税理士が知っておきたい [認知症]と相続問題 〔Q&A編〕 【第9回】 「死後に遺言書の無効が争われるケース(その1)」 クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎 [設問09] 最近では、人生の終わりをより良きものとし、亡くなった後の遺産相続等も円滑に進めるための準備を早くからしていこうという趣旨で、『終活』というキーワードを目にする機会が増えている。 この「終活」の一環として、家族に向けたお別れのメッセージを手紙やビデオ等で残したり、所有する財産について遺言書を作成すること等が多く行われている。 しかし、遺言書を作成しておきさえすれば、死後の紛争を完全に防ぐことが可能なのだろうか。以下のケースをもとにして考えてみよう。 ◆ ◆ ◆ 【ケースA】 父(被相続人)の死後に自筆証書遺言が発見された。法律が要求する記載要件はすべて整っている。 ところが、法定相続人の一部から、 との異論が出され、他の相続人を被告とした遺言無効確認請求訴訟が提起された。 ◆ ◆ ◆ 【ケースB】 ケースAで、そもそも遺言書の筆跡そのものが父のものではないと主張された場合はどうなるか。 1 遺言書を作成していても、死後に紛争となる余地はある 高齢社会の進展とともに、様々な機会で遺言書を作成しておくことの重要性が強調されている。 このような啓蒙活動の影響もあり、実際、日公連(日本公証人連合会)が発表しているデータによれば、全国の公証役場で作成された遺言公正証書の件数は、平成19年に74,160件であったものが平成28年では105,350件と、ここ10年間で約1.42倍も増加しているようである。 相続の際に遺言書が残されているケースは確実に増加している現在、弁護士の目から見ていて、2つのトレンドがあると筆者は感じている。 1つめは、遺留分減殺請求が目立って増加していることである。 遺言書を作成する動機のうちで大きいのは、法定相続分に従った各人の取り分を変更し、特定の者に特別に多額の遺産を相続させたいという希望である。これが進み、相続人間における不均衡が遺留分を侵害するほどに著しいものとなると、今度は遺留分減殺請求をめぐっての激しい対立が生じてくる。 2つめは、今回取り上げたように、死後に遺言の無効が争われるケースの増加である。 2 遺言書の有効性 遺言は、法律が要求する要件を満たして初めて効力が発生する「要式行為」であり、記載要件を一つでも欠けば無効とされてしまう。 そのため、特に自筆証書遺言の場合、弁護士等の法律専門家の関与無しに自分だけで作成した遺言書は、そもそも法律上の要件を満たさず無効と扱われるケースも少なくない。この場合、遺言書は無いものとして取り扱われ、相続人全員による遺産分割協議が必要となる。 加えて、遺言を作成する時点において、遺言者が遺言能力を有することも重要な要件となる。 ここで「遺言能力」とは、遺言の内容を理解し、遺言の結果を弁識し得るに足る能力であると一般的に言われている。実質上は、この連載で説明してきた「判断能力」「意思能力」というものとほぼ重なり合ってくると理解してよいだろう(解説編【第3回】参照)。 3 裁判における主張・立証の実際 まず、「遺言書が民法が要求する形式的要件を満たさない」として訴訟提起する場合、要件を満たす有効な遺言書であることの立証責任は被告の側が負うと解されている。 しかし、問題の性質上、裁判での勝敗見込みは比較的簡単に付く場合も多い。 このような場合、裁判所に対する元々の請求内容は「遺言書が無効であることを確認する判決を下してほしい」ということで出訴しているが、仮に原告が勝訴判決を得たとしても、その後で改めて法定相続人全員で遺産分割を行う必要がある。その意味で、原告としても二度手間となる。 そこで、一般に裁判所は、遺言無効確認請求訴訟の手続の中において、遺産分割の全体を含めた和解交渉(遺産を具体的に、誰が、どれだけ取得するのかという和解交渉)を主導してくれることも多い。ただし、原告・被告以外にも多数の法定相続人がいるような場合には、裁判手続内での全体解決は困難であろう。 他方で、【ケースA】のように、遺言書作成当時の遺言能力が争われている場合には、勝敗見込みを立てることも容易にはできない。最終的には、裁判所がどう判断するかにかかってくるからである。 このような場合、無効を主張する側としては、①遺言書作成前後での被相続人の医療記録、②看護日誌、③認知症の有無・病状、④本人の生活状況、⑤身のまわりの世話をしていた者の証言等の記録を証拠として提出し、争っていくことになる(証拠となりうるものの一例として、解説編【第5回】参照)。 なお、遺言無効確認請求訴訟においては、本稿では取り上げなかったが、複雑な法律上の問題点が多数存在する。これらにつき現在の裁判実務の一般的運用を解説するものとして、次のものがある。 また、遺言能力につき裁判例の分析を通じて詳細に検討するものとして、次の論文がある。 4 「署名の偽造」を主張される場合もある 【ケースB】では、遺言者である父の遺言能力にとどまらず、遺言者である父の署名そのものが他人の手によるもの、つまり偽造であると主張しているケースである。 本連載のテーマである「認知症」や「判断能力」という点からは外れるが、関連問題として触れておこう。 【ケースB】のような場合には、遺言書の効力を争う側において筆跡鑑定の専門家に鑑定を依頼し、その鑑定報告書を証拠として提出していくのが通常である。 これに対し、多くのケースでは、相手方の側でも別個の専門家に依頼し、そこで得た鑑定報告書を反論証拠として提出することになる。当然、鑑定結果は原・被告で真逆なものとなる。 このような場合、裁判所が選任する中立的な鑑定人により改めて筆跡鑑定を実施する場合もあれば、そこまではせず、裁判所が双方の鑑定報告書を吟味して最終判断を下すこともある。 筆跡鑑定が問題となる場合の注意点を2点だけ述べる。 1つは、費用の点である。 筆跡鑑定を依頼する場合は、平均して20~50万円前後の費用がかかる。場合によっては鑑定報告書を作成した専門家に出廷を依頼し、報告書の信用性につき裁判官の面前で証言してもらう必要も出てくる。そのようなときには、当然に追加料金が発生する。 このように、少なからぬ費用がかかるということは、請求額との兼ね合いで念頭に置いておくべきであろう。 もう1つは、一般的な信用性の点である。 筆跡鑑定は、DNA鑑定や他の科学的な鑑定方法とは異なり、鑑定する者の長年の経験や専門的知識の蓄積といった主観的要素がどうしても入らざるを得ない。 そのため、裁判所の傾向としては、他の科学的な鑑定方法に比べれば若干信用性を割り引いて受け止めることも多く、筆跡の同一性の有無に加え、遺言の内容それ自体の複雑性や遺言作成に至る経緯、遺言書の保管状況や発見状況、遺言者と相続人との間の人的関係等といった事情をも総合的に考慮して偽造の有無を判断していくということが通常である。 つまり、遺言書の有効性を争う側からすれば、自己の主張に沿う鑑定報告書を提出しているからといって過度の期待をすることは禁物ということである。 5 遺言無効を争う場合の留意点-遺留分減殺請求の通知を忘れないこと 最後に、遺言書の無効を争う側において忘れてはならない注意点を指摘しておく。 それは、遺言書の無効を争いながらも、遺留分減殺請求の通知は、「1年」という期間内に必ず内容証明郵便で送付し、遺留分減殺請求権の権利行使を予備的にでもしておかなければならないということである。 仮に、数年をかけて遺言書の無効を裁判で争った結果、遺言当時における遺言者の遺言能力には問題がなく、遺言書が有効であることが確定したとする。 このとき、有効となった遺言書が自己の遺留分を侵害しているとして改めて遺留分減殺請求を行おうと考えても、1年という期間制限(遺留分権利者が相続開始・減殺すべき贈与・遺贈があったことを知った時から1年間)を経過してしまっているときは、遺留分減殺を請求することができないので注意を要する。 実際の裁判では、1つの裁判の中で、主位的な請求として遺言無効確認を請求し、予備的な請求として遺留分減殺を請求していくことが大半である。つまり、はじめから遺言無効の問題も遺留分の問題も一挙的に解決することを目的として出訴していくという趣旨である。 * * * 次回は、遺言を残す側、すなわち、遺言者本人及び遺言書を残してもらうことにメリットを有する相続人の立場でできる準備を解説する。 (了)
役員インセンティブ報酬の分析 【第3回】 「ストック・オプション①」 -平成28年度の状況- 弁護士・公認会計士 中野 竹司 1 役員報酬のためのストック・オプションの概要 この連載ですでに述べたように、コーポレートガバナンス・コード原則が策定されたことを契機に、役員に対する自社株報酬への注目度が高くなっている。 このうちストック・オプションは、自社株式オプション、すなわち新株予約権といった自社の株式を原資産とするコールオプションを利用したもので、企業がその従業員等に、報酬として自社株式オプションを付与する報酬制度である。 ストック・オプションは、会社法制定時にその246条2項において、「前項の規定にかかわらず、新株予約権者は、株式会社の承諾を得て、同項の規定による払込みに代えて、払込金額に相当する金銭以外の財産を給付し、又は当該株式会社に対する債権を持って相殺することが出来る。」という定めが置かれ、役務提供の対価と相殺等することにより新株予約権を付与できることが明らかにされた。またこれに伴い、税務上の取扱いが平成18年税制改正等によりある程度明らかにされたことから、他のインセンティブ報酬制度よりも早い時期から普及が進んだ。一般的に、全上場企業のうち、ストック・オプションを発行した経験のある企業は、少なくとも4割はあるといわれている。 ストック・オプション制度の具体的な形態としては、株式報酬型ストック・オプション(1円ストック・オプション)、業績等条件付ストック・オプションや有償ストック・オプションなどがある。具体的には、三井物産は株価に連動したストック・オプションを導入しているし、資生堂は業績連動型のストック・オプションを導入している。 このうち、業績連動の中長期インセンティブとして、株式報酬型ストック・オプション(いわゆる1円ストック・オプション)が、広く利用されてきた(荏原製作所)。 株式報酬型ストック・オプション(1円ストック・オプション)とは、株式を報酬として付与することを目的とし、オプションの権利行使価額を非常に低く設定したものである(通常は1円)。これは、もともとは退職慰労金制度を廃止し、その代替として付与する目的で普及してきた。 なお、役員個人の税務メリットを考えると、給与所得より退職所得と区分された方が有利と考えられる。ただし、権利行使期間が退職から10日間に限定されているストック・オプションの権利行使益は退職所得と考えられるが(東京国税局「権利行使期間が退職から10日間に限定されている新株予約権の権利行使益に係る所得区分について(文書回答事例)」(平成16年11月2日))、それ以外の場合の所得区分は明確ではないという税務上の不明確さがある。 2 ガバナンス面から見たメリット・デメリット ストック・オプションは、例えば株式公開前に従業員へストック・オプションを与え、株式公開時にこれを行使した後、株式売却益を得ることや、公開後は株価が上昇することによりやはり株式売却益を得ることが可能となる方法であり、手元現金が不足している企業が従業員や役員に対するインセンティブを付与することができる等のメリットがある。 しかし、ストック・オプションは、これを行使して株式を取得・売却することで初めて報酬が実現する手法である。このため、役員が手に入れる現金の額は株価の上昇と直結し、ストック・オプションの行使価額が株価を上回っている状況では行使するインセンティブが働かないという点で難点があり、役員が中長期的な業績向上よりも、株価上昇を狙った短期的な利益計上に走りがちであるという問題点が指摘されている。また、株価が低迷している状況下では、ストック・オプションは業績連動の機能を果たせないという限界もある。 これに対して、パフォーマンス・シェアやリストリクテッド・ストックのような株式による報酬は、株価が上昇しても下落しても株式売却額相当の現金を手に入れることができ、また業績連動期間や譲渡制限期間を中長期に設定することで役員の中長期的な企業業績向上のインセンティブ付けが可能になるという点で、ストック・オプションより良い面があるとされる。 3 会社法上の視点 (1) 法的構成 会社法上、無償で株式を発行することや労務出資は認められていないため、無償でも交付可能な新株予約権が比較的広く利用されてきた。 そして、無償ストック・オプションを発行する際の法的な構成としては、ストック・オプションを職務執行の対価として考え、金銭の払込みなくストック・オプションを交付する方法(無償構成)と、ストック・オプションの公正価値相当額の金銭債権を役員等に付与すると同時に、同額を払込金額としてストック・オプションを付与し、役員と会社がそれぞれ有する同額の金銭債権を相殺する方法(相殺構成)の2つがあると考えられる。 (2) 役員報酬規制との関係 ストック・オプションは、役員に対する報酬の性格を有することから、役員報酬規制(会社法361条1項)の対象となる。 そして、無償構成の場合は、金銭ではない財産であることから、会社法361条1項3号の非金銭報酬としての決議が必要である。また、併せて同条1号又は2号の決議も必要である。 相殺構成の場合は、役員に報酬として付与されるのは金銭債権であるから、同条1号の決議がなされれば足りるが、決議に際してストック・オプションを利用した報酬であることを株主に伝えることが望ましいとも考えられる。このため、どのように開示するか工夫が必要であろう。 なお、有償ストック・オプションは、会社法上の報酬には該当しないと考えられるが、払込額が公正な価額かという点が会社法上問題になりうる。 4 税法上の視点 ストック・オプションの法人税法、所得税法等の税法における取扱いは非常に複雑であり、ストック・オプションを利用した役員に対するインセンティブ報酬を設計する場合には、税務上の取扱いを個別・具体的に十分検討する必要がある。 税法上の取扱いの概要は、以下のようになっている。 (1) 無償ストック・オプション 無償ストック・オプションについては、税制適格か税制非適格かによって、役員側・会社側いずれも税務上の取扱いが大きく異なる。 ① 税制非適格ストック・オプション (ア) 役員側 ストック・オプションが②で述べる税法上の適格要件を充足しない場合、付与時において、ストック・オプションに譲渡制限が付いている場合には、役員報酬は実現しておらず、給与所得課税も生じない(所得税法施行令84条)。 そして、権利を行使した時点で行使時の時価が権利行使価額を上回っている部分について一般的には給与所得として課税され、権利行使により取得した株式の取得価額は時価となる。 また当該株式を売却した時点で、譲渡価額と権利行使時の時価との差額部分について株式等に係る譲渡所得等として課税がなされる。なお、すでに述べたように、権利行使期間が退職から10日間に限定されているストック・オプションの権利行使益は退職所得と解される。 (イ) 会社側 権利を付与した時点においては、発行会社には特段の課税関係は生じない。権利が行使された時点で、ストック・オプション費用に関し、一定の要件のもと役務提供の対価として損金算入が認められている(法人税法54条1項)。また、発行会社には源泉徴収義務が生じ、役員に対して現金を請求する必要が生じる(所得税法222条)。 ② 税制適格ストック・オプション (ア) 役員側 税制適格ストック・オプションの場合、権利行使時において給与所得等としての課税はなされず、課税は繰り延べられ、株式売却時に売却価額と権利行使価額との差額に対して株式等に係る譲渡所得等として課税される。 ここで、税制適格ストック・オプションの要件には以下のようなものがある。 (※) 経済産業省HP「ストックオプション税制のご案内」より。 (イ) 会社側 税制適格ストック・オプションの場合、役員に給与等課税事由が生じないため、会社において、公正価値相当額を損金算入することは認められない(法人税法54条2項)。 (2) 有償ストック・オプション (ア) 役員側 役員が、新株予約権の公正価値を実際に払込んだ場合、当該払込金額がストック・オプションの取得価額となり、この時点では特段の課税関係は発生しない。 そして、権利行使により取得した株式の取得価額は、行使価額に新株予約権の取得価額を加算したものとされており(所得税法施行令109条1項1号)、行使時にも課税関係は発生しない。 株式売却時に売却価額と権利行使価額との差額に対して株式等に係る譲渡所得等として課税される。 (イ) 会社側 有償ストック・オプションの場合、役員に給与等課税事由が生じないため、会社において、公正価値相当額を損金算入することは認められない(法人税法54条2項)。 (3) 今後の動向 平成29年度税制改正により、平成29年10月1日以降の決議、または交付となったストック・オプションを用いた役員のインセンティブ報酬については税法上の取扱いが大きく異なるケースが出てくると思われるので、本連載でも今後フォローしていきたい。 5 会計上の視点 役務提供の対価としてストック・オプションが交付された場合の会計処理は、「ストック・オプション等に関する会計基準(企業会計基準第8号)」(以下「会計基準」という)及び「ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第11号)」(以下「適用指針」という)において明らかにされている。 なお、有償ストック・オプションは、現時点では会計基準、適用指針により会計処理が明らかになっているとは言えない。もっとも、ASBJより、「実務対応報告公開草案第52号「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い(案)」等の公表」が発出されており、近い将来会計基準も制定される予定である。 ストック・オプション会計基準及び適用指針によれば、ストック・オプションを利用した役員報酬の会計処理は、概ね以下のようになっている。 ストック・オプションの権利確定前においては、ストック・オプションを付与し、これに応じて企業が従業員等から取得するサービスは、その取得に応じて費用として計上し、対応する金額を、ストック・オプションの権利の行使又は失効が確定するまでの間、貸借対照表の純資産の部に新株予約権として計上する(会計基準4項)。 各会計期間における費用計上額は、ストック・オプションの公正な評価額のうち、対象勤務期間を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づき当期に発生したと認められる額である。ストック・オプションの公正な評価額は、公正な評価単価にストック・オプション数を乗じて算定する(会計基準5項)。なお、ストック・オプションの公正な評価単価の算定は付与日現在で算定し、条件変更の場合を除き、その後は見直さない(会計基準6項(1))。 ストック・オプションの権利確定後は、ストック・オプションが権利行使され、これに対して新株を発行した場合には、新株予約権として計上した額のうち、当該権利行使に対応する部分を払込資本に振替える。 なお、新株予約権の行使に伴い、当該企業が自己株式を処分した場合には、自己株式の取得原価と、新株予約権の帳簿価額及び権利行使に伴う払込金額の合計額との差額は、自己株式処分差額であり、平成18年8月改正の企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」に従って会計処理を行う(会計基準8項)。 権利不行使による失効が生じた場合には、新株予約権として計上した額(会計基準第4項)のうち、当該失効に対応する部分を利益として計上する。この会計処理は、当該失効が確定した期に行う(会計基準9項)。 (了)
海外勤務の適任者を選ぶ“ヒント” 【第2回】 「観察眼を持ち、一歩前に出よ」 中小企業診断士 西田 純 1 問題の根幹は常に「人」 突然ですが、海外に限らず、ビジネスの最前線で情報収集にあたる役割を担ったとして、あなたが最も重要視する情報ソースは次のどれですか? ① インターネット ② 新聞 ③ 口コミ 段階によっても違うのですが、見知らぬ土地で会社の損益に関わるオペレーションをするという地に足の着いたビジネスをするうえでは、当然ですが③の占める比重が大きくなります。 特に海外駐在員にとっては、ビジネスパートナーとの打ち合わせ、見込み客へのプレゼン、役所への相談など、そのすべてが「人」を相手にしたやりとり、すなわち「口コミ」に分類される活動です。 英語など、言葉の問題はあるかもしれません。また国民性の違いもあって、国によっては前言を簡単に翻したり、明快に否定すべきところをそうしなかったり、大前提となる事実を隠したりする場合さえあったりします。 そのような落とし穴に簡単に引っかかってしまう人がいるかと思うと、観察眼鋭く危険因子を見抜く人もいて、資質の違いが及ぼす影響は計り知れません。 海外でのオペレーションを現場から離れた本社で担当していて、最もコントロールしにくいのが「現地における地元関係者とのコミュニケーション」ですが、それは上で述べた通り、その大半が駐在員の「口コミ」によるものだからです。 本社としては駐在員の報告を信じるしかありませんし、肝心の駐在員も本人が気づいていないことは報告できないので、口コミを通じて確認できるチャンスのあった情報をみすみす見逃し、後からトラブルが発生することもよくあります。 2 みておくべき点 ① 早とちりの多い「あわてもの」は要注意 いわゆる「せっかち」な性格が典型的に表れるのが「会話」です。相手が話し終わるのを待てない、やたら早口で話す、相槌が速い、話している時に何かと気ぜわしい等の特徴を持った人が、あなたの周りにもいませんか? こういうタイプは、得てして相手の言うことのうち、明らかに重要なポイントだけを押さえてあとは捨象する、という対応を取りがちです。 そうしないと、人より回転の速い頭の中の情報処理に、耳から入ってくる情報が間に合わない、ということではないかと思いますが、これは性格に起因するものなので、かなりしっかりした対策を講じない限り、大きなリスクを抱えて赴任することになりかねません。 ② ゆっくりとした会話のリズムはハンデにならない 流ちょうな英語で会話する人には、相手も聞きやすく自分も話しやすいリズムがあります。特に英語を使う国では、会話を相手に合わせようとすると、どうしてもそのリズムは速くなりがちです。 そうすると、聞き取ることや自分の発言を考えることで精いっぱいになってしまい、プラスアルファを考えたり、見極めたりする余裕は失われてしまいます。 逆に、周囲をやきもきさせるくらい発言の遅い人がいたりします。会議などでは発言のチャンスを的確に確保できないこともあり、見ている方を不安にさせることもありますが、一対一の交渉では必ずしも不利になるばかりとは限りません。 むしろこちらのリズムに相手を引き込み、言うべきことを言い、見るべきものを見るためには必要な資質だと言えます。 ③ 細かい観察眼は、自らが気をつける部分に現れる ざっくり言って、人のうわさ話が好きな人は、観察眼も細かい場合が多いようです。そういう人は、男女にかかわらず身なりもこざっぱりとしている場合が多いので、気をつけて見ているとよくわかります。 逆に、自分の着るものやヘアスタイルにあまり気を使わない人は、細かい観察眼を持っているとは言い難いように思います(ドラマの探偵や刑事には、あえてこのような役を演じ犯人を油断させるというパターンもありますが、日々の仕事は刑事ドラマではないので、どんでん返しが無くても大丈夫です)。 3 人材選抜上のポイント ① 細かい観察眼を持つ人は女性に多い? 上でも触れましたが、「人のうわさ話」は観察眼の鋭さを見る一つの手がかりです。でもそれだけに注目していると、候補者は女性ばかりになってしまうかもしれません。一般的に女性は男性に比べて対人観察眼が優れている場合が多いようです。 御社では、派遣候補者が女性となることに不都合はありますか? むしろ女性の特性を生かすために、海外派遣は良い機会となるかもしれません。 ② 一歩引く人、ではなく一歩出る人を 観察眼が鋭くても、話をしていて一歩引いてしまう人は要注意です。なぜなら対人コミュニケーションは、常に双方向でなくてはならないからです。 ゆっくり会話をするだけなら良いのですが、終わってみれば当方は一言も発言しなかった、ではビジネスが成り立ちません。 それでは本末転倒なので、むしろ一歩出る人が望ましいと言えます。 4 人材育成上のポイント ① 「あわてもの」を落ち着かせるには 性格的な欠点を改善できれば素晴らしいのですが、ここでは訓練によって観察眼を養うことができれば良しとすべきでしょう。 報告書における5W1Hから始まり、どうしてそう思ったのか、さらにそれはなぜなのかなど、洞察力を要求するような報告を繰り返し求めることを通じて、本人の「期待に応えたい」というモチベーションを高めてやることがポイントになります。 ② 「一歩引く人」を前に出させるには 会議や報告などで発言者の役割を当て、予行演習などの機会を通じて準備をさせるプロセスが重要になります。その際まず、事業概要の説明など、定型的に行える要素について、アドリブではなく、「金型」のように決まりきったセリフをしっかりと言えるようになるところから始めてください。 次に、報告など非定型の発言についても、文章の構成や冒頭の挨拶、語尾など比較的定型化しやすい部分を取り出して定型化し、パーツのセットとして身につけることで、非定型部分に集中しやすくなります。 これと並行して、積極的な発言など「一歩前に出る」ことを顕彰するインセンティブを通じたモチベーションの維持向上を図ることが効果的です。 会社が目指す人材育成の方向性について、この「一歩前に出る」ことを重要視していることを明示するのもよいでしょう。 「あわてもの」は、もしかしたら完治は難しいかもしれませんが、「一歩引く人」は教育訓練を通じて、かなりの積極性を身につけさせることができるはずです。 5 終わりに 観察眼が重要視されるのは、何も海外赴任に限ったことではありません。 むしろ国内の定型業務で、日ごろ見逃されている小さな改善点に気づくことでその力が発揮される場面が多いのかもしれません。 本社のコントロールが届きにくい海外では、より一層重要な力になると御認識ください。 (了)
《速報解説》 金融庁、多様な株式報酬の活用に向け 有価証券取引府令・企業開示府令の改正案を公表 ~特定譲渡制限付株式、パフォーマンスシェア等の割当時の開示手続を軽減~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成29年5月17日、金融庁は、「有価証券の取引等の規制に関する内閣府令」及び「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正案(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 政府によってコーポレートガバナンスの強化に関する施策の一環として、経営陣に中長期の企業価値創造を引き出すためのインセンティブを付与することができるよう株式による報酬、業績に連動した報酬等の柔軟な活用を可能とするための仕組みの整備等を図る取組みが進められている。 その取組みの一環として、①特定譲渡制限付株式、②パフォーマンスシェア、③株式報酬(所定の時期に確定した数の株式を報酬として付与するもの)等による株式の割り当てを行う場合に、(a)売買報告書の提出制度及び短期売買利益の返還請求制度の適用除外とする改正と(b)有価証券届出書における「第三者割当の場合の特記事項」の記載を不要とする改正を提案するものである。 意見募集期間は平成29年6月16日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 有価証券の取引等の規制に関する内閣府令の改正案 上場会社等の役員等による特定有価証券等の売買等の報告の提出(金融商品取引法163条)について、報告書の提出を要しない場合(金融商品取引法163条1項ただし書)に関する「有価証券の取引等の規制に関する内閣府令」30条1項13号として、次の規定を新設する。 Ⅲ 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正案 「企業内容等の開示に関する内閣府令」19条(臨時報告書の記載内容等)について、同府令19条2項1号ヲ(3)を次のように改正する。 Ⅳ 適用時期等 改正後の規定は、平成29年6月下旬以降に公布・施行する予定である。 (了)
《速報解説》 会計士協会、「長期的視点に立った投資家行動に有用な企業報告 ~非財務情報に焦点を当てた検討~」を公表 ~長期志向の機関投資家のニーズを満たす開示情報とポイントを整理~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成29年5月15日、日本公認会計士協会(経営研究調査会)は、「長期的視点に立った投資家行動に有用な企業報告~非財務情報に焦点を当てた検討~」(経営研究調査会研究報告第59号)を公表した。 これは、長期志向の機関投資家を念頭に、投資意思決定及び対話のための情報ニーズや、投資家による企業価値評価と投資家対話に有効な情報開示(非財務情報を含む)の在り方について検討し、取りまとめたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 目次を含め、51ページに及ぶものである。 主な項目は次のとおりである。 1 企業報告をめぐる近年の動向と課題 投資家と企業対話を通じて相互理解を深める際に、企業報告は重要な役割を担うとし、非財務情報を効果的に用いて中長期的な企業価値を伝達する企業報告の実務に関する課題についても述べている。 2 投資家行動と情報ニーズ 研究報告は、機関投資家としては、ファンダメンタルズ(財務状況や企業業績等の株式の本源的価値を決定付ける基礎的要因)を重視して投資行動を行うものを想定している(15ページ)。 投資家はファンダメンタルズを重視し、企業の将来性を評価して投資を行うという本来の姿に回帰することが必要であり、それによってその責務をより良く果たすことができるとしている(14ページ)。 研究報告は、機関投資家の情報ニーズ及び当該ニーズを満たす開示の特徴を次のように整理している。 3 長期的視点に立った投資家行動における有用性を高める企業報告 長期的視点に立った投資家行動における有用性を高める企業報告に関するポイントとして、次のことをあげている。 4 効果的な企業報告を実現できる環境整備 効果的な企業報告を実現できる環境整備に関する課題と取組について、次のことを述べている。 (了)
《速報解説》 「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い」等の公開草案が公表 ~有償ストック・オプションに関する会計処理の取扱いを明確化~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成29年5月10日、企業会計基準委員会は、「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い(案)」(実務対応報告公開草案第52号。以下「公開草案」という)及び「払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理(案)」(企業会計基準適用指針第17号の改正案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、いわゆる有償ストック・オプションに関する会計処理の取扱いを明確化するものである。 公開草案どおりに実務対応報告が確定した場合には、有償ストック・オプションの付与について費用処理が行われることになるので、従来の実務に大きな影響を及ぼすものと思われる。 公開草案の脚注3では、本実務対応報告は、当該取引に関する法律的な解釈を示すことを目的とするものではなく、当該取引が、法的に有効であることを前提としていると記載されている。 第344回企業会計基準委員会(2016年9月9日)の「第90回実務対応専門委員会で聞かれた意見」として、日本監査役協会が公表している監査役監査実施要領における次の記載が紹介されており、会社法における報酬との整合性について検討すべきとの意見が出されていた。 (出所) 公益社団法人 日本監査役協会 監査法規委員会「監査役監査実施要領」(平成28年5月20日)の「Ⅳ-1 ストック・オプションの種類」57ページ 意見募集期間は平成29年7月10日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 公開草案の主な内容 公開草案の対象となる権利確定条件付き有償新株予約権を、「ストック・オプション等に関する会計基準」(企業会計基準第8号)2項(2)に定めるストック・オプションに該当するものとする(公開草案4項)。 1 範囲 公開草案は、おおむね次の内容で発行される権利確定条件付き有償新株予約権を対象としている(公開草案2項)。 2 会計処理 主な会計処理は次のとおりである(公開草案5~8項)。 (1) 権利確定日以前の会計処理 (2) 権利確定日後の会計処理 (3) 権利確定日 権利確定日は、次のとおりとする(公開草案7項)。 3 開示 従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する注記は、ストック・オプション会計基準16項及びストック・オプション適用指針24項から35項に従って行う(公開草案9項)。 Ⅲ 適用時期等 本実務対応報告の適用にあたっては、本実務対応報告の公表日より前に従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与した取引に係る会計処理を遡及的に適用することが、企業間の比較可能性の向上に資すると考えられるため、遡及適用を原則としたとのことである(公開草案10項(1)、31項)。 Ⅳ 「払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理(案)」 「払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理(案)」では、当該適用範囲(2項)について、「本適用指針は、これに関連する新株予約権及び自己新株予約権の会計処理についても取り扱っている。ただし、新株予約権については、現金のみを対価として受け取り、付与されるものに限る。」と改正することを提案しており、「現金を対価として受け取り」の記載から「現金のみを対価として受け取り」と記載している。 (了)
《速報解説》 取引相場のない株式等の評価見直し含む 改正財産評価基本通達、パブコメを経て正式公表 ~経過措置なく原案通り、H29.1.1以後取得の財産評価より適用 Profession Journal編集部 平成29年度税制改正では大綱に類似業種比準方式の評価方法の見直し等が明記され、既報の通り3月1日付けで財産評価基本通達の一部改正案がパブリックコメントに付されていたが(意見募集は3月30日まで)、5月15日付けでこの改正通達及び改正を受けた評価明細書様式等が正式に公表された。 改正内容は原案通りで、平成29年1月1日以後に相続等により取得した財産の評価から適用される。 〇近年の経済状況に基づいた評価方法の見直し 今回の改正通達では取引相場のない株式等の評価のうち類似業種比準方式における3つの比準要素(配当金額、利益金額、簿価純資産価額)の比重割合を1:3:1から1:1:1としたほか、類似業種の株価について課税時期の属する月以前2年間の平均株価を選択可能とし、類似業種の比準要素の数値に連結決算を反映させることとするなど、近年の経済(株価)状況に基づいた見直しが行われている。 また会社規模の判定基準のうち大会社及び中会社の総資産価額、従業員数、直前期末以前1年間の取引金額についても、近年の上場会社の実態に合わせて見直されている。 その他、森林の主要樹種の立木の評価について適正化を図る見直しが行われた。 なお、改正通達公表に合わせて株式等の評価明細書の様式及び記載方法も変更され、改正内容と趣旨を説明した「「財産評価基本通達の一部改正について」通達等のあらましについて(情報)」も公表されている。 〇経過措置は設けられず 今回の改正内容は大綱及び改正案において「平成29年1月1日以後に相続、遺贈又は贈与により取得した財産の評価に適用する」ことが示されており遡及適用となるためケースによっては不利益を被る納税者も出ることから、経過措置が設けられるのか注目されていたが、経過措置は設けられず上記原案通りの適用となった。 この点に関し、改正案のパブリックコメントページに掲載された「意見募集結果」では、 といった意見が寄せられていたが、これらの意見に対し との国税庁の考え方が示されている。 (了)
《速報解説》 役員報酬に係る平成29年度税制改正に対応した 『インセンティブプラン導入の手引』が経産省から公表 ~昨年のRS導入手引よりQ&Aを大幅追加 Profession Journal編集部 日本再興戦略やコーポレートガバナンス・コードなど政府の方針として国際標準化が求められている役員報酬の多様化については、昨年度の譲渡制限付株式報酬の損金算入要件の明確化に続き、今年度においては次のように、より大幅な制度の見直しが行われ、多様な役員報酬の設計に対する税制上の取扱いが整備されたところだ。 上記の改正に伴い、昨年公表された『「攻めの経営」を促す役員報酬~新たな株式報酬(いわゆる「リストリクテッド・ストック」)の導入等の手引~』(以下、RS導入手引)の今年度改正版ともいえる『「攻めの経営」を促す役員報酬-企業の持続的成長のためのインセンティブプラン導入の手引-』(以下、手引)が、このほど経済産業省ホームページにて公表された。 手引の前半部分(Ⅰ 「攻めの経営」を促す役員報酬の概要)は本改正に至る経緯や概要などがまとめられており、後半部分(Ⅱ 株式報酬、業績連動報酬に関するQ&A~平成28年度・平成29年度税制改正を踏まえて~)は次のとおり、全72問のQ&Aで構成されている(Q17~47(Q36除く)はRS導入手引掲載のQ&Aをアップデートしたもの)。 本改正については大綱における記載から改正法令に至るまで、改正の全体像が見えづらいものであったが、例えばQ2では株式交付信託のうち在任時交付型と退任時交付型で適用時期に差異がある点が示されており、またQ59・Q60では業績連動給与(改正前:利益連動給与)の算定指標の範囲として加えられた「株式の市場価格の状況を示す指標」「売上高の状況を示す指標」がそれぞれ具体例と共に説明されるなど、報酬の種類とその留意点が整理されており損金算入の可否も明記されていることから、有用な資料としてぜひ目を通しておきたい。 なお、今後内容が更新される可能性もあるため、実務で使用する際には改めてホームページで取扱いを確認する必要があろう。 【参考図】 (※) 手引Q1より (了)
《速報解説》 特定資産の買換え特例、買換資産が土地等の場合に係る 改正通達パブコメが公表 ~プロジェクト大規模化に伴い建物等の建設期間が3年超となるケースに対応~ 税理士 内山 隆一 平成29年4月25日、「租税特別措置法関係通達(法人税編)の制定について」(法令解釈通達)ほか3件の一部改正(案)(特定の資産の買換え特例の場合の課税の特例の適用について)に対する意見公募が行われた(意見募集締切日は同年5月24日)。 この通達改正の背景、及び改正案の要旨は次のとおりである。 1 現行制度の内容 租税特別措置法第65条の7(特定の資産の買換えの場合の課税の特例)(以下「本特例」という)は、同法に定める所定の譲渡資産を譲渡して、一定期間内に同法に定める買換資産を取得して、その買換資産を原則としてその取得日から1年以内に事業供用することを要件としている。 この場合、買換資産が土地等であり、その上に建物等を建設等する場合には、その建物等の事業供用日にその土地等についても事業供用したものすることとされている(措置法通達65の7(2)-2(1)イ)。 また、実際問題としては建物等の建設工事が長期間にわたることもあるため、そのような場合には、その建設等の着手日から3年以内に完成して事業供用することか確実であると認められる場合には、その建設等の着手日にその土地等を事業供用したものとすることとされている(措置法通達65の7(2)-2(1)イ括弧書)。 2 改正の背景及び改正案の要旨 近年においては、プロジェクト規模の非常に大きい開発も多く、建設等の着手日から完成までの期間が3年を超えるようなものも増えてきたこと、また、都市再開発法に基づく第1種市街地開発事業では、建物の建設等に係る事業の遂行が困難となるおそれがある場合には、都道府県知事が職権で事業を代行することを決定できる旨の規定がおかれていることから、仮に建設期間が3年を超えるようなものであっても確実に建設事業を継続できるようになっておりその建設等が確実に完了できると見込めることから、その建設期間が3年を超えたものについて本特例の適用を認めても課税上弊害はなく、より実情に即していると考えられる。 今回の改正では、建物等の建設は一般的には5年以内に完了することが多く、また、国税の更正の期間的制限を考慮すると建物等の建設期間については5年を限度にする必要があると考えられることから、建物等の建設期間が3年超5年以内で、その建物等の建設等に係る事業の継続が困難となるおそれがある場合には、国又は地方公共団体がその事業を代行することによりその事業の継続が確実であるものに限り、その建設等の着手日にその土地等を事業供用したものとし、本特例の適用を認めることとしている。 なお、この改正と併せて、買換資産を事業の用に供しない場合の取戻し課税(措置法通達65の7(3)-10)についても改正される。 また本特例に係る法人税申告書別表13(5)の様式改正案も公表されている。 3 適用開始時期 この通達改正の取扱いは、平成29年3月31日以後に終了する事業年度分の法人税について適用される予定となっている。 (了)
2017年5月11日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.217を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。