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M&Aに必要なデューデリジェンスの基本と実務-財務・税務編- 【第6回】「運転資本の分析(その4)」-棚卸資産-

M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 -財務・税務編- 【第6回】 「運転資本の分析(その4)」 -棚卸資産-   公認会計士 石田 晃一   ←(前回) | (次回)→   ▷棚卸資産の調査 棚卸資産とは、販売用の製品・商品及び製作途中の仕掛品・半製品、製品生産用の原材料等を指すほか、製品カタログや梱包用の消耗資材などの「貯蔵品」も棚卸資産に含められることが多い。業態によっては、例えば「販売用不動産」等も「棚卸資産」となるが、本稿では主として製造業を中心として考察を進めることにする。 製造業の場合、棚卸資産は販売までに要した取得原価(製造原価)で貸借対照表に計上され、外部に販売された段階で、当該原価に適正な利潤が上乗せされ、売上債権に振り替わる。M&Aに際して棚卸資産の調査を行う場合のポイントは、棚卸資産の取得原価が販売によって適正な利潤を上乗せした金額に換価可能なものかどうか、すなわち「棚卸資産の評価額の適正性」にある。 棚卸資産のデューデリジェンスにおける主な手続は、下記のとおりである。   ▷「不良在庫」の見極め方と峻別の方法 本稿では、品質や性能に瑕疵がある等の理由から、現状有姿での定価販売が困難なものを「不良在庫」と呼ぶことにするが、棚卸資産の評価で問題となるのは、こうした「不良在庫」の見極め方と、これらの適正な評価額はいくらであるか、という点であろう。 一口に「不良在庫」と言っても、それらの中には以下のように様々なものが含まれている。 こうした「不良在庫」は、やむを得ず長期にわたり在庫として保有されている場合が多く、「滞留在庫」、「不動在庫」、「長期在庫」等と呼ばれることも多い。ある企業では、素材的に劣化が起こらないことを理由に、何十年も前に製造した製品が取得原価のまま在庫として計上されているケースもあった。品質に問題はなくとも、何十年も売れていない在庫は、果たして「正常な在庫」と言えるのであろうか。 上場企業等では、「不良在庫」について定期的に有税評価減を行っているケースも多く、この場合には税務申告における調整項目を把握することで、「不良在庫」の峻別と評価がどのように行われているかを把握できるが、非上場企業においてはそうした評価減を制度的に採用している企業は稀であろうし、とりわけ業績が悪化している企業の場合、こうした評価減を実施していない場合も多い。 このような場合、貸借対照表に計上されている棚卸資産のリストを数年分、できれば電子データ形式で入手し、これらを時系列で比較し、数量や金額に変動の見られないアイテムを抽出するとともに、在庫現物を目視して、在庫リストとの照合を行う、といった方法で、「不良在庫」の可能性のあるものを愚直にピックアップしていく必要がある。 ただし、棚卸資産は通常、膨大な量となることが多いため、現物の目視や在庫リストの照合を行う前段階として、こうした「不良在庫」の存在有無について、経営者や在庫管理担当者等にヒアリングするとともに、主力製品の品質面、機能面に問題が生じるような事象が生じていないか等について、例えば新製品の投入頻度や、当該新製品投入で代替される製品の有無、製品カタログの更新でカタログ落ちした製品の有無等について、多面的に聴取することで、こうした問題を孕んだ在庫の発生余地を把握することも有用であろう。   ▷「不良在庫」の評価方法 こうして峻別された「不良在庫」について、それらが内包している問題を踏まえ、どの程度の価値を有しているかを判断し、適正と思われる水準で評価額を与えていくことになる。 実務的には、峻別された個々の製品等について、それらが具体的にいくらの価値を有するかを個別に判定することは、技術的にも時間的にも困難な場合も多い。 自動車・船舶等の輸送機器や、汎用的な産業用機械等、中古品市場が確立されている場合には、こうした市場での売買事例をもって評価額とすることも可能であるが、そうでない場合には、金額的に重要な製品に絞って分析する等の対応が取られたり、同質の製品ごとに分類した上で、その分類ごとに一定の「掛け目」を乗じて評価することも多い。評価減を行う「掛け目」としては、製品寿命との関係等から、時の経過に伴う価値の減衰を「マイナス50%の評価減」、「ゼロ評価」等といった形で大まかに評価することもよく用いられる手法である。 品質に致命的な問題があり、もはや製品として販売することは困難な場合には、売却価値というよりは処分価値、すなわち「スクラップ価格-処分費用」等による評価となろう。   ▷「不良在庫」の存在が意味するもの こうした「不良在庫」が多額に計上されている場合、生産管理や在庫管理、販売予測の立案プロセスなどに問題がないか、十分に吟味する必要があるだろう。 上記はいずれも筆者らが実際に経験した実例の一部であるが、不良在庫の発生要因としては、想定外の経済事象の変化や得意先の事情によるケースも見受けられるものの、多くは経営者の判断ミスにより不良在庫が発生した、というケースが多い。不良在庫の存在は、買収対象企業の経営判断能力のレベルを映す鏡でもあると言えよう。 (了)

#No. 278(掲載号)
#石田 晃一
2018/07/26

連結会計を学ぶ 【第23回】「持分法に関する投資と資本の差額」

連結会計を学ぶ 【第23回】 「持分法に関する投資と資本の差額」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 今回は、持分法の会計処理に関して、投資と資本の差額及びその償却について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 持分法の会計処理 1 基本的な会計処理 「持分法」は、投資会社が被投資会社の資本及び損益のうち投資会社に帰属する部分の変動に応じて、その投資の額を連結決算日ごとに修正する方法である(「持分法に関する会計基準」(企業会計基準第16号。以下「持分法会計基準」という)4項)。 投資会社の投資日における投資とこれに対応する被投資会社の資本との間に差額がある場合には、当該差額はのれん又は負ののれんとし、のれんは投資に含めて処理する(持分法会計基準11項)。 投資会社は、投資の日以降における被投資会社の利益又は損失のうち投資会社の持分又は負担に見合う額を算定して、投資の額を増額又は減額し、当該増減額を当期純利益の計算に含める(持分法会計基準12項)。 のれん(又は負ののれん)の会計処理は、「企業結合に関する会計基準」(企業会計基準第21号)32項(又は33項)に準じて行う(持分法会計基準12項)。 2 設例 【設例1】 投資会社と被投資会社(関連会社:20%)の個別貸借対照表は次のとおりとする。 〈関連会社株式の取得時の個別貸借対照表〉 関連会社株式を取得した時、関連会社の資産及び負債の簿価と時価は一致していたものとする。 ① 投資会社の個別財務諸表における関連会社株式の取得 関連会社株式を取得した時(20%の株式を購入)の会計処理は次のとおりである(上記の投資会社の個別貸借対照表に反映済み)。 ② 連結財務諸表における持分法の適用(関連会社株式の取得時)  ⇒仕訳無し 持分法の適用に際して、関連会社株式の取得原価100と関連会社の純資産500(資本金400+利益剰余金100)に対する20%である100が一致している。 このため、投資会社の投資日における投資とこれに対応する被投資会社の資本との間に差額がないので、のれん又は負ののれんは発生しない(持分法会計基準11項)。 〈関連会社株式の取得から1年後の個別貸借対照表〉 関連会社は、1年間の事業活動によって、当期純利益50を獲得した。 ① 投資会社の個別財務諸表における関連会社株式の会計処理 関連会社株式(20%の株式を保有)は、取得原価をもって貸借対照表価額としている(「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号)17項)。 このため、関連会社株式を取得した時の取得原価100が貸借対照表計上額となっている。 ② 連結財務諸表における持分法の適用(関連会社における当期純利益の計上) 当期純利益50の20%持分額は10(=50×20%)である。 【設例2】 もし、関連会社株式の取得時の個別貸借対照表が次の場合には、関連会社株式の取得原価120と関連会社の純資産500(資本金400+利益剰余金100)に対する20%である100との間に、差額20(=120-100)が発生することになる。 当該差額20は、のれんとして会計処理することになる(持分法会計基準11、12項)。 〈関連会社株式の取得時の個別貸借対照表〉 例えば、のれんを5年間で償却する場合の会計処理は次のようになる。 のれんの償却額4(=20÷5年)を計上する。 (了)

#No. 278(掲載号)
#阿部 光成
2018/07/26

改正法案からみた民法(相続法制)のポイント 【第6回】「遺留分制度の見直し」

改正法案からみた 民法(相続法制)のポイント 【第6回】 「遺留分制度の見直し」   弁護士 阪本 敬幸   (※) 下記法務省ホームページの記載による。 「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)」 「法務局における遺言書の保管等に関する法律について」 前回は自筆証書遺言の方式緩和等、遺言制度の見直しについて解説したが、今回は遺留分制度の見直しについて解説する。   1 はじめに 現行民法では、遺留分減殺請求権の行使によって当然に物権的効果が生じるとされているため、例えば相続財産に不動産がある場合、不動産の共有持分が遺留分となる。しかしこのような結論は、共有関係の解消をめぐって新たな紛争を生じさせること、事業承継を困難にさせるといった問題が指摘されていた。 これを受けて法案においては、遺留分権の行使により生じる権利は金銭債権とされ、これが遺留分制度に関する改正の中心である。 このように法案では、遺留分権の行使は、遺留分を「減殺」するものではなく、侵害された遺留分に相当する金銭を請求するものとされたため、遺留分権を行使する請求権を「遺留分侵害額請求権」と呼んでいる(法案1046条、1048条等)   2 遺留分を算定するための財産の価額 現行法上も、遺留分を算定するための財産の価額を基本として、具体的遺留分の計算が行われている。 法案ではこのことを明確にするために、「遺留分を算定するための財産の価額」を、被相続人が相続開始時に有した財産の価額に贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額と定義し(法案1043条1項)、これに遺留分割合を乗じた額が遺留分となると定められた(法案1042条1項)。 遺留分割合や基本的な計算方法については、現行法と変わりはない。   3 遺留分を算定するための財産の価額に算入する贈与の範囲 現行法上、「贈与は、相続開始前の1年間にしたもの」が遺留分の算定の基礎となるとされているが(民法1030条)、判例(最高裁平成10年3月24日判決)及び実務では、この条文は相続人以外の第三者に対して適用されるものであり、相続人に対する贈与は贈与の時期を問わず遺留分算定の基礎とされてきた。 しかし、全ての贈与が遺留分算定の基礎とされると、大昔の贈与も遺留分算定の基礎となり、このような場合に遺留分減殺請求があったとすれば、まず遺贈から減殺されるため、受遺者は自分が知らない大昔の相続人に対する贈与が原因となって減殺を受けるということとなり、受遺者に不測の損害が生じる恐れがある。 このため、相続人に対する贈与のうち、相続開始前10年間になされた、婚姻若しくは養子縁組のため又は成型の資本として受けた贈与に限って、遺留分を算定するための財産の価額に算入されることとなった(法案1044条3項)。   4 負担付贈与がされた場合における遺留分を算定するための財産の価額に算入する贈与の価額等 現行法上、負担付贈与があった場合、目的の価額から負担の価額を控除したものについて減殺を請求できるとされている(民法1038条)。 法案も、負担付贈与があった場合、法案1043条1項に規定する贈与した財産の価額は、目的の価額から負担の価額を控除した額とするとされた(法案1045条1項)。現行法では、負担付贈与であっても、贈与額全部を遺留分算定のための財産の価額に加えて遺留分を算定しつつ、減殺の対象を負担額控除後の額とすると解釈する余地があったが、法案ではこのような解釈の余地は無くなった。 また現行法上、不相当な対価をもってした有償行為(廉価での売買等)について、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知っていた場合には、これを贈与とみなし、遺留分権利者が遺留分減殺を請求した場合には、対象財産全部の減殺が認められ、(不相当な)対価を侵害者に償還することとされている(民法1039条)。 しかし法案により、遺留分権者の請求権が金銭債権化されたため、現行法のような「遺留分減殺及び対価の償還」という処理ではなく、全て金銭的に処理することになる。このため、不相当な対価をもってした有償行為は、対価を負担の価額とする負担付贈与とみなし、上記法案1045条1項に従って処理されることとなった。   5 遺留分侵害額の請求 冒頭で述べたように、遺留分権者の請求権は金銭債権化されて「遺留分侵害額請求権」とされ、法案1046条1項に定められた。これに伴い、遺留分減殺請求権を定める現行民法1031条、1032条は削除された。 また法案1046条2項には、遺留分侵害額の具体的計算方法が規定された。規定された計算方法は、現行実務と同様であり、以下の通りである。   6 受遺者又は受贈者の負担額 受遺者・受贈者の遺留分侵害額の負担の順序(法案1047条1項)については以下の通りであり、現行法(民法1033条ないし1035条)と特に変わるところはない。 また、受遺者又は受贈者の無資力によって生じた損失は遺留分権利者が負担する点(法案1047条4項)も、現行法(民法1037条)と同様である。 さらに、遺留分権の行使により金銭請求権が発生することとなったことに伴い、以下のような変更がなされた。 ③は、実質的には相殺(遺留分侵害額請求権と、受遺者・受贈者が遺留分権利者に対して取得する求償債権との相殺)であるが、相殺適状が生じていないような場合(例えば、遺留分権利者が承継した債務が弁済期前であったが、受遺者・受贈者がこれを弁済した場合には、弁済期到来まで相殺適状とはならない)など、相殺ができない場面でも、相殺的な処理を可能とするものである。   7 遺留分侵害額請求権の期間の制限 現行法(民法1042条)と同様である。遺留分侵害額請求権は、相続の開始及び遺留分侵害の事実があったことを知った時から1年、相続開始の時から10年で、消滅時効により消滅する。 (了)

#No. 278(掲載号)
#阪本 敬幸
2018/07/26

今から学ぶ[改正民法(債権法)]Q&A 【第2回】「消滅時効(その2)」

今から学ぶ [改正民法(債権法)]Q&A 【第2回】 「消滅時効(その2)」   堂島法律事務所 弁護士 奥津  周 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎   【Q】 一定の理由で時効が中断される場合等について、見直しがあるようですが、どう変わるのでしょうか。 【A】 以下のように見直される。   1 現行法の時効の中断、時効の停止の制度 本連載【第1回】でも解説したとおり、消滅時効とは債権者が権利を行使しないまま一定期間が経過した場合、その権利を消滅させる制度である。一方、時効期間満了までに一定の法定の事由が生じたときには、時効期間がリセットされたり、時効の進行が一定期間停止するものとされている。これを現行法では、「時効の中断」または「時効の停止」という。 (1) 時効の中断 「時効の中断」とは、法律で定められた一定の事由が発生した場合に、それまで経過した時効期間はリセットされ、中断事由が終了したときから、新たに時効期間が進行する制度である。具体的には、債務者が一部弁済をするなど債務の承認にあたる行為をした場合(承認、現行法147条3号)や、債権者がその債権を請求する訴訟を提起した場合(請求、現行法147条1号、149条)などが中断事由として定められている。 また、「催告」も時効の中断事由として定められているが(現行法153条)、これは時効期間をリセットするものではなく、一定期間、その完成が猶予される制度である。 【時効の中断(現行法)】 (2) 時効の停止 一方、「時効の停止」とは、時効期間が満了するときに、債権者が訴訟を提起するなどして時効を中断することができない事情がある場合に、その事情が消滅してから一定期間が経過するまで時効の完成を猶予する制度である。具体的には、時効期間の満了直前に天災等が生じて訴訟を提起することなどができないときには、それが解消してから2週間の間は時効の完成が猶予される(現行法161条)。 【時効の停止(現行法)】   2 改正の内容 上記のとおり、現行法は「時効の中断」、「時効の停止」という用語が使われている。しかしながら、「中断」という言葉は、時効期間をリセットするという効果を想定しにくいし、また「中断」の効果には時効期間のリセットと完成猶予の概念とがあり、わかりにくかった。また、「停止」という言葉からも、完成が猶予されるという効果は想定しにくいと言われていた。そこで、以下のとおり用語を変更し、時効制度を整理することとした。 時効の中断事由については、その効果に着目し、時効期間が満了しても時効が完成しない事由である「完成猶予」と、時効期間をリセットして新たに1から時効が進行するという「更新」という2つの制度を作り、時効制度が再構成されている。 主な現行法の中断事由がどうなるかについては以下のとおりである。 また、現行法の時効の停止事由については、「完成猶予」事由とされた(改正法158条~161条)。 こうした時効制度の再構成については、実務上大きな影響はないといえるが、どうすれば時効期間をリセットできるのかなどについては、今一度整理していただきたい。   3 その他 (1) 天災等による完成猶予期間の伸長 天災等により時効中断事由がとれないときに、現行法においても、時効の停止(完成の猶予)が認められることは先に解説したとおりであるが、「天災等が解消してから2週間しか完成が猶予されないのは期間が短すぎるのではないか」という意見があった。 特に昨今は大きな災害が相次いでいるため、改正法ではこれを伸長し、その障害が消滅した日から3ヶ月間は時効の完成が猶予されるものとされた(改正法161条)。 (2) 協議による時効完成の猶予 現行法では、紛争解決のために当事者が協議し、さらに協議を継続すれば協議による解決が見込める場合でも、時効期間が迫っているときには、時効の完成を阻止するために訴訟を提起しなければならず、協議による解決の支障となることがあると指摘されていた。そこで、当事者の協議による柔軟な解決の道を拡げるため、改正法では、当事者の協議による時効の完成の猶予を認めることとした。 具体的には、当事者が書面または電磁的記録で協議を行う旨の合意をしたときは、次に掲げる時のいずれか早い時までは、時効の完成が猶予されるものとされた(改正法151条)。 時効に関する規定は強行法規であり、改正法下においても、例えば当事者の合意によって時効期間を延長することは認められないが、例外的に、当事者の合意によって一定の範囲で時効の完成時期を変更することを認めたものといえる。 (了)

#No. 278(掲載号)
#奥津 周、北詰 健太郎
2018/07/26

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例27】株式会社妙徳「会計監査人の異動に関するお知らせ」(2018.6.11)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例27】 株式会社妙徳 「会計監査人の異動に関するお知らせ」 (2018.6.11)   事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる適時開示は、株式会社妙徳(以下「妙徳」という)が平成30年6月11日に開示した「会計監査人の異動に関するお知らせ」である。 一見すると、よく見る平凡な、会計監査人の異動に関する開示である。異動の理由も、「定時株主総会終結の時をもって任期満了」という決まり文句となっている。 しかし、最初の主文が次のように記載されている。 機関決定日と開示日が異なり、遅延開示なのだ。しかも、1日や2日の遅延ではないため、「決議いたしましたが、(中略)開示しておりませんでしたので、下記のとおりお知らせいたします」という、なかなか目にしない言い回しがなされている。 筆者は、当初、「2月13日に開示すべきものを6月11日に開示するとは、4ヶ月も遅延したのか」と思っていた。 しかし、よく見るとそうではない。平成29年2月13日に開示すべきものを平成30年6月11日に開示しており、4ヶ月どころの遅れではなく、1年と4ヶ月遅れの開示なのである。これだけの遅延開示は極めて珍しい。   2 なぜ気づかなかったのか? この開示の「8.その他」は次のように記載されているが、体制強化以前の問題だろう。そもそも体制なるものが存在したのか、適時開示に関する知識を有する人物が存在したのかさえ、疑わしく思われてくる。 おそらく、開示に関わる者も役員も、公認会計士等の異動に関して適時開示が必要であることを知らなかったのだろう。そして、1年と4ヶ月が経ち、ようやく監査法人が交代している事実に気づいた証券取引所に指摘されたのだろうか。 某大学の「経営情報学部」の教授の方が社外取締役に、某証券会社出身の方が社外監査役に就任しているが、その方々も適時開示についてはご存知ではなかったようである。 公認会計士の方が社外取締役か社外監査役だったら、さすがにこの開示漏れには気づいたはずだ(注)。 (注) 妙徳はジャスダック上場会社なので適用されないが、コーポレートガバナンス・コードの「原則4-11.取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件」の中には、「監査役には、適切な経験・能力及び必要な財務・会計・法務に関する知識を有する者が選任されるべきであり、特に、財務・会計に関する十分な知見を有している者が1名以上選任されるべきである。」という記載がある。「財務・会計に関する十分な知見を有している者」に該当するのは、ほぼ公認会計士だろう。もとより公認会計士等の異動に関する適時開示の漏れの防止を意図した原則ではないが。   3 他にもあるのでは? 今回の開示を見ると、どうしても「他にも開示漏れがあるのでは?」と思えてくる。仮にインサイダー取引規制の対象となる情報の開示が漏れたまま、妙徳の関係者が同社株式の売買を行っていたら、大変である(平成28年には同社自体が自己株式の取得を行っているし)。「適時開示体制の強化に努める」前に「他に開示漏れがないか調べた方がいいのでは」と老婆心ながら忠告したくなる。 また、「こうした会社が他にもあるのではないか」と心配にもなってくる。上場会社の重要事実が投資家に対して最初に示され、株価形成に直接影響を与えるのが適時開示である。もしもこうした開示漏れがたくさん潜んでいるとしたら、日本の株式市場の信頼性に関わる問題だろう。 (了)

#No. 278(掲載号)
#鈴木 広樹
2018/07/26

《速報解説》 広島局、平成30年7月豪雨の被災者に向け税務上の措置(手続)に関するFAQを公表~国税庁告示による申告期限等の延長も~

 《速報解説》 広島局、平成30年7月豪雨の被災者に向け 税務上の措置(手続)に関するFAQを公表 ~国税庁告示による申告期限等の延長も~   公認会計士・税理士 篠藤 敦子   このたびの平成30年7月豪雨は、中国・四国地方を中心に大きな被害をもたらした。被害を受けられた皆様に、心からお見舞い申し上げる。 今回の豪雨で被害を受けた方々に向けて、広島国税局より「平成30年7月豪雨により被害を受けられた方の税務上の措置(手続)FAQ」(以下、「FAQ」という)が公表され、国税庁からは「平成30年7月豪雨に関するお知らせ」(以下、「お知らせ」という)が公表された。 本稿では、これらの内容について解説を行う。 なお、災害により被害を受けた場合の会計上及び税務上の取扱いについては、本誌の過去の連載記事「被災したクライアント企業へのアドバイス」もご参照いただきたい。   【1】 災害にあった場合の税制上の取扱い(FAQ Q1) 災害にあった個人に対する税制上の措置としては、次のものがあげられる。   【2】 申告・納付等の期限の延長(FAQ Q3~Q10、お知らせ) (1) 制度の概要 災害等の理由により、国税に関する申告・納付等を期限までに行うことができないと認められる場合には、所轄税務署長等は、その理由のやんだ日から2ヶ月以内に限り、申告・納付等(※1)の期限を延長することができる(通則法11)。 (※1) この制度により延長されるのは、国税に関する法律に基づく申告、申請、請求、届出その他の書類の提出、納付又は徴収に関する期限である(通則法3①)。 申告・納付等の期限の延長には、国税庁長官が地域を指定し一括して期限を延長する制度(地域指定)と、所轄税務署長等が納税者の申請に基づいて個別に期限を延長する制度(個別指定)がある(通則令3①③)。 地域指定又は個別指定いずれかの制度により申告・納付期限が延長された場合には、延長された期間について、延滞税や利子税は課されない(通則法63②、64③)。また、延長された期限内に申告すれば、加算税も課されない(通則法66①)。 (2) 地域指定 今回の豪雨災害では、岡山県、広島県、愛媛県の下記地域に納税地を有する納税者について、平成30年7月5日以降に期限が到来する国税の申告・納付等の期限が延長される(国税庁告示第18号)。 なお、期限がいつまで延長されるかについては、本稿公開日現在では明らかにされていない。後日、別途国税庁告示で期日が定められる。 (注) 対象地域は、今後の状況により見直しが行われる可能性がある。 (3) 個別指定 指定地域以外に納税地がある納税者であっても、今回の豪雨で被害を受けていれば、所轄税務署長に対して個別に申請を行うことにより、申告・納付等の期限が延長される(通則法令3③)。 この制度の適用を受けるためには、災害等のやんだ日(※2)から相当の期間内に「災害による申告、納付等の期限延長申請書」を所轄税務署長へ提出しなければならない。 延長される期間は、個々の納税者の被災状況を踏まえて税務署長が指定した日まで(災害等のやんだ日から2ヶ月以内)である(通則法11)。 (※2) 「災害等のやんだ日」とは、特別な事情がある場合を除いて、客観的に見て申告・納付等の行為をするのに差し支えないと認められる程度に復した日であり、例として「交通の途絶があった場合には、交通機関が運行を始めた日」があげられている(FAQ Q6)。 (4) 振替納税を利用している場合 振替日が7月以後に到来する国税の振替納税については、次のとおり取り扱われる。 ① 指定地域内に納税地がある納税者(自動的に延長) いずれについても、延長後の振替日は、本稿公開日現在では明らかにされていない。 ② 指定地域以外の地域に納税地がある納税者(申請により延長) 指定地域以外の地域に納税地がある納税者であっても、今回の豪雨により被害を受けている場合には、以下の日までに申告・納付等の期限の延長や納税猶予の申請を所轄税務署長に対して行うことにより、振替納税を中止することができる。 なお、下記期限までに申請することが困難な場合も想定されるが、振替後に申告・納付等の期限の延長や納税猶予の申請を行うことにより、納税額が還付される可能性がある。 (※3) 7月26日(木)より後の振替納税分を中止する場合の申請期限は、本稿公開日では明らかにされていない。   【3】 所得税の全部又は一部の軽減(FAQ Q11・Q18、お知らせ) (1) 源泉所得税の徴収猶予又は還付 ① 災害減免法の適用による徴収猶予又は還付 給与、公的年金等、報酬又は料金の支払いを受ける人が、災害により住宅又は家財について、その価額(時価)の2分の1以上の損害(保険金等で補填される金額は除く)を受け、かつ、平成30年分の合計所得金額の見積額が1,000万円以下の場合には、その見積額に応じて、源泉徴収税及び復興特別所得税の徴収猶予や還付を受けることができる(災害減免法3)。 徴収猶予又は還付される金額は、下表のとおりである。 (出典)国税庁FAQ Q11より ② 災害減免法の適用を受けられない場合 住宅又は家財についての損害割合が2分の1未満である場合や、平成30年分の合計所得金額の見積額が1,000万円を超える場合には、災害減免法の適用を受けることはできない。 しかし、雑損控除の適用を前提に、雑損失の金額の見積額又は繰越雑損失の金額を基に計算した金額を限度として、平成30年又は平成31年以降最長3年間、源泉所得税及び復興特別所得税の徴収猶予を受けることができる(災害減免法3⑤)。 この制度の適用を受ける場合には、「繰越雑損失がある場合の源泉所得税の徴収猶予承認申請書」に「徴収猶予を受ける限度額又は猶予期間の計算書」を添付して、所轄税務署長に提出する必要がある。 (2) 雑損控除の適用 災害により住宅や家財等に損害を受けた場合には、確定申告で雑損控除の適用を受けることができる(所法72①)。ただし、災害減免法による税額の軽減免除との選択適用となる。   【4】 納税の猶予(FAQ Q1・Q2、お知らせ) 災害により、財産に相当な損失を受けた納税者や国税を一時に納付することが困難となった納税者は、所轄税務署長に申請し、その承認を受けることにより、原則として1年以内の期間に限り、国税の全部又は一部について納税の猶予を受けることができる(通則法46)。 「相当な損失」とは、納税者の全積極財産の価額のおおむね20%以上の場合をいい、損失を受けた財産が生活の維持又は事業の継続に欠くことのできない重要な財産(住宅、家庭用動産、農地等)である場合には、その重要な財産の区分ごとに損失の割合を計算することもできる(通則基通46条関係①2)。   【5】 予定納税について(FAQ Q18) 今回の豪雨災害により、平成30年分の所得が大幅に減少する場合には、次の2つのいずれかの手続により予定納税額の軽減免除を受けることができる。 なお、本手続において所轄税務署に対して提出する「予定納税額の減免申請書」も期限延長(【2】参照)の対象となる。 (1) 災害減免法の適用を受ける場合の減額申請(災免法3①) (2) 所得税法に基づく減額申請(所法111) (3) 予定納税の納税猶予 予定納税額の納付が困難となった場合にも、「納税猶予申請書」を所轄税務署に提出することにより、確定申告書の提出期限まで納税の猶予を受けることができる(通則法46①三、46の2、通則令13②一)。   【6】 おわりに 上記の他、FAQには帳簿書類等が流失してしまったときの取扱いや還付金の受取方法等についても、具体的な事例で解説が行われている。 平成30年7月豪雨に関する税制上の取扱いについての情報は、今後も順次公表、更新されることが予想される。国税庁ホームページ等から最新の情報を確認しておきたい。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#No. 277(掲載号)
#篠藤 敦子
2018/07/24

プロフェッションジャーナル No.277が公開されました!~今週のお薦め記事~

2018年7月19日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.277を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!-   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2018/07/19

日本の企業税制 【第57回】「改正相続法と税制への影響」

日本の企業税制 【第57回】 「改正相続法と税制への影響」   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴   〇改正相続法の成立 7月6日、参議院本会議で、「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律案」が可決成立した。 この法案は、高齢化の進展等の社会経済情勢の変化に鑑み、相続が開始した場合における配偶者の居住の権利及び遺産分割前における預貯金債権の行使に関する規定の新設、自筆証書遺言の方式の緩和、遺留分の減殺請求権の金銭債権化等を行うものである。 今回の改正は、1980年に配偶者の法定相続分の引上げや寄与分制度の創設等の見直しがされて以来、約40年ぶりの大規模な見直しである。 法案の主な内容は次のとおりである。 なお、今回の改正の施行期日は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日とされているが、上記1については公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日、3については公布の日から起算して6月を経過した日とされている。   〇配偶者居住権の創設と財産評価 今回の相続法制の見直しは、特に上記1に関して、資産課税(相続・贈与)にも影響を及ぼすものと考えられる。 今回の改正は、配偶者短期居住権(改正民法1037条)と配偶者居住権(改正民法1028条)とに区分して規定が設けられた。 まず、配偶者短期居住権については、配偶者が相続開始時に無償で居住していた建物について、遺産分割をすべき場合においては次のいずれか遅い日までの間、無償で使用する権利(居住建物の一部のみを無償で使用していた場合にあっては、その部分について無償で使用する権利)を有することとされている。 一方、配偶者居住権については、配偶者が相続開始時に居住していた建物について、次のいずれかに掲げるときは、その建物の全部について無償で使用収益する権利を取得することとされている。 なお、配偶者居住権は譲渡することができず(改正民法1032条2項)、配偶者居住権の存続期間は、配偶者の終身の間とされているが、遺産の分割の協議若しくは遺言に別段の定めがあるとき、又は家庭裁判所が遺産の分割の審判において別段の定めをしたときは、その定めるところによるとされている(改正民法1030条)。 配偶者が配偶者居住権を取得した場合には、その財産的価値に相当する価額を相続したものとして扱い、その結果、配偶者は、居住建物以外の遺産からは、自己の具体的相続分から配偶者居住権の財産評価額を控除した残額について財産を取得することになり、配偶者が長期居住権を取得しても他の相続人の具体的相続分は変わらないことになると考えられるが、建物所有権を配偶者居住権とそれ以外の権利とに分けて考えることになる。 このため、配偶者居住権の財産的価値をどのように評価するのかが問題となり、また、相続税の課税対象をどのように定めるべきか、またその評価額はどのようにするのかといった点では、相続税への影響があるものと考えられる。 7月5日の参議院法務委員会では、その附帯決議において、 とされており、今後の検討が待たれる。   〇遺留分制度の見直しと事業承継の環境整備 上記4の改正は、事業承継の点で注目される。現行制度では、遺留分減殺請求権行使がされると相続対象である株式や不動産について共有の状態が生じると解されていたところ、今回の改正で、遺留分権利者及びその承継人は、受遺者又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができることになった(改正民法1046条)。 こうしたことから、平成30年度税制改正における事業承継税制の10年間の特例とあいまって、事業承継の環境の整備が進んだといえるのではないか。 (了)

#No. 277(掲載号)
#小畑 良晴
2018/07/19

〈平成30年度改正対応〉賃上げ・投資促進税制(旧・所得拡大促進税制)の適用上の留意点Q&A 【Q2】「適用要件の見直し」

〈平成30年度改正対応〉 賃上げ・投資促進税制(旧・所得拡大促進税制)の 適用上の留意点Q&A 【Q2】 「適用要件の見直し」   公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎   [Q2] 平成30年度の税制改正により、従来の適用要件はどのように見直されたのでしょうか。   [A2] 今回の改正により、適用要件について以下の見直しが行われています。 ・大企業と中小企業で異なる要件を設定 ・基準事業年度概念の廃止 ・比較雇用者給与等支給額の取扱い及び調整計算の見直し ・平均給与概念の廃止 ・大企業については設備投資要件の追加 【解説】 改正後の制度では、大企業(中小企業者等以外)と中小企業者等のそれぞれについて適用要件が定められており、具体的には下表の通りである(措法42の12の5①②)。 (1) 適用要件に差異を設けている 改正後の制度では、適用対象法人を「中小企業者等」に該当する法人とそれ以外の法人(いわゆる大企業)に区別し、それぞれに異なる適用要件を定めている。中小企業者等の定義自体は変更されていない(措法42の4⑧六、措令27の4⑫)。 なお、本連載では以後、中小企業者等に該当しない法人のことを便宜的に「大企業」と称する。 (2) 基準雇用者給与等支給額の取扱い・設立事業年度の取扱い 改正前の制度の適用要件とされていた「基準雇用者給与等支給額」との比較は、今回の改正により「基準事業年度」の概念が廃止されたため不要となった。 あわせて、基準雇用者給与等支給額の算定に関して定められていた「新設法人の取扱い」(旧措法42の12の5②四ハ)も廃止されたほか、設立事業年度に本税制は適用されないことが明確にされた(措法42の12の5①冒頭カッコ書き)。 (3) 比較雇用者給与等支給額の取扱いの見直し 改正前の制度の適用要件とされていた「比較雇用者給与等支給額」との比較は、適用要件として定められるのではなく、「雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額以下である場合」には適用要件を満たさないという表現に変更された(措法42の12の5①本文)。 改正後の制度では控除税額を比較雇用者給与等支給額からの増加額に基づき計算することとされたため、これを適用要件とする意味がなくなったものと考えられる。 また、適用年度と前事業年度等の月数が異なる場合の調整計算についても、支給実態をより適切に反映させるための見直しが図られている(詳細は【Q3】を参照されたい)。 (4) 平均給与等支給額の取扱い 改正前の制度の適用要件とされていた「平均給与等支給額」の比較は、継続雇用者給与等支給額の総額によって判定することとされたほか、継続雇用者給与等支給額の集計範囲についても見直しが行われている(詳細は【Q4】を参照されたい)。 平均給与等支給額が分数概念であったために特別な規定が必要とされていた「継続雇用者給与等支給額が零の場合の取扱い」についても変更され、この場合には適用要件を満たさないことが明確化された(措令27の12の5㉒)。 (5) 設備投資要件の追加(大企業のみ) 大企業については、一定規模の設備投資を行うことが適用要件の1つとされており、賃上げの要件のみを満たしているだけでは本税制の適用を行うことができない。 具体的には、国内設備投資額が当期償却費総額の90%以上であることが必要である(措法42の12の5①二。詳細は【Q5】を参照されたい)。 (6) 賃上げと設備投資に消極的な大企業に対する租税特別措置の適用停止(大企業のみ) 「賃上げ」と「設備投資」の要件に関連して、そのどちらの要件も満たさない企業について本税制の適用を受けられないことは言うまでもない。 これに加え、平成30年4月1日から平成33年3月31日までの間に開始する事業年度(対象年度)において、以下のすべての要件を満たす大企業については、投資に消極的な企業であるとして一定の租税特別措置(研究開発税制、地域未来投資促進税制、IoT投資促進税制)の適用が停止されることとなった(措法42の13⑥)。 (了)

#No. 277(掲載号)
#鯨岡 健太郎
2018/07/19

〔平成30年度税制改正対応〕非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除の特例制度(事業承継税制の特例措置) 【第5回】「相続税の納税猶予制度の特例(その2)」

〔平成30年度税制改正対応〕 非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除の特例制度 (事業承継税制の特例措置) 【第5回】 「相続税の納税猶予制度の特例(その2)」   太陽グラントソントン税理士法人 パートナー 税理士 日野 有裕 パートナー 税理士 梶本 岳    3 相続税の申告 (1) 期限内申告・担保の提供 特例措置の適用を受ける特例経営承継相続人等(後継者)は、この制度の適用を受ける旨を記載した相続税の申告書に、当該非上場株式等の明細及び納税猶予分の相続税額の計算に関する明細その他財務省令で定める事項を記載した書類を添付して提出しなければならない(措法70の7の6⑥)。 「その他財務省令で定める事項を記載した書類」として、特例認定承継会社の定款、相続の開始の直前及び相続の開始の時における株主名簿、円滑化法認定における認定書及び申請書、特例承継計画の確認に関する確認書及び申請書、遺言書・遺産分割協議書などが規定されている(措規23の12の3⑭)。 申告期限は、一般措置と同様に相続開始があったことを知った日(通常は被相続人が死亡した日)の翌日から10ヶ月を経過する日であり、当該申告期限までに納税猶予分の相続税額に相当する担保を提供する必要がある。この担保について、特例措置の対象となるすべての株式を担保として提供した場合は、当該納税猶予分の相続税額に満たないときであっても、納税猶予分の相続税額に相当する担保が提供されたとみなされる(措法70の7の6④)。 (2) 納税猶予分の相続税額 特例措置において納税が猶予される相続税額は、特例対象非上場株式等の価額を特例経営承継相続人等に係る相続税の課税価格とみなして、相続税額を計算した金額とされている(措法70の7の6②八)。 仮に、相続人が2名(子A・子B)、特例経営承継相続人である子Aが特例対象非上場株式等(評価額10億円)と現金1億円を、子Bが2億円の現金を相続した場合、次のとおり、相続税の納税猶予額は412,500,000円、納付すべき相続税額は135,399,900円(子A:51,107,600円、子B:84,292,300円)となる。 上記〈ステップ2〉において、特例措置の適用を受ける非上場株式等のみを相続財産として納税猶予分の相続税額を算定することとなるため、納税猶予の適用を受ける非上場株式等については累進税率による税率の低い部分が納税猶予の対象となり、納税猶予の対象とならない非上場株式等以外の財産には税率の高い部分が適用されることとなる点に留意が必要である。   4 納税猶予期限の確定事由 特例措置の適用を受けた非上場株式等を相続税の申告後も継続保有することにより、納税猶予が継続することとなる。したがって、特例措置の適用を受けた非上場株式等を譲渡するなど一定の事由が生じた場合には、納税が猶予されている相続税の全部又は一部について納税猶予の期限が確定し、猶予税額を利子税と併せて納付しなければならない(措法70の7の6③)。 納税猶予の確定事由については、雇用確保要件以外は一般措置と同様であるため、主要なもののみ挙げることとする。   5 雇用確保要件の内容 (1) 年次報告書の提出 特例認定承継会社は、当該認定に係る相続税の申告期限から5年間、相続税の申告期限の翌日から起算して1年を経過するごとの日(以下「第一種相続報告基準日」という)の翌日から3月を経過する日までに、常時使用する従業員の数や、中小企業者が資産保有型会社又は資産運用型会社に該当しないこと等を都道府県知事に報告しなければならない(円滑化規則12③)。 一般措置においては、平成30年度改正後も認定を受けた中小企業者が5年間で平均8割の雇用を維持することができなかった場合は認定取り消し(円滑化規則9③三)となるため、従業員数確認期間(経営承継期間と同様、相続税の申告期限の翌日以後5年を経過する日をいう)の末日からから2月を経過する日が納税猶予の期限となり、猶予税額の全額と利子税を納付しなければならない(措法70の7の2③二)。 一方、特例措置においては、一般措置において雇用確保要件が規定されている租税特別措置法70条の7の2第3項2号を除いて一般措置を準用することとされており、5年間で平均8割の雇用を維持することができなかった場合でも納税猶予の期限が確定しないこととされた(措法70の7の6③)。 (2) 都道府県知事の確認 特例措置の適用を受けた場合において、特例相続報告基準日(相続税の申告期限の翌日から1年を経過するごとの日)におけるそれぞれの常時使用する従業員の数の合計を基準日の数で除して計算した数が、当該認定に係る相続の開始の時における常時使用する従業員の数に100分の80を乗じて計算した数を下回る数となった場合には、その下回る数となった理由について都道府県知事の確認を受けなければならない(円滑化規則20②)。 この確認を受けようとする場合には、当該認定に係る有効期限の末日の翌日から4月を経過する日までに、【様式第27】による報告書(※1)を都道府県知事に提出する必要がある(円滑化規則20③)。 (※1) 従業員の数が100分の80を下回る数となった理由について、認定経営革新等支援機関の所見の記載があり、理由が経営状況の悪化である場合又は認定経営革新等支援機関が正当なものと認められないと判断したものである場合には、認定経営革新等支援機関による経営力向上に係る指導及び助言を受けた旨が記載されているものに限る。 道府県知事は、上記の報告を受けた場合において、確認をした時は、【様式第28】による確認書を交付し、確認をしない旨を決定したときは【様式第29】により申請者である特例認定承継会社に対して通知をしなければならないこととされている(円滑化規則20⑭)。 (3) 継続届出書の提出 特例措置の適用を受ける特例経営承継相続人等は、特例経営承継期間内(5年間)は毎年、その期間経過後は3年ごとに、継続届出書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない(措法70の7の6⑦)。 その際、上記(1)の年次報告書と、雇用確保要件を満たすことができていない場合には上記(2)の報告書及び道府県知事の確認書(様式第28)を継続届出書に添付しなければならない(措令40の8の6㉗、措規23の12の3⑮六)こととされた。なお、特例措置に係る継続届出書の様式は、本稿執筆現在、国税庁ホームページにおいて未公表である。 継続届出書が届出期限(第一種基準日(※2)の翌日から5月を経過する日及び第二種基準日(※3)の翌日から3月を経過する日)までに納税地の所轄税務署長に提出されない場合には、届出期限の翌日から2月を経過する日をもって同項の規定による納税の猶予に係る期限となり、猶予されている相続税の全額と利子税を納付する必要がある(措法70の7の6⑦⑨)。したがって、雇用確保要件を満たせていないことについて道府県知事の確認が受けられた場合には納税猶予が継続され、確認が受けられなかった場合には、納税猶予の継続が認められず納税猶予の期限が確定することとなる。 (※2) 第一種基準日とは、相続税の申告書の提出期限の翌日から1年を経過するごとの日をいう(措法70の7の6②九イ)。 (※3) 第二種基準日とは、特例経営承継期間の末日の翌日から3年を経過するごとの日をいう(措法70の7の6②九ロ)。   6 事業の継続が困難な事由が生じた場合の納税猶予額の免除 特例経営承継期間の末日の翌日以後に、事業の継続が困難な事由として政令で定める事由が生じた場合において、特例措置の適用を受けた非上場株式等を譲渡等したときは、その対価の額(対価の額が時価の2分の1以下である場合には、時価の2分の1に相当する金額を下限とする)をもとに相続税額を再計算し、再計算した相続税額と直前配当等(配当金及び損金不算入となった役員給与)の額の合計額が当初の納税猶予税額を下回る場合には、その差額が免除される(措法70の7の6⑬一~四)。 (※) 国税庁HP「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(事業承継税制)のあらまし」より 「事業の継続が困難な事由として政令で定める事由」とは、次に掲げる事由とする(措令40の8の6㉙)。 上記(a)の「収益の額が費用の額を下回る場合として財務省令で定める場合」とは、特例認定承継会社の経常損益額が零未満である場合をいう(措規23の12の3⑳)。 再計算された相続税額と猶予税額との差額について免除を受けるための手続き及び再計算された相続税について担保提供を行ったうえで改めて納税猶予を受けるための手続き等については、本連載の後段において詳述することとする。 *  *  * 次回は、非上場株式等の特例贈与者が死亡した場合の相続税の課税の特例(措法70の7の7)、特例贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予及び免除の特例(措法70の7の8)について解説する。   (了)

#No. 277(掲載号)
#日野 有裕、梶本 岳
2018/07/19
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