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これからの国際税務 【第4回】「全世界所得課税方式と領域内所得課税方式」

これからの国際税務 【第4回】 「全世界所得課税方式と領域内所得課税方式」   早稲田大學大学院会計研究科 教授 青山 慶二   1 2つの方式 法人税の課税にあたっては、外国法人は国内源泉所得についてのみ納税義務を負うのに対し、内国法人は全世界で稼得する所得を対象に納税義務を負うものとされている。 内国法人の全世界所得を対象とする課税方式(外国税額控除権付)は、国内のみで事業活動を行う法人と国内・海外の両方で事業活動を行う法人との間での税負担水準を平等に保つ効果があり、資本輸出中立性を保証する課税手法といわれてきた。 ただし、この方式を前提にすると、子会社形態で海外での事業展開を行う本邦法人は、子会社からの配当を繰り延べることにより親会社の全世界所得課税も遅らせることが可能となる。 近年、海外子会社資金の国内還流が減少する一方、海外での留保所得が増加している現象が伝えられ、そのことが、本邦にある各種資金需要(株主に対する配当支払、従業員に対するインセンティブ報酬支払、研究開発資金等)とミスマッチを起こしているとの批判を呼んでいる。 かつて、その原因の一部は、進出先国と我が国との間の税率差分に相当する納税を行わねば本国還流できないとする我が国法人税制の全世界所得方式にあると指摘されていた。それは、経済活動に対するかく乱をタブーとする税制の理念に逆行するのではないかとの指摘であった。 かかる課題への対応として我が国は、平成21年度改正で外国子会社配当益金不算入制度を導入した。これにより、我が国は本格的な全世界所得課税方式から、外国子会社所得につき領域内所得課税方式で修正を施したいわばハイブリッドな課税体制に変更したのである。   2 領域内所得課税方式のバリエーション シンガポールや香港といったオフショア金融センターの役割を果たす管轄地では、内国法人についても自国内で発生しない所得は原則課税対象外とするというフルバージョンの領域内所得課税方式を採用している。 これに対し、EU諸国の大半は、外国で発生する受動的所得については自国の課税権を留保しつつ、能動的所得(事業所得等)にのみ領域内所得課税原則を及ぼすという「(資本)参加免税」と呼ばれる制度を採っている。 資本参加免税の対象は、子会社配当のみならず、経済的にそれと同等である株式譲渡益や海外のPEに帰属する所得を含む点で我が国より広くなっている。なお、EUのほとんどの国は国内法で資本参加免税を許容しているものの、ドイツは租税条約によってはじめてそれを認めている。   3 我が国の制度の特徴と課題 我が国の外国子会社配当益金不算入制度は、機能的には海外での能動的所得の果実である子会社配当を非課税とする点で資本参加免税と同じ機能を果たしているものの、以下の点で適用範囲が制限的である。 (1) 株式譲渡益及び海外PEの利得を含まないこと 21年度改正において我が国が導入した新制度は、それまでの外国子会社配当に認められた間接税額控除の代替制度として設計された。すなわち、配当にかかる二重課税を、間接税額控除によらず非課税とすることにより排除するとの修正に止めたものである。 この結果、適用要件も子会社株保有割合25%の間接税額控除の閾値が維持され、また、従来から直接税額控除の対象とされていたPE帰属所得は非課税の対象外とされた。 (2) 受領配当の一律5%を益金不算入対象から除外したこと 子会社投資の費用に相当する金額は親会社においてすでに費用計上が済んでいるとの前提に立ち、受領金額の全額を益金不算入とすると借入れにより発生する海外事業所得に二重に便益を与える結果となることから、受領金額中のみなし費用相当分を5%として適用対象金額を減額した。 (3) 制度の課題 ① 不平等問題 株式譲渡所得及び海外PE利得を適用対象外としたことは、配当法人と非配当法人との間及び子会社形態と支店形態での事業展開の間に課税上差別を設けることになるので、税制の中立性の観点から問題が指摘されうる。 ただ、子会社の場合は、①受取配当が非課税とされても同配当の支払いの際に源泉徴収の税負担は解消されず残ること、②旧制度の下では子会社にかかる法人税とそれが支払う配当に課される源泉徴収税の両方を税額控除可能であったことから、当該不平等さは割り引いて考えることもできる。 ② 25%の株式保有要件及び非課税対象所得の5%減額 25%の保有要件は、欧州の閾値(仏、蘭の5%等)と比べて相当高い水準である。この保有割合は、多国籍企業が地域統括機能を有する中間持株会社設立地を選択する上では、重要な価値を持つとも考えられるので、租税競争上は、我が国は不利な立地環境にあるといえる。 また、潤沢な課税済み自己資金により子会社投資を行う企業は、子会社のファイナンスコストの損金算入がないのであるから、5%の一律減額は不合理で承認しがたいものと映るかもしれない。 きめ細かい対応をすれば、費用の立証をもとに対象企業ごとに異なる控除割合を認める立法論も考えられるし、そのような可能性を踏まえて、一律100%益金不算入と制度設計する立法例も散見される(蘭、米国2016共和党税制改正提案等)。 ③ 他国との税制競争の激化 全世界所得課税方式に最後まで忠誠を尽くしてきたアメリカでは、本年9月末にトランプ政権が発表した法人税改正案で、20%への税率引下げと並んで子会社配当非課税を行うと発表した。 OECDでのBEPS対応(課税強化の方向)と並行して、世界の法人税制は税率引下げ競争を伴う領域内所得課税方式へと集約しつつある。我が国も法人税改革がひと段落したとして安住できる状況にはないと思われる。 (了)

#No. 241(掲載号)
#青山 慶二
2017/10/26

山本守之の法人税“一刀両断” 【第40回】「通達を適用した更正請求」

山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第40回】 「通達を適用した更正請求」   税理士 山本 守之   1 通達適用の問題 法人税基本通達9-2-32は役員の分掌変更の場合の退職給与について、次のように取扱いを置いています。 この通達はバブル時代に節税専門の税理士によって利用され、課税の公平を阻害していました。 例えば、A社が土地を譲渡して多額の利益が生じた場合に常勤の代表取締役甲を平取締役をとし、後継者である長男乙を平取締役から分掌変更し代表取締役とする。この際、甲に数億円の退職給与を支給し、土地の譲渡益と相殺するという節税手法です。   2 通達適用を問題視した判決 通達は分掌変更に際して、「実質的に退職したと同様の事情にあること」について、例えば常勤役員が非常勤役員になったこと、取締役が監査役になったこと、その分掌変更後における報酬が概ね50%以上減少したこと等を例示しています。 通達はあくまで例示であり、退職と同様の事情にあったか否かはその分掌変更後における職務の内容、役員としての地位の激変等の事実により実質的に判定するべきものなのです。 しかし、一般の税実務では、通達に書かれている例示があたかも課税要件のように受け取られています。その意味からすれば、このような「例示」は通達に書くものではなく、「退職」という事実の判定は納税者の法解釈に委ねるべきであったかもしれません。 実は、平成18年2月10日の京都地裁判決(TAINSコード:Z256-10309、平成18年10月25日大阪高裁(TAINSコード:Z256-10553)同旨)では、法人税基本通達9-2-32に定めた事実に該当するとしても、「退職の事実」はあくまでも実質的に判断すべきだとしています。 この意味では、通達に書かれた事実に盲目的に従っている税実務に対して警鐘を鳴らした判決であるといえます。 この判決では、「甲は、代表取締役辞任以後も原告の取締役であり、報酬も減少したものの月額X円を受け取っている上、取引先との対応等の業務に従事しており、乙も、監査役として法的責任を負う立場にあって、減少したものの報酬を受領しているのであるから、両名が原告を退職したということはできない。本件通達も、形式的に本件通達(1)から(3)までのいずれかに当たる事実がありさえすれば、当然に退職給与と認めるべきという趣旨とは解されない。」としています。 また、判決の事例では、当期中に保険金約1億円を収受しており、法人税額の増額を避けるため、甲、乙を退職させたものと受け取られることも考慮すべきかもしれません。 法人税基本通達9-2-32の(1)、(2)、(3)は実質的な退職を判定するための通達上の要件を示しているものに過ぎず、退職の事実はあくまでも実質的に判定すべきです。また、同通達の(1)から(3)は通達が示した例示に過ぎず、役員としての地位の激変は実質的に判定すべきで、通達に頼って税務の解釈をすることは危険です。 通達を適用する場合は、適用上の背景を無視してはなりません。税理士が租税法を自ら解釈することなく、通達やQ&Aに頼り、これを課税要件のように受け取っていると、税法自体の耐用年数が経過し、賞味期限を過ぎてしまいます。 ところで、上記の京都地裁判決(平成18年2月10日)、大阪高裁判決(平成18年10月25日)の後、国税庁審理室は次のような情報を発信しました。 【情報】(国税庁課税部審理室情報) 本件通達は、実質的に退職したと同様の事情にある場合の例示として3つの基準を挙げているが、これらの基準を形式的に満たしても、他の事情から実質的に退職したと同様の事情にあるとはいえない場合にまで、退職給与として取り扱う趣旨ではない。したがって、役員の分掌変更等により退職金が支払われた場合には、本件通達を形式的に適用するのではなく、当該役員の勤務状況、法人の経営への関与の状況等から、実質的に退職したと同様の事情にあるか否かを検討する必要がある。 この情報は、課税要件法定主義に反する通達が判決で敗れたことに対する反省がないと批判されても仕方ないでしょう。   3 更正請求の否認  ところで、最近は法人税基本通達9-2-32の(3)を適用して、前代表取締役甲に対して支払った役員退職給与金5,609万6,610円を損金の額に算入すべきであるとした更正請求が否認された事件(平成29年1月12日東京地裁 棄却、TAINSコード:Z888-2115)があります。 この場合の東京地裁の判断は次のようなものです(「東京税理士会データ通信協同組合情報事業資料」市野瀬啻子)。   4 問題点 法人税基本通達9-2-32は、役員の分掌変更の場合の考え方の「例示」を示した通達です。 これらは単に例示を示したものに過ぎず、課税要件ではありません。 もともと通達で課税要件を示すことはできないからです。 租税法の考え方からすれば、通達を利用して「更正請求」をすべきではないのです。 税理士が租税法の考え方を学べば、「課税要件法定主義」が分かるはずです。 (了)

#No. 241(掲載号)
#山本 守之
2017/10/26

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第10回】

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第10回】   公認会計士 佐藤 信祐   (《第2章》 平成13年度税制改正) (4) 税制適格要件 ① 適格合併 (ⅰ) 金銭等不交付要件 法人税法2条12号の8、同施行令4条の2第1項から第3項(現行4条の3第1項から第4項)では、適格合併の定義が定められている。まず、平成13年度税制改正直後の法人税法2条12号の8柱書では、以下のように規定されている。 このように、法人税法2条12号の8柱書において金銭等不交付要件を定めたうえで、イ~ハにおいて、100%グループ内の適格合併、50%超100%未満グループ内の適格合併、共同事業を営むための適格合併をそれぞれ定める形になっている。 平成29年度税制改正後の法人税法2条12号の8柱書と比べると、三角合併についての記載がないが、これは、平成13年当時では、合併等対価の柔軟化が解禁されていなかったからである。 法人税法2条12号の8で規定されている金銭等不交付要件は、被合併法人の株主等に対し、合併法人株式以外の資産が交付されないこととしている。なお、この場合の株式に「出資を含む。」としているのは、持分会社や有限会社との合併を想定していたからである。 ここで留意が必要なのは、1円でも交付したら非適格合併になるという点である(【第4回】参照)。そして、金銭等不交付要件の例外として、『平成13年版改正税法のすべて』139-140頁では、「合併に反対する株主等からの被合併法人の株式の買取代金、合併比率に端数があることによって生ずる端株の譲渡代金及び被合併法人の最後事業年度以前の事業年度の配当相当額は含まれません。」と解説されている。 このうち、最後の配当相当額については、法人税法2条12号の8に明記されている。これに対し、反対株主からの株式の買取代金、端株の譲渡代金については明記されていない。反対株主からの株式の買取代金については、阿部泰久氏によると「被合併法人・分割法人等の計算ですから、直接には関係ありません。当然に除かれるということです。」(※1)とのことであるが、これだと分かりにくい。この点につき、平成18年度の会社法施行により、合併の効力発生日に、被合併法人が当該反対する株主から株式を買い取ることが、条文上、明記され(会社法785、786、806、807)、法人税法上も、平成18年度税制改正により、反対株主からの株式の買取代金を金銭等不交付要件から除くことが、確認的に規定された。 (※1) 阿部泰久「改正の経緯と残された課題」江頭憲治郎ほか編『企業組織と租税法(別冊商事法務252号)』82頁(商事法務、平成14年)。 そして、端株の譲渡代金については、法人税基本通達1-4-2で規定されることになる。しかし、同通達では、金銭等不交付要件の対象から端株の譲渡代金を除くことは明らかにされているものの、合併比率の調整金については明らかにされていない。この点については、端株の譲渡代金と異なり、金銭等不交付要件の対象になると考えられる(国税不服審判所裁決平成15年12月5日裁決事例集66号245頁)。『平成13年版改正税法のすべて』では、「合併比率に端数があることによって生ずる」と書かれているため、合併比率の調整金も含まれるようにも思えてしまうが、あくまでも端株の譲渡代金に限定されているという点に留意が必要である。 (ⅱ) 100%グループ内の適格合併 平成13年度税制改正直後の法人税法2条12号の8イ、同施行令4条の2第1項では、100%グループ内の適格合併について、以下のように規定されている。 上記に加え、法人税法施行令4条の2第11項、12項において、親会社と孫会社、親会社と曾孫会社との関係がある場合であっても、100%グループ内の適格合併に該当することが規定された。 このように、100%グループ内で合併を行う場合において、法人税法2条12号の8柱書に規定されている金銭等不交付要件を満たすときは、適格合併に該当することが明らかにされた。これは、【第4回】で解説したように、「完全に一体と考えられる持分割合の極めて高い法人間で行う組織再編成については、これらの要件を緩和する」という趣旨によるものである。 100%グループ内で合併に該当するかどうかは、法人税法施行令4条の2第1項により判定されるが、1号で親子関係、2号で兄弟関係が規定されている。このうち、1号の最後に「次号に掲げる関係に該当するものを除く。」とされている。これが、「合併前に当該合併に係る被合併法人と合併法人との間に同一の者によってそれぞれの法人の発行済株式等の全部を直接又は間接に保有される関係」を指すのか、2号全体を指すのかは、争いがあったが、平成22年度税制改正により2号全体を指すことが明らかにされた。すなわち、1号と2号のいずれかに該当すれば、100%グループ内の合併に該当することになる。 そして、1号では、合併直前の資本関係、2号では、合併直前の資本関係と合併後の資本関係の継続見込みが要求されている。1号で合併後の資本関係の継続見込みを要求していないのは、支配株主と被支配会社が合併することから、物理的に資本関係の継続見込みを要求することができないからである。このように、合併直前の資本関係で判定することから、特定資本関係(現行税法では、「支配関係」と表記変更)が成立してから5年以内の合併については、繰越欠損金の引継制限、使用制限、特定資産譲渡等損失額の損金不算入がそれぞれ定められた。この点については、本連載でいずれ解説する予定である。 また、「見込まれている場合」という不確定概念については、【第8回】で解説したように、合併を行ったときの見込みで判定することから、後発事象により100%関係が崩れたとしても、税制適格要件には影響を与えないことになる。 なお、2号において、「同一の者(当該者が個人であるときは、当該個人及びこれと前条第1項に規定する特殊の関係のある個人)」と規定されている点に留意が必要である。これは、法人税法施行令4条1項に規定されているように、親族等が保有する株式を含めて判定するという意味であり、この点については、『平成13年版改正税法のすべて』140頁でも指摘されている。 *   *   * 次回では、50%超100%未満グループ内の適格合併、共同事業を営むための適格合併について解説を行う予定である。 (了)

#No. 241(掲載号)
#佐藤 信祐
2017/10/26

理由付記の不備をめぐる事例研究 【第34回】「役員退職給与」~役員退職給与の額が過大であると判断した理由は?~

理由付記の不備をめぐる事例研究 【第34回】 「役員退職給与」 ~役員退職給与の額が過大であると判断した理由は?~   千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也   今回は、青色申告法人X社に対して、「前代表取締役に対する役員退職給与の額が過大であること」を理由とする法人税更正処分の理由付記の十分性が争われた岡山地裁平成21年5月19日判決(税資259号順号11202。以下「本判決」という)を素材とする。   1 更正通知書に記載された更正の理由(本件理由付記) (注) 素材とした本判決の判決文から読み取ることができる理由付記の一部を筆者が加工している。   2 本件理由付記から読み取ることができる関係図   3 本判決の判断 本判決は、大要次のとおり、帳簿記載を否認するものでないことは自明であるし、平均功績倍率に最終報酬月額と勤続年数とを乗じる算式を示してその根拠を明らかにしているということができるとして、理由付記に不備はないと判断した(控訴審である東京高裁平成元年1月23日判決・税資169号5頁もこの判断を維持)。 (1) 法人税法130条2項の趣旨 (2) 理由付記の十分性   4 検討 (1) 関係法令の確認 本件更正処分は、X社が損金の額に算入した前代表者に対する役員退職給与及び弔慰金の額の合計額のうち、不相当に高額な部分の金額は、法人税法34条2項により、損金の額に算入されないというものである。この不相当に高額な部分の金額すなわち過大役員退職給与の額の損金不算入に係る要件は次のとおりである(法令70二)。 なお、弔慰金の取扱いについては、本件理由付記に記載されている通達を確認しておこう。 (2) 求められる理由付記の程度 本件更正処分は、X社が損金の額に計上した前代表者に対する役員退職給与の額140,000,000円と弔慰金の額20,000,000円の合計額160,000,000円について、その帳簿書類の記載を覆すことなくそのまま肯定するものである。その上で、前代表者がX社の業務に従事した期間、その退職の事情及び類似法人の役員に対する退職給与の支給状況等に照らし、不相当に高額であると認められる部分の金額120,250,000円を、法人税法34条2項により、損金の額に算入することはできないとするものである。すると、帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をする場合に該当する。 したがって、理由付記の程度としては、更正通知書記載の更正の理由が、そのような更正をした根拠について帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示するものでないとしても、更正の根拠を更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するものである限り、法の要求する更正理由の付記として欠けるところはないことになる(最高裁昭和60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号850頁等参照)。 (3) 理由付記の十分性 次のとおり、本件理由付記は、法の求める理由付記として十分なものではないと考える。 本件理由付記は、根拠条文等として、法人税法34条2項及び相続税法基本通達3-20(1)を記載している。 また、X社が前代表者に対する退職金及び弔慰金として、それぞれ140,000,000円及び20,000,000円を損金の額に算入していることを記載しているから、上記4の過大役員退職給与の要件①に対応する事実を、処分の根拠として示している。 問題は、要件②に対応する事実を十分に示しているかという点である。本件理由付記は、本件退職金及び本件弔慰金の額には、前代表者がX社の業務に従事した期間、業務中の事故による死亡という退職の事情及び類似法人の役員に対する退職給与の支給状況等に照らし、不相当に高額と認められる金額があるという課税庁の判断を示している。また、その根拠として、課税庁が役員退職給与の適正額を算出するに当たり用いた、類似法人における退職給与の支給状況から把握した平均功績倍率、前代表者の最終報酬月額及び勤続年数を明らかにしている。 しかしながら、本件理由付記は、類似法人ごとの功績倍率、最終報酬月額、勤続年数及び支給退職金額など類似法人の平均功績倍率を算出するためのデータや類似法人ごとの事業種目、売上金額、所得金額、総資産額、資本金などX社との類似性の根拠付けとなるデータを明らかにしていない点で問題視しうる。 守秘義務の観点から、類似法人のデータの開示には一定の配慮が必要であることは否定しない。しかしながら、訴訟においては、類似法人として適当であるか、あるいは類似法人の抽出や取捨選択に恣意的な判断がなかったかが争われることがあり、その際には、類似法人の各種データにスポットライトが当たることもある。 すると、本件理由付記は、処分の根拠となる事実や判断過程を省略して記載しており、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するという理由付記の趣旨と必ずしも適合しないという評価もありうる。 のみならず、本件理由付記は納税者にとって不服申立てを行うのに、あるいは行うか否かを判断しようとするのに甚だ不都合なものであるから、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるという理由付記の趣旨に適うものとはいえないという指摘もできよう。 (4) 更なる議論 ~帳簿書類の記載以上の信憑力のある資料とは?~ 本判決は、本件理由付記に不備がある旨のX社の主張に対して、次のとおり判示している。 いみじくも本判決が示唆するように、①X社が、過大役員退職給与の損金不算入の規定を念頭に置いた上で、適正役員退職給与に関する資料を収集し、②X社が、税務調査に際してもこれを課税庁の調査担当者に提示するなどしたというのであれば、③本件更正処分に係る理由付記においても、帳簿書類の記載自体を否認する更正の場合にならい、帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示するのを相当とすべき場合があるのではないかと考える。 もっとも、このように理解するとしても、いくつかの点において議論の余地が残されている。 法人税法施行規則59条1項は次のとおり定めている。 ③でいうところの「帳簿書類の記載以上に」という場合の「帳簿書類」とは、青色申告者が備付け等すべき法定の帳簿書類をいうものと解する(法法126①、法規54~59等参照)。すると、①について、役員退職給与や弔慰金に関して作成した書類(例えば、株主総会議事録や役員退職給与等の支給に関する規程など)が、2号の「決算に関して作成されたその他の書類」に該当するのか、3号でいう取引に関して「自己の作成したこれらの書類」に該当するのか、という点は議論の余地がある。 ②について、税務調査時において、課税庁の職員がどの関係書類の提示を求めたのか、あるいはX社がどの関係書類を提示したのかなど、税務調査時における帳簿書類の提示に関するやりとりや実際の提示の状況が、理由付記に求められる記載の程度に影響を与える可能性はある。もっとも、本判決のように、「自らは適正役員退職給与に関する資料の収集、提示をまったくしなかったX社が、N税務署長の本件理由付記において平均功績倍率に係る資料の摘示を要求することは、甚だ不当であり、その必要性を認め難い。」とまでいえるかは疑問である。 ③について、青色申告者の帳簿書類の記載を尊重すべきである理由は当該帳簿書類の記載が証明力を有することに基因するという見解がある。このような見解に基づいて、帳簿書類の記載を否認して更正する場合であるか否かの判断基準を、帳簿書類の証明力が及び得る事項であるかどうかという点に厳格に求める立場に立つとどうなるであろうか。 この場合、上記①及び②を満たすとしても、本件更正処分は適正役員退職給与に関する資料の記載自体を否認するものではなく、役員退職給与の額と弔慰金の額が不相当に高額であるという法人税法上の評価を加えるにすぎないものであるから、結局、本件更正処分は、帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正する場合に該当し、帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料の摘示を要しないという結論に至る可能性がある。 *  *  * 次回は、「分掌変更による役員退職給与の損金算入の否認」に係る法人税更正処分の理由付記の事例を取り上げる。 (了)

#No. 241(掲載号)
#泉 絢也
2017/10/26

国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第10回】「租税条約における短期滞在者免税」

国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第10回】 「租税条約における短期滞在者免税」   税理士 菅野 真美   - 質 問 - 私は、中小の製造業メーカーの経理総務部門の社員です。最近、当社は、海外子会社から人材の受入れを行っており、派遣された社員の税金の計算処理もしています。 従業員が短期間派遣の場合は派遣元国の居住者継続と考えられますが、現地国でも課税され二重課税となる可能性があります。 この場合は、確定申告書で外国税額控除等を適用して調整するのですか。   ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ ▷非居住者の給与所得 日本の所得税法では、納税義務者が居住者か非居住者か、居住者のうち非永住者か否かで、課税される所得の範囲が異なる。国内に住所又は1年以上引き続いて居所を有する個人(所法2①三)が「居住者」であることから、「非居住者」は国内に住所を有さず、居所も1年未満である個人である。 居住者の課税所得は全世界所得であるのに対し、非居住者は国内源泉所得(従業員の給与については、国内勤務の提供に基因するもの(所法161十二イ))である。つまり、非居住者に該当するならば、日本での滞在期間が1週間であったとしても日本での役務提供の対価として支払われたものは国内源泉所得に該当し、20.42%の税率で所得税・復興特別所得税が源泉徴収され、恒久的施設のない非居住者の場合は、源泉徴収で課税関係は完結する(所法164②二)。 日本の非居住者で他の国の居住者の場合、その国の税制が日本で稼いだ所得も含めて課税するならば、二重課税部分については外国税額控除により調整されるが、その国の税制が国外所得については課税しないのであるならば、日本での課税だけで完結することになる。   ▷租税条約による免税措置 しかし、1つの所得について2以上の国で生じた課税を外国税額控除等で調整する手続きは煩雑で、控除限度額との関係等で100%二重課税の解消ができないことは人の国際間の交流の妨げになりかねない。そこで、一定の短期滞在者に関する給与所得については、滞在国での課税は、租税条約による免税が認められることとなった。   ▷日米租税条約と日中租税協定の比較 以下では、代表的な米国及び中国との租税条約による短期滞在者免税に係る条文の内容を比較してみる。 2つの租税条約を比較すると、(b)及び(c)は同じ規定内容である。すなわち、(b)は、派遣元国にある居住者からの給料が支払われていることであり、(c)は、派遣元国にある給料支払者(例えば法人)の派遣先にある恒久的施設(例えば支店)において給料の全部又は一部の負担がなされないことと考える。 つまり、派遣先国にある子会社へ派遣された者の給料の全部又は一部がその子会社において負担されたとしても、他の要件を満たしている場合には、条約による短期滞在免税の適用を受けることになると考える。 ただし、(a)については2国間で大きな差異がある。 例えば、2017年9月1日から2018年4月30日までの8ヶ月間、他国から派遣された場合で日米租税条約と日中租税協定を比較すると、以下のような差異が生じる。 〈日米租税条約の場合〉 日米租税条約においては、2017年9月1日から先に12ヶ月間、つまり2018年8月31日までの期間に183日以下滞在し、かつ、滞在期間終了の2018年4月30日から遡って12ヶ月間、つまり2017年5月1日までの12ヶ月間に183日以下滞在しているならば短期滞在者免税となる。しかし、いずれもこのケースでは183日超であることから、短期滞在者免税の適用を受けることはできない。 もし、アメリカの子会社(日本に支店なし)から日本の親会社に上記期間で派遣され、給料の支給がアメリカの子会社から行われた場合、日本滞在期間の給与について、アメリカの子会社には源泉徴収義務はないことから、派遣された個人が給与所得について20.42%の税率で分離課税での確定申告を行うことになる。確定申告期限は、2017年分の所得については2018年3月15日まで、2018年分の所得は2018年4月30日までとなる。 〈日中租税協定の場合〉 日中租税協定においては、暦年単位で183日以下か否かを判断する。つまり、9月1日から12月31日までの期間は183日以下であるから、この年は他の条件を満たしている場合は短期滞在者免税の対象であり、1月1日から4月30日までの期間は183日以下であることから、この年も他の条件を満たしている場合は短期滞在者免税の対象となる。 このように租税条約によって日数の計算方法が異なることから、課税関係が異なる結果となる場合もある。また、日数は183日を基準とするものが大多数の租税条約であるが、例えば日タイ租税条約においては180日が基準となる。     (了)

#No. 241(掲載号)
#菅野 真美
2017/10/26

相続空き家の特例 [一問一答] 【第17回】「その他の相続人が単独で取得した部分があるときの取壊し後の一部の譲渡」-対象敷地の一部の譲渡-

相続空き家の特例 [一問一答] 【第17回】 「その他の相続人が単独で取得した部分があるときの 取壊し後の一部の譲渡」 -対象敷地の一部の譲渡-   税理士 大久保 昭佳   Q X(兄)は、父親が相続開始の日(昨年8月1日)まで1人で居住の用に供していた家屋(昭和56年5月31日以前に建築)とその敷地のうちA土地200㎡を単独で相続し、また、Y(妹)はその敷地のうちB土地100㎡をその相続により単独で取得しました。 Xは、家屋を取り壊した後にその取得したA土地のうち120㎡を本年12月に4,200万円で売却しました。なお、相続の時から取壊しの時まで空き家で、相続の時から譲渡の時までXが取得した200㎡については未利用の土地でした。 なお、Yは、その取得したB土地100㎡で、Xの譲渡の時までの間に月極駐車場を始めています。 この場合、Xの譲渡は、「相続空き家の特例(措法35③)」の適用を受けることができるでしょうか。 A Yが単独で取得したB土地の利用状況にかかわらず、Xの譲渡していない部分は未利用の状況であることから、Xの譲渡は、「相続空き家の特例」を受けることができます。 ●○●○解説○●○● 「相続空き家の特例」は、被相続人居住用家屋の取壊し等の後に、被相続人居住用家屋の敷地等を譲渡する場合(更地の譲渡の場合)には、取り壊した家屋については相続の時から取壊し等の時まで「事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと」、並びに、その敷地等については相続の時から譲渡の時まで「事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと」及び取壊し等の時から譲渡の時まで「建物又は構築物の敷地の用に供されていたことがないこと」の要件を満たすものに限るとされています(措法35③二イロハ)。 そして、相続又は遺贈により被相続人居住用家屋と被相続人居住用家屋の敷地等の一部を単独で取得した個人がその家屋の全部を取り壊しその敷地等の一部を譲渡した場合で、被相続人居住用家屋の敷地等のうち当該個人以外の者が相続又は遺贈により単独で取得した部分があるときは、その部分の利用状況にかかわらず、その個人が相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋の敷地等の全部について上記の要件(措法35③二イロハ)を満たしている限り、その要件に該当する譲渡としています(措通35-17(被相続人居住用家屋の敷地等の一部の譲渡)(3)イ(注))。 したがって、本事例においては、Yが単独で取得したB土地は、相続の時からXの譲渡の時まで月極駐車場の用に供していますが、Xが単独で取得したA土地の譲渡していない部分は未利用の状況であることから、Xのこの譲渡は「相続空き家の特例」を受けることができることとなります。 (了)

#No. 241(掲載号)
#大久保 昭佳
2017/10/26

〈事例で学ぶ〉法人税申告書の書き方 【第20回】「別表13(5) 特定の資産の買換えにより取得した資産の圧縮額等の損金算入に関する明細書」〈その1〉

〈事例で学ぶ〉 法人税申告書の書き方 【第20回】 「別表13(5) 特定の資産の買換えにより取得した資産の圧縮額等の損金算入に関する明細書」 〈その1〉   公認会計士・税理士 菊地 康夫   Ⅰ はじめに 本稿では、法人税申告書のうち、税制改正により変更もしくは新たに追加となった様式、実務書籍への掲載頻度が低い様式等を中心に、簡素な事例をもとに記載例と書き方のポイントを解説していく。 今回はいわゆる圧縮記帳の特例のうち、実務で比較的使用される頻度が高く、かつ平成29年度において改正があった、「別表13(5) 特定の資産の買換えにより取得した資産の圧縮額等の損金算入に関する明細書」を採り上げる。   Ⅱ 概要 この別表は、法人が、租税特別措置法第65条の7から第65条の9まで(特定の資産の買換えの場合の課税の特例等)の規定の適用を受ける場合に記載する。 本制度は、いわゆる圧縮記帳と呼ばれるもののうち、特定資産の買換特例に係るものである。 法人が、その所有する棚卸資産以外の特定の資産(譲渡資産)を譲渡し、譲渡の日を含む事業年度において特定の資産(買換資産)を取得し、かつ、取得の日から1年以内に買換資産を事業の用に供した場合又は供する見込みである場合に、買換資産について圧縮限度額の範囲内で帳簿価額を損金経理により減額するなどの一定の方法で経理したときは、その減額した金額を損金の額に算入することができるという制度である。 本制度の対象となる「買換え」については、租税特別措置法第65条の7第1項各号に詳しく規定されているが、その種類の概略を示すと次のようになる。 ▼ 注意!▼ 平成29年度税制改正において、従来適用期限とされていた平成29年3月31日が平成32年3月31日まで延長されるとともに、上記②号と⑦号は廃止され、また譲渡資産・買換資産の範囲等の見直しが行われた。なお本改正は、施行日(平成29年4月1日)以後に譲渡資産を譲渡し、かつ、同日以後に買換資産を取得する場合について適用される。 買換資産は、原則として譲渡資産の譲渡事業年度内において取得する必要があるが、以下の要件を満たせば譲渡事業年度前の取得であっても買換資産とすることができる(いわゆる先行取得資産)。 また、譲渡資産を譲渡した事業年度の翌事業年度以後において買換資産を取得する場合においても、先行取得資産と同様に特例の適用ができる(いわゆる特別勘定の設定)。 具体的には、譲渡事業年度において譲渡資産に係る譲渡益を益金の額に算入するとともに、その譲渡対価のうち翌期以後に買換資産の取得に充てようとする金額に差益割合を乗じて計算した金額の80%以下の金額を「特別勘定繰入損」として損金の額に算入し、翌期以降に以下の要件を満たして買換資産を取得し、その圧縮記帳を行う時に特別勘定の金額を取り崩して益金の額に算入することができる。 なお、圧縮限度額の計算方法は次のとおり。 (※1) 圧縮基礎取得価額とは、買換資産の取得価額又は譲渡資産の譲渡対価の額のうちいずれか少ない金額をいう。 (※2) 9号(改正後は7号)の買換えについては、譲渡資産が地域再生法の集中地域以外の地域内にあり、かつ買換資産が次の地域内にある場合には、それぞれ次の割合となる。 ▼ 注意!▼ 「譲渡経費の額」には、支出した譲渡資産に係る仲介手数料、謝礼、測量、所有権移転に係る手数料、建物の借家人に支払った立退料、土地の上にある建物を取り壊してその土地を譲渡した場合の取壊費用、などの額が含まれる。   Ⅲ 「別表13(5)」の書き方と留意点 (1) 設例 (2) 今回の別表が適用される事業年度 平成29年4月1日以後終了する事業年度。 (3) 別表の記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (4) 圧縮記帳に関する計算と仕訳例 (単位:円) 〔譲渡時の仕訳〕 〔買替資産取得時の仕訳〕 〔期末時の仕訳〕 〔圧縮限度額の計算〕 ◆譲渡経費の按分計算 ◆差益割合の計算 ▼ 注意!▼ 差益割合は上記のように、譲渡資産ごとに計算するのが原則であるが、計算が煩雑となることを考慮して、土地等とその上に存する建物又は構築物を一括して譲渡した等一定の場合には、その合計額を一括して計算することができるとされている。 一括計算の場合:{(180,000,000+20,000,000)-(45,000,000+10,000,000+9,000,000+1,000,000)}/(180,000,000+20,000,000)=0.675 なお、本事例では説明の便宜上、一括計算方式の「0.675」を採用するが、実務では圧縮後の減価償却費などを考慮しながら、どちらか有利な方を選択することになる。 ◆買換資産の圧縮限度額 ◆特別勘定の繰入限度額 (5) 別表の各記載欄の説明 「別表13(5) 特定の資産の買換えにより取得した資産の圧縮額等の損金算入に関する明細書」 「譲渡資産の明細」 「取得資産の明細」 「帳簿価額の減額等をした場合」 「対価の額の残額の計算」 「特別勘定を設けた場合」 (了)

#No. 241(掲載号)
#菊地 康夫
2017/10/26

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例55(法人税)】 「関与税理士に代わり資本政策のみを実行し、署名押印を行った決算期につき、破産管財人から、過大納付消費税額を賠償するよう求められた事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例55(法人税)】   税理士 齋藤 和助     《基礎知識》 ◆申告書の署名押印 税理士が税務代理をする場合において、租税に関する申告書等を作成して税務官公署に提出するときは、当該税務代理に係る税理士は、当該申告書等に署名押印しなければならない。よって、申告書に署名押印がなされていれば、当該申告書は署名押印を行った税理士により作成されたものとみなされる。       (了)

#No. 241(掲載号)
#齋藤 和助
2017/10/26

収益認識会計基準(案)を学ぶ 【第10回】「収益の額の算定③」-取引価格の変動-

収益認識会計基準(案)を学ぶ 【第10回】 「収益の額の算定③」 -取引価格の変動-   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 【第2回】において、「収益認識に関する会計基準(案)」(以下「収益認識会計基準(案)」という)における収益認識のためのステップとして、次の5つがあることを解説した。 今回は、ステップ 4の「契約における履行義務に取引価格を配分する」のうち「取引価格の変動」を解説する。 「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)」(以下「収益認識適用指針(案)」という)では、取引価格の算定に関連する設例が多く作成されているので、実務の適用の際に参考になる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 取引価格の変動 1 基本的な考え方 取引価格は、契約における取引開始日以後にさまざまな理由で変動する可能性がある(収益認識会計基準(案)128項)。 取引価格の事後的な変動は、契約における取引開始日以後の独立販売価格の変動を考慮せずに、契約における取引開始日と同じ基礎により契約における履行義務に配分する(収益認識会計基準(案)71項)。 取引価格の事後的な変動のうちすでに充足した履行義務に配分された額については、取引価格が変動した期の収益の額を修正する。 関連する収益認識適用指針(案)の設例は次のとおりである。 2 取引価格の変動の配分 収益認識会計基準(案)69項の要件(変動対価の配分)のいずれも満たす場合には、取引価格の変動のすべてについて、次の①又は②のいずれかのうち1つ又は複数(ただし、すべてではない)に配分する(収益認識会計基準(案)72項)。 3 契約変更によって生じる取引価格の変動 契約変更によって生じる取引価格の変動は、収益認識会計基準(案)25項から28項(契約変更)に従って処理する(収益認識会計基準(案)73項)。 「契約変更」については、本連載の【第5回】を参照していただきたい。 契約変更が収益認識会計基準(案)27項の要件を満たさず、独立した契約として処理されない場合(収益認識会計基準(案)28項)には、契約変更を行った後に生じる取引価格の変動は、収益認識会計基準(案)71項及び72項の定めを適用し、次の①又は②のいずれかの方法で配分する(収益認識会計基準(案)73項)。 関連する収益認識適用指針(案)の設例は次のとおりである。 (了)

#No. 241(掲載号)
#阿部 光成
2017/10/26

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第39回】「親会社が存在しない会社間における株式交換(対価が自己株式の場合)」

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第39回】 「親会社が存在しない会社間における株式交換 (対価が自己株式の場合)」   仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋   【はじめに】 今回は、親会社が存在しない会社間における株式交換(対価が自己株式の場合)を解説する。また、株式交換前に株式の持ち合いはなく、かつ、株式交換後も結合企業(株式交換完全親会社)は、被結合企業(株式交換完全子会社)の元々の株主の子会社又は関連会社には該当しない場合を前提とする。なお、親会社が存在しない会社間における株式交換(対価が自己株式の場合)に関する全ての論点を取り扱っているわけではない。 株式交換とは、株式会社がその発行済株式の全部を他の株式会社に取得させることをいう(会社法2条31項)。そして、親会社が存在しない会社間における株式交換(対価が自己株式の場合)は企業結合の会計処理上、「取得」に該当する。 「取得」とは、共同支配企業の形成(※)又は共通支配下の取引(【第18回】参照)に該当しない企業結合をいう。「取得」の場合、「パーチェス法」で会計処理する(企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準(以下、「基準」という)」17)。パーチェス法とは、被取得企業から受け入れる資産及び負債の取得原価を、原則として、対価として交付する現金及び株式等の時価とする会計処理をいう(企業会計基準適用指針第 10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針(以下、「適用指針」という)」29)。 (※) 複数の独立した企業が契約に基づき、共同支配企業(複数の独立した企業により共同で支配される企業)を形成する企業結合をいう(基準11)。 ※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。    結合企業(株式交換完全親会社)の個別財務諸表上では、以下の会計処理を行う。 (1) 取得原価の算定 結合企業が取得する被結合企業(株式交換完全子会社)株式の取得原価は、結合企業が処分する自己株式の時価(株式交換日の株価)で算定する(基準23、適用指針110、112)。 外部のアドバイザー等に支払った報酬・手数料等の取得関連費用がある場合、個別財務諸表上、被結合企業株式の取得原価に含めて会計処理する。連結財務諸表上は、発生時に費用処理する(適用指針110、会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」56)。 (2) 増加する資本の処理 増加すべき株主資本の金額(交付する株式の対価)から処分した自己株式の帳簿価額を控除した金額を払込資本(資本金、資本準備金、その他資本剰余金)として会計処理する。払込資本の内訳項目は、会社法の規定に基づき会計処理する。控除した金額がマイナスとなる場合には、その他資本剰余金のマイナスとして処理する(適用指針112)。 なお、その他資本剰余金の残高が会計期間末において、マイナスとなった場合、その他資本剰余金がゼロになるように、その他利益剰余金(繰越利益剰余金)から減額する(企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」12)。 【留意点】 結合企業の株主は、株式交換において取引が発生していないため、会計処理は必要ない。    被結合企業(株式交換完全子会社)の株主は、株式交換により被結合企業株式を引き渡す代わりに、結合企業株式を受け取る。 株式が変わっただけで、株主の投資が精算されているわけではないため、投資が継続されていると考え、被結合企業株式の株式交換日直前の適正な帳簿価額に基づき、結合企業株式の取得価額を算定する(企業会計基準第7号「事業分離等に関する会計基準」43)。 【留意点】 被結合企業にとっては、株主が入れ替わるのみであるため、通常、会計処理は必要ない。ただし、完全子会社が発行している新株予約権等が結合企業に承継された場合、株式交換の効力発生日の前日に自己株式を保有している場合等においては、会計処理が必要となる。    被結合企業の資産及び負債を時価評価した上で、投資と資本を相殺し、のれん(又は負ののれん)を算定する(適用指針116)。 【留意点】 株式交換日が被結合企業の決算日以外の日である場合、株式交換日の前後いずれかの決算日(みなし取得日)に株式交換が行われたものとみなして会計処理することができる。この場合、株式交換の効力発生日をみなし取得日にすることになる。 ただし、みなし取得日は、企業結合の主要要件が合意されて公表された日以降としなければならない(適用指針117)。   《設例》 P社は、S社を株式交換により100%子会社とした。 株式交換にあたって、P社は自己株式をS社の株主に交付(株式交換時の帳簿価額は5,000、時価は8,000)した。 取得関連費用は発生していない。 S社株主が保有していたS社株式の帳簿価額は6,000であった。 S社の貸借対照表(時価評価後)は以下のとおりである。法定実効税率は30%とする。 (※) S社の土地の帳簿価額は500であるが、時価は1,000である。また、分離して譲渡可能な無形資産があり、合理的に算定された価額は1,000である。 〈会計処理〉 1 P社(結合企業)の会計処理 (※1) 時価 (※2) 差額 2 S社(被結合企業)の株主の会計処理 3 連結財務諸表における会計処理 (※3) (500+1,000)×(1-30%)=1,050 (※4) (500+1,000)×30%=450 (※5) 差額 企業結合年度において、取得とされた企業結合に係る重要な取引がある場合には、以下の事項を注記する。また、連結財務諸表における注記と個別財務諸表における注記が同じとなる場合には、個別財務諸表においては、連結財務諸表に当該注記がある旨の記載をもって代えることができる(基準49)。 なお、計算書類では、上記のような注記は必ずしも求められていない。 *  *  * 以上、4のステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (了)

#No. 241(掲載号)
#西田 友洋
2017/10/26
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