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谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」 【第20回】「租税法律主義と租税回避との相克と調和」-実質主義と租税回避との相克-

谷口教授と学ぶ 税法の基礎理論 【第20回】 「租税法律主義と租税回避との相克と調和」 -実質主義と租税回避との相克-   大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 前回まで、「租税法律主義と実質主義との相克」という主題の下、税法の解釈適用の「過形成」を検討してきたが、その検討を始めるに当たって、第6回で「税法の解釈適用論上の原理的課題」という副題の下、実質主義について、特に租税法律主義との相克の場面を念頭に置いて、その概要を述べた(特にⅡ参照)。 そこでは、「税(法)は私的経済活動の上に建てられた『家』のようなものである」ことを前提にして、「軟弱地盤の上に建つ家」にみられるが如き「建付けの悪さ」をいわば「建材の柔軟化」によって解消しようとする考え方として、実質主義を比喩的に描写した(【42】=拙著『税法基本講義〔第6版〕』(弘文堂・2018)の欄外番号。以下同じ)。 そのような実質主義に基づく課税すなわち実質課税の必要性について、的確な整理・指摘を行うものとして、次の見解(品川芳宣「実質課税の原則」金子宏ほか編『実践租税法大系(上)基本法編』(税務研究会・1981年)53-55頁。下線筆者)がある。少し長くなるが、そのまま引用しておこう。 上記の見解は、確かに、実質課税の必要性について的確な整理・指摘を行うものではあるが、しかし、「公平の原則」に租税の賦課徴収のための税法の解釈適用上「最高の優位性」を承認することを前提にして実質課税の必要性を説く点において、第2回のⅢで述べたように「含み公平観」を前提にして税法の解釈適用を行うべきであるとする私見とは、明らかに異なる。このような前提の違いが実質主義を論じる場合のスタンスの違いにつながるのであるが、そのことは、これまで「租税法律主義と実質主義との相克」という主題の下で税法の解釈適用の「過形成」に関して検討してきたところからも明らかであろうと思われ、また、これから租税回避に関する検討を通じても明らかにしていきたいと考えているので、今回は、そのことを指摘するにとどめることにする。   Ⅱ 実質主義の沿革 さて、前記の見解が説くように税法にとって必要とされる実質主義は、いつ頃から、どのような形で登場してきたのであろうか。実質主義の沿革については、その「発想の整理の必要」を説く立場から、次のような簡潔な整理がされている(忠佐市「租税法における実質主義の原則」法学新報86巻1・2・3号(1979年)7頁、8-9頁。下線筆者)。 上記の整理のうち、同族会社の行為計算否認規定をどのように性格づけるか、実質主義とどのように関係づけるかという点については(清永敬次『租税回避の研究』(ミネルヴァ書房・1995年/復刻版2015年)324-327頁[初出・1962年]、拙稿「同族会社税制の沿革及び現状と課題」税研192号(2017年)34頁、36頁参照)、租税回避論の沿革との関連で別途検討を要すると考えられるので、後の回に租税回避論の沿革をみる際に検討することにして、ここでは、差し当たり、上記の整理を前提にして、「国税通則法の制定に関する答申」(税制調査会第二次答申)の概要をみておこう。 同答申は、「国税通則法制定の機会において、各税を通ずる基本的な課税の原則として次のようにこれを明らかにするものとする。」(4頁。下線筆者)として、「実質課税の原則」規定の制定について次のように答申した(4頁。下線筆者)。 この点について、同答申の別冊「国税通則法の制定に関する答申の説明」は、第2章(実質課税の原則等)第1節(実質課税の原則の考え方)の冒頭(9頁)で、そして同章第2節(実質課税の原則に関する諸問題)の冒頭の「2・1 実質課税の原則の宣明」の中(11頁)で、それぞれ次のとおり述べている(下線筆者)。 その上で、前記「国税通則法の制定に関する答申の説明」は、「実質課税の原則に関する諸問題」として①「租税回避の問題」、②「特殊関係者等の行為計算の否認」及び③「帰属の問題」、並びに「実質課税の原則に関連する問題」として④「無効な法律行為又は取り消しうべき法律行為と課税」及び⑤「不法原因所得と課税」を取り上げ、それぞれについて詳細な説明を加えている(11-25頁)。 そこでは、前記の①は「広義の実質課税の原則の一環」(13-14頁)として、②は「特殊関係者間の行為計算という特殊な分野に限られた問題」(19頁)としてそれぞれ説明され、また、③については①及び②との「差異」(20頁)を前提にして説明がされ、さらには、④及び⑤は「実質課税の原則に関連する問題」(22頁)ではあるが少なくとも立法的対応としてはこの原則の枠内での検討はされていないことからすると、「国税通則法の制定に関する答申」においても、「それ[=実質課税の原則]についての考え方が必ずしも統一されていない」(先に引用した、同答申の「説明」9頁)ように思われる。 しかも、実質課税の原則については、国税通則法の制定時に「その制度化につき将来の検討に委ねることを適当とするもの」(大蔵省主税局「国税通則法の制定について」税法学132号(1961年)27頁、28頁)の1つとして制度化が見送られた以上、同答申後十数年を経た後においても、「論者の説くところは一人一説の感すらあるように多彩である。」(忠・前掲論文8頁)と評されるのも自然の成り行きであろう。 とはいえ、同答申において税制調査会が前記の①~⑤の問題を実質主義に関する問題あるいは関連する問題として議論の俎上に載せたのは、ドイツにおける経済的観察法(wirtschaftliche Betrachtungsweise)に関する議論の影響を受けたものと考えられる。確かに、わが国における実質主義の嚆矢ないし淵源ともいうべき行政裁判所の判決は所得の人的帰属に関するものであり(「実質主義の沿革」に関する前記引用参照)、「この発想はドイツ法の影響というよりも英米法の影響によるものと考えられそうである。」(忠・前掲論文26頁)という見方もできるかもしれないが、しかし、次のとおり(同26-27頁。下線筆者)、少なくとも戦後は、とりわけ同答申については、ドイツ税法の影響は否定できないと思われる。 もっとも、上記引用の最後にいう「税法独立主義」を含め、次のとおり全面的にドイツ税法の影響を説く論者もいた(田中勝次郎『法人税法の研究』(税務研究会・1965年)684頁)。 ちなみに、ドイツの経済的観察法に関するわが国の論文(清永・前掲書59頁以下[初出・1966年])末尾の「追記[1994年]」(同71頁)では、その議論の射程について次のとおり述べられている(同364-369頁[初出・1967年]も参照)。   Ⅲ 実質主義の「真骨頂」 実質主義の沿革に関する以上の概観からも窺い知ることができるように、実質主義が「その意味するところが常に曖昧で非常にとらえどころのないもの」(清永・前掲書362頁[初出・1967年])であることは確かであろう。ただ、そうであるが故に、いや、そうであるからこそ、実質主義の「真骨頂」は、「あまりにも漠然とした、そして問題に応じて国庫に対して税収を確保するための理論的な武器として用いられがちであった弾力的な実質主義の原則」(同頁)、すなわち、いわゆる経済的実質主義(【42】)に見出されるのである。 そして、その最も先鋭な矛先は租税回避に向けられてきた。その代表的な見解は次のようなものである(田中二郎『租税法〔第3版〕』(有斐閣・1990年)89頁。初版[1968年]では字句が若干異なる箇所があるが85頁。下線筆者)。 この見解は、租税回避の否認による課税について、その否認の根拠となる法律の規定の有無よりも公平負担の原則を決定的な基準とする点において、実質主義の「真骨頂」を体現するものといってよかろう(租税回避の否認に関する否認規定不要説については【72】参照)。換言すれば、この見解は、前回までの主題である「租税法律主義と実質主義との相克」という厳しい状況の下で、実質主義の側に立つことを宣明したものといえよう。そのような見解は裁判例においても採用されたことがある(①大阪高判昭和39年9月24日行集15巻9号1716頁、②東京地判昭和46年3月30日行集22巻3号399頁[東京高判昭和49年5月29日税資75号569頁も是認])。   Ⅳ おわりに 筆者は、以前、実質主義について、既にみた「一人一説」の如き状況の後の状況を総括して、「そうこうするうちに、おそらくは1980年代半ば以降、税法の解釈適用においても租税法律主義を重視する傾向が強まってくるに伴って、実質主義が実質主義それ自体として議論されることは徐々に少なくなってきたように思われる。」(拙稿「租税回避と税法の解釈適用方法論-税法の目的論的解釈の『過形成』を中心に-」岡村忠生編著『租税回避研究の展開と課題』(ミネルヴァ書房・2015年)1頁、5頁)と述べたことがあるが、そのような過程においてみられる、租税法律主義と実質主義との相克は、前記Ⅲでみたような実質主義と租税回避との相克とどのような関係にあると考えるべきであろうか。この問題は、突き詰めれば、租税法律主義と租税回避との関係をどのように捉えるべきかという問題であるといえよう。 租税法律主義と租税回避との関係は、単純な形式論理的思考によれば、実質主義を共通の「敵」とするもの同士の間における「敵の敵は味方」的な関係になりそうであるが、そうではなく、結論を先取りしていえば、相克(敵対性)と調和(同質性)を内包する関係として捉えるべきであると考えるところである。そのような関係の意味するところを、今後、租税回避を検討する中で、明らかにしていくことにしたい。 (了)

#No. 337(掲載号)
#谷口 勢津夫
2019/09/26

〈事例で学ぶ〉法人税申告書の書き方 【第42回】「特別償却の付表(15) 特定事業継続力強化設備等の特別償却の償却限度額の計算に関する付表」

〈事例で学ぶ〉 法人税申告書の書き方 【第42回】 「特別償却の付表(15) 特定事業継続力強化設備等の 特別償却の償却限度額の計算に関する付表」   公認会計士・税理士 菊地 康夫   Ⅰ はじめに 本連載では、法人税申告書のうち、税制改正により変更もしくは新たに追加となった様式、実務書籍への掲載頻度が低い様式等を中心に、簡素な事例をもとに記載例と書き方のポイントを解説していく。 今回は、近年の自然災害が頻発している状況下において、サプライチェーンや地域の雇用等を支える中小企業及び小規模事業者の事業継続力を強化し、防災・減災設備への投資を促す観点から、平成31年(令和元年)度の税制改正により導入されたいわゆる「中小企業防災・減災投資促進税制」における「特別償却の付表(15) 特定事業継続力強化設備等の特別償却の償却限度額の計算に関する付表」の記載の仕方を採り上げる。   Ⅱ 概要 この別表は、いわゆる中小企業防災・減災投資促進税制(特定事業継続力強化設備等の特別償却)を適用する場合に記載する。 本制度は、青色申告を提出する中小企業者(※1)が、改正中小企業等経営強化法(以下、「中小企業強靱化法」という)の施行の日(令和元年(2019年)7月16日)から令和3年(2021年)3月31日までの間に、中小企業強靭化法による経済産業大臣の認定を受けた「事業継続力強化計画」又は「連携事業継続力強化計画」(※2)に基づいて、一定の設備(以下「特定事業力強化設備等」という)を新規取得し事業の用に供したときは、その事業の用に供した日を含む事業年度において、取得価額の20%の特別償却ができる制度である。 (※1) 中小企業等経営強化法の中小企業者であって、租税特別措置法第42条の4第8項第6号の中小企業者その他これに準ずる法人に該当するものをいう。 (※2) 「事業継続力強化計画」は中小企業が単独で取り組む場合、「連携事業継続力強化計画」は複数の中小企業が連携して取り組む場合をいう。 本制度の対象となる特定事業力強化設備等をまとめると次のようになる。 なお制度の詳細については、中小企業庁のホームページを参考にしていただきたい。   Ⅲ 「特別償却の付表(15)」の書き方と留意点 (1) 設例 (2) 今回の付表が適用される事業年度 令和元年(2019年)7月16日以後終了する事業年度。 (3) 付表の記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (4) 付表の各記載欄の説明 「適用要件等」 「中小企業者又は中小連結法人の判定」 (了)

#No. 337(掲載号)
#菊地 康夫
2019/09/26

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例78(贈与税)】 「贈与税の期限内申告の提出を失念したため、「医療法人の持分の放棄があった場合の贈与税の課税の特例」の適用ができなくなってしまった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例78(贈与税)】   税理士 齋藤 和助       《基礎知識》 ◆医療法人の持分の放棄があった場合の贈与税の課税の特例(措法70の7の14) 認定医療法人(平成29年10月1日から令和2年(2020年)9月30日までの間に厚生労働大臣認定を受けた医療法人に限る)の持分を有する個人がその持分の全部又は一部の放棄(当該認定医療法人がその移行期限までに新医療法人への移行をする場合におけるその移行の基因となる放棄に限るものとし、その個人の遺言による放棄を除く)をしたことによりその認定医療法人が受けた経済的利益については、その認定医療法人に対し贈与税は課税されない。 なお、この特例は、認定医療法人が、その認定医療法人の持分を有する個人からその持分の全部又は一部を放棄することにより受けた経済的利益に係る贈与税の申告書を期限内に提出し、その申告書にその経済的利益についてこの特例の適用を受けようとする旨を記載し、一定の書類を添付した場合に限り適用される。     (了)

#No. 337(掲載号)
#齋藤 和助
2019/09/26

国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第33回】「不動産の売主による買主の非居住者の確認義務」

国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第33回】 「不動産の売主による買主の非居住者の確認義務」   税理士 菅野 真美   - 質 問 - 私は、個人から不動産を購入することになりました。売主は、契約書の住所は日本の住所になっていましたが、契約を交わす際に雑談で、「この不動産を売却して外国に移住する予定だ」と言ってました。ただ、契約の時には日本の住所なので、居住者からの購入と考えて、源泉税のことは考えなくてもいいですか。   ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ ▷非居住者が不動産を売却した場合の課税関係 非居住者の日本での課税範囲は、国内源泉所得に限定されている(所法5➁一)。国内不動産を売却した場合は、その所得は国内源泉所得に該当するから(所法161①五)、非居住者であっても譲渡所得を申告しなければならない(所法164①二)。 ただし、恒久的施設のない非居住者の場合、わざわざ来日して確定申告するのは難しいと考えられることから、売却時に買主が一定の額を源泉徴収して、確定申告で精算することになっている。 源泉徴収税率(所得税及び復興特別所得税)は対価の10.21%が原則であるが(所法213①二、復興財確法28)、例外として、譲渡対価が1億円以下で、買主が個人であり、かつ、その個人又はその親族の居住の用に供するためのものである場合、所得税等の源泉徴収は不要である(所法161①五、所令281の3)。非居住者か否かは、対価の支払時点で判断する(所法212①)。 このように不動産の売主が非居住者の場合、原則的には源泉徴収が必要となるため、買主にとっては、売主が非居住者か否かで大きな違いがある。もし、非居住者であるにもかかわらず、源泉徴収せず、将来、税務調査で、売主が非居住者と判明した場合は、買主は源泉徴収税額に不納付加算税等を加えて納付しなければならない。ただし、国内にいない売主からその税額分を取り戻すのは難しいため、不動産の譲渡においては、売主が非居住者か否かの確認が重要となる。 今回は、不動産売買契約の途中で記載住所が変わった売主への対価の支払いについて、源泉徴収をしなかった買主が、売主が非居住者であることは確認できなかったとして課税当局の対応は不当であると主張した裁決事案を紹介する(平成27年10月分源泉徴収に係る所得税等の納税告知処分並びに不納付加算税の賦課決定処分、TAINSコード:F0-1-981)。   ▷どのような事案だったのか? この事案における取引を時系列で表すと、次のようになる。 上記で登場するいくつかの書類について、売主の住所はそれぞれ次のように記載されていた。 争点は、売買代金の支払いについて、買主が源泉徴収義務を負うか否かである。   ▷請求人の主張 請求人(買主)には源泉徴収義務はなく、理由は以下の通りと主張した。 なぜなら、本人確認は、売買の際に宅地建物取引業者が、売主は国内に住所があることを確認しており、売買契約書や手付金の領収書にも国内住所が記載されていたからであり、非居住者の事実を示す書類の提出は義務付けられていないので、非居住者の判定は難しい。 売買契約の日から覚書の日までの間に出国したことは予想されるが、非居住者かどうかは、課税庁や売主の協力がないとできない。支払いの際に居住者であると判定できなかった場合まで、非居住者への支払いとして源泉徴収義務を負わせるのは適当ではない。   ▷課税庁の主張 課税庁は、請求人には源泉徴収義務があり、理由は以下の通りと主張した。 不動産売買のような高価な取引において、売主が非居住者かどうかは重要な問題であるから、買主は調査確認をするはずだ。 買主は、覚書を見れば国外の住所が記載されていたのだから、売主に住民票の提出を求めれば容易に非居住者であったことは分かったはずである。それを怠ったということは、買主がなすべき非居住者か否かの判定を行っていなかったということだ。   ▷審判所の判断は 審判所は、請求人(買主)には源泉徴収義務があると判断した。理由は以下の通りである。 請求人は、売主が非居住者か否かを判定するのは難しいと主張するが、覚書や登記簿にはオーストラリアの住所が記載されている。覚書作成時や代金支払い時に、売主に住所の確認をすることができたにもかかわらず、行っていない。非居住者か否かの判定を行っていないのは請求人自身の責任であるから、請求人の主張は認められず、10月の残代金等の支払いについて源泉徴収義務があると判断した。 最近、非居住者が購入した日本の不動産の賃貸や、所有する日本の不動産の売却に税理士が絡むケースが増えている。継続的に非居住者の場合は、契約当初から源泉徴収義務の有無が分かるからミスをすることがないが、契約の中途で居住者が非居住者になったような場合は、非居住者判定が難しい場合も多い。 源泉税漏れは負担が非常に大きくなることが多いので、本件のようなミスが生じないように細心の注意を払うよう心掛けなければならない。   (了)

#No. 337(掲載号)
#菅野 真美
2019/09/26

措置法40条(公益法人等へ財産を寄附した場合の譲渡所得の非課税措置)を理解するポイント 【第14回】「「法人運営が適正であること」とは」

措置法40条(公益法人等へ財産を寄附した場合の 譲渡所得の非課税措置)を理解するポイント 【第14回】 「「法人運営が適正であること」とは」   公認会計士・税理士・社会保険労務士 中村 友理香   - 質 問 - 現物寄附を行った際、取得価額と時価との差額についてのみなし譲渡課税が非課税となるための条件として、現物寄附を受領する公益法人等への寄附が「寄附者の所得税の負担を不当に減少させ、又は寄附者の親族その他これらの者と特別の関係がある者の相続税もしくは贈与税の負担を不当に減少させる結果とならないと認められること」が課されています。 この「不当減少」に該当するか否かの判断基準の1つとして、公益法人等の運営が適正であること、という要件を満たす必要があるとされています。ここで言うところの「法人運営の適正」とは、具体的にどのようなことを指すのですか。   - 回 答 - その公益法人等の運営組織が適正であるかどうかは、 ① 運営組織の適正性が定款等の規定内容により担保されていること ② 事業運営や役員選任が適正に行われていること ③ 法人の経理が適正に行われていること 以上の3点をもって判断されます。 ①の定款等の規定内容については、措置法40条通達18において詳細に解説されており、法人の態様に応じ各事項が定められていることが必要とされています。 ○●○◆ 解 説 ◆○●○ みなし譲渡課税が非課税となるための条件として、当該寄附を受けた法人の運営組織が適正であるとともに、その寄附行為、定款又は規則において、その理事、監事、評議員その他これらの者に準ずるもの(以下「役員等」という)のうち親族関係を有する者及びこれらと特殊の関係がある者(以下「親族等」という)の数がそれぞれの役員等の数のうちに占める割合は、いずれも3分の1以下とする旨の定めがあることが必要とされています。 運営組織が適正か否かについては、財産の贈与又は遺贈を受けた公益法人等について、次に掲げる事実が認められるかどうかにより判断されます(措置法40条通達18)。 (1)に掲げる「一定の事項」とは、それぞれ次の事項を言います。 (※) 表形式のものは[こちら]からご覧ください。   (了)

#No. 337(掲載号)
#中村 友理香
2019/09/26

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第90回】すてきナイスグループ株式会社「第三者調査委員会調査報告書(2019年7月24日付)」 

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第90回】 すてきナイスグループ株式会社 「第三者調査委員会調査報告書(2019年7月24日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【第三者委員会の概要】   【すてきナイスグループ株式会社の概要】 すてきナイスグループ株式会社(以下「すてきナイス」と略称する)は、1950年6月設立。設立時の社名は市売木材。数次の商号変更を経て、2000年10月よりナイス株式会社。2007年10月、持株会社体制に移行し、商号をすてきナイスグループ株式会社に変更して、現在に至る。建築資材の販売、住宅・マンションの販売、仲介、賃貸、建築工事業などを事業領域とする。連結子会社47社を含むグループ会社は92社。売上高242,926百万円、経常利益762百万円、資本金22,069百万円。従業員数2,654名(いずれも2019年3月期、連結ベース)。本店所在地は神奈川県横浜市。東京証券取引所第1部上場。会計監査人は監査法人原会計事務所(以下「原会計事務所」と略称する)。 中核となる事業会社であるナイス株式会社(以下「ナイス」と略称する)は、売上高203,239百万円、経常利益490百万円。   【調査報告書の概要】 1 第三者委員会による調査結果 (1) 業績予想の下方修正 平成27年3月期第2四半期決算で、すてきナイスは、公表していた連結業績予想を大幅に下回る実績となり、経常損失約17億円を計上するに至った。そこで、平成26年10月31日、平成27年3月期決算の業績予想を下方修正する。下方修正された業績予想と、実績については、次表のとおりである。 〇平成27年3月期の業績予想の推移と実績(単位:百万円) ところが、実態はさらに業績悪化が進んでいた。決算期末直前におけるすてきナイスの業績見込みの推移を、調査報告書から引用する。 まず、経営陣が認識していたとされる業績見込みは以下のとおりである。 〇平成27年3月5日時点での見込み(単位:百万円) 次いで、経理部員の作成した決算見込みは以下のように推移する。 〇平成27年3月13日時点での見込み(単位:百万円) 〇平成27年3月24日時点での見込み(単位:百万円) ここで、調整として予定されていた決算対策は次のとおりである。 (※) 第三者委員会の定義によれば、「すてきナイスと直接又は間接の資本関係がないものの実質的にナイスグループが支配している会社」であり、本件では、平田元会長個人が大株主であり、ナイスグループ社員が取締役に就任していることなどが問題視された。 (2) グループ外支配会社に対する売上計上の詳細 第三者委員会設置の経緯となったのは、上記の決算対策のうち、グループ外支配会社2社に対する土地やマンションなどの販売が、売上として計上することが会計基準に違反していないかどうかということであった。2社との取引のうち、第三者委員会が売上計上を認めなかった不動産取引を図示すると以下のとおりとなる。 第三者委員会は、すてきナイスの元代表取締役会長兼CEOの平田恒一郎氏(5月20日付で取締役を辞任。以下「平田元会長」と略称する)が実質的に支配するザナック設計コンサルタント株式会社(以下「ザナック」と略称する)に対する、ナイス及びナイスエスト株式会社が販売した宅地やマンションなどの不動産販売取引については、「すてきナイスの平成27年3月期の決算対策として、経済的実体のない売上・利益の計上目的」で行われたものであったこと、ナイスが実質的に支配していることから子会社と認定されること、また、譲渡不動産の対価がナイス及びナイスコミュニティーサービス株式会社ほかの関係会社からの融資によって決済されていることから、「財貨の移転」がなされているとは言いがたいことなどを理由に、本件不動産の販売とそれに伴う仲介手数料の売上計上は認められないと判断した。 (3) 監査役による会計監査人への相談 第三者委員会によって売上計上が不適切であったと判断されたザナックとの取引については、当時、すてきナイス及びナイスの常勤監査役であった神長博志氏が、会計上の疑義があると感じて、平成27年4月に、すてきナイスの会計監査人である原会計事務所の公認会計士に報告・相談しているが、同公認会計士は、同年5月ころ、「ザナックが関係会社に当たると仮定しても、取引に会計上の問題はない」旨の説明を行ったということである。 これに対し、第三者委員会は、連結の範囲の検討や嫌疑の対象となった不動産販売取引に関する監査手続き及び判断について、すてきナイスの主張を批判的に検討すべきものと考えられる場面が存在し、より慎重な対応が求められたものと思料するとコメントしている(報告書p.169)。 (4) 原因分析 第三者委員会は、「直接的な原因」として、「動機」「機会」「正当化事由」という、「不正のトライアングル仮説」に基づく分析を行っている。その中で、経営者側の動機については平成27年3月期決算が最終的に赤字になることはもちろん、すでに下方修正された業績予想値について再度の下方修正を行わざるを得ない事態となることは、なんとしても回避したいとの強い意向があったと認定している。とくに、平田元会長については、自らが主導してきた住宅事業の業績悪化を懸念していたとも指摘している。 また、「背景事情(間接的な原因)」として、次の7項目を挙げている。 今回逮捕が報じられた創業家出身で大株主でもある平田元会長の強い影響力を原因のトップに挙げ、その結果として、再発防止策のトップには「経営陣の刷新」が提言されている。こうした原因分析は、嫌疑の対象となった不動産取引について、平田元会長が了解していたという事実に基因している。 また、「ガバナンス、内部統制の不全」の中では、すてきナイス及びナイスに共通する内部監査部門について、「一人又は二人が担当しているに過ぎなかった」うえ、ナイスの監査室は「社長直轄の組織ではなく、経営推進本部の管轄下にあり、経理部を含む経営推進本部に対して適正に牽制機能を果たすことが難しい組織となっていた」と指摘して、不適切な不動産販売取引が行われたことの間接的な原因としている。 なお、すてきナイスグループ全体の従業員数2,654名に対し、持株会社の従業員数は20名であり、有価証券報告書によれば、「総務及び財務等の管理部門」の人員であるということである(2019年3月期有価証券報告書p.8)。 2 再発防止に向けた提言 上記の原因分析を受けた第三者委員会による再発防止策の提言は次のとおりである。   【調査報告書の特徴】 2019(令和元)年7月25日、すてきナイスは、同社の平田元会長、元代表取締役社長日暮清氏(5月20日付で取締役を辞任、以下「日暮元社長」と略称する)、元取締役大野弘氏(5月30日付で取締役を辞任、以下「大野元取締役」と略称する)の3名が、金融商品取引法違反(有価証券報告書虚偽記載)で、横浜地方検察庁に逮捕されたというリリースを公表した。逮捕との因果関係は不明であるが、すてきナイスは、その前日、第三者委員会による調査報告書を受領して、公表していた。 調査報告書によって判明したのは、再度の業績下方修正公表を回避するための決算対策の数々であった。 1 すてきナイスにおける連結会社の範囲 調査報告書では、すてきナイスが、本来連結すべき子会社について、「住宅事業における地方進出のためのテストマーケティング目的」で設立したとして、質的に重要性が低いとの解釈から、連結の範囲に含めていなかったことが明らかにされている。 平成27年3月期以降、すてきナイスと原会計事務所は、決算期ごとに量的重要性の判定を行う中で、すてきナイスは、原会計事務所の提言に従って、子会社の解散、連結会社への吸収合併を進めるとともに、多くの非連結子会社を連結の範囲に取り入れている。 第三者委員会の試算によると、非連結子会社の合算値ベースの剰余金(持分相当)は、平成26年3月期以降一貫してマイナスとなっており、第三者委員会は、「量的重要性がないとまでは言えない水準である」ことから、すてきナイスが、連結の範囲に関する会計基準及び実務上の判断基準を遵守していたとは言えないと結論づけている。 なお、原会計事務所は、昭和37年の東証2部上場時からすてきナイスの会計監査を担当しているということであり、こうした長い受任期間が原因で、「馴れ合いや緊張感の欠如によって監査上の判断が甘くなる」ことが原因の1つとして指摘されるようであれば、現在、議論が進められている「会計監査人のローテーション制度」の導入に一石を投じるものとなるかもしれない。 2 すてきナイスとナイスにおける内部監査部門 すてきナイスの2019年3月期有価証券報告書には、内部監査について次のような記述が見られる(p.33)。 この記述は、本件嫌疑の発生した平成27年3月期まで遡ってもまったく同一であることが確認できる。その実態について、第三者委員会は、次のように説明している(調査報告書p.24)。 そして、中核事業会社であるナイスの内部監査体制について、以下のとおり説明している(調査報告書p.25)。 3 持株会社による事業会社の統制 上述のように、すてきナイスグループは、持株会社の内部監査部門が事業会社と兼務であり、先任者は不在という状況であった。事業会社に内部監査部門を置き、スリー・ライン・ディフェンスの機能を事業会社で完結させ、持株会社には内部監査機能を持たせないというのも1つの考えではあろうが、本来であれば、持株会社に内部監査機能を集約して、グループ全体の内部監査を横断的に行うことによって内部統制の強化を図るべきではないかと考える。 こうした組織論について、すてきナイスグループの第三者委員会は、調査報告書(p.166)において、持株会社化の目的を次のように述べている。 そのうえで、第三者委員会は、再発防止策の1つとして、「ガバナンス体制の根本的な改善・再構築」という項目の中で、「すてきナイス及びナイスの位置づけの再検討」を促している。 持株会社と事業会社が一体として機能、運営していたのでは、持株会社が事業会社の事業遂行について適切に監視監督を行うことはできないという、第三者委員会の提言であろうと思料する。 4 すてきナイスグループによる再発防止策 8月23日、すてきナイスは、「第三者委員会調査報告書の受領に伴う再発防止策のお知らせ」というリリースを出し、下記のとおり、広範な再発防止策の骨子を公表した。 添附された組織図によると、従前、すてきナイスに所属していた社員20名のうち12名が兼務であったところ、再発防止策の1つである「組織改革によるガバナンス強化」の中で掲げられた「内部監査機能の強化」「経理部門・法務部門・人事部門の機能強化」などを実施するため、監査役室の設置や、内部統制室の人員増強(1名⇒5名)、グループ経営推進本部の中に財務部、経理部(各1名から各10名に人員も増強)などを独立の組織として配置することなどとともに、すてきナイスの社員を60名まで増やすことが明示されている。 こうした組織の強化、人員の増強は、「すてきナイスが持株会社として、ナイスその他の事業会社の事業遂行の監督等を適切に行い得るように」すべきであるという第三者委員会の提言に沿ったものとして評価できる。 5 証券取引等監視委員会よる告発と起訴 8月13日、証券取引等監視委員会は、「すてきナイスグループ株式会社に係る虚偽有価証券報告書提出事件の告発について」というリリースを出した。「告発の対象となった犯則事実」の一部を引用する(下線は筆者による)。 文中、犯則嫌疑法人とは「すてきナイス」、犯則嫌疑者Aが平田元会長、Bが日暮元社長、Cが大野元取締役をそれぞれ意味している。 翌14日には、すてきナイスは、法人としてのすてきナイス、平田元会長及び日暮元社長の2名が、金融商品取引法違反(虚偽有価証券報告書提出罪)の嫌疑で横浜地方検察庁に起訴されたことを公表した。その後の9月13日付日本経済新聞電子版によれば、大野元取締役は不起訴処分になったが、その理由を検察は明らかにしていないということである。 (了)

#No. 337(掲載号)
#米澤 勝
2019/09/26

企業結合会計を学ぶ 【第26回】「①親会社が子会社に事業譲渡により事業を移転する場合の会計処理と②親会社が子会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理」

企業結合会計を学ぶ 【第26回】 「①親会社が子会社に事業譲渡により事業を移転する場合の会計処理と ②親会社が子会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 今回は、共通支配下の取引等の会計処理のうち、次の2つを解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 親会社が子会社に事業譲渡により事業を移転する場合の会計処理 1 個別財務諸表上の会計処理 親会社が子会社に事業譲渡により事業を移転する場合(事業譲渡の対価が現金等の財産のみの場合)、個別財務諸表上、次のように会計処理する(結合分離適用指針223項、224項)。 ◎親会社(事業譲渡会社) 事業譲渡会社である親会社は、事業分離等会計基準14項により、子会社から受け取った現金等の財産(結合分離適用指針95項)を移転前に付された適正な帳簿価額により計上し、当該価額と移転事業に係る株主資本相当額(結合分離適用指針87項(1)①)との差額は、原則として、移転損益として認識する。 上記の取扱いは、移転事業に係る株主資本相当額がマイナスとなる場合も同様である。 当該企業結合(事業分離)に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として会計処理する。 ◎子会社(事業譲受会社) 【資産及び負債の会計処理】 子会社が親会社から受け入れる資産及び負債は、企業結合会計基準41項により、親会社における移転した事業に係る資産及び負債の移転直前の適正な帳簿価額により計上する。 移転事業に係る株主資本相当額と交付した現金等の財産の適正な帳簿価額との差額は、のれん(又は負ののれん)として処理する。 のれん(又は負ののれん)は、結合分離適用指針72項及び76項並びに78項及び資本連結実務指針40項に準じて会計処理する(結合分離適用指針448項)。 移転事業に係る株主資本相当額がマイナスとなる場合も、同様に処理する。 【増加すべき株主資本の会計処理】 株式を交付していないため、株主資本の額は増加しない。 移転事業に係る評価・換算差額等(結合分離適用指針87項(1)②)は、対価が現金等の財産のみの場合においても、引き継ぐ。 【企業結合(事業譲受)に要した支出額の会計処理】 企業結合(事業譲受)に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として会計処理する。 2 連結財務諸表上の会計処理 親会社の個別財務諸表上認識された移転損益は、親会社の連結財務諸表上、連結会計基準における未実現損益の消去に準じて処理する(結合分離適用指針225項)。   Ⅲ 親会社が子会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理 1 個別財務諸表上の会計処理 親会社が子会社に会社分割により事業を移転する場合(会社分割の対価が子会社株式のみの場合)、個別財務諸表上、次のように会計処理する(結合分離適用指針226項、227項、444項、445項)。 ◎親会社(吸収分割会社) 親会社が会社分割により追加取得する子会社株式の取得原価は、企業結合会計基準43項及び事業分離等会計基準19項(1)により、移転事業に係る株主資本相当額(結合分離適用指針87項(1)①)に基づいて算定し、当該会社分割により移転損益は生じない。 子会社株式の取得原価の算定にあたっては、移転事業に係る株主資本相当額から移転事業に係る繰延税金資産及び繰延税金負債を控除する(結合分離適用指針108項(2))。 移転事業に係る株主資本相当額がマイナスの場合には、まず、事業分離前から保有している子会社株式の帳簿価額を充て、これを超えることとなったマイナスの金額を「組織再編により生じた株式の特別勘定」等、適切な科目をもって負債に計上する。 【企業結合(会社分割)に要した支出額の会計処理】 当該企業結合(会社分割)に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として会計処理する。 ◎子会社(吸収分割承継会社) 【資産及び負債の会計処理】 子会社が親会社から受け入れる資産及び負債は、企業結合会計基準41項により、分割期日の前日に付された適正な帳簿価額により計上する。 【増加すべき株主資本の会計処理】 移転事業に係る評価・換算差額等(結合分離適用指針87項(1)②)を引き継ぐとともに、移転事業に係る株主資本相当額は、払込資本(資本金又は資本剰余金)として処理する。 増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づき決定する(結合分離適用指針409項)。 移転事業に係る株主資本相当額がマイナスとなる場合には、払込資本をゼロとし、その他利益剰余金のマイナスとして処理する。 【企業結合(会社分割)に要した支出額の会計処理】 企業結合(会社分割)に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として会計処理する。 2 子会社が親会社から受け入れる資産及び負債の修正処理 子会社(吸収分割承継会社)が親会社(吸収分割会社)から会社分割により事業を受け入れる場合には、子会社が親会社を吸収合併する場合の子会社が親会社から受け入れる資産及び負債の修正処理(結合分離適用指針211項)に準じて処理する(結合分離適用指針228項)。 3 連結財務諸表上の会計処理 次のように会計処理する(結合分離適用指針229項)。 (1) 内部取引の消去 事業の移転取引及び子会社の増資に関する取引は、企業結合会計基準44項により、内部取引として消去する。 (2) 親会社の持分変動による差額の計上 親会社は、事業分離等会計基準19項(2)により、会社分割により追加取得した子会社に係る親会社の持分の増加額(追加取得持分)と移転した事業に係る親会社の持分の減少額との差額を、資本剰余金に計上する。 (了)

#No. 337(掲載号)
#阿部 光成
2019/09/26

今から学ぶ[改正民法(債権法)]Q&A 【第9回】「定型約款(その2)」

今から学ぶ [改正民法(債権法)]Q&A 【第9回】 「定型約款(その2)」   堂島法律事務所 弁護士 奥津  周 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎   【Q】 前回の解説で、自社の使っている約款が「定型約款」に当たることがわかりました。 定型約款は、事後的に条項を変更する必要性が生じることがありますが、そのような場合の定型約款の取扱いについて教えてください。 【A】 改正法では定型約款の変更についての規定が設けられた。 そのため、変更の必要性が生じた場合には、当該規定に基づいて定型約款を変更することができる。   1 約款の変更の論点 約款は、法律の改正や取引上の問題が生じた場合、それに対応するために事後的に変更が必要となる場合がある。 契約の原則からすると、契約内容を一方的に変更することはできず、契約内容を変更するのであれば、契約の相手方の個別の同意を得る必要がある。約款も契約の内容を画するものであるから、約款の内容を変更するのであれば、契約の相手方の同意を得ることが必要である。 もっとも、多数の顧客に対して、約款を用いた契約をしたうえで、継続的なサービスの提供をしていたり、会員登録をした多数の会員との間で会員規約に基づいて継続的な取引をしている場合、大量に存在する取引先や会員との間で、個別に変更の合意書を締結して約款の変更を行うことは事実上困難である。 そこで、約款を用いた継続的な取引等を行う多くの企業では、下記のような条項を約款に盛り込んでいる。 【記載例:約款の変更をする場合がある旨の条項】 世間一般で用いられる約款には、このような条項が盛り込まれているケースが多いようである。そのため、このような条項のみをもって、約款を用意した事業者側が一方的に約款の内容を変更することが、法的にも許容されていると理解している読者も多いと考えられる。 しかし、許容されるか否かについて実際には議論が分かれるところであったし、あらゆる約款の内容の変更が、上記条項のみで可能となることはない。約款の変更は契約内容の変更にほかならず、契約は合意のみによって成立するのに、相手方が内容を知らず、了解もしていないのに、一方的に契約内容を変更できるというのでは、「契約は合意によって成立する」という原則に反するからである。 改正法では、こうした問題に対応するため定型約款の変更についての規定を設けている。   2 定型約款の変更方法 (1) 定型約款の変更が認められる場合 改正法では、定型約款の変更の内容が以下のいずれかに当たる場合に、定型約款準備者(事業者)により一方的に定型約款を変更することを認めることとした(改正法548条の4第1項)。 又は ①は、定型約款準備者の相手方にとって利益しかない変更であれば、一方的に契約内容が変更されても相手方に不利益はないために認められるものであり、これは理解しやすい。 ②は、(ⅰ)定型約款の変更が契約をした目的に反しないことを前提としたうえで、(ⅱ)変更の必要性等諸々の事情を考慮し、「合理的」といえる場合に、一方的な変更が可能となる。 ②は、具体的にどのような場合にこれが肯定されるのかは、改正法の条文のみからでは明らかとはいえないし、何らかの具体的な基準があるわけではない。少なくとも、定型約款準備者である事業者の立場からみれば、自己の都合の良いように一方的に変更することは認められないということは、まず理解する必要がある。 なお、上記の【記載例:約款の変更をする場合がある旨の条項】は、②の要件の一要素にすぎないため、当該条項があることのみをもって変更が許されるわけではない。また、条文上、「定型約款の変更をすることがある旨の定めの(中略)内容」も合理性判断の考慮要素になることから、単に上記の【記載例】のように、「一方的に変更できる」といった定め方は適切ではなく、どのような場合に、どのような手続をとって変更することができるのかを具体的に定めておくことが重要である。 (2) インターネット等による周知 事業者としては、変更する定型約款の内容が、上記(1)の①又は②のいずれかに該当すると判断した場合には、効力発生時期を定めて、定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期をインターネット等を通じて周知しなければならない(改正法548条の4第2項)。 周知の方法としては、インターネットにおいて情報提供するほか、取引の態様によりメールや手紙といった方法も考えられる。また、上記(1)の②に該当する場合で、効力発生日までに周知をしない場合には、変更の効力は生じない(改正法548条の4第3項)。 情報化社会において定型約款は、今後ますます利用されていくことが考えられる。事業者としては改正法の内容を理解し、自社の定型約款の取扱いを検証していく必要がある。 (了)

#No. 337(掲載号)
#奥津 周、北詰 健太郎
2019/09/26

M&Aに必要なデューデリジェンスの基本と実務 「むすびに代えて」~「財務・税務と法務との対話と協働」再び~(前編:弁護士はなぜ『計算書類の適正』を表明保証させるのか?)

M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務   弁護士法人ほくと総合法律事務所 パートナー 弁護士 石毛 和夫   ◆むすびに代えて◆ ~「財務・税務と法務との対話と協働」再び~ 【前編】 「弁護士はなぜ『計算書類の適正』を表明保証させるのか?」   長きにわたった本連載も、今回からいよいよ最終コーナーに入る。 本連載ではこれまで、「財務・税務デューデリジェンス編」と「法務デューデリジェンス編」とを姉妹編として、両者の協働の重要性、そして両者を繋ぐものとしての依頼者=当事者との協働の重要性をたびたび強調してきた。 そこで本連載の最終テーマとして、こうした協働が、「買収契約書」という1つの「締めくくり」の場面でどう機能するのか、いささか風変わりな趣向ではあるが、「会社担当者と専門家たちとの架空の対話」という形で紹介したいと思う。 *  *  * (※) 「表明保証条項」については、法務編【第8回】を参照。 (つづく)

#No. 337(掲載号)
#石毛 和夫
2019/09/26

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例39】アスクル株式会社「ヤフー株式会社からの社長退陣要求と、アスクルからの提携解消協議申入れのお知らせ」(2019.7.17)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例39】 アスクル株式会社 「ヤフー株式会社からの社長退陣要求と、 アスクルからの提携解消協議申入れのお知らせ」 (2019.7.17)   事業創造大学院大学准教授/公認会計士 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる適時開示は、アスクル株式会社(以下、「アスクル」という)が2019年7月17日に開示した「ヤフー株式会社からの社長退陣要求と、アスクルからの提携解消協議申入れのお知らせ」である。 アスクルの議決権を45%有するヤフー株式会社(以下、「ヤフー」という)が、8月のアスクルの定時株主総会において、アスクルの岩田彰一郎代表取締役社長(以下、「岩田氏」という)の取締役再任に反対の議決権を行使するというので、アスクルは、ヤフーに対して、ヤフーとの業務・資本提携契約の解消を申し入れることにした、という内容である。 本件に関するマスコミの報道は、どちらかというと、「強引なヤフーに対して、可哀想なアスクル」といった感じで、ヤフーが悪者であるかのような論調が多かったように思われる。しかし、そうした捉え方は正しいのだろうか。   2 何か問題があるのか? アスクルは、今回の開示において、ヤフーが岩田氏の取締役再任に反対の議決権を行使することについて、「ガバナンスプロセスを逸脱する行為」であるとして、次のように記載している。 このアスクルの主張は、「取締役を誰にするかは、指名・報酬委員会が決めるから、株主であっても、それに口出しをするな」というものであり、ガバナンスを理解していない主張であると言わざるを得ない。 取締役を選任するのは株主総会である。ヤフーは、2019年7月18日に開示した「アスクル株式会社の本日(2019年7月18日)開催の記者会見について」において、「アスクルの数年に渡る業績低迷の早期回復に向けて、株主権の行使を考えています」と記載しているように、正当に株主権を行使しているだけであり、「ガバナンスプロセスを逸脱する行為」などではないはずである。   3 独立役員が「独立」していないとしたら? その後、ヤフーは、2019年7月24日に「アスクル株式会社の第56回定時株主総会における取締役選任議案(第2号議案)に対する、当社の議決権行使のお知らせ」を開示した。その本文は次のとおりである。岩田氏だけでなく、独立社外取締役3名の取締役再任にも反対の議決権を行使したのである。 これに対して、アスクルは、2019年7月28日に「アスクル株式会社独立役員会による『ヤフーによるアスクルの企業統治を蹂躙した議決権行使を深く憂慮する声明』提出について」を開示したのだが、それに添付された「ヤフーによるアスクルの企業統治を蹂躙した議決権行使を深く憂慮する声明」には、次のような記載がある。 確かに独立社外取締役には、支配株主の利益が優先され、少数株主の利益が犠牲にされるような経営が行われないように監督するという役割が期待されていると思われる。しかし、もしも独立社外取締役が、そうした役割を果たしていない場合、どうしたらいいのだろうか。例えば、業績が低迷し、その責任があるにもかかわらず、退任しようとしない経営者を支持し、少数株主を含めた全ての株主の利益を損なうような判断をしている、形式的には独立しているが、実質的には独立していない社外取締役がいた場合、株主はどうすべきなのだろうか。 ヤフーの開示を見る限り、同社は、株主として普通の判断を行っているだけである。ヤフーにとっては、アスクルの独立社外取締役が「独立」しているようには見えなかったのだ。それに対して、アスクル独立役員会の主張は、これまた「独立社外取締役は神聖な存在であり、株主であろうと、誰も辞めさせることはできない」と言っているようなものである。   4 親子上場の問題か? 本件については、親子上場の弊害が露呈したものだとする見解がある。例えば、2019年8月5日付の日本経済新聞朝刊の社説は、「看過できなくなってきた親子上場の弊害」と題して、本件を論じている。しかし、果たしてそうなのだろうか。 親子上場の弊害とは、親会社が自社の利益を優先し、子会社の利益を犠牲にするため、子会社の少数株主の利益が損なわれてしまうことである。本件の場合、ヤフーは、アスクルの利益を犠牲にして、アスクルの少数株主の利益を損なっているだろうか。開示を見る限り、そう捉えるのは困難であるかと思われる。 なお、ヤフーは、新しい代表取締役社長はアスクル側で選んでもらい、自社から派遣するつもりはないとしているし(2019年7月18日開示)、新しい独立社外取締役の選任についても、アクスルにおける指名プロセスの独立性を前提としながら、最大限協力するとしている(2019年7月29日開示「アスクルの第56回定時株主総会における取締役選任議案(第2号議案)の議決権行使について」)。また、本稿では触れなかったLOHACO事業の譲渡についても、今後も申し入れる方針はないとしている(2019年7月18日開示)。   5 そもそも株式会社とは ヤフーは、2019年7月31日に開示した「アスクルにおける第56回定時株主総会および『ヤフー株式会社に対する当社株式の売渡請求の件』を目的とする取締役会について」において、「株主総会が、株式会社における最高の意思決定機関である」として、次のように記載している。 株式会社における最終的な意思決定権者は株主であり、株主が複数いる場合は多数派の意見が採用されるというのが、株式会社の基本原則である。親子上場でなくても、本件と同様の事態は生じうるし(例えば、複数の株主が結託して、彼らの意見が多数派となれば、その意見が通る)、独立社外取締役が適任か否かは、最終的には株主総会で判断せざるを得ない。 そうした基本原則を受け入れられないのならば、少なくとも上場会社の経営に関わるべきではない。アスクルの主張は、株主に対して「金は出しても口を出すな」と言っているのと等しい。 (了)

#No. 337(掲載号)
#鈴木 広樹
2019/09/26
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