生活の本拠たる実体を有していたということはできないと結論付けたものである。 2 前回の税務調査での判断を覆してまで課税処分を行った理由は何か 判決の中では触れられていないのだが、原告Aは、本件各処分に先立つ平成16年から平成20年の各年についても税務調査を受けており、このときには、原告Aは非居住者であると判断されて、調査は終了している。 それを受けて、原告らは、次のように主張していた。 これに対し、第一審被告は、ある者が居住者として課税されるか否かは、客観的事実を総合的に勘案した上で判断されるものであるから、前回調査との間に有意な差があったか否かは本質的な問題とされるものではないとして、次のように主張した。 「生計を一にする親族の居所」が日本にあることを、前回の税務調査の判断と異なる課税処分を行う根拠としたわけだが、これが裁判所によって否定されたのは、上記の裁判所の判断の項で見てきたとおりである。 (了)
〔中小企業のM&Aの成否を決める〕 対象企業の見方・見られ方 【第1回】 「相手を知ることがM&A巧者の第一歩」 公認会計士・税理士 荻窪 輝明 1 M&A当事者の関心事は違って当然 M&A当事者、特に買い手と売り手の視点や関心事を知れば、いかに当事者によって興味や関心、考えていることが違うかがよくわかります。それだけに、立場の異なる相手の視点を理解することは、M&A相手先の見方・見られ方を探る際の有益な情報源になるのです。 では、M&Aの当事者が買い手と売り手によってどれだけ視点や考え方が異なるのか、項目ごとに見ていきましょう。 〈中小企業のM&Aにおける買い手・売り手の主な視点〉 2 知るに値する「第三の目」 対象企業の見方・見られ方の中心となる買い手目線・売り手目線のほかにも、多くのM&Aのケースで「第三の目」が存在します。仲介者やアドバイザー、金融機関などの視点です。 第三の目である彼らは、M&Aをビジネスで行っている以上、その実施によって利益を追求するのが自然であり、採算度外視でM&A対象企業を支援することは稀です。ただし、M&Aを成功に導くために、中立的な視点を持ちつつ、M&Aの買い手と売り手の間に立って、バランス感覚のある判断を下す能力や豊富な経験を持ち合わせていることは確かです。 M&Aの買い手・売り手双方の当事者にとって、彼らのような「第三の目」が買い手・売り手をどう見ているかということも知るに値します。 多くのM&Aの場面で、対象企業を調査するために実施される「財務デューデリジェンス」の実施主体となる監査法人や公認会計士、コンサルティング会社などの視点は、主に売り手の財務面やリスクの観点から「何をどのように見ているか」を知ることができる点で有用です。 M&Aの買い手、売り手、支援側のいずれの立場に回るにしても、対象企業を俯瞰できることがM&Aを円滑に進め、望む相手と組むカギとなるはずです。 この連載ではこれから、M&Aにおけるそれぞれの当事者の立場を念頭に置きながら、対象企業の見方・見られ方について詳しくみていきましょう。 (了)
税効果会計を学ぶ 【第1回】 「税効果会計の目的と適用による損益計算書・貸借対照表」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 本誌において、2013年に「税効果会計を学ぶ」シリーズを公開してから、日本公認会計士協会の作成した税効果会計に関する実務指針が企業会計基準委員会に移管されている。 税効果会計に関しては、次の会計基準等が公表されている。 企業会計基準委員会への移管に際しては、基本的に日本公認会計士協会の実務指針の内容を踏襲した上で、必要と考えられる見直しが行われている(「税効果会計に係る会計基準の適用指針」71項)。 本シリ-ズは、上記の会計基準等の移管及び見直しを踏まえ、改めて「税効果会計を学ぶ」として、税効果会計に関する解説を行うものである。 ただし、前述のように、企業会計基準委員会の公表した会計基準等は、基本的に日本公認会計士協会の実務指針の内容を踏襲していることから、実務指針の趣旨や公表時の背景、従来の実務慣行も引き続き、重要な側面があると思われる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 税効果会計の目的 企業会計において、財務諸表は一般に公正妥当と認められる会計基準に従って作成する一方、法人税法等は、課税所得等の範囲、税額の計算の方法などについて規定しており、両者には相違がある。 企業会計上の利益の額を基礎として法人税等の課税所得の計算が行われるものの、両者の相違から、一般的に、企業会計の収益又は費用と法人税法等の益金又は損金の認識時点や、企業会計の資産又は負債の額と法人税法等の資産又は負債の額に相違が見られる。 このため、税効果会計を適用しない場合には、課税所得を基礎とした法人税等の額が費用として計上され、法人税等を控除する前の企業会計上の利益と課税所得とに差異があるときは、法人税等の額が法人税等を控除する前の当期純利益と期間的に対応せず、また、将来の法人税等の支払額に対する影響が表示されないことになる(「税効果会計に係る会計基準の設定に関する意見書」(以下「税効果会計意見書」という)二、1。1998年10月30日、企業会計審議会)。そこで、このような相違を適切に調整する方法が必要とされ、「税効果会計に係る会計基準」が設定された。 つまり、税効果会計とは、法人税等を控除する前の当期純利益と法人税等を合理的に対応させることを目的とする会計処理方法である(「税効果会計に係る会計基準」(企業会計審議会。以下「税効果会計基準」という)第一)。 Ⅲ 税効果会計の適用-損益計算書 税効果会計により、繰延税金資産及び繰延税金負債が貸借対照表に計上されるとともに、当期の法人税等として納付すべき額及び税効果会計の適用による法人税等の調整額が損益計算書に計上されることになる(税効果会計意見書二、2)。 このように、税効果会計は、法人税等を控除する前の当期純利益と法人税等を合理的に対応させることを目的とする会計処理方法であるが、その適用方法は、企業会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上(税務上)の資産又は負債の額の相違に着目する会計処理方法である(税効果会計基準第一)。 ポイントは次のとおりである。 税効果会計を適用する場合と適用しない場合で、損益計算にどのような影響を与えるかを数字で見てみる。 《数値例》 (※1) (税引前当期純利益5,000+評価減1,000)×法定実効税率40%=2,400 (※2) 評価減1,000(=税務上の帳簿価額1,500-会計上の帳簿価額500)×法定実効税率40%=400 法人税等を控除する前の当期純利益と法人税等が合理的に対応しているかどうかをみると、次のようになる。 〈税効果会計を適用しない場合〉 〈税効果会計を適用する場合〉 〈税効果会計を適用する場合〉には、法人税等を控除する前の当期純利益と法人税等の比率は40%となる。これは法定実効税率40%と一致しているので、合理的な対応が図られていると考えられる。 〈税効果会計を適用しない場合〉には、法人税等を控除する前の当期純利益と法人税等の比率は48%となり、法定実効税率40%と一致していない。つまり、法人税等を控除する前の当期純利益と法人税等の合理的な対応が図られていないものと考えられる。 税効果会計を適用するという意味は、損益計算の観点からは、法人税等を控除する前の当期純利益と法人税等の額を適切に期間対応させることにある。 Ⅳ 税効果会計の適用-貸借対照表 前述の《数値例》(注の(※2)の計算式)では、「評価減1,000(=税務上の帳簿価額1,500-会計上の帳簿価額500)×法定実効税率40%=400」と計算されており、会計処理は次のようになる。 (仕訳) 損益計算書では「法人税等調整額 400」が表示されるが、貸借対照表では「繰延税金資産 400」が表示される。つまり、税効果会計の適用により、貸借対照表では、基本的に、繰延税金資産及び繰延税金負債が計上されることになる。 Ⅴ 繰延税金資産と繰延税金負債 繰延税金資産は、将来の法人税等の支払額を減額する効果を有し、一般的には法人税等の前払額に相当するため、資産としての性格を有するものと考えられる(税効果会計意見書二、2)。 また、繰延税金負債は、将来の法人税等の支払額を増額する効果を有し、法人税等の未払額に相当するため、負債としての性格を有するものと考えられる(税効果会計意見書二、2)。 つまり、税効果会計の基本的な考え方としては、繰延税金資産又は繰延税金負債は、将来において、企業会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上(税務上)の資産又は負債の額の相違が解消するときに、納付する税額を減額又は増額する効果を有することに着目しているものと考えられる。 実務上、税効果会計の適用に際して判断に迷う場合には、将来における納付する税額に対して、どのように減額又は増額する効果があるかを考えてみるとよいと思われる。 (了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第98回】 ネットワンシステムズ株式会社 「特別調査委員会最終報告書(2020年3月12日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【特別調査委員会の概要】 【ネットワンシステムズ株式会社の概要】 ネットワンシステムズ株式会社(以下「ネットワン」と略称する)は、1988(昭和63)年2月設立。情報インフラ構築と関連サービスの提供を主たる事業とする。売上高181,935百万円、経常利益13,258百万円、資本金12,279百万円、従業員数2,294名(いずれも訂正前2019年3月期実績)。本店所在地は東京都千代田区。東京証券取引所1部上場。会計監査人は有限責任監査法人トーマツ(以下「トーマツ」と略称する)。 【中間報告書に関する説明会における質疑応答】 ネットワンは、3月5日になって「特別調査委員会の中間報告書受領及び公表に関する説明会 質疑応答(要旨)」を公表した。質疑応答の要旨は次のとおりである。 【調査最終報告書の概要】 特別調査委員会による「納品実体のない取引に関する調査最終報告書(開示版)」のうち、中間報告書の記載のない項目について、その概要を検証する。 1 新たに判明した不正取引 本連載第97回で取り上げた中間報告書段階で全容が解明されていなかった、ネットワンから戊社への架空発注による他社への資金流出問題について、特別調査委員会は、次の2つの商談を特定した。 (1) 庚社に対する損失補填名目の架空発注 2019年、A氏の部下であるC氏が担当する中央省庁の入札案件において、落札を見込める価格が想定より大幅に低いことが判明したため、庚社に対する発注予定価格を減額する必要が生じることとなった。 相談を受けたA氏は、庚社の見積額を5,470万円から780万円に減額させて、差額については戊社から発注することによって、庚社に損失が生じないようにすることを考案して、庚社の了解を得るよう指示した。 問題となった商談 損失補填取引 この結果、ネットワンは、戊社に対して、C氏が担当する他の中央省庁案件から2件、合計4,690万円の実体のない発注を行い、このうち、1,500万円はすでに支払済みであった。 (2) 甲社からの水増し受注に伴う検証機器の購入取引 独立行政法人をユーザーとする2019年2月の入札案件において、入札する甲社から、予算の都合でネットワンの原価の一部を他の案件に付け替えるように指示があり、別の組織向けの案件に5,376万円を上乗せして見積書を作成した。 甲社は、独立行政法人向けの案件を失注したにもかかわらず、上乗せ部分はそのままとなったため、この余った予算について、A氏と部下であるB氏が協議のうえ、社内の正規の手続きを経ることなく、霞が関オフィスの検証機器購入に使用した。購入に際して、A氏は検証機器メーカーに直接発注するのではなく、戊社を通じて購入するように示唆したため、戊社はこの取引で約4,000万円の利益を得ることとなった。 商談概要 検証機器購入取引 2 A氏による架空循環取引が行われた原因分析 特別調査委員会は、「本不正行為発生の原因分析」として、15ページという報告書全体の4分の1を超える紙数を割いて、A氏による架空循環取引が行われ、かつ、長期間発覚しなかった原因を分析している。まず、各項目の見出しを引用しておきたい。 調査委員会による原因分析のうち、本事案における特異点として、A氏が所属していた営業第1チームに関する組織マネジメントの問題を取り上げておきたい。 営業第1チームはネットワン本社ではなく、霞が関に独立のオフィスを構えていたのだが、2015年4月には組織変更による異動に伴い、霞が関オフィスに常駐する部長が不在となり、A氏ともう1人のマネージャーがいたところ、翌2016年4月にはもう1人のマネージャーも異動となり、A氏が霞が関オフィスのトップとなっている。さらに、2015年以降にA氏の上司となった部長・副部長は中央省庁案件の経験がなく、A氏の手掛ける案件の詳細を把握できなくなっていた。 A氏は、2008年12月に中途採用されて以来、一貫して中央省庁を担当する部署に所属し、順調に役職を上げるとともに、成績優秀者向けに実施される報奨旅行の常連であるとともに、2019年7月にはシニアマネージャーに昇格していた。中央省庁案件に対する豊富な経験から、上長であってもA氏には意見を言えず、また、部下には威圧的な態度をとる傾向がありながらも、面倒見の良い親分肌の一面を合わせて持っていたことから、部下もA氏に異を唱えることはできなかった。 さらに、調査委員会は、「内部統制に係る問題」の項目において、背景事情1から3として、ネットワンの購買部門の問題点を指摘しているので、確認しておきたい。 3 再発防止策の提言 調査委員会による再発防止策の提言は、次のとおりである。 【調査報告書の特徴】 筆者は、本連載第97回において、最終報告書のポイントとして、次のような疑問点が解明されるかどうかを注目する旨、述べておいた。 残念ながら、こうした疑問に対する直接の答えは、最終報告書にも記載がなく、不正行為をA氏が単独で行ったことがさらに強調される格好で、報告書はまとめられている。 1 2013年に発覚した水増し発注による資金横領事件における原因分析との類似性 本連載第97回でも触れたように、ネットワンは、2013年3月、得意先である十六銀行向け商談の担当者が、システム開発業務を委託する際に水増し発注を繰り返し、総額約8億円の損失が発生したことを公表している(本連載第6回「ネットワンシステムズ株式会社・元社員による不正行為「特別調査委員会調査報告書」」 )。 最終的には、元社員が逮捕されるというショッキングな事案の調査を担当した当時の特別調査委員会は、この元社員(報告書上は「A」と記載されている)について、次のように評している(一部表記を略称から改め、本連載第6回と同じものとするとともに、筆者による注書きを加筆した)。 本件で架空循環取引を主導したとされるシニアマネージャーA氏とその所属する霞が関オフィスの特異性については上述したとおりであるが、改めて2013年3月に公表された調査報告書を確認すると、2013年当時に本部長の職にあったA氏との類似点に驚かざるを得ない。中途入社でありながら、特定の分野では社内随一の経験を誇り、多額の売上実績から順調な出世を重ね、周囲には異論を唱える人間はいなかった。 2013年3月の調査報告書で当時の調査委員会は、十六銀行案件について、ネットワンのガバナンスに対する「治外法権の聖域」となったと評しているが、ネットワン経営陣は、新たな「聖域」を霞が関オフィスに作ってしまったことにより、A氏主導の架空循環取引が行われ、発覚まで4年以上継続されていたと言えよう。 2 過年度決算訂正/2020年第3四半期決算短信における疑問点 ネットワンは、2月14日に公表した「2020年3月期第3四半期 業績予想、及び、2020年3月期 通期業績予想の修正に関するお知らせ」に添附した資料の中で、「本不正行為に関する主な影響見込額」の項目で、特別調査委員会による影響見込額以外に、以下のように特別損失の計上を説明している。 訂正された損益計算書を見ると、以下のように特別損失が計上されている(単位:百万円)。 ところが、この「本不正行為に係る資金決済差額への手当」「不正取引関連損失」が何を意味しているのかが不明である。ネットワンが発出している訂正後の決算短信や他のリリースにこれを説明する文章はなく、調査報告書にも、こうした文言は記載されていない。 さらに、2020年第3四半期の決算短信における貸借対照表を見ると、次の2つの勘定科目で、大きく残高が増加していることがわかる(単位:百万円)。 決算短信における「財政状態に関する説明」では、棚卸資産の増加原因については言及がない一方、負債については、「不正行為に関連した取引を取消処理したことで生じた債務を含む流動負債のその他が44億37百万円、前受金が36億40百万円増加した」との説明が付されているが、未成工事支出金が9ヶ月間で2倍を超えていることは異常であり、上記の「本不正行為に係る資金決済差額への手当」も含めて、疑問の残る決算短信となっている。 3 特別調査委員会による原因分析と再発防止策 2013年3月公表の調査報告書における再発防止策では、大項目として「内部通報制度の改善」が挙げられていた。ネットワンには内部通報制度が存在し、一定数の通報があったにもかかわらず、当時の事件関係者からの通報がなかったという事実に基づいた再発防止策の提言であった。 本件でも、A氏による異常とも思えるような指示に関して、A氏の部下たちは時に疑問を口にすることはあっても、内部通報を行うということはなく、A氏による不正行為は国税局による税務調査がなければ発覚しなかった。 なぜ、ネットワン社内においては、内部通報システムが機能しないのかについて、特別調査委員会は、原因分析の中で触れることはなく、また、再発防止策としても内部通報制度の改善は取り上げられていない。 循環取引は、証憑がすべて揃っているうえに、売掛金・買掛金などの資金決済も契約通りに行われていることから、外部から不正を見抜くことが難しい不正行為であると言われており、この点は特別調査委員会も認めているところである。であればこそ、内部通報制度が機能することが求められるのではないか。取引内容に違和感・疑義を感じていたはずのA氏の部下たちはなぜ、通報しなかったのか。その分析なしには、再発防止策はまたしても画餅に帰することになるのではないだろうか。 4 ネットワンによる再発防止策 ネットワンは、特別調査委員会による再発防止策の提言を受けて、次のように再発防止策を説明している。 再発防止策の最初に、「付加価値が認められる案件のみを対応」することを宣言したことは評価できるが、「商流取引に該当しないことの承認を購買部から事前に得る」ことを条件に「直送取引」を認めることとした業務統制との兼ね合いについては、よくわからない点が残る。また、「純額取引ルール」の廃止が明言されていないことについても、疑問を感じる。 一方、購買部門による牽制機能については、2013年3月に公表された特別調査委員会による再発防止策の提言があったにもかかわらず、残念ながら、あまり活かされていなかったようであり、今回、あらためてネットワンが取り組むべき課題として認識されているようである。購買部門の強化には相応の組織改編と人員の増強が必要となろうが、そのあたりまで言明されていないところには、やや不満を感じるところである。 (了)
空き家をめぐる法律問題 【事例23】 「借地権付マンションの借地料と支払義務の法的性質」 弁護士 羽柴 研吾 - 事 例 - 私は、分譲事業者から、敷地利用権が借地権のマンション(区分所有建物)を購入して居住している者ですが、周辺の部屋には居住者がおらず、空き部屋も増加しております。 これまで借地料は、分譲事業者が指定した口座に振り込み、それを分譲事業者が地主に支払ってきましたが、地主の口座に直接振り込むことになりました。ところが、地主から空き部屋を含む滞納者分の借地料も支払うように請求されています。 私は滞納者の賃料も支払う必要がありますか。 1 はじめに いわゆる分譲マンションには、敷地利用権が所有権であるものがあるが、地価の高い地域においては、敷地利用権を借地権等の利用権にしているものもある。この場合、区分所有者は土地の所有者に対して借地料の支払義務を負うことになるが、一部が空き家化し、借地料を滞納している区分所有者がいる場合、当該未納部分は誰が負担することになるのだろうか。 そこで今回は、借地権付マンションで空き家が生じた場合の借地料の支払義務の法的性質について検討することとしたい。 2 分割債務か不可分債務か? 建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という)によれば、区分所有者は、原則として、区分所有建物の専有部分と敷地利用権とを分離して処分することができず、当該敷地利用権の割合は、区分所有建物の床面積の割合によって定められる(同法第22条第1項、第2項、第14条第1項)。そのため、敷地利用権が賃借権である場合、区分所有権者は、賃借権を床面積の割合で準共有していることになる。 問題は、敷地利用権の賃借権が準共有されている場合に、土地の所有権者に対する借地料の支払義務の法的性質が、分割債務であるか、不可分債務であるかという点にある。というのも、分割債務である場合には、区分所有者は、自らの持分割合の限度で借地料を支払えば足りるのに対して、不可分債務である場合には全員の借地料全額を支払わなければならなくなるからである。 この点に関して、従来、不可分債務は、(1)債務の目的が性質上不可分である場合と、(2)その目的が性質上可分であるが、当事者が不可分とする旨の意思表示をした場合に成立するものと解されていた。このうち上記(1)の性質上の不可分には、①物理的に不可分な給付を目的とする債務(例:共有する物件の引渡義務)と、②不可分的な利益としての対価(例:共同賃借人の賃料債務)があるとされてきた。 上記の分類からすると、準共有されている敷地利用権としての借地料の支払債務は、上記(1)の②の性質上の不可分債務に分類されるようにも思われる。この問題については、分割債務説と不可分債務説の両論が存在するが、裁判例においては、(ⅰ)区分所有権者は専有部分と敷地利用権とを一体的な財産として有していることや、(ⅱ)敷地利用権の持分割合を取得するために対価を支払う理由が敷地利用権の割合的持分を取得することにあることから、特段の事情のない限り、分割債務と解されている(東京地判平成7年6月7日判タ911号132頁参照)。 もっとも、当該裁判例は、専有部分と敷地利用権の一体性から直ちに分割債務であることを導いたものではなく、土地所有者が区分所有建物として土地を賃貸する意思があったかを個別具体的に認定した上で結論を導いている。「特段の事情」の位置付けなど裁判例の読み方にもよるが、原則として不可分債務となるが、当事者の意思によって不可分性が排除される場合があることを認めた裁判例と解する余地もあるように思われるため、少なくとも事例判決であると理解するのが妥当である。 なお、民法改正によって、不可分債務の上記2分類のうち、当事者の意思表示によってその目的が不可分とされた債務は連帯債務に分類され、その目的が性質上不可分であるもののみに限定されることになった。法務省の見解によれば、改正後も、共同賃借人の賃料債務のように、不可分的な利益としての対価に関する債務が不可分債務に該当するかは今後の解釈に委ねられているとのことであり、この解釈の行方や上記裁判例の解釈の仕方にも留意しておく必要がある。 上記のように、敷地利用権である賃借権が準共有されている場合の法的性質については、解釈に委ねられている部分があることから、少なくとも紛争を予防する観点からは、分割債務であることを確認する書面等を作成しておくことが望まれる。 3 土地賃貸借の権利関係 借地権付マンションの場合、土地の所有者と区分所有者との間に、分譲事業者等が介在することがある。この場合でも、分譲事業者が土地の所有者から土地を一括して賃借し、それを区分所有者に転貸している場合と、単に区分所有者からの賃料の収集を代行して行っているような場合がある。両者の間には、土地所有者と区分所有者との間に直接の法律関係があるかという点で異なるので留意が必要である。 4 本件の場合 相談者は、賃料を分譲事業者の指定する口座に振り込んでおり、相談者と分譲事業者との間に転貸借関係がある場合には、相談者は分譲事業者との契約に基づいて賃料を支払えば足りることになる。 これに対して、土地の所有者と相談者との間に直接の賃貸借関係がある場合には、当該区分所有建物が取得された際の経緯から、土地の所有者が区分所有建物であることを認容していたような場合には、賃料債務は分割債務となり、区分所有者は自己の持分の限度で賃料を支払うことになろう。 (了)
〔これなら作れる ・使える〕 中小企業の事業計画 【第1回】 「事業計画の概要と損益計画・資金計画の作成手順(前編)」 税理士・中小企業診断士・ITストラテジスト 高畑 光伸 -はじめに- 事業計画は、将来に向かうための羅針盤であり、自社の目指すべき将来の目標と、その目標を達成するための具体的なアクションを示したものです。これから打つべき策によって、売上高、利益がどう推移するか、キャッシュがどれほど確保できるかなど将来志向で数値を予測します。 ただし昨今の厳しい経営環境下、日々の業務に追われてしまい、期首にしっかりした事業計画を立て期末後にその検証と改善を行うことは、なかなか難しいのが実情です。 そこで本連載では、一般的な事業計画のうち特に資金繰りなど事業継続に欠かせない損益計画・資金計画の作成を中心に、できるだけ分かりやすく、かつ、実践的に解説していきます。 1 事業計画の作成目的 事業計画の作成目的は、事業を遂行する上で必要なアクションを明確にすること、事業遂行後の検証を行い事業活動の軌道修正することである。また、金融機関などの資金提供者に事業計画を伝えて、資金融資など必要な協力を得ることもある。 さらに、事業計画は法人成りのシミュレーション、中小企業等経営強化法による経営力向上計画、ものづくり補助金の申請、事業承継計画、換価猶予の申請に至るまでさまざまな場面で求められる。 事業計画は机上の計算・空論にならぬよう、現実味を帯びたものでなければならない。そのために、業界・市場の環境分析、事業計画の作成対象となる企業の競争優位性の分析、などを行うことで、将来の予測値の精度を上げることが重要となる。これらの分析を行うためのフレームワークとして「3C分析」、「SWOT分析」、「バリューチェーン分析」などさまざまなものがある。 2 事業計画の種類 事業計画の種類には、新規事業計画、予算・年度計画、中長期事業計画(3年から5年程度)などがある。 例えば、新規事業計画では、新規に店舗を開設した場合に、採算が取れるかどうかなどを検証することになる。また、予算・年度計画では、経営陣の経営方針に基づき各部門が個別計画を作成して、全社的な年間の予算を立てる。予算と実績を比較して、売上高、利益が達成できたかどうかを検証することになる。 3 事業計画書の構成要素 一般的な事業計画は、内外の利害関係者に対して事業計画書という形式で報告する。そこには、事業理念、事業の概要、具体的なアクションなど、事業の全体像が把握できる項目を記載する。事業計画書にはさまざまな形式があるが、一般的な構成要素は、 などから構成される。本連載では、「⑥ 損益計画・資金計画」の作成方法を中心に取り上げる。 なお、金融機関から資金融資を受ける場合は、損益計算書とキャッシュフロー計算書のほか、貸借対照表の作成を求められるケースもある。 4 経営目標の設定 損益計画・資金計画は、経営目標をベースに作成する。経営目標は経営陣からトップダウンで設定するケース、あるいは各部門の現場で作成する売上計画、人員計画などの個別計画をボトムアップで積み上げて設定するケースがある(2つのケースの折衷方式もある)。そして、経営目標をベースにして、損益計画・資金計画を作成する。 5 損益計画・資金計画の作成手順 前期以前の損益計算書をベースに予想損益計算書を作成し、借入資金が返済可能かどうかなどの観点で資金計画(キャッシュフロー計算書)を作成する手順となる。 本連載では、すでに事業を行っている企業(法人)を前提として、期首より事業計画(年次単位)を作成することを想定する。 (1) 前期以前の数値の把握 過去3期分の決算書をベースに、売上高伸び率、売上高営業利益率、当座比率、自己資本比率などを測定・評価する。当該企業の成長性、収益性、安全性などを多面的に把握しておくことで、事業計画の数値の乖離を小さくする。 まずは、会計データから表計算ソフト(Excelなど)にエクスポートし、事業計画の作成のベースとする。あるいは、事業計画用の別の市販ソフトを用いる場合、会計データをインポートして事業計画の作成のベースとする。 次に、前期以前の損益計算書の項目を年次単位で示す(税抜経理)。 〈損益計算書(例)(単位:万円)〉 (後編に続く)
〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第31話】 「新型コロナウイルスと国税通則法11条」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「そうか・・・とうとう税務職員も新型コロナウイルスに罹ったか・・・」 中尾統括官は、新聞を読みながら、深いため息をつく。 「この確定申告の忙しい時期に・・・」 中尾統括官の机の上には、無造作に白いマスクが置かれている。 「・・・ずっとマスクをしていると息苦しくて・・・仕事にならないよ。」 傍らでマスクをしている浅田調査官に、中尾統括官は、マスクを外している釈明をする。 「しかし、巷でこれだけ感染している人が多いとメディアが報道していますから、税務職員だけがコロナウイルスに感染しないということはありえません・・・中尾統括官も十分注意してください・・・」 浅田調査官は、白いマスクをモグモグさせながら喋っている。 「今回は・・・確定申告期限も延長になったことだしな・・・」 中尾統括官がパソコンで見ている国税庁のホームページでは、令和2年2月27日付けで、次のような見出しで申告・納付期限の延長が掲載されている。 「・・・延期の対象となった税目は、申告所得税、贈与税、個人事業税の消費税・・・ですね。」 浅田調査官は、中尾統括官の顔を見る。 「・・・この延長によって、所得課税部門の我々が直接影響を受けているわけだが・・・それにしても確定申告を1ヶ月延長するというのは・・・長くこの仕事をやってきた私にとっても、初めての経験だよ。」 中尾統括官は、新型コロナウイルスの新聞記事にもう一度、目を落とす。 「ところで・・・確定申告の期限を延長する法律上の根拠って、何なんですか?」 浅田調査官が尋ねる。 「それは・・・国税通則法11条だろう・・・」 中尾統括官は、机の上に置かれている税務六法を手に取る。 「今回の新型コロナウイルスが、この『災害その他やむを得ない理由』に該当する・・・ということですね。」 浅田調査官が再び尋ねる。 「そうだろう。」 中尾統括官は憮然と答える。 「国税庁のホームページに、全国の確定申告の期限について、延長する旨の連絡を載せたのだから、国税庁長官が延長を決断したということなのでしょうが・・・」 浅田調査官は、マスクをしているので、こもった声になる。 「国税通則法施行令3条2項には対象者指定による期限延長として・・・次のように規定されている。」 そう言うと、中尾統括官は、再び税務六法を開く。 「そしてホームページでの告知とは前後するが、3月6日の官報で、国税庁長官名による告示が公布されている。」 「なるほど・・・ただ・・・確定申告の期限を延長するということは・・・納税者(国民)に大きな影響を与えると思うのですが・・・それを国税庁長官が1人で決めるということは・・・なんとなく違和感を感じませんか?」 マスクをした浅田調査官が頸を傾げる。 「それじゃあ国税庁長官以外に・・・誰が申告期限の延期を決めたらいいというのだ。」 中尾統括官は少し怒ったように言う。 「・・・」 浅田調査官は、困った顔をする。 中尾統括官は机の引き出しから、『国税通則法精解〈平成25年改訂〉』(志場喜徳郎他共著/大蔵財務協会)を取り出す。 「この本では、国税通則法11条ができた経緯について、214頁に、次のように述べている。」 「でも・・・東日本大震災のとき・・・国は、特例法で対応しました・・・つまり、震災で被災した人たちの負担を軽減するために、「東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律」を国会で成立させましたよね・・・」 浅田調査官はスマートフォンで、東日本大震災の震災特例法を確認する。 「ということは・・・新型コロナウイルスも国税通則法11条などを適用せずに、国会で法律をキチンと作れということか・・・ただ今回は、法律を作る時間がなかったのかもしれない・・・」 中尾統括官は渋い顔をする。 浅田調査官は素直に頷く。 「ところで、個人事業者の消費税の申告期限・納付期限は、従来、令和2年3月31日だったのを、今回は半月だけ延長し、令和2年4月16日としていますが、他の税目(申告所得税・贈与税)は1ヶ月の延長を認めていますよね。このように税目によって延長期間を異にするということも・・・国税庁長官が独自に判断することになるのですね・・・」 浅田調査官は、中尾統括官の顔を見る。 「まあ・・・消費税だから・・・国としてはできるだけ早く、税金を徴収したいという気持ちがあるのかもしれない・・・」 中尾統括官は、おもむろに机の上に置かれているマスクを手に取って、苦笑いしながら顔に付ける。 (つづく)
《速報解説》 令和2年度税制改正に係る 「所得税法等の一部を改正する法律」が 3月31日付官報:特別号外第37号にて公布 ~施行日は原則4月1日、グループ通算制度に関する政省令は未収録~ Profession Journal編集部 令和2年度税制改正関連法が3月27日の参議院本会議で可決・成立し、3月31日(火)の官報特別号外第37号にて「所得税法等の一部を改正する法律」が公布された(法律第8号)。施行日は原則令和2年4月1日(法附則第1条)。地方税関係の改正法である「地方税法等の一部を改正する法律」も官報同号にて公布されている(法律第5号)。 なお今年度改正では、連結納税制度の見直し(グループ通算制度の創設)が大きな割合を占めるが、関連する政省令は今回の官報において公布されていない。本件については引き続き動向を注視したい。 また一部報道では新型コロナウイルスに係る経済対策として政府が新たな税制措置を講じるとされているが、今回の税制改正には織り込まれておらず、こちらも今後の情報に十分留意する必要がある。 * * * 以下では主な法律、政令、省令等の官報該当ページへのリンクを紹介する。 なお本誌では例年同様、主要な改正事項については毎週木曜日公開号において、専門家による解説記事を順次掲載するとともに、各府省庁・主な団体等より公表された令和2年度税制改正関連の情報については「令和2年度税制改正に関する《資料リンク集》」及び「新着情報」を随時更新していくので、そちらを併せて参照いただきたい。 また、税制改正大綱を受けた主な改正情報については、すでに本誌掲載済みの「令和2年度税制改正大綱」に関する《速報解説》 をご覧いただきたい。 官報:令和2年3月31日付(特別号外第37号)で公布された主な税制改正関連法令 法令のあらまし ◆所得税法等の一部を改正する法律 附則:施行期日・経過措置など 所得税法の一部改正(第1条関係・第2条関係) 所得税法施行令及び災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律の施行に関する政令の一部を改正する政令 所得税法施行規則の一部を改正する省令 法人税法の一部改正(第3条関係) 法人税法施行令等の一部を改正する政令 法人税法施行規則の一部を改正する省令 地方法人税法の一部改正(第4条関係) 地方法人税法施行令の一部を改正する政令 相続税法の一部改正(第5条関係) 相続税法施行規則の一部を改正する省令 地価税法施行規則の一部を改正する省令 登録免許税法施行規則の一部を改正する省令 消費税法の一部改正(第6条関係・第7条関係) 消費税法施行令等の一部を改正する政令 消費税法施行規則の一部を改正する省令 酒税法の一部改正(第8条関係) 酒税法施行令の一部を改正する政令 酒税法施行規則の一部を改正する省令 たばこ税法の一部改正(第9条関係) たばこ税法施行令の一部を改正する政令 たばこ税法施行規則の一部を改正する省令 揮発油税法の一部改正(第10条関係) 揮発油税法施行令の一部を改正する政令 石油ガス税法の一部改正(第11条関係) 石油ガス税法施行令の一部を改正する政令 石油石炭税法の一部改正(第12条関係) 石油石炭税法施行令の一部を改正する政令 国税通則法の一部改正(第13条関係) 国税通則法施行令の一部を改正する政令 国税通則法施行規則の一部を改正する省令 国税徴収法の一部改正(第14条関係) 国税徴収法施行規則の一部を改正する省令 租税特別措置法の一部改正(第15条関係) ・所得税関係 ・法人税関係 ・相続税関係 ・登録免許税関係 ・消費税関係 ・酒税関係 ・たばこ税関係 ・揮発油税・地方揮発油税関係 ・石油石炭税関係 ・航空燃料税関係 ・自動車重量税関係 ・印紙税関係 ・利子税等関係 租税特別措置法の一部改正(第16条関係) ※グループ通算制度に係る改正 租税特別措置法施行令の一部を改正する政令(附則) ・所得税関係 ・法人税関係 ・相続税関係 ・登録免許税関係 ・消費税等関係 租税特別措置法施行規則等の一部を改正する省令(附則) ・所得税関係 ・法人税関係 ・相続税関係 ・消費税等関係 ・国税質問検査章規則の一部改正 ・平成二十六年租税特別措置法施行規則等の一部を改正する省令の一部改正 ・平成二十八年租税特別措置法施行規則等の一部を改正する省令の一部改正 ・平成二十九年租税特別措置法施行規則等の一部を改正する省令の一部改正 外国居住者等の所得に対する相互主義による所得税等の非課税等に関する法律の一部改正(第17条関係) 外国居住者等の所得に対する相互主義による所得税等の非課税等に関する法律施行規則等の一部を改正する省令 租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律の一部改正(第18条関係) 租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律施行令の一部を改正する政令 租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律の施行に関する省令等の一部を改正する省令 沖縄の復帰に伴う特別措置に関する法律の一部改正(第19条関係) 沖縄の復帰に伴う国税関係法令の適用の特別措置等に関する政令の一部を改正する政令 沖縄の復帰に伴う国税関係法令の適用の特別措置等に関する省令の一部を改正する省令 内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律の一部改正(第20条関係) 内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律施行令の一部を改正する政令 内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律施行規則の一部を改正する省令 電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律の一部改正(第21条関係) 電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則の一部を改正する省令 東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律の一部改正(第22条関係) 東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律施行令の一部を改正する政令 東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律の一部改正(第23条関係) 租税特別措置の適用状況の透明化等に関する法律施行令の一部を改正する政令 租税特別措置の適用状況の透明化等に関する法律施行規則の一部を改正する省令 減価償却資産の耐用年数等に関する省令の一部を改正する省令 国税関係法令に係る情報通信技術を活用した行政の推進等に関する省令の一部を改正する省令 酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律施行規則の一部を改正する省令 地方税法等の一部を改正する法律 ( 附 則 ) ・1条関係 ・2条関係 地方税法施行令の一部を改正する政令 地方税法施行規則の一部を改正する省令 ▷その他の主な関係法令・告示 中小企業等経営強化法施行規則の一部を改正する省令 中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則の一部を改正する省令 平成八年自治省告示第八十三号(地方税法施行令第五十二条の十の四に規定する研究開発を定める件)の一部を改正する件 所有者の探索について特別の事情を有する土地又は家屋及び当該土地又は家屋に係る所有者情報を保有すると思料される者を定める告示 租税特別措置法施行令第二十五条の十七第七項第二号イ及びロ⑵の規定に基づき、内閣総理大臣、総務大臣、財務大臣、文部科学大臣、厚生労働大臣、農林水産大臣、経済産業大臣、国土交通大臣及び環境大臣が財務大臣と協議して定める業務、事業、方法及び所轄庁を定める告示の一部を改正する件 租税特別措置法施行令第二十六条の二十八の二第四項の規定に基づき、文部科学大臣又は文部科学大臣及び総務大臣が財務大臣とそれぞれ協議して定める要件及び方法を定める告示 所得税法第九条第一項第十四号に規定する金品を指定する件の一部を改正する件 所得税法第百八十九条第一項の規定に基づき、同項に規定する所得税法別表第二の甲欄に掲げる税額が算定された方法に準ずるものとして財務大臣が定める方法を定める件の一部を改正する件 所得税法施行規則第五十六条第一項ただし書、第五十八条第一項及び第六十一条第一項の規定に基づき、これらの規定に規定する記録の方法及び記載事項、取引に関する事項並びに科目を定める件の一部を改正する件 消費税法施行令第五十条第三項、第五十四条第五項、第五十八条第三項、第五十八条の二第三項及び第七十一条第五項並びに消費税法施行令等の一部を改正する政令附則第六条第二項並びに消費税法施行規則第五条第三項及び第十六条第三項の規定に基づき、これらの規定に規定する保存の方法を定める件の一部を改正する件 消費税法施行令第十八条の二第二項第三号の規定に基づき、財務大臣の定める基準を定める件 租税特別措置法第十一条第一項及び第四十三条第一項の規定の適用を受ける期間を指定する件 東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法第二十九条第一項第一号の規定に基づき、同号に規定する所得税法別表第二から別表第四までに定める金額及び復興特別所得税の額の計算を勘案して財務大臣が定める表を定める件の一部を改正する件 東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法第二十九条第一項第二号の規定に基づき、同号に規定する所得税法第百八十九条第一項に規定する財務大臣が定める方法及び復興特別所得税の額の計算を勘案して財務大臣が定める方法を定める件の一部を改正する件 国税関係法令に係る情報通信技術を活用した行政の推進等に関する省令第五条第一項第二号に規定する国税庁長官が定める者を定める件の一部を改正する件 国税関係法令に係る情報通信技術を活用した行政の推進等に関する省令第十条ただし書に規定する国税庁長官が定める措置を定める件 租税特別措置法施行規則第二十三条の五の三第二項第四号の規定に基づき文部科学大臣及び厚生労働大臣が定める事項の一部を改正する件 消費税法施行令第十四条の四の規定に基づき厚生労働大臣が指定する身体障害者用物品及びその修理の一部を改正する件 消費税法施行令第十四条の三第一号の規定に基づき厚生労働大臣が指定する保育所を経営する事業に類する事業として行われる資産の譲渡等の一部を改正する件 租税特別措置法の規定の適用を受ける機械その他の減価償却資産を指定する件の一部を改正する件 中小企業等経営強化法施行規則第十二条第二項第三号ニに規定する投資に関する契約の契約書の記載事項の一部を改正する告示 租税特別措置法施行規則第十八条の十五第六項に規定する経済産業大臣の認定に関する手続を定める件の一部を改正する告示 租税特別措置法施行令第二十五条第七項及び第三十九条の七第二項の規定に基づき、国土交通大臣が指定する区域を定める件 租税特別措置法施行令第二十二条の二第十項等の規定に基づく国土交通大臣が財務大臣と協議して定める基準の一部を改正する件 (了)
《速報解説》 金融庁、令和2年3月期以降の事業年度における 有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項を公表 ~開示府令の改正を受け、役員報酬・株式等の保有状況等に関する事例を紹介~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 令和2(2020)年3月27日、金融庁は次のものを公表した。 令和2年3月期以降の有価証券報告書の作成に当たっては、これらに記載されている事項に特に注意し、適切に作成する必要があると考えられる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項について 令和2年3月期以降の事業年度に係る有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項として次のことを述べている。 1 新たに適用となる開示制度に係る留意すべき事項 主に、「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(平成31年1月31日、内閣府令第3号)による改正に関する次のものである。 2 記述情報の充実に向けて 平成31年度有価証券報告書の審査では、記述情報の記載について、法令が求める最低限の記載水準を満たすことだけを目的として、ルールへの形式的な対応にとどまる開示も見られ、投資家等が必要とする十分な情報が得られない事例も見受けられたとのことである(4ページ)。 そこで、今般、記述情報の記載ぶりに改善の余地があると考えられる提出会社に、翌年度からの改善・充実に向けた検討を求める通知を発出している。このような会社は全提出会社の3割程度とのことである。 投資家等との建設的な対話を促進し、企業価値の向上につながるよう、提出会社には、記述情報のより一層の充実が期待されている。 3 有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項 平成31年度の有価証券報告書レビューに関して、現在(令和2年3月27日時点)までの実施状況を踏まえ、複数の会社に共通して記載内容が不十分であると認められた事項に関し、記載に当たっての留意すべき事項について述べている。 当該事項を記載している別紙1は、表紙を含めて37ページある。 記載内容が不十分であると認められた事項には、会計監査の対象となる財務諸表等に関わるものも含まれており、留意すべき事項については、有価証券報告書提出会社だけでなく、監査を実施する公認会計士又は監査法人においても、十分に留意いただきたいと記載されているので、改めて有価証券報告書の作成に際しては注意が必要である。 平成31年度有価証券報告書レビューでは、以下の重点テーマに着目して審査している。 本稿では、「審査結果」において確認された事例について、「適切ではない事例」として紹介する。 Ⅲ 有価証券報告書レビューの実施について(令和2年度) 1 法令改正関係審査 平成31年1月に施行された「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」による改正について、次のものの記載内容を審査する。 これらの項目は主に記述情報からなるため、各提出会社がそれぞれの置かれた状況等に応じて、ルールへの形式的な対応にとどまらない充実した開示が期待されている。 有価証券報告書提出会社は、別添の「調査票」に回答することが求められているので、有価証券報告書の作成に際して注意が必要である。 開示府令改正のポイント等は次のとおりである。 2 重点テーマ審査 令和2年度の有価証券報告書レビューについては、次のテーマに着目し、令和2年3月31日以降を決算期末とする有価証券報告書の提出会社の中から審査対象会社を選定するとのことである。 財務局等からの質問状には、次の観点も反映していると述べられており、本3月期の有価証券報告書の作成に際しても、下記の観点を十分に考慮し、開示の要否を判断すべきものと解される。 (了)
《速報解説》 金融庁、「株式新規上場(IPO)に係る監査事務所の選任等に関する連絡協議会」報告書を公表 ~新規・成長企業がその成長プロセスに応じて適切な監査を受けるための環境整備を推進~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020(令和2)年3月27日、金融庁は、「株式新規上場(IPO)に係る監査事務所の選任等に関する連絡協議会」報告書を公表した。 これは、近年、IPO を目指す企業は増加傾向にある一方で、監査事務所との需給のミスマッチ等により、必要な監査を受けられなくなっている問題について検討したものであり、新規・成長企業がその成長プロセスに応じて適切な監査を受けることができるための環境整備を進めるための取組みについて述べている。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ IPOを目指す企業に対する質の高い監査の提供に向けた環境整備 監査法人、証券会社、ベンチャーキャピタル、取引所などの関係者に対して、以下の取組みが期待されている。 1 大手監査法人 2 準大手監査法人 3 中小監査事務所 4 日本公認会計士協会 前述の取組みが着実に実施されることを確保するように所要の対応を行うことが期待されている。 5 証券会社 引受証券会社については、IPOを目指す企業の監査人として大手監査法人を推す傾向がある等の指摘がなされているが、今後は中小監査事務所の活用も期待されている。 6 ベンチャーキャピタル ベンチャーキャピタルは、自らの知見やネットワークを活用するとともに対話の場に積極的に参加するなどの取組みを通じて、企業がその成長ステージに応じて必要な監査その他のサポートを受けることが可能となるよう、支援の充実を図る。 7 取引所 8 IPOを目指す企業 新規・成長企業は、その成長ステージに応じて、必要な内部管理体制を適切に構築していくことが重要であり、経営者は、専門的知見を有する公認会計士を積極的に活用していくことが望まれる。 また、IPOを目指す企業には、その目指す成長スピードを実現しつつ、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上が図られるよう、監査法人や証券会社との対話を深め、上場準備その他の必要な対応を図っていくことが求められる。 (了)