《速報解説》 会計士協会、「監査報告書に係るQ&A」を改正 ~新規上場時の有価証券届出書に係るKAMの適用範囲を明確化~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020年5月14日付で(ホームページ掲載日は2020年5月22日)、日本公認会計士協会は、「監査報告書に係るQ&A」(監査基準委員会研究報告第6号)の改正を公表した。 これは、新規上場の際に提出される有価証券届出書に関する、監査上の主要な検討事項(KAM)の適用範囲に関する取扱いを明確にするためのものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 新規上場時の有価証券届出書に係る監査におけるKAMの記載の要否(任意適用する場合を除く)について、3つのパターンごとに図解されている(25ページ)。 KAMの記載は、2020年3月期では早期適用となり、2021年3月期では強制適用となる。 25ページの図解では、2022年3月期を申請期とするケース(パターン1)、2023年3月期を申請期とするケース(パターン2とパターン3)が記載されているので参照されたい。 KAMの記載の要否は、監査証明府令3条4項の規定に基づいて決定するので、図解のどのパターンに該当するのかについて注意が必要である。 (了)
《速報解説》 金融庁、「新型コロナウイルス感染症の影響に関する企業情報の開示について」を公表 ~財務情報における追加情報の開示について強く期待される事項等を示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020(令和2)年5月21日に、金融庁は、「新型コロナウイルス感染症の影響に関する企業情報の開示について」を公表した。 また、令和2年3月27日に公表した「有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項及び有価証券報告書レビューの実施について(令和2年度)」を更新している。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 新型コロナウイルス感染症の影響に関する企業情報の開示 1 財務情報における追加情報の開示 企業会計基準委員会の議事概要「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方」(2020年4月10日公表、5月11日追補)を受けて、財務情報である追加情報において、会計上の見積りに用いた仮定をより具体的に開示することが強く期待されている。 2 非財務情報(記述情報)の開示 非財務情報(記述情報)では、2020年3月期決算から適用される「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(平成31年1月31 日、内閣府令第3号)おいて、連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについて、「当該見積り及び当該仮定の不確実性の内容やその変動により経営成績等に生じる影響」などを開示することが求められている。ただし、この内容を財務情報である追加情報において開示した場合には、非財務情報の開示ではその旨を記載することによって省略することができる。 「会計上の見積り」以外では、非財務情報において、今般の新型コロナウイルス感染症の影響について、「事業等のリスク」における感染症の影響や対応策、「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A)」における業績や資金繰りへの影響分析、経営戦略を変更する場合にはその内容等の充実した開示を行うことが強く期待されている。 Ⅲ 有価証券報告書レビューによる対応 「令和2年度 有価証券報告書レビューの実施について」の「別紙2」が更新されており、次のように記載されている。 (了)
《速報解説》 新型コロナウイルス感染症に関し使用者から支給された非課税所得となる見舞金の範囲について、国税庁が個別通達を公表 ~感染可能性の程度等にかかわらず一律支給したものは範囲外~ Profession Journal編集部 国税庁は5月15日付けで下記の通達を公表、新型コロナウイルス感染症に関連して使用者から使用人へ支給された見舞金のうち非課税所得とされるものの範囲を明らかにした。 通達では、新型コロナウイルス感染症に関連して使用人等(役員又は使用人)が使用者から支給を受ける見舞金のうち、次の①から③に掲げる要件のいずれも満たすものは、所得税法施行令第30条の規定により非課税所得に該当するとした。 〈非課税とされる見舞金の範囲〉 ここで上記①の「心身又は資産に加えられた損害につき支払を受けるもの」としては、(ⅰ)使用人等又はこれらの親族が新型コロナウイルス感染症に感染したため支払を受けるもののほか、(ⅱ)緊急事態宣言下で事業の継続を求められる使用者の使用人等で、多数の者との接触を余儀なくされる業務など新型コロナウイルス感染症に感染する可能性が高い業務に従事している者、及び、緊急事態宣言がされる前と比較して相当程度心身に負担がかかっていると認められる者が支払を受けるもの、(ⅲ)使用人等又はこれらの親族が新型コロナウイルス感染症に感染するなどしてその所有する資産を廃棄せざるを得なかった場合に支払を受けるものが例として示されている。 また、非課税とされる見舞金の額については、上記②のとおり「社会通念上相当」であるかどうかとされているが、次に掲げる事項を勘案して判断される。 なお、緊急事態宣言が解除されてから相当期間を経過して支給の決定がされたものについては、非課税所得とされる見舞金に該当しない場合があるとしており、また、以下のような見舞金は上記③の「役務の対価たる性質を有していない」ものには該当せず、非課税所得とはならない点に注意が必要だ。 (了)
2020年5月21日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.370を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第79回】 「株主総会の延期と法人税の確定申告期限」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 〇新型コロナウイルスによる企業の決算・申告実務への影響 新型コロナウイルス感染症の影響で、2020年3月期の決算では、企業や監査法人の在宅勤務等の感染防止策の徹底による決算及び監査の作業効率の低下、海外の子会社等からの決算情報の集約の遅れ等により、決算発表が45日内より遅れる上場企業が多数に上っている(5月13日現在で582社)。 内国法人は、事業年度終了の日の翌日から2月以内に(提出期限の延長は可能)、確定した決算に基づいて確定申告書を提出しなければならないことから、決算・監査の遅れが、申告・納税の実務へ影響することが懸念される。 〇株主総会前の申告書の提出 会社法上、計算書類については「定時株主総会の承認」を受けるのが原則であるが、会計監査人設置会社においては、計算書類が法令・定款に従い会社の財産・損益の状況を正しく表示しているものとして次の①~④の要件に該当する場合には、取締役会の承認を受けた計算書類については、取締役がその内容を報告すれば足り、総会の承認を求めることは要しない。 したがって、会計監査人設置会社における計算書類の確定は、上記①~④の要件に該当することを前提に、取締役会の承認によりなされるものと解されており、株主総会の開催を待たず確定申告を行うことは可能である。 〇申告期限の延長 しかし、会計監査人設置会社であっても計算書類の確定が申告期限の後となる場合や、計算書類の確定のため株主総会の承認が必要であり株主総会の期日が申告期限よりも後となる会社においては、確定申告書の提出期限の延長の申請をする必要がある。 確定申告書の提出期限の個別の延長を申請する場合、別途、申請書等を提出する必要はなく、申告書の余白に「新型コロナウイルスによる申告・納付期限延長申請」である旨を付記することとされている。また、e-Taxでの申告の場合には、電子申告及び申請・届出による添付書類の送付書の「電子申告及び申請・届出名」欄又は「添付書類名」欄に「新型コロナウイルスによる申告・納付期限延長申請」と入力し、各税目のe-Tax申告書と同時送信することとされている(国税庁「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」問2-2)。 個別延長の場合の、申告・納付ができないやむを得ない理由がやんだ日から2ヶ月以内の日を指定して申告・納付期限が延長されることになる。したがって、法人の申告書等を作成・提出することが可能となった時点で申告を行う必要があり、この場合、申告期限及び納付期限は原則として申告書等の提出日となる。 〇株主総会の開催の状況 なお、決算・監査の遅れに対応するため、株主総会の期日を延期する他、継続会を行うという方策も考えられるが、4月15日、「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会」の声明文が公表された。 声明文では、法令上、3月決算の会社が6月末にまでに定時株主総会を開催することが求められているわけではなく、日程を後ろ倒しにすること(延期)は可能であることを確認するとともに、当初予定していた期日に定時株主総会を開催する場合であっても計算書類・監査報告等をいわゆる「継続会」により行う場合の取扱いについての考え方を整理している。 4月24日には、梶山経済産業大臣が「企業においては、6月末に開催されることが予定されている株主総会につき、その延期や継続会の開催も含め、例年とは異なるスケジュールや方法とすることをご検討頂きたい。」と述べた。 さらに、4月28日には、金融庁・法務省・経済産業省の連名で「継続会(会社法317条)について」が公表され、取締役の選任、剰余金の配当の方法の説明や、当初の定時株主総会と継続会との間の期間の目安として「3ヶ月を超えないこと」が示された。 こうした政府の取組みを踏まえ、株主総会の延期を公表した会社(3月決算)は、東芝、スカパーJSATホールディングス、JDI、日本板硝子、オリンパス、日立製作所等21社(5月13日現在)となり、継続会の採用(3月決算)についてもNKKスイッチズ、アネスト岩田、パイオラックス、日本農薬、芦森工業の5社(5月13日現在)が公表するなど、今後の増加が予想される。信託協会が5月14日に公表した資料(「新型コロナウイルス感染症の影響による株主総会対応について」)では132社が継続会を採用する(検討中の企業を含む)こととしていることが判明している。 (了)
これからの国際税務 【第19回】 「令和2年度税制改正大綱における国際課税の焦点(その3)」 -子会社配当益金不算入を利用した租税計画への対応- 千葉商科大学大学院 客員教授 青山 慶二 1 はじめに (1) 外国子会社配当益金不算入制度導入が端緒 平成21年度税制改正で我が国が導入した外国子会社配当についての益金不算入制度は、事業に関係する国外所得を法人税の課税対象所得から除外する趣旨のものであり、それまでの間接外国税額控除制度の複雑さを解消するメリットに加え、グローバルスタンダードにも合致し、他国の多国籍企業との競争中立を保証する二重課税排除方式として評価され、実務に定着してきた。 しかし、一方では、その領域主義的割切りの課税権配分理念は、国境をまたぐ彼我の管轄の制度間で、課税の空白(二重非課税)を許すリスクのあることが従来より認識され、租税条約では、経済活動が行われる源泉地国が非課税とする場合には、居住地国は国外所得非課税を適用しないとする対応条項(OECDモデル条約23A条4項が規定する、いわゆる「subject to tax条項」)が既に用意されているほか、近年のBEPSプロジェクトでも、二重課税の除去方法に関し、多国間協定において対応策(BEPS措置防止条約5条2項)が追加されている。 (2) 租税回避スキームとの関係 配当支払いは、その前後において、それを生み出す株式自体の経済的価値を変化させうるものである。子会社配当益金不算入制度の基礎となる法人税制において、これら配当収益と配当を経た後の株式譲渡取引損益の計上方法の間に、公平な納税義務の算定を保障する方向での整合性が欠けている場合には、これも、二重非課税を生み出す一種の法制ミスマッチとなりうる。経験のあるアドバイザーは、この間隙ある租税計画の機会を逃さないであろう。 外国子会社配当益金不算入制度(別名、「資本参加免税制度」)の歴史の長い欧州諸国では、それらに対応する個別否認規定及び一般的否認規定が整備されてきた。我が国のように本制度の後発採用国では、法的手当てがされていない不当なスキームが発見されるたびごとに、対応策を整備しなければならない。 令和2年度税制改正における本件施策は、発覚したソフトバンクグループによるスキーム(2019年10月19日付日本経済新聞等報道)を契機に、制度設計がされたと報道されている。本稿では、その概要を紹介し、それについて若干のコメントを付記したい。 2 改正の概要 (1) 対象とされるスキーム 財務省の令和2年度税制改正パンフレットでは、「法人が外国子会社株式等を取得した後、子会社から配当を非課税で受け取るとともに、配当により時価が低下した子会社株式を譲渡すること等により、譲渡損失を創出させることが可能となっており、これが国際的な租税回避に利用される」との指摘が、改正の契機であると説明されている。 過去に子会社配当益金不算入を活用した類似のスキームとしては、IBM事件判決(東京高裁平成27年3月25日判決)で明らかになった「子会社による自己株式取得に伴うみなし配当を中間持株会社において益金不算入とし、併せてそれに伴う株式譲渡損失の計上及び当該損失の連結納税での活用」というスキームについては、平成22年度税制改正で穴埋め(自己株式取得が予定されている株式に係る配当金は益金算入とする)がされているが、スキーマ―はそのわずかな法の欠缺を突いており、訴訟でも、課税庁による同族会社の行為計算否認規定の適用による株式譲渡損の否認は認められず、納税者が勝訴した。 (2) 株式の譲渡損失の計上を制限する本件改正 本件改正のエッセンスは、法人が、一定の支配関係にある外国子会社から、一定の配当を受け取る場合、株式等の帳簿価額から、その配当額のうち益金不算入相当額を減額する(結果としてその分だけ譲渡損失の計上は減額)というものである。 3 本件改正に対するコメント 今回の改正では、配当益金不算入の取扱いを改めたIBM事件対応策と異なり、譲渡損失の発生を抑制する方向で改正が行われている。 IBMスキームでは、自己株式取得に伴い平成13年の商法改正により帳簿価額基準がなくなったために、まずみなし配当が発生し、その帰結として株式譲渡損失が発生するという関係にあったことに鑑みると、みなし配当の益金不算入を阻止する必要がまず認められた。 これに対して、本件スキームでは、配当は実物資産であり、それを前提に是正する必要上、株式の取得価額修正に着眼したものと考えられる。租税回避効果の実現は、株式譲渡の時点であり、この点からも制度設計は合理的である。また、デミニマス基準を設定して、一定の適用除外を設けたのも比例原則に即したものと考えられる。 ただし、本件もまた、個別否認規定で立法対応することになったことから、我が国における一般的否認規定(GAAR)待望論者にとっては物足りなさを感じられるかもしれない。 (了)
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第14回】 「業績悪化改定事由に該当するか否かの判断」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 業績悪化改定事由 定期同額給与が、役員の「お手盛り防止規定」として機能し、その要件充足により恣意性の排除が担保されているとして損金算入できる点は、【第11回】の通りである。この点、定時改定以外に、定期同額給与の要件を満たしながら改定が認められる事由の1つに、「業績悪化改定事由」がある。 これは、「経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由」に該当する改定であれば定期同額給与とされるものである(法令69①一ハ)。そのためには、経営状況が著しく悪化した場合等、やむを得ず役員給与を減額せざるを得ない客観的事情があることが必要となり、単なる資金繰りの悪化や目標値未達成等はこれに該当しないとされている(法基通9-2-13)。したがって、株主や債権者、取引先との関係に鑑みて、役員給与を減額しなければならない等の具体的かつ客観的事情が必要となる。 また、その時点で財務状態が悪化しているとはいえなくとも、「役員給与の減額などの経営改善策を講じなければ、客観的な状況から今後著しく悪化することが不可避」である場合には、業績悪化改定事由に該当すると示されている(※1)。その他、多額の損害賠償金の発生やリコール費用の支出が不可避である場合等も業績悪化改定事由に該当すると示されているが、あくまでも客観的事情が必要となるのは同様だ。 (※1) 国税庁「役員給与に関するQ&A(平成 24 年4月改訂版)」Q1-2。 総じて、業績悪化改定事由に該当するというためには、このような客観的な事情があった、翻せば単なる利益調整目的の減額改定ではないと説明できるようにしておくことが必要であるが、その適否は個別に判断されることとなる。 (2) FAQの公表 それでは、感染拡大している新型コロナウイルスにより資金繰りや財務数値が悪化したことを受け、定時改定以外に役員給与の減額を実施した場合の取扱いはどのようになるのだろうか。 この点、国税庁は「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応策と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」を公表しており、当該FAQは新型コロナウイルスの影響を受けたことによって役員給与の減額改定を行う法人に対する取扱いとして、2つのケースを例示している。 (※2) 当該FAQはこれまでに数回更新されているため、今後も更新される可能性がある。したがって、リンク先のFAQについては、常に更新の有無を確認していただきたい。 FAQによれば、 の2ケースが示されており、①は取引銀行や株主との関係からもやむを得ず役員給与を減額しなければならない状況にある場合は業績悪化改定事由に該当することを改めて確認し、②は役員給与の減額等といった経営改善策を講じなければ、客観的な状況から判断して、急激に財務状況が悪化する可能性が高く、今後の経営状況が著しく悪化することが不可避である場合として認められるため、業績悪化改定事由に該当すると示されている。 新型コロナウイルス感染拡大や緊急事態宣言の延長により、いわゆる「巣籠もり消費」を除く大部分の経済活動が停滞し、多くの業界でその需要が回復する見通しも立っていないと思われる。このような現状に鑑みると、当該FAQは、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて業績が悪化した場合は、多くの場合に業績悪化改定事由として認められる客観的事情に当たると示したともいえそうである(※3)。 (※3) なお、期中に支給額を元に戻した場合は増額改定に当たり、改定前の金額を超える部分の金額が損金不算入となる。税務通信2020年4月27日号2頁。 少なくとも、営業自粛要請を受けて時短営業や休業を行った法人は客観的事情があるといえる他、県外からの来店を制限したり、感染拡大を要因とする収入の著しい下落がある法人にも客観的事情があると考えて然るべきだろう。 実際の判断においては、当該FAQの内容や今後の見通し等を踏まえた判断が必要となることに加え、その時点の状況や判断過程等を説明可能にしておくことが肝要であることは変わりない。 (3) 業績悪化時における事前確定届出給与の取扱い 事前確定届出給与に関する届出書を提出していた場合において、業績悪化改定事由に該当するか否かの判断においても、上記FAQが参考となる。すなわち、臨時改定事由及び業績悪化改定事由の判断は、定期同額給与と事前確定届出給与において同様の取扱いとなるからである(法令69⑤二)。 FAQでは、事前確定届出給与に関して直接は触れられていないが、新型コロナウイルス感染拡大による業績悪化を受けて事前確定届出給与の金額を変更する場合についても、弾力的に対応される余地があるだろう。 もっとも、事前確定届出給与制度を活用していて問題となるのは、届出書記載額と支給額が異なった場合であり、その支給額の全てが損金不算入とされる。ここで、事前確定届出給与制度を活用している場合、全くの無支給とすれば所得計算上の弊害はないことはよく知られるところである。 この点、事前確定届出給与制度は役員にも従業員と同じタイミングで事実上の賞与を支給するという目的から活用されることが通常であることに鑑みると、業績悪化時には定期同額給与の減額改定を行うよりも先に事前確定届出給与支給額をゼロとすることを優先する法人が多いと思われる。 したがって、事前確定届出給与額の変更は、【第7回】で触れたような、極端に事前確定届出給与額を多く、そして極端に定期同額給与を低く設定している場合等に特に検討することとなるだろう。 (了)
相続税の実務問答 【第47回】 「相続開始から3年経過後に死亡退職金の支給が確定した場合」 税理士 梶野 研二 [答] 死亡退職金は、みなし相続財産として相続税の課税対象となりますが、死亡後3年を経過した後に支給が確定した死亡退職金の支給を受けた場合には、相続税の課税対象とはなりません。 ただし、死亡後3年を経過した後に確定した死亡退職金の支給を受けた場合には、その支給を受けた方の一時所得として、支給を受けた年分の所得税の申告が必要となります。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 みなし相続財産となる死亡退職金 被相続人の死亡により相続人又は相続人以外の者が被相続人に支給されるべきであった退職手当金、功労金その他これらに準ずる給与(以下、「死亡退職金」といいます)で、「被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したもの」の支給を受けた場合には、この死亡退職金は、この死亡退職金の支給を受けた者が相続又は遺贈により取得したものとみなして、相続税の課税対象とされます(相法3①二)。 この死亡退職金については、相続又は遺贈により取得する財産(本来の相続財産)ではありませんが、その経済的実質が本来の相続財産と同視すべきものであると考えられるため、課税の公平を図る観点から相続又は遺贈により取得したものと擬制することによって相続税の課税対象とされています。 死亡退職金のうち、みなし相続財産とされる「被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したもの」とは、被相続人に支給されるべきであった死亡退職金の額が被相続人の死亡後3年以内に確定したものをいい、実際に支給される時期が被相続人の死亡後3年以内であるかどうかを問わないものとされています。なお、支給されることが確定していても、その金額が確定しない場合には、「被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したもの」には該当しないものとされています(相基通3-30)。 2 死亡後3年経過後に支給が確定した死亡退職金に対する所得税課税 被相続人の退職給与などで、相続開始後に支給期の到来するもののうち、相続税の課税対象とされるものについては、所得税と相続税の二重課税を排除する観点から、所得税法第9条第1項第16号の規定により所得税は課税されないこととされています(所基通9-17)。そのため、被相続人の死亡により相続人や相続人以外の者が被相続人に支給されるべきであった死亡退職金の支給を受けた場合には、原則として所得税は課税されません。 しかしながら、被相続人の死亡後3年経過後に支給が確定したものについては、上記1のとおり相続税の課税対象とはなりませんので、所得税の非課税規定(所得税法第9条第1項第16号の規定)の適用はなく、その支給を受ける者の一時所得として所得税の課税対象とされます(所基通34-2)。 3 ご質問の場合 ご質問の場合、お父様がお亡くなりになった平成28年3月1日から3年を経過した後である令和2年5月に開催されるA社の定時株主総会において、お父様の死亡退職金の支給及びその金額が決議されるとのことです。 そうしますとこの死亡退職金は、「被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したもの」には該当しませんので、相続税の課税対象となるみなし相続財産とはならず、したがって、相続税の修正申告書を提出する必要はありません。 ただし、A社からお父様の死亡退職金の支給を受けた方は、その支給を受けた金額を一時所得の収入金額として、所得税の申告を行う必要があります。 (了)
収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第29回】 千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也 イ 法人税法22条の2第2項の「別段の定め」から22条4項を除いた趣旨及び「別段の定め」の具体例 『平成30年度 税制改正の解説』274頁は、法人税法22条の2第2項の「別段の定め」から同法22条4項を除いた趣旨及び「別段の定め」の具体例について、法人税法22条の2第1項と同様であると説明されている。よって、次の規定が2項の「別段の定め」の例となる(本連載第18回参照)。 既述のとおり、法人税法61条の2第1項は有価証券の譲渡損益の計上時期について、「その譲渡に係る契約をした日・・・の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入する」として、いわゆる約定日基準を定めている(本連載第25回参照)。このことに鑑みて、立案担当者は、法人税法61条の2について、収益の計上時期として引渡基準を定める22条の2第1項や近接日基準を定める2項の「別段の定め」であると解しているのであろう。 なお、法人税法22条は、別段の定めがあるものを除き、収益の額から原価・費用・損失の額を控除し、課税所得を算出するというグロス計算を求めているが、61条の2第1項は譲渡利益額を益金の額に算入し、譲渡損失額を損金の額に算入することを規定している。いわば、有価証券の譲渡損益に係る課税所得金額の計算について、法人税法22条2項又は3項を通じたグロス計算ではなく、ネット計算を求めている。課税所得の算出の仕方という点からすれば、法人税法61条の2第1項は22条2項や3項の「別段の定め」であるともいえよう。 ただし、上記の立案担当者のものとは異なる見解も示されている。すなわち、酒井克彦教授は、法人税法61条の2は22条2項の「別段の定め」であり、22条の2第1項や2項の「別段の定め」ではなく、法人税法22条の2第3項が2項の「別段の定め」に該当するという見解を示されている(酒井克彦『プログレッシブ税務会計論Ⅲ』255~257頁(中央経済社2019)参照)。法人税法22条の2各項が定める「別段の定め」の具体的範囲については、更なる議論の余地があろう。 ウ 法人税法22条の2第2項による収益計上に当たっては継続性が求められること 『平成30年度 税制改正の解説』は、法人税法22条の2第2項の近接日基準による収益計上に当たって、継続処理が要請されることを明らかにしている。また、その根拠は、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」が継続性の原則を含むことにあるとしている。 (※) 財務省『平成30年度 税制改正の解説』274頁 エ 割賦基準・延払基準による収益計上は別段の定めがない限り、認められないこと 『平成30年度 税制改正の解説』は、割賦基準・延払基準による収益計上は別段の定めがない限り、認められないことを明らかにしている。かかる説明は、これらの基準が「近接する日」に当たらないことを根拠としているようである。 (※) 財務省『平成30年度 税制改正の解説』274頁 例えば、企業会計原則注解6は、割賦販売について、割賦金の回収期限の到来の日又は入金の日をもって売上収益実現の日とすることも認めているが、かかる回収期限到来基準や回収基準は、基本的に資産の販売等に係る契約の効力が生ずる日その他の引渡日又は役務提供日に近接する日に該当しないため、法人税法22条の2第2項の適用要件を満たさないということであろう。 オ 法人税法22条の2第2項にいう「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」は法人税法第22条4項と同様の範囲であること 『平成30年度 税制改正の解説』275頁は、法人税法22条の2第2項にいう「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」は法人税法第22条4項と同様の範囲であり、大竹貿易事件の最高裁平成5年11月25日第一小法廷判決(民集47巻9号5278頁)を参照すべきであるとしている。 (了)
基礎から身につく組織再編税制 【第16回】 「適格合併、非適格合併を行った場合の被合併法人の株主の取扱い」 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 今回は、適格合併、非適格合併を行った場合の被合併法人の株主の取扱いについて解説します。 1 適格合併を行った場合の被合併法人の株主の取扱い (1) 旧株の譲渡損益 株主については、投資が継続していると認められる場合には、譲渡損益の計上を繰り延べることとされています(法法61の2②)。 「投資の継続」とは、株主が金銭等の交付(株式以外の交付)を受けていないことをいいます。 (2) みなし配当 利益積立金額が株主に交付されるときは、みなし配当を計上する必要があります(法法24)。 適格合併が行われた場合には、被合併法人の利益積立金額は合併法人に引き継がれ、被合併法人の株主に交付されないため、被合併法人の株主においてみなし配当を計上する必要はありません。 (3) 少数株主への金銭等交付 合併法人が被合併法人の発行済株式の3分の2以上を保有している場合には、少数株主に対して合併対価が金銭等で交付された場合も適格合併になることとされました。この場合の少数株主については、金銭等の交付を受けているため、旧株の譲渡損益が計上されますが、みなし配当は生じないこととされています(法法24①、61の2①)。 (4) 合併法人株式の取得価額 被合併法人の株主が対価として合併法人株式のみを交付された場合のその合併法人株式の取得価額は、被合併法人株式の帳簿価額に付随費用を加算した金額とされています(法令119①五)。 (5) 具体例 【具体例①(合併法人株式のみ交付)】 〔前提〕 〔被合併法人の株主の仕訳〕 【具体例②(現金のみ交付)】 〔前提〕 〔被合併法人の株主(少数株主)の仕訳〕 2 非適格合併があった場合の被合併法人の株主の取扱い (1) 旧株の譲渡損益 株主については、投資が継続していると認められる場合には、譲渡損益の計上を繰り延べることとされています(法法61の2②)。 「投資の継続」とは、株主が金銭等の交付(株式以外の交付)を受けていないことをいいます。 したがって、非適格合併の場合でも、被合併法人の株主が金銭等の交付を受けていないときは、旧株の譲渡損益は繰り延べられます。 (2) 完全支配関係がある法人間の非適格合併が行われた場合 完全支配関係がある法人間で非適格合併が行われた場合には、被合併法人の法人株主は旧株の譲渡損益を計上できず、譲渡損益相当額は被合併法人の株主の資本金等の額に加減算されます(法法61の2⑰、法令8①二十二)。 (3) みなし配当 非適格合併が行われた場合には、被合併法人の利益積立金額、資本金等の額は合併法人に引き継がれず、被合併法人の株主に交付されることとなるため、合併対価として交付された金銭等が払込資本を超える部分については、みなし配当として認識する必要があります(法法24①一)。 〇みなし配当の金額 交付を受けた金銭及び金銭以外の資産の価額の合計額から資本金等の額のうち交付基因株式に対応する部分の金額を控除した金額とされています。 (4) 譲渡損益及びみなし配当の認識時期 譲渡損益を最後事業年度の損益とするのは被合併法人のみで、被合併法人の株主は非適格合併に伴う譲渡損益やみなし配当を、原則通り、合併の日において計上します。 (5) 合併法人株式の取得価額 ① 株式以外に金銭等が交付される場合 合併対価として株式以外に金銭等が交付される場合の合併法人株式の取得価額は、取得時に通常取得に要する価額(時価)とされています(法令119①二十七)。 ② 株式のみ交付される場合 合併対価として株式のみが交付される場合の合併法人株式の取得価額は、被合併法人株式の帳簿価額にみなし配当相当額と付随費用を加算した金額とされています(法令119①五)。 (6) 具体例 【具体例①(合併法人株式+現金を交付)】 〔前提〕 〔被合併法人の株主の仕訳〕 【具体例②(株式のみ交付)】 〔前提〕 〔被合併法人の株主の仕訳〕 ◆適格合併、非適格合併を行った場合の被合併法人の株主の取扱いのポイント◆ 被合併法人株式の譲渡損益を認識するかどうかは、適格合併か非適格合併かに関わらず、投資の継続で判定します。 適格合併があった場合でも、合併法人が被合併法人の発行済株式の3分の2以上を保有しており、被合併法人の株主(少数株主)が金銭等の交付を受けるときは、旧株の譲渡損益を計上します。 非適格合併が行われた場合でも、合併法人株式のみが交付されるときには、被合併法人株式の譲渡損益は認識せず、合併法人株式の取得価額については合併時の時価とならないので留意が必要です。 (了)