「税理士損害賠償請求」
頻出事例に見る
原因・予防策のポイント
【事例54(法人税)】
売掛金が回収不能となった事実を把握したが、その都度貸倒損失の計上をせず、まとめて貸倒損失を計上したため、税務調査で否認された事例
税理士 齋藤 和助
《事例の概要》
平成X6年3月期及び平成X7年3月期の法人税につき、平成X1年から平成X3年にかけて、依頼者の有する売掛金が回収不能となった事実を把握したが、その都度貸倒損失の計上をせず、当該事実発生から3年以上経過した平成X6年3月期及び平成X7年3月期に貸倒損失を計上したため、税務調査で否認された。これにより法人税及び消費税等につき過大納付税額が発生し、損害賠償請求を受けた。
《賠償請求の経緯》
- 平成X1年3月
①(株)Aの倒産により売上債権5,000,000円の貸倒れ発生。
②(株)Bの倒産により売上債権2,000,000円の貸倒れ発生。 - 平成X1年5月
上記①②の貸倒損失を計上せずに申告。 - 平成X2年4月
③(株)Cの倒産により売上債権3,000,000円の貸倒れ発生。 - 平成X3年5月
上記③の貸倒損失を計上せずに申告。 - 平成X3年9月
④(株)Dの倒産により売上債権1,000,000円の貸倒れ発生。 - 平成X4年5月
上記④の貸倒損失を計上せずに申告。 - 平成X6年5月
平成X6年3月期に上記①5,000,000円の貸倒損失を計上して申告。 - 平成X7年5月
平成X7年3月期に上記②から④6,000,000円の貸倒損失を計上して申告。 - 平成X9年11月
税務調査で平成X6年3月期、平成X7年3月期の貸倒損失の計上を否認される。 - 平成X9年3月
修正申告書を提出。
《基礎知識》
◆貸倒損失の計上(法法22③三、法基通9-6-1~3)
法人の有する金銭債権について、次の事実が生じた場合には、その金銭債権の額のうち全部又は一部の金額は、その事実が発生した日の属する事業年度において、貸倒れとして損金算入が認められる。なお、①の法律上の貸倒れについては、その切り捨てられることとなった部分の金額につき損金算入が強制される。
① 法的手続きにより債権の額が切捨てとなったとき(法律上の貸倒れ)
② 回収不能が明らかになったとき(事実上の貸倒れ)
③ 取引停止後1年以上経過したとき(形式上の貸倒れ)
◆事実上の貸倒れ(法基通9-6-2)
法人の有する金銭債権につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる。この場合において、当該金銭債権について担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ貸倒れとして損金経理をすることはできない。
《税理士の落とし穴》
法人税基本通達を正しく理解していなかったため、貸倒れが明らかになった事業年度において貸倒損失として処理せず、その後の事業年度で処理したため、修正申告となってしまった。
《税理士の責任》
税理士は、依頼者が有していた4件の売掛債権について、得意先の倒産等により回収不能となったことを、その事実が発生した平成X1年から平成X3年にかけてその都度、依頼者より報告を受けていた。
しかし、当該報告を受けた事業年度では、課税所得が発生しなかったことから、貸倒れとして損金計上せず、回収不能から3年以上経過した平成X6年3月期及び平成X7年3月期において損金計上を行った。そして、平成X9年に行われた税務調査で貸倒損失の計上が否認され、修正申告書を提出することとなった。
依頼者は回収不能の事実発生の都度、遅滞なく税理士にその旨を報告しており、その報告を受けた都度、貸倒損失の計上を行っていれば、修正申告にはならず、過大納付税額は発生しなかったことから、税理士に責任がある。
《予防策》
[ポイント①]
貸倒損失の計上できる事由を正しく理解する
貸倒損失の計上には、債権の種類、事実の態様、対象金額、処理方法、計上時期等が細かく規定されている。これらの内容を十分に理解して、計上時期を誤らないように注意したい。
[ポイント②]
コミュニケーションをとる
今回の事故は依頼者からその都度報告を受けていたことから、問題はないが、依頼者がその重要性を認識できなかったため、すぐに税理士に報告しなかったことにより計上時期を逸してしまう事故は多い。
税理士は常日頃から、依頼者とのコミュニケーションをとり、資産の状況等に変化がある場合には、税理士にその情報が伝わるような仕組みを作っておくことが重要である。
[ポイント③]
チェックリストを活用したダブルチェック体制の構築
申告時のミスは、期中処理と違い、ある程度は申告書自体をチェックすることで防ぐことができる。したがって、申告時のチェックリストを作成して、担当者だけでなく、所長税理士又は有資格者等によるダブルチェック体制を構築することが必要である。
(了)
「「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント」は、毎月第4週に掲載されます。























