告知 プロフェッションジャーナル創刊5周年記念特集 『AIで士業は変わるか?』の 連載開始について 株式会社清文社と資格の学校TACの共同事業で誕生した「税務・会計Web情報誌プロフェッションジャーナル」は、2018年で創刊6年目を迎えます。 本誌ではこのたび、『AIで士業は変わるか?』をテーマとして、公認会計士、税理士を中心としつつ、大学教授や企業人、会計ソフトベンダー、不動産鑑定士や弁護士といった他の士業を含む幅広い分野の第一線で活躍されている方々にご執筆をいただく企画をスタートしました。 今後、AI(人工知能)を中心とした技術革新によって、会計・税の実務はどのように変化する(または、すでに変化している)のでしょうか。 また、変わらないものは何でしょうか。 これらの問題提起について、これからの指針となるような見識やヒントを知ることができる新連載『AIで士業は変わるか?』をぜひご覧ください。 各記事はページ下部の[連載目次]からご覧ください。 (各号の目次からもご覧いただけます) ◆ ◆ ◆ 税務・会計Web情報誌プロフェッションジャーナル(Profession Journal)について詳しく知りたい方は、下記をご覧ください。
2018年2月8日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.255を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第61回】 「条文の『見出し』から租税法条文を読み解く(その1)」 中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 はじめに 法令解釈に当たって、条文の文章自体に最大限の注意を払い、読み解く必要があることは当然であるが、条文の「見出し」についてはどうであろうか。 条文本体ではないから注意を払う必要はないとしてよいのか、それとも条文本体同様の注意を払わなければならないのであろうか。 見出し自体も法令であるから、例えば、見出しの変更を行う場合にも、国会での審議を要することとされている。すなわち、見出しはその条文と一体のものとして、見出しについても改正対象とされているのである。したがって、新しく見出しを付す場合や、見出しを削る場合なども条文の改正と同様の手続きを踏むことになる。 本稿では、条文の見出しに注目して、見出しが条文解釈にいかなる影響を及ぼすかについて考えてみたい。 Ⅰ 条文見出しの意義 1 条文見出しの意義・役割 まずは、見出しの意義、見出しの有する役割から考えてみよう。 見出しには、条と一体的に扱われる通常の見出しと、複数の条に共通するものとしてその前に置かれる共通見出しとがある。共通見出しは、一連の関連する複数の条とは別個の独立したものとして扱われる。 なお、見出しは「(〇〇)」とするところの括弧をも含んでいる概念である(なお、この括弧書きは、条文中においては「( )」で表示されるが、本稿においては、「《 》」で表現することとする。)。 見出しは、条に付けられるのが原則であるが、附則などにおいて、法文が条でなく項のみに分かれており、しかも、その項の数が多い場合には、項にも見出しが付けられることがある。このように項建ての附則に付される見出しも、その扱いは通常の見出しと同じである。 見出しは、検索の便宜等の観点から、条項の内容を簡潔にまとめて表現しようとしたものにすぎないから、それ自体が法規的な役割を果たすものではないといわれている(林修三『法令用語の常識〔第3版〕』157頁(日本評論社2007))。 しかしながら、当然、「見出し」が、その見出しが付されている条項を解釈する1つの手がかりを提供し得るものであると考えてよいと説明されることもある(林・前掲書157頁)。 これに対して、見出しは単なる検索の便宜のためのものであるから、見出しに特別な意味があると解する必要はないとする見解もあろう。 例えば、法人税法を例にとっても、第1編「総則」第1章「通則」と規定されているからといって、同章に法人税法の通則が網羅的にすべて規定されているわけではなく、法人税の適正な納税に資する重要事項である罰則規定などであっても、第1編第1章には設けられていない(罰則が設けられているのは、同法159条以下である。)。 現在では、国税通則法に集約される形で削除こそされているが、通則的規定ともいえる質問検査権などが、第4編「雑則」の中に規定されていたこともその一例といえよう(旧法法153、154)。 このことからすれば、編、章、款及び目等の見出しの記載如何によって、かかる編、章、款及び目における各条文の法解釈が左右されるわけではなく、いわんや条文見出しの記載如何が、その条文の法解釈に影響を及ぼしたり、条文の法解釈の参考となるわけでもないともいい得る。 このことは、同一法律の中に見出しの付いている条文と、見出しの付いていない条文が混在している法令があることからも裏付けられるかもしれない。 実際、所得税法238条ないし243条や、法人税法159条ないし163条には見出しが付いていない。これらは罰則規定に関するものであるが、相続税法では、罰則規定に限らず同法6条や8条、9条、10条、14条など、見出しが付いていない条文が多く散見されるところである。その他、租税法以外の法律においても、行政事件訴訟法20条、33条、37条の3や、会社法8条、39条、労働基準法10条ないし12条、32条の2ないし32条の5、59条など枚挙にいとまがない。 この点を強調すると、見出しの意義は、単なる検索便宜のために留まるとの見方もあろう。かように見出しの意味に重きを置かない見解もあり得ると思われるため、以下検討を加えることとしよう。 2 条文見出しの沿革 さて、見出しの意義を考えるに当たって、その沿革を確認するところから始めよう(以下、見出しの沿革に関する先行研究である平野敏彦「憲法の条文見出し」広島法科大学院論集10号67頁以下を大きく参照している。)。 現在の日本国憲法は、枢密顧問の諮諭と大日本帝国憲法73条による帝国議会(衆議院・貴族院)の議決を経て、旧憲法を改正したものとして昭和21年11月3日に公布された。 憲法原典には、旧仮名遣い・拗音促音大書き・漢字正字体(旧字体)・条文見出しなし・項番号なし(改行1字下げあり)という体裁が残っている。 新憲法を施行するためには多くの法律が必要であり、国会(帝国議会)はフル回転で立法作業を進めたという。なお、法令文作成の方針が口語体に移行している中にあって、旧仮名遣いは使用されなくなった。 さて、条文見出しについてであるが、条文見出しは、昭和22年に入って交付された一部の法律で付されるようになった。同年3月26日公布の「統計法」(昭和22年法律第18号)に「( )」を使用した外見出しが付けられたものが最初である。 次が同年3月31日公布の「教育基本法」(昭和22年法律第25号)であり、条名の下に見出しがある内見出しが付された(これは平成18年12月22日公布の同名の「教育基本法」(平成18年法律第120号)により全部改正された旧法である。)。 ここで条文見出しが定着したかと思いきや、教育基本法と同日に公布された「学校教育法」(昭和22年法律第26号)では、条文数も多くその必要性は大きいはずであるにもかかわらず、見出しは付けられていない。 しかし、同年4月7日公布の「労働基準法」(昭和22年法律第49号)には外見出し、4月16日公布の「裁判所法」(昭和22年法律第59号)には内見出しが付けられており、外見出しか内見出しかも、試行錯誤の段階だったのかもしれない。それを裏付けるかのように、例えば同年9月1日公布の「船員法」(昭和22年法律第100号)は外見出しだが、12月12日公布の「郵便法」(昭和22年法律第165号)はまた内見出しに戻っている。 【参考】 〇外見出しのケース(条名の前に見出しがあるケース):労働基準法 〇内見出しのケース(条名の下に見出しがあるケース):裁判所法 昭和23年に入ると、項番号が付されるようになり、一部の法律に条文見出しが付けられるようになった。 もっとも、同年7月10日に公布された刑事訴訟法(法律自体の名称は「刑事訴訟法を改正する法律(昭和23年法律第131号)」)は、ちょうどその端境期に当たるが、全体の条数が当時506条に及ぶという条文数が多い法典であるにもかかわらず、条文見出しも項番号も付けられていない。 このように昭和22年と23年に公布された法律は条文見出し(外見出しが大半であるが、一部は内見出し)を持つものと持たないものが混在している。昭和24年以降はすべての法律条文に「( )」の外見出しを付し(外見出しのメリットは、共通見出しの使用が可能な点である。)、現在の法令文の形がようやく整ったようである。 3 条文見出しの改正 (1) 見出し改正の意義 上記が条文見出しの大まかな沿革であるが、条文見出しの改正についてもその具体例を参考にしながら確認しておきたい。ここでは、平成18年に可決・成立した公益法人制度改革関連3法についての関係法律整備法により、大幅に整理された民法の法人に関する規定を取り上げる。 かかる整備に際して、会社の目的に関する旧民法43条は削除され、関係法律整備法38条により、その条数が34条に改められ、同条において「法人は、法令の規定に従い、定款その他の基本約款で定められた目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う。」と規定された。 さらに 民法33条は、見出しを「《法人の成立》」から「《法人の成立等》」に改め、2項として、「学術、技芸、慈善、祭祀、宗教その他の公益を目的とする法人、営利事業を営むことを目的とする法人その他の法人の設立、組織、運営及び管理については、この法律その他の法律の定めるところによる。」を追加する改正が行われた。なお、同条1項は、「法人は、この法律その他の法律の規定によらなければ、成立しない。」と規定する。 このように、平成18年民法改正では、民法33条2項によって、営利事業を営むことを目的とする法人等の設立、組織、運営及び管理については民法等の定めるところによる旨を明言するとともに、次の34条で、法人の目的が法人の権利義務を制限することを規定することにより、法人の「目的」がその権利義務を制限することに関して、わかりやすくかつ疑義の生ずることのないように明らかにしたということができる(金田充広「会社の定款所定の目的」社会科学雑誌1号4頁)。 見出しに「等」の一文字を入れただけのように思われるが、法人の目的が法人の権利義務を制限するという基本的考え方を示すため、また、法人の設立、組織、運営及び管理についても民法等の定めるところによることを明らかにしたからには、単に、「法人の成立」という意味以上の見出しが必要となったとみるべきであろう。かように考えると、条文の「見出し」改正の意味は決して小さいものとはいえない。 なお、見出しの改正は例えば以下のようになされる(石毛正純『法制執務詳解〔3訂版〕〕282頁(ぎょうせい2000)など』参照)。 ア 見出しの一部改正の例 ◆通常見出しの一部改正の場合 ◆共通見出しの一部改正の場合 イ 見出しの全部改正の例 ◆通常見出しの全部改正の場合 ◆共通見出しの全部改正の場合 ウ 見出しと条文の一部改正の例 ◆通常見出し等を一部改正する場合 エ 見出しを付する・削る改正の例 ◆通常見出しを付する場合 ◆通常見出しを削り、共通見出しを付する場合 ◆共通見出しを削る場合 ◆共通見出しを削り、通常の見出しを付する場合 ◆共通見出しを削り、条を移動して新たに共通見出しを付する場合 ◆共通見出しを加える場合 (続く)
「使用人兼務役員」及び「執行役員」の税務をめぐる考察 【第1回】 「使用人兼務役員の定義と役割」 税理士 大塚 進一 1 使用人兼務役員の法律上の定義 役員のうちに使用人部分が含まれるため、独特な定義となる。ここでは税法上と労働関係法上におけるそれぞれの取扱いをみていく。 (1) 税法上の定義 使用人兼務役員とは、役員のうち、部長、課長その他法人の使用人としての職制上の地位(※)を有し、かつ、常時使用人としての職務に従事する役員をいう。 (※) 「その他法人の使用人としての職制上の地位」については次回参照。 さらに役員として、次の①~⑤のいずれにも該当しない場合であり(法令71①)、いずれかに該当すると使用人兼務役員になることはできない(法法34⑤)。 ここで、①~③は、代表権を有するとみなされる者で使用人を指揮監督する立場の者であり、④は会社法等で使用人を兼ねることが禁止されている者。⑤は、役員の中でも会社に対する支配力を強く行使することができる者である。また、「株主グループ」とは、その会社の一の株主等及びその株主等と親族関係など特殊な関係のある個人や法人のことをいう。 これらをまとめると、〈図1-1〉のように判別することになる。 〈図1-1〉 使用人兼務役員の判定 使用人兼務役員に該当すると、その使用人分に対する給与については、役員ではない一般の使用人に対する給与と同様、原則として損金算入が認められる。 (2) 労働関係法上の定義 使用人兼務役員は会社と、「使用人としての雇用契約」と、「役員としての委任契約」との混合形態で契約していると解される。そのため、使用人の部分に関しては、労働基準法等の労働関係法令における「労働者」の扱いが適用され、それ以外の部分は通常の役員としての取扱いになる。 したがって、使用人業務の部分に対する給与は、労働基準法上の「賃金」に該当し、全額を、通貨で、直接、毎月、一定期日に支払わなければならない。また、賃金部分が総額の半分以上であって、労働者性が強い場合は雇用保険の被保険者として認められる。役員部分についての報酬は、委任契約としての対価となり、株主総会や取締役会等において決まり、役員報酬がない場合もあり得る。 役員が使用人兼務であるかは、会社との関係が、業務遂行上の指揮監督の有無や拘束性の有無等の事情を総合的に考慮し、それが使用従属関係にあるか否かで判断される。すなわち、その者に「労働者」としての地位があるかどうかである。 2 使用人兼務役員が会社運営上、必要とされる理由 会社の規模や事業内容によって、会社の意思決定を行う機会がそれほど多くないケースもある。そのような場合、役員としては、通常は会社業務を行い、必要な場面において会社の意思決定に参加する方が合理的である。 また、会社の意思決定のみに携わる役員のみの場合より、通常業務も行いつつ会社の意思決定に参加する役員もいる方が、現場からの意見を会社の方針に反映しやすい。 そこでいわゆる「取締役営業部長」等の肩書きを持つ、使用人兼務役員が必要とされる。 使用人兼務役員は、1人の人間の中に「使用人分」と「役員分」があるので、その税務上の扱いも独特のものとなる。 次回以降では、その基礎的な事項を確認し、留意点について述べていく。 (了)
〔平成30年3月期〕 決算・申告にあたっての税務上の留意点 【第3回】 「「所得拡大促進税制の見直し」及び 「中小企業向け租税特別措置の適用制限」」 公認会計士・税理士 新名 貴則 平成29年度税制改正における改正事項を中心として、平成30年3月期の決算・申告においては、いくつか留意すべき点がある。【第2回】は、研究開発税制の見直し、及び特定資産の買換え特例の見直しと適用期限延長について解説した。 【第3回】は、所得拡大促進税制の見直し、及び、中小企業向け租税特別措置の適用制限について、平成30年3月期決算申告において留意すべき点を解説する。 1 所得拡大促進税制の見直し 所得拡大促進税制とは、青色申告書を提出している法人が給与等支給額を一定以上増加させた場合に、その増加額の一定割合について税額控除が認められる制度である。ただし、当期の法人税額の10%(中小企業者等については20%)が控除限度額となる。 当該税制を適用するためには、給与等支給額の増加に関する3要件を全て満たす必要があるが、このうち平均給与等支給額の要件が、平成29年度税制改正により見直されている。 ▷改正のポイント ① 要件の見直し 平成29年度税制改正前は、当事業年度の平均給与等支給額が、前事業年度の平均給与等支給額以上であることが要件であった。これが改正により、中小企業者等以外の法人については、前事業年度と比較して2%以上増加していることが必要とされた。ただし、控除税額が上乗せされる。 中小企業者等については改正後も変更はないが、平均給与等支給額が前事業年度と比較して2%以上増加している場合は、控除税額が上乗せされることになった。 この改正は平成29年4月1日以後に開始する事業年度から適用されるため、平成30年3月期には適用されることになる。 【所得拡大促進税制の適用要件】 (※1) 3月決算法人の場合は平成25年3月期が該当する。 (※2) 平成29年3月期の4%から引き上げられているが、29年度改正による引上げではなく当初から予定されていたもの。 ② 控除税額の上乗せ ◆中小企業者等以外の法人 給与等支給額が基準年度と比較して増加している金額のうち、「前事業年度と比較して増加している金額までの部分」について、控除税額を2%上乗せする。 【控除税額のイメージ】 ◆中小企業者等 平均給与等支給額が前事業年度以上ではあるが、増加率が2%未満である場合は、控除税額の上乗せは適用されない。 【控除税額のイメージ】 平均給与等支給額が前事業年度と比較して2%以上増加している場合は、給与等支給額が基準年度と比較して増加している金額のうち、「前事業年度と比較して増加している金額までの部分」について、税額控除を12%上乗せする。 【控除税額のイメージ】 平成30年度税制改正において所得拡大促進税制の見直しが再度行われているので、平成31年3月期からは適用要件等が変更になる。 2 中小企業向け租税特別措置の適用制限(平成32年3月期から) 実態としては大企業であるのに、資本金1億円以下にすることで中小企業向けの税制特例を適用しようとするケースが見られる。このようなケースを防止するため、平成29年度税制改正により、前3事業年度の平均所得が年15億円を超える事業年度においては、法人税関係の中小企業向け租税特別措置の適用が停止される。 適用停止の対象となるのは、租税特別措置法による中小企業向け特例措置である。同じ中小企業向け特例措置であっても、法人税法によるものは適用停止とはならない点に注意が必要である。 ただし、平成31年4月1日以後に開始する事業年度から適用されるため、平成30年3月期の決算申告においては適用されない。 (了)
相続空き家の特例 [一問一答] 【第31回】 (最終回) 「一部の対象譲渡について 「相続空き家の特例」を適用しないで申告した場合」 -相続空き家の特例を適用しないで申告した場合- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、父親が相続開始の日まで単独で居住の用に供していた家屋(昭和56年5月31日以前に建築)及びその敷地200㎡を、昨年3月に父親の相続により取得し、その家屋を取り壊して更地にし、昨年10月にその一部である100㎡を4,000万円で売却しました。その家屋は相続の時から取壊しの時まで空き家で、その敷地も相続の時から譲渡の時まで未利用の土地でした。 「相続空き家の特例(措法35③)」は、1人の相続人ごとに1回しかその適用を受けることができないことから、まずは、昨年分の譲渡所得については同特例を適用しないで申告をし、その後の残地100㎡の売却が4,000万円未満の場合は、昨年分の申告に関して同特例を適用させて更正の請求をしようと考えています。 適用上の問題がないか教えてください。 A Xは、昨年分の申告に関して更正の請求書を提出しても、「相続空き家の特例」の適用を受けることができません。 ●○●○解説○●○● 租税特別措置法第35条第12項の規定では、確定申告書の提出がなかった場合又は確定申告書に所定の事項の記載若しくは所定の書類を提出しなかったことについて、税務署長がやむを得ない事情があると認めるときは、確定申告書に記載すべきであった事項を記載した書類及び添付すべきであった書類を提出すれば、同法第35第1項の規定を適用することができるとされています。 しかしながら、被相続人居住用家屋の敷地等の一部の対象譲渡(以下「当初対象譲渡」という)をした場合において、その個人の選択により、「当初対象譲渡」について「相続空き家の特例(措法35③)」を適用しないで確定申告書を提出したときは、例えば、その後においてその個人が行った被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等の一部の対象譲渡について同特例の適用を受けないときであっても、その個人が更正の請求をし、又は修正申告を提出するときにおいて、「当初対象譲渡」について「相続空き家の特例」の適用を受けることができないとされています(措通35-18(対象譲渡について措置法第35条第3項の規定を適用しないで申告した場合))。 なお、その後において残地の譲渡が、相続の開始があった日から同日以後3年を経過する日の属する12月31日までの間に行うことができなかったときや、貸付けなどをして残地の譲渡が要件を満たさないこととなったときも同様です。 したがって、本事例の場合、昨年分の申告に関して同特例を適用させて更正の請求をしても、「相続空き家の特例」の適用を受けることができません。 (連載了)
組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第24回】 公認会計士 佐藤 信祐 (《第2章》 平成13年度税制改正) (16) 特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入 『平成13年版改正税法のすべて』221頁(大蔵財務協会、平成13年)では、特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入が創設された趣旨について、 と解説されている。 このように、前回、解説した未処理欠損金額の引継ぎ等に係る制限と同じ趣旨により設けられた制度であることから、ほぼ同じ内容となっている。すなわち、「支配関係が生じてから5年」「みなし共同事業要件」「時価純資産超過額」といった概念が重要になる。 なお、条文構成として、法人税法62条の7第1項が吸収型再編、第2項が特定資産譲渡等損失額の計算方法、第3項が新設型再編となっている。このうち、第3項であるが、「特定資本関係(筆者注;現行法では「支配関係」に名称変更)がある被合併法人等(被合併法人、分割法人及び現物出資法人をいう。以下この項において同じ。)と他の被合併法人等との間で法人を設立する特定適格合併等が行われた場合」と規定されている。 すなわち、単独新設分割を行った場合には、他の被合併法人等が存在しないことから、特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入の適用対象から除外されるという点にご留意されたい。 (17) 租税回避行為の防止 『平成13年版改正税法のすべて』243-244頁では、法人税法132条の2に包括的租税回避防止規定が導入された趣旨について、以下のように記載されている。 すなわち、一般的には、組織再編税制が比較的新しい制度であることから、多種多様な租税回避行為が行われると考えられるため、それを防止するために設けられた制度であるとされており、この点について、特段の争いはない。 争いがある点は、経済合理性基準で判断するのか、制度濫用基準で判断するのかという点であるが、ヤフー・IDCF事件(平成28年2月29日最高裁判決:TAINSコードZ888-1983、1984)が公表される前は、経済合理性基準で判断すると考えていた税務専門家がほとんどであったと思われる。 しかし、経済合理性基準で判断したとしても、制度濫用基準で判断したとしても、例示されている4つの内容について結論が変わるとは思えない。「相手先法人の税額控除枠や各種実績率を利用する目的で、組織再編成を行う」ことはほとんど考えにくく、「株式の譲渡損を計上したり、株式の評価を下げるために、分割等を行う」というのは、包括的租税回避防止規定によらず、株式の評価における事実認定の問題である。 そのため、実際には、「繰越欠損金や含み損のある会社を買収し、その繰越欠損金や含み損を利用するために組織再編成を行う。」「複数の組織再編成を段階的に組み合わせることなどにより、課税を受けることなく、実質的な法人の資産譲渡や株主の株式譲渡を行う。」という点が問題となろう。 この点につき、ヤフー事件が公表される前に『組織再編における包括的租税回避防止規定の実務』(中央経済社)を上梓し、当時は、経済合理性基準で分析を行ったが、制度濫用基準で分析したとしても、すべて同じ結論になったと思われる。さらに、ヤフー事件の最高裁判所調査官解説(※)でも、「制度濫用基準の考え方を基礎としつつも、その実質において、経済合理性基準に係る上記の通説的見解の考え方(筆者注;経済合理性基準のことをいう。)を取り込んだものと評価することができるように思われる。」と指摘されている。 (※) 徳地淳・林史高「判解」ジュリスト1497号85-86頁(平成28年)。 いずれにしても、「組織再編成を利用する複雑、かつ、巧妙な租税回避行為」を想定して包括的租税回避防止規定が導入されたという点は理解しておく必要があると思われる。 (18) 総括 【第9回】から今回にかけて、『平成13年版改正税法のすべて』に規定されている法人税法の主要な内容についての解説を行った。気が付かれた読者も多いと思われるが、『平成13年版改正税法のすべて』『企業組織再編成に係る税制についての講演録集』を読み込んだとしても、税制適格要件、被合併法人等における譲渡損益の計算、株主課税、資本の部、繰越欠損金といった制度の根幹に係る部分についての制度趣旨は理解できるものの、個別項目の制度趣旨についてはそれほど明確に記載されていない。本来であれば、有価証券の譲渡損益の計算や外貨建資産等の換算についても触れたかったが、これらの文献において、制度の内容の説明はされているものの、その趣旨までは説明されていなかった。 「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」では、 と記載されており、『平成13年版改正税法のすべて』163頁以下に記載されている「個別制度における組織再編成に係る取扱い」における制度趣旨は、ほぼこれで説明できることが理由であると思われる。 その意味では、『平成13年版改正税法のすべて』が公表された時点の制度趣旨を理解するためには、【第3回】から【第7回】までで解説した内容を理解することが最も重要になると思われる。そして、平成13年当時における財務省、国税庁、経済界、税務専門家の見解を確認することにより、当時の議論とその後の税制改正の経緯を探っていくことができると思われる。 また、ヤフー・IDCF事件では、税制適格要件及びみなし共同事業要件の制度趣旨についても争われており、この論点については、平成13年当時から現在までで大きな改正がないことから、財務省主税局で組織再編税制の立案に携わった朝長英樹氏の鑑定意見書を分析する必要性はあろう。むろん、退官した後に、かつ、裁判における一方の当事者のために書かれた鑑定意見書であることから、当時のピュアな財務省主税局の見解とは異なる可能性もある点に留意しながら分析する必要がある。 * * * 次回以降では、『平成13年版改正税法のすべて』で解説されている法人税法以外の解説を行い、それが終わった段階で、①朝長英樹氏の鑑定意見書のうち、『平成13年版改正税法のすべて』と比較できる内容について検討を行い、その後に、②平成13年当時における財務省、国税庁、経済界、税務専門家の見解について検討を行う予定である。 (了)
さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第33回】 「右山事件」 ~最判平成17年2月1日(集民216号279頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)
理由付記の不備をめぐる事例研究 【第41回】 「寄附金(債権放棄)」 ~子会社再建支援のための債権放棄が寄附金に該当すると判断した理由は?~ 千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也 今回は、青色申告法人X社に対して行われた「子会社再建支援のための債権放棄は寄附金に該当すること」を理由とする法人税更正処分の理由付記の十分性が争われた東京地裁平成27年2月24日判決(税資265号順号12606。以下「本判決」という)を素材とする。 1 更正通知書に記載された更正の理由(本件理由付記) (注) 素材とした本判決の判決文から読み取ることができる理由付記の一部を筆者が加工している。 2 本件理由付記から読み取ることができる関係図 3 本判決の判断 本判決は、大要次のとおり、理由付記に不備はないと判断した。 (1) 求められる理由付記の程度 (2) 理由付記の十分性 4 検討 (1) 関係法令等の確認 本件更正処分の関係法令等を簡単に確認しておく(詳細は、本連載【第11回】「寄附金と貸倒損失」参照)。 貸倒損失について、法人税基本通達9-6-1(4)は、「債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額」は、貸倒損失として損金の額に算入する旨定めている。 損金算入が制限される寄附金について、法人が支出した寄附金とは、金銭その他の資産や経済的な利益の贈与又は無償の供与であり、いわば事業関連性の有無を問わず、対価を伴わない支出であると解されている(法法37⑦)。 また、直接的・個別的な対価を伴わない支出で、かつ、形式上、寄附金の額から除かれる広告宣伝費等の費用に該当しないものであっても、その支出を行うことにより、①対価的意義を有するものと認められる経済的利益の供与を受けている場合、又は②営利法人としてこれを受けることなくその支出相当額の利益を手離すことを首肯するに足りる何らかの合理的な経済目的等がある場合には、寄附金の額に含まれないと解されている。 子会社等の整理・再建に際し、相当の理由(経済的合理性)がある場合のその子会社等に対する債権放棄は寄附金ではなく、そのまま損金の額に算入される旨を明らかにした通達もある(法人税基本通達9-4-1、9-4-2)。 (2) 求められる理由付記の程度 本件更正処分は、X社が、100%子会社であるD(株)を支援するために、平成22年3月26日の臨時取締役会の決議に基づき、D(株)に対する不動産賃貸又は役務提供に係る収入等に係る債権等について、平成21年4月に遡ってD(株)に請求しないこと(債権放棄すること)として、それぞれ収入等に計上していない、というX社の帳簿書類の記載又はその前提たる事実を、処分の前提事実としている。その上で、この債権放棄が法人税法37条の寄附金に当たるものであるとの法的評価を加えることにより、損金不算入となる金額を所得金額に加算するものである。したがって、帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をする場合に該当すると考える。 すると、理由付記の程度としては、更正通知書記載の更正の理由が、そのような更正をした根拠について帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示するものでないとしても、更正の根拠を更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するものである限り、法の要求する更正理由の付記として欠けるところはないことになる(最高裁昭和60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号850頁等参照)。 (3) 理由付記の十分性 次のとおり、本件理由付記は、法の求める理由付記として十分なものではないと考える。 本件理由付記は、処分の前提事実として、X社が、100%子会社であるD(株)を支援するために、上記臨時取締役会の決議に基づき、D(株)に対する不動産賃貸又は役務提供に係る収入等に係る債権を平成21年4月に遡って請求しない(債権放棄する)として、それぞれ収入等に計上していないことを記載している。その上で、この債権放棄について、D(株)に対して当事業年度を通じて上記収入に係る不動産の賃貸又は役務の提供を行っていることから、当該収入に係る債権は確定しており、当該決議によりこの債権を放棄したものと認められるから、売上計上漏れと判断したことを記載している。 また、上記債権放棄は、D(株)の倒産を防止するためにやむを得ず行われたものではなく、当該債権放棄を行うことに相当な理由があるとは認められないから、法人税法37条7項の寄附金に該当することを記載している。 本件理由付記には、このほかに寄附金と判断するに至った具体的ないし個別的な事実の記載はない。もっとも、X社において、D(株)が倒産の危機にあることを示す資料やD(株)を再建するための計画に基づいて債権放棄を行ったことを示す資料を作成・保管していないことを前提とするならば、本件理由付記のようにやや消極的な処分理由の記載となることにも、やむを得ない面がある。 しかしながら、課税庁は、本件に係る訴訟において、次のとおり主張している。 そして、課税庁は、子会社等を再建する場合の損失負担等が経済合理性を有しているか否かを判断する場合には、次に掲げるaからgのような点に照らして、総合的に検討することが妥当であり、また、当該損失負担等に経済合理性があるというためには、支援者の主観的な動機や目的があることのみでは足りず、前提となる客観的な事実があり、その目的に応じた計画や金額等においても経済合理性が認められるものでなければならない、と主張している。これは、国税庁のタックスアンサー「No.5280 子会社等を整理・再建する場合の損失負担等に係る質疑応答事例等」におおむね沿った主張である。 その上で、課税庁は、上記bの点について、D(株)が、実質的には債務超過の状態になく、また、事業継続に支障をきたすほど資金繰りがひっ迫していたということができない以上、倒産の危機にあったとは認められないと主張している。その根拠として、課税庁は、要旨次の点を指摘している。 上記①ないし③に掲げたD(株)の実質的な資産状況及び支払能力、X社からD(株)への資金融通の常態化などに鑑みれば、D(株)は、事業継続に支障を来すほどに資金繰りがひっ迫していたとは認め難い、というのである。 これらの主張を読むと、本件更正処分において、D(株)に対する債権放棄は、D(株)の倒産を防止するためにやむを得ず行われたものではなく、当該債権放棄を行うことに相当な理由があるとは認められないと判断した具体的な事実を理解することができる。逆にいえば、本件理由付記は、処分の根拠となる事実や判断過程を省略して記載していることが浮き彫りとなる。 本件理由付記程度の記載で十分であるとすると、課税庁が、処分時に確固たる事実を把握しないまま、恣意的ないし主観的に、上記の判断をすることが事実上許されてしまうのではないか、という懸念も生じる(なお、債権放棄を行うことの相当の理由など一義的な判断が難しい場面においては、判断者の主観に左右されやすいことに留意)。 実際に、課税庁が、原処分時にどこまでの事実を把握し、処分理由として考慮していたかなどの観点から更なる検討を行う余地もあるが、差し当たり、本件理由付記は、少なくとも更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するという理由付記の趣旨と必ずしも適合しないという評価も成り立つであろう。よって、本件理由付記は、法の求める理由付記として十分なものではないと考える。 なお、債権放棄の損金算入を否認するような処分に係る理由付記に関連して、①法令のみならず関連する通達(本件では法人税基本通達9-4-2等)までも理由付記に記載しなければならないのか、②理由付記の趣旨目的と守秘義務(国家公務員法100条、国税通則法126条)との間でどのような調整を図るべきか、という議論がある(本連載【第38回】参照)。 上記①に関して、X社は、本件理由付記は、法人税基本通達9-4-2の文言の一部を抜き出して記載したものにすぎないため、単に根拠法条を示すだけの場合と同様に、処分の相手方において、その適用の基礎となった事実関係を知ることができず、不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨を損なうものである旨主張している。これに対して、本判決は、次のとおり、X社の上記主張を排斥している。 また、X社は、法人税基本通達9-4-2における「相当な理由」の有無については、検討されるべき各要件を総合して判断されるものである以上、各要件に該当するか否かについての評価がその判断過程に存在しなければならないのに、本件更正通知書には、その判断過程が一切記載されていない以上、判断過程が省略することなしに記載されているということはできない旨主張している。本判決は、次のとおり法人税基本通達9-4-2が法令ではないことのみを強調して、これを斥けている。 * * * 次回は、「得意先からの特別拡売費の負担依頼を受けて行った売上値引が寄附金に該当すること」を理由とする法人税更正処分の理由付記の事例を取り上げる。 (了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第69回】 亀田製菓株式会社 「独立調査委員会調査報告書(平成29年12月14日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【独立調査委員会の概要】 【亀田製菓株式会社の概要】 亀田製菓株式会社(以下「亀田製菓」と略称する)は、昭和32(1957)年設立。菓子の製造販売事業を中核事業とする。傘下に13社の連結子会社を有する。連結売上高98,206百万円、経常利益7,122百万円、従業員数3,152名(数字はいずれも平成29年3月期)。本店所在地は新潟県新潟市。東京証券取引所1部上場。 今回、不適切な会計処理が発覚したTHAI KAMEDA CO LTD(以下「TKD」と略称する)は、1990年1月設立、平成21(2009)年2月に亀田製菓が子会社化した、菓子の製造販売会社である。2017年3月期の売上高は433,242千タイバーツ(約15億円)であり、亀田製菓グループ売上高の1%強となっている。 【調査報告書の概要】 1 調査に至る経緯 2017年8月、亀田製菓常勤監査役である荒木徹氏(報告書上はK01。以下「荒木常勤監査役」と略称する)は、TKDの財務諸表を確認したところ、棚卸資産残高が売上高に比して過大であると考え、TKD副社長に棚卸資産の実在性について確認するように求めるとともに、TKDに往訪予定であった常務執行役員管理本部長である小林章氏(報告書上はK03。以下「小林常務執行役員」と略称する)に対して、TKD棚卸資産の現地確認を依頼した。 TKD副社長、小林常務執行役員とも、TKDの棚卸資産の実在庫が貸借対照表残高より過少であることを確認し、亀田製菓代表取締役会長及び代表取締役社長に報告を行い、亀田製菓経理部長及び監査部長が実地棚卸作業を含む棚卸資産の精査を行うこととした。 その結果、平成29年9月末時点において約6億5,000万円の棚卸資産の過大計上の可能性が判明したため、社内調査を進める一方、独立調査委員会を設置して、本件不正会計処理に関する調査の客観性及び信頼性を高めるとともに、事態の全容把握とその根本的な原因を解明し、実効性の高い再発防止策を策定することとした。 2 不正行為の概要 本件不正会計処理の具体的な方法は、「棚卸資産を実態よりも過大計上することによって、売上原価を減少させ、利益を水増しする」方法である。 (1) TKD経理部長によるエクセルシートの改竄 TKDにおいては、2007年より業務管理システムが導入されていたものの、棚卸資産については、TKD経理部において、別途エクセルシートによって原価計算及び棚卸資産残高の集計を行う運用がなされていた。 こうした運用は、亀田製菓が子会社化した2009年以後も続けられ、エクセルシートをTKD経理部長(報告書上はK20)が改竄することにより、容易に棚卸資産のかさ上げができる体制となっていた。 (2) 棚卸資産を過大計上した動機 TKD経理部長が調査委員会によるヒアリングにおいて、2011年5月、当時のTKD社長(報告書上はK13)に対する実績説明において、「もっと赤字を少なくしたい」というTKD社長の言葉に対し、「在庫量を増やすしかない」と説明したところ、「これ以上赤字を出したくない」と返答があったことから、これを黙示的な指示と受け取ったと説明した。 そして、TKD経理部長は不正の動機として、TKDが赤字決算を続けると亀田製菓がTKDを閉鎖することになるからと説明している。 (3) TKD現社長による不作為 TKD現社長である滝田裕充氏(報告書上はK15。以下「滝田TKD社長」と略称する)は、その在任中、少なくとも4回の取締役会でTKDの棚卸資産の量が議題に上がったが、TKD経理部長から聞いた理由を説明するに留まり、それ以上の調査を行わせなかった。また、海外事業部からのメールに対して、製品在庫の過大さに問題意識を持つ返信を行いながら、実際には副社長以下に調査を指示することはなかった。 そのうえ滝田TKD社長は、社内調査開始後、TKD経理部長から不正会計処理の事実を伝えられながら、その事実を数週間にわたり亀田製菓に報告していないことから、調査委員会は、「社長自身の保身とも解され得る行為」であり、対応として「不適切であったと言わざるを得ない」と断じている。 (4) TKDにおける実地棚卸の実施状況 調査委員会は、TKDの実地棚卸について、以下のように問題点を指摘している。 また、前述のとおり、TKDにおける棚卸資産管理は経理部がエクセルシートを作成して行っていたが、現場で管理されている在庫リストと会計帳簿作成の基礎となる在庫リストとの突合は行われていなかった。 その結果、調査委員会は、「現場での在庫数値の把握が不十分」であり、また、「現場での在庫数量の管理と経理部における在庫数量の管理が物理的にも切り離されていたこと」から、棚卸資産の正確な把握がそもそも困難であったと結論づけている。 3 不正会計処理の発生原因 独立調査委員会は、不正会計処理の発生原因を大きく4つに分けて指摘している。なかでも、TKDにおけるガバナンス及び内部統制については、厳しい指摘が並んでいる。 本件不正会計処理が長く続けられてきたことに対し、調査委員会は、TKDの歴代マネジメント(社長)が、「数値的な異常性については明確な数値上の根拠をもって検討を行い、経理部に対する牽制を利かせていれば、本件不正会計処理はより早期に発見されていたはずである」にもかかわらず、その対応ぶりは、「経営者として本来持ち合わせるべき高い意識と執行能力が不足していたことを示していると言わざるを得ない」と強い口調で断罪している。 亀田製菓の海外事業部にしても、監査部にしても、TKDの棚卸資産が過大であることには気づいておりながら、会計知識の乏しさゆえにこれを指摘することができなかったのは、その能力不足もさることながら、関係部署の連携もなかったというのが、調査委員会の結論である。 4 再発防止策の提言 独立調査委員会による再発防止策の提言は、発生原因に対応した形で、次のようにまとめられている。 調査委員会は、再発防止策の最優先課題として、「TKDにおけるガバナンス及び内部統制構築のための諸方策」を挙げ、その実行がなければ、第2項から第4項の対応を行ったとしても不十分であると言明している。 まず、経営者については、「経営全般に目を行き届かせ適切に経営課題を認識しようとする意識と、認識した経営課題に適切に対応する執行能力は不可欠である」としたうえで、TKDのマネジメント(社長)について、「海外の現地法人を運営する経営者が有するべき資質の基準を、TKDの現状を踏まえて改めて検討した上で明確化し、そのような資質を持つ人材を登用すべきである」と強調している。 また、TKD経理業務に対するチェック体制として、亀田製菓からTKD経理責任者を派遣するか、亀田製菓経理部門が一定の頻度でTKDの経理処理をチェックできる体制を構築することを提言している。上場会社の海外子会社においてこうしたチェック体制がないこと自体そもそも疑問であるのだが、チェック体制がなかった以上、早急にそうした体制を構築することは、確かに火急の課題であろう。なお、後述する亀田製菓による再発防止策では、「会計知識を有する適任者をTKDに派遣する」ことが明言されている。 【調査報告書の特徴】 本文69ページに及ぶ詳細な報告書には、2009年6月(2010年3月期第1四半期決算)までさかのぼって調査した棚卸資産の訂正数字が別紙として添附されており、独立調査委員会が、調査期間を延長せざるを得なかったのも肯ける。また、首謀者でタイ人のTKD経理部長の調査委員会によるヒアリングに対する受け答えが変遷し、揺れ動いている様子が、調査報告書から伝わってくる。 とはいえ、連結売上高の1%強の売上高しかない海外子会社の長年の不正会計処理が、亀田製菓に与えた影響は大きかった。 1 常勤監査役が副社長・経理部長を歴任していた海外子会社における不正 最初にTKDの棚卸資産の過大に警鐘を鳴らした荒木常勤監査役は、2010年4月から2013年1月まで、TKDの副社長であり、そのうち、2012年4月までは経理部長を兼ねていた。荒木常勤監査役は調査委員会によるヒアリングを4回にわたって受けているのだが、当時の部下であるTKD経理部長による棚卸資産の過大計上による粉飾決算について、荒木常勤監査役が調査委員会の調査に対してどのような発言をしたのか、報告書からは一切読み取れなかった。 しかし、報告書の別紙として添附された「比較損益表」によれば、棚卸資産の過大計上は、荒木常勤監査役がTKD副社長として着任する前から行われており、副社長在任時においても約1,000万タイバーツが過大であったことがわかる。当時のレート(1THB=2.75円)で計算すると約2,750万円であるため、発覚時の6億5,000万円に比べれば20分の1以下の粉飾であるが、荒木監査役がTKD副社長在任時に、実地棚卸マニュアルの策定や業務ルールの確立などを行っていれば、その時点で、是正できたのではないかと思われる。 2 独立調査委員会委員長の突然の交代 10月31日のリリースでは、独立調査委員会委員長は社外監査役・独立役員である湯原孝雄氏(報告書上はK08監査役。以下、「湯原社外監査役」と略称する)の就任が伝えられていた。しかし、11月3日に開催された第1回独立調査委員会において、委員より、湯原社外監査役が調査対象期間中にTKDを視察していた事実の指摘があり、当委員会による調査の客観性及び信頼性に対して疑義が呈せられる可能性を排除するため、湯原社外監査役は委員長及び委員の職を自発的に退任したということである。 この2016年8月のTKD視察には、荒木常勤監査役も同行しており、そこでTKD経理部長との面談が行われ、在庫についてやりとりがあったことが報告書にも記載されているが、そもそも海外視察の目的はカンボジア子会社の交渉中の合弁事業であり、TKD視察は現地従業員の激励が目的であり、視察期間も1日であったことから、監査役による往査ではなく、視察であると説明している。 同行した荒木常勤監査役が元部下であったTKD経理部長に対してどのような質問を行い、どのような回答を得たかは詳らかではないが、独立調査委員会に参加できないようなやりとりがあったのかもしれないというのは、うがち過ぎた見方だろうか。 3 亀田製菓による再発防止策 調査報告書と同日に公表された「再発防止策に関するお知らせ」に掲げられた再発防止策は次のとおりであり、独立調査委員会の再発防止策の提言に「全役職員のコンプライアンス意識の徹底」を加えたものとなっている。 また、再発防止策の末尾には、関係者の処分等として、TKD代表取締役社長の辞任と、亀田製菓代表取締役会長及び代表取締役社長のそれぞれが報酬月額の30%を3ヶ月間にわたって減額することが公表された。また、従業員については、それぞれの社内規程に基づき厳正な処分を行うとしている。 4 報告書公表と同時に発表された人事異動 同じく、調査報告書と同日に公表された「人事異動に関するお知らせ」では、以下のとおり、執行役員人事及び部長職人事が公表されている。 常務執行役員から降格した2人の執行役員については、本件不正会計処理に関する責任を取らせた人事であろうと推察できる。また、これまで部長職を派遣していたTKDの社長職に、執行役員を充てることを決めたのは、亀田製菓が公表した再発防止策の最初に掲げられた「経営者としての意識と執行能力を持った人材の採用・登用」の一環と考えることが可能であろう。 (了)