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組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第60回】

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第60回】   公認会計士 佐藤 信祐   《第10章》 平成23年度から平成28年度までの税制改正 1 平成23年度税制改正 平成23年度税制改正では、平成22年度税制改正を修正する形で、グループ法人税制、組織再編税制の見直しを行っている。 具体的には、平成22年度税制改正では、100%子会社を清算した際には、子会社株式消却損を認識できない一方で、繰越欠損金の引継ぎを認めることとしたのに対し、子会社株式評価損の計上を認めてしまうと、繰越欠損金と評価損の二重控除が可能になってしまうため、平成23年度税制改正では、完全支配関係のある内国法人のうち、清算中のもの、解散をすることが見込まれているもの、適格合併を行うことが見込まれているものについては、それぞれ評価損の計上が認められないことになった(『平成23年版改正税法のすべて』275頁)。 そのほか、①解散の場合の期限切れ欠損金の損金算入において、マイナスの資本金等の額を含めることとした、②自己株式について、移転時価資産が移転簿価資産を下回っている場合等の特例において、含み益がない資産として取り扱うことが明確化された、③外国法人が行う現物出資について税制適格要件の見直しを行った、④グループ法人税制が適用される場合には、非適格株式交換・移転に該当する場合であっても、適格株式交換・移転と同様の計算方法により完全子法人株式の取得価額を計算することになった、という点が改正事項として挙げられる。   2 平成24年度税制改正 平成24年度税制改正では、法人税の実効税率の引下げのための財源として、大法人等に対して、繰越欠損金の控除限度額が縮減されたため、子会社を解散した場合において、当該子会社の繰越欠損金の一部が使用されずに、期限切れ欠損金が使用される場合が生じるようになった。 そのため、期限切れ欠損金として損金の額に算入した金額に相当する部分の金額について、残余財産の確定により親会社に引き継ぐ繰越欠損金から除外する旨の規定が設けられた。   3 平成25年度税制改正 平成25年度税制改正前は、合併法人と被合併法人との間に支配関係が生じた後に、支配関係のある別の法人から適格組織再編成等により被合併法人に引き継いだ資産について、その後の適格合併により合併法人に引き継いだとしても、支配関係発生日前に有していた資産でないことから、特定引継資産から除外されていた。 平成25年度税制改正では、このような2段階組織再編成を利用して、繰越欠損金の引継制限を逃れるような行為について一定の制約を設けるために、適格合併の日以前2年以内に行われた適格組織再編成等により移転を受けた資産のうち、一定の要件を満たすものについて、特定資産譲渡等損失相当額として、繰越欠損金の引継制限の対象として規制することになった。 ただし、これらの規定は、合併前2年以内期間内の適格組織再編成等が行われていなければ、適用されない規定である。そのため、実際にこの規定の適用を受けることは稀であると思われるため、本稿では、この規定についての解説は省略する。   4 平成26年度及び平成27年度税制改正 平成26年度及び平成27年度税制改正では、組織再編税制についての重要な改正はなかった。   5 平成28年度税制改正 平成28年度税制改正では、共同事業を行うための株式交換・移転における特定役員引継要件について、完全子法人の特定役員のいずれかが退任しないこととしていたのに対し、全てが退任しないことと改められた。これにより、1人でも残っていれば、特定役員引継要件を満たすこととされた。 この点につき、『平成28年度税制改正の解説』326頁では、 と解説されている。 なお、同書326頁では、「株式交換に伴って退任」という意味は、「株式交換と同時期に、ないし付随して特定役員が退任をするものかどうかで判定される」と説明されている。「伴って」という文言から、株式交換・移転と特定役員の退任との間に相当因果関係がある場合に限定されていると解される。 そのほか、平成28年度税制改正では、①国際課税原則の帰属主義への変更に伴う適格現物出資の範囲の見直し、②適格要件に係る所要の整備の明確化、③期中で適格株式交換・移転が行われた場合における完全子法人株式の取得価額について、前期末を基準にすることによる簡便化、といった改正が行われている。 *   *   * 次回では、第11章として、平成22年度から平成28年度までの間に公表された国税局及び税務専門家の見解について解説を行う予定である。 (了)

#No. 291(掲載号)
#佐藤 信祐
2018/10/25

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例67(消費税)】 「当初申告において合同会社の持分譲渡を誤って不課税売上として計算し、一括比例配分方式有利で申告したが、修正申告において非課税売上に修正したところ、課税売上割合が著しく減少し、個別対応方式が明らかに有利となった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例67(消費税)】   税理士 齋藤 和助     《基礎知識》 ◆原則課税における仕入税額控除額(消法30) 消費税の原則課税における仕入税額控除の計算は、課税売上高が5億円超又は課税売上割合が95%未満の場合には、全額控除は認められず、個別対応方式と一括比例配分方式のいずれかを選択しなければならない。 個別対応方式とは、その課税期間中の課税仕入れ等に係る消費税額の全てを、①課税売上げにのみ要するもの(「課税対応」)、②非課税売上げにのみ要するもの(「非課税対応」)、③課税売上げと非課税売上げに共通して要するもの(「共通対応」)に区分し、仕入控除税額を以下の算式により計算する。 ①に係る税額 + ③に係る税額 × 課税売上割合 一括比例配分方式は、個別対応方式のように課税仕入れ等に係る消費税額が区分されていない場合、又は区分されていてもこの方式を選択する場合に適用し、仕入控除税額を以下の算式により計算する。なお、一括比例配分方式を選択した場合には、2年間の継続適用要件がある。 課税仕入れ等に係る消費税額 × 課税売上割合 ◆課税売上割合(消法30、消令48) 課税売上割合の計算は以下の算式により計算する。 ◆非課税となる有価証券等の範囲と課税売上割合の関係(消法別表第一第2号、消令9①) 合同会社の持分譲渡は「有価証券の譲渡」に該当するため非課税売上である。なお、課税売上割合の計算においてはその全額を分母に含めて計算する。       (了)

#No. 291(掲載号)
#齋藤 和助
2018/10/25

〈事例で学ぶ〉法人税申告書の書き方 【第31回】「別表6(19) 特定の地域において雇用者の数が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」及び「別表6(19)付表 基準雇用者数等、給与等支給額及び比較給与等支給額の計算に関する明細書」〈その1〉

〈事例で学ぶ〉 法人税申告書の書き方 【第31回】 「別表6(19) 特定の地域において雇用者の数が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」及び「別表6(19)付表 基準雇用者数等、給与等支給額及び比較給与等支給額の計算に関する明細書」〈その1〉   公認会計士・税理士 菊地 康夫   Ⅰ はじめに 本連載では、法人税申告書のうち、税制改正により変更もしくは新たに追加となった様式、実務書籍への掲載頻度が低い様式等を中心に、簡素な事例をもとに記載例と書き方のポイントを解説していく。 第31回目以降は、平成29年度をもって終了する従来の雇用促進税制(地方拠点強化税制における雇用促進税制へ改組)、及び平成30年度の税制改正により見直しが行われたことによりその様式も改正された、地方拠点強化税制における雇用促進税制の別表をあらためて採り上げる(※)とともに、改正点を踏まえながらその適用パターンごとに分けて順次解説していく。 (※) 改正前の様式については【第10回】及び【第11回】を参照。   Ⅱ 概要 この別表は、青色申告書を提出する法人が租税特別措置法第42条の12第1項ないし第2項(特定の地域において雇用者の数が増加した場合の法人税額の特別控除)又は平成30年改正前の措置法第42条の12の2第1項から第3項まで(特定の地域において雇用者の数が増加した場合の法人税額の特別控除)の規定(平成28年改正後の「雇用促進税制」)の適用を受ける場合に作成する。 これは、平成28年4月1日から平成30年3月31日までの間に開始する各事業年度において、雇用者増加数5人以上(中小企業は2人以上)、かつ、雇用増加割合10%以上等の要件を満たす企業は、同意雇用開発促進地域(※1)内に所在する事業所において、新たに雇い入れた無期雇用(※2)かつフルタイム(※3)の雇用増加数(※4)1人当たり40万円の税額控除(当期の法人税額の10%、中小企業者等は20%が上限)が受けられる制度である。 (※1) 地域雇用開発促進法(昭和62年法律第23号)第7条に規定する同意雇用開発促進地域をいう。詳細はこちらの厚生労働省HPを参照のこと。 (※2) 労働契約法(平成19年法律第128号)第17条第1項に規定する有期労働契約以外の労働契約を締結していること。 (※3) 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(平成5年法律第76号)第2条に規定する短時間労働者でないこと。 (※4) 適用年度の終了時においても、引き続き当該事業所に勤務している雇用保険一般被保険者に限る。また、適用年度中の全ての事業所における一般被保険者増加数及び同意雇用開発促進地域内に所在する事業所における一般被保険者増加数が上限になる。 [適用要件] この制度の適用を受けるためには、次の①から⑤までの要件を全て満たしている必要がある。なお、適用年度開始の日の前日における雇用者数が零である場合には、②の要件は不要となる。 ① 当期末の雇用者の数から適用年度開始の日の前日の雇用者(当期末において高年齢雇用者に該当する者を除く)の数を引いた数(以下「基準雇用者数」という)が5人以上(中小企業者等については2人以上)であること。 ② 基準雇用者数を適用年度開始の日の前日における雇用者(当期末において高年齢雇用者に該当する者を除く)の数で除した数(以下「基準雇用者割合」という)が10%以上であること。 ③ 給与等支給額(当期の所得の金額の計算上損金の額に算入される雇用者に対して支給する給与等で、当期末に高年齢雇用者に該当する者に対して支給するものを除く)が「比較給与等支給額」以上であること。  比較給与等支給額=前期の給与等の支給額+(前期の給与等の支給額×基準雇用者割合×30%) ➡ 適用年度開始の日の前日における雇用者数が零である場合には、次の算式となる。  比較給与等支給額=前期の給与等の支給額+(前期の給与等の支給額×30%) ④ 雇用保険法第5条第1項に規定する適用事業(一定の事業を除く)を行っていること。 ⑤ 前期及び当期に事業主都合による離職をした雇用者及び高年齢雇用者がいないこと。   ▼ 注意!▼ この制度の適用を受けるためには、確定申告書等に次の書類の添付が必要となる。 (1) 適用事業年度開始後2ヶ月以内に公共職業安定所に雇用促進計画の提出を行い、適用事業年度終了後2ヶ月以内に都道府県労働局又は公共職業安定所で計画の達成状況についての確認を受け、その際交付される雇用促進計画の達成状況を確認した旨の書類の写し。 (2) 控除の対象となる特定地域基準雇用者数(平成28年4月1日以後に開始する事業年度から適用となる)、地方事業所基準雇用者数又は地方事業所特別基準雇用者数、控除を受ける金額及びその金額の計算に関する明細を記載した書類。 なお、本制度は賃上げ・投資促進税制(平成30年改正前 所得拡大促進税制)と重複して適用することができるようになっている(賃上げ・投資促進税制の様式については【第28回】~【第30回】を参照)。   Ⅲ 「別表6(19)」及び「別表6(19)付表」の書き方と留意点 (1) 設例 (2) 今回の別表が適用される事業年度 平成30年4月1日以後終了する事業年度。 (3) 別表の記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (4) 別表の各記載欄の説明 ◆別表6(19) ◆別表6(19)付表 〔基準雇用者数等の計算に関する明細〕 〔給与等支給額の計算に関する明細〕 〔比較給与等支給額の計算に関する明細〕 (了)

#No. 291(掲載号)
#菊地 康夫
2018/10/25

国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第22回】「海外の賃貸不動産に係る留意点」

国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第22回】 「海外の賃貸不動産に係る留意点」   税理士 菅野 真美   - 質 問 - 私(日本の居住者)は、不動産会社の営業の方に勧められて、海外の賃貸用不動産を購入しました。この不動産については、毎月現地から、その月の損益状況を記載したマンスリーレポートが送られてきます。 このレポートに基づいて、翌年の3月15日までに確定申告をしなければならないことは理解できますが、留意点を教えていただけませんでしょうか。   ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ ▷換算レートは何を採用するのか 海外の賃貸用不動産投資を行った場合、おそらく、現地において不動産管理会社が賃貸の管理を行い、オーナーに賃貸の状況を報告することになる。このレポートは、通常、現地の言語で、かつ、現地の通貨で表示されることになる。 日本の居住者であるオーナーは、国外で生じた所得についても日本で申告しなければならない。日本における確定申告であるから、税金の計算も円を使って計算しなければならない。そこで、現地の通貨を円に換算しなければならないことになる。 外貨建ての収益や費用を円換算する基本は、発生時のTTMとなる。為替換算レートにはTTS、TTB、TTMがあるが、簡単に言うと、TTSとは「円を売って外貨に換えるレート」であり、TTBとは「外貨を売って円に換えるレート」、TTMは「TTSとTTMの仲値(平均値)」である。 不動産所得については継続適用で、収益はTTB、費用はTTSで計上することができる。さらに月次で取引の報告がなされる場合、取引日の属する月の前月の末日又は当月の初日のTTSやTTB又はTTM、取引日の属する月の前月の平均相場のように1月以内の一定の期間におけるTTM、TTBやTTSの平均値を選択することもできる(所基通57の3-2)。 個人で海外の不動産所得を生ずべき業務を行っている者については、不動産所得に係る損益計算書や収支内訳書について、年末における為替相場により換算することができる(所基通57の3-7)。つまり、個人については毎月換算替えをせずに期末一括換算をすることができることから、事務処理の手間を省くことができる。 ただし減価償却については取得時の換算レートで円換算し、その金額に基づいて減価償却を行うことになる。   ▷減価償却は日本ベースで 外貨建ての資産を購入した場合、購入時の為替レートで換算替えを行い、取得価額を算定し、減価償却を行っていく。しかし、日本の税制で認められる減価償却の方法は所得税法等で定められたものであり、耐用年数は「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」において定められたものに限られる。 通常、海外からのレポートに記載された減価償却の方法は、現地の償却方法や耐用年数に基づくものと想定されるので、減価償却については、日本ベースの償却方法や耐用年数に基づいて再計算を行う必要が生じてくる。 海外の不動産と日本の不動産を比較した場合、所在地の状況にもよるが、建物価額の不動産価額に占める割合が高く、築年数が古いものもある。日本の場合、最長の耐用年数は事務所用の「鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造のもの」で50年であるが、50年を超える中古建物が販売されることもある。 このような中古建物の耐用年数は、日本の中古資産の耐用年数のルールに従うことから、例えば建築してから60年経過した鉄骨鉄筋コンクリートのオフィスビルの耐用年数は50年×20%=10年となり、10年間での償却が可能となる。   ▷外国税額控除は3年間の繰越し可 海外において居住者が不動産賃貸を行う場合、不動産所在地でも所得税が発生するため、この二重課税状態を解消するためには、外国税額控除の適用を検討することになる(所法95)。 ここで、外国税額控除ができる時期と所得が生ずる時期に、差が生ずることがある。例えば、2018年から始めた個人の海外不動産の不動産所得については、2019年3月15日までに日本で所得税の確定申告を行わなければない。同時に海外でも不動産所得について申告・納税する場合、所得の発生時期が2018年であっても、納税が確定した時期が2019年となると、原則的には、外国税額控除の時期も2019年度となることから(所基通95-3)、所得発生年と外国控除適用年が1年ずれることになる。 外国税額控除は、外国で支払ったすべての所得税相当額について控除が認められるわけではなく、控除限度額の範囲に限られる。控除限度額とは、簡単にいうとその年分の所得税額のうち国外所得に対応する部分である。もし、国外所得や納付した外国税額控除を翌年以降に繰り越す制度がないならば、外国税額が生じた年度に国外所得が生じていない場合は外国税額控除が適用できないことになる。そこで外国税額控除については、3年間の繰越し控除が認められている。 たとえば、外国税額が発生しない年度において生じた控除限度額を繰越控除限度額として翌年以降3年間繰越しできることから、翌年以後に外国税額が生じ、その年において控除限度額が生じない場合であっても、その繰越控除限度額の範囲内で外国税額控除が適用できる(所法95②)。なお、控除限度額は所得税だけでなく、復興特別所得税や地方税にもあり、これらを一定のルールに従って使用し外国税額控除を行っていくことになる。   (了)

#No. 291(掲載号)
#菅野 真美
2018/10/25

措置法40条(公益法人等へ財産を寄附した場合の譲渡所得の非課税措置)を理解するポイント 【第3回】「学校法人への寄附」

措置法40条(公益法人等へ財産を寄附した場合の 譲渡所得の非課税措置)を理解するポイント 【第3回】 「学校法人への寄附」   公認会計士・税理士・社会保険労務士 中村 友理香   - 質 問 - 私は母校である学校法人××に、弟は国立大学法人△△に、それぞれ土地を寄附したいと考えているのですが、非課税措置の対象となりますか。   - 回 答 - 学校法人も国立大学法人も公益法人等に該当するため、非課税措置のその他の承認要件を満たす限り、適用を受けることができます。 ○●○◆ 解 説 ◆○●○ 学校法人及び国立大学法人は、ともに前回解説した非課税措置の対象となる「公益法人等」に該当します。 したがって、【第1回】で解説した非課税措置の承認要件を満たす限り、譲渡所得税は非課税とされます(措法40①後段、措令25の17⑤)。 なお、学校法人及び国立大学法人は、非課税承認特例の対象法人にも該当するため、当該承認特例の他の要件を満たす場合は、非課税承認特例の承認申請を提出し、1ヶ月以内にその申請について国税庁長官の承認がなかったとき、又は承認しないことの決定がなかったときは、承認があったものとみなされ、譲渡所得税は課されません(措令25の17⑦⑧)。 (了)

#No. 291(掲載号)
#中村 友理香
2018/10/25

「収益認識に関する会計基準」及び「収益認識に関する会計基準の適用指針」の徹底解説 【第2回】

「収益認識に関する会計基準」及び 「収益認識に関する会計基準の適用指針」の徹底解説 【第2回】   仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋   今回からは、【STEP】ごとにおさえるべき論点を解説する。その次に個別論点及び税務等について解説していく。 5 【STEP1】契約の識別 【STEP1】では、収益認識基準等の検討対象となる契約を識別する。 【STEP1】契約の識別では、以下の4つについて検討する。 そして、【STEP1】の検討の流れは、以下のとおりである。 (1) 識別要件の充足の有無(契約であるかどうかの検討) 収益認識基準等は、顧客との契約に対して適用されるため、まず、顧客との契約であるかどうかを検討する。具体的には、以下の①から⑤の要件のすべてを満たすものについて、顧客との契約として識別する(基準19)。当たり前の要件であるため、通常の売上取引であれば、すべての要件を満たすことが多いと考えられる。 顧客との契約が契約における取引開始日において上記の要件を満たす場合、事実及び状況の重要な変化の兆候がない限り、上記の要件を満たすかどうかの見直しは行わない(基準23)。 しかし、例えば、顧客が対価を支払う能力が著しく低下した場合には、顧客に移転する残りの財又はサービスと交換に企業が権利を得ることとなる対価を回収する可能性が高いかどうかについて見直しを行う。なお、既に認識した収益、債権又は契約資産は、見直しの対象とはならない(基準120)。 上記の検討の結果、顧客との契約を識別できる場合、(3)契約の結合及び(4)契約の変更を検討する。識別できない場合、(2)契約の識別要件を満たさない場合の会計処理を検討する。 (2) 上記(1)の契約の識別要件を満たさない場合の会計処理 顧客との契約が上記(1)①から⑤の要件を満たさない場合、当該要件を事後的に満たすかどうかを引き続き評価し、顧客との契約が当該要件を満たしたときに収益認識基準等を適用する(基準24)。 顧客との契約が上記(1)①から⑤の要件を満たさない場合に、顧客から受け取った対価については、契約負債として認識する。そして、以下の①又は②のいずれかに該当するときに、その対価を収益として認識する(基準25、26) 。 (3-1) 契約の結合 同一の顧客(当該顧客の関連当事者を含む)と同時又はほぼ同時に締結した複数の契約について、以下の①から③のいずれかに該当する場合には、当該複数の契約を結合し、単一の契約とみなして会計処理する(基準27)。 言い換えると、契約ごとに会計処理するのではなく、実質的に1つの取引とみなされる場合は、複数の契約を1つの取引として会計処理する。 契約を結合した場合、【STEP3】で複数の契約の取引価格を合計した上で、【STEP4】でその合計取引価格を【STEP2】で識別した履行義務ごとに独立販売価格により配分し、履行義務ごとに収益をいつ認識するかを決定する。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (3-2) 契約の結合(代替的な取扱い) 契約の結合について、以下の代替的な取扱いが設けられている。 ① 複数の契約を結合しなくても良い場合 以下の①及び②のいずれも満たす場合には、複数の契約を結合せず、個々の契約の顧客に移転する財又はサービスの内容を履行義務とみなし、個々の契約における財又はサービスの金額に従って収益を認識することができる(適用指針101)。 ② 工事契約及び受注制作のソフトウェアのみ認められている取扱い 工事契約について、当事者間で合意された実質的な取引の単位を反映するように複数の契約(異なる顧客と締結した複数の契約や異なる時点に締結した複数の契約を含む)を結合した際の収益認識の時期及び金額と当該複数の契約について、基準第27項(上記(3-1)参照)及び第32項(6【STEP2】参照)に基づく収益認識の時期及び金額との差異に重要性が乏しいと認められる場合には、複数の契約を結合し、単一の履行義務(契約も履行義務も1つ)として識別することができる(適用指針102)。 受注制作のソフトウェアも、上記に準じて会計処理することができる(適用指針103)。 当該取扱いは、工事契約と受注制作のソフトウェアにおいてのみ認められている代替的な取扱いである。 (3-3) 契約の結合における従来との相違点等 ① 従来との相違点 ② 影響がある取引(例示) ③ 適用上の課題 ④ 財務諸表への影響 複数の契約が「単一の契約」とされた場合、履行義務の識別及び取引価格の独立販売価格による配分により、履行義務ごとの金額が決められる。その結果、従来と比べて収益認識の単位の違い又は、単位は同じでも各単位に配分される取引価格の違いにより、収益の認識時期や各期の利益率が異なる可能性がある(意見募集27)。 (4-1) 契約の変更 契約変更は、契約の当事者が承認した契約の範囲又は価格(あるいはその両方)の変更であり、契約の当事者が、契約の当事者の強制力のある権利及び義務を新たに生じさせる変更又は既存の強制力のある権利及び義務を変化させる変更を承認した場合に生じるものである(基準28)。 契約の変更の検討の流れは、以下のとおりである。 なお、契約変更による財又はサービスの追加が既存の契約内容に照らして重要性が乏しい場合、上記(2)、(4)①②のいずれの方法も適用することができる(適用指針92)。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※) 未だ移転していない財又はサービスについて、別個のものと別個でないものの両方がある場合:それぞれ(4)①又は(4)②の方法で会計処理する(基準31(3))。 (4-2) 契約の変更における従来との相違点等 ① 従来との相違点 ② 影響がある取引(例示) ③ 適用上の課題 ④ 財務諸表への影響 従来と収益認識基準等で会計処理が異なる場合、収益の認識時期が異なる可能性がある(意見募集36)。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (了)

#No. 291(掲載号)
#西田 友洋
2018/10/25

M&Aに必要なデューデリジェンスの基本と実務-財務・税務編- 【第12回】「投融資の分析(その2)」

M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 -財務・税務編- 【第12回】 「投融資の分析(その2)」   公認会計士・公認不正検査士 松澤 公貴   ←(前回) | (次回)→   前回に引き続き、投融資のうち主要な項目において実施すべき調査のポイント及び評価に関連するトピックスを以下で概説する。   ▷会員権のデューデリジェンスにおける主な調査手続 ゴルフ会員権やリゾート会員権等(以下、総称して「会員権」)は、ゴルフ場やリゾート施設の運営会社の発行する株式や、当該会社に対する預託保証金等から構成されており、施設利用権を表すものである。 対象会社である中小企業の多くは、会員権は、時価としては流通業者の公表する相場があるが、これは株式市場の「株価」に比べると取引量が少なく時価の信頼性等が劣ると考え、当該時価にて評価せず、価値の著しい下落により減損処理を行った場合を除き、取得原価をもって計上している。 実態純資産の分析においては、株式方式、預託保証金方式ともに会員権に時価(相場)がある場合には、当該相場をもとに時価で評価する必要がある。時価(相場)がない場合、株式方式においては、施設の運営会社の財政状態に応じて評価をする必要があり、当該運営会社の貸借対照表をベースにして、1株当たりの純資産額に持株数を乗じて会員権の時価を計算することになる。 一方、預託保証金方式においては、預託保証金は後述する敷金のように債権としての性質があるため、運営会社の財政状態やキャッシュフローの状況等を基に回収可能性を加味して評価することになる。なお、運営会社の中には、貸借対照表等の財務状況を公表していない場合等があるため、代替手段として、大手会員権取引業者に評価鑑定を依頼する場合もある。   ▷差入保証金のデューデリジェンスにおける主な調査手続 差入保証金とは、不動産の賃貸借契約を締結する際に、借主が貸主に対して、敷金、保証金、権利金及び建設協力金などの名目で差し入れる金銭である。差入保証金は地域の商慣習の違いで名称の使われ方や実態が異なることから、必要に応じて法務デューデリジェンスチームと連携して、賃貸借契約の内容から、経済的実態を判断する必要がある。 実態純資産の分析においては、敷金及び保証金、権利金及び建設協力金等は、回収可能額にて評価する必要がある。   ▷保険積立金のデューデリジェンスにおける主な調査手続 保険積立金とは、生命保険等の保険料のうち、費用化しなかった部分の保険料(例えば、満期返戻金など貯蓄性がある部分の保険料)を計上するための勘定科目である。生命保険等は、通常、死亡や傷害に備える保険部分と、契約が満期になったときに受け取る貯蓄部分があるが、保険の種類や受取人の違いなどで仕訳や会計処理方法が異なるため、本稿では割愛する。 実態純資産の分析においては、保険積立金は、保険積立金として計上されているかいないかに関係なく、解約返戻金などの回収可能額にて評価する必要がある。 【実務事例12-1】 対象会社は、経営セーフティー共済に加入している。通常の会計処理は、毎期保険料として費用計上(保険積立金として計上されていない)しているが、実態純資産の分析においては、基準日における解約返戻金の金額で評価することにした。   (了)

#No. 291(掲載号)
#松澤 公貴
2018/10/25

税効果会計における「繰延税金資産の回収可能性」の基礎解説 【第9回】「その他有価証券の評価差額に係る一時差異の取扱い」

税効果会計における 「繰延税金資産の回収可能性」の 基礎解説 【第9回】 「その他有価証券の評価差額に係る一時差異の取扱い」   仰星監査法人 公認会計士 田中 良亮   1 はじめに 前回は役員退職慰労引当金に係る将来減算一時差異の取扱いについて通常の将来減算一時差異とどのように異なるのかを説明した。 今回はその他有価証券の評価差額に係る一時差異の取扱いについて説明する。   2 その他有価証券評価差額金とは まず、「その他有価証券評価差額金」とはどのような会計事象によって生じる勘定科目であるかを確認したい。 会計上、企業が保有する有価証券は以下の種類に区分される。なお、有価証券の種類については次の連載を参照されたい。 このうち、④のその他有価証券は時価をもって貸借対照表価額とすることが求められているため、期末に時価評価を行う必要がある。しかしながら、現行の会計ルールでは評価益の計上は認められておらず、また、評価損は著しい時価の下落があったときに計上するものとされている(本稿では全部純資産直入法を前提とする)。 つまり、銘柄ごとに時価が取得原価を上回っている場合や、下回っていたとしても著しい時価の下落と判断されない場合には、貸借対照表価額は時価とするものの、評価差額直接純資産に計上するものとされており、このときに計上する勘定科目がその他有価証券評価差額金となる。 【図1】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ※【図1】では税効果は考慮外とする。   3 その他有価証券評価差額金が一時差異となる理由 ここまでの説明で、連載を継続的にご覧の読者の中には、その他有価証券評価差額金が損益計算書で計上されないのであれば、会計上の収益又は費用と税務上の益金又は損金の額は一致するのだから税金の前払い(将来減算一時差異)や繰延べ(将来加算一時差異)が生じないのでは、と感じた方もいるかもしれない。 たしかに、その他有価証券評価差額金は税額計算の基礎となる当期純利益に影響を与えないため、当期に税金の前払いや繰延べは生じないが、税効果会計の考え方によるとその他有価証券評価差額金は一時差異となるのである。 ここからはその考え方について説明していこう。 (1) 税効果会計の目的 連載【第1回】では、税効果会計の目的を一言でいうと、「会計と税務の差を調整するため」と説明した。では「会計と税務の差を調整するとどのような結果が生じるのか」という観点から、ここで税効果会計の目的について堀り下げてみたい。 会計と税務の処理の差によって生じる将来減算一時差異や将来加算一時差異はその名のとおり、将来時点において課税所得を減算又は加算させる効果をもつ一時差異である。税効果会計では、これらの効果を資産又は負債として計上した結果、企業の将来の支払税額がいくら減額されるのかもしくは増額されるのかを示すことになる。 つまり、税効果会計には将来の支払税額に与える影響を貸借対照表に表すという重要な目的があるといえる。 (2) 税効果会計は将来思考 税効果会計は企業の将来の支払税額に与える影響を貸借対照表に表す会計手法であることから、将来に焦点をあてた基準設計となっている。それは税効果の目的として挙げている「会計と税務の差」が資産又は負債の差に着目しているということをご理解いただければわかりやすいだろう。すなわち、会計上の収益又は費用と税務上の益金又は損金の差に着目していないというところがポイントである。 資産や負債が計上される貸借対照表はストックの概念であり、企業が将来得られる便益や将来負担すべき義務も数値化して計上されることから、会計上と税務上の資産又は負債の差に着目している税効果会計は「将来思考の会計処理」であるといえる。 (3) その他有価証券評価差額金の特殊性 連載【第8回】までに取り上げた一時差異項目をご覧になっていただくと、すべて会計上の資産又は負債と税務上の資産又は負債の間に差が生じていることに気づいていただけるだろう。ただし、連載【第8回】までに取り上げた一時差異項目では会計上の費用と税務上の損金の間にも差が生じていたため、税金の前払いが結果的に発生していたのである。 その他有価証券評価差額金は前述したとおり、その他有価証券を時価評価した結果、貸借対照表上では帳簿価額が時価に評価替えされ、当該評価差額は損益計算書に計上されることなく直接純資産に計上されるため、時価評価を行った当期の税額に影響を与えない。この点がその他有価証券評価差額金の特殊性といえるが、税務上は原則的に有価証券の時価評価を認めていないため、会計と税務の資産又は負債の間に差が生じることになる。 したがって、その他有価証券の時価評価を行った結果、評価差損が計上されれば将来時点において当該金額で売却したときに税額負担が軽減するため将来減算一時差異となる。一方で評価差益が計上されれば将来時点において当該金額で売却したときに税額負担が増加するため将来加算一時差異となるのである。   4 その他有価証券評価差額に係る一時差異の取扱い (1) 原則処理 その他有価証券の評価差額に係る一時差異は、原則として、個々の銘柄ごとにスケジューリングを行い、評価差損に係る将来減算一時差異については当該スケジューリングの結果に基づき回収可能性を判断した上で繰延税金資産を計上し、評価差益に係る将来加算一時差異については繰延税金負債を計上する。 原則処理における繰延税金資産の回収可能性の判断は、連載【第3回】と【第4回】を参照されたい。【図2】は分類2の会社の原則処理のイメージである。 【図2】 原則処理:分類2の会社イメージ図(実効税率は30%とする) ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (2) 容認処理 個々の銘柄ごとではなく、【図3】のように一括して繰延税金資産又は繰延税金負債を計上することができる。 【図3】 容認処理:一括して繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する場合 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ① スケジューリング可能な一時差異である場合における繰延税金資産の回収可能性の判断 その他有価証券の評価差額を、評価差損が生じている銘柄と評価差益が生じている銘柄とに区分し、評価差損の銘柄ごとの合計額に係る将来減算一時差異についてはスケジューリングの結果に基づき回収可能性を判断した上で繰延税金資産を計上する。 なお、回収可能性の判断は会社分類に応じて行う(スケジューリング等の繰延税金資産の回収可能性の判断手順は連載【第2回】を、会社分類の判断は連載【第3回】及び【第4回】を参照されたい)スケジューリングが可能であることから、4(1)で説明した原則処理と結果は同様になるものと考えられる。 ② スケジューリング不能な一時差異である場合における繰延税金資産の回収可能性の判断 スケジューリング不能な一時差異である場合には、まず評価差額を純額で把握することとなり、純額で評価差益が生じている場合には当該将来加算一時差異について繰延税金負債を計上することになる。 ただし、スケジューリング不能な将来加算一時差異であるため、繰延税金資産の回収可能性の判断にあたっては、その他有価証券の評価差額に係る将来減算一時差異以外の将来減算一時差異とは相殺できない。 一方、純額で評価差損が生じている場合には、その他有価証券の純額の評価差損に係る将来減算一時差異はスケジューリング不能な将来減算一時差異であるため、原則として、当該将来減算一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性はないものとする。 ただし、通常、その他有価証券は随時売却が可能であり、また、長期的には売却されることが想定される有価証券であることを考慮し、純額の評価差損に係る繰延税金資産については、次のように会社分類に応じて回収可能性を判断することができる。 (a) 分類1及び分類2に該当する場合(連載【第4回】【図2】において分類2に該当する会社を含む) 収益力に基づく課税所得が期末時点の将来減算一時差異の残高と比較して高い水準で安定的に生じることが見込まれるため、評価差額に係る繰延税金資産は回収可能性があるものとする。 【図4】 容認処理:分類2の会社でスケジューリング不能なその他有価証券の純額の評価差額に係る将来減算一時差異の回収可能性 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (b) 分類3に該当する場合(連載【第4回】【図2】において分類3に該当する会社を含む) 分類3の場合、収益力に基づく課税所得の発生が安定的ではないため、原則的に将来の合理的な見積可能期間(おおむね5年)以内の回収可能性を判断することになる。 したがって、当該期間の一時差異等加減算前課税所得の見積額にスケジューリング可能な一時差異の解消額を加減した額に基づき、純額の評価差額に係る繰延税金資産を見積る場合、当該繰延税金資産の回収可能性があるものとする。 【図5】 分類3で、将来の合理的な見積可能期間が3年と判断している会社のスケジューリング不能なその他有価証券の純額の評価差額に係る将来減算一時差異の回収可能性 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (c) 分類4及び分類5に該当する場合 これらの会社は、その他有価証券の純額の評価差損に係るスケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性はないものとする。 分類4の会社は、スケジューリングに従って翌期解消する見込みの将来減算一時差異に係る繰延税金資産を計上するが、スケジューリング不能な将来減算一時差異が翌期に解消することは通常ないため、回収可能性が認められていないものと考えられる。   5 まとめ その他有価証券の評価差額に係る一時差異の取扱いについては、スケジューリング可能な一時差異であるか、スケジューリング不能な一時差異であるかによって検討するフローが異なる点をご確認いただきたい。 また、その他有価証券評価差額金が一時差異となる理由から、税効果会計の目的について理解を深められるのではないだろうか。 次回は、繰延ヘッジ損益に係る一時差異の取扱いについて説明する。 (了)

#No. 291(掲載号)
#田中 良亮
2018/10/25

企業結合会計を学ぶ 【第4回】「取得原価の算定方法」-条件付取得対価等-

企業結合会計を学ぶ 【第4回】 「取得原価の算定方法」 -条件付取得対価等-   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 【第3回】では、吸収合併の〔例〕を用いて、「取得」の会計処理における取得原価の算定方法に関する論点を解説した。 今回は、取得原価の算定方法に関して、条件付取得対価、取得関連費用及び株式交付費について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 条件付取得対価 1 定義 企業結合を行う場合、様々なリスクがあることから、企業結合契約の中には、企業結合契約を締結した後の将来の特定の事象又は取引の結果に依存して、追加的に株式が交付されたり、現金又は他の資産が引き渡されたりする条項が含まれていることがある(「企業結合に関する会計基準」(企業会計基準第21号。以下「企業結合会計基準」という)95項)。 企業結合会計基準は、条件付取得対価を次のように定義している(注解(注2))。 「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第10号。以下「結合分離適用指針」という)の「[設例5] 取得原価の算定-条件付取得対価の会計処理」では、次のように条件付取得対価の例を示している。 2 会計処理 企業結合会計基準は、条件付取得対価の会計処理を次のように規定している(企業結合会計基準27項、注解(3)~(5)、結合分離適用指針47項)。 3 設例 結合分離適用指針の[設例5]では、条件付取得対価の会計処理を示している。 以下では、同設例に従って「将来の業績に依存する条件付取得対価の場合」の会計処理を示す。 4 条件付取得対価に関する企業結合会計基準等の改正案 平成30年8月21日、企業会計基準委員会は、企業結合会計基準及び結合分離適用指針における条件付取得対価の取扱いについて、次の改正案を公表している(アンダーラインが改正部分)。 これは、条件付取得対価に関連して対価が交付又は引き渡される場合だけでなく、その一部が返還される場合についても規定しようとするものである。   Ⅲ 取得関連費用 企業結合に際しては、外部のアドバイザーなどに対して報酬・手数料などを支払うことが多い。 このような外部のアドバイザー等に支払った特定の報酬・手数料等は、取得関連費用とされており、発生した事業年度の費用として処理することになる(企業結合会計基準26項)。 平成15年に公表された企業結合会計基準では、取得とされた企業結合に直接要した支出額のうち、取得の対価性が認められる外部のアドバイザー等に支払った特定の報酬・手数料等は取得原価に含めることとしていた(企業結合会計基準94項)。 一方、国際的な会計基準では、当該取得関連費用は、事業の売主と買主の間の公正な価値での交換の一部ではなく、企業結合とは別の取引と考えられること、取得関連費用のうち直接費が取得原価に含まれる一方で間接費は除かれる点が不整合であること等の理由から、発生した事業年度の費用として取り扱っている。 平成25年改正の企業結合会計基準においては、国際的な会計基準に基づく財務諸表との比較可能性を改善する観点や取得関連費用のどこまでを取得原価の範囲とするかという実務上の問題点を解消する観点から、発生した事業年度の費用として処理することとした。 個別財務諸表における子会社株式の取得原価は、従来と同様に、「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号)及び「金融商品会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第14号)に従って算定することになる(企業結合会計基準94項)。 「金融商品会計に関するQ&A」のQ15-2では、「有価証券の取得の付随費用と取得関連費用」について規定している。   Ⅳ 株式交付費 企業結合の際の株式の交付に伴い発生する費用(登録免許税、証券会社への業務委託手数料等)は、企業結合の対価というよりは、支払対価の種類に影響される財務的な活動としての性格が強い支出と考えられるため、取得原価には含めず、別途、株式交付費として会計処理する(結合分離適用指針49項)。 (了)

#No. 291(掲載号)
#阿部 光成
2018/10/25

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例30】nmsホールディングス株式会社「分配可能額を超えた平成29年3月期末の配当金について」(2018.5.28)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例30】 nmsホールディングス株式会社 「分配可能額を超えた平成29年3月期末の配当金について」 (2018.5.28)   事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる適時開示は、nmsホールディングス株式会社(以下「nmsホールディングス」という)が平成30年5月28日に開示した「分配可能額を超えた平成29年3月期末の配当金について」である。タイトルのとおり、分配可能額を超えて配当を支払ってしまったという内容である。 上場会社でそんなミスが生じるのかと思われるかもしれないが、最近、同様の開示が多く、例えば、株式会社アルメディオが平成30年4月17日に「分配可能額を超えた前期末の配当金について」を、株式会社多摩川ホールディングスが平成30年8月1日に「分配可能額を超えた前期末の配当金に関するお知らせ」を開示している。 過去には、HOYA株式会社が分配可能額を超えて自己株式を取得してしまったということもあった(平成28年5月18日に「平成28年2月に決議した自己株式の取得に関する第三者委員会設置のお知らせ」を開示)。 これだけ度々あると、明らかになっていないだけで、同様のミスが他社でもたくさん生じているのではないかと思われてくる。   2 原因は「知識不足」と「無責任」 nmsホールディングスは平成30年6月22日に「平成29年3月期末の配当金に関する一連の経緯及び再発防止策について」を開示し、今回の件の発生原因として以下の4つをあげている。要するに、皆が「知識不足」で「無責任」だったということである。 まず無責任について、この開示に添付された外部調査委員会の調査報告書には、次のような記載がある。他の誰かがやってくれていると、皆がなんとなく思っていたのだろう。   3 取締役としての資質への疑い 外部調査委員会の調査報告書には次のような記載もある。「社内のいずれかの部署で分配可能額の算定を行い、それを踏まえた本件配当議案の適法性の検討が既になされていると考えていた」は、役員の無責任を示す記載だが、他は役員の知識不足を示す記載である。 上場会社の取締役ならば、分配可能額の計算方法までは知らなくとも、配当や自己株式取得が分配可能額の制限を受けることぐらいは知っておかなければならないだろう。それを知らなかったのだから、上場会社の取締役としての資質の有無が疑われる。 また、同社の社外取締役と監査役のうち2名は公認会計士である。まさか、「自己株式の帳簿価額が分配可能額の計算において控除項目であることの認識を欠いていた」や、「連結決算を前提にすると十分な利益剰余金及び資本剰余金が確保されていたため(中略)分配可能額があることを疑うことがなかった」、「会計監査人による監査において計算書類に関して特段の指摘がされていなかった」といった理由で今回の件に気づかなかったのが彼らではないだろうが、気づかなかったことを恥じなければならないだろう。   4 内部統制は本当に有効か? nmsホールディングスが平成30年6月27日に提出した内部統制報告書では、同社の平成29年3月期末時点の財務報告に係る内部統制は有効であると評価されている。そして、同社が同日に提出した有価証券報告書に添付された監査報告書によると、監査法人はその内部統制報告書に対して適正意見を表明している。 しかし、今回の件を通じて、同社の内部統制が非常に脆弱であることが明らかになった。同社の平成29年3月期末時点の財務報告に係る内部統制は、本当に有効であるといえたのだろうか。 なお、冒頭で述べたように、今回取り上げた開示と同様の開示が他でも行われている。nmsホールディングスと同様の状態にある会社は、他にもかなりあるのではないだろうか。 (了)

#No. 291(掲載号)
#鈴木 広樹
2018/10/25
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