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理由付記の不備をめぐる事例研究 【第38回】「寄附金(貸倒損失・債権放棄)」~子会社に対する貸倒損失が寄附金に該当すると判断した理由は?~

理由付記の不備をめぐる事例研究 【第38回】 「寄附金(貸倒損失・債権放棄)」 ~子会社に対する貸倒損失が寄附金に該当すると判断した理由は?~   千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也   今回は、青色申告法人X社に対して行われた「子会社に対する貸倒損失が寄附金に該当すること」を理由とする法人税更正処分の理由付記の十分性が争われた東京高裁平成7年5月30日判決(税資209号940頁。以下「本判決」という)を素材とする。   1 更正通知書に記載された更正の理由(本件理由付記) (注)  素材とした本判決の判決文から読み取ることができる理由付記の一部を筆者が加工している。   2 本件理由付記から読み取ることができる関係図   3 本判決の判断 本判決は、大要次のとおり、理由付記に不備はないと判断した。 (1) 求められる理由付記の程度 (2) 理由付記の十分性   4 検討 (1) 関係法令等の確認 本件更正処分の関係法令等を簡単に確認しておく(詳細は、本連載【第11回】参照)。 貸倒損失について、法人税基本通達9-6-1(4)は、「債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額」は、貸倒損失として損金の額に算入する旨定めている。 損金算入が制限される寄附金について、法人が支出した寄附金とは、金銭その他の資産や経済的な利益の贈与又は無償の供与であり、いわば事業関連性の有無を問わず、対価を伴わない支出であると解されている(法法37⑦)。 また、直接的・個別的な対価を伴わない支出で、かつ、形式上、寄附金の額から除かれる広告宣伝費等の費用に該当しないものであっても、その支出を行うことにより、①対価的意義を有するものと認められる経済的利益の供与を受けている場合又は②営利法人としてこれを受けることなくその支出相当額の利益を手離すことを首肯するに足りる何らかの合理的な経済目的等がある場合には、寄附金の額に含まれないと解されている。 子会社等の整理・再建に際し、相当理由(経済的合理性)がある場合のその子会社等に対する債権放棄は寄付金ではなく、そのまま損金の額に算入される旨を明らかにした通達もある(法人税基本通達9-4-1、9-4-2) (2) 求められる理由付記の程度 本件更正処分は、X社が、子会社である(株)Rに対する債権金額2億円を債権放棄し、貸倒損失として計上したというX社の帳簿書類の記載又はその前提たる事実を、処分の前提事実としている。その上で、この債権放棄が法人税法37条の寄附金に当たるものであるとの法的評価を加えることにより、損金不算入となる金額を所得金額に加算するものである。 したがって、帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をする場合に該当すると考える(ただし、本件更正処分が、(株)Rの資産状況や支払能力など、その債権放棄に係るX社の帳簿書類に記載されている事実を否認することになるような場合には、帳簿書類の記載自体を否認して更正する場合に該当する余地がある)。 すると、理由付記の程度としては、更正通知書記載の更正の理由が、そのような更正をした根拠について帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示するものでないとしても、更正の根拠を更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するものである限り、法の要求する更正理由の付記として欠けるところはないことになる(最高裁昭和60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号850頁等参照)。 (3) 理由付記の十分性 次のとおり、本件理由付記は、法の求める理由付記として十分なものであると考える。 本件理由付記は、X社が子会社である(株)Rに対する債権金額2億円を債権放棄し、貸倒損失として計上していることが寄附金に該当することを記載している。また、その具体的理由として、要旨次の2点を記載している。 すると、本件理由付記は、その記載内容から法令上の根拠が明らかになるものであり、かつ、法令上の要件に対応する具体的な事実を記載するものであり、これによって課税庁の判断過程が明らかとなるものであるといえる。したがって、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるという理由付記の趣旨目的に適うものであると考える。 なお、法令のみならず関連する通達(本件では法人税基本通達9-6-1、9-6-2、9-6-3、9-4-1、9-4-2)までも理由付記に記載しなければならないのかという点については議論の余地がある(参考として、本連載【第2回】で言及した最高裁平成23年6月7日第三小法廷判決及び本連載【第3回】で取り上げた大阪高裁平成25年1月28日判決参照)。ここでは、記載内容から法令上の根拠が明らかになるのであれば、理由付記において関連する通達を付記することは要しないと解しておく。ただし、裁量基準に該当する通達や緩和的な取扱いを定める通達など、単なる法令の解釈にとどまらないような内容を定める通達については付記すべきであろう。 (4) 更なる議論 ~理由付記の趣旨目的と守秘義務との調整~ 本件のように貸倒損失の否認に係る事案などにおいて、債務者側の資産状況や支払能力に関する具体的な事実を理由として詳細に付記することについては、理由付記の趣旨目的と守秘義務(国家公務員法100条、国税通則法126条)との調整という観点から、議論がある。 例えば、ある法人(債務者)が債務超過であるか否かを判断する際、その法人の資産を時価評価する手間と困難を嫌う課税庁が安易かつ恣意的に債務超過ではないという判断を行うことがないよう、また、評価金額、評価方法等を争う納税者の不服申立ての便宜に資するよう、債務者の資産及び負債の具体的な状況やその時価評価における積算過程を一定程度、理由付記すべきであるという主張もありうる(本連載【第11回】参照)。 他方で、課税庁からすれば、税務署に提出された債務者の決算書等の記載内容や反面調査の状況等を、債務者が債務超過でないことや支払能力を有することの根拠として理由付記に詳細に記載した場合には、税務職員に課せられている守秘義務に抵触するのではないかという懸念が生じる(この点は、比較的詳細な理由付記をした本連載【第39回】で取り扱う事例と比較参照)。 債権者には債務者である法人の計算書類等の閲覧等請求権が認められていること(会社法442③)や、親子会社・グループ会社といった債権者と債務者との関係なども考慮に入れて、理由付記の趣旨目的と守秘義務との調整という観点からみた具体的な理由付記の程度に関する議論を行う必要があるかもしれない。 もっとも、守秘義務の議論について、理由付記の段階における処分の理由及び証拠の提示と、裁判での主張・立証の段階における処分の理由及び証拠の提示とで変わるところはないという観点から、より大きな枠組みでこのような問題を捉えることもできる。 *  *  * 次回は、「書面による債権放棄の通告が寄附金に該当すること」を理由とする法人税更正処分の理由付記の事例を取り上げる。 (了)

#No. 249(掲載号)
#泉 絢也
2017/12/21

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第66回】KISCO株式会社「特別調査委員会調査報告書(平成29年11月10日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第66回】 KISCO株式会社 「特別調査委員会調査報告書(平成29年11月10日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【調査委員会の概要】   【KISCO株式会社の概要】 KISCO株式会社(以下「KISCO」と略称する)は、大正10(1921)年設立、化学品、合成樹脂などの製造・販売を主要事業とする。旧商号は岸本産業株式会社(2007年に社名変更)。資本金6億円。売上高89,809百万円、経常利益1,825百万円、従業員数2,252名(数字はいずれも2017年3月期)。本店所在地は大阪市中央区。非上場。   【調査報告書の概要】 1 調査に至る経緯 KISCOは、平成25年10月以降、ATT株式会社(報告書上は「A社」。以下「ATT」と略称する)との間で、ATTから光学フィルムを仕入れ、国内のB社、中国のC社、E社及びF社(これらを総称して「中国販売先」という)に販売する取引を行ってきた。 この取引に関するKISCOの認識は、 というものであったが、中国販売先からの入金がしばしば遅延し、平成29年になってからは遅延期間が長くなっていた。 そうした中、6月22日、ATT代表取締役社長柴野恒雄氏から、概要、以下のような電子メールが届いた。 本件取引担当者が、中国販売先に確認したところ、いずれもKISCOの売掛債権の存在を否定し、契約書等の押印が虚偽のものであるという主張がなされた。こうした事実から、KISCOは、本件取引が架空取引に基づく資金循環であるとの強い疑義を有するに至ったため、6月27日付で特別調査委員会を設置して、調査を開始した。 2 資金循環取引の概要(前回記事の再掲) ATTとの取引について、概要をまとめると以下の図のようになる。なお、上述のとおり、KISCO特別調査委員会報告書では、ATTは「A社」と記述されている。 (※) 東京商工リサーチの記事を参考に筆者作成 3 本件取引に関するKISCOの認識 特別調査委員会は、KISCOとATTとの間の取引には、「取引A」と「取引B」という2つの商流が存在していたことを報告している。 (1) 取引A KISCOが認識していた取引Aの商流は以下のとおりである。 平成27年2月頃、KISCO監査役は、急に取引量が増大した本件取引について、「A社とB社との間には資本関係があり、結託して架空取引を行う可能性がある」と指摘したため、担当者らは、A社に対しては、出荷案内書等の提出や製造委託先・最終需要家の名称の開示を求め、B社に対しては、最終需要家からの注文書や入金明細等の提出を求めた。 書類の提出やA社及びB社との面談を終え、担当者らは、以下の理由(報告書p.9)から、本件取引は架空取引ではないものと判断し、さらなる関連証憑の提出や最終需要家の開示を求めることはなかった。 取引Aは、平成28年1月に商流が変更されて「取引B」が開始されたことから、B社に対する売掛債権は平成28年11月までに全額回収された。なお、取引AにおけるKISCOの累計売上高は24,047百万円であり、販売額と仕入額の差額である利益は980百万円であった。 (2) 取引B 平成27年8月頃、KISCO担当者らは、以下の理由から商流を変更して、中国企業との直接取引を開始した。 変更された商流「取引B」に関するKISCOの認識は、以下の図のとおりである。 取引開始当初から、販売先とは異なる商号(上図中のN社、O社及びP社)の会社から入金があったため、KISCO深圳の社員にN社の住所を訪ねさせたところ、応対した女性は、N社についても本件取引についても把握していない様子であった。この訪問は、ATT社長からのクレームにつながり、概要、以下のような説明を受けた。 そのうえで、「中国販売先と直接連絡を取ると混乱が生じるため控えてほしい」という要請をされて、KISCO担当者らはこれに納得した。 こうして取引を続けた結果、KISCOにおける「取引B」の累計売上高は41,011百万円、利益は1,352百万円であったが、ATT破綻に伴い、中国販売先に対する債権7,077百万円が回収不能となっている。 4 原因分析 典型的な架空循環取引にKISCOが巻き込まれることとなった原因分析を、特別調査委員会は以下のようにまとめている。 営業部門担当者が、売上偏重で取引拡大のために多少のことに目をつぶるのは仕方ないこととはいえ、KISCOでは、経営陣、監査部門及び管理部門もまた、不十分な調査について問題視することはなかった。この点、調査委員会は以下のように指摘している(報告書p.47)。 5 再発防止策の提言 特別調査委員会による再発防止策の提言は、大きく分けて4つの項目からなっている。   【調査報告書の特徴】 前回に続き、今回も、ATTによる架空循環取引に巻き込まれた企業の調査報告書を取り上げる。被害に遭ったのは、大阪市に本店を置く老舗の化学素材商社であるKISCOであった。 KISCOが「平成29年3月期有価証券報告書の提出期限延長に係る承認申請書提出に関するお知らせ」をリリースした6月29日のわずか4日後である7月3日には、東京商工リサーチが「70億円の『架空取引』疑惑が発覚! 」として、KISCOが架空循環取引に巻き込まれたことを公開しており、本記事には、「70億円」の根拠は何も示されていなかったが、報告書を読むと、これは未回収となっているKISCOの中国販売先向け売掛金残高に類似していることがわかる。 1 「A社」から大量のデータの提供を受けたうえでの調査 調査の特徴として、KISCOは、資金循環取引を仕組んだ側のA社(ATT)から、代表取締役社長、元事業部長、総務部長が使用していたノート型PCに保存されていたメール本文及び添付ファイルの提供を受けており、特別調査委員会が、これをデジタルフォレンジック調査の対象としていることが記述されている。 ATT社長が、全面的に「架空取引」であることを認めていたからこそ、ノートPCのデータ提供に応じたものであろうが、将来の刑事事件化の可能性も考えると通常は拒否するのではないだろうかと思える要請に対して、ATT社長が応じた理由については、報告書には記載はない。 なお、デジタルフォレンジック調査において、絞り込みに利用されたキーワードの一覧が「(別紙1)」として報告書に添付されており、これは同種の調査を行うに際して参考になるものである。 2 調査報告書における「B社」と藤光樹脂株式会社 前回で指摘したとおり、報告書では、「B社」について、ATTと資本関係があるとの記述があり、藤光樹脂株式会社(以下「藤光樹脂」と略称する)がATT株式の15%を保有していることから、「B社」が藤光樹脂である可能性を検討してみたところ、いくつか整合しない点を確認することができた。 最も違和感を覚えたのは、東証1部上場の藤倉化成株式会社の連結子会社である藤光樹脂が「B社」であったとすれば、「B社に対する債権保全リスクが懸念」されていたことである。藤光樹脂の年商は約230億円であり、その与信枠が1億6,000万円で、債権保全リスクがあると考えるのは、「B社」と藤光樹脂が別会社であると判断する材料になるのではないか。また、出資時期についても、藤光樹脂によるATTへの出資は2009年3月であるが、報告書では平成25(2013)年となっており、一致していない。 こうしたことから、「B社」と藤光樹脂は別会社である可能性が高いというのが本稿執筆時点での印象である。 3 拡大する取引についての懸念 平成29年3月期におけるKISCOの売上高は106,413百万円であるが、その中に占める架空取引の金額は41,522百万円であり、売上高の39%を占めるに至っている。こうした急速な取引拡大については、平成28年8月頃には、経済産業省から本件取引の末端顧客等の確認について指摘を受け、10月頃には常勤監査役から、中国販売先に対する与信枠の大幅な超過状態が続いていることについて内部統制上の問題がある旨の指摘があり、11月頃には、会計監査人である監査法人トーマツからも本件取引についてヒアリングを受けるなど、取引継続を慎重に判断すべき場面が何度となく訪れていた。 しかし、「原因分析」の項で引用したように、こうしたリスクの指摘について、経営陣はあまりにも鈍感であった。その結果として、架空取引によって得ることができた見せかけの利益2,332百万円に対し、未回収となった中国販売先に対する売掛金残高は7,077百万円と、大きな損失を出すこととなった。 4 中国を舞台にした資金循環取引 前回の連載でも指摘したとおり、中国企業を相手とする商談で架空循環取引が判明する事件が後を絶たない。 調査報告書では、ATTが守秘義務条項を盾に取引先(最終消費者)の開示に応じなかったこと、取引の相手とされた中国企業各社が国営企業であるため貸し倒れリスクが低いと説明されていたことなどが明らかになっている。しかし、日本企業と違って、こうした情報の裏付けをとろうにも、なかなか上手くいかないのが中国企業であり、売上拡大を狙うあまり、確認が少しでも疎かになってしまうと、架空循環取引に巻き込まれかねないリスクがあるということを、あらためて認識しておきたい。 KISCOが8月25日に公表した再発防止策では、具体的な取組として、以下の3項目が挙げられている。 取引・リスク審査委員会には、「知識と経験を有する外部の専門家からの助言」を得るとともに、管理本部直属として新設される審査部の審査についてもモニタリングを行うということであり、監査室の体制強化も含め、特別調査委員会による批判や提言を受け止めた再発防止策であると評価できる。 (了)

#No. 249(掲載号)
#米澤 勝
2017/12/21

被災したクライアント企業への実務支援のポイント〔会計面のQ&A〕 【Q1】「サプライチェーンを介した被災の影響」~棚卸資産の評価~

被災したクライアント企業への 実務支援のポイント 〔会計面のQ&A〕 【Q1】 「サプライチェーンを介した被災の影響」 ~棚卸資産の評価~   公認会計士・税理士 深谷 玲子   〈Q〉 当社は、複数の製品を製造している製造業である。当社の製品XXについては、原材料Xを購入して加工作業を行い、販売している。当社の製品XX1個当たりの情報は、以下の通りである。 当期に発生した地震により、当社に直接の被害はなかったが、原材料Xの購入先A社が被災したことにより、A社からの供給が一時的にストップした。そこで、原材料Xについて代替供給先を探したところ、B社から購入することができることとなった。しかし、地震による混乱もあり、原材料Xの購入単価は@200円となった(付随費用は生じないものとする)。一方、製品XXの販売単価は@300円のままであった。 このようなケースで、当期末における当社の在庫評価について、製品・仕掛品・原材料それぞれどのように考えたらよいか。 なお、当社は棚卸資産の評価方法として先入先出法による原価法を採用し、収益性の低下に基づく簿価切下げの方法により算定している。   〈A〉 以下、計算を簡略化して理解に資するため、製品・仕掛品・原材料それぞれの棚卸資産1個あたりについてみていく。 《製品XX》 当期の期末の製品に含まれる原材料XはすべてB社から仕入れたものであるとする。 《仕掛品XX》 原材料Xは加工開始時点にてすべて投入し、加工費は進捗度に応じて発生しており、当期末における仕掛品の進捗度は50%であった。なお、期末の仕掛品に含まれる原材料XはすべてB社から仕入れたものである。 《原材料X》 当社は、原材料に関しては、収益性の低下を認識するにあたり、再調達原価を用いることが適切であると判断し、継続して適用している。A社は近々復旧できる見通しであり、復旧次第、再び単価100円で部品Xの供給を開始すると表明しているため、当期末における再調達原価は100円であると判断した。 ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ 当社が直接被災していなくても、間接的に災害の影響を受けることがある。当ケースは、当社の棚卸資産には物理的な直接の被害はなかったものの、サプライチェーンを介して災害の影響を受ける場合である。 一般に、原材料の仕入れ先が被災した場合、仕入先からの供給量が不足し、原材料価格が一時的に高騰する。その結果、通常時とは異なる状態(=原材料価格の高騰による取得原価の増額)となっている棚卸資産の期末時評価はどうすべきであるか。 通常の販売目的で保有する棚卸資産は、取得原価をもって貸借対照表価額とし、期末における正味売却価額が取得原価よりも下落している場合には、当該正味売却価額をもって貸借対照表価額とする(企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」第7項)。 そのため、一時的な原材料価格の高騰により取得価額が増額している棚卸資産については、正味売却価額まで収益性の低下を認識する。一般に、原材料価格の高騰は、完成品の販売単価に転嫁できない場合が多く、その場合には、上記の例のように当社に損失が生じることとなる。 なお、簿価切下額の戻入れに関しては、当期に戻入れを行う方法(洗替え法)と行わない方法(切放し法)のいずれかを選択適用できるが、当ケースの場合は、地震という臨時の事象に起因するものであるため、洗替え法を適用していても、翌期に戻入れを行わないことに留意が必要である。 また、標準原価計算を採用している場合、期末時における標準原価は通常時の250円で算定することになるが、通常時よりも多額の原価差額が認識され、配賦計算されることにより、上記と同程度の取得原価が算定されることになるため、同様に考えることになる。 (了)

#No. 249(掲載号)
#深谷 玲子
2017/12/21

組織再編時に必要な労務基礎知識Q&A 【Q8】「企業が合併した場合、合併前に締結した36協定は合併後も有効か」

組織再編時に必要な労務基礎知識 Q&A 【Q8】 企業が合併した場合、合併前に締結した36協定は合併後も有効か   特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ   【A】 事業場の同一性が認められる場合は、合併前に締結した36協定は合併後も有効と考えられる。    36協定とは 労働基準法では、原則として時間外労働及び休日労働を禁止しているが、事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合にはその労働組合と、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合には労働者の過半数を代表する者と書面による協定を結び、これを所轄の労働基準監督署へ届け出た場合に限り、例外として当該協定で定めた範囲内で時間外労働及び休日労働が可能となる。 この協定は労働基準法第36条を根拠にしていることから「36(サブロク)協定」と呼ばれている。    免罰的効力 36協定は、所轄の労働基準監督署に届け出ることにより、原則として禁止されている時間外労働及び休日労働をさせたとしても、36協定の範囲内である限り、法律違反とはならないとする免罰的効力を生じさせるものであって、会社と従業員との権利義務を定めたものではない。よって、36協定は合併によって包括的に承継される権利義務にはあたらない。    事業場の同一性が認められる場合 合併時の労使協定の取り扱いについて記載されたものではないが、会社分割時の労使協定の取り扱いについては、「分割会社及び承継会社等が講ずべき当該分割会社が締結している労働契約及び労働協約の承継に関する措置の適切な実施を図るための指針(平成12年労働省告示第127号)」(第2の3の(3)ロ)で、次の通り記載されている。 これらの考え方は合併時にも適用されると考えられることから、事業場の同一性が認められる場合には、合併前に締結した36協定は合併後も有効と考えられる。 なお、「事業場の同一性」については、労働者の構成、事業場の場所、事業の実態等が実質的に同一であるか否かにより判断されると解されている。 (了)

#No. 249(掲載号)
#岩楯 めぐみ
2017/12/21

家族信託による新しい相続・資産承継対策 【第28回】「家族信託の活用事例〈株式編③〉(兄弟で分散して保有している会社の株式が、相続によってそれぞれの子に分散しないようにするために信託を活用する事例)」

家族信託による 新しい相続・資産承継対策 【第28回】 「家族信託の活用事例〈株式編③〉 (兄弟で分散して保有している会社の株式が、相続によってそれぞれの子に分散しないようにするために信託を活用する事例)」   弁護士 荒木 俊和   前回に続き非上場株式の承継を行う場合の信託の活用事例を解説していく。 今回は兄弟で分散して保有している会社の株式が、相続によってそれぞれの子に分散しないようにするために信託を活用する事例を解説する。 - 相談事例 - 私は今年63歳になりますが、父親から引き継いだ印刷会社の社長をしています。 父親は亡くなる少し前に私に事業を引き継がせましたが、会社の株については私に40%、弟に30%、妹に20%、親族ではない当時からの専務に10%を引き継がせました。父親から引き継いだ時点では、会社は赤字で株に価値が付くような状態ではなかったため、父親は何となくの感覚でこの配分を決めたのだと思います。 しかし、私の代になってから始めたネットプリント事業が成功し、今では株にかなりの価値が付いていると思います。 私と兄弟たちの仲は悪くないのですが、私の子は兄弟仲が悪かったり、弟の子は東南アジアの国に永住して仕事をすることになっていたり、妹の子が知的障害を持っていたりするなど、このままだとあとあと株を引き継ぐときに問題が出てきそうだと懸念しています。 その一方で、株が分散しないように譲渡や贈与をした場合の税金が気になります。 私に万が一のことがあったとしても、株主間でトラブルが発生しないように何かできることはないでしょうか。   1 家族信託活用のポイント (1) 株式分散のリスク 会社が株主総会によって決議をしなければならない重要事項の代表例として、取締役の選任(会社法第341条)や定款の変更(第466条)などがある。これらは会社運営の根幹に関わるものであり、これらの決議ができなくなると会社運営が立ち行かなくなるおそれが生じ得る。 株主総会決議は、普通決議で議決権の過半数(第309条第1項)、特別決議で議決権の3分の2以上(同条第2項)が必要となる。このため、単独で過半数又は3分の2以上の株式を保有している株主がいなければ、複数の株主の意見が一致することが株主総会の決議に必要となる。 この点、本件のように現状でも単独での決議ができない状態であり、かつ今後の相続によって株式がさらに分散されることが予想されるような状態であれば、さらに決議が容易に行えなくなる可能性が高い。 特に、仲が悪い者が株主の中にいると意見が割れて決議に至らないケースや、海外にいて招集通知が困難になるケース、また、知的障害によって意思能力がないとみなされ、議決権を行使できないケースなどが生じる。 (2) 株式の移転に伴う課税 このため、非上場企業においては、株式を1人に対して集中させて意思決定能力を高める対策が取られることがある。 しかし、ここで問題となるのが株式の移転の際に発生する税金である。 株式の取得時から株価が増加している場合、時価相当額で売買したときには譲渡益が発生し、売主に譲渡所得が発生する。また、時価よりも低い金額で譲渡又は贈与した場合には、譲受人に贈与税が発生する。 このため、取得時よりも値上がりしている株式を譲渡する場合には税金の発生を考慮する必要がある。 (3) 対策を行わない場合のさらなる拡散のリスク 税金の発生を恐れて対策を行わなかったり、特に問題意識を持っていないがために何も対策を行わないままでいたりすると、株式が子孫に承継されていくことになる。 この場合、子孫の数が増えると株主の数も増える可能性が高く、株主管理の問題や会社の意思決定能力の問題が健在化してくる。 また、単純に数の問題だけではなく、元の株主と疎遠となる者が増えてくるため、経営者の交代請求(取締役の解任)など、経営者の意図とは外れた意思決定がなされるおそれが出てくる。 このように対策が遅れると、取り返しのつかない状況に追い込まれるリスクがある。   2 本件におけるスキーム (1) スキームの概要 以上のことから、本件では大要、以下のような家族信託のスキームが考えられる。 (2) 株主権の行使 本件のスキームでは、前回解説を行ったスキームと同様に、受益者に指図権を設定しておらず、受託者自らが議決権を行使する。これによって1人会社(株主が1人の会社)と同様に、迅速かつ安定的な意思決定が可能となる。 また、受託者であり社長である本人が死亡した場合を想定して、後継者を二次受託者とすることで、議決権に関しては後継者にそのまま引き継がれることになり、安定的な意思決定の状態が維持できることになる。 ただし、委託者兼受益者はこのままの状態だと単に議決権を失ったのと同様の状態になってしまうため、利益が発生しているのであれば、受託者としては会社からの配当を行う決議を行い、受益者に対する信託配当を行うべきであろう。 十分に配当が可能な利益があるにもかかわらず、受託者が配当に向けた動きをしないのであれば、受託者としての善管注意義務違反となるおそれがある。 (3) 受益権の集約 以上のことから、議決権を受託者に集中することができるとしても、永続することはできない。すなわち、受益者連続型の信託であっても、信託設定時から30年経過後に現に存する受益者が受益権を取得して死亡した時点で信託は終了してしまう(信託法第91条)。 このため、信託によって議決権を集中した状態を継続することはできないことから、どこかの時点で信託の終了に向けて受益権を受託者に集中させていき、受託者が名実ともに株主となる状態に向けて進めて行くことが必要である。 ◆  ◆  ◆ (了)

#No. 249(掲載号)
#荒木 俊和
2017/12/21

海外勤務の適任者を選ぶ“ヒント” 【第9回】「家庭や地域コミュニティを通じた足がかりを作る」

海外勤務の適任者を選ぶ“ヒント” 【第9回】 「家庭や地域コミュニティを通じた足がかりを作る」   中小企業診断士 西田 純   海外勤務を上手くこなすためには、仕事と同様あるいはそれ以上に、家庭生活を通じた地域コミュニティとの接点が重要なポイントになります。地元に受け入れられ、地元とのスムースな関係性を保つことが、ひいては海外勤務を成功させる基礎になります。 他方で、派遣コストや安全管理の問題もあり、海外勤務は単身赴任を原則とするという会社もあると思いますが、その場合でも、仕事上の現地パートナーが属しているであろう地元社会との接点を上手に作り上げていくことが、仕事にも良い結果をもたらすことにつながります。 今回は家族を帯同する場合を例に、どのようなポイントがあるのか整理してみたいと思います。モデルケースとして、30代のご夫婦と、幼稚園~小学生のお子さんがいるご家族を想定します。   1 赴任先における家庭生活 (1) ご家族の生活 海外赴任者は、赴任先での仕事を中心として生活を組み立てることになりますが、配偶者である奥様(あるいはご主人)が仕事を辞めて(あるいは休んで)帯同される場合、赴任期間中は配偶者が専業主婦(あるいは主夫)として家庭を守り、子女教育に関わることが、主なお仕事になると思います。 多くの場合、同じ会社の前任者から引き継ぎを受けて生活基盤が作られていくというプロセスを踏むことになると思いますが、初めて赴任される国では、住まいの選択や車の手配などから始めなくてはいけないという場合も出てきます。 住まいを選ぶにしても、本来は夫婦で物件を見たうえで相談して決めるのがベストなのですが、さまざまな事情から赴任者が先に現地入りし、家や車を決めてから家族を迎える、という順番になることもあります。あとから不具合が見つかって困ることのないように、住まいの場所や間取りなどについては、動画やメールを使って家族間の連絡を密にしつつ、物件選びをされるとよいでしょう。 また、国によってはメイドや庭師などを雇わなければならないところもありますが、これらの使用人雇用については、実際に家族が到着してから人選するのがベターだと思います。 「前任者から使用人も引き継ぐ」というような例であれば、日本人の生活について使用人側にもある程度の知識があると想定できるため、軋轢は少ないかもしれませんが、初めて日本人に仕える場合には、衛生観念や時間管理の面で一つ一つ教えていかなくてはならない場合もあります。素直で正直な人材を面接で採用するのは大変な作業です。夫婦でしっかりコミュニケーションをとりながら、中途半端な妥協をせずに良い候補者を選ぶようにしてください。 赴任先では、日本から別送したものに加え、現地での生活に合わせた家具や什器なども少しずつ買いそろえていくことになると思います。赴任期間が比較的短い場合などはレンタルで済ませられることもあるので、赴任が決まったら関連する情報を集めておくと良いでしょう。 生活が安定してくると、ショッピングやスポーツなど週末などに家族そろって出かけることが暮らしのペースメーカーになってくれると思います。買い物については日本と同じように毎日スーパーに行ける、あるいは仕事帰りにショッピングを済ませられるという例もあると思いますが、赴任先によってはスーパーやコンビニが家から遠いなどの理由で、週末ごとのショッピングが生活のイベントになるという例も出てきます。 日本ではとても使わないような巨大な買い物かごで一週間分の食料を買い出す、というような作業は不便と言えば不便ですが、日本では経験できない生活でもあるので、あとで良い思い出になることでしょう。 (2) 子女教育 お子さんが小学生以下の場合、幼稚園や小学校を決めなくてはなりません。ところによっては通園通学の面倒を親が見る、というところも少なくないので、車の手配や、場合によっては運転手の雇用なども、赴任者にとっては重要になります。 幼稚園ではさほど問題にならないかもしれませんが、小学校の場合、日本人学校にするのか現地校を選ぶのか、その場合補習校などはどうするのかなど、赴任先によって選択肢は異なりますが、少なくない悩みが発生する事例も多いようです。 日本人学校を選択しない場合でも、義務教育期間については国から教科書が無償支給されるので、毎学期の始まりに大使館や日本人学校へ赴き、教科書一式を受け取ることになります。 着任後、どのくらいの期間滞在するのか、また赴任期間を終えて本帰国する段階でどのような教育機会を求めるかによっても違ってくると思いますが、英語教育などの面で帰国子女の優位性を求めるなら、思い切って現地校あるいは英米系の私立学校を選択するという方法はありうると思います。逆に日本での受験・進学を考えるなら、日本人学校を選ぶのが妥当な選択肢でしょう。 このあたりは親としての考え方ひとつで変わってくる部分です。各学校についての情報収集をしっかりと行ったうえで、時間をかけて検討するしかない要素だと思います。   2 地域コミュニティとの関係性 学校あるいは家庭を通じて、赴任先の地域コミュニティと良好な関係を維持するのも、海外勤務者にとっては重要な要素となります。 (1) 隣近所や地域コミュニティとのつきあい どこの国に行っても地域コミュニティにはそれなりの存在感を感じるものですが、北米の白人社会では特に、パーティがあったり(呼んだり呼ばれたり、という関係になります)子供同士の付き合いがあったりと、隣近所との付き合いが盛んです。そのほかにも趣味を通じて付き合いが深まったり、教会やクラブの知り合い、あるいは同じ店の常連さん、といったさまざまなコミュニティが広がることもあります。 いずれもオフラインで仕事を離れた付き合いなので、会社が口を挟みづらい部分になりますが、それだけにこのような付き合いを上手くこなすのは、海外勤務者本人の裁量によるところが大きくなります。国によってはプライバシーの境界線が日本とやや異なったり、ときには仕事に関係する話を持ち込まれるような場合もあるかもしれません。 そういった見えないリスクを危険視して、最初からコミュニティには関わらない、という考え方もあるようですが、私にはせっかくの機会をみすみす放棄しているように見えて仕方がありません。 むしろ、日本と異なる生活文化に触れる良いチャンスである、という考え方を海外赴任者と会社が積極的に共有できれば、無用に社会とのチャネルを遮断するようなことはなくなるのではないかと思います。人付き合いが苦手という方でも、生活者として地元に受け入れられるくらいの努力はしてほしいものだと思います。 (2) 日本人同士の集まり 海外勤務者の派遣先は、その多くが他の日本企業や公的機関が駐在員を置いているところになると思います。業務上でも、日系の取引先を複数持つ場合が少なくないのではないでしょうか。 生活面でも、日本人会や日本人学校、あるいは小さなお子さんを持つ母親のグループなど、情報交換の場や生活物資のやりとりなどでお世話になる機会は少なくありません。またゴルフやテニス、囲碁や将棋などの趣味を通じた集まりもあります。野球やサッカーのチームが他国の駐在員チームと試合をしたり、ゴルフやテニスでは日本人会が主催する大会が行われている国もあります。 特に、日本人学校があるところでは、運動会やお祭り、盆踊りやお正月の餅つきなどの行事が催されるところが多く、自然と日本人同士の付き合いが深まる場になります。 帰国する人が衣服や家具などを処分するためのガレージセールなども、日本人会経由で情報が入ったりします。帰国した後も長く付き合いが続くという事例も多く、海外勤務者の家族にとっては、付き合いの幅を広げる絶好の機会になると言えるでしょう。   3 候補者選定のポイント (1) 社交性 ごく当たり前の社交性を持った人であれば、全く問題はないと思います。 欲を言えば、人付き合いにおいてマメな方が望ましいかもしれません。 (2) 家族の適性 帯同する家族が現地の生活に適応できるかどうかが大きなポイントになります。 人付き合いが苦手だったり、使用人との人間関係など、日本と異なる生活環境になじめず、結局家族だけ先に帰国することになる例も少なくありません。 このため、候補者選定においては本人の適性もさることながら、家族が海外生活に適応できるかどうかが大きなポイントになるといえます。   4 まとめ 日本と異なる生活環境でも、良い人間関係を保全できれば充実した日々を送ることができます。会社側としても、仕事と生活が不可分となる海外勤務の特性を理解し、派遣者の生活についても本人任せにせず、地域コミュニティとの良好な関係作りへの支援に積極的に取り組んでいただきたいと思います。 (了)

#No. 249(掲載号)
#西田 純
2017/12/21

《速報解説》 外国人の出国後の相続・贈与等に係る課税対象範囲を見直し~平成30年度税制改正大綱~

 《速報解説》 外国人の出国後の相続・贈与等に係る課税対象範囲を見直し ~平成30年度税制改正大綱~   税理士 菅野 真美   (1) 相続税・贈与税の納税義務者及び課税財産の変遷と現行規定 相続税・贈与税の納税義務者に関して、昨年度に続いて見直しが行われる。税制の根幹をなす納税義務者と課税財産の範囲が20年間に五度も改正されている状況は、他の税制と比較しても突出している。 この原因は、納税義務者の区分に応じ課税財産の範囲が異なること、及び、日本の相続税や贈与税は他の国と比較して高税率であることから、多額の納税負担を望まない資産家が、制度を利用して節税できるスキームを実行し、その節税額が巨額であったことが主たる要因といえよう。 当初の制度では、相続・贈与時に日本に住所を有していない者が制限納税義務者(課税財産が国内財産のみ)であったが、日本国籍の相続人や受贈者の場合は被相続人(贈与者)及び相続人(受贈者)がいずれも5年超日本に住所を有しないことが制限納税義務者の条件となった。次に、被相続人や贈与者が相続や贈与時に日本に住所を有していた場合は、たとえ外国籍で日本に住所を有していない者であったとしても国内外の全財産に課税されることになった。そして、国外転出時課税により、納税猶予10年を選択した場合の相続税・贈与税の税逃れを防止するための制度が導入された。 国外転出時課税は、有価証券の譲渡益に対する課税について、日本の非居住者となった場合に、日本での課税が国内法や租税条約を通じて非課税になることを利用し、外国への移住後に有価証券を売却するという節税策を防止するために設けられたものである。 しかし、株価の高い会社のオーナーと後継者が共に外国へ移住して、経営者が持株を現物出資してキャピタルゲイン課税を受けずに外国の持株会社を設立し、移住から5年経過後に出資持分を後継者へ贈与税をかけずに移転させるスキームの一部を塞いでいるだけのようなものであり、さらなる租税回避の防止策を講ずる必要があった。 他方、租税回避防止策に沿った改正の結果、一時的に日本に滞在している外国人に相続があった場合、日本に全く居住したこともない相続人が取得した国外財産についても相続税が課税されるという、外国人からみると到底納得できない制度になっており、改正の要望があった。 この二律相反した要望を実現させたのが平成29年度税制改正であるが、結果として非常に複雑なものとなっており、原則的な課税関係を図示すると以下のようになる。 (※) 財務省「平成29年度税制改正の解説」p579より一部変更   (2) 現行税制の問題点 現行税制によると、例えば被相続人が相続時に日本に住所を有していない外国人で、相続前15年以内に日本に滞在していた期間が10年以内であり、かつ、相続人が外国籍で、相続時に日本に住所を有していない場合は、相続税の課税対象は国内財産に限定される(上図(ロ)に該当)。 ところが、相続前15年以内に日本に滞在していた期間が10年超である場合は、相続人が外国籍で相続時に日本に住所を有していない場合でも、相続税の課税対象は全世界財産となる(上図(イ)に該当)。これでは、政府が目指す高度外国人材等の受入れと長期滞在の更なる促進を阻みかねない。 しかし一方で、国外に戻った外国人に対する相続税・贈与税の課税については、一律国内財産限定課税とすると、一時帰国して国外財産を贈与した後に、再び来日するといった租税回避行為を誘発しかねない。   (3) 改正案 大綱p67が示す改正案では、相続・贈与により財産を取得した者が外国籍で、かつ、相続・贈与時に日本に住所を有しない場合で、その被相続人・贈与者が、日本に住所を有しなくなってから15年以内に日本に住所を有していた期間の合計が10年超の場合は、相続・贈与財産のうち国内財産のみに相続税又は贈与税を課す(国外財産が課税対象外となる)こととされる。 ただし、贈与については上述したような租税回避を防止するため、その贈与者が、日本に住所を有しなくなってから2年以内に国外財産を贈与し、かつ、2年以内に日本に住所を有することになった場合(短期再入国者)は、国外財産についても贈与税を課すことになる。 なお、この改正は、平成30年4月1日以後の相続又は贈与により取得する財産に係る相続税又は贈与税について適用する。 (了)

#No. 248(掲載号)
#菅野 真美
2017/12/21

《速報解説》 交際費等の損金不算入制度の特例等、2年延長へ~平成30年度税制改正大綱~

 《速報解説》 交際費等の損金不算入制度の特例等、2年延長へ ~平成30年度税制改正大綱~   税理士 小谷 羊太   12月14日に公表された平成30年度税制改正大綱(与党大綱)において、「交際費等の損金不算入制度の特例」、「接待飲食費に係る損金算入の特例」及び「中小法人に係る損金算入の特例」の適用がそれぞれ2年延長されることとなった。   Ⅰ 概要 法人が支出する交際費等の額は、その全額が損金不算入となる。しかし、中小法人の支出する交際費等の額のうち一定額、接待飲食費の50%に相当する金額などについては、租税特別措置法により一定の損金算入が認められている。 今回の改正案によって、これらの租税特別措置法による「交際費等の損金不算入制度の特例」などの適用事業年度が平成32年3月31日まで2年延長されることとなった(大綱p85)。   Ⅱ 支出交際費等の範囲と損金不算入額の計算 1 交際費等の範囲 「交際費等」とは、交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出する費用をいう。交際費等は、行為のために支出する費用を含むので、直接費用だけでなく、接待の際に利用したタクシー代などの間接費用も含まれる。 ただし、次の①から③に掲げる費用は交際費等から除かれる。   2 損金不算入額の計算 1の交際費等の額は、原則としてその全額が損金不算入となる。 しかし、損金不算入額の計算にあたっては、次の(1)及び(2)の区分に応じ、一定の措置が設けられている。 (1) 期末の資本金の額又は出資金の額が1億円以下である等(※3)の法人 (2) 上記(1)以外の法人 (※3) 法人税法第66条第6項第2号(平成23年4月1日以後に開始する事業年度(平成23年6月30日前に終了する事業年度を除く)にあっては、法人税法第66条第6項第2号又は第3号)に規定する法人(資本金の額又は出資金の額が5億円以上の法人の100%子法人等)は、平成22年4月1日以後に開始する事業年度からは、上記(1)ではなく、上記(2)に従って損金不算入額を計算する。 なお、平成29年度税制改正において、平成31年4月1日以後に開始する事業年度から、平均所得金額年15億円超の中小企業について、その事業年度は中小企業向けの各租税特別措置の適用から除外されることとなるが、財務省の「平成29年度税制改正の解説」(p534)によると、交際費等の損金不算入の中小企業特例(800万円控除)については、適用期限の延長等があった場合であっても、本制度の対象にはならない予定とされている。 (了)

#No. 248(掲載号)
#小谷 羊太
2017/12/21

《速報解説》 所得拡大促進税制、改組により要件を大幅見直し~平成30年度税制改正大綱~

 《速報解説》 所得拡大促進税制、改組により要件を大幅見直し ~平成30年度税制改正大綱~   公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎   1 はじめに 平成29年12月14日、与党(自由民主党・公明党)より平成30年度税制改正大綱が公表された。現在の政権与党はこれまで一貫して、デフレ脱却と経済再生の達成を主軸とした税制改正を進めており、今回の税制改正大綱も大きな流れとしては従来の考え方を踏襲したものといえる。 そのなかで、デフレ脱却と経済再生に向け、生産性向上のための設備投資と持続的な賃上げを強力に後押しする観点から、平成25年度税制改正によって創設された「所得拡大促進税制」が大幅に改組され、設備投資と賃上げの双方を同時に促進する税制として措置されることとなった。 本稿では、平成30年度税制改正大綱により示された、所得拡大促進税制の改組について、関連の改正事項と合わせて概観する。なお文中、意見にわたる部分は筆者の私見である。   2 現行の所得拡大促進税制の概要(措法42の12の5①) 青色申告法人が平成25年4月1日から平成30年3月31日までの間に開始する各事業年度において国内雇用者に対して給与等を支給する場合において、一定の要件を満たすときは、雇用者給与等支給増加額に基づき計算される一定額を法人税額から控除する。ただし、控除税額は法人税額の10%(中小企業者については20%)を上限とする。 【適用要件(中小企業者たる法人とそれ以外の法人で異なる)】   3 中小企業者以外の法人における平成30年度税制改正の内容 (1) 適用要件の改正 ① 従来の適用要件(基準雇用者給与等支給額・比較雇用者給与等支給額)の廃止 従来の所得拡大促進税制で定められていた適用要件のうち2つ(基準雇用者給与等支給額からの増加要件及び前年度からの増加要件)が廃止され、平均給与等支給額に係る要件のみが残されることとなった。 ② 平均給与等支給額に関する要件の改正 本税制の適用を受けるために必要な平均給与等支給額の増加割合が「2%以上」から「3%以上」に引き上げられた。 また、平均給与等支給額及び比較平均給与等支給額の算定基礎となる「継続雇用者」の範囲について、従来は当期及び前期において一度でも給与等の支給がある国内雇用者が対象とされていたが、当期及び前期の全期間の各月において給与等の支給がある雇用者で一定のものとすることとされた。この改正により、継続雇用者として集計すべき範囲が絞り込まれたといえる。 なお、計算の基礎となる継続雇用者がない場合には、平均給与等支給額に係る要件は満たさないものとされ、本税制の適用を受けられない。 ③ 設備投資額に関する要件の追加 新たに「国内設備投資額が減価償却費の総額の90%以上であること」という要件が追加され、本税制の適用を受けるためには、賃上げだけではなく、一定規模以上の国内設備投資が求められることとなった。 ここで「国内設備投資額」とは、法人が当期において取得等をした国内にある減価償却資産となる資産で当期末において有するものの取得価額の合計額をいい、「減価償却費の総額」とは、その法人の有する減価償却資産につき当期の償却費として損金経理をした金額(前期の償却超過額等を除き、特別償却準備金として積み立てた金額を含む)をいう。 ④ 設立事業年度の取扱いの廃止 従来、設立事業年度の雇用者給与等支給額の70%相当額を基準雇用者給与等支給額とみなして本税制を適用するという特例が定められていたが、今回の改正によって本税制は設立事業年度には適用されないこととされた(対象外とされた)。 (2) 控除税額の計算方法の改正 ① 給与等支給増加額の算定方法の改正 従来の所得拡大促進税制では、控除税額の算定基礎となる「給与等支給増加額」は、基準雇用者給与等支給額からの増加額とされていたが、今回の改正によって、「給与等支給増加額」を前年度の雇用者給与等支給額(比較雇用者給与等支給額)からの増加額として算定することとされた。 ② 控除率の改正 従来は「基準雇用者給与等支給額からの増加額×10%+比較雇用者給与等支給額からの増加額×上乗せ控除率」として計算されていた控除税額について、「給与等支給増加額」(比較雇用者給与等支給額からの増加額)の15%を控除することとされた。 ③ 教育訓練費を増加させた法人に対する控除率の上乗せ措置の創設 今回の改正により、新たに、教育訓練費の額が比較教育訓練費(前期及び前々期の教育訓練費の額の年平均額)の額から20%以上増加している法人については、給与等支給増加額の20%の税額控除ができることとされた。また、控除税額の上限も当期の法人税額の20%に引き上げられた(改正前:10%)。 このような取扱いは、賃上げに加えて、人材育成にも積極的な法人に対してさらなる減税メリットを付与する措置といえよう。ここで教育訓練費とは、国内雇用者の職務に必要な技術又は知識を習得させ、又は向上させるための費用で次のものをいう。 (3) 賃上げ・設備投資に消極的な大企業に対する税額控除の適用停止 大企業(租税特別措置法に規定する中小企業者等で適用除外事業者に該当するものを含む)については、平成30年4月1日から平成33年3月31日までの間に開始する各事業年度において次の要件のいずれにも該当しない場合には、その事業年度については、研究開発税制その他の一定の税額控除を適用できないこととされた。ただし、その所得の金額が前期の所得の金額以下の一定の事業年度にあっては対象外とされる。 これらの要件は、賃上げ又は設備投資に関連して定められているものの、もとより改正後の所得拡大促進税制の適用要件を満たすものではないが、所得拡大促進税制の適用を受けられないだけではなく、その他の税額控除の適用も受けられなくなる。 この取扱いにより適用が停止されるのは、以下の税額控除である。 一定の要件を満たさなければ減税措置を停止するという取扱いは過去の税制改正項目にはない異例なものであり、大企業に対しては積極的な賃上げ及び設備投資を強く促すという現政権の強いメッセージが込められた内容であろう。   4 中小企業者における平成30年度税制改正の内容 中小企業者については、設備投資額に関する要件はなく、一定の賃上げについての要件を満たせば税額控除を受けることができる。 (1) 適用要件の改正 ① 従来の適用要件(基準雇用者給与等支給額・比較雇用者給与等支給額)の廃止 上記3(1)①と同様である。 ② 平均給与等支給額に関する要件の改正 本税制の適用を受けるために必要な平均給与等支給額の増加割合が「1.5%以上」とされた(従来は1円でも超えていればよかった)。 継続雇用者に関する取扱いは、上記3(1)②と同様である。 ③ 設立事業年度の取扱いの廃止〔2017/12/20追記〕 上記3(1)④と同様である。つまり、今回の改正によって、本税制は設立事業年度には適用されないこととされた(対象外とされた)。 (2) 控除税額の計算方法の改正 ① 給与等支給増加額の算定方法の改正 上記3(2)①と同様である。 ② 控除率の改正 上記3(2)②と同様である。 ③ 教育訓練費を増加させた法人に対する控除率の上乗せ措置の創設 中小法人については、以下の要件を満たすときは、給与等支給増加額の25%の税額控除ができることとされた。ただし控除税額は、当期の法人税額の20%を上限とする(改正なし)。 大法人の要件とは異なるが、賃上げ及び人材育成に積極的な中小法人に対してさらなる減税メリットを付与する措置である。   5 まとめ 【適用要件】 【控除税額】   6 地方税の改正 付加価値割の所得拡大促進税制に係る適用要件についても、上記3(1)と同様の改正が行われている。 また、中小企業者等については、本税制の適用による税額控除の効果が法人住民税(法人税割)にも及ぶ。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#No. 248(掲載号)
#鯨岡 健太郎
2017/12/20

《速報解説》 所有者不明土地対策として「土地の相続登記に対する登録免許税の免税措置」を創設~平成30年度税制改正大綱~

 《速報解説》 所有者不明土地対策として 「土地の相続登記に対する登録免許税の免税措置」を創設 ~平成30年度税制改正大綱~   弁護士 羽柴 研吾   1 はじめに 平成29年12月14日に公表された与党の平成30年度税制改正大綱(以下「与党税制改正大綱」という)において、相続登記(相続を起因とする所有権に関する登記)を促進するための登録免許税の特例を新設することが明記された。   2 改正の背景 近年、いわゆる所有者不明土地の問題(例えば、地方公共団体における公共事業用地の取得の支障等)が生じており、このような問題の要因の1つとして、数次にわたる相続を経ても相続登記が放置されていることが指摘されていた。 このような指摘を受け、政府は、相続登記を促進することを掲げた「経済財政運営と改革の基本方針2016」に続く、「経済財政運営と改革の基本方針2017」において、長期間相続登記が未了の土地の解消を図るための方策を、関係省庁が一体となって取り組み、必要となる法案の時期通常国会への提出を目指すこととした。 また、国土交通省においても、「所有者の所在の把握が難しい土地への対応方策に関する検討会」が、平成28年3月に、「所有者の所在の把握が難しい土地への対応方策 最終とりまとめ」を公表しており、相続登記に係る登録免許税の免除・減免措置について引き続き検討を行うことを指摘していた。 さらに、自由民主党の所有者不明土地等に関する特命委員会も、平成29年6月に中間とりまとめを行い、必要な税制上の措置を講ずることを指摘していた。 今回の特例は、以上のような経緯を踏まえ、新設されることになったものである。   3 新設制度の概要 与党税制改正大綱によれば、次のような要件を満たす場合に、登録免許税を免税にすることが想定されている。 (1) 数次にわたる相続を経ても相続登記が放置されている土地の登録免許税 相続により土地の所有権を取得した者が当該土地の所有権の移転登記を受けないで死亡し、その者の相続人等が平成30年4月1日から平成33年3月31日までの間に、その死亡した者を登記名義人とするために受ける当該移転登記(相続登記)に対する登録免許税を免税とする。 (2) 相続登記を促進すべき地域における少額土地の登録免許税 個人が、所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法(仮称・後記〔注〕参照)の施行の日から平成33年3月31日までの間に、市街化区域外の土地で市町村の行政目的のため相続登記の促進を図る必要があるものとして法務大臣が指定する土地について相続による所有権の移転登記を受ける場合において、当該移転登記の時における当該土地の価額が10万円以下であるときは、当該移転登記に対する登録免許税を免税とする。 (了)

#No. 248(掲載号)
#羽柴 研吾
2017/12/20
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