電子マネー・仮想通貨等の非現金をめぐる 会計処理と税務Q&A 【第12回】 「トレーディング目的で仮想通貨を保有する場合の会計・税務」 公認会計士・税理士 八代醍 和也 A 仮想通貨による会計・税務の取扱いの各論第3回目は、トレーディング目的として保有する場合を取り上げる。 前々回は売上取引、前回は仕入取引に係る仮想通貨の取扱いについて見てきたが、未だ流通環境が未整備という我が国の現況においては、一般製商品の売買取引や役務提供取引の対価として使用されることはまだレアケースといえるから、実務的に多いのはやはりトレーディング目的での保有ということになるものと思われる。 以下、取得時、譲渡時、交換時、期末評価の処理について、設例を用いて解説していく。 1 会計処理 (1) 仮想通貨を取得した際の処理 仮想通貨の取得に係る会計処理は、保有目的による影響を受けない。つまり、これまでの販売時、購買時の処理と同様、取得時の時価で計上されることになる。 取得時において市場で成立している時価単価に基づく円貨を支払うことになるので、この会計処理は当然のものであり、特段疑問点は生じないものと思われる。 これを設例を用いて示すと以下のようになる。 (※) 1ビットコイン×@100,000円=100,000円 (2) 仮想通貨を譲渡して円転した場合の会計処理 前々回でも述べたが、仮想通貨に市場で形成される時価がある以上は、仮想通貨を取得した際とこれを譲渡して日本円に換金した際との間で時価が変動し、換金時の帳簿金額と収入金額は一致しないことが通常である。 また、この場合に生じる譲渡損益は、仮想通貨の保有目的を問わずその譲渡によって確定するものであるから、会計処理としても前々回説明したものと同様、当期の損益として処理することになると考えられる。 なお、表示区分については留意が必要である。トレーディング目的で保有する棚卸資産を譲渡した場合の損益についての会計処理は「棚卸資産の評価に関する会計基準」に定められているが、仮想通貨の有する棚卸資産に類する性格に鑑み、当該基準に従い、純額で売上高として営業損益項目に計上することが適切と考えられる。 以上の点を設例・仕訳例で示すと以下のとおりである。 (※) 売上高として計上する。 (3) 仮想通貨を交換した場合の会計処理 仮想通貨はビットコイン以外にも多数の種類が存在し、一般的にビットコイン以外の仮想通貨をオルトコインという。 上記(2)では、仮想通貨の譲渡について円転することを前提に説明を行ってきたが、仮想通貨を譲渡する場合、必ずしも円貨で決済する場合だけとは限らず、ビットコインを譲渡してオルトコインを取得する場合や、逆にオルトコインを譲渡してビットコインを取得する場合、さらには種類の異なるオルトコイン同士を交換する場合なども考えられる。 したがって、こうした「仮想通貨同士の交換を行う場合の会計処理」についても検討する必要があろう。 現在、この点について、明確な会計基準や税法の規定はないものの、大きく分けて以下の2つの考え方があるようである。 交換時点において市場で形成された交換レート(=時価)により等価交換が行われているという前提に立てば、後者の「譲渡損益を認識しない」という考え方も一応の理屈は立ちそうであるが、一方で外国通貨の交換を行った場合には、そこに換算差損益が生じていることは明らかであり企業会計においても実際に損益が認識されるところ、仮想通貨の場合においてもこれと同様であるという立場に立てば、前者の「譲渡損益を認識する」ことになる。 あくまで筆者の私見であるが、適切な企業会計の目的が会社のあらゆる事業活動の成果を貨幣的に表すということにあるのだとすれば、当該仮想通貨による交換により(少なくとも円換算した場合には)損益が生じていることは明らかであるから、譲渡損益を認識すべきであると考える。 また、国税庁ホームページには次のように、所得税に関する質疑応答事例として、外国通貨同士の交換を行った場合の取扱いが公表されている。所得税の取扱いではあるものの、一般的な企業会計の考え方とも整合するものであり、仮想通貨同士の交換に関する取扱いを検討するに当たっても斟酌すべきものと考える。 以上の点を設例・仕訳例で示すと以下のとおりである。 (4) 期末評価 連載【第9回】でも述べたとおり、仮想通貨は会計的には棚卸資産としての性格が強く、棚卸資産の評価に関する会計基準の趣旨に沿った会計処理を行うことが合理的であると考えられる。 すなわち、期末時にトレーディング目的で保有する仮想通貨については、市場で形成された時価によって期末評価を行い、当該評価によって生じた損益は当期の損益として処理することになろう。 設例・仕訳例を示すと以下のとおり。 2 消費税の取扱い 国内における課税資産の譲渡のタイミングで消費税は課税される。また、平成29年度の税制改正により仮想通貨の譲渡について消費税は課されない(【第6回】参照)。 これらを踏まえて、上記設例における消費税の課税関係を整理すると、以下のようになる。 (連載了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第60回】 株式会社ながの東急百貨店 「第三者委員会調査報告書(平成29年6月13日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【調査委員会の概要】 【株式会社ながの東急百貨店の概要】 株式会社ながの東急百貨店(以下「ながの東急」と略称する)は、1958(昭和33)年11月設立。百貨店業。資本金2,368百万円。連結売上高19,750百万円、経常損失100百万円(数字は、いずれも平成29年1月期)。従業員数304名。本店所在地は長野県長野市。JASDAQ上場。親会社である株式会社東急百貨店が議決権の57.75%を所有。株式会社東急百貨店の株を100%所有する東京急行電鉄株式会社(東証1部)の連結子会社である。 【第三者委員会調査報告書の概要】 1 調査に至る経緯 ながの東急のカスタマーセンター担当者(マネージャー職)が、「ワールドジュエリー&ウォッチフェア」という名称の催事において、適正に顧客に販売をしたように装い、商品を転売するなどの不正な取引行為を行っていたことが発覚したため、ながの東急は、日弁連の第三者委員会ガイドラインに基づき選任した外部の専門家による、第三者委員会を設置した。 不正行為者による不正の発覚経緯については、ながの東急によるリリース、第三者委員会調査報告書ともに、言及がない。記述から推測すると、2016年度におけるフェア終了後、本来の入金期日までに回収されない売上代金が多額になったため(調査時点で約19百万円)、不正が発覚したのではないだろうか。 2 調査結果の概要 (1) ワールドジュエリー&ウォッチフェアの特徴 ワールドジュエリー&ウォッチフェア(以下「フェア」と略称する)は、毎年8月から10月にかけて開催される宝飾品と時計の全社的な販売キャンペーンであり、通常の店頭販売との比較において、次のような特徴を有している。 (2) 不正の手口 不正行為者は、フェア期間中、買主として親族や知人等の名前を勝手に使用して、仕入先からブランドものの時計を持ち出し、架空の販売実績を挙げていた。持ち出した商品は、他に転売して一時的に資金を得るとともに、フェア終了後の入金期限である12月中に、販売代金を入金することを繰り返していた。 当初は、不正行為による販売金額も少額であったため、本人名義で販売を行っていたが、不正な販売金額が高額になるに従い、他の従業員の名義を借りて販売を行い、また、買主についても他の従業員の顧客名義を使用していた。 (3) 不正行為者による売上計上額の推移(報告書p.4) 第三者委員会の調査によれば、不正行為者による、不正な販売行為による売上計上額は、次のとおりである(金額には消費税額等を含む。単位:円)。 2016年度までは、8月から10月までの開催であったフェアが、2017年度からは通年開催となったことに伴い、2017年においても、本件不正が発覚する4月までの間、不正な販売行為が続けられていたことがわかる。 (4) 不正の動機(報告書p.3) 不正行為者は、2009年頃から、フェアにおける買取りから入金までの猶予期間を利用して一時的な資金を得ることを目的に、不正行為を行うようになった。不正を行った理由としては、生活費(子供の大学進学、住宅ローンなど)に充てる必要があったこと、当時の職場での取引上のトラブルが発生し、その責任を取るため自ら顧客の取引代金の穴埋めを行ったことから、資金を得たいと考えたものであると説明されている。 確かに、フェア終了後約2ヶ月間、転売資金が自由に使えるというメリットはあろうが、百貨店の小売価格以上の価格で転売することは不可能であり、不正を重ねるにしたがって資金的に苦しくなり、破綻することが自明である状況の中、2009年頃から発覚するまでの7年以上、こうした不正を続けた動機としては納得できないものを感じる。同時に、2016年まで、資金繰りが破綻しなかった理由について、調査報告書に説明がない点も気になるところである。 (5) 転売先はどこか 調査報告書冒頭には、今後の調査方法として、「転売先への委員会ヒアリング」を実施することを決定した旨の記述があるものの、報告書にはそれ以外の記述がなく、第三者委員会が転売先に対するヒアリングを実施できたのかどうかも含めて、ヒアリング内容はどのようなものであったのかは、不明である。 前述のように、フェアで取り扱う商品は、仕入先が承諾すれば値引き販売が可能であったため、不正行為者が転売によって利益を得ていた可能性も排除できないことを考えると、転売先に対するヒアリング調査は、第三者委員会として必須の手続きではなかったかと思えるだけに、転売先に関する記述がない点、奇異な印象を持ってしまう。 (6) 第三者委員会による売上の取消しが必要な金額(報告書p.31) 第三者委員会は、百貨店の売上として計上できないのは、「刑法上の詐欺に準じる違法性を持つ場合」であると判断し、取引回数及び取引金額が激増し、多額の未収入金が残っている2016年度について、「通常取引から詐欺に準じる取引へと変容」したとして、それ以前の取引については通常取引として、「決算上取消等を要しない」と判断している。 売上の取消しが必要な金額は次のとおりである(消費税額等を除く。単位:円)。 上記表中、「支払代金返済を要する取引」に掲げる金額は、不正行為者に自らの名義を貸した従業員等が、担当者責任として立替え弁済している金額を含んでいる。 (7) なぜ、発覚しなかったのか 不正行為者は、「売上実績を譲る」と称して、複数の従業員の名義を借りることを持ちかけていた。名義貸しに応じた従業員の中には、売上目標の達成に苦しんでいて積極的に承諾をした従業員もいるということである。 2016年度になると、こうした名義貸しの承諾を得ずに、不正行為者が不正に他の従業員の名義を借用して商品を持ち出すことが多くなり、社内の業務日報を見て不審に思い、不正行為者に問い質した者や担当者名義の変更を求める者もいたことが、第三者委員会のヒアリングで判明している。 また、名義を貸した他の従業員が、担当者の責任として販売代金を立替え払いしている金額が8,197,000円であったことも判明している。 不正行為者の販売に関して不審を抱いているはずの従業員が多く存在したにもかかわらず、そうした声は、コンプライアンス委員会や内部統制・コンプライアンス担当者(1名)に届かなかったようである。ながの東急の有価証券報告書を読む限り、内部通報制度に関する記述はないが、もし、内部通報制度が存在して有効に機能していれば、より早い段階で、不正を発見することが可能ではなかったのだろうか。 【調査報告書の特徴】 百貨店の催事において、売上先を偽って不正な販売行為をした従業員が、商品を転売してその代金を百貨店に入金、長く百貨店側は不正に気づかなかったが、おそらくは資金がショートして回収遅延売掛金が生じたため、不正が発覚した。 さて、従業員の不正な販売行為による売上計上は取り消されるべきか否か。 ながの東急第三者委員会は、この命題に1つの解決策を示している。 1 従業員による不正な販売行為は取り消されるべきか否か(調査報告書p.27) 第三者委員会は、本件の不正について、一連の取引が売買から決済時期までの期間を利用し、一時的な資金需要のために転売の意思をもって自ら商品を購入したものであり、本百貨店の従業員としての地位を不正に利用し、社内規則等に照らし規律違反となることは明白であると結論づけているが、不正行為に伴って、ながの東急が計上している売上高の取消しについては、以下のように慎重なコメントを述べている。 そのうえで、今回の事案において売上計上が否定されるべき取引の判断基準は、「詐欺に準じると評価できる程度の悪質性を有するか否か」とし、法的な側面から「詐欺に準じる」と判断された取引をもって「売上取消対象の取引」を識別することは、会計基準への準拠の観点からも、妥当であると判断して、不正な販売行為の額が一気に拡大し、かつ、売買代金が完済できない事態が生じた2016年度に「質的変化」が生じていることから、通常取引から詐欺に準じる取引へと変容する時期は 2016 年以降というべきであり、それ以前の取引については通常取引として、決算上取消等を要しない、との考えを示した。 2 第三者委員会の判断に対する疑問点 例えば、循環取引による会計不正では、たとえ代金の決済が終わっていたとしても、過去に遡って取引全体を取り消し、売上高及び売上原価を減額する決算修正を行うことが求められる。これは、循環取引が実際の商品が存在しているか否か(架空であるか否か)を問わず、実務上、当然の要求である。 本件不正について、第三者委員会は「売買代金の支払意思」「商品代金の支払い完了」という事実に着目して、今回の事案を不正行為者に対する「商品の販売」であるとして、すべての不正な売上の取消しを求めていないのであるが、この判断には疑問が残る。 すなわち、本件不正は、不正行為者がながの東急の社員である地位を利用して、商品を詐取し、その犯行を露見させないために、商品の転売によって資金を調達していたのであるから、百貨店としての正常な営業活動の成果である「売上」ではありえないと判断すべきではなかったか。従業員が無断で(就業規則等に違反して)、他の業者等に転売した行為が、会社定款に規定する「会社の目的」に適合するということはあり得ないのではないだろうか。 決算の修正としては、本件不正のうち、最終顧客が判明しなかったすべての取引につき、売上高と売上原価を取り消すべきである。そして、不正行為者からの入金は、商品供給先への支払に充当したうえで、まだ回収できていない商品の仕入代金相当額を、不正行為者に対する未収入金として計上するとともに、回収可能性を考慮して貸倒引当金を設定するという方法であるべきであろう。 また、フェアでの販売高に応じた販売奨励金については、不正行為者のみならず、名義を貸した他の従業員についても、全額、返還させるべきであり、この点についても決算修正(販売奨励金の取消)が必要なのではないかと思料する。 3 再発防止策 調査報告書では、第三者委員会は、今後再発防止策を提言する予定であるとしており、本稿執筆現在、まだ再発防止策は公表されていないが、6月13日付リリースでは、ながの東急として以下の管理体制の強化策が挙げられている。 4 取締役の辞任・異動 平成29年1月27日付「取締役の辞任及び重要な人事に関するお知らせ」によれば、当時常務取締役業務本部長であった田力祐志氏は、「一身上の都合」を理由に1月31日付で辞任し、翌2月1日付で親会社である株式会社東急百貨店の常勤監査役に就任予定と報じられるとともに、取締役営業本部長である宮沢宏明氏が、取締役のまま、2月1日付で、子会社の株式会社北長野ショッピングセンター代表取締役への就任が公表されている。この異動が、本件不正に対する一種の責任追及の結果であるのかどうかは不明である。 調査報告書(p.27)では、人物は特定されていないものの、「早くから名義貸しを承諾していた者」の中には、「取締役として部下の監視・監督義務を負っていたにもかかわらず、これを怠り本件対象者の本件一連取引を止める措置をとらず、その結果、2017年2月以降も商品購入が継続された」と指摘している部分があるものの、上記リリースの対象となった両名については、役員報酬の減額という社内処分はされておらず、調査報告書の記述内容と社内処分との関連については判然としない。 (了)
連結会計を学ぶ 【第7回】 「連結決算日と決算日の変更」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 連結財務諸表の作成において、連結財務諸表の作成に関する期間は1年であり、親会社の会計期間に基づいて、年1回一定の日をもって連結決算日とすると規定されている(「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号。以下「連結会計基準」という)15項)。 ただし、親会社と子会社は、その決算日が必ずしも一致するとは限らないので、連結会計基準などでは一定の規定を設けている。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 連結決算日に関する規定 1 基本的な考え方 前述のように、連結財務諸表の作成に関する期間は1年であり、親会社の会計期間に基づいて、年1回一定の日をもって連結決算日とすることになる(連結会計基準15項、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(以下「連結財務諸表規則」という)3条1項)。 ただし、親会社と子会社は、その決算日が必ずしも一致するとは限らないので、連結会計基準は次の規定を設けている(連結会計基準15項、注解4)。 連結財務諸表規則12条及び連結財務諸表規則ガイドライン12-1では、次のように規定している。 2 連結財務諸表規則ガイドライン12-1 本来、仮決算は連結決算日に行うべきものと解されるが、上記の通り、連結財務諸表規則ガイドライン12-1は、「相当の理由がある場合には」、「連結決算日から3か月を超えない範囲の一定の日」に仮決算を行うことができるとしている。 この「相当の理由がある場合」については、四半期決算のスケジュールとの関係や、日程的に連結手続を容易に行うことを説明しているものがある(平松朗、金子裕子、柳川俊成、大橋英樹『連結財務諸表規則逐条詳解』(中央経済社、2011年10月)170、172ページ)。 Ⅲ 決算日の変更 1 決算日の変更と会計方針の変更 「会計方針」とは、財務諸表の作成に当たって採用した会計処理の原則及び手続をいい、「会計方針の変更」とは、従来採用していた一般に公正妥当と認められた会計方針から他の一般に公正妥当と認められた会計方針に変更することをいうと定義されている(「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準第24号)4項(1)及び(5))。 親会社又は子会社の決算日の変更が行われた場合、当該変更が会計方針の変更に該当するかどうかであるが、これは会計方針の変更に該当しないと考えられている(「比較情報の取扱いに関する研究報告(中間報告)」(会計制度委員会研究報告第14号。以下「比較情報研究報告」という)Q5)。 このため、決算日の変更が行われたとしても、それは会計方針の変更ではないので、遡及適用はされず、したがって、比較情報については、前連結会計年度に係る連結財務諸表を記載することになる(比較情報研究報告Q6のA(2))。 前述のように、決算日の変更は会計方針の変更に該当しないが、四半期報告制度や次年度以降の比較情報の有用性等を考慮すると、会計方針の変更の取扱いに準じて、親会社の第1四半期決算から四半期連結決算日の統一を行うことが適当と考えられる。 なお、いわゆる第4四半期において決算日の統一を行うやむを得ない場合もあると考えられる。この場合には、損益計算書を通して調整する方法のみが採用でき、実施した会計処理の概要のほか、その理由も記載することが適当と考えられる(比較情報研究報告Q6のA(1))。 2 親会社又は子会社の決算日の変更 親会社の決算日を変更すると、連結決算日を変更することになるため、その旨、変更の理由及び当該変更に伴う連結会計年度の期間を連結財務諸表に注記することになる(連結財務諸表規則3条1項、3条3項)。 なお、連結子会社の決算日が変更されたこと等により、当該連結子会社の事業年度の月数が、連結会計年度の月数と異なる場合には、その旨及びその内容を連結財務諸表に注記するものとされている(連結財務諸表規則ガイドライン3-3)。 親子会社又は子会社の決算日の変更に伴う会計処理及び比較情報の開示については、「比較情報の取扱いに関する研究報告(中間報告)」(会計制度委員会研究報告第14号)Q6に詳細に規定されているので、実際に決算日の変更を行う際には参照していただきたい。 (了)
税理士が知っておきたい [認知症]と相続問題 〔Q&A編〕 【第13回】 「高齢運転者が交通事故を起こしたケース」 クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎 [設問12] 私の父親は85歳で、妻(私の母親)に先立たれた後は、東北地方にある実家でひとり暮らしをしています。 田舎での生活ですので、買い物や病院に出かけるためには自動車が欠かせず、父も小さな自動車を1台所有しています。 しかしながら、3年ほど前から軽い認知症の症状が出始めていると診断されて以降、自分で車を運転するのは危険だということで、子である私たちからも父に強くお願いし、自分では車を運転しないようにしてもらっていました。 ◆ ◆ ◆ ところが、先月のある日、いつも外出に利用しているバスが悪天候で運休となったため、父は、相当久しぶりに自分で運転して買い物に出かけたようなのです。ところが、その途中、左隣のレーンで後方を走っていた軽自動車に気づかず、左折の際に衝突して相手に怪我を負わせ、その方の軽自動車を大破させてしまったのです。 それどころか、父の車は雨の中でスリップして電柱に激突したため、父は、その時に負った重傷がもとで、事故から1週間後に亡くなってしまいました。 父の法定相続人は私と私の妹の2人となりますが、今後の損害賠償等を含め、どのように対応したらよいでしょうか。 1 高齢運転者が関与する事故の増加 最近のニュースでは、高齢の運転者が関わる様々な事故が話題になる機会が多い。たとえば、高速道路の逆走や登校中の小学生の列への衝突、ブレーキとアクセルを踏み間違えて急発進し、店舗に激突する等といった事例である。 警視庁が発表した次の統計を見ても、65歳以上の高齢運転者が関与する事故件数は年々増加している傾向にある。 たとえば、東京都における交通事故の総件数自体は平成19年で約6万8,000件、平成28年で約3万2,000件と半減しているにもかかわらず、その中で高齢者運転者が関与していた割合は、平成19年において13.1%であったのが平成28年には22.3%を記録し、約1.7倍の伸びを示している。 そして、高齢者が関与する事故での事故原因で最多のものは、脇見や考えごとをしていた等による「発見の遅れ」(構成率68.6%)であった。 これは、運転者が高齢となるにつれ、危険察知や危険予測の前提となる五感での認知機能が低下していくことの表れといえよう。 このような現状を踏まえ、現在では、運転免許の更新時において、①高齢者講習や②認知機能検査が義務付けられるようになっている。 具体的には、①更新期間が満了する日における年齢が70歳以上の免許保有者が免許証の更新をしようとするときは、免許証有効期間満了日前6ヶ月以内に高齢者講習を受けなければならない。 また、②この場合に75歳以上となる場合には認知機能検査を受け、その結果に基づいた高齢者講習を受けなければならない。 加えて、③75歳以上の免許保有者が、認知機能が低下した場合に行われやすい一定の違反行為(信号無視、進路変更禁止違反、交差点右折左折方法違反等)をした場合には、臨時に認知機能検査を受けなければならない。 そして、臨時認知機能検査の結果、認知機能の低下が自動車等の運転に影響を及ぼす可能性があることを示す一定の基準に該当したときは、臨時に高齢者講習を受けなければならず、検査や講習を受けなかった場合は、免許の停止又は取消しの対象となる。 上記について、詳しくは次のホームページを参照されたい。 2 高齢運転者が負う3つの法的責任 高齢の運転者が不幸にして交通事故を発生させた場合、以下のような3つの観点での法的責任が問題となる。 (1) 行政上の責任 交通違反の内容に応じた違反点数が付加され、反則金、免許停止、あるいは免許取消し等の行政処分が課されることになる。 (2) 刑事上の責任 人身事故を起こし、人を死傷させた場合には、自動車運転死傷行為処罰法に基づき、刑罰が科せられる場合がある。この際、通常の運転の場合には、「過失運転致死傷罪」が適用されることになる。 この点、認知症等による影響が重大で、交通事故当時に、心神喪失(精神の障害により事物の理非善悪を弁別する能力またはその弁別に従って行動する能力のない状態)と認められた場合には、犯罪は成立せず、刑罰は科せられない。 あるいは、心神耗弱(精神の障害がまだ事物の理非善悪を弁別する能力またはその弁別に従って行動する能力を欠如する程度には達しないが、その能力の著しく減退した状態)と認められた場合には、犯罪は成立するものの、その刑が減刑される。 交通事故を起こした運転者がこのような心神喪失や心神耗弱の状態にあるのか等につき詳細な調査が必要な場合には、勾留期間中に鑑定留置の手続が取られることもある。 これは、運転者の身柄を病院等の専門機関に送り、責任能力の有無や程度に関し、様々な専門的検査を実施する手続である。 (3) 民事上の責任 通常の交通事故の場合と同様、被害者において生じた人的損害(人損)と物的損害(物損)の両方に関して賠償することが必要となる。 たとえば、人損では、事故によって生じた治療関係費、通院交通費、休業損害、後遺障害逸失利益、慰謝料等が、物損では、車両修理費、代車使用料等といったものが具体的な損害費目となってくる。 この点、運転者が高齢で認知症を発症している場合には、民事上の賠償責任を負う前提となる責任能力を本人が有しているのかという問題が生じる。 責任能力とは、「自己の行為の責任を弁識するに足りる知能」を備えていることをいう。仮に加害者が責任能力を欠く場合には、民法上は不法行為責任を負わないと規定されているため、重大な影響がある。 実際には、人損に関しては、3,000万円までの範囲内については、加入が強制されている自賠責保険によりカバーされる。そのため、民法上の不法行為ではなく、自動車損害賠償保障法3条のいわゆる「運行供用者」責任に基づき賠償請求していくことが一般である。 このような自賠法上の請求に関し、民法の責任能力の規定に基づく免責を認めるかについては長年にわたり見解の対立があるが、現在では、被害者保護の見地を重視し、免責を認めないとする考え方が多数となっている。 他方で、物損に関しては、民法709条に基づき賠償請求していくことになるが、任意保険の支払いに関して、上記と同様に責任能力規定の適用が問題とされる余地も出てくる。 このようにして、自賠責・任意保険の双方を使用しながら、発生した損害の賠償を行っていくことになるのである。 それでは、仮に高齢運転者本人に責任能力が認められず、この者からは賠償を受けられないという結論となった場合、被害者としては誰に対して賠償をしていけばよいか。 この問題については、次回に設例を変えて検討することにしたい。 3 相続における損害賠償債務の取扱い 【設問12】において、相談者の父は不幸にも事故で死亡している。 そうすると、相談者の父が被害者に対して負う損害賠償債務は、いわゆる“マイナスの財産”として、父の法定相続人である相談者と妹の2人が各自の法定相続分で分割して(本件では2分の1ずつ)相続することが原則である。 ただし、①相談者の父が任意保険に加入していた場合には、任意保険により被害者に対して保険金が支払われ、損害が填補されることになる。 他方、②相談者の父が自賠責保険にしか加入していなかったケースで、被害者における人損の損害額が3,000万円を超える場合、あるいは物損も生じているという場合には、保険によりカバーできなかった部分につき、相談者と妹の2人が債務を相続して責任を負うこととなる。 そこで、このような場合には、相談者と妹の方で、父の遺産のプラス財産とマイナス財産とを慎重に調査・検討した上で、相続放棄をするかどうかを検討することになろう。 (了)
税理士業務に必要な 『農地』の知識 【第9回】 「土地区画整理法・土地改良法」 税理士 島田 晃一 今回は土地区画整理法と土地改良法について解説する。2つの法律は主として土地の面整備のためのものであるが、土地区画整理法は既存宅地の整備又は農地等を宅地化し整備するための手続きを定めた法律であるのに対し、土地改良法は農地そのものの整備のための法律であるという点に違いがある。 1 土地区画整理事業の概要 土地区画整理事業とは、乱雑な市街地やこれから市街化しようとする地域について土地の区画を整えたり、道路、公園等の公共施設の整備を行う事業であり、その施行は土地区画整理法に基づき進められる。 土地区画整理事業の施行者は、土地区画整理法において「地方公共団体」、「土地区画整理組合」及び「個人」の3者が定められている。このうち土地区画整理組合は事業施行区域内の地権者が7人以上であることが必要であり、事業遂行にあたっては組合員の3分の2以上の同意が必要である。また、個人が施行者になる場合は、施行区域内の地権者又は地権者の同意を得た者が1人もしくは数人で行い、事業遂行にあたっては全員の同意が必要である。 2 土地区画整理事業の手順 土地区画整理事業においては、施行者が換地計画を作成し、その計画に沿って道路等公共施設の設置、及び、個々の地権者の土地について造成・区画整理等の整備を行い、各種条件を考慮して再配置を行う。再配置により個々の地権者が取得する土地を換地という。 換地計画上、換地の面積は元の土地より少なくなる(減歩(げんぶ)という)。これは、公共施設の設置や事業費の捻出のために施行地区内の土地の一部が施行者に拠出されるためである。ただし、減歩されても各土地について区画等の整備が行われ道路の接道状況が良くなっていることから、元の土地と換地の価値は等しくなるようになっている。 しかし現実的には、すべての地権者について等価の換地を受けられるわけではない。その解決策として、元の土地より換地の価額が少ない地権者については、「清算金」が交付され、元の土地より換地の価額が多い地権者については清算金が徴収される。 事業終了の際には、換地処分といい元の土地の権利が一括して換地に移行されるが、土地区画整理事業の事業期間は長期にわたるため、このままでは事業開始から換地処分までの間、長期間にわたって土地の利用ができなくなる。 そこで、施行者は土地の利用制限期間を少なくするため、工事が終了した地区から地権者に対し仮換地を定める。仮換地は原則としてそのまま換地に移行する。仮換地が指定されると、地権者はその土地について使用収益が可能になる。 3 土地区画整理事業とその税務 (1) 譲渡税の課税関係 換地処分があった場合、地権者は元の土地を施行者に譲渡し、施行者から換地を取得したとみなされる。 譲渡税に関しては、租税特別措置法33条の3《換地処分等に伴い資産を取得した場合の課税の特例》により、清算金の交付がないときは、譲渡はなかったとされ譲渡税は課税されない。また、換地処分による土地取得については、不動産取得税は非課税である。また、不動産登記は施行者が行うため、個々の地権者に登録免許税の負担は生じない。 なお、清算金が交付されたときは、次の算式により計算した金額が譲渡所得になるが、その金額については、収用等に伴う買換えの特例又は収用等の5,000万円特別控除の対象になる(措置法33条第1項3号又は措置法33条の4第1項)。 (2) 土地の相続税評価 土地区画整理事業施行中に地権者に相続が発生した場合、当該土地の相続税評価は原則として次のようになる(評基通24-2)。 なお、相続発生時において清算金の徴収又は交付が確定しているときは、徴収された清算金相当額は仮換地の評価額から控除し、交付を受けた清算金相当額は評価額に加算される。 4 土地改良事業の概要 土地改良事業とは、農地の造成、整備及び農業用水路、農道等の農業生産基盤の整備を行う事業であり、具体的には農地造成事業、区画整理事業、用排水路整備補修等事業が行われる。 区画整理事業においては、前述した土地区画整理事業のように換地が行われたり、土地集約のために地権者相互において交換が行われる場合もある。事業の施行や手続きについては土地改良法に定められている。 土地改良事業は、実施主体に応じて大きく2つに分けられる。1つは、実施主体が土地改良区(又はJA)となる「団体営事業」である。土地改良区とは、農地所有者や小作人など15人以上の参加資格者が、事業計画、定款等について都道県知事の認可を受け設立する団体で、事業遂行にあたっては組合員の3分の2以上の同意が必要である。 もう1つは、実施主体が国・都道府県となる「国・県営土地改良事業」である。国・県営土地改良事業の実施にあたっては、従来は施行地区内の農地所有者等15人以上の申請人が必要であったが、今年、土地改良法が改正され人数要件は廃止になり、小人数での申請も可能になった。 団体営事業の場合、土地改良区は区画整理事業、農地造成事業、水利施設の建設(造成等事業)を行うだけでなく、造成等事業の完了後、用水路、ポンプ施設等の土地改良施設の維持管理(維持管理事業)を行う。なお、国・県営土地改良事業についても、造成等事業は国・都道府県が行うが、維持管理事業は多くの場合、土地改良区に委託される。 5 土地改良区の賦課金・決済金と税務上の取扱い 土地改良事業が行われた場合、造成等事業及び維持管理事業のための資金については、土地改良区が賦課金を組合員から徴収する。賦課金のうち造成等事業部分は、毎年の金額が10アールあたり1万円以下など少額な場合を除き農地の取得費又は繰延資産となる。一方、維持管理事業部分は金額に関わらず事業所得(農業所得)に係る必要経費になる。 なお、土地改良区の組合員が農地を譲渡したり、他の用途に転用したときは、組合員としての資格を喪失することになり、土地改良区はその者から賦課金を徴収できなくなる。ただし、賦課金は前述したように造成等事業の費用の後払い及び維持管理事業のための資金であるため、賦課金を徴収できなくなると他の組合員の負担が増加することになる。 そこで、土地改良事業に係る農地を組合員が譲渡・転用したときは、造成等事業の費用残額及び将来の土地改良施設の維持管理費用にあたる金額を決済金として一括徴収することになっている。 農地を譲渡するにあたって支払った決済金は、売買契約において転用して売却することが定められていることなど一定の要件を満たすことを条件として、譲渡所得の計算上、譲渡費用として取り扱われる。一方、農地を転用した場合に支払った決済金は、その農地の所有者に相続が発生したときの相続税評価の計算上、土地造成費のように評価額から控除することはできない。 * * * 以上、土地区画整理法と土地改良法と関連税務について簡単に見てきた。これらの法律に係る事業や税務上の取扱いは、土地改良区の賦課金に関する税務を除き、実務上頻繁に出てくるものではないが、仮にこのような事例にあたったときは、本稿を入口にしてより深く精査し、間違いのない取扱いをしてほしい。 (了)
役員インセンティブ報酬の分析 【第5回】 「株式報酬・将来株式発行型①」 -平成28年度の状況- 弁護士・公認会計士 中野 竹司 1 株式報酬・将来株式発行型 (1) 概要 前回述べたとおり、役員インセンティブ報酬は、報酬の交付物が金銭かエクイティかに大きく分けることができる。今回は、役員インセンティブ報酬のうち、平成28年度までに導入された株式報酬、かつ将来株式発行型について取り上げる。いわゆるパフォーマンス・シェアと呼ばれるものである。 なお、平成29年度税制改正により、インセンティブ報酬の法人税法上の損金算入の可能性が高まったことから、今後多様なインセンティブ報酬プランが設計されてくると考えられるが、今回は平成29年税制改正前のプランについて検討し、次回から平成29年度税制改正後のインセンティブ報酬プランについて検討する予定である。 (2) 株式報酬・将来株式発行型の導入例 平成29年税制改正前の株式報酬・将来株式発行型の導入例として、株式会社ツムラによる業績連動型株式報酬制度がある。 その概要は以下のようになっている。 2 ガバナンス面から見たメリット・デメリット 株式報酬・将来株式発行型は、いわゆるパフォーマンス・シェアと呼ばれるものであり、同じ株式報酬であるリストリクテッド・ストックと異なる特徴を有する。 すなわち、リストリクテッド・ストックは、一定期間の在籍等の条件はあるものの、ストック・オプションと違い、通常、株価の下落により無価値になることはなく、役員に有利な報酬形態であるが、勤続年数条件型の株式報酬手段は、株価と連動しているものの、業績とは連動していないという批判がある。 このような批判に対応するため、パフォーマンス・シェアが設計されることがある。 パフォーマンス・シェアは、 ◆主要な目標の達成水準が獲得株数を決定する ◆業績評価の終わりに獲得できる株式が組み合わされて長期インセンティブの価値が決まる という特徴により、報酬と業績の連動を直接的に図るものであり、先ほど紹介したツムラの株式報酬もこのような特徴を備えるものといえよう。 もっとも、株式報酬であるから、希釈化が生じるというデメリットもある。 3 金融商品取引法上の視点 株式報酬・将来株式発行型のインセンティブ報酬について、発行開示について開示府令上「第三者割当」から除外されておらず、「第三者割当の場合の特記事項」として割当予定先の状況等として各役員の住所、氏名、職業の内容等の開示が必要になるように考えられる。 また、インサイダー取引規制及び売買報告・短期売買利益の返還制度の適用除外規定がないといった問題もある。ただし、一定の場合に府令の改正案が公表されている部分もあり、次回以降紹介する予定である。 4 税法上の視点 平成29年度税制改正前においては、株式報酬・将来発行型のインセンティブ報酬について、発行会社は役員報酬として損金算入できなかったといってよいだろう。そのため、係る形態のインセンティブ報酬の実例はそれほど多くなかった。 しかしながら、平成29年度税制改正において、株式報酬・将来発行型のインセンティブ報酬について発行会社が役員報酬として損金算入する余地があることになり、このインセンティブ報酬を設計する会社が増えている。 平成29年度税制改正後の状況については、次回以降、紹介する予定である。 (了)
《速報解説》 平成29年度改正を受け相続税関係の改正通達が公表 ~事業承継税制の免除等要件緩和に係る新設規定も Profession Journal編集部 国税庁はこのほど、平成29年度税制改正の適用に伴い、相続税関係の通達(相続税法基本通達、相続税関係の措置法通達等)の一部を改正する通達を公表した(ホームページ掲載日は7月6日)。 * * * 今年度改正により、日本国籍のない非居住者が、相続開始前10年以内に国内に住所を有していた被相続人等から相続等により取得した国外財産が相続税の課税対象とされるなど、相続税・贈与税の納税義務者の見直しが行われた。これに伴い、相続税法基本通達では、居住無制限納税義務者の判定に当たって、「その者が相続若しくは遺贈又は贈与により財産を取得した時において、法施行地に住所を有するかどうかによるのであって、被相続人又は贈与をした者の住所が法施行地にあるかどうかは問わない」とした基本通達1の3・1の4共-4《居住無制限納税義務者の判定》が削除されている。 * * * また措置法関係通達(租税特別措置法(相続税法の特例関係)の取扱いについて(法令解釈通達))では、いわゆる事業承継税制(非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予制度)について、災害や取引先の倒産等一定の事由が発生した場合に猶予税額の免除や要件緩和される措置が講じられたことに伴い、例えば措置法70条の7の2第31項1号に規定する「災害によって甚大な被害を受けた場合」の判定方法が算式の形で示される(70の7の2-56)など、各免除等要件の判定方法に関する説明及び留意事項をまとめた項目が新設されている。 なお、上記の改正は平成28年4月1日以後に発生した災害により被害を受けた一定の会社にも適用されているため、すでに適用を検討しているケースや昨今の豪雨被害等により今後検討を要する場合も、新設項目で示された内容について確認しておきたい。 措置法第70条の7の2《非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除》関係で新設された項目は次の通り(贈与税についても同主旨の新設項目あり)。 * * * その他、今年度改正で創設(常設化)され平成28年熊本地震にも適用されている租税特別措置法第69条の6《特定土地等及び特定株式等に係る相続税の課税価格の計算の特例》及び同法第69条の7《特定土地等及び特定株式等に係る贈与税の課税価格の計算の特例》は、特定非常災害発生日前に相続等により財産を取得し同発生日後が申告期限となる一定の場合に、特定土地等及び特定株式等の評価額を特定非常災害の発生直後の価額によることができる特例措置だが、本特例に係る個別通達として4月17日付け(HPでは5/8)で公表されていた「租税特別措置法第69条の6《特定土地等及び特定株式等に係る相続税の課税価格の計算の特例》及び同法第69条の7《特定土地等及び特定株式等に係る贈与税の課税価格の計算の特例》に規定する特定土地等及び特定株式等の評価について(法令解釈通達)」が、今回の改正で措置法関係通達に織り込まれる形となった(69の6・69の7共-1~5、69の6-1、69の7-1)。これにより上記個別通達は廃止されている。 なお、平成28年熊本地震に関しては、特定非常災害発生直後の価額を求めるための調整率がすでに公表されている。 (了)
《速報解説》 外国の親会社から無償で支給される原材料を輸入し、国内の工場において半製品に加工して加工賃を受け取る取引における消費税の取扱いについて、東京国税局より文書回答事例が公表 公認会計士・税理士 新名 貴則 東京国税局は平成29年6月22日付(ホームページ掲載は7月5日)で、「外国の親会社から無償で支給される原材料を輸入し、国内の工場において半製品に加工して加工賃を受け取る取引における消費税の取扱いについて」の事前照会に対し、照会に係る事実関係を前提とする限り、照会者の見解のとおりで差し支えないとする回答文書を公表した。 以下では、その内容について解説する。 ◆前提 本事例の前提となる取引関係は次の通りである。 ◆事前照会者の見解 ◆見解の理由(要約) ▷加工作業について 当社は国内の工場において加工作業を行い、半製品を外国親会社に引き渡し、その対価として加工賃を受け取るので、当社の加工作業は「国内において事業者が行った資産の譲渡等」に該当する。 ここで、国内において行う課税資産の譲渡等のうち、非居住者に対して行われる役務提供で、次に掲げる3つ以外のものは輸出免税の対象になっている。 外国親会社は国内に支店又は出張所その他の事務所を有しないため、非居住者に該当する。また、当社の行う加工作業は上記の①から③に該当するものではない。したがって、当社の加工作業は輸出免税の対象となる。 ▷輸入消費税について 事業者が保税地域から引き取る課税貨物について輸入申告書を提出した場合、当該課税貨物について課された輸入消費税は、当該課税貨物を引き取った日等の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から控除される。 当社は無償支給される原材料を輸入し、輸入申告書を税関長に提出して、輸入消費税を納付している。したがって、この輸入消費税は仕入税額控除の対象となる。 (了)
《速報解説》 国税庁、配偶者控除・配偶者特別控除の見直しについて 各種情報をまとめたホームページを新設 ~改正を反映した平成30年分の源泉徴収税額表等も公表~ 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 平成29年度税制改正により、配偶者控除及び配偶者特別控除に見直しが行われ、平成30年分の所得税から適用される。このたび、この見直しに関する各種情報をまとめたページが、国税庁HP内に新設された。 なお、上記情報の公開に合わせて、平成30年分の源泉徴収税額表等も公開されている。 (※) 平成29年分から税額は改正されていないが、扶養親族等の数の計算方法が変わることにより、税額表の最後に掲げられている(注)及び(備考)の記載内容が変更されている。 【1】 見直しの概要 今回の配偶者控除及び配偶者特別控除の見直しに関する実務上の留意点は、次の3つである。 (1) 控除額の改正 ① 配偶者控除 改正前の配偶者控除の控除額は、居住者の所得金額に関わりなく一律38万円(老人控除対象配偶者の場合は48万円)であった(旧所法83①)。改正後は、居住者の合計所得金額が900万円を超えると26万円、950万円を超えると13万円(老人控除対象配偶者の場合は32万円、16万円)と逓減する仕組みとなる(所法83①)。 また、改正後は、合計所得金額が1,000万円を超える居住者は、配偶者控除の適用を受けることができなくなる(所法83①)。 (注) ・合計所得金額900万円超:給与所得のみの場合、給与収入1,120万円超 ・合計所得金額1,000万円超:給与所得のみの場合、給与収入1,220万円超 ② 配偶者特別控除 改正前、配偶者特別控除の対象となる配偶者の所得要件は、合計所得金額38万円超76万円未満であった(旧所法83の2)。改正後は、この要件が、合計所得金額38万円超123万円以下に拡大される。改正後の配偶者特別控除の控除額は、下表のとおりである(所法83の2)。 なお、改正前と同様に、合計所得金額が1,000万円を超える居住者は、配偶者特別控除の適用を受けることはできない(所法83の2)。 【改正後の配偶者控除額及び配偶者特別控除額の一覧表】 (※) 国税庁ホームページより (2) 源泉徴収における扶養親族等の数の計算方法の改正 ① 用語の定義 今回の改正により、配偶者に関し3つの用語が定義された(所法2①三十三・三十三の二・三十三の三・三十三の四)。 (※1) 配偶者控除額又は配偶者特別控除額 (※2) 改正前の控除対象配偶者とは定義が異なる。改正前は、控除対象配偶者の定義に居住者の合計所得金額の要件は設けられていなかった。なお、控除対象配偶者のうち70歳以上の者を、老人控除対象配偶者という。 (※3) いずれも、青色事業専従者等は除かれる。 上記①②③の配偶者を、居住者の所得及び配偶者の所得との関係で整理すると次のとおりとなる。 【配偶者の範囲】 (※) 国税庁ホームページより ② 扶養親族等の数の計算 (ア) 原則的な取扱い 甲欄を適用して源泉徴収を行う場合、改正前は配偶者が控除対象配偶者に該当すれば、扶養親族等の数に1人を加算していた(旧所法185、186)。平成30年1月以後は、配偶者が源泉控除対象配偶者に該当する場合に、扶養親族等の数に1人を加算することとされた(所法185、186)。 (イ) 障害者に該当する場合の取扱い 改正前は、控除対象配偶者が障害者に該当する場合には、扶養親族等の数に1人(同居特別障害者に該当する場合には2人)を加算していた(旧所法187)。改正後は、同一生計配偶者が障害者に該当する場合に、扶養親族等の数に1人(同居特別障害者に該当する場合には2人)を加算することとされた(所法187)。 (ウ) まとめ 以上により、改正後の配偶者に係る扶養親族等の数の計算は、次のとおりとなる。平成29年分以前と平成30年分以後では、配偶者に関して扶養親族等の数の数え方が異なるので注意が必要である。 【配偶者に係る扶養親族等の数の数え方】 (※) 国税庁ホームページより なお、今回新設された上記ページ内には源泉徴収義務者に向けたパンフレット「平成30年分以降の配偶者控除及び配偶者特別控除の取扱いについて(毎月(日)の源泉徴収のしかた)」が公表されており、配偶者に係る扶養親族等の数の計算方法の具体例が示されているので参考にされたい。 (3) 配偶者控除の適用方法の改正 改正前は、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」に控除対象配偶者がいる旨の記載があれば、年末調整において配偶者控除の適用を受けることができた(旧所法190)。 今回の改正で、配偶者控除の適用に居住者の所得要件が設定されたため、年末調整で配偶者控除の適用を受けようとする居住者は、年末調整の時までに「給与所得者の配偶者控除等申告書」を給与支払者に提出することとされた(所法190二二、195の2)。 同申告書には、居住者及び配偶者の合計所得金額の見積額等が記載され、年末調整でそれらの金額に応じた配偶者控除額又は配偶者特別控除額の適用を受けることとなる。 【2】 申告書等の様式変更 (1) 様式変更の概要 今回の改正に伴い、平成30年分以後の「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」等の様式が変更される。 主な変更点は、次の2つである。 公表された情報には、現段階での書式のイメージ(一部)が紹介されている。 (2) 「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」及び「給与所得・退職所得に対する源泉徴収簿」の記載事項の変更 源泉徴収時の扶養親族等の数の計算方法が改正されたことにより、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」及び「給与所得・退職所得に対する源泉徴収簿」の記載事項が変更される。 変更後の記載事項の詳細については、以下の情報を参考にしていただきたい。 【「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」等の記載例】 (※) 国税庁ホームページより (3) 「給与所得者の保険料控除申告書 兼 給与所得者の配偶者特別控除申告書」の兼用様式の廃止及び様式の改定 平成29年分までの兼用様式が廃止され、「給与所得者の保険料控除申告書」と「給与所得者の配偶者控除等申告書」の2様式となる予定である。どちらの様式もその年の年末調整の時までに提出する必要がある。なお、本稿執筆現在、今回新設されたページ内には、具体的な様式は示されていない。 (了) ↓お勧め連載記事↓
2017年7月6日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.225を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。