家族信託による 新しい相続・資産承継対策 【第24回】 「家族信託の活用事例〈不動産編⑤〉 (相続発生後、複数の推定相続人により不動産が共有化されるのを防ぐため不動産に信託を設定する事例)」 弁護士 荒木 俊和 今回は、推定相続人が複数いて何も対応しなければ不動産が共有化されてしまうことを防止するため、不動産に家族信託を設定し、被相続人の死亡時に共有化されないようにする事例を解説する。 - 相談事例 - 私は今年85歳になりますが、両親はすでに他界し、昨年妻に先立たれ、また2人の間には子供がいなかったため、現在は1人暮らしをしています。私は8人兄弟の三男ですが、兄弟のうち何人かは既に亡くなっており、中には認知症になってしまった兄弟もいます。 私はアパートを10棟所有しており、賃料収入もそれなりにあるのですが、最近は年齢のせいもあって管理に手がまわらなくなってきました。幸い、近所に住んでいる私の兄(8人兄弟の次男)の息子(以下「甥A」とする)が賃貸管理を手伝ってくれているので、法律的にも私の代わりに管理できるようにしたいと考えています。 そして、私が亡くなった後は、私の兄弟やその子供たちで収益を平等に分けてもらえたらと思いますが、兄弟間で揉め事になったり、すぐにアパートやその敷地を売ってしまうことになるような事態は避けてほしいと思います。 ただし、いつまでもアパートを残しておくことも難しいと思うので、私の兄弟8人が全員亡くなってしまえば、後はその子供や孫たちで適宜分けてほしいです。 1 家族信託活用のポイント (1) 遺産分割協議の問題 今回取り上げる事例においては、当初は本人の単独所有となっているが、本人が高齢のため、遠くない将来において相続が発生する可能性が認められる。この場合、何も対策をしなければ、アパート10棟を含む本人の財産は、本人の兄弟による遺産分割協議の対象となる。 ここで本人の兄弟が既に亡くなっている場合には、代襲相続によってその子が相続分を受け継ぎ、遺産分割協議に参加することとなる(なお、本人の兄弟の子も既に亡くなっている場合には再代襲はせず、兄弟の孫は相続人になり得ない(民法第901条))。 このため、既に亡くなっている兄弟に複数の子がいる場合には、相続人の頭数が増加することとなるため、所在の不明な相続人や遺産分割協議に応じない相続人が出てくる可能性が高くなる。 また、本人が85歳と高齢であることからすると、その兄弟も高齢であることが想定される。相談内容にもあるように、認知症の兄弟がいる可能性もあり、その場合には遺産分割協議に先立って成年後見開始の申立てが必要となる。 この申立てにあたっては時間と労力を要し、かつ成年後見人が付いたとしても、原則的には法定相続分を下回るような遺産分割協議を行うことができないことから、遺産分割協議の自由度が下がってしまう可能性がある。仮に、本人に現預金の資産が少なければ、アパートを分割して相続させるしか方法がなくなってしまう。 これらの事情により、本人の希望である『紛争の回避』と『アパートの存続』という2点が実現できないおそれがある。 (2) 不動産共有の問題 今回取り上げる事例においても、遺産分割協議の結果、アパートが共有になってしまうと、前回解説したような不動産共有化の問題が生じることとなる。 すなわち、共有者間で意見がまとまらなかった場合には、管理や売買が思うようにできなくなり、賃料の減収や物件を売ることができず塩漬けになるような事態が発生しうる。 2 本件におけるスキーム (1) スキームの概要 以上のことから、本件では大要、以下のような家族信託のスキームが考えられる。 (2) 遺産分割協議の回避 信託契約において受益者死亡時の受益権の帰属を決定しておけば、受益者が死亡したとしても、受益権や信託財産が遺産分割協議の対象となることはない。これにより、相続人の一部が行方不明であったり、認知症であったりしても、法律上は手続が止まることはない。 また、信託財産であるアパートを受益権化しておくことで、受益権が分割されるとしてもアパートの所有権自体は受託者に帰属したままであって、共有化されることはない。 この上で、受益者に特に指図権を認めなければ、受託者が唯一の管理処分権者となるのであり、共有化が問題となることはない。 (3) 信託による公平な分配 本件では、本人の死亡後にアパートを残しておいてほしいとの希望に基づいて信託を継続することとしている。このような希望は、代々地主であったような家系の方からはよく聞かれるものである。 しかし、相続人が多い場合には不動産の所有者を1人に絞ることが困難な場合が多く、公平な分け方をすることが難しい。また、不動産を取得するとそこから得られる果実(賃料)もその所有者に帰属することが原則であり、そこから法律的に平等に分配することもまた困難である。 一方で、本件のように信託を用いることで、所有者(受託者)を1人として賃料収入を平等に分配することによって、相続人間の公平を確保することができる。 (4) 信託の終了 しかし、信託を永続させることはできない関係上(信託法第91条)、いつかはその信託を終了させる必要がある。本件では本人が「本人の兄弟全員が死亡するまで」との希望を述べていることから、このことを条件として信託が終了するものとしている。 本人の兄弟全員が死亡した時点で、どのような親族の構成となっているかは予測が難しく、信託設定の時点で信託終了時の公平な分配がどのようなものであるかを決定しておくことは容易ではない。 このような場合、一定の分配方法を信託契約において決定した上で、随時、適正な配分となるように、信託契約の変更を視野に入れつつ運用を進めることが望ましいように思われる。 (了)
〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例20】 日東紡績株式会社 「相談役および特別顧問制度の廃止について」 (2017.2.24) 事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる適時開示は、日東紡績株式会社(以下「日東紡」という)が平成29年2月24日に開示した「相談役および特別顧問制度の廃止について」である。次の記載のみのシンプルな開示で、タイトルのとおり相談役と特別顧問制度を廃止するという内容である。 2 相談役・顧問制度に対する批判 このところ相談役・顧問制度に対する投資家の批判が強まってきている。役割が不明確なまま、実際には企業の意思決定に影響を及ぼしている可能性があるからである。政府が平成29年6月9日に公表した「未来投資戦略2017」にも、次のような記載がある(31頁)。 そのため、相談役・顧問に関する情報開示を強化すべく、平成30年1月1日以後に提出されるコーポレート・ガバナンス報告書には相談役・顧問に関する項目が新たに設けられることとされている。 3 本気度は? 日東紡による相談役と特別顧問制度の廃止は、投資家の批判の強まりを受けてのことかもしれない。この開示だけを見ると、「企業統治優等生を装いたいがためのパフォーマンス?」などと意地悪く受け取ってしまう人も、もしかするといるかもしれない。「企業統治優等生に見えたけど、実際はそうではなく、形だけだった」という会社をこの連載ではいくつか取り上げてきた。 同社は、この開示の前に、平成29年2月3日、「日東紡グループ 長期ビジョンと中長期計画について」を開示しており、その中には次のような記載がある。「コーポレートガバナンスの構築と不断の見直し」を本気で行うつもりなのだろうか。 4 企業統治が上手く機能していれば おそらく日東紡は本気だと思われる。同社は、3年前、委員会設置会社、現在の指名委員会等設置会社に移行している。【事例15】で触れたとおり、現在、多くの会社が監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に移行しているが、指名委員会等設置会社に移行する会社は非常に少ない。 同社が平成26年5月12日に開示した「委員会設置会社への移行、役員人事および代表者の異動に関するお知らせ」の「移行の目的」は次のように記載されている。なお、同社は、同日、「当社株式の大規模買付行為に関する対応策(買収防衛策)の非継続について」も開示している。 企業統治が上手く機能していれば、企業経営が上手くいくというわけでは必ずしもない。しかし、企業統治が上手く機能している企業は、不祥事等が生じる可能性が低く、危機に陥った場合に立ち直る可能性が高いとはいえるだろう。 (了)
《速報解説》 金融庁、フェア・ディスクロージャー・ルールガイドライン等含む平成29年金融商品取引法改正に係る政令・内閣府令案(公開草案)を公表 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成29年10月24日、金融庁は、「平成29年金融商品取引法改正に係る政令・内閣府令案等」として次のものを改正する草案を公表し、意見募集を行っている。 これは、株式等の高速取引を行う者に対する登録制の導入等、フェア・ディスクロージャー・ルール(上場会社による公平な情報開示)などに関するものである。 意見募集期間は平成29年11月22日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 1 金融商品取引法施行令の改正案 2 内閣府令の改正案等 (1) 株式等の高速取引を行う者に対する登録制の導入等 (2) 金融商品取引所グループの業務範囲の柔軟化 (3) フェア・ディスクロージャー・ルール ① ルールの対象となる情報受領者の範囲として、金融商品取引業者及び登録金融機関等並びにIR業務に関して情報伝達を受ける株主及び機関投資家等を規定する。 ② 公表前の重要な情報を証券アナリスト等に提供した場合の当該情報の公表方法として、EDINET等のほか、自社ホームページを規定する。 (4) その他(ETF関係など) 3 フェア・ディスクロージャー・ルールガイドライン案 「金融商品取引法27条の36の規定に関する留意事項(フェア・ディスクロージャー・ルールガイドライン)」として、ルールの対象となる重要情報の管理について、それぞれの上場会社等の状況に応じた管理をすることが考えられることなどを明確化する(問1から問8まで記載されている)。 4 金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針の改正案 証券会社等が、無登録で高速取引行為を行う者である場合や高速取引行為者において電子情報処理組織の管理を十分に行うための措置を適正に講じていることが確認できない場合に、取引を受託することがないよう取引開始時等の確認について例示するほか、所要の改正を行う。 金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針(別冊)において、高速取引行為者向けの監督指針が示されている。 Ⅲ 適用時期等 平成30年4月1日の施行を予定している。 (了)
2017年10月19日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.240を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第48回】 「衆議院選の各党マニフェストからみた税制への取組み」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 9月28日、臨時国会冒頭に衆議院が解散され、総選挙の公示が10月10日になされた。 各党のマニフェスト(公約)が出揃ったところであり、政党の公約中の税制関連の主要な事項について整理したい。なお、選挙期間中であることから、公約の内容に関する論評は差し控えたい。 〇消費税関連 与党の自民党は、「2019年10月に消費税率を10%へ引き上げます。その際、「全世代型社会保障」への転換など「人づくり革命」を実現するため、消費税率10%への引上げの財源の一部を活用します。子育て世代への投資と社会保障の安定化とにバランスよく充当し、景気への悪影響を軽減しながら財政再建も確実に実行します。2019年10月の軽減税率制度の導入に当たっては、基礎的財政収支を黒字化するとの目標を堅持する中で、「社会保障と税の一体改革」の原点に立って安定的な恒久財源を確保します。併せて、混乱なく円滑に導入できるよう、事業者への対応を含め、万全の準備を進めていきます」としている。 また公明党は、「2019年10月に予定されている消費税率10%への引き上げと同時に飲食料品等に対する「軽減税率」制度を確実に実施します。その円滑な導入に向けて、対象品目の線引きや経理方法について分かりやすい情報の提供、全国説明会の開催、中小・小規模事業者向けの複数税率対応レジやシステム導入促進のための支援策を講じます」としている。 野党の希望の党は、「消費税法の現行規定には、消費税引き上げについて経済状況の好転を条件とする「景気条項」が存在していない。地方や中小企業などを中心に必ずしも成長の実感が伴わない中で消費税引き上げを強行すると景気が失速する可能性が高いため、2019年10月に予定されている10%への消費税引上げは凍結する」とし、日本維新の会も、「身を切る改革、行政改革、歳出削減がなされていないことや景気の現状に鑑み、2019年10月の消費税率10%への引き上げは凍結。消費税の軽減税率や一律の給付金ではなく、「給付付き税額控除」を実現」とし、日本共産党も「消費税10%増税の中止」を掲げ、社会民主党も「格差が拡大する中、逆進性があり、国民生活や景気の悪化を招く消費税率の10%への引き上げには反対します」としている。 一方、日本のこころは「消費税マイレージ制度(消費税を払うとマイルが貯まって、65歳を超えた時に還付される制度)の導入」を提案している。 〇所得課税・相続税関連 平成29年度税制改正で配偶者控除・配偶者特別控除の見直しが行われたところであるが、今回の公約では、与党の自民党は、「経済社会の構造変化を踏まえた個人所得課税改革を行います。所得再分配機能の回復や多様な働き方に対応した仕組みなどを目指す観点から、各種控除の見直しなどの諸課題に取り組んでいきます」としている。 野党においては、希望の党は「個人所得税の税率構造を簡素化した上、配偶者控除を廃止し、夫婦合算制度へ移行する」、立憲民主党は「所得税・相続税、金融課税をはじめ、再分配機能の強化」を掲げ、日本共産党は「証券優遇税制の税率を欧米並みに引き上げる。配当は総合累進課税とする。株式譲渡所得は、高額の部分に30%の税率を適用。所得税・住民税・相続税の最高税率を引き上げる。富裕層の資産に低率で課税する「富裕税」を創設」とし、社会民主党は「「所得再分配」機能と応能負担の強化を図る公平・公正な税制に向けた抜本改革を実現します。抜本的な税制改革や男女の賃金格差の是正などと合わせて配偶者控除を見直します」とし、さらに金融所得課税の強化、所得税の最高税率の引き上げ、所得税の税率構造の細分化等も掲げている。 この他、日本維新の会は「給付付き税額控除はじめ「負の所得税」同様の考え方を導入する。ワーキングプア、無年金の高齢者、一定の所得に達していない低賃金労働者等に、勤労インセンティブを与えるため、勤労税額控除制度を導入する」としている。 相続税については、野党の希望の党が「農地を都市に必要なものと位置づけ、相続税納税猶予をはじめとした税制措置などにより都市農業振興を図る」とし、日本維新の会は「高齢化で増える相続資産への課税ベースを拡大、年金目的特別相続税を創設する。(相続金融資産20兆円、税率10%と仮定すれば税収2兆円)」としている。 〇法人課税関連 与党の自民党は「2020年までの3年間を「生産性革命・集中投資期間」として、大胆な税制、予算、規制改革などあらゆる施策を総動員します」としている。 野党の希望の党は「消費税増税凍結の代替財源として、約300兆円もの大企業の内部留保の課税を検討する。これにより内部留保を雇用創出や設備投資に回すことを促し、税収増と経済成長の両立を目指す」とともに「日本企業の事業再編を促すため、事業再編税制を強化する」としている。 また、日本共産党は「研究開発減税、受取配当益金不算入制度、連結納税制度など、もっぱら大企業が利用する優遇税制を縮減。中小企業をのぞいて、法人実効税率を安倍政権以前の水準に戻す」とし、社会民主党は、「廃止された復興特別法人税の復活」「法人税率の引き上げ(2011年度水準、中小企業は除く)」将来的には「法人税率のさらなる引き上げ、大企業向けの政策減税・租税特別措置の抜本的な見直し、課税ベースの拡大、大企業の内部留保へ課税」も提案している。 〇中小企業税制 与党の自民党は、「中小企業・小規模事業者の収益力の向上と地域に根付いた価値ある事業の次世代への承継のため、承継の準備段階から承継後まで切れ目のない支援を集中的に推進します。その際、事業承継税制の様々な要件を拡充するなど、税制を含めた徹底した支援を講ずるとともに、M&Aを通じた事業承継の支援を進めてまいります」としている。あわせて「支援機関によるサポート制度や固定資産税の軽減措置等を活用することにより、中小企業・小規模事業者の設備投資を促進します。手続きに関しても引き続き簡素化に取り組みます」としている。 野党の社会民主党は「中小企業への課税強化に反対し、中小企業の法人税率(租税特別措置により15%に軽減)を恒久的に11%に引き下げます。円滑な事業承継のために、事業承継税制を拡充します」としている。 〇その他 住宅関連では、与党の自民党は「大幅に拡充した住宅ローン減税と減税の効果が限定的な所得層に対する「すまい給付金」の給付措置、住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置を引き続き講じるなど、住宅投資の活性化を図ります」とし、公明党も、「住宅の省CO2対策の充実強化と、住宅税制の抜本的見直しに向けた検討を進めます」としている。 公明党は、登記未了土地等の問題に関連して「相続登記がされていないことにより生じる所有者の把握が困難な土地や空き家等の問題を解決するため、相続登記に関する国民の負担軽減や専門家の活用を図り、相続登記を促進するとともに、住民票の除票や戸籍附票の保存期間を大幅に延長します」としている。また、公明党は、「車体課税について、自動車をめぐるグローバルな環境等を踏まえ、自動車ユーザーの負担軽減や簡素化について、総合的な検討を行います」としている。 (了)
組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第9回】 公認会計士 佐藤 信祐 《第2章》 平成13年度税制改正 1 平成13年版改正税法のすべて(法人税法) (1) 研究対象 国税局や税務専門家からの見解に影響を受けていないピュアな財務省主税局の見解は、『改正税法のすべて』を見ることで、ある程度は理解することができる。もちろん、『改正税法のすべて』が公表されるのは、7月下旬頃であることから、すでに国税局や税務専門家からの影響を受けている可能性はあり得るが、それでも、退官後に語られた個人的な見解に比べれば、ピュアな財務省主税局の見解に近いものであるということが言える。 さらに、『企業組織再編成に係る税制についての講演録集』(日本租税研究協会、平成13年)では、平成13年3月23日、平成13年5月16日に開催された日本租税研究協会の会員懇談会にて、財務省主税局に所属されていた朝長英樹氏が行った講演の内容が掲載されており、そこからも、当時の財務省主税局の見解を推測することができる(初出は、租税研究620号8-27頁(平成13年)、621号31-50頁(平成13年))。 本連載では、これらの文献から財務省主税局の見解を分析した後で、当時の国税局や税務専門家の見解を分析していきたい。以下では、『平成13年版改正税法のすべて』(大蔵財務協会、平成13年)に掲載されている順番に従って、解説を行うこととする(※1)。 (※1) 本来であれば、当時の経済団体連合会経済本部税制グループ長であった阿部泰久氏の講演内容や座談会が掲載された文献も、当時の制度趣旨を知るうえで重要であるが、まずは、財務省主税局のピュアな見解を知るという意味で、ここでの研究対象から除外し、後ほど検討を行うこととする。 (2) 制度創設の趣旨 『平成13年版改正税法のすべて』132-133頁では、組織再編税制を創設した趣旨について記載されている。内容としては、すでに本連載で解説したものと重複するものが多いが、以下の内容については、あえて触れさせていただきたい。 上記から、組織再編税制の特色を見ることができる。組織再編税制とその後の連結納税制度の導入により、法人税法が極端に複雑化したことに異論はないであろう。筆者が、朝日監査法人(現有限責任あずさ監査法人)を退社し、勝島敏明税理士事務所(現デロイトトーマツ税理士法人)に入社したのは、平成13年7月のことである。会計監査の仕事から税務の仕事に移った時期であり、平成13年度税制改正前には、税務の仕事をしたことがなかった。そして、閑散期での入社ということもあり、ひたすら税法の書籍を読むように指導を受けた記憶がある。思い起こせば、当時のビッグ4ですら、他の税理士事務所に比べれば「条文を読み込む」という文化が存在していたものの、著名な国税OBや税務専門家の「文献を読み込む」という方が重視されていた時代であったように感じられる。 組織再編税制についても例外ではなく、租税研究に掲載されている朝長英樹氏の講演録や質疑応答を基に仕事を行っていたように思える。しかし、案件が増えていくと、租税研究に掲載されている内容だけでは、とても実務に対応できないということで、課税当局への相談を重ねることで、ノウハウを溜めていったというのが実態である。これに対し、「条文を読み込む」ということの重要性が決定的になったのは、平成14年2月15日に公表された法人税基本通達であったように思われる。すでに知っている内容しか記載されていないという事実に、結局は、法律、政令及び省令を読み込んでいくしかないと感じたことを記憶している。 そういう意味で、「課税要件等をより一層詳細に規定した」という財務省主税局の思惑通りの実務になったということも言える。その副作用として、極端な文理解釈を行おうとする税務専門家も少なくなかったが、現在では、制度趣旨を理解しながら条文を読み込むというところまで定着していったと思われる。 そして、財務省主税局が目指したのは、「企業活動が多様化・複雑化しているなかで、透明性の高い税制により租税負担に関する予見可能性と法的安定性を保証しようとする」ことであったということも重要である。 その思惑通り、平成22年度税制改正以降は、どんなに複雑な案件であっても、組織再編税制の専門家の中で見解が分かれるようなものは、ほとんど存在しないと言っても過言ではない。もちろん、包括的租税回避防止規定(法法132の2)が適用される可能性があるかどうかという点については見解が分かれても仕方がないが、それ以外の個別の条文の解釈が明確になっているということは、他の税法では見られない特徴であるということが言える。 さらに、「平成13年度改正後の税制についても、これらの変化に対応して、随時、適切に見直しを行い、その時々の企業の組織再編成に相応しい税制を創っていく必要があるものと考えられます。」としていることは、平成18年度、平成19年度の会社法対応、平成22年度のグループ法人税制、そして、平成29年度のスピンオフ税制と、それぞれ組織再編税制の見直しがなされているという点からも明らかである。 なお、財務省主税局の方々の身を粉にするような努力があったにもかかわらず、当初の組織再編税制は欠陥の多い税制であったということも事実である。その点については、その後の税制改正で適時見直しがなされていることから、現在の組織再編税制では、それほど大きな問題は見当たらない。簡便化のために、やや雑になってしまっている点を無視すれば、現在の組織再編税制は、かなり体系的に整備された制度であるということが言える。 (3) 制度の概要 『平成13年版改正税法のすべて』134頁では、「平成13年度改正後の新しい組織再編成に係る税制は、実態に合った課税を行うという税制の基本を踏まえ、原則として、組織再編成により移転する資産等についてその譲渡損益の計上を求めつつ、特例として、移転資産等に対する支配が継続している場合には、その譲渡損益の計上を繰り延べて従前の課税関係を継続させる、という基本的な考え方に基づき創られています。」と解説されている。この内容は、【第3回】、【第4回】で解説した内容とほぼ変わらない。 そして、資本の部の金額の見直しの趣旨として、「資本の部の金額のうち、株主等が拠出した部分の金額と法人が稼得した部分の金額とを峻別し、両者を混同しないという基本的な考え方に基づいて行われたものです。」と解説されている。【第5回】、【第6回】で解説したように、法人税法の観点から、資本・利益区分の原則を突き詰めた結果であると言えよう。さらに、株主におけるみなし配当、株式譲渡損益の処理についても、【第6回】で解説した内容とほぼ同じようなことが書かれている。 また、『平成13年版改正税法のすべて』136頁では、適格組織再編成として、企業グループ内の組織再編成と共同事業を営むための組織再編成に分けて整理したことが明らかにされている。基本的には、【第4回】で解説した内容と同様に、「移転資産等の譲渡損益の計上を繰り延べる企業グループ内の組織再編成とは、本来、完全に一体と考えられる持分割合が100%の法人間で行うものとすべきであると考えられますが、現に企業グループとして一体的な経営が行われている単位という点を考慮すれば、50%超100%未満の持分関係にある法人間で行う組織再編成についても、移転する事業に係る主要な資産及び負債を移転していること等の一定の要件を付加することにより、これに含めることもできると考えられる」と記載されている。さらに、共同事業を営むための組織再編成が設けられた趣旨として、「主に、企業グループを超えた組織再編成が行われている実態が考慮されたことによるものです。」と記載されている。 このように、組織再編税制は、経済界からの要請が強く反映された制度になっているということが言える。これは、当時の経済団体連合会経済本部税制グループ長の阿部泰久氏が、「ところが、企業グループというのは何か、という議論があります。主税局は、当然100%はオーケーと言っております。われわれは、『企業グループの実態を、もっと広く見てください』との主張をしまして、『では、どうしますか』という議論がしばらく続きました。こちらの言い値は、25%でした。・・・しかし、『それでは広すぎる』とされて、『ではどうすればよいのか』と。いろいろな数字が途中で飛び交いました(笑)。」(※2)と述べられていることからも明らかである。 (※2) 阿部泰久「改正の経緯と残された問題」江頭憲治郎ほか編『企業組織と租税法(別冊商事法務252号)』83頁(商事法務、平成14年)。 その後、財務省主税局から80%という数値が出たところ、それでは狭すぎるということで、当時の商法に準拠することにより、50%になったということも述べられている(※3)。また、議決権ベースではなく、発行済株式ベースで、支配関係、完全支配関係の判定をするというのも、当時の商法が根拠であったことも明らかにされている(※4)。 (※3) 阿部前掲(※2)83頁。 (※4) 阿部前掲(※2)83頁。 『平成13年版改正税法のすべて』134-138頁に記載されている制度の概要は、平成12年10月に政府税制調査会法人課税小委員会から公表された「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」とほぼ変わらない。【第3回】から【第7回】までで解説した趣旨に基づいて組織再編税制が創られていったということが言えよう。 * * * 次回からは、『平成13年版改正税法のすべて』139頁以降に記載されている具体的な組織再編税制の中身に入っていく予定である。 (了)
「地積規模の大きな宅地」(旧広大地)評価をめぐる要件確認 税理士 風岡 範哉 ▷はじめに 10月5日、国税庁等のホームページに地積規模の大きな宅地(旧広大地)の評価の改正について、以下の情報が公表された。 上記は平成30年1月1日より適用される、地積規模の大きな宅地の評価を定めた改正通達の内容が確定したものである。 ②③ではこの改正の趣旨等が記載されているため、これらを元に、なぜこのような改正内容(評価方法)となったのか、6月に公表されたパブリックコメントとの変更点はあるのか等をQ&A形式で確認し、最後に改正の適用時期(H30.1.1)までの留意事項をまとめてみたい。 確認する事項は次の11問である。 なお、この改正の概要については下記の拙稿をご覧いただきたい。 (了)
相続税の実務問答 【第16回】 「いったん承認した特定遺贈を放棄した場合の課税関係」 税理士 梶野 研二 [答] あなたの従兄である甲が、あなたからA土地の贈与を受けたこととなり、甲に贈与税が課されることとなります。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 特定遺贈の放棄と課税関係 特定の財産を具体的に示して行う遺贈、すなわち特定遺贈があった場合において、受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、その遺贈の放棄をすることができ、遺贈の放棄があった場合には、遺言者の死亡の時にさかのぼってその放棄の効力が生ずることとされています(民法986①②)。 遺贈の放棄がされますと、その遺贈は、初めから存在しなかったこととなりますので、特定遺贈の対象となった財産は、被相続人が有していた他の財産と同様に、相続財産として相続人が取得することとなります。 相続人以外の者が特定遺贈の放棄をしたことに伴い、その目的となっていた財産を相続人が取得することとなった場合、その財産は、相続人が相続により取得したものですから、特定遺贈を放棄した者から贈与によって取得したものとして相続人に対して贈与税の課税が行われることはありません。このことは、【第15回】で説明したとおりです。 2 遺贈の承認又は放棄 特定遺贈の放棄は、遺言者の死亡後いつでも行うことができるとされており、その期限が設けられていないことから、受遺者が遺贈を放棄する可能性がある限り、遺贈義務者(一般的には、相続人)や利害関係者は不安定な状況に置かれることとなります。 そのため、民法は、遺贈義務者や利害関係人は、受遺者に対して、相当の期間を定めて、その期間内に遺贈の承認又は放棄をすべき旨の催告をすることができると定め(民法987)、いったん遺贈の承認又は放棄をすると、その撤回をすることはできないとしています(民法989①)。遺贈義務者や利害関係人からの催告に基づく場合だけでなく、受遺者から自発的に行われた承認又は放棄についても、これを撤回することはできません。 なお、特定遺贈の承認や放棄の手続きは、法律上、特に定められておらず、遺贈義務者に対する明示又は黙示の意思表示でよいとされています。 3 いったん承認した遺贈の放棄を取り消した場合の課税関係 上記2で述べたように、いったん特定遺贈の承認の意思表示をすると、その撤回は認められません。 しかしながら、遺贈の承認をした受遺者と相続人との間の協議により、事実上、いったん承認した遺贈を放棄して、特定遺贈の目的となっていた財産を特定の相続人に移転することは可能ですが、これは、受遺者に確定的に帰属した財産を、その者の意思により特定の相続人に帰属させようとするものであり、両者の間に贈与があったと理解すべきであると考えられます。 (注) 遺贈の承認又は放棄の撤回は認められませんが、未成年者が法定代理人の同意なしに単独で行った場合や詐欺や強迫によってなされた場合など民法総則編や親族編の規定による取消事由があるときには、取消しを行うことができます(民法989②、919②)。また、遺贈の承認又は放棄の意思表示に無効事由が存する場合には、当該遺贈の承認又は放棄は無効となります。 4 ご質問の場合 あなたは、遺贈の目的物であるA土地について、既に遺贈を原因として所有権移転登記を行っており、このことから、あなたはA土地の遺贈について承認をしたものといえます。遺贈の承認により、いったんあなたに確定的に帰属することとなったA土地を、その後、相続人甲に移転するとの意思を示した場合には、この意思表示は贈与の意思表示であり、甲がこれを承諾することにより贈与契約が成立するものと考えられます。 したがって、あなたがA土地を甲に移転した場合には、甲はあなたからA土地を贈与により取得したものとして、甲に対して贈与税が課されることとなります。 (了)
相続空き家の特例 [一問一答] 【第16回】 「家屋を取壊しその一部を駐車場として貸し 残りの敷地を譲渡した場合」 -対象敷地の一部の譲渡- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、昨年3月に死亡した父親の居住用家屋(昭和56年5月31日以前に建築)とその敷地200㎡を相続により全部取得し、その家屋を取り壊し更地にした上で、その敷地のうち80㎡を駐車場として貸し付け、残り120㎡について本年11月に売却しました。 なお、相続の開始の直前まで父親は一人暮らしをし、その家屋は相続の時から取壊しの時まで空き家で、その敷地譲渡部分については相続の時から譲渡の時まで未利用の土地でした。 この場合、Xは、「相続空き家の特例(措法35③)」の適用を受けることができるでしょうか。 A 譲渡していない部分が駐車場として貸し付けられていることから、「相続空き家の特例」を受けることはできません。 ●○●○解説○●○● 「相続空き家の特例」は、被相続人居住用家屋の取壊し等の後に、被相続人居住用家屋の敷地等を譲渡する場合(更地の譲渡の場合)には、取り壊した家屋については相続の時から取壊し等の時まで「事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと」、並びに、その敷地等については相続の時から譲渡の時まで「事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと」及び取壊し等の時から譲渡の時まで「建物又は構築物の敷地の用に供されていたことがないこと」の要件を満たすものに限るとされています(措法35③二イロハ)。 そして、被相続人居住用家屋の全部を取り壊してその敷地等の一部の譲渡である場合で、被相続人居住用家屋の敷地等を単独で取得した個人がその取得した敷地等の一部を譲渡した時は、その個人が取得した敷地等の全部について上記の要件(措法35③二イロハ)を満たしておく必要があることから、譲渡した部分のみならず譲渡していない部分についても、相続の時から譲渡の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがなく、家屋の取壊し等の時から譲渡の時まで建物又は構築物の敷地の用に供されていたことがない場合でなければ、上記の要件に該当する譲渡になりません(措通35-17(被相続人居住用家屋の敷地等の一部の譲渡)(3)イ)。 したがって、本事例においては、被相続人居住用家屋の敷地等を相続により単独で取得したXが、譲渡していない部分を、相続の開始の時から譲渡の時までの間に駐車場として貸し付けていることから、「相続空き家の特例」の適用を受けることができないこととなります。 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第49回】 「一括値引きした場合の契約書等の記載金額」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 当社は建設業者です。 当初取り決めていた契約金額を一括値引きした契約書を作成しました。 下記の事例の場合、記載金額の取扱いはどうなりますか。 【事例1】 消費税及び地方消費税を区分記載した後に一括値引きした場合 (値引き後の請負金額に係る消費税額の記載なし) 【事例2】 消費税及び地方消費税を区分記載した後に一括値引きした場合 (値引き後の請負金額に係る消費税額も記載) 【事例1】は、値引き後の請負金額について、消費税及び地方消費税が区分記載されていないため記載金額は5,020万円となり、軽減税率適用の印紙税額30,000円となる。 また、【事例2】については値引き後の請負金額について、消費税及び地方消費税額が区分記載されているため、記載金額については5,020万円から消費税額等を控除した46,481,481円となり、軽減税率適用の印紙税額10,000円となる。 [検討]税込金額と税抜金額をそれぞれ記載した後に一括値引きした場合はどうか この場合、値引き後の金額について、税抜金額が記載されていないため、一括値引き後の50,200,000円が記載金額となる。 この場合、値引き後の税込金額と税抜金額が具体的に記載されているため、消費税額が計算できることから、記載金額は、46,481,481円となる。 ▷ まとめ 印紙税は文書課税であり、文書に記載されている文言等により記載金額を判断することとなる。 事例の場合は、一括値引き後の請負金額について消費税額等を区分していなければ、消費税額等が含まれた全体の金額が記載金額となり、消費税額等を区分記載していれば、消費税額等を控除した金額が記載金額となる。 そのため、このように一括値引きの契約書等を作成する場合には消費税額を区分記載することが得策と考える。 (了)