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税務争訟に必要な法曹マインドと裁判の常識 【第11回】「法曹マインドを踏まえた税務争訟における留意点」

税務争訟に必要な 法曹マインドと裁判の常識 【第11回】 「法曹マインドを踏まえた税務争訟における留意点」   弁護士 下尾 裕   今回は、税務調査終了後に更正処分を受けた場合において、税務争訟を検討し、実際に手続を進める上での留意点等について整理してみたい。   1 税務調査終了段階での留意点 前回でも触れたとおり、税務訴訟において当事者双方の主張の根拠となる資料等の収集は、税務調査の段階で、その大半が完結することになる。 この点を踏まえると、税務調査終了段階で税務争訟に移行するかどうかの検討を行うにあたって、まず行うべきは、納税者側及び課税庁側の言い分を対比し、手持ちの資料を突き合わせるなどして、「その時点における争点」を明確化するとともに、その優劣を冷静に比較することである。 こうした作業を行うことで、納税者においても、税務争訟に関するある程度の見通し、さらには今後準備等を行わなければならない資料等が見えてくるものと思われる。 なお、情報開示などから得られる課税庁の内部資料等を見る限り、課税庁においても、増差税額が大きい事案や重加算税の賦課事案等においては、争点整理表(事実関係時系列表及び調査経過記録書等)を作成するなどして、同様の作業を行っている模様である。   2 「再調査請求」又は「審査請求」の選択基準 本連載【第2回】で述べたとおり、納税者は、平成26年の国税通則法の改正により、不服申立ての手段として、当初から再調査請求(従前の異議申立て)又は審査請求を選択できるようになった。 当該改正以前は、納税者は、審査請求に先立って必ず異議申立てを行う必要があったことと比較すれば、事務処理の迅速が図られたことになる。 【税務争訟の流れ】 (※) 国税不服審判所「審判所ってどんなところ? 国税不服審判所の扱う審査請求のあらまし」(令和元年8月)P5の図より筆者一部変更 では、実際に税務争訟を始めるにあたり、どのような基準によって不服申立ての手段(再調査請求又は審査請求)を選択すればよいのであろうか。 この点に関し、再調査請求は、あくまで課税庁側に再検討を求める手続であることに鑑みれば、(特に税務調査段階で争点に関し十分な議論を尽くしている案件については)客観的に見て課税庁側が結論を覆す可能性は低い。その意味では、基本的な考え方としては、解決の迅速性の観点を踏まえ、当初から審査請求を選択するのが基本線となろう。 しかしながら、以下のようなケースについては、なお審査請求に先立って再調査請求を行う実益があるものと考えられる。 (1) 税務調査段階で課税庁と十分な議論ができていない場合 税務調査の段階において、調査官と上手に意思疎通できなかった又は調査着手から更正処分までの期間が短かったなどの理由により、課税庁と十分な議論ができていない場合、課税庁側が間違った認識の下に更正処分を行っている可能性がある。このような場合には、課税庁に対し再度の検討を求める再調査請求は、意味を有することになる。 なお、留意点として、課税庁と十分な議論ができていない場合の再調査請求が有用性を有するには、基本的に、当該議論の争点が事実認定に係る問題である場合に限られるということである。 もし争点が法令の解釈に関わる場合には、それが明らかな誤りであるといった例外的な場面を除き、課税当局がその見解を改める可能性は低く、再調査請求は意味をなさないケースがほとんどであると思われる。 (2) 更正処分通知書の記載のみでは当局の見解が明らかではない場合 もう1つ再調査請求が有用性を有するのは、更正処分段階では課税庁の拠って立つ事実認定又は法令解釈等が明確でない場合である。平成26年国税通則法改正以降においては、更正通知書の理由附記も詳細になされるケースが増加していると思われるが、それでも肝心の判断部分に関する十分な説明がなされていないなどのケースが存在する。 納税者としても、税務争訟、その中でも特に経済的・時間的負担の大きい税務訴訟を提起するかどうかを判断するにあたっては、重要な争点につき課税庁側と議論を尽くし、優劣の見極めを行っておきたいところである。 この観点から、上記のようなケースにおいて、再調査請求の理由として、重要部分に関する反論を行うことによって、課税庁側のスタンスを明確にすることが可能になる。   3 審査請求における留意点 ご存じのとおり、審査請求段階においては、国税不服審判所が第三者的視点から審理を行うものであり、税務調査以降の手続で初めて、納税者側にも課税庁側の手持ち資料(証拠)の閲覧等が認められることになる。 これを踏まえた、審査請求段階における留意点は以下のとおりである。 (1) 審査請求段階では課税庁側手持ち資料を閲覧し、改めて争点に関する優劣の検証を行うこと 現行の国税通則法においては、必ずしもすべての課税庁側手持ち資料(証拠)を閲覧できるわけではないものの、少なくとも課税の根拠となる主たる調査資料については閲覧謄写が可能である。 これを踏まえ、納税者サイドにおいても、この機会に課税庁側手持ち資料(証拠)を確認した上、当該審査請求で反論等を要する事項、さらには税務訴訟に移行する場合の見通し等を立てておくのが有用である。 (2) 税務訴訟を見据える場合は、この段階で納税者としての主張を完成させ、主張立証を尽くすこと 特に事実認定が争いとなっている場合には、納税者の主張の一貫性が税務訴訟における裁判所(裁判官)の心証に影響する可能性がある。その意味では、遅くとも審査請求段階では、納税者においても、手持ち資料(証拠)等の出し惜しみはせず、可能な限りの主張立証を尽くしておくべきである。 なお、現状の国税不服審判所においては、課税庁側には裁決に対する不服申立権が認められていないこともあり、(特に先例的な判断を含むものについては)法令解釈の誤りを理由として審判所が課税処分を取り消す例は多くないのが現状である。 したがって、仮に納税者側が法令解釈及び事実認定の両方を争点にして課税処分を争うケースでは、あえて事実認定の争点に重点を置いて戦うなどの戦略も有効である場合がある。また、法令解釈のみが争点である案件で、当初から税務訴訟を念頭に置いている場合には、審査請求から3ヶ月の経過を待って、裁決を経ずに税務訴訟を提起するという選択肢もあろう。 *  *  * 次回は、最終回として、税務訴訟における留意点等について整理したい。 (了)

#No. 339(掲載号)
#下尾 裕
2019/10/10

〔“もしも”のために知っておく〕中小企業の情報管理と法的責任 【第19回】「営業秘密を取引先に開示する場合の情報漏えいの防止策」

〔“もしも”のために知っておく〕 中小企業の情報管理と法的責任 【第19回】 「営業秘密を取引先に開示する場合の情報漏えいの防止策」   弁護士 影島 広泰   -Question- 他社と取引を始めるに際し、当社の製造上・営業上のノウハウが記載された書類を開示することになりました。 取引先によるこれらの情報の漏えいや不正な利用を防ぐためには、会社として、どのような方策が考えられるでしょうか。 -Answer- 情報は、メールや媒体で渡してしまうのではなく、自社サーバに保存して、取引先にアクセスさせて情報を開示する方法などが考えられます。 前回は、他社に情報を開示する際に、秘密保持契約書(NDA・CA)を締結したり、送り状に秘密であることを記載したりする方法を紹介した。これにより、その情報にアクセスした者にとってその情報が秘密であることを十分に認識できる状態を確保し、万が一漏えいや不正な利用などが行われた場合に、その情報が「営業秘密」に当たるとして差止請求や損害賠償請求等を行うことが可能になるからである。 今回は、取引先において情報漏えいが発生することを防ぐための実務的な対策を解説する。   1 接近の制御 【第16回】で述べたとおり、経済産業省の「秘密情報の保護ハンドブック」では、情報漏えいを防ぐための5つの対策が示されている。その1つ目が、取引先において、極力、秘密情報に接触する者を少なくし、権限のない者を秘密情報に近づきにくくする「接近の制御」であり、そのための対策として考えられるのは、次の2点である。 まず1点目が、取引先に開示する情報を厳選し、最小限にすることである。例えば、機械部品の製造業の会社が、契約交渉中の取引先に対し、完成品のサンプルは渡すとしても、工程サンプルは絶対に渡さない、といった対応である。 これは、契約の問題というよりは会社としてのポリシーの問題であり、取引先に対して不必要に「良い人」にならず、「自社の情報は第三者に開示しない」という毅然とした姿勢をとり続けるということを意味している。 2点目として、取引先での秘密情報の取扱者を限定することも重要である。秘密保持契約書(NDA・CA)の中などに、秘密情報の取扱者を指定しておくのが典型的な対応である。 この点に関する実務的なポイントとして、情報を開示する際に、メールに添付したりDVDなどの媒体に保存して交付してしまうのではなく、自社サーバを立てて、相手方にその自社サーバにアクセスさせて情報を開示するという方法がある。 そうしておけば、閲覧のみでダウンロードを禁止することもできるし、アクセス・ログを保存して相手方を牽制することもでき、万が一相手方に不審な動きがあっても、アクセス権を削除してしまえば情報漏えいをその時点で止めることができるからである。 交渉上も、「サーバは当社の費用で設置しますので、ご利用下さい。」などとして設置してしまえばよい。この方策は上記の秘密情報の保護ハンドブックに記載されているものであるが、実務的な対応として参考になるであろう。   2 持出しの困難化 上述したサーバからのダウンロードを禁止する設定としておくことは、「持出しの困難化」の手法ともなる。また、場合によっては、遠隔操作によるデータ消去機能を有するPCや電子データの利用などの対策を講じることも考えられる。 また、そこまでコストをかけた対策が難しい場合であっても、少なくとも、委託契約や秘密保持契約などの中に、契約終了時や相手方からの請求があった場合には、それを返還又は消去する義務を負わせる合意はしておいたほうがよい。 例えば、以下のような条項である。   3 視認性の確保 秘密情報を漏えいしたとしても、その漏えいが「見つかりやすい」環境であることを相手方に認識させる方策が「視認性の確保」である。 契約上、秘密情報の管理に関する報告の条項を定めておくことや、定期的又は不定期の監査を実施することができる条項を定めることができれば安心であるが、実務的には、このような条項を定めることは難しいケースも多い。 その場合の対策として、上述のとおり、自社サーバを使用させて、アクセス・ログを保全し確認することが考えられる。これにより、相手方が不正にダウンロード等していないかどうかを確認できるし、少なくとも相手方に対する抑止力になるからである。   4 秘密情報の認識向上(不正行為者の言い逃れの排除) 「秘密情報であることを知らなかった」等の言い逃れができないようにするためには、前回述べたように、秘密保持契約書(NDA・CA)を締結する、委託契約書の中に秘密保持条項を定める、送り状等に秘密として管理する意思があることを記載しておくなどの対応が考えられる。   5 信頼性の維持・向上等 取引先との信頼性を維持・向上するためには、秘密情報の保護ハンドブックによれば、適切な対価の支払い等が基本的な前提となるとされている。 契約上は、秘密保持義務違反における損害賠償責任を明記しておくなどして、情報漏えいを牽制することが考えられる。   6 情報管理態勢の甘さによる情報漏えいを防ぐ なお、上記で取り上げた対策は、(1)取引先が、開示を受けた情報を、自ら不正に使用したり、不正に第三者に開示するケースも想定している。 もう1つ気をつけなければならないケースとして、(2)取引先が情報を適切に管理しなかったために情報が第三者に漏えいしてしまうケースが考えられる。これを防止するためには、情報を開示する際の契約に、情報管理を適切に行う義務を課すことが重要である。 場合によっては、情報管理態勢についての監査を行うことができる条項を入れることもある。また、ISMSやプライバシーマークなどの認証の保有を確認することも1つの方法であろう。 (了)

#No. 339(掲載号)
#影島 広泰
2019/10/10

《速報解説》 国税不服審判所「公表裁決事例(平成31年1月~3月)」~注目事例の紹介~

 《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(平成31年1月~3月)」 ~注目事例の紹介~   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   国税不服審判所は、2019(令和元)年9月26日、「平成31年1月から3月までの裁決事例の追加等」を公表した。 今回追加された裁決は表のとおり、全11件で、国税通則法が3件、所得税法、法人税法及び国税徴収法が各2件、相続税法及び登録免許税法が各1件となっている。11件の公表裁決のうち、国税不服審判所によって課税処分等の全部又は一部が取り消された裁決が6件、棄却された裁決が5件となっている。 【表:公表裁決事例平成31年1月~3月分の一覧】  ※本稿で取り上げた裁決 本稿では、公表された11件の裁決事例のうち、「隠ぺい、仮装」の認定が争点となった国税通則法の事案2件と不動産開発権の譲渡の時期が争われた法人税法の事案1件について、その判断のポイントを中心に紹介したい。いつものお断りであるが、論点を整理するため、複数の争点がある裁決については、その一部を割愛させていただいていることを、あらかじめお断りしておきたい。   1 材料仕入高を水増し計上した行為が事実の隠ぺい又は仮装に当たるとした事例・・・② 本件は、生コン製造販売業を営む審査請求人(以下「請求人」という)の法人税等について、原処分庁が、実際の取引がないにもかかわらず恣意的な金額を各事業年度の材料仕入れとしたことは、隠ぺい又は仮装の行為に該当するなどとして更正処分等を行ったのに対し、請求人が、当該会計処理は、過去の事業年度における仮装経理に基づく過大申告を是正する目的で行った修正の経理であり、隠ぺい又は仮装に該当する事実はないなどとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。 (1) 争点 争点は、以下の5点であるが、本稿では、争点④である「隠ぺい又は仮装」の事実があったかどうかに関する国税不服審判所の判断を検討する。 (2) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、請求人の代表者は、過去の仮装経理によりJ社に対する買掛金残高について、帳簿残高と実際残高に差額が生じており、この差額を調整するために数年に分けて材料仕入高を損金に計上することを経理担当者に了承していることから、各事業年度におけるJ社からの材料仕入高につき実際とは異なるものであることを認識しながら、水増しした材料仕入高を帳簿書類に計上していたものと認められること、すなわち、J社からの実際の材料仕入高ではなく、水増しした材料仕入高により帳簿書類が作成されていたことを認識していたと事実認定を行った。 そのうえで、審判所は、請求人代表者のこのような認識の下で、各事業年度において、J社からの材料仕入高につき、実際とは異なる水増しした材料仕入高を帳簿書類に計上したことは、行為の意味を理解しながら故意に事実をわい曲したものということができ、請求人において、J社からの材料仕入高につき、水増し後の材料仕入高であるかのように仮装したものというべきである。このことは、平成28年改正前国税通則法第68条第1項に規定する「隠ぺいし、又は仮装し」に該当する事実があったと判断して、請求人の審査請求を棄却した。   2 売上金額を脱漏する目的で決済方法を変更した事実は認められず、隠ぺい又は仮装はなかったとした事例・・・③ 本件は、紳士服、婦人服及び子供服の企画等を目的とする法人である審査請求人(以下「請求人」という)が、小切手で受領した売上代金を売上げに計上していなかったとして、法人税等の修正申告をしたところ、原処分庁が、当該売上げを計上していなかったことにつき、事実の隠ぺい又は仮装の行為があったとして重加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、請求人には事実の隠ぺい又は仮装の行為はないとして、その全部の取消しを求めた事案である。 (1) 争点 請求人には国税通則法第68条第1項に規定する事実の隠ぺいがあったか否か。 (2) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、請求人が売上代金の回収方法を通常の銀行振込から小切手での受領に変更したことについて、本件F社との取引は、請求日付から小切手受領まで約3ヶ月を要しており、請求人の通常の請求から決済までの期間(約1ヶ月)と比較すると代金の受領が遅れていること、F社担当者の答述では、銀行振込はまとめて行っていたため、個別に本件請求額を振り込むのではなく、小切手を振り出したことを事実として認めた。 そして、これらの事実から、審判所は、本件取引については、請求人の通常の取引と比較して決済が遅れていることから、請求人代表が売上額の支払を督促するためF社に連絡し、F社側の事情で銀行振込ではなく小切手で決済されたと認めるのが相当であり、小切手によって受領した売上代金が故意に本件口座に入金されなかったとの事実を認定するに足りる証拠もないことから、請求人代表が本件売上額を脱漏したとは認められず、その他の証拠によっても請求人に本件売上額を脱漏したとする事実も認められないことから、請求人に国税通則法第68条第1項に規定する事実の隠ぺいがあったと認めることはできないと判断し、原処分を全部取り消す裁決を行った。   3 収益の帰属年度(不動産開発権の譲渡)として請求人の主張を認めた事例・・・ ⑥ 本件は、不動産の売買、あっせん、仲介、賃貸及び管理を主たる目的とする株式会社である審査請求人(以下「請求人」という)が、法人税の所得金額の計算上、益金の額に算入した不動産開発に関する開発権の譲渡代金について、原処分庁が、事実を仮装して計上時期を繰り延べたとして、法人税の青色申告の承認の取消処分及び法人税等の更正処分等をしたのに対し、請求人が、処分の全部の取消しを求めた事案である。 (1) 争点 争点は以下の4つである。 この中でも最大の争点は不動産開発権の譲渡日(争点①)であり、原処分庁は開発権譲渡契約の締結日である平成27年8月21日を、請求人は清算合意書締結をもって本件取引条件が成就したものとして、合意書作成日付である平成28年7月6日が譲渡日であると、それぞれ主張した。 なお、請求人は、平成27年10月28日に、平成27年11月1日から平成28年10月31日までの課税期間を適用開始課税期間とする消費税課税事業者選択不適用届出書を原処分庁に提出しているため、譲渡日が請求人の主張どおりと認められれば、譲渡の日の属する課税期間においては、請求人は消費税の免税事業者である。 (2) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、収益の計上時期について、その実現があった時、すなわち、その収入すべき権利が確定したときの属する年度の益金に計上すべきものと解される(最高裁平成5年11月25日第一小法廷判決・民集47巻9号5278頁参照)と述べたうえで、本件については、収入すべき権利が確定したときの属する年度の益金に計上すべきものと解されるところ、その権利が確定する時期は、請求人が開発権について契約に定められた物又は権利の全てを引き渡し、移転又は取得させた時と認められるとしたうえで、その時期については、以下のように判断した。 国税不服審判所は、争点①(不動産開発権の譲渡があった日)について、請求人の主張を認めたことから、争点②以下についても、原処分庁の処分をすべて取り消す判断をした。 (了)

#No. 338(掲載号)
#米澤 勝
2019/10/09

プロフェッションジャーナル No.338が公開されました!~今週のお薦め記事~

2019年10月3日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.338を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2019/10/03

monthly TAX views -No.81-「消費税の特徴と今後の日本にとっての存在意義」-増税を機に改めて考える-

monthly TAX views -No.81- 「消費税の特徴と今後の日本にとっての存在意義」 -増税を機に改めて考える-   東京財団政策研究所研究主幹 中央大学法科大学院特任教授 森信 茂樹   二度の延期を経て、当初の予定から4年遅れて消費税率が10%に引き上げられた。消費税率の引上げについては、未だエコノミストたちからの評判は芳しくない。 しかし増税は、社会保障制度を持続可能なものにするため、あるいは後世にその代金の付けまわしをしないために行うのであって、「リーマンショック級の危機」がない限り粛々と行われるべきだ。その意味で、安倍政権の今回の決断は評価すべきと考える。 その上で、中長期的に考えて、消費税が経済社会にもたらす影響も見極める必要がある。以下では消費税の意義やメリットを、所得税や相続税などと比較しながら考えてみたい。 *  *  * 最初に指摘したいのは、消費税の哲学的な意義である。 「所得」は、自ら労働をして稼得することから得られる。そこに課税することは、社会にとって有用な勤労をパニッシュする(勤労意欲をくじく)効果を持つ。一方で「消費」は、美味しいものを食べたい、ブランド品のバッグを持ちたいという自らの欲望を満たす行為である。したがって、そこに課税することについては、社会的な公平性があるといってもよい。 筆者がかつて駐在した英国では、当時のサッチャー首相が、消費税のメリットについてたびたび演説していたが、「消費税を負担するのが嫌なら、消費を我慢すればいい。消費税は、皆さんが選択できる税だ。」と発言していたことを思い出す。 *  *  * 次に、消費税の課税ベースは消費、つまり所得から貯蓄を差し引いたものである。貯蓄が課税ベースから外れるので、貯蓄には優しい税となる。所得税は、貯蓄後の金融所得・収益にも課税するので二重課税という批判もあるが、消費税にはそのようなことは生じない。 高齢化社会では、経済成長の原資となる貯蓄・資本は大変貴重である。税制でこれを優遇することは、経済成長を促すともいえよう。もっともその反面、消費に負荷がかかるというマイナス面がある。消費税が嫌われる最大の原因はここにある。 *  *  * 3つめのメリットは、消費税の仕向け地課税(国境調整)という性格から来る。付加価値税を導入した欧州諸国は、共通して仕向け地主義を採用している。その結果、消費税は輸出免税となり、増税しても国の輸出競争力に悪影響を及ぼさない。 米国トランプ政権は、ボーダータックスや仕向け地主義法人税など、国境調整できる税制を導入しようとしたが、国民や議会から理解が得られず、うまくいかなかった、彼らが消費税を「垂涎の的」とするのは、仕向け地課税主義にある。 *  *  * 最後に、執行面の公平性・コンプライアンスの高さである。インボイスを使って点々流通する取引について、仕入税額控除という制度で最終消費者に負担を送っていく制度は、事業者間相互にけん制効果が働くので、脱税は極めて困難になる。所得税の導入されていないアフリカの国でも消費税(VAT)が導入されているのは、この理由からだ。 消費税が抱える問題は逆進性だ。しかし人間の一生をとれば、生涯所得=生涯消費である。つまり生涯をとれば逆進性は平準化され、なくなるのである。さらにいえば、勤労時代にだけ累進税で課税する所得税より、一生かけて消費する際にフラットな税率で課税する消費税の方が、個人にとって負荷が少ない。世代間の公平性にも資するのである。 *  *  * 今後のわが国の社会保障ニーズの増加とひっ迫した財政状況を見ると、団塊の世代が全員後期高齢者になる2025年には、介護・医療を中心に、消費税率に換算して数%程度の追加的な財政需要が予想されている。これは、相続税の引上げで対応できるような規模ではない。 社会保障費の肥大化を抑える歳出削減を行うとともに、消費税率の引上げについても議論を開始しておくことが必要ではないか。 そのためにも、消費税の税制としてのメリットをきちんと整理しておくことが必要である。 (了)

#No. 338(掲載号)
#森信 茂樹
2019/10/03

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例10】「賃貸用マンションのリフォーム費用の損金性」

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例10】 「賃貸用マンションのリフォーム費用の損金性」   国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦   【Q】 私は都内で父親から引き継いだ賃貸マンションを経営しております。当該賃貸マンションは、現在、顧問税理士の勧めで、私が代表を務める不動産管理会社が所有しております。 さて、当該賃貸マンションは築年数が既に20年を経過しており、近隣の同規模のマンションと比較すると、内部の設備の陳腐化が目立っておりました。そこで、今般居室内の台所及び浴室を全面リフォームし、新たに最新鋭のシステムキッチン及びユニットバスに交換いたしました。これは、当該マンションの居住用機能を回復させるために必要不可欠な工事であると認識しており、不動産管理会社の法人税の申告においては、その際要した工事費を全額修繕費として損金に算入しております。 ところが、先日管理会社において受けた税務調査で、調査官から「今回のリフォームは既存の台所及び浴室を解体し、新たにシステムキッチン及びユニットバスに交換したもので、当該取替費用は、通常必要と考えられる修繕に係る費用とは認められず、賃貸マンションの建物自体の価値を高めるものであるから、資本的支出に該当する。したがって、修繕費としての損金算入は認められない」と言い渡されました。 顧問税理士は税務署の主張に沿って修正申告を提出すべきと主張するのですが、私は納得できません。今般のリフォーム費用を修繕費として損金算入するのは誤った経理処理なのでしょうか、教えてください。   【A】 ある支出が修繕費に該当するのか、それとも資本的支出に該当するのかは、法人税に関する税務調査で最も問題となる事項の1つですが、その判断基準は、当該支出により建物の価値を高めたり(資産の価値増加)、耐久性を増すといった効果(使用可能期間の延長)があった(資本的支出)のか、それとも単なる維持補修費ないし原状回復費用というべきもの(修繕費)なのか、という点になります。 本件の場合、今回のリフォームは既存の台所及び浴室を解体し、新たにシステムキッチン及びユニットバスに交換したもので、マンションの価値を高め、耐久性を増すという効果が認められることから、修繕費ではなく資本的支出であると考えられます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 修繕費か資本的支出かの判断基準 周知のとおり、法人におけるある支出が修繕費に該当するのか、それとも資本的支出に該当するのか(「修繕費 or 資本的支出」)は、法人税に関する税務調査で最も問題となる事項の1つである。法人税法では、その原則的な判断基準として、以下の規定を置いている。 内国法人が、修理、改良その他いずれの名義をもってするかを問わず、その有する固定資産について支出する金額で次に掲げる金額に該当するもの(そのいずれにも該当する場合には、いずれか多い金額)は、その内国法人のその支出する日の属する事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない(法令132)。 上記のような固定資産の取得原価に組み入れられる支出を一般に「資本的支出」といい、法人税法上、その金額を取得価額とする新たな減価償却資産を取得したものと取り扱われる(法令55)(※1)。 (※1) 平成19年度税制改正前の従前の取扱いでは、資本的支出があった場合には、その金額をその資本的支出の対象となった減価償却資産の取得価額に加算することされていた。 一方、「修繕費(期間費用)」は、固定資産の修理、改良等のために支出した金額のうち、当該固定資産の通常の維持管理のためや、毀損した固定資産につきその原状を回復するために要した認められる部分の金額をいうものとされている(法基通7-8-2)。修繕費に該当すると、支出時において直ちに損金算入される。 修繕費か資本的支出かの一般的な判断基準を図で示すと、以下の通りとなる。 〇修繕費か資本的支出かの一般的な判断基準   (2) 通達による修繕費か資本的支出かの判断基準 法人税法の上記規定は、一般的な判断基準を示しているが、実務上の指針としてはやや概括的である。そのため、日々の経理に携わる経理担当者や税理士のための実務指針として、法人税基本通達が以下のようなやや細かい事例を「例示」として挙げている。 ① 資本的支出の例示(法基通7-8-1) (ア) 建物の避難階段の取付等物理的に付加した部分に係る費用の額 (イ) 用途変更のための模様替え等改造又は改装に直接要した費用 (ウ) 機械の部分品を特に品質又は性能の高いものに取り替えた場合のその取替えに要した費用の額のうち通常の取替えの場合にその取替えに要すると認められる費用の額を超える部分の金額 (注) 建物の増築、構築物の拡張・延長等は、建物等の取得(※2)に該当する。 (※2) 税法上の資本的支出は、収益的支出に対応する概念と捉えられている会計上の資本的支出(資産の取得を含む)よりも狭い概念と考えられている。 ② 修繕費の例示(法基通7-8-2) (ア) 建物の移曳(曳家)又は解体移築をした場合におけるその移曳又は移築に要した費用の額(移築費用) (イ) 機械装置の移設に要した費用(解体費を含む) (ウ) 地盤沈下した土地を沈下前の状態に回復するために行う地盛りに要した費用の額 (エ) 建物、機械装置等が地盤沈下により海水等の浸害を受けることとなったために行う床上げ、地上げ又は移設に要した費用の額 (オ) 現に使用している土地の水はけをよくする等のために行う砂利、砕石等の敷設に要した費用の額及び砂利道又は砂利路面に砂利、砕石等を補充するために要した費用の額 ③ 数値基準 法人にとって修繕費関連の支出は極めてありふれており、その判断をある程度画一的に行うことが実務上要請されていることから、国税庁は更に「修繕費 or 資本的支出」に係る金額ないし年数の基準(数値基準)を通達で示しており、多くの企業で実際に活用されている。 (ア) 20万円基準(法基通7-8-3(1)) (イ) 概ね3年周期の費用(法基通7-8-3(2)) (ウ) 60万円基準(法基通7-8-4(1)) (エ) 前期末取得価額の概ね10%相当額以下(法基通7-8-4(2)) (オ) 継続して7(資本的支出):3(修繕費)の基準で経理しているか(法基通7-8-5)   (3) 賃貸用マンションの台所・浴室をリフォームしたときの支出について争われた裁決事例 次に、所得税の事例(※3)ではあるが、賃貸用マンションの台所・浴室をシステムキッチン及びユニットバスにリフォームしたときの支出に関し、修繕費か資本的支出かについて争われた裁決事例があるので、以下でみていきたい(国税不服審判所平成26年4月21日裁決・裁事95集・TAINSコード:J95-2-06)。 (※3) 所得税と法人税とでは資本的支出と修繕費の区分につき基本的に同じ考え方を採っており、例えば、所基通37-10は法基通7-8-1に、所基通37-11は法基通7-8-2に対応する規定である。 この事案は、不動産貸付業を営む納税者(請求人)が、賃貸用マンションの流し台等の取替工事に係る費用の全額を修繕費として不動産所得の必要経費に算入し申告したところ、原処分庁は、当該費用のうち、減価償却資産の新規取得に係る減価償却費の額及び修繕費となるもの以外の部分の金額は必要経費に算入できないなどとして更正処分等を行ったのに対し、請求人は、当該費用は居住用機能を回復させるため劣化した流し台等を取り替えたものであり、全額修繕費に該当するなどとして、その全部の取消しを求めたものである。 争点はズバリ、本件各取替工事に係る費用は、修繕費又は資本的支出のいずれに該当するかである。 審判所は以下の通り判示し、納税者・請求人の主張を斥けている。   (4) 本件への当てはめ 上記事案で納税者が主張したもののうち、「当該各工事の施工は、本件建物の基礎及び柱等の「建物の躯体」に影響を与えることがなく」という点については、若干検討が必要であると考えられる。すなわち、リフォームによって台所や風呂の取替を行っても、「建物の躯体」に影響を与えることがないことから、建物本体の使用可能期間を延長させるものではなく、そうなると裁決事例に係る各取替費用は、資本的支出の1つの要件(使用可能期間の延長)を満たさないこととなる。 しかし、裁決事例に係る各工事により各住宅に設置されたシステムキッチン及びユニットバスは、建物と物理的・機能的に一体不可分なものと認められるから、当該取替によりそのマンションの価値の増加及び建物全体の使用可能期間の延長をもたらすものと考えられる。したがって、裁決事例に係る各取替費用は資本的支出に該当することとなる。 本件の場合も、今回のリフォームは既存の台所及び浴室を解体し、新たにシステムキッチン及びユニットバスに交換したもので、マンションの価値を高め(資産の価値増加)、耐久性を増す(使用可能期間の延長)という効果が認められることから、修繕費ではなく資本的支出であると考えられる。 (了)

#No. 338(掲載号)
#安部 和彦
2019/10/03

《相続専門税理士 木下勇人が教える》一歩先行く資産税周辺知識と税理士業務の活用法 【第6回】「相続税申告における複眼的視点をもったリスク管理」~取引相場のない株式評価に関する税務・会社法からのアプローチ~

《相続専門税理士 木下勇人が教える》 一歩先行く資産税周辺知識と税理士業務の活用法 【第6回】 「相続税申告における複眼的視点をもったリスク管理」 ~取引相場のない株式評価に関する税務・会社法からのアプローチ~   公認会計士・税理士 木下 勇人   優良企業の取引相場のない株式については、かねてより事業承継対策の中心であり、未だ課題も多い。また、「特例事業承継税制(法人版)」が平成30年度税制改正により導入されたことで、相続税・贈与税の納税猶予制度適用における相続税評価額が多大な影響を及ぼすことになった。 そこで本稿では、相続税申告実務において自己株式の取得等に関する誤りやすい箇所を税務・法務の視点から複眼的に検証することとする。   1 自己株式 (1) 議決権停止による直接的な影響 自己株式は取得した段階で議決権が停止する(会社法308②)。そのため、取引相場のない株式(出資)の評価明細書において、以下の直接的影響を受ける。 (2) 自己株式取得による間接的な影響 ◆会計仕訳 ◆税務仕訳 自己株式取得の際、上記の税務調整を行うことにより、以下の間接的な影響を受ける。 ここで、上記仕訳の結果、仮に資本金等がマイナスになった場合であっても、マイナスの値を計算基礎とすることが必要である(なぜなら結果的に、マイナスにマイナス(1株あたり株価)を乗じることにより、正の値になるため)。 また、第4表(類似株価)の算定上、課税時期が直後期末に極端に近い場合であっても直前期末の数値を基に計算するため、直前期末から課税時期までに自己株式の取得があっても、第4表に反映されることはない。 さらに、自己株式の取得により議決権割合が増加することから、場合によっては原則的評価・特例的評価の判断に影響を及ぼすとともに、会社経営の根幹たる会社支配権そのものに影響を及ぼす可能性もあるため、注意を要する。 (※) A家とB家は非同族の別親族   2 相互保有株式 (1) 議決権停止による直接的な影響 相互保有株式は議決権が停止する(会社法308①)。つまり、総株主の議決権の4分の1以上の株式を保有すると相手が保有する株式については議決権が停止することになる。ただし、自己株式と異なり、議決権停止の判断を自ら行う必要があるため注意を要する。 例えば、評価対象会社(X社:普通株式)がY社の株式を30%保有しており、Y社(普通株式)がX社株式を15%保有している場合、Y社が保有するX社株式15%の議決権は停止する。 以上より、取引相場のない株式(出資)の評価明細書において、以下が直接的に影響を受ける。 (2) 相互保有株式による間接的な影響 相互保有株式により、その他の株主の議決権割合が増加することから、自己株式と同様、場合によっては原則的評価・特例的評価の判断に影響を及ぼすとともに、会社経営の根幹たる会社支配権そのものに影響を及ぼす可能性もあるため、注意を要する。 (了)

#No. 338(掲載号)
#木下 勇人
2019/10/03

相続空き家の特例 [一問一答] 【第32回】「「相続空き家の特例」を受けることができる家屋⑤(老人ホーム等に入居中であった場合)」-相続空き家の特例の対象となる譲渡の範囲-(平成31年(2019年)4月1日以後の譲渡に係る取扱い)

相続空き家の特例 [一問一答] 【第32回】 「「相続空き家の特例」を受けることができる家屋⑤ (老人ホーム等に入居中であった場合)」 -相続空き家の特例の対象となる譲渡の範囲- (平成31年(2019年)4月1日以後の譲渡に係る取扱い)   税理士 大久保 昭佳   Q Xは、昨年2月に死亡した母親の家屋(昭和56年5月31日以前に建築)とその敷地を相続により取得した後、耐震リフォームをした上で、本年12月に5,400万円で売却しました。 母親は、その家屋で一人暮らしをしていましたが、相続の開始数年前から老人ホームに入居し、相続の開始直前その家屋は既に空き家となっていました。 なお、老人ホーム入居後から相続の開始前まで、その家は母親の物品の保管場所として使用され、また、相続の開始から譲渡の時までも空き家の状態でした。 この場合、「相続空き家の特例(措法35③)」の適用を受けることができるでしょうか。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 A 平成31年(2019年)4月1日以後に行う譲渡であれば、「相続空き家の特例」を受けることができます。 ●○●○解説○●○● 「平成31年度税制改正」前においては、「相続空き家の特例」の適用対象となる家屋は、相続の開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋でなければならないこととされ(旧措法35④)、老人ホーム等入居中の死亡については、「その被相続人がその相続の開始の直前において老人ホーム等に入居していて、既にその家屋を居住の用に供していなかった場合には、本特例の対象となる被相続人居住用家屋には該当しないこととなります(財務省「平成28年度税制改正の解説」152頁抜粋)」と示され、その対象から除外されていました。 しかし、被相続人となる親が相続開始の数年前から老人ホーム等に入居している場合も多く、年々増加している空き家対策の推進を図る観点等から、「平成31年度税制改正」において、そのハードルが下げられ、老人ホーム等に入居していた場合も対象に加えられました(措法35④)。 老人ホーム等に入居していた場合でも、次に掲げる要件その他一定要件を満たす場合に限り(措令23⑥⑦)、相続の開始の直前において、その被相続人の居住の用に供されていたものとされます。 なお、本特例の適用を受けるためには、被相続人居住用家屋所在地の市区町村から「被相続人居住用家屋等確認書」の交付を受ける必要があります。 同確認書の申請を市区町村へ行う際の、老人ホーム等に入居していた場合の上記の要件に係る提出書類は、次のようなものとされています(国土交通省HPを参照)。 (了)

#No. 338(掲載号)
#大久保 昭佳
2019/10/03

収益認識会計基準と法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第13回】

収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第13回】   千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也   〈更なる検討〉 ~「無償による資産の譲受けその他の取引」を含めていないことの意義(法人税法22条の2第1項との関係)~ 法人税法22条の2第1項は、「資産の販売若しくは譲渡又は役務の提供」に係る収益の額の計上時期に係る定めである。法人税法22条2項と異なり、「無償による資産の譲受けその他の取引」については規定していない。このことの意義をどのように解すべきか。《①法人税法22条2項が規律し、22条の2第1項が規律していないもの》(前回参照)の1つとして捉えることのできる論点である。 少なくとも、立法者が、意識せずに、法人税法22条の2第1項に「無償による資産の譲受けその他の取引」を含めなかったと解するのは妥当ではない。同項における「資産の販売若しくは譲渡又は役務の提供」という部分は、直接的には引用していないものの、法人税法22条2項と同じ文言を使用しているからである。よって、意識的に「無償による資産の譲受けその他の取引」を含めなかったと解することが自然である。 では、なぜ、法人税法22条の2第1項に「無償による資産の譲受けその他の取引」を含めなかったのか。かかる取引が収益認識会計基準の対象外であることと関係している可能性がある。法人税法22条の2第1項に関して立案担当者から次のような説明がなされていることも考慮すると、同項が「無償による資産の譲受けその他の取引」を含めていないことの直接的な理由として、かかる取引が収益認識会計基準の対象外であるという点を、含めなかった理由の候補として挙げることができる(立案担当者の見解の要旨については、後記(6)(本連載第17回)も併せて参照)。 (財務省『平成30年度 税制改正の解説』273~274頁) 「無償による資産の譲受けその他の取引」は収益認識会計基準の対象外であることを法人税法22条の2第1項がかかる取引を含めていないことの直接的な理由として挙げることは、次のような考え方によって理論的に補強される。すなわち、法人税法22条の2第1項は、収益認識会計基準の導入に伴う税制改正により創設されたものであるから、同項の規律範囲と収益認識会計基準の取扱い範囲が完全に重なるという考え方である。収益認識会計基準が法人税法22条の2第1項の創設に直接的な影響を与えていることを前提として、同項の規律範囲と収益認識会計基準の取扱い範囲が完全に重なるという結論を導き出す考え方であるといってよい。 かような考え方をとると、法人税法22条の2第1項が「無償による資産の譲受けその他の取引」を含めていないことの直接的な理由は、かかる取引が収益認識会計基準の対象外とされているからである、という説明は理解しやすい。 他方、以下に掲げる立案担当者の解説に触れると、法人税法22条の2第1項が「無償による資産の譲受けその他の取引」を含めていないことの直接的な理由は、かかる取引が収益認識会計基準の対象外であることに帰すると論断することは躊躇される(後記「(6)立案担当者の見解の要旨」のキも参照)。 すなわち、立案担当者は、法人税法22条の2第4項等において手当てした収益の額として益金の額に算入する金額に係る改正に関して、次のように説明している。 (財務省『平成30年度 税制改正の解説』270頁) また、立案担当者は、法人税法22条の2第1項等において手当てした収益の額を益金の額に算入する時期に係る改正に関して、次のように説明している。 (財務省『平成30年度 税制改正の解説』271頁) これらによれば、立案担当者は、収益認識に関する会計基準の導入を契機として収益の計上額に係る規定(法人税法22条の2第4項)を定めることの必要性を実感し、かかる規定の整備に伴い、収益の計上時期(認識時期)に係る規定(法人税法22条の2第1項)の制定にまで切り込んだようである。言い換えれば、収益認識会計基準に従った収益の額の計算のうち、法人税の所得の金額の計算として認めるべきでない部分があれば、その部分を明示する必要が生ずるという認識の下で法人税法22条の2第4項の創設を立案し、同項を設けることに合わせて、収益の計上時期についても通則的な規定を設けたようである。 すると、収益認識会計基準が収益の計上時期に関する改正に与えた影響は、間接的なものにとどまるという評価も成り立つであろうか。仮に成り立つとすれば、法人税法22条の2第1項の規律範囲と収益認識会計基準の取扱い範囲は完全に重なるという道筋はブレはじめ、法人税法22条の2第1項が「無償による資産の譲受けその他の取引」を含めていないことの直接的な理由はかかる取引が収益認識会計基準の対象外とされているからである、とは言い切れないのではないかという見方にもつながる。 法人税法22条の2第4項等において手当てした収益の額として益金の額に算入する金額に係る改正に関する上記解説においては、収益認識会計基準に従った収益の額の計算のうち、法人税の所得の金額の計算として認めるべきでない部分があれば、その部分を明示する必要が生ずるという立案担当者の認識が開陳されていた。 立案担当者は、次に示す法人税法22条の2第1項等において手当てした収益の額を益金の額に算入する時期に係る解説においては、収益認識会計基準以外の企業会計原則に従った処理が行われた場合に想起される不都合に対応するためにも、収益の認識時期について通則的な定めを設ける必要が生じたと説明している。 (財務省『平成30年度 税制改正の解説』271~272頁) 上記解説は、全体として、収益認識会計基準が収益の計上時期に関する改正に与えた影響は間接的なものにとどまるという評価を支える一材料になりそうである(もっとも、上記解説の下線部分からすれば、収益の額を益金の額に算入する時期に係る改正についての補足的な説明にすぎないのかもしれない)。 上記解説を図示すると、次のようになる。 上図の①について、改正前の法人税法63条1項は、内国法人が、長期割賦販売等に該当する資産の販売等をした場合において、その資産の販売等に係る収益の額及び費用の額につき、その資産の販売等に係る目的物又は役務の引渡し又は提供の日の属する事業年度以後の各事業年度の確定した決算において延払基準の方法により経理したときは、その経理した収益の額及び費用の額は、その各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額及び損金の額に算入することとされていた。 平成30年度改正において、この法人税法63条が改正され、長期割賦販売等に係る収益及び費用の帰属事業年度に関する別段の定めについて、リース取引を除き廃止することとされた。 改正の理由については、次のとおり、収益認識会計基準の導入により、同会計基準を適用した法人は割賦基準(延払基準)により収益費用を経理することができなくなるところ、仮に改正前の法人税法63条を存置すると、収益認識会計基準を適用しなければならない法人とそうでない法人との間で不公平が生ずることとなるため、収益認識会計基準の導入を契機として、改正することとしたと説明されている。 (財務省『平成30年度 税制改正の解説』272~273頁) 上図の①や③に着目すると、収益認識会計基準が収益の計上時期に関する改正に与えた影響は、間接的なものにとどまるという評価に向かいそうである。他の部分を見ても、要するに、法人税法63条が改正され、割賦販売に係る収益の認識時期について別段の定めが存在しないことになったところ、法人税法22条4項との関係で、逆に全ての割賦販売について割賦基準や延払基準により所得の金額の計算をすることが可能であるように解釈されるおそれが生じるため、このような解釈とならないようにするためにも、収益の認識時期について通則的な定めを設ける必要が生じた旨の説明がなされているのであるから、やはり上記と同様の評価に行き着きそうである。 視点を変えて、結果論的に議論を眺めることも可能である。収益認識会計基準は固定資産の譲渡を適用対象外としているのに対して、法人税法22条の2第1項は、その文面上、「資産の譲渡」(棚卸資産以外の資産の譲渡)も規律対象に含めており、固定資産の譲渡にも適用されるものとなっている。固定資産の譲渡が収益認識会計基準の対象外であることを理由に、法人税法22条の2第1項も固定資産の譲渡を対象外としているわけではないのである。結果的に見れば、法人税法22条の2第1項の規律範囲と収益認識会計基準の取扱い範囲が完全に重なっているわけではないことになる。 立案担当者は、このことについて、次のように解説している。 (財務省『平成30年度 税制改正の解説』274頁) 固定資産の譲渡が収益認識会計基準の対象外であることを理由に、法人税法22条の2第1項も固定資産の譲渡を対象外としているわけではないことを踏まえると、同項が「無償による資産の譲受けその他の取引」を含めていないことの直接的な理由はかかる取引が収益認識会計基準の対象外であることに帰すると直ちに論断することはやはり躊躇される。 このように見てくると、法人税法22条の2の創設と収益認識会計基準との関係はやや判然としないという指摘もできそうである。 なぜ、法人税法22条の2第1項に「無償による資産の譲受けその他の取引」を含めなかったのかという問いに対しては、次のような理由も候補としてあげておく。 法人税法22条の2第1項は、資産の販売等に係る収益の計上時期のルールを定めるに当たり、当該法人から見てインプットである対価ないし経済的利益に着眼したものというよりも、むしろ、アウトプットである引渡しや役務提供に着眼したものである(上記(2)イ(本連載第10回)参照)。 このような観点から見た場合に、少なくとも「無償による資産の譲受け」の場合は、譲り受けた側の法人においてアウトプットである引渡しや役務提供を観念することはできない。そこで、そのインプットである対価ないし経済的利益に着眼せざるをえない。この点で、資産の販売若しくは譲渡又は役務の提供の場合とは相違するため、改正の支流から外れた。 いずれにしても、法人税法22条の2第1項は、22条2項と異なり、「その他の取引」という包括的な語も使用していないため、文字どおり、「資産の販売若しくは譲渡又は役務の提供」に限定して適用される。立法時において意識的に「無償による資産の譲受けその他の取引」を含めなかったのであるとすれば、法人税法22条の2第1項は「無償による資産の譲受けその他の取引」には適用されないという理解はより強固のものとなる。   (了)

#No. 338(掲載号)
#泉 絢也
2019/10/03

〈Q&A〉印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第73回】「印紙税一括納付承認申請書及び納税申告書の書き方」

〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第73回】 「印紙税一括納付承認申請書及び納税申告書の書き方」   税理士・行政書士・AFP 山端 美德   当社は金融機関です。預貯金通帳等については、その預貯金通帳等を作成しようとする場所の所轄税務署長の承認を受けることにより、預貯金通帳等に係る印紙税について収入印紙を貼り付けることに代えて、金銭で一括して納付することができるとされていますが、その際の承認申請書の記載方法及び納税申告書の記入方法について教えてください。   預貯金通帳等に係る印紙税の申告及び納付の特例を受ける場合には、あらかじめその預貯金通帳等を作成しようとする場所の所轄税務署長の承認を「印紙税一括納付承認申請書」により、承認を受けようとする最初の課税期間の開始の日の属する年の3月15日までに提出しなければならない。 申告については、毎年4月1日現在における預貯金通帳等に係る口座の数を基礎として計算した課税標準数量及び、納付すべき税額などを記載した納税申告書を、4月末日までに提出し、その申告書の提出期限までに印紙税を納付しなければならない。 [記載例] ◎印紙税一括納付承認申請書 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 《申請に当たっての注意点》 ◎印紙税納税申告書(一括納付用) ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 [補足] 印紙税の一括納付の適用を受ける必要がなくなった場合には、「印紙税一括納付承認不適用届出書」を提出する。 なお、申告等については、電子による申告申請及び電子納税による方法も可能である。   一括納付承認申請に係る参考条文(法12①、法令12①、基通91の2) (了)

#No. 338(掲載号)
#山端 美德
2019/10/03
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