移転価格文書化における ローカルファイルの作成期限前チェックポイント 【第3回】 (最終回) 太陽グラントソントン税理士法人 マネジャー 税理士 川瀬 裕太 2 「国外関連取引に係る独立企業間価格を算定するための書類」のチェックポイント (1) 選定した独立企業間価格の算定方法及び選定理由(措規22の10①二イ) ① 記載内容 法人が選定した独立企業間価格の算定方法の内容及びその算定方法が最も適切であると判断した理由を説明する。 ② 準備書類 法人が選定した独立企業間価格の算定方法及びその選定過程を記載した書類 最も適切な独立企業間価格の算定方法が再販売価格基準法、原価基準法及び取引単位営業利益法である場合の利益率を検証する当事者の名称及びその当事者を検証対象とする理由並びに利益水準指標及びその利益水準指標を採用した理由を記載した資料 法人が選定した独立企業間価格の算定方法を国外関連取引に適用した算定結果を記載した書類 検証の結果、独立企業間価格で取引されていなかった場合の価格調整方法を記載した書類 比較対象取引の複数年度のデータを用いて独立企業間価格を算定する場合の理由及び適用する比較対象取引の年度を記載した書類 法人が選定した独立企業間価格の算定方法を適用するにあたっての重要な前提条件に関する事項を説明した書類 ③ チェックポイント (2) 比較対象取引の選定(措規22の10①二ロ) ① 記載内容 法人が比較対象取引を用いて独立企業間価格を算定するに当たり、比較対象取引をどのような基準に基づいて選定したのかを説明する。 比較対象取引に係る企業の概況等を説明する。 ② 準備書類 比較対象取引の内容及び比較対象取引に係る両当事者の機能等を記載した書類 比較対象取引として利用可能と判断した理由、検討過程及び選定した時期を記載した書類 法人が採用した比較対象取引の価格又は利益率及びその計算に使用した財務データ ③ チェックポイント (3) 利益分割法を用いた場合の計算(措規22の10①二ハ) ① 記載内容 法人が独立企業間価格の算定方法として利益分割法及び利益分割法に準ずる方法を選定した場合に、法人及びその国外関連者に帰属する利益の計算の過程を説明する。 ② 準備書類 利益分割法の分割対象となる合算損益の算定に関する書類 (残余利益分割法を適用する場合)基本的利益の算出過程及び使用した財務データ 分割対象損益又は残余利益等を配分するために使用した分割要因及びその分割要因が法人又は国外関連者のどの部署の何の費用なのかを記載した書類 分割要因が分割対象損益等の発生について寄与した程度を推測するに足りるものと判断した理由を記載した書類 ③ チェックポイント (4) 複数取引を一の取引とした場合の合理性(措規22の10①二ニ) ① 記載内容 複数の取引のそれぞれの内容及び取引条件とともに、複数の取引を一の取引として独立企業間価格を算定することが合理的であると認められる理由を説明する。 ② 準備書類 一の取引とした国外関連取引のそれぞれの内容及び各取引の関連性を記載した書類 一の取引として独立企業間価格の算定を行うこととした検討過程を記載した書類 ③ チェックポイント (5) 差異の調整(措規22の10①二ホ) ① 記載内容 差異調整を行った場合の調整の理由やその方法を説明する。 具体的な説明は、事務運営指針4-3(差異の調整方法)を参考にして記載する。 ② 準備書類 差異調整の対象となる項目、差異の内容及び差異が取引価格又は利益率等に影響を及ぼすことが客観的に明らかであると判断する理由が記載された書類 具体的な差異の調整方法、その調整が適切であると判断した理由及びその調整に使用した財務データ 差異調整を行った結果の取引価格又は利益率が記載された書類 ③ チェックポイント (連載了)
組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第23回】 公認会計士 佐藤 信祐 (《第2章》 平成13年度税制改正) (15) 青色欠損金 『平成13年版改正税法のすべて』197-208頁(大蔵財務協会、平成13年)では、青色欠損金の繰越控除の改正内容として、①被合併法人等の未処理欠損金額の引継ぎ、②未処理欠損金額の引継ぎ等に係る制限について記載されている。 平成13年当時では、合併類似適格分割型分割を行った場合にも、分割法人の繰越欠損金を分割承継法人に引き継ぐことが認められていたが、平成22年度税制改正によりその制度は廃止され、清算を行った場合における完全子会社の残余財産の確定を除き、組織再編による繰越欠損金の引継ぎは、適格合併を行った場合に限定されることになった。 組織再編税制の制度趣旨を探るうえで、最も重要な論点の1つとして、上記②未処理欠損金額の引継ぎ等に係る制限が挙げられる。『平成13年版改正税法のすべて』199頁では、 と解説されている。 すなわち、税制適格要件の判定が、合併の直前とその後の継続見込みで判定することから、合併の3ヶ月前に完全支配関係が成立した場合であっても、100%グループ内の合併に該当するため、繰越欠損金の引継制限、使用制限が設けられたことを意味する。しかし、支配関係が生じてから5年を経過していない合併の全てに制限を課してしまうと、円滑な組織再編を阻害することから、みなし共同事業要件が設けられたという整理になる。 そして、具体的に引継制限、使用制限の対象となる金額は、①支配関係事業年度前の繰越欠損金、②支配関係事業年度以後の繰越欠損金のうち特定資産譲渡等損失相当額から成る部分の金額である。 このような整理を行った理由として、『平成13年版改正税法のすべて』202頁では、 と解説されている。 すなわち、支配関係が生じる前の繰越欠損金と資産の含み損を制限すべきところ、支配関係発生日から合併の直前までの間に、当該資産の含み損のうち、実現したものについては繰越欠損金の制限を課し、実現していないものは、合併後に実現するものに対して特定資産の制限を課したという整理になる。 そして、みなし共同事業要件のうち、「特定役員引継要件」において、合併の場合には、合併前の特定役員を合併後に特定役員として引き継ぐことを要件としながらも、分割・現物出資の場合において、分割法人又は現物出資法人から特定役員として引き継ぐべき者を分割・現物出資前の「役員等」としたことにつき、『企業組織再編成に係る税制についての講演録集』106頁(日本租税研究協会、平成13年)では、「分割法人等の資産等の一部のみが移転する」からであると説明されている。 さらに、みなし共同事業要件を満たさない場合であっても、時価純資産超過額がある場合には、繰越欠損金の引継制限、使用制限及び特定資産譲渡等損失の損金不算入がそれぞれ緩和されている。この点につき、『企業組織再編成に係る税制についての講演録集』95頁では、新たにグループに加入した法人に繰越欠損金がある場合であっても、資産の含み益がある場合には、繰越欠損金を利用するために組織再編を行ったとは言えないためであると説明されている。 このように、繰越欠損金の引継制限、使用制限については、かなり細かい規定がなされているが、「支配関係が生じてから5年」「みなし共同事業要件」「時価純資産超過額」などの概念がそれぞれどのようにできたのかを理解しておけば、全体像がつかめるであろう。 まず、5年ルールは、当時の法人税法の繰越欠損金の繰越期限が5年であったからである(※1)。その後、7年、9年、10年と繰越期限が伸びていったが、組織再編税制では5年のままであった。これは、7年、9年、10年だとあまりに長すぎることが理由であったと説明されているが(※2)、5年と繰越期限の差を利用して、買収してから5年間放置した後に合併を行うといった手法が考えられるようになった。これが節税の範囲なのか、租税回避に該当するのかは争いがあろうが、本稿では、その分析を省略することとする。 (※1) 佐々木浩(発言)仲谷修ほか『企業組織再編税制及びグループ法人税制の現状と今後の展望』59頁(大蔵財務協会、平成24年)参照。 (※2) 佐々木前掲(※1)59頁。 そして、「みなし共同事業要件」は、前述のように、買収してから5年以内に合併する場合に、共同事業要件よりも要件が緩い100%グループ内の組織再編、50%超100%未満グループ内の組織再編に該当してしまうことから、繰越欠損金を利用した買収が行われることが懸念されたためである。 最後に、時価純資産超過額がある場合には、新たにグループに加入した法人に繰越欠損金がある場合であっても、資産の含み益がある場合には、繰越欠損金を利用するために組織再編を行ったとは言えないためである。資産の含み益のなかに、有形資産のみならず、営業権のような無形資産が含まれるかどうかは争いがあったが、平成22年頃には、無形資産を含めても構わないという解釈が主流となり、とりわけ、営業権については、買収価額と時価純資産価額との差額概念により算定するといった事例が見受けられるようになった。 このように整理してみると、一つひとつの条文は難解であるものの、その全体像は、かなり理論的に構築されているということが分かると思う。 * * * 次回では、特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入について解説を行う予定である。 (了)
相続空き家の特例 [一問一答] 【第30回】 「登記事項証明書で「相続空き家の特例」を受けられる家屋であることについての証明ができない場合」 -相続空き家の特例を受ける場合の添付書類- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、父親が相続開始の日まで単独で居住の用に供していた家屋(未登記)及びその敷地を、昨年3月に父親の相続により取得し、その家屋を取り壊して更地にし、昨年9月に売却しました。 その家屋は相続の時から取壊しの時まで空き家で、その敷地も相続の時から譲渡の時まで未利用の土地でしたので、「相続空き家の特例(措法35③)」を適用して申告しようと考えています。 取り壊した家屋は未登記であったため、昭和56年5月31日以前に建築されたこと、区分所有建物ではないこと、そして父親から相続したことについて登記事項証明書では証明することができないのですが、どのようにして申告をすればよいのでしょうか。 A 例えば、建築に関する請負契約書、固定資産税課税台帳の写し、遺産分割協議書など、「相続空き家の特例」の適用要件に該当する家屋であることの証明ができる書類を添付して確定申告をすることとなります。 ●○●○解説○●○● 「相続空き家の特例」を受ける場合の確定申告書には、次の書類を添付することとされています(措規18の2②二)。 このうち、上記(2)の(ⅰ)から(ⅲ)の事項について登記事項証明書では証明できない場合(例えば未登記家屋である場合など)であっても、次のような書類でこれらの要件を満たしていることを明らかにする書類を確定申告書に添付した場合に限り、「相続空き家の特例」の適用があるとされています(措通35-26(登記事項証明書で特例の対象となる被相続人居住用財産であることについて証明ができない場合))。 したがって、本事例の場合、上記のような書類を確定申告書に添付して申告することとなります。 (了)
計算書類作成に関する “うっかりミス”の事例と防止策 【第22回】 「単純なミスほど防ぎにくい~数字の転記ミス」 公認会計士 石王丸 周夫 3月決算の対応に追われる時期がやってきました。 連載開始から4年目となる今年も、計算書類作成時に陥りやすい『うっかりミス』の事例とその原因をご紹介していきますので、参考になさってください。 間違いさがしの形でお話していきますので、ぜひチャレンジしてみてくださいね。 (※) 「どういう連載なの?」と気になる方は、【第1回】の冒頭をお読みください。 1 今回の事例 計算書類のドラフトにはうっかりミスがつきものです。 たとえば、こんなミスをよく見かけます。 【事例22-1】 連結精算表から連結計算書類への転記ミス 【事例22-1】には、いわゆる転記ミスが1か所あります。 転記ミスとは、ある書類から別の書類に内容を書き写す際に発生するエラーです。ここでは、作業表である「連結精算表」から、開示書類である「連結計算書類(そのうち連結貸借対照表)」に転記する際に、数値を正確に書き写せなかったというミスがあります。 といっても、転記ミスした数字がどれなのか、一見しただけではわかりませんね。それを見つけるためには、転記元の連結精算表を持ってきて、見比べてあげなければなりません。 しかし、その前にやるべきことがあります。 転記先である連結貸借対照表のいずれかの数字が間違っているということは、計算チェックをすれば合計があわないはずなので、そのことを確かめるために、まず計算チェックをやってみることです。 2 これは単なるミスか? この事例では、計算チェックをすると、転記ミスした数字がすぐにわかります。答えを見てみましょう。正しく修正したところを赤丸で囲んであります。 負債合計の数字が間違っていたのですね。これは以下の計算からわかります。 【事例22-1】では、負債合計は57,095となっていました。一見すると同じ数字に見えますが、そこが落とし穴です。 負債合計の正しい数値57,905は、【事例22-1】の負債合計の数値57,095と、数字の並び順が違います。 いかにも起こりやすいミスですね。皆さんもこのようなミスをしてしまったことがあるのではないでしょうか。そして、ミスに気がついた時点で修正して終わりにしていると思います。 しかし、このミス、調べてみてわかったのですが、実は単なるミスではありませんでした。 ちゃんと原因があったのです。 3 ミスの原因は人間の深層心理にある 数字の転記ミスは、一般にその原因を特定できないことが多いです。何か原因があるはずですが、究明できないことがほとんどです。 しかし、今回紹介した【事例22-1】の場合は、その作成プロセスに着目すると、ミスの原因が見えてきます。 多くの会社では、会社法計算書類原稿を前年度の同原稿のデータから作成していきます。本連載で何度も述べたところですが、「データのリサイクル」という方法です。連結貸借対照表であれば、前年度の連結貸借対照表データをコピーして、当年度用のフォームを準備し、そこに当年度の数字を順次上書きしていくというやり方になります。 では、【事例22-1】の元データである前年度の連結貸借対照表(負債の部)を見てみましょう。 このデータに当年度の連結精算表の数値を上書きしていくことにより、当年度の連結貸借対照表を作成したわけです。さっそく、問題の箇所を見てください。負債合計の数値、赤丸で囲った部分は、「60,095」となっています。 【事例22-1】では、負債合計は「57,095」としていましたね。本来「57,905」と入力すべきところを「57,095」としてしまったのです。 このミスの原因が前年度の数値にあると気がつきましたか? 前年度の数値「60,095」の下3桁「095」に引きずられてしまったのです。 数値の上書き作業ではまず、転記元の連結精算表の数値「57,905」を認識します。次に、それを転記先の連結貸借対照表フォームに入力しますが、その際、すでに入力されている前年度の数値「60,095」を見て、下3桁は同じだと誤認してしまったことにより、先頭の2桁部分のみを「60」➡「57」と書き替え、「57,095」としてしまったのです。これが【事例22-1】のミスの発生プロセスです。 このミスからは、入力者の心理を読み取ることができます。 おそらくこの入力者は、5桁の数字のうち違う数字のみを入力することにより、「少しでも手間を減らしたい」と思っていたのではないでしょうか。 つまり、楽をして、エネルギーを温存したいと思ったわけです。 下3桁の数字が同じであると誤認してしまったのは、こうした心理が深層にあって、入力の手間を減らせる数字の並びに見えてしまったからでしょう。人間は見たいものをそこに見るものであり、そして、これは誰にでも起こり得ることなのです。 4 他にもこんな事例が! 参考までに、同じような転記ミスの事例をいくつか見ておきましょう。 【事例22-2】 連続する数字が含まれる場合の転記ミス 【事例22-3】 形の似ている数字を見間違えた転記ミス 【事例22-4】 連続する数字が含まれる場合のキー入力ミス 【事例22-5】 連続する0が含まれる数値のケタ認識ミス いずれのケースも、ミスの原因特定は難しいですが、人間が数字を認識する際に、あとほんの少しだけ注意をすれば防げたかもしれない数字パターンです。 5 決算書の表示単位を見直せないか では、こうしたミスを防ぐにはどうしたらよいでしょうか? これは、人間の心の奥底に関わる話ので、なかなか難しい問題です。あとほんの少しだけ注意をすればよいといっても、なにをどう注意すればよいのか、具体的には見えてきません。数字を単純に転記する作業であり、作業方法そのものには、特段改めるべき点はなさそうです。 そういう場合の最も確実な方法は、「転記作業をコンピューターに行わせる」ことです。 人間の認識ミスが原因なので、その作業を人間が行うことをやめ、機械に任せればよいという発想です。ここでは、転記作業を自動でやってくれる高度な経理システムを導入すればよいということになります。ただし、この方法は費用がかかるという難点があります。 そこで、この方法はあきらめるとして、人間が転記作業を行うにしても、その負担を多少でも軽減してあげることができるなら、ミスは減ります。 その方法の1つが、「決算書の表示単位の変更」です。 会社法決算書の表示単位については、「計算関係書類に係る事項の金額は、一円単位、千円単位又は百万円単位をもって表示するものとする」と規定されています(会社計算規則57条1項)。これらのうちいずれを選ぶかについては、特に定めはありません。一般には、会社の規模に応じた表示単位が選択されていると思われます。規模の大きな会社は百万円単位、規模の小さな会社は一円単位、それ以外の会社は千円単位というようにです。 要するに、表示される数字のケタが多すぎて読みにくいとか、逆に、少なすぎて不十分であるとか、そういった弊害がない限り、表示単位の選択は自由です。 以上を踏まえて、現状の決算書で、一円単位で表示している会社であれば千円単位に、千円単位で表示している会社であれば百万円単位に変更するのです。そうすることで転記作業の負担が軽減され、ミスが減ると考えられます。 なお、有価証券報告書では、数字の表示単位について、「財務諸表に掲記される科目その他の事項の金額は、百万円単位又は千円単位をもって表示するものとする」と規定されているので(財務諸表等規則10条の3)、有価証券報告書に載せる決算書についても、現状の決算書が千円単位の会社は検討の余地があります。 うっかりミスの軽減だけでなく、決算作業の効率化にもつながるので、百万円単位に変更できないか、一度は考えてみるとよいでしょう。 6 作業環境も大事 今回紹介したような数字パターンは、確かに間違いやすいものではありますが、そのパターンの数字が出てきたからといって、常に間違うわけでもありません。間違うこともあれば間違わないこともあるわけです。 では、その差は何かというと、そのとき発揮されている注意力の差による部分が大きいと考えられます。 そうであるならば、作業担当者の注意力が、担当業務以外のことで消耗しないようにすることが大事だといえます。 決算書の作成作業というのは、ある程度静かな場所でなければ、集中力が乱されてはかどりません。そうした作業環境が確保できていなければ、オフィスレイアウトを変更することも検討すべきではないでしょうか。 転記ミスのような単純なミスの発生については、作業環境にも目を向けて対策を考えるべきでしょう。 〈今回のまとめ〉 数字の転記ミスを防ぐコツは、作業者ができるだけ注意力を消耗しないですむような環境を整えてあげることです。 (了)
連結会計を学ぶ 【第11回】 「のれんと負ののれんの会計処理」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 資本連結では、親会社の子会社に対する投資とこれに対応する子会社の資本は相殺消去され、消去差額が生じた場合には当該差額をのれん又は負ののれんとして会計処理することになる(「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号。以下「連結会計基準」という)24項、59項)。 今回は、のれん及び負ののれんの会計処理について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 投資と資本の相殺消去 支配獲得時における資本連結の手続には次のものがある(「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」(会計制度委員会報告第7号。以下「資本連結実務指針」という)3項)。 なお、連結貸借対照表の作成に関する会計処理における企業結合及び事業分離等に関する事項のうち、連結会計基準に定めのない事項については、「企業結合に関する会計基準」(企業会計基準第21号。以下「企業結合会計基準」という)や「事業分離等に関する会計基準」(企業会計基準第7号)の定めに従って会計処理する(連結会計基準19項、資本連結実務指針7-2項)。 1 基本的な考え方 投資と資本の相殺消去に際して、親会社の子会社に対する投資とこれに対応する子会社の資本が同額の場合には、差額が生じず、のれん又は負ののれんは計上されない。 しかしながら、親会社の子会社に対する投資とこれに対応する子会社の資本が同額でない場合には、差額が生ずることとなり、当該差額がのれん又は負ののれんとして会計処理される(連結会計基準24項)。 作成のイメージは、おおむね次の図表のとおりである。 【図表:連結貸借対照表の作成プロセスのイメージ】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 2 連結精算表の作成 【設例1:親会社の子会社に対する投資とこれに対応する子会社の資本が同額のケース】 【設例2:親会社の子会社に対する投資とこれに対応する子会社の資本に差額が生ずるケース(のれんの計上)】 【設例3:親会社の子会社に対する投資とこれに対応する子会社の資本に差額が生ずるケース(負ののれんの計上)】 Ⅲ のれんの会計処理及び表示 のれんは、企業結合会計基準32項に従って会計処理する(連結会計基準24項)。 のれん又は負ののれん(純額)が発生する企業結合において、契約等により取得の対価がおおむね独立して決定されており、かつ、内部管理上独立した業績報告が行われる単位が明確である場合は、当該業績報告が行われる単位ごとにそれを分解してのれん又は負ののれんを算定し、処理する(資本連結実務指針22項)。 1 のれんの会計処理 のれんは、資産に計上し、20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却する。ただし、のれんの金額に重要性が乏しい場合には、当該のれんが生じた事業年度の費用として処理することができる(企業結合会計基準32項)。 のれんは、その効果の発現する期間にわたって償却し、投資の実態を適切に反映させる必要があり、のれんの償却に当たっては、その効果の発現する期間を見積もり、原則としてその計上後20年以内の期間において、子会社又は業績報告が行われる単位(資本連結実務指針22項)の実態に基づいた適切な償却期間を決定しなければならない(資本連結実務指針30項、企業結合会計基準32項、「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第10号。以下「結合分離等適用指針」という)382項)。 のれんの償却に際しては、次の事項に留意する(結合分離等適用指針76項、380項から382-2項及び448項)。 2 のれんの減損会計 のれんは「固定資産の減損に係る会計基準」(平成14年8月、企業会計審議会)の適用対象資産となることから、規則的な償却を行う場合においても、「固定資産の減損に係る会計基準」に従った減損処理が行われることになる(企業結合会計基準108項)。 特に、次の場合には、企業結合年度においても減損の兆候が存在すると考えられるときがあるとされているので、実務上、注意が必要である(企業結合会計基準109項、結合分離等適用指針77項)。 なお、のれんの減損損失を認識すべきであるとされた場合には、減損損失として測定された額を特別損失に計上することになる(結合分離等適用指針77項)。 3 のれんの表示 のれんは無形固定資産の区分に表示し、のれんの当期償却額は販売費及び一般管理費の区分に表示する(企業結合会計基準47項)。 連結財務諸表に注記する会計方針等には、重要な資産の評価基準及び減価償却方法のほか、のれんの償却方法及び償却期間が含まれる(連結会計基準43項(3)、73項)。 4 子会社株式の減損処理とのれん 資本連結実務指針32項は次のように規定しているので、実務上、当該会計処理に注意が必要である。 なお、のれんの減損処理は、資本連結実務指針33項に規定されている。 Ⅳ 負ののれんの会計処理及び表示 負ののれんは、企業結合会計基準33項に従って会計処理する(連結会計基準24項)。 1 負ののれんの会計処理 負ののれんが生じると見込まれる場合には、次の処理を行う。ただし、負ののれんが生じると見込まれたときにおける取得原価が受け入れた資産及び引き受けた負債に配分された純額を下回る額に重要性が乏しい場合には、次の処理を行わずに、当該下回る額を当期の利益として処理することができる(企業結合会計基準33項)。 資本連結実務指針は、負ののれんが生じると見込まれる場合には、まず、すべての識別可能資産及び負債が把握されているか、また、それらに対する取得原価の配分が適切に行われているかどうかを見直し、それでもなお取得原価が受け入れた資産及び引き受けた負債に配分された純額を下回り、負ののれんが生じる場合には、当該負ののれんが生じた事業年度の利益として処理すると規定している(資本連結実務指針30項、企業結合会計基準33項)。 負ののれんの会計処理に際しては、次の事項に留意する(結合分離等適用指針78項)。 2 負ののれんの表示 負ののれんは、原則として、特別利益に表示する(企業結合会計基準48項)。 (了)
被災したクライアント企業への 実務支援のポイント 〔会計面のQ&A〕 【Q2】 「サプライチェーンを介した被災の影響(販売先の被災)」 ~棚卸資産の評価~ 公認会計士・税理士 深谷 玲子 〈Q〉 当社は、一部特別仕様がある製品の製造を行っている製造業である。当期に発生した地震により、当社に直接の被害はなかったが、当社の販売先が被災した。 当期末における当社の製品評価について、どのように考えたらよいか。 なお、当社は棚卸資産の評価方法として個別法による原価法を採用し、収益性の低下に基づく簿価切下げの方法により算定している。 (※) 以下は会計に関する考察のみにとどめていることに注意されたい。 〈A〉 ◆販売先が値下げを要請している場合-正味売却価額の再考- 販売先の値下げ要請に応じると経営判断がなされた場合には、正味売却価額を再考する必要がある。つまり、取得原価に変化はないが、販売価格が変更 = 正味売却価額が通常時と比べて変化しているといえる。 正味売却価額が変更されたことにより、値下げ考慮後の正味売却価格が取得原価よりも下落している場合には、当該正味売却価額をもって貸借対照表価額とし、収益性の低下を認識する。 ◆販売先が納期の先延ばしを要請している場合 販売先の納期先延ばしに応じると経営判断がなされた場合、販売価格に変更がないならば、棚卸資産の評価をすぐに変更させることにはならないであろう。 ただし、以下の点について、慎重な判断が必要である。 ◆販売先が納入をキャンセルした場合 受注先の納入キャンセルを受け入れるという経営判断がなされた場合、製品を他社へ販売するか、廃棄するかの選択となる。 1 他社へ転売する場合 -正味売却価額を再考し追加製造費用も考える- 他社へ販売する場合、当社製品には一部特別仕様部分があるため、当初の販売先への特別仕様部分を撤去し、新しい販売先への特別仕様に製作しなおす必要がある。 そのため、当該製品は、完成品ではなく、転用準備のための仕掛品となり、追加製造費用を考慮する。 正味売却価額は、以下の算式で算定される。 上記計算要素のすべてが当初販売先の時とは変化すると想定されるが、この算式に基づいて正味売却価額を再計算する。再計算された正味売却価額が取得原価よりも下落している場合には、当該正味売却価額をもって貸借対照表価額とし、収益性の低下を認識する。 2 廃棄する場合 -棚卸資産廃棄損を計上する- 他社への販売ができない場合、あるいは他社への販売のためにかかる追加コストよりも廃棄コストの方が安いと判断された場合には、廃棄処分が選択されるであろう。 廃棄処分が決定された場合、会計処理上は、当該製品の取得原価分を 棚卸資産廃棄損 ××× / 棚 卸 資 産 ××× と処理する。 今回の棚卸資産廃棄損は、被災の間接的影響による特別な事情であるため特別損失に計上するが、多額でない場合には、経常的な費用として計上することも認められると思われる。 ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ 当社が直接被災していなくても、間接的に災害の影響を受けることがある。当社の棚卸資産には物理的な直接の被害はなかったものの、サプライチェーンを介して災害の影響を受ける場合である。 前回の【Q1】では製品原材料の購入先が被災したケースについて解説したが、今回は製品の販売先が被災したケースを取り上げた。 一般に、販売先が被災した場合、当社製品の販売が通常どおりにできなくなる。 当社の棚卸資産の物理的な状況に変化はないにもかかわらず、 ・販売可能性が変わる ・売り先がなくなる ・他の売り先を探すまでに労力を要する こととなる。 その結果、通常時とは異なる状態(=正味売却価額の見直しの必要性)となっている棚卸資産の期末時評価はどうすべきであるか。 通常の販売目的で保有する棚卸資産は、取得原価をもって貸借対照表価額とし、期末における正味売却価額が取得原価よりも下落している場合には、当該正味売却価額をもって貸借対照表価額とする(企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」第7項)。 そのため、取得原価に変化がない場合でも、正味売却価額が変化した棚卸資産については、正味売却価額まで収益性の低下を認識する。他社販売への転用のために追加製造費用がかかる場合にも考慮が必要である。 その結果、直接被災していない当社においても、上記の例のように損失が生じることとなる。 なお、簿価切下額の戻入れに関しては、当期に戻入れを行う方法(洗替え法)と行わない方法(切放し法)のいずれかを選択適用できるが、当ケースの場合は、「地震」という臨時の事象に起因するものであるため、洗替え法を適用していても、翌期に戻入れを行わないことに留意が必要である。 (了)
外国人労働者に関する 労務管理の疑問点 【第11回】 「外国人の転職者を採用するときの手続きと注意点」 社会保険労務士・行政書士 永井 弘行 1 転職者の入社時には、原則、日本人と同様の手続きが必要 外国人の転職者が入社するときは、まず日本人と同様の手続きを行います。 つまり、本人から年金手帳や雇用保険被保険者証を提出してもらい、社会保険(厚生年金保険、健康保険(介護保険)、雇用保険)の加入手続きを行います。 前職の退職時に交付された源泉徴収票があれば、年末調整ができるように転職後の会社で受け取ります。給与から控除する住民税(特別徴収)があれば、必要な手続きを行います。 こうした手続きは日本人と同じものです。 外国人に特有の手続きとして、雇用保険の被保険者は、雇用保険被保険者資格取得届の備考欄に、外国人の国籍・地域、在留資格、在留期間、資格外活動の有無などを記入し、届出します。 2 在留資格の変更が必要なケースは、必ず入社前に変更すること 転職前の在留資格と異なる活動をする場合は、在留資格の変更が必要です。例えば、「教育」の在留資格で中学校の英語教師に就いていた外国人が、転職して民間企業で通訳・翻訳の担当者になるようなケースです。 このケースでは新しい勤務先に就職する前に、在留資格を「教育」から「技術・人文知識・国際業務」に変更することが必要です。在留資格を変更せずに就職すると「資格外活動を行う不法就労」になることがあります。 在留資格の変更が必要になるかどうかはケースバイケースですが、「経営・管理」、「研究」、「教育」などから「技術・人文知識・国際業務」に変更するケースが多いと思います。 3 転職前と同じ業務に就くケースでは転職後に「就労資格証明書」を得るのが望ましい 在留資格の変更が必要ない場合でも、新しい勤務先の従事業務について、転職後に「就労資格証明書」を得ておくのが望ましいです。 例えば、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で、通訳・翻訳業務に従事する外国人がA社を退職し、転職後もB社で通訳・翻訳業務に従事するようなケースです。このケースでは、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を変更する必要はありません。転職後、B社で通訳・翻訳の業務を続けることが可能です。 しかし「技術・人文知識・国際業務」の在留資格は、外国人がA社で勤務する前提で審査され、許可されたものです。B社で勤務することを前提に許可されたものではありません。 そのため、新しい勤務先の活動内容が「現在の在留資格の活動に含まれる」ことを入国管理局に確認してもらうのが賢明です。入国管理局に「就労資格証明書」を申請し、認められれば交付されます。 4 就労資格証明書とは 「就労資格証明書」は、就労の在留資格を持つ外国人が転職などで勤務先が変わったような場合に、新しい勤務先での就労内容(従事業務、活動内容)が、現在の在留資格の活動に含まれていることを確認する目的で申請し、入国管理局から交付される証明書です。 外国人が、働くことのできる在留資格(または法的地位)を有していること、または特定の職種に就くことができることを証明する文書です。 この証明書は、新たに許可を受けて発行されるものではありません。外国人がすでに有している在留資格に基づいて、法務大臣が発行する証明書です(入管法第19条の2)。 証明書を得るには、外国人が入国管理局に申請することが必要です。交付時には手数料900円を納付します。 〈就労資格証明書の交付を受ける例(イメージ図)〉 5 転職前後に「在留期間の更新手続き」が必要になるケースも これは「技術・人文知識・国際業務」の在留期限(例示:3年)が、あと2ヶ月しか残っていない状態で転職したようなケースです。 転職後の会社で勤務を続けるためには、「技術・人文知識・国際業務」の在留期間の更新手続きが必要です。 転職せずに同じ会社で勤務を続ける場合の在留期間更新手続きに比べて、転職した場合は入国管理局に提出する書類が多くなります。 A社からB社に転職し、B社の社員として「技術・人文知識・国際業務」の在留期間を更新する場合は、入国管理局はB社の会社情報や、従事業務の内容を審査します。 上述したように、現在の在留資格は外国人がA社で勤務することを前提として許可されたもので、入国管理局はB社の会社情報や従事業務の内容について知りません。そのため「更新」の申請を行うときに、B社の会社情報や従事業務の内容について、書類を提出し説明することが必要です。 このように、転職に伴う「更新」手続きは、新たな勤務先の会社情報などを入国管理局に詳しく説明する必要があるため、実務上は留学生が就職するときの在留資格の「変更」手続きとほぼ同じ書類を提出することが必要になります。 6 転職後14日以内に外国人本人が「契約機関に関する届出」を行う 就労の在留資格の外国人が転職し、新しい勤務先に就職したときは、外国人本人が14日以内に入国管理局に届出することが必要です(入管法第19条の16)。この届出は平成24年7月の入管法改正により、新たに義務付けられたものです。 この手続きは「契約機関に関する届出(新たな契約の締結)」を、本人が届出します。届出書の様式は、次の法務省のホームページからダウンロードできます。 また、外国人が前職を退職したときにも、外国人本人による届出が必要です。つまり勤務先が変わったときは、転職の前後で本人による届出が必要になります。 * * * 次回は「外国人社員が退職するときの手続き」について説明する予定です。 (了)
これからの会社に必要な 『登記管理』の基礎実務 【第12回】 「株主管理の仕組みづくり」 -株主名簿整備〈運営編〉- 司法書士法人F&Partners 司法書士 本橋 寛樹 はじめに 前回解説した株主名簿整備に着手した結果、あいまいな情報や、連絡が取れない株主の存在に気づいた読者がいるのではないだろうか。 今後の株主管理の見直しにあたって、「①会社と株主が接触する頻度」と「②株主に関する資料の保管方法」の観点は欠かせない。 本稿では、この2つの観点について解説する。 まず①会社と株主が接触する頻度についてみていこう。 ①会社と株主が接触する頻度 株主となる場面では、会社は株主の氏名、住所、株式数等の情報を取得し、これらの情報はその時点では最新のものである。しかし、その時点以後、株主と接触しない間に株主の事情が変われば、株主となる時点の情報は古い内容となりうる。 株主の事情が変わるケースとして、例えば、住所変更が挙げられる。もし住所変更があるにもかかわらず、株主がその旨を届出せず、会社も株主と接触しなければ、株主が株式を保有したまま所在が不明となってしまうおそれがある。 【会社と株主の関係】 住所変更や相続といった株主の事情の変化は常に起こる可能性がある。 しかし、会社は、いつ株主の事情が変化するかを予測することができない。また、株主の事情の変化があったとしても、株主が会社に変更の旨を届出するとは限らない。 そこで、会社主導で株主と接触し、株主に関する情報を取り入れる観点が必要となる。 株主と接触する頻度は、少なくとも1年に1回が目安となる。「1年に1回」の理由として、定時株主総会の招集通知や会社の創業記念日といった、会社と株主が接触しやすい場面がある点や、株主と接触する頻度があまりに低い場合に株主の事情の変化を見逃すおそれがある点が挙げられる。 それでは①を前提として、次に株主に関する資料の保管方法についてみていこう。 ②株主に関する資料の保管方法 「中長期にわたって株主管理を行う」イメージは、株主に関する情報の変更の都度、その情報を株主名簿に反映するという積み重ねである。 前回のように、ある一時にまとめて株主名簿を整備する際に、株主に関する資料が保管されていないとそこでつまずいてしまう。株主に関する資料の有無が株主管理のしやすさを左右する。 【株主名簿の内容更新のイメージ】 株主管理では、具体的に以下の書面を活用する。 【株主管理で活用する書面の一例】 《株主情報変更確認書》 株主情報変更確認書(以下、「変更確認書」という)は会社法等の法令で定められているものではないが、会社が株主の最新情報を取得、確認するための資料として活用する。本稿①で解説した、会社が株主に接触する際に、この変更確認書を株主に提供し、最新の株主に関する情報を収集する。 【参考書式:株主情報変更確認書】 変更確認書を郵送で提供する場合、宛先不明で返送されれば、会社は株主の住所が変更されたことに気づく。その際に、会社は電話番号やメールアドレス等の連絡先を控えていれば、株主に新しい住所を確認することができる。 また、変更確認書の備考欄の記載は、株主から会社に対して、自発的に住所変更等の情報を届出してもらうというねらいがある。 《株式名義書換請求書》 贈与、売買、相続等によって株式が移転する場合に、移転する株式の数、株式の移転日等の情報を書面として残す。この書面により、贈与、売買、相続等による株式の動きを後日遡って確認することが容易となる。 【参考書式:株式名義書換請求書】 前回解説した株式名簿を整備する際に、株主名簿の記載事項の1つである「株式取得年月日」の記載が困難であった読者は、株式名義書換請求書を株主から取り付けて保管すると、今後「株式取得年月日」を正しく把握することができるようになる。 《株主印鑑票》 会社が株主の本人確認の資料として活用する。新しく株主となる場面で株主から取り付ける。株主情報変更確認書や株式名義書換請求書の届出印欄には、株主印鑑票と同一の印影を株主に捺印してもらう。 【参考書式:株主印鑑票】 まずは書式の準備から これまでみてきた株主管理に関する活用と書式を用意することで、株主名簿の内容更新を積み重ねるための準備が整う。各書面の保管によって、株主に関する情報が目に見えるものとなり、あいまいな情報がなくなるだろう。 中長期的にわたる株主管理のための新たな一歩として、まずは株主管理に関する書式を用意し、そして会社と株主が接触する頻度を高めてみてはいかがだろうか。 (了)
〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第5話】 「重加算税の適用」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「中尾統括官!」 浅田調査官が声をかける。 せわしなく机の書類を整理していた中尾統括官は、顔を上げる。 「・・・なに?」 浅田調査官は、平成28年分の確定申告書を差し出す。 「税理士署名欄に市役所の人の名前が書いてあるのですが・・・これって、この人が確定申告書を作成した・・・ということですか?」 浅田調査官が尋ねる。 中尾統括官は、差し出された確定申告書を見ながら、頷く。 「これは・・・税理士法50条1項の規定によるものだ。」 そう言いながら、中尾統括官は税務六法を開く。 「へえ・・・こんな規定があったのですか・・・」 浅田調査官は感心した様子で六法を覗き込む。 「ところで、なにか他に・・・問題でも?」 中尾統括官は、訝しそうにしている浅田調査官の顔を見る。 「ええ・・・この納税者の税務調査をしているのですが・・・確定申告書の下書用の収支内訳書に、虚偽記載があったのです。」 そう言うと、浅田調査官はもう一枚右手に持っていた用紙を見せる。 「・・・それで納税者は、この市役所の職員に、毎年、虚偽記載した下書用の収支内訳書を手渡して、申告書を作成してもらっていたらしいのです。」 浅田調査官は税務調査の状況を説明する。 「調べてみると、申告相談において、市役所の職員は何も疑問に思わず、その下書用の収支計算書に基づいて確定申告書を作成していたということなのです。」 中尾統括官は腕を組みながら聞いている。 「納税者は、市役所の職員から収支計算書の内容に疑問を抱かれなかったことを奇貨として・・・7年間も不正を行っていた・・・」 説明を続けながら、浅田調査官は少し興奮している。 「それで君は・・・この納税者の不正所得に対して、重加算税を賦課すべきだと考えているんだね。」 中尾統括官は確認する。 「ええ。重加算税を賦課するのはもちろんですが・・・その他に『偽りその他不正の行為』にも該当すると思いますから、除斥期間一杯の7年間の更正処分をしたいと思うのですが・・・統括官、どう思われますか?」 今度は浅田調査官が中尾統括官の顔を見る。 「なるほど・・・『隠ぺい・仮装』と『偽りその他不正の行為』か・・・」 中尾統括官は少し考えてから、話し始める。 「これは君も知っているように、重加算税の一般的な考え方だが・・・」 そう前置きしながら、中尾統括官は言葉を続ける。 「・・・重加算税を賦課するためには、過少申告行為又は無申告行為そのものとは別に、隠ぺい又は仮装と評価すべき行為が存在することを要するが、重加算税制度の趣旨からすると、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要ではない・・・と言われている。そして、納税者が、当初から所得を過少に申告すること、又は法定申告期限までに申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づき、過少申告をし、又は法定申告期限までに申告しなかったような場合には、重加算税の要件が満たされる。」 中尾統括官は一気に話す。 「このケースでは、過少申告する意図はあったと判断できると思いますし、長期間にわたって、農産物の販売金額を過少に記載するなどした下書用の収支内訳書を自ら作成し、これを市職員に提示することによって、農産物の販売金額を過少に記載させ、各収支内訳書及び各確定申告書を作成させ続けていたことを考慮すると、これらの行為は、納税者の過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動に該当すると思うのですが・・・」 浅田調査官の説明に、中尾統括官は満足そうに頷く。 「それで・・・偽りその他不正の行為は・・・どうでしょうか?」 浅田調査官が尋ねる。 「『隠ぺい・仮装』と『偽りその他不正の行為』については、学問上はともかく、実質的な差違はないから・・・それに、君の調査している納税者の状況を聞いていると、7年間の更正処分をしてもかまわないよ。」 中尾統括官は再び税務六法を開き、国税通則法70条4項1号を見る。 「分かりました!」 浅田調査官は、中尾統括官の回答に、元気よく応じる。 (つづく)
《速報解説》 開示内容の共通化・合理化、非財務情報の開示充実を図る 改正開示府令等が確定 ~経営者の視点による経営成績の認識・分析を求める~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成30年1月26日、「企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第三号)が公布された。これにより、平成29年10月24日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。 これは、平成28年4月に公表された金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告の提言を踏まえたものであり、開示内容の共通化・合理化や非財務情報の開示充実などに関する改正である。 公開草案に寄せられたコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方(以下「コメント対応」という)も公表されており、改正内容の理解に資するものと考えられる。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 開示内容の共通化・合理化・非財務情報の開示充実 次のものが改正された。 1 大株主の状況に係る記載の共通化 有価証券報告書等の「大株主の状況」における株式所有割合の算定の基礎となる発行済株式について、事業報告と同様に自己株式を控除することとする。 2 新株予約権等の記載の合理化 次の改正が行われた。 3 株主総会日程の柔軟化のための開示の見直し 有価証券報告書における「大株主の状況」等の記載時点を、事業年度末から、原則として議決権行使基準日へ変更する。 4 非財務情報の開示充実 「業績等の概要」及び「生産、受注及び販売の状況」を「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」に統合した上で、記載内容の整理を行う。 併せて、経営成績等の状況の分析・検討の記載を充実させる観点から、以下について記載する。 これまで、「提出会社の代表者」による分析・検討内容の記載が求められていたが、今回、「経営者の視点」へと改正された。 これは、現在の開示の状況について、経営者の視点による分析・検討が欠けている例が多いとの指摘があり、前述の「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告では、「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」の見直しの方向性として、事業全体及びセグメント別の経営成績等に重要な影響を与えた要因について「経営者の視点」による認識と分析などを記載することとされているためである(コメント対応3)。 また、「資本の財源及び資金の流動性に係る情報」の開示は、投資者が投資判断を行う上で重要な情報であることから、これまでも、分析・検討内容の例として示されていた。 しかしながら、現在の開示の状況は、単にキャッシュ・フロー計算書の要約を文章化したものの記載にとどまり、本来求められる開示が行われていない例が多いとの指摘がある。 このため、「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」で本来求められる開示内容をより充実させる観点から、「資本の財源及び資金の流動性に係る情報」について、記載が求められている(コメント対応4)。 改正の趣旨を踏まえ、記載に当たっては、単にキャッシュ・フロー計算書の要約を文章化したものを記載するだけではなく、企業の経営内容に即して、例えば、重要な資本的支出の予定及びその資金の調達源は何であるかなどについて、具体的に記載することが期待されている。 そのほか、経営方針・経営戦略等又は経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等がある場合には、当該経営方針・経営戦略等又は当該指標等に照らして、経営者が経営成績等をどのように分析・検討しているかを記載するなど、具体的に、かつ、分かりやすく記載することが規定されているので、実際の記載に際しては、注意が必要である(コメント対応5)。 Ⅲ 追加型投資信託に係る有価証券届出書の翌日効力発生手続の見直し 次のものが改正された。 追加型の投資信託に係る有価証券届出書の翌日効力発生のための手続における提出者からの申出を不要とする。 Ⅳ 適用時期等 Ⅱは、平成30年1月26日付で施行され(一部、平成30年4月1日施行)、ガイドラインも適用となる。改正後の規定は、平成30年3月31日以降に終了する事業年度を最近事業年度とする有価証券届出書及び当事業年度に係る有価証券報告書から適用される。 Ⅲは、平成30年2月1日から適用される。 (了)