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酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第60回】「日本税理士会連合会の建議から租税法条文を読み解く(その3)」

酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第60回】 「日本税理士会連合会の建議から租税法条文を読み解く(その3)」   中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦     Ⅳ 平成30年度税制改正に関する建議書 1 建議書における重要建議項目 続いて、平成30年度税制改正に関する建議書を確認しておこう。 日税連の平成30年度税制改正建議書には、相続税・贈与税項目として、「非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予制度は、税制改正において大幅に改善されたものの、事業承継を必要とする経営者の利用拡大には未だ不十分である。適用要件のより一層の緩和を図り、納税者が利用しやすい制度にすべきである。」との要望が掲げられていた。 具体的には、「非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予制度について、適用要件をより一層緩和し、納税者が利用しやすい制度にすること。」として、次のような提案が示されていた。 2 平成30年度税制改正与党大綱 与党大綱においては、次のとおり、事業承継税制の拡充が謳われている。 この納税猶予の特例制度について、簡潔に確認しておこう。 (1) 概要 特例後継者(仮称)が、特例認定承継会社(仮称)の代表権を有していた者から、贈与等によりその会社の非上場株式を取得した場合には、かかる非上場株式に対応する贈与税又は相続税の全額について、その特例後継者の死亡の日等まで納税を猶予する。 なお、ここで、「特例後継者」とは、特例認定承継会社の特例承継計画(仮称)に記載された当該会社の代表権を有する後継者(同族関係者と合わせて当該特例認定承継会社の総議決権数の過半数を有する者に限る。)であって、かかる同族関係者のうち、当該会社の議決権を最も多く有する者(後継者が2名以上の場合には、議決権数上位2名又は3名の者)をいう。 また、「特例認定承継会社」とは、平成30年4月1日から平成35年3月31日までの間に特例承継計画を都道府県に提出した会社であって、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律12条《経済産業大臣の認定》1項の認定を受けたものをいい、「特例承継計画」とは、認定経営革新等支援機関の指導及び助言を受けた特例認定承継会社が作成した計画であって、当該特例認定承継会社の後継者、承継時までの経営見通し等が記載されたものをいう。 (注) 差し込みの図表は、経済産業省ホームページからの引用である(以下Ⅳにおいて同じ)。 なお、特例後継者が特例認定承継会社の代表者以外の者から贈与等により取得する当該会社の非上場株式についても、特例承継期間(仮称)(5年)内に当該贈与等に係る申告書の提出期限が到来するものに限り、本特例の対象とするとされている。 (2) 雇用確保要件の緩和 現行の事業承継税制における雇用確保要件を満たさない場合であっても、納税猶予の期限は確定しない。 ただし、この場合には、その満たせない理由を記載した一定の書類を都道府県に提出しなければならない。なお、その理由が、経営状況の悪化である場合又は正当なものと認められない場合には、特例認定承継会社は、認定経営革新等支援機関から指導及び助言を受けて、当該書類にその内容を記載しなければならないこととされている。 (3) 特例承継期間経過後の株式譲渡等 経営環境の変化を示す一定の要件を満たす場合において、特例承継期間経過後に、特例認定承継会社の非上場株式の譲渡をするときや、合併により消滅するとき、解散をするとき等には、一定の限度額の範囲内で納税猶予税額が免除される。 なお、ここで、「経営環境の変化を示す一定の要件を満たす場合」とは、直前の事業年度終了の日以前3年間のうち2年以上、特例認定承継会社が赤字である場合や、売上高がその前年に比して減少している場合が該当するとされている。 その他、直前の事業年度終了の日における特例認定承継会社の有利子負債の額が、その日の属する事業年度の売上高の6月分に相当する額以上である場合や、特例認定承継会社の事業が属する業種に係る上場会社の株価が、その前年1年間の平均より下落している場合、特例後継者が特例認定承継会社における経営を継続しない特段の理由がある場合もそれに該当することとされている。 (4) その他 特例後継者が贈与者の推定相続人以外の者(その年1月1日において20歳以上である者に限る。)であり、かつ、その贈与者が同日において60歳以上の者である場合には、相続時精算課税の適用を受けることができる。 なお、その他の要件等は、現行の事業承継税制と同様とするものとされている。 Ⅴ 税理士会の建議と請願 事業承継税制の拡充は、平成30年度税制改正の大きな目玉といえよう。 上記のような極めてインパクトのある事業承継税制の拡充改正案に至るまでには、日税連の建議のみならず、ロビー活動も欠かせないものであったと思われる(この点については、神津信一=酒井克彦「税制改正等における税理士の役割―その成果と今後の課題―」税務事例50巻1号1頁)。 本稿で確認してきたとおり、平成29年度税制改正においては災害対応税制の基本法化が実現し、平成30年度税制改正では事業承継税制がより使い勝手の良い制度へと改正される運びとなった。東日本大震災や熊本地震、大型台風の被害などが相次ぐ中での災害対応税制の基本法化も、我が国経済の土台を支える中小企業が後継者難にあえぐ実情に配慮された事業承継税制の拡充も、いずれも時宜を得た税制上の措置であると思われる。 次の一覧表は、日税連の建議が税制改正の実現につながった事項である。 これら「実現項目」欄に掲げられている条項に関する解釈問題に疑義がある場合には、日税連の建議にアクセスし、いかなる要望の下で制定ないし改正された条文であるのかという点を確認することが必要となろう。立法趣旨を探るに当たっては、その契機となった建議の内容を知ることから始める必要がある。 〈過去の税制改正と主な実現項目〉 (注) 日本税理士会連合会ホームページより   Ⅵ 結びに代えて 租税法が財産権に対する侵害規範であることからすれば、租税法は、原則たる財産権保障の例外的取扱いという位置付けになる。そうであるとすれば、自ずと租税法条文の解釈を行うに当たっては、厳格な解釈が要請されることになるのであり、原則として文理解釈が優先的に採用されることになろう。 もっとも、租税法が法である限り、その趣旨や目的から逸脱した解釈が許容されるわけではなく、解釈における二次的なテストとして、目的論的解釈も要請されよう。 しかしながら、目的論的解釈を採用しようにも、法条の趣旨、目的が判然としないことには先に進めない。ここで、条項の趣旨目的を確認するには、かかる条項がいかなる過程で制定・改正されたものであるのかといった立法背景の理解が必須となる。 かような問題関心から、対象とされている法条の制定過程について関心を寄せることが重要であり、税理士会の建議が経由されている場合には、建議内容についても確認をしておくことが必要となるのである。 (了)

#No. 251(掲載号)
#酒井 克彦
2018/01/11

平成29年分 確定申告実務の留意点 【第2回】「ビットコイン等の仮想通貨に関する確定申告」

平成29年分 確定申告実務の留意点 【第2回】 「ビットコイン等の仮想通貨に関する確定申告」   公認会計士・税理士 篠藤 敦子   【1】 はじめに ビットコインをはじめとする仮想通貨の利用者数は、ここ1年ほどの間、急激に増加している。仮想通貨の相場は変動幅が大きく、支払い手段としての利用よりも投資対象として注目されているようである。 平成29年4月1日に改正資金決済法が施行され、ビットコイン等の仮想通貨は円やドルといった法定通貨に準ずる支払い手段として認められることになった(資金決済法1、2⑤)。 資金決済法の改正により仮想通貨の取扱いルールが整備され、一般の個人が仮想通貨を取引する機会も増えている。仮想通貨の取引が活発に行われている現状を踏まえ、平成29年12月1日には国税庁よりビットコインの課税関係に関する情報(※)(以下、「情報」という)が公開された。 (※) 個人課税課情報第4号「仮想通貨に関する所得の計算方法等について(情報)」 【第2回】は、本情報に基づき、仮想通貨を取引した場合の確定申告について解説を行う。   【2】 所得区分は「雑所得」 本情報が公開される数ヶ月前に、国税庁ホームページのタックスアンサーにおいて、ビットコインを使用することにより生じた損益は、原則として雑所得に区分されることが明らかにされている(タックスアンサーNo.1524「ビットコインを使用することにより利益が生じた場合の課税関係」)。 ビットコイン以外にも仮想通貨は存在する(※)が、資金決済法の仮想通貨の定義に該当するものであれば、税務上は同じ取扱いとなる。 (※) 金融庁のホームページには、仮想通貨交換業者に認定された業者の一覧と、各社が扱っている仮想通貨が公開されている。この一覧に記載されている仮想通貨は、資金決済法の定義に該当する仮想通貨である。 ⇒金融庁「仮想通貨交換業者登録一覧」 〈仮想通貨に関する所得区分〉   【3】 所得計算方法 (1) 仮想通貨を使用した場合の課税関係 個人が仮想通貨を使用することにより利益が生じた場合には、その利益は所得税の課税対象となる(所法27、35)。ここでいう「使用」とは、具体的には次の取引をいう。 ①から③の取引について課税関係をまとめると、以下のとおりである(「情報」1、2、3)。なお、複数回にわたって購入した仮想通貨を使用する場合には、移動平均法により取得価額を算定する。ただし、継続適用を要件として総平均法によって算定することもできる(「情報」4)。 〈仮想通貨を使用した場合の課税関係〉 (※) BTC:ビットコイン、各金額は手数料込 (2) 仮想通貨が分裂した場合 平成29年8月にビットコインが分裂し、新たな仮想通貨としてビットコインキャッシュが誕生した。このように保有している仮想通貨が分裂すると、新たな仮想通貨を自動的に取得することになる。 分裂により取得した新たな仮想通貨は、分裂時点では取引相場が存在しないため、その時点では価値がないものと考えられる。したがって、取得時点においては課税されない。 分裂により取得した仮想通貨を使用(売却等)したときには、取得価額をゼロとして所得金額を算定し、課税されることになる(「情報」5)。 (3) 仮想通貨の証拠金取引をした場合 仮想通貨の証拠金取引による所得の課税関係は、同じ証拠金取引である外国為替証拠金取引(以下、FXという)や先物取引の課税関係とは異なる。 FXや先物取引による所得は、租税特別措置法の「先物取引に係る雑所得等の課税の特例」に基づき申告分離課税の対象となるが、仮想通貨の証拠金取引による所得は、この特例の適用対象ではない(措法41の14)。仮想通貨の証拠金取引による所得は、総合課税(雑所得又は事業所得)により課税されることになる。 上記特例の対象となる所得であれば、適用される所得税率は15%であるが、仮想通貨の証拠金取引による所得は、給与所得等の他の所得と合算された上、5%から45%の超過累進税率が適用される(所法89①)。 (4) 仮想通貨のマイニング(採掘)をした場合 マイニング(採掘)により仮想通貨を取得した場合には、マイニング時に以下の算式で所得金額を算定する(「情報」9)。 所得金額 = 収入金額(取得時点の時価)- 必要経費(マイニングに要した費用) なお、マイニングにより取得した仮想通貨を使用(売却等)した場合には、マイニング時に上記所得金額が課税されることから、マイニングにより仮想通貨を取得した時の時価が取得価額となる。   【4】 申告するときの注意点 (1) 申告不要となるケース 給与を1ヶ所から受けている給与所得者で、その給与が年末調整済みであり、仮想通貨による所得を含む給与所得と退職所得以外の所得金額の合計額が20万円以下であるときには、原則として確定申告をする必要はない(所法121)。 ただし、このケースに該当しても、例えば医療費控除や寄附金控除等の適用を受けるために確定申告を行う場合には、20万円以下の所得も申告に含めなければならない。 (2) 損失の通算 【2】及び【3】(3)で解説したとおり、仮想通貨に関する所得は総合課税の雑所得又は事業所得に区分される。多くの納税者にとっては、雑所得になると考えられる。 雑所得の金額の計算上生じた損失は、公的年金等や原稿料といった他の雑所得と通算することはできるが、雑所得以外の所得と通算することはできない(所法35②、69①)。また、損失を翌年以降に繰り越すこともできない。 (了)

#No. 251(掲載号)
#篠藤 敦子
2018/01/11

相続空き家の特例 [一問一答] 【第27回】「同一年中に自己の居住用財産と相続空き家の譲渡があった場合」-相続空き家の特例と他の特例との重複適用関係-

相続空き家の特例 [一問一答] 【第27回】 「同一年中に自己の居住用財産と相続空き家の譲渡があった場合」 -相続空き家の特例と他の特例との重複適用関係-   税理士 大久保 昭佳   Q Xは、父親が相続開始の日まで単独で居住の用に供していた家屋(昭和56年5月31日以前に建築)及びその敷地(以下「A家屋等」という)を、昨年5月に父親の相続により取得し、その家屋の耐震リフォームを行い、相続後は空き家の状態のままで、同年9月にA家屋等を4,200万円で売却しました。 また、Xは、昨年3月に自己の居住の用に供していた家屋及びその敷地(以下「B家屋等」という)を3,800万円で売却しました。 この場合、「相続空き家の特例(措法35③)」と「3,000万円特別控除(措法35①)」の適用関係はどのようになるのでしょうか。 A 「相続空き家の特例(措法35③)」と「3,000万円特別控除(措法35①)」との重複適用は可能ですが、同一年中であることから、特別控除の限度額は3,000万円となります。 ●○●○解説○●○● 租税特別措置法第35条第1項に規定する「全部の資産」とは、同項に規定する「居住用財産」及び同条第3項に規定する「被相続人居住用家屋及び被相続人居住用家屋の敷地等」をいいます。 したがって、本事例の場合におけるA家屋等の譲渡とB家屋等の譲渡はともに租税特別措置法第35条第1項に規定する「居住用財産を譲渡した場合」に該当することから、XはA家屋等及びB家屋等の譲渡所得の金額から3,000万円の特別控除をすることができます。 ただし、それらの譲渡が同一年中である場合は、「全部の資産」の譲渡に係る譲渡所得の金額から3,000万円を限度として控除することとなります(措通35-7(同一年中に自己の居住用財産と被相続人の居住用財産の譲渡があった場合の3,000万円控除の適用))。 なお、「相続空き家の特例(措法35③)」と居住用財産の譲渡所得に係る特例については、次に掲げるものとの重複適用が可能とされています。 ① 居住用財産の譲渡所得の特別控除(措法35①) ② 特定の居住用財産の買換え等の場合の課税の特例(措法36の2) ③ 特定の居住用財産を交換した場合の課税の特例(措法36の5) ④ 居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除(措法41の5) ⑤ 特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除(措法41の5の2) (了)

#No. 251(掲載号)
#大久保 昭佳
2018/01/11

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第20回】

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第20回】   公認会計士 佐藤 信祐   (《第2章》 平成13年度税制改正) (9) 個別項目(概要) 今回から、『平成13年版改正税法のすべて』163頁(大蔵財務協会、平成13年)以降に記載されている個別項目について解説を行う予定である。ただし、退職給付引当金のようなすでに廃止されているものも記載されているため、この点については解説を行わない。さらに、租税特別措置法の内容については、その後の改正・廃止などが著しいことから、解説を行わないため、ご了承されたい。 また、本連載では、個別項目のうち、重要性が高いと思われるものに限定して解説を行う。 具体的には、①みなし事業年度、②受取配当等の益金不算入、③減価償却資産、④国庫補助金等で取得した固定資産等の圧縮額の損金算入、⑤貸倒引当金、⑥青色欠損金、⑦特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入、⑧租税回避行為の防止について解説を行う予定である。 なお、繰延資産、一括償却資産及び控除対象外消費税額については減価償却資産を、工事負担金その他の圧縮記帳については国庫補助金等で取得した固定資産等の圧縮額の損金算入をそれぞれ参考にすることができるため、本稿では解説を行わない。 大雑把な理解としては、「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」にあるように、 としている点が参考になる。なぜなら、単純に資産及び負債を引き継ぐのではなく、その計算要素も引き継ぐことができるように、それぞれの条文が作られているからである。 (10) みなし事業年度 まず、『平成13年版改正税法のすべて』では、個別項目の最初として、みなし事業年度について記載されている。平成13年当時では、合併又は分割型分割を行った場合には、その前日まででみなし事業年度を区切ることとされていた(法法14二・三)。 しかし、平成22年度税制改正により、分割型分割におけるみなし事業年度が廃止されたため、本稿校了段階では、合併を行った場合のみなし事業年度のみが設けられている。そのため、平成22年度税制改正により、分割型分割と分社型分割の処理が統一されたものが多いことから(ex.減価償却の期中損金経理など)、平成13年当時の分割型分割についての条文は、現在の条文と異なる点が多い。さらに、分割承継法人に引き継ぐべき資本金等の額、利益積立金額の計算も、みなし事業年度を区切らないことによる影響が生じている。 この点については、本連載のどこかで解説を行う予定である。 (11) 受取配当等の益金不算入 『平成13年版改正税法のすべて』163-169頁では、受取配当等の益金不算入について記載されている。具体的には、①短期所有株式等の判定、②負債利子控除制度における簡便計算、③関係法人株式等(特定株式等)の判定等について記載されている。 これは、「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」の別紙にて、以下のように記載されていたことを受けた改正である。 本稿校了段階の法人税法では、その後の税制改正があったため、関係法人株式等ではなく、①完全子法人株式等、②関連法人株式等、③その他の株式等、④非支配目的株式等に分けて規定されている。しかし、適格組織再編成における被合併法人等の保有していた期間を含めてこれらの判定を行うという点については、現行税制を理解するうえでも参考になる。 例えば、関連法人株式等の判定では、内国法人が、適格合併、適格分割、適格現物出資又は適格現物分配により、他の内国法人の発行済株式等の3分の1超の株式等の移転を受けた場合には、被合併法人、分割法人、現物出資法人又は現物分配法人が当該株式等を有していた期間は、当該内国法人が当該株式等を有していた期間とみなすこととされている(法令22の3③)。 さらに、完全子法人株式等の判定では、内国法人が、適格合併により被合併法人から他の内国法人の株式等を引き継いだ場合には、当該被合併法人と当該他の内国法人との間に完全支配関係があった期間は、当該内国法人と当該他の内国法人との間に完全支配関係があったものとみなすこととされている(法令22の2③)。 このような完全子法人株式等の判定方法は、平成22年度税制改正前の連結法人株式等に係る取扱いを引き継いだものとされている(※)。 (※) 『平成22年版改正税法のすべて』232頁(大蔵財務協会、平成22年)。 もともと、連結納税の開始・加入の時価評価課税では、適格合併、適格株式交換等又は適格株式移転により、被合併法人、株式交換等完全子法人又は株式移転完全子法人の100%子会社であった法人が連結子法人になった場合における特例が定められている(法法61の11①五、同条の12①三)。そのことを考えると、関連法人株式等と異なり、適格分割、適格現物出資又は適格現物分配により移転した株式が含まれていないことに違和感はない。 しかし、この制度趣旨を理解するためには、連結納税制度全体の研究が必要になるため、本稿の目的を超えるものとなる。そのため、ここでは、完全子法人株式等の特例と関連法人株式等の特例が異なるという点だけに留めたい。 *   *   * 次回では、減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法について解説を行う予定である。 (了)

#No. 251(掲載号)
#佐藤 信祐
2018/01/11

理由付記の不備をめぐる事例研究 【第39回】「寄附金(貸倒損失・債権放棄)」~書面による債権放棄の通告が寄附金に該当すると判断した理由は?~

理由付記の不備をめぐる事例研究 【第39回】 「寄附金(貸倒損失・債権放棄)」 ~書面による債権放棄の通告が寄附金に該当すると判断した理由は?~   千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也   今回は、青色申告法人X社に対して行われた「書面による債権放棄の通告が寄附金に該当すること」を理由とする法人税更正処分の理由付記の十分性が争われた名古屋地裁平成8年3月22日判決(税資215号960頁。以下「本判決」という)を素材とする。   1 更正通知書に記載された更正の理由(本件理由付記) (注)  素材とした本判決の判決文から読み取ることができる理由付記の一部を筆者が加工している。   2 本件理由付記から読み取ることができる関係図   3 本判決の判断 本判決は、大要次のとおり、理由付記に不備はないと判断した。   4 検討 (1) 関係法令等の確認 前回も解説を行ったが、本件更正処分の関係法令等を簡単に確認しておく(詳細は、本連載【第11回】参照)。 貸倒損失について、法人税基本通達9-6-1(4)は、「債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額」は、貸倒損失として損金の額に算入する旨定めている。 損金算入が制限される寄附金について、法人が支出した寄附金とは、金銭その他の資産や経済的な利益の贈与又は無償の供与であり、いわば事業関連性の有無を問わず、対価を伴わない支出であると解されている(法法37⑦)。 また、直接的・個別的な対価を伴わない支出で、かつ、形式上、寄附金の額から除かれる広告宣伝費等の費用に該当しないものであっても、その支出を行うことにより、①対価的意義を有するものと認められる経済的利益の供与を受けている場合又は②営利法人としてこれを受けることなくその支出相当額の利益を手離すことを首肯するに足りる何らかの合理的な経済目的等がある場合には、寄附金の額に含まれないと解されている。 (2) 求められる理由付記の程度 本件更正処分は、X社が、その有するS工業(株)に対する貸付金7,600万円が回収不能であるとして××年12月27日付で債権放棄を書面によってS工業(株)に通告し、同年12月31日付で貸倒損失として損金に計上しているという、X社の帳簿書類の記載又はその前提たる事実を、処分の前提事実としている。その上で、本件理由付記記載の1~5の事由から、この債権放棄が法人税法37条の寄附金に当たるものであるとの法的評価を加えている。したがって、帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をする場合に該当すると考える(ただし、X社が保存するS工業(株)の資産状況や支払能力に関する書類の記載事項を否認するような場合には、帳簿書類の記載自体を否認して更正する場合に該当する余地がでてくる)。 すると、理由付記の程度としては、更正通知書記載の更正の理由が、そのような更正をした根拠について帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示するものでないとしても、更正の根拠を更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するものである限り、法の要求する更正理由の付記として欠けるところはないことになる(最高裁昭和60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号850頁等参照)。 (3) 理由付記の十分性 次のとおり、本件理由付記は、法の求める理由付記として十分なものであると考える。 本件理由付記は、処分の前提事実として、X社が、その有するS工業(株)に対する貸付金7,600万円が回収不能であるとして××年12月27日付で債権放棄を書面によってS工業(株)に通告し、同年12月31日付で貸倒損失として損金に計上していることを記載している。その上で、回収不能であることを客観的に確認することはできないと判断するに至った具体的事実として、本件理由付記記載の1~5の事由を示した上で、S工業(株)に対する債権放棄が寄附金に該当すると記載している。 すると、本件理由付記は、その記載内容から法令上の根拠が明らかになるものであり、かつ、法令上の要件に対応する具体的な事実を記載するものであり、これによって課税庁の判断過程が明らかとなるものである。したがって、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるという理由付記の趣旨目的に適うものであると考える。 ところで、本判決に係る訴訟において、X社は理由付記に根拠法の明示がないと主張した。本判決は、次のとおり述べて、この主張を採用しなかった。 また、X社は、理由付記として、どのような一般に公正妥当と認められる会計基準に従った結果、本件債権放棄による損失の額を損金の額に算入することを否定したのかを明示していないから、理由不備であるとも主張した。これに対して、本判決は次のとおり判示して、この主張を排斥している。 なお、貸倒損失の損金算入を否認するような処分に係る理由付記に関連して、①法令のみならず関連する通達(本件では法人税基本通達9-6-1等)までも理由付記に記載しなければならないのか、②理由付記の趣旨目的と守秘義務(国家公務員法100条、国税通則法126条)との間でどのような調整を図るべきか、という議論がある(本連載【第38回】参照)。 *  *  * 次回は、「債権放棄に基づく関係会社支援損が寄附金に該当すること」を理由とする法人税更正処分の理由付記の事例を取り上げる。 (了)

#No. 251(掲載号)
#泉 絢也
2018/01/11

さっと読める! 実務必須の[重要税務判例] 【第32回】「後発的事由による更正の請求の制度がない場合の不当利得返還請求事件」~最判昭和49年3月8日(民集28巻2号186頁)~

さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第32回】 「後発的事由による更正の請求の制度がない場合の不当利得返還請求事件」 ~最判昭和49年3月8日(民集28巻2号186頁)~   弁護士 菊田 雅裕   (了)

#No. 251(掲載号)
#菊田 雅裕
2018/01/11

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第67回】OSJBホールディングス株式会社「社内調査委員会調査報告書(平成29年12月13日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第67回】 OSJBホールディングス株式会社 「社内調査委員会調査報告書(平成29年12月13日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【社内調査委員会の概要】   【OSJBホールディングス株式会社の概要】 OSJBホールディングス株式会社(以下「OSJB」と略称する)は、大正8(1919)年創立。傘下に、建設事業を営むオリエンタル白石株式会社及び株式会社タイコー技建、鋼構造物事業を営む日本橋梁株式会社の三事業会社を有する持株会社である。売上高51,314百万円、経常利益3,042百万円、従業員数848名(数字はいずれも平成29年3月期)。本店所在地は東京都江東区。東京証券取引所1部上場。 今回、従業員による不正が発覚したオリエンタル白石株式会社(以下「ORSC」と略称する)は、2007年10月、オリエンタル建設株式会社と株式會社白石が合併して発足。2011年12月日本橋梁株式会社と経営統合して、現在に至る。土木構造物の設計、製造、施工及び建築構造物の製造、施工を主たる事業とする。   【調査報告書の概要】 1 調査に至る経緯 2017年8月に開始された東京国税局による税務調査の過程において、ORSCの事業所において、協力会社に対する架空又は水増し発注がなされた疑いがある等の指摘を受けたため、OSJBは、10月12日に社内調査委員会を設置し、国税局による指摘事項の事実解明のために調査に着手した。 2 不正行為の概要 (1) 協力会社と共謀した外注費の水増し・キックバックの受領 元請会社や設計事務所への接待又は社内懇親会費用を捻出することを目的に、協力会社と共謀して、下請代金の水増し又は架空発注を行い、ORSCから協力会社に支払われた水増し金額の一部又は全部をキックバックとして受領していた。 (2) 協力会社に対する架空発注及び外注設計費のプール 予算超過に伴う設計費の充填に関する社内手続きを回避するために、本来、ORSCが受領すべき業務委託料を回収せずに設計事務所にプールさせることにより、又は、架空の設計業務を発注してその金額を設計事務所にプールさせ、実際の設計費が予算超過になった案件発生時に、プール分から予算超過分を充填していた。 (3) スクラップ等の売却代金の着服 工事の過程で不要となった鋼材やORSC所有の装置を、社内に必要な申請を行うことなくスクラップ業者に売却し、売却代金は現場作業員を慰労するための飲食に充てたり、個人的に着服したりしていた。 (4) 販売手数料の他の名目での支払 会社更生手続開始後、更生管財人から、一部の手数料支払行為が好ましくないと指摘され、販売手数料の支払ができなくなったため、PC工法の販売促進を目的とした営業代理店に対する販売促進費の支払について、「施工図代」「設計外注費」名目での支払を行っていた。 (5) 工事原価の付け替え 工事案件について、利益率に関する目標値が達成できないことを回避するため、協力会社と共謀のうえ、別工事のコードを使用して請求書を作成させ、工事原価の付け替えを行っていた。 (6) その他の不正行為 3 不正行為の発生原因 社内調査委員会は、ORSCにおける不正の特性として、不正が、東北・東京・名古屋・大阪・福岡で発生しているところから、地域的な発生範囲が広く、また、現場レベルで個別・独立に不正が行われていることを挙げたうえで、その原因を以下のようにまとめている。 調査委員会が指摘した、不正行為を誘引した原因の1つが、「交際費の不足及び給与額の減少」であった。これは、ORSCが2008年11日に会社更生手続開始の申立てを行ったことに起因して、交際費の使用が認められなくなり、給与額もカットされたことから、営業交際費や現場での慰労費を捻出するためにキックバックを行うようになったというものである。 ここに、「コンプライアンス意識の欠如=個人的な利益目的ではないという正当化」が重なり、多数の従業員が、同様の不正行為を行うようになっていったと分析している。 そして、こうした不正を長期にわたって見逃してきた原因として、内部監査や支店監査において、「現場不正」という観点からの監査が行われることがなかったという、「リスク評価・管理体制の不完全さ」が挙げられている。 なお、本件不正は、前述のとおり、国税局の税務調査の過程で発覚したわけであるが、会計監査人であるあずさ監査法人が、不正の兆候に気づかなかった点については、調査報告書には特にコメントはない。 4 再発防止策の提言 社内調査委員会による再発防止策の提言は、発生原因に対応した形で、次のようにまとめられている。   【調査報告書の特徴】 「交際費使用が社内において厳しく管理されていることから、協力会社に対する水増し発注を行って金員をキックバックさせ、これを懇親会費用に充当する」という、今までも繰り返し行われてきた従業員不正が、またしても発覚した。 なぜ、不正を防止するための統制手続が取られていなかったのか。連載【第67回】として、この調査報告書を取り上げることにした理由は、この点に尽きる。 本連載でも、従業員によるキックバック事件としては、東テク株式会社、株式会社クワザワ、株式会社高田工業所の事例などがあり、決してめずらしい不正とはいえない。しかし、残念ながら、こうした同業他社の事件は、OSJBホールディングス経営陣にとって「他山の石」とはならなかったようだ。 1 持株会社による事業会社の監視監督 上場持株会社の連結子会社である事業会社における不正事件では、親会社の社外取締役・社外監査役を中心とする調査委員会が設置されることが多い。 親会社の取締役等が、事業会社の業務執行に関わっていない状況であれば、そうした委員会の組成に問題があると一概には言えないところだが、OSJB社内調査委員会の組成には、いささか問題を感じざるを得ない。 まず、取締役・監査役の兼務状況を確認しておきたい(あみかけで示した4名が、兼務が認められる社内調査委員会のメンバーである)。 調査委員会の委員の選定基準について調査報告書にはコメントがないため、不正があった連結子会社の執行役員でもある調査委員会委員長・委員に、独立性と中立性が期待できないことは言うまでもないと思われる。 2 従業員不正に対する認識の甘さ 社内調査委員会による調査報告書を読んで筆者が最も驚いた箇所が、発生源の1つとされている「コンプライアンス意識の欠如」の項にあった(報告書p.22)。 「当社の社員に不正を働く人間はいない」と思い込むことによって、従業員による不正の防止・早期発見策を講じないことは思考停止でしかない。3名の社外取締役と3名の社外監査役を置き、「経営の監視機能の面では十分に機能する体制が整っている(平成29年3月期有価証券報告書p.31)」と自己評価を行っていたOSJBであったが、従業員による不正リスクについては、無防備であったようである。 社内調査委員会による再発防止策の提言の中で、「経営陣の意識改革」という項目がなかったことは、社内調査委員会の性格から仕方のないことかもしれないが、本来、再発防止策の最上位に位置すべき対策であると思われる。 3 再発防止策の提言に関する違和感 上述した再発防止策の提言内容は一般的なものであったが、1(主観的・属人的な原因)の「(2)協力会社対象の内部通報制度・協力会社に対するコンプライアンス教育」の内容について気になった点があったので、取り上げておきたい。 同項目で説明されている、協力会社が組織する「オリ白協力会」で、今回の不正行為の内容、ORSCのコンプライアンス体制、罰則規定などを説明することを検討し、協力会社も内部通報制度を利用できるようにするといった再発防止策は、同様の不正を抑止することには効果があるかと思われるが、「協力会社に対する教育」という文言は、いささか不適切なのではないだろうか。 共謀させられた協力会社にしてみれば、東証1部上場企業との取引を失いたくないからこそ、「悪いと知っていながら協力する」ことを余儀なくされたわけであり、自分たちはむしろ被害者であると考える会社も多いと思われる。 であるならば、社内調査委員会からすれば、OSJBグループでの不正を防止するために、協力会社に内部通報やアンケートで情報提供を依頼することを提言に加えることは不可欠であるものの、「教育」すべきは、「協力会社」よりもむしろ「OSJBグループの役員・従業員」であるべきではないだろうか。 (了)

#No. 251(掲載号)
#米澤 勝
2018/01/11

外国人労働者に関する労務管理の疑問点 【第10回】「外国人の不法就労による事業主のリスクとその予防策」

外国人労働者に関する 労務管理の疑問点 【第10回】 「外国人の不法就労による事業主のリスクとその予防策」   社会保険労務士・行政書士 永井 弘行     1 外国人雇用に対する事業主の義務・責任 事業主の立場で重要なことは、雇用する外国人に「不法就労」をさせない、ということです。 外国人を雇用した際に「法律違反をするつもりはないのに、不法就労の状態になっていた」という事態にならないよう、日本人従業員を雇うときの法令(労働基準法、最低賃金法、その他の法令)は当然として、外国人に固有の入管法のルールや制限も守る必要があります。 また入管の手続きではありませんが、行政機関への届出として、外国人を雇うときはハローワーク(公共職業安定所、以下「職安」)に届け出ることが必要です(詳細は後述します)。   2 どんなケースが外国人の不法就労になるのか 次の(ア)~(ウ)のケースは、すべて不法就労となります。 冒頭の「飲食店アルバイトの不法就労」のニュースでは「専門学校を除籍になった後も、アルバイトを続けていた」と報道されています。 留学生が資格外活動の許可を得てアルバイトができる期間は、「教育機関に在籍している間に行うものに限る」と定められています(入管法施行規則第19条第5項1号)。 退学や卒業で学校に在籍しなくなれば、「留学」の在留資格の期限が残っていても「元留学生」となり、留学生とは認められません。そうなれば、資格外活動の許可を得ていても、アルバイトをすることはできません。このようなケースは、本人が会社に申告しなければ会社側で気づかない場合がありますので、注意が必要です。 なお、この取り扱いは本連載の【第1回】「外国人留学生をアルバイトで雇用するときは?」では取り上げていませんでしたが、起こり得るケースですので、留意してください。   3 外国人雇用に関して国への届出が必要な事項 会社が外国人を雇用したときは、社員・アルバイトを問わず、ハローワーク(職安)への届出が必要です。 社員など雇用保険の被保険者の場合は、「雇用保険被保険者資格取得届」の備考欄に、外国人の国籍・地域、在留資格、在留期間、資格外活動許可の有無などを記入して届出を行い、雇用保険に加入しないアルバイト従業員の場合は、「雇入れ・離職に係る外国人雇用状況届出書」に、氏名、在留資格、在留期間、生年月日、性別、国籍・地域、資格外活動許可の有無、雇入れ年月日などを記入して届出します(書式のサンプルは本連載の【第6回】、【第1回】を参照)。 これらは雇用対策法、入管法によって届出が求められており、ハローワーク(職安)に届出を行えば、原則、入国管理局への届出(中長期在留者の受入に関する届出)は不要です(入管法第19条の17)。 ちなみに、冒頭の「飲食店アルバイトの不法就労」のニュースでは、「会社は、国への必要な届出を行っていなかった」と報道されていますが、これは、アルバイト従業員の「外国人雇用状況届出書」のことではないかと推測されます。   4 不法就労をさせた事業主への罰則 (1) 入管法の罰則 外国人に不法就労をさせた事業主は、入管法の罰則に基づき処罰されます。 次の①~③のどれかに該当する場合には「3年以下の懲役または300万円以下の罰金」が科され、または、両方の処罰が行われることもあります(入管法第73条の2)。 (2) 雇用対策法の罰則 外国人を雇い入れた場合や、外国人が離職した場合に、厚生労働大臣(ハローワーク)への届出を行わなかったり、虚偽の届出を行った事業主は、雇用対策法の罰則に基づき「30万円以下の罰金」が科されます(雇用対策法第40条)。   5 不法就労を防ぐための確認事項 上記の2の(ア)~(ウ)の不法就労のケースを防ぐために、事業主は、それぞれ次の確認をする必要があります。 入管法や在留資格の知識がなければ、こうした状況のどこが問題で、何が違法なのかが分かりにくいかと思います。 そのため判断が難しいと感じたときは、入国管理局や入管インフォメーションセンター、入管業務を取り扱っている行政書士などに相談するのが賢明です。   6 もし外国人がオーバーステイ(不法残留)の状態になっていたら もし外国人の在留カードに記載された在留期間(満了日)が過ぎていたり(不法残留)、在留カードを持っていない場合は、「不法滞在者」に該当するおそれがあります。 外国人が不法滞在であることがわかったときは、入国管理局は「すみやかに最寄の入国管理局に出頭させてください」としており、不法滞在者が自ら入国管理局に出向いて、出国命令制度に基づき、帰国することを勧めています。 もし、外国人が自ら出頭しない場合は、退去強制(国外退去)の事由に当たるため、入国管理局の行政手続により外国人の身柄が収容され、日本国外に強制的に退去させられることになります。 *  *  * 次回は「外国人の転職者を採用するときの手続き、確認事項」について説明する予定です。 (了)

#No. 251(掲載号)
#永井 弘行
2018/01/11

税理士のための〈リスクを回避する〉顧問契約・委託契約Q&A 【第5回】「監査法人(公認会計士)が関与している関与先における税理士の注意義務」

税理士のための 〈リスクを回避する〉 顧問契約・委託契約Q&A 【第5回】 「監査法人(公認会計士)が関与している関与先における 税理士の注意義務」   弁護士・税理士 米倉 裕樹 弁護士・ 関西大学法科大学院教授 元氏 成保 弁護士・税理士 橋森 正樹   Q X社は、会社法2条6号の大会社に該当し、決算について会計監査人の監査を受けることが義務付けられており(同法328条)、大手監査法人AがX社の会計監査人となっていた。そして、税理士YはX社との間で税務顧問契約を締結しており、毎年、X社から法人税確定申告書等の作成と税務代理の委任を受けていた。 X社の経理担当者Bは、インターネットを使って調べている中で、自社の自己資本比率が50%以下であった場合、租税特別措置法に規定されている特例制度(以下、「本件特例」という)を用いることができ、税負担を軽減することが可能であることを知った。そこで、Bは、日頃からよくコミュニケーションをとっていた監査法人Aの担当者である公認会計士Cに、「自社の自己資本比率を計算したいのだが、計算方法がよく分からないので、教えてほしい」と依頼した。 Cは税理士登録をしていなかったが、Bの依頼を受け、代わってX社の自己資本比率を計算した上で、Bに対し、「以下のとおり、X社の自己資本比率は60%となります」との結論と計算過程を記載したメモを手渡した。 当該期の法人税の申告書の作成に際し、Bは税理士Yに対し、「既に監査法人に確認してもらったところ、当社の自己資本比率は50%を超過していました。したがって、本件特例を適用させることはできません。前年の申告と同じように申告して下さい。」と依頼し、Cから受け取ったメモを手渡した。 Yは、申告書の提出期限まで日がなかったこともあり、Bから受け取ったメモについて、精査することなく誤記と思われる部分を訂正する程度でそのまま用いて、本件特例を適用しない法人税確定申告書を作成し、税務署に提出した。 後日、X社と監査法人Aとの関係が悪化し、会計監査人が別の監査法人に交代することとなった。そして、その新しい監査法人の担当者が、X社の自己資本比率は45%であり、本件特例を適用させることができたと指摘した。 実際にX社の自己資本比率が45%であった場合、本件特例を適用しない法人税確定申告書を提出したYは、X社からその責任を問われ得るのか。 A 本連載の【第2回】でも触れたとおり、税理士のような専門家については、善管注意義務の内容として、依頼者から依頼された内容の実現にあたり、関係法令や実務に通じた標準的な専門家として尽くすべき配慮をしなければならず、また、善管注意義務の一環として、依頼者に対して、有効かつ必要な情報を提供し、依頼者が適切な判断をなし得るように助言をする義務を負うと解されており、それは、原則として、依頼者から特別の指示や要求があったか否かに関わらないものと考えられている。 上記の事例は、大阪地裁平成20年7月29日判決(TAINSコード:Z999-0118)を題材としたものである。この事例において、原告会社は、監査法人と税理士双方に対して損害賠償を請求したが、判旨は、 とした上で、作業時間が限られていたという被告税理士の主張をも排斥した上で、税理士に対する損害賠償請求を認めた(ただし、原告会社の担当者(事例の場合B)にも過失があるとして、一定の過失相殺が認められている)。 一方、判旨は、監査法人についても過失の存在を肯定したが、「税理士としての過誤が重大であって、被告監査法人の行為と原告の損害との間の法的な因果関係は中断されている。」として、監査法人に対する損害賠償請求は棄却した。 税理士が依頼者に対して負う善管注意義務の具体的内容については、依頼者から不適切な提案がなされた場合には、その提案に沿って処理するのではなく、依頼者にその旨を指摘するなどして、依頼の趣旨に従って依頼者の信頼に応えるようにしなければならないとする裁判例(千葉地裁平成9年12月24日判決)がある一方、依頼者が資料提供等の協力をせず、時間的制約がある等の事情のあった場合において、税理士の損害賠償責任を否定する裁判例(東京地裁平成13年10月30日判決)もあり、結局は、個別具体的な事情に基づいて判断する他ない。 本件の特徴は、単に依頼者が勘違いや誤解の下で税理士に対して誤った指示をしたというものではなく、その誤った指示が専門家たる監査法人の担当者の助言に基づいたものであった点にある。 しかし、判決においては、 などと、本件特例の適用の可否を確認することが本来の監査法人の業務ではないことが殊更に強調され、税理士のみがその責任を負うものとされている。 *  *  *  * 複数の専門家が関与する場合、黙示的にそれぞれの役割分担がなされることも多い。そして、そのような場合、自身の分担ではなく他の専門家の役割とされた業務については、その信頼の下、あえて十分なダブルチェックまでは行わないケースもあり得よう。 しかしながら、他の専門家が行い、自らは何らの関与もしなかった業務に関しても、何らかの過誤があった場合には責任を問われるケースは十分に想定し得るので、それを防止するためには、あらかじめ自らがなすべき業務について依頼者との間で明確に合意をし、それを書面化しておくことが望ましいといえる。 (了)

#No. 251(掲載号)
#米倉 裕樹、元氏 成保、橋森 正樹
2018/01/11

これからの会社に必要な『登記管理』の基礎実務 【第11回】「株主管理の仕組みづくり」-株主名簿整備〈着手編〉-

これからの会社に必要な 『登記管理』の基礎実務 【第11回】 「株主管理の仕組みづくり」 -株主名簿整備〈着手編〉-   司法書士法人F&Partners 司法書士 本橋 寛樹   はじめに 前回の株主名簿整備の必要性をふまえて、本稿では、株主名簿を整備するための手順について解説する。 自社の株主管理を本格的に見直したいと考えている読者は、株主名簿整備のための下記3ステップに着手してみよう。これらのステップを実践することにより、自社の株主をどの程度管理できているかを把握し、今後の株主管理の体制づくりのベースを築くことができる。 《株主名簿整備のための3ステップ》 それでは各ステップを詳しくみていこう。   ステップ①:株主に関する資料を集める まず、株主に関する資料を集める必要がある。 多くの読者が活用する資料は、次の3点になると思われる。 このうち「自社でWordやExcel等で管理しているデータ」は、その作成時、別表二や原始定款等の株主に関する資料を参照しているはずである。このため、どの資料をもとに作成されたかを精査することが望ましい。 なお、拙稿の「株主名簿整備の方法と会社のリスクマネジメント」のなかで、資料名とその詳細について解説しているので参考とされたい。 【登記記録から株主情報の変更を読み取れる場合】 登記記録には株主の氏名及び住所は記載されないが、株主に関する資料とあわせて登記記録を精査すると、会社が把握していた株主情報に変更があることを読み取れる場合がある。 ① 代表取締役の住所の記載 株式会社の代表取締役は氏名及び住所が登記される(会社法第911条第3項第14号)が、その代表取締役が株主の場合、別表二に記載の住所と登記記録に記載の住所が異なっていることがある。別表二の住所の記載が古ければ、その記載を最新の状態に更新すればよい。 一方、登記記録上の住所の記載が古ければ、代表取締役の住所変更の登記手続をする必要がある。 《別表二の記載例》 《登記記録例》 ② 原始定款 原始定款には、会社設立当時の株主(発起人)の氏名及び住所、割当株式数が記載される。登記記録の発行済株式数と記載が異なっていれば、会社設立後に株式数が変更されたと読み取れる。 《原始定款の記載例》 《登記記録》   ステップ②:株主名簿の記載事項に当てはめる ステップ①の資料をもとに、株主名簿の書式に当てはめる。株主名簿の書式は、少なくとも株主名簿の記載事項が網羅されていれば任意のものでよい。 《株主名簿の記載事項(会社法第121条)》 (※) 株券を発行しない会社では株券番号はなし。一例として備考欄に株券不発行と記載する。 《記入例》   ステップ③:株主全員と連絡が取れるかを確認する ステップ②で記載した株主名簿において、次のような株主はいなかっただろうか。 これらの株主は、今後会社から株主への連絡が困難となり、株主の所在が不明となりうる例である。 ①に関して、相続により株式を取得した者は、会社に株主名簿の書換を請求することができる(会社法第133条第2項)。 また②に関しては、株主の住所に変更がある場合、一般的な定款では、次のように、株主が会社に届出する旨の規定が定められている。 《定款の規定例》 しかし、株式を取得した者や株主(以下、「株主側」という)がこれらの会社法や定款の規定を知っているとは限らない。そうなると、株主側から変更の届出や名義書換の請求がなされるという保証はない。 会社が株主側から変更の届出や名義書換の請求を待ち、株主の相続や住所等の情報を知らないという状況が続けば、いずれ会社から株主側に連絡を取ることさえ難しくなってしまうだろう。 そこで、株主の所在が不明となり、株式が分散する前に、会社から株主側に対して連絡を取ることを推奨したい。上記①②のケースに対して下記のとおり対応することで、株式の分散の防止につなげられる。 ① 亡くなっている株主がいる場合 〈対応策〉 株式の相続の詳細を相続人に聴取し、会社から株式の売渡しの請求を行う。 ② 退職した役員や従業員が株主である場合 〈対応策〉 株式の売買を持ちかける。   連絡が取れない株主への対応 まったく連絡が取れない株主であっても株主の権利が失われるわけではない。 連絡が取れない株主が保有する株式を会社が処分する手段として、例えば、裁判所が関与する、「所在不明株主の株式売却制度」がある。 (注) 5年以上の継続した期間や官報公告等の諸手続を要する点に着目されたい。 株主側と連絡が取れなくなってから対応するよりも、株主側と連絡が取れるうちに、裁判所の関与なしで株主側との話し合いのうえ、会社が株式を取得する等の対応を取る方が会社にとって負担が少なく済むのではないだろうか。   中長期的な株主管理に向けて 株主名簿整備のための3ステップを実践してみて、自社の株主名簿は漏れなく整備できたたろうか。 もし株主名簿を整備する過程で株主に関して不明確な情報があれば、株主に関する資料の保管方法や会社が株主と接触する頻度が万全ではないといえる。 *  *  * 次回は、株主に関する資料の保管方法や会社が株主と接触する頻度に着目し、中長期にわたって株主管理を行うための運営方法について解説する。 (了)

#No. 251(掲載号)
#本橋 寛樹
2018/01/11
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